クトゥルフ神話TRPGやろうずWiki - 彷徨う心臓

1.はじめに

 このシナリオは「クトゥルフの呼び声TRPG」のシナリオです。時代は現代イギリス、ダニッチ村(アメリカではない)を設定してあります。サプリ「クトゥルフ・バイ・ガスライト」の設定を用いていますが、舞台や時代の変更は利きます。海辺の町であればどこでもよいです。サプリが無くてもこのシナリオはプレイできます。探索者は3〜5人を推奨します。
調査メインで戦闘は無いですが、組み込むのも不可能ではないと思います。探索者達には最低でも「友人のために行動する」程度の親交があることにして欲しいです。

2.シナリオの概要

 ローマ時代にできたダニッチはかつて、重要な港町であり、地方では大きめの町だった。しかし、1286年の海の大浸食以来、町は徐々に海に呑まれていき、衰退した。1748年にこのシナリオの原因がある。ダニッチには若く美しい少女がいた。少女は町のハンサムな若い男に恋をして、それは実った。しかし、男は人間と深きものの混血種であり、少女を気の向くままに弄び、最後には少女を捨て、海に帰って行った。少女は嘆き、男の心が戻ってくることを信じ、海辺の教会で祈っていた。だがその祈りは届かず、少女は自らの心臓を抉り出し、海に投げ込んだ。しかし少女は死ねず、海岸で心臓を洗っている姿が目撃され、少女が残した心臓を拾ってしまった者には大きな不運がもたらされるという。
 これがダニッチで伝説となって語り継がれている「彷徨う心臓」の伝説である。この伝説は事実であり、少女を死なせなかったのは外なる神、ニャルラトテップだ。かの神は少女の呪いがどれ程人に影響を与えるのかを楽しむつもりだった。少女の体はやがて力尽きたが、その精神はまだ地上を彷徨っている。少女が祈りを捧げた教会は既に海に沈んでいるが、その教会の最上階に胸に穴の空いた少女の遺体がある。
 探索者達は少女の心臓を拾ってしまい、呪いを解くために行動することになる。呪いは海底教会の中にある少女の遺体に心臓を戻してやればよい。

3.登場人物紹介

少女 〜嘆きの少女~
STR――  SIZ10  DEX――  INT13  CON――
APP18  POW07  EDU11  SAN00
HP――  MP20.
<技能>
クトゥルフ神話(9%)
<備考>
ダニッチにこの若く美しい少女がいた。少女は町のハンサムな若い男に恋をして、それは実った。しかし、男は人間と深きものの混血種であり、少女を気の向くままに弄び、最後には少女を捨て、海に帰って行った。少女は嘆き悲しみ、男の心が戻ってくることを信じ、海辺の教会で祈っていた。だがその祈りは届かず、少女は自らの心臓を抉り出し、海に投げ込んだ。少女は死ぬことができず、海岸で心臓を洗っている姿が目撃されるという。少女が残した心臓を拾ってしまった者には大きな不運がもたらされるという。

ヴァレリア・キャッスルダイン 24歳 〜星の智恵派教団の修道女〜
STR08  SIZ11  DEX09  INT14  CON07
APP12  POW10  EDU15  SAN50
HP07  MP10.
<技能>
言いくるめ(65%) 説得(52%) 図書館(35%) 信用(60%) 
懺悔を聞く(54%) 芸術;聖歌(66%)
クトゥルフ神話(00%)
<備考>
星の知恵派教団に所属する修道女。しかし、彼女は自分の所属する教団の真の姿を知らず、宇宙的恐怖について僅かな知識もない。あくまで末端の構成員だ。信頼できると判断した相手にはとても親身になってくれる。

ゼノヴィア・ホールズワース 79歳 〜星の知恵派教団の引退した修道女〜
STR07  SIZ09  DEX06  INT16  CON10
APP04  POW16  EDU19  SAN21
HP08  MP16
<技能>
心理学(84%) 言いくるめ(76%) オカルト(71%) 聞き耳(69%)
クトゥルフ神話(31%)
<魔術>
魔法の検知、良き影響力、海の蜂蜜酒の製法
<備考>
星の知恵派教団に所属していた修道女。星の知恵派教団の真実の欠片に触れ、かなり深い部分まで踏み入ってしまった。真実に興味を持ったのは教会の壁画を見た時だった。星の知恵派教団ロサンゼルス支部のナイ牧師に会って、そのカリスマ性に魅了された。やがて教団の儀式に立会い、生贄の惨殺を目撃した彼女はそこでやっと教団に恐怖を感じるようになり、これ以上の深入りはしないことを決心した。引退してからもナイ牧師とだけは連絡を取り続けている。彼女にとってナイ牧師はよき理解者なのだ。
それ以外は老いた世捨て人として暮らしている。

エレン・グラハム 10歳 〜見習い修道女〜
STR04  SIZ09  DEX08  INT11  CON07
APP15  POW17  EDU09  SAN70
HP05  MP17
<技能>
目星(65%) 聞き耳(45%) 芸術:聖歌(55%)

ナイ牧師 〜暗黒の牧師〜 ニャルラトテップの化身
STR11  SIZ13  DEX11  INT86  CON11
APP11  POW100  EDU14  SAN00
<技能>
あらゆる武器(100%)
<魔術>
クトゥルフ神話の全ての呪文
<備考>
彼の姿を見ても正気度喪失は無い。彼が殺された時、死体は震えて膨らみ、破裂してより恐ろしい姿のニャルラトテップが現れる。「彷徨う心臓」の伝説においてその原因に深く関わる。この神は伝説に巻き込まれて破滅していく人間を見て楽しんでいる。ゼノヴィアとは楽しみのネタが無いかと、偶に接触をしている。

X.シナリオ本編

1.遭遇

 探索者達は何か理由をつけて海岸を散歩でもしていたことにして欲しい(人数は不問)。
 海岸を散歩していると前の方に少女らしき人影がある。その少女は白いワンピースに身を包み、腰まで届くほどの黒髪を垂らし、波打ち際に座り込んでいる。ここで<目星>に成功すると、少女は海に手を突っ込んでいるように見える。
 探索者達が近づくと、少女は顔を探索者達に向けて立ち上がる。少女の顔立ちは美しかったのだろうが、その顔は痩せこけ、皮膚も蒼みがかっている。海水が滴る手には何か握っているようだが、探索者達からは見えない。足も痩せて細くなっており、裸足だ。この少女の病的な姿を目撃した探索者達は0/1のSANチェックを行う。
探索者達が声をかける前に少女は走り去る。探索者達が追いかけても少女は突然消えてしまう。少女を見失った辺りで探索者達は「濡れた木の塊」を見つける。大きさは大きめのリンゴ程度だ。これを見た探索者は<アイデア>を行う。成功者はその「濡れた木の塊」が心臓の形をしていることに気付く。拾った探索者は手の中でそれがドクンと脈打ったような気がする。この不気味な体験をした探索者は1/1D4のSANチェックを行う。
探索者達は心臓をその場に放置しても構わない。(ただし、誰か一人は一度でいいから心臓に触れるようにする)
また海岸で<目星>を行った場合、成功者は波打ち際で花束を見つける。<アイデア>に成功すれば、花束の状態からそれは海に投げ込まれたものが打ち上げられたということが推測できる。
これは誰か花束を投げ込む人物がいることへの伏線です。

2.不運

 ここからしばらくは特に何事もなく過ごすのだが、心臓に触れた探索者は別だ。心臓を拾った夜にその探索者は奇妙な夢を見る。若く美しい少女が目を閉じて、手は胸の上で合わせた格好で横たわっている。少女は起き上がると、膝から崩れ落ちて泣き始める。その少女の胸の部分には大きな穴が空いている。そして少女の姿は滲むように消えていった。
そして翌日の朝、探索者のベッドサイドのテーブルには少女が残していった心臓が濡れた状態で鎮座している。この恐ろしい体験をした探索者は1/1D6のSANチェックを行う。
これから探索者は不運な目に会うことになる。最初こそ少し運が悪かった程度のことなのだが、数日後には命に関わるような不運に会い始める。
 心臓はどこかに捨てても、燃やしても、砕いて粉々にしても、翌朝にはベッドサイドのテーブルの上に濡れたまま鎮座している。このあまりに不気味な体験をした探索者は1D2/1D8のSANチェックを行う。
この探索者は呪われたのだ。呪われた探索者の命は七日しか持たない。七日目の夕暮れ時に探索者は心臓発作を起こし、死亡する。胸を抑えた様子は周囲の人間から見れば、心臓を抉り出そうとしているかの様に見えることだろう。これを回避することはできない。
 呪われた探索者は他の探索者に援助を求めるだろう。ここからシナリオが本格的に開始する。
 これ以降、心臓に触れた探索者及びその同伴者には不運な出来事が降りかかる。KPは最初こそ軽微なイベントを起こし、シナリオが進むにつれて深刻度を上げていき、探索者達に危機感を募らせると良いだろう。
ここに幾つかのイベント例を挙げておく。
・ベンチなどに座ろうとしたら、いきなり壊れる。倒れ込んだ探索者は1のダメージを受ける。
・タバコなどに火を点けようとした時、ライターやマッチから火が異常に吹き出す。何らかの回避をしないと1D2のダメージを受ける。
・道を歩いていたら、前方から来た自動車のタイヤが外れ探索者達に向かって飛んでいく。<回避>などに失敗すると、1D6のダメージ。
 などなど。他にもKPが好きにイベントを組み込んで構わない。
 

3.海岸

 探索者達はまず、少女に会った海岸を調べなくてはならない。探索者達が少女に出会った場所に行くと、黒い修道服に身を包んだ女性が海に花束を投げ込んでいる場面に遭遇する。女性の名前はヴァレリア・キャッスルダインといい、町にある「星の知恵派教団」の所有する教会で修道女を務めている。彼女になぜ花束を海に投げ込んでいるのかを聞くと、自分が勤めている教会で昔から続く習わしだと答える。彼女はべらべらと情報を話すような性格ではない。自らを神に仕える者と定めているからだ。尤も、彼女は自分が仕えている神の正体を知らない。
 木の心臓の事を話した上で彼女の信用を得られれば(<説得>などを使ってもよい)彼女はこの習わしについて自分はよく知らない。しかし、今は引退した老年の修道女なら知っているかもしれないから、連絡を取ってみる。早ければ明日の昼頃には会いに行けるだろう、と言う。
 最後に彼女は探索者達にこのまま教会に来てみるかどうか尋ねる。教会には習わしに関係のある部屋があるという。
教会に行かなかった場合は教会のシーン「4.星の知恵派教会」「5.見習い修道女」を飛ばす。

4.星の知恵派教会

 教会についていった場合、教会の正門から中に入ることになる。教会は如何にも小さな町の教会といった風体で大きなものではない。
中の礼拝堂はいたって普通の造りになっている。しかし、<目星>に成功した探索者は礼拝堂の正面奥の机に飾られている一冊の古びた本に目が留まる。それは「クタート・アクアディンゲン」ラテン語版の写本だ。装丁はこの魔導書で伝統的に使われている素材ではない。しかし、探索者は嫌な気配を感じ取るくらいはできるだろう。彼女に魔導書のことを尋ねても、貴重な聖書としか教えてくれない。彼女は本当にそれ以上のことを知らない。勝手に触れようとすれば、その探索者はヴァレリアに厳しく怒られ、以後の教会への立ち入りを禁止される。また、彼女に対しての交渉系技能に−30%の補正を受ける。勝手に教会内部を歩き回る探索者も同様だ。
 ヴァレリアは探索者達を礼拝堂の左奥にある扉の鍵を開け、廊下の突き当りの部屋に案内する。ヴァレリアはこの部屋は伝統に関係のある部屋だと教えてくれる。しかし、彼女は自身が入室することを拒む。理由は明かさない。<心理学>に成功すれば、彼女が強い嫌悪感を催していることを察する。
 部屋に入ると、そこには凄絶な光景が広がっている。まず、全周の壁には恐ろしい海底都市の絵が描かれている。深い緑色を基調とした絵で、教会にこれほど場違いな絵もないだろう。海底都市には無数のゴリラと人間を足して二で割ったような生物が泳いでおり、見る者全てに吐き気を催させる。そして部屋の奥には棺があり、その中には若く美しい少女の像がある。胸の部分には穴が空けられ、木でできた心臓が置かれている。この異常な絵、異様な棺と少女の像を目撃した探索者達は1/1D6のSANチェックを行う。
 さらに心臓を拾った探索者は<アイデア>を行う。成功なら、少女の像が夢の中で見た少女と同一人物であることに気付き、1/1D4のSANチェックを行う。
 この壁画と少女の像は伝説で語られる少女のための慰霊碑だ。泳ぎ回る半魚人の一人は少女が恋をした相手であり、海底都市はイギリス近海に存在する深きものの巨大コロニー「グル・ホー」だ。この絵を描いた画家は後述する海底教会が海に沈む前にその巨大なステンドグラスを模写した。少女の胸に置かれている木の心臓は探索者達が拾ったのとは全く関係の無いただの彫刻だ。
 中で探索者達が絶句していると、ヴァレリアが部屋の外からこの部屋の意味を私は前任の修道女から慰霊碑だとだけ聞いている、と言ってくる。

5.見習い修道女

 探索者達が慰霊碑の部屋から礼拝堂に戻ると同時に外から礼拝堂に小さな女の子が入ってくる。女の子の名前はエレン・グラハムと言い、この教会の見習い修道女だ。天真爛漫という言葉そのままの様子でヴァレリアに挨拶をして、探索者達にも元気な挨拶をするが、心臓を拾った探索者を見ると、急に怯えた様子になってヴァレリアの背後に逃げ込む。ヴァレリアや探索者達が話を聞こうとしても心臓を拾った探索者が近くにいる間は決して話さない。心臓を拾った探索者がどこかに行くと、女の子はその探索者の背後に女の人が立っていた、と言う。詳しく聞くと、それは探索者達が海岸で見た少女の様子と一致する。
 エレンは高い精神を持っているため、探索者に付き纏う少女の幽霊を見ることができたのだ。
 

6.自由時間

 翌日の昼まで探索者達は自由に行動できる。何か必要なものがあったなら、このタイミングで入手すればいいだろう。そしてこの時間は不運なイベントを起こすのに絶好のタイミングだ。KPは効果的と思われるイベントを起こすと良い。

7.老修道女

 翌日の昼頃、教会を尋ねればヴァレリアが正面で待っている。ヴァレリアの案内で探索者達は老修道女の家に向かう。道中、ヴァレリアは老修道女についての情報を明かす。内容は以下の通り。
  • 名前はゼノヴィア・ホールズワース。
  • 昔は星の知恵派教団の高い地位に就いていた人物だが、ある時を境にこの町の教会に移動した。
  • 不思議な力を持っており、昔は魔女とも呼ばれていたらしい。
  • 優しい人で困っている人の相談には快く乗ってくれる。
 探索者達とヴァレリアが着いた家は海に面した崖の上にある。古びてそれほど大きくもない。
 家に着く直前に<地質学><博物学>(誰も持っていないなら<知識>の半分でも構わない)を振る。成功者は周囲の崖や地形を見て、この辺りはかなり海に浸食されていることと、どうやら現在も浸食は進んでいることが分かる。
これは海の中に沈んだ建物(教会)が存在することへの伏線です。
ヴァレリアがドアをノックし、名乗るとドアが開き、小柄な老女が迎えてくれる。彼女が以前星の知恵派教団に所属していたゼノヴィア・ホールズワースだ。彼女は居間の肘掛け椅子に腰かけて、探索者達と向き合う。彼女は今日、来客があるからそれまでなら相手をすると前置きをする。
 探索者達がゼノヴィアに聞きたいことと事情を伝えると、ゼノヴィアは深く息をついて彼女が知る「彷徨う心臓」の伝説について話し始める。以下要約。
ダニッチには若く美しい少女がいた。少女は町のハンサムな若い男に恋をして、それは実った。しかし、男は人間と深きものの混血種であり、少女を気の向くままに弄び、最後には少女を捨て、海に帰って行った。少女は嘆き、男の心が戻ってくることを信じ、海辺の教会で祈っていた。だがその祈りは届かず、少女は自らの心臓を抉り出し、海に投げ込んだ。少女は死ぬことができず、海岸で心臓を洗っている姿が目撃され、少女が残した心臓を拾ってしまった者には大きな不運がもたらされるという。
彼女はこれを一気に話し、再び肘掛け椅子に体を沈める。探索者達が呪いを解くにはどうすればいいか尋ねると、ゼノヴィアは私も聞いたことが無い。その心臓を彼女に返してあげればいいんじゃないかね。としか答えない。実際ゼノヴィアはこれ以上のことは知らない。しかし、話の終わりにゼノヴィアは探索者達に興味を持ったと言って、いつでも来て構わないと言う。次にヴァレリアに向かって探索者達に協力してあげるように言う。ヴァレリアはもちろん承諾する。

8.来客

 話が終わってしばらくすると、家のドアがノックされる。ドアの外にはダークスーツを着こなした黒人の男性が立っている。男は中にいる探索者達に気付くと、少し驚いたような様子を見せ、「お邪魔したかね?」とゼノヴィアに聞く。ゼノヴィアは嬉しそうに答えて、「いいや、ミスターナイ。あなたの方が先だった」と答える。そしてゼノヴィアは探索者達に今日は帰って欲しいと言う。探索者達は帰る時、<目星>を行う。成功者は部屋の戸棚に深い緑色に輝く液体の入ったボトルを見つける。これが何かを聞く時間は無い。
 これはゼノヴィアが作ったアーティファクトで「海の蜂蜜酒」と呼ばれるものだ。飲んだ人物は水中でも呼吸ができるようになる。後々必要になるのでKPは何か匂わせる程度の描写をしておいて欲しい。
 また、家を出る時にゼノヴィアにナイと呼ばれた男は心臓を拾った探索者を見ると、ニッと笑って、「君の前途に希望があらんことを」と言って肩を叩く。ここでその探索者は<目星>を行う。成功した場合、ナイは掌まで黒いことに気付く。
 この黒人は星の知恵派教団ロサンゼルス支部のナイ牧師だ。その正体は外なる神ニャルラトテップである。かの神はゼノヴィアと交流があり、たまにここを訪れ何か楽しみの種が無いかを探している。このシナリオでは、かの神は原因に関係があるだけでそれ以降は干渉してこない。
 

9.調査

 ゼノヴィアの家から出ると同時にヴァレリアとも別れることになる。ヴァレリアは教会に戻るため、用ができたなら教会に行けば会える。
 探索者達は再び自由な時間を得る。このタイミングで探索者達がとるべき行動は調査だ。「7.老修道女」の冒頭で行った<地質学>などのロールに成功していれば、昔と現在では地形が変わっていることに気付くだろう。役所や古本屋などで昔の地図と現在の地図を比べれば、かなりの建物が現在では海の底に沈んでいることが分かる。<図書館>(もしくはその他適切な技能)に成功すれば2時間で、失敗なら4時間かけて地図を調べると、昔の地図の片隅、海岸から数十メートルも離れていない場所に教会があることに気付く。
現在の地図と比較すると、探索者達が少女に出会った海岸の数百メートル沖合、深度60メートルの場所だ。

10.教会の歴史

 探索者達はヴァレリアを訪ね、教会の資料を見せてもらう必要がある。教会のヴァレリアを訪ねて事情を話すと、資料室に通してもらえる。資料室には膨大な資料が保管されているため<図書館>などの適切な技能に成功すれば3時間、失敗すれば6時間かけることで教会の移転についての記録を発見できる。記録によると、海の浸食が進んできたので海岸の教会が現在の場所に移転されたことが分かる。建物の機能を移しただけで古い教会を取り壊したとはどこにも書かれていない。
 これでPL達は少女の遺体が昔の教会の中に今でもあるのではないか、という考えに辿り着けると思う。もし思いつかないようであれば、探索者達の迷走が酷くなる前に<アイデア>を振らせることで思いつかせても構わない。

11.ダイビング

 探索者達は海底へ行く手段としてまずはダイビングが思いつくと思われる。海岸近くにはダイビングショップなどがあるが、探索者達が店員に行きたいポイントを伝えると、そのポイントは海流の流れやサメの動向を理由に危険だから行かない方がいいと言われる。探索者達が強引に現代的な方法でダイビングした場合、海流に撒かれて辿り着けない。もしくはサメに襲わせても構わない。
 探索者達が進退に困った場合、<アイデア>に成功すればゼノヴィアに相談することを思いつく。
 ゼノヴィアの家に行くと、ゼノヴィアがドアを開けてくれる。ゼノヴィアに事情を話すと、彼女はゆっくりと立ち上がり、戸棚に歩み寄る。彼女は戸棚から深い緑色に輝く液体の入ったボトルを取り出す。彼女はそのボトルを探索者達に手渡すと、椅子に腰かけながら説明をする。以下要点
  • それは「海の蜂蜜酒」と呼ばれるもので、人間が水中でも活動できるようにするためのアーティファクト。
  • 水中でも呼吸ができるようになり、泳ぐことが容易になる。
  • 暗い海中でもある程度は見えるようになる。
  • 問題点は、ちょっとした幻覚作用があり効果時間は6時間程度しかない。
  • ボトル一本で8人分はある。

 ゼノヴィアは説明が終わると、「それは君達が生きてきた世界とは本来関係の無い品だ。 使わないのに越したことはないが、仕方ないだろう。」と言う。探索者が言葉の真意を尋ねても、この話にこれ以上は付き合わない。

 普通ならここで終わるのだが、KPが探索者達はゼノヴィアの十分な信頼を得るに相応しいと判断した場合、次のイベントが発生する。探索者達に少し待っているように言うとゼノヴィアは奥へと引っ込む。しばらく引き出しか何かを漁る音がしてから彼女は戻ってくる。手には古びたロザリオを持っている。彼女は探索者の一人にロザリオを手渡し、「私が使っていたロザリオを貸そう。君達を守ることもあるだろう。」と言う。
 ロザリオには魔術が掛けられており、<旧き印>と同じ効果を発揮する。サメなども寄って来ない。神話生物の視界にロザリオが無いと意味がない。

 ゼノヴィアから海の蜂蜜酒を受け取った探索者達は海底の教会を目指すことが可能になった。探索者達は海岸でアーティファクトを飲み、海に入ることになる。海の蜂蜜酒を飲んだ探索者達は<POW×1>を行い、成功なら永遠の眠りの海底都市ルルイエを目撃し、1D2/1D8のSANチェックを行う。
 ここで一つイベントがある。心臓を拾った探索者(現在持っている探索者)は突然心臓が脈打つのを感じる。同時に視界がブラックアウトし、海底に沈んでいる教会の映像が頭の中に映り込む。これを幻視した時に<アイデア>に成功すると、視界に映る教会の周りを回遊する影を認識する。そして<アイデア>の成否に関わらず、奇妙な事態に直面したため、1/1D6のSANチェックを行う。

12.海中の探索

 探索者達は海に入るとすぐに、自分は呼吸ができていることを認識し、通常では考えられないほど水の抵抗が無いことに気付く。軽く手足を振るだけで驚くほど遠くまで移動できる。{ハリーポッターを読んだことのある方は鰓昆布をイメージして下さい}
 心臓を拾った探索者は海に入った時の幻覚で海底教会の位置を説明できるので、その指示に従って進むことになる。
 しばらく泳ぐと海の深さも増し、海流を受けることになる。徐々に視界は薄暗くなっていくが、海流はそれほど激しくは思われない。
 さらに進むと海底の廃墟の端に辿り着く。この廃墟はかつての町の一部だ。海の浸食で海底に沈んだ。ここに着いた時に<目星>を行う。成功者は廃墟の裏路地を高速で移動する影を見た気がする。これは深きものがこの廃墟を住処にしているためだ。

13.海底教会

 廃墟の奥へと泳いでいくと、やがて海底教会に辿り着く。教会は、元々は白く美しい建物だったのだろうが、今は藻類が繁茂し覆われている。目を引くのは教会から一本の塔が伸びている。鐘楼のようにも見えるが、鐘は無く開かれていない。泳いで調べようとする探索者は海の蜂蜜酒の影響で海流を軽減できるにも関わらず、強い水の流れに阻まれる。正面入り口のドアは木製だったようだが、腐り落ちているため容易に中に入れる。
 中に入ると、そこは礼拝堂になっている。<アイデア>に成功すれば、内部が現在の星の知恵派教会と同じ構造になっていることに気付く。
 <目星>に成功すると礼拝堂正面奥の床に苔むした石板があることに気が付く。苔を擦り取ると、何か文字が彫られていることは分かるが、文字に苔が入り込んでいるため内容は読み取れない。
 この石板には「ポナペ経典」の一部が抜粋されて彫られている。内容は深きものとそのおぞましいコロニーについてだ。言語は英語。読んだ探索者は1/1D6のSANチェックを行う。<クトゥルフ神話>に+2%。
 この海底教会と現在の教会で違うところは現在の教会にあった慰霊碑の部屋だ。慰霊碑のあった部屋に行くと、中には上に長く向かって伸びる螺旋階段がある。探索者達はこの螺旋階段が外から見た塔だと分かるだろう。

14.嘆きの少女

 螺旋階段を昇って行くと、途中から空気が溜まっている。空気は淀んでいて新鮮とは言い難いが、呼吸はできる。探索者達はそこからは階段を上ることになる。探索者達が階段を上りきると、木の扉がある。腐りかけてはいるが、まだ扉の形を保っている。
 扉を開けるとそこには凄絶な光景がある。扉の正面の壁にはその部屋の天井に届くほどの大きさのステンドグラスが嵌っている。そのステンドグラスの図案は現在の教会と同じものだ。しかし、海中の薄暗く蒼い光に彩られるステンドグラスの不気味さは教会の壁画の比ではない。しかもよく見るとステンドグラスに描かれている半魚人や海藻などは泳ぎ、海流に揉まれているかのように動いている。そして決定的に違うのはステンドグラスの前にあるものだ。ステンドグラスの前の床には白いワンピースの少女が倒れている。少女はやせ細っており、ワンピースの胸の部分は破れ、血で赤黒く染まっている。手は胸の上で固く組まれている。この凄絶な光景を目撃した探索者達は1D4/1D10のSANチェックを行う。
 これが海底教会の秘密である。この教会は深きものが人間の女性を妻として見定めるための場所としての機能を持っていた。そのため深きものとグル・ホーがステンドグラスに描かれているのだ。
また<目星>に成功すると、ステンドグラスの片隅に扉の絵があり、その輪郭が不自然に揺らめいていることに気付く。
 これはステンドグラスに組み込まれた「門」だ。深きもののコロニー「グル・ホー」の一室に通じている。門の描かれた部分に触れ、<門の創造>を使うと門が活性化し、使用できるようになる。
 少女の体は冷え切っている。少女の胸に木の心臓を戻すと、少女の体に血色が戻る。そして少女は溶けるように消え、海底教会にヒビが入り空気のある空間には水が入り込み始める。やがて部屋は水没し、海に沈む。
 探索者達が脱出すると、海底教会は崩壊して瓦礫の山に変わる。
 この海底教会が海の底でも崩壊しきっていないのは少女の、つまりニャルラトテップの影響だ。少女の無念に深く関わる場所のため、崩壊すると彼女の呪いに影響が出てしまうと考えたニャルラトテップが保全していた。そして少女の呪いが消えた今、魔力も消滅したため海底教会は崩壊した。

15.エンディング

 探索者達は海底教会から生還し、無事に少女の呪いの解くことができた。また「彷徨う心臓」という長くこの地で語られてきた恐ろしい伝説に終止符を打つことにも貢献した。探索者達は達成感を感じるに値する。しかし、探索者達の働きが世に知られることはない。それだけ常識からは外れたところで起きた事件だったのだ。

16.報酬

 報酬はKPが適切だと判断したものを設定して下さい。また、心臓を拾った探索者の正気度回復は他のプレイヤーよりも多めに設定して下さい。

17.アーティファクト解説

木の心臓
遥か昔、男に惚れた少女が失恋し自らの心臓を抉り出した。少女は死ぬことができなくなり、海岸で自らの心臓を手に持って彷徨っており、その後には木でできた心臓が落ちており、拾った者は大きな不運に見舞われるという
 捨てても、燃やしても、粉々に砕いても、少女の遺体に戻さない限り、拾った人物の元に戻ってくる。常に身に着けていなくても影響を受ける。
 拾って七日が経過すると、拾い主の命を奪う。
<効果>
 拾い主の<幸運>が半減する。明言はしないが、あらゆる種類の不幸が拾い主に降りかかる。

海の蜂蜜酒
海藻などから作られている魔法の飲み物。
<効果>
・水中で呼吸ができる。
<水泳>に+50%。水圧の変化も耐えられる。
・暗くてもある程度は見えるようになる。
・効果時間は6時間。
<POW×1>に成功すると、永遠の眠りの海底都市ルルイエを幻視して1D2/1D8のSANチェックを行う。失敗ならしばらく眩暈がするだけ。