創造論とインテリジェントデザインをめぐる米国を中心とする論争・情勢など

批判サイド>資料集>自然選択を理解していない米国人

自然選択の理解の困難さについての研究 by Ferrari & Chi (1998)


進化論の理解困難さ、特に自然選択の理解困難さについての研究は20世紀末から続いている。その初期の例が、Ferrari & Chi (1998)である。

彼らはまず、「自然選択と突然変異による進化」を以下の5つの形で記述する。
Table 1.Five Darwinian principles with brief definitions (adapted from Ohlsson, 1991)

(1) Random intraspecies variability (individual variation). Individuals in one generation of a particular species differ from each other along a number of dimensions, including physical characteristics (size, color) mental characteristics (perception, memory, intelligence), and behavioral patterns (child-rearing, feeding).

ランダムな種内変異(個体変異):特定の種のひとつの世代の個体は互いに、身体特性(大きさや色)や、精神特性(認識や記憶や知性)や、行動パターン(子育てや餌摂取)などの複数の次元で差異がある。

(2) Heritability of certain traits (genetic determination). Some dimensions of variation are genetically determined (i.e. individual values on them are inherited), other dimensions of variation are acquired (i.e. individual values reflect experience and lifestyle). Only genetically determined characteristics are relevant for evolution.

特定の特徴の遺伝(遺伝的決定):いくつかの次元の変異は遺伝的に決定されている(個体の値は継承される)が、他の次元の変異は獲得されたものである(個体の値は経験とライフスタイルを反映する)。遺伝的に決定された特徴のみが進化と関連する。

(3) Differential survival rate (local adaptation). Different species-characteristics are more or less likely to assist survival in a given environment. Those with characteristics better suited to the environment will be selected from among the others by their increased chance for survival in that environment.

生存率格差(局地適応):異なる種特性は、所与の環境のもとでの生存をアシストしやすさが異なる。その環境により合った特性を持つ個体は、その環境の下での生存可能性が高まることで、他の個体より選択される。

(4) Differential reproduction rate (reproductive advantage). Differential survival rate translates into differential likelihood to reproduce. Individuals who reproduce more are more likely to pass on their genes to the next generation.

再生産率格差(再生産的優位):生存率格差が再生産しやすさに置き換わる。より再生産する個体は、次世代に遺伝子をより残しやすくなる。

(5) Accumulation of changes over many generations . Only small evolutionary changes occur within a single generation; but because the process is repeated over many generations, the accumulated changes can lead to substantial differences among isolated subpopulations and even to the emergence of a new species.

多世代にわたる変化の蓄積:ひとつの世代では、ほんの少しの進化的変化しか起きない。しかし、このプロセスが多く世代にわたって繰り返されれば、蓄積された変化は隔離された集団の間に相当の違いを生じさせうる。さらには、新種の出現にもつながりうる。


Ohlsson, S. (1991). Young adults’ understanding of evolutionary explanations: Preliminary observations . Technical Report. Learning Research and Development Center, University of Pittsburgh

[ Michel Ferrari & Michelene T.H. Chi: "The Nature of Naive Explanations of Natural Selection", Journal of Science Education, 1998 ]
これらの理解を阻むものとして、原理の理解が間違ってしまい、それを修正できなくなることと考えた。
Although this basic explanation seems fairly straightforward, students nevertheless have difficulty understanding the concept of natural selection.

Yet misconceptions about even the basic principles of Darwin’s theory of evolution are extremely robust, even after years of education in biology (Bishop & Anderson, 1990; Demastes, Good, & Peebles, 1996; Demastes, Settlage, & Good, 1995; Jensen & Findley, 1996; Settlage, 1994; Zuzovsky, 1994)

この基本的な説明はかなり簡単に思えるが、それでも学生たちは自然選択の概念の理解するのが困難である。なおも、ダーウィンの進化理論の基本原理についても誤解は、長年の生物学教育の後でも非常の強固である。
...
Not only are students’ explanations incorrect, but their faulty explanations are extremely resistant to change, indicating that they truly hold deep misconceptions. Thus, we differentiate between false beliefs (e.g., knowledge that is incorrect, such as believing that no swans are black) and misconceptions (e.g., believing that electricity is like a liquid, which is a category mistake; to-be clarified below). We suggest that the former are more readily corrected from instruction whereas the latter are extremely difficult to remove (Chi, 1997).

学生たちの説明が間違っているのみならず、学生たちには説明を変えることに非常に抵抗があり、そのことは、彼らが浦東に深い誤解をしていることを示している。したがって、我々は間違った信条(黒い白鳥は存在しないと信じるような、知識の誤り)と誤解(以下で明確化するが、電気は液体のようなものというカテゴリの間違い)を区別する。前者は指導によって容易に修正できるが、後者の除去は極めて困難である。
個々の事実ではなく、このカテゴリ間違い或は概念間違いとして、3つを挙げる。
One type of explanation focuses on the difficulty of understanding the underlying concepts, such as the concept of populations —students find it difficult to think in terms of populations of organisms, yet evolution involves changes in populations over many generations (Helenurm, 1992); the concept of frequencies—evolution is the result of changes in the frequencies of different types of individuals constituting a population; or the concept of adaptation—many students consider adaptation a theoretical primitive (like the notion of a point in mathematics) and see no reason to explain it (Ohlsson, 1991) A second type of explanation focuses on the difficulty students have in reconciling different levels of organization for such concepts as genes, individuals, populations, and species, not to mention those of genera and families (Mayr, 1997); and/or that some levels are imperceptible. A third type of explanation focuses on the dynamic nature, or the time frame of the concept of evolution (Samarapungavan & Wiers, 1997).

第1の説明は、集団の概念のような、根底にある概念の理解の困難さである。進化は多くの世代を経た集団内の変化であるが、学生たちは生物の集団について考えるのが困難である。進化は集団を構成する個体の異なるタイプの頻度の変化の結果である。しかし、多くの学生たちは適応を(数学における点のような)理論的プリミティブだととらえており、説明する理由がわかっていない。

第2の説明は、学生たちにとって、遺伝子・個体・集団・種といった生物のレベルの概念を調和させることが困難であることである。あるいは幾つかのレベルを感知できていない。

第3の説明は、動的特性あるいは、進化の概念のタイムフレームである。
それらの中でも、彼らが挙げるのは、「出来事」と「平衡過程」である。
Our thesis for explaining students’ failure to understand natural selection or evolution is not that they necessarily fail to understand individual Darwinian principles. Rather, they fail to understand the ontological features of an equilibration process, of which evolution is one instance

「学生が自然選択や進化を理解できないこと」についての、我々の論文説明は「個々のダーウィンの原理を必ずしも理解できないのではなく、むしろ、平衡過程の存在論的特徴を理解することができないのであり、進化はその一例である」

[ Michel Ferrari & Michelene T.H. Chi: "The Nature of Naive Explanations of Natural Selection", Journal of Science Education, 1998 ]
Event出来事Equilibration
( Constraint-Based Interaction)
平衡
(制約のある相互作用)
Distinct actions区別できるアクションUniform actions一様なアクション
Bounded (begins and ends)はじまりと終わりがあるUnbounded (ongoing)進行中
Sequential段階的順次Simultaneous同時並行
Contingent and causal偶発かつ因果的Independent and random独立かつランダム
Goal-directed目標指向Net effect効果の集積
Terminates終わりがあるContinuous連続的

これらの観点に着目し、上述の「自然選択と突然変異による進化」の5つの記述について、学生たちの理解(あるいは誤解)が調べられている。


学生たちの理解を確かめるために使われた設問

Ferrari & Chi (1998)が、ダーウィンの5つの原理についての学生の理解を調べるために使った問題と解答例は以下の通り。

なお、回答者の回答は「原理の強い使用」(強いダーウィン使用)と「「原理の弱い使用」(弱いダーウィン使用)と非ダーウィンに分類される。
A strong use of the principle is one in which the subject clearly states the principle involved; for example, that individual members of a species necessarily vary among themselves, for intraspecies variation.

A weak use of the principle involves an allusion to the principle without stating it clearly, for example, saying that ‘some of the trees will be different from the others’ alludes to intraspecies variability

「原理の強い使用」とは、回答者が明確に原理を含む主張をしていること。たとえば、「種内変異により、種内の個体は必然的に変異する。」

「原理の弱い使用」とは、明確に主張することなく原理に暗黙に言及していること。たとえば、「幾つかの果樹は他とは違っている」は種内変異に暗黙に言及している。


目的種内変異問題で、進化的変化における種内変異の役割について学生の知識を問う
問題実験室条件のもとで、ある研究者が新種の果樹を開発した。その研究者の実験室内のすべての果樹は遺伝的に同一、すなわち互いにクローンである。これは、所与の任意の果樹の身体特性は同一である。これらの果樹が研究者の実験室とは異なる環境(水分が少ない、寄生虫が多い、気候変動など)の野外に植えられた場合、この種の果樹は時間とともに進化するだろうか? その答えの理由を説明すること。できるだけ系統立てること。
種内変異の解答この問題に対する最良の回答は、特定種の一世代の個体の身体的特性(高さ、重さ)や、精神的特性(視力、意識や行動パターン(営巣、採餌)が異なっていることに言及していること
強いダーウィン回答回答者38「果樹の種子は、オリジナルのクローンになるとは限らない。」
弱いダーウィン回答回答者18「それらがまったく同一(クローン)であるなら、適応競争しようがない。」
非ダーウィン回答(変移,融合)回答者15「果樹の種子は、落下して、融合して、まったく新しい果樹を創りだす

目的遺伝子的決定論問題で、遺伝的特性と進化的変化の関係について学生の知識を問う
問題ある科学者がマウスにおける高タンパク食の効果に関心を持っている。その科学者の実験室には、高タンパク食を与えられたマウスの集団がいる。結果的に、その食事でのお数週間後、マウスは筋肉を発達させ、異常に活発になった。この研究者がマウスの続く世代にも高タンパク食を与え続けたとしよう。このマウス集団のはるか後の子孫は、最初に高タンパク食を与えられた世代に比べて、強くなるだろうか? その答えの理由を説明すること。できるだけ系統立てること。
遺伝子的決定論の解答この問題に対する最良の回答は、進化に関連する特徴は遺伝子的に決定されていることに言及していること
強いダーウィン回答回答者1「筋肉の強さは遺伝的特性ではないので、そのマウスは変わらない。」
弱いダーウィン回答回答者30「弟が体重増強剤などGNC(サプリ会社)商品を多く買っても、自分自身は強くなれるかもしれないが、その効果は子供の強さには影響しない。マウスも同じである。
非ダーウィン回答(変移: 遺伝子型置換)回答者3「筋肉と異常活発性はマウスの遺伝子プールで継承されるようになるかもしれない。」

目的生存率差異問題で、進化的変化の推進における生存率差異(自然選択)の役割を問う
問題パナマの熱帯雨林に、ファティマキオビイチモンジという種の蝶が生息している。この種の蝶は羽のカラーパターンに変異がある。縞模様のある庁もいるが、単色の蝶もいる。生物学者たちは、縞模様の羽と単色の羽に、同程度の損傷(鳥による攻撃失敗)を見出した。縞模様と単色の生存率は等しい。盛大を経て、これらの羽のカラーパターンは、これらの蝶に進化をもたらすだろうか? その答えの理由を説明すること。できるだけ系統立てること。
生存率差異の解答この問題に対する最良の回答は、種のある特徴は所与の環境でその種の生存により役立つことに言及していること。環境により適応した特徴を持つ個体は、その環境でより生存する。
強いダーウィン回答回答者9「その蝶が進化する理由はなさそうである。どちらの羽の不利になっていない。縞模様の羽も単色の羽も高い生存率である。」
弱いダーウィン回答回答者2「鳥が突然、どちらか一方のカラーパターンを選好し始めたら、選好されなかった羽の蝶が生き残る。
非ダーウィン回答(変位、突然の遺伝子型置換)回答者8「羽の色の変化する蝶が次第に最適生存の縞模様と単色を発達させた。」

目的再生産率差異の問題で、進化的変化に対する再生産率差異の効果を問う
問題ハンチントン病は形成遺伝子によって起きる遺伝障害である。脳は悪化し、患者は精神的パターンと運動パターンの両方を制御できなくなる。顔と手足のぎくしゃくした動きを伴う狂気の期間があり、その後、死亡する。この症状は通常、患者の30代または40代まで発症しない。一般的に、それまでに彼または彼女は子供を産み、その半分はその遺伝子を受け継いでいるため、遺伝病となる。自然選択は、人間集団におけるハンチントン病の発生にどのような影響を与えるだろうか? その答えの理由を説明すること。できるだけ系統立てること。
再生産率差異の解答この問題に対する最良の回答は、生存率の増加が繁殖の機会の向上につながることに言及すること。繁殖が少ない個体は、遺伝子を次世代に受け継ぐ可能性が低くなる。
強いダーウィン回答回答者6「ハンチントン病は、人が繁殖する機会を得るまでは現れないため、自然選択の影響は実際には受けない。」
弱いダーウィン回答回答者16「自然選択で、この遺伝病を持たない人、あるいは親がこの遺伝病を持たない人は、最も長く生存する。」
非ダーウィン回答(変位、希望的怪物)回答者15「あまりに多くの人々がハンチントン病にかかって、ホモサピエンスは存在しなくなるだろう。おそらく新種出現のときである。その新種はハンチントン病に影響されない。

目的変化の蓄積問題で、進化的変化の推進における、時間を経た変化の蓄積の重要性について学生たちの見方を問う。
問題アヒルの進化を説明しようとして、ある生物学者が次のような仮説シナリオを考えた。数万年前、現在のアヒルの祖先の大半が乾いた陸地に生息していた。彼らはハトのある変種と同様の身体特性を持っていた。しかし、地球温暖化で平均降水量が増大し、結果として、ハトのような祖先は大半が冠水地域で生存せざるをえなくなった。これらのアヒルの祖先は水かきがなく、泳ぎが得意ではないため、滅亡の瀬戸際にあった。結果的に、湖や池で十分な食料を得られなかった。そして、突然変異で少し水かきのあるアヒルが生まれ、自然選択でそれらが選択された。これが正しいとするなら、この説明は、ダーウィンの進化論に合致した者だろうか? その答えの理由を説明すること。できるだけ系統立てること。
変化の蓄積の解答この問題に対する最良の回答は、一世代ではごく小さな進化的変化が起きるだけだが、多くの世代で繰り返され、変化が蓄積されれば、隔離された集団の間では、相当の差異が生じ、新種の出現にもつながることに言及すること。
強いダーウィン回答回答者38「ダーウィンによれば、ひとつの動物で小さな変化が起きて、そして、他でも小さな変化が起き、また小さな変化が起きる。彼はひとつの大きな変化を見ていない。」
弱いダーウィン回答回答者1「水かきのあるアヒルは生存し、ないアヒルは滅びた。」
非ダーウィン回答(変位、意図的な遺伝子型置換)回答者4「1羽のアヒルが生き延びようとして、足を投げ出し、最初はゆっくりでうまくいかないが、やったとしよう。時間とともにアヒルの脚の筋肉は強くなり、陸上より水上に適したものになった。


大学で生物学・進化論を学んでいない時点の学生40名を対象とする調査の回答(ダーウィンな説明78件、複数言及の延べ154件)の分類結果は (+の左は強い回答、右は弱い回答)
種内差異な回答遺伝子決定論な回答生存率差異の回答再生産率差異の回答変化の蓄積の回答
Q1 種内差異2 + 40 + 04 + 30 + 40 + 13
Q2 遺伝子決定論0 + 07 + 70 + 00 + 20 + 1
Q3 生存率差異1 + 20 + 013 + 90 + 40 + 3
Q4 再生産率差異0 + 30 + 40 + 69 + 50 + 0
Q5 変化の蓄積0 + 90 + 210 + 172 + 43 + 3



コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

Menu

サブメニュー

kumicit Transact


管理人/副管理人のみ編集できます