STSとしてのインテリジェントデザイン
準備その3: 「機能主義、葛藤理論、象徴的相互作用論」と「実証主義、解釈主義」の関係
理論的パラダイムと方法論的アプローチは相互に補完し合い、社会学者が全体像を捉えるためのツールボックスの一部として機能する。
社会学の解釈主義の立場からすると、医学のランダム化比較試験(RCT)は適切な研究アプローチとは見なされにくい。
これらの見方は、ニセ医療ビジネス(詐欺)の宣伝でも共通して主張される。このため、「社会学の解釈主義の立場から書かれた社会学者の記述」がニセ医療ビジネスに利用される。さらには、社会学者自身が「ニセ医療ビジネス」を高く評価したり、宣伝してしまったりすることもある。
結果として「人々の健康や生命に危険を及ぼす」ことがあったとしても、そのことを理由に、社会学研究として真っ当ではないと主張することは「Appeal to consequence詭弁」にあたる。
「医学的に間違っている」「公衆衛生上の問題となっている」という批判はまったく成立するが、積極的に「ニセ医療の高評価や宣伝」をしていないかぎり、社会学研究倫理的にはただちに批判できるかは明白ではないと思われる。
- 機能主義 (Functionalism)
- 概要:
- 機能主義は、エミール・デュルケームやタルコット・パーソンズなどの学者によって発展した。
- 社会を一つのシステムと見なし、その中で各部門や要素が互いに影響し合い、全体の安定と平衡を維持するという考え方。
- 主なポイント:
- 社会の機能: 社会の各部分(例:家族、教育、宗教)は、社会全体のニーズを満たす役割を持っている。
- マニフェスト機能とラテント機能: マニフェスト機能は意図的な目的、ラテント機能は意図せず生じる結果(例えば、学校は教育がマニフェスト機能で、友人関係の形成がラテント機能)。
- 社会の平衡: 社会は自然に調整してバランスを保つと考えられます。
- 概要:
- 葛藤理論 (Conflict Theory)
- 概要:
- カール・マルクスやマックス・ヴェーバーの影響を受けた理論で、社会を競争と葛藤の場として捉える。
- 社会は資源の分配や権力の争奪によって形成されると見なす。
- 主なポイント:
- 不平等と権力: 社会内の階級やグループ間の不均衡な力関係を強調。
- 資源の競争: 資源(経済的、社会的、文化的)が限られているため、その分配をめぐって葛藤が発生。
- 社会変動: 葛藤が社会変革の原動力であり、新しい社会秩序の創出につながる。
- 概要:
- 象徴的相互作用論 (Symbolic Interactionism)
- 概要:
- ジョージ・ハーバート・ミードやハーバート・ブルーマーによって発展した理論。
- 人々の相互作用とその中で交わされる象徴(言葉、ジェスチャーなど)が社会の形成と理解の基礎であると考える。
- 主なポイント:
- 意味の創造: 人間は相互作用の過程で意味を創造し、解釈する。
- 自己概念: 自己は他者との相互作用を通じて形成される(「鏡の自己」)。
- 役割とアイデンティティ: 人々は社会的な役割を演じることでアイデンティティを構築し、維持する。
- 日常生活のミクロ分析: 象徴的相互作用論は個々の行為や会話レベルでの社会現象を分析します。
- 概要:
- 比較
- 機能主義は社会全体の調和と安定を強調。
- 葛藤理論は社会の不均衡と変革にフォーカス。
- 象徴的相互作用論は個々の相互作用とその意味を重視し、社会の微細な動きを理解しようとする。
- 社会学における実証主義と解釈主義は、研究アプローチや方法論に対する根本的に異なる哲学的立場
- 社会現象の理解や分析方法について異なる前提を置く。
- 実証主義 (Positivism)
- 概要:
- 実証主義は、19世紀のオーギュスト・コントによって提唱され、自然科学の方法論を社会学に適用しようとする立場。
- 社会現象も自然現象と同様に客観的に観察し、測定・分析できるとする。
- 主な特徴:
- 客観性の追求: 社会現象は客観的な事実として扱われ、研究者個人の価値観や主観が結果に影響しないように努める。
- 量的な手法の重視: 統計や実験などの量的研究方法を利用し、データを収集し、仮説検証を行う。
- 因果関係の探求: 変数間の因果関係を明確にすることに重点を置く。
- 一般化: 調査結果から普遍的な法則やパターンを引き出すことを目指す。
- 例:
- 犯罪率と社会経済的地位の関係を統計的に分析する。
- 教育制度の効果をランダム化比較試験(RCT)で測定する。
- 概要:
- 解釈主義 (Interpretivism)
- 概要:
- 解釈主義(または反実証主義)は、マックス・ヴェーバーやアルフレッド・シュッツなどの学者によって発展。
- 社会は個々の人間が意味を付与しながら形成されるものであり、その意味理解が研究の中心であると考える。
- 主な特徴:
- 主観性の認識: 社会現象は個々の人間が理解し、解釈するものであり、研究者はこれを深く理解する必要がある。
- 質的アプローチ: インタビュー、参加観察、内容分析などの質的研究法を重視。個々の経験や意味を詳述する。
- 文脈依存性: 社会現象は特定の文化、歴史的、社会的な文脈の中でしか理解できないという認識。
- 個別性の尊重: 一般化よりも個別の事例や経験の深い理解を目指す。
- 例:
- ある文化集団の儀式や伝統を理解するための長期間のフィールドワーク。
- 教育現場での教師と生徒の間の相互作用の質的分析。
- 概要:
- 比較
- 方法論: 実証主義は量的データを重視し、解釈主義は質的データを重視。
- 研究の目的: 実証主義は社会の法則を発見することを目指し、解釈主義は人間の行動や社会現象の意味を理解することを目指す。
- 研究者の役割: 実証主義では研究者は客観的な観察者であるべき、解釈主義では研究者はその理解のプロセスの一部となる。
準備その3: 「機能主義、葛藤理論、象徴的相互作用論」と「実証主義、解釈主義」の関係
- 理論的パラダイムと方法論的アプローチ
- 理論的パラダイム(機能主義、葛藤理論、象徴的相互作用論):
- 社会の構造、動態、そして個々の行為者の相互作用を説明するための理論的枠組み。
- 各理論は社会がどのように機能し、変化し、意味を創造するかについて異なる視点を提供。
- 方法論的アプローチ(実証主義、解釈主義):
- 研究者が社会をどのように調査し、知識を構築するかに関する哲学的立場。
- 実証主義と解釈主義は、研究の設計、データ収集、分析方法に影響を与える。
- 理論的パラダイム(機能主義、葛藤理論、象徴的相互作用論):
- 関係性
- 実証主義と理論的パラダイム:
- 機能主義: 実証主義の方法論とよく一致します。機能主義者は社会の安定や平衡を研究するため、客観的なデータ収集(例:統計調査)とそれに基づく因果関係の探求を重視。
- 葛藤理論: 実証主義的な手法を用いることもあるが、特に社会の不平等や権力構造の分析では、より批判的な視点が求められる。例えば、データから社会的不平等のパターンを示せる。
- 象徴的相互作用論: 実証主義の手法では捉えにくいため、直接の適用は少ない。ただし、例えば、言語使用のパターンを定量的に分析する場合には実証主義的アプローチが使われることがある。
- 解釈主義と理論的パラダイム:
- 機能主義: 解釈主義の枠組みでは、機能主義の理論を理解するために、社会構造がどのように個々の生活経験に影響を与えるかを探求。しかし、これは機能主義の中心的な方法論ではない。
- 葛藤理論: 解釈主義は、葛藤理論者が個々の葛藤経験やそれが生み出す意味を深く理解する際に有用。例えば、参加観察や深層インタビューを通じて個々の経験や認識を探る。
- 象徴的相互作用論: 解釈主義と非常に親和性が高い。象徴的相互作用論は人々がどのように意味を創造し、解釈するかを理解しようとするため、質的な方法(参加観察、詳細なインタビューなど)で研究することが多い。
- 実証主義と理論的パラダイム:
- 実際の研究における統合
- 現代の社会学研究では、厳密に一つの理論的パラダイムや方法論的アプローチに従うことは少なく、むしろこれらを組み合わせて使うことが一般的。
- 例えば、量的データ(実証主義)を用いて社会の構造的側面を把握しつつ、質的研究(解釈主義)を通じてその意味や経験を深く探ることで、より包括的な理解を得られる。
- 機能主義と葛藤理論は、社会のマクロレベルでの分析に焦点を当てる一方、象徴的相互作用論はミクロレベルの日常的相互作用に注目。これらの理論を実証主義や解釈主義の方法論と組み合わせることで、社会現象の多面的な理解が可能になる。
理論的パラダイムと方法論的アプローチは相互に補完し合い、社会学者が全体像を捉えるためのツールボックスの一部として機能する。
社会学の解釈主義の立場からすると、医学のランダム化比較試験(RCT)は適切な研究アプローチとは見なされにくい。
- 解釈主義の観点:
- 主観性と意味の理解: 解釈主義は、社会現象や人間行動を理解するために、個々の体験や意味を重視。
- ランダム化比較試験は、統計的な因果関係を明らかにすることを目的としており、個々の体験や文脈を深く探求する余地が少ない。
- 質的データの価値: 解釈主義では、質的なデータ、特にインタビューや観察を通じた深い理解を重要視。---RCTは主に量的データに依存し、患者の主観的体験や医療行為の文化的・社会的背景を十分に考慮しないことがある。
- 主観性と意味の理解: 解釈主義は、社会現象や人間行動を理解するために、個々の体験や意味を重視。
- RCTの問題点:
- 一般化の限界: RCTは特定の条件下での効果を測定するが、これが個々のケースや異なる文脈での適用性を無視している。
- 脱文脈化: RCTでは、試験を統制するための条件設定が必要であり、これが結果を現実世界の複雑さから切り離す可能性がある。
これらの見方は、ニセ医療ビジネス(詐欺)の宣伝でも共通して主張される。このため、「社会学の解釈主義の立場から書かれた社会学者の記述」がニセ医療ビジネスに利用される。さらには、社会学者自身が「ニセ医療ビジネス」を高く評価したり、宣伝してしまったりすることもある。
- これは社会学として不適切かどうか:
- 真っ当な研究行為としての側面:
- 社会学の解釈主義の立場からは、個々の体験や文脈、質的なデータの重要性を強調することは学問的に正当。
- 社会学者がこれらの観点からニセ医療ビジネスを分析し、その構造や社会的な影響を研究する行為は、社会学の方法論や目的に沿ったもの。
- これは、社会現象を理解するための批判的視点を持つことであり、社会学の領域では適切な研究行為。
- 倫理的な問題点:
- ニセ医療ビジネスを「高く評価」したり「宣伝」することは、特にそのビジネスが詐欺的で人々の健康や生命に危険を及ぼす可能性がある場合、倫理的な問題に該当しうる。
- 真っ当な研究行為としての側面:
結果として「人々の健康や生命に危険を及ぼす」ことがあったとしても、そのことを理由に、社会学研究として真っ当ではないと主張することは「Appeal to consequence詭弁」にあたる。
「医学的に間違っている」「公衆衛生上の問題となっている」という批判はまったく成立するが、積極的に「ニセ医療の高評価や宣伝」をしていないかぎり、社会学研究倫理的にはただちに批判できるかは明白ではないと思われる。
コメントをかく