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地球平板説とエノク書
インターネット時代の地球平板説は、聖書の記述に言及することがほとんどなく、実験や観察のようなデモンストレーションに基づき、主張されることが多い。これに対して、Schadewald (2015)によれば、それより少し前の1970年代頃の地球平板説は、聖書の記述を論拠していることが多かった。おそらく、聖書に基づく地球中心説をさらに、聖書記述に近づけたものだと思われる。
そして、特に地球平板説な記述があるのは、旧約聖書偽典「第1エノク書」である。これはキリスト教に影響を大きく与えている。
太陽と月が東の天門から出て西の天門に帰り、宝庫で休息する世界は、インターネット時代の地球平板説はもとより、19世紀の地球平板説とも異なる。しかし、1970〜1980年代の地球平板論者は気にしなかったようである。
地球平板説とエノク書 
インターネット時代の地球平板説は、聖書の記述に言及することがほとんどなく、実験や観察のようなデモンストレーションに基づき、主張されることが多い。これに対して、Schadewald (2015)によれば、それより少し前の1970年代頃の地球平板説は、聖書の記述を論拠していることが多かった。おそらく、聖書に基づく地球中心説をさらに、聖書記述に近づけたものだと思われる。
私が最初に地球平板論者に関心を持った1970年代初頭、英語話者世界の地球平板論者が常に聖書の記述を基礎としてきたことに驚いた。それ以来、地球平板説文献の収集・読破を続けてきた。ここでの地球平板説を支持する聖書議論は、私の読んだ地球平板説文献に主として従ったものに私の聖書読解を加えたものである。日本語訳では明白でない例もあるが、英訳では明瞭に不動の地球である。
聖書無謬論者以外では、一般に、聖書は不動の地球を記述していると考えられている。1984年のクリーブランドでのNational Bible-Science Conferenceでは、地球中心論者James N. Hansonが私に、地球が不動だと示唆する聖書の記述が何百もあると告げた。曖昧なものものあるが、いくつかの記述は明白である。
歴代誌�� 16章30節: 全地よ、主の御前におののけ。世界はびくとも動じない。
Fear before Him, all the earth! The world also shall be stable, that it be not moved.
詩編93章1節: 世界の王、主は、威光と権能をまとっておられます。ああ神よ。永遠の昔から、あなたは世界を支配しておられます。
The Lord reigneth; He is clothed with majesty. The Lord is clothed with strength, wherewith He hath girded Himself. The world also is established, that it cannot be moved.
詩編96章10節 諸国民に、主の支配が行き渡ると告げなさい。神の権威はいつまでも落ちることなく、主はすべての国を公平にさばかれるのです。
Say among the heathen that the Lord reigneth; the world also shall be established, that it shall not be moved; He shall judge the people righteously.
詩編104章5節: 大地はくずれ落ちることのないように、しっかりと据えつけられました。
who laid the foundations of the earth, that it should never be removed.
イザヤ書45章18節: 主は天と地を造り、すべてのものをあるべき所に置きました。世界を何もない空間ではなく、人の住む所として造ったのです。主は語ります。
For thus saith the Lord that created the heavens, God Himself that formed the earth and made it—He hath established it, He created it not in vain, He formed it to be inhabited: “I am the Lord, and there is none else.
地球平板論者によって想像される地球は、どんな地球中心論者が求めるものと同じく、不動の地球だと言えば十分である。地球中心論者が引用する聖書記述の大半（おそらくすべて）は、地球平板論者も引用する。地球平板説は、より制約の大きい、地球中心説である。
[ Appendeix A: Flat Earth Bible in Robert J. Schadewald: "THE PLANE TRUTH - A HISTORY OF THE FLAT-EARTH MOVEMENT" (2015) ]
そして、特に地球平板説な記述があるのは、旧約聖書偽典「第1エノク書」である。これはキリスト教に影響を大きく与えている。
エノク書
前述の宇宙論は19世紀の地球平板論者にしたあって、聖書自体から導かれたものである、いくつかの証拠は我々が思う以上に曖昧である。古文書の曖昧な記述は、現代の文書を使って説明される。古代ヘブライ宇宙論を記述した最も重要な古文書は第1エノク書（エチオピア語エノク書と呼ばれる）であり、これは古代の執筆者たちに好まれた、長くて、断片の切り貼りのひとつである。十数世紀にわたり、欧州の学者たちは、愛国的文学にみられる数多くの節からのみ、第1エノク書を知っていた。1773年、スコットランドの冒険家James Bruceは完全な写本をエチオピアで発見した。
それ以来、エチオピアの修道院で第1エノク書の原稿が多く見つかっている。世紀の変わり目には、学者たちは第1エノク書の一部はマカベア書以前に書かれ、大半（おそらく全体）が紀元前100年までに書かれたと結論した[Ref A.11]。クムランでいわゆる死海文書のなかに第1エノク書の断片が多く見つかり、これらの結論はおおよそ支持されることとなった。第1エノク書の主な英訳には、1913年のR.H. Charlesによるものと、1983年のE. Isaacによるものがある[ref. A.12]。引用はすべて後者から行った。
学術界の外では、第1エノク書の重要性はほとんど認められなかった。新約聖書のテキストとの比較で、多くのエノク書教義がキリスト教に取り入れられたことを明らかにしている。E. Isaacは次のように書いている。
There is little doubt that 1 Enoch was influential in molding New Testament doctrines concerning the nature of the Messiah, the Son of Man, the messianic kingdom, demonology, the future, resurrection, final judgment, the whole eschatological theater, and symbolism. No wonder, therefore, that the book was highly regarded by many of the apostolic and Church Fathers. [ref. A.13]
メシアの性質、人の子、メシアの王国、悪魔、未来、復活、最後の審判、終末論、象徴に関する、新約聖書の教義の形成に、第1エノク書が影響していることに、疑う余地はほとんどない。したがって、第1エノク書は使徒や教父たちの多くから高く認められていたことは驚くことではない。
第1エノク書は、マタイによる福音書、ルカによる福音書、ヨハネによる福音書、使徒行伝、ローマ人への手紙、その他の新約聖書の書に影響した。ペテロの手紙2に記載された堕天使の懲罰は、黙示録の修辞表現（あるいは言い回しそのもの）と同じく、第1エノク書から直に来ているユダの手紙は、宗教の敵を厳しく非難するところで、その影響の劇的証拠を含んでいる：
&fukidahi(){最初の人アダムと近い年代に生きたエノクも、彼らのことを知っていて、「見よ。主が幾百万の聖徒を連れて来られる。 主は全世界の人を自分の前に立たせて、正当な刑罰を宣告される。その時、彼らの神に対する恐るべき反逆行為の数々と、神に刃向かうことばのいっさいが明るみに出される」と預言しています。（ユダの手紙14-15節）
この第1エノク書1-9節の引用は、最近出版されたクムラン断片のヘブル語原書に見つかっている[ref.A.14]。予言をエノクに帰することで、ユダはエノク書に触発されたことを示している。
第1エノク書は他の理由でも重要である。（私の見方では）科学を教えることを意図していない聖書正典とは異なり、第1エノク書の節は自然界の描写を意図している。第1エノク書の記述はときとして、感嘆する大衆に天と地を説明する、紀元前2世紀のカール・セーガンのように聞こえる。エノク書の宇宙論は、聖書正典から導かれるのと同じく、まったくの地球平板である。
地球の端
エノクの旅の大半は天使ウリエルに導かれている。彼らは幾度か地球の端に行っていて、そこでは天界のドームが地表に降りている。たとえば、エノクは言っている;
&fukidaahi(){I went to the extreme ends of the earth and saw there huge beasts, each different from the other and different birds (also) differing from one another in appearance, beauty, and voice. And to the east of those beasts, I saw the ultimate ends of the earth which rests on the heaven. And the gates of heaven were open, and I saw how the stars of heaven come out … (1 Enoch 33:1–2). ~~ ~~わたしはそこからすすんで地の果てに行った。そこで巨大な野獣たちをみたが、それぞれがちがった動物であった。そこには鳥もいたが、それぞれ外見も美しさも鳴声も一つずつちがっていた。このけものたちのさらに東の方に地の果てがみえ、そこに天が土台をすえて、天の門をひらいていた。}
（注意深い読者は、Isaacの訳の編集エラーを疑っていることに気づくだろう。天界を土台とする地では意味をなさない。R.H. Charlesは「そこに天が土台をすえて」と訳している。）
~^ エノクは言っている：「わたしはこんどは北方の地の果てに言った。そこには実に全地の果ての壮麗なしくみがあった。天の入り口が三つひらいており、おのおのの入口から北風が吹いていた。北風が吹くと、寒さ、雹、霜、雪、斬り、雨などが生ずるのであ。」(第1エノク書34章1-2節)。これはエレミヤ書51章16節の「神が口を開くと大空に雷がとどろき渡ります。神は大地から水蒸気を上らせ、ご自分の倉から、雨と風を伴ういなずまを取り出します。」とよく合っている。つづく章でエノクは西方と南方と東方の地の最果てに旅している。
地の果てには他にみるべきものがあった。以前、我々は欽定訳聖書のヨブ記26章7節「He stretcheth out the north over the empty place, and hangeth the earth upon nothing（神はからっぽの空間に天を張り、何もないところに地をつるす。）」についての議論を先送りしていた。エノクと天使が天界のドームの外側に行った機会に、上にも下にも何もないとエノクは言っている。たとえば「And I came to an empty place. And I saw (there) neither a heaven above nor an earth below, but a chaotic and terrible place（わたしはさらにすすんで行って、あらゆるものが混沌としているところに来た。そこにはおそろしいことが起こっていた。上には天もみえず、確固とした地もみえなかった。ただ混沌としたおそるべき場所であった。）」(第1エノク書21章1-2節）これはヨブ記を参照しいないとは言えない。
天使はエノクに「風をおさめる宝庫」(18章1節)と、「地の隅のかしら石」(18章2節)を見せている。
太陽と月
では太陽と月はどうだろうか？詩編19章4-6節は、太陽が日出までは「天の神の定めた場所」で待機していると示唆している。エノクはこの考えを拡張している。第1エノク書41章5節で「また太陽と月の部屋をみた。それらはそこから出てまたそこへ帰って来るのである。わたしはそれらの輝かしい帰還のさまを知り、太陽がいかに月にまさっているか、かれらの整然として壮大な軌道、いかにかれらが軌道をはなれず忠実に運行するか。何一つ加えることもとりおぞくこともなく軌道を厳守すること、またかれらが互いに結び合わされている誓約を守って相互に忠実なことを、などを知ったのである。」 エノクは太陽と月の動きについて詳しく説明し、それらの上昇と下降の見かけの方位角が季節によって異なる理由を説明する。 「天の発光体の運行の書」と呼ばれる節にある説明は、次のように始まる:
This is the first commandment of the luminaries: The sun is a luminary whose egress is an opening of heaven, which is (located) in the direction of the east, and whose ingress is (another) opening of heaven, (located) in the west. I saw six openings through which the sun rises and six openings through which it sets. The moon also rises and sets through the same openings, and they are guided by the stars; together with those whom they lead, they are six in the east and six in the west heaven. All of them (are arranged) one after another in a constant order. There are many windows (both) to the right and the left of these openings. First there goes out the great light whose name is the sun; its roundness is like the roundness of the sky; and it is totally filled with light and heat. The chariot in which it ascends is (driven by) the blowing wind. The sun sets in the sky (in the west) and returns by the northeast in order to go to the east; it is guided so that it shall reach the eastern gate and shine in the face of the sky (1 Enoch 72:2–5).
発光体の第一の法則はこれである。発光体太陽は東の天門から出て西の天門に没する。わたしは、そこから太陽が昇ってくる６つの門と太陽がそこに没する６つの門を見た。月もその門から昇って沈む。星の先導を務めるものとそれに導かれるものにも東に６つ、太陽に沈む西に６つ門があり、いずれもきちんと順序を追っている。また、その門の左右には多くの窓がある。最初に出て来る大きな光は名を太陽といい、その球は天球に似ていて、全体が光輝き、熱する火で充満している。それを乗せた車を風が吹き送り、太陽は没して天から姿を消し、北を通って東の方へ戻って行き、例の門に入って天の表面を照らせるように導かれてゆく。（第1エノク書72章2-5節）
東と西の天門は季節に合わせている。 一年で最も長い日には、太陽が昇り、最北端の天門を通過する。最短の日、太陽は昇り、最南端の天門を通過する。 太陽と月の帰路はドームの外にある。 おそらく太陽と月は休憩中は「宝庫」で休んでいる。
~ 星
聖書と同様に、第1エノク書は通常、星を生きた、人の姿をした存在として描写する。天の子らも第1エノク書で取り上げられ、星と関係している。隅の親石がすえられたとき、「その時、明けの明星は声を合わせて歌い、御使いたちは歓声を上げた。」と述べるヨブ記38章7節と一致している。
前述のように、マタイによる福音書24章29節とヨハネの黙示録6章13節は地上に落ちた星を取り扱っている。イメージはエノク書から来ているが、マタイとヨハネは詳細をいくつか除外している。第1エノク書88章1節で、「一人が天から最初に落ちた星を捕え、手足をしばって深淵になげこんだ。」その後の節で、「あの馬のような秘部をもった星どもをあつめてとらえ、手足をしばって地上の深淵に投げ込んでしまった。」（第1エノク書88章3節）
大半の星は毎夜、運行を続けた。いくつかの星は沈むことなく、エノクはそれらの馬車を見せられた(第1エノク書75章8節)。星は太陽と月と同様に、天に開いた窓から出て、そこに帰っていく。第1エノク書によれば、神は厳格に宇宙を運行させ、定められたときに出てこなかった星は天の牢獄へ投げ落とされた。その牢獄を見せて、天使ウリエルはエノクに次のように説明した：
This place is the (ultimate) end of heaven and earth: it is the prison house for the stars and the powers of heaven. And the stars which roll over upon the fire, they are the ones which have transgressed the commandments of God from the beginning of their rising because they did not arrive punctually (1 Enoch 18:14–15).
ここは天と地の果てである。こお場所は星と天の群の牢獄となったのだ。火の上にころがっている星は、その昇るときに主のいましめをおかしたものたちだ。彼らは定められたときに出て来なかったからだ。(第1エノク書18章14-15節)
エノクは遅刻の判決を告げられなかったが、ウリエルは後にエノクに「主のいましめをやぶった」星が「罪がすべて清算されるときまで一万年のあいだ縛られている」(第1エノク書21章6節)のを見せた。エノクはさらに、堕天使たちが永遠にとらわれる牢獄を見せた(第1エノク書21章10節)。
第1エノク書は宇宙の探求に価値があるが、さらに関心がある。これはキリスト教の終末論に大きく影響しており、キリスト教黎明期の古代ヘブライ宗教について理解したければ、必ず読むべき書である。
結論
その地理的および歴史的コンテキストから、古代ヘブライが地球平板宇宙論を採用していたと考えるだろう。実際、最初から、超正統派キリスト教徒たちは地球平板論者であり、他の見方を信じることは、聖書の文字通りの心理を否定するものだと論じてきた。聖書の地球平板説の含意は、19世紀半ば、欧州の英語話者キリスト教徒の間で再発見された。リベラル聖書学者たちは後に同じ見方を導出した。したがって、際立って異なる観点に立つ学者たちは、独立に、古代ヘブライは地球平板宇宙論を持っていたと、多くの場合、聖書の記述のみから、結論した。彼らの結論は、劇的に、第1エノク書の再発見により確認された。
[A.11] Charles, R. H. “Book of Enoch.” In The Apocrypha and Pseudepigrapha of the Old Testament in English, v. 2, edited by R. H. Charles (London: Oxford University Press, 1913), pp. 163–281.
[A.12] Isaac, E. “1 (Ethiopic Apocalypse of) Enoch.” In The Old Testament Pseudepigrapha: Apocalyptic Literature and Testaments, edited by James H. Charlesworth (Garden City, New York: Doubleday & Company, Inc., 1983), pp. 5–89.
[A.13] Ibid, p. 10.
[A.14] Shanks, Hershel. “Don’t Let the Pseudepigrapha Scare You,” Bible Review, v. 3, n. 2 (Summer 1987), pp. 14–19, 34–37, esp. p. 18.
[ Appendeix A: Flat Earth Bible in Robert J. Schadewald: "THE PLANE TRUTH - A HISTORY OF THE FLAT-EARTH MOVEMENT" (2015) ]
[エノク書は新見宏訳＆村岡宗光訳による], [聖書正典はJapanese Living Bibleによる]
太陽と月が東の天門から出て西の天門に帰り、宝庫で休息する世界は、インターネット時代の地球平板説はもとより、19世紀の地球平板説とも異なる。しかし、1970〜1980年代の地球平板論者は気にしなかったようである。
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