創造論とインテリジェントデザインをめぐる米国を中心とする論争・情勢など

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「アメリカン保守の心理」概観

有権者が自ら具体的な政策=「これが欲しい」とはっきり語れない


有権者が自ら具体的な政策=「これが欲しい」とはっきり語れない一方、提示された例ならイエス・ノーで判断できる。そして実際には「自分はそれを考えていた」と思い込み支持を決める。このような現象があるのか。

Zaller (1992)が示唆するところでは、「有権者が自ら具体的な政策=「これが欲しい」とはっきり語れない一方、提示された例ならイエス・ノーで判断できる」ようではある。そして、Caplan (2008)によれば、「合理的な政策支持」ではなく「誤った政策への支持を非合理的に改めない」など、「政策に対する支持」という立場でも合理性を見いだせないかもしれない。

また、Cambell et al(1960)やAchen and Bartels (2016)によれば、そもそも人は「政策==>支持政党」ではなく、党派アイデンティティや帰属意識で政党を支持していて、政策は跡からついてくるようでもある。「実際には「自分はそれを考えていた」と思い込む可能性も示唆される。

全体としては、ありそうだが、確定的事実には至っていないようにも見える。


意見構成(Preferences are constructed)

John Zaller: "The Nature and Origins of Mass Opinion". Cambridge University Press, 1992

ZallerのRASモデル(Receive–Accept–Sample)は、個人の意見は固定的ではなく、主にエリート発のメッセージから受け取り(Receive)、その一貫性を受容(Accept)し、瞬間的に質問時点の関心事項から抜き取って返答(Sample)する構造を説明する。よって「本当に欲しいもの」が明確でなくとも、与えられたものに対して選択可能であり、それを元に支持を示す
  • 公衆意見とエリート言説: ザラーは、公衆の政治的態度は主に政治的エリートによる情報の流通によって形成されると論じる。個々の政治的意見の差異は、(1) その情報を受信する能力(政治的認識)と、(2) 既存の信念との一致度によって決定される。
  • RASモデル(Receive-Accept-Sampleモデル):RASモデルは、公衆が政治的メッセージをどのように処理するかを説明する理論的枠組みである。
    • 受信 (Receive): 政治的認識度が高い個人ほど、エリートのメッセージを多く受け取る傾向がある。
    • 受容 (Accept): 受信したメッセージは、既存の政治的価値観と一致する場合にのみ受容される。
    • サンプリング (Sample): 意見の表明は、その時点で最もアクセス可能な情報に基づいて行われる。
  • 世論調査の限界: ザラーは、世論調査の結果は公衆の「確固たる」意見を反映するものではなく、その瞬間に利用可能な情報に依存するものであると主張する。彼は「世論調査員の存在がなければ、公衆の意見の多くは実在しない」と述べ、世論調査の妥当性を問い直す。
  • 政治的認識と意見の安定性: 政治的認識度の高い個人は、多様なメッセージに触れるため、信念と一致しない情報を選択的に拒否する傾向がある。これにより、政治的認識度の高い個人ほど、一貫性のある安定した態度を示す。
  • 説得的メッセージとキューイングメッセージ: ザラーは、情報の種類を以下の二つに分類する。
    • 説得的メッセージ: ある視点を支持する論証であり、個人の態度を形成する要素となる。
    • キューイングメッセージ: 個人の政治的価値観を活性化し、説得的メッセージの受容または拒絶を促す役割を果たす。
党派アイデンティティと習慣的支持(Party identification)

Angus Campbell et al.: "The American Voter", The University Chicago Press, 1960

人々は幼少期から育まれる党派的アイデンティティ(party ID)を通じて、政策内容に関わらず党を支持し続ける傾向がある。政策の具現例が示されると、「やはり自分はそう思っていた」と強く結び付く。
  • 初期の選挙心理学: 『The American Voter』(1960年)は、有権者の政党への同一視が幼少期に形成され、その後の政治的認識や選択に影響を与えると提唱した。また、選挙運動は有権者の既存の傾向を活性化するだけで、政党支持を根本的に変えることはほとんどないと指摘する。
  • 選挙選択を決定する要因: 有権者の候補者選択は、内的要因(政党支持、イデオロギー、候補者への感情的反応など)と外的要因(選挙運動の出来事、経済や国際情勢の変化、周囲の人々の反応など)に分類される。
  • 心理学的モデルと投票行動:
    • オンライントラッキング vs. 記憶ベース評価: 一部の有権者は、選挙期間中に候補者への評価を随時更新し、投票時に最終決定する(オンライントラッキング)。他の有権者は、選挙期間中に得た情報を記憶に基づいて評価する(記憶ベース評価)。
    • 媒介・調整要因: 政党支持、候補者の個人的評価、政策への態度などが、投票選択に影響を与える複雑な関係を持つ。
  • 異なる有権者グループの違い: 政治的知識のある有権者は政策やイデオロギーを重視し、知識の少ない有権者は政党支持や候補者の印象を重視する傾向がある。また、メディアの報道が特定の政治的評価の重みを変えることも示している。
  • 今後の心理学的貢献: 新たな心理学的視点(社会心理学・判断と意思決定の心理学)を選挙研究に組み込むことで、候補者の印象形成、有権者の感情的反応、社会的アイデンティティの影響など、投票行動の理解を深める可能性があると提案している。
合理的非合理性(Rational irrationality)

Bryan Caplan: "The Myth of the Rational Voter", Princeton University Press, 2008

政策について正確に考えるコストが低く、誤った信念をそのまま持ち続けることが「合理的」であるとし、そうした信念に基づいた「支持意見」は合理的選択でもあると理論化している。提示される政策例を喜んで受け入れる心理の背景を示唆する。
  • 反市場バイアス: 「市場メカニズムの恩恵を過小評価する傾向」 利益を富裕層への単なる移転と誤解し、企業の価格設定を強制的と考える。中間業者が消費者を搾取しているとみなすなどの誤認をする。
  • 反外国バイアス:「外国との経済的交流の利益を過小評価する傾向」 国際貿易を競争とみなし、外国人を脅威と捉える。自国の利益を損なうとして自由貿易に反対する。
  • 雇用創出バイアス:「労働節約の経済的恩恵を過小評価する傾向」 雇用を経済成長と混同し、新技術による労働生産性向上を軽視。例えば、農業労働者の減少を経済の衰退と誤解する。
  • 悲観バイアス:「経済の状況を実際よりも悲観的に見る傾向」 現状や将来の経済を過小評価し、終末的な危機感を抱く。実際には経済は持続的な成長をしているとする反証を提示。

キャプランは、こうしたバイアスの影響で、有権者は非合理的な選択をし、その結果として政府が適切な政策を選びにくくなると論じる。この理論は「合理的非合理性」という概念と関連し、人々が政治的信念を無料で抱けるために自分に都合の良い意見を持ち続けると説明する。
選挙は意見反映よりも帰属意識

Christopher H. Achen and Larry M. Bartels: "Democracy for Realists: Why Elections Do Not Produce Responsive Government", Princeton University Press, 2016

Achen & Bartels(2016) は、人は政策そのものではなく、「社会的集団への帰属性」や「画像的要素」に基づいて支持を決めると主張。具体例の提示が、まるで「ずっと自分が支持してきた政策」のように錯覚させると論じる。
  • アイデンティティと民主政治の現実:『Democracy for Realists』の批判的考察: Christopher AchenとLarry Bartelsの著作『Democracy for Realists』は、従来の民主主義理論が抱く理想像——「思慮深い市民が選挙を通じて合理的に国家の方向性を決定する」という概念——を根本から問い直すものである。本書は、**有権者の投票行動が政策選択や理性的な熟慮に基づくものではなく、社会的アイデンティティと党派的忠誴心によって左右される**ことを明らかにしている。
  • AchenとBartelsは、政治的選択に関する膨大な社会科学的証拠を分析し、政策課題よりも政党や候補者との心理的同一視が投票行動を決定することを指摘する。さらに、経済状況の変動や偶発的な出来事(例:景気後退、自然災害)が選挙結果に大きな影響を与えることを示し、その結果、選挙はしばしば**無関係または誤解を生む要因によって左右される**。このような状況では、有権者が公共政策の方向性を直接的または間接的に制御することは困難である。

本書は、民主主義理論の再構築を提唱し、政治的決定の基盤を個々の有権者の選好ではなく、集団的なアイデンティティと政党に置くべきだと主張する。この視点は、従来の「有権者主権」に基づく民主主義観を覆し、より現実的な政治システムの理解へと導くものである。 この理論的枠組みは、民主政治に関する学術的議論に新たな視点をもたらし、選挙結果の不確実性や政治的決定過程の実態に基づいた研究の必要性を強調するものといえる。
最初期の成果

Walter Lippmann: "Public Opinion", Harcourt, Brace & Co., 1922

ウォルター・リップマンの『Public Opinion』(1922年)は、民主主義の機能に対する批判的評価であり、特に社会認識がいかに非合理的で自己中心的になり得るかを論じています。本書の主なポイントを要約すると、以下の通り:

  • 疑似環境(Pseudo-environment): 人々は現実の環境を正確に理解することが困難であり、個々の認識に基づいた「疑似環境」を構築する。これは主観的かつ省略されたものであり、それに基づいて行動が決定されるため、必然的に認識のゆがみが生じる。
  • ニュースと真実: リップマンは、報道機関が現実を完全に正確に伝えることは不可能だと指摘する。ニュースは選択され、編集されることで特定の観点を反映するようになるため、情報の伝達には常に偏りが存在する。マスメディアは、報道を通じて世論形成に関与するが、これは必ずしも客観的なものではない。
  • 合意の製造(Manufacture of Consent): 民主社会において、大衆が合理的かつ十分な情報をもとに判断を下すことは難しく、専門家による情報分析と意思決定が必要だと論じられる。この「合意の製造」は、慎重に扱われるべきではあるものの、民主主義の機能を維持するためには不可欠であるとリップマンは考えた。
  • 政治的エリートと大衆: リップマンは、政治的意思決定を一般大衆が単独で行うのは困難であり、専門家による情報提供が不可欠だと主張します。これに対し、ジョン・デューイは民主主義において大衆も議論に参加すべきだと考え、リップマンとデューイの対立は「リップマン=デューイ論争」として知られるようになった。。

本書はメディア研究、政治学、社会心理学の分野で影響を与えた重要な著作であり、「疑似環境」「ステレオタイプ」「合意の製造」などの概念は現在も議論の対象になっている。





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