創造論とインテリジェントデザインをめぐる米国を中心とする論争・情勢など

STSとしてのインテリジェントデザイン

Sven Ove Hansson (2021)の「学術的相対主義者と科学否定の隠れたつながり」


Sven Ove Hansson (2021)が「社会構成主義、ストロング プログラム、脱構築主義、ポストモダニズムの支持者は、自然科学の成果を、自然界に関する現時点での最良の知識ではなく、権力に基づく社会的構築物と表現してきた」流れで、社会学者たちが主張してきたアンチサイエンスを概説している。それによれば..


常温核融合

社会学者Malcolm Ashmore :
  • Prosper-René Blondlotの主張したN線を擁護し、N線の存在を否定したRobert W. Woodについて「真剣な科学というよりは、舞台マジック、詐欺、あるいはドタバタ劇の趣き」と評した(Ashmore, 1993)
  • 常温核融合に対する「正義」を求めた(Ashmore, 1993)

社会学者Trevor Pinch:
  • 常温核融合を通常の科学の例として説明  (Collins and Pinch 1998)
  • 常温核融合が存在するかどうかなどの「実験だけでは論争を解決できない」と主張 (Pinch 1994)

Ashmore, Malcolm, 1993. The theatre of the blind: Starring a Promethean prankster, a phoney phenomenon, a prism, a pocket, and a piece of wood. Social Studies of Science 23(1): 67–106.
Collins, Harry M., and Trevor J. Pinch, 1998. The Golem. What You Should Know about Science. Cambridge: Cambridge University Press.
Pinch, Trevor, 1994. Cold fusion and the sociology of scientific knowledge. Technical Communication Quarterly 3(1): 85–100.


超能力

社会学者Harry Collins and Trevor Pinch (1979):
  • 超常現象が発生したとされる心理学実験室では「非科学的なことは何も起こっていない」と主張
  • 過去の知識を背景にして非常に信じ難い主張に対する厳格な証拠という基本的な科学的要件を「半ば哲学的」として拒否
  • 実験の再現性の要件を否定し、悪名高いスプーン曲げのユリ・ゲラーに当てはめられた「詐欺仮説」を却下

Collins, Harry M., and Trevor J. Pinch. 1979. The construction of the paranormal: Nothing unscientific is happening. The Sociological Review 27(1 suppl): 237–270.


癌に対するビタミンC

歴史学者Evelleen Richards (1996):
  • 「タミン C の大量投与がガンを治す」という主張を宣伝

社会学者Harry Collins and Trevor Pinch (2005):
  • 「ビタミン C のガンに対する効能は未解決の問題である」と述べ、「ビタミンCに良い効果がないということは決定的に示されたことはない」と主張

社会学者Sergio Sismondo (2009):
  • 「ビタミン C にはガンを治す力がないためにコンセンサスが形成された」という見解に反論し、「コンセンサスは説得力のある議論や社会的圧力などから形成される」と主張

Collins, Harry M., and Trevor J. Pinch, 2005. The Golem. How to Think about Medicine. Chicago: University of Chicago Press.
Richards, Evelleen. 1996. (Un)boxing the monster. Social Studies of Science 26(2): 323–356.
Sismondo, Sergio. 2009. An Introduction to Science and Technology Studies, second edition. Hoboken, NJ: Wiley-Blackwell.


ランダム化比較臨床試験の否定

歴史学者Evelleen Richards:
  • ランダム化比較臨床試験は「治療評価の不適切で、ますます冗長になっている方法」と主張 (Richards, 1996)
  • 「医療治療の効能に関する疑問は「公平な専門家がいない、本質的に政治的な問題として扱われなければ」ならず、「医療専門家は、政治的議論において必然的に党派的な参加者と見なされるべきであり、医療の真実に関する非政治的な裁定者と見なされるべきではない」と主張 (Richards, 1988)

Richards, Evelleen. 1988. The politics of therapeutic evaluation: The vitamin C and cancer controversy. Social Studies of Science 18(4): 653–701.
Richards, Evelleen. 1996. (Un)boxing the monster. Social Studies of Science 26(2): 323–356.


HIV否定論


気候変動否定論


これらのアンチサイエンスな主張の原因のひとつとして、Hansson (2021)は「弱者理論」を挙げている:
The Underdog Theory (弱者理論)

学術的相対主義は、通常、従来の科学の支持がある知識主張と、支持がない知識主張の間の中立性の一形態として提示される。しかし、この中立性は、科学の支持がないことで不利な立場に置かれている見解を補償的に支持することを正当化するものとして解釈されることが多々ある。Pinch、超心理学などの論争の多い分野では、一方の側が「明らかに疎外されている」場合、「分析家が、拒否された見解をもっともらしくするために、ほとんどの作業を行わなければならないのは避けられない」と主張した (Pinch 1993、370–371)。1990年に発表された論文では、相対主義の3人の支持者が、相対主義は「ほとんどの場合、科学的信頼性や認知的権威が低い側にとってより有用である」と主張しました (Scott et al. 1990、490)。1996年、Evelleen Richardsは「批判的な分析家が中立の原則を無視し、弱者のために正義を主張するのはまったく適切なことだ」と書いている (Richards 1996, 346)。「弱者理論」のもう一人の提唱者である Malcolm Ashmoreは、喫煙と健康をめぐる争いでは、この理論はタバコ産業側につくことを意味すると主張した。なぜなら「我々のSSK [科学的知識社会論] の分析的理解を利用できるのは、死にゆく喫煙者ではなく、タバコ会社である。認識論的敗者である彼らこそが弱者なのだ」からである。死にゆく喫煙者は、タバコ会社との関係において強者であった。なぜなら、彼または彼女は「認知的信頼性の権威、つまり、正しいこと、科学技術論争の勝者の側にいることから生じる力」を持っていたからである (Ashmore 1996, 314–315)。

Ashmore, Malcolm, 1996. Ending up on the wrong side: Must the two forms of radicalism always be at war? Social Studies of Science 26(2): 305–322.
Pinch, Trevor. 1993. Generations of SSK. Social Studies of Science 23(2): 363–373.
Richards, Evelleen. , 1996. (Un)boxing the monster. Social Studies of Science 26(2): 323–356.
Scott, Pam, Evelleen Richards, and Brian Martin. 1990. Captives of controversy. The myth of the neutral social researcher in contemporary scientific controversies. Science, Technology, and Human Values 15(4): 474–494.

[ Sven Ove Hansson: "The Hidden Connection between Academic Relativists and Science Denial", Skeptic Inquirer, Volume 45, No. 5, September/October 2021 ]
これらの社会学者たちの主張が、社会学的に真っ当であるなら、アンチサイエンス支持な主張もまた社会学的に真っ当な行為なのだろう。






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