夕方の5時半ごろ、僕・海原祐樹はいつものように学校から路地を抜け、自宅へと帰った。走れば5分とかからない。この近さこそが、僕がこの高校に入学した最大の理由だった。
「ただいまー」
 そして、『海原』という表札の掛かった門を抜け、家のドアをあけて声を上げる。どうせ返事なんて返ってこない。それでも、3年前に事故で死んだ父母のしつけは、僕の行動の規範として大切に守り続けている。
「お帰りなさい」
 と、唐突に、予想外に、迎えの挨拶。柔らかな女性の声。5歳年上の姉・美絵だ。
「あ、あれ?珍しいね、姉さんがこんな時間に帰ってるなんて」
 予想外すぎて、僕は思わずどもってしまった。僕の唯一の肉親で、売れっ子の占い師である姉は、こんなに早く帰ってくることは滅多にないからだ。



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「うん。ちょっと面白い資料を見つけちゃったから、試してみようと思って」
 ぞくり。玄関を上がった僕を襲う、嫌な予感。
「資料?」
「そ。面白い秘薬の作り方の資料見つけちゃってねー」
「はぁ…」 
 やっぱり。思わず溜息をついてしまった。
 姉は昔から、魔女の秘薬やらなにやら、アヤシゲな薬を作ることに熱中する妙な趣味を持っていて、その趣味の犠牲者は主として僕だ。
 毎回のように、トカゲの粉末やらマンドラゴラのエキスやら、謎の代物を食事に混ぜては僕に食べさせて、実験していたのだ。
 1年くらい前には、そのアヤシイ薬の所為で2週間も腹痛で寝込む羽目になった。非人道にもほどがある。
 まあ、おかげで姉に食事は任せずに自分で作るようになって数年。僕の料理の腕は、その辺の女の子よりも上手い自信がある。
 クラスの女子にも評判だ。…ちょっとむなしいけど。
「夕飯は僕が作るから、姉さんは手を出さないでよ」
 当面の危険を回避する為に、釘をさしておく。
「うーん、祐ちゃんのごはん、たのしみだわ〜。あ、じゃあ、先にお風呂はいっちゃうね」
 少し強く言い過ぎたかと思ったけれど、姉はまったく堪えていないようで、浮かれながら風呂のほうに歩いていった。
「さて、姉さんが変な事しないうちに夕飯の用意でもするか」
 そして、僕はキッチンへと向かった。



ざぼん。
「はー」
 僕は湯船に肩までつかって、ゆっくり息を吐き出した。
 結局、心配していた姉の暴走もなく、夕食はつつがなく片付いた。
 姉は、そのあとは何か研究をするとかで、自分の部屋に戻っていった。
「このまま何もしなければいいけど…」
 そう呟いた僕は、ふと目の前が揺れているのに気付いた。
「あれ…?」
 違う。揺れているのは目の前じゃない。僕自身だ。
「のぼせた…かな?」
 立ち上がって、湯船から足を踏み出した丁度その時、頭がくらりとして、そのまま僕の意識は真っ暗になって、ほとんど何もわからなくなった。
 ただ、湯船からは出たはずなのに何故か体は燃えるように熱くなって、溶けていってしまいそうな感覚だけが、僕を支配していた。


「はっ…」
 蛍光灯のまぶしい光が目に入る。
 僕は、湯船の横の床にべったりと、仰向けによこたわっていた。どうやら気絶していたらしい。
 体が冷えていないことからすると、それほど時間はたっていないみたいだ。心臓が早鐘のように鳴り響いている。
 僕は上半身を起こすと、胸に手を当ててみた。
 ぷにゅ。どくんどくんどくん。
 心臓を落ち着かせるために、そのまま深呼きゅ…ぷにゅ?
 謎の感触が、手のひらにあった。そして、胸の方からも、何かがついているような感覚が伝わってくる。視線を落とした。


 …………。
「なんだ、これ?」
 僕の胸には、手のひらほどの範囲の膨らみが二つ、並んでいる。自慢ではないけれども、僕はこれまで一度も贅肉をぶよぶよいわせたことなんてない。
 大体、何で急に胸に贅肉が付くんだろう。
「これじゃ、女の子みたいじゃないか」
 それほど大きくはない、っていうか、むしろちっちゃい位だけど。
 と、そこまで考えて再び視線を落としたとき、僕は、再び倒れそうになった。
 最初のうちは、無意識が拒絶して気付かなかったんだと思う。 
 だけど今、確かに僕の視線の先、僕の股間には、当然男としてあるべきものがついていなかった。
 そして。
「何だよこれ〜〜!!」
 バスルームに、僕の―何故か女の子のように高く澄んだ―声が響き渡った。
 



 落ち着け、自分。大体、何で僕の体が女なんだ?
 焦る僕は、自分の体中をぺたぺた触りなら、確認する。
 心臓が、破裂しそうなくらい、五月蝿い。
 肌。全体的にすべすべとして、透き通るように白かった。
 胸。小さいが確かに膨らんで、女の子の体の一部だと自己主張している。
 腕。それなりについていたはずの筋肉が大分落ちて、ほっそりとしている。
 足。腕同様にすっかり細くなってしまって、自分の足の面影がほとんど残っていない。
 ……そして、股間。さっきまであったものが、ない。替わりに、産毛のような茂みの中に割れ目が見える。
 誰が何処からどう見ても、完全無欠に完璧に寸分の狂いもなく、女の子の体だった。
 それでいて、確かに、僕の体でもある。
 何故こんな事になったのか、まったくわからない。

整理のつかない頭の中で、ふと思いついたことがあったので、立ち上がって脱衣所へ入った。
 そして、壁に取り付けられたの姿身の前に立つ。ベリーショートの愛らしい少女が、戸惑った顔つきでこちらを見つめている。
 その顔立ちは、確かに僕の面影が残っていたけれど、それ以上に、奇麗だった母の特徴を色濃く移していた。
 僕は、激しくなる一方の動悸に操られるように、鏡の中の少女にそっと触れた。
 桜色の唇。大きく、潤んだ瞳。全体的にほっそりとした体に、白い肌。
 ずくん。
 何かが、おなかの下のあたりで疼くような感覚。
「んっ…!」
 初めて感じる感覚に、つい声を漏らしてしまう。目の前の繊細な少女にふさわしい、ささやかで透明な声。
 その声に触発されるように、疼きが胸に飛び火してきた。先端が、尖りはじめている。
「んくっ…!?」 
 これが、感じているということだろうか。慣れない感覚に、声が抑えられない。
 それは、僕の更なる官能を刺激する。
 ふと鏡に目を戻すと、少女は顔を赤く染めて、潤んだ瞳でこちらを見つめる。まるで、誘っているかのように。
 けれども、それは僕自身だ。
 動悸はますます強くなって、心臓が耳元に移動してきたように感じる。
 もう、何も考えられなかった。考えたくなかった。

「くぅん…っ」
 自分のものとはとても思えない甘い喘ぎが、耳に入り込んでくる。
 いつの間にか僕の両腕は、まるで何かに取り付かれたかのように、自分の胸を揉み上げはじめていた。
 ささやかな胸は、それでもその存在感を誇示するためにせりあがり、先端は尖りを増す。
「ふぅあっ…くぅっ!」
 その先端が、摘み上げられた。両方、一度に。
「あ、ふ…」
 体中を汗が流れ落ちていく感覚。それすらも、鋭敏になった僕の肌は快感として捉えてしまう。
 鏡の中の少女は、その白い肌で構成された体全体を紅潮させ、今にもへたり込みそうなくらい膝を震わせている。太ももを、液体がつたって流れ落ちていく。
 可憐な少女の、たまらなく淫らな姿。
 僕は、もう立っていることが出来なくなって、床にへたり込んだ。
 べちゃり、とマットレスに、濡れた太ももが触れる。
「あっ…」
 それでも、僕の両腕は止まらなかった。
 左手で胸を弄りながら、右手は淫らな疼きの中心へ指を這わせる。
「ひぁ、くぅぅんっ!!」
 その中心、すでに顔を出し始めた芯を、指が捉える。
 瞬間、甘ったるい電流のような感覚が、背筋を駆け抜けて脳を直撃した。
 そして、子犬の鳴き声のような、媚声。
 全身が「びくんっ」と跳ね上がり、そして力が抜けていった。
 僕は荒い息を吐きながら、床に仰向けになって転がる。
「あら、もうイっちゃったのね。女の子になったばっかりだって言うのに、ふふ、いやらしい娘」
 唐突に、頭上から投げかけられる笑いを含んだ声。
 それは、確かに僕の姉の声だった。




「ねえ…さん?」
 僕は、荒い息を吐き出しながら、何とか言葉をつむぐ。
「うふふ。凄いでしょ、男の子を女の子にする薬よ。実験的にお風呂に混ぜてみたんだけど、効果覿面ね」
 姉は、妖艶ともいえる笑みを浮かべながら言った。
 両親が死んで2人っきりになってから、ずっと僕を支えてくれた姉。
 その姉の、こんな表情を見るのは初めてだった。
「どうして、こんな…」
「あら、作った薬は実験してみなくちゃ効果がわからないでしょ?それに、今回のは特に、人間の男の子にしか効果がない薬だし。大丈夫よ、ちゃーんと戻れる薬を作ってあげるから」
 姉の言葉に、僕は少し安堵した。
 いくらなんでも、自分が可愛い女の子だなんていうのは違和感がある。戻れるに越した事は無い。
 だけど、そんな僕の気持ちを見透かしたように、姉は続けた。
「いい子にしてたら、ね」
「え…?」
「せっかく可愛い女の子なんだもの。可愛がってあげなきゃ損でしょ?」
「ね、姉さん」
 何を言ってるんだろう、この人は。
 一瞬、言葉の意味に気付く事を理性が拒絶した。
 そして、気付いた時には背後から抱きすくめられていた。
「抵抗しちゃ駄目よ?薬、作ってあげないからね」
「そ、そんな―ひぁっ!?」
 耳元でささやくそんな言葉にも、さっきの余韻で火照ったままの僕の体は、敏感に反応してしまう。
「うふっ。さっき一回イッたから、感じやすくなってるでしょう?」
「姉さん、もうやめてくれっ」
 恐かった。
 さっき自分をなぐさめた時の、自分が本当に心まで女の子になったような感覚が。
 あれ以上に感じてしまったら、もう戻れなくなってしまうような気がした。

「あら、嫌なの?でも、こっちはそうは言ってないみたいだけど?」
 けど、姉さんはそんな僕の考えなんてお構いなしに、腕の中の華奢な体を弄りまわす。
「あぁ…んふぅ…や、やだって…」
「ほら、ここはもうこんなに濡れてるくせに」
 くちゅ、くちゅ、と音を立てて指を操る。
「ひぁ…くぁう…ぁぁ…んふぅ…っぅあぁ……ぃやぁ」
 太ももをつたって、足首のあたりまで汗ではない液体が垂れ落ちる。
 膝ががくがくするけど、倒れることも許されない。
「ほら、見なさい。自分のいやらしい姿を」
 僕はあごを持ち上げられて、目をそむけていた姿身を見せられた。
 そこには、妖艶な女性に抱きすくめられながら快感に翻弄される、繊細な美少女の…僕の姿が映っていた。
「これが今の祐ちゃんよ。ふふ、いやらしい女の子でしょ?処女の癖にこんなに濡らして、可愛らしい胸もこんなに尖らせちゃって」
「ぁくぅっ!」
 鏡の中の姉が少女の乳首をつまみ上げると、その腕の中で少女が跳ね上がり、僕は喘いだ。
 体の中の火が、だんだん強くなっていく。その熱が、思考を霞ませる。
 もう、体が言う事を聞かない。
 声すらも、自由にならない。
 僕が女の子になった証とも言える、繊細で、悲痛で、気が狂いそうなほど淫らな喘ぎ声を、堪える事が出来ない。
 それでも、僕は男であった感覚を捨てきれず、鏡の中の少女の媚態も、喘ぎ声も、すべてが他人事のように感じていた。
 だから僕は全てを姉に身を任せて、思考するのを止めた。
「ふぁっ…あ、ぁあ…ひぁんっ……ぃあ…ひっ、ぁ、ぁ……」
「あら、素直になったのね。でも、駄目よ、自分から逃げちゃ」
 姉は、全てを見透かすような目で僕を抱きしめると、さらに激しい攻めを始めた。
 ささやかな、硝子細工のような少女の体を、姉の指先は容赦なく蹂躙していく。
 僕の正面のその少女は、目元を快楽によって真っ赤に染めて、ただの快楽人形と成り果てて、今まで到達した事のない高みに押し上げられようとしていた。
 あと一押しで、全てが終わるはずだった。
 けど、姉さんはその瞬間に全ての動きを止めて、僕から離れた。



「…ぇ…?」
 突然支えがなくなって、力の抜けきっていた体が崩れ、床に膝をついた。
 その衝撃で溢れ出した液体が床にシミを作り、広がっていく。
 僕は、ぼぅっとする頭をめぐらせて、姉さんの方を振り返った。
 停止したはずの思考が、再び動き出す。
 ナゼ、ツヅキヲシテクレナインダロウ。
 違う。
 ハヤクイキタイノニ。
 違う…。
 アトスコシダケダッタノニ。
 違う…ちがう…。
「うふふ。そんなに物欲しそうにして…でも駄目よ。今祐ちゃんは、感じてる女の子は自分じゃないって思い込もうとしたでしょ。そういうズルイ子は、イかせてあげない」
 嫣然と微笑む姉は、本当に楽しそうにそう言った。
「…っん…」
 ただ呆然とその声を聞いていた僕は、ふと下半身に生じた快感に身を震わせた。
 僕の両腕が、別の生き物のように蠢いて、秘所を弄っていた。
 キモチヨクナリタイ。
 キモチヨクナリタイ。
 キモチヨクナリタイ。
 頭の中が動物的な感覚で満たされていく。
「あらあら、我慢できなくなっちゃったのね。ホント、いやらしい娘ね。でも、それも駄目。それじゃあ本当に気持ちよくはなれないわよ?だから、オアズケ」
「くぁんっ…な、ぁに!?」
 僕は姉さんに両腕をバスタオルで縛り上げられて、タオルかけに縛り付けられてしまった。
 丁度両手は万歳するような形で、体はその下の壁にもたれかかってしりもちをついて座り込んだ。

ぴぃん。姉さんの指が、僕の胸の先端を弾く。
「ひあっ!」
 それだけで、全身をしびれるような快感が駆け抜ける。
「可愛い胸。苛めたくなっちゃう」
 ぴん、ぴんぴぃん。ぴん。ぴんぴんぴぃん。連続して、不規則に続けられる感覚。
「ぁっ…んぁっ…ふぁぁっ…ひぁっ…」
 キモチイイケド、タリナイ。
 さっきまで全身を満たしていた燃えるような感覚に比べれば、それは随分と物足りなかった。
 そう感じた瞬間。
 ぴぃん!!今度は、秘所の尖りを弾かれた。
 電撃にも似た感覚が、僕の体を満たす。
 キモチイイ。
 コレガイイ。
「ふふふ。こっちはお気に入りみたいね。そんなにとろけた顔して」
「ひぃん!…あ、ぁああっ、くぅんっ!!」
 そして姉さんは、完全に顔を出したその尖りをつまむと、上下に擦り上げ始めた。
「…ぃ!!…ぁぁ…!! ーっ!!!」
 目の前に火花が散っている。
 体は不自由な状態から何度も何度も跳ね上がって、まともに息も出来ない。
 声にならない喘ぎが漏れる。
 そして、また高みへと到ろうとする瞬間。
「ふふ、オアズケ」
「ぁぁ…そんな…」
 あと少しで、最高の快楽が手に入るという瞬間に止められた僕は、思わずそんな事を口走ってしまった。
「そんな、なに?」
 姉は、相変わらず微笑みながら、僕の口元に耳を寄せる。
 だけど、言える訳がない。
 イかせて欲しいだなんて。
 イカセテホシイノニ。
「あら、まだがんばるのね。しかたないわね、そんなに嫌なら、やめてあげる。でもその前に、その汗拭いてあげるね」
 にっこりと微笑んだ姉は、僕の体をタオルで拭き始めた。

「…っん!」
 タオルが、僕の胸の先端を掠めていく。
 限界近くまで焦らされて、敏感になった体は、たったそれだけの刺激にも反応してしまう。
「ああ、ごめんね、うっかり手が滑っちゃったわ。あ、そうそう、ここもびしょびしょだから、拭いてあげるね」
「ぁ…っ…ぁぁっ…ぃ…ぁっ…―っ!!」
 僕の秘所は、タオルでごしごしと刺激されて…。
「駄目ね。きりがないわ。拭いてもすぐにまた濡れちゃうし」
 姉は唐突に、タオルを投げ出した。
 また、絶頂の直前で投げ出された。
 モットシテホシカッタ。
 もっとして欲しかった。
 我慢できなかった。
 理性も、矜持も、プライドも、頭の中から消え去った。
「もっと…して…」
 もう、止らなかった。


「うふふ、何を?」
 満面の笑みを浮かべて、姉は問う。
「いやらしいこと、気持ちいいこと…」
「そう。じゃあ、イかせてあげる。嫌って言うほど、ね」
 そう言った姉の表情は、契約に成功した悪魔みたいに見えた。
「でも、さんざん待たせた罰よ。最初はこれでイきなさい」
「ぁぁっ、そ、そんな…ぁのっ…ぃ、ぃあぁっ!」
 僕の股間は、姉の足に蹂躙されていた。
 爪で過敏な先端を突きながら、足でぐりぐりと踏みつける。
 完全に快楽に溺れた僕は、そんな屈辱的な行為でも、気持ちよければ何でも良かった。
「ホントに足でよがっちゃうなんて、祐ちゃんってマゾっ気もあったのね」
 僕を貶める姉の言葉も、今は気にならない。
「んぁぁっ!くぅんっ!も、もう…っ!!」
「イきなさい、祐ちゃん」
「んぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 とどめとばかりに尖りを足で捻られた僕は、全身を震わせながら、真っ白な世界へと沈んでいった。




「ン…ん」
 僕は、ベッドの上で目を覚ました。
 ベッドの上で身を起こして、まだはっきりしない頭で周囲を見回す。
 本棚にスチール机、パソコン、ゲーム機、テレビ。僕の部屋だ。
 1つ頭を振ったけど、ぼんやりと頭に幕がかかったみたいに、すっきりとしない。
 体もだるい。
 夢だと思いたくても、そのだるさと手首のタオルの跡が、昨日の事は事実だとはっきりと告げていた。
 結局、僕はあの後もさんざん玩ばれた。「嫌って言うほど」というのは、比喩でもなんでもなかった。
 むしろ、何度「嫌」と言っても止めてくれなかった分、より酷い。何回イったかすらも、覚えていない。
「…はぁ……」
 1つ溜息をついて、本来よりも一回りほど小さくなってしまった体を見下ろす。
 姉が着せてくれたんだろうか。見慣れたパジャマを着ている。
 しかし、もともとゆったりとしていたパジャマは今はだぶだぶで、下手をすればずり落ちてしまいそうだ。
 ちなみに、下着はつけていなかった。多分、姉が面倒がったんだろう。
「学校、これじゃあ行けないよなぁ」
 枕もとの目覚し時計は、すでに起きて家を出ていなければいけない時間を指している。
 が、顔立ちは元の面影を幾分残しているとはいえ、根本的に姿が違いすぎる為に、僕が海原祐樹だと名乗って登校するにはいささか無理がありそうだった。
 胸が小さい分、男のフリをするくらいなら何とかなりそうなのは、喜んでいいのか悲しむべきなのか。なかなかに微妙だ。
 ともあれ、何とか姉に元に戻るための薬を作ってもらわなくては。
 僕は、まだふらふらする体を支えながら、何とかベッドから降りた。



「おはよ、祐ちゃん」
 姉は、昨夜のことなど忘れてしまったかのように、にこやかに挨拶する。
 場所は、キッチン。だけど、料理をしている様子は無い。ついでに言えば、何故か両手を後ろに隠している。
「…おはよう。何してるの?それと、仕事は?」
 とりあえず、僕は尋ねた。
「うふふー。祐ちゃんにご飯作ってもらおうと思って、用意してたの。あと、仕事はお休み。今日は祐ちゃんで遊ぶの」
 用意!?
 祐ちゃん「で」!?
 背筋が凍った。
「ま、またなに企んでるの!?」
「あらあら、企んでるなんて人聞きの悪い。可愛い女の子を可愛がって何が悪いの?そんな事より…じゃーん!」
 背後に回していた両手を、前に出す姉。
 何か、布切れみたいなものを持っている。
「!?」
 それは、なんというか、いわゆるフリルとレースたっぷりでピンク色の、エプロンだった。
「それを、着ろって!?」
「当然。あ、もちろん裸エプロンね」
 言うに事欠いて、とんでもないことを言い出した姉。
「はだっ、裸って、そんなっ!」
「あら、べつに恥かしくないでしょ?昨日あれだけ恥かしい所見せたんだから」
 そんな訳は無い。いくら昨日僕がさんざん乱れたって言っても、こんな恥かしいエプロン一枚で料理をするのは、また別の次元の問題だ。
 けれども姉は、そんな僕を追い詰める為に切り札を出した。
「あら、元に戻れなくてもいいの?」
「…………わかった」
 僕は、がっくりと肩を落とした。
 切り札が向うにある以上、姉の言うなりになるしかないみたいだった。



「はぁ……」
 僕は、深い溜息をついた。
 男としては一度は見てみたいというような興味はあったけど、まさか自分がやる羽目になるとは。
 パジャマを脱ごうとしたら、姉は微笑みながらじぃっとこちらを見つめてきた。
「…向こう向いててよ」
 僕はさすがに気になって、姉に訴える。
「姉が妹の性徴具合を確認して何が悪いの」
 姉は、開き直った。多分、何を言っても聞かないだろう。
 仕方なく諦めて、パジャマを脱ぎ始める。
「それにしても、可愛い胸ね。昨日は胸よりの下の方が感度がよかったみたいだけど、今度、胸だけでイかせてあげようかしら」
 出来るだけ聞き流そうとしたけど、姉の欲望丸出しの声は、嫌でも昨夜の悪夢的な快楽を思い出さずに入られなかった。
「それに、縛って足で弄ってあげただけでイっちゃうんだもの。きっと祐ちゃんはマゾの素質があるわよね」
 姉の意地の悪い言葉に、頬が火照るを感じた。
 無視、無視。こんな所で下手に反応なんかしたら、きっと昨日の再現になってしまう。
 僕は羞恥に俯きながら、さっさと着替えて姉が変な気を起こさないように祈る事しか出来なかった。


じゅわーっ。しゃん、しゃん。
 フライパンに、目玉焼きがおどる。芳ばしい香りがただよう。
 その出来具合を確かめて、脇に寄せておいたトーストに載せる。出来上がりだ。
 いつもならもう少し凝った事をするけれど、さすがにこんな状況ではきちんとした料理をつくる気にはなれなかった。
 姉はその間、リビングの方からじっくりと僕の露出した背中を眺めていた。
 と、出来上がった分をリビングに運ぼうとしていたら、背後から抱きつかれた。
「ふふ、もう我慢できない」
「ちょ、姉さん!?」
「祐ちゃんが、こんないやらしい格好をしてるのが悪いのよ」
「そ、それは姉さんが―ひんっ!」
 ぬるリ。股間に、姉さんの指の感触。そして、その指を僕の目の前にもって来る。
「あらあら、何にもしてないのにこんなにに濡らしちゃって、本当にしょうのない娘ね」
 その指は、確かに何かに濡れて光っていた。
 再び、頬が熱くなるのを感じた。そして。
「見られてるだけで感じてたんでしょう?マゾの祐ちゃんは」
 ずくん。下腹の辺りに、何かがキた。
「反論がないわね。なら、認めるのかしらね」
 そんなわけがない。
「っ!ち、違うよっ!」
 反射的に、言葉が口をついて出た。
「そう?まあ、いいわ。その事については、後でじっくりと、ね。今は、コレ」
「……?…っ姉さん、それって!?」
「いいでしょう?ちょっと薬を調整して、ここだけ男の子になったの」
 僕の背中に、ピッタリと張り付いてきた姉の、そのロングスカート越しの股間からは…今の僕には無い、男の、アレの感触が生じていた。
「これで、たっぷりと祐ちゃんを可愛がってあげる」
「嫌だよ、そんなのっ!」
 姉に処女を奪われるなんて、いくらなんでも嫌すぎる。
 僕は必死に抵抗した。
「乱暴ねえ。でも、ちょっとくらい抵抗してくれた方が面白いわ」
 けれど今の体で、しかも最初から姉に体を抱きすくめられている状態では、抵抗らしい抵抗にはならなかった。
 そして、あっさりと押さえつけられてしまった。

「うふふ。そうねぇ、処女をもらってあげてもいいんだけど…まだ勿体無いわね…祐ちゃんがお口でしてくれるなら、今日は処女を諦めてあげてもいいけど?」
「そんな無茶な」
 大体その言い方じゃ、遅いか早いかの違いだけで、処女をもらうっていうのは確定しているみたいだ。
 どうせなら一思いに、と考えが傾きかけた瞬間。
「さ、どっちにするか、選んでね。早く決めないと、我慢できなくなるわよ」
 姉さんはスカートを捲り上げてソレを取り出し、僕の背中に押し付けた。
 僕が昨日まで持っていたモノよりも、かなり大きい。
「っ!…く、口で…」
 その、恐さが先にたって、思わず先延ばしにする方を選んでしまった。
「口で、なぁに?」
 その僕の葛藤を見越した上で、意地の悪い質問が投げかけられた。
「あ、その…口で………口でさせて」
「ふぅん。ま、いいわ」
 僕が顔を真っ赤にして、全身を震わせながら言うと、姉さんはあっさりとそう言って、僕を振り向かせた。
「ほら、立ったままじゃできないでしょ。膝立ちになりなさい」
 そして、肩を抑えられて、膝立ちの姿勢に誘導された。
 目の前に、姉のものとは思えないほどグロテスクで凶悪なモノがある。
 こんなモノを、一体どうすればいいんだろう。ソレを目の前にして、僕は途方にくれた。
 と。
 くちゅり。
「ひぃんっ!?」
 姉の足が軽く持ち上がって、そのつま先が僕の秘所を刺激する。
「こんなに濡らしちゃって。ホント淫乱ね。昨日までは男の子だったくせに。いい子ぶったって駄目よ、マゾの祐ちゃん」
「ひぁっ・ぁぁん…ふぁ・んぅ…っちが、違…ぁくうっ…!!」
 痺れる体。真っ白に染まっていく思考。姉の侮蔑の言葉が、妙に心地よく感じられる。
 頭の片隅で、このままじゃまた昨日と同じだ、と警鐘が鳴り響いているが、それすらも飲み込まれていく。
「ほら、処女のくせに淫乱な祐ちゃんの好物よ」
 鼻先に突き出される、姉のモノ。つい昨日まで、自分も持っていたモノ。
 何故か、とても愛しく感じた。


「そう、先の方から…ね」
 ぴちゃ。ぴちゃ。
「ふぅ…んむっ…くぅん」
 僕は、いつの間にか舌を伸ばして、ソレを舐めていた。それが、とても自然な事であるかのように。
「そこで、筋に沿って…」
 目を細めながら指示を出す姉は、僕の秘所を足で攻めるのも休めなかった。
 しかし、姉は唐突に僕に出していた指示を止めると、言った。
「ああ、やっぱりまだ下手ねぇ。仕方ないわ。のどを使わせてもらうわね」
「ひぃん・くぁう…うむっっ!?」
 姉は、僕にソレを咥えさせると、猛然と突き込んできた。
 のどの奥を容赦なく突かれ、ただ僕は性欲処理の為の道具と化していた。
「ふぅ。いい感じよ、祐ちゃん。お口に出してあげるから、こぼしちゃ駄目よ」
 勝手な事を言う、姉。
 そして、ほどなくして姉は僕の口の中に精を放った。
 びくん。びくん。ソレが大きく痙攣し、大量の精液を吐き出す。
「んぐぅっ!!?…っむぐっ、げほんげほん」
 僕は、あまりのその生臭い量液体の多さにむせて、床に大分撒き散らしてしまった。
「あらら、こぼしちゃ駄目って言ったのに。お仕置きね」
「げほっ、げほっ。お、お仕置き?」
「そ。…そうね、祐ちゃんが床にこぼした分、ちゃんと奇麗にしなさい。もちろん、舌でなめ取るのよ。犬みたいに這いつくばってね」
「あぁ…」
 もう僕には、その命令に逆らうだけの気力は残されていなかった。
 ゆっくりと両手を床につくと、飛び散った白い液体を舐めとっていく。
 屈辱的な行為に、体が震える。
 そんな僕を、姉は微笑みながら眺めていた。




「早くしないと置いてくわよ」
 姉が、道の先の方から僕を呼ぶ。
 その濃紺のスラリとしたスーツ姿は、とてもついさっきまで僕を犯そうとしていた人と同一人物とは思えないくらい、ビシッと決まっている。
 黙ってさえいれば、モデルにも見えるだろう。
 さっきから街中ですれ違う男―まれに女も―達が、羨望の視線を送る。
「そ、そんなこと言ったって…こんなの…!」
 僕はそんな姉に必死に言い返しながら、今自分が着ている服をつまむ。
 白いレース地のブラウスに、桜色でミニのフレアスカート。足元はミュール。どれも姉のお下がりだった。恥かしくて、火が出そうなくらいに頬が熱くなるのを感じる。
 だけれども、僕が必死になっているのは、女の子の服装だからというだけじゃない。


今、僕は姉に連れられて買物に来ている。僕用の女の子用品を買うために。
「男物の下着なんて可愛くないから着ちゃダメ」その一言で、家の中にある僕の下着は全て処分され、姉のブラやショーツは、完全にスカスカだった。
 つまり、今僕はこの服装の下に、何もつけていない。
 だから僕は、下手に動いてスカートがめくれやしないかとか、ブラウスが透けていないかを慎重にチェックしながら歩かなくてはいけなかった。
 当然、片手でスカートを抑えつつもう片手で胸の辺りをかばって俯いている僕には、早く歩くなどという事は無理な話だった。
 そして、声をあげたことで周囲の視線が、全て自分に向けられたように感じた。一瞬、自分が何も着ていないかのような錯覚に陥いる。
「あ…ぁぁ……」
 姉はそれを見透かした上で、意地悪な口調で僕を責める。
「あら。さっきの裸エプロンに比べたら、別に恥かしくないでしょ?それとも、恥かしいのに感じちゃったのかしら?」
 指摘されて、僕の体が、びくっと震えた。朝、中途半端に刺激された僕の体は、確かに下半身にじんじんとした痺れが生じていた。それに、胸の頂点が、布地に擦られて膨らんでいる。
 めまいのような感覚が生じて、頭の中が、人々の目で埋め尽くされていく。その中心で、裸を見られて感じているいやらしい少女。
 また、自分が制御できなくなる。

と。
「ほら、こっちへ来なさい。」
 姉が、僕の手を引っ張って、ビルの隙間の奥へと入り込む。昼間でも薄暗い、袋小路だった。多分、誰も通らないだろう。
 そこまで考えた時、体が震えた。
「あっ…んんっ」
 じんわりと、全身に広がる快感。
 姉は、僕を壁に押し付けると、唇を重ねてきた。一瞬の早業だった。動揺した僕は、それに抵抗できない。口の中に、舌が入り込んでくる。
「んむぅ………ん、ん」
 姉の舌が動くたびに、柔らかな陶酔感が僕を包む。ぼうっとしてきて、全てをゆだねたくなる感覚。
「…ん…ん…?」
 不意に、下腹部に妙な違和感を覚える。
 …この感じは…。
 ぼんやりした頭で、考えて考えをめぐらせた。

「っ!!」
 そして、思いついた。
 朝、あの後すぐに出かけることになってしまった為、トイレに入りそこねてしまった。つまり、これは…。男の時とは感覚が微妙に違うけど、間違いはないだろう。
 意識した途端、急に尿意が強くなった。さっきまでの陶酔感が、吹っ飛んでいく。
「あら、どうしたの?」
 突然に顔を青ざめさせた僕に、姉が唇を離して、言った。
「あ、あの、トイレに…」
「あら、おしっこ?」
「ぁ、うん」
 僕は、だんだんと強くなる尿意に、俯いて体を振るわせる。
 早く、トイレに行かなくちゃ…。
「ダメよ」
 走り出そうとした僕の腕を、姉がつかむ。
「な、なんで!?」
「今から行っても、間に合わないわよ。ここでしなさい」
「そんなっ!嫌だよっ!」
「ふぅん。でも、男の子の時は平気だったでしょ?」
 確かに、男の時なら道端でしたこともある。でも、今この姿で、しかも姉の見ている前でなんて。

「じゃあ、無理やりにでも出させてあげる」
 また、強引に壁に押し付けられた。少しでも変に力が入ると、漏れてしまうかもしれない。そう考えると、抵抗できなかった。
「んんんぁっ!…やめ、ひぃんっ・あぁ…」
 股間の、特に尿道の周辺や尖りを、姉の指が蹂躙する。
「も、もれちゃ‐んっぁぁっ…やだぁ」
 我慢しようとすればするほど、意識がそこに集中して、ますます刺激が強く感じてしまう。
「ほら。すっきりしちゃいなさい」
 酷薄な微笑み。
 激しい快感とともに、膀胱の辺りが少しずつ押し込まれる。
「ひゃ、ぁ、ぁぁ、も、ぁめぇ、っ!」
 ちょろ。
 苦しさと快感がないまぜになった、ほとんどパニックになっている状態で、ほんの少し、漏れてしまった。あわてて、止めようとする。
「ふふふふふ。もう、ダメね。せっかくだから、漏らしながらイきなさい」
「ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ」 
 指が、激しく踊る。
 もう、我慢の限界だった。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ…も、もれちゃ、ぁ…っ…っ」
 姉は、限界を察したらしく、僕の花芯を強く弾いて、素早く下がる。
 そして、我慢が終わった。
 …………………。
 とても聞くに堪えない、恥かしい水音が耳を叩く。
 剥き出しの足が、跳ねた雫で濡れていく。異常に高められた感覚は、それすらも快感と感じてしまう。
「ひんっ…嫌…いやぁぁぁぁっ……っ!!」
 そして、それと同時に絶頂に達した僕は、力が入らなくなって、その場に倒れそうになった所を姉に抱きとめられた。
「可愛かったわよ、祐ちゃん」
 姉が、とても楽しそうにささやいた。




「ん…ぁ…」
 さっきまでの強烈な快感とは違う、心地よい感覚。
「ほら、動かない。服が汚れちゃうでしょ」
 姉が、僕の濡れたところをタオルで丁寧に拭いてくれている。自分が赤ん坊になったような気分だ。女の子になって以降、精神的に不安定になっているのかもしれない。
 不幸中の幸いで、服の方までは濡れていなかった。
 一度達した所為か、今はもう大分落ち着いてきた。まだ、下着を着けていないことと、スカートによる違和感はあるけれども、あえて意識をそらして、無視した。
「と、これで良し、と。さ、行きましょ」
 姉さんは念入りに拭き終えると、僕の腕をつかむ。
「う、うん」
 僕も、それに合わせて立ち上がった。
 

「これなんかどう?」
 そう言いながら姉が見せたのは、桜色のフリルつきブラだった。ちなみに、Aカップ。
 ……そんなに小さかったのか。
 僕は、軽くショックを受けた。

 大手デパート内の女性用下着売り場。姉は、つぎつぎとブラやショーツを手に取っては、かごに入れていく。
 ほとんど自分の好みで決めているようで、さっきのように僕に確認してくるのはごく稀だ。そして、確認してきたとしても、僕が何か言う前に購入を決めてしまう。
 かごの中に詰め込まれていく下着は、フリルつきの割合がやたらと多い。他には、レースやらなにやら装飾過剰なものや、逆にほんの少ししか面積がないものなどがちらりと見えた。
 アレを、着るの? 僕が?
 ちらり、と店内に据え付けられた鏡を見やる。
 鏡の中の“少女”は、助けを求めるような視線を返す。
 この“少女”が白のフリルつき下着をつければとても可憐だろうし、レース地のものなどは、未発達な体ゆえに、かえってアンバランスな妖艶さを漂わせる事になるだろう、と思う。
 しかし、それが自分の未来の姿だというのだから、さっさと逃げ出したくなってくる。

 とはいえ、姉に弱みを握られている以上逃げる事など出来ないし、それでなくても、下着類を一切身につけていない格好で歩き回るのは、是非とも遠慮したかった。
 下着を着けないと、胸が服に擦れて変な感じがする上に、下はすかすかし過ぎて、まともに歩く事が出来ないからだ。
 更に、少しかがんだり高い所に上がったりするだけで……中が、見えてしまう。
「と、これでよし、と。あら、何ぼーっとしてるの。次はこっちよ」
「え、ちょっと、姉さんっ!?」
 僕が、思考にはまり込んでいる間に会計を済ませてきたらしい姉は、強引に僕の腕を取ると店内を横断して行く。どうやら、行き先は服売り場らしい。
 そして、下着売り場の時と同様に、次々と衣類をチェックしていく。
「えーと、とりあえずはこれとこれとこれ。さ、試着してきなさい」
 ある程度チェックし終えた段階で、姉はいくつかの服を僕に押し付けると、試着室の方へと押しやる。
「え? え!? こ、ここで着替えるの?」
「当たり前でしょ」




「…………はぁ」
 目の前の少女が、大きく溜息をつく。
 人1人がすっぽりと納まる直方体で、正面には大きな鏡がある。つまりは、試着室の中だ。
 足下には、フリルつきの白いワンピースや、レースたっぷりのフレアスカートなど、趣味的な衣類が重ねられている。ちなみに、ズボンは1つもなかった。あまつさえその上には、同じように趣味的な装飾が入った下着類が重ねられている。
「着なきゃ、駄目なんだよね…」 
 僕は、大きく溜息をついた。
 仕方なく手をのばして、一番マシに見える白いブラを手に取る。所々縁にひらひらがついているけれども、他のものよりは大分おとなしい。
「うー」
 少しだけ迷って、出来るだけ鏡の方を見ないようにしながら、そのブラを胸に当ててみる。すべすべして、意外に良い気持ちだ。
 姉が気を効かせてくれたのか、胸の前に金具があるタイプだったので、初めてでも何とかつける事が出来そうだった。
 かちゃり。
 金具を止めると、ブラのカップが僕の胸を包んで抑えてくれる感じがする。成る程、これなら擦れて困る事はないようだ。


そして、ショーツも足下から1着取って、穿いた。ブラとおそろいの、控えめなフリルに飾られた物だ。
 腰まで引き上げると、前から後ろまできゅうっとすべすべした布地に包まれる。肌触りが気持ち良かった。
 そこで、どうしても気になって、鏡をちらりと見た。目が離せなくなった。
 やや幼い容貌をした可憐な少女の未発達な体を、清楚な、飾り気の少ない白の下着が引き立てている。控えめなフリルが、少女の繊細な可愛らしさを控えめに主張する。
 ぼくは、硝子人形のような儚さを持った少女に魅せられて、そおっと、鏡に触れた。
 一瞬、この少女が僕自身だということを、忘れていた。
 しかし、帰ってきたのは、冷たく、硬い拒絶。
「あ…」
 はらり。はらり。
 頬を、涙が伝って落ちる感触。
「あれ?あれ?」
 感情までが、僕の思う通りにならなくなっているのか。
 胸が、締め付けられるような感覚。体が、小さく震える。
 ふわり。
 唐突に、背後から婦って沸いたような柔らかい感触が、僕の体を包み込んだ。

鏡を見ると、いつの間に入ってきたのか、姉が震える体を抱きしめてくれている。
 その暖かさに、気がつくと涙が止っていた。
「姉さん…」
「随分時間がかかってると思ったら……恐いのね。大丈夫よ、ちゃんと、姉さんが愛してあげるから」
「あうっ」
 姉の吐息が、耳に吹きかかる。
「さ、早く着替えちゃいましょ。あんまり遅いと店員さんに怒られるわよ」
「ぅ…ん」
 何故だろう。今、姉に抱かれている瞬間だけ、“女の僕”に違和感を感じなかった。
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