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生物学における目的論の概念


以下は、Stanford Encyclopedia of Philosophyの「Teleological Notions in Biology(生物学における目的論の概念)」の訳。


生物学における目的論の概念


"機能"とか"デザイン"といった目的論用語がしばしば生物科学に登場する。目的論主張の例には以下のようなものがある:
  • 捕食者に見つけられたことを伝えるためのアンテロープのストッティング機能
  • 急上昇できるようにデザインされたワシの翼

目的論の概念は、生物学が超自然の創造主による意図的デザインの証拠を提示するというダーウィン以前の見方に一般的に伴われるものである。大半の生物学者が創造論者の見方を否定した後も、生物学における目的論の役割についての懸念に対する様々な素地が残った:
  1. 生気論(特別な生命力を事実と仮定する)
  2. 遡行因果律(backward causation)を必要とする(将来の結果で現在の特徴を説明する)
  3. 機械論的説明と両立しない(1と2により)
  4. 心理主義(何もないところで心の作用のせいにする)
  5. 経験的に検証不可能(1〜4による)

ダーウィン進化論が生物学から目的論を除く手段を提供するのか、そして科学における目的論の概念の役割の自然主義的説明を与えるのかについて意見は分かれる。多くの現代の生物学者と生物哲学者は、目的論の概念が生物学の説明の特徴的かつ除去できない特性であるが、上記の懸念を避けるような、目的論の役割の自然主義的説明を与えることは可能であると信じている。用語の問題は、ときとして、広く認められた区別を不明瞭にすることがある。
Teleomentalism (目的論的心理主義)

目的論的心理主義者は、心理学的意図や到達点や目的の目的論を、生物学における目的論理解のための主要なモデルとみなす。創造論を除けば、もっとも一般的な目的論的心理主義者の見方は、生物学における目的論的主張はメタファーに過ぎないというものである。すなわち、心理学的目的論との多少のゆるやかな比較の基に生物学現象を描写・説明することである。生物学における目的論がメタファーであると考える者たちは、目的論を除去可能とみなす。すなわち、目的論への言及を避けても、生物科学は本質的に何ら変わらないのだと信じる。
Teleonaturalism (目的論的自然主義)
目的論的心理主義を否定する者たちは、心理学的エージェントの意図や到達点や目的に言及しない、生物学における目的論的主張が自然主義的に真である条件をさがそうとする。目的論的自然主義者のなかには、他の科学の分野に見られるような描写と説明の形に、目的論的表現を修正しようとする者もいる。そのような見方のひとつは、サイバネティックに目的論の概念を定めて、生物学的システムがサイバネティックスのシステムである限り、生物学の目的論が適切であると主張する。また、もっと広く認められたアプローチでは、複雑なシステムの能力を様々な部品の能力に分解するものとして、生物学における機能的主張を扱う。

また別の目的論的自然主義は生物学の目的論的見方をユニークで除去不能とみなす。そのような見方のひとつは、生物学における目的論的主張が、生物あるいは種にとって良い物といった、生物学的エンティティに提供される自然の価値に基づいているとみなす。規範的な概念を避けた異なるアプローチでは、自然選択淘汰と進化論について、はっきりと生物学的目的論を定める。

一部の理論家たちは、生物学が機能についての2つの概念を取り入れるという多元的な考えを支持した。すなわち、ひとつは特徴の存在を説明するもので、もうひとつは、いかにそれらの特徴が生物の複雑な能力に寄与しているかを説明するものである。また、他の理論家たちは、生物の生物学的適応度という説明の目標とみなすこことで、機能についての見かけ上は異なっている概念を統合できると論じた。しかしながら、生物哲学者の主流の見方は、自然選択の説明が、生物学における目的論の概念の主たる用途を最もよく説明するというものである。
Natural Selection Analyses of Function(機能の自然選択の分析)

自然選択に言及する生物学機能の説明は、典型的には次の形をとる。すなわち、その機能の特徴は、自然選択のメカニズムによって、所与の集団におけるその特徴の存在を原因として説明する。この見方の3つの構成要素は次のように分離すると都合が良い:
  1. 生物学における機能的主張は、所与の集団での、ある特徴の存在の説明を目的とする。
  2. 自然選択のメカニズムによって、生物学的機能は原因として、特徴の存在と関係する。
  3. 生物学における機能的主張は、自然選択に完全に基づいていて、デザインや意図や目的と言った概念の心理学的用途の派生物ではない。

この説明の変種のほとんどは、最初の2点にある:
  1. ある理論家たちは、新しい表現形の特徴の初期の広がりと、その集団の特徴の維持を区別しようという立場をとる。
  2. またある理論家たちは、それらの特徴の効果がその特徴を持つ生物の選択に過去に寄与したという意味でのみ、その特徴の機能を分析するという、因果関係あるいはbackward-lookingなアプローチを採る。また他の理論家たちは生物の集団における特徴の現在もしくは将来の存在に寄与する傾向を創る効果という意味でのみ、その特徴の機能を分析するという、傾向性(dispositional)あるいはforward-lookingなアプローチを採る。

Function and Design (機能とデザイン)

生物学の目的論についての論争で、自然のデザインの概念について、あまり注意を払ってこなかった。この原則を受け入れたかのように、機能とデザインについての主張の間を行き来するのは一般的である:
  • もしXが特徴Tの生物学的機能であるときのみ、特徴Tは自然にデザインされている。

この形でデザインと機能の概念を崩壊させることには、生物学的機能の概念をうまく自然主義化できれば、自然のデザインの概念も同様であるという優位点がある。

しかしながら、デザインの生物学的概念は有用性以上のものを意味するようだ。雌ガメは砂に巣を掘るために足びれを使う。これは確かに、その集団においてその特徴が維持されることの説明になっている。従って、原因の説明において、砂を掘るのは足びれの機能である。それでもなお、この目的のために足びれがデザインされたというのは間違いだ。これは、機能とデザインを別々に分析すべきだということを示唆する。これを方法の一つは次のようなものだ:
  • Xをするように自然にデザインされた特徴Tは次のことを意味する:
  1. XはTの生物学的機能であって
  2. Tは、先祖バージョンのTよりも、Xに対して最適あるいはより適応したTに働く自然選択によって、解剖学的もしくは行動的構造が変化した仮定の結果である。

この分析について、ワシの翼が急上昇するようにデザインされたと言うことは、第1に、急上昇する能力が他の飛行方法に対して、ワシの先祖の一部が他よりも高い繁殖能力を持っていた理由を説明し、第2に、ワシの翼が先祖バージョンの翼よりも急上昇することに適応していると主張することである。第2の部分は、化石記録と照合されるかもしれない歴史の主張である。

Adaptation, Exaptation and Co-opted Use (適応・外適応・コオプション)

適応の概念は生物学者の間で論争対象となっている。というのは、すべての可能性世界でこれが最良であるという楽天的(Panglossian)確信を示唆するからだ。しかしながら、現在の生物の特徴が先祖の対応する特徴よりも何らかの効果を作るのに優っているといった比較についての判断は、楽天的(Panglossian)仮説を必要としない。これは、ある機能について、AがBよりも、より最適であるか、より適応していると主張することは、Aがその機能について最適であるとか、良いといったことさえ意味しないからだ。

Gould & Vrba (1982) は、砂を掘ることがカメの足びれの機能だということは否定し、代わりに外適応という呼ぶだろう。彼らが"機能"という言葉を使うことを奨めるのは、自然選択が何らかの用途のためにその特徴を形成したときに限るだろう。しかし、この推奨は、ものごとを解明するというよりも、普通の生物学での用法を変更しようとするものだ。これは、デザインや機能の概念をごちゃまえにするので、機能あるいはデザインの変形の選択なのか、生物の特徴がそのために変形されないで取り込まれた外適応なのかを識別する方法が必要となる。

カメの足びれが卵を砂に埋めるために特に変形されたものでないとしても、そのことは、足びれを持つカメが、持たないカメに対して選択された理由を説明することには使える。これを機能と呼ぶか、外適応と呼ぶかは擁護問題であって、新語についての好みで決まるものだ。





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