創造論とインテリジェントデザインをめぐる米国を中心とする論争・情勢など

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ドーキンスの失敗したメタファー


諸般の都合で紡ぎ出されたメタファーは、わかりやすさとともに誤解を生み出す。Richard Dawkinsのメタファーは特にその問題を抱えていることで知られている。


誤解を招くメタファー「利己的遺伝子」

心理学者Robin Dumberが、Richard Dawkinsの意味と誤解について、以下のように整理している。
日常用語をユーモラスに使う例は、この20年の進化生物学にもある。リチャード・ドーキンスの「利己的遺伝子」という用語は、この種の語の典型例である。...

ドーキンスの「利己的遺伝子」という概念における「利己的」という語は、文字どおりとってもらおうというものではない。遺伝子が利己的にふるまうことができないのは当然のことだ。利己的というのは道徳的な特性であり、それはおそらく人間だけが所有するものだろう。ドーキンスもこのことは誰よりもよく知っている。彼が言いたいことは、アナロジーによるものだ。遺伝子はそれが利己的であるかのように、遺伝子は自分の利益だけを気にしているかのようにふるまっている(もちろん数学的な意味で)ということである。実は、もちろん、遺伝子が何かするわけではない。遺伝子は単なる無力なDNAによる小片で、その唯一の機能的能力は、自らの複製を作るということだけである。しかし、ダーウィン的自然選択の過程は、遺伝子が次の世代の自分を複製できる効率が能動的な選択に見えるように、遺伝子に作用する。ドーキンスは、我々が行動(あるいは他の何でも)の進化について問うときには、遺伝子の側から見なければならないということを指摘しているだけである。この論点は訓示的なもので、進化論研究においては、与えられた遺伝子の次の世代に現れる複製の数という観点から説明されなければならないということを意識させるものだ。

こうした用語のいずれも、それを文字どおりに解釈するとナンセンスになる(さらには出されている主張と矛盾する)ことになる。.... ドーキンスの用語がどうして日常的な含意をもちえようか。これらの用語は、しばしば数学を用いて、正確に定義されているのだ。

[Robin Dumber: 科学がきらわれる理由 (1997, p213 鏡の国の科学 メタファーの問題)]
「利己的」という言葉を、字義通りに受け取った人々がどれだけいたことか。

しかし、それでも言葉の都合上、メタファーを完全に使わないというわけにはいかない。
進化生物学は、我々がふだん世界を見ているのとは全然別の方向から世界を見ている。加えて、素粒子物理学も進化生物学も、高度に数理的であり、そこで言及されている現象の多くは、現実には見ることができない数理的に定義された実体である。日常経験にぴったりした言語がないのに、物理学者も生物学者も日常言語を使わざるを得ない(それしかないのだから)が、それを比喩的な意味で使うし、そのことを意図的に語呂合わせを使って示すことも多い。

[Robin Dumber: 科学がきらわれる理由 (1997, p213 鏡の国の科学 メタファーの問題)]

結局のところ...
  1. 何かの概念に名前をつける。
  2. 名前は言葉の組み合わせで作る。
  3. 組み合わせに使った言葉には別の意味がある。
  4. その別の意味が、誤解を招く。
というパターンで誤解が起きるのは避け切れないだろう。


メタファー "METHINKS IT IS LIKE A WEASEL"

利己的遺伝子以外にもDawkinsのメタファーは理解よりも誤解を生み出している。そのひとつはDawkinsが"Blind Watchmaker"(盲目の時計職人)で使った累積選択の効率を語るメタファーである"Weasel Program"(wiki)である。

あくまでも、説明に便利なものだが、それ以上のものではないことは、Dawkinsがちゃんと書いている:
Although the monkey/Shakespeare model is useful for explaining the distinction between single-step selection and cumulative selection, it is misleading in important ways. One of these is that, in each generation of selective 'breeding', the mutant 'progeny' phrases were judged according to the criterion of resemblance to a distant ideal target, the phrase METHINKS IT IS LIKE A WEASEL. Life isn't like that. Evolution has no long-term goal. There is no long-distance target, no final perfection to serve as a criterion for selection, although human vanity cherishes the absurd notion that our species is the final goal of evolution. In real life, the criterion for selection is always short-term, either simple survival or, more generally, reproductive success.

サル・シェークスピアモデルは、単一ステップの選択と累積選択の区別を説明するには便利だが、重要な点で誤解を招く。そのひとつは、各世代の選択的"増殖"と変異体の"後継"フレーズの判断を、彼方の理想ターゲットたる"METHINKS IT IS LIKE A WEASEL"との類似度を基準としていることだ。生物はそのようなものではない。進化は長期的なゴールを持たない。人間はうぬぼれから、我々の種が進化の最終到達点だという愚かな概念を心にいだいているが、長期的なターゲットや、選択の基準として機能する究極の完成形もない。現実の生物においては、選択の基準はつねに短期的で、単に生き残るか、あるいは一般的には、繁殖に成功するかである。

Richard Dawkins: The Blind Watchmaker, (p.50)
それだけのこと。

しかし、これに踊る者たちがいる。たとえば、インテリジェントデザイン理論家Dr. Stephen Meyerは:
Thus, although this second neo-Darwinian scenario has the advantage of starting with functional genes and proteins, it also has a lethal disadvantage: any process of random mutation or rearrangement in the genome will almost inevitably generate nonfunctional intermediate sequences before any fundamentally new functional gene and protein would arise (see figure 21). Such sequences would thus confer no survival advantage on their host organisms.

従って、このようなネオダーウィニズムの第2のシナリオは、機能する遺伝子とタンパク質からスタートするという長所があるが、最終的な短所がある。すなわち、ゲノム内のランダムな突然変異と並べ替えのいかなる過程でも、基本的に新しい機能する遺伝子とタンパク質が出現する前に、機能を持たない中間シーケンスが必然的に生み出される。そのようなシーケンスは、それをホストする生物に生存の優位性を与えない。

Zone of Function --- Methinks it is like a weasel.

Methings it is wilike B wecsel.

The Abyss niane aitohat; weaziojhl ofemq.
↑ ↑
↑ Time and tiee wait for mo mao.
↑ ↑
Zone of Function --- Time and tide wait for no man.

Figure 21

Stephen Meyer 2004

メタファー相手にまじめに議論をして、進化はないという主張をインテリジェントデザイン理論家は作っている。このような攻撃を可能にするので、メタファー/アナロジーは使い方が難しい。






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