批判サイド>否定論・陰謀論を信じる理由
米国人の多くが自然選択を理解できていないという調査研究ある。
その理由はいろいろ検討されてるが、Paul Thagard & Scott Findlay (2009)は、概念的・方法論的・一貫性的・心情的な障害を挙げている。その中でも、難易度を高くしてしまっているのが、概念的困難である。彼らによれば、「進化的変化・遺伝的変異・生存競争・自然選択といった単純な概念の組み合わせによって構成される進化は、とても理解には難しいものなっている」という。
常識的心理学とは異なり、認知心理学と神経科学から、我々は、思考の多くが無意識過程であることを知っている。
米国人の多くが自然選択を理解できていないという調査研究ある。
その理由はいろいろ検討されてるが、Paul Thagard & Scott Findlay (2009)は、概念的・方法論的・一貫性的・心情的な障害を挙げている。その中でも、難易度を高くしてしまっているのが、概念的困難である。彼らによれば、「進化的変化・遺伝的変異・生存競争・自然選択といった単純な概念の組み合わせによって構成される進化は、とても理解には難しいものなっている」という。
2.1 Conceptual Difficulties (概念的困難)
一見すると、自然選択による進化を理解するのに必要な概念は、特に把握しがたいものではない。進化的変化・遺伝的変異・生存競争・自然選択といった概念は、定性的に記述可能であり、相対論や量子力学のような物理学の主要な理論の理解を妨げている数学的複雑さはない。しかし、ダーウィンの理論は、コモンセンスな説明とは合わない、統計的かつエマージェントな生物学過程に関するものである。
人々が慣れ親しんでいる2つの種類の説明は、意図的と単純機械的である。意図的説明は社会経験と親和性が高く、たとえば、キャリアに関する個人の決断は信条と欲求によって説明される。日々の機械的説明は、素直な「もし〜ならば〜」ルールによって把握可能な因果関係に依存している。たとえば、自転車のペダルが回り、クランクとチェーンとタイヤが回るといったもの。したがって、自転車の動作と時々起きる故障は、部品及びペダルとクランクとチェーンとタイヤの相互作用の形の、単純な説明に適している。
これに対して、進化的説明は、本質的に統計的であり、遺伝子と種の確率的変化を含んでいる、それらには、著名な進化生物学者Ernst Mayer(1982)が集団思考(population thinking)と呼ぶものが必要である。それは、本質の観点からの、もっと自然な類型学的思考とは対照的である。確率理論と統計推論の理論は、ここ数世紀に発明されたものであり、そのような統計的思考は、人間の認識にとって自然ではない(Hacking 1975)。高校生や大学生で統計思考に触れる者は少なく、したがって、人々が、統計形式で生物種について考えるのが困難なのは、驚くに値しない。科学における洗練された確率思考は、統計力学の分野で19世紀に終わりに発達し、20世紀における集団遺伝学の発達を促した。本質(内的自然)の観点からの、種の概念化は、心理学の研究によれば、自然選択の理解の妨げとなる(Shtulman 2006; Shtulman and Schulz 2008)。生徒が進化論を受け入れても、進化が集団のメンバーではなく、種の本質に対して働いていると考え続けるかもしれない。
さらに、本質的に統計的であることに加えて、進化的説明の理解には、「定性的に異なる小さな操作から、大きな効果が生じる」ような、エマージェント過程(emergent processes)の理解が必要である。自転車のような単純なメカニズムでは、全システムの動きは容易に、部品の動きの結果として見ることができる。エマージェント特性(emergent property)は、システムに属するものだが、システムのどの部品にも属さない (Bunge 2003)。そのような特性は、分子・細胞・器官・生命体・社会など自然界の多くの階層にあまねく存在する。非常に簡単な例では、「塩化ナトリウム(食塩)は、それを構成する塩素原子とナトリウム原子の特性とは大きく異なり、塩素原子とナトリウム原子の特性から、ヌメリの刺激を与えるという特性を推定する」ことは困難である。エマージェント過程はエマージェント特性をつくる過程である。新種の進化とは、多くの個体の小さな遺伝的変化によって起きるエマージェント過程であり、元の種と交配不可能な集団が存在するようになることである。生徒たちは、自然選択が、集団内の漸進変化を起こすとともに、「定性的に異なる生命体の種の出現、すなわち種形成」を理解しなければならない。
Chi (2005, 2008)は、「エマージェント過程の理解において、生徒たちが遭遇した学習の困難」についてレビューした。生徒たちは自然に、「動物に大きさと色がある」といった、「エンティティとその特性」を理解した。より理解が困難なのは「時間をかけて起こる過程」の理解である。しかし、その変化に、特定可能な因果エージェントがある場合は、直接的過程の理解よりそれほど困難なわけではない。しかし、エマージェントの場合、変化は多くの相互作用から生じる。たとえば、肺から血球への酸素の拡散や、渡りをする雁のV字飛行編隊など。「指示されることなく、いかに種が出現するか」を生徒たちが理解し損ねるのは、エマージェント過程の理解ができないことが一因である。「自然選択による進化の結果として、種形成」を把握することは、「生徒たちがこれまで経験した年数よりも、はるかに長い、何千年、何百万年という長い時間をかけた変化」であることで、より困難になる。現代社会が比較的安全であるため、人間の種形成を促した進化圧力が、もはや自明のものではない。
遺伝的変化は緩慢かつ統計的であり、「高速かつ直接的である、単純な機械的な変化や意図的変化」とは対照的である。生徒たちは、自然と、「獲得形質の遺伝という観点のラマルク的説明」へと引き寄せられる。その説明は、「人間の個人的生活や文化の発展で見られるような、高速かつ指示された変化」に類似している。ダーウィンには、「どのように集団内の変異が生じるか」や「それが次の世代へどのように継承されるか」についての、良い理論がなかった。それらの隙間は、20世紀に遺伝学によって埋められた。しかし、大半の生徒は、「遺伝的変異の指示されないという性質」や「集団遺伝学の統計的性質」を理解できるようには、なっていない。生徒たちは、「慣れ親しんだ意図的説明」に近い「目的ベースの目的論的説明」へと傾いていく。
歴史的かつ文化的に、進化論受容の最大の障害は「人間の思考が進化の産物だ」という主張である。ダーウィンとは独立に自然選択を発見したAlfred Wallaceは、「還元不可能な精神性を持つものだ」と考えた「心」への適用を認められなかった。今日の生徒たちが「ダーウィンの理論で最も尤もらしくない」と思うのは、「人間の心の働きについての説明を提示するものだ」という示唆である(Ranney and Thanukos 2009)。ここで、生徒たちは二重の困難に直面する。進化は、「ダーウィン的説明におけるエマージェント過程」であり、思考も「神経科学で現在発展中の説明であるエマージェント過程」である。思考は数百億の神経細胞の相互作用によって生じており、個々の神経細胞は、何千何万の遺伝子・タンパク質・その他の分子の相互作用の結果として発火している。自然選択によって人間の思考が進化したと考えるには、生徒たちが複数の階層のエマージェント過程を把握できないといけない。たとえば以下のような:
1. 自然選択による進化が、いかにして人間の脳をつくったか。
2. 神経及び神経化学物質の相互作業が、いかに人間の思考をつくったのか。
したがって、人間の心は、エマージェント過程から生じたエマージェント過程である。したがって、「多くの現代哲学者は言うまでもなく、生徒たちや普通の人々が、自然選択によって生み出された脳の構造の結果として心がいかに生じたかをイメージするのが、いかに困難であるか」は、驚くに値しない。
Bunge, M. (2003). Emergence and convergence: Qualitative novelty and the unity of knowledge. Toronto: University of Toronto Press.
Chi, M. T. H. (2005). Commonsense conceptions of emergent processes: Why some misconceptions are robust. Journal of the Learning Sciences, 14, 161–199.
Chi, M. T. H. (2008). Three types of conceptual change: Belief revision, mental model transformation, and categorical shift. In S. Vosniadou (Ed.), International handbook of research in conceptual change (pp. 61–82). New York: Routledge.
Mayr, E. (1982). The growth of biological thought. Cambridge, MA: Harvard University Press
Ranney, M., & Thanukos, A. (2009). Accepting evolution or creation in people, critters, plants, and classrooms: The maelstrom of American cognition about biological change. In R. Taylor & M. Ferrari (Eds.), Evolution, epistemology, and science education. Milton Park: Routledge (forthcoming).
Shtulman, A. (2006). Qualitative differences between naive and scientific theories of evolution. Cognitive Psychology, 52(2), 170–194.
Shtulman, A., & Schulz, L. (2008). The relation between essentialist beliefs and evolutionary reasoning. Cognitive Science, 32, 1049–1062
Thagard, P., & Aubie, B. (2008). Emotional consciousness: A neural model of how cognitive appraisal and somatic perception interact to produce qualitative experience. Consciousness and Cognition, 17, 811–834.
常識的心理学とは異なり、認知心理学と神経科学から、我々は、思考の多くが無意識過程であることを知っている。
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