ここは、クトゥルフ神話TRPGのオンラインセッションに関する各種情報がまとめられているWikiです。

季節外れの雪が降るとき

また,悲しみがひらりと落ちていく



作者彼方
ver 1.00

はじめに

このシナリオは"クトゥルフ神話TRPG"に対応したシナリオである。
探索者の人数は3~4人を想定している。
探索者は日本から旅行でカナダのケベックシティに向かうことになる。
もちろん,ケベックシティの住人や,別の場所に住んでいる探索者にすることもできる。その場合は情報をキーパーが調整する必要があるかもしれない。
プレイヤーには,現地で会話するために,ほかの言語(フランス語),またはほかの言語(英語)を取得することを推奨することを伝えた方がいいだろう。


シナリオの背景

カナダ・ケベック州北部にあるヒューロン族は,昔から旧支配者であるウェンディゴ(イタクァ)に対し生贄を捧げる風習を持っていた。
5年から10年に一度,AF「ウェンディゴからの宝石」が輝くとき,その持ち主が生贄に捧げられる,というものである。
現代において,ヒューロン族のほとんどはキリスト教に改宗してしまっているが,生贄に捧げる文化だけは残り,言い伝えを知るシャーマンのもとで小規模に行われていた。
この生贄はウェンディゴにより選ばれるとされており,儀式が行われた直後,新しい生贄の枕元に「ウェンディゴからの宝石」が置かれるのである。
これまで生贄は,ヒューロン族の中から選ばれていた。しかし,そこにある「変化」が生じる。


先代の生贄であった「マリー・ニアジェット」は,NPCである「青葉さき」の友人であった。彼女が生贄に選ばれたとき,マリーはまだ幼かったため,儀式の内容などを父親が伝えるはずであった。しかし,生贄になってほしくないと思った父親のフランソワが伝えなかったため,マリーは儀式のことを知らなかった。
本来儀式を行う日,マリーがモンモランシーの滝公園で友達と遊んでいたところ,ウェンディゴの怒りにより吹雪に襲われた。4人の中学生が死亡し,それは「モンモランシーの悲劇」と呼ばれるようになった。
この事件に,NPCである「青葉さき」も巻き込まれていた。彼女はマリー含めた5人と遊んでいたところ,ウェンディゴによる吹雪が襲われた。
彼女が目を覚ましたとき,友人たちはすでに無残な状態になっていた。そして,彼女の手には「ウェンディゴからの宝石」が握られていた。彼女が次の生贄に選ばれてしまったのだ。

その後,さきはシャーマンである「アローセン・アタティス」から,彼女がウェンディゴの生贄にならなければならないことを告げられた。
「モンモランシーの悲劇」で唯一の生存者であることに彼女は負い目を感じていたためか,あるいは二度と吹雪を起こしたくないと思ったためか,彼女は了承した。
それが10/6,すなわち旅行の4日目朝であった。
彼女は思い出づくりも兼ねて,探索者たちを旅行に誘ったのであった。すべてを知った上でどうするかは,探索者に委ねられている。

NPC

青葉 さき大学生(年齢は好きに決めてよい)
人類学・民俗学を専攻している大学生で,とくに宗教学に詳しい。
その理由は中学時代に遭った事件が理由になっている。中学時代,友人と遊んでいたとくに,ウェンディゴによる吹雪に巻き込まれ,さらに,将来生贄になることが定められている。
そのため,彼女は宗教に興味を持ち,どのような神格なのかを調べていた。
カナダからの帰国子女で,中学時代ずっと,ケベックシティの現地校に通っていた。
明るい性格と誰とでも仲良くなれる。

STR11 DEX8 INT16 CON12 APP14 POW11 SIZ10
SAN 48 MP11 HP11
フランス語:80%, 英語:60%
目星:50% 聞き耳:50%
図書館:60%
その他の技能がキーパーが自由に決定してもよい。

アローセン・アタティス
ヒューロン族のシャーマンの女性であり,ウェンディゴのことを知っている人物でもある。
彼女はキリスト教に改宗してしまった多くのヒューロン族とは違い,言い伝えられた伝統を守っている。
生贄の儀式についても,彼女は先代から伝えられた方法や文献などを通じて,本人が納得のいくように説明を心掛けている。
ただし,アローセンも生贄の風習には心を痛めている。

フランソワ・ニアジェット
パニックになっている男性であり,マリーの父親である。
さきとも親交がある。ヒューロン族ではあるものの,白人の世界で生活をしていた。
娘であるマリーが生贄の対象になったとき,彼はそれを拒否し,真実をマリーに伝えることをしなかった。
そのため,彼はモンモランシーの悲劇を自分が起こしてしまったのだと後悔をしている。
また,ほかに犠牲者を増やさず,ウェンディゴを退散する方法を探している。
しかし,彼が見つけたのは,退散の際に正気を失う可能性が在る呪文のみであった。

アーティファクト:ウェンディゴの宝石
これはさきが持っているネックレスであり,次の生贄の印である。
生贄の日が近づくと光るようになっている。
このアーティファクトは,ウェンディゴが力を行使できる範囲で,生贄を守る役割を果たしている。
ただしシナリオ上では,シナリオ終盤で出てくるクマから狙われないこと以外の効果は持たない。



導入:日本でのお誘い

7月,暑さ真っ只中の時期。歩く足がいつも以上に速くなり,建物の中に入ると一息つく。そんなことが繰り返しおこなわれているような時期。
探索者たちは大学の近くにある喫茶店に集まっていた。全員の友人である「青葉さき」に呼ばれたためだ。彼女は常に青い宝石のネックレスをつけている。
探索者が中に入ると,さきは「こっちだよ」と手を振る。机の上には,「カナダ」そして,「モントリオール・ケベック」と書いてあるパンフレットが置いてあった。
「みんなでカナダに行こうよ!」雑談がひと段落したところで,あるいは探索者がパンフレットについて尋ねたところで,彼女が明るくしゃべり出す。
ここで<アイデア>ロールに成功すれば,彼女が中学時代,カナダで過ごしていた帰国子女であるといわれたことを思い出す。
彼女にそれを訪ねた場合,嬉々として「うん!ケベックシティが私が中学時代を過ごした場所なんだ!」と答える。<アイデア>ロールに全員が失敗した場合,彼女はどこかでそのことを自分で告げる。

時期は10月初旬,雪がちらつくかもしれない季節ということだ。期間としては,10/3~10/9の,5泊6日になりそうだ,と伝えてくれる。
「綺麗な時期だし,みんなを案内したいんだ!」さきはそう述べる。
その言葉に嘘偽りはない。彼女は最期に,探索者を楽しい時間を過ごしたいと思っているのだ。この誘いに断る探索者はいないだろう。

3ヶ月の間で,探索者は自由に準備をすることができる。ただしもちろん,持ち込めるものは飛行機の中に入れられるもののみである。

飛行機の中で:10/3

大きな衝撃がしたので目を開けると,無機質な灰色のプラスチックが見えた。
背もたれを動かさずに寝たからか,体の節々がなまっているように感じる。
ふと窓を見てみれば,白い雪が舞っているるのがわかるだろう。
暖かい飛行機の中でも,それを見るとわずかに寒気を感じ,毛布をかぶりたくなってしまう。

「ひさしぶりだなー」とさきは感嘆の声をあげる。
彼女にとっては第二の故郷であり,単に旅行に来ただけである探索者に比べれば,その感動はひとしおといったところであろう。
飛行機を出ると,冷たい風は一瞬,一気に襲ってくる。しかしそれは,すぐに暖房の暖かい空気で覆われる。
寒い地域は室内をこれでもかというほど温めるので,建物の中は比較的暖かい。人によっては半そでで室内を歩く人もいるそうだ。
探索者,そしてさきは入国手続きを進める。カナダは入国審査の電子化が進んでおり,そこまで時間がかかることなく,それを終えることができる。
全員が入国手続きを追え荷物を受け取ったとき,探索者は全員<アイデア>ロールを行う。成功すれば,さきの荷物が探索者に比べ少ないように見えるだろう。
彼女にそれを指摘すると「困ったら現地で買おうかな,って思って。ほら,防寒具とかそのほうがいいでしょ」と言って笑う。
これは間違ってはいないが真実でもない。彼女は生涯をここで終えることを考えているため,余計なものを……巫女服以外……持ってこなかったのである。

全員はタクシーに乗って空港から宿に向かう。
もうあたりはすっかり暗くなっているため,探索者たちの観光は翌日からになる。
街灯にときどき雪がちらつくのが見える。
それは非常に幻想的でもあり,不気味でもある。
さきは窓の外を,物憂げな表情で見ているかもしれない。しかし,探索者がそれに気がつくと,すぐに笑顔を作って微笑んだ。

ホテルに着けば,さきが先陣を切ってチェックインを行ってくれる。
彼女は流暢なフランス語で,ホテルマンとてきぱきと会話する(<フランス語>を持っている探索者であれば内容はわかるが,特にここの内容に違和感はない)。
探索者は全員で1つの部屋に泊まる。
アパートメントを改装したような作りになっており,クィーンサイズのベッドが2台と,シングルサイズの2段ベッドがある。
また,アパートメントの名残かキッチンまで備えている。ただし,風呂は海外によくある,シャワーと一体になっているものだ。
探索者が4人いる場合は,誰かがクィーンサイズのベッドでともに寝ることになる。
キーパーが気になるようであれば,もう1台,シングルベッドを生やしていい(実際にそういう宿もある)。
これで4万円を切るのだから十分であろう。
そのあたりのやり取りが終われば,飛行機の疲れもあり,探索者含め全員が就寝するだろう。

奇妙な夢 その1

就寝時,探索者たちは奇妙な夢を見る。
探索者は雪の中にいる。あたりは吹雪いており,どこが正面なのかがわからなくなる。ところどころでわずかに木が揺れるのがわかるくらいだ。
そんなところを,探索者は俯瞰するかのように見ている。
寒さも風も,実際にはあるはずなのに感じない。まるで,誰かの世界の中に迷い込んだみたいだ。
しばらくそこにいると,突然,男女の悲鳴が聞こえた。身体が自然とそちらに動く。まるで浮いているように,身体は軽快に進む。
そこで見えたのは,無残に切り刻まれた遺体が3人分と人間の腕を抱えて泣いている少女であった。
その光景を見た途端,あなた方の景色はアナログ景色のスノーノイズのように変化する。その直後,探索者は目を覚ました。
夢の中とはいえ,悲惨な光景を目撃した探索者は正気度ポイントを 0/1 喪失する。

ケベック観光 1. 10/4

目が覚め,外を見れば,あたりは少し明るかった。
時刻は7時半といったところだ。
あなた方は,自分たちの知らない場所に着いたのだということを改めて実感することだろう。
何人かの探索者は,時差ぼけに陥っているかもしれない。
もし夢の話を探索者の間でするのであれば,さきは不思議な顔をするかもしれない。彼女自身は夢を見ていないのだ。

そこそこに支度をし,防寒対策だけはしっかりとして,外のカフェで朝食を食べる。
さきが案内してきたところは有名なカフェらしい。
最も売れている,クロワッサンにチーズを挟んだシンプルなものに,フルーツとコーヒーがついたものを頼むと,非常においしい。
日本で食べるものとは大違いだ (作者注 カナダのフランス語圏はパンがおいしいらしいです。さらに余談ですがモントリオールのベーグルはとっても美味しいです)。
全員が食べ終わると,さきが観光に行く場所についていくつか提案をする。
彼女はいくつかの場所を提案する。ここはプレイヤーの好みによって好きなところを1箇所選択するといい。

セントローレンス川のフェリー

セントローレンス川はケベックシティの東を流れる川である。
オンタリオ湖からきており,アメリカとの国境も形成している。
ケベックシティは河口に近いところにある。
この川を横断するフェリーがケベックシティにはある。
往復で7ドルと非常に安い。
船から見える川の景色,そしてケベックシティの景色は格別だ。
シャトーフロントナックがきれいに見える。
「ここは冬に来ると楽しいんだよ。フェリーが流氷を割って進むんだ」とさきは教えてくれる。
フェリーの中にある写真に,そのようなものがあるのがわかるだろう。

プチ・シャンプラン通り,フニキュレール

プチ・シャンプラン通りはケベックシティでも一,二を争う綺麗な通りだ。
歴史地区として世界遺産に登録され,小さなブティックやギャラリーが並ぶ。
また,カフェやレストランもある。お土産屋もかなりあり,どれを買うか迷ってしまうだろう。
ウサギ肉が名物の店もある。
足元は石畳になっており,それがさらに町の雰囲気を醸し出す。
また,建物の壁に絵が描かれている場所もある。
それもまた,非常に美しい。ほかの観光客も,壁画の写真を撮っているのがわかる。

また,プチ・シャンプラン通りの出口には,メープルシロップ限定のお店がある。
そこではメープル・タフィが売られている。
メープルシロップを氷で冷やして,棒に巻いたものだ。
非常に甘いが,冷たくて美味しい。
ただし,途中で飽きる。

ノートルダム大聖堂

ノートルダム大聖堂はカナダ,北米には珍しいカトリックの協会だ。
1647年にできた古い教会であるが,2度の火災み見舞われ,現在の建造物は1843年に完成した。カナダの中でも非常に古い協会である。
もともとケベックはフランスの移民が作った都市であることに由来される。
中はたくさんの装飾で彩られている。
観光客が,お金を払ってろうそくを立てているのを見ることがあるかもしれない。
キリストや聖母マリアの肖像画なども置いてある。外国の雰囲気を十二分に味わうことができるだろう。

戦場公園

戦場公園はケベックシティの南に位置している。
戦場公園,の名の通り,そこには要塞があり,2019年現在でも使われている。
軍でも使われるほど眺めがよく,頂上から見るセントローレンス川は壮観であろう。
また,ここには軍事博物館もあり,一般公開されている部分もある。フレンチ・インディアン戦争についてや,当時使われた大砲などについて展示されている。

オールドポートマーケット(ファーマーズマーケット)

ここはいわゆるファーマーズマーケットで,農家や漁師が自分たちで店を出しているところだ。
旬のものがとても安く,また量も多い。
たとえば,カゴ一杯のリンゴが5ドルだったり,10キロのジャガイモが10ドルだったりする。お土産だったり,ホテルで食べるために,量が少ないものもある。
さらに,生パスタを売っている店などもあり,地元の住人にも使われていることがわかる。
そのほかにも,メープルシロップやメープルに関するものを売っているお店や,アイスワインをうっているお店,ドライフルーツを売っている店などもある。
お土産を買うにはうってつけだ。

シャトーフロントナック

探索者は観光の際,シャトーフロントナックの前を通るかもしれない。
アッパータウン,山の頂上にあるホテルで,まるでお城みたいな印象を受ける。
「とっても古い高級ホテルなんだよ」とさきは説明してくれる。
ロビーまでは中には入れる。きらびやかな絨毯と広がる異界の空気は,探索者が海外に旅行に来たと感じるには十分であろう。

勝利のノートルダム教会

どこに行くにしても,探索者は勝利のノートルダム教会の近くを通る。
船が吊るしてある教会だと,さきは探索者たちに伝えるだろう。
探索者が近くを通ったときに,立て看板があるのを探索者は見つける。キーパーはここで〈フランス語〉のロールを求めてもいい。
そこには「追悼式典のため封鎖します。10/6」と書いてある。明後日の日付だ。
そしてその下にはフランス語で "Nous n'oublierons" 「私たちは忘れない」と書いてあるのがわかる。
詳細はこの張り紙に書いてはいないようだ。さきに訪ねれば「なんか事件でもあったのかな」としか答えない。
キーパーが望むのであれば〈心理学〉のロールに成功することで,なにかを隠しているような気がすると伝えてもよい。

ケベック観光 2. モンモランシーの滝

午後は,さきの提案でモンモランシーの滝に行くことになった。
このことは,あらかじめ午前中の段階で伝えてしまってもよい。
みなさんは800番のバスに乗る。モンモランシーの滝はバスで40分ほど揺られた終点にある。
旧市街の風景ともビジネス街の風景とも違う,簡素な住宅街の風景は探索者を引き付ける。
写真をとる探索者もいるかもしれない。
地元の人にも使われているようで,バスのドアは何度も開閉している。
探索者と同じような観光客もいる。
彼らは英語でしゃべっているが,特に実のある話をしているわけではない。
ただしキーパーが望めば,ここで7年にあった事件についてしゃべっていても良い。

バスを降りると,途端に冷たい風が吹き込んでくる。
バス停の目の前にはマクドナルドとガソリンスタンドがある。
フェンスの奥に道になっているところがあり,おそらくここが公園の入口だ。
さきの案内で中に入り,橋を渡る。すると,とても大きな滝が見えてくる。
探索者は驚くだろう。とても大きな滝が一面に広がっているのである。

それは,高さ80メートルを超えていて,つり橋から下を見ると恐怖を十分に感じられる。テレビでしか見たことがない光景だ。
ゴンドラを使って下に降りれば,滝の全長を見ることができる。
高さ80メートルを超えるそれは,日本の滝しか見たことない探索者を驚かせるには十分だ。
滝の近くに行くと,探索者は霧のシャワーを浴びることになる。
防水の服を着ていなければ,服をじんわりと湿らせる。
これはナイアガラの滝より大きいんだよ,とさきは探索者に説明する。
さらに,ここはフレンチ・インディアン戦争で舞台になった,といったケベックの歴史にまつわることも話してくれる。
楽しい時間となることだろう。

帰りのゴンドラに乗る際,「Tragédie de Montmorency (モンモランシーの悲劇)」と書いてある立て看板を見つける。
フランス語あるいは英語を母国語としていない場合,どちらかの言語のダイスロールに成功をする必要があることにしてもよい。
全員が失敗した場合,さきが訳してあなた方に伝えてくれる。

プレイヤー資料 1. Tragédie de Montmorency

10月7日,午前10時,モンモランシーの滝公園を突然吹雪が襲った。
それは季節外れであり,気象庁も予想できていなかった。
公園で遊んでいた中学生5人が巻き込まれ,4人が死亡した。
未だに,事故の原因は不明となっている。

公園を満喫して帰れば,あたりはすでに暗くなっている。
夕食をとったあとは自由時間だが,あまり外に出歩かないほうがいいだろう。
キーパーが望めば,夕食の描写をして自由に会話を行わせるといい。
2日目にこれ以上現れる情報はない。

奇妙な夢その2

2日目の夜も,探索者は同じ夢を見る。しかし,違うことがいくつかあった。
その夢の場所に見覚えがあったのだ。
それは今日の午後に行った,モンモランシーの滝であった。
少し遠くをみれば,凍っている滝と,その横で崩れているつり橋を見ることができる。
それがなにだかわかった途端に,またあたりが真っ白になる。
夢は,何度もあの悲惨な光景を繰り返す。
そして,夢の最後で,また少女が泣いている。
その姿は,改めてみると日本人のように見えた。
探索者は正気度ポイントを 0/1d3 喪失する。

ケベック観光 3. 10/5

翌日,朝食を食べていると,さきは「ごめん,今日の午後は中学時代の知り合いに合わないといけなくて。悪いけど,みんなで観光をしててくれない?」と尋ねる。
中学時代の友人や先生と,水入らずで話したいのだ,という。ここで彼女を引き留めたり,ついていきたいと探索者が言った場合,さきはせっかくだから前の友人だけで会いたい,と言って引かない構えを見せる。
それでも,午前中は自由だ。探索者たちを自由に観光させるとよい。
候補は2日目の午前中と同じだ。一通り観光が終わったあとに,イベント「知り合いの男性」を発生させること。

もし探索者がついていくと言って引かない場合

プレイヤーは,ここでさきを1人で行かせようとしないかもしれない。
もしここでプレイヤーが,さきが危険な目に遭うかもしれないと考えているのであれば,そんなことは起こらないと明確に伝えてしまうのがいいだろう。ここで深読みされることは,キーパーにとっても特ではない。

それでも,探索者が彼女についていきたいという場合,さきが折れるだけの十分な理由があれば,素直についてきてもらうのがいいだろう。
その場合,さきが本当に,旧友に会うことにするのがいいだろう。ヴェロニック・アルディはさきの中学時代の友人であり,いろいろと昔話を探索者にもしてくれるだろう。また,近所のおばさんという体で,アローセンのところに向かうのもいい。探索者がいるあいだは,儀式のことを話すことはないが,電話番号の交換はするかもしれない。儀式についての相談を電話で行うためだ。

こっそりさきの後をついていく場合は,探索者は悲惨な目にあうかもしれない。,もっとも優しい方法は,どこかでさきに尾行に気がつかせることだ。
そうであれば,さきはアローセンに探索者を客だと説明することができるだろう。
もしこっそり尾行を続け,アローセンとさきの話を盗み聞きしようとした場合,探索者は背後からショットガンを向けられる(向けた人物はフランソワでもそれ以外の人物でもいい)。
その探索者はアローセンの家に軟禁されてしまう。その場合,プレイヤーは新しい探索者を用意しても良いだろう(ただし,すべてが終われば軟禁されている探索者も開放される)。

フランソワ・ニアジェット

観光が終わりひと段落したところで,探索者は<聞き耳>のロールを行う。
成功した探索者は,遠くで男性が叫んでいるのがわかる。

そちらに向かうと,男性が1人で,錯乱しているかのように叫んでいる。
「ああ,マリー,マリーよ。またこの日がきてしまった。
 あれから,僕がどれだけ後悔していたことか。
 どうして,僕は君に真実を告げなかったんだ。
 ああ,こんなに弱い僕を許してくれ。神よ……
 いや,僕はどの神にいのればいいんだ……」
周りの人間は,危険な人物だと思い近づこうともしない。

しかしそんな中,さきが「フランソワ!」と声をかける。呼ばれた男性は彼女のほうを振り向く。
「なにをしているの,そんなことをしたってマリーは帰ってこないわよ」
さきがそのようなことを言っているのが,フランス語がわかる探索者であれは理解できる。
「さき……?」呆然とした顔で,男性は彼女を見る。
次の瞬間,さきはフランソワにもとに駆け寄り,抱きつく。
それは,まるで親子のやりとりのようにも見える。
探索者が2人のもとに駆け寄ると,2人は離れる。
そしてフランソワに探索者を紹介するだろう。「私の日本での友達なの!」と彼女は自慢気に話す。
探索者には「私の友達のお父さんなの」と紹介する。彼は英語でみなさんに挨拶をし,取り乱して申し訳ない,とみなさんに謝る。フランス語がわかる探索者がいると勉強してますね,と彼は関心するかもしれない。マリーが誰なのかと探索者が尋ねた場合,フランソワは「私の娘です。明日が彼女の命日でして……」と答える。さきは,「あとで,アローセンに会いに行くから,またね」と行って,みなさんと一緒に彼と別れた。
その後,昼食を済ませれば,また,夜ね,とさきはいい,走り去ってしまう。

奇妙な噂

彼女を見送ったところで,探索者は全員<聞き耳>の判定ロールを行う。
成功すれば,近くで昼食を取っている夫婦が話しているのが聞こえてくる。
「明日だっけか,セレモニー」
「ええ,確か生き残りの日本人も来るはずよ」
「名前はなんだったっけな」
「さ……サリー?日本人の名前はわかりにくいわ」
「そういえば,いま州議事堂で,モンモランシーの悲劇についての展示をやっているんだっけか」
「一度,改めて行ってみてもいいかもしれないわね」
「そうだな,明日は式典だしな」
「あら,行くの?」
「テレビで見るさ」

探索者はスマホで事件のことを調べるかもしれない。
しかし,なかなか一次ソースに出会うことができない(ハンドアウト1以上の情報を手に入れることができない)。
これ以上調べたければ,州議事堂に行く必要が出てくるだろう。
ただしキーパーが望めば,州議事堂で手に入る情報を早めに出し,残りを観光の時間にあてがっても構わない。

州議事堂で事故について調べる

ケベックシティの旧市街を出てすぐの場所にに州議事堂はある。議会の他に展示スペースがあり,資料や写真などが残っている。その一部には,犠牲者の名前と写真が書かれたボードがあった。
写真には,モンモランシーの滝,探索者が見かけた光景が写っている。異なるのは,雪が広がっているという点だ。とても10月の光景とは思えない。その雪は丸一日,血とともに残ったようで,悲惨な光景を描いている。<博物学>のロールに成功すれば,こんなに局所的に雪が降るのはおかしい,と考えるかもしれない。
さらに,探索者は<目星>の技能ロールを行う。成功した探索者は,あたりの木がなぎ倒されているのを見つける。これは雪の重みではなさそうだ。何かしら嵐みたいなものが起こったかのように見えることだろう。
別のパネルには,犠牲者の名前と顔写真が書かれている。そこには,やはり,さきの名前と写真があった。
死亡
1. ジャック・ピアソン
2. アン・ローランド
3. マリー・ニアジェット
4. ロイ・ピーターソン
重体
5. サキ・アオバ
パネルを見て,<アイデア>ロールに成功すれば,マリーと,お昼に会った男性の顔が似ていると探索者は考える。
マリーとフランソワが親子であることに,ここで気がつく探索者もいるかもしれない。


奇妙な夢 その3.

その夜,探索者たちは先に,なんで黙っていたのかと追求をするかもしれない。
それに対しさきはお菓子を頬張りながら「ごめん,言い忘れてた」と謝る。
この旅行と式典が偶然かと聞かれたら,偶然だと答える。その言葉に嘘はない。
人身供養になる日付が決まってから,この式典に呼ばれることは決まったのだ。
楽しい旅行の中でも暗い話題だし,あまり話したくなかったから忘れていた,と彼女はバツの悪そうな顔をする。
式典に来ると探索者が言うのであれば,いいよ,と彼女は答える
(シナリオでは式典に出席することを想定している。ただし,行かずに自由に観光したところで,逃す情報はさほど少なくない)。
一通り話せば,その日も就寝の時間となる。

そしてその日の夜も,探索者は夢を見るのである。
吹雪で荒れるなか,遠くから少女の泣き声が聞こえる。
しかし,その声はすぐに吹雪でかき消される。
改めて空を見ていると,そこまで暗くない。
もしかしたら,時刻は昼に近いのかもしれない。
悲鳴のもとに三度たどり着く。
そこで,探索者は2つのことに気がつく。
1つは,泣いているのが「青葉さき」である,ということだ。
まだ顔には幼さを見せてるが,現在の彼女の雰囲気となにも変わらない。
彼女は泣きながら「どうして……」とつぶやき,そして気を喪失するのを目撃する。
しかしそれ以上に,探索者は気になるものを見かけた。
それは暗い影であり,巨人のようななにかであった。

夢を見た探索者は,正気度ポイントを1/1d3 喪失する。

追悼式典 10/6

追悼式典は午前10時から,勝利のノートルダム教会前の広場で行われる。
えらい人用のパイプ椅子がいくつも並び,一般参列者はその後ろに立つ形になっている。
周りでは,ボランティアの人が参列者のためにカイロを配っている。
さきは探索者と別れると,席の一番前に座る。

式典は,1分間の黙祷からはじまった。
静かな,風の音しか聞こえない時間が続く。
このとき,〈聞き耳〉のロールに成功すると,風を通じて,獣の咆哮のようなものをきく。
それはまるで,クマが,タカが,あるいはおとぎ話の怪獣が,獲物を求めて叫んでいるかのようであった。
成功した探索者は正気度ポイントを 0/1 喪失する。

司会の合図で全員が目を開き,本格的に式典は始まる。
カナダ首相の演説から始まり,ケベック市長へと続く。
ふたりとも,まずはフランス語で,そのあと英語で同じ内容を話す。
どちらかの言語を理解できる探索者であれば,内容は容易に理解できるだろう。
政治家は皆,悲劇を嘆き,救助を行った人々に感謝をいい,このようなことが起こらないように環境整備を進めることを誓う。
この表面上の友好ムードは,土地柄も関係しているのかもしれない。

そして,さきが話す時間になる。彼女は一瞬緊張した顔を見せるが,探索者を見るとそれが解けたようで少し微笑む。
その後,緊張が解けた,しかし鋭い面持ちで聴衆を見る。
そして,フランス語で,ゆっくりと話し始める。
その言葉は,ひとつひとつが重く,悲しく,それでも,前を向くための強い意志を示しているようであった。
探索者は,彼女のこんな姿を初めて見るかもしれない。
それほど,堂々としていて,凛々しいと感じることだろう。

「私は,私の友人を亡くした出来事を,忘れることはできないでしょう」
「しかし,前に進むことは,できるはずです」
「彼らが望んでいた,幸せな世界へ,今後,なっていくことを願いします」
そう,彼女は締めくくるだろう。

スピーチを聞いた探索者は,2回<アイデア>ロールを行う。
1度目に成功した探索者は,今回のスピーチが遺書のように聞こえる。
2回目の<アイデア>に失敗した場合は,遺書のようなスピーチを行った偉人を参考にしたのではないかと考えるが,成功した探索者はそれとも違うように感じる。

その後,追悼式典は粛々と進められ,正午になるころには終わり,人がばらけていく。
さきは様々な人と話している。その中にはアローセンも含まれている。
探索者を確認すると,二言ほど彼女らに述べたあと,探索者のもとに駆け寄る。
彼女は,どうだった,と感想を求めるかもしれない。
そしてしばらく話したあと,彼女は
「ごめん,この後まだちょっといろいろあるんだ。これもらったから,行ってくれば?」
といい,彼女は文明博物館の無料チケットを渡す。
「面白い場所だよ」と彼女は勧めてくれる。
そしてそのあと,彼女は「今日は早めにホテルに帰ってきてね」とみなさんにお願いをする。
料理を振る舞うためだ。

文明博物館

文明博物館は,ケベックシティのLower Townにある施設である。
外観がガラス張りで,ユニークな形をしている。
屋上……と言っても3階に位置するような場所にある……が,そこは簡単なガーテンになっており,蔦と椅子が置いてある。
中でチケットを見せば,受付の女性が切って,半券を渡してくれる。

博物館の中では,ケベックの文化や歴史が,生活用品などを通じて展示されている。
それは,カナダの先住民族のものから,植民地時代の戦争,その後の時代の,ケベックで独自に発展した芸術など,幅広く展示がある。
その中でも有名なのは木造船だ。
これは北米最古と推定されているものであり,探索者以外にも,何人のも人がそれの写真を撮っていた。

探索者は,木造船とは別の部屋にあった,先住民族の絵画が気になるだろう。
雪の中,何人もの人が,祈りを捧げている。
祈りをささげている先には,大きな怪物のようなものが描かれている。
祈りをささげている人々と,怪物の間に,なにか先陣を切っている人物がいる。
<人類学>に成功すれば,これが生贄を伴う儀式を行っているところを描いた絵画であることがわかる。
<クトゥルフ神話>技能に成功した探索者であれば,その儀式は何らかの神を人々が追い払っていることがわかる。

探索者は,その絵を見ている男性を見みつける。
見覚えがある,フランソワだ。
彼は,なにか祈るように,その絵画を見つめている。
探索者が話しかければ,彼は探索者を見る。
話しかけようとしなければ,彼のほうから探索者のほうに気がつき,話しかけるだろう。
何をしているかと聞かれたら,彼は「昔のことを思い出すんだ」と答える。
そして,少し迷うようなそぶりをするが,「もし時間があれば,少しカフェで話さないか」と探索者に提案する。
もし,プレイヤーが疑うようなそぶりをするのであれば「さきはどうせ話していないんだろう」と,探索者が持っていない情報をちらつかせるといい。

カフェにて

探索者は Tim Hortons というコーヒーチェーン(正確にはドーナツチェーン)に入る。
フランソワは「全員,コーヒーは飲めるか? 俺がおごるよ」と声をかける。そして,店員に全員分のコーヒーを「double doubleで」と注文する。
フランソワが運んでくれたそれを一口飲むと,全員で共通した感想が出るだろう。
甘い。あまりにも,甘いのである。
薄いコーヒーに入れられた,2倍の砂糖とクリーム。もちろん,その量もカナディアンサイズである。
そんな感想を聞くと,フランソワは笑う。「これがカナダのナショナルコーヒーさ!」と自慢げに話す
。これも,カナダのアイデンティティなのかもしれない。
ちなみに,ドーナツを頼むのであれば,これも甘い。日本で言うクリスピークリームと同じくらいに。

探索者が本題に入ることを求めれば,彼の顔はすぐに険しくなる。
「君たちは,あの絵画を見てどう思った?」フランソワは探索者にそう尋ねる。
そして,「あれは本当にあったと思うか?」といい,探索者の目を見る。
その返答は,探索者が過去にクトゥルフ神話に関わったかどうかにもよるかもしれない。いずれにせよ,彼はこう続ける。
「実はぼくは原住民の血族でね。
 ほとんど白人と同じ生活をずっとしているけどね。
 昔も。今でも。でも,血族であることには変わらない」そして,彼は本題に入る。

「ヒューロン族の一部しか,今ではわかっていない。
 だいたいの仲間がキリスト教に改宗してしまったからだ。
 そして,昔からある自然の恐怖を,皆忘れてしまった。かく言う僕もそうだった。

 10年近く前のことだ,僕の娘であるマリーの枕元に,なぜか突然青い宝石のついたネックレスが置いてあったんだ。
 そしたらしばらくして,僕のもとにシャーマンのアローセンが現れたんだ。
 そして言われたんだ。僕の娘は生贄にならないといけない,とね。

 そのシャーマンの人は親切に,やさしく,きちんと説明してくれた。
 少なくとも,僕の気持ちが「信じられない」から「信じたくない」になるくらいにはね……そう,僕は信じたくなかった。
 僕がそれを信じるにはまだ若く,マリーに直接伝えるには,彼女は幼すぎた。
 だから,僕には伝えることができなかった」

「その結果が,あのモンモランシーの悲劇だ。
 僕は娘を失っただけではなく,あの子の友人の命まで亡くしてしまったのだ」

コーヒーは,すでに少し冷めはじめている。
彼は,悔しいような,悲しいような,そして申し訳ないような表情をしている。
ここで,探索者が気が付かなかった場合,<アイデア>のロールを行わせよう。
成功した場合,さきが常に,青い宝石がついているネックレスをしていることを思い出す。
そのことを指摘すると,フランソワはうなずく。

「そうだ,次の生贄に選ばれたのは彼女だ」

この発言に対し,探索者はさまざまな質問をフランソワに投げかけるだろう。
儀式のタイミングがいつになるのかは,フランソワは知らない。
アローセンなら知っているかもしれないと彼は言うかもしれないが,現状,探索者が彼女にアプローチをかける術はないと考えられる。
どのような儀式なのかについても,彼自身は多くのことを知るわけではない。
彼がそのことを知る前に,マリーの事故は起こってしまったからである。
そのほかにも様々な質問が来るかもしれないが,キーパーはフランソワが知っていると思われる範囲で答えて良い。
探索者がさきと一緒に来るように誘導できる範囲のものを,フランソワは知っていることにすると良い。
すべてを話し終えるとフランソワは
「たぶん,先はこのことをすでに知っているのだと思う。
 そして,たぶん覚悟もできているんだと思う。
 今の僕には,どう声をかけていいのかわからない。だから,みなさんが納得できる選択をしてくれ。まだ,時間があるなら」と語りかける。
それに対し,探索者はどう返答するだろうか。

とっておきの料理

フランソワとの話を終えた頃には,あたりはすでに暗くなり始めているだろう。
探索者がホテルに戻り,部屋の扉を開けると,肉とスパイスのいい香りが漂ってくる。
キッチンの奥まで行くと,さきがエプロンをしながら,鍋でスープを煮込んでいるところだった。
「あっ,おかえり!」と彼女は声をかけること。
何があったのかと尋ねれば,
「友達のお母さんに教えてもらったんだ!せっかくここキッチンあるし,と思って!」と答える。
もしあなた達が手伝う,といった場合,彼女はサラダの野菜を切ったり,お皿を並べたりするのを手伝ってくれ,と頼むかもしれない。

そうやってできた料理は,大きなミートパイと,えんどう豆でできたスープ,そしてサラダだった。
「教えてもらったレシピ通りに作ったから,口に合うかはわからないけど」
とさきが言う通り,最初は美味しく感じても,ミートパイはパサパサだし,豆のスープも飽きやすい味をしている。
さきは,飽きたらメープルシロップをかけるといいよと教えてくれる。
甘さにより,少しは食べやすくなるかもしれない。

探索者は生贄など,フランソワに聞いたことについて,ここでさきに話をするかもしれない。
探索者がそのことを知ったとさきがわかると「そっか……」と複雑な表情をする。
そのためにケベックに来たのかと尋ねれば,さきは「違うよ。みんなと一緒に行きたかったのは本当」と返す。
その言葉に偽りはない。
「まあ,いつになるかわからないけどさ,それまでは精一杯生きようと思って」そう,彼女は明るく声をだす。
ただし,<心理学>の技能ロールに成功すれば,空元気なのかもしれない,と思うことだろう。

奇妙な夢 その4

その晩も,探索者は夢を見る。それは,青葉さきの記憶,そのものだ。

男性2人,女性3人の5人が,滝の前で仲良くおしゃべりをしている。
そのうち2人はカップルのようで,仲睦まじそうにしているのを,他の3人が時折からかっている。
見ているほうがほっこりするような光景だ。ただし,この後のことを知っていなければ,の話である。

雪がいきなりふわりと落ちてくる。
降ってきた,と誰かが言う。
しかし,すぐに雪はふわりどころではなくなり,辺り一帯を急激に白く染める。
ものの数分で,10時間はかかるであろう量が積もる。
中学生たちは逃げられない,逃げられるはずもない。
身体の半分が埋まってしまっているのだ。
どうしようかと彼らが考えているさなか,突然,巨大な影があたりを支配する。

その影は,俯瞰視点で見ている探索者ですら覆っているように思えた。
叫び声が,あたりを支配する。
それは,子供の悲鳴だけではない。
獣の遠吠えのような,しかしそれよりも明らかに恐怖を駆り立てる声が,風を通じて探索者にも伝わってきた。
そして巨人は風になったかと思うと,3人を刺殺し,1人を連れ去った。
そのとき,さきに掴まれていた腕は,そのまま置き去りになってしまった。
そして,さきの眼前には,友人が付けていた,青色の宝石のついたネックレスが置いてあった。

探索者の視界はフェードアウトする。しかし,耳元では叫び声が鳴り止まない。
探索者は目を覚ましてしまうだろう。探索者は正気度ポイントを1/1d6喪失する。

夜明け前に 10/7

午前3時ごろ,探索者が寝ていると,ガサゴソ,という音がする。
<聞き耳>のロールに成功すれば,誰かが起きて準備をしているような音だとわかる。
目を開ければ,さきが暗い中着替えをしていることに気がつくことができる。
もし探索者が声をかければ「ごめん,起こしちゃった?」と謝る。
さらに,<目星>ロールに成功した探索者は,暗い中,彼女のカバンから見える紙に「遺書」と書いてあるのが見える。
この状況でプレイヤーが理解できていなかったら。<アイデア>ロールで今日が生贄の日なのではないか,ということに気がつかせるべきである。
それでも彼女をそのまま行かせるようであれば,翌朝彼女がいなくなり,そのまま何も気がつかず日本に帰ることになるだろう。

探索者がそのことを追求すれば,彼女ははぐらかそうとする
。しかし,技能がなくても彼女が慌てていることが,探索者にはわかるだろう。
隠し通せないと悟った彼女は「わかった。じゃあついてきてくれない?」と隠すことを諦め,すべてを告げる選択をする。
ここでそれを断る探索者がいたら,その人は怪異に巻き込まれることなく,日本に帰ることになるだろう。

彼女は巫女服にコートという格好で外に出る。
これは本来,部族の格好をして行くためで,日本人であるさきの場合はこの格好がいいのではないかとアローセンが提案したためである。
それ以上の意味はない。

アローセン・アタティス

皆さんは気温が10度を下回っている中,ケベックシティの郊外に向かう。
この時間帯はバスはなく,みなさんは一時間ほど歩いて郊外にある茶色の屋根の家に入る。
そこでは老年の女性が,民族服と思われるような衣装でさきのことを待っていた。
アローセンだ。

「いよいよか」彼女はフランス語でそう,さきに問いかける。
さきはうなずく。
そして,老婆は探索者をみて「客人よ,中に入ってください。今温かいものを出しますので」とあなたがたに挨拶をする。

みなさんが入ってしばらくすると,アローセンはみなさんにカナダ名物であるメープルティーを振る舞う。
「ヒューロン族のアローセン・アタティスという」と彼女は自己紹介をする。
そして「そなたらの友人にこのような運命を与えてしまい申し訳ない」とも言う。
彼女も,ヒューロン族のしたきりに一般人,しかも日本人を巻き込むのは申し訳ないと思っているのだ。

「ヒューロン族は先祖代々,雪の神,ウェンディゴを讃えていた……,畏れていた,というほうが正しいかもしれない。
 神に祈りを捧げることで,冬の間の安全を祈っていたのだ。
 これは本来ヒューロン族だけの風習であった。
 しかし,一族でも,もうほとんどの人が忘れてしまっている。悲しいことにな」
なぜ,さきが選ばれたのか,と尋ねると
「私もわからない。
 が,あの現場にいたことが理由であることは間違いないだろう」
と告げる。
ほかに方法がないのか,と尋ねても,彼女は首を横に振る。

「もし,貴方たちが彼女についていってくれるのであれば」
そう言うと,アローセンは探索者全員に2連式の12ゲージショットガンを渡す。自衛用だと彼女は言う。
「願わくば,みなさん,そしてさきに,良い旅路を」
そう彼女は言って,みなさんを送り出す。
その表情は,悲しげなものであるかもしれない。

探索者がアローセンの家を出ると,フランソワが道路から駆け寄ってくる。「良かった,間に合った」と彼は言いつつ,探索者だけと話をしたい,とさきに言う。すると彼女は「アローセンのところにいるね」と言ってその場を離れる。
「一応,これを君たちに伝えておきたい」そういい,フランソワは一枚のメモ帳を渡す。それはフランス語で書かれているものの,フランス語の発音とは程遠いものであった。
「さきが次の生贄になるとわかってから,なんとかそれを避ける方法がないかと,僕もずっと探していた。その中で,唯一見つけたのがこれなんだ。しかし,この呪文にはリスクも伴う。ウェンディゴに真正面から会わないといけない。チャンスは一回きりだ。探索者が死ぬリスクを背負ってまで,使うべきものかといえば,僕はNon(いいえ)と答えると思う。でも,探索者は知っておくべきだと,僕が思った」と彼は告げる。ここで,ハンドアウト3: ウェンディゴの退散をプレイヤーに示すこと。

プレイヤー資料 2: ウェンディゴの退散

この呪文に参加するためには,コストとしてマジック・ポイントを1ポイント払う必要がある。
呪文を詠唱をするものは,対象のPOWを5で割った値のマジック・ポイントを支払うことで,5%の確率で神格を退散させることができる。
また,さらにマジック・ポイントを消費することで,1ポイントのコストにつき5%退散の確率を上昇させることができる(ただし100にはならず,99で止まる)。
この追加のマジック・ポイントは,呪文の詠唱者以外も支払うことができる。

「僕はアローセンの手伝いをしないといけないから,一緒には行けない。
 こちらでも儀式というか,お祈りをしないといけないらしいんだ。
 期日までに見つけられなかった僕を許してくれ」
フランソワはそういうと,彼はあなた方に頭を下げ,その場を去ることだろう。
「話は終わった?」さきがそう言って家から出てくる。
探索者は,儀式の場所まで向かうことになる。

自然の障害

探索者はケベックシティからさらに離れ,モンモランシーの滝よりも北に進む。
まだ冷たい風が,探索者の頬をかすめる。探索者は静かに歩いているだろうか。
それとも,なんとか会話を持たせようとしているであろうか。
風が,空気が冷たく感じるのは,外気温のせいだけではないかもしれない。

1時間ほど歩いたところで,家は全く見えなくなり,辺りには森が広がる。
森に足を踏み入れた途端,寒気が全身に突き刺さる感覚を覚える。
まるで何者か,人ではないものに見られている感覚だ。探索者は,神の領域に入ったと思うかもしれない。
そして,辺り一帯が突然猛吹雪になる。探索者は正気度ポイントを1/1d6喪失する。

先を進もうにも雪が探索者に押し寄せ,視界を遮る。
前に進むにも,雪の圧倒的な攻撃に耐えなければならない。
探索者は<CON*5>のロールを行い,失敗すると耐久力を1d3失う。

試練はそれだけではない。視界が危ない中歩いているなかで,探索者は<幸運>ロールを行う。
失敗した探索者は前が崖であることに気がつかず,足を踏み外して落下してしまう。
〈跳躍〉のロールを行い,失敗した場合は耐久力を1d4失う。
急激に積もった雪が,探索者を助けてくれたのである。

ある程度,時間がわからなくなるくらい歩いたところで,探索者の視界が急に晴れる。
雪は数センチ,歩くのには手こずる程度には積もったようだ。
「このあたりかな」とさきがつぶやく。しかしすぐ彼女の身体は凍りつく。

探索者がそちらを向くと,そこにはクマがいた。
その色は茶色というよりも黒く,体長も2メートルは優にある。
それは4本足でゆっくり,ゆっくりと探索者へ向かってくる。
遠くに見える足跡は,山に慣れていない人を恐怖に,山に慣れている人を絶望に貶めることだろう。
そしてクマは,探索者を獲物と勘違いして襲ってくるだろう!

クマ
基本ルルブp236を参照

ウェンディゴからの宝石を持っている限り,クマはさきにには攻撃してこない。
イタクァが自身の生贄を,自然の脅威から守るのである。

選択,そして

クマを退ければ,あたりには静寂が広がる。
この静寂は,なにが作っているのだろうか。
火薬の香りだろうか。それとも,これから予測すべきことに対し,憂鬱な気持ちを抱いているからだろうか。
「みんな,ありがとう」さきは,笑顔で探索者に別れを告げ,奥に向かおうとする。
気の利いたキーパーであれば,ここでそれぞれに別れの言葉を考えるかもしれない。

探索者が止めなければ彼女はそのまま進んでいく。
そしてあるところで,吹雪が探索者の,彼女の視界を盗む。
5秒もしない間に,その吹雪は消える。そのときにはすでに,彼女はいなくなっていた。
探索者は,友人の死に正気度をポイントを1/1d6喪失する。

しかし,探索者は彼女を止めるのであれば話は別だ。
探索者がフランソワにもらった呪文について説明するのであれば,彼女は足を止める。
「本当に……大丈夫なの?」と彼女は探索者に再度問いかける。
もし全員がうなずけば,彼女の覚悟は,死ぬことから別のものに切り替わる。
そして,彼女はペンダント,ウェンディゴの宝石を,前に投げ出す。

すると,突然,白い風があたりを覆う。
冷気が探索者を覆う。
雲が空をさらに覆っていく。
その雲は,巨人のようにも見えた……いやこれは本当に巨人なのかもしれない。
雲の上には,星のような光が2つ,探索者を見るように照らしているのだ。
その顔は,まるで怒りを感じているようにも見えた。
ウェンディゴ,またの名をイタクァと呼ばれるグレートオールドワンを見たものは,1d10/1d100の正気度ポイントを喪失する(この処理はさきにも適用する)。

探索者が正気を保つことができた場合,そのまま退散の呪文を唱える準備に入ることができる。
探索者が唱えられるチャンスはここ以外にはほとんどない。
呪文に参加するためには,コストとしてマジック・ポイントを1ポイント払う必要がある。
イタクァのPOWは35であり,退散の呪文を唱えるためにはさらに最低7ポイントのマジック・ポイントを消費する必要がある。
その場合,成功率は5%となる。
さらに,マジック・ポイントを1ポイント追加することに5%成功率を上昇させることができる。
つまり,4人で詠唱を行う場合,各自が1ポイントのコストを払うと同時に合計で26ポイントのマジック・ポイントを必要とする。

呪文に成功した場合,ウェンディゴはそのままその場を立ち去る。
雲は消え,あたりにはそれがまき散らした雪だけが残る。
ただし,イタクァを見て永久的狂気に陥ったものは,自ら吹雪の中に歩み寄り,姿を消してしまうことだろう。
また,呪文が失敗した場合は,ウェンディゴは怒りをもって探索者たちを裁く。
その際は戦闘ラウンド扱いにしてもよいし,そのまま全滅としてしまってもよい。判断はキーパーに委ねられる。

その後どうなったか

生き残った探索者は,ホテルに帰る前にアローセンの家に寄り,何が起こったのかをアローセンとフランソワに報告するだろう。
彼女は探索者の説明に頷き,死者が出てしまった場合はその人に,彼女らの方法で祈りを捧げる。
「次の生贄は,一族からでたみたいだ。そう,報告が出ている。
 君たちが心配することはない。
 フランソワ,そして次の世代のものが,この忌まわしき伝統を止める術を探してくれている。
 まだ5年はあるはずだしな」そう,彼女は探索者に告げる。

ホテルに帰れば,探索者は疲れのあまり寝てしまうだろう。
そして翌日には,探索者は日本に帰ることになっているのだ。
飛行機に乗る際,さきがいなければ,彼女ははじめから帰りのチケットを取っていなかったことがわかる。

探索者は一連の事件から生還できた場合,正気度ポイントを1d10 得ることができる。
さきを生贄に捧げず生還した場合,さらに正気度ポイントを1d10得ることができる。
また,クマを退けた場合,1d3の報酬を得ることができる。
ただしこの一連の騒動は,狂気の深淵を覗くのには十分であった。
探索者はクトゥルフ神話の技能が4%上昇する。
さらに,誰か一人でも退散の呪文を唱えた場合はクトゥルフ神話の技能がさらに2%増加する。

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