創造論とインテリジェントデザインをめぐる米国を中心とする論争・情勢など

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STSとしてのインテリジェントデザイン

トランスサイエンスと行政科学(Regulatory Science)の区別

序論

科学の領域は、社会的懸念と複雑に交差しており、特に科学的知識が政策や規制に影響を与える場合に顕著である。この交差点において、トランスサイエンス(trans-science)と行政科学(regulatory science)という、関連しつつも明確に異なる二つの概念が浮かび上がる。両者とも科学的理解を実際の問題に適用するが、その本質、スコープ、目的、アプローチ、および方法論は大きく異なる。本報告では、信頼できる学術的資料のみに基づき、これらの概念の定義、スコープ、目的、アプローチ、方法論を詳細に検討する。
定義

トランスサイエンスは、1972年に物理学者アルビン・ワインバーグ(Weinberg, 1972)によって提唱された概念で、「科学に問うことができるが科学だけでは答えられない問題」を指す。これらの問題は科学的用語で表現可能であるものの、高い不確実性、大きな利害、倫理的ジレンマ、社会的価値観が関与するため、純粋に経験的な科学的調査の範囲を超える。ジャサノフ(Jasanoff, 1990)が指摘するように、トランスサイエンスの問題は決定的な科学的回答を得ることが不可能であるか、倫理的・実際的に実行不可能なレベルの研究を必要とし、科学的証拠と倫理や公共政策などの非科学的考慮事項との統合が求められる。

行政科学は、政府機関によって規制される製品や技術の安全性、有効性、品質、性能を評価するための新しいツール、基準、アプローチを開発し適用する独立した学問分野である。この実際的かつ応用的な科学的探究の分野は、規制上の意思決定を支援し、公共の健康と安全を確保するために必要な証拠を生成することに明確に焦点を当てている。行政科学は、リスク評価、製品評価、規制基準の開発など、規制機関の使命と責任に本質的に結びついた科学的活動を包含し(Glickman & Gough, 1990)、医療や環境保護などの分野で政策の科学的基盤を提供している(FDA, 2011)。
スコープ

トランスサイエンスのスコープは本質的に学際的かつ広範であり、科学的要素を含むが科学的データだけでは決定的な答えを提供できず、社会的・政治的判断や価値判断が必要な問題を包含する。その範囲は、気候変動、原子力安全、バイオテクノロジーなどのシステム的課題から、特定技術の「許容可能な」リスクレベルの決定、遺伝子工学の長期的社会的影響の判断(Nelkin, 1984)、低レベル放射線被曝の長期的影響評価、環境汚染物質の許容リスクレベル設定(Krimsky & Golding, 1992)まで多岐にわたる。科学的不確実性と社会的影響が交差し、大きな不確実性や倫理的考慮を含む領域において、複数の分野や利害関係者を包含しながら(Funtowicz & Ravetz, 1993)、倫理、政治、公共政策の領域にまで浸透性高く広がっている。

行政科学のスコープは、規制意思決定プロセスを支援するための科学的技法の実践的適用に特化した限定的な領域である(Bauer & Chiappelli, 2020)。医薬品の承認、食品安全評価、環境汚染管理、医療機器の評価、化学物質の安全性評価など、特定の規制領域に直接結びついた方法論の開発を行う(Hamburg & Collins, 2010)。その焦点は、規制の文脈で精査に耐えうる堅牢で信頼性の高い科学的証拠を生成し、試験方法、評価プロトコル、評価枠組みの開発を通じて政策の科学的基盤を確保することにある。
目的

トランスサイエンスの主な目的は、複雑な社会的問題に対処する際の科学的知識の固有の限界を認識し、科学的事実が終わり社会的価値観や政策選択が始まる境界を明確にすることである(Weinberg, 1972)。この枠組みは、本質的に政治的または倫理的なジレンマを不適切に科学化することを防ぎつつ、科学的専門知識の役割を明確化し、多様な視点を取り入れた情報に基づいた公共政策の議論と意思決定を促進することを目指している。

行政科学は、規制機関が製品承認、安全基準、リスク管理について科学的根拠に基づいた意思決定を行うため(Hamburg & Collins, 2010)の実践的で証拠重視の学問分野である。その主要目的は、公衆の健康と安全を保護しつつイノベーションを促進する効果的な規制を可能にすること(Moghissi et al., 2014)であり、科学的不確実性の低減、信頼性の高い評価方法の確立、規制の文脈に適した査定手法の開発を通じて、科学的評価と規制意思決定のギャップを埋めることを目指している。
アプローチ

トランスサイエンスのアプローチは、基本的に分析的・概念的・診断的であり、従来の科学的探究の領域外にありながら科学的関連性を保持する問題を特定し分類することに焦点を当てる。このアプローチは学際的かつ参加型の手法を採用し、利害関係者を巻き込んで科学的および非科学的知識を統合しながら、科学的知識の性質とその限界、社会的価値観との接点について哲学的考察を行う(Jasanoff, 1990; Funtowicz & Ravetz, 1993)。研究者は不確実性の認識と科学的知識の限界の承認を強調し、リスク評価や倫理的分析などのツールを用いて価値の対立に対処しつつ、複雑な社会的問題に対する科学の貢献と限界を明確化することに重点を置く。

行政科学は、規制上の課題に対処するための問題解決型かつ実際的なアプローチを採用し、標準化され再現可能な手法を優先する系統的で科学主導の方法論を特徴とする。臨床試験や実験室試験などの確立された科学的実践に依存しながら、規制要件を満たすために特別に調整された新しい科学的メソッドやツールの開発を行う(Bauer & Chiappelli, 2020; Hamburg & Collins, 2010)。このアプローチは本質的に学際的であり、エンジニア、統計学者、法律専門家との協力を通じて、科学的発見の実践的適用性と規制枠組み内での防御可能性を確保し、標準化された方法の開発、評価ツールの検証、規制決定を支援する信頼性の高いデータの生成を重視する。
方法論

トランスサイエンスの方法論は、単一のアプローチを採用するのではなく、科学的に解決可能な問題と追加の知識や判断を必要とする問題を区別するメタ分析的枠組みを表す。経験的実験や新しいデータの生成よりも、概念的分析、哲学的議論、既存の科学的主張とその社会的影響の批判的検討に依存し、不確実性の程度、経験的データの可用性、制御された実験の実行可能性、決定的な答えを得るための時間スケールを検討する。この方法論は柔軟で問題特異的であり、合意形成会議やシナリオプランニングなどの参加型手法と分析ツールを組み合わせて(Stirling, 2008)、科学的不確実性や価値判断が重要な役割を果たす複雑な政策論争や公共的意思決定における事実と価値の境界に対処する(Krimsky, 2003)。

行政科学の方法論は、実験室実験、臨床試験、疫学研究、ランダム化比較試験、統計モデリング、毒性学研究、データ分析など、厳格な経験的研究に根ざしている。リスク評価、危険の特定、製品性能の評価のための新しいアッセイ、バイオマーカー、計算モデル、分析技術の開発と検証を伴い、試験プロトコルの作成、安全性および効力基準の確立、リスク評価枠組みの開発を含む(Hamburg & Collins, 2010; FDA, 2011)。方法論の厳密さ、検証、標準化、品質保証、再現性は極めて重要であり、科学的証拠が厳格な規制基準に準拠し、既存の科学的技法を特定の規制要件に適応させるか、規制評価のための全く新しいアプローチを開発することで、社会的・経済的に重大な影響を及ぼす結果が法的および公的挑戦に耐えることを保証する。

結論

トランスサイエンスと行政科学は、科学と社会の接点で機能するが、根本的に異なる役割を果たす。トランスサイエンスは、科学的質問が政策や社会的価値と交差する文脈で、科学的探究の境界と限界を理解するための哲学的・分析的枠組みを提供する。一方、行政科学は、規制意思決定プロセスを支援するために科学的技法を開発・適用することに焦点を当てた実際的学問であり、効果的かつ保護的な規制に必要な堅牢な証拠の生成に専念する。

これらの枠組みの違いを理解することは、科学的知識と社会的意思決定の複雑な関係を扱う政策立案者、科学者、規制当局にとって不可欠である。両枠組みは補完的な役割を果たし、トランスサイエンスが科学的知識の終わりと他の判断形式の始まりを特定する概念的明確性を提供する一方で、行政科学はこれらの認識された限界内で規制目的のための科学的証拠を生み出すための実際的なツールと方法を提供する。
参考文献

Glickman, T. S., & Gough, M. (1990). Readings in Risk. Washington, DC: Resources for the Future.
Grundmann, R. (2017). The problem of expertise in knowledge societies. Minerva, 55(1), 25-48.
Hamburg, M. A., & Collins, F. S. (2010). The path to personalized medicine. New England Journal of Medicine, 363(4), 301-304.
Hansson, S. O. (2008). Risk. Stanford Encyclopedia of Philosophy. Stanford University.
Jasanoff, S. (1990). The Fifth Branch: Science Advisers as Policymakers. Cambridge, MA: Harvard University Press.
Krimsky, S. (2003). Science in the Private Interest: Has the Lure of Profits Corrupted Biomedical Research?. Lanham, MD: Rowman & Littlefield.
Krimsky, S., & Golding, D. (1992). Social Theories of Risk. Westport, CT: Praeger.
Lloyd, E. A., & Schweizer, V. J. (2014). Objectivity and a comparison of methodological scenario approaches for climate change research. Synthese, 191(10), 2049-2088.
Nelkin, D. (1984). Controversy: Politics of Technical Decisions. Beverly Hills, CA: Sage Publications.
PDA Journal of Pharmaceutical Science and Technology. (1995). Regulatory science. PDA Journal of Pharmaceutical Science and Technology, 49(4), 185.
Therapeutic Innovation & Regulatory Science. (2024). About the journal. Springer Nature.
Weinberg, A. M. (1972). Science and trans-science. Minerva, 10(2), 209-222.


なお、「トランスサイエンス」と「行政科学(Regulatory science)」に初出を記載している。





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