創造論とインテリジェントデザインをめぐる米国を中心とする論争・情勢など

インテリジェントデザイン概説

インテリジェントデザインの研究手段

インテリジェントデザイン研究にはシミュレーションはない

インテリジェントデザイン理論家Dr .William Dembskiと仲間たちのブログUncommon DescentのGilDodgenが2007年3月16日付のエントリ「Don’t Trust Computer Simulations And Models That Can’t Be Tested Against Reality」で、何故インテリジェントデザイン理論家たちが研究しない理由のひとつを明らかにしたもよう[via PvM ]。

GilDodgenは当該エントリで:
Computer simulations of global warming and Darwinian mechanisms in biology should not be trusted, because they can’t be subjected to empirical verification. In these two areas, computer simulations and models can degenerate into nothing more than digital just-so stories — in one category about the future, and in the other about the past. The programmer can produce whatever outcome he desires, by choosing initial assumptions and algorithms, and weighting various factors to produce a desired output.

経験的に検証不可能なので、地球温暖化と生物のダーウィンメカニズムのコンピュータシミュレーションは信用できない。これら未来と過去を扱う2分野では、コンピュータシミュレーションやモデルはデジタル"なぜなぜ物語"に堕してしまう。プログラマーは初期仮定とアルゴリズムを選ぶことで、ほしい結果を作り出し、望ましい結果が出るようにファクターを重み付けする。

と書いた。

どの分野であろうが、Garbage In, Garbage Out(GIGO)は普通のことである。そして、物理計算を行う気象と、そうではない進化をまとめて語るのも、分解能がなさすぎる語りである。


上側境界での太陽放射・雲のアルベド・赤外線による放熱などと、下側境界での水などを含む回転成層流体シミュレーションである気象・気候モデル。その手法は、シュードスペクトルと差分による連続体シミュレーション。物理過程と力学過程をそこそこ忠実にモデル化する。ひたすら計算パワーを消費する大規模・長時間計算。限りなく複雑な過程を持てる計算パワーで処理可能なようにモデル化するかが研究テーマのひとつになる。その積み重ねのおかげで、今やプログラムは1Mステップ級。

一方、GilDodgenが念頭においている進化シミュレーションは、たぶんエージェントシミュレーション系。数式化された物理法則の実装ではない。

それはさておき、GilDodgenの言うことはあながち間違いとは言えない。たとえば、生化学担当インテリジェントデザイン理論家Dr. Michaerl Beheのシミュレーション論文がある(数少ないインテリジェントデザイン関連といえないこともない査読つき論文)。

Michael J. Behe and David W. Snoke: " Simulating evolution by gene duplication of protein features that require multiple amino acid residues", Protein Sci., 13, 2651-2664, 2004.(Web Full Text)

"複数の突然変異が同時に起きないと進化できない"とDr. Michael Beheが主張するタンパク質機能について、シミュレーションモデルを作って確率の小ささを評価したもの。

そして、同じ論文誌にDr. Michael Beheの論文は思いっきり間違いだという論文が掲載されている。

A recent paper in this journal has challenged the idea that complex adaptive features of proteins can be explained by known molecular, genetic, and evolutionary mechanisms. It is shown here that the conclusions of this prior work are an artifact of unwarranted biological assumptions, inappropriate mathematical modeling, and faulty logic. Numerous simple pathways exist by which adaptive multi-residue functions can evolve on time scales of a million years (or much less) in populations of only moderate size. Thus, the classical evolutionary trajectory of descent with modification is adequate to explain the diversification of protein functions.

タンパク質の複雑なadaptive性を、既知の分子と遺伝および進化メカニズムによって説明できるという考えに疑問を呈する論文が本誌に掲載された。本論文では、その論文が、証明されていない生物学的仮定と不適切な数学モデリングと間違った論理による結果であることを示す。百万年(あるいはさらに短期間)の時間スケールと、それほど大きくない規模の数があれば、adaptive マルチ残基機能を進化させる道筋が多数ある。系統の古典的な進化経路を修正すればタンパク質機能の多様性を適切に説明できる。

[ Michael Lynch: "Simple evolutionary pathways to complex proteins", Protein Sci., 14, 2217-2225, 2005. ]

GilDodgenの言うとおり恣意的な結果を出したものらしい。

実際、それ以前も、それ以後も、インテリジェントデザインなシミュレーション研究の例は見当たらない。インテリジェントデザインの文献倉庫iscidを眺めてみても、シミュレーション結果を見つけられない。

ということで、恣意的な結果が出せるシミュレーションは、インテリジェントデザインの研究には使わないらしい。

ちなみに、状況は"若い地球の創造論"でも変わらない。ささやかでも計算しているのは、Institute for Creation ResearchのVardimanくらいなもの。このVardimanは、なんとかVapor Canopyを科学的に証明しようとして、1次元大気モデルの計算をして、Vapor canopyはありえないと証明してしまった創造論者である。

==>Larry Vardiman and Karen Bousselot: "Sensitibity Studies on Vapor Canopy Temperature Profiles", Presented at the Fourth International Conference on Creationism, Pittsburgh, PA, August 3-8, 1998
インテリジェントデザイン研究にフィールドワークはない

インテリジェントデザインの主要人物は、フィールドワークをしない分野の人々である。インテリジェントデザインの本山たるDiscovery Instituteのインテリジェントデザイン部門たるCenter for Science and Cultureのシニアフェローたちの専門分野は:
  • Dr. Stephen C. Meyerは科学哲学および科学史
  • Dr. Willia, A. Dembskiは哲学・神学・数学
  • Dr. Michael Beheは生化学
  • Dr. Jonathan Wellsは分子生物学
  • Dr. Jonathan Wittは美学
  • Dr. Jay W. Richardsは哲学と神学
  • Dr. Michael Newton Keasは科学史
  • Dr. Benjamin Wikerは神学・倫理
  • Wesley J. Smithは生命倫理
  • David DeWolfは法学
  • Dr. Paul Chienは細胞関連
  • Dr. Guillermo Gonzalezは宇宙物理系
  • Dr. David Berlinskiは分子生物と数学

実際、フィールワークをしたという話は、Discovery Instituteのサイトには掲載されていない。

ちなみに、"若い地球の創造論"でも、フィールドワークは今は亡き擬似考古学者Ron Wyattくらいなもので、そうそういるものではない。

インテリジェントデザイン研究に実験はない

インテリジェントデザイン関連の実験研究も実は見当たらない。

科学哲学・科学史・数学・神学・哲学・法学・倫理などの人々は実験をしないのは当然としても、少しは生物関連のシニアフェローもいるのだから、少しはやってそうなものだが。

インテリジェントデザインを大学に広めるIDEA Centerのサイトにも、実験の例は掲載されていない。
もちろん、哲学・神学・数学なDr. William Dembskiの文献倉庫であるDesign Inference.Comにはシミュレーションや実験といった研究結果は見当たらない。

ということで、シミュレーションとフィールドワークと実験室実験は、インテリジェントデザインの研究手段ではないらしい。





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