それはさておき、早起きしてしまった勢いで久々にリハビリ兼ねて短文を
落としてみたいと思います。
リハビリなんで起承転結とかない、その場の思いつき品になりそうですが。


学校ごと僕らが異次元に取り残されてから、もう丸一昼夜は経ってる計算に
なる。時計の針が信用できるならだが。
白い靄がどこまでも続くこの世界には昼も夜もない。時間という概念がある
かどうかすら怪しい。
ただひとつ確かなのは、ここが僕らの知る世界でなく、異次元としか形容し
ようのない場所だということだ。そこへ僕らは放り込まれた。この学校ごと。
原因?
この現象の意味?
そんなこと、分かるわけもない。
この生々しい感覚がなければ、全部悪い夢だと思いたいくらいだ。
悪い夢……
僕は制服のカッターシャツの胸もとに手を当てる。
手が胸に触れるにはまだ距離があるはずなのに、シャツの生地が指先に
触れる。そして、ふくよかな肉の丘が指を押し返してくる。
ふくらんだ胸の形にそってシャツの衣擦れを否応なく意識させられてしまう。
敏感になった全身の肌が僕に訴える。この身体は、僕の知るそれではな
いと。
胸の半球の先端にある敏感な突起を布越しに触れてしまって、僕は身震い
すると同時に我に返った。
胸に当てていた手を下ろす。
幸い(なにが幸いだ?)というべきか、教室に残ってる連中は窓から外を見
ていて僕の高位には気付いていなかった。


異変が起こる前。
僕らはクラス有志で参加していたプログラムコンテストへ向けたミーティン
グのため、休日の学校に集まっていた。
僕らのチームは二〇人ちょうど。そのうち女子は二人だけだった。
ミーティングは途中で雑談の時間も挟みながら、夕方六時過ぎまで続いた。
僕らのために休日をつぶして学校へ顔を出していた担任がそろそろ帰れと
文句を言いにきたときだった。──異変が起きたのは。
何の前触れもなく、巨大な地震が校舎を揺さぶった。
僕らは地震だとそのとき思っていた。だが、何一つ落ちたり崩れたりした物は
なく、揺れは一瞬で収まっていた。
担任の教師が悲鳴らしきものをあげた。担任の視線は窓の外へ向けられて
いた。
墨を流したような真っ暗闇だけがそこには広がっていた。
その次の光景を僕は忘れられない。
何事か叫んで窓を開けた担任が、あっというまに闇に吸い込まれていった。
悲鳴。怒号。罵声。誰が何を言ってるのかも分からなかった。
「窓を閉めろ」と叫んだのは僕自身だったかもしれない。
僕らは教室の真ん中に身を寄せ合った。
すると、もう一度、瞬間的に校舎が揺れ、それから外の暗闇が消えた。
暗闇の代わりに乳色の濃い靄が広がった。
このとき僕ら二〇名はもう異次元に飛ばされていたのだった。
もっともそれを認識して、さらに確認したのはしばらく後のことになったけど。


最初の茫然自失状態を抜け出した僕らは必死で何が起きたかを掴もうとし
た。
その結果わかったことは……
あらゆる外界との通信手段が使い物にならないということだった。
携帯はどれも電波を受信できていない。職員室にあったラジオからはザァ
ザァというノイズが流れるばかりだった。
「核戦争が起きたんだ……」
ひょろりと背の高い島田がつぶやいた。
それはずいぶんと説得力を伴って聞こえた。
僕らは混乱をひきずりつつ、校舎のあらゆる開口部を閉ざしていった。
チームリーダーとして僕らを引っ張ってきた黒部隆哉の指示だった。こんな
ときでも隆哉は、少なくとも他の面々に比べれば冷静だった。
ありとあらゆる戸口や窓の錠を確認してから、僕らは2−Aの教室に集まっ
た。もともと異変が起きたとは僕らがいた教室だ。
二人いる女子の片方、小柄な体格の小春は使い物にならない携帯をそれ
でもしつこくいじってメールを送ろうとしてた。
「ねえ……これって本当に核戦争があったの? それともテロ?」
いまにも泣き出しそうな声で小春が言った。
知るかよ。とげとげしい声で誰かが応じる。
「だって変じゃない!? 核が落ちたなら、どうしてこの校舎だけなんとも
ないの? どうして外で物音一つしないの?」
小春の叫びに教室の中はしんと静まりかえった。
このとき僕らはようやく、この「異変」が超常的なものだということを感じ始め
たのだった。


重苦しい沈黙がその場を支配した。あの黒部隆哉すら、みんなを落ち着か
せるような言葉を見つけられずにいた。
やがて、もうひとつの異変に僕らは気付く。
「仁志……お前、なんだか体形が……?」
「触るなよ。なんでもないよ!」
「なんだよ、その女みたいな声?」
「え……」
仁志の変化を見逃していたのは、単にそれまでがパニック状態だったから
だろう。それほど仁志の変貌は顕著だった。
そして……この僕も。
仁志のシャツの下にはまぎれもない女の子特有の細くて丸みを帯びた体形
が感じられた。仁志が男だという先入観がなかったら、その姿を見て男子の
制服でコスプレしてる少女と信じて疑わなかったにちがいない。
少女と化した仁志の姿に面食らうと同時に、僕は自分自身が異変の直後か
らずっと感じていたどこかで覚えていた違和感と正面から向き合うことに
なった。
まさか──!
嫌な予感は、当たってしまう。
目の前にかざした僕の手は、か細い女の子のものだった。
「あ、あ……」
意識せず漏れた喘ぎ声が、他人のものだった。
それは、怯えた少女の声音だった……




智史と僕だけじゃない。
ざっと見回しただけで、ほかにも性別が変わってしまった奴がいた。
瀬川良祐、檜山慎二、荻野政……
まだいるだろうか。
見慣れた相手が面影を残したまま別人、それも異性になっている図は、
ひどくシュールだった。
どうやら最初の地震の直後にこの奇妙な「変化」は起きていたらしい。
ただ、外界の変化に気を取られて、僕を含め、女になってしまったこと
に本人すら気がつくのが遅れたのだ。
またしばらく沈黙が僕らの上に重くのしかかった。
こんなとき何をすればいいのか、誰にも見当がつかないのだ。
ずいぶん時間が経って、小春が立ち上がり、教室の戸口へ向かった。
「どこへ行くんだ?」
隆哉が呼び止めるのに、小春は怒ったように一言答えた。
「トイレよ!」
まるでその言葉が何かの合図だったみたいに、それまでミーティング用に
配置された席についてた僕らはめいめいに動き出した。
窓の外の靄を意味もなく睨みつけるやつ。
廊下の水飲み場で水を飲んでくるやつ。……いまのところ水は出るようだっ
た。


「ヨシ……大丈夫なのか……?」
声をかけてきたのは同じクラスの羽村真人だった。
大丈夫かって?
突然体が異性に変わってしまって、大丈夫なわけがない。
真人の視線を感じてたまらなく居心地が悪くなった。自然と目を伏してし
しまう。
「なあ、その、なんか心当たり……みたいなものはないのか?」
真人は本気で僕の心配をしてくれているようだった。
真人は気のいい友人だ。僕とは一年の頃からなんとなく馬が合って、特別
同じ趣味があるでもないのに、よくつるんでた。どちらかといえば小柄な
真人は僕よりも活発なタイプで、いつだって子犬のようにはしゃいで走り
回ってる印象だ。
真人が心配してくれるのは嬉しいが、同時に真人の視線が痛くもあった。
「悪い。トイレいってくる」
僕はそう言って席を立った。
真人は一瞬、一緒についてきそうな気配をみせたが、ぎりぎりのところで
「俺も」という言葉を呑み込んでくれたようだった。
教室を横切っていくと、何人かの視線が絡みつくのを感じた。
“あいつもだ”
“女になってる”
“どうなってんだよ、薄気味悪い”
そんな無言の声を聞いた気がして僕は歩を早めた。


トイレの個室で一人きりになると、ようやく一息つくことができた。
一人になってはじめて僕は、詳細に自分の体を検分することができた。
ちょっと胸をそらすとカッターシャツのごわごわした生地にも、はっきり
と二つの半球の形が浮き出た。
女の胸……オッパイ……乳房……
息をするたびに、かすかにそのふくらみが上下している。
僕は両手でふくらみを下から持ち上げるように触れてみた。
想像していたよりずっとやわらかい感触と、そして人の体の一部である証
拠のぬくもりが伝わってきた。
胸の先端に小ぶりな乳首の形が浮きだした。
「うわ……なんだよこれ、エロい……」
僕はかすれた少女の声でそうつぶやいていた。
とんでもない異変のさなかにあるというのに、僕は目の前のささやかなエ
ロスに単純に興奮していた。
どうしてこうなったという疑問や、この状態を元に戻す方法はないのかと
いう焦り。そういった感情をおしのけて、変化した自分の体がどんなもの
なのか確かめたいという好奇心に僕は突き動かされていた。
シャツのボタンとボタンのあいだから、ちらりと胸の谷間がのぞいていた。
胸の谷間!
自分にそんなものがあるのが信じられなかった。
僕はもつれる指でシャツのボタンをもどかしく外していった。
男子制服のカッターシャツが胸の隆起にからみついて皺をつくっていて、
まるでAVでも見ているようなエロチックな光景だった。


半分くらいボタンを外したところでもう充分だった。
まぎれもない女のオッパイが顔をのぞかせた。
胸元をひらくと乳房の局面にそって布が当たる感触の生々しさが体中を走
った。
おそるおそる手を差し入れて、じかに半球を手で包んでみた。
雑誌のグラビアに出てくるメロンのような巨乳とは根本的に別物だが、そ
れでもささやかなバストのふくらみが僕の手のひらを出迎えた。
包み込むようにして手のひらをそっとたわめた。
やわらかい肉が水風船のように自在に形を変えてそれに応じた。
露わな乳房が華奢な少女の手によって揉みしだかれるというビジュアルが
たまらなく刺激的だった。こんなことをしてる場合じゃないのにという考
えが頭の片隅を横切ったけど、それ以上に僕は高位に夢中になっていた。
揉まれる乳房の感触は驚くほど淡いものだった。
二の腕の肉をもまれているのと、そう大差ない。
けれど、手のひらに覚える感触はなんともいえない極上の心地よさだった。
彼女のいない僕にとって、もちろん女の乳房にじかに触れて、あまつさえ
それを揉み回すなんて始めての経験だった。
女のオッパイって、触ったやつが気持ちよくなるようにできてるんだ……
ぼうっとカスミがかかったような頭で僕はそんなたわいもないことを思っ
た。
手のひらにツンとしこった突起が当たった。
その瞬間、僕は声を殺して呻いていた。
不意打ちだったからだ。


乳首が擦れて、男の体じゃ考えられない、甘いようなせつないような、そ
れでいて強烈な刺激を感じた。
手のひらを話すと淡い色の乳首が明らかに固くなっていた。
左右の乳首が固くしこって、ジンと痺れるような感覚を送ってくる。
僕はまじまじと乳首に目を落とした。
小粒だけど、男のそれとは明らかに違う。雌としての機能を果たすための
形をしている。そのまわりの乳輪も、腫れたようにふくらんでいる。未発
達かもしれないけど、これは女の体だ。
両手で左右の乳房を持ち上げて、唐突に僕はパニック寸前になった。
──これからどうすればいいんだ!?
左の乳房のふくらみの下で心臓がばくばくといっていた。
もうひとつ……確かめる場所がある。
もうそこがどうなっているかは、自分でわかっていた。
僕はベルトを緩め、トランクスともどもズボンを膝まで降ろした。
──ない! なくなってる!
トイレの暗い個室の中とはいえ、見間違うはずもなかった。
僕の下半身のカーブはどう見ても女のもので、股間のまばらな茂みの先に
は、男の象徴は影も形もなかった。
どんなに予想がついてたとはいえ、それはゾッとすることだった。
意識するより先に股間に手を持っていってた。
喪ったものを探るように平坦な股間を撫でて、僕はもう一度強烈な喪失感
に打ちのめされた。自分の体の一部が消えてしまったのだ。それは手足を
喪うのと同じくらい、本能のレベルでショックなことだった。
股間をまさぐっても何も掴めず、手がフラットに股間全体を覆うことがで
きてしまう、その絶対的な違和感。


これは僕の身体じゃない。
見知らぬ少女の身体だ。
どうしよう? どうすればいい? どうなってしまうんだ?
取り返しのつかない一線の向こう側にぽつんと置かれてしまったような、
そんな心細さが胸を締め付けてきた。
つぷ……
そのときだった。
人差し指の先が、粘膜をすりあげた。
「いつっ……」
まぎれもない女の子の声で僕は悲鳴をあげた。
そしてあわてて口をつぐむ。
トイレに入ってきた誰かに、こんな女そのものの声をきかれたくない。
自制を取り戻すと、もう一度同じ場所で指をそうっと動かしてみた。
なめらかな唇に触れているような感触だった。触れている指も、そして
触れられている部位も。
そこが女の性器……外陰唇と呼ばれる部分だということはすぐに察しが
ついた。保健体育で当たり前のように覚えさせられる事柄だ。
それが自分の肉体の一部として在るというその事実だけが強烈な違和感
をまとわせている。
こんなのって……。
言葉も見つからず僕は、へたりこむように洋式便座に腰を落とした。
腰掛けた体勢では、より詳細に自分のそこを観察できた。
いままで男の器官で隠れていた部分に、ふっくらと土手が盛り上がり、そ
こに生々しい裂け目のような縦筋が走っていた。陰唇が申し訳なさそうに
はみだしている。


男の体に比べて陰毛が薄くなっていた。
震える手で両側から亀裂を左右に開いた。
「うっ……!」
もう一度ひきつれるような痛みに襲われて僕は眉根を寄せた。
そこだけ別種の生き物のような鮮やかなピンクの粘膜が広げられた。
オッパイを揉まれるのと同じく、いやそれ以上に男の体では味わうはずも
ない感覚が伝わってくる。
ブルリと僕は身震いした。
その途端、下半身の奥まった部分から何かがこみあげてきた。
それがなんなのか理解できず、僕は無様に手足をばたつかせてしまった。
直前で僕は悟った。
僕が感じていたのは尿意だった。
いやだ、冗談じゃない!
とっさに僕は全身をこわばらせて放尿を止めようとした。
理屈ではなく、男としての僕は、この女の体で放尿するのを拒絶しようと
していた。
拒絶の結果は惨めなものだった。
止めようと思う矢先から、勢いよく小水がほとばしって、ホーローの便器
を叩いていた。座ったまま、なすすべもなく僕は尿を垂れ流していた。
ペニスからの放尿が当たり前だった僕にとって、初めて味わう女の身体で
の小便は、あたかも「漏らしている」かのような錯覚をもたらした。
小便ができったとき、僕は荒い息をつきながら、前のめりになって自分の
腿に肘をついていた。


うつむいた姿勢のせいで、乳房がその存在を強調するように揺れて二の腕
に当たった。
ただの生理現象で、僕はひどい屈辱感、敗北感を味わわされていた。
突然の理不尽で不条理な仕打ちに誰を呪えばいいのかと思った。
誰にも……とりわけ真人にはこんな姿を見られたくないとも思った。
ようやく最初のショック状態から立ち直り立ち上がろうとした僕は、股間
が濡れていて気持ち悪さを覚えた。
当然だ。小便をしたせいで、割れ目が尿で濡れてる。
わずかな逡巡の後、トイレットペーパーをちぎってそこにあてがった。
一通り外側を拭いても、まだ内側が濡れているようで居心地が悪かった。
もう一度、両手で割れ目を左右に広げてみた。
今度は用心してそっと広げた。
さきほどと違うのは、粘膜がほどよく濡れそぼってることだった。
こわごわ粘膜を指の腹ですると、ピリピリとくすぐったさとも痛みととも
つかない曖昧な感覚があった。
無意識のうちにピクッと体が震え、陰部を広げていた指が跡を追うように
割れ目の中をまさぐっていた。
指を小刻みに前後に動かすと、それだけで体全体が揺れ、我知らず息が荒
くなった。
僕は自分のしていることが信じられなかった。
こんな異常事態だというのに僕は──オナニーをしていた。女の身体で。
オナニーの真似事といったほうがいいかもしれない。


このとき僕はまだ指をそこへ深く沈めることなど考えもつかなかった。
ただ単純に肉体の機能と感覚に導かれるまま、指を前後に動かしていた。
「ふぁ……」
思ってもみなかったような艶めかしい声が自分の口から出てきて僕を驚か
せた。
こんなことしてたら……元に戻れなくなるかも……
体の感覚に支配されつつあることゾッとする反面、僕は味わったことのな
い想像したこともない甘く焦がれるような疼きに没頭していった。
小刻みな動きに合わせて空中に突き出されたオッパイがわずかに揺れた。
乳首はぷっくりと固く膨らんで、そこからもジンジンするような疼きを僕
の脳髄に送ってきた。
僕は──時間を忘れて行為に没頭していたんだと思う。
体に熱が籠もり、吐息が自分でも分かるくらい悩ましいものに変わった。
心のどこかで止めなくちゃと思っていても、うねるような甘い疼きが僕を
絡め取って自由にしてくれなかった。
夢中で指を動かすうち、ふとしたはずみで指の腹がプリプリとした肉芽の
ような突起をすりあげた。
パッ、と文字通り目の中に火花がはじけた。
ひときわ強烈な刺激に僕は身をよじった。
足がピンと伸びきり、自然と足の指が何かをつかもうとするように収縮し
た。
ピクッ……ピクッ……
小さな痙攣が体を支配して、そのたびにむき出しのオッパイが揺れた。
「は……ああっ……う……」
うわずった吐息とともに僕は嬌声をあげていた。小さな押し殺した声とは
いえ、隣に誰かがいたら聞こえてしまっただろう。


波のような快感がひととき全身から何かを洗い流すように通り抜けていっ
た。
「は……あ……」
張り詰めた何かが途切れたとき、くたっと全身から力が抜けた。
廃人のように足を投げ出して座ったまま、僕は息が戻るのを待った。
たったいま自分がしてしまった行為の意味は、いやというほど分かってい
た。
そうだ。僕は、女の子としてオナニーをして、あまつさえ自分の指でイッ
てしまったんだ。
ふと指を擦り合わせると、血でもついてるみたいにぬらついていた。
あわてて目の前に指をもってくると、指と指のあいだでトロリとした粘液
が糸をひいた。
その粘液の出所は──。
僕は大きく息を吸って吐くと、もう一度トイレットペーパーをたぐって指
を拭き、それから機械的に股間も拭った。
僕は──この身体は、女のものになってしまった。
原因は微塵も分からない。けれど、これ以上ないほど確かな事実だ。
「どうしよう……」
多少なりと頭が冷えてきて、最初に口から出た言葉がそれだった。
のろのろとシャツのボタンを止めていった。
身体の変化は服の上からでも誤魔化しがきかないくらい明らかだった。


家に帰ったら……父さんと母さんになんて説明したらいいんだ。
なぜか僕は真っ先にそんなことを心配していた。
女の身体になって、あまつさえオナニーまでしてしまったことがひどく後
ろめたい事に感じられた。
すぐに僕はそれどころじゃないことを思い出した。
そもそも帰るべき家があるのか。父さんや母さんは無事なのかも分からな
い……。
ドクン、と心臓が不吉に高鳴った。
それでも。このときの僕はまだ、おかれた本当の状況を理解してはいな
かったのだ。帰るべき場所さえ永久に失うことなど思いもよらなかったの
だから──。




個室の中で僕はもう一度自分の服装を確認した。
女の体形で男子の制服を着てるから、あちこちで無理が出ている。
腰回りに比べて、無用なほど尻がまるく突き出てズボンのラインを崩して
いた。どうあがいても、完全な女の体になっている以上、それを覆い隠す
のには無理があった。
胸を見下ろすと、きれいな円筒状の乳首の形がくっきりとシャツの生地に
浮かび上がっていた。せめて肌着を下に着てこなかったことを僕は後悔し
た。シャツを引っ張ってたるみをつくり、なんとか胸の形や乳首があまり
露骨にみえないように調整した。
僕は生まれたこのかた男に興味を持ったこともなければ、オカマになりたいと思ったこともない。
訳の分からない現象に巻き込まれたからといって、女になった姿をこれみよがしに晒して回るつもりはなかった。女になってしまって可哀相、などという目で見られたくはない。僕の本質は男なのだから。
女の第二次性徴を少しでも隠すように気を使うのは、不条理な変身へのせめてもの、僕なりのちっぽけな抵抗だった。
いよいよ覚悟を決めて個室を出ようとしたとき、誰かが個室の戸をせっかちにノックした。
「ヨシ、平気か? ずいぶん長いこと入ってるけど。やっぱり苦しかったりするのか?」
真人だった。なかなか戻らない僕のことを心配して様子を見にきてくれたらしい。
「そんなにガンガン叩くなよ。いま出るところなんだから」
なるべく低く抑えた声で言うと、ロックを外して戸を開けた。
「ああ、なんともなきゃいいんだ。中でブッ倒れたりしてるんじゃないかと思ってさ」
と真人は頭をかいた。


「この通り、ピンピンしてるよ」
「それならいいんだ。……でも、ちょっと顔が赤くないか?」
「なっ!」
オナニーの影響でまだ顔が火照ってたんだ。そう悟った途端、ますます顔に血が上った。まさか真人のやつ、僕のしてたことに気付いて……?
「ほら、随分と赤い。やっぱ熱でもあるんじゃ……」
「関係ないって!」
額に手を当ててこようとする真人の手を払った。
親切のつもりが突然邪険にされて真人はポカンとしていた。
「あ、悪い……」
「いや、いいよ。俺もお節介だからな。ヘヘッ」
真人はこんなときだというのに、茶目っ気たっぷりに笑ってみせた。
「ヨシ……なんて言ったらいいかわかんねえけど、なんとかなるよ。すぐに外の異常気象も収まるよ」
「収まったとして、僕はこの姿で家へ帰ることになるのか?」
「大丈夫!」
真人はバンと僕の背中を叩いた。
「きっとなんとか元に戻る方法が見つかるって! 俺が保証する!」
「やれやれ。どこからその自信が出てくるんだ……」
「何かの力でヨシの体が変化したなら、その力を逆に使えば元に戻れるはずだろ」
「そんな曖昧な」
「……こんな風に学校に取り残されて、ワケわかんないことが起きてて……今みんな精神的に参って、凹んでるよ。だけどさ、凹んでてもなんの解決にもならないだろ。冷静に対処すればこの状況を抜け出して何もかも上手くいくって、そう信じて行動するのが一番じゃん。な?」
笑顔のまま淡々と真人は言った。


「楽天家の真人らしい意見だよ」
「ヘヘ、そういうこと。楽天家が人生で成功するらしいぜ」
真人が無理に明るく振る舞って僕を元気づけようとしていることはすぐ分
かった。真人だって本当は不安でしかたがないはずだ。それでも他人のた
めに明るく振る舞えるってことは、精神的に強くなきゃできないことだ。
そういえば真人は追い詰められた状況ではいつでもこうして無理にでも明
るく振る舞うやつだった。
「教室いこうぜ。いまみんなで会議開いてる」
「ああ……」
僕はトイレを出る前に勇気を出して壁の鏡に目をやった。
鏡の中の僕は、まるで僕の双子の妹のようだった。そんな人物がいたとし
たらの話だけど。
顔の基本的な造作は本来の僕そのものだ。それでいて、すべてが微妙に違
う。
顔を形作るラインがすべてやわらかい曲線になっていて、ゴツゴツとした
印象は微塵もない。──僕は今の自分の顔がバラエティに出てくるごつい
オカマのようになってると思っていた。
よく見ると睫毛の本数と長さが増していて、かわりに眉が少々薄くなって
た。髪質は若干補足やわらかくなっていて、そのせいで少し茶髪めいて見
える。
ものすごく意外なことに──世間的には水準よりちょっとだけ“可愛い”
と言われるような顔立ちかもしれなかった。だからといって少しも嬉しく
ないが。
鏡から少し離れて立つと、間違いようのない「男装の少女」が鏡に映った。
鏡に映る姿は、僕にとって屈辱以外のなにものでもなかった。



肩に手が置かれた。
「絶対、元に戻れる。戻る方法探すの、一緒に俺も探してみるから」
「……サンキュ。ガラにもなくあまり気回すなよ」
「俺はもともと気配り派なんだって」
「ハハ……」

2−Aの教室に戻ってみると、隆哉を筆頭に数人がタオルを顔に巻いた、
昔の過激派学生のようなスタイルになってた。
何事かと思っていると、真人が説明してくれた。
「さっき話し合いで決まったんだ。隆哉たちが学校の外の様子を見てくるっ
て」
携帯やラジオなど電波に頼ったメディアで一切の情報が入ってこないので、
数人で外の靄の中へ出ていき、状況を確認してくることになったらしい。
「でも、核が本当だとしたら……」
眼鏡をかけた地味な顔立ちの女子生徒、須藤真紀が心配そうに隆哉の前に
立った。
「昔、テレビ番組で核戦争をCGでシミュレートしたやつ見たことあるん
だけどさ……正直、こんなだったか?」
隆哉は窓の外を指さした。
あいかわらず外には乳色の靄が立ちこめていた。
「核攻撃だったとして、この学校が無傷で残ってるってことは隣近所もそ
う大した被害は受けてないはずだよな? 少なくとも町ごと全滅するよう
な被害じゃないはずだ。なのに、どうして人の気配がない? 車の通る音
もしなければサイレンひとつ聞こえてこない。どんなに耳をすましても、
あの靄の向こうからなんの音も聞こえてこないんだぞ!」


「それは……」
「学内の公衆電話も機能してない以上、残された手段は実地で誰かが外の
様子を確かめるほかないんだ」
隆哉を先頭にした三人が、教室を後にしていった。

「ケッ。黒部のやつ、なんで偉そうに仕切ってんだよ」
隆哉たちの足音が遠ざかるのを見計らって、佐渡圭一は乱暴に近くの椅子
を蹴った。
教室に残った皆がぎょっとして圭一を見た。
「佐渡君、乱暴なことしないで。隆哉に意見があるなら直接言えばいいじ
ゃない!」
「うぜえんだよ、あいつは。チームリーダーだからって、関係ないことで
あれこれ俺たちに指図して何様のつもりだ」
「いまはそんなこと言ってるときじゃないでしょ?」
「女は黙ってろよ」
圭一にペッと唾を吐きかけられて、真紀は血の気の引いた顔で引き下がっ
た。
もともと圭一は粗暴なところがあったが、異常事態のストレスで完全に
「テンパった」精神状態にあるようだった。
「さっきから誰も話題にしたがらねうが……こん中にちらほら、なぜか知
んねえけど体が女っぽくなってるやつらがいるよな? どういうことなの
か俺に誰か説明してくれよ」
教室の空気が冷たく沈んだ。
圭一は危険な目つきで教室にいる人間をかたっぱしから睨め付けていった。
「ニューハーフになってんのは……久住、瀬川……檜山……荻野……それ
に狩野か」


最後に僕の名前がやつの口に上った。
「俺の仮説を聞きたいか? こいつはテロなんだよ。アルカイダだかなん
だかが日本に攻撃してきたんだと思う。外があんなになってるのは、なん
かの化学兵器のせいだな。今頃町は全滅で、生き残りは俺たちだけだろう
よ。一部校舎の中に入ってきた化学兵器の成分のせいで、抵抗力のなかっ
たやつが化学成分の副作用で今みたいになってんだな」
「待って、圭一君。それじゃ説明がつかないことが多すぎる!」
智史──僕と同じ、運悪く(なのか?)女になってしまった一人だ──が、
たまりかねたように圭一に反論した。
「町全体をこんなにするような化学兵器だったら、僕らはとっくに死んで
るはずだ!」
智史の面影を残す少女が、か細いソプラノの声で反論した。

「あんだ? ニューハーフのくせに、一人前の口をききやがって」
圭一はつかつかと智史の前へ歩いていくと、いきなり智史の胸ぐらを掴み
、あまつさえカッターシャツを掴んで左右に引き裂いた。ボタンがちぎれ
とび、智史の上半身がさらされた。
「なに……を……」
「うるせえよ。こっちこい」
「うあっ!?」
圭一は無理やり智史の腕を掴み、引き寄せた。
よろけながら智史が席から引っ張り出される。
「離せ……!」
智史は髪を振り乱して抵抗するが、圭一は平然と抵抗する智史をひきずっ
て黒板の前に立った。


「みんなよく見とけ。興味あんだろ? ほら……こいつの胸、本物の女み
たいだぜ?」
「やっ!?」
圭一はすでに破れていた智史のカッターシャツをむりやりはぎとった。
僕のものより一回り大きい乳房がふるっと揺れて突き出された。
智史はあまりのことに、ただ口をパクパクとさせている。
「下のほうはと……へえ? やっぱり女になってるみたいだぜ!」
圭一は乱暴に智史の股間をわしづかみにして、そこに指を突き立てた。
「ヒ……ィッ!!」
智史はなんとか指を逃れようと爪先立ちになった。その状態でさらに容赦
なく、圭一はズボンのジッパーを開け、そこから指を突っ込んだ。
「あ……あ……」
智史の顔が歪む。
間違いなく、圭一の指は、智史の、少女の身体の大事な部分にめりこんで
いた。
「や……やめなさいよ!」
それまで茫然と目の前の暴力を見守っていた真紀が震える声で制止した。
もちろんその制止は、圭一に笑い飛ばされただけだった。
「なにカンチガイしてんだよ。俺ァただ、身体検査してやってるだけだぜ、
こいつに」
「そんな身体検査なんて……!」
「るせぇ。同じことされたくなかったら、テメェはすっこんでろ!」
一喝されると、もともとそれほど気の強いほうじゃない真紀は言い返せな
いでいる。
代わりにそのとき、僕の横で真人が立ち上がり、壇上の圭一に向かって殴
りかかっていった。



ここまで。次週に続く、です。
人数多くて名字で呼ばれたり名前で呼ばれたりしててキャラ分かりにくい
ですよね。はい、すみません。

主人公が狩野由之(通称ヨシ)で、親友が羽村真人です。
グループのリーダー格が黒部隆哉、隆哉の留守中に好き勝手始めたの
が佐渡圭一です。
ちなみにいまHぃ目にあってる久住智史は、最初の投稿で「仁志」となっ
てたキャラです。(野球の仁志を連想して萎えるとの抗議により名前変更)


やっぱり最初のレス番で名乗ることにします。
あんまり重要キャラじゃないけど、女子生徒の名前も紹介。

須藤真紀……眼鏡の真面目生徒。由之と同クラス。
小春……名字不明。小柄なポニテの女の子。

ついでだから、あと名前の出てるTSキャラは以下。
瀬川良祐
檜山慎二
荻野政

名前出してるだけで、キャラ付けも何もできてませんけど。
で、なんでこんなレスしてるかというと、自分で出したキャラ名を整理する
ためだったり……




「いいかげんにしとけよッ」
真人が拳を振り上げて圭一の顔面を殴りつけようとしたとき。
双子の健士と剛士が横合いから出てきて、真人を後ろから羽交い締めにし
た。
「なにすんだ。離せっ!」
「へへっ。そうカッカすんなや。な?」
クチャクチャとガムを噛みながら健士は小馬鹿にした笑いを浮かべた。
真人が舌打ちする。
双子は圭一とつるんでいたのだ。
真人の眼前で圭一は悠々と智史をなぶった。
「なにチンケな正義感ふりかざしてんだよ。キモイんだよ、そういうの」
「く、ああうっ!」
爪先立ちのまま智史は身をよじった。
圭一の指がひときわ深く秘部に食い込んだためだった。
「おおこりゃすげえ。本物と変わらねえな!」
「なんてことしてるんだよ!」
真人は怒鳴ったが、揃って大柄な双子に後ろから腕を掴まれて、完全に動
きを封じられていた。
ニヤニヤ笑いを顔にはりつけたまま圭一は、身動きできない真人のみぞお
ちを蹴った。
「ぐっ……!」
「身体検査を邪魔するからだぜ、羽村君よォ。もっと協調性を身につけな
きょな?」
「佐渡! 今がどういうときか分かってるのか? こんなことしてる場合
じゃ……ぐぇ!」


もう一度みぞおちを蹴られ、真人は息を詰まらせた。
双子が腕を離すと、真人はその場で腹を押さえて床にうずくまった。
「真人!」
僕はたまらず真人の側に駆け寄った。
真人は腹を押さえたまま半開きになった口からダラダラと唾液をこぼして
いた。
「ちょうどいいとこに来たな、狩野。てめぇも身体検査してやらなきゃな」
圭一の言葉が終わらないうちに、ごつい手が僕の腕を捻り上げた。
双子のどちらかだった。
僕はとっさに飛び退いて逃れようとしたが、万力のような力で掴まれた手
首を振りほどくことはできなかった。
「さて、おまちかねェ。真実解明のため、じっくり検査してやるぜ」
圭一のねばつくような声を聞いただけで総毛立つ思いだった。
脇の下に腕を通されて、先ほどの真人と同じように僕は身動きできなくさ
れた。
「圭一君。好きなとこから検査始めちゃっていいぜ」
「へへ、元が男って知らなきゃ思わず欲情しちまいそうだ」
意思に反して僕は圭一と正面から向かい合う羽目になった。
圭一はようやく智史を解放したところだった。智史はぐったりとして逃げ
る気力もないらしく、壁をに背をあずけ焦点の定まらない目で天井を見上
げていた。
黒目の小さな三白眼で僕の全身をねめ回すと、圭一はぺろりと舌なめずり
をした。
「まず……このオッパイが本物か確かめてやるかな」
「や、やめろ!」


ざざっと血の気の引いていく音が聞こえるようだった。必死で僕は叫んだ
が、そんなことで圭一が気を変えるはずもなかった。
ごつごつと節くれ立ったサイズの大きな手が一対伸びてきたかと思うと、
それは僕の胸に丸いふくらみを見つけてむんずと掴んだ。
「つうっ!」
僕はのけぞった。
遠慮会釈もなくそこをわしづかみにされて、純粋に痛かった。
肉を挟まれれば痛いのが理屈だ。
「へえ。智史のやつに比べるとひとまわり小さいな」
「この……変態……」
痛みと、身体の一部を男にもてあそばれることへの嫌悪感とに耐えながら
僕は言葉を絞り出した。
「変態だァ? こんな身体になってるほうが、よほど変態じゃないのかよ。
ええ?」
鷲づかみにされた胸が、さらに円を描くようにこね回された。
まるで子供が粘土細工できままに遊ぶみたいに圭一は乳房をこねくった。
圭一にとってはまぎれもなく、いいオモチャだった。この女の身体は。
「ああ、やわらけぇ……」
圭一はため息をつく。
感触を楽しむように、レモンの汁でもしぼるみたいな手つきで乳房をしぼ
られた。
「ううううっ!」
痛みで目尻にじわっと涙が滲んだ。
圭一が感じてるだろう心地よさとは裏腹に、その行為は女の側──僕だ!──
にとっては苦痛以外のなにものでもなかった。


ただの苦痛なら、まだいい。
自分の身体の一部が他人の意のままにオモチャにされているという、その
屈辱感。それが一番、辛かった。
男だったら、たとえ喧嘩で負けて袋だたきにされても、それまでだ。だけ
どこの女の身体になってしまったせいで、僕は自分の意思と関係なく、圭
一に快楽を帝京してしまっている。──オモチャの位置にまで落とされて
しまったのだ。
やがて、圭一の手の動きが止まった。
「少し攻め方かえるべ」
 今度は圭一の手は乳房の下側からあてがわれた。
ふくらみが下から支えられ、まるで盆にのった饅頭のように圭一の手のひ
らにのせられた。
そうやって弄ばれるだけで激しい嫌悪の念が全身を駆け抜けた。
乳房をのせた手が小刻みに揺れだした。
それにつれて否応無しにやわらかく弾力のある乳房は、ふるふると水風船
のように揺れて、圭一の手のひらからこぼれた。
するとまた乳房をすくい上げ、同じことを繰り返す。
そうやって与えられる刺激が次第に、いわく言い難い感覚となって伝わる
ようになってきた。
「乳首、ビンビンに勃ってきたな?」
囁くように言われて僕は愕然とした。
悔しいことに圭一の言う通りだった。
いつのまにかこの身体は圭一の「愛撫」に反応し、乳首をとがらせていた
のだ。
固くなった乳首は男のそれとは明らかに違う質感をもって突き出ていた。


それをことさら強調させようと健士と剛士が後ろからシャツを引っ張って、
胸に布が密着する状態を作り出した。鉛筆の後ろにつく消しゴムと同じく
らいの大きさの乳首が胸のふくらみの先端に突き出ていた。
すべては僕の意思に反して、この身体を弄られそれに身体が勝手に反応し
た結果だった。
ぴんっ、ぴんっ。
圭一は人差し指の腹で固く尖った左右の乳首を弾いた。
「ア! アッ!」
電流が頭の中で弾けたような強烈な刺激に、自制する暇もなく悲鳴が口を
ついた。
「へッ……いい反応するじゃん。感度はいいみたいだな」
「もうやめ……ふううっ!?」
今度は妙に優しい手つきで乳首を指で挟まれ、やわやわと擦られた。
「くふっ……うあっ、あああ……」
双子に拘束されたまま、僕は身体を震わせてその感覚に耐えようとした。
声をあげればあげるほど圭一を喜ばせるだけだ。そう分かっていても、嗚
咽のような声が出てしまうのを止めることができなかった。
「ヨダレ垂らすほど気持ち良かったのかよ?」
「う、あ……?」
情けないことに僕は知らず、口の端から涎を垂らしていた。
「まるで淫乱女だぜ、その顔。お前さ、最初から女に生まれてたほうが合っ
てたんじゃねえの?」
侮蔑の言葉を投げかけながら、やつの手は休み無しに愛撫を続けてくる。
今度は乳房全体を手でつつみこんで、円を描くようにそれを揉み上げてきた。
乳房をオモチャにして遊んでいることを僕に意識させようとしている愛撫
だった。


それでも、嫌悪感だけでなく、甘ったるい快感をこの身体は感じ初めてい
た。
時折、思い出したように乳輪のあたりに指を這わされると、それだけで切
ないため息がもれそうになるほどだった。
じぃん……
下半身の芯が収縮して、痺れるような感じがあった。
不意に、圭一は愛撫を止めた。
「……へえ。欲情した女の匂いさせてるじゃんか」
「う……え……?」
さんざん甘い刺激に翻弄されて、まともに受け答えすらできなくなってい
た。
圭一は僕の股間に手を密着させてきた。
「……智史と同じだな。チ●ポは影も形も見当たんねえ」
僕はただ乱れた呼吸を整えようと努力するのが精一杯だった。
そしてすぐにその努力は打ち砕かれた。
さっき智史にしていたと同じように、圭一の指が秘部にあてがわれたから
だ。
「それだけは……ぁ!」
僕は正確に智史と同じ反応をしていた。
少しでも指から逃れようと、必死で爪先立ちになってあがいた。それが圭
一の嗜虐心を煽るだけと尻ながら。
自分の身体の内側に他人が侵入してくるおぞましさを想像を絶していた。
「そうだ、いいものがあったな。狩野由之クンには特別にこいつをプレゼ
ントだ」


圭一がポケットから取り出したのは、インターネットのアダルトサイトで
見るような小型のローターだった。
それでやつが何をするつもりかは火を見るより明らかだった。
僕はなすすべもなく下半身を露わにさせられた。
視線から秘部を隠そうとしても、すぐに双子によって惨めに脚を開かされ
てしまった。
「ここにいま、挿れてやるからなぁ……」
「う、んん……ん、あっ、あっ……!」
圭一の、男の指が秘部に割り入ってきて、そこで小刻みな往復運動をした。
トイレの個室で自分の指でオナニーしてしまったときの何倍もの強烈な刺
激に圧倒された。
「ヨシ、ヨシ!」
真人が僕の名を呼んでいるのが聞こえたけど、僕はそれに答えることがで
きなかった。
圭一のなすがままに僕は弄ばれた。
圭一はローターを僕の秘部にあてがうと、そこでまたじらすようにツン、
ツンと敏感な肉芽をつついた。それだけで僕は圭一の思惑通り嬌声をあげ
、のけぞってしまう。
惨めだった。
みんなが見てる前で僕は生きたダッチワイフの痴態を晒し続けていた。
「せーの」
と圭一がつぶやいたとき、股間が引き裂かれるような痛みを覚えた。
やわらかな粘膜を容赦なく押し広げてプラスチックが押し込まれる。
ローターだ。ローターの先端がほんの少し奥に挿入されるたびに、身体の
一部を裂かれる強烈な痛みが襲ってきた。


僕はくるったように首を振り、歯を食いしばってその痛みと戦った。
腰を浮かせば浮かすほど、追い討ちをかけるように強い力でそれは挿入さ
れた。
「……これでよしっと」
という言葉を聞いたとき、不意に強烈な痛みから解放された。
股間から細いコードが垂れ下がっていた。
この女の身体は、秘部の中にローターをすべて呑み込んでいた。
股間全体に木の棒でも突っ込まれたようにざらついた異物感が残っている。
圭一がコードの先にある電池ボックスをいじった途端、低周波音と振動が
始まった。
秘部の奥から震えるローターの振動が送られ、それが周辺に伝わっていく。
目がくらむような刺激ではないものの、充分すぎるほど効果的で、屈辱的
な責めだった。
秘所で生み出されるささやかな刺激は蓄積していって、次第に無視できな
い甘い疼きへと変わっていく。



甘い疼き──!
男に身体を嬲られながら、僕は感じていた。
その事実が僕の精神を打ちのめす。
棒立ちになるしかなかった僕の腕を、双子が背中でタオルで固く縛った。
「さァて、次だな」
圭一が合図すると、健士と剛士は次の犠牲者を捕まえに動いた。
女性化していた瀬川が教室から逃げようとして、双子にタックルされ馬乗
りになられて逃亡を阻止されていた。
そんな光景を目にしていながら、僕にはどうすることもできなかった。
後ろでにしばられてローターを挿入され、僕にできるのはもじもじと腰を
振るくらいのことだった。
その場を離れるにはローターを引き抜かないといけなかった。
けれど後ろ手に縛られたままでそれは不可能だった。ローターのコードが
犬のリードのように圭一に僕を縛りつけていた。
女性化していた三人が黒板の前に横一列に並べられた。
圭一はローターの電池ボックスから手を離したが、いまさら逃げる気にな
れなかった。逃げてもすぐ追いつかれるだけだ。
いや、それ以前に情けないことに身体がいうことを聞かない。腰がとろけ
たみたいになってる。
ぺたりと床に尻をつけたとき、股間から床に雫がぽたぽたと落ちた。
愛液がしたたり落ちてしまうほど、僕は秘所をグショグショに濡らしてし
まっていたのだ。



「佐渡君……ちょっと、やりすぎじゃ?」
それまで傍観者だった一人が、おずおずとたしなめた。
もともとこのグループに体育会系は少ない。その数少ないうち圭一と健士
・剛士兄弟がつるんでいる。あとに残されたのは顔ぶれは、隆哉を除けば、
腕力で圭一たちに対抗できるようなやつはいない。
圭一はみせしめのように、フラフラと立ち上がろうとしていた真人の腹を
蹴り上げた。
うっ、と呻いて真人が膝をつく。
その様子を目の当たりにしていながら、下半身がとろけて自由にならない
僕はそばに駆け寄ることさえできなかった。
「俺は必要な検査をしてるだけだぜ。どこがやりすぎなんだ、ん?」
暴力をちらつかされて圭一に凄まれると、それ以上異議を唱えるやつは現
れなかった。
いまこの場は、完全に圭一たちに支配されていた。
圭一も、双子も、目が異様にぎらついてる。普通じゃない。
この学校が巻き込まれた異常事態が、圭一たちをおかしくさせてるのかも
しれない……。
圭一は僕を含む女性化した五人を黒板の前で横一列に並ばせた。
「全員、服脱げ」
さも当たり前のことのように圭一は言った。
「なんで、そんなことを!」
良祐が口を挟んだ途端、圭一に頬を張られていた。
「馬鹿か、てめぇ? 身体検査で裸にならなくてどうすんだよ」
そして圭一は僕を指して顎をしゃくった。
「久住みたいにオモチャ突っ込まれたくなかったら、おとなしく言うこと
聞いとけよ」


僕の股間ではまだローターが唸っていた。
腕を縛られたままの僕にそれを引き抜くすべはない。
結局、僕以外の四人は脅迫されて自分から服を脱いだ。
僕は双子の手によって完全に服をはぎとられた。
自分以外の女性化した生徒の完全な裸を見たのは、このときが初めてだっ
た。
僕自身と同じように、皆、下半身も完全な女の身体になっていた。
教室のあちこちから息を呑むような声が聞こえた。
小春と真紀は正視するのに耐えられないというように顔をそむけた。
一方で、それ以外の男たちの視線は痛いほど突き刺さった。
何人が、僕の腿の付け根をつたう雫を目にしてしまっただろう。
視線から逃れるように智史は黒板側を向こうとした。
「誰がケツ向けていいって言った?」
智史の白くなめらかな尻を強く平手で叩き、圭一は無理やり智史に正面を
向かせた。
せめて体の一部でも隠そうとしたのか智史は胸をかばうように腕で隠し、
もう片方の手を股間の前にやった。そうやって女体を隠そうとする智史の
姿はまるで扇情的なショーかなにかのようで、ひどくエロティックだった。
ニヤつきながら、健士・剛士が並んでる僕らの胸を片端から触っていった。
痛さとおぞましさをこらえようとする押し殺した喘ぎが連続して聞こえた。
双子は僕の前にくると、二人で分担して左右の乳を責めてきた。
武骨な手で掴まれてぐに、とやわらかな肉が押し潰される。
こんなことをされて気持ちが悪いはずなのに、さきほどからローターの振
動で内側から刺激され続け、すっかり火照っていたこの体は、敏感になっ
ていた。


「はぁう!」
二人によって同時に乳首をつままれたとき、甘ったるい女の嬌声が響いた。
それが自分自身の声だというのが信じられなかった。
その反応に、双子は瓜二つの下卑た笑いを浮かべた。
悪夢だ……。
ほんの数時間前まで、僕はまっとうな男で、普通の生活を送る高専生だっ
た。
一瞬の異変を境に、どうしてこんなにも境遇が変わってしまったんだろう。
望まない快感に身じろぎしながら、夢なら醒めてくれと僕は一心に念じた。
「ヨシ……!」
フラフラと立ち上がった真人が僕の名を呼んだ。
真人が僕に近づくのを、圭一たちは黙って見ていた。
「いま、抜いてやる!」
真人は僕の前で屈むと、股間に顔を近づけてきた。
吐息が秘所にかかって、ゾクリとした。
挿入されたままのローターのコードを真人の指がたぐり、慎重な手つきで
それが引っ張られた。
「あ、あ、あっ……」
感じやすくなっていた体に、その刺激はあまりにも強烈すぎた。
ぬるり、とローターが引きずり出されるのと同時に体が勝手に反応して
──僕はイッてしまった。
ひく、ひく、と下腹部が痙攣していままでせき止められていた液が一気に
内腿をつたい流れ落ちた。
なすすべもなくイッてしまう姿を、教室にいた全員に晒してしまった。
圭一が嘲るように甲高く笑っていた。




顔を紅潮させ、はぁはぁと息を弾ませる僕を見て、真人はどんな顔をして
いただろう。
それを確かめる勇気はなかった。
「羽村真人クンよぉ、ずいぶんと必死じゃん。まさかと思うけどお前ら二
人、デキてるとか? ククッ」
真人はすっくと立ち上がると、無言で僕の腕を拘束していたタオルをほど
いてくれた。そして圭一と正面から向かい合った。
「お前らおかしいよ……なんで、仲間にこんなひどいことできるんだ!」
「仲間? てめぇこそ、こんな奴らが仲間だなんてオカシイんじゃねえの?
 気味悪くないか? 突然、女に変わってるなんて」
「だから、こんなひどいことをしてるのか!」
「俺たちゃグループのためを思ってやってンだよ。このにわか女どもをよ
く調べりゃ、何が起きたか手がかりが掴めるかしれないだろ?」
「こんなやり方じゃリンチと変わらない!」
「おーお。アツイねぇ。クククッ」
真人は床に脱ぎ捨てられていた僕らの服を拾うと、一人一人に手渡してく
れた。
僕らはそそくさとそれを身に着けた。乱暴に脱がされたシャツはところど
ころ大きく破れていたが、裸よりはよほどマシだった。ただ智史だけは原
形をとどめないほどカッターシャツが破られていて、肌が派手に露出して
いた。
真人は教室のほかのみんなに向き直り、大きな声で呼びかけた。
「みんなも、こんなこと許してていいのかよ! 黙って見てて、それでい
いのか?」
真人に加勢するように、真紀が言った。


「そうだよ。みんな、こんな非道いことはやめさせて!」
傍観を非難された男たちは揃って困惑気味の表情を浮かべていた。
真人たちの言うとおりだとは思っても、暴力で優位に立ってる圭一たち相
手にことを構えるのは……ということだろう。正直いって僕だって、みん
なの立場だったら、真人のように正論を主張できたか自信がない。
気まずそうに押し黙ってる男子の中で、一人だけ堂々と立って発言したの
が、牧村始(まきむら・はじめ)だった。始は、クラスどころか学科で常
にトップかそれに近い順位の成績を残してる秀才だ。
「僕は圭一たちを支持するね、悪いけど」
「なっ!」
思いがけない発言に真人は顔色を変えた。
僕もぎょっとした。ほかのみんなは、少なくとも内心では圭一たちに反感
を抱いてると信じてたからだ。
「外を見てみなよ。正体不明の靄だか霧だかのせいでグラウンドも半ばま
でしか見通せない」
始は窓の向こうに目をやったまま続けた。
「外がこうなったのとほぼ同時に、そこの5人は性転換した。なぜかその
5人だけがね。……そこに何らかの因果関係があると疑うのは自然なこと
だ。そもそもいま仮に“性転換”って言ったけど、そうだという確証もな
い。じつは元の5人に顔立ちの似た女性5人がいつのまにか本人たちとす
りかわって入り込んだのかもしれないな。ほかに幾らでも検討しなきゃい
けない可能性がある。そのためには“異分子”であるその5人を一時的に
でも拘束しとくべきだ」
淡々と言いたいことを言うと、始はすとんと席に着き、涼しい顔で腕を組
んだ。


始のいってることは、恐ろしく理不尽なことだった。だけど決して冷静と
はいえない僕の頭では、理屈立ててその言い分に反論することができなかっ
た。
「だとさ。援護射撃してもらえなくて残念だったな」
圭一が勝ち誇ったように言うと同時に双子が左右から真人の腕を絡め取っ
た。
「クソッ、離せ!」
「ま、ちょっと大人しくしてろや。てめぇにもいい目みさせてやっからよ」
そう言うと圭一はおもむろに真人の股間のジッパーを下げた。
「おまえらにわか女の中から一人だけ、俺の助手にしてやる。俺の手伝い
をする限り、ほかのやつより優遇してやるぜ」
薄笑いを浮かべ、僕らの顔を見渡して言う。
「誰でもいい。今からこいつの●ンポを手でしごいて発射させてみろ。そ
れができたやつを助手にしてやる」
「ばっ……!」
真人はもがいたが、もともと小柄な真人が、上背のある健士と剛士の二人
に押さえ込まれては勝ち目はなかった。
「早い者勝ちだぜ。一人だけいい目を見るのは誰かねェ?」
なんてことを思いつくんだ、こいつは。
そんな最悪な提案を受け入れるやつなんているわけがないと僕は思ってい
た。
「……おれがやる」
低い調子の、それでもはっきり女のものとわかる声が告げた。
荻野政(おぎの・まつり)のその一言は、僕を愕然とさせた。
「いいだろう、やってみな。ほかに希望者がいたら、荻野を押し退けても
いいんだぜ。最終的にコイツを射精させたやつの勝ちだ。ケケッ」


政(まつり)はこわばった表情で真人の前に立った。
「荻野! マサに助けてもらったのに!」
僕の糾弾に、政はただ無言で目を伏せただけだった。
「やめろ! こんなやつのいいなりになるな!」
「……ごめん……」
ぽつりとつぶやくと、政は真人の股間に手を伸ばした。
「あっ……」
真人がびくりと震えた。
政の手が、開放されたジッパーの隙間から真人のペニスを導き出したから
だ。
ごくり、と政の喉が鳴るのが聞こえた。
やがて、ゆっくりと政は男の性器をしごき始めた。
「や、やめ……」
「五分以内にイカせられなかったら失格だぜ」
自分勝手なルールを圭一が告げる。
「いい加減に──うくっ」
政の指使いが真人の抗議を断ち切った。
最初はどこか恐る恐るペニスを扱っていた政だが、圭一の付け加えた5分
という条件にせかされて、その動きが激しくなっていた。
真人は宙の一点を睨んで深呼吸をしていた。
下半身に加えられる刺激をそうやって感じまいとしている。
「フン。ちょいとばかり手助けしてやるか」
そう言うと圭一は政のワイシャツを力任せに左右に開いた。ちぎれたボタ
ンが飛んで、パラパラと床に落ちた。政はその下に肌着を着ていた。それ
をグイと捲り上げると、、豊かに発達した乳房が顔を出した。一度ふくら
みの上までシャツがまくられると、圭一が手を離してもそれはずり落ちる
ことはなかった。


真人は、間近で露出された政のバストを見せつけられたのだ。
その効果は、えげつないほど鮮やかに現れた。
ググッ……
真人のペニスがその体積を増していった。健康な十代の男だったら誰でも、
意思とは関係なく肉体がそういう反応をしてしまう。
同じ男の僕には──それが分かる。
真人は悔しそうに呻いた。
「頑張らないと時間がもうないぜ〜」
政と真人と、両方の反応を楽しみながら圭一が焚き付けた。
政の手の動きがそれを境に変質した。
機械的に前後にピストン運動をするだけだったのが、いまでは肉棒に指を
絡めるように蠢かしながら、変化をつけて愛撫している。怪しい指の動き
を見ているだけで、それがどんなに快感を送り込んでくるか、いやという
ほど分かる。
もはや真人には抗議の声をあげる余裕などなかった。
歯を食いしばり、脂汗を浮かべて必死で、与えられる快感と戦っている。
なぜか、その姿から目を逸らすことができなかった。
真人、耐えてくれ──!
その祈りを打ち砕こうとするかのように、政は両手をペニスにからめていっ
た。
あるときは浅くしごき、あるときは根本まで深くしごく。そうしつつ、ざ
わざわと複雑な動きで指を動かし、刺激されない箇所を残さない。
どうすればペニスが気持ちよくなるか。それは政にとっても、僕と同様に
己自身で知り尽くしてることだったろう。──たとえ、その男性の象徴が
いまは喪われていたとしても。


いつしか真人の小柄な体がブルブルと震えていた。
それを目にして僕は悟った。真人はもう、我慢の限界を越えさせられてし
まった……。
つうっと真人の口の端から透明な唾液が落ちていった。いま、真人の頭の
中は真っ白な快感で塗りつぶされてることだろう。
政がペニスの根もとまでくいこむようにひときわ大きなストロークで手を
動かし、もう片方の手を真人の股間に添えるように当てたとき。
「────!」
びゅるるっ!
勢いよく大量の白い粘液が放たれ、政の腕に付着した。
射精のメカニズムが完全に真人の体を支配した。
政の手に打ちつけるように、カクンカクンと真人の腰が動き、そのたびに
大量の精液が放出された。
政がぎょっとしたように手をひっこめても、しばらくのあいだ射精は止ま
らなかった。
さんざん耐えた挙げ句に絶頂を迎えさせられたことで、逆にすべてを吐き
出すような深い射精に導かれてしまったのだ。
「ごめん……でもおれ……」
政は二の腕についた白濁液を拭って、それをじっと見つめた。
どんな感情がいまの政を支配してるのか……。
胸を露出させた格好のまま、政は動かない。
「……5分ちょうどだな。よくやった、合格だ」
圭一はポケットティッシュを政に放り投げた。政ははっとした様子でそれ
を受け止めると、手に付着した粘液をティッシュで拭いた。


「う……あぁ……」
ようやく射精から解放された真人は、掴まれていた両腕を自由にされると、
そのまま自分の放出した精液が付着した床にくずれ落ちた。あまりのむご
い姿に見ているだけで胸が痛くなる。
「お前はこっちにこい」
と、圭一はようやく胸を隠した政を、自分の傍らに呼び寄せた。
「圭一。彼女たちに尋問したほうがいい。女性化した彼女らが僕らと何か
違う体験をしていないか。事態の解決につながることを知っていないか聞
き出すべきだ」
こんな一幕の後に不似合いなほど冷静な調子で始が発言した。
「違いねえ。秀才クンの言うとおりだ」
圭一は肯くと、手近な机に腰掛け、腕組みをした。
「さて、どいつから尋問してやるかな……」
「尋問っていうのは、なんのことだ? 説明してもらおうか、佐渡」
ハッとして僕は声のほうを振り向いた。
教室の入り口に、隆哉が立っていた。
校舎の外へ出ていた隆哉たちがようやくいま戻ってきたのだ。
隆哉は眉をひそめて教室内の有様を見回した。
「……ちっ」
圭一が毒々しい舌打ちをした。

(つづく)


ひとまず以上です。お目汚しですんません。
飯食ってきてもう一がんばりできそうなら、深夜投下めざしてもう少し書き
進める……かも。

既出ですが、キャラ名補足。
狩野由之……主人公。僕。
羽村真人……主人公の親友。
佐渡圭一……いまのところの攻め役です。
牧村始 ……秀才。メガネ君。圭一派。
荻野政 ……女性化した一人。「政」は「まつり」。決して「まさ」じゃない。

ていうか相変わらず真人かませ犬でいいとこなしです。。。



隆哉と圭一の視線がぶつかった。
「てっきり戻ってこないと思ってたぜ」
「……そんなことより、この状況を説明してもらいたいな」
隆哉がちらりとこちらに目をやった。
黒板の前に連れ出された僕らの服装にはあからさまな暴力のあとが刻まれ
てる。そして、汚れた床に力なく横たわる真人……。
誰が見ても、異様な雰囲気だった。
「なに。お前がいないあいだに、残ったモンで調査を進めてただけさ」
「圭一、これは全部君がやったことなのか」
「グループの総意ってやつさ」
小馬鹿にした仕草で圭一は肩をすくめてみせた。
「まさか、外にいってる間にこんなことになってるとは。グループリーダ
ーとして俺が甘かった……」
「へえ。ご不満かい? リーダー様としては俺らに鉄拳制裁でも加えるか
い?」
圭一が挑発するように顎をしゃくるのを無視し、隆哉は真人を助け起こし
た。
「う……」
「しっかりしろ」
どこかまだ虚ろな目をした真人を、隆哉は椅子に座らせた。
「圭一。君たちも席に着け」
「ケッ。どこまでもリーダー気取りかよ」
「非常時にリーダーは必要だ。不満は後で聞く。いまは俺に従ってもらう」
静かだが断固とした口調で隆哉は言った。
薄ら笑いをはりつけたまま圭一は席に戻っていった。圭一の反応を見極め
てから、健士と剛士もそれにならった。


あとは女性化した僕らだけが取り残された。
「すまん。俺が目を離したばかりに」
隆哉のおかげで助かったという思いと同時に、女として辱められた痕跡が
隆哉の目に映ってしまうのが辛かった。それは僕以外も同じだったと思う。
「黒部君のせいじゃないよ……」
俯いて智史が言った。
「君らも不安だと思うが、頑張ってくれ。なんとか元に戻す方法をみんな
で探ってみよう」
「うん」
「ありがとう」
隆哉の励ましの言葉は、同時に今の時点では僕らが元に戻る方法など皆目
見当もついていないことを意味していた。
「……服をなんとかしたほうがいいな」
白いシャツに浮き出た女の体のラインを無遠慮に眺められた気がして、カッ
と顔に血がのぼった。
「だが、まずは重要な話がある。君らも席に戻ってくれ」
隆哉に促されるまでもなく、圭一たちから自由になった以上、こうして教
室中のみんなに注目される場所に立っている理由はもうない。僕らはそそ
くさと自分の座っていた席に向かった。ただ一人、荻野政をのぞいて。政
は、一瞬迷った後、圭一の席へと向かった。
「ヘッ……」
圭一は自分の隣の座席を足で乱暴に引っ張った。そこへ吸い込まれるよう
に政は腰を下ろした。


ホームルームでも始めるかのように教壇に立った隆哉が教室の顔ぶれを見
渡した。
「よし、全員いるな。みんなよく聞いてくれ。俺たちが校舎の外へ出てみ
て、分かったことがある。学校を包むこの霧はただの霧じゃない。俺たち
は──閉じこめられている」
そこで一旦隆哉は言葉を切った。
教室がざわついた。
何事もなく外の霧がひいて無事家に帰れる……そんな安易な希望がいま、
否定されてしまったのだ。
「閉じこめられてるって?」
「この霧は人工の物なのか?」
「俺たち、いつ帰れるんだよ!」
誰かが口火をきると、みなが一斉に不安や不満を口に出した。
「──みんな静かに」
隆哉が強い語気でいうと、再び教室に静寂が戻った。
「俺たちが体験したことをありのままに話す。俺たちは校門を出て、駅へ
向かおうとした。ところが……結果的には、校門をくぐってすぐ目の前に
あるはずの道路にすら辿り着けなかった」
どういうことなんだ……?
辿り着くも何も、学校の敷地に面した道路じゃないか。
「俺たちは校門をくぐってからまっすぐ濃い霧の中を、俺の時計で一〇分
ほど歩いた。その間、下の地面はゴツゴツした岩肌だった。行く手には何
も見えなかった。霧の向こうに、木も建物も何も見えなかった。そして、
回れ右して引き返そうとした途端、俺たちは校門に辿り着いてた。たった
一歩でだ。たっぷり一〇分は歩いたのに俺たちはどこにも辿り着けなかっ
た。


……ひとつ断言できることがある。この現象は、常識で説明できるものじゃ
ない。分かりやすい言い方をするなら……これはいわゆる“神隠し”とい
われるような超常現象だと思う。もっとも俺たちは消失する側になってい
るが……。信じられないが、それがいまのところの結論だ」
今度こそ、わっと教室が騒ぎに包まれた。
「黒部、本当にちゃんと外調べてきたのか!?」
「なにかの錯覚とか、そういうことはないの?」
隆哉と一緒に外に出ていた連中が、神妙な顔つきで隆哉の言ったとおりだ
と保証してみせた。
あれこれの反応を黙って聞いていた隆哉は、おもむろに僕を指さした。そ
れから純に女性化した五人全員を。
「突然性別が変わる現象なんて聞いたことがあるか? 繰り返すが、いま
起きてることは常識じゃ説明がつかない」
やっぱり悪夢だ。
ただの悪夢と違うのは、腕の付け根に当たる胸のふくらみも、股間の喪失
感もすべてがリアルだということだ。そしてこの悪夢はたぶん、朝がきて
も終わらない。いや、この霧に包まれた世界にそもそも朝も夜もないのか
もしれない……。

その後、隆哉の報告を確かめるために、何人かが校舎の外へ出て行った。
結果は、隆哉の言葉通りだった。皆一様に、キツネにつままれたような顔
をして戻ってきた。
どんなに歩いても、どこにも辿り着けないのだという。そして振り向いて
一歩踏み出すと、もう校門に戻ってるのだ。校門から出ないでグラウンド
のフェンスを越えたりして外へ出ても、結果は同じことだったようだ。


つまり、僕らは不思議な霧によって、完全にこの学校に閉じこめられた状
態なのだ。
無駄な試みが繰り返され、やがてグッタリと疲れた空気がみんなの間に広
がった。
教室の時計は、いまが夜中の十一時だと告げていた。けれど窓の外の世界
はあいかわらず曇天のような曖昧な明るさを保っている。
こうなると誰もが受け入れざるを得なかった。学校ごと僕らが“異次元”
に取り込まれてしまったということを。
「腹……減ったな……」
誰かがそう呟いたとき、僕の腹の虫も鳴った。腹が減るのに性別は関係な
いということらしい。
食べ物は、ひとまず購買部の在庫でまかなわれることになった。
隆哉の指示で袋入りの菓子パンが一人一個配られた。
横で、さっき外から帰ってきた真人が疲れ切った表情で机に腰を下ろした。
ずいぶんと長い時間をかけて霧の外へ脱出できないかと粘っていたらしい。
「あの霧が幻覚かなんかを起こしてるかもって思ったが……目をつぶって
走っても同じことだった」
「お疲れ。……これ、真人の分だから」
菓子パンの袋を真人に手渡した。
「ん……いらねぇや。食欲ない」
「食べなきゃダメだ、真人。無理にでも」
表面的には立ち直ってた真人だが、まだみんなの前で辱められたダメージ
は心身共に残ってるみたいだ。
菓子パンの袋を真人のかわりに開けると、一口分をちぎった。それを真人
の口に無理やりつっこんでやるつもりだったのだが、パンの欠片がポロリ
と手からすべり落ちてしまった。


パンはちょうどカッターシャツの襟の合わせ目から内側に転がり込んでし
まった。
「あーあ。何やってんだよ」
「あっ……」
真人はひょいと僕の胸元に手を突っ込んだ。直後に真人もしまった、とい
う顔になった。
胸のでっぱり……オッパイ……の谷間近くに真人の指が触れた。
くっ……。
ゾクッ、と伝わった不思議な感触に声をあげまいと僕は口をひき結んだ。
「あー、パン。いまパン、とってやるから」
うわずった口調で言い訳めいた言葉を口にする真人。いまさら手を引っ込
めるのも不自然で、あくまでパンの欠片を取ることにしたらしい。……そ
れが間違いだった。
真人がパンの欠片をつまみ上げようとすると、それを嘲笑うように欠片は
転がって、胸の谷間の奥へ落ち込んでしまった。それを追って真人の手が
潜り込んでくる。
「ちょっ……」
「パン! すぐ取るから! パン!」
あせってるせいか、真人の手はパンを掴めずに、その周辺で動き回った。
自分でそこに触れたとき、あるいは圭一に乱暴に揉まれたときの間隔とは
まったく違っていた。
くすぐったいような、甘酸っぱいような。ゾクゾクとする気持ちよさがあっ
た。
その刺激に敏感に反応して、胸の先端がキュッと熱くなった。
やわらかかった乳頭がコリコリとしこり立っていく。女の体の反射は、意
志の力で止めることなんてできなかった。


ツンと尖った先端に真人の手が触れるのに時間はかからなかった。
真人の顔色が変わった。
オッパイに触れられて乳首を尖らせているのを知られてしまった……。
ようやく真人が潰れたパンの欠片を引っ張り出したとき、僕の顔は真っ赤
にのぼせ上がっていた。
「悪い……」
「な、なにが……?」
せめてしらじらしく問い返すことぐらいしかできない。
平然を装うとしても、二つの突起がまだはっきりと浮かび上がっていて隠
しようがない。
「ほんとに……女になっちゃったんだな……」
聞こえるか聞こえないかの小さな声で真人が呟いたのが耳に入った。
女になってしまったのは、僕の意思じゃない。それに心は男のままだ。そ
う叫びたかった。
ジンと乳頭が痺れるような感じがまだ残ってる。
「ちょっとトイレいってくる……」
僕はそそくさとトイレの個室に駆け込んだ。
真人の手に撫で回された胸には、まだ切ないような疼きが抜けずに残って
いた。
胸の半球を手で包み、ぎゅっと胸板に押し当てた。


疼きが甘く鋭い快感となって脳に送られた。
「ふ……ふぁぁっ……」
身震いして僕は喘いだ。
なんでこんなことをしてるんだろう……心は男のままなのに……。
ゆっくりと快感がひいていくと、たかぶりも醒めていった。
跡には罪悪感だけが残った。
どうして肉体の快楽に流されてしまったんだろう。
もうこんなことはするまいと誓って、僕は教室に戻った。
教室では、窓にカーテンを引いてるところだった。
時計を信じるなら、時刻は夜中の十二時過ぎ。
とにかく睡眠がとれるように、部屋を暗くしているのだった。

(つづく)



教室の固い床に体育用具室から運んだマットを敷き詰めたのは僕の発案だっ
た。リーダーである隆哉の「よし、そうしよう」という一言でマットが運
ばれることになった。
僕は率先してその仕事を担った。
「女になってるんだから無理しなくていいよ」
気を使ってそう言ってくれる人もいたけど、そういうわけにはいかない。
姿形は女の子になってしまっても、心まで受け身になってしまったんじゃ
ないことを示さなきゃいけない。
真人をはじめ手伝いにきてくれた人たちと一緒に用具倉庫から教室までの
道のりを重いマットを引っ張って運んだ。
マットの重量に振り回されそうになりながら、必死で踏ん張った。
やはり、というべきか、認めたくないけれども、女の体になったことで筋
力は目に見えて落ちていた。「このぐらい軽く持ち上がる」という頭の中
のイメージに反して、ほっそりとした少女の腕ではマットの耳にしがみつ
いているのがやっとという有様だ。
フラフラとたたらを踏むたびに胸の丘陵が上下におおげさに揺れるのもい
やだった。何人かはちらちらとこちらの胸元を盗み見てる。おなじ男とし
て気持ちはわかるけど……やっぱり気持ち悪い。
それにしても今の僕の腕力は、クラスの女子の平均よりもか弱くなってし
まってるかもしれない。物理的な「力」が奪われることがこんなにも不安
なことだとは思わなかった。多くの女の子たちが暴力を嫌うのは当たり前
だ。そして優しい男の手によって守られることを望むのも……。
──何を考えてるんだ、僕は!
くだらない考えを頭の中から追い出すことにした。この変身は一時的なも
のなんだから。だから僕はほかの男に守ってもらう必要なんてない!


体育館あたりで寝るという意見は誰からも出なかった。
みんな狭い教室で寄り集まるようにして眠りにつくことを選んだのは、や
はり不安が大きかったからだろう。僕ら二〇人のグループを除くと、学校
は無人だ。特にこんな状況では、物陰に何かが潜んでいそうで不安になっ
てしまう。

教室の床の半分ほどにマットが敷き詰められ、そこに皆が思い思いに身を
寄せた。
なんとなく仲のいい者同士で固まっていく。
小春と真紀の女の子二人は、掃除用具入れの置かれている側、教室の後ろ
隅で女同士くっついて不安そうに何かを話し合っている。
特に示し合わせたわけではないけど、僕と真人と智史はひとかたまりになっ
ていた。
「アアッ!」
あまり大きな声を出す者がなかった教室で、唐突に悲鳴が、それも女の悲
鳴が聞こえたのはそのときだった。
みんながぎょっとして声のほうに顔を向けた。
声の出所は、佐渡圭一と仲間たちが占拠していた一角だった。
健士・剛士の双子が、政を嬲っていた。
健士(右耳にピアスをしてるから分かる)が後ろから政の胸を揉み、首筋
に顔をうずめてる。
剛士のほうは政の両足首を掴んで力づくで左右に開き、そこへ自分の脚を
割り込ませていた。ちょうど子供がいたずらでやる“電気あんま”のよう
な体勢だ。そして靴下をはいた足の先端で政の会陰部をこね回している。
政は断続的に悲鳴をあげ、髪を振り乱していた。がっちりと体を固定され
ていて、責めから逃れようもなく、ただ声をあげるくらいしかできないよ
うだ。


「アッ……アッ……」
ピクン、ピクンと双子に押さえつけられた肢体が跳ねる。
嬲られ喘いでいる様は、淫らだった。男子の制服を身に付けていることが
逆に、男装の少女が凌辱されているかのような倒錯の淫美をかもし出して
いる。
媚薬でもかがされたみたいにカッと下半身が熱くなった。クンッとペニス
が勃ったような気がして内腿を擦り合わせた。ペニスは──ない。むなし
い錯覚だった。けれども、下半身が熱くなっていたのは現実だった。
「こんなときだっていうのに。やめないか!」
落ち着いた声で隆哉に叱責されて、女体を嬲る双子の手が一時止まった。
「あまり集団の和を乱すな」
という隆哉に、双子を弁護するように圭一が答えた。
「勘違いしてもらっちゃ困るぜ。荻野は合意のうえで俺たちにサービスし
てんだよ。な?」
「はい……」
消え入りそうなか細い声で政は肯いた。
胸を揉む手の動きがゆっくりと再開された。
「本当なのか、荻野? そいつらに合わせる必要はないぞ」
「いいんです。私がいいって言ったから……」
政が自分のことを「私」と言ったのが妙に自然に聞こえて逆にどきりとし
た。
「わかった。だけど無理やりだろうとそうじゃなかろうと、ほかのみんな
の迷惑だ。そういう行為は慎んでくれ」
「ヘヘ……分かってるよ。なあ、マツリ?」
「はい……」


双子に解放され、かわって圭一に肩を抱かれる間、政は大人しく身を任せ
ていた。
政の表情は、戸惑ってはいるけれども……嫌がっては、いなかった。
それからは、何事もなく時間が過ぎていった。
カーテンがピッタリと閉じられ、廊下側の窓にもラシャ紙が張られると、
教室内は真っ暗になった。
みんながそれぞれの不安や思惑を胸に抱えながら、横になった。
目が醒めたら何事もない日常に戻れますように。そう心の底から願いなが
ら僕も横になった。
瞼を下ろすとあっという間にドロのような眠りに引き込まれた。
こんなふうにして“異次元”での集団生活は一日目を終えたのだった。

(1章“異変”おわり)
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