ここは、クトゥルフ神話TRPGのオンラインセッションに関する各種情報がまとめられているWikiです。

1 概要

異空間クローズド系シナリオです。現代日本を舞台にしていますが、基本ルールブックだけで遊べます。
多少のリアルアイディアは必要ですが、マップもギミックもシンプルなのでPLが迷う場面は少ないと思います。NPCの行動に癖があるので、KPは少し大変かもしれません。
プレイ時間はテキセで8時間程度を想定していますが、探索の仕方や勘が働くかによってかなり前後すると思います。オフセやボイセなら半分くらいになると思います。
推奨人数は2〜5人。3,4人が最適です。

探索メインで戦闘は基本的にありません。ただし一か所だけ厄介な敵に遭遇してしまうポイントがあります。戦闘ができる探索者がいない場合はできるだけ避けられるように誘導してください。
八つの枢要罪をテーマにしていますが、オカルト色は薄目です。
間接的ではありますが虐待やいじめ、性的暴行等の描写があるのでご注意ください。

一人以上はAPPの高い(13以上)の男性探索者を参加させた方が導入がスムーズです。それを満たす探索者がいない場合はAPPだけ振り直しさせるか、導入でエステなり美容院なりに行かせてAPPを成長させるといいと思います。
推奨技能は目星、図書館、ほかの言語(英語又はラテン語)、制作(裁縫)。純推奨として対人技能(言いくるめ、説得、信用)。目星以外は1~2人が持っていれば大丈夫です。

2 あらすじ

ある休日の昼下がり。探索者が街中をぶらぶらしていると、一人の少女に声を掛けられる。ごくごくありふれた逆ナンだ。
その少女と別れてからしばらくすると、彼女の悲鳴が路地裏から聞こえる。
慌てて駆けつけた探索者たちだが、彼女の元へたどり着いた途端に光に包まれる。
気が付くと、探索者たちは少女と共に四つの扉がある真っ白な部屋の中にいた。
少女は記憶を失っており、あの路地裏で何があったのかは分からない。
部屋にある立て看板には、こう記されていた。

「ここから出たければ、足りないものを埋めてください」

3 導入

休日の昼下がり、何らかの用事で繁華街に来ていた探索者たち(用事はなんでもいいが、急ぎの用でない方がいい)。するとAPPの一番高い男性探索者が、「すみません」と声を掛けられる。
振り向くとそこには、とても可愛らしい高校生くらいの『少女』が立っていた。彼女は「このあたりに来るのは初めてで、迷ってしまったんです。道を教えていただけませんか?」と困った顔をして訪ねてくる。近くにある新しく出来た喫茶店に行きたいようだ。
道を教えてあげると「ありがとうございます。お礼にその喫茶店でお茶でもご馳走させてください」と微笑む。勘のいい探索者なら『少女』はどうやら逆ナンをしようとしていると気づくだろう。

誘いを断ったり、そもそも道を教えなかったりすると、『少女』は残念な顔をしながらも諦めて去ってしまう。誘いに乗ると喫茶店の前まで行くが、そこで『少女』は道行く誰かの顔を見て、急に「すみません、急用を思い出しました!」と去って行ってしまう。後姿を追うと、浅黒い肌の背の高い男性の後ろを懸命に追いかけているのが見える。

『少女』と別れてからしばらくすると、探索者たちは人の少ない通りに出る。すると、路地裏から甲高い女性の悲鳴が聞こえる。路地裏に駆け付けた場合、先ほどの『少女』が膝をついて何かに怯えているのを目撃するだろう。そして次の瞬間、探索者たちの視界は光に白く塗りつぶされる。意識を失う直前、「面白い、その愛をたしかめてみせろ」という男性の声が聞こえる。

4 白い部屋

探索者たちが目を覚ますと、そこは目が痛くなるほどの真っ白な部屋の中だった。
そこにいるのは、探索者たちと『少女』のみ。
『少女』に事情を聴こうとしても、彼女はこう答えるだけだ。
「何も覚えていないんです。自分の名前さえも……」
彼女は記憶喪失になっているようだった。

探索者たちの服装、持ち物はそのままである。
携帯を調べると探索者同士での通話はできるが、外へは繋がらないことが分かる。
白い部屋は正方形で、学校の教室ほどの広さ。天井は見えないほど高い位置にある。中央には二つの立て看板と、その間に台座のようなものがあり、四方の壁にはそれぞれ一つずつ扉がある。

左の立て看板

『部屋のルール』と書かれた紙が貼ってある。内容は以下の通り。
・部屋には出るのも入るのも自由です。
・一つの部屋に一度に入れるのは三人までです。
・部屋の防音は完璧です。
・部屋の扉はしっかり閉めましょう。
・部屋に入って罪を犯せば『いいもの』が手に入ります。
・『いいもの』以外を部屋の中から持ち出してはいけません。

右の立て看板

『台座のルール』と書かれた紙が貼ってある。内容は以下の通り。
・ここから出たければ、足りないものを埋めてください。
・チャンスは二回までです。
・一回間違えると、よくないことが起こるでしょう。
・二回間違えても、ここから出ることは不可能ではありません。ただし……。

四方の扉

四つの扉は白いペンキで塗られた木製で、金属製のドアノブがついている。
それぞれの扉の上には方角を表す漢字が書かれており、その下にはプレートがついている。
北:『さけとおんな』、東:『わがままなみえっぱり』、南:『だらだらじめじめ』、西:『よくばりはいけません』
扉の先は四つの部屋に繋がっている。
全ての部屋に共通するルールは以下の通り
・どの部屋にも鍵は掛かっておらず、三人までなら自由なタイミングで出入りできる。
・ただし四人目が部屋に入ろうとすると、見えない壁に阻まれてしまう。
・部屋の扉に対し聞き耳を行っても何も聞こえない(たとえ他の探索者が中で物音を立てていても同様)
・部屋の扉を開けたまま探索しようとすると、扉がひとりでに閉まる。扉の隙間に物を挟んでいた場合は、潰されてしまう。探索者が手や足などを挟んでいれば1d3のダメージを受け、さらにその後、手や足を使うロールに-20の補正が入る。
・それぞれの部屋には一つまたは二つのクリア条件があり、それを満たせば各部屋二つずつの宝石を手に入れられる。
・部屋から宝石以外のものを持って出ようとした場合、中から扉が開かなくなる。

台座

『少女』の腰ほどの高さにあり、墓石のような色をしている。天辺にはくぼみが一つある。
各部屋で宝石を手に入れた後なら、その宝石がちょうど一つはまる大きさであることが分かる。
宝石について
基本的な見た目は共通している。変化するのは、中央の文字のみ。
手ですっぽり覆えるくらいの大きさで、無色透明である。綺麗にカットされており、一番上の平らな部分が正八角形になっている。知識に成功すれば、ラウンドブリリアントカットという有名なダイアモンドカットの一つであることが分かる。博物学等を使えば、ダイアモンドによく似た鉱物であることが分かる。
宝石の中央には、それぞれアルファベットが一文字浮かんでいる。
台座のギミックについて
それぞれの部屋を探索しクリア条件を満たすことで手に入れられる宝石から正しいものを一つ当て、台座にはめ込むというシンプルなギミックである。
各部屋で手に入る二つずつの宝石に浮かぶ文字は、その部屋の象徴する八つの枢要罪の英語の頭文字と対応している。
正解は『W』つまり憤怒の宝石である。これは憤怒を表すラテン語の頭文字が『I』であること(「愛(=I)をたしかめてみせろ」というニャルラトテップの言葉)、強欲の『G』と憤怒の『W』の宝石が手に入った部屋に憤怒の要素がなかったこと等から推測できる。
それ以外の宝石をはめた場合、その宝石は粉々に砕け、風化する。そして、探索者たちの背後にはシャンタク鳥が現れる。戦闘して倒すか、急いで正解の宝石をはめなおす必要がある。
二回間違った場合は、バッドエンド1へ。
シャンタク鳥
(描写例)大きな羽音と共に、視界に影が掛かる。振り向くと、そこには大きな鳥がいた。いや、違う。翼こそついているが、それは今まで見たどんな鳥とも違う異質な化け物だ。身体はウロコに覆われており、馬のような頭部がついている。そして何より、その身体は象のように大きかった。
シャンタク鳥を目撃した探索者は0/1d6のSANチェック。

シャンタク鳥は大きく扉をくぐることができないため、どこかの部屋に入れば一時的に避難できる。ただし、部屋に逃げるには1ラウンド消費し、かつそれぞれの探索者がシャンタク鳥とのDEX対抗ロールで成功する必要がある。
なお、狭い空間であるためか、ニャルラトテップの温情か、このシャンタク鳥は若干弱体化している。

[能力値]
STR:20 CON:10 SIZ:30  INT:4 POW:10 DEX:10
H P:20  M P:10  回避:24  ダメージボーナス:2d6
装甲:5ポイントの皮膚
武器:噛みつき(55%) 2d6+db

5 『少女』について

名前:不明(不便であれば導入時に聞き出せたことにしてもよい) 性別:♀ 職業:高校生 年齢:18
[能力値]
STR:7 CON:5  SIZ:10 INT:12 POW:8 DEX:12 APP:16 EDU:10
H P:13 M P:14  SAN:30(元は40) 回避:24 ダメージボーナス:0
[技能]
隠れる:50% 聞き耳:50% 忍び歩き:50% 目星:80% 
言いくるめ:60% 制作(裁縫):50% 芸術(服飾):55%
[所持品]
財布、ハンカチ、ポケットティッシュ

記憶

彼女は記憶喪失状態である。失くしているのは彼女自身の記憶や思い出で、一般常識はある。また、尋ねればここに来る前に浅黒い肌の男性に会った気がすると説明してくれる。

性格

細かいことは考えない、楽観的な性格。ただし蛮勇というほどではなく、年頃の少女相応の臆病さは持ち合わせている。一人での行動はしたがらず、惚れているもしくはその場で一番APPの高い男性探索者にべったりと引っ付く。それ以外の探索者や各部屋にいるNPCに対しても基本的には優しく接する。どんな状況でも、怒り出すことは決してない。詳細な来歴は、シナリオ背景を参照。

発狂の処理

彼女はニャルラトテップとの接触時に不定の狂気を発症している状態である。よってそれ以外の不定の狂気にはならない。ただし一度に5以上減れば一時的発狂は併発する。精神分析を用いればSANの回復および一時的発狂を解くことは可能だが、この空間にいる限りは不定の狂気を抑えて記憶を取り戻すことはない。

惚れ

(お遊び的な設定なので、面倒だったりRPが難しいと感じれば無視してもかまわない)
『少女』は探索者たちが白い部屋で目を覚ました際、その場で一番高いAPPの持ち主(≒導入時にナンパした相手)とのPOWとAPPの対抗ロールを行う。失敗すると、その探索者に惚れる。そこで惚れなかった場合、一定時間が経過する度に(部屋を一つ探索し終える等、キリがいいところで)再び対抗ロール。APP13以上の探索者が複数いれば、探索者の行動等によって対象を変えてもよい。探索者に惚れた少女の行動は、以下のようになる。
・その探索者のお願いは基本的に何でも聞く。
・できる限りその探索者と一緒に行動しようとする。無理に引きはがすには対人技能を使用するかSTR対抗で成功しなければならない。
・その探索者が怪我をした場合、「私が手当てします!」と言い張り真っ先に応急手当しようとする。精神分析も同様。

6 北の部屋(『さけとおんな』)

そこは一般家庭の居間のようだ。テーブルとソファ、テレビ、テレビ台がある。
そして奥には、小学生くらいの小さな女の子が座り込んでいる。その真後ろには、さらに引き戸があるのが分かる。
※部屋全体に目星→よく見ると、誰かが暴れたような細かい傷が壁や床の至る所にあるのが分かる。

テーブルとソファ

テーブルには細かい傷が、ソファには何かをこぼしたような染みがついている。それ以外は調べても特に何も見つからない。

テレビ

電源を押すと画面は砂嵐になっている。そのノイズ音に交じり、小さく「痛いよ。お腹空いたよ……」という子供のすすり泣く声が聞こえる。それを聞いた者は0/1のSANチェック。

テレビ台

両開きの戸がついており、開けると防災袋がある。中には懐中電灯、ラジオ、固形型の非常食、水が入っている。懐中電灯やラジオは電源が点かない。非常食はチーズ風味で美味しいが喉が渇く。水は普通のミネラルウォーター。

女の子

あまり可愛いとは言えない容姿(APP6~8くらい)
話し掛けると、「お腹が空いて、喉も乾いたの。でもお父さんは何も食べちゃいけないって」と答える。どうして食べちゃいけないのか聞くと「私が可愛くないから」と答える。
部屋のことを聞くと「私の家だよ。今は私1人だけしかいないの」と答える。探索者たちが調べ物をしてもいいかと聞けば、快く了承してくれるだろう。
ただし、その場所をどくように頼んでも「お腹が空いて動けないの」と答える。無理やりどかそうとしても、体が幽霊のように透けてしまい触ることはできない。それを知った者は0/1のSANチェック。女の子をを無視して引き戸を開けようとしても、引き戸は固く閉ざされている。

※目星→ボロボロの服を着ていることや、ひどくやせ細っていることが分かる。
※心理学→ひたすら「お腹が空いた」と思っている。

タンスから見つけた非常食や水を渡そうとすると、「食べちゃいけないから」と渋り、「お兄さんたちが食べていいよ」と微笑む。それでも無理に渡そうとすると、手がそれに触れた途端に女の子の身体は灰のように風化し、崩れ落ちる。そしてテレビの電源が勝手に入り、ノイズ交じりに「だから駄目って言ったのに」という声が部屋に響く。目撃した者は1/1d4+1のSANチェック。
女の子に無理強いすることなく探索者自身が非常食を食べた場合、女の子は少しだけ羨ましそうな顔をしてから消えていく。目撃した者は0/1のSANチェック。

いずれにしても女の子が消えると、その後ろの引き戸が開くようになり、先に進むことができる。
女の子のいた場所には宝石が落ちている。宝石の中には『G』の文字が浮かんでいる。



引き戸の先へ進むと、そこは子供部屋のようだ。
床にはカーペットが引いてあり、その上に絵本が散乱している。奥にはベッド、壁沿いには勉強机とクローゼットが並んでいる。
東の部屋に入ったことがある者がいれば、全く同じ構造をしていることに気付く。ただし、こちらの方が家具等が少し新しい印象を受ける。

床の絵本

落ちているのは「白雪姫」「カエルの王子様」「眠り姫」の三冊。
※目星→その中でも「カエルの王子様」の絵本が特に読み込まれていることが分かる。

クローゼット

小学生くらいの女子用の服が入っている。誰かからのお下がりのようなボロボロの服が多い。

勉強机

机の上には教科書と文房具がある。引き出しには、ノートが入っている。
ノートには、1ページ目に子供の字でこう書かれている。「おとぎばなしでは、キスでのろいがとけるの。そして、おうじさまとむすばれるの。だからキスは、とてもしあわせなことなの。」
さらに捲ると、2ページ目には「だけど×××××とのキスはあまりしあわせなきぶんにはなれない。なんでだろう。」とある。×××××の部分はぐちゃぐちゃに塗りつぶされていて読めない。
3ページ目以降は白紙である。

ベッド

ベッドシーツは乱れており、上には大きなカエルのぬいぐるみが乗っている。可愛らしくデフォルメされたものではなく、妙にリアルで気味が悪い。
小さな兄弟や子供がいる探索者なら、子供用にしては少々サイズが大きいベッドだと気づくだろう。

このカエルにキスをするとカエルのぬいぐるみはニタリと笑って大きな口を開け、中から宝石が出てくる。宝石の中には『F』の文字が浮かんでいる。この不気味な光景を目撃した探索者は0/1のSANチェック。
宝石を取り出せばカエルは口を閉じて、元の物言わぬぬいぐるみに戻る。

カエルにキスをした後に部屋から出ようとすると、扉の内側に赤い文字が浮かんでいるのが見える。
「私はあの子の代わりにたくさん食べた。そしてあの子の代わりにキスをした。」

☆この部屋のクリア条件は『女の子の代わりに非常食を食べる』、『カエルのぬいぐるみとキスする』。それぞれ暴食、色欲に相当する。

7 東の部屋(『わがままなみえっぱり』)

そこは誰かの部屋のようだ。床にはカーペットが引いてあり、奥にはベッド、壁沿いには勉強机とクローゼットが並んでいる。
北の奥の部屋に入ったことがある者がいれば、全く同じ構造をしていることに気付く。ただし、家具等が少し古くなっている印象を受ける。

勉強机

教科書や参考書が綺麗に並べられている。机の上にはノートが開かれており、こう書かれている。

Superbia⇔Pride
Vanagloria⇔Vainglory
Ira⇔Wrath
Acedia⇔Sloth
Tristitia⇔Despair
Avaritia⇔Avarice
Gula⇔Gluttony
Fornicato⇔Fornication

その他の言語(ラテン語)又はその他の言語(英語)に成功すれば、左がラテン語、右が英語であり、上から傲慢、虚飾、憤怒、怠惰、憂鬱、強欲、暴食、色欲という意味であることが分かる。
南の部屋でまだ本を調べていなかったり図書館ロールに失敗していた場合は、ここで知識の半分かオカルトに成功すれば八つの枢要罪との関連に気付くことができる。

引き出しを開けると、一冊のファッション誌が入っている。表紙によると「シンデレラコーデ」が特集されているようだ。中身を読んでみても特に気になることはない。

※机全体に目星→机の下にミシンがあることに気付く。

ベッド

調べるとベッドの下に小さな箱があることに気付く。中にはヒールがとても高いが可愛らしいデザインのミュールが入っている。その横には裁縫箱がある。

クローゼット

扉を開けると、中にはワンピースが一着掛かっている。ボロボロで、ところどころほつれている。ポケットがついており、調べると中から紙が見つかる。紙には「せっかくもらったワンピース、可愛い私にぴったりだから着こなして皆に自慢しなきゃ」と書かれている。
※芸術(服飾)等に成功すれば、デザインは可愛いが一昔前のもので、ボロボロ具合からも誰かのお下がりであろうことが分かる。

このワンピースは、裁縫箱を使い、制作(裁縫)ロールを行うことで縫い直すことができる。ミシンを使用すると+30の補正。成功・失敗に関わらず15分程度は経過する。

ワンピースはSIZ12以下の者しか着ることができない。ミュールも同様である。探索者の中に該当する者がいなければ『少女』に着せるしかないだろう。『少女』はこういった服は好みのようで、喜んで着てくれる。
縫い直したワンピースを着ると、まるで自分がお姫様にでもなったかのような気分になる。ミュールを履くと視界が一気に高くなり、まるで全てを見下ろせるような錯覚に陥る。

ワンピースを着てミュールを履くと、少しだけ身体が重くなるのを感じる。ワンピースを調べると、その原因はポケットにいつの間にか入っていた二つの宝石のためであると分かるだろう。宝石の中には『P』、『V』の文字が浮かんでいる。

ルールに反してしまうため、部屋から出る際にはワンピースとミュールは脱がなければならないので注意。

ワンピースとミュールを着用した後に部屋から出ようとすると、扉の内側に赤い文字が浮かんでいるのが見える。
「いつも取り繕って、綺麗なフリをしてた。美しくないものを見下してた。中身はこんなにもボロボロで汚いのに。」

☆この部屋のクリア条件は『繕い直したワンピースとミュールを着用する』。傲慢と虚飾に相当する。

8 南の部屋(『だらだらじめじめ』)

そこは学校の図書室のようだった。手前にはテーブルがいくつかあり、そのうちの一つに制服を着た少女が座っている。奥には本棚が並んでいる。窓が開いており、カーテンが風にはためいている。

制服の少女

地味な印象で、あまり可愛いとは言えない容姿(APP6~8くらい)
椅子に座って読書をしている。探索者が話し掛けても全く反応はない。探索者が彼女に触れようとすると、まるで幽霊のように透けてしまい触ることはできない。それを知った探索者は0/1のSANチェック。

※少女に目星→制服がところどころ破れたり汚れたりしていることが分かる。
※本に目星→読んでいるのはアンデルセン童話の本であることが分かる。開いているページには「みにくいアヒルの子」の物語が書かれている。

窓の外は曇っている。下を覗くと、中庭のような場所であることが分かる。窓から手を出したり身を乗り出そうとしても、見えない壁に狭まれて窓の外に出ることはできない。

本棚

たくさんある本棚の一つに、「今月のおススメコーナー」という貼り紙の貼られたものがある。歴史や宗教関係の本が並んでいるようだ。
※図書館→一冊だけ付箋の挟まれている本が見つかる。所要時間は成功しても失敗しても30分。付箋の挟まれたページには次のようなことが書かれている。

「八つの枢要罪について」
八つの枢要罪とは、4世紀のエジプトの修道士エヴァグリオス・ポンティコスの著作に現れる概念である。罪そのものというより、人間を罪悪に導く要因たりえる感情や特性、欲望であると考えられている。
内訳は、「暴食」、「色欲」、「強欲」、「憂鬱」、「憤怒」、「怠惰」、「虚飾」、「傲慢」。
現在では「虚飾」が「傲慢」に、「憂鬱」が「怠惰」に含まれ、「嫉妬」が追加されて七つの大罪となっており、キリスト教用語として有名である。

※アイデア→各部屋は枢要罪を二つずつモチーフにしているのではないかと気づくことができる。他の部屋に行ったことがある者がいる場合、それぞれの部屋に対してアイデアロールを行えば、その部屋がモチーフにしている罪も分かる。なお、西の部屋は強欲しか思い当たらない。
(ここでアイデアロールが振れることをKPが示唆するか、探索者自らが気づくのを待つかによって難易度を調節してもよい)

探索者たちが本棚を調べ終える(または別のことをして30分以上経過する)と、制服の少女は席を立ち、窓際に移動する。そして窓枠に足を掛け、あっという間に飛び降りてしまう。窓の近くにいた探索者なら彼女を止めようとするだろう。しかし、彼女の身体や服を掴もうとしても探索者の手は空を切ってしまい、阻止することはできない。彼女の自殺を目撃した者は0/1d3のSANチェック。
さらに窓から下を覗いた者は、真っ赤な血に染まった少女の遺体を目にするだろう。1/1d4+1のSANチェック。

制服の少女が飛び降りた後、彼女がいたテーブルの上に宝石が二つ転がっている。宝石の中には『S』、『D』の文字が浮かんでいる。
彼女の読んでいた本を調べると、「みにくいアヒルの子」のページに赤いペンで「うらやましい」と何度も書かれている。

少女の自殺後に部屋から出ようとすると、扉の内側に赤い文字が浮かんでいるのが見える。
「私はあの子を救えなかった。あの子は私の目の前で。」

☆この部屋のクリア条件は『制服の少女が飛び降りるのを見届ける』。怠惰と憂鬱に相当する。

9 西の部屋(『よくばりはいけません』)

扉を開けると同時にカランコロンという音が響く。部屋の中はまるで喫茶店のような内装になっていた。
ただし、中には店員の姿も客の姿もなく、静まり返っている。
※店内に目星→無人の会計にメニューのようなものが置いてあることが分かる。メニューを開けば以下のように書いてある。
〜素敵な人への声の掛け方・喫茶店編〜
・いい感じの人が一人で座っているのを見かけたら、「相席いいですか?」と声を掛けましょう。
・第一印象は見た目が大事です。素敵な出会いを逃さないよう、常にオシャレはかかさないように!
・自慢の話力で連絡先をゲットしちゃいましょう。たくさんお喋りしておくと、成功率も上がるかも?
・駄目だった場合は潔く諦めて、店に入り直すところから始めてみましょう。
・さて、それでは実践です。

読み終えると、先ほどまでは誰もいなかったはずの奥の方の席に男性とおぼわしき後姿が見える。
近づくと、それが生身の人間ではなくマネキン人形であると気づくだろう。

そのマネキン男は、探索者たちが声を掛けると、振り向き「やあ」と気さくに答えてくれる。
マネキンが喋る光景を目の当たりにした探索者たちは、0/1d2のSANチェック。
マネキン男は明るく穏やかな好青年という設定だが、自由に改変してもよい。店に入り直すたびに変わると面白いかもしれない。

※テーブルに目星→ごく普通の喫茶店のテーブル。ただしメニューや呼び出しボタン等は置いていない。
※マネキンに目星→アパレルショップによくある肌色のマネキン。爽やかな青年のような服装で、茶髪のウィッグを被っている。

「相席いいですか?」と声を掛け、APP×5ロールに成功すればマネキン男の向かいに座ることができる。失敗したり声掛けをせずに座ろうとすると拒否されてしまう。そうなるとマネキン男のその探索者に対する好感度は下がってしまうので、別の探索者が挑戦するか、一度入り直さなければならない。一度入り直せば好感度はリセットされる。

対人技能のロールに成功すれば、マネキン男の連絡先を手に入れることができる。探索者が技能を使う前に積極的にRPを行えば、KPはその内容によって好感度を設定し+補正を与えてもよい。

マネキン男からは連絡先を書かれたメモと共に二つの宝石が渡される。宝石の中には『A』『W』の文字が浮かんでいる。マネキン男は探索者の去り際に「何か困ったことがあったらいつでも相談してきてね」と言う。

もらった連絡先は本物で、携帯からその番号に掛けると通話をすることができる。探索者たちが行き詰った時にヒントを出すお助けNPCにするとよい。直接この部屋を訪れれば応急手当や精神分析を振らせることもできる。
マネキン男の技能例…応急手当:60%、精神分析:60%、その他の言語(ラテン語):80%

喫茶店から出ようとすると、扉の内側に赤い文字が浮かんでいるのが見える。
「私は求めた。たくさんたくさん求めた。それはきっと寂しくて、欲張りだったから。」

☆この部屋のクリア条件は『マネキン男の連絡先を手に入れる』。強欲に相当する。憤怒の宝石も共に手に入る。

10 エンディング分岐

トゥルーエンド(条件:正しい宝石をはめる)

宝石をはめると、台座から目を開けていられないほどのまばゆい光が溢れだす。
気が付くと『少女』と探索者たちは真っ暗な空間に立っており、目の前には制服を着た高校生くらいの少女がいる。南の部屋にいた探索者は、彼女があの自殺した制服の少女であると気づくだろう。

制服の少女は呆然としている『少女』を抱きしめて、こう声を掛ける。
「お姉ちゃんは優しいから、耐えられなかったんだね。だから嫌なこと、見ないふりしていっぱい我慢してたんだね。でも、もういいんだよ。嫌なことには怒っていいの。それが当たり前なんだから」
『少女』は何も言わず、静かに涙を流している。
制服の少女は『少女』から離れると、今度は探索者たちに向かって頭を下げる。
「皆さんも、本当にありがとうございました。巻き込んでごめんなさい」
そして探索者たちは再び光に包まれる。今度は、全てを癒すような優しい光に。この時、『少女』の喪失したSANおよび探索者が喪失したHPが全て回復する。

気が付けば、探索者たちは元の路地裏に戻っている。日はすっかり暮れている。座り込んでいた『少女』は静かに立ち上がり、「全てを思い出しました」と呟く。そして「私、がんばって向き合います」と宣言し、路地裏を後にする。
後日、探索者は耳にするだろう。高校生の娘が今まで父親から受けていた虐待を告白し、その父親が逮捕されたというニュースを。

バッドエンド1(条件:宝石を二回間違う)

いきなり照明が落ちたかのように、周囲が真っ暗になる。
探索者たちは人の気配を感じ、振り返る。そこには制服を身に纏い、全身を血に染めた高校生くらいの少女が立っていた。自分の手元も確認できないような暗闇の中にも関わらず、何故かその姿だけははっきりと捉えることができるだろう。0/1d3のSANチェック。(南の部屋に行った者は、それがあの自殺した制服の少女であると気づき、減少値に+1)
その制服の少女を見た『少女』は「いやああああぁぁぁぁ!」と悲鳴を上げ、その後、「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」とひたすら唱えながら蹲る。

制服の少女は「お姉ちゃんを、助けて欲しかったのに……」と恨めしそうに言った後、姿を消す。それと同時に探索者たちは自分たちが元の路地裏に戻っていることに気付く。『少女』はいつの間にか気絶しており、その目元には涙の跡が浮かんでいる。探索者たちは彼女を警察か病院へ運ぶことになるだろう。
『少女』は記憶を失ったままであり、精神病院へ入院することになる。しばらくしてから病院を訪れると、父親が強引に退院させたことを知ることになるだろう。その後、『少女』の行方は分からなくなった。

バッドエンド2(条件:『少女』をロストしてしまう)

周囲が真っ暗になり、血濡れの少女が現れるまではバッドエンド1と同じ。
制服の少女は「よくもお姉ちゃんを殺したな……!」と叫び、その瞬間、探索者たちは自分の身体が地面に叩きつけられるような衝撃を受ける。1d3のダメージのあと、得体のしれない衝撃を感じたショックにより0/1d3のSANチェック。
その後、制服の少女は「私はもっと痛かった。お姉ちゃんは、もっともっと……」と呟き、姿を消す。それと同時に探索者たちは自分たちが元の路地裏に戻っていることに気付く。『少女』の姿はどこにも見当たらなかった。


(追記)クリアによるSAN報酬はトゥルーエンドで1d10、バッドエンドで1d3程度。セッション中に減ったSAN値に応じてKPが調整してもかまわない。

11 シナリオ背景

『少女』は母親を早くに亡くし、双子の妹と共に父親に虐待されていた。『少女』は主に性的な虐待を受け、見目がよくなかった妹は暴力を受けたり食事を与えられなかったりした。
一年前、妹は学校でも容姿を理由にいじめを受け始めるようになる。それを『少女』が知った時にはすでに遅く、妹は『少女』の目の前で自殺してしまう。

優しい性格だった上、幼い頃から虐待を受け続け感覚が麻痺していた『少女』は、父や妹をいじめた相手に【怒り】を覚えることなく、逆に妹を救えなかった自分を責める。その自責の念から逃れるために「私は可愛いから生き残った」と思い込み、見た目を何より重視するようになる。それから、自分を着飾ったり、自分の子供が不細工に生まれて虐待やいじめを受けないように、顔のいい男性を結婚相手として求めるようになっていた。

そしてシナリオ当日、『少女』はいつものごとく街に逆ナンに出かけ、探索者たちと別れた後、気まぐれに人間界に遊びに来たニャルラトテップに一目ぼれする。『少女』は人ごみの少ない路地に入ったところで彼に近づき、告白した。すると、ニャルラトテップは「まさか人間の小娘に告白されるとは思わなかった」と笑い、『少女』に怪物の姿を見せる。もちろんSANチェックが発生し、『少女』は不定の狂気で記憶喪失に。少女がそれなりに気に入ったニャルラトテップは「その愛をたしかめて見せろ」と宣言し、『少女』を異空間に閉じ込める。近くにいた探索者たちは、それに巻き込まれてしまった。

異空間は、『少女』に憑りついていた妹の亡霊がニャルラトテップの力を借りて創り出したもの。『少女』と妹の記憶を元に創られており、『少女』が自分の過去、そして現在と向き合うことを願って創られた。(SANチェックポイントがあったり少女を傷つけてしまう可能性のあるギミックがあるのは、ニャルラトテップの趣味に抗えなかったためだろう)
各部屋の簡単な解説
北の部屋:食事を与えてもらえなかった妹と、父からの性的虐待を受けていた『少女』の記憶。
東の部屋:妹の死を見た目のせいにし、自らを着飾ることで不安をごまかした記憶。
南の部屋:いじめられ図書室に引きこもっていた妹の記憶と、その妹の自殺を目撃した『少女』の記憶。
西の部屋:寂しさを埋めるように顔のいい男を求め続けた記憶。

12 補足

・このシナリオは予告なく加筆・修正する場合があります。誤字脱字の修正や細かい描写の変更等で大幅な改変をする予定はありませんが、ご了承ください。セッションの際には必ずしも最新のものを使用する必要はありません。
・シナリオの使用、改変、リプレイ動画等、ご自由にどうぞ。報告も必要ありません。クレジットだけしていただけると幸いです。
・ご意見、ご感想等あればコメント欄まで。

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