ただ、時折こんな田舎には場違いな外国人の一団と学校のそばですれ違うことがあった。
 いまから思えばあれは、ムラタの研究所に出入りしてる連中だったのかもしれない。
 後ろ暗い研究をしたいのなら、山に囲まれたこんな僻地は絶好の場所だ。
 そんなようなことをあれこれ考えながら、いつのまにかカイトはうとうとと眠りの世界に誘われていた。

 カイトは廃墟に立っていた。
 瓦礫の中から石の十字架がぬっと突き出てる。
 ボロボロに崩れた壁の向こうに花を持った少女が立ってた。
 彼女には見覚えがあった。
 以前、どこかで会ってる。どこかで……
(そうだ、夢でこの子に会ったことがある)
 カイトが少女のほうへ近づこうとしたとき彼女は振り返った。
 あどけない顔をした少女だった。日本人じゃない。天然のブロンドに菫色の瞳をした白人の女の子だ。
「綺麗な髪と瞳。不思議なお肌の色。あなた、どこからきたの?」
 少女はいった。
「オレは日本人だよ」
「日本? そういう国があるの?」
「日本も知らないのかよ。まあいいや。お前、こんな寂しい場所で何やってんだよ」
「お友達が死んだの。だから、お祈りしてたの」
「はぁ……」
「お姉ちゃん、お名前は?」
「お姉……」
 カイトは自分の体を見下ろして納得せざるをえなかった。
 大きなバストを突き出させておいて、男だと主張しても誰も信じてくれないだろう。
 ブルマの股間には何の障害物もなく、そこは綺麗な三角形を描いてる。
「オレはカイトっていう」
「カイトさんってお名前なのね。あたしは……」

 ドンという轟音と、それに続くビリビリと響いてくる震動が少女の言葉を遮った。
 廃墟に残った壁からパラパラと石粒が落ちてきた。
「また、戦争だわ……」
 少女が寂しげにつぶやいた。
(戦争? あれは大砲の音なのか!?)
 少女の手からはらりと花束が落ちる。
 ドンッ。
 轟音が鳴ってカイトは目を覚ました。

「あ、ここは……」
 そこは元通り、沼作の布団の上だった。
 夢の臨場感のせいで、まだ動悸が高鳴ってた。
 喉がやけにヒリついてる。
 時計を見ると、まだ午前二時だった。
 カイトは半分残してた茶を飲んで、もう一度横になった。
 目を閉じて寝ようとするのだが、妙に寝苦しい。
 相変わらず胸がドキドキとして、落ち着かない。
 時間が経つうちに動悸は収まるどころか、ますますひどくなってきた。
 そして、体の奥で無視できない疼きが生まれ始めていた。
(なんでこんなときに……)
 カイトはたまらずに腿をきゅうと閉じ合わせていた。その状態で脚を擦り合わせると気持ちがいいのは知ってる。
 だが、女としてのオナニー行為に抵抗があるカイトはその先に進むことを頑なに拒んだ。
 不意にチャリッと音がする。
 無意識のうちに乳首に手が伸びてたのだ。
 こみあげてきた欲情のせいで乳首がぷっくりと膨らんでいた。
 シャツの裾を引っ張るだけで敏感になった乳首がこすられて気持ちよくなってしまう。
 乳首のピアスを誰かに思いきりひねって欲しいという思いが沸き上がり、理性がそれを打ち消す。



(こんなことしてたら、浩司が気付いちまう……)
 カイトは自分を叱った。
 女としての性欲に反応してしまうのが許せない。
 そのときカイトのものでない喘ぎ声がした。
 カイトは浩司のほうを振り向いた。
(浩司のやつ……!)
 浩司の股間には、一目見てそれとわかるテントが張られていた。
 そして、しきりとハァハァと息を乱している。
 浩司とカイトの目があった。
「なんだ……カイトも起きてたのか……」
 ひび割れた声で浩司はいう。
「なんかオレ、溜まってるみたいで……うう、やべ、カイトの体見たらますます勃ってきた」
 ビクビクと蠢いて浩司の股間のテントがさらに持ち上がった。
「おまえトイレで抜いてきたほうがいいぞ」
「カイトぉ……」
「ダメっ。約束……だからな……」
「そ……か……」
 せつなさそうな顔をして浩司は悶える。
 浩司に犯されることを思っただけで子宮のあたりが甘く疼いた。それでもカイトはその感情を認めるわけにはいかなかった。
 ふと見ると浩司はジッパーを降ろして、自分で慰めていた。
 カイトにとってはお馴染みになってる若い男の精が匂ってくる。それに直撃されてカイトは悶えた。
 全身が、男に抱かれることを求めていた。
 あまつさえ浩司のペニスにしゃぶりつきたいという衝動がある。それを押し殺すのに全精神力が必要なほどに。
(おかしい……いくら何でも、こんな気持ちになるなんて……)
 カイトの中の情欲は、時間が経てば経つほど顕著になっていく。


「くぅぅ……」
 カイトは苦しまぎれに寝返りをうった。カイト自身は気付いてないが、寝返りのときに胸や腿がこすれる刺激を体が求めているのだ。
 浩司がくすぐるようにカイトの胸を触ってきて、危うくカイトは大声で悲鳴をあげるところだった。
「わりぃ、カイト……我慢できねぇから、せめて胸だけでも、触らしてくれぇ……」
「う、うん。胸だけなら……」
 熱に浮かされたようにカイトは答えていた。
 すでに思考の一部は正常でなくなっている。
 こしょこしょと胸のふくらみをくすぐられると、えもいわれぬ快感が鼻を突き抜けていった。
 意識の片隅で人の気配に気付いてカイトは振り向いた。
 ぬぼうっと沼作がカイトたちを見下ろし、ビデオカメラを回している。
「てめ……!」
「うへへへへ! どうだい、媚薬入りの茶はうまかったかァい?」
「騙しやがったな!」
「騙しちゃいねぇよ。ただ、俺様にも役得があっていいと思ってな。ゲヘヘヘ……」
 カイトは罠に嵌められたことを悟った。
 下品に笑ってカメラを回してる沼作に蹴りの一つでも入れてやりたいのだが、すでにまともに体が動かなくなっている。
 浩司はさっきからずっとカイトの乳房をいじって感触を楽しんでる。胸をいじられる感触はカイトにとっても快楽だった。
「その媚薬の効果は男女差があってな。女のほうは、効き目出るの遅いんだ。発情のしかたも女の場合はハンパじゃねぇ」
 カイトの中の疼きが一段と大きくなる。
「あんた、これからだぜ。おクスリの本番はよォ。クェッヘヘヘヘ……」
「このゲスやろうっ。そんな薬、オレには効かねぇからな……ふあっ!?」
 浩司に胸を掴まれて痺れるような快感が走った。
 自慰をしてる浩司は絶頂が近いのか、呼吸が短く単調になってる。


(もっとオッパイ触ってほしい……)
 心のどこかで女としての願望がこぼれた。
「もう強がりも限界みたいだぜ。ヘヘヘ。おまえ、自分が最高にエロい顔になってるの気付いてるか?」
「くうぅぅ……あぁぁぁ……」
「意地張ってると発狂しちまうぜ? それが嫌なら、そこの男にお願いしてチンポ突っ込んでもらうことだな」
 沼作が浩司にティッシュの箱を放り投げた。
 浩司はティッシュを手にするとほぼ同時に達していた。オーバーなほどに腰をびくつかせて浩司は射精した。
 精子の匂いがそれ自体甘い媚薬のようにカイトの鼻をくすぐる。
 大きな性欲の波がきてカイトはたまらず体をくねらせた。
 沼作が喜ぶような反応をしたくないのに、体が勝手に動いてしまう。
 甘くハスキーな喘ぎ声がまるで他人のもののように聞こえる。
 立ち上がることもままならずカイトは布団の上で快感に身悶え続けた。
「沼作さん……ハァハァ……これって、どういうこと?」
 射精したことで理性を取り戻した浩司がよろよろと沼作に詰め寄った。
「ヘヘ、ワシは若い男女がバコバコとセックスするのを見るのが好きでな。こりゃあお前さんを助けてやる駄賃とでも思ってもらおうかい……ホレ!」
 沼作に突き飛ばされ、浩司はカイトに折り重なるような形で倒れた。
「ああっダメ、触るなぁ……」
 カイトはビクンッと敏感に反応する。全身のどこを触れられても、それが快感になってしまう。
 カイトの首筋のあたりに浩司の顔があった。
 浩司の吐息だけでカイトはおかしくなってしまいそうだった。
 浩司もまた、媚薬の作用で普通ではなくなっている。
「カイト、すげーいいニオイ、おまえ。やべーよオレ、出したばっかなのにまた……」
「が、我慢しろ浩司ぃ。こんな奴の罠にはまって……ハァハァ……悔しく、ないのか?」
「が……我慢してるけど……」


 カイトの腿に熱い塊が触れた。
 浩司のペニスが固くなって持ち上がり触れたのだった。
「ソレしまってぇぇ」
「無茶、言うなよ……」
 カイトは歯を食いしばった。浩司のペニスをすぐそこに感じる。
 油断したら本能のままそれに飛びついてしまいそうだった。
「ごめん、おまえの足、借りる」
 切羽詰まった声でいうと、浩司はカイトの足にぐいとペニスを擦りつけた。
「あっ……!」
 浩司は丸太を担ぐようにカイトの足を持って、腿のやわらかい肉に何度もペニスを打ちつけた。 ガッシュガッシュと工作機械のように腰を動かす。
 ほんの数秒で浩司はあっさりとカイトの腿に射精した。
 媚薬に冒されたカイトには、腿にぶちまけられた熱いザーメンの感触すら快感となっていた。
 抱かれたい。
 体の中心に熱い塊を打ち込んで満たしてほしい。
 そんな強い欲求がカイトの体と心を駆けめぐる。
 もはや呼吸すら性感を刺激してカイトを悶えさせる。
 悶えればその分、さらに女体は刺激を受け、発情していく。
 頭の中が白く塗りつぶされていって、だんだん物を考えられなくなっていった。
「うははは! なんてエロい顔してやがる!」
「ち……ちくしょう……あ、あはぁぁンンン……」
 喋ろうとすると、甘ったるい嬌声のほうが口に出てしまう。感じてないという「フリ」すらできない。
 カイトは固く口をつぐんだ。
 なんとか媚薬の効果が抜けるまで耐えよう、とボンヤリしがちな頭で考えた。
 沼作の視線から逃れようとうつ伏せに寝ころんだが、バストが押し潰されてピアスされた乳首を中心に甘く痺れるような快感が生じた。
 じっと息を止めて淫心をやり過ごそうとするカイト……。


「無駄だァ。どんなに貞淑な処女でも男に股開くっつう強力な媚薬だぜ。女である限りその効果から逃れられやしねェ」
「………………」
 カイトは小刻みに震えていた。子宮がキュンと収縮するたびに、女の快感に負けそうになる。
 沼様の言葉など殆どカイトには届いていなかった。
(犯して!)
 何度そう叫び出しそうになったか分からない。そのたびに歯を食いしばって耐えた。
 男としてのプライドだけがカイトを発情した雌として振る舞うことから遠ざけていた。
 だが、その我慢も限界に近づきつつあった。
 発情しきった肉体は精神まで蝕みつつあった。
(いやぁぁ耐え切れない……抱いて抱いて抱いて……めちゃめちゃ犯して中に射精して……)
(あああ……何を考えてるんだオレは……)
 もうどちらが自分本来の考えなのか区別がつきにくくなっていた。
 ぎりぎりのところで保っていた均衡を突き崩したのは、浩司だった。
「カイトぉ、オレ苦しいよ……」
 浩司は情けない声でいいながらカイトの股間に触れてきた。
 ブルマの上から浩司はカイトの股間をこすった。
「☆○△×◎$%#!!!!」
 体を貫くほどの刺激にカイトは言葉にならない悲鳴をあげた。
 浩司が欲望でいまにもはちきれそうなペニスをカイトの股間の隙間に突き入れてくる。
 ペニスがそこを摩擦していく刺激に、カイトの脳の回路がついに焼き切れてしまった。
「ダメ……犯して……」
 ついに、カイトは男のモノを懇願する言葉を口にしてしまった。
 沼作がヒヒヒと下卑た笑い声をたてるのを、カイトは遥か遠くのもののように聞いていた。
 フラフラとカイトは腰を持ち上げた。


 意識しないまま、男を誘うようにクネクネと腰を振ってしまう。
「グヘヘヘ。ネェチャンがケツ振ってテメェのチンポ欲しがってるぜ」
 沼作は焚き付けるように浩司の背中を蹴った。
「カ・イ・ト……」
 浩司は濁った目を見開いてカイトの服を剥いていった。
 プレゼントの包み紙をせっかちに破いてしまう子供のように乱暴にカイトの服を剥ぎ取っていく。
 ピアスとチェーンを付けられたカイトの胸が露わになり、丸くて形の良いヒップも空気に晒された。
 全身の皮膚が空気に触れてますますカイトは発情した。
 滴が落ちるほど秘部は潤みきっている。
 もう沼作に見られていることすら、頭の中から消し飛んでいた。
 砕け散った男の心の一部が(悔しい……)と歯噛みしても、もう体をコントロールしているのは淫乱なもう一人のカイトだった。
「ああああン……欲しい、欲しいよォ」
「何が欲しいんだい、お嬢ちゃん。え?」
「………………」
「言わないと、いつまで経ってもそのままだぜ」
「そんなのいやぁぁぁ!」
 カイトはせつなさそうに腿をすり合わせた。秘裂の中心が物欲しそうにヒクついている。
 沼作は浩司の襟首を掴んだまま、カイトに顎をしゃくった。
「なんとかしてほしかったら言ってみな。可愛くおねだりしてみせろよォ」
「うぅ……欲しいの、こ、浩司のチンポをあそこに挿れてェェ!」
 ぶちまけるように叫んでから、カイトは「あ……」という顔をした。
 カイトの中に残る男の部分が涙を流していた。
「ほォ。で、どこにチンポ突っ込んでほしいんだい、お嬢ちゃんは」
「ここォ!」
 と、カイトは腰を振り上げる。
「ここに……カイトのオマンコに挿れてほしいの……早くぅ!」


「ヒヘヘヘ、上出来だ。そらよ!」
 沼作が手を放した途端、磁石に吸い寄せられるように浩司はカイトに折り重なってきた。
 男の手で腰を掴まれると、奇妙な安心感がカイトを満たした。
 女として発情した体は、浩司の所有物となることを望んでいた。
「ごめんカイト、ごめん。オレ守ってやるっていったのに、こんな……でも我慢が……」
 早くも浩司は腰をカクカクとさせていた。
「いいのォ! だからお願い、チンポ挿れてェ! そうしないとダメなのォ!」
 支離滅裂な言葉をカイトは叫ぶ。
 何度も謝りながら浩司は後背位でカイトに挿入した。
 貫かれた瞬間、カイトは安堵と歓喜の声を張り上げた。
 やっと、熱望していたモノが体の裡に打ち込まれたのだ。
 ポロリと涙が落ちた。それはカイト本来の心ができる最後の抵抗だった。
「アン、アン、凄いぃぃ……気持ちいいよぅっ!」
 淫乱な少女になりきってカイトは叫ぶ。
 浩司はやがて性欲に支配されて物も言わずに腰を動かすようになった。
 カイトもそれに合わせてむさぼるように腰を動かした。
 熱いペニスに体の中を掻き回される感覚がたまらなく快感だった。
 肉棒を穴に突き込まれて、満たされた気持ちになってる自分をカイトは発見した。
 何度も甘く声を震わせたりするのは、その声で浩司を奮い立たせようとする本能的な行動だった。
 カイトは息を弾ませながら、男の精を搾り取ろうとする女王のように腰を動かした。
 カイトの穴の中も別な生き物のように蠕動して浩司のペニスを締め付ける。
「いい! いいのォ! オチンチン気持ちいい! もっと、もっと犯してぇ!」
 カイトは夢中でまくし立てる。
 まず言葉が出て、後からその意味がぼんやりと頭に入ってくる。
 二人の結合部からはずちゅ、ずちゅと淫猥な水の音がする。
 カイトは自分の乳房を自らの手で愛撫してさらなる快楽を貪った。
(ダメ……止まらない……)
 男が射精を途中で止められないのと同じように、どんなに止めようとしてもカイトは自分の淫らな行為を止められない。


 止めようとする意志すら、女になった自分に圧倒されていまにも吹き消されそうだった。
「オレ……もう……出る……」
 枯れた声で浩司がつぶやいた。
(嫌だ! 中で出すなっ!)
 そう思ったのに、口から出たのは別な言葉だった。
「いいよ……いっぱい出して」
 パン! パン!
 きつく腰を掴まれ、激しく腰を打ちつけられる。
 その荒々しさが、カイトの身も心も痺れさせた。犯されることの快楽に心が染まっていく。
 最後に大きくグラインドして腰を打ちつけると、浩司は「うう」と呻いた。
 カイトの胎内奥深くまでペニスが埋め込まれた。
 その一体感の悦びにカイトはうち震えた。
 ドクン、ドクンと子宮に向かって精液が注ぎ込まれる。
 そのイメージだけでカイトはイッてしまった。
 頭が真っ白になり、うーんと唸ったきりカイトは脱力した。
 高い塔から落ちるような壮絶な快感の中にカイトは放り込まれていた。
 何度もヒクンヒクンと膣が収縮して、男の精の最後の一滴までも搾り取ろうとするようだった。
「カイト……」
 長く尾を引く女のエクスタシーに翻弄されてカイトは返事をすることもできなかった。
 死んだ蝉が落ちるみたいにポロリと浩司がカイトから離れ、床に崩れ落ちた。
 ペニスが引き抜かれるとき、チュポッといやらしい音がした。
「ゲヘヘヘ。二人ともお疲れサン。おかげでいい絵が取れたぜ」
 カイトはくたりと前にのめるように布団に身を投げ出した。
 エクスタシーの波が引いていくと、少しずつ思考力が戻ってきた。
「げ……げすやろう……」
 首だけ沼作に向けてカイトは呟いた。


 沼作は罵られてむしろ嬉しそうにしている。
「へへ、さっそく今のをDVD+Rに焼くとするか。おい、主演女優。こいつをバラ撒かれたくなけりゃ、今後も俺様には何かと親切にするこったな」
「くっ……!」
  女としての痴態を沼作は全て見ていたのだ。沼作の思い通りにその目の前でセックスをしてしまったことをカイトは深く後悔した。
 媚薬のせいでどうしようもなかったとはいえ、カイトは自分が許せなかった。
 屈辱に身を焦がしながら、カイトはティッシュで股間の後始末をした。
 後から後から精液が体の奥からこぼれてくる。
 ティッシュを膣にねじ込むようにして精液を拭いた。
 その行為も録画されてるのだが、だからといって何もしないわけにはいかない。
 脱がされた体操着とブルマを着て、カイトはその場で胡座をかいた。
 まだ媚薬の効果が体内でくすぶってたが、これ以上の痴態を沼作にプレゼントするつもりはなかった。
「そんな目で睨むなよ。これからの生活があるのにその歳でAVデビューは嫌だろうがァ?」
 そのとき不意に、プレハブ宿舎の玄関を叩く音がした。
「来たか……」
 沼作が表のほうに目をやる。
 訪問者が勝手に戸を開け、中に入ってくる物音がする。
 沼作は奥の間の戸を開け放った。
 プレハブに侵入してきたのはムラタだった。
 ムラタはカイトたちの姿を目にして眼鏡の弦に手をやった。
「これはこれは。こんな夜更けに珍しい客人がおいでのようですね」
「ヘヘヘ。一人でノコノコやってくるとはな。手間が省けたぜ」
「手間、とは?」
 冷たい調子でムラタは尋ねた。
「あんたの研究所で何をやってんのか、知りたいって人が上のほうにいてなァ。あんたにはご同行を願おうと思ってたとこさ」
「ほう。見た目通りの素性じゃないのはお互い様といったとこですか。で、あなたの所属は?」


「へへ、バカめェ。訊かれたからって、正体明かすわきゃねーだろ。某国家機関のエージェントとだけ言って……ん?」
 バンッと木の爆ぜるような音がした。
 ムラタの白衣のポケットに穴があいて、そこから白い煙がたちのぼってた。
 ゆっくりとポケットから出した手には拳銃が握られていた。
「トカレフの銃口を切り詰めたものです。命中精度は最悪ですが、この距離ですからね」
 沼作の腹に黒い穴があいていた。
 じわりと穴の周囲に赤黒い染みが広がっていく。
「い、てェ……」
 沼作の体が折り畳まれるようにして床に這った。
 突然のできごとに、浩司はガタガタと震えている。
 ムラタは銃を構えたまま、沼作のボディチェックを始めた。
(今しかない!)
 カイトは飛び起きて走り出した。
 一瞬、ムラタの顔に「しまった」という表情がよぎった。
 カイトはムラタの横を駆け抜けた。
「浩司! おまえも早く!」
 叫んで、走った。
 媚薬の残効でまだ体の芯が痺れたようになっていたが、とにかく手足を動かして走った。
 外に出ると真っ先に木立に駆け込んだ。
 ムラタが後から追ってくる様子はなかった。
 代わりにプレハブの戸が内側から閉ざされた。
 カイトはそれから死に物狂いに木立の間を抜けた。
 気が付いたとき、カイトは学校の塀を乗り越え、月に照らされたアスファルト道路に降り立っていた。
(助かった、のか……?)
 あたりを見回しても追っ手のくる気配はない。
(浩司の奴は、間に合わなかったか……)
 カイトは素足のままアスファルトの道路を渡った。
(これから……どうしよう……)
 途方に暮れながら、それでも一刻も早く学校から離れようとカイトは足早に歩いていった。




(確かここにあったはず……)
 郵便受けの内側に手を差し込んで探ると、カチャリと手に触れるものがあった。
「よし、いつもの場所にあった」
 カイトは周りに人影がないことを確認してそっと合い鍵を取りだした。
 一ヶ月ぶりに戻ってきた自宅は、電気も全て消えて静まり返っている。午前二時過ぎという時刻を考えれば当然だろう。
 自宅……というのは実際の所、正確ではない。叔父夫婦の家だ。
 実の両親が旅先の事故でこの世を去ったのが昨年のことで、今年の春からカイトは叔父夫婦に引き取られる形でこの田舎に越してきたのだ。
 学校から家までの距離は歩いて二十分ほど。
 夜道を素足で歩いてカイトは学校からこの家まで辿り着いた。
 ムラタの仲間が見張っていやしないかという心配は杞憂に過ぎなかった。途中ですれ違ったのは痩せた野良犬一匹だった。
 おかげで、体育着姿で道をウロウロしている姿を誰にも見咎められはしなかった。
 鍵を使って玄関扉を開けようとしたカイトだったが、そもそも扉は施錠されていなかった。
「ったく不用心だな。これだから田舎は」
 カイトは舌打ちした。
 田圃の真ん前に立ってるようなこの田舎くさい家がカイトは大嫌いだった。
 それでも咄嗟に足が向かった先はここだった。いまはとにかく自分の部屋で心の整理をしたかった。
 玄関をくぐって土間から廊下へとあがる。
 ギシギシと床板が鳴った。電灯のスイッチを入れて、カイトは二階へあがっていった。
 一階の寝室では叔父夫婦が寝てるはずだが、起きてくる気配はなかった。
 叔父達が起きてきたとしても、いまの姿をどう説明したらいいかカイトには分からなかった。
 自分の部屋の前まできたとき、壁にあいてた穴がなくなってることにカイトは気付いた。
 この家に来たばかりの頃、うるさく指図しようとする叔母の態度にキレてモルタルの壁を蹴り破った箇所だ。そこが綺麗に修復されてる。

「けっ! 直せるんなら、さっさと直してくりれゃいいのによ……」
 悪態をついて部屋の戸を開けた。
 暗い部屋の中で何かが動いたかと思うと、パッと天井の蛍光灯が灯った。
「ハハ。やっぱりカイト君だった」
「な、な……」
 目の前の人物にカイトは言葉を失って口をパクつかせてしまった。
 カイトの前に立っていたのはもう一人のカイトだった。
 もう一人の……カイト本来の姿をした、つまり男のカイトだった。
「そうか。君は何も事情を知らないんだものな」
「誰だ、あんたは」
「僕は見ての通り、カイトだよ」
「ふざけるな……カイトはオレだ!」
「まあ、そう興奮するなよ」
 男のカイトは勉強机に寄りかかると、机の引き出しから取りだしたタバコに火を付けた。
 紫煙が流れてきてカイトは咳き込んだ。本来のカイトに喫煙の習慣はない。
「さっきムラタさんから、連絡があったんだ。君がこっちに来るかもしれないって」
「ムラタの仲間か、てめぇ!」
「だから、興奮しなさんなって」
 ♂カイトはフウッと煙を吐くと、缶コーヒーの飲み口に灰を落とした。
「僕は君と同じ境遇なんだぜ。ムラタさんによって、本来の体から意識を移植されたんだ。この体に」
「……詳しく話せよ」
「まあ、立ち話もなんだ。君もくつろいだらいいよ。もとは君の部屋だったわけだし」
 ♂カイトは勉強机とセットになった椅子にどっかと腰を下ろした。
 カイトもその場で絨毯の上に胡座をかいた。
 ♂カイトの視線がカイトのあけっぴろげな股間に注がれていたが、カイトはそれに気付いてなかった。


 カイトの胸と股間を交互にちらちらと眺めながら♂カイトは話し出した。
「僕はもともと隣町の大学に通う学生だったんだ。ところがある日、偶然“研究所”から脱走した女の子を拾ってね。追われてるから助けてほしい、とそう彼女に頼まれたんだ」
「それで?」
「僕は重大事件だと思って警察に通報したよ。僕は知らなかったんだ。この鄙びた村であの“研究所”が特別な存在だということをね」
「警察がこなかったのか?」
「来たさ。で、駆けつけた警察官に変な薬を嗅がされて、気が付けば“研究所”に拉致されていたよ。あれは、偽物の警官だったんだろうな。あるいは本物の警官が協力してたのか。ま、今となっちゃどっちでもいいけど」
「あんたも女にされたのか?」
「いいや。僕は脳髄と神経系だけを取り出されて、薬液にプカプカと浮いてた。あれは地獄だな。視神経は接続されてるから外の様子は見えるけど、体は奪われた状態だ」
 その様子を想像してしまいカイトはゴクリと喉を鳴らした。
「人工的に苦痛を与えられたり感情を操作されたり、散々実験された挙げ句、自分の名前や住所の記憶まで消されちまった。
 一生そうやってモルモットにされるかと思ってたところ、ムラタさんの気まぐれでこうして君の体に移植してもらえたのさ。いや、体があるってのはいいことだよ、実際」
「ふざけるな! それはオレの体だ!」
 激昂してカイトは♂カイトに掴みかかった。
「おっと。叔父さんに聞いてた通り、典型的なキレやすい少年だな。いや、いまは少女か」
 ドンッと胸を突き飛ばされてカイトはよろよろと尻餅をついてしまった。
 女の身の非力さをカイトは恨んだ。
「僕がどうして君の『抜け殻』に移植されたかわかるかい? 君が消えたままじゃ不審に思う人がいるといけないから身代わりを務めてるんだよ。
 研究所との契約で、高校卒業後は僕の自由に生きていいことになってるけどね。
 それと、もうひとつ。僕は見張り役も命じられてる。本物の君が何かのはずみでムラタさんから逃げ出してきた場合、この家に立ち寄る公算が強かった。


 だから君を見つけたときはただちにムラタさんに一報入れることになってるんだ」
 ♂カイトがニィと笑う。
(嵌められた!)
 そう悟るとカイトは立ち上がって、一目散に逃げ出そうとした。
「ククク……」
 ♂カイトはあえて追う素振りも見せず、笑っている。
 カイトは部屋の戸を開け放って廊下に飛び出した。
 そこでカイトの足は止まってしまった。
 廊下を塞ぐように叔父と叔母が寝間着姿で立っていたのである。
「ほう。これが、あのカイトね。なるほど憎たらしかぁ面構えはそのままじゃ」
「ほんなこつ、男好きしそうな小娘のナリになって、まあ」
 かつてはカイトの暴力の前に小さくなってた二人が、別人のようにカイトを見下していた。
 カイトが二人いて、その片方が女であることへの驚きは微塵も感じられない。
「あんたら……どうしてオレのことを!?」
「頭ん弱か子たいね。ワシらは全部事情聞いて知っとうとよ。そっちの本当のカイトから教えてもろうたけん」
「本物のカイトはオレだ!」
 ♂カイトと同様、叔父もニィと嫌な笑いを浮かべた。
「ワシらにとって本物のカイトはあっちじゃけん。なんせ、あっちはバットで儂らを殴ったりせん。勉強もできるし儂らの言いつけをようけ守りよったい。可愛い甥っ子じゃ」
「そういう問題じゃねェだろ! 犯罪じゃんか、これって!」
「犯罪? 犯罪ちゃなんね。おまえんごつ戸籍もなか身分もなか小娘の言うこつば、誰が聞く耳持つとね?」
「う……あ……」
 叔父夫婦の態度を見てカイトは悟った。
 彼らは心の底からカイトを憎んでる。彼らにとっては、もう一人のカイトこそが本当の甥っ子に違いないのだ。
 いままでの自分自身の行いを振り返れば、当然の報いだった。カイト自身にさえそう思える。


 叔父たちのカイトを見る目つきは、うじ虫でも見ているかのようだ。
(そうだよな……オレ、愛されるようなことは何一つしてねェもんな……)
 この家のどこにもカイトに味方する者はいない。
 その認識にカイトは脱力してへなへなと蹲ってしまった。
 叔父の手がカイトの首根っこを掴む。
「ムラタさんトコに突き出すか」
(もう駄目だ……)
 カイトは観念して目を閉じた。
「待って下さい、叔父さん。そう性急に事を運ぶこともないですよ」
 意外にも♂カイトが叔父を諫めた。
 ♂カイトがやってきて子供でもあやすようにカイトの髪を撫でた。
「君がある特別な条件を呑むなら、特別に君のことをムラタさんに黙っててやってもいいんだぜ」
「特別な条件……?」
 ♂カイトは部屋の衣装箪笥をごそごそと探ると、ハンガーごと一着の服をとって戻ってきた。
「何だと思う? これなんと本物のメイド服だよ。“黒毛和牛”ってエロゲーのブランドがあるんだけどね、そこから発売された『はじめてのお手伝い』略して『はじてつ』の初回購入特典で応募してゲットしたメイド服なんだ!」
「てめぇ、オタかよ!」
 押しつけられたメイド服を苛立たしげにカイトははたき落とした。
「あー、ダメだよ。粗末に扱っちゃ……」
 ブツブツ言いながら♂カイトは廊下に落ちたメイド服を拾い上げる。
「これは君が着る衣装なんだからね?」
「ふざけんな」
「ふざけてないよ。さっきの条件ね。君が、この家の住み込みメイドとして働くことが条件。嫌ならいいよ。そのときは……」
 と、♂カイトは携帯電話を取り出す。
 脅しではなくいまにも♂カイトはリダイヤルボタンを押しそうだった。


 カイトは理解した。彼らにとってカイトは、いてもいなくてもいい存在。ムラタに引き渡したところで痛くも痒くもないのだ。
 途端にカイトは激しい恐怖に襲われた。
 あの凌辱の日々に戻りたくない。
 その一心で叫んでた。
「なる……なります。メイドにでもなんでもなります! だから、オレをこの家に……」
「ンン。ナイス返答。叔父さんたちも異存はないよね?」
 叔父夫婦は頷いた。
「よし、契約完了だ。さっそく君の名前を考えないとな」
「え?」
「だって、そうだろ。僕がカイトなのに同じ名前のメイドがいるなんて変じゃないか。そうだな……うん、『ポチ』にしよう。今日から君はポチだ」
「そんな……」
「ポチ。さっそくメイド服に着替えてもらおうか?」
「え、待ってくれ、その……!」
 ♂カイトが携帯電話をこれみよがしに弄ぶのを見て、カイトは命令に従わざるを得なかった。
 覚悟を決めると、体育着の上からメイド服をもぞもぞとはおった。
 紺色のパフスリーブのワンピースにフリル付きのエプロンが縫いつけられたメイド服は、実用よりも美観重視のデザインである。
 慣れない背中のファスナーや胸元のリボンタイの結び方に四苦八苦し、なんとか服に袖を通すと、さらに頭に付けるヘア・タイを渡された。
「それを頭に付けてなきゃメイドさんとは言えないもんね。本当はキューティーハニーみたいなチョーカーも付けて欲しいんだけど、君の場合、首輪が邪魔で無理だよね。残念」
 ♂カイトの中身が真性のオタクであることをカイトは確信した。
 叔父夫婦の目は相変わらず冷ややかだ。
「これでいいんだろう?」
 着替えを終えてカイトは恨みがましそうに♂カイトを見た。


「よし。その格好で両手をエプロンの前に添えてお辞儀して、こう言うんだ」
 口上を伝えられてカイトは一瞬、本気で殺意を抱いた。
 もちろん、いまの状況で逆らうことなどできはしない。
 カイトは屈辱に体をわななかせながら、観衆と化した三人の前で深々と御辞儀をした。
「……わ、私のような取るに足らない小娘をこの家に置いて下さるどころかメイドとして使って頂けるという望外の光栄を賜りましたことを深く深く感謝いたします。
 どうぞこの卑しいメイドに何時なりと何なりとお命じ下さい。必ずや御主人様がたのために不肖のメイドの身ではありますが、全身全霊を尽くす所存で御座います……」
 何度も舌を噛みそうになりながら忠誠の口上を口にしているうちに不覚にも悔し涙が出てしまった。
 涙を悟られないようにカイトはますます深く頭を下げ、顔を隠した。
「上出来だよ」
 と♂カイトが手を叩く。
 叔母は吐き捨てるようにいった。
「フン、お情けでおいてもらってること忘れるんじゃなかよ? 少しでもつけあがった態度とるようじゃったらすぐんでもムラタさんとこに引き渡すけんね」
「は、はい……」
 カイトは、叔母に向かってしおらしく頭を下げてる自分が信じられなかった。
 住み慣れた我が家でメイドの『ポチ』としての生活が始まったのである……。

 カイトの寝所は♂カイトの部屋の一隅に作られた。
 つまりは元々の自分の部屋に寝起きすることになったわけである。
 床に古物のマットを置いただけの一畳にも満たないスペースが寝床だった。
 ご丁寧に『ポチのベッド』と書かれたボードが側の壁に掛けられている。
 壁の出っ張りにメイド服をハンガーで架けると、カイトは与えられたタオルケット一枚にくるまって横になった。
 狭いスペースで丸くなって目を瞑ると、なんだかポチという名に相応しいペットにまで落ちた気分だった。
 それ以上思い悩む暇もなく、すぐさま猛烈な睡魔がやってきた。


 どんな形ではあれ、ムラタの監視を脱して身の危険を感じずに眠りに就くことができたのだ。
 久しぶりに夢も見ないほどぐっすりと眠った。
 次に目覚めたとき、すでに時計は八時を回っていて、叔父夫婦は家を出た後だった。
 叔父夫婦は共働きで、二人とも農協に勤めている。
 カイトを起こしたのは♂カイトの声だった。
「ポチ! ポチ子! いつまで寝てるんだ」
「……誰がポチだ……」
 目をこすりながら寝ぼけた声でカイトは応じた。
「君が・ポチ・だろ!」
 グイと首輪を掴んで強引に起こされ、行きがけの駄賃のように胸を揉まれた。
「あうっ、ああっ」
 ぐにぐにと乳房の感触を満喫する♂カイト。
 乳首のピアスとチェーンが擦れ合って音を発した。
 ♂カイトはカイトの体操着のすそをまくってカイトの生乳を露出させた。
 セックス人形の烙印ともいえるピアスとチェーンが♂カイトの目に晒される。耳のピアスは言わずもがなである。
「やっぱりな。研究所で飼われてた子は大抵こういうの付けられてたからな」
「放せよ!」
 カイトは♂カイトの腕から逃れようとしたが、まるで身動きがままならなかった。
 ♂カイトは平気で胸のピアスに指をくぐらせて弄んでいる。
 他人に見られてると意識するだけで乳首がふっくらと立ち上がってしまった。
「ポチは淫乱だな」
 その反応を見逃さず、♂カイトが揶揄する。
「違う……この体が勝手に……」
「うるさい、口答えするな。メイドのくせに寝坊した罰としてこのセリフを三度言え!」
 とカンペを渡される。
 カイトは自分の危うい立場を思い出して、仕方なくいわれた通りにした。
「ポチはイヤらしいメス犬です。ポチはイヤらしいメス犬です。ポチは……」


 内心では何度も「糞! 糞!」と叫んでいた。
「よし。分かったら、着替えろ」
 指図されるままにカイトはメイド服を着込んだ。
 髪留めに使うメイドのヘア・タイは寝る前に外すのを忘れていて、そのまま頭についていた。
「今日から、家人がいるときは特別な指示がない限り、常にその格好でいること。これもルールの一つだよ」
「はい……」
 憮然としてカイトは答えた。
 ふと、壁に貼ってあったポスターが目に入る。自身では貼った覚えのないものだ。
 アニメかゲームのポスターで、絵の中ではファンタジーの勇者がメイドを従者にして魔物と戦っている。
(こいつ、オレの部屋にこんなもん……)
 ♂カイトの趣味が良くわかる代物だった。
「さて、僕もそろそろ学校にいかなくちゃ。いまの僕は高校生だからな」
 ♂カイトはそっくりカイトになり代わっていて、学校にもまじめに通っているらしい。
 ♂カイトは思い出したようにカイトに一万円札を手渡してきた。
「僕が帰ってくるまでに、女物の下着をこれで揃えておけ。いつまでも薄汚れた体育着を下に着てるわけにはいかないだろ。ちなみにこれは命令だ。あと生理用品なんかも必要なら買っておくんだな」
「でも、外に出てムラタに見つかったら……」
「近所にサニーマートがあるだろ。遠くへ出歩かなきゃ心配ない。このブロックは僕がいることで、逆に見張りの網から外れてるんだ」
「あのさ……男物買ったらダメか?」
「あのねぇ。どこの世界に男物の下着つけたメイドがいるんだ。ポチ子のそのエロい体に合うような女物を買ってくること。いいね?」
「あン!」
 グリグリと指で乳房を押されてカイトは喘いだ。
 こんなときの反応が女らしくなってきてるという自覚はあった。ただ、自覚していても止めようがない。


「あとでちゃんとチェックするからな」
 念を押してから、♂カイトは学校へ出掛けていった。
 一人残されたカイトは、空腹を覚えて一階へと降りた。
 食卓にはパンが残っていたので、トーストにして食べた。
 女になってからは胃が小さくなってるらしく、トースト一枚と牛乳を飲んだだけで腹が一杯になってしまった。
 粗末ではあっても、久しぶりに人間らしく飲み食いをしたという小さな満足感があった。
 そのとき台所の開け放された窓から、学校のチャイムが聞こえてきた。
 カイトの高校ではなく、近所の小学校だ。
「うっ!」
 ずくん、と両脚の間に熱い疼きを感じてカイトはそこを両手で押さえた。
「ちくしょう……あの音聞くと、体が……あはぁぁっ」
 とろとろと秘所が潤ってくるのが見ずとも手に取るように感じられる。
 カイトの体は望まない条件反射を植え付けられていた。チャイムの音に反応して自動的に発情してしまう。それは自身の意志ではどうにもできない。
 乳頭がピンと立ち上がってメイド服の上からでもかすかに分かってしまうほどだった。
 熱に浮かされたような顔つきでカイトはスカートの中に手を潜らせていた。無意識のうちに胸のふくらみを食卓の端に押しつけている。
 股間のせつない疼きを散らそうとするように熱くほてった場所を指で擦った。
「ふぁぁぁぁっ! ああ……」
 足の指がきゅっと折れ曲がった。
 自分自身の反応でカイトは我に返った。
 浅ましく女の躰でオナニーしようとしてる自分に愕然としてしまう。だがそのときもう一度チャイムが鳴った。
「あぁ、嫌! ダメ、感じるなぁっ……ううっ、ああああぁぁぁ……」
 拒もうとしても否応なく強い疼きが襲ってきた。
 旧校舎ではこんなとき、すかさずバイブを挿れられていた。
 カイトの秘所がピクンピクンと物欲しげに蠢いた。
「くそぅ……セックス人形になるなんて嫌だぁ……くふぁっ!」


 快感に耐えようとしてキュウと脚を閉じ合わせた。それでも耐えきれず、両手で股間を強く圧迫して快感に応じてしまった。
「んっ……」
 小さなアクメの波が訪れ、カイトはかすかにだが切ない吐息をこぼしていた。
 理性の働きがなければこの場で全裸になって秘裂の中に指を突き立て、掻き回していただろう。
 発情した躰と理性がせめぎ合う間、カイトの指は布越しに弱々しく股間を押さえ込んでいた。そうしているだけで少しは楽だった。
 ひたすら体の火照りがおさまるのを待った。
 チャイムの音ひとつでこんなにも淫らに反応してしまう体は、まるでカイトのものではないみたいだ。
 首輪やピアスが示すように、カイトの所有者はいまだにムラタなのである……。



 必死で耐えるうちにようよう疼きは薄れていった。
 何度も深呼吸して、なんとか平常の状態に戻ることができた。
「ハァ。これからどうしよう……」
 カイトはずぶずぶと椅子に沈むようにして物思いに耽った。
 どうしようと考えても、どうするアテもありはしない。
 再びムラタの手に落ちるのがイヤならば、この家でメイドとして働く覚悟をしないといけないのだ。
 昨夜の脱出劇が思い出される。
 浩司は、あれからどうなっただろうか。
 理由はどうあれ、浩司のおかげでカイトはあの地獄から抜け出すことができた。
 その恩人ともいえる浩司のことが気に掛からないといえば嘘だった。
 そして、葵。
 葵のことを考えるとわずかに胸の鼓動が早くなるような気がした。
(お人好しな女だよな。オレなんかのことを気に掛けて……)
 葵は自分のことを探してくれるだろうか……。
 葵の存在に救いを求める自分がいる一方で、そんな甘い考えを冷笑する皮肉めいた気持ちもあった。
(葵がオレに気があったとしてもだ。いまのオレは女で、男の『カイト』が別にいやがる。葵が『カイト』よりオレを選ぶ道理なんざねぇよな……)
 メイド服を着せられた自分の姿を見下ろして、カイトは自嘲気味に鼻を鳴らした。
 こんな格好をしていて、生理もきてしまうような「女」に、葵が恋心を抱くと思うほうがどうかしている。
 心の整理がつかないままカイトは顔を洗った。
 それからトイレで用を足そうとして、いつもの習慣で便座を上げてしまいカイトは舌打ちした。
 体の構造に従って便座に腰を下ろすことしかカイトには許されていない。それがどんなに屈辱であっても。
 小用のときについペニスを探してしまう癖は消えつつあった。

 女性器の感覚が身に染みつくにつれ、無意識にそこにペニスをイメージすることはなくなっていた。
 旧校舎のトイレが和式だったため、洋式トイレでの習慣だけはそのまま残っていたというわけである。
 ジョロジョロと短い尿道を通って鼠径部から直接、尿が排泄される感覚も今ではすっかり慣れてしまった。
 ただ、スカートの裾をたくしあげた格好での排尿は初めてのことだった。
 スカートに気を使いながら用を足す姿は我ながらひどく女々しく思えた。けれど、体の構造と服装のせいで、女らしい仕草になってしまうのはどうしようもない。
 女の体を自覚させられるという意味では、一日数度の排尿は毎度拷問のようなものだった。
 それでも、カイトが女として排泄してる様子を見物し囃し立てるクラスメイトたちはここにいない。
(少なくとも、好きなときに顔を洗えてトイレにもいけるだけ、旧校舎に繋がれてたときよりゃマシだな)
 トイレから出て手を洗ってると、ヘルパーの女性がやってきた。
 叔父夫婦が共働きのため、週に三日、ヘルパーがきて掃除洗濯をやってくれるのである。
 カイトの顔を見るなりヘルパーの女性はいった。
「ああ、あんたカイト君の従姉妹さんね」
「……は?」
「お話は伺ってますよぉ。ずっと入院生活だったとでしょ。大変やったねぇ。こっちゃ田舎で空気もキレイじゃけんゆっくり養生してくとよかよ」
 叔父たちはカイトのことを東京からきたカイトの従姉妹として、でっちあげの説明をしていたらしい。
 病弱な少女でリハビリのため田舎に預けられてる、とそういうことになってるようだ。
 女性は大らかな性格なのか、カイトのメイド姿を特別気にする様子もない。
「そんじゃまずは洗濯から始めよっかね。こっち来んね」
「オレに手伝えっていうのか?」


「奥様から聞いちょるよ。あんた、入院生活長かったから、家事を一から勉強したいとでしょ? 女の子なのに家事もできんかったら将来恥ずかしいもんね。私が責任持って、みっちりと教えてあげるけんね」
「マジかよ……」
 それから昼下がりの時間まで、カイトはさんざん慣れない掃除洗濯を手伝わされてぐったりとしてしまった。
 時計を見ると、二時前だった。
 学校では五限の授業の最中だろうか。
 あれほどサボりまくってた学校が懐かしく思えるというのも皮肉な話だった。
 いまごろはもう一人のカイトが何食わぬ顔で授業を受けてるはずだ。
 それに引き換えカイト自身はこうしてメイドの生活だ。
 人生を丸ごと盗まれたにも等しい。
 洗面所の鏡でメイド服を着た自分の姿と対面してカイトはため息をついた。
 そのとき、♂カイトに渡されてた一万円のことを思い出した。
 ♂カイトの帰宅までに買い物をしてこないといけない。
 女の衣類なんぞ買いたくはなかったが、♂カイトの帰宅まであまり時間がない。迷ってる暇はなかった。
「チッ。さっさと用事を済ましちまうか」
 一万円札を握りしめて家を出ようとして、はたとカイトは足を止めた。
「オレ……この格好で外に出るのか?」
 冗談じゃない、とカイトはメイド服を脱ぎ捨てた。
 だが、その下の体操服姿も充分に他人に見られるには恥ずかしい格好である。
 カイトは自分の部屋に駆け上がると、箪笥から適当なTシャツとデニムを引っ張り出して身につけた。
 男物のTシャツはいまのカイトが着るとダブついたサイズになってしまう。
 鏡と向かい合ったカイトは思わず、
「エロぇ……」
 と呟いてしまった。
 Tシャツの襟ぐりが大きすぎて、胸の谷間が堂々と露出している。


 しかもピアスの部分がシャツの布地に浮かび上がって自己主張しまくっている。
 私は女です、どうぞ見て下さいと言わんばかりの姿だ。
「そうだ!」
 カイトは救急箱を探し出すと、包帯を取りだして胸に巻いた。漫画などでよく見るようにサラシで胸を押し潰すことにしたのだ。
(うまくすりゃ、見た目、男に見えるようになるかも……うっ、さすがにだいぶ息苦しいな)
 胸を圧迫されて苦しいのを我慢し、何重にも包帯を巻いて胸を覆い隠した。
 その上からTシャツを着ると、なんとか胸のふくらみが外に出ずに済んだ。
 次に下半身だ。
 デニムをそのまま穿くと、尻の部分はパンパンに張り詰めるほどにきついのに、丈はダブついてしまう。丈に関しては、裾を折ってなんとか対処した。
 さらに首輪を隠すためにバンダナを首に巻いた。
 改めて鏡を見てみて、カイトはううむと唸った。
 鏡に映る姿はカイトの期待に反して、あまり男らしくはなってなかった。
 せいぜい、凛々しい男装の美少女といったところだ。
「くそっ。ま、何もしないよりゃマシか」
 カイトは金をポケットに突っ込んで外に出た。
 外に出ると、ムラタの仲間に見つからないかと途端に心配になった。
 田圃沿いの道から少し広い道に出ると人通りもあって、カイトは用心深くあたりに気を配った。
 行き交う人々がカイトのことを気にも留めず通り過ぎていくので、ようやく肩の力が抜けた。
 考えてみれば、女にされて以来、人通りの中に出るのはこれが初めてだった。
 カイトは歩調を早めてスーパーへ向かった。
 真っ昼間のスーパーは買い物の主婦がまばらに出入りしてるだけで空いていた。
 店内に入ると、すぐに衣料品売り場へ直行した。
(ここらか……)
 下着コーナーで女物のカゴの前に立つと、想像以上のプレッシャーが襲ってきた。


 自分が女物下着を漁る変態に見られてるような気がして、店員の視線が冷たく感じる。
 そもそも女の下着を自分が買おうとしてることが信じられない。
 しばらく売り場でうろうろしてると、店員が近寄ってきた。
「何かお探しでしょうか?」
「その……下着を……」
 しどろもどろになって答えると、店員はにこやかに微笑んでカゴを手で示した。
「こちらの商品はバーゲン品でお得になっておりますよ」
 店員が示したのは女物のカゴだった。
 そのことでカイトは自分が女として認識されてることをはっきりと知った。
 いくら胸を圧迫してても腰の肉付きや手足の華奢さ、声の高さなど全て少女のものでしかないのだ。
 カイトは思いきって店員に尋ねてみた。
「下着を何着か、当分困らないだけ買いたいんだけど」
「はあ……ええと、物によりまして大分お値段のほう、違ってしまいますがどう致しましょうか?」
「一万で釣りがくるくらいがいい」
「左様でございますか。それでしたら……」
 カイトは国産品下着のディスプレイの前に連れてこられた。
 何種類かのブラジャーとパンティが胴体だけのマネキンを使ってディスプレイされてる。
 どれを選ぶかと訊かれてカイトは心底困惑した。買いたい下着などあるわけがない。
 男物のシャツとトランクスだけ適当に買って帰れたらどんなに気が楽だったろう。
「すいません、適当に良さそうなの、お願いします」
「そうですねぇ。最近の人気商品ですと……」
 店員は幾つかパンティを手にとって棚の上に並べて見せた。カイトはそれを全て一着ずつ買うことにした。
「あとはブラですと、こちらのタイプが若いかたには良く売れてますよ。いかがでしょうか?」
 と、マネキンの胸を指した。


(なんでオレがブラジャーなんかを……)
 カイトはろくに商品を見もせずに、頷いた。
 それで全て済んだかと思っていたカイトは、店員にバストのサイズを聞かれて目を白黒させた。
 自分のバストのカップやまして正確なサイズなど知るはずもない。知りたくもない。
 すると店員はメジャーを持ち出してきた。
「それでは失礼してお客様のサイズをお計り致しますね」
「え、あ、うぅ……」
 そのまま試着室へと連れ込まれてしまった。
 店員は戸惑うカイトの胸にメジャーを当ててきた。そこで店員はカイトの胸のサラシに気付いて首を傾げた。
「あのお客様、こちらのサラシを一度ほどいていただいて宜しいでしょうか?」
「い、いや! これは……」
 カイトは口ごもった。サラシを外したりしたら、胸につけられたピアスとチェーンまで見られてしまう。
「ですが、トップとアンダーのサイズをお測りしませんと。着心地にも影響しますし」
「いまコレは外せないんで、適当なサイズでいいよ」
「そうですか……。でも、お客様のだいたいのバストサイズでも分かりませんと……」
「うぅ……このくらいだよ。だいたいこんなもん」
 苦肉の策でカイトは手の平で見えない乳房を包むようにして大きさを伝えた。
「そうですね……それですとE〜Fカップってとこでしょうか」
 店員は先ほどまでカイトに勧めていた寄せて上げるタイプのブラを引っ込め、代わりに大きめのカップサイズのブラを持ってきた。
「いかがでしょう。別なタイプもご覧になります?」
「そ、それでいい」
 顔から火の出るような思いでカイトはブラジャーを受け取った。
 レジでブラとパンティの入った包みを受け取ると、カイトはそそくさと売り場を離れた。
 ほっと一息ついたとき、Tシャツの売り場が目に入ってきた。
(そうか。サイズの合う服が必要だよな。昔の服はもう……)


 売り物のシャツを手にとってみたが、明らかに男物のサイズだった。
 ♂カイトの言葉を思い出して、カイトは渋々女物のコーナーのほうに移動した。
 フェミニンなデザインの物が多い中から、なんとかユニセックスな風合いのシャツを選び出し、レジに運んだ。
 ポケットにはまだ充分な額が残ってる。
 同じようにしてコットンのハーフパンツを一着買ってから衣料品フロアを離れた。
 最後にまだ一つだけ買い物が残ってる。
 日用品売り場でカイトは生理用品の棚を前に固まってしまった。
(こんなもん買いたくねえ……!)
 しかし、生理で股間に血を流した記憶はまだ生々しく残ってる。
 生理用品がなければ日常生活すらままならなくなることは思い知らされたばかりだ。
 肉体が女である以上、それらは必需品である。
 惨めな気持ちになりながらカイトはナプキンとタンポンを一箱ずつ買った。

 カイトが家に戻ってくると、ちょうど♂カイトも学校から戻ってきたところだった。
「ふうん。買い物してきたのか」
「ああ」
「でも、それはオレの服だぜ」
 カイトの服装のことを♂カイトは指摘した。
(元々はオレのだ!)
 そう言い返したいのをこらえてカイトは頭を下げた。
「ポチ子は女の子なんだから男物着てちゃおかしいだろ。早くメイド服に着替えなさい」
 カイトの買ってきたものを吟味しながら♂カイトは頭ごなしに命令した。
 買い物袋の中からブラを発見して♂カイトはそれを引っ張り出した。
「ポチ子はオッパイでかいよなぁ、可愛い顔してさ。おっと、基本的にはいまオレも同じ顔だっけ」
 ♂カイトとカイトの顔は同じ遺伝子だけあって双子のように良く似てる。ただ、カイトのほうが女性ホルモンの影響かやはり睫毛が長く唇も幾分ふっくらしている。


「オレさ、昔はブサイクだったから、顔にコンプレックス持ってたんだよね。この顔になれて人生バラ色だよ」
 ♂カイトは学生服のままタバコに火を付けた。
(ちっ。オレの肺を勝手に汚すなよ)
「こんな美形になったおかげでエロゲー買うときも『モテないオタク』なんて後ろ指さされないで済むし」
(エロゲー買う時点で後ろ指さされてるぜ。くそ、オレの顔でそんな店に出入りしやがって……)
「ポチ子。これからは必ずブラをつけ忘れるなよ」
 メイド服を着ようとするカイトに♂カイトは新品のブラとパンティを放ってきた。
 カイトが背を向けて着替えようとすると♂カイトは自分のほうを向いて着替えるようにと言ってきた。
(くそ! くそ! くそ! こんな変態野郎の言いなりに!)
 どんなに忌々しくても言われたとおりにするほかなかった。
 ♂カイトの粘っこい視線に体中を舐め回されながらカイトは全裸になった。
 小さな震動でいちいち胸と胸のチェーンが揺れるのを見て♂カイトは大はしゃぎしている。
 何も感じない振りをしてカイトはパンティとブラを付けていった。その下着姿の上から直接ワンピースのエプロンドレスを着た。
「……これでいいんだろ?」
「口のききかたがなってないメイドだなぁ。僕のことは御主人様と呼べよ」
「……御主人様」
 棒読み口調でカイトが答えると♂カイトは苦笑した。
「ま、いいか。ポチ子、お茶いれてきて」
 カイトは台所へいって慣れない手つきで緑茶を淹れると、湯飲みを♂カイトに運んだ。
「うむ、御苦労。いやぁ、メイドのいる生活っていいもんだねぇ」
「あのさ、風呂入ってきていいか?」
 思いきってカイトは尋ねてみた。
 昨日以来、ずっとシャワーを浴びたくて仕方がなかったのだ。


 ♂カイトは案外あっさりと承知してくれた。
「ただし! その前に命令だ」
 ……命令の内容を聞いてカイトは顔をしかめた。
「早くしろ!」
 せかされてカイトはその場に正座した。スカートの裾が床に広がる。
 ♂カイトはいそいそとカイトの膝に頭を乗せてきた。膝枕の態勢だ。
 ♂カイトはじっとしておらず、カイトの股のあたりに顔を埋めてクンクンと匂いを嗅いだりした。
 あわててカイトはぴたりと両脚を閉じた。
「ん〜。生の女の子のニオイも悪くないね!」
「くっ!」
 カイトは手にした耳掻きを思いきり♂カイトの耳の穴に貫通させそうになった。
「ご、御主人、様……横、向いてくれないと!」
「そうだったね。失敬、失敬」
 カイトは命令通り、♂カイトの耳掃除を始めた。
 カリカリと耳掃除されて♂カイトは気持ちよさそうに目を細める。
(畜生! なにやってんだ、オレ!)
 メイドのコスプレで男に奉仕させられてる。
 自分自身の情けない姿がカイトにはショックだった。
(このままメイドになっちまうのか、オレは……)
 メイド服で奉仕する自分の姿を意識してしまうと、男としての自意識が崩れていく。どうしても強く自分を「女」として認識してしまう。
 それでもカイトは抗った。
(違うぞ。本当のオレは女に奉仕される側だ! 女を屈服させて言うことを聞かせる側だ!)
 これは仮の姿に過ぎない、と何度も自分に言い聞かせた。
 そうしないと、自分という存在がこの世から消えてしまいそうだったからだ。
 女の体つき、声、服装、生理。カイトが「カイト」であったことを証立ててくれるものは何一つない。他人の、女の、肉体。


 カイトの心が偽りの器に屈したら、自分がこの世に生きてきたという証は何もなくなってしまう。それが何よりも怖かった。
 メイドとしての屈辱の奉仕は小一時間続いた。
「もういいぞ。気持ちよかったよポチ子」
「……はい」
 ようやく耳掃除から解放されて、カイトは風呂場に向かった。
 かつては自宅だった家だ。勝手は分かってる。
 一ヶ月ぶりの懐かしい風呂場……
 忌々しい女物の服を脱ぎ捨てて裸になり、シャワーの栓をひねった。
 勢いよく湯が迸る。熱いシャワーに打たれるのはひどく心地良かった。
 監禁生活のあとではこんな些細なことがひどく贅沢に思える。
 重苦しい気持ちも少しは流れ落ちていくようだった。
「うー、極楽」
 カイトは喉を鳴らした。
 そして柄にもなく思い詰めていたことを少し反省した。
「……ぐだぐだ悩んでもしかたねぇよな。今は素直にメイドの振りしてんのが一番だ。それで、じっくり状況を見極めて作戦立てりゃいいよな」
 そうやって割り切ってしまうとだいぶ心が軽くなった。
 しげしげと自分の体を観察する余裕も生まれてくる。
 シャワーの水滴が乳房の形に沿って流れていくのが、くすぐったく、同時に少し気持ちよくもあった。
「女の肌って、無駄に敏感なんだよ……」
 男だったときより皮膚全体が鋭敏になっていてシャワーの刺激を受け止めている。
 シャワーのヘッドを直接胸に向けると、勢いよく湯を浴びせられたバストがゴム鞠
のように小刻みに弾んだ。
 水流の当たる刺激でぷっくりと乳首が立ってきた。それによってピアスも持ち上がる。
「あン、これ邪魔っ……」
 カイトは指でピアスを摘んだ。
 セックス人形であることを常にカイトに自覚させる。その目的のために取り付けられたピアス。


 それは堅固に封環されていて、自力ではどんなに頑張っても外すことができない。
 いわば烙印のようなものだ。
 ピアスに加えてチェーンまで付けられて装飾されてしまった情けない姿が、風呂場の曇った鏡に映っている。
 何気なくピアスを引っ張ると、しこった乳首が刺激されてツンと甘痒い快感が胸に生まれてしまった。
「ひゃんッッ!」
 慌ててピアスから指を離した。憎い相手に施されたピアスで快感を貪ってしまうなど、情けなさ過ぎる。
 ピアスのことは頭から追い出して丹念に全身を洗い流していった。
 女の体が全身性感帯だというのは本当だった。
 体中どこにシャワーがあたっても、やわらかな快感が生まれる。
 そして脚の付け根にシャワーを当てたとき、体に電流が流れた。
(うあっ……すげぇ気持ちいい……)
 女がシャワーでオナニーをするというのは、昔聞きかじったことがあった。
 なんでシャワーなんか使うのか、と当時は不思議に思ったものだった。
 それが、女の体で実際に体験してみるとたまらない心地よさだった。
 男では絶対に味わえない、じれったいような体の中を直接くすぐられるような不思議な性的快感が湧いてくる。
「ンッ、ンッ、うぅぅぅぅん……」
 カイトは自分が快感に呻いてることにすら気付いてなかった。
 秘芯に突き刺さるような水流が気持ちよくて、シャワーの位置を変えることができなかった。
「あはァ……うくっ、オレ、何やってんだよぅ……」
 初めてオナニーを覚えてしまった少女のようにカイトはその行為を止めることができずにいた。
「くふぅ……ダメぇ、力が抜けるぅ……」
 腰が抜けたようになってカイトはペタンと浴室のタイルに尻餅をついてしまった。
 両脚がMの字に開く女の子座りの姿勢になっている。


 体の中で何かの圧力が高まってくる感じがある。
 いままで何度も強制的に味わわされてきた感覚だ。
 カイトはそうっと股間を手で撫でた。
 もちろん、そこに男の象徴はない。
 スースーとする寂しげな股間に、ひっそりと女の器官が埋め込まれている。
 さんざん刺激されたラビアは充血してぽってりとした手触りになってる。
 上のほうに向かって指を滑らせると、プクッとふくらんだ小さな突起に当たった。
 皮をかぶせた上から弱くこするだけで、ペニスを擦るのに少しだけ似たきつい快感が迸った。
 その快感に、体の奥で子宮が反応したような気がした。
 急激に股間にせつなさを覚える。
 そこに何かを受け入れたいという女の体だけが持つ欲求。
 意識せずにカイトは座った姿勢のままで股間にシャワーを向けていた。
 欲しかった場所に突き刺さる水の槍。貫かれるイメージにカイトの体は熱くなった。
 体の中の圧力がどんどんと高まる。抑えようがないほどに。
 白い波が来る……
 自らにとどめを刺すようにシャワーのヘッドをより近づけた。
 クリトリスやラビア、その周辺が満遍なく水の愛撫を受け、チリチリと焦げそうなほど性感が高まった。
 最後の瞬間はあっけなく訪れた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ……!!」
 カイトは耐えるように目を瞑ってイク瞬間を迎えた。
 意志を離れて体が仰け反り、こむらがえりでも起こしたようにキュッと足先が曲がった。
 ピク、ピク、とエクスタシーの余韻で下腹がひくつく。
 いつのまにかシャワーヘッドはカイトの手を離れてタイルの上に落ちていた。
(あれ……)
 ピンク色の霧に染まりきっていた頭が少しずつ晴れていく。
(いまの……オナニーしちまったのか……?)
 オナニー以外の何物でもない。


 それでもカイトにはいまひとつオナニーをしたという実感が薄かった。しっかりとイッたにも関わらず。
 いまのオナニーが男のときのそれと比べてあまりにも異質だったからだ。
 ペニスのイメージを必要としない、完全な女の本能に基づくオナニー行為だった。
 そのため、オナニーをしたという実感に乏しいのだった。
「うわ、べちょべちょになってやがる!」
 改めて股間を探ると大量の愛液が指にまとわりついた。
 もう一度シャワーを当ててそれを洗い流した。
 オナニーの後始末に夢中になってたせいで、カイトは脱衣場に人が入ってくる気配に全く気付いてなかった。
 あっと思ったときには既に、浴室の磨りガラスの向こうに人が立っていた。
 カラリと浴室の戸を開けて人が入ってくる。……それは叔父だった。
「うわっ……!」
「む?」
 叔父のほうもカイトの存在に気付いてなかったのだろう。
 しばし二人は裸で対面したまま固まってしまった。
 やがて口を開いたのは叔父のほうだった。
「ほう。先客がおったとね」
「叔父、さん……今日は、その、早いんだな。帰りが」
 叔父は落ち着きを取り戻すと、カイトに構わず浴室に入ってきた。
 床に座ったままのカイトは叔父を見上げる形になる。
「えらいしおらしか口をききよったいね。ワシんこつは叩きゃ金吐き出すCDやち思うとったとじゃろう?」
「………………」
 かつて知ってたのと違う叔父の態度にカイトは自然とタイルの上を後退していた。
 叔父は全裸のカイトを上から下まで無遠慮に眺めた。
「あの悪ガキがこげんなっとはのぅ。ええ気味じゃ。ワシゃムラタさんに感謝せんこつにゃ」
「ヒッ……」


 男のときは叔父に対して感じたこともない怯えの感情。
 叔父のほうもカイトの怯えを敏感に感じ取って優位に立つ者の笑いを浮かべた。
「ふふ……ワシゃあ散々おまえに苦労かけられよったとじゃ。こんスケベたらしい体に触ったっちゃバチぁ当たりゃせんの」
 叔父は屈んでカイトの胸に手を伸ばそうとした。
 叔父の股間で黒々とした芋のような代物が勃ちあがる……。
「ヒィッ!」
 カイトは夢中で叔父の手を払った。そのとき爪が当たってわずかばかり叔父の手から血が出た。
「こん糞ガキャ。淫売んごつ体しくさって!」
 バシィッ!
 平手で頬を張り飛ばされてカイトはブザマに這いつくばってしまった。
 本気になった男の暴力に、女の体は無力だった。
 叔父は血走った目でカイトにのしかかってきた。
(犯される……!)
 無条件の恐怖に支配されてカイトは無駄に床で藻掻いた。
 濡れたタイルで手がすべり、ますます無防備に倒れ伏してしまった。
 必死で叔父を押し退けようと突っぱねた腕を難なく掴まれ、逆にタイルの上に押しつけられてしまった。
 それだけでもう、ろくに身動きができない。
 犯されるという恐怖は圧倒的だった。理屈ではなく本能の部分で感じる恐怖だった。
 のしかかってくる男の身体。
 首筋に生臭い中年男の息がかかる。
 赤黒く怒張した男の逸物が凶器じみてカイトの目に映った。
 女はどいつも結局は犯されることを望んでる。……男のときのカイトの持論だった。
 それがとんでもない間違いだったことが今は分かる。
 正常な思考が吹っ飛び、ただ逃げることしか考えられなかった。
 脚を閉じようとしてもそこに叔父の体があってままならない。
「いや、いやだァ!」


 髪を振り乱して首を振るのが唯一可能な抵抗だった。
 叔父の腰が重なってきて、内腿のあたりにペニスが触れた。
 そこからはあっというまだった。
 ペニスの先端が花弁をめくり膣の位置を探り当てた。
「うあぁぁぁぁっ……」
 愛撫も何もない、強引な行為だった。
 ずにゅう、と粘膜をかきわけて男のモノが挿入された。
 カイトがどんなに嫌悪してもその挿入を止める力はない。
 むしろカイトの肉体は男のモノを受け入れるように働いてしまう。
 徐々に秘部がぬかるんで、より容易にペニスが滑るようになっていく。
 一度中程まで引き抜かれたペニスがもう一度勢いよく打ち込まれた。
「くひぃぃぃぃ!」
 ズンと貫かれる衝撃に歯をくいしばっても悲鳴が漏れてしまう。
「ん、むぅ……アソコの具合だけは抜群に良かね……」
「あっ、あっ、うぅぅぅ……」
 完全なレイプだった。
 男のモノを出し入れされてカイトはただ呻くだけのまさにセックス人形そのものだった。
 カイトの腕を押さえ込んだまま叔父はピアスごとカイトの乳首を吸った。
「きゃふっ!」
 突然の刺激にカイトは場違いなほど可愛らしく叫んでしまった。
 ピストン運動でペニスがカイトの中を出入りし、袋の部分が打ちつけられてピシャピシャと音を立てた。
 カイトの目から涙がこぼれる。
 悲しいからではなく、レイプに対する女体の自動的な反応のひとつだった。
 力でねじ伏せられて犯される惨めさは、悲しいなどという感情を遥かに越えていた。
 犯されることへの恐怖だけではない。
 カイトはうわごとのように口走った。
「やめてぇ! そこに出されたら……やだ、妊娠すんのなんて嫌だぁぁぁ!!」


「フンッ」
 叔父は無言でペニスを引き抜くと、カイトに馬乗りになってきた。
 毒々しいばかりに膨張した逸物がカイトの胸の谷間に侵入した。
 両乳房の壁面に感じる熱いペニスの感触はまるで異次元のものだった。
「なにポケェっとしょっと。オッパイでしごかんね!」
「うぅ……はぃ……」
 弱々しく呟くとカイトは言われるままに、自らの手で乳房を掴み、前後に揺らした。
 思考が麻痺していて逆らおうという考えすら浮かばなかった。
 AVで見たパイズリを見よう見まねで再現する。
 ぎこちなく胸の肉を動かしてペニスを挟み、しごいてやると叔父は鼻息を荒くして腰を使い始めた。
 何度も何度も胸の谷間を熱い肉が擦った。
 永遠にも思えた時間の果てに、叔父が一声呻いた。
 グイと腰が突き出されたまま動きが止まり、ペニスの先端から大量の白濁液が吐き出された。
 ザーメンが胸の谷間から鎖骨にかけて溜まり、やがて首の根本を伝って床に流れ出した。
 時間をかけて息を整えた叔父がゆっくりとカイトの上から体をどかした。
「フゥ……悪かなかったばい」
 体が自由になってもしばらくの間、カイトは立ち上がることすらできなかった。
 先ほどとは違う涙……悔し涙が後から後から流れた。
 レイプによっていとも簡単にセックス人形に成り下がってしまった自分の情けなさに対する悔し涙だった。
 叔父が出ていった後、カイトは頭からシャワーを浴びてザーメンを洗い流した。
 穢れがいつまでも落ちた気がせず、カイトはいつまでもシャワーを浴び続けた。
(続く)



 見慣れた食卓の風景だった。
 野球中継に気を取られて箸を休める叔父、それを行儀が悪いとたしなめる叔母。
 叔父も叔母もカイトも皆、テーブルの定位置についている。
 いつものこの家の夕食だ。
 ただひとつ、日本の家には不似合いなメイドが一人、食卓の側に立たされてることを除けば。
 ♂カイトが旨そうにタクアンを囓っている間、カイトはエプロンの前で両手を揃えて主人たちの命令を待っていた。
 メイドであるカイトは、家人と一緒に食事をすることさえ許されないのである。
「お代わり!」
 ♂カイトが突き出した空の御飯茶碗を受け取って、炊飯器から飯をよそう。
 給仕だけでなく、食事の支度の際にもさんざん叔母にこき使われた。
 いままで飯炊き女ぐらいに思っていた叔母に、いいようにこき使われるというのはカイトにとってはショックだった。
『そげん格好だけ一人前んごたるして、あんまり不器用で呆れた!』
 里芋の皮むきごときで何度罵倒されたことか。
 男尊女卑が強い田舎だけに、女になったカイトに叔母は容赦がなかった。
 飯を盛った茶碗を食卓に運ぶとき、たまたま叔父と目があった。
 風呂場でレイプされたカイトにとって、叔父はいままでとは別種の生き物に見えた。
 レイプのことを思い出したくなくてカイトは目を伏せた。
 叔父のほうも多少気まずさを感じたのか、無理やりのようにテレビに目を向けてビールを呷った。
 食卓のほうは和やかに会話が弾み、カイトだけがぽつんとその外側に置かれていた。
(腹減った……)
 と頭の中でつぶやいたとき、それに合わせたように腹がグゥと鳴ってしまった。
 ♂カイトが腹の虫の音に気付いて振り向いて。
「ポチ子、これ食う?」
 と刺身を一枚、箸でつまんでカイトに向けた。

「ほい、あーんして」
「………………」
 カイトは空腹に負けてそれを受け入れてしまった。
 もっと欲しいと思ったが、♂カイトにその気はないようだ。
 代わりに刺身ひときれの為に御辞儀まで強要された。
「ありがとうございます」
 深々と頭を下げると、本当に自分が取るに足らないメイドであるような気がしてくる。
 食卓の団らんが楽しそうであればあるほど、カイトは惨めな気分を味わった。
 家人が全員食事を終えて、ようやくカイトも飯を口にすることが許された。
 無論、メイドのために一皿用意されてる筈もなく、食卓の残り物がカイトの取り分だった。
 御飯に辛子明太を載せることを許可されたのがせめてもの救いだった。
「あーあ。美少女メイドがあんまり明太子とか高菜とか食うなよなぁ」
 冗談めかしていうと♂カイトは二階へ引きあげていった。
 食後、当然のようにカイトは皿洗いをさせられた。
 流しで皿を洗っていると、いつのまにか横に叔母が立っていた。
「な、なに……?」
「こん泥棒猫が」
 叔母になぜ罵倒されるのかわけがわからなかった。
 すると叔母はカイトの腰を触ったかと思うと尻をぎゅっとつねった。
「イタッ! な、なにする……」
「こん変態。男だった癖してそげん大きか胸や腰ばこれみよがしにしてからが」
「はぁ……? わけわかんねぇよ!」
 パンッ!
 頬を撲たれてカイトは洗っていたコップを落としてしまった。
 叔母の目を見たとき、ようやくカイトには理解できた。それは嫉妬の目だった。
 いわゆる女の勘というものだろう。叔母は気付いてる。浴室で叔父とカイトの間に何かあったことに。
 叔母はまだ四十前で、若い頃は美人だったと思わせるだけの容貌である。


 それだけに、叔父が若い女に手を出すのは女として許せないのだろう。
「好きでヤッたわけじゃねぇ! あれは一方的に……」
「せからしかッ!」
「あうっ!」
 もう一度、頬を撲たれてカイトは沈黙した。
 どんなに理不尽でも、口答えするだけ無駄だと悟ったからだった。
 憎々しげな顔でもう一度カイトを睨むと、叔母はその場を離れた。
 カイトは打たれた頬に手を当てた。
 叔母に「同性」として嫉妬されてることがどうしても納得できなかった。
「レイプだったんだぞ……オレが悪いのかよ!?」
 叔母が聞いたとしたら、お前のその体があの人を誘惑したんだと言われていただろう。
 どんなに納得いかなくとも望まずとも、カイトの肉体が「女」としてセックスアピールを振りまいてることは事実なのだ……。

 部屋に戻ると、♂カイトはノートパソコンに向かってエロゲーをしていた。
 ♂カイトはゲームに夢中でカイトが入ってきても振り向きもしない。
 カイトは唯一与えられた自分の場所である古いマットにちょこんと座った。
 大仰なメイド服が邪魔だったが、家人がいるあいだはメイド服を脱ぐことは許されていない。
 胸のリボン・タイをこっそりと少し緩めた。
 与えられたメイド服の胸回りはカイトのバストに対して少々小さく、これを着てると胸だけきつく感じる。
 カイトは膝を抱え込んでそこに額を載せた。
 学校の宿題も予習もしなくていいのが不思議だった。
 自分の意志でサボるのと、はなから課題が何もないのとでは天と地ほども状況が違う。
 時間の進みが極端にのろく感じられた。


 ぼうっとしていると、♂カイトの握りしめるマウスのクリック音だけがカチカチとせわしなく聞こえてくる。
「はぁ……」
 物憂げな少女のようなタメ息が口をついて出た。
 気の抜けたコーラみたいな甘ったるい自分の声には、いまだに時折ぎょっとすることがある。
 カチカチカチ……
 ♂カイトはひたすら一心不乱にマウスをクリックしている。
(暇だ……)
 あまりの暇さに耐えきれず、カイトはプレステを引っ張り出してゲームを始めた。
 いつものように床に寝転がってゲームをすると、胸のでっぱりが床にくっついて妙に落ち着かなかった。
 ちょっと派手にコントローラーを動かすと、乳房が床と擦れた。
 それでもゲームに熱中するうちにいつしか胸の感触も忘れることができた。
 主人公のキャラを操って敵の基地内を進んでいく。
 本来は敵兵を避けて先に進むゲームなのだが、カイトは敢えて武器を振り回して敵と戦った。
「この、この! 死ね、ホラ死ねっ。よォしタグゲット!」
 敵キャラを次から次へと大量虐殺していった。
 マシンガンを連打し、さらに寄ってくるザコキャラを拳で薙ぎ倒す。
 主人公キャラを操作していると、久しぶりに男に戻れたような気がした。
 暴力で他を圧するという男としての快感。
 そんな束の間の仮想体験は♂カイトによって破られた。
「ポ〜チ〜。ポチ子!」
「………………」
 現実に引き戻されてみれば、カイトはか弱いメイドだ。
 ♂カイトにスカートの内側を覗かれてるのを知ってゲームの昂揚感は急速にひいていった。
 自分はしょせんパンツや太腿の露出で男を悦ばせる位しかできないという認識は無力感と寂しさを伴っていた。


 ♂カイトが手招きをする。
 いつのまにやらエロゲーのほうは一段落していたようだ。
 そばへいくと♂カイトはエロゲーの画面を指さしながら、なぜかお気に入りキャラの解説を始めた。
 カイトにはあまり縁のない世界だった。
 仲間の家で冗談半分でときメモをプレイしたことくらいはあるが、♂カイトのプレイしてるようなエロゲーは実物を目にするのは初めてだった。
 ♂カイトは得々として解説を続けた。どうやら誰かに話したくて仕方ないらしい。
「……でね、この作品はエロゲーっていっても背景の世界観が作り込んであってキャラの人間関係がシナリオ進行の鍵になってるんだよ。
 でもありきたりな泣かせゲーじゃないのがポイントでさ。ちゃんとエロとしても成立してるからね。正直、これやっちゃったら葉鍵の時代には戻れないよ?」
(……なんでおまえが自慢気なんだ。作ったのはゲーム会社の奴だろうが……)
 野暮な突っ込みは口に出さず、カイトは適当に聞き流していた。
「そうそう、この毬藻さんってキャラもいい味出してんだ。大ボケ女教師だけどじつはヒトラーの転生って設定でさぁ、それでこの巨乳! ほら、この濡れ場マジエロくない?」
(早く終わんねぇかなァ……)
 ♂カイトが顔をしかめた。
 カイトの視線が画面を見てないことに気付いたのだ。
「あーあ。ポチ子もやっぱ女の子か」
「え?」
「だってそうでしょ。男だったら無意識にでもこういう絵に少しは目がいくもんでしょ。でもポチ子は無反応だったし」
 と、巨乳女教師が触手に服をはぎとられてるCGを指す。
「男のつもりでも、やっぱ女の子の体だもんね。ま、僕としてはポチ子が女らしくなるのは歓迎なんだけど」
「ち……ちがう……」
 ♂カイトの指摘をカイトはかすれた声で否定した。
 画面に目がいかなかったのは単に偶然だ。男の心が薄れてるわけじゃない。


 何度もカイトは自分に言い聞かせた。
 カイトの苦悩など知らぬように♂カイトはマイペースに話題をかえた。
「ところでさ、巨乳って小さい乳より感度鈍いってホント? 一度リアル女の子に聞いてみたかったんだ」
「ハ、ハァ!?」
 カイトが返答に窮してると♂カイトは重ねて同じ質問をしてきた。
 仕方なくカイトは答えた。
「ほかの女と……比べたことないから、分からない」
「ちぇ。じゃあ、ペニスが子宮口を突くと女は感じるってのは? アレが長いのと太いのと、どっちがいいの?」
「そんなこと聞かれても……」
 質問責めはさらに続いた。
「ポチはオシッコの後やっぱり紙で拭くの?」
「……拭く」
「やっぱり女の子は拭かないといられない?」
「……あそこが……濡れて気持ちわりぃから」
 途中でカイトは理解した。
 全て、ゲーム中のキャラの台詞が真実かどうかを確かめるための質問なのだ。
 ひと通り質問に答えてやると、♂カイトはそれなりに満足したようだった。
(やれやれ……ん?)
 足下の屑籠に何か本のようなものが放り込まれているのが気になって、カイトはそれを屑籠から取りだした。
(これ……小学校のときのアルバムじゃんか!)
 アルバムをぱらぱらとめくると懐かしい思い出が次々と甦った。
 何も悩みがなかった幸せな時代の記録だ。
 両親が死んでこの家に引き取られるとき、随分と大量の持ち物を処分することになったが、このアルバムは捨てずに持ってきたのだ。
「ああ、それね」
 横目でカイトのほうを見て♂カイトはいった。


「引き出しに入ってたけど邪魔だったんで捨てちゃったよ」
「これは大事なものなんだ」
「ダメダメ。いまは僕が『カイト』なんだよ? そのアルバムに写ってるのも君じゃなくて僕だからね。そいつをどう扱うかも僕の勝手さ」
 そう言うと♂カイトはタバコの火をアルバムのページに押しつけた。
「ああっ!」
 ページが黒く焦げたかと思うとそこから火が点いてアルバムがめらめらと燃えだした。
 カイトの手からこぼれたアルバムは屑籠に落ちてそこで燃え続け、数分後に灰になった。
「なんてことすんだ!」
 逆上したカイトは♂カイトの胸ぐらを掴んだ。
 いまのカイトにとって唯一のよるべとなる過去の記憶が焼かれたのだ。逆上するなというほうが無理だった。
「うるさいなぁ、ポチのくせに。あんまりゲームの邪魔をするなよ」
 ♂カイトに手を掴まれると、いとも簡単に胸ぐらから手を離されてしまった。
「そうだ、いいこと考えた!」
「ひゃっ!?」
 カイトは引きずり倒されるように床に座らされた。
 ♂カイトはかちゃかちゃとベルトを緩め、ズボンを引き下げた。
 かすかに青臭い少年の体臭がする。
 カイトの肉体はチャイムの音ばかりでなく、男の体臭にも反応してしまう。
 カイトはとっさに鼻と口を手で覆った。
 すでに股間がほんのりと潤う気配があった。
「ポチ子。罰として命令するよ。ゲームの展開に合わせて僕のアレをしゃぶるんだ」
「へ……???」
「へ、じゃない。つまり人間オナマシンだよ」
 ♂カイトのプレイするエロゲーが濡れ場にきたら、それに合わせて♂カイトのペニスをしゃぶれというのである。
 しかも、ゲームのほうのエッチの激しさに合わせてしゃぶりかたを調節しろと♂カイトはいう。


(このっ……!)
 ブン殴ってやろうかと思うカイトだったが、同時に叔父にレイプされたときの恐怖も甦ってきた。
 性欲を溜めた♂カイトが叔父のように襲いかかってこない保証はない。
 あのときの怖さ、惨めさは思い出すたびに体が小刻みに震えてしまうほどだった。
 ♂カイトにレイプされるのが嫌なら、口で奉仕してでもとにかく「抜いて」しまわないと身が危ない。
 命令するだけすると、♂カイトはさっそくプレイに没頭しだした。
 すぐにエロゲーは濡れ場へと突入する。
 何もする前からペニスがぴくんと跳ねた。
 カイトは覚悟を決めると、それを口に頬張った。
「うお……さすがに臨場感出るなぁ!」
 画面に目を固定したまま♂カイトが気持ちよさにため息をもらした。
 カチカチとマウスのクリック音が単調に響く。
 マウスをクリックすると、画面の中で全裸の少女の腰がアニメーションで動く。
 ますますクリック音が強くなる。
 それを見てカイトも顔を前後に動かすようにしてより激しい刺激を与えた。
 いつのまにかクリック音がしなくなっていた。代わりにちゅばちゅばと陰茎をしゃぶる音だけが卑猥に響いている。
 次に起きることをカイトは知っていた。
 ♂カイトが呻いてカイトの頭を掴むと、ぐいと引き寄せた。
「んむっ……」
 ディープスロートさせられる形になってカイトはえづいた。
 構わず押すかいとが押さえつけるので逃げることもできない。
 やがて♂カイトの腰がビクビク震えたかと思うと、射精が行われた。
「うううぅぅぅ……」
 苦く絡みつくような精液を口中に放たれてカイトは情けない声で抗議した。
 ぶちまけるだけぶちまけると♂カイトは満たされたため息をついて、カイトの頭を解放した。


「ぷはっ!」
 口からペニスを引き抜いてカイトは喘ぐ。
 口の奥に大量の精液が溜まっていた。
 ♂カイトは快感の余韻に浸った顔でゲームを先に進めていた。幸い、濡れ場のシーンはそれで終わりだった。
「トイレ、行ってくる!」
 カイトはくぐもった声でそう告げると一目散にトイレへ向かった。
 トイレの戸を閉めると、カイトは便器の上に顔を持っていった。
「うぇぇ……」
 口を開けると溜め込んでいた精液が唾液と入り混じってねっとりとこぼれ落ちた。
 カイトにとっては皮肉なことにトイレの中に鏡があってそこに自分の姿が映っていた。
 口から精液をこぼすメイドの姿は、扇情的だった。
 AVなどと違うのは、そのエロティックな光景の中心にいるのが自分自身だということだった。
 カイトはふと、いま吐き出してるのが「自分」の精液だということに思い至った。
 そう考えると、赤の他人のモノを口に出されたときより抵抗感が少ないような気がする。
 ドロリとした液をカイトは手で受け止めてみた。
 ♂カイトが無駄に排泄した精液。いまのカイトの体では逆立ちしてもその白濁液を作り出すことはできない。
 喪失感と嫉妬の入り混じった奇妙な感情を覚えた。
(これは本当はオレのものなんだ……!)
 精液でぬらりとてかった指を見ていると、妙な気持ちになってくる。
 パンティをずらすと秘所はもう充分に濡れている。


 くちゅっ……
「ああっ……んっ」
 精液にまみれた指をそうっと自分の中にさしこんだ。
(オレのセーエキだ……)
 指を根もとまで挿れると、ぐいぐいと掻き回した。
 本来カイトのものであった筈の男の精を胎内に取り戻そうとするように。
「ア……ア……あああンン……」
 そこでカイトは現実に立ち返った。
 短い白日夢のようなイメージの世界を見ていたのだ。
「くっ……」
 パンティに冷たい湿り気を感じてカイトは舌打ちした。
 最後の瞬間、カイトは実際に軽くイッてしまってたのだ。
 ため息をつくとカイトは手に付いた精液を洗い流してトイレを後にした。


(なんだって女の体ってやつはこう……)
 メイド服を脱いで寝床のマットに横になるだけで曲線的な体のラインを意識させられてしまう。
 Fカップのブラは誇らしげに突き出たバストではちきれそうになっている。
 寝間着代わりに例の体操着とブルマに着替えてタオルケットを頭からかぶった。
 ブルマ姿も充分に屈辱的だが、寝間着代わりにはちょうどよかった。
 寝返りをうつたびに凹凸のある自分の体を疎ましく思いながらカイトは眠りについた。
 眠りの中でなにやら夢を見たが、それは意識の表には残らなかった。
 いつしか陽が昇り、鳥がさえずり始めた。
 ごそごそという音が寝ているカイトのそばでした。
「ん……」
 朝の浅い眠りの中でカイトは寝言にもならないむにゃむにゃとした呟きを発する。
 ゆっくり、少しずつカイトは目覚めつつあった。
 何かが、もぞもぞと動いている。カイトと同じタオルケットの下で。
 剥き出しの腿に何かが触った。
「…………?」
 眠りの世界から意識が帰還してくる。
 もぞっ……
 寝ている足下でまた何かが動く気配。
 今度こそ、カイトの意識は急速に覚醒に向かった。
「!?」
 誰かがカイトの粗末な寝床に侵入している。カイトははっきりと悟った。
 いつのまにかカイトは開脚させられていて、腿のあたりに息がかかってる。
 何をされようとしてるのかわからない恐怖にカイトは金縛りのようになって動けなかった。
 こわごわと目を開けたとき、薄いタオルケットの内側でパッとストロボが閃いた。
(……カメラ?)
 それがスイッチのようになって不意にカイトは動けるようになった。


 ばっ!
 タオルケットをめくると、♂カイトが顔をあげた。
「あら。姫君のお目覚めか」
「ななな、なにしてやがる!」
「盗撮」
 と澄ました顔で♂カイトは答えた。
 カイトの下半身に密着した場所でデジカメを構え、またパシャッとシャッターを切った。
 ♂カイトは、ブルマ姿のカイトの下半身を写真に収めていたのだ。
「やっ……!」
 ♂カイトを蹴り出そうとしたが、反対に足首を掴まれ、ブルマを半分だけ脱がされてしまった。
「やめろっ、なにすんだぁ!」
「だから盗撮だって。PSO友達に約束しちゃってさァ。うちの妹のエロ盗撮写真をネットにアップするって」
「妹って……誰が妹だ!」
「へへへ。双子の妹みたいなものじゃん?」
 パシャッ、パシャッ!
 ブルマをずらされ、半分パンティの見える状態でさらに数枚の写真を撮られた。
「んー、まかまかエロく撮れてるね。ポチも見てみる?」
 ♂カイトはデジカメの液晶をカイトに向けた。
 そこには寝乱れた少女の下半身がいやらしく映し出されている。
 下半身だけでなく、体操着の隙間から胸のふくらみの下半分がちらりと写ってる物もある。
(Hくせぇ……)
 カイトの中の、男の思考回路がその映像に反応しかける。
 が、映像の少女は自分自身の姿に他ならない。
 そんな写真をネット上に載せるというのだ。
 自分のブルマ姿がネットを通じてどこぞの脂ぎった男たちに見られることになる……その事実を意識してカイトはゾッとした。


 ゾッとすると同時に、カイトの股間がちゅんと濡れた。
(濡れた……?)
 淫らな姿を誰かに見られるという想像に、カイトの一部分が反応して、興奮していた。
 自分自身の肉体の反応に戸惑い、それを無視しようとしてカイトはことさらに抵抗した。
「もうやめろってば。朝っぱらからこんなことすんなよ!」
 カイトの抵抗はあっけなく力で押さえ込まれた。
「大人しくしてれば、朝食の給仕は免除してあげるから」
 なだめるように♂カイトはいう。
 カイトの抵抗がやんだところを見計らってまた何枚か写真が撮影された。
(もうなんでもいいから早く終わってくれ……)
 カイトの祈りとは裏腹に♂カイトは段々鼻息が荒くなってきた。
(マズイ!)
 カイトは焦った。男だったカイトにはわかる。男だったらこんな状況で朝立ちの余波もあって「催して」くるに違いない。
 案の定、♂カイトの行動にそれが表れた。
 ♂カイトはブルマの股間に指を突っ込んできた。
「うンッ!?」
 くにゅと柔肉を押し割り、ブルマ越しにじわりと指の先が秘裂に割り込んだ。
「ふあっ、ああっ、くっ……!」
 敏感な肉壺の入り口をこじ開けられ、カイトはたまらず喘いだ。
 くちゅ……
 カイトのそこが水気の音を発した。
「あれ……? ポチももしかして、その気になってたの?」
「これは違う! あんたが、へんなことするから……」
「へんなことしたら、ポチは感じちゃったわけだ?」
「くそっ、違うって……ふあああっ!」
 ♂カイトの指を押しやろうとして暴れると、ますます指先が食い込んでくるだけだった。
「も、もうつきあってられるかっ」
 カイトは起き上がろうとしたところを足首を引っ張られて強引に引きずり倒された。


「きゃっ……」
「おとなしくしろよ、ポチのくせに」
 ♂カイトはあからさまに息が荒くなっている。
「ポチは僕のメイドだから何してもいいんだよね」
「やっ、やめっ!」
 ♂カイトのトランクスの股間がそれとわかるほどテントを張ってる。
 いとも簡単に馬乗りにのしかかられてカイトは脅えた。
 乱暴に犯されることが怖くてたまらなかった。
「んんっ!」
 胸を乱暴に鷲掴みにされてカイトは脅えて声をあげた。
(怖い! 怖い! 怖い!)
 心臓が早鐘のように拍った。
(いやだ、怖い。せめて……せめて……)
 せめて、犯すならもっと優しく……
 カイトはそう願ってしまった。
 犯される立場を受け入れてしまったことにカイトは自分で愕然とした。
「ふぅん……」
 ♂カイトは突然、カイトの胸から手を離した。
 まるでカイトの願いを聞き届けたかのように♂カイトは何もしないまま立ち上がった。
「……?」
 荒っぽく犯されることを覚悟して目を瞑っていたカイトだったが、♂カイトが離れていく気配に目を見開いた。
 訝しげなカイトの表情に気付いて♂カイトは皮肉っぽく唇を歪めた。
 ティッシュの箱を手に取りながら♂カイトはいった。
「ポカンとしてるなぁ。……やっぱり最後までいってほしかった?」
 ブンブンとカイトは首を振る。
「フフフ……もっといいことを考えたんだよ。ポチ、これから僕のいう通りにするんだ」
 ♂カイトに命じられて、カイトはグラビアのモデルのようにポーズを取らされた。
 Mの字に尻と膝同時にぺたりとつけた形で座らされ、おまけに体育着の裾を自分で捲っているポーズである。


 ちょうど胸のふくらみの下端が露わになる位置でシャツの裾を固定しなければいけなかった。
 そのポーズのまま動くなと言い置いて、♂カイトはトランクスを下げるとおもむろにオナニーを開始した。
「へへ……生でズリネタにされて、ど、どんな気分さ?」
「なんでこんなことを!」
「それは……ハァ、ハァ……君の、人生を全部、奪うためさ」
 ♂カイトはカイトの目の前で腰を突き出し、これみよがしに自慰に耽った。
 カイトの目は自然と♂カイトの剥き出しの股間へと向いてしまう。
 ♂カイトは気持ちよさそうに時折腰を震わせながら自慰を続けた。
 股間の肉棒が張り詰めてピンと帆柱のように立っている。それを♂カイトの手がスルスルと擦っていく。一つ一つのストロークから生み出される快楽が目に見えるようだった。
 あまりにあけっぴろげなマスターベーションに、カイトは思わず見入っていた。いやらしいポーズをとらされた自分の格好も忘れて……。
 ♂カイトがいよいよ腰を突き出し、吐息混じりにオナニーの理由を口にした。
「こうやって、見せつけたほうが、君は……奪われた物を意識せざるをえないだろう?」
「あ……」
 カイトは我に返って目を逸らした。
 いまの♂カイトの言葉のせいでカイトはいやがおうにも♂カイトの性器を意識してしまう。
 カイトが喪ってしまった……否、奪われた男性の象徴。
 自分の股間に在るのが当たり前だった筈の器官が、すぐ目の前で他人の手によって弄ばれている。
 ♂カイトがペニスで自慰に耽ってる一方、カイトは安いエログラビアのモデルのような格好をさせられているのである。
 見まいととしてもいつしか、カイトの視線はかつて自分のものだった男性自身へと注がれている。
(あれはオレの……)
 心で呟くと、喪失感を叫ぶようにカイトの股間がきゅっと反応した。


 ぴったりと脚のつけねに張り付いたパンティの布に冷たい染みが広がった。
 灼けつくほどの喪失感というものをカイトは生まれて初めて知った。
 股間がちゅんと疼くたびに、ペニスを喪った実感が体に心に刻み込まれる。
 カイトの躰の中心に在るのは、支配者を受け入れるための空洞だった。
 そして支配する側の者はカイトの前で錫杖のように誇らしげに男のモノを屹立させている……
 ペニスを奪われた者として感じるいわれのない屈辱感。女子が普遍に持つというエレクトラ・コンプレックスの感情がカイトを捉えていた。
(それはオレのだ……返せ、返せ!)
 どうしようもない感情に突き動かされて♂カイトのペニスに触れようとしたときだった。
「う、はぁ……」
 呻いて♂カイトは射精した。
 ぴちゃっと白濁液が飛んでカイトの手にかかった。
 精液の生温かいぬくもりにカイトは呆然とする。
 ♂カイトも消耗した顔でどっかりとその場に腰を落とした。消耗してはいても、♂カイトの表情は悦楽に彩られている。
 甘い栗花の匂いがあたりにたちこめた。
 手についたザーメンに虚しく見入るカイト。
 追い討ちをかけるように♂カイトが声を投げかけてきた。
「この快感……君はもう二度と味わえないんだね」
 返すべき言葉は何もなかった。それはまぎれもない事実なのだから。
 カイトはただ唇をぎりぎりと噛んだ。
「へへ、悔しいか? 悔しいだろうなあ。君の全存在は僕のものになってしまって、いまの君はただの生きたズリネタに過ぎないんだものな」
 追い込んだ獲物をさらにいたぶるような♂カイトの言葉だった。
 形にならない怒りの感情がカイトの中で渦巻いた。
 いまのカイトは怒りを暴力という形で噴出させることすらできない。ただ苦しく身を焦がすだけだ。


 なんとか平静さを保とうと苦労するカイトを嘲笑うように、♂カイトは足指の先でカイトの股間をいじった。
「きゃあっ! や、や! やめっ、ンン……冷たぁっ……!」
 濡れたパンティが押しつけられてヒヤリと冷たかった。
「ハハハ、寂しい股間だねぇ。さぞや物足りない思いだろう。そうさ、君のモノはここにあるんだからね」
 いまだ汁のしたたるペニスを拭きながら♂カイトは勝ち誇って笑った。
 打ちのめされたカイトを後目に♂カイトはさっさと立ち上がると制服を身につけた。
 鏡に向かって髪をとかしながら♂カイトはいった。
「こんな綺麗な顔に生まれた君にはわかんないだろうな。ブサイクで根暗って後ろ指をさされて生きたきた人間の気持ちなんて」
「…………」
「だから、奪ってやるのさ! これは僕の復讐なんだ。僕を蔑んで生きてきたおまえのような輩に対する正当な報復行為なんだ!」
 支離滅裂な理屈だ、とカイトは思った。
 だが、♂カイトがこれ以上ないほど本気だということだけはわかる。
 ♂カイトはこれからもカイトの中に残る本来のアイデンティティを全て奪い取ろうとするのだろう……。
 ♂カイトが不意に気味の悪いような作り笑いを浮かべた。
「そんな顔すんなよ、ポチ子。朝ごはんの時間だ、下へ降りよう!」
 ♂カイトは口笛を吹きながら階下へ降りていった。


「…………」
 カイトは手に付着した白濁液を長いこと放心したように眺めていた。
(これはオレの精子なんだ……)
 ちゅぷ、ちゃぷっ……
 精液をすすってのんでも、男に戻れる道理はない。それでもそうせずにはいられなかった。
 淫靡な音を立てて男の精をすするうちに涙がポロポロとこぼれてきた。

 朝の食卓では二人のカイトは何事もなかったかのように振る舞った。
 ♂カイトは新聞を広げた叔父と何やら経済談義をしている。
 カイトは無言でオレンジジュースを飲んでいた。
「……………………」
 ♂カイトとの約束で今朝は給仕役をせずともいい筈である。
 だが、食卓の皆の視線がいたたまれず、結局カイトは席を立った。
 しょせんメイド服を着たカイトが食卓で一緒に食事をしているのは場違いなのだ。
 他に居場所もなく、カイトはメイドとしてその場で立ち働いた。
 家族がみな家を出て初めて、メイドとしての役割から解放されてカイトは一息ついた。
 メイドとしての二日目だった。
 なぜだか、もっと長いこと経っているような気がしてしかたがなかった……。




 一人になったカイトは浴室でシャワーを浴びた。
 ひ弱な女の身では、こうして一人で家にいるときでないと安心してシャワーをつかえない。
 浴室にいくまえに玄関の戸締まりを確認したのも、男だったときなら考えられなかったことだ。
 ひとしきり熱いシャワーで全身を流した。
 脱衣場に戻ると、カイトは全裸の己の姿を鏡に映した。
「こんな……こんな体にしやがって。オレは絶対にムラタの野郎を許さねぇ」
 これが鏡でなくテレビの画面だったらカイトは喜んで少女のあられもない姿を鑑賞したことだろう。
 だが理性が機能して鏡の映像が自分だと強く意識するような状況では、女であることへの拒否感のほうが先に立ってしまう。
 カイトの顔はどことなく鋭利な角がとれ、伸びてきた髪もあいまってすっかり美少女のそれになっている。メイクのひとつでもすればそのままグラビアアイドルになれそうだった。
 さらに、耳にピアスで固定された大ぶりのイヤリングでいやがおうにも女性性を強調されている。
 肩の骨格はいかにも非力そうな、ほっそりとしたなで肩だ。
 かわりに胸で二つのふくよかな乳が誇らしげに存在を主張している。
 ブラによる押さえつけがないいま、Fカップのバストはカイトが身じろぎをするだけで、たゆたゆと揺れ、落ち着かない。
 乳首の位置が胸の上であちこち絶えず位置を変える感覚にはいまだに慣れない。
 桜色の可憐な乳首につけられたピアスが豊満なふくらみのいただきで光っている。こうして裸になるたびにこのこのピアスはカイトを辱める。
 胸のピアスとチェーンは、かつてムラタという男よって人格を否定され、性処理のための道具として心身を支配されてしまったことの証だった。
 ピアスとチェーンは常にこすれてチリチリと音を立てる。
(くそォ、うざってぇ……!)
 カイトは発作的にチェーンを引っ張ったが、乳首がキリリと痛んだだけで、それが外れることはない。


 チェーンにしろピアスにしろ、見た目より頑丈な素材で出来ていて、家の工具箱にあった小型のペンチでは表面に傷を付けるのがやっとだった。
 特にピアスは径が小さくて工具で乱暴に扱うと乳首まで傷つけてしまいそうだった。乳首がすぐに勃ってしまうのも作業を困難にさせる要因だった。
 屈辱の印であるそれらの装身具はいずれ時間をかけて、或いは人手を借りて対処するつもりだった。
 胸から下に目をやると、ほっそりとした平らな腹、はっきりとわかるくびれがあって、その下で女性的なカーブを描いて腰が丸くふくらんでいる。
 その下半身の体形のせいで歩き方まで自然、男のときとは少し違ってきている。
 尻は丸く弾力のある肉がついている。座ったりするとむっちりとした天然のクッションが自覚できるほどの豊満な肉付きだ。それでいてヒップの形がいいので太った印象はまったくない。
 自分自身の肉体でなければ、たまらないほどにそそられるスタイルだ。
 腿の肉付きもスマートでありながら男とは決定的に違う丸みを帯びたラインにかたどられている。
 すらりとした脚のつけねの逆三角の領域はふわっとした薄い恥毛に覆われていた。
 すっきりとした形の股間に、男としての不随物は影も形もない。
 代わりにふっくらとした肉の丘があってその割れ目から申し訳程度にピンクの可愛らしいラビアが顔を覗かせていた。
 カイトは股間から目を逸らした。
 女にされてから随分経つが、いまだに自分の体に付いた女性器を直視するのは苦痛だった。
 己の体の中心部に男性器を呑み込むための穴が穿たれてるということが、どうしても感覚的に受け入れられなかった。
 女性器への興味が掻き立てられる前に強い禁忌の感情が湧いてしまう。
 改めて鏡で全身を眺めてみて、カイトは寂しげに肩を落とした。
 試しに腕でバストを覆い隠してみても、鏡の中の少女が男に見えるということはなかった。むしろグラビアにでも出てきそうな扇情的な仕草に見えてしまう。
「……こうしてても仕方ないか」


 肩にバスタオルをかけると、カイトは自分の……かつての自分の部屋に向かった。
 家に誰もいないときまでメイドの格好をするつもりは毛頭なかった。
 部屋には昨日買いそろえた私服が置いてある。カイトはそれらを店の袋から取りだした。
 パンティの代わりに♂カイト用のトランクスを穿き、Tシャツとハーフパンツを身につけた。
「うっ……胸が、こんなに……」
 胸元を見下ろしてカイトは眉をひそめた。
 Tシャツがサイズぴったりなせいで、Fカップはあろうかというバストが生々しくシャツの布地を押し上げている。
 乳首の部分はピアスの形ごとくっきり浮き出ている。
 鏡で確認するまでもなく、どうしようもないほどエロティックな姿態だった。
 Tシャツがバストに密着してるぶん、体操着のときよりも歩くときの胸の揺れが強調されてしまう。
「うぅー!」
 鞠のように跳ね回る自分の胸にカイトは苛立った。
 誰も見てないとはいえ、まるで巨乳アイドルのような胸を晒して過ごすのはまっぴらである。
 かといってブラをつけるのも癪なので、結局また胸にサラシを巻くことにした。
 包帯を何重にもきつく巻いてからTシャツを着ると、さすがに中性的な胸になった。
 ただし、その代償としてギリギリと胸を圧迫される苦しさを味わうことになった。
「キツ……けど、これでいい」
 言葉を口に出すと声のトーンが気になった。
 カイトはなるたけ声を低く抑えて発声してみた。
「あ、あ、あ」
 色々努力を積み重ねて、奪われた男らしさを少しだけ取り戻せたような気がした。
 もちろん少し歩けば股間の感触が違うし、サラシで圧迫された胸の痛みもある。それでも女っぽさを振りまいてないだけ、いままでよりもマシだ。
 仕上げとして首輪を隠すためにスカーフを巻いて、それで我慢することにした。耳たぶで揺れるピアスだけは隠しようがない。
 いまのカイトの姿はボーイッシュというよりユニセックス系を意識した少女に見える。
 他人の目を誤魔化せるような扮装ではないので外出はあきらめざるを得ない。万が一、監視している人間がいれば一目でカイトだとばれてしまうだろう。
 だがカイトはそれなりに自己満足していた。


「体を女にされたくらいでオレがしおらしくなると思ったら大間違いだからな」
 カイトはムラタに改造された少女の身に甘んじるつもりはなかった。
 なんとかして男に戻る。そしてムラタに復讐する。
 その決意がカイトの自意識を根底から支えていた。
 それがなければカイトは今頃とっくに心が壊れてしまって、外見通りの奴隷女になっていたかもしれない。
「もう一人のオレにゃ悪いが、おとなしくメイドに甘んじてる気はないね。だけど……このままじゃ身動きがとれないな。悔しいがこの体じゃ喧嘩すらロクにできねぇ」
 この村の中で、ムラタの所属する研究所が隠然たる力を持った存在なのは確かだ。
 それに逆らうのにカイト一人ではいかにも心許ない。
 いまのカイトは少女としても特に非力な部類だ。その気になれば男数人で一瞬のうちにカイトの抵抗を封じて拉致してしまうことが可能だろう。
 それに♂カイトの話が本当だとすれば、県警にまで組織の手が回ってるということである。助けを呼ぶつもりで110番に電話でもしたら、逆に研究所に居場所を知らせることにもなりかねないわけだ。
「オレに友人と呼べるような奴は一人もいない……」
 カイトはつぶやいた。
「だけど……手を組める奴なら……」
 すがるような思いでカイトが思い浮かべたのは浩司だった。
 浩司と最後に分かれたのは、ムラタが沼作を撃ったあの混乱の中でだった。
 銃声は一度きりしか聞いてない。
 もし浩司が無事だったとしたら、なんとかして連絡を取りたいと思った。
 浩司はもともと女になったカイトを率先していたぶった一人だった。カイトを助けてくれたのも、女としてのカイトに惚れたというある意味許し難い侮辱的な理由からだった。
 それでも、いまのところ浩司だけがカイトにとっての頼みの綱だった。
 浩司はいまのカイトが欲してる「武力」を持っている。いざというときはナイフを振り回して強行突破も仕掛けられるような人種だ。
 そういった力がカイトはいま、喉から手が出るほどほしかった。……それほど女の身は、心細かった。


「あいつを利用するためなら、なんだったらもう一回ぐらい、お、犯されてやってもいい」
 口に出して言ってからカイトは顔を真っ赤にした。
 浩司に抱かれたときの記憶がフラッシュバックしてしまった。
 夢中で腰を使う浩司と、ペニスで貫かれてさんざんによがってしまった自分の姿が映画の一シーンのように甦る。
 相手が浩司だったというのに女として感じてしまったのは、いま思えばひどく屈辱的なことだった。
「……男に戻ったあとで、奴はきっちりブチのめしてやるけどな」
 自分に言い訳をするようにカイトはいった。
 部屋を探すとクラスの名簿はすぐ出てきた。
 浩司の家に電話すれば、浩司が無事かどうかはすぐ分かるだろう。
 電話を掛けようとしてはたとカイトは手を止めた。
 電話に浩司の母親が出たとして……自分はどう名乗るつもりなのか。
 怪しまれない方法が思いつかなかった。
 浩司の消息はあとで♂カイトに聞けばわかるだろう。♂カイトが家に帰るまでは大人しく待つことにした。
 葵とも連絡をとりたかったが、それこそ誰かの手助けがないと難しい。なにせ葵はあのムラタと一緒に暮らしてるに違いないのだから……。
「くそったれ、結局もう一人のオレ待ちかよっ!」
 もどかしさに苛立ってカイトは本棚を蹴った。
 棚が揺れて、不安定に立てかけてあった本が何冊か倒れて落ちてきた。
 その中に、コンビニで買ったエログラビア誌が混じっていた。
 男のズリネタのみのために作られたような雑誌を手にとって、カイトはなんだか懐かしい気持ちで胸がいっぱいになった。
 こんな、男として当たり前の世界から、いかに遠くまできてしまったかを実感する。
 女の体にされ、ピアスと首輪をつけられ、挙げ句の果てに男に抱かれてしまって……
「………………」
 グラビアのヌード写真を見ていると、サラシで平らになった胸とあいまって、男のときに近い感じを味わえる。耳でブラブラ揺れるピアスのことだけ無視していればいい。


 真剣な考え事をとりあえず脇に置いて、カイトはグラビアのページをめくった。
 監禁されてた一ヶ月間、娯楽のたぐいは一切与えられなかった。
 それだけにエログラビアを眺めていると、安全な自分の部屋に帰ってきたという実感が湧いてくる。
 カイトは勉強机の上にグラビアを広げると、椅子にあぐらをかくようにして座った。
 グラビアのページをパラパラとめくっていく。
 巨乳のグラビアモデルが沖縄かどこかの海辺でビキニ姿を晒している。
 ビキニの上をずらされ、たっぷりとした巨乳がこぼれ落ちて恥じらう彼女のショットが続く。
 さらに次のページでは、彼女は全裸に剥かれ、波打ち際で肉感的な姿態を波に洗われていた。
「この女、エロい体してやがるな。あー、こんな女抱きてぇ」
 すっかり男の気分になってカイトはいった。
 挑発的なポーズのグラビアモデルを眺めているとムラムラとした欲望が沸き起こってくる。その感覚が懐かしくてカイトはグラビアに釘付けになっていった。
 グラビアの後半は、より過激なショットが続いてた。
 縛られ、体中を粘液に汚された女がなおも物欲しそうな様子で腰を突き出している。
 それを目にしたとき、ジワリとあの懐かしいペニスが勃起する感触が生じた。
 実際の生理的反応としてはクリトリスが充血しただけなのだが、脳に伝えられた信号は男の勃起時のそれだった。
「ああ……この感じ……」
 カイトは目を閉じた。
 股間を触って確かめなければ、イメージの中でそこに固く張り詰めた男の象徴がそそり立つのを感じることができた。
 久しぶりに味わう男としての充実感にカイトはうっとりとした。
 と同時に下半身でムラムラと渦巻く欲望が行き場を求めて暴れ出していた。
 自分でも気付かないうちにカイトは腰をもじもじと振っていた。
 カイトは隠し場所からダビングしてあった裏物のビデオを取り出した。
 グラビアで気分がノッてくるとビデオで性欲処理をしたものである。



 テレビデオにテープを突っ込むと、すぐに再生が始まった。
(そういやこれ、浩司にダビングさせたんだっけ……)
 男と女の喘ぎ声が室内で響き渡った。
 直接的な聴覚刺激にカイトの体は熱くなった。
 エロティックな気分が盛り上がり、口の中が乾いてきた。
(おらァ逃げんじゃねェ。いまブチ込んでやるからよ、せいぜい腰振りやがれ!)
 男の動きに合わせ、女体を征服していく過程をカイトは疑似体験した。
 ビデオの中で男がリズミカルに腰を使い、それに応じて女が喘ぐ。
 やがて「出すぞ」と宣告した男の身体がびくんと震え、女の中に精を放った。
 男は気持ちよさそうに喉を鳴らしている。
「うっ……」
 カイトは呻いた。
 ビデオでさんざんにカイトの性欲は高ぶっていた。
 熱く固くなった幻のペニスを中心に切ない波動のようなものを感じる。
 かつてなら、ためらうことなくペニスをしごいて欲望を吐き出していた。
 いまでも、ともすれば股間に手をやってペニスを掴んでしまいそうになる。
 ペニスの幻覚があまりにも鮮烈で、本当に股間にそれが生えてきたかと錯覚してしまいそうになる。
 だがちらりと己の股間に目をやれば、ハーフパンツの股間部は何事もなく静まりかえっている。
 これだけ昂奮しているのに股間にはかすかな盛り上がりさえない。男であれば有り得ない事だった。
 にもかかわらずペニスの幻肢は射精による解放を求めてひたすら疼き続ける。
 せつなさにカイトは眉を寄せて呻いた。
「はぁ……く、シャセイ、したい……」
 固く敏感になったペニスを思う様しごきあげたかった。
 そこにあるのが当たり前だった欲望の器官が、いまはどんなに手を伸ばしても触れることすらできない。
 カイトは朝のことを思い出した。

 目の前で誇らしげにペニスをしごいていた♂カイト。
 それがいかに残酷なショーだったことか。
 こうして悶々としていると奪われたものの大きさが身に沁みる。
 どうしようもなく火照った躰をもてあましてカイトは布団に倒れ込んだ。
 下半身で出口を求めて駆けめぐるドロドロとした欲望の塊がカイトを責める。
(シャセイしたい……シャセイ……)
 ペニスを握って白濁液をぶちまけられればどんなにかスッキリすることか。
 だがいまのカイトは強制的に射精を封じられたも同然だった。それでいて男だった記憶が生み出すペニスの幻影は生々しく疼き続ける。
 ちょっとした拷問だった。
「うぅ……」
 カイトは呻いて布団の上で腰を引いた。
 針のように尖ったペニスの疼きに負け、カイトは思いきり腰を突き出した。
 むろんすっきりとしたカイトの股間は虚しく空をきっただけだった。
 むなしいと分かっているのに、疼きに負けて腰を振ってしまう。
 他人が見たらその滑稽さに笑い出すだろう。そう思ってもカイトは自分を止められなかった。
 溜まった欲望を吐き出す器官を持たない身がこれほど辛いと意識したことはなかった。
「ハァ、ハァ……ちくしょう……チンポがこんなに疼いてるってのに……」
 股間にそそり立つ幻のペニスに触れられないもどかしさで気が遠くなりそうだった。
 つけっぱなしになったビデオは、別な男女のセックスを映し出していた。
(あの女、チンポ突っ込まれてあんな気持ちよさそうに喘いでやがる……)
 女の側に傾きかけた意識はすぐにカイト男としての自意識に打ち消された。
 ビデオで腰を振る男のように心ゆくまで欲望を女の体に注ぎ込みたいと思った。
 いつのまにかカイトはビデオの女に葵の顔を重ねて見ていた。
 熱くたぎった下半身のドロドロをいますぐにでもブチ込んでやりたかった。
「ふぅぅ……」
 どうにもならないもどかしさに、カイトは情けない声を出してしまった。


 目に見えないペニスが膨張すればするほど、それを実際にリリースする術を持たないカイトは苦しく、切なくなっていく。
 暴走する欲望に苛まれ、躰が内部から破裂しそうだった。
「チンポォ……」
 無意識にカイトは欲しい物の名を口にしていた。
 股間に痛いほどに感じる勃起の場所へ手をかざすと、フイッと掻き消すように幻のペニスはなくなってしまう。
 カイトが呻くあいだもビデオの男は憑かれたようなピストン運動で女を責め立てる。
 男に同調したカイトの意識は、必死でその行為を真似ようとした。
 あたかもそこにペニスを掴んでいるかのように股間に握り拳をおいた。
 竿を小刻みにしごくように拳を上下させると、女の股間部のいわゆる土手の部分にトントンと刺激が伝わり、わずかながら快感を産んだ。
「ン……チンポの感じが少しする……」
 カイトは夢中で拳を上下させた。
 痺れたような思考の中では、いまだにカイトは自分が女性器への刺激から快感を得ていることに気付いてなかった。
 拳がふっくらとした土手を叩くたびにマイルドな快感が広がる。
 そのときビデオの中で男女のセックスがクライマックスを迎え、男が短く吠えるようにして女の腰を抱きかかえると猛々しく射精をした。
 その圧倒的な快感の迸り、欲望のリリースをカイトも欲した。
(思いきりブチ撒けるみたいにシャセイしたい、シャセイ! シャセイ、シャセイ、シャセイ……)
 外に放出できないぶん、ダイレクトな男としての欲望が頭の内部を駆け回る。
 射精という直裁的で簡潔な性の解放は、女の器官しか持たないカイトには永遠に不可能なことだった。
 凄まじいフラストレーションにカイトは涙目になって、フゥ、フゥと荒く息をしていた。
 もどかしさに我慢できず、カイトはハーフパンツを苛立たしげに脱ぎ捨てた。まるで、そうすればそのしたから押さえつけられてたペニスが顔を出すとでもいうように。


 しかし実際にはコットンのパンティに包まれた局部は凹凸のない慎ましやかな三角を描いている。
 そのときビデオが最後まで到達して、画像が途切れた。ガチャガチャと機械が作動し、自動的にテープが巻き戻される。
 ついにカイトは抱え込んだ欲望をどうすることもできないまま、ビデオの終わりを迎えてしまったのである。
 男としてイクことができなかった……
 カイトの肉体は性染色体XXを持つ完全な「女」である。いくら男のように昂奮したとしても、男性器を持たない身で射精は適わない。
 生物学的には当たり前のその事実がカイトをうちのめした。
 股間で必死に有るはずもないペニスを求めたカイトの手は、つるりとした女の股間に触れてそこで動きを止めた。
 パンティは信じられないほどぐっしょりと濡れていた。
「なんだこれ……」
 愕然としてカイトはつぶやいた。
 ペニスの幻肢感覚に気を取られていて、カイトは自分の股間がこれほど濡れそぼっていることに全く気付いていなかった。
 女陰からしみ出た液でこれほど濡れてしまったということが信じられなかった。
 知らないうちにコップの水をこぼしてしまったというほうがまだ信じられるような気がする。
 カイトはおそるおそるパンティを下ろした。
 にちゃ……
 どこか淫猥な水音。
 秘部とパンティとの間で透明な液体が糸を引いていた。
「……!」
 見ているそばで、秘裂の奥からプチュと液体がしたたってきた。
 パンティがぐっしょりと濡れてしまうほどにカイトは愛液をしたたらせてしまったのだ。
 見えないペニスの疼きがゆっくりとくすぶりながら体の奥に引っ込んでいく。
 射精による解放感が伴わず、しくしくと陰に籠もった疼きを残してあの強烈な欲望が霧散していった。


 カイトは左右の胸にもジンジンと痛むようなむず痒さとくすぐったさの合わさった感触を覚えた。
 サラシの下で、乳首が敏感になって疼いてるのだった。
 カイトの意識は確かに男として昂奮していたのに、その昂奮は女体の性的な反応として現れていたのである。
 もし理性による抑制がなければカイトはサラシをかきむしって、しこりきった乳首を自ら愛撫してしまっただろう。
 男としての意地がそれをさせなかった。
 股間に注意を戻せば、秘唇の上に位置するクリトリスが包皮をはねのけるほどに充血して腫れ上がっている。幻肢感覚を生じるもとになった場所だ。
 クリトリスを擦ることがどれだけの快感となるか、カイトは良く知っている。
 包皮を剥いて指の腹でそこを擦り上げれば、それだけで小さなエクスタシーに達するだろう。……けれど、それはあくまで女としてのエクスタシーだ。射精とは異質のものである。
 カイトが求めたのは射精による欲望のリリースだった。
 内腿に濡れたパンティの冷たさを意識するようになって、ようやくカイトは苦しいほどの性衝動から解放された。
「くっそ、こりゃもう一度穿く気にはなれねェな」
 憮然としてカイトは濡れたパンティを足先から引き抜いた。
 あれほど男として欲情していたのに、女として反応し愛液を垂れ流してしまう己の体が恨めしかった。
 ティッシュで股間を綺麗に拭き、新しいパンティを身につけなければならなかった。
 パンティを濡らしてしまって下着を交換するなど、まるでムラタがカイトに課す精神的な責め苦みたいである。
 男の感覚を取り戻そうとして鑑賞したグラビアやビデオのせいで女としての生理現象や立場を再確認させられてしまったというのがなんとも皮肉であった。
 着替えと洗濯を終えて時計を見ると、すでに昼過ぎになっていた。
 ♂カイトが帰るまでにはメイドに戻らないといけない。
 カイトが自由な服装でいられるのもあと残り数時間だった。


「ちっ。気分転換に外の光に当たってくるか」
 体の中でいまだくすぶる欲求不満のおき火を鎮めるため、カイトは外出を決意した。
 そのままフラリと家の外に出た。
 ♂カイトの言葉を信じるなら、家の近所だけはうろついても安全な筈である。
 ポケットに手を突っ込んだ行儀の悪い格好でカイトは近所をぶらついた。
「おっ? あんなとこにコンビニができてたのか」
 少し前まで更地だった場所にこぢんまりとしたコンビニが出店していた。カイトは特に目的もなく店の中に入った。
 商品棚の中でプリペイド携帯がカイトの目に入った。
(これは使えるかもな……)
 カイトはプリペイド携帯の箱を棚からわざと落とし、拾うフリをして携帯本体とカードを抜き取り、服の下に隠した。
 そのまま何食わぬ顔をしてカイトは店を出た。
 部屋に戻ってくると、カイトは戦利品の携帯を手の上で弄んだ。携帯でなら、♂カイトや叔父夫婦に詮索されることなく外部と連絡をとることができる。
「浩司はたしか携帯持ってなかったけど……そうだ、葵だ。仮にもいまどきの女子高生なら携帯くらい持っるかもな」
 葵と同じ桜花女子校の一年と遊んだとき、携帯の番号を聞いたことがあった。
「あーあーあー」
 その気で声を出してみると、申し分なく若い娘らしい声が出てくる。
 カイトはダメ元でその番号へコールしてみた。
 授業時間中だというのに、ほんの数コールで相手が出てきた。
「こないだ一緒に遊んだイノウエだけど」
 と適当に名乗ると相手は勝手に「ああ、あのときの」と納得してくれた。
 遊び回ってる女なので、いちいちコンパで一緒になった別な学校の女をちゃんと覚えてはいないだろうという予想の通りだった。
「四組の葵ってコに用があるんだけど。あとでこの番号に掛けてくれるように伝えてほしいんだけど」


 どうやら隣のクラスだったらしく相手は葵のことを知っていた。特にカイトのことを怪しんだ様子もなく、伝言を請け合ってくれた。
 ほどなくして、携帯に着信があった。
『あの、伝言を聞いて電話したんですけど……どちら様なんでしょうか?』
 間違いなく葵の声だった。
「オレだ」
『え……?』
「オレだ。カイトだ」
『カイト君!? いまどこにいるの!』
「……この通話、聞かれてないよな?」
 葵が一人でいることを確認してから、カイトは家の場所を葵に伝えた。
「おまえに手伝ってほしいことが色々あるんだ。いまからこっちにこれるか?」
『でもこれから午後の授業が……』
「他のヤツらが帰ってくると話がややこしくなる。できれば今すぐがいい」
『……わかったわ。カイト君の頼みだものね』
 葵にもう一度道筋の確認をしてカイトは通話を切った。
 それから二十分ほど待った。
 思ったより早くに葵が訪ねてきた。
 カイトが玄関扉を開けると、葵は肩で息をしていた。走ってきたのだろう。
「入れよ」
 カイトは葵を招き入れた。
 葵は土間で一度立ち止まるとカイトの姿を上から下まで仔細に眺めた。
「よかった、本当に無事だったんだね、カイト君」
「とりあえずはな」
「その服、自分で選んだの? うん、似合ってるよ」
「……嬉しくねえよ」
「なんで?」
 葵はカイトの耳のピアスにそっと触れた。
「カイト君、とっても可愛くなってる」


「変なこと言うのやめろ! このピアスだって、どうしても外れないから!」
 憤慨して首を振ると、それを嘲笑うようにピアスからぶら下がる銀色の玉がチャラチャラと揺れた。
「ごめんなさい……」
 葵は怒鳴られてしゅんとうなだれてしまった。
「ま、いいさ。こっちこいよ」
 カイトは葵を部屋へと連れて行った。

 葵を床に座らせ、カイトもそれに向き合うように畳に座り込んだ。
 聞きたいことはいくらでもあった。
「で、ムラタはやっぱりオレの行方を探してるのか?」
「うん」
 葵は肯いた。
「私なんかに詳しいことは教えてくれないけど……でも、部下の人を使って探させてるみたい」
「チッ。やっぱそうか……」
「カイト君はどうやって逃げ出せたの? お兄ちゃんは何も教えてくれないから私、とっても心配したよ……あっ!?」
 カイトは無言で葵の肩を掴み、床に押し倒した。
 葵は目を見開いて抵抗しようとしたが、カイトが力をかけ続けるとすぐに大人しくなった。
 ギリ、と力を入れて押し倒したままカイトは問いかけた。
「答えろ。オレは、本当にお前を信用していいのか?」
「カイト君……」
「質問に答えろよ。おまえはあのムラタの身内だ。このまま帰したらオレの居場所を報告するんじゃないのか?」
 葵を押さえつけながら、カイトは己の非力さを実感していた。
 ほっそりとした女の腕では、以前の十分の一も力が出せてないようにすら思える。
 もし葵が本気で抵抗したなら、簡単にはねのけられてしまうかもしれない。



「そんなこと……ないよ……」
 カイトの問いかけに葵は弱々しく首を左右に振った。
「あの旧校舎で、おまえはいわばオレの『飼育係』だった。檻から逃げたオレを連れ戻す役割を命じられてないと断言できるのか?」
 半ば自問のようにカイトはいった。
「私は……お兄ちゃんの命令には逆らえないわ」
「てめ……」
「でも、お兄ちゃんは私に何も命令してない。忙しいときのお兄ちゃんは私のことなんて頭に無いもの」
 葵は自分の言葉に傷ついたように目を伏せた。
(嘘をついてる雰囲気じゃ……ないか)
 カイトは葵から手を離した。
 葵は体を起こしてスカートの乱れを直した。
「……悪かったな。学校あるのに呼び出して」
 自分でいってから、カイトはびっくりした。他人を気づかうような言葉を口にしたのなど久しぶりだった。
「ううん。私に連絡してくれて嬉しかったから」
「他に頼れるヤツがいないんだよ。友達なんて上等なモン、オレは持ってねえからな」
 葵が何かいおうとする前にかぶせるようにカイトは尋ねた。
「浩司って奴のこと、何か知ってるか。あいつがどうなったか知りたいんだ」
「浩司……?」
「ああ。あの教室でオレを犯しやがった一人だ。でも、そいつのおかげでオレはあそこから逃げ出すことができた」
「ごめんなさい。何も聞いてないわ」
「そうか……」
「ねぇ……その浩司って人、カイト君のこと好きになっちゃったんでしょう?」
「な、なんだよ突然。どうだっていいだろ、そんなこと……」
 カイトは狼狽えた。
 浩司に「惚れた」と打ち明けられたときのことが頭をよぎると、自然に耳までカァッと暑くなってくる。

(なんでだよ……あんな奴に女扱いされて悔しかった筈なのに……)
 葵がカイトの顔の輪郭を確かめるように手を這わせた。
「無理もないよ。カイト君、こんなに綺麗なんだもの。男の子だったら誰だって彼女にしたいって思うよ……」
「やめろ。吐き気がしてくるぜ」
「でも、いまのカイト君はどんな男の子だって惚れちゃうような美少女なんだよ?」
「こんな女の体にされて……心まで女になったら、オレじゃなくなっちまう!」
「でも……心は、肉体の奴隷なんだよ。前に、お兄ちゃんが言ってた。だから私はお兄ちゃんから逃げられないの」
 葵は下腹のあたりに手を置いた。そこが子宮の位置する場所だと、同じ性を持つカイトにはわかる。
「違う……たとえどんなに体をいじられても、心だけはオレのものだ」
 葵からの返事はなかった。
 葵は布団の上に散らばったグラビア誌を見つけてしげしげと眺めていた。
 きわどいポーズのヌードショットが開いたままになっていた。
 エログラビアを片付けないまま葵を上げてしまったことをカイトは少しだけ後悔した。
「これ、カイト君が見てたの?」
「悪いか。体は女にされても、エロ本くらい見るんだよ」
「男の子の気持ちが残ってるんだね。でも、男の子のつもりで女の人の裸を見てても、それ以上はできないでしょ? その、男の子がするみたいなことは。カイト君、体は女の子だもの。辛く、なかった?」
 葵の慰めるような口調が、カイトの癇に障った。
 カイトは暴発して、葵が手にしていたグラビアをはたき落とした。
「うるせえ! わかったようなこと言うんじゃねえ!」
 カイトは葵の胸を突き飛ばした。
「きゃっ……」
 布団の上に葵は無防備に倒れた。
 その上に馬乗りになってカイトは命じた。
「葵。胸、はだけろ。いますぐだ」


 カイトの目が本来の残忍な輝きを宿した。可憐な少女の貌でありながら、瞳だけが女らしい容貌を裏切るようにギラつく。
「どうして……」
「男が女のエロい姿見たくなるのにどうしてもクソもあるか。オレは男だって何度も言った筈だぜ? ほら、早くしろ!」
 強く促されると、葵はいわれるままにもそもそと手を動かし始めた。
 仰向けになったまま制服のブラウスをはだけた。
「その下もだ」
 と顎をしゃくられ、葵はブラも外した。
 プルンッ……
 ティーンエイジ特有の固く張りのある乳房が露わになった。
 カイトの胸よりは小ぶりだが、形は綺麗なお椀型をしている。濃いめの色をした乳首が真上に向かってツンと立ち上がっていた。
「隠すな!」
 おずおずと胸を隠そうとした葵にカイトは一喝した。
 恥ずかしそうに腕を下ろし、カイトの視線から身をよじる葵。それを見てカイトの胸の奥でズクンと形にならない快感が起こった。
(いつものアノ感じだ……)
 女をモノにするとき味わう、男としての征服の快感だ。
 胸の奥の昂揚感に連動する下半身の灼熱がないことだけが悔しかった。
 それども葵の恥じらった表情は充分に男としての征服、支配欲をくすぐる。
 衝動にまかせてカイトは葵の乳房を掴んだ。
「あぅ……」
 ピクリと葵が敏感な反応を示す。
 カイトの手の中で震える果実は、カイト自身のそれと比べてより未熟で手応えが固い。
 容赦なくカイトは手の中のふくらみを鷲掴みにして握った。
「い……た……」
 葵が途切れがちな声をあげて唇をわななかせた。


 乳房を乱暴に握られることがどれだけ痛いかはカイト自身が味わっている。それだけに、苦痛に耐える葵の顔は嗜虐心をそそった。
「くく、もっとオレを楽しませろよ。てめぇも大人しそうな顔して、男とハメたのは一度や二度じゃねえんだろ?」
「いやああ……」
 葵は身をよじるだけで答えようとはしなかった。
「そういう声出されると男としちゃたまんねぇんだよ」
 作れる限りの低い声でカイトは囁いた。その囁き声に反応するように葵が震えた。
 カイトはさらに両手で葵の乳房をこね回した。
 手に吸い付くような女の肌の手触りと、手を押し返してくる胸の弾力にカイトは陶然となった。
(ああ気持ちいいぜ……)
 葵はときどき耐えかねたように声を漏らすが、積極的に抵抗しようとはせずなされるがままだった。
 そんな葵の態度がますますカイトの欲望に火を付けた。
 わざと爪を立てるように左右の胸を掴むと、葵はかすかに呻いて体を突っ張らせた。
「痛いか? へっ。イヤらしいオッパイしやがって。自業自得だぜ」
「カイト、君……どうして、こんな……」
「黙れよ。女の体なんて男を悦ばせるためだけに存在してるんだ。女なんてしょせん男にとっちゃオモチャなんだよ!」
「カイト君は……そんなふうに思ってるの……?」
「悪いか!? おまえはオレのことを憐れんで、のこのこと家まできたんだ。こうされても文句は言えないよなあ?」
 カイトは執拗に葵の乳房を責め続けた。
 まるで乳搾りでもするように乳房のふくらみの裾野から頂へと胸を揉む。
 その動作を繰り返すうちに目に見えて乳首が大きくなってきた。
「インランめ。こんなメチャクチャに揉まれて感じてんのかよ?」
「や、そんなこと……!」
 キュウッ!


 カイトは前触れ無しに固くなった乳首を摘んでしごいた。
「ひっ、ひゃああっ……ダメぇっ!」
「ヘヘッ、んなとろけた声出してダメも何もねぇな」
 無意識のうちにカイトは女にとって最も感じるような乳首の責め方をしていた。
「どうだよ。気持ちいいのか?」
「ああ、や……い、た……」
「痛いよりも気持ちいいんだろうが!」
 焼けるように熱い乳首をキリキリと摘んだかと思うと、次は爪先で弾く。
 乱暴な愛撫にも次第に葵は甘い声で反応するようになっていった。
「へへ……」
 カイトの欲情した舌なめずりは美少女の容貌とひどくアンバランスだった。それでいて、見るものをハッとさせるような一種の淫靡さを帯びていた。
 サラシの下にカイトは熱くなった自分自身の突起を感じた。葵のそれに劣らぬほど尖りきった乳首がサラシにつぶされて悲鳴を上げている。
(こんなときまで反応しやがって……クソッ!)
 カイトはつとめて自分の体のことは考えないように、葵をいたぶることに集中した。
 葵のスカートを脱がせ、パンティの上から秘部を愛撫した。
「あっ、あっ、だめだよぉ……止めてぇ……」
 弱々しく葵が哀願するがカイトは構わずに続けた。
 カイトの指先は女体で最も敏感な突起を探り当てていた。
 パンティの上からだとかすかにわかる程度のクリトリスを指で擦った。
 擦り方に変化をつけるたびに葵はビクビクと体をひきつらせて反応する。それがカイトには面白かった。
 かつてのカイトならすでに挿入している頃合いである。にも関わらずカイトは執拗に前戯に没頭した。
 くちゅっ、くちゅっ……
 葵のパンティが湿った音を立て始める。
 カイトの責めは的確に女のツボを突いて葵を追い立てる。
 葵はすでに快感のあまり小刻みに震えている有様だった。


「文句言ってたくせにしっかり感じてんな。女なんて生き物はしょせんそんなモンだ」
「ダメ……カイト君だって、女の子の体、なんだから……」
「黙れよ、メスブタ!」
「ひ……んっ…………!!」
 充血しきっていた豆を強く摘まれた葵は、それだけで震えながらイッてしまった。
 足を突っ張らせてイキながら、葵は涙をこぼした。
「へっ、泣くほど良かったのかよ!」
「あ……カイト君……私……」
「まだ終わらせねえよ!」
 カイトは追い討ちをかけるように葵の濡れたパンティを引きずりおろすと、薄桃色の花弁の中央にダイレクトに指を突き立てた。
 絶頂の余韻にいまだうかされていた葵はすぐさま、次の波にとらわれて苦しそうに目をつぶった。苦しいほどの快感に晒されているのである。
「そういう顔……ゾクゾクすんだよ」
 くちゅっ、くちゅっ、じゅぷっ!
 指二本で巧みに秘裂の壁を愛撫すると、葵はマリオネットのようにがくがくと震えてそれに反応した。
「またアホみたいなツラしてイッちまえよ!」
「ああっ、いやあぁ……もう許して、カイト君……」
「ダ・メ・だ・ね」
 魔性に憑かれたような笑顔でカイトはいった。
 女体の秘芯を責め立てる指の動きは止まることを知らない。
 カイトは自分で気付いてなかった。男のときならとうに愛撫から挿入に移ってる頃合いである。
 挿入による快感への欲求を、愛撫の精神的快楽が上回っていた。挿入のための器官を持たない体では当然の帰結である。
 カイトの心と裏腹に、延々愛撫を続けるその行為は、レズビアンのセックスに酷似していた……
「カイト君は……カイト君は……」


「オモチャのくせに喋ろうとすんなよ」
 しこりきった葵の乳首を指の腹で押し倒すと、葵は声をこらえたまま軽くイッてしまった。はだけた上半身は度重なる責めのせいで桜色に染まった。
 カイトは指による責めを秘所に戻すと、代わりに上体を重ねて葵の胸の前に持っていった。
 眼前に形の良い二つのふくらみがはずんでいる。
 チュパッ……
 サディスティックな表情でカイトは葵の胸の蕾を口に含んだ。
 その瞬間に葵の顔がひきつった。
「ダメ、そんなしたら……」
 チュッ……チュパッ……
 わざといやらしい音を立てて乳首を吸った。
「ひああああああっ! やああああ……!」
 正体もなく葵は悶えた。
(そうだ……もっとヨガレよ! オレはコイツを支配してんだ!)
 さんざんに舌で乳首をねぶると新しい種類の刺激に葵はいま責めを始められたかのように激しく反応した。
 カイトは乳首から口を離すと唾液で濡れた突起をゆるゆると掌で弄んだ。
「いやぁ……そんなふうにされたら、私、私……」
「生殺しがイヤなら言ってみろよ。淫乱な私のマンコにブチ込んでくださいって」
「やぁぁ……ひどいよ……」
「マンコびちゃびちゃに濡らしといてよくいうぜ! そんな口にはな……」
 カイトはハーフパンツのジッパーを下ろした。
(あっ……!)
 葵の口にペニスを突っ込もうとしてカイトは内心で舌打ちをした。
 つい勢いでジッパーを下げてしまったものの、カイトの股間には本来そそり立ってるはずのペニスがない。
(くそ……こんな体じゃなきゃ!)
 頼りなくスースーとする股間を恨めしく思いながらカイトは代わりの手段を探した。


(あれを使うか!)
 机の上に転がってた万年筆に目をつけてカイトは伸び上がるとそれを手にとった。
 万年筆の丸くなった尻の部分は、少々細すぎるがディルドーの代用品になりそうだった。
(マンコに突っ込んだあと、自分の口でしゃぶらせてやるか)
 ぺろりと万年筆の先端を舐めてからカイトはそれを葵の秘部に持っていった。
 葵の股間に顔を近づけたカイトは自然と葵の顔に背中をみせる体勢になっていた。
「へへ、指だけじゃ物足りなくなってたとこだろ?」
 そういってから、焦らすように小陰唇を万年筆の先でなぞった。
 葵のそこは汁まみれになって物欲しそうにひくついている。
 一気に突き立てようと万年筆を強く握ったカイトは、これから女を犯すという昂揚感に顔を輝かせた。
 自前のペニスで貫けないことだけが心残りではあった。
 背後で葵がするりと上体を起こしたことにカイトは気付きもしなかった。
 穿いていたパンティの股間の布をずらされたとき、カイトの反応は滑稽なほど鈍かった。
「……あ?」
 疑問の声をあげたときにはすでに遅かった。
 チュプンッ……
「うくぅっ……?!!」
 細くしなやかな指がカイトの割れ目に侵入してきた。
 責めることにばかり夢中になってたカイトは無防備なままその侵入を許してしまった。
「な……なにしやが……くはぁぁっ!!」
 カイトが己の股間に手をやろうとした瞬間、それまで浅く差し込まれただけだった葵の指が第一関節を越えてカイトの中に深く入ってきた。
「あ……うあぁ……」
 全く唐突な挿入にカイトは持っていた万年筆すら取り落として呻いた。
「カイト君にもしてあげるね……気持ちよいやりかたでしてあげる」
「なに……を……ゃあああっ!」
 逃げようと腰を浮かすとさらに深く指を突き上げられ、カイトの腰は砕けてしまった。
 すとんと葵の指の上に腰が落ちてしまう。
 ズブリッ……


 完全に指で貫かれ、カイトは病気のサカナのように口をパクつかせた。
「カイト君、かわいい……」
 熱っぽい口調で葵はつぶやいた。
 ぷちゅっ、ちゅくっ!
 カイトを貫いた指が抽送を開始した。
「うあっ! ああああ…………」
 熱くなっていた膣の中を掻き回されてカイトはめまいに近い快感に翻弄された。
(なんで……こんなことに……)
 葵を犯してるはずだったのに、いつのまにか攻守が逆転してカイトのほうが犯される立場になっていた。
 そのことがひどく不条理に思えた。
「お願い。気持ちよくなって。私に身を任せて」
「うああああっ……やぁ……んくぅっ……」
 体の裡で他人の一部が蠢く。その違和感がやがて快感になってくる。
 しかも葵は女の体がとろけるようなツボと手管を心得ていた。
 カイトはいとも簡単に翻弄された。
 いくら強がっても、しょせんカイトの肉体は女のものでしかない。指一本入れられただけで簡単に他人に支配されてしまう体だった。
 ちゅっく、ちゅっく……
 葵は微笑しながらカイトの中に埋めた指を出し入れさせた。その指は透明な粘液でどっぷりと濡れている。
 的確な刺激でカイトは目も眩むような快感を味わった。
 たちまちカイトは追い詰められていった。絶頂という名の崖っぷちへと。
 クスッと葵が笑った。
「カイト君、女の子初心者だね。たったこれだけで、喋れないほど良くなっちゃった?」
「な……あ……ひんっ、んんんんっ……」
「あは、可愛い。男の子はそんな喘ぎ方しないものね?」
「うあぁ……オレ……は……やぁぁぁっ!?」
 二本目の指を追加されてカイトは声をひきつらせた。


 ついさきほどまで、されるがままだった葵が別人のようにカイトを責める。
 葵の指を追い払おうと思っているのに、体は全く言うことを聞かない状態だった。
 逃れようもないまま、ただひたすら支配された。
 ちゅぽっ。
 卑猥な音を立てて指が引き抜かれた。
「ふわぁぁっ!?」
 引き抜き際にクリトリスを撫でられてカイトは悲鳴をあげていた。
 まだ目眩のような感覚の残るうちにカイトの胸のサラシがするするとほどかれてしまった。
 きつく押さえつけられていたバストが、それまでの虐待に抗議するように勢いよくシャツを押し上げた。
 それによってわずかに上体の重心が変わったほどだった。
 ピアスとチェーンの擦れるお馴染みの金属音がする。
 あっと思ったときには葵がカイトの前に回り込んでいた。
「オッパイあったほうが、もっと可愛いと思うの」
「言う……な……」
 葵がカイトの乳房を持ち上げ、手を離すと二つのふくらみが滑稽なほどにプルンプルンと揺れた。
 カイトはかばうように腕を持ち上げて胸を押さえた。すると、葵はイタズラな子供のように笑って再び指先を挿入してきた。
「はあああっ……」
 たった一本の指を挿れられただけでカイトの肉体はカイトのものでなくなってしまう。葵が膣の中で指を折り曲げると電撃のような快感が走って自然と身体がのけぞった。
「好きだよ、カイト君。だから、もっと気持ちよくなってね……そのカラダを受け入れられるくらい、気持ちよくね……」
「う……く……ああああンン……」
 葵の名前を呼ぼうとするのにカイトの口から飛び出すのは淫らな女の喘ぎ声だけだった。
(なんでオレ……こんなAVの女みたいな声を……)


 千々に乱れる思考の中で、残存する理性は己の痴態を恥辱に思っていた。
「楽にして。肉体の快楽に抗うのはツライだけだから。躰から自由な心なんてないんだよ」
 葵はカイトの唇を塞いだ。まるで反論を許さないとでもいうように。
 唇を割って舌が挿入ってくる。膣と唇と両方を犯されて、頭が白く染まっていった。
 痺れるような快感が心を縛っていく。
 考えることが困難になって、葵の言葉が自分の考えであるように心に染みこんでいく。
 自由な心なんてない……
 女という身体のセックスによって精神が規定されていく……
(イヤだ! オレはオンナじゃない……)
 パッと火花が散るように、カイトは強く反発した。だが、それも与え続けられる甘ったるい快楽に流されていく。
(あああ……キモチいいよぉ……)
 心の奥の部分が徐々に葵の愛撫を受け入れ始めた。女の悦びを拒む心の壁が一枚また一枚と崩れ去るたびに感じる快楽は大きくなっていく。
 花芯を挿し貫いた葵の指が激しく出入りした。
「〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
 カイトは目玉がこぼれそうなほどに目を見張った。唇が塞がれていなければ、あられもなく嬌声をあげてしまっただろう。
 ぬちゅっ、ちゅく、ぬぷっ……
 生々しい音の通りにぬめるような挿入の感触が下半身から伝わってくる。指が出し入れされるたびに躰の真芯から波紋状に快感が生み出された。
「んはぁっ」
 ようやく唇を解放されて、喘ぐように息を吸った。
「フフ……カイト君、とっても可愛い女の子の顔してる」
「ふぇ……ちが……」
「この女の子の躰はね、愛されるために出来てるんだよ。私と同じ」
 耳元で囁くように葵は続けた。その間も下半身への責めは止むことがない。


「エッチな本に載ってる女の人と同じにできてるの、カイト君のカラダ。カイト君だってあんなふうにエッチな姿になれる……」
「や、やぁぁぁ……ふぁぁぁ……」
 とろけたような声を返すのが精一杯だった。またぞろ激しくなってきた女性器への刺激にカイトはたまらず首を反らして快感をこらえた。
 いつのまにかシャツを胸の上までたくしあげられていた。裾の部分が胸のふくらみの上にのっかってそれ以上落ちなくなっている。
「……女の子のオッパイってキレイだよね。男の子はみんな好き。私も、好き……カイト君も好きでしょ?」
「ううン……ふぇ……す、好き……?」
「好きだよね? ね、自分のオッパイさわってみて」
 ぶらんと垂れ下がっていたカイトの手を取って葵はそれをカイトの乳房へと誘った。
「くぅン!?」
 尖って張り出した乳首が掌にコリリと押しつけられた。
 手と乳首の両方に不思議な感触を覚えた。勃ちきっていた乳首からは鋭いほどの快感が生まれた。
 自身の胸に手を当てて戸惑うカイトの姿を見て葵は嬉しそうに微笑んだ。
「もっと手を当ててみて」
「ん……」
 理性が半ば麻痺した状態のカイトは催眠にでもかかったように葵の言葉に従った。
 乳首を押し返すように胸のふくらみを手で押さえた。
 じわりと穏やかな快感。
 そして、心臓の鼓動が手に伝わってきた。トク、トクと早いビートを刻んでいる。
「オッパイを通じて感じるでしょ、カイト君のハート。もう男の子のものじゃないよ? だから、いまドキドキしてるカイト君の心も女の子の心だよ」
「オレは……オレ……」
「そう。男の子みたいな女の子。とってもエッチな、ね」
 エッチな女の子……
 葵の言葉が呪縛のようにカイトのこころを縛っていく。


 次第に、自分を男だと思うことができなくなっていく。
 ちゅんっ……
 ついばむように葵がカイトの胸の桜色の突起にくちづけた。
「アアン……」
 乳首から乳腺全体にジンと刺激が伝わりカイトを悶えさせた。
「女の子どうしで仲良くなるやりかた、教えてあげる」
 葵はカイトを優しい手つきで抱きしめた。
 男女の抱擁とはまったく違う、花びらが包むような女どうしの抱擁だった。
 葵の乳房がカイトのそれと重なり合った。
 お互いの乳房が押し合い、固くなった乳首がツンツンと突き刺さる。
「カイト君の乳首、生まれたばかりの子みたいにきれいなピンクだね」
 葵は体の位置を調節して、互いの乳首がぶつかり合うようにした。ピアスリングをおしのけるようにして葵の乳首がぶつかってきた。
「あっ、あっ、あっ……!!」
「あはは……くすぐったいね」
「ひゃあああっ……あ、あ、あンンッ!!!!」
 カイトにとってはくすぐったいどころではなく、強烈な性的快感だった。
 コリリとしこった乳首が互いに擦れるたびに胸から電気が走ったようになって、全身がひきつった。
 ピアスリングやチェーンのせいで不規則な刺激も加わる。
「〜〜〜〜〜……」
 唇の端から涎まで垂れてしまった。
 葵が体を揺すって乳首を合わせるたびにカイトは意味不明の叫びをあげて反応してしまう。我慢できるような生やさしい刺激ではなかった。
 葵も相当に感じてきているのか顔を真っ赤にして乳房を擦りつけてくる。
「こっちへおいでよ……」
「あ……お……い……」
「女の子になって。一緒にエッチな女の子になろう? そうしたら辛くないよ……」
 ぼうっと霞がかかった視界の中で葵の顔が近づき、もう一度濃厚なキスをされた。


 全身で重なり合う女同士のセックスは男であろうとするカイトの心をズフズブと溶かしていく。
(オレはもう……女なの……?)
(違う、オレは……)
(ああ……オッパイとオマンコがこんなにキモチいい……)
 葛藤する心の声が次第に断片的になって、そのぶんカイトの心と体はエクスタシーの高みに向かって運ばれていく。
 震える手で万年筆を拾ったのは殆ど無意識でのことだった。
「いこう……一緒だよ」
 葵が囁く。乳房がきつく押し合わされ、とけてひとつになったようだった。
 同時に膣への愛撫が大きく激しいストロークに変わった。
「あン……ハアッ……ンンン……ふあぁぁぁぁぁ……」
 雲を突き抜けるように意識が天上へと昇る。
「ゃあっ!?」
 カイトの嬌声にまざって葵が喘いだ。
 カイトの万年筆が葵の中に入っていったからだった。
 一矢を報いるように万年筆を葵の濡れた花弁の間に突き入れた。……それはカイトの最後の自由意志だった。
 すぐにペースを取り戻した葵が最後の愛撫をした。
 ………………………………………………………………
 サァァァァ……と光のカーテンが意識の断層を渡っていった。
 抗いようもないエクスタシーの白い悦びの中でカイトの全身は不随意にわなないた。
 自分が何を口走ったかも聞こえない。
 運び上げられた天上の窮みから虚空へと放り投げられた。
 体がどこに在るのかもわからなくなるほどのエクスタシーだった。
 そのまま無限の闇に吸い込まれるようにカイトの自我は形を無くした。


 ……葵にキスをされて意識が戻った。
 妙にすっきりとした意識でカイトは目を開いた。
 イッてしまったときカイトと葵は折り重なって布団に倒れ込んでいた。
「……気持ち、よかった?」
 葵は料理のできを気にするシェフのように真剣な顔をして尋ねてきた。
 カイトはつりこまれるように素直に肯いてしまった。
「良かったぁ!」
 葵は笑顔になってカイトの上から体を引いた。
 カイトは言葉も見つからないまま、ぐっしょり濡れているだろう股間へと手をやった。
「あ……」
 カイトの股間はすでに液を拭き取られてさらりとしていた。葵が後始末をしてくれたのだろう。
 秘部に手を当てたままカイトは温かなセックスの余韻にしばし浸った。
 股間のその場所にかつては男の象徴が存在していた……それがひどく昔のことに思える。
 いまカイトが実感できるのはひそやかに息づく雌の器官と子宮の存在だけだった。
 きっともう、ペニスの幻影をそこに感じることはないのだろう。漠然とカイトはそう思った。
 顔をあげて時計を見ると、すでに♂カイトが戻ってきてもおかしくない時間になっていた。
 葵はと見ると、もう身だしなみを整えてカイトのことをそばで見守っていた。
「また、気持ちいいことしようね」
 うん、と答えそうになってしまいカイトは言葉を呑み込んだ。
 裸の胸が葵に向けられていることに気付いてカイトはそれを腕で覆い隠した。
「……今日はもう時間がないんだ。早く帰ってくれ」
「うん、じゃあ帰るね……」
 葵は自ら部屋の敷居をまたいだ。そして戸口のところで振り返り、懇願するような口調でいった。
「私のこと、嫌いにならないで」


「……また来いよ」
 カイトはそう答えていた。葵はあきらかにほっとした顔になった。
 カイトは半裸で布団の上に腰を下ろしたまま、葵が玄関から出ていく気配を追った。
 足音が遠ざかっていく……
 葵にはもっと訊きたいことや、頼みたいことがあったはずだ。
「ふぅ」
 カイトはため息をつくとまじまじと自分の胸を見下ろした。金具で飾り付けられた胸のふくらみをそっと触ると、女同士で味わった夢のように甘ったるいセックスの心地よさが甦ってくる。
 ……かわいいよ、カイト君のオッパイ……
 葵の言葉が脳裡で響くと、不思議と自分の胸にあるふくらみを愛おしく感じられた。
 そのとき一階の柱時計が鳴ってカイトは我に返った。
「こんな格好、奴に見られたら……!」
 あわててカイトは階下に走り、メイド服に着替えた。私服でいることを咎められ、理不尽な罰でも受けたらたまらない。
 ヘア・タイをつけて鏡で仕上がりをチェックしているところへ♂カイトが帰ってきた。
 まさに間一髪のタイミングだった。
 ♂カイトに呼ばれ、出迎えに玄関に走る。
「ポチ、いい子で留守番してたかァ?」
 ♂カイトにぐりぐりと頭を撫でられる。
 カイトは無言でこくっと肯いた。
 葵を招き入れたことを告白するつもりなど、毛頭ない。
「……ん?」
「な、なに?」
 ♂カイトは怪訝な顔をしてカイトに顔を近づけてきた。
「なんか……甘い匂いがしないか?」
 鼻をひくつかせて♂カイトはいう。
 カイトの胸の中で心臓が跳ね上がった。


「気のせいかな? なんか甘くっていい匂いがしたような……」
 ♂カイトの鼻先がカイトの胸の谷間に押しつけられ、カイトは動悸の激しさを悟られないかヒヤヒヤした。
 葵とのセックスで分泌された体臭を、♂カイトは「甘い匂い」に感じているのである。
「ち、茶でも淹れてくる!」
「へえ。ポチも気がきくようになってきたね。頼むよ♪」
「お、おう……」
 カイトは逃げるように小走りで台所へと駆け込んだ。
 一人きりの台所でそうっとメイド服の胸元をはだけ、自分の匂いを嗅いでみた。
「あ……ほんとに甘い匂い……」
 かすかな温かみのある甘い香気がたちのぼっていた。
 不意に切なくなってカイトは胸を押さえた。
 これから自分はどこへいくのだろう、と漠然とした不安に苛まれながら……。




>289
 ♂カイトは部屋にあがるなり鞄を開けて宿題を始めた。
 カイトはポカンとして問題集を解き進んでいく♂カイトの手元を覗き込んだ。
 問題の意味すらカイトにはチンプンカンプンだが、それを♂カイトはスラスラと解いていく。
「このくらいはね。こう見えても僕は大学で数学科だったんだぜ」
(エロゲー以外にも特技があったんだな……)
 ♂カイトは丸々一ページを解き進んだところでシャーペンを置いた。カイトのほうを振り向き、自分の肩を指した。
「勉強すると肩凝っちゃってね。マッサージ頼むよ」
「あ、うん」
 カイトが肩に手を掛けと、
「ノンノン!」
 と♂カイトは首を振った。
「もっとふんわりマッサージで頼むよ。ふんわりで」
「……ふんわり?」
「手を使うのは禁止。使うのは……ここ!」
「やぁっ!?」
 くにゅ。
 突然下側から乳を揉まれてカイトは動揺した。
 服の上からでも他人に胸を触られると、くすぐったさと切なさの半ばしたような不思議な感覚だ。
「せっかの巨乳だ、せいぜい有効活用してくれよ」
「そんな……」
「ポチ、返事は?」
「…………」
 観念してカイトは小さくはい、と呟いた。
 ♂カイトが問題集に戻ると、カイトはおずおずとその背中に近寄った。
(うう……こんなのやだ……)
 おずおずと胸を突きだし、♂カイトの肩にバストを触れさせた。
 ふにゅ……


 ♂カイトも感じているだろう柔らかい感触は、カイト自身にもやんわりとした快感となって胸に感じられる。
「んっ、んっ……」
 体を揺らし、何度もバストを押しつけるようにした。
 そのたびにバストが柔軟に変形し、たぷたぷと揺れた。
 ♂カイトがいったように「巨乳」でないとそもそも成立しないサービスである。
(うあ……なんだか変な気分に……)
 バストが♂カイトの肩に押しつけられ、その上で擦れたり変形したりするたびに微妙な快感が生じる。
 特に乳首の部分が擦れたりするとたちまち電気のような鋭い刺激になる。そういう過敏さはピアスリングのせいでもある。
「んっ……んっ……」
 命じられて嫌々やっていたのに、いつのまにかカイトは随分と熱心に体を動かしていた。
 ♂カイトはタバコをくわえ、鼻歌混じりで宿題の続きである。
 屈辱的な行為だったが、命令と割り切ってやってるうちに女だけが味わえる快感の虜になっていた。
 乳房の存在をいやが上にも意識させられる屈辱はあったが、葵の言葉のおかげでカイトは底なしの自己嫌悪に陥らずに済んでいた。
 葵はカイトの乳房のことを「可愛い」といってくれた。葵がそういうなら、そうなのかもしれないと思えてくる。
 バストによるマッサージはそれからひとときの間、続いた。
 そろそろ胸が擦れて痛くなってくる頃、♂カイトがシャーペンを置いてのびをした。
「よーし、終了」
 どうやら宿題が全部終わったらしい。
 こんな短時間で宿題が全部片付くなんて、カイト本人では考えられないことだった。そもそも真面目に宿題に手を付けたことさえないので話にならない。
 カイトは苦役から解放され、床にあぐらをかいて一息ついた。
「ったく、ポチ子はメイドのくせに行儀悪いんだから」
「あんっ、や、やっ!」
 足先で胸のいただきをこちょこちょとくすぐられ、カイトは慌てた。


「……ま、オッパイのマッサージは気持ちよかったけどね♪」
「そ、そうか」
 カイトは自分自身の気持ちの変化に少し驚いた。
 いま、♂カイトに「気持ちよかった」といわれて、心のどこかでカイトは嬉しかったのだ。
 旧校舎の教室で、人間ですらないセックスの道具として扱われてきたカイトにとっては、心を惑わされるほど♂カイトの言葉は耳に心地よく響いた。
 女であることを受け入れることで、この家に自分の居場所ができるなら……
 心の中の、漠然とした無意識の領域でそういう思いが生まれ始めていた。
「ポチはこのCG見てどう思う?」
「え、あ?」
 ♂カイトはノートパソコンで早くも美少女ゲームを始めていた。
 CGというのは、海辺で主人公らしき青年の下半身にかしずくように水着の少女が奉仕をしているシーンだった。
「ビキニってのはなんだかんだで基本だよね、基本」
「ま、まあな……」
「……というわけでさ! 折角だからポチ子にも水着で奉仕してもらおうかと思ってね」
「え!?」
 ♂カイトは美少女ゲームのお気に入りのシチュエーションを再現しようというのだろう。
 カイトはこれから自分が何をやらされるのか、だいたい見当が付くような気がした。
「まさか、水着買ってきたのか?」
「まさか」
 と♂カイトは意外にもあっさり否定する。
「なんだ、ビックリした……」
「水着はこれから買いにいくんだよ。ポチを連れて」
「ふぅん……って、ええ! これからかよ!?」
 ♂カイトはこの上もなく真剣だった。
 断る自由があるはずもなく、カイトは外出を急かされた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! こんなメイドの格好で出るわけにもいかないだろ」


「いいよ、別に。メイドを連れて歩くのって憧れだったし」
「そういう問題じゃねえって。近所の噂になっちまうだろ、こういう田舎じゃ」
「あ、そうか。うーむ……」
 カイトの存在があまり噂になるようなことがあると、どこでムラタの息の掛かった人間に噂が伝わらないとも限らない。
「しかたないな。早く着替えろよ」
「ああ……わかった」
 カイトは昼間着ていた私服に着替えた。
 ただし♂カイトが見ているので、胸にサラシを巻いたりはできなかった。
 普通にTシャツを着てしまうと、かえってメイド服よりもカイトの巨乳は目立ってしまう。
「いくぞ、ポチ! 急がないと店が閉まっちゃう!」
 躊躇する暇すら与えられずカイトは外へ引っ張り出された。
「わかったから、そんな強く引っ張るなよ……」
 細い手首をきつく掴まれてカイトは音を上げた。
 外の通りに出ると、夕刻ということでそれなりに人出があった。
 すれ違う男は皆一様にカイトの巨乳をチラリチラリと視姦していく。
 カイトは自分がかつては男だっただけに、男たちが無関心を装いながら横目でしっかりカイトの胸をチェックしてるとわかる。熱いほどの視線が集まるのを感じてしまう。
 一歩ごとに胸が大げさに揺れてしまうのが恥ずかしくてたまらなかった。
(こんな、ヤロー共に見られてるのに……)
 カイトの意志とは関わりなく、スタイルを誇示するかのように胸が揺れ、ヒップが左右に泳いでしまう。
 恨むとしたら、自らの女らしい肉体を恨むしかなかった。
 男だけでなく、若い女たちもすれ違いざま、羨望の、あるいは嫉妬の視線を投げかけてきた。
 恥ずかしさのあまり顔を赤くさせて歩くカイトの反応を、♂カイトは楽しんでいるようだった。
 やがて、二人のカイトは最寄りのスーパーに入った。カイトが服や生理用品を買い揃えたときのスーパーだ。


 衣料品売り場になっている二階へと上がっていく。
 水着売り場へいくと、♂カイトはさっそく売り場を見回してあれがいいこれがいいと、品定めを始めた。
「わりぃ。なんでもいいから、あんたが買ってきてくれよ」
「冗談。女物の服買うなんて、恥ずかしくってとてもとても」
「そんな、オレだって!」
「なーに言ってんだか。ポチ子は正真正銘オ・ン・ナ・ノ・コだろ?」
「う、ん……」
 いまさらどう抗弁しても無駄だった。
 言われるままカイトは指示のあった水着を掻き集めた。
 レジに向かおうとすると、♂カイトに止められた。
「試着して一番良かった奴を一着だけ買うから」
「試着……オレが!?」
「頭悪いこと言わないの。ポチが試着しないで誰がするんだよ」
 カイトは訴えるような目で♂カイトは見たが無駄だった。
 覚悟を決めるとカイトは試着室に入った。
 試着室の鏡張りの壁に、水着を両腕に抱えて途方に暮れた顔の少女が映っていた。
(信じられない……このオレが女の水着なんて……)
 逃げ出したい気持ちを押し殺して試着へと移った。
 水着を試着するためには一度全裸にならないといけない。
 服を脱ぐと、胸に屈辱的なピアス・チェーンの装飾が露わになった。
「くっ!」
 なるべく自分の姿を見ないようにしながら、最初の水着を身につけた。
 ワンピース型でありながら大きくヘソの周りが露出した水着だった。
 伸縮性の高い生地の水着に足を通すと、それだけでざわりとした。
 水着がぴっちりと肌にはりつくと、不思議な快感が生まれた。
 第二の肌のように張り付いたすべすべの布地のせいで、ハイレグの股間をもじもじとさせると内腿の付け根にはっとするほどの快感が生まれた。


 水着の内側には、股布や胸のカップの部分に当て布が付いていた。男物の水着には無縁のものだが、女のデリケートな体にはそれらが必要なのだと実感できた。
「どんな感じィ?」
 と♂カイトが試着室に首を突っ込んでくる。
 カイトは顔から火が出そうな思いで水着姿を晒した。
「ど、どう、だ……?」
 思わず尋ねてしまい、カイトは自分自身で戸惑った。
(何訊いてんだオレはァ──!)
 内心の混乱を見透かすかのように♂カイトはにやついた。
「その調子で全部の試着いってみようね、ポチ子たん♪」
「ふ、ふんっ!」
 そっぽを向くとカイトは体に張り付いた水着を脱ぎ、次の水着へと移った。
 ……十着近くの水着を試着させられ、カイトはあらゆる水着姿を♂カイトに視姦された。
(そんなにジロジロ股間と胸ばっか見るなぁ……濡れちゃったらどうすんだよ!)
 グラビアアイドルばりの水着姿を自覚しているだけに恥ずかしく、カイトは俯いて視線に耐えた。無意識のうちに祈るような仕草で胸を隠していた。
 ♂カイトからの指示が飛ぶ。
「ピンと背筋伸ばして。両手は、脇!」
「う、はい……」
 さらけ出された水着姿を♂カイトは涎でも流さんばかりにだらしない表情で鑑賞した。
 結局、最後にカイトが着た白のシンプルなビキニが♂カイトに選ばれた。
 透けない白の水着は最近の流行だとかで店員も一押ししていた水着である。
 胸のチェーンがカップの間から一部覗いて見えてしまうのだが、それも含めて♂カイトの好みらしかった。
 レジに運んで金を払うところまでカイトがやらされた。
「お兄さんと一緒に水着のお買い物? とっても仲がいいのね」
 まるで店員の笑顔がそんなことを語ってるような気がして、カイトは必要以上に気恥ずかしい思いをしながら包まれた水着を受け取った。




 ♂カイトの思惑は家に戻ってすぐに明らかになった。
 ♂カイトはハサミを取り出すとおもむろに水着の尻の部分に小さな切れ込みを入れてしまった。
「さぁて、風呂にでも入ろうかな。ポチも水着持ってついてきな」
 意気揚々と♂カイトは浴室へと向かった。
(何考えてんだかな……)
 新品の水着にハサミを入れてしまう道理がわからなかったが、言われた通りにカイトは水着を持ってついていった。
 脱衣場で♂カイトはすでに上半身裸になっていた。
(オレの体だ!)
 凹凸の少ないスラリとした少年の肉体にカイトは軽い羨望を覚えた。……そう、それは羨望という感情だった。
 引き比べるようにカイトは鏡の中の自分を見た。
 Tシャツの布地を大きく持ち上げている胸はもちろん、丸く形のいいヒップも何もかもが男を誘っているかのようにセクシーだ。
(そうか……いまは、コレがオレの体なんだな……)
 自分の肉体を羨むような者はいない。
 もはや♂カイトの体は、カイトにとって他者の体だった。
「ポチ子が着替えないと始まんないだろ」
 と♂カイトが急かす。
 どうあっても水着に着替えねばならないようだ。
 覚悟を決めてカイトは裸になった。
 陽に焼けたことのない眩しいほど白い裸身に♂カイトが口笛を吹く。そんな反応は、カイトにとっては何だかむず痒かった。
(見ないで……っていっても無駄なんだろうな)
 変に恥じらう様子を見せるとますます付け込まれてしまう。
 そう思ってカイトは大胆に着替えを続行した。
 ビキニのボトムをパンティのように穿いていく。パンティよりも布全体が張り付くような感触だ。

 股間のラインはかなり大胆なハイレグになってるが、幸か不幸か恥毛の量が少ないカイトは特別な処理をしなくても毛がはみ出てしまうようなことはなかった。
 続いてビキニのブラを着けた。
 背中で細い紐を結ぶようになっていたので、普通のブラを着けるよりも倍時間がかかった。試着室でもだいぶ苦労したものである。
 四苦八苦して水着に着替え終えた頃には、♂カイトは湯船でくつろいでいた。
「入るぞ……いいのか?」
 磨りガラス越しにカイトはおずおずと尋ねた。向こうからは白のビキニに着替えたカイトの姿がぼうっと見えていることだろう。
「うぇるかむ♪」
 というのが浴室からの返事だった。
 カイトはおずおずと♂カイトの待つ浴室に足を踏み入れた。
 待ちかねたように♂カイトが湯船から立ち上がる。
(あ……)
 カイトは思わず♂カイトの股間の男のモノへと目をやってしまう。未練だった。
「背中流してもらおうか。やりかたはわかるだろ?」
「ま、まさか……」
「そ。オッパイでね」
 臆面もなく言い放つと♂カイトはどっかと腰掛けに腰を下ろし、たらいで湯を浴びた。
 カイトは自分の胸に盛り上がるブラに包まれた左右の乳を見下ろした。
 たしかに、見ようによっては上等なスポンジに見えなくもない。
「こう……これでいいのか?」
 石鹸をとって胸で泡立てると、くすぐったくて体がむずむずした。
 泡まみれになった胸のふくらみを♂カイトの背中にくっつける。
 裸でそれだけ接近すると、自分とは違う体臭がかすかに感じられた。
 男の体臭だ。
 構わずに胸を押しつけると、♂カイトが、くふぅ、と気持ちよさそうに呻いた。
 ピアスのせいでカイト自身も刺激され、あっというまに乳首が固くなった。
 胸を上下させて♂カイトの背中を擦ると、ますます感じてきてしまう。
 石鹸の泡でヌルヌルと乳房の擦れる感触がどうしようもなくカイトを悩ましい気持ちにさせる。


「ふわぁっ……」
 つい甘く喘いでしまい、咄嗟に口に手を当てた。
「へへぇ。そんなに気持ち良かった?」
「別に、そんなこと……」
「そんな淫乱ポチ子に大サービスだ!」
「え?」
 それまで隠し持っていたモノを♂カイトは手にとって見せた。
 ♂カイトが得意げにもっているものは、細いバイブだった。先端にフサフサとした毛皮の飾りがついている。
 きゅっ……
 バイブを目にしただけで、条件反射的に膣口が収縮してしまった。
「ポチ。四つん這いになって僕にお尻向けて!」
「そんな、や……」
 拒絶の言葉を口にしかけて♂カイトの冷たい目に、カイトは己の立場を思い出した。
 しょせん、逆らうことは許されていない。
「はい……」
 カイトはのろのろと浴室のマットに手足をついた。
 屈辱に胸を灼きながら、♂カイトに尻を向けた。
 自分が安いAVの女じみて見えていることは痛いほど自覚していた。
「もっとお尻あげる!」
「ん……」
 くい、と尻を突き出すと、すぐさまバイブの先端をあてがわれた。
 あらかじめハサミで切ってあった隙間からバイブを差し入れられたのだ。
「!」
 ある決定的な違和感に思わず首だけ振り向いて叫んでいた。
「そこは違う!」
「んんー?」
 カイトのアヌスをバイブの先でほぐしながら、♂カイトは舌なめずりをした。
「違うって、ポチ子はオマンコのほうに入れて欲しかったの?」
「そんな! そういうことじゃ……うあああっ!?」


 ズプププ……
 菊の蕾を割ってバイブの先端が侵入した。
 初めての肛虐にカイトは目を白黒させた。
 バイブはゆっくりとだが確実に埋め込まれていく。元々アヌス用に設計された細身のバイブなのだ。
 ズッ、ズヌゥッ……
「か、はっ……」
 焦点の定まらない目でカイトが呻く。口から涎がひとすじ、つうっと落ちた。初めてでいきなりアヌスにバイブを受け入れさせられたのだから無理もない。
「ダメ……と、取ってぇ……」
 ようやく人語の形でカイトが訴える。
 竿の部分がほぼ全て挿入され、飾りのフサフサとした毛だけが外に出ている。
「フン」
 ♂カイトは容赦なくアナルバイブのスイッチを入れた。内蔵型バッテリでバイブが震え始める。
「くぁぁ……」
 手で引き抜こうとして♂カイトに止められた。
「濡れた手で触って感電してもしらないよ?」
「うぅ……」
「そのままで奉仕を続けるんだ、ポチ」
 カイトはしきりと肩を上下させて息をした。
 深く長い呼吸をすると少しはアヌスの異物感から自由になれた。
 ♂カイトに促されて、フラフラと身体を持ち上げた。
「う……うくぅっ……」
 バイブの震動が膣にまで届いて、感じてしまうたびに括約筋が収縮した。その収縮によってますますバイブが存在を主張する。
 ヒクヒクという括約筋の運動に連れてバイブの飾りの毛が上下に揺れた。
 まるで本物の犬がシッポを振っているようだった。
 カイトの尻尾振りを見て♂カイトは手を叩いてはしゃぐ。
 そうとわかっていても体の反射を止めることはできない。カイトの意志を離れ、フサフサの尻尾はうごめき続けた。


 情けなさと、こみ上げてくる不可思議な性感に何度もカイトは声をあげてしまった。
 ♂カイトはそんなカイトに体の正面を向け、股を開いた。
「泡姫さん、まずはコイツを大きくしてもらおうか」
「あっ、ああっ……」
 アヌスへ継続的に加えられる刺激がカイトをせき立てるようだった。
 ♂カイトの男性器が視界に入ってくる。
(オレの……オレのものだったオチンチン……)
 そう思うと男のペニスを手で扱う抵抗感はなくなった。
 カイトはペニスを手の平に載せた。
 まだ柔らかいが、ペニスは熱を持っていた。ゆっくりと脈打っているのも感じられる。
 そのとき、肛門のほうで何度目か、括約筋の収縮が起こり、シッポが揺れた。
「んっ……ふぅっ……!」
 アヌスにくわえ込まされたバイブの震動が下腹全体に響き、カイトはよがり声を押し殺した。
 もちろんそんな反応を見逃す♂カイトではない。
「なぁんだ、もしかして感じまくり? ったくポチ子ったら、前立腺も無いくせにいっちょまえにバックで感じちゃってさ」
「はぁぁぁぁ……」
 辱められてなおさらアヌスそれ自体が別な生き物になったかのようにキュウキュウと締め付けた。
 シッポが揺れ、カイト自身すら自分がペットに成り下がったような気分を味わった。
 白のビキニ水着で男に奉仕する、とびきり淫らなメスのペットだ。
(くぅ……オレ、何考えてんだ……)
 反発する心と、ペットであることに不思議な甘美さを見出す心と……二つの意識がカイトの中でせめぎ合っていた。
「始めるんだ、ポチ子」
 ♂カイトの手がカイトの頭におかれた。
「はぁ……ぃ……」
 ♂カイトの手の温もりが、居場所を与えられたような気持ちにさせてくれた。
 居場所……ここにいていいんだ、という安心。
 カイトは心のどこかでずっとそれを求め続けていた。


 心を決めるとカイトは胸で泡立てた石鹸を手につけ、優しくペニスを愛撫した。
 白く滑らかな泡をこすりつけ、ペニスを根もとから撫で上げる。
 ピクリ、と反応があった。
 左手の上に置いたペニスが一回り大きくなっていた。♂カイトが愛撫に感じている証拠だった。
 不思議な感情が沸き起こってくる。
 カイトは初めてはっきりと女として自分が男に快楽を与えることができるということを意識した。
 魔法の杖でも振ったみたいに、カイトがゆっくりとペニスをしごくと、それだけで♂カイトはとろけそうな表情になり、腰を浮かしそうになる。
「そ、そう……けっこ……気持ちいいよ、ポチ子」
「う、うん……」
 言葉に添えるようにシッポがひとりでに揺れた。
 どんどん泡を立てるようにペニスを擦った。それだけでなく、男だった記憶から、玉の部分をソフトに刺激しつつ蟻の戸渡りにも指を這わせた。
 てきめんにペニスが膨張し、♂カイトがうう、と呻く。
 感じてる。感じてくれている……!
 カイトは自分の心の中に生まれたある感情に戸惑っていた。
 ♂カイトのペニスを愛おしい、と思う気持ちを自分自身で理解できずカイトはただ漠然とした温かい気分に浸った。
 石鹸まみれでなければ自然とその先端を口に含んですらいたかもしれない。
「ああっ、いい、いいよ……ポチ子……ポチ子……」
「うん」
 カイトは一心に愛撫を続けながら答えた。
(……ポチ子って呼ばれるの、ちょっとだけ好き、かも……)
 膨張して、ピクピクと跳ね回り始めたペニスはカイトの手の中から逃げるように飛び出した。
「あ、待てっ」
 おいかけてそれを握るとき、鬼頭に指が擦れ、♂カイトが切なそうに呻いた。


 このままちょっと強く力を入れて擦ったら、たちまち射精させることができる。
 男のモノをこんなにも愛らしいと感じたのは生まれて初めてだった。
「その……出すか?」
 おそるおそるカイトは伺いを立てた。
 それに対して♂カイトはたまりかねたようにガクガクと肯いた。
 クスッと思わずカイトは笑いをこぼしてしまう。
「わかったよ……」
 シュッ……
 カイトは男の頃の知識と経験を総動員して、♂カイトが感じるようにペニスを擦り、ツボを刺激した。
 時間にすればほんの数秒もかからなかった。
 ♂カイトがたまりかねたように吠え、身を仰け反らせた。
 直後、ひときわ大きく跳ねたペニスが白濁液を噴出した。
 ビクッ、ビクッ……
 跳ねるたびに液が噴き出す。
 カイトの手にもべっとりとザーメンが付着した。
 粘度の高い精液は湯で流しても簡単には落ちなかった。
「ふぅぅぅ……」
 満悦のため息をついて♂カイトは湯船の縁に体を預けた。
 はた目にも♂カイトが甘い快感の余韻に浸っているのは明らかだった。
 ♂カイトの唇が笑いの形にほころんだ。それを、カイトは自分への感謝の気持ちと受け取った。
(可愛らしくしてれば、オレは必要とされるんだ……)
 手にかかった白濁液のぬめりに、むしろカイトは誇らしさのようなものを感じていた。
 自分の価値で♂カイトを射精へと導いたという思い。久しく縁がなかった精神的な充足感を味わうことができた。
 ふと♂カイトの股間に目をやると、半分ほどの大きさに萎えたペニスの先端に精液が残って糸を引いていた。
 水着の下でじわっと花弁が潤うのが自分でわかった。バイブを入れられた肛門と膣が連動するように反応している。


 カイトは知らずペニスに目を釘付けにされていた。
 子宮のあたりから、じんと切なさがこみあげてくる。母性本能にも似た愛おしさで心が満たされ、カイトは男のペニスに惹き寄せられた。
 甘い栗の花の匂いに女の身体は酔いそうになる。
「後始末する……ね……」
 カイトは萎びたペニスの先端に口をつけた。
 鈴口にキスをするような形で、そこに残る精液を舐め取った。
 湿った淫靡な音がひそやかに浴室に響く。
 ぴちゃ、ぴちゃ……
 女の感情に支配されていたおかげで、ペニスに口づけするという行為に嫌悪感はなかった。
(オレ、凄くヤラシイことしてる)
 そう自覚しつつも、それが悦ばれるのなら構わないと思った。
 心の奥深い無意識の領野で誰にも聞かれない叫び声があった。愛されたい、と。
 ♂カイトは不意打ちのようにペニスを舐められたことで快感に耐えるように眉を寄せた。カイトの行為に反応して腹筋にも力が入っている。
 竿に付着したわずかな精液も舐め取ると、再び鈴口に戻って透明な後走りの汁もすすった。
 少年の股間に顔を突き入れながら、カイトは無意識に男を誘うように腰を振っていた。水着から飛び出たシッポがそれに連れて揺れた。
「ううっ!」
 ♂カイトが短く喘いだかと思うと、硬さを取り戻していたペニスからまた精液が噴きこぼれた。
「あ……」
 顔に精液をかけられ、カイトはびっくりしてペニスから口を離した。
 つうーっと唇とペニスの間に糸が引いた。
 カイトが念入りに後始末をしたせいで♂カイトは二度目の射精を迎えてしまったのだ。
 ごしごしとカイトは顔についた精液を拭い取った。
 ♂カイトは連続射精で体力を消耗したのか、はあはあと荒く息をついている。
「ごめん」


 謝りながらクスッと笑いが混じってしまった。
「そんなに気持ちよかったんだ?」
「な……」
「ふぇ?」
「なに勝ち誇った顔してんだダッチワイフの分際で!」
「え……」
 ♂カイトの憎しみの形相にカイトの全身の血が凍りつくようだった。
 カイトは首輪を掴まれ、無理やり立たされた。
「ぐ……ぇ……くるし……」
「おまえ、立場わかってないよ?」
「やめ……て……」
「おまえさぁ、この家にお情けで置いてもらってる奴隷なんだぜ」
 グイグイと後頭部を押され、湯船の水面に顔を近づけさせられた。湯気が目に口に入ってくる。
「そんな、オレはただあんたを気持ちよくしてやろうと……」
「恋人気取りかよ……反吐が出るね。性欲処理奴隷だった分際で!」
「ちがう! オレは……!!」
 バシャッ!
 力まかせに湯の中に頭を突っ込まれ、後半の言葉はブクブクと泡になるだけだった。
「僕はおまえのことを憎んでるんだ。それを忘れるな!」
 ♂カイトは猛って叫んだ。
 だが、湯の中で頭を押さえつけられたカイトはそれどころではない。無我夢中でもがいた。
「人間以下の奴隷(メイド)としてのみ、おまえは価値があるんだ。だから、おまえの名前はポチなんだ。……いいか、人間になりたいだなんて思い上がるなよ?」
 ようやく解放されると、カイトは大量に飲んでしまった水をげーげーと吐いた。
 それを横目に見て♂カイトが浴室をあがる。
 カイトはあまりの心細さと情けなさに自分の細い身体を抱きしめた。


 甘い幻想を完全に打ち砕かれ、もう涙すら出てこなかった。
 ただただ心が乾いていく。
(なんでこうなるんだよ……)
 悔しかった。
 “カイト”としての生を横取りした相手に文字通りシッポを振ってしまい、その挙げ句惨めに突き放されてしまった。
 しばらく立ち上がることすらできなかった。
 バイブを引き抜いてから、ぐったりと浴室のマットに横たわった。
 やがて腹の虫が弱々しく鳴いた。
 こんなときまで腹が減ってしまうことを滑稽に思いながらカイトはゆっくりと起き上がった。
 浴室を出ると、そこに叔父が待ちかまえていた。
「なん……ですか?」
「ふん」
 叔父はぎょろりとした眼で水着姿のカイトは上から下まで何度もねぶるように視線で撫で回した。
「おまえんこつ好きにして良かち彼がいうもんじゃけんの」
「…………」
 そう言われてもカイトの心はああそうかと思うだけだった。
「こっちこんね」
 着替える暇すら与えられなかった。
 叔父に手を引かれて辿り着いた先は夫婦の寝室だった。叔母のほうは、会議で遅くなるとかでその姿は見えない。
 叔父の眼がひときわギラついたかと思うとカイトは乱暴に布団に押し倒された。
「あっ……」
 叔父は無言でのしかかってきた。


 水着のブラがずらされ、乳を吸われた。
「ふうっ……!」
 それから小半時にわたってカイトは犯された。
 ろくな抵抗もせず、半ば放心状態のまま二度も胎内に精を放たれた。
 心と体が切り離されたみたいに、カイトは機械的にペニスの抽送に反応して喘ぎ声をあげた。
 セックスをしているという実感はどこにもなかった。
 ただ肉の快楽があるから、それを受け入れた。腹が減って餌のようにカップラーメンを啜るのと良く似ていた。
 もっとも快楽の倍に値するほどの苦痛が伴っていたが。
 カイトの体を貪って満足すると、叔父はタバコに火を付け、お決まりのように呟いた。
「ふぅ……良かったばい」
 商売女とやるとき、いつもそうしているのだろう。
(ばぁか……)
 乾いた嘲笑を口にすることなくカイトは目を閉じた。
 膣の中に残るぬめりが不快でしょうがなかった。
 叔父がシャワーを浴びにいくと、カイトはトイレに駆け込んで念入りに精液の後始末をした。
 油断するとトロリと膣の奥から流れ出してくる精液に舌打ちしながら、何枚もトイレットペーパーを水に流していった。
(眠てぇ……)
 トイレの水音を聞きながらカイトは思った。
 吐き気と眠気が同時に襲ってきた。
 便座で膝の上に顔を乗せ、目を閉じた。
 このまま眠ってこの世から消えることができたらいいのにとさえ思えた。
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