小さい笑顔を、真っ直ぐな優しさを、私は殺した
「…………!」
それでも誰かが、私を呼んでいる
「ぉ…ぅ…!」
…帰らなくてはいけない
「お…うさん!」
しかし…私には耐えられない、だからだろう
『私はすべてを忘れた』
○月×日 晴れ
いつものようにお父さんを起こすと突然抱きしめられた。
やたら頬ずりしてきてチクチクするので、目覚ましに全力のボディーブローをしてやった。
そういうことは髭剃りをした後にしてほしい。
○月×日 また晴れ
お父さんがぼんやりと金色の指輪を眺めていた。
とてもきれいだったので上目遣いでお願いしてみると、少し黙った後プレゼントしてくれた。
チョロイ。
○月×日 またまた晴れ
最近お父さんが私の作るお味噌汁以外を食べようとしない。
好き嫌いはいけないと注意するけど喉を通らないのだと申し訳なさそうに答えるばかりだ。
…まぁ、わるい気はしない。
○月×日 やっと曇り
夜中、目が覚めてトイレに行く途中、お父さんのうなされている声が聞こえてきた。
ずっと誰かに謝っているみたいだった。
…うるさいので叩き起こして問い詰めてみたけど、覚えていない、大丈夫しか言わない。
誤魔化すような笑顔が気持ち悪い、いつもの何倍も気持ち悪い。
大嫌いだ。
○月×日 曇り
お父さんが気持ち悪い。
○月×日 曇り
お父さんが気持ち悪い、イライラする。
○月×日 曇り
お父さんが気持ち悪い、気に入らない。
○月×日 曇り
お父さんが気持ち悪い、まるで2年前みたいだ。
○月×日 雨
…お父さん。
・
・
・
○月×日 曇り
学校の帰りに変わった人たちに会った。
外国人のお姉さんや農家?のお兄さん、偉そうな態度の偉そうな人と小さい女の子。
あと飢狼のような目をした女の人が騒いでいたのだ。
挨拶したかったけど、最後の女の人が怖かったので話しかけられなかった。
○月×日 ちょっと晴れ
新しいお友達が出来た、昨日見た小さい女の子で名前はリネットちゃん。
飢狼のような目をした女の人達とはぐれて、迷子になってしまったらしい。
道案内してあげる途中いろいろお話した…いろいろお話した。
今度お家に招待して、私のお母さんの写真を見せてあげようと思う。
○月×日 快晴
リネットちゃん達をお家に招いた。なぜかお父さんが号泣した。
玄関先で私たちの姿を見ると
茫然として
はっとしたような顔をして
しばらく俯いた後に顔を上げると
無理に取り繕ったような笑みも忘れて
顔をぐちゃぐちゃに歪め泣き出したのだ。
リネットちゃんも他の人も私も驚いた、お父さんが泣くところなんて初めて見たからだ。
写真を見せるどころの話ではなく、お父さんがいつまでたっても泣き止まないので大変だった。
…格好悪いよ、お父さん。
私のお父さんは格好悪い、ダサいし臭いしデリカシーがない。
家事も禄にできないし、よく変な勘違いをする。
昔まだお母さんが生きていたころ、どうしてお父さんと結婚したのか聞いてみた。
お母さんは、頑張ろうとして努力して努力して…失敗して。
それでも絶対に諦めない、情けなくて格好悪い姿が放っておけないといっていた。
お母さんも物好きだなと思う…でも…まぁ…そんなお母さんの娘だから
私も物好きなのは、仕方ないのだ。
○月×日 台風
お父さんに日記を読まれた。
朝日は拝ませない。