「……」
「どうしました?じっとしているだけじゃ着替えられませんよ」
 立ったまま微動だにしないのに痺れを切らしたのか、マリアが声をかけてくる。
 確かに着替えると宣言したものの、やはりそれはそれこれはこれというか、今一歩決心がつかない。
「……いや、分かっているんだけど。でもでも、何と言うか結構抵抗があるって言うか……そうだ、確かに俺は女の恰好をするのを嫌がっている。それは無理やりにでも着替えさせようとしているからだよ。逆に考えるんだ。"この際男装でもいいじゃあないか"と考えるんだ」
「すると、先ほどの痴態が全国民の知るところとなった方がマシだと?」
「それだけは勘弁、いやマジでお願いします」
 言い争いや言葉遊びでは女性に勝てる気がしないのは俺だけなんだろうか?
 三人寄れば文殊の知恵、女の場合は姦しい……昔の人はうまい事を言ったものだ。
「じゃ、早く着替えましょう」
「うぅ……」
「まずは今着ているバスローブを脱いで――裸ならさっきお風呂で隅から隅まで余すところ無く見られているから、それほど抵抗はないでしょう?」
 と、いきなり後ろから抱きつかれるようにして羽交い絞めにされた。
 ステファニーに覆いかぶさるようにして押さえ込まれたらしい。
「さぁさぁ、まだ湿ってるところを拭きながら脱ぎ脱ぎしましょ〜ね〜」
「手前ぇ。この筋肉女!HA☆NA☆SEどこ触ってやがる」



「はい♪」
 差し出されたのは……何だか黄色いクリーム?
「何それ?和辛子?」
「ただの保湿クリームですよ。お風呂上りに塗ると効果的なんです。でも体温で透明になりますから心配しなくても大丈夫ですよ」
「これに慣れたら、もう他のじゃ満足できなくなるから。でも初めてでもそんな刺激は強くないから安心しな」
「一人でできるようになったら専用の道具を用意しますから。今日のところは私達に任せて楽しんでくださいね」
 透明になるとかは何となく分かる。
 でもでも、満足とか刺激とか何だか不穏な単語が気になる。
 そんなことを考えているうちに、テキパキと準備が進められていく。

「まずはクリームを指に少し、ほんの少しだけ付けて……上の方から塗っていきます、こんな風に――」
「うひゃ!」
 いきなり胸を撫でられ、素っ頓狂な声を上げてしまうが、マリアさんの手は構わずに動き回る。
 強すぎず、弱すぎず。触るというよりも、胸を這い回るように。
 何これ、何か変な……
 マリアさんの手が触れた部分から熱が消えない。
「こんな風に胸を下から持ち上げるようにして塗っていきます」
「はっ……っ!」
 不意に乳首を摘まれ、声が出てしまう。
 耳元に口を付けるようにしてマリアさんが囁く。
「可愛い反応、大好きですよ。大丈夫、優しくしてあげますから」
 マリアさんの手と指が下がるに従い、怖いような……それでいて何かを期待させるような感覚が湧いてくる。
 先ほどまでは平気で立てていたはずなのに、それもまた困難になりつつあり、半ばもたれるようにして愛撫を受けている。
「こ、んなのぉ……嫌ぁ」
「口では嫌と言ってても、段々感じてきているみたいですね」
「ふぇ……?」
「ほら、鏡に映っている姿を見てごらんなさい?いい顔、していますよ」
 鏡の中の女の子も後ろから抱きつかれ、頬を染めながら腕にしがみつき目を蕩けさせている。

 そして、全身に余すところ無くクリームが塗られた頃には完全に腰が抜けていた。
 回復するまでにはかなりの時間がかかったように思うが、正直なところこのインターバルはありがたかった。



「えと、これが……ぶ、ぶぶブラジャー」
 生地が少ない物ほど値段が高いという噂の布切れをつまみながら呟くと、隣から声をかけられた。
「アルちゃんアルちゃん、そっちよりも先にこっち」
 マリアが示したのは、レース生地のパンツだった。
 両手の親指と人差し指で広げるようにしている。
「さ、ここに足を通してください」
「お、おう……」
 女性用の下着を身につけることには、自分で思っているよりも心理的な抵抗が強いらしい。
 心の中でえいっと声をかけてもなかなか足は動いてはくれない。

 もたもたと両足が通された瞬間に素早くパンツが腰まで引き上げられた。
「ひっ――」
「どうしました?」
「パンツ……ぴったりついてる……」
「当たり前です。サイズがぴったりなんですから」
「ぅ……何か擦れてるよぅ……」
 下着が股間にぴったりとくっついているというのは、むず痒いというか何とも変な感覚だった。
 今までは当たり前にあったものが無くなっているという事実を否定しようにもできない。
「そういうものです。慣れてください」

「穿いてから言うのもあれだけど……も少し大人しめのは無いのか?下着のくせに何かフリルが多い気がするんだけど」
 別に誰に見せるわけでもない。
 こんなもの、履ければデザインなどどうでもいいと思う。
「それ一枚で平民の方だったら一ヶ月は余裕でいい暮らしができるくらいの金額ですから、汚さないように気をつけてくださいね……お漏らしとか」
「ぐ……いやそういう意味じゃなくて……」
 何というか……いちいち思い出させなくてもいいじゃないか……
 もういいや。女物でも何でもさっさと着替えて、次いってみよう。



「次はブラですが――」
「あ〜……もうこれでいいから」
 最後まで聞かず、先ほどまで持っていたブラをつけようとする。
「こんなの服と同じで要は着られればいいんだよ」
「でもそれ……Cだからアルちゃんには大きいですよ」

「そうそう、アルたんはお子ちゃまだからこっちのBにしときましょうね〜w」
「うっさい!ステファ……プッ……ステファニーは黙ってろよ!大体お前だってそんな大きいわけじゃないだろーが!脳筋!!言動が男みたいだから体もそれにあわせてるんじゃねーのか?バーカバーカ!」
「アルたん……真綿と手、どっちがいい?」
 よく見ると、いやよく見なくても表情の消えたステファニーの顔が何だか怖い。
「……え?それってどういう……」
「大丈夫、真綿はよって束ねるし皮手袋をはけば跡からは特定されない」
「いやいや、それって真綿を使う意味ないし……」
「そう、真綿は嫌なの……じゃ手だね」

 気づくと、いつの間にか後ろに回っていたマリアに羽交い絞めにされていた。
「え?ちょっと待って。マリアさん?」
「女の子に年齢と体型の話題は禁句なんですよ、ちょっとお仕置きが必要ですね」
「そうそう、どうせ言っても分からないだろうから、体で覚えてもらおうか」
 そういうとステファニーはゆっくりと手を伸ばしてきた。



 むにっ

「いっ」
「揉んだら本当に大きくなるのか、確かめてやるよ」
「いてて!おいコラ、痛いって。やめろこの男女」
「男女っていうのは、自分の方が似合ってるよ。乳腺てのはな、発達しかけが一番痛いんだよ」
 痛い。マジ痛い。ごめんなさい、俺が悪かったです。
 どう説明したものか……例えるならば棘が刺さって中に残った上から指でグリグリする感じ。
 本気で泣きそうになったところで開放された。
 薄く涙を滲ませているとマリアさんが声をかけてきた。
「例えば鉛筆を手に突き立てて……その痛みが他人のものだと思い込み続ければ、痛みを我慢するコツが身につくらしいですよ」
……これ、励まし?

「じゃ、アルちゃん。このブラをつけて……つけ方は分かりますか?」
「ん〜……多分」
 何となく見よう見まねでやってみても上手くいかず、結局直されました。
 はい、見栄張ってすみません。
 正直、あなたに触られたくないだけです。
「何かやっぱ小さいんじゃないか?釣り紐が肩に食い込んで痛いんだけど」
「長さを調整してないだけです。心配しなくてもアルちゃんの胸はこれからですよ」
「いや、別に大きさで残念な思いをしているわけじゃないし」
 聞き方によっては随分と失礼な発言だが、言葉の通り大きさでどうこうと思っているわけではない。
 俺には脂肪の塊をぶら下げて喜ぶような趣味の持ち合わせは無い。

「……なぁ。気のせいか、小さくなってないか?」
「気づきました?あの術式の直後は女性ホルモンが活発になっていましたけど、徐々に落ち着いてきたんですね」
 詳しいことはよく分からないが、そういうことらしい。



 そんなこんなで、色々あったけど下着を装着完了。
 実際にやってみたからわかるけど、女って大変なんだね。
 何かもう、今まで色々ごめんなさい。
「はい。これで丁度いいはずですよ」
「……ありがと。でも、他人の胸を見ながら勝ち誇ったような顔で見下ろすのはやめて下さい」

「次はガーターですね。」
「いや、ガーターベルトとかそんなのはいらないから。普通のでいいから。」
「リングの方がいいんですか?でもベルトの方が色っぽい感じが体型とミスマッチで、好きな方にはたまらないと思うんですけど……」
「いやいやいや、何となくバカにされてるのはいいとして。靴下なんてどれでも同じだろう?」
「!何てことでしょう。その発言は絶対領域への冒涜です!」
「ぜったいりょういき?」
「絶対領域というのはですね、ソックスとスカートとの間から見えるいわゆる太ももの生足の辺りのことなんですけど……見えちゃダメなんです」
「はぁ……?でも生足部分のことなんでしょ?」
「今の私の話、聞いてました?見えちゃダメって言ってるでしょ!見えそうで見えない。でも見える気がする。それがいいんです」
 誰かこのくそ女を何とかしてください。頭から変なものが湧いています

「今、頭の中でアルちゃんの衣装をコーディネートして、どの組み合わせが一番可愛いかシュミレートしてるんですけど……やっぱり想像だけじゃよく分からない部分もあるから、全部試してみましょうか」
「ぃい――!?」
 冗談じゃない。
 今までだって散々振り回されているんだ。
 全部試すとかって……ここにある服全部?それ何て着せ替え人形?
「あぁ〜……いや、その……うん。やっぱり女性の事は女性に任せるべきだよね。マリアさんの一番似合うと思う服でいいよ……その、一番似合う服、一発勝負でいこう」
「はい、結構です♪アルちゃんってば物分りが良くて助かります」
「それじゃこっちのガーターと、やっぱりハイサイソックスは外せませんね……何でもニーソックスとかほざく低脳なゴミは死ねばいいのに……酸素がもったいないわ」
 何だかとっても聞かない方がいい言葉を呟きつつ、マリアさんは笑顔とか怖い顔とかの百面相をしながら衣装を揃えていく。



 うぅ……拷問とかなら耐える自信があるのに……屈辱だ……
 しかし男として、また名前の通っている戦士として、抵抗のできない女性に手をあげるわけにもいかない……いや、今抵抗されたらきっと負けるけどね。それはそれ、これはこれ。
 剣林弾雨の中を駆け抜けていた頃、鎧の下に着ていたのは麻の服だったし、自領に戻っても着ていたのは貫頭衣とかそんなものだった。
 しかし、目の前の鏡に映っている少女――まだ青さを残している……というかこれ幼女だろ――はフリルのふんだんに使われた絹の下着に包まれている。

「……可愛い」
 鏡に映っている姿が自分じゃなかったらだけどな。
そんな但し書きは付くものの、鏡の中には綺麗ではなく可愛いと表現したほうがいいような幼女がいた。
……きっと着ている服の視覚的効果もある気がする。
「でしょでしょぉ♪やっぱり私の見立てに間違いは無かったわ。アルちゃんには白の下着がお肌の白さをさらに引き立てて……んもぅっかぁいいよぅ、このままお持ち帰りぃ〜」
「……」
「……」
 少しの間、抱きついて頬擦りしてくるマリアさんの勢いに飲まれるかのようになされるがままで弄られていた。

「――コホン。冗談はこのくらいにして、次にいきますよ」

 おい待て。お持ち帰りって何?
 というか持ち帰って何するの?
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