思いつきで書いてミマスタ。
何かが頬を伝わる感触に、彼は目を覚ます。
目に映ったのはいつもの天井、少し歪んで見える。ゆっくり身体を起こし、掌で頬を拭う。
生暖かい感触、泪だ、髪も濡れている。振り返り枕に触れてみる、こちらもびしょ濡れだ。
こんなに泪を流したのはいつ以来だろうと思いつつ、辺りを見回す。時計を見ると十時を少し過ぎている。
いつもと変わり無い自分の部屋。しかし、何かが・・・・・・・・・解らない。
頭の奥がぼんやりして考えが纏まらない。溜息を一つ。
とりあえず顔を洗うためにベッドから降り、洗面台に向かう。
意識はすっきりしないのに、何故か身体は軽やかに動く。
(「今日はキレが良いなぁ。」)日頃の体調管理を怠らない彼は、これが違和感の原因かもしれないと考える。
彼の部屋は母屋とは別棟の、以前は物置だった離れの二階だ。
ここは元々、母屋の建て替えの際に一時的に住む為に建てられたもので、一応水道が引かれている。
洗面所は手狭な上に薄暗く鏡すらないが、彼にはこれで十分だった。
いつもの様に蛇口を捻る、流れる水を手に受け、モヤモヤした気分ごと洗い流す様な心算で少し乱暴に顔を洗う。
髭の感触がない・・・・・なんだか滑々している。昨日は髭を剃っていないはずなのに。
確認のため今度は注意深く触れてみる、やはり髭がない。心なしか頬骨や額の凹凸も少ない、のっぺりしている。
手を見た、掌が小さく薄く昨日までの半分程だ、指も細いが長さは昨日までとさほど変わらない。
シャツの袖を捲くり腕を確かめる。細い。何より、白い。ハーフパンツから伸びる脚も昨日までの半分以下といった細さだ。
今度こそはっきりと目が覚めた。だが、何も解らない事に変わりはない。寧ろ、混乱は深まった。


気を落ち着けようともう一度顔を洗い、タオルで拭う。深呼吸、ゆっくり吸いゆっくり吐く。
少し落ち着いたところで、短く吸って腹の底から吐く。父に仕込まれた息吹の真似事。これで少し気合を入れる。
(「よし、大丈夫だ。」)自分に言い聞かせ、この部屋に在る唯一の鏡の前へ向かう。
ほぼ全身が写る大きな姿見。かつて母が使っていた物だ。普段は壁に向けてあり、使う時だけ此方にむける。
視線を逸らし、鏡面を見ないように此方へ向けた。目を閉じて鏡の前に立つ。
再び深呼吸してから、ゆっくりと目を開けた。
「小さい。」呟いて、声の高さに驚く。まるで声変わり前に戻ったような澄んだ声。
思わず喉を押さえた。当然、鏡の中の人物も喉を押さえる。
「これ・・・僕・・・・・・? どうして、なんで、なに?なに?なに?なに?・・・・・・・」
それ以上は言葉にならず、その場に凍りつく。しばらくして、自分の動悸で現実に呼び戻された。
荒い息を吐きながら鏡に向き合い、そこに映る人物を睨み付ける。
「そうだ、『まずは冷静に注意深く観察』だ。」
呟きつつ顔を近づけて覗き込む。大きな瞳、気の強そうな目元に見慣れた自分の面影が看て取れる。
骨格の角がとれて丸みを帯び、顎は細く、全体に一回り小さくなった様に見える。やはり髭は一本もない。
「この顔・・・・・何所かで見たような?」
髪が少し伸びているようだ。髪質もまるで幼児のように柔らかで頼りない。

少し離れ、全身を映してみる。彼の身長は168cmと元々高い方では無かったが、それと比較しても大分低く感じる。多分150僂△襪ないかだろう。
それより何より、細い。寝間着替わりの大き目の長袖Tシャツとハーフパンツの上からはっきりと解る程、華奢な骨格をしている。
彼は大きな落胆を、そして深い絶望を覚える。
「こんな・・・・・一体どうして?!! 丸太のような腕は?脚は?分厚い胸板は?広い背中は・・・」
中学卒業からこれまでの8年間、彼の人生は唯ひたすら己を鍛え、強固な肉体と精神を造り上げる為にのみ費やされて来た。
それは男ならば誰でも一度は想うであろう『強くなりたい』という純粋な欲求と、それに付随するある現実的目標を実現する為。
彼はまさにすべてを捧げて来た。 いま・・・・・そのすべては失われた。
深い絶望の中にあっても、彼は諦め切れない。諦められる訳が無い。
彼、黒姫 心(しん)にとって紛れも無く、それは生きる上での全てだったのだから。
厳しい鍛錬に耐えてきたという自負が、冷静に現状を分析しようと腹を決めさせた。
やはり、腕も脚も細い。記憶の中の鍛え始めた頃よりも細いと思われた。身長の割りに妙に長い気もするが、細いための錯覚だろう。
しかし、触って弾力を確かめると非常に柔らかな筋肉がバランス良く付いている。
胸も尻も腹・腰周りもパッとみた限りではまるで筋肉など存在しないかのように細く薄い。
尻にも触れてみる。と、やはり非常に柔らかな筋肉の存在が感じ取れる。
それにTシャツを手繰って密着させると、胸は鳩胸気味だ。
「胸郭は適度に開いてるな。これなら鍛え直せば何とかできるかもしれない。」
全体にボリュウムは心許無いが、鍛え直せば何とかなるだろう。寧ろ、筋肉が非常に柔らかくなったことは好ましいとも思えた。

落ち着いてきたところで彼は考えた、どうしてこうなったのか。
昨日はいつも通りに日課をこなし、特に変わった事など無かった。いつもと違う事が在ったとすれば、今日10時過ぎまで寝ていた事くらいだ。
普段ならば4時半には起きて、日課のランニングをしている。だが、あまり関係無いだろう。これは『結果』の方だ。
これは簡単に答えなぞ出まい。そう考え、彼は今の自分がどういう状態なのか?の判断に集中することにした。
改めて鏡を見る、見た目はなんだか若返ったような気もする。
「そうかっ! 僕は何かで身体だけが若返ってしまったんだ。」
精神だけがタイムスリップして過去の自分に乗り移ったとか、自分の精神以外の時間が全て巻き戻ったとかも考えたが、
携帯の日付を確かめたり、昨日まで現在の自分が暮らしていたままの部屋にいる事からもそれはないだろうと思えた。
しかし、身体のみが若返ったのだとしても、記憶の中にある過去の自分とはかなり違う。話はそう単純ではなさそうだ。
何かをしていないと落ち着かない、思考が巧く進まない気がしてきたので、普段はランニングの後に行うストレッチをやりつつ考える。
この身体は思いの外柔らかいようだ。身体が温まっているとは言い難い状態であるにも関わらず、いつもとは比べ物にならない柔軟性だ。
(「イケル!!いけるぞこれは。」)開脚一つとっても非常にスムースだ。だが・・・・・・・・

「アレッ???」
ここでとんでもない違和感を感じた。『無い』のだ。そこに確かに在るはずモノが。それが圧迫される感触が。
「ひょっとして若返ったから・・・・・・」
小さくなってしまったのか?と思う。それなら無理もないと確認のためそこに手を伸ばす。
ハーフパンツの上から股間に触れる。何もない。そこにあるべき柔らかいモノに触っている感触も、触れられているという感触も。
「へっ?!! 嘘・・・・だろ。んなまさか!!!!」
叫んで飛び起きた。今度はハーフパンツに手を突っ込み、下着の上から触れる。無い・・・・やはり無い。
概ね平らでムチッとした感じの柔らかな肉。その真ん中にピッチリ閉じた深い筋と小さな豆粒のようなモノの感触。
それらを手触りの良い、恐らく綿であろう薄い布地が張り付くように包んでいる。
彼とて女性経験が無いわけではない。それが何なのか、なんとなく解った。想像は付いた。だが信じられない、信じたくない。
喉に乾きを覚える。洗面所に行き、震える手で蛇口を捻り、水を飲んだ。
戻って、サンドバッグを思いきり蹴った、蹴りまくった。息が上がり、その場にへたり込むまで蹴り続けた。
寝転がり、息が落ち着くのを待った。

しばらく後。立ち上がって鏡の前に移動し、ハーフパンツに手を掛け、一気に引き下ろす。
黒い綿素材、いわゆるスポーツタイプの女物の下着。その股間にはやはり、アノ膨らみはない。
細い両太腿の付け根と膨らみの無い股間との間に出来た空間から、向こう側が見えた。
「ははっ・・・・はははははっ。あははははぁははははっあはははぁ。はははははぁははは。ははははははははっ。あはぁはは・・・・・・・。」
何故か、笑いが込み上げた。息苦しくなり、泪が溢れても笑い続けた。座り込み、笑い転げた。
馬鹿馬鹿しい、信じられるか。信じてたまるか。
「女? 女になっただって?? 莫迦な!こんなの夢に決まってる。信じられるもんか。信じられるもんか。信じられるもんか。こんなの本当にもうお終いじゃないかッ!!。」
未だ両脛に残るひりつく痛みが、これが夢で無い事を主張する。
「お終いなのか・・・・・・・もう、本当に。」
例えどれ程の鍛錬を課そうと、女の身体では彼の夢は果たせまい。

「クソッ!!」
左足に脱ぎ掛けのまま引っ掛っていたハーフパンツを、鏡に叩き付けた。
鏡の向うに、下着姿の下半身を晒し、泪で濡れた頬を朱に染めてへたり込む少女が見える。
潤んだ瞳で上目遣いに此方を見詰る、その痩せた小柄な少女は、奇妙な色気を醸し出していた。
引き寄せられるままヨタヨタと鏡に近づき、ぺたりと鏡の前に座る。
初めて見る不思議な生物でも観察するかのように、じっとその姿を見詰る。
触れようと手を出すと向うも手を上げる、お互いの掌が触れ合うような錯覚に囚われる。
鏡なのだから当然だ。けれどこの時、彼はそのことを忘れていた。
「・・・・・なんか・・・変だ。」
触れてみたい。彼の中に在る男の本能が頭を擡げる。
既に女を知っている彼は、鏡の中の少女に対して微かな性的興奮を感じていた。
同時に少女の頬はますます紅く色付き、目は潤み、唇の色は冴えていく。
そこで彼は、この少女が自分自身であることを思い出す。
そっと、頬に触れてみる。温かくぷにぷにとした弾力が指を押し戻す。
唇にも触れる、柔らかい。こんなに柔らかい唇に触るのは初めてだ。

「そういえば・・・・この下は・・・・」
Tシャツの下はまだ確かめていない事に気付く。
裾をそっと捲くり上げると、白く細い腰となめらかに引き締まった腹部が見えた。
少し腹に力を込めてみる。腹筋の存在を精一杯主張するかのように、うっすら立てすじが現れる。
「ふーっ・・・・貧相だねぇ。・・・・?」
鏡像に語り掛ける。投遣りな気持が身体中の力を奪っていく。猛烈にダルく、馬鹿馬鹿しくなってきた。
シャツの下は何も身に着けていないことは既に解っている。何の感慨もなく、シャツを脱ぎ捨てた。
本当にささやかな、申し訳程度にしか膨らんでいない乳房が露になる。
女性の下着のサイズなど心には良く分らないが、コレではAカップにも満たないのではないかと思われた。
小さな乳首がちょこんと頂についている。唇と同じ綺麗なピンク色だ。
白い上半身の中で、鮮やかなピンクが強烈に自己主張している。
「まったく。女になっちまうなら、もっと出るトコのでた身体になってくれりゃいいのに・・・・・」
悪態を吐く。ここまできて、心は戸惑っていた。下も脱いで直に確かめるべきか否か。
(「まだイヤだ。まだだ。」)正直いって怖い。取り敢えず、この状態で全身をチェックしてみる事にする。

腕にも脚にもムダ毛らしいものはまるで無い。脇にも毛が無い。剃ってあるかとも思ったが、それらしい様子は見られない。
体毛自体が極度に薄いようだ。ガキっぽいのは体型だけは無いらしい。
幼児の様なふわふわした髪質、色素も薄い。オールドパンクっぽい、かなり短いショートカット。
ボーイッシュなスタイルだがあまりそのイメージは強くない。
肌はやたらと白い、その所為で先程サンドバッグを蹴りまくった脛の赤みが余計に痛々しい。
筋肉・関節共に非常に柔軟なのは、もう確かめてある。
トンッ!!とその場で跳ねてみる。思った通り、軽い。バネもかなりある。これではキレが良いのも当たり前だろう。
着地。小さな乳房がほんの少しふるえたのはご愛嬌か。
「そろそろ・・・・・いいか。」
いよいよ心は最後の下着に手を掛ける。生唾をゴクリと飲み込む。目を閉じて一気に引き下ろす。
スルスルと簡単に脱げる。クシャクシャに丸まってしまう。
鏡を見るのは今日何度目だろうか。目を開く。やはり、股間に男性器の姿はない。
そこに在るのは全く知らない訳でもないが、心にとって馴染み深いとは言い難いものだ。


ほんのりとした翳り。かろうじて無毛ではない、何故か少しほっとする。
正面から見える部分にだけ生えているようだ。
薄い陰毛が透けて、ぴたりと閉じた割れ目の一部は丸見えだ。
さて、ここから先はどの様に確認したものか・・・・・。
直接見るにせよ鏡を使うにせよ、この体勢ではこれ以上見えないし映らない。
だが、肢を開くことは躊躇われた。
あとは手で触れてみるという方法しかないが、そちらも気が進まない。
(「冷静に考えろ。これは確認だ。今の自分の状態を出来るだけ正確に把握するためだ。
さっき、下着の上から一度触っているじゃないか。布一枚無いだけだ。大差は無い。」)
自分に言い聞かせる。
右手の指先でそっと触れる。
すべすべして、唇よりなお柔らかい。
割れ目に沿って中指でつうぅっと撫でて見る。
全身の肌が粟立つような悪寒。慌てて手を離す。
「なんだ・・・・今の・・・・」
少し、ふっ切れた。
思いついて、斜め45度の角度で鏡の前に立つ。
前に出した左足を膝裏から左手で支えつつ、Y時バランスの要領で引き上げる。
そのまま回し蹴りを繰り出す様に、骨盤を立てる。
心の股間がすっかり映しだされる。
やはり外性器周辺には毛が生えていない。
左手で肢を支えるのに皮膚が引っ張られる為だろう、
ピッタリ閉じていた割れ目が僅かに開き、桃色の肉の一部が顔を覗かせている。
そこに釘付けになる。


傍から見ればあまりに滑稽な姿。
しかし心は、魅入られたまま目を逸らすことが出来ない。
どの位そうしていたのだろう。
突然、ドアがノックされる。
「シーンちゃーん!!心ちゃーん?もうお昼よぉー。まだ寝てるのー?」
姉の恋(れん)だ。
「は・・・はい」
反射的に答えてしまい、激しく後悔する。
「あら、起きてたの。もうすぐお昼ご飯よぉ、降りていらっしゃい」
しかし姉は気にする様子もなく、用件を告げて戻っていった。
(「どうして・・・それに・・・・心ちゃん? ちゃんだって?」)
姉は確かに彼を『心ちゃん』と呼んだ。
この『今の心』の声を気にしていた様子もない。
と言う事は‥・・・姉にとってこの状態は正常なのか?
今ここでの姉の認識では、心は『女』で『妹』なのか?
だが、互いの姿さえ見えていないし、単純に気が付かなかっただけかもしれない。
あの姉が彼の知る通りの性格の儘ならば、それも充分にあり得るだろう。
彼女はおっとりしていると言うか、浮世離れしているようなところがあった。
どちらにしろ、あのような一瞬の不完全な接触から得られた程度の情報で判断など出来ない。
「行くしか・・・・・ないか」
返事をした以上は、行かないのも不自然だ。
行って確かめるしかあるまい。
もし彼の主観どおり『心』が男であるのが正しいとしたら、
分かってはもらえまいが説明するしかないだろう。
心は脱ぎ散らした衣服を身に着け、階段を降りる。
一階のドアに着く。鍵を開けてドアを開いた。

「あ・・・・」
ほんの数メートル向うに姉がいた。
こちら背を向けてしゃがみこんでいる。
どうやら飼い猫達に餌をやっているようだ。
立ち上がり、こちらに振り返る。
その顔は優しげな微笑みを湛えている。
姉のこんな表情を見るのは久しぶりだ。彼はそう思った。
「・・・・姉さん・・・・お早う」
言いながら、顔を伏せて視線を逸らした。
「もお、心ちゃんたら。お早うじゃないでしょう。 もうお昼よ。
それにどうしたの。汗まみれじゃないの」
そこまで言うと、彼女は突然真剣な表情になり、こちらに歩み寄る。
心の目の前に来ると、彼女はまたしゃがみこんだ。
「うぅ?」
彼女は優しく心の脛に触れる、そっと労わるように。
先程サンドバッグを蹴りまくって、赤く腫れている脛に。
「また・・・・危ないことしてたのね?」
真直ぐに心の瞳を見つめて、問う。
心には答える事が出来なかった。


恋は再び立ち上がると、心を抱きしめた。
167僂痢⊇性としては長身な姉。
彼女に抱かれると胸に顔を埋める格好になる。
「私、いつも言ってるわよね? 心ちゃんは大切な大切な妹だって。
あなたが傷つくなんて耐えられないの。
お願いだから、自分を傷つける様なことしないで。」
心は姉の言葉を複雑な気持で聞いた。
彼女の言葉と態度は、『心』が女であることが『正しい』という充分な裏付けになる。
この世界おいて、心は生まれた時からずっと女であったということだ。
少なくともその可能性の方が高いと判断できる。
だがそれでは、自分は男であるという主観は、男としての記憶はどうなる?
あの日々は幻だったとでもいうのか。
再び彼のこころは深い絶望に苛まれる。
しかし同時に、それは『心』がどれ程深く愛されているのかを伝えてもくれる。
自分がどれだけ大切にされ、愛されているのかが解る。

「さあ。行きましょう。昼食の前にシャワーを浴びましょうね。
それから手当てもしないとね」
姉に手を引かれ、母屋へ向かう。
「あっ・・・・着替え・・・僕の部屋だよ・・・・姉さん」
「気にしないで大丈夫よ。私が準備してあげる・・・・
それから、もう怒ってないからね。いつも通り恋お姉ちゃんでいいのよ?」
「・・・・・はい」
(「少し恥かしいな。『お姉ちゃん』か・・・・・最後にこう呼んだのはいつだったか。
それにしてもアレで怒っていたのか。
やはり姉さんは、僕の知ってる姉さんなんだ」)
もともと心は男だった時から寡黙で、
言葉を選びつつ低い声でゆっくりと話すタイプだが、
女の心も同じようなタイプなのだろう。姉は特に違和感などを感じていないようだ。
母屋に着き、風呂に向かう。姉はまだ手を離さない。
どうやら風呂まできちんと連れて行く気らしい。
母屋は記憶にあるのと、何から何まで同じだ。違うのは自分だけ・・・・。
台所の前を通りかかる。
ここで初めて、自分以外にいつもとは変わっているモノを見つけた。
それは今、台所で忙しそうに立働く人物だ。
妹の愛(まな)が惚れ惚れするような庖丁捌きで野菜を刻んでいる・・・・・
心の記憶によれば、彼女は料理はおろか皿洗いさえ滅多にしないはずなのに。

呆気にとられて眺めていると、
「んっ?どうかしたの心。何か用?」
「???・・・・・愛?」
「むっ!! 姉を呼び捨てるとはいい度胸ねぇ? 寝惚けてるのかなぁ」
(「あッ 姉ぇ!!どういうことだ? それになんか・・・・怖ええ」)
「あら、愛ちゃん。心ちゃんは寝惚けてなんかいないわよぉ」
恋が口を挿む。
「じゃあ何、ワザと?」
「そんな事あるわけ無いでしょう。愛ちゃんが聞き漏らしただけよ。
そうよ、ねえそうでしょう? 心ちゃん?」
(「コレは・・・・早く謝ったほうが良さそうだ」)
「ごめんなさい。愛・・姉ちゃん。僕の声、小さいから」
咄嗟に『お姉ちゃん』か『姉ちゃん』かを迷い、その辺を曖昧する。
「ん〜〜〜。宜しい。許してあげよう。私は寛大なのよ」
そう言うと、愛は悪戯っぽく笑う。
「心ちゃんがお風呂使うから、少しだけお食事の時間を遅らせてほしいのだけど・・・」
「それなら大丈夫。一寸仕度に手間取ってるから。もう少しかかりそうだし」
「そうなの?じゃあ丁度良かったのねえ」
この一連のやり取りの間も、恋は心の手を離していなかった。
「さあ。いきましょう、心ちゃん」
「・・・・うん」

風呂に着いた。
黒姫家はそこそこに歴史のある旧家だ。
敷地も家も、屋敷と呼べる程ではないがそれなりに広い。
家は祖父と父の二代に渡り改築が行われた為に、外見より中はずっと新しい。
二人とも風呂好きであったから風呂は大きめで、清潔感もある。
風呂場そのものの広さは六畳、湯船は二畳半ほどの面積を占める。
これに三畳の脱衣所兼洗面所が付いている。
入ろうと思えば家族全員、一度に入ることが出来た。
心の記憶にもごく幼い頃に、家族皆で入った記憶がある。
父母と姉と妹、そして自分。

****************************
脱衣所に入った。
当然、手を繋いだままの恋も一緒に。
「恋お姉ちゃん。あの・・・・」
「なあに? 心ちゃん?」
「手を離してくれないと、服・・・・脱げない」
「あら。そうねぇ」
ようやく手を離してくれる。
ハーフパンツを脱ぐ。
シャツの裾に手を掛ける。
「・・・・・・・・?」
恋はニコニコと笑いながら真正面に立ったままだ。
脱衣所から出て行こうという素振りすら見せない。
一緒にシャワーを浴びようというのだろうか。
「あの・・・・?」
「なあに?」
姉妹なんだ。更に女同士だ。恥かしさなどない。気のせいだ。
そう思いシャツを脱ごうとしたその時。
「ちょっと〜〜!! 姉さ〜〜〜ん!!!」
愛の声。
「あらあら。どうしたのかしら? は〜〜い!! 今いきますよ〜!
それじゃあね、心ちゃん。お着替えは後で、ここに置いておきますからね?」
「はい・・・・」
スタスタと足音が遠ざかって行く。


「ふうぅ」
深い溜息を一つ。
ようやくまた、一人になれた。
洗面台上部、壁一面の大きな鏡に、広く明るい脱衣所の全てが映っている。
シャツを脱ぎ、脱衣籠へ。続けてショーツ。
白い裸身がライトを受けて浮かび上がる。
「女の子・・・・・なんだ。」
消え入りそうな声で呟く。
ツゥーっと左目から一滴、泪が零れた。
「泣くな。本当に女になっちまう。泣くな。泣くな。泣くな・・・・・・・・・・・・・・・」
瞼を閉じてブツブツと続ける。
早くシャワーを済ませないと姉が来てしまうだろう。
そのまま風呂場に入る。慣れ親しんだ我が家だ。
目を閉じていても、問題なくシャワーまで辿り着く。
シャワーを全開にして頭から被る。
手探りでシャンプーのボトルから適量を手に取り、髪を洗う。
頭皮に軽い痛みが走る。少し力を入れ過ぎたようだ。
よく漱いで、次はリンス、これもさっとすませる。
続いてスポンジを取り、ボディソープを泡立てる。
脚は腫れが退くまで刺激は与えない方が良い。
シャワーで流すのみにする。
手から腕、肩に続いて胸を洗おうとスポンジを当てた瞬間、感触に驚く。
小振りで薄っぺらな見た目と裏腹に予想外の弾力がスポンジ越しに伝わってくる。
その弾力を確かめるように数回スポンジで擦る内に、目を見開いた。
「・・・・・・ん、ん・・・・・・・ん・・・・・んんふ、・・・ん・・・」
息が弾み、声を押し殺す自分に気付く。
スポンジが胸の上を滑り、乳首に摩擦が与えられる度に吐息が洩れる。

(「これ以上は・・・いけない・・・・・このままでは」)
高だかスポンジで擦られる程度の刺激で・・・・・この身体は敏感すぎる。
自分が飲み込まれて消えてしまいそうな気さえする。
怖くなって腹部から尻、太腿へ洗う場所を変えていく。
やがてほぼ全身を洗い終える。後は一箇所を残すのみ。
女性がどうなっているか、形や機能くらいなら解っている、洗い方も想像がつく。
しかし、ここには出来ることなら触れたくない。
先ほど自室で、ここを目にしただけで魅入られてしまったのは、
この身体の秘める魔性の仕業。そんな気さえしている。
心には性欲すら己を鍛える為の爆発力にしてきた自負があった。
その彼をして、この身体のもたらす快楽には抗えない予感がある。
なるべく刺激を与えぬように、そっと泡を塗りつける。あとはこれを流せばよい。
シャワーの勢いを少し弱め、洗ったのと大体同じ順に流していく。
胸の泡も何事も無く流せた。
「ふーッ・・・」
少し気が緩む。腹から尻、太腿にかけて泡を流していく。
へそ付近が気になり、下から上へ戻そうとした瞬間。
お湯がアソコへ直に当たる。
仕舞ったと思う暇もなく、柔らかなその肉は水流に押し退けられ、
閉じられていた桃色の秘唇がお湯に晒される。
「ふあぁ!!」
温かな流れが、刺激から護られてきた敏感過ぎる秘唇にぶつかり、弾き、弄り続ける。
(「シャワーを退かさなければ‥・・)」



「んんふ・・・んふぅ・・・・ん・・・ん。ん・・・・んぁ・・・ぁあん」
歯を食い縛り、堪える。
ほんの数秒で下半身に血液が集まりだす。
クリトリスが充血して、包皮からわずかに顔を覗かせる。
男の勃起とは異なる感覚。
剥き出しにされたそれは更に強い刺激を生む。
(早く・・・・・シャワーを・・・・)
だが、遅かった。もう腕に力が入らない。
それなのに、指が強張ってキュッと握り締めたまま離せない。
膝からも力が徐々に抜けていく。
なんとか体勢を変えようと足掻き、バランスを崩してへたり込んだ。
それが更に状況を悪化させてしまう。
シャワーヘッドに跨って座る格好で、股間に密着する状態になってしまった。
水流が容赦なく、ラビアを、クリトリスを弄る。
「ぁん・・・・ああん・・・・・ぁあぁ・・・・・はぁん」
(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ・・・・こんなことで・・・・負けるものか・・・・・)
このまま快楽に溺れ流されるという事は、女の自分に負けることだ。
自分自身に負けることなど許せる訳がない。
この矜持だけは守り抜く。たとえどんな時でも、何があろうとも。
なんとかシャワーを抜き取ろうと試みる。
小刻みに揺り動かし、擦り付けるかたちになって、
刺激がより強まっていることに、もう気が付けなくなっていた・・・・・

「んふぅ・・・・ぁあ・・・・ぅん・・・・・はぁん・・・・い・・・ゃぁ・・・ん」
いつの間にか涙が溢れている。
悔し涙なのか、それとも別のモノなのかは分らない。
身体が何かに反応して、機械的に止め処なく溢れ続ける。
(・・・・来る)
唐突に、そう確信する。
頭の奥底で一つの黒い点が生まれる。
点は半紙に墨汁が染み込むように徐々に広がっていく。
やがて、闇がぽっかりと口を開けた。
闇が生き物のように蠢く。
身体が砂の様な細かい粒子になってサラサラ崩れ出し、
少しづつその闇に吸い込まれていくような感覚。
吸い込まれるほどに、快感はますます強くなっていく。
しかし同時に、快感の『頂点』が引き上げられる。
絶頂に達することが出来ない。
唯々、嬲られ続けるままに快楽を甘受するしかない。
「・・〜〜っ・・・・・〜・・・〜〜ッ〜・・・・〜〜・・・」
声にならない吐息がもれる。
身体を支えきれなくなり、仰向けに倒れた。
体勢が変わり、やっと責苦から開放される。
闇が、名残を惜しむ様に、ゆっくりと還っていく。



どれくらい経ったのだろう。
心は未だ立ち上がることが出来ない。
(なんて体たらくだ・・・・・なさけねぇ・・・・・・気持ち良くて
おかしくなっちまってた。ほんとに女みたいに喚いて・・・・・)
これほど惨めな負けは初めてだ。
いつ、どこであろうと己自身に恥じるような真似はすまいと
こころに決めてきた。
これを守ってきたという自負もあった。
それなのに・・・・その屈辱を最初に与えた相手が紛れもない自分自身・・・・・。
身を守るのに止む無く卑怯な真似をした場合等とは訳が違う。
涙が止まらない、これは・・・・・・悔し涙だ。
「心ちゃーん、お着替え持ってきたわよぉ」
(姉さん・・・返事を・・・)
「心ちゃん? どうかしたの? ねえ、心ちゃん? 」
「・・・・は・・・ぃ・・・」
「心ちゃん? 開けるわよ? いい?」
引戸を開け、恋が風呂場に入ってくる。
「心ちゃん!! 大丈夫?!」
「ぅ・・・ぁ・・・いじょ・・・ぶ」
心に駆け寄り、そっと抱き上げる。
「ぁ・・・お姉ちゃ・・。濡・・・れ・・・ゃ・・・ぅ」
心の言葉を、そっと唇でふさぐ。
「気にしないで良いの。平気よ」
言いつつシャワーを手に取り、心の身体に残る泡を丁寧に流し始めた。



「ちょっと待っててね・・・・・」
恋は風呂椅子に心を凭せ掛け、手早く衣服を脱ぐ。
心を抱え上げて膝の上に座らせる。
「目を閉じててね、髪を洗うから」
そう言って、髪に付いた泡を流す。壊れ物を扱うように。
(母・・・さん?・・・・・母さんみたいだ・・・)
不意にそう思う。
とうに失われた母の、忘れかけていた温もり、心地よさ。
うっとりと、恋の豊かな胸に凭れる。
いまの心を見れば、まるで子猫の様だと誰もが思うだろう。
目を閉じて、恋の為すがままに身を委ねていると、
恋の手が心の胸に触れ、下から上へ撫で上げた。
「ッ!・・・お姉・・ちゃん?」
「どうしたの? しっかり流さなきゃ、お肌に悪いでしょう?」
小さな乳房をスッポリ掌で包み込み、円を描く様に撫で回す。
五本の指が、それぞれ別個の生き物の様に胸の上を滑り、
ときおり思い出したように乳首をつま弾く。
抵抗したかったが、まだ思う様に身体が動かない。
イヤイヤをするように首を振る。
先ほどの余韻が残る身体は、あっという間に再び火照りだしていた。
小さな乳房が痛いほど充血し、乳首が立ってしまう。
堪らず抗議の声を上げようと口を開きかけた時、あっさりそれが止んだ。


ほっとしたのも束の間、
「ひぅッ?!」
今度は、いつの間にか太腿の間に割り入っていた恋の左手の指先が、
心の秘裂をなぞり上げる。
「あらあら・・・ここにもすっかり泡が流れ込んじゃってるわ。
ここは女の子のとっても大切な、デリケートなところですからね。
特に念入りに、しっかり、綺麗にしないと・・・・ね」
言いつつ、左手の人差指と薬指で器用に割れ目を押し拡げてくる。
「イヤだ、駄目・・・駄目だよ・・・・そこは・・・姉さん・・・そこ・・・・やめて!!」
手足をバタつかせ必死で抵抗する。恋の膝上から転げ落ちそうになる。
「危ないわ・・・・。大丈夫、大丈夫だからね。何もいけないコトなんてないの・・・・」
言い聞かせながら再び心を抱え上げ、今度は向かい合って自分の両太腿を跨がせる。
恋が太腿を開けば、心も開かせられる形だ。
「これだとキチンと洗い流せたか、あまり見えなくなってしまうけれど・・・・・仕方ないわ」
言葉とは裏腹に、正確に心の秘所を探りあて、押し広げてシャワーの水流を当ててくる。
「んぅ・・・駄目・・・お姉ちゃ・・・イヤぁ・・・あぁ・・・・んん・・・ん・・・・」

(ああ、まただ。また・・・・・来る)
再び、頭の奥底で闇が蠢きだす。
恋は人差指と薬指で心の割れ目を押し拡げ、空いた中指を滑らせる様にラビアを弄り、
ときおりクリトリスをつま弾く。同時にシャワーを浴びせる。
「さあ、キレイキレイ。綺麗にしましょうね」
囁きながら拡げる指を親指と小指に代え、空いた人差指と薬指でクリトリスを完全に露出させる。
そのクリトリスを中指でうにうにと捏ね繰りつつ、人差指と薬指で左右のラビアをそれぞれ弄り、
摘んで閉じ、開く。さらには、
「あら、そうだわ。お尻も綺麗にしなくっちゃ・・・・」
シャワーを持つ右手で、アヌスをほぐす様に弄り始める。
これだけのことをその繊細な指先で行いながら、
心の処女を決して傷つけぬように細心の注意を払って愛撫をつづける。
女の身体を知り尽くし、さらにその上をいくような恋の手際。
もはや人の業とも思われない愛撫を受けて、
心は何をされているのか、もうまるで訳が解らなかった。
ただイヤイヤをするように、恋の豊満な胸に顔を埋め、しがみ付いた腕に力を籠める。

「んぁ・・・ン・・・いやぁ・・・・いやぁ・・ん・・・・んんふ・・・・んふぅ・・・いぁ・・・・いや」
うわ言のように繰り返す。
(どうして・・・なんでだよ・・・姉さん・・・ダメだ・・・こんなの・・・・ダメだ・・・・)
涙が溢れる。悲しいのか、悔しいのか、何だか解らない。
頭が闇でいっぱいになる。
自分が誰なのか、何をしているか、分らない。それが心地よい。
(溶けて・・・・しまいそう・・・・気持ちいい・・・・・)
「はぁ・・・ぁあ・・・・ふぁ・・・ぅあ・・んんぁ・・・・ぅん・・・んあぅ・・・ふぁ・・・・ん・・・ンン!!」
きゅうっと、しがみ付いた腕に一際強く力が籠もる。
心の身体が反り返り、ぴくんと痙攣する。瞳孔が開ききって、光が失われた。
くたりと恋に凭れ掛かり、動かなくなる。
「可愛い・・可愛いわぁ・・・・心ちゃん。私の心ちゃん・・・・大事な大事な、私の・・・・・。
絶対に離さない・・・・ずっと、ずうっと一緒よ」
ぺろりと心の涙を嘗め取り、そのまま深いキスをする。
舌を絡め、心の口内を味わい尽くすように、たっぷり三十秒ほど。
「ぷぱぁッ」
湿った音と共に、二人の間に涎の糸が架かる。
それすら愛しむように、ちゅるんと嘗め取り、もう一度唇を合わせる。
優しく抱き締めて、心が夢から醒めるのを待ち続ける。



どうにか落ち着いた心は、恋と脱衣所にいた。
「ドライヤーを使うと、地肌が傷んでしまうから・・・・もう少しだけ我慢してね。
それにしても・・・短いのも似合ってる、まるで赤ちゃんみたい」
丁寧に丁寧に、心の髪に残る水分をタオルで吸い取りつつ、声を掛けてくる。
「あんな事があった後だったんですもの、心配でたまらなかったの。
お着替えを持ってくるのが随分遅くなってしまったのに、まだ心ちゃんはお風呂から出て来ないし、
声を掛けても返事もなくって・・・慌てて覗いたら倒れてるんですもの。本当に驚いたんだから・・・・」
「あんなコト・・・?」
気になって、タオルの間から姉を見上げると、その目は涙で潤んでいる。
気遣わしげな眼差しに、訊ねることが躊躇われた。
(姉さんの言葉からすると、あんな事ってのはさっきのアレのコトじゃないみたいだけど・・・一体?)
「もう大丈夫だよ。お姉ちゃん」
「本当に? 無理してないのね?」
「うん」
「それじゃあ、はい。これ」
「ぅ・・・・・・・ありがと・・・」
恋の差し出した衣服を見て、心は内心で絶句する。
何から何まで全て、フリフリのレース付き、薄いふわふわした素材だ。
(さすがにコレは・・・・でも今はコレしかないんだよな。
それにしても、趣味は同じままだ、変わってない・・・・・・・)

記憶にある限り、姉はこういう可愛らしい少女趣味的なものが好きだった。
本人にあまり似合わない為、実際に身に着ける事はほとんどなかったのだが。
さて、どれから身に着けたものか・・・・・心が迷っていると、
「手伝うわ」
恋が物凄く嬉しそうな顔で申し出る。
先ほど風呂で隅々まで見られている、もう別段恥かしがっても仕方ない。
申し出を素直に受けることにする。
タオルを取って、素裸になる。覚悟を決めていても、やはり頬が朱くなる。
白いショーツを受け取り左右の肢を通す。ゆっくり引き上げた。
ピタリと密着するが、股間に直接当たる部分以外は全てレース製で、風通しが良すぎ心許無い。
その上、とんでもなく股上が浅い、なんとか茂みが隠れる程度だ。
身に着けている意味があるのだろうか?激しく疑問だ。
続いてブラジャー、これもショーツと同じくほぼ総レースだ。
「はい、手をこっちに。そう・・・・」
背中側のボタンで留めてもらう。どうやらこのブラは装飾的なモノのようだ。
乳房をふんわりと隠しているだけで、機能的にブラの役割を果せているとは思い難い。
もっとも無いに等しい胸だ、これでも特に困らないが。
振り返り、姉と向き直る。
「ふふっ・・・・・思った通り、とっても似合う。可愛いわ・・・・心ちゃん」
陶然とした表情で呟く。
「・・・・お姉ちゃん?」
「・・・・え? あ・・・なんでもないわ」
慌てて、次を取り上げる。

「はい、それじゃあバンザイしてね。そう、そうよ」
「・・・ん」
これは・・・ネグリジェなのだろうか?まるで裾のやたらと長いキャミソールのような・・・
透けるような薄い布地がレース状になっている。細身で、ひたりと身体に纏わりついてくる。
身に着けていても、下が透けてほとんど丸見えだ。
(まともな服はないのか?)
いい加減、ゲンナリしてくる。
「さあ、これでお終いよ」
今度は一応まともな服のようだ。唯一これだけ、白くない。
前身頃をボタンで合わせる、微妙な丈の黒いワンピ−ス。
ボタンを閉じようとしてくる恋に、
「これくらい・・・自分で出来る・・・」
「あら、そう?」
ボタンを閉じ終わったところで、
「心ちゃん、こっち向いて」
「はい?」
本体と同色のリボンで襟を綴じられる。
長袖で、薄い布地、本体と同色の黒のレースで全体が縁取られている。
胸の下で一度引き絞られるデザイン、姉の気遣いを感じるのは考え過ぎだろうか?

「う〜ん、ちょっといいかしら?」
下から幾つかのボタンを外される。丁度ぎりぎり、ショーツが透けて見えるか見えないか位まで。
(凄いこだわりようだな・・・・しかし、これじゃあ)
まるで『お人形』扱いだ。
「あ〜〜ん、もう、可愛いんだからぁ」
突然抱き締められた。
「お姉ちゃん。愛姉ちゃんが待ってる。急ごう」
「そうね、私も着替えなきゃいけないんだったわ。いきましょう」
恋はさっきからずっと、バスタオルを巻いただけの姿だ。
心の手をとり、台所へと向かう。
「さっきのこと、愛ちゃんには内緒よ?」
「さっきの・・・こと?お風呂の?」
「ええ、そう」
「・・・・うん」
(言えるわけ無いじゃないか、あんな事)



台所と食卓兼居間は間続きになっている。いわゆるダイニングキッチン、ごく一般的な造りだ。
本来の居間も食堂も別にあるのだが、家族が三人だけになってから使われることはほとんど無くなった。
「遅い! とっくに用意は出来てる――って何よ? その格好」
「ふふっ、可愛いでしょう? 心ちゃんに似合うと思って――」
「誰が心の話をしてますか!! なんで恋姉がハダカなの、着替え持ってっただけの人がどうして―」
「あら、バスタオル着けてるわよ?」
「そういう事を言ってんじゃないでしょうが‥‥。とにかく説明して――」
「…僕が…お風呂で‥‥その、倒れちゃって」
愛の表情が真剣なものになる。
「それで?平気?」
「うん」
「そう……。さて、この話の続きは後でゆっくりしてもらうとして。
お昼にしよ――恋姉はとっとと服着てくる!!」
「はいはい」
「心おいで、恋姉が戻るまでに手当て終らせちゃおう」
「大丈夫だよ。これくらい」
「大丈夫なわけないでしょうが、あんた肌弱いんだから。あーあ、真っ赤に腫れちゃって。
痕残ったらどうする気?」
居間のソファーに座らせられる。
「いいよ、自分でやるから‥‥」
「つべこべ言わない」
肌に刺激を与えぬようガーゼを当て、その上から湿布、手早く包帯を巻く。
あっという間に左膝から下が包帯に覆われていく。

「大げさだよ――」
つい声に出てしまう。
「何いってんの、けっこう酷い打撲だよ。
まったく、父さんも、か弱い末娘に殴り合いの真似事教えるなんて………何考えてたんだか」
右足に包帯を巻きつつ、独り言のように呟く。
(親父か‥‥一発でいい、打ん殴ってやりてェな)
心が己を鍛えた理由の一つ。いや、当初の目的だった。
その目的は果たされることなく、父は死んだ。
いま心が己を鍛える理由はもっと別のものだ。
当面の目標はしかるべき時が来るまで家族を、つまりは恋と愛を守ることだった。
これまで守ってきたつもりであった妹に手当てされている、初めてのことだ。
しかもいま相手はこちらを『妹』と認識し、自分は心配される側になっている。
なんとも妙な気分だ。
「はい、終わり」
言葉に重なるように、唇に触れるだけの軽いキス。
(またかよ!‥‥スキンシップ過多だよな―――)
「おやおやぁ?ホッペも真っ赤になっちゃって、こっちも手当てが必要かなぁ?」
ふにふにと頬をつついてくる。
「やめ――」
ソファに押し倒された。顔の横あたりに手をついて逃げ道を塞いでくる。
片手で器用に心の胸元のボタンをはずし、手を差し入れてくる。
「冗談やめてよ・・・・・・愛‥姉ちゃん」
手足をばたつかせて抵抗するが、簡単に押さえられてしまう。

手足をばたつかせて抵抗するが、簡単に押さえられてしまう。
(クソ!!今の僕は……単純な力じゃ愛にすら敵わないのか――)
さすがに『本気』で抵抗すればどうにか出来るだろうが‥‥愛を傷つけてしまうかもしれない。
愛はクスリと笑い、下着の上から乳房に触れてくる。
「……あっ!少し成長したんじゃない? それに、相変わらずやわらかいわねぇ――
こんなに細いのに、なんで?」
(知るかよ!! 勘弁してくれ……)
「――んっ…‥んん」
声を殺して耐える。
「ま、手当てのお礼だと思って、我慢なさい」
ブラの下に手をすべり込ませ、乳首を摘んでくる。
「―うゆっ?! ひぅ‥」
耐え切れず、声が出てしまう。
「ふふっ、本当に敏感ねぇ。一生懸命がまんして……ほんとの本気でやったら、
私に怪我させちゃうと思ってるでしょ?
だから……。生真面目で優しくって、まったく悪戯しがいあるなぁ」
しつこく乳首をいじりながら、やさしく胸を揉む。首筋に顔を寄せ、何度もキスする。
「ミルクの香りがする――赤ちゃんみたい」
ふたたび唇に、今度は舌をすべり込ませ、心の舌にからませる。
唾液の交換でもするように、心の口内のいたるところを刺激してくる。
離れぎわに下唇を甘噛みしていく、ちゅぴんと音がした。
「ごちそうさま。あんまり虐めて、嫌われちゃうとイヤだからね。このへんにしといてあげる」
(‥‥助かった)



心は急いで起き上がると、愛に背を向けて胸元のボタンを閉め始めた。
「あれぇ? まだ、手当てのお礼をいってもらってないわね…」
ワザとらしく言いながら、心の髪を撫でてくる。
「‥‥ありがと」
「―ん、どういたしまして。それにしても、よく我慢して――って、もしかして!!
『お姫様』は本当はこういうのが好きで、もっとしてもらいたいから?」
「愛ッ!!」
いくらなんでもカチンときた。愛を睨み付ける。
「もー、冗談よ。すぐ本気にする。ほらほら、涙ふきなさいって」
いつのまにか涙が溢れてしまっている。心底なさけなかった。
「おまたせ〜」
申し合わせたようなタイミングだ。
「心ちゃん?! どうしたの?」
心の涙を見て、滑稽なほど取り乱す。
「まッまま愛ちゃん!! また心ちゃんを泣かせたのね!!? いつもいつもいつも言ってるでしょう!
 心ちゃんを虐めちゃだめって!!」
「莫迦いわないで、いつ私が心をイジメたのよ?」
シレっと嘘を尽く。悪びれる様子などまるでない。
(確かに虐めたってのは少々違うかもしれんが――泣かせたのはお前だろ‥‥コイツは――)

「コレは――心の手当てしてたら、ちょっと包帯きつく巻き過ぎたから、
緩めようとしたら傷に響いちゃったの。ネッ? 心?」
「‥‥‥うん」
(ホントのことなんぞ言えるわけないだろうが……)
「本当に? 本当なのね?」
「嘘言うワケないでしょうが」
「そう‥‥‥それよりも、どーして愛ちゃんが心ちゃんの手当てをするの?!!
心ちゃんのお世話は私の仕事でしょう? どうして? どうしてよ?」
(姉さん……いったい僕の世話にどんなコダワリが――?)
いい加減、付き合っているのに疲れてくる。
「あの…恋お姉ちゃん? もういいから、お昼にしよう?」
「えっ? あ……そうね。心ちゃんがそう言うなら」
心の一言であっさりと矛を収める。
(僕の言うことなら、なんでもいいのか姉さん………)

各々いつもの席に着いた。食卓に並べられた料理をみて心はこころの中で唸る。
(コレは凄いな――愛が作ったとは思えない‥‥‥しかし――なんだコレ?)
問題は目の前のモノ、つまりは心の分の食器だ。
(なんだよ、この来客用の湯飲みに取っ手つけたみたいなのは?)
マグカップ‥‥らしい。その他の食器もとても小さい、当然そこに盛り付けられた量も知れたものだ。
男だった時の何分の一だろうか? それすら判然としないほど少ない。
「「「いただきます」」」
とりあえず、マグカップに注がれたミルクで喉を湿らす。飲み物の好みは同じらしい。
「今日のは自信作なの。まあ、まずは試してみて」
小さなスプーンで、これまた小さなスープ皿から野菜のたっぷり入ったスープを掬い、口へ運ぶ。
短時間で作るためだろう、野菜は細かくに切られている。
(これは――僕の味だ)
「どう? いい感じでしょう?」
「ええ。とってもおいしいわ」
(驚いたな。まるっきり僕が作ったのと同じタイプの味だ)
男だった時、食事の仕度は心の仕事だった。
食事は身体作りの基本だ。強健な身体を作るためにはバランスのとれた食事は欠かせない。
そのため、母が亡くなって以来、常に自分で管理してきた。
一人分用意するのも、家族全員分するのも同じようなものだったから、自然に心の役割になって行った。
料理の基本は、母が生きているうちに習っていた。
幼い頃、病弱だった心は母にべったりだった。母が料理するのを傍らで自然と覚えていったし、手伝いも進んでやった。
母仕込みの味を兄が作る。
考えてみれば、愛にとっては随分とゴツイ『お袋の味』だったわけだ。
「どうしたの、心? 気に入らなかった?」
「ううん、おいしいよ」
「――そう。デザートに林檎のタルトも焼いたからね」
(デザートか…芸が細かいな。いや、これが女の子の気遣いってやつなんだろうな)


「ところで――」
食事もかなり進んだころに、恋が話を切り出す。
「今日の午後のお出かけの予定だけど、どうしましょうか?
心ちゃんの体調もあまり良くないみたいだし、明日にする?」
(そういや、昨日そんなこと言ってたな。化粧品とか冬物がどうとか)
荷物持ちで二人に付き合う予定だったことを思い出す。
「そうねぇ。私は別に、明日も空いてるから平気だけど?」
「愛ちゃんの予定がOKなら、私はいつでも大丈夫だから、明日でいいわね」
現在の恋の主な仕事は、黒姫家の資産の管理だ。
祖父やその前の代からの付き合いなどもあるので、まったく自由というわけではないし、
多少その手の『お付き合い』もあって面倒な『作法』も多いが、
基本的に家で出来るし、スケジュールも自分で組める。
一方、愛の方は今年の春からメイクアップアーティストとして働き始めたばかりだ。
専門学校在学中に講師として招かれていた、現在所属している事務所の所長に、
センスを見込まれた(本人曰く)らしいが‥‥‥あまり仕事に出て行かない。
まだ駆け出しで修行中の筈なのに、大丈夫なのだろうか? 甚だ疑問だ。
ここで今の自分、つまりは女の子の『心』はどうなのか気になってきた。
明日は平日なのに、二人は心に関してそのことを気にしている様子がない。
(学校は? 通ってないのか? そもそも――僕は何歳なんだ?)
いかにも《僕は?》という感じの目で二人を交互に見つめた後、俄かに考え込んだ心に、
「心ちゃん? 気にしないでいいの。学校にいって勉強するのが正しいこと、普通のことだなんて、
そんなわけ絶対にないんだから」
「その通り!! 人の生き方なんて十人十色よ。高校に行かずに大検を受ける。いいコトだと思うよ?」
取り繕うように口々に言う。
「うん」
努めて明るく答えながら、笑う。変な顔になっていないか不安だったが、誤魔化せたようだ。
(ふーん、大検ね。ってことは少なくとも中学は卒業してる、高校一年生以上ってことか。
それにしては‥‥‥ガキっぽいよな)

驚いたことに、あんな少量でもかなり、いや完全に満腹になった。
食後のお茶も済んで、後片付けをはじめた愛に、
「僕も――」
手伝いを申し出る。
「ああっ!! それならちょっと――待っててね?」
言うが早いか恋が駆け出して行き、すぐに戻ってきた。手に何か持っている。
白いエプロン、フリルがやたらと付いている可愛らしいデザインだ。
「はーい、心ちゃん。これ――そう、手をこっちに、はい」
ささっと身に着けさせられる。何もさせてもらえない、袖を捲くるのすらやられてしまう。
「はい、出来ました。さあどうぞ」
「あら、似合うわね。カワイイよ、心‥‥‥でも恋姉、これ何時の間に?」
「秘密よ」
「だいたい幾つ目よ、それ。」
「いいのよ。心ちゃんは可愛いんだから」
「答えにも理由にもなってない!」
ムダ話を続ける二人を無視して、心は食器洗いを始める。なんと言うか、やりづらい。
この身体が不器用な訳ではない、寧ろ以前より器用に感じるのだが――大きいのだ、食器が。
無論、実際は心の手の方が小さいということなのだろう。
なんとか食器を洗い終えた。
(この身体・・‥このサイズ。これから苦労しそうだな)
「ご苦労様、心」
「心ちゃん、こっちで一緒にひとやすみしましょうね」
「恋姉はさっきから何もしてないじゃない………」

(二人とも良くしゃべるな‥‥ってあれ? これは…)
「心ちゃん、どうしたの?」
「‥‥トイレ」
しかも、両方同時にきた。急いで向かう。
考えてみれば、女の子になってこれが初めてのトイレだ。
(あんまり見たくないんだよな。身体……)
トイレに入れば、女の子の証を嫌でも目にすることになる。その上、触れることにも。
(まあ、さっき風呂で見たし……気にするだけ無駄だ)
両方だから、どうしても座ることになる。意識せずに済むのでありがたい。
着いた。ドアを開け中に入る。なるべく考えずにショーツを下ろす。
衣服の裾が引っ掛るので、どうしても撒くりあげて座ることになる。丸見えだ。
今まで、自分の下半身がハダカ同然だったことに、改めて気付く。
(こんな、薄い布切れ一枚……なんだか怖いな)
座ってしまえば、あとは自然に任せるだけだ。何も特別なことはない。
「ふぅ」
すっかりコトが済んで、いつものようにウォシュレットのスイッチをいれた。
「ぴッ!!?」
(違う!! 当ってるトコ違う?!!)
あわててスイッチを切った。
(でも…どうすれば? ちゃんと当てるには、当てながら調節しないと分らないし……)
水流を最弱にしてスイッチを再び入れる、
「はぁ…ぁ…ぁ‥‥ふぅ」
少しづつ調節して、なんとか狙いどころに当てることが出来た。
だが、いつもと違う。身体が火照ってしまうような‥‥‥怖くなってスイッチを切った。

ここで疑問が生じる――
(前は……どうするんだ? どうしたらいいんだろ?)
紙で拭くのみで済ますのか? それとも、後ろと同じように洗うべきか‥‥‥考えても分らない。
(キレイにしておくに越した事はない――よな? 女の子は病気になり易いって聞くし………でも、
前のどの辺に当てればいいんだ? もう一度当てながら探るのか?)
しかし、不安だ。この身体はとにかく敏感すぎる。『後ろ』もキチンと当てている間ですら少し変な感じがした。
水流が最弱でなかったら『感じて』しまったかもしれない………
それに『前』の場所を探り当てるまで、また違うところに当って耐えられるのか?
(あっ――ビデ? 確かこれって……)
いつもは気にも止めないボタンが、目に留まる。
(たしか……『女の子』を洗うヤツだよな? ってことは間違ってたとしても、後ろ用より早く前に届くかも)
とりあえず一度、後ろと前をトイレットペーパーで拭くことにする。
前にペ−パーを当てた瞬間、水分を吸い取られるしゅんという感触がこそばゆかった。
(どこに当てるのか、目で確認しといた方が……分り易くなるかも)
そうっと自らの秘裂に手をのばす。ぷにゅん、と柔らかい感触。ゆっくり静かに左右へ拡げる。
綺麗なピンクだ。少し湿っている。
(ええと、ココが『女の子』だから、この上……ココだ、これがおしっこの――どっちも小さいな)
こんな風にしっかりと自分のココを見たのは初めてだったが、心はそんなことは忘れていた。
確認が済んだ。いよいよビデのスイッチに手をかける。
(よし。いくぞ)
「――ぅあ…ぁぁん…‥はぁ‥‥んぅ」
――どうにか、尿道口付近をきれいに洗えたようだ。もう一度ペーパーで拭き取る。
(たかがトイレでこの騒ぎか……僕はこれからどうなるんだろ………)


とりあえず一人になるために、自室に戻ることにする。
分っている情報の整理をしたいし、調べたいことが幾つもある。
朝とは異なるルート、渡り廊下を使って離れにもどった。
鏡がこちらに向いたままだ。近づいてみると、そこに映るのは痩せた小柄な少女。
服装が変わったおかげで、女の子らしい華奢な体型が強調されている。
『女の子』らしいが『女』らしいとは言えない、未成熟で中性的な印象。
ワンピースの丈が妙に短めなので、白く細いふとももが付け根近くまで露わになっている。
その下、両足の脛に巻かれた包帯が痛々しい。
さらに近づき、もう一度顔をよく見てみる。ようやく、誰に似ているのか思い至る。
(母さん?)
母に似ている。親子だから当然といえるのだろうが‥‥
記憶にある母の面影から想像すると、若い、いや幼いころの彼女はきっとこんな感じだったのではないだろうか。
そういえば幼い頃、目元が母に似ていると言われたものだった。
さっきの愛の言葉を思い出した。服の胸元を少しだけ開けてかいでみる。
……微かだが、ほんのり甘い、ミルクのような香り――
(まさに乳くさいガキってことか‥‥‥)
なんだか可笑しかった。鏡の中の少女が微笑む。頬をかすかに朱に染めた、無邪気な可愛らしい笑顔。
過剰に保護欲求を掻き立てるような、今の自分に強い苛立ちを覚える。
(僕は――僕は守って欲しくなんかない。守るんだ‥‥僕が守るんだ!!)
だが見た目ではそれすら、強がりで一生懸命に真面目な顔をしている………風にしか見えない。
本気で腹が立ってきた。気持ちの昂りに合わせて瞳が潤み始め、目尻に涙が滲みだす。
(くそッ! 情けねェ……畜生…チっくしょう!!)
鏡に、否、自分に向かって左の正拳を繰り出す。
パンッという破裂音。拳は皮一枚のところでピタリと鏡の前に止まっている。
(そっか‥‥反応はいいんだった、この身体)
左の上段前蹴り。自分の頭より遥かに高い位置で、危な気も無くピタリと止まる。
確認のため、かなりゆっくりと繰り出したにも拘らず、バランスはまるで崩れない。
(柔軟性、バランスも申し分ない‥‥‥けど、だからって――)
溜息を吐きながら、鏡をむこうに向けて元のように仕舞う。
(そうだ‥‥調べにきたんだっけ)


起きた直後は身体に気を取られて、部屋の方はほとんど調べていなかった。
机の上、いつもなら財布や鍵、小物が置かれているところに見慣れない物がある。
若者向けのちょっとしたブランドの財布、パスケース、小さなポーチのセットだ。
もしやと思い、財布を手に取る。やはりあった、学生証――
財布に学生証を入れるのは中学生のときから彼の習慣だった。女の子の心も同じだったようだ。
(19XX年4月1日生まれの15歳――早生まれもいいところだな。高校一年生、姉さんや愛と同じ高校か……)
本棚の一番下の収納にアルバムの類が入っているはず。小・中学の卒業アルバムを持ち出した。
まるで年代が違うが、同じだ。自分の母校。知らない子供たちと、女の子の心が写っている。
髪が長い、腰の辺りまである。綺麗な明るい栗色の髪を、その時々で結上げたり、三つ編みに束ねたり――
様々に表情を変えてはいるが、一度として肩より短くしている時はない。
よほど大切に手入れをしていたのだろう。なのに――
(なんで、今はこんなに短いんだ?)
机の本棚には大検用の問題集が数冊ならんでいる。
(高校をやめた事と、なにか関係がありそうだな)
それにしても、つくづく自分は学校、特に高校と縁遠い人間らしい。心は苦笑した。
男の心も高校を中退し、大検資格をとった。
やめたのは高校二年の夏休み前、原因はちょっとした問題を起こしたからだった。
普段はとくに問題のある生徒でもなかったし、成績も上位の方だったから、自主退学の形にしてもらった。
校内中を舞台に3人を病院送り、4人に怪我を負わせたにしては穏便にことが済んだと思う。
(姉さんには随分、心配かけさせたよな。申し訳なかった)
心本人にしてみれば、降り懸かる火の粉を払った結果が、ああなってしまったに他ならない。
けれどそれが、姉に大きな負担と心配をかけたことは紛れも無い事実だった。
年齢にしてわずか1つ、学年で2つしか違わない姉が、後見人がいるとはいえ、
まだ大学生でありながら黒姫家当主代理として、あの件で背負ったモノはあまりに重かったはずだ。
だから――理由はそれだけではないが――姉には今もって頭が上がらない。
同時にあの件が、恋と愛を本気で守ることを誓った、直接の契機になった。
――思い出に浸っている場合ではない。

新たな手掛りを求め、心は部屋を調べまわる。
寝室の一角は、カーテンで仕切られて衣服の収納スペースになっている。
カーテンを開けてみると‥‥服が増えている、ざっと3倍ほどに。
増えたもののほとんどは、一目で姉の、恋の趣味であることが分る。
その半分くらい、一般的な感じの女物の服は『心』の趣味だろうか?或いは愛かもしれない。
さらにその半分ほど、明らかに自分の趣味だと分る男物のような服。
数着のライダース、レザーブルゾン、レザーパンツ、スウェット、ジャケット、トレーニングウェアの類。
変わったものでは功夫着などもある。
すべて、サイズがいまの身体に合わせたように小さくなっている。
レザーパンツがあるのは嬉しかった。サイズこそ小さいが、男物だ。
(良し!! 正しいこだわりだ、偉いぞ『心』)
思わずこころのなかで、女の子の心を褒めてしまう。
下着を調べると、今朝着ていたようなスポーツタイプがほとんどだ。封を切ってない物もある。
素材の表示はオーガニックコットン100%、稀に今身に着けているような型の、シルク100%の物もある。
さきほどの愛の言葉通り、肌が弱いため気を付けられているのだろう。素材にこだわっているらしい。
レザーパンツの裏地も貼り換えられていた。
(徹底されてるなぁ‥‥‥ん?)
高校の制服があった。女物のブレザータイプ、恋や愛が着ていたのと同じデザイン。
「あれ? なんで冬服だけしかないんだ?」
夏服が見当たらなかった‥‥‥
これも高校をやめた事に関係があるのだろうか?

『心』自身の趣味は男女で基本的にほとんど同じようだ。
音楽や読み物の趣味も近い、女の子にはあまり似合わない感じのものばかりだが……
もう一つ、護身用になりそうな武器の類も見つかった。無論、それらを実際に使う場面が来るわけはない、とも思う。
しかし、この身体が余りにも頼りなく、不安なのも事実だ。正直に言って『力』が欲しかった。
束の部分を含めて6cmほどの、全体がスチール製のスロウイングナイフが10本。
これは以前、道場の練習試合で横浜に行った時、記念のつもりで買ってきたものだ。
地元でも知る人ぞ知る、マニアの間ではちょっとした名物店だった。買ったときは冗談のつもりだったのだが‥‥‥
こんなかたちで、役に立つ時が来ようとは思わなかった。図らずも、心が男であった証拠にもなるわけだ。
部屋の隅に、オープンフィンガーグローブとローガードも見つけた。
女の子の心は、これを着けてサンドバッグを叩いていたらしい。
(こんなもん付けてちゃあな……拳も脛もつくれない。所詮は女の子だったってことか‥‥‥)
部屋の中はだいたい調べ終わった。あとはアレを残すのみ。
ノートパソコン。女の子の心がもし本当に、自分に近い趣味をもっているなら、この中に日誌をつけているはず。
日記ではなく、日誌。体調管理のために、身長、体重、体脂肪率、トレーニングの内容と進行具合、食事の量と内容など。
事細かにつけているはずだ。
はたして、日誌はあった。身長147cm、体重28.3kg、体脂肪率にスリーサイズも。
それとは別に、もう一つ日記のようなものが見つかった。
なんと言うか『恋の日記』みたいな感じだ。女の子らしいと言えないこともない。
意中の人が少々特殊なようだが‥‥‥問題はそのことではない。
そこには――精神と身体の性別にズレを、強い違和感を感じながら、
誰にもそれを打ち明けられない苦しさ、悲しさ、さまざまな思いも綴られていた‥‥‥

(見なけりゃ良かった……かな)
これでは今の自分の、『男の意識と記憶』はこころを病んだ少女がその内に生み出した妄想だ、と宣告されたようなものだ。
だが違う、それは絶対に違う。自分は確かに昨日まで、黒姫 心という男だった。
気弱な考えを振り払おうと、さらにパソコン内を調べてみる。
交友関係から何か分るかと考え、メーラーを起動してみると、面白いものが見つかった。
アドレス帳に登録されている名前が二倍近くに増えていたのだ。
どうやら男女両方の『心』の情報が登録されているらしい。
見覚えのある名前が幾つも見つかる。受信済みのメールもだ。
心にとって、おそらく生涯に二人といない親友、同時に良きライバルでもある男の名もそこにあった。
過去に受け取ったメールを調べると、記憶にある限り文面が一致している。
すぐにメールを送ろうかとも思ったが、しばらく様子をみてからにすることにした。

外の空気を吸いたくなった心は、庭に出ようと玄関に向かった。
「あれ? 僕の……」
「どうしたの?」
後ろから愛が声を掛けてくる。
「僕のサンダル‥‥ない」
「ああ、あれね。汚れてたから――それより、どこ行くの?」
「えっ‥‥、庭とか、散歩……」
「ふーん。ちょっと待ってて――」
言い置いてから奥に行き、箱を抱えて戻ってきた。
「はい、これプレゼント」
「僕に? 何の?」
「理由がないといけない? いいから、開けてごらん」
白い小さなミュール、ヒールが低くほとんどぺたんこで、飾りのようなものは一切ないシンプルな作り。
「あんたに似合うと思って。それに……ほら、最近元気なかったでしょ? 恋姉に先を越されちゃったけど――
あんまり、嬉しくなさそうね‥‥?」
「ううん、そんなこと……ない」
愛の、妹の気遣いが嬉しくて、精一杯の笑顔をつくる――
「ありがとう」
「どういたしまして」
言いつつ、心の髪をくしゃくしゃにするように撫でてくる。
「それ、履いて行きな。気を付けてね」
「うん。行ってくる」
玄関を出ると、すぐに飼い猫達が心の元に寄ってくる。母猫と子猫二匹、三匹とも見事な毛並みの黒猫だ。
母猫は小春、子猫二匹のうち雌は桂、雄は信綱という。

男だった時、猫達の日頃の世話はほとんど心がやっていたから、庭に出ると必ずと言っていいほど寄ってきた。
三匹とも人懐こいが、信綱は特に甘えん坊だった。うるさいほど喉を鳴らし、ぴったりとくっ付いて離れなかった。
猫達の態度は変わらない。いや、いつもよりしつこいくらいだ、歩く邪魔になるくらい擦り寄ってくる。
信綱を抱き上げると、喉を鳴らしながら心の胸に顔を擦り付けてくる。
「お前達は、何も分からないから、そうしてるのかい?
それとも――僕が僕だと分かっているから、そうしてるのか?」
話しかけられると、不思議そうに心を見つめている。
「お前達に言っても、意味無い――か」
猫達を連れたまま、庭を一回りする。いつもと何も変わらない、そこそこに広い日本式の古い庭園。
正門も車庫も変わりない。家屋を回りこんで、裏庭にいく。
昨日まで毎日のように叩き続けてきた巻き藁がある。だが、あまり使われた形跡がない、痛みの程度が軽い。
握り拳をつくってみる。小さな手、指も細い。多少、鍛えたような跡が見てとれるが気休めにもならない。
「これじゃあ‥‥‥な」
裏庭から垣根を隔てて私道を挟み、ごく小さな裏山がある。裏山も黒姫家の敷地の内だが、解放されていて、
誰でも自由に出入りできるようになっている。


この裏山の頂上近くに《ヤシロ》と――人によっては、特に地元のお年寄り達には《オヤシロ》と――呼ばれる、
小さな洞穴とその内部に石造りの祭壇がある。おそらく社のことなのだろう。
心は以前、気になって調べてみたことがあった。地元の図書館で郷土史まで調べたが、
何を祭っているのか、その正体はわからなかった。しめ縄さえないし、お稲荷様の類でもないようだった。
代々、黒姫家が管理してきたのは間違いない、祭られているモノはただ《カミサン》とだけ呼ばれている。
この町には八幡神社があり、氏神様がちゃんといらっしゃる。
にも拘らず、それとは別にこの正体不明の《カミサン》はずっと、それこそ、この町の元になった集落ができたとき、
いや郷土史にある限りそれ以前から、ここにずっと”いる”。そして黒姫家はそれを祭ってきた。
大々的に町内で祭りが行われたりするようなことこそないが、町でなにがしかの大きな事業や工事の類を行う際や、
町長が代わった際など《カミサン》に報告するのが暗黙の決まりになっている。
地元の旧家連中には、結婚や葬儀の報告をする人たちもいる。
黒姫家がこの町で特別視される原因であり、当然、家の者、子供達も周りから何とはなしにそういう扱いをうける。
それが子供同士である場合、どういうことになるか。想像は難しくない。
だがたとえ、訳の分からないモノが祭られていようが、心にとっては馴染み深い場所であり、
母との思い出の場所でもある。母は時折、《オツトメ》といって、《ヤシロ》に行って供え物などをする事があった。
《オツトメ》は不定期で、特に決まった日取りがある訳ではなかったらしい。
ある日、突然に――
「カミサンが呼んでいらっしゃるから、ね」
そう言って、準備を始めるのが常だった。
ほとんど母一人で行っていたが、稀に心を連れていくことがあった。
恋や愛を連れて行ったことは一度もなかった。
そのことを母に訊ねると、寂しげに微笑んで――
「心は選ばれたの。母さんも、父さんも一緒なの。そう‥‥」
とだけ言って、それ以上は口を噤んでしまう。

結局なぜだったのか、いまだに分からない。母の死後は父が、父が死んでからは兄弟のうちの誰かが、
月一で《オツトメ》を続けている。今月の《オツトメ》はもう済んでいる。
なんとなく気になって、裏山の山道の入り口付近に着いたとき、
「おやまあ、こんにちは。お久しぶりですね、お嬢さん」
近所の、知り合いのお婆さんだった。お婆さんの家は旧家の一つで、彼女は特に《カミサン》を祭ることに熱心だ。
男の時から、このお婆さんとは顔馴染みだった、彼女から心は『坊ちゃん』と呼ばれていた。
(お嬢さんか……お婆さんにとっても『心』は女の子なんだ)
「こんにちは、お婆さん」
「これはご丁寧に。もうお具合はよろしいんですか? 最近臥せってらっしゃるとお聞きしましたけど」
「はい、大丈夫です。ご心配をお掛けしました」
「いえいえ、お元気になられて何よりです。それにしても――
心お嬢さんは奥様に似て、ますますお美しくなられて……」
「母に……ですか?」
「ええ、お若い頃の奥様に――」
「し〜ん!!!」
愛の声だ。
「申し訳ありません。姉が呼んでおりますので、これで失礼させて頂ます」
「はい、また次の機会に、お茶でも頂きながらゆっくりお話いたしましょう。それでは、さようなら」
「さようなら」
挨拶も早々に、愛の元へ向かう。

「愛姉ちゃん‥‥‥何か用?」
「あっ! いたいた。これから夕飯の買い物に行くんだけど、あんたも来る?」
「買い物? 歩いて?」
「んなワケないでしょ。恋姉の車で行くの。散歩に行きたいってくらいだから、
ちょっと外に連れてってあげようかなって。どうする?」
「うん。行く、けど……この格好――」
「変じゃないわよ。まあ、似合い過ぎててちょっと…てのはあるかも――それより、あんたUVケアは?」
「ゆーぶいけあ?」
「やっぱり! この忘れん坊めぇ。いつも言ってるでしょうが――来なさい!」
言うが早いか、手を引いて連れていかれ、玄関の三和土で肌の露出している部分にクリームを塗られる。
「まったく、毎日のように言ってるでしょう? あんたは肌弱いの、注意してないとすぐ忘れるんだから!!」
ぶつぶつ言いながら、瞬く間に、太腿に至るまでクリームが塗られた。
「さあ、行くよ。恋姉が待ってるから」
**********************************
買い物は別段いつもと変わりなく、いたって順調に進んだ。
どこも馴染みの店ばかりだったし、どの店に行っても、心は元々女の子であるという扱いを受けた。
最後に、幾つかの日用品を買うためにドラッグストアに寄った。
駐車場に車を止め、店に向かって歩き出そうとした、その時――
「あー!! 姫っちだー。 おーい!!!」
女の子の大声が聞こえた。声の方を振り返ると、制服姿の集団がこちらに駆け寄ってくるのが見える。
女子が4人と男子が1人、恋や愛の母校の制服、つまり女の子の心が通っていた高校の生徒達だ。
(同級生か……まずいな。下手に会話が長引いたら――)
「あら、あの子達、お友達よね?」
「う…うん」
「心、私と恋姉で買い物済ませちゃうから、少し話してきたら?」
「そうする……」
向かってくる集団に歩みよった。女の子のうち3人の顔に見覚えがある。中学の卒業アルバムで見た顔だ。
そのうち1人は小学校の卒業アルバムでも、心の傍らにいつも一緒に写っていた。

「おーす! 姫っち、久しぶり!!」
このさっきからやたらとデカイ声の娘の名前は……
(ええと、確か妹尾 佳奈美とかいったな――)
「久しぶり……妹尾さん……」
「おうおう、相変わらずカワイイなあ。姫っちは」
言いつつ無遠慮に心の頭を撫でてくる。
「でもちょっと元気たりないぞ? これじゃ赤名ちゃんといい勝負だ」
「女の子は慎み深い方がいいんだよ! 赤名や姫くらいの方がな」
眼鏡を掛けた、胸の大きい娘がすかさずツッコんだ。
「そ、そうなの? でも……私と姫じゃ、その、全然違う……」
(あの眼鏡の娘は青樹 早苗とかいったな。てことはあの背の高い娘が赤名さん?)
赤名という娘は背が高く、170cmは軽くありそうだ。スタイルも高校一年とは思えない。
「あの‥‥心ちゃん。久しぶりだね」
それまで黙っていた女の子の最後の1人がようやく口を開いた。
本当に、やっとの思いで声を出したという感じだ。
彼女こそ、小学校・中学校の両方の卒業アルバムでいつも心の傍らにいた少女。
てっきり一番に話しかけてくるものと思っていた。
「久しぶり……環ちゃん」
(いや、はじめまして……西ノ宮 環ちゃん)
彼女たち全員の名前と携帯メールのアドレスは、例のメーラーに登録されていた。
卒業アルバムでいつも心と一緒だったので、念の為に巻末の名簿で名前を確認しておいたのだが、
その後メーラーを見た時に、彼女等の名があったという訳だ。
唯一、赤名さんだけが高校からの友人のため容姿までは確認できていなかった。
それに例の日記にも‥‥‥‥

中でも特に、環という少女に関しては記述がやたらと多かった。
はっきり言えば、彼女が『心』の意中の人なのだ。
(いい趣味してるな『心』)
綺麗な娘だ。非の打ち所のない、掛け値なしの美少女というものを初めて見た。
写真で既に中学までは確認していたが、その後の成長もあるだろうし、
多少は変わっているだろうと踏んではいたのだが――実物は写真も、貧弱な想像も軽く打ち破ってくれた。
環は目を潤ませ、こちらを見つめながら歩み寄ってくる。心の手を取り、言葉もないという様子で頬に寄せる。
「環……ちゃん?」
なんと言葉を掛けたら良いのか、心が考えあぐねていると――
「んじゃ。私たち買い物あるから、先行ってるよ!」
2人を置いて少女たちは行ってしまう。
「みんな、気を使ってくれたんだよ‥‥」
「えっと……環ちゃん、ごめん。何て言うか――」
「2人だけなんだから‥‥いつも通り環って呼んで。心くん――心配したよ?
あんな事があって、そのまま学校やめちゃうし。すぐに入院しちゃって、その後もずうっと連絡取れないし」
(心くん――くんって? それに…呼び捨て?もしかして――)
「心くん?」
拗ねたような瞳で真直ぐに、心の目を見つめてくる。
「かわいい‥‥‥」
「え?‥‥もう! 誤魔化さないで!」
「いや、あの――ごめん。本当にごめんね。環、心配かけて‥‥‥」

結局あの後、環とは少しの言葉を交わしたのみで、すぐに別れることになってしまった。
別れ際に環が、
「私ね、パソコン買ったの。これ、私のアドレス……みんなには秘密だから。ね?」
そう言って、メモを手渡してきた。
帰って調べると、そのアドレスからさっそくメールが届いていた。
やはり心が考えた通り、環は女の子の『心』が精神と身体の性別のズレに悩んでいたことを知っているようだ。
メールの文面からそれが窺えた。
そしてどうやら、2人は付き合っている。正確には付き合い始めたところで『あんな事』とやらが起こり、
心は高校をやめて、それっきりになっていたようだ。
(どうしよう‥‥‥)
いまの心が、彼女の知る『心』とは違うことを打ち明けるべきなのだろうか?
****************************************
夕食も済んで後片付けも終わり、居間でくつろいでいると――
「さあ、心ちゃん。お風呂にしましょ♪ それから、今夜は私のところにお泊りね?
また何かあったら‥‥‥心配ですもの」
恋がにこやかに告げる。
「1人で‥‥大丈夫だよ‥‥」
「駄目です!」
「それなら私も。ほんとに何かあったら、恋姉だけじゃ大変だしね」
愛までもが同意する。
「今日は、あの、もうシャワー浴びたし。疲れてるから、風呂はいいです‥‥‥」
「駄目よ、ちゃんと綺麗にしないと」
2人に両脇から抱えられ、そのまま風呂場に連れて行かれる。女同士とは言え、体格差は圧倒的だ。



「嫌だ嫌だー! 放せっ!放せぇー!!」
「あらあら、心ちゃんはわがままさんねぇ‥‥」
手足をバタつかせての抵抗も空しく、浴場に、脱衣場に着いてしまう。
あっという間にハダカに剥かれ、素早く衣服を脱いだ2人に、風呂まで連れて行かれる。
ここまできたら、さすがに観念するしかあるまい。大人しく言うことを聞く。
(それにしても――)
2人とも見事なプロポーション、大人の女性の身体だ。
どちらも砲弾のように張り出した形の良い乳房と、艶めかしく括れた腰、丸みを帯びた臀部をそなえている。
股間には黒々とした茂みが見える。それを隠そうともしない。
いまは姉妹だから当然なのかもしれないが、2人のこんな姿を見るのは初めてだ。
朝も恋とは一緒だったが、あの時はこんなことを気にする余裕もなかった。
身長は愛の方が若干低いが、胸は彼女のほうが大きいようだ。
妹のこのような姿をみても、当然のごとく心はいささかの興奮も覚えない。むしろ、妙な感慨があった。
(いつの間にか、一人前の、大人の女になってたんだな‥‥)
「さっ、心。ここに座って――髪洗うからね」
風呂椅子が二脚しかないため、愛の膝の上に座らせられる。隣では恋が既に自分の髪を洗い始めている。
愛が心専用のシャンプーを手に取り、泡立てはじめる。
男だった時から、シャンプーやらボディソープは各自専用の物を使っていたが、
自分のそれが容器の形は同じでも、色や表示が変わっていることに、いま気が付いた。
(あの時は、目閉じたまんまだったからな。でも、匂いは同じだけど明らかに違うモンだ、コレ)
そんなことにも気付けなかったほど、うろたえていた自分に苦笑する。
優しく丁寧に、愛の指先が心の髪を、地肌を洗う。心地よさに大人しく身を任せた。
(下手な床屋やら美容院とかより、よっぽど気持ちいいな……)

リンスも済んで、髪をすっかり洗い終わると、
「はい、タッチ!」
ひょいっと、愛から恋の膝の上に手渡される。いかに今の心が体重30kg未満でかつ小柄であるとはいえ、
女性にこんなにも軽々と扱えるものだろうか?
もっとも、恋は弓道に合気道、愛は剣道に居合いを嗜んでいて、学生の頃は双方とも大会でそこそこの成績を収めていた。
まったく普通の女性よりは、力もあるし身体の使い方もうまいのは道理なのだが‥‥‥
「心ちゃん。今度は身体をキレイにしましょうね」
「あ‥‥」
朝のことを思い出し、思わず頬が紅くなってしまう。
「自分でできるよ‥‥‥」
「髪は愛ちゃんに洗ってもらったのに? ズルい!」
「ズルいって‥‥」
「いいから、遠慮しないで」
否も応もなく、恋は心の身体を膝の上に抱えて洗う準備をはじめる。大きなスポンジが心の身体に当てられる。
手から腕、肩から背中へとまるで赤ん坊でも扱うように丁寧に洗っていく。
洗われる間に時折、恋の胸が心の頭に押し付けられる。
(ふかふかだ‥‥)
なにを考えているのだと自分をたしなめるが、母に抱かれたような安心感が心のこころを解きほぐしていった。
恋の手が、スポンジが心の胸を洗いにかかる。ぴくんっ――と一瞬、心の身体が強張る。
「ん……」
だが安心感の方が勝るためなのか、甘ったるいような、むずがゆいような心地良さを感じるばかりで、
朝のように強烈な快感は襲ってこない。
「ふぅ――」
安堵した心は、すっかり身をまかせてしまう。肌をほんのりと桜色に染めた姿はまるで、
本当に幼い女の子だ、とても15才には見えない。
「はい、ちょっと立ってね――そう、そうよ」

心を立たせると、尻から脚にかけてを洗ってくる。もちろん怪我した脛を刺激せぬよう細心の注意を払っている。
「おやおやぁ? 『お姫様』はほんとは『仔猫ちゃん』だったみたいねぇ?
ママにすっかり甘えちゃって――」
素早く髪と身体を洗い終えた愛が茶々を入れてくる。
「違う! そんなじゃない!!」
我に返った心は、愛を睨み付けて抗議するが、いまの自分を振り返って、説得力がないことに歯噛みする。
(くそっ!! 僕はなにやってんだ!? どうかしちまってる‥‥)
いかに本人が大真面目でも迫力の欠片もないばかりか、我知らぬ間に涙さえ浮かべている心に、
愛はどこ吹く風と余裕の表情だ。
(前言撤回!! コイツのドコが大人の女だ! そうだ、コイツはいつもこうなんだ!!)
何故か、ママと言われたことにまんざらでもない様子で照れていた恋が、心の涙にはっとして、
「愛ちゃん! 心ちゃんをからかって、虐めたりしちゃ駄目!」
「おー怖い怖い。ママが出てきたぞー」
「愛ちゃん、来月のお小遣い無しでいいのね?」
笑顔でぴしゃりと言い放つ。さすがに愛も言葉に詰まり、
「あ、あの? 今月、仕事少ないんで、勘弁してください‥‥ごめんなさい」
「謝る相手が違います」
「心、ごめん。本当にごめんね? ほら、あんまり可愛いとつい虐めたくなっちゃうの、ね?」
さきほどまでと打って変わり、両手を合わせて謝りだす。
(だいたい働いてるくせに、小遣い貰うとは何事か。大学生の僕だって、バイトで遣り繰りしてるってのに――
でも…まっ、いいか)
なんだかんだ言っても、心は妹である愛には甘い。いまは自分が妹の立場にあるとはいえ、それは変わらない。
「分った。許す」

「良かったわね愛ちゃん、お許しがでたわよ」
「心、ありがと!」
いきなり抱きつくと、キスを見舞ってくる。舌を挿し入れ、心のそれにからませてくる。
「んー!んん………ん‥‥‥」
感謝の口付けではない、完全に心を『味わって』いるディープキスだ。
時間にすればわずかに十数秒ほど、しかし‥‥‥‥
(まずい………変なかんじ‥‥する)
下腹部の奥のところに身体のどこかから、なにか温かいモノが流れ込んでくるような感覚。
「愛ちゃん何してるの!やめなさい!!」
「「――ん…ぁ」」
恋の声にこたえるように二人の唇が離れ、唾液が糸を引く。
「何って、お礼とお詫びのキスだけど?」
「そんなお礼がありますか! 心ちゃんが嫌がってるじゃないの!!」
「‥‥‥‥‥」
(朝と同じかんじだ……どうしよ…どうしよう)
「そんなことより早く湯船で温めてあげないと、心カゼひくかも――」
「あっ‥‥そうね、そうだわ。急がなきゃ――心ちゃん、続きを洗っちゃいましょうね」
「…自分でやる」
いま触れられたら、朝と同じようになりそうで怖かった。
「こらこら、急にワガママ言わないの」
愛によって後ろからひょいと、両足を持って抱え上げられる。
小さな子供が用を足すのを手伝ってもらう時の格好、俗に言うしーしーポーズだ。
「洗ってないの、後はココら辺だけでしょう?」

「やめろぉ! 嫌だっ…やめろ…やめろ…やめて‥ください」
「すぐに済みますからね‥‥‥」
内腿にスポンジが当てられ、細い両太腿の付け根、その中心部を避けるように洗っていく。
「ココはデリケートなところだから‥‥‥」
恋はボディソープをたっぷり泡立てると、その手で直に心の『女の子』に触れてくる。
「んんぅ‥‥ぁ‥」
執拗なくらいに何度も何度も、ぷにぷにした大陰唇を拡げたり閉じたりしてくる。
「恋姉、中もちゃんと洗ってあげないと。心のために特別に選んだソープだから目や口に入っても無害だし、
赤ちゃんだって平気なくらい刺激のないヤツだから――大丈夫だよ?」
震える心の涙を舐め取り、愛が笑顔で言う。
「ええ、分ってるわ‥‥‥」
口元に微かな笑みを浮かべ、クリトリスの付け根からしごくようになぞり上げる。
「ひぅ‥‥ぅ‥ぁあ‥‥んぁ……はぁ…ん……あぁん……はぅん…あ…いやぁ…いやぁ…」
心の秘裂のすみずみまで、指の腹を使って汚れを掻き出すようにラビアやその周りを弄ぶ。
ちゅくちゅくと音を立てて恋の指がうごめく度に、ピクンッピクンッと心は全身で反応する。
逃れようとしてか、それともより強い快感を求めてか、心は徐々に腰をくねらせ始め、
次第に息が荒くなっていく。
「ふふっ、可愛いわねぇ」
「ええ、ほんとに――」
ちゅぷんッ――と妙に可愛らしい音を立て、恋の指が胎内に侵入した途端にピタリと心の動きが止まる。
目を見開いて口をぱくぱくさせ、声にならない悲鳴を上げる。
恋の指はすぐに処女の証に行き当たり、それを傷付けぬように注意しつつ、ちゅぽちゅぽと胎内をかき回す。

「あら?」
「どうしたの?」
「何でもないわ――」
「いやぁ…もう…やめて…やめてぇ…やめろぉ!…」
「あっ! こらっ! 危ないから動いちゃ駄目!!」
恋の動きが止まったわずかな隙をついて心は再び抵抗を始めたが、愛によって今度は片手で両足を抱えられ、
同時に両手を掴まれて、さらにしっかりと拘束される。
「しょうがない『お姫様』ね……もっと良くしてあげるから――恋姉、私が上をやるけど、いい?」
「やさしくしてあげてね?」
こたえるように頷きつつ、心の唇をふさいで舌をからめる。同時に空いた手で小さな乳房を弄び、
先端の蕾をつまむ。
「んー!!‥‥んん……ん…ン‥‥ン‥‥」
もはや声を上げることすらできなくなった心を攻め立てるしめった音だけが、
しばらくの間ちゅぷちゅぷといやらしく浴室の中に響いた。
終わりは間もなく訪れた。数分も経たぬ内に心の意識は闇の中に沈み、その身体から力が失せる。
「やり過ぎちゃったかな――ちょっと恋姉? 何してんの、まだやる気?」
恋は心の身体の泡をシャワーで流しつつ、秘裂を押し拡げて胎内を覗き込むように凝視している。
「やっぱり‥‥」
「何がやっぱりなの? ねえ?」
「話はあとよ。早く心ちゃんを温めてあげましょう……」
***********************************

いまだ意識の戻らない心を、恋が抱えて湯船に浸かっている。その対面に愛がくつろいでいる。
「やっぱり、一日に二回はちょっとやり過ぎかしら?」
「二回って――どういうこと?! ひょっとして、朝も?」
「ごめんなさい。つい‥‥ね」
「気を付けてよ! 心は退院したばっかりなのに――まあ、いいわ。それより‥‥さっきのは何?」
「あのね、明日は朝いちで田崎先生のところに行こうと思うの‥‥」
「それじゃあ――ひょっとして?」
「ええ、もしかしたら‥‥私の勘だけど」
「ふーん。これからは順調にいくといいのに…ね?」
「そうね‥‥」
「――何が順調にいくと……いい? 僕が‥‥僕のなにが?」
「心ちゃん! ううん、なんでもないの――心配しなくていいのよ、大丈夫ですからね?」
「そうよ、心は私たちが守ってあげる。だから大丈夫‥‥ねっ?」
(僕は‥‥僕は守って欲しくなんか…ない‥‥のに)



(女の長湯とはよく言ったもんだ……)
あのあと洗顔をすませてから、もう一度湯船で温まり直して風呂からあがる頃には、
せっかく気が付いたというのに心はふたたび、今度はのぼせて気を失いそうになった。
風呂からあがってしばらく、三人はバスローブを羽織っただけの姿でくつろいでいる。
(やっぱり女だけとか男だけとか、同性のみで異性のいない生活だと、こういうとこがユルくなるんだな…)
心はミルク、恋は野菜ジュース、愛は缶ビールとそれぞれ好みの飲み物を口にしている。
愛は早くも三本目の缶を開ける。さすがに見かねたのだろう、
「愛ちゃん、少し飲み過ぎよ? 太っても知らないから――」
「大丈夫!! 私って太るときは胸から大きくなるから。メートルの大台ももうすぐ!」
にやりと笑って見せ付けるように胸を突き出す。
「もう! 何よ…何よ…そうやって‥‥心配してるのに‥‥」
だんだんと恋は小声になって、黙ってしまう。
これはひょっとして『女の闘い』なのではないか? 心は妙なことを考え始めていた。
そういえば道場のシャワールームで時おり繰り広げられた、『男のプライド勝負』に似ていなくもない。
もっともアレは表立っては誰も声にすることのない、静かなる闘いだったが………
我こそはという自負を持つ者が、それとなくその存在を誇示するという地味な勝負だった。
ちなみにその勝負に、心は自分から参加したことはない。
むしろ自分のモノが人目に触れないように隠していた。自信が無かったからではない、
大きすぎて恥ずかしかったからだ。格闘家としては小柄な身体に反比例するように、心のそれは兇悪だった。
最初はタオルで隠していたのだが、おやっさん(心のトレーナーは皆からこう呼ばれている)に、
「なにをこそこそやっとるか!! シャキッとせんか!!!」
と一喝されてタオルを叩き落とされてしまったのだ。その瞬間から心は『無敗の王者』になってしまった……
莫迦なことを考えている間に、愛は四本目の缶ビールに口をつけている。

(そうだった‥‥今は『闘い』とか『勝負』とか、太るとか太らないとか、胸が云々はどうでもいい。
とにかくコイツはろくな稼ぎも無いくせに、小生意気な屁理屈ばかりこねて――)
ジト目で見つめてくる心に、
「んー? 心も私が太るとかいうつもり――それとも、うらやましいの? 心のおっぱい小っちゃいもんね。
そうだ、ビール飲む? おっぱい大きくなるかもしれないぞぅ?」
「なに莫迦なこと言ってるの!! 心ちゃんは未成年なのよ!」
恋によって愛から庇うように抱きかかえられる。恋の肩口から顔だけ覗かせて愛に言う。
「いらない、別におっぱいは大きくなりたくない‥‥」
これはまったくの本心だ、今の身体がどうであれ心は飽くまで自分は男のつもりだ。
確かに最初はスタイルの良い身体がよかったなどと軽口を叩いたが、
大胸筋が付くとかならともかく、自分の『おっぱい』が大きくなるなぞ考えたくもない。
もっとも付き合う相手としてならば、胸の大きな女性は嫌いでは無い、むしろ好きだ。
ここで心はパッと閃いた。
「愛姉ちゃんは、ほんとにおっぱい大きいね‥‥スタイルもきれいだね‥‥」
「えへへッ、そうでもないよ。でも四捨五入すると、もう一メートルなんだよ」
「でも‥‥太る代わりに大きくなるってことは、おっぱいは脂肪なの?」
「うっ!……まあ、そうでしょうね‥‥」
「ふーん‥‥脂肪なんだ‥‥そうか‥‥」
ワザとじぃっと愛の胸を見つめる。
「なに? なによ?」
「‥‥垂れるよ‥‥ソレ‥何もしないでいると‥‥」
愛の表情が引き攣る。どうやら反論の言葉は見つからないようだ。
その様子を見て、恋が堪え切れないといった感じでクスクスと笑い始める。

(おっしゃあ!!)
完全にしてやったりといった感じだ。朝からさんざん身体をもてあそばれた鬱憤も、
これで多少は晴れた気がした。ガッツポーズの一つもとりたいところだ。
(あれ?‥なんだろ‥・・眠くなってきた‥‥)
不意に眠気がきた。心は規則正しい生活をこころがけてきたが、いくらなんでもこの時間は早過ぎる。
しかし、抗いようもなく眠い。小さな口をいっぱいにあけて欠伸する心に、恋はすぐに気が付いた。
「心ちゃん、もう眠いのね? 今日はいろいろあったもの、仕方ないわ‥‥」
手をひかれて洗面所まで行き、歯磨きを済ませる。とろんとした半睡状態で、心は疑問を口にする。
「服は?‥‥このまま寝るの?‥‥下着も着けないで?」
「ええ、そうよ。下着の圧迫感はお肌にも健康にも良くないっていうし――」
「あっ! でも胸はブラで固定して、過度の揺さぶり刺激を抑えたほうが大きくなるって聞いたわよ?
心はブラだけ着けて寝たら?」
愛はまだ胸にこだわっているらしい、懲りない娘だ。
「揺れるとこ‥ない‥‥」
心は特に考えず反射で答えてしまう。
最終的には恋に抱きかかえられ、彼女のベッドに横たえられる。
すでに心はすやすやと寝息を立てて熟睡している。恋はそのとなりに自らも横になると、部屋の明かりを消す。
常夜灯のかすかな明かりの元、心の頬に口付けをする。髪をなでながら、その横顔をいつまでも眺めている。

闇の中、男と女が裸で絡み合っている。
女は、いや少女はまるで幼女のような幼さを、その身に色濃く残している。
にもかかわらず、匂い立つような色気を纏い、幼い身体に不釣合いな雌のにおいを放つ。
あまりに歪な魔性の美だ。
対する男は、太い。丸太のような四肢、全身を分厚い筋肉に鎧われている。
無駄なものの一切を削ぎ落としてシェイプした肉体であるためだろうか、
異常とも言えるほど発達した上半身と下半身に比べ、
それをつなぐウエストは筋肉の柱のようでありながら、アンバランスなほどに細く見える。
骨格のみを見れば、身長に比してずいぶんと長い手足だが、
太さのせいで全身が寸詰まりな印象すら覚える。
その動きがあまりになめらかなため、鈍重さは微塵も感じられない。
皮膚は褐色の鞣革をはりつめたようだ。二本足の、野生の獣そのものだ。
少女の細く白い身体は、胡坐をかいた男の膝に座るかたちで抱きかかえられている。
男の首に腕をまわし、その耳元で何事かを囁くと、男は静かに頷き返し、二人の唇が重ねられた。
大きく無骨な手が外見に似合わぬ器用さで、少女の乳房を愛撫する。
そのささやかなふくらみは、すっぽりと掌に収まってしまい、
透けるように白い肌の中で桃色に色づく蕾が、痛々しいほどに充血している。
男の指がその二つの蕾をつま弾くたび、少女は甘い声で啼く。
うしろに仰向けに寝転がると、少女のか細い腰を抱えあげ、その秘裂に舌を這わせる。
舌先で器用に陰核を露出させ、そのまま舌でころがす。
唇をすぼめて口中に含み、緩急をつけて吸引し、音をたててしゃぶる。
少女の嬌声がひときわ大きくなり、ビクビクと痙攣する。
そのまま休む間を与えず、今度は舌先で花弁をなぞり、唇でやさしく食み、ひっぱり、閉じ合わす。

唾液まみれになるまで舐め回し、舌で胎内に侵入する。じっくりと、そのすみずみまで味わう。
小さく幼い身体と正比例して、その入り口はとても小さい、男の舌だけでいっぱいになってしまいそうだ。
処女の証に舌だけで辿りついてしまう。指で探ったら、それだけでまぐわいと変わらないだろう。
男がこのさきをどうするか考え込んだ瞬間、少女のお返しが始まる。
その小さな口で、男のモノを咥えようとする。
しかし、少女の口が小さいのと、男のモノがあまりに長大であるのが相まって、
亀頭の半分ほどを咥えるのが精一杯だ。
男のそれの太さは少女の手首とさほど変わらず、部分によってはさらに太い。
仕方なく少女は含みきれる部分を咥え、そのまま尿道口と周辺を舐める。
いったん口を放すと舌先でちろちろとカリや裏スジ、舌の届く範囲をアイスキャンディーのように舐め、
キスするように吸う。両手で握り、ときどき思い出したように根本からしごく。
小さな身体を抱きあげられてペニスにむしゃぶりつく様子はまるで、
安心しきった仔猫が玩具にじゃれ付いているように、無邪気で微笑ましくすら見える。
少女の懸命な愛撫が気に入った男は、さきほどまでに倍する執拗さで少女をもてあそぶ。
ふたたび陰核を口に含み、何回も刺激を与えたあと、完全に包皮から露出させ、
空気に触れるのすら初めてかも知れぬそれを指でそっと摘まみ、痛み一歩手前の強い刺激を与える。
同時に舌で胎内に侵入し、少女が自ら浸潤するのを促す。
少なめながらようやく溢れだした愛液を舌先ですくい取り、少女の秘裂に塗りつけ、拡げていく。
不意に男はニヤリと笑うと、舌を菊門へと這わす。
少女は尻をふって嫌がるそぶりをみせるが、かまわずに舐め回して愛撫を続ける。
ヒクヒクうごめきだしたそこに、つぷりと舌を挿入すると、少女は吐息をもらす。
舌でかき回すうちに少女は腰をくねらせ始め、吐息が鼻声に変わっていく。
菊門をほぐしつつ、舌ですくい取った愛液を表面に、そして中にも丹念に塗りつける。

頃合いを見計らい、節くれだった太い指をピンクに色づいた菊門へと、ゆっくりのめり込ませる。
思いがけぬほどすんなりと、少女の菊門はそれをのみ込んでいく。
「いやぁ‥ん‥‥ダメぇ‥・・おしり‥ダメぇ‥‥いやなのぉ‥‥おしりぃ‥‥」
言葉とは裏腹に、菊門は男の指を根本まですっかりくわえ込んでしまう。
引き抜かれる指に肉襞がまとわり付いて、いっしょに引き出されてしまいそうなほど、
きつくきつく、キュウキュウと男の指を締め付けてくる。
「ダメぇ‥‥おしり‥熱いよぉ‥‥熱い‥熱いのぉ‥・・へん‥‥変なのぉ‥‥」
じゅぷじゅぷと湿った音を立て、何度も指が出し入れされる。次第に少女の息は荒くなり、肩で呼吸を始める。
肩が上下するリズムに合わせるように、菊門に力が籠もり、男の指を強く締め付けてくる。
少女は涙まで流して首をふり、イヤイヤをする。
しかし、まるでそれを嘲笑うかのように腰が勝手にくねり、より深く、より激しく男の指を迎え入れて、
貪欲に快楽を貪ろうとする。
愛液の溢れる量が目に見えて増える。だがそれでも絶対量はあまりに少ない。
濡れ難いのは体質なのか、それとも幼さ故なのか――
「変だよぉ‥‥おしり‥変なの‥‥おしりが‥いいの・・‥気持ちいいのぉ‥‥あっ‥ダメぇ‥熱い‥
‥‥ねえ‥‥僕‥わるい子?‥‥心は‥心は‥いけない子なの?‥‥僕‥おかしいの?」
男は少女の目を真直ぐに見て笑いかけ、静かに首を横にふった。
涙にぬれたままの顔で、少女は笑みを返す。心の底から安心したという感じの、可愛らしい微笑みだ。
こんな笑顔を見せられては、誰もが彼女を守りたいと思うだろう。否、それは守りたいという希望ではなく、
守らねばならないという強制に、義務に等しいものだ。
安心したためか、少女はふたたび男のペニスを愛撫する。両手でしごき上げ、舌を這わせていたが、
急に手を休めると、さも愛しそうにそれに頬擦りを始める。
「僕‥‥おちんちん欲しいの‥‥好きなの‥‥ちんちん‥‥いいな‥ちんちん‥‥いいな‥欲しいな‥‥」

「そうかそうか、ちんちん欲しいか。よし、じゃあ少しだけ、ちょっとだけ貸してあげような」
初めて男が口を開き、声を発した。まだ若く、少年のように透き通っていながら、低く落ち着いた声色だ。
少女を気遣うやさしい口調、どことなく、詩でも吟じているような雰囲気が漂う。
(これは……これは夢だ。夢なんだ‥‥)
心は最初から一部始終を見ていた。テレビか映画でも見るような第三者の視点から。
男は紛れも無く自分自身、かつての、男のときの心に間違いない。
そして少女は現在の、女の子の心だ。一つだけ今と違うのは、その髪が写真で見たときのように長いこと、
腰まで届く明るい栗色の髪が、汗でその裸身にまとわりついている。
――もしも心が、もう少し落ち着いて周りに注意を払っていたら、
二人を包む、夢の中を埋め尽くす闇が単なる暗闇でないことに気が付いたのかもしれない。
その闇は、それ自身が生き物のように蠢き、微妙に表情を変え続けていた――
「本当?! ほんとにちんちん貸してくれる?」
「ああ、本当だよ――ただし、ちょっとだけだぞ? 今だけ特別にだ」
少女に笑顔でこたえながら、男は少女の花弁が十分に潤っているか、確認することを忘れない。
まだ少し、濡れ方がたりないようだ。これでは少女の大切なところが壊れてしまうかもしれない。
「ありがとう‥‥お兄ちゃん‥大好き‥‥でも‥‥どうやって貸してくれるの?――あっ!あぁん」
男は少女の花弁を甘噛みし、入り口を吸いはじめた。舌を胎内にふたたび侵入させる。
もちろん先ほどからずっと、指は菊門を攻め、陰核をもてあそび続けていた。
「あぁん‥いやぁ‥はぁん‥はぁぁ‥‥はぅ‥うぅ‥‥いやっあぁああん……ダメぇ‥‥イジワルぅ!!
お兄ちゃんのイジワル……やめて‥‥こたえて‥‥」
「いじわるじゃないんだ、これは貸すための準備なんだ」
「そう‥‥なの?‥‥でも…でもぉ‥‥また、僕おかしくなっちゃうぅ‥‥」
どうやら膣口に刺激を与える程度では、愛液の分泌を促す効果がうすいようだ。

男はさらに舌を尿道口へと伸ばし、新たな刺激を試みる。
「ああぁん‥‥うっく‥ぃぅう‥‥ぁぁああん‥やぁん‥そこ……おしっこの‥‥だめ‥だめぇえ!!」
新しい、強い刺激が必ず愛液の分泌に結びつく訳では無いらしい。しかしこのまま『貸して』、
もし彼女の『女の子』が取り返しのつかないことになったら――それだけは絶対に避けねばならない。
彼女は何があろうと守らねばならない――男はそう考えている。
「ちょっと、試しに貸してあげよう。これがちゃんと貸すときの準備代わりになるから‥‥」
「うゆ‥ぁ‥‥ほんと?」
「さあ、おいで‥‥」
男は少女をふたたび抱えあげ、自分の身をおこすと胡坐をかいて彼女を膝に座らせた。



朝方、恋は苦しそうな声に目を覚ました。抱いている心に注意を向ける。
「心ちゃん?」
ひょっとして、強く抱きしめ過ぎたのかと確認する。どうやら違うようだ。
しかし、酷くうなされている。怖い夢でも見ているのだろうか、
「……ろ‥やめろ‥うぅ‥‥だ‥‥やめ‥‥やめろぉ」
パジャマがわりのバスローブが肌蹴て捲くれあがり、
小さな乳房も可愛らしい恥丘も、すべてが丸見えになっている。
「まあ‥‥大変‥‥」
赤面しつつ、乱れたそれを直そうとして改めて気付く。心の乳房は痛々しいほど充血して張りつめ、
乳首が立ってしまっている。太腿を悩ましげに擦り合わせ、腰をくねらす。
頬を紅く染め、目尻には涙が滲んでいる。荒い呼吸、時おり深い吐息をつきながら、うわ言を繰り返している。
{もしかしたら‥‥いいえ、やっぱりそうなのね……}
恋は一人で納得する。彼女は心が何によって、何のために『選ばれた』のかを知っている。
いま心が苦しんでいるのは、『そのため』なのだということも分っている。
彼女に与えられた役割りは、心を守り育てること。
――しかし、その恋においても、今の心が本当は男だったことまでは知らない。いや、知らされてはいない。
所詮は彼女も、その《何モノか》にとっては取るに足りない、つまらぬものの一つに過ぎない――
「可哀想な心ちゃん‥‥私の大切な可愛い心ちゃん‥‥いま、楽にしてあげる」
恋にとって、心はもっとも大切な存在。『彼女』よりも大切なものなどこの世にはない。
心を一人前に育てあげることは、亡き両親に誓った約束でもあり、彼女のすべてだ。
母親代わりとしての母性からくる愛情‥‥‥だが、心に対する気持ちはそれだけではない。
ゆっくりと本当に少しづつ、しかし確実に美しく成長していく心。見守るうちに芽生えた、
もう一つの気持ち。それを知られてしまう事を、それを知られて拒まれる事を恋はずっと恐れてきた。
だが『あの事』以来、その気持ちが抑えきれなくなってきている。

他の誰かに心をとられてしまうくらいなら、いっそ自分が――
{穢してしまいたい……誰よりも優しく愛してあげたい……守ってあげる。すべてから……}
この気持ちに偽りは無い、たとえそう在るべく創られたモノであったとしても‥‥‥
しかしまだ、恋はギリギリのところで『母』で在り続けている。
昨日の風呂でのコトにしても、『世話』を焼く延長にあったものだ。
女性として当然の嗜みといえる、正しい『身体の洗い方』を教えたつもりに過ぎない。
だから、指とスポンジで丁寧に『洗って』あげただけ。直接的な性行為とは違う。
もっとも、若干の悪戯心があったことは否定できない。
心は無意識のうちに自分の『役割』を察しているのか、『女』であることを拒んでいる。
その身体が第二次成長前の、男女の差がほとんどない子供のまま時を止めようとしているのも、
自分のこころの性別を男だと考えていることも、その現れなのではないだろうか。
『こころは男』であることを、心は隠しているつもりらしいが、恋は当然ずっと昔から気付いている。
彼女は『母親』なのだ、気付かぬわけがない。知らないふりを続けてきただけだ。
出来れば、心に自分が女の子であることで苦しんでもらいたくない。女の喜びを知っていれば、
心の『役割』はずっと楽になるはず。恋はそう考えてもいる。
いま心は眠っている。この部屋には二人きり、誰にも邪魔されず、知られることもない。
これから自分がする行為は心のためにもなること、決して欲望のままに彼女を穢すことではない。
恋は必死で自分に言い訳しつつ、ゆっくりと心の唇に自分のそれを重ねた。
心を起こしてしまわないよう、軽く触れる程度のキス。心が気付かぬことを確認すると、
そのまま首筋へ移動して、さらにキスを続ける。やさしく唇が触れる度に、心の吐息がもれる。
さきほどまでと少し違う、甘い吐息。心の腕が絡みつき、恋の頭を抱きかかえてくる。
苦しげに歪んでいた表情が、ふっと和らぐ。
「怖かったのね‥‥‥ごめんなさい。もっと早く気が付いてあげられなくて‥‥」
胸に顔を埋めて抱きしめ返す。心の鼓動が聴こえる。少し、はやい。
顔を上げて、小さな胸を見つめる。

{やっと‥‥やっと‥‥}
昂る気持ちを抑えることが出来ない。今の自分の鼓動は、心よりもずっとはやいに違いない。
桃色の蕾の片方をそっと口に含む、ぴくんっと心の身体が強張る。
初めて、本当に初めてだ。心に『こんな事』をするのは‥‥‥
これまで何度となく目にし、触れてきた心の身体。ずっと世話をして、大切に守り続けてきた。
一度として、純粋に『愛する行為』をしたことなどない。『母親』の仮面を被り続けてきたつもりだった。
口に含んだ蕾を舌先で転がし、時おり強く吸う。もう片方を指先でいじりつつ、小さな乳房を揉みしだくと、
その度に心の身体はビクビクと大げさなほど反応し、切なそうに甘い声で啼く。
「いやぁ‥‥やめ‥‥だめ‥ダメぇ‥‥や‥やぁ‥ん」
{いけないことをしてる‥‥心ちゃんを困らせて‥‥でも‥可愛い‥}
こころの奥底で堪えられないほどの喜びが踊る。身体中が熱くなり、『自分』が濡れていく。
{なんて‥‥私、いやらしいの‥‥}
「心ちゃん‥心ちゃん‥‥心‥心‥‥」
囁きかけながら身体の中心に沿って舌を這わせ、何度もキスをする。
「あん‥ああ‥‥やぁ‥うぅ‥‥ぴゃ!?‥‥ぁあん‥うぁ」
可愛らしいヘソに舌を這わすと、小さな悲鳴をあげる。それがあまりに可愛くて、しつこくそこを責めてしまう。
ついに心の『女の子』にまで到達する。細い太腿の間に顔を埋めていく。
鼻先をピタリと密着させて匂いを嗅ぐ。甘いミルクのような心の体臭を、さらに甘く強くしたような香り。
{いい香り‥‥どうして、こんなに良い匂いがするの?}
香りを胸いっぱいに吸い込む。息がかかってくすぐったいのか、心が身悶えする。
「ん‥んん‥あっ‥‥ぅう‥ん」
秘裂をそっと左右に押し拡げ、くすみ一つない桃色のそれをじっと見つめる。
いつ見ても綺麗なその部分は、まさに『お花』と形容するに相応しい。
女性のそこだって所詮は人間の身体の一部、実際に目にすれば男性のそれ同様、グロテスクな印象は拭えない。
ましてや機能から考えたら、そこは外に露出した内臓のようなものだ。
なのに心の『お花』からは、そのような印象がスッパリと抜け落ちている。そうあるべく創られているから‥‥

どこから『食べて』しまおうかと迷いつつ、恋はそこに見惚れている。
まずはクリトリスから‥‥そう思い舌を伸ばしかけたところで、ふと思い出す。
{今日は、田崎先生のところに‥‥}
もし今ここで心の『お花』に悪戯して、それがバレてしまったら? 恥ずかしい思いをするのは心だ。
そんなことは絶対に駄目だ。しかしもう‥‥‥我慢できない。
{食べちゃダメ‥‥ダメ‥‥ダメ‥‥でも……でも……}
思い悩む恋の目に、充血してほんのりと色づいたアヌスが映った。
{おしりなら‥‥分らないかも?‥‥きっと大丈夫‥‥}
そっと舌をアヌスに這わせると、ビクリと心の身体が跳ね上がった。
「いやぁああ!‥‥おしりダメぇ‥おしりぃ‥‥やぁ‥」
起こしてしまったのかと焦ったが、どうやら違うようだ。ほっとして、さらにアヌスを舐め回す。
「ダメぇ‥ダメぇ‥いや‥‥いやぁ‥おしりが‥‥おしり‥‥いぃ‥ぃや‥」
これは‥‥もしかしたら、心はココが『感じる』のかもしれない。
{心ちゃんたら‥‥おしりが好きなのね?‥‥ふふ}
おそらく自分だけが知っている心の秘密、それが嬉しくて堪らない。甘い歓喜に打ち震えながら、
舌先で愛撫を続ける。ぴちゃぴちゃと音を立てて舐めるうちに、心が腰をくねらせ始めた。
「おしりぃ‥‥おしり‥‥いいの‥‥へんなのぉ‥‥いやぁああん!!」
ゆっくりと舌をねじ込むと、可愛らしい悲鳴をあげる。
「いやぁ‥‥いやぁあ‥熱い‥‥熱いよぅ‥おしりが‥おしりぃ‥あぁ‥あん‥ぁああん‥‥いやぁああ」
{素敵‥‥可愛いわぁ‥心ちゃん‥‥もっともっと‥気持ち良くしてあげる‥‥}
深く深く舌をもぐり込ませて滅茶苦茶にかき回す度に、キュウキュウと締め付けてくる。
「はぁ‥ひぅ‥いやぁ‥‥熱い‥おしりぃ‥おしりがぁ‥‥やめて‥ひぅ‥はぁん‥‥はぁああ」
恋の頭を抱え込んで、股間を擦り付けてくる。鼻先が心の『お花』に触れた。少し湿っている。

{濡れてる?‥‥心ちゃんが‥‥}
「ちょっとー!! 心!どうかしたのー? ねえってば。恋姉!! 返事して!!!」
ドアをノックする音。愛に気付かれてしまったようだ。仕方なくドアへ向かい、鍵を開ける。
「ねえ、一体何事よ?――アレ?なにこれ‥‥」
ドアを開けるなり飛び込んできた愛が、くんくんと鼻を鳴らす。
「なんか‥‥甘い香り?がする――心、どうしたの?‥‥ひょっとして、恋姉また?」
部屋に充満していた『匂い』で、すぐにそれとバレてしまう。
「もーっ!! さっきも言ったでしょう! 心は退院したばっかりなんだから、あんまり無理させちゃ駄目。
一体どうしちゃったの? 恋姉、最近少しおかしいよ?」
「あの‥心ちゃんがうなされてて‥‥楽にしてあげたくって‥‥だから、その‥‥」
「ふーん‥‥? 心がうなされてたと、それで悪戯しちゃったと?」
言いながら、心の様子を確かめている。息こそ弾んでいるが、うなされてはいないようだ。
安心しきった寝顔をしている。心の涙を拭いてやりながら、
「大丈夫みたい。もう休ませてあげよう?ね?」
「ええ‥ごめんなさい。ごめんね、心ちゃん‥‥お休みなさい――そう言えば、心ちゃんが‥‥あの、
ちょっとだけ‥濡れてたの」
「え?! ウソ‥ほんとに?」
恋はコクリと頷く。愛の指先がそっと心に触れる。
「ほんとだ‥‥」
「ね?」
「まあ、心はいいとして――恋姉、それどうする気?」
視線で恋の下半身を指す。恋のそこはすっかり濡れそぼって、膝上まで愛液が滴っている。
「あ‥‥ええと、これは‥その‥」
真っ赤になって俯いてしまった恋を、愛がやさしく抱き締める。
「しょーがないなぁ‥‥『パパ』の私が慰めてあげますか――」
「そんなぁ‥‥心ちゃんがいる前で‥‥」
「大丈夫。あれだけ悪戯されて目覚まさないんだから‥‥気付きやしないって」
愛の手がゆっくりと、恋のバスローブに差し入れられていく――


カーテン越しのやわらかな朝日で、心は目を覚ました。昨日と同じ、なんだかスッキリしない。
「おはよう」
目の前に恋の顔、彼女の腕の中に抱きかかえられている。
「‥‥おはよう‥ございます」
何故か、すごく恥ずかしい。一体どうして姉のベッドにいるのか、しばらく思い出せない。
(あのまま、寝ちゃったのか‥‥)
ぼんやりした頭で、昨夜のことを何となく思い出す。下腹部が少しだけ疼く、
『朝立ち』に似ているような、まるで違うような、妙な感覚。
(なんだろう?‥‥なに?)
怖い夢を、嫌な夢をみたような気がする。けれど何も思い出せない。
恋が起き上がる様子を、とろんとした視界の中で見上げる。まだまだ眠い、もっと眠っていたい。
「あらあら‥‥」
恋の腕が伸びてきて、自分の衣服を触っている。寝乱れたのを直しているらしい。
(僕、何にも着てないんだっけ? まあ、いいや別に‥‥)
ハダカを見られているのに、そのことはちっとも恥ずかしくない。本当にどうでもよかった。
ゆっくりと起き上がる。思いっきり伸びをしつつ、小さな口を目一杯あけて欠伸をする。
本人はまったく意識していないが、一つ一つがとても愛らしい所作だ。
目尻の涙を指先で拭い、もう一度――
「おはようございます。恋お姉ちゃん」
自然と笑顔になっている。何から何まですべてが可愛らしい、無防備な姿だ。
「はい、おはよう。心ちゃんたら寝ぼけちゃって、二度目のご挨拶よ?」
抱き締めて、額にキスを見舞ってくる。唇が触れた瞬間、心は真っ赤になってしまう。
もちろん意識しての事などではない。先程までの無防備さから一転して、度が過ぎるほどの恥じらいぶり。
これが演技だったら、一流の役者になれるだろう。
(なんで? どうしてこんなに恥ずかしいんだよ? どうしちゃったんだ?)
軽くパニックを起こしてしまう。
「うー‥‥あ‥」
「さあ、行きましょう。朝ご飯よ。愛ちゃんが待ってるわ」
「はい‥‥」
訳が分らないまま、手を引かれて行く。

台所では、愛が朝食の準備をだいたい済ませたところだ。
「おはよう。愛ちゃん」
「恋姉、おはよう。昨日は眠れた?」
「ええ、お蔭様で……」
何故かこんどは恋が顔を赤らめた。心はおずおずと恋について、愛に近寄る。
「‥おはよう。愛姉ちゃん」
「おはよう。寝坊助姫、昨日はよく眠れたかな?」
抱きつかれて、こんどは頬にキスされた。やはり真っ赤になってしまう。
(まただ‥‥どうして? 昨日はこんなことなかったのに‥‥恥ずかしい)
心には分るはずもないが、先程からその表情は目まぐるしく変化している。挨拶をすれば微笑み、
テーブルの上の料理を見れば興味深そうに瞳を輝かせ、手を握られると安堵の表情、
抱き締められれば軽い驚き、そのあと心地良さそうに目を細め、キスされれば真っ赤になって恥らう。
すべての表情は自然で可愛らしい。外部からの刺激に対する情動のすべてが、脳の判断を待たず、
ダイレクトに表情や態度、雰囲気にまで表れているようだ。
くるくると万華鏡のように、表情を変える心。
恋と愛にとっては、そういう心が当たり前であるから、少しも不自然さを感じない。
むしろようやく、いつもの心が戻ってきたと考え、気分は明るくなっている。
凄まじい速度で、心のこころは身体に、女の子の『心』に侵蝕されているのだが、
彼はまだそのことに明確に気付けないでいる。
現にいまも、下着すら身に着けておらずバスローブを羽織っているだけの格好で、
そのまま食事することに何の抵抗も感じていない。そんなことは男の時はありえなかった筈なのに。
今朝の献立は胡桃・干し葡萄・プレーンのスコーン、数種類のジャム、ベーコンエッグ、フルーツ。
なんだか、半分おやつみたいな献立だが、若い女三人だけだとこんなものなのだろう。

心の飲み物は例によってミルク、他にオレンジジュースも用意されている。恋と愛は紅茶だ。
食事も終わりかけた頃、恋が口を開く。
「今日はお買い物の前に、田崎先生のところで診ていただきましょうね、心ちゃん」
「……田崎先生?」
「ええ、田崎先生」
(田崎先生って……たしか開業医で産婦人科の? 『産婦人科』?!)
『産婦人科』――その言葉の意味するところを考えようとして、心は動揺する。
(産婦人科で診てもらう? 僕が? コノ身体ヲミラレテシマウ? ドウシテ?)
もじもじと考え込んだ心に、恋は心配そうな視線を向ける。
「心ちゃん? 心ちゃん、どうかしたの?」
「……あ。なんでもない」
「恋姉、コーヒー飲む? 久しぶりに飲みたくてさ」
無理矢理に話の腰を折ってくる。
「そうねぇ、いただくわ」
「僕も」
「お子ちゃまはやめておけば?」
「平気だよ! 僕も飲む!!」
露骨にからかわれて、カチンときた。ムキになって、先程までのモヤモヤを忘れてしまう。
**************************************
食事が済んでしばらく後、三人はドレスルームにいる。
以前は母が、その生前には祖母も使っていた部屋。明確にそうと決まっている訳ではないが、
暗黙のうちに男子禁制、男で入れるのは小さな子供くらいになっていた。
泊りがけの女性の来客があった時も、身だしなみのためにこの部屋を使ってもらう。

そういう訳で、心がこの部屋に入るのはほぼ初めてのことと言っていい。
母の生前、小学校に上がる前くらいに数回入ったことがあったが、ほとんど覚えていない。
(それにしても凄いね、これは……)
その大きさから明らかにいまの、女の子の『心』の物だと分る大量の衣服がズラリと並んでいる。
離れの自室にあったものは、それらの中のほんの一部に過ぎなかったということだ。
様々なドレスの類から、一般的なシャツやブラウス、スカートにパンツ、ジーンズやスウェット、
ありとあらゆる種類の服がグループ分けされてハンガーに掛けられ、壁一面の収納に収められている。
(こんなのドコで着るんだろう?)
毛色の変わったものにはチャイナドレスや修道服みたいなものまである。
恋と愛にもそれぞれの一角が設けてあるが、明らかに心の方が規模が大きい。
もっとも、彼女らは各々の自室にも収納スペースがある、この場にあるのが全てではないだろう。
心の記憶が確かならば壁の収納には和服もあったはず、母は和服もよく着ていた。
母のように『心』もそうだとしたら、心は和服の類もかなり持っていることになる。
(いったい、いつ着るんだよ? こんなにあってどうすんだ? で、今日は買い物って――おい!)
恋ならば、分らないこともない。彼女は『お付き合い』が多い、それなりの場で相応しい格好が求められる。
だが、いまだ高校生に過ぎない『心』にはこんなに衣装が必要とは思えない。
「はい。心ちゃん、今日はこれにしましょうね?」
「それならこっちの方が良いってば! ほら」
恋と愛はさきほどから、心が今日着て行く下着をどうするかで揉めている。
色々なヤツを引っ張り出して来ては、あーでもないこーでもないとやり合っている。
心は正直に言って何でも良いので、その間に部屋の中をウロウロと見て回っていた。
「心ー!! ちょっと、何してんの? はやくおいで!」
「はーい」
どうやら決まったらしい。小走りで二人のもとに行く。

「ねえ、心ちゃん? こっちの方が良いわよね? ね?」
昨日着せられていたようなレースの下着を持って、恋が訴えてくる。
「もー! しつこいってば。昨日は恋姉が選んだから、今日は私。筋は通るでしょう?」
(最初から、僕の意思は関係なしか? 別にいいけど)
「…愛姉ちゃんの方がいい」
いい加減に選んでみせないと、いつまで経っても終らないと考えて愛の方を選んだ。
選んだ理由はなんと言うか、こっちの方がより『男っぽい』から、
薄いブルーでボーイレッグのタップパンツと同色のビスチェ。上はどちらも大差ないが、
下はこちらの方が、男のボクサーブリーフに近い型で安心感があるような気がした。
勝ち誇った愛からそれを受け取り、さっさと身に着けることにする。
バスローブを脱ぎ捨てる。二人に素裸を晒しているのに、そのこと自体はまるで恥ずかしくない。
なぜかそれが当たり前であるような気がしている。すでに意識すらしていない。
タップパンツを穿いて、ビスチェを手に取りしばし考え込む。身に着け方が分らないのだ。
「しょうがないなぁ。ほら、おいで。ここをこうして、こうで――」
愛に手伝って、いや着せてもらう。
「あー!! ちょっと恋姉。こっち来て。見てってば!」
「……え。なあに? どうかしたの?」
前面が編み上げになっており、それで細かいサイズを調節するのだが、途中で愛が何事かに気付く。
しょんぼり落ち込んでいじけていた恋が、大声で呼ばれて我に返る。
「ほらっ! 心の胸、大きくなってる!!」
「本当? 間違いないの?」
「この前、同じ型のを着せた時よりも大きくなってるの。間違いないよ。ほら、よく見て」
「まあ! 本当だわ――心ちゃん、良かったわね? おっぱい大きくなったわよ」

二人に面と向かって大きくなったと連呼されて、猛烈に恥ずかしくなってくる。
同時に心の男としての精神が、凄まじい動揺と恐怖を感じている。
(大きくなった? 僕の胸が――おっぱいが大きくなった? オッパイ?――
このままじゃ、本当に女になって――嫌だ。どうしたらいい?……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ)
「嫌だ!! 嫌だぁー!!!」
自分の胸を抱え込み、真っ赤になってしゃがみ込んだ。心のただならぬ様子に二人は慌てる。
「どうしたの心ちゃん? 大丈夫よ。何も怖くないからね?」
「心、怖がらなくても――あっそうか! そうだよね。胸が大きくなり始めたら、
身長が止まっちゃう人もいるから……心はもっと背、高くなりたいって言ってたし――」
「あっ、そうなのね? 大丈夫よ、きっとまだまだ伸びるから。ね?」
慌てたせいか、根本的に噛み合わない問題にすり替えようとしてくる。
二人のそんな様子を見ているせいで、かえって心は落ち着いてくる。
(しっかりしろ。元に戻るまでは、どのみちこのままなんだ。こんな事で取り乱すほうが、
女みたいで情けない。こころまで女になるつもりか!! しっかりするんだ)
「――ん。もう大丈夫。ごめんなさい。何でもない、平気」
涙をぬぐいながら、二人に笑いかける。
「ほんとに大丈夫? なんでもいいのよ? どんなことでも言ってね」
「っま。背は伸びるから、きっと。さて、心が平気って言ってるんだから、これはお終い。
はやく仕度を済ませて、出かけましょ――心、座って、UVメイクするから」
「待って、トイレ」
「また? やっぱり私の言うとおり、コーヒー止めとけば良かったのに」
「違うよ! 関係ないってば!!」
「違いません! カフェインは利尿作用があるの。効果覿面じゃない」

食事の後にトイレは一度すませたのだが、そのあと既に二回もトイレに行っている。
はっきりいって、愛の言うとおり図星なのだが、くやしいので認めたくない。
それにしてもカフェイン如きがこんなに響くとは、この身体は中も外も、
刺激に弱いというか、敏感というか。
「それとも何? おしっこじゃないの?」
「ぅ……おしっこ、です」
「ほーら、ごらんなさい。お姉さまの言う事はキチンと聞くの」
「いってきます」
くやしいが仕方ない。大人しく退き下がってトイレに行く。下着姿でそのまま行ってしまう。
「待ちなさい心ちゃん。そんなはしたない」
「大丈夫よ。家なんだから、誰に見られるわけでもないじゃない」
「駄目よ。そういう問題じゃないの――」
**************************************
心が戻ると、二人はすでに下着姿でメイクを始めている。心のことだと散々もめるくせに、
自分たちのことはスパッと決めてしまうのが不思議だ。
「来たわね。ほら、ここに座って」
片側の壁一面が大きな鏡になっている、その前の椅子の一つに座らせられる。
例によって、心の皮膚は弱いので紫外線を防ぐためのメイクをする、のだそうな。
手や足、首筋からお腹、皮膚の露出している部分すべてにクリ−ムを塗られる。
そのあと顔にもクリームを塗られ、なにやらファンデーションをパタパタつけられ、唇にリップもされた。
あとは別におしゃれでメイクするわけではないので、特別なにもしない。
「下手にいろいろすると、かえって良くないからね」
メイクが終ると、次は髪だ。愛は手の平にワックスを取り、よく馴染ませてから心の髪にはたき込む。
適当にバランスを整えて終わり。今の心は長めのベリーショートだから他にセットのしようがない。

メイクと髪のセットをしてもらう間、心はいかにも機嫌が良さそうに微笑し、脚をぷらぷらさせている。
鼻唄でも歌い出しそうな感じだ。しかし、本人にまったく自覚は無い。
「心ちゃん! ねえ心ちゃん? どっちにする?」
さきほど下着で負けてしまったので、服は自分が選びたいのだろう。恋が服を二つもってヒラヒラさせる。
「左」
即答した。どちらもワンピースだが、左の方がシンプルで好みに合った。恋がガックリうなだれる。
「ふっふっふっ――ほーら、ごらんなさい」
どうやらこちらが愛の選んだもののようだ。白い中華風の、と言ってもチャイナドレスタイプでなく、
功夫着タイプの前身頃になっている。とめ具の紐が黒いのがアクセントだ。靴は黒いバレーシューズ。
仕度が済んだので、二人の仕度が終るまでの間、心は猫たちに餌をやることにした。
「お出かけするんですから、汚しちゃダメよ?」
「分ってる……」
なにをするにもまるで子供扱いなのは、さすがに勘弁して欲しい。
「小春ー! 桂ー! 信綱ー!! ご飯だぞー!!」
庭に出て、猫たちを呼ぶ。猫たちは外に出されっぱなしなのだが、決して庭からは出て行かない。
必ず庭のどこかにいる。今のこの子たちが何代目なのか、心は正確には知らない。
心がものごころついた時には、すでに猫たちはこの家に飼われていた。
それから四代ほど入れ代わったが、代々ずっと黒猫でつねに二・三匹はいたのだ。
すぐに猫たちは駆け寄ってきた。ゴロゴロと喉を鳴らして擦り寄ってくる。頭を撫でてやりつつ、
それぞれの皿に缶詰のキャットフードを盛ってだしてやる。
「いまは家で男はお前だけなんだね……なのに一番甘えん坊だね、お前は」
信綱の頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細めている。
「心ちゃーん。行きますよー?」
「はーい」


田崎医院はこの町に古くからある、入院施設も整っている中規模の開業医院だ。
心は産婦人科として覚えているが、実際は産婦人科専門ではない。小児科、内科から婦人科まで、
開業医らしくなんでもござれといった感じだ。先代院長夫妻が双方とも医師で、
夫人の専門が産婦人科だったため、町でも大きな産院の一つになった。
そのため町のかなりの人々が、田崎医院で出産する状態になっている。
黒姫家も代々掛り付けで、恋も愛も心もここで生まれた。現在は姉と弟の二人で経営しており、
姉の田崎 玲那(れいな)女史が院長を務めている。彼女の専門は婦人科医療で、
院長を継ぐ前は大学で不妊治療の研究をしていた。
心は幼いころ病弱だったが、ほとんどは自宅療養で先代院長が往診してくれた。
偶に通院したとき、妊娠中の女性がやたらと目に付いたため、その印象が強く残っているのだろう。
しかも小学校の高学年くらいからは、ほとんど医者に掛かる事が無くなったので、
なおさらにその印象は強い。
恋の運転するBMWが正面ではなく、裏口にじか付けされる。いわゆるVIP専門の入り口だ。
「愛ちゃん、心ちゃんをお願い。車を停めてくるから。あら?――」
職員らしき中年の男性が駆け寄ってくる。
「お早う御座います。お車はわたくしどもでお停めいたします。
まことに失礼でございますが、鍵をお預かりさせていただきたく――」
「あら、でもお忙しいのに、申し訳ないわ」
「いいえ、滅相もございません。それに本日は大変混み合っておりますもので」
「うーん――それでじゃ、お願いしますわ」
「はい。承らさせていただきます」
音が聞こえてきそうなほどキビキビした動き、丁重な態度だ。
(あーあーあーあー。きたよきたよきたよ)
心はこの『特別扱い』が好きではない。本人は認めたがらないが、父にもっとも似た点だ。

所詮は世の中、『こういう点』ではコネが重要なのだ、と見せつけられている感じ。
自分だって幼いころ急病になった時、さんざん世話になったくせに嫌悪感を抱いてしまう、
そんな自身の青臭さも含めて余計に嫌な感じがするのだ。
だからといって、この丁重な態度で接してくる職員の男性に対して、どうこういう訳ではない。
自分と黒姫の家に対して、猛烈な嫌悪感を感じるだけだ。
むしろ相手に対しては強い敬意を感じる。だから相応しい態度で接しなければいけない、
そう思うのだが……それが出来ない、辛い。
恋に手を引かれて受付に向かう。こんなところでも当たり前のように心の手をとってくる。
はっきりいって恥ずかしい、止めて欲しいのだが、たぶん無理だろう。
受付に着く前に、あちらから迎えられてしまう。
「お早う御座います。黒姫様、院長が待たさせて頂いております。こちらでございます」
「おはようございます。わざわざありがとうございます。お世話になりますね」
恋はさも当たり前といった様子で対応している。愛も普段通りの態度だ。
心だけが居心地の悪さを感じている。真っ赤になって俯き、大人しくついて行く。
案内された先は院長室だ。立派なつくりの扉がやけに重々しい。
ここまで案内してくれた看護婦さんがノックする。
「どうぞお入りください」
若々しい女性の声だ。扉を開けてくれるが、看護婦さんは入らずそれをささえている。
「どうぞ。わたくしはこちらで失礼させていただきます」
「ありがとうございます」
中に入ると、奥へと続く扉が見える。看護婦ではなく、スーツ姿の若い女性が迎えてくれる。
おそらく秘書なのだろう。ここは来客の待合室で、院長室はさらに奥だ。
「おはようございます。こちらへどうぞ」
「おはようございます」
秘書の女性が奥に続く扉をノックする。

「入っていただいて――」
聞き覚えのある、優しげな声が答える。内側から扉が開いていく。
正面に立派なつくりの机が見える。そこに着いている、見覚えのある女性。
扉の傍にピンクの制服を着た、若く可愛らしい看護婦さんがいる。
彼女が扉を開けてくれたらしい。
「おはよう。しばらくでしたね? 心ちゃん」
机の女性が優しげに問いかけてくる。彼女こそ医院長の田崎 玲那先生だ。
「おはようございます。お久しぶりです」
「おはようございます。田崎先生」
「おはようございます。あれ? 看護婦さん変わってる?」
心、恋、愛の順に挨拶を返す。こんな時でも愛は余計なことを言う。
国中という名札をつけたその看護婦さんは、困ったような顔で苦笑している。
心は田崎先生を知っている。男の時にも当然に顔見知りだった。
だが、彼女に診てもらったことは一度もない。彼の主治医は先代院長だったし、
先代が引退したころには、もうほとんど病院に行くようなことはなくなっていたからだ。
「どうぞ、お掛けください」
中央のソファーを示される。皆が席について看護婦さんが傍らにたったところで、
田崎先生が口を開く。
「本日はどうなさいましたか? 何か心ちゃんに?」
「いいえ、特に異常というわけではないのですが――先生に診ていただきたくて」
「そうですか――心ちゃん。何か、お身体の調子のおかしいところはないかしら?
何でもいってちょうだいね?」
「特にないです……あっ、今朝、お腹の下のほうが…ムズムズしました」
ほんの一瞬、恋の顔に動揺が走る。

「そうなの。それじゃあちょっとだけ、先生に診させてちょうだいね――国中さん、準備を」
「はい」
看護婦さんが隣の部屋へ入っていった。この部屋に入って向かって右に、もう一つ部屋がある。
院長専用の診察室だ。すぐに全員がそちらに通された。
先生と真正面で向かい合って席に座る。恋と愛は部屋の端の席で、心配そうにこちらを見ている。
(それにしても、相変わらずいい女だなぁ。良いね、じつに良い)
心は年上好みだ。彼女ははっきりいって物凄くタイプだ。男の時、年に数回顔を合わす程度だったが、
かなり気になっていた。確か30才になったかならないかぐらいだと記憶している。
ゆるくウェーブのかかった長い黒髪を無造作に纏めている。化粧気のあまりない顔が、
清潔感を増している。少し垂れ気味の目はやさしげで、左目の下のホクロがなんとも言えず絶妙、
濡れたような唇が非常に色っぽい。今は診察のために赤いフレームのかっちりした眼鏡をかけている。
下手をすれば野暮ったくなりかねないそれが、全体の雰囲気を知的に引き締めている。
スタイルも素晴らしく、心の好みの『大人の女』そのものだ。
心の手をとり、脈を診てくる。小首をかしげて、今度は首筋に手を当ててくる。
「うーん? 心ちゃん、ちょっと緊張してるのかな? 大丈夫だから落ち着いてね?」
(そんなこと言われても……無理ですって、たまんねぇ)
自分の好み直球ど真ん中ストライクな女性に手をとられ、そのうえ首筋に手を当てられて、
心配そうな瞳で見つめられて緊張、いや興奮しない男がいるのだろうか?
「それじゃあ、ちょっとだけ、前を開けてちょうだいね?」
聴診器を手にして言う。
「はい……あっ」
あたふたとワンピースの前を開けて、心は動揺する。下はビスチェだ、
胸元からお腹までピッチリと覆われている。自分では脱ぎ方もよく分らない。
気付いた恋と愛が駆け寄って緩めるのを手伝ってくれるが、緩めただけでは駄目なようだ。
結局脱いでしまうことになった。この場は女性ばかりだから、
上半身ハダカを晒すこと自体に抵抗はない。
けれど下着すら一人で脱げないことを、見られてしまったことが恥ずかしかった。

「今日はずいぶん可愛らしいのを着けてきたのね。とっても似合ってるわ」
先生の言葉が追い討ちをかける。恥ずかしくてそちらを見れない。
ひんやりと冷たい聴診器が、心の胸に当てられた。少しづつ場所を変えて、何度も触れてくる。
聴診器が『冷酷』で『怖い』ものだというイメージが浮かんで、頭にこびり付いて消えない。
「あらあら、心ちゃんはやっぱり恥ずかしがり屋さんねぇ――そんなに緊張しなくても、
大丈夫よ。怖くないから、ね?」
聴診器がゆっくりと、お腹にまで下りてくる。冷たいのが『怖い』、鳥肌が立ってくる。
(どうして? 何で?何で?何で?何で?何で?何で怖い?何?)
先生の手がそっとお腹に触れてきた。ほんの少しだけ冷たいが、聴診器と比べるとずっと温かい。
その温もりにとても安心する。ふにふにと、お腹の柔らかさを確かめるように触診が続く。
今すぐに先生の腕に抱きついてしまいたいほど、『やさしい』
「それじゃあ、向こうをむいてちょうだいね――」
椅子ごと、くるりと回転させられる。背中にまた、冷たい聴診器が当てられる。
やっぱりまだ『怖い』、だけどこれを操っているのはあの『やさしい』手だと思えば、
我慢できる気がする。聴診器が移動する度にビクッとして、待遠しさが募る。
はやく『やさしい』手で触れてもらいたい、温もりが欲しい。

(先生ノ『やさしい』手ガ好キ。心ハ先生ガ好キ、モット触ッテ欲シイ)
甘い気持ちが溢れてくる。これまで感じたことのない、甘い甘い気持ち。
また先生の手が触診を始めると、甘い気持ちはどんどん膨らんでいく。
そっと当てられる手、トントン、トントンと響く打診のリズム――
(先生、モット)
口をついてその言葉が出てしまいそうになる。
「はい、とりあえずお終いです。服、直してけっこうですよ――あ、まって。
ごめんなさいね、その下着はもう少し待ってください。また触診するかもしれないの」
とりあえず心はワンピースの前を直す。なんだか少し残念なような、物足りないような、
おかしな気持ちがこころにわだかまる。
「えーと、それではあちらへ。心ちゃん、今度は先生と二人だけですからね?
だからもう、あんまり恥ずかしくないわよね?」
部屋の一角の、カーテンで区切られたベッドを示される。
「二人だけ、ですか?」
「ええ、二人だけ。看護婦さんもお姉さんたちもいないから、恥ずかしくないでしょう?」


カーテンが閉じられる、先生は――玲那はニッコリと笑いかけてくる。
「それじゃあ、心ちゃん、下着を脱いでベッドに横になってもらえるかしら?――脱いだものは、
この籠にね」
言われるままに、下着を脱ぐ。脱いでいる姿を見られるのが恥ずかしいので、
横を向いて視線を逸らしながら。
「あらあら、可愛い……」
ワンピースの裾をたくし上げて脱いだが、慣れていないせいで丸見えになっていた。
心は気付いていない。下着のことを言われたのかと思う。
自然と、脱いだそれを小さくたたんで籠に入れている。
靴を脱ごうとベッドに腰掛けると、脱ぐのを手伝ってくれる。
「可愛い靴ね。バレエシューズかしら? とっても似合ってる――この包帯はどうしたの?
どうしてさっき、先生に言ってくれなかったの?」
悲しそうな瞳で、訴えてくる。
「あの、それは……ちょっと怪我しただけだから、だから」
「心ちゃん、先生は、私は心ちゃんの主治医なの。ですから、どんなことでも言ってちょうだい。
私は確かに婦人科が専門だけど、一通りの診察はできるわ、ね? こっちはあとで診させてね?」
「ごめんなさい。あの――お願いします」
「いいのよ、謝らなくっても。心ちゃんは悪くないわ――仰向けに横になって、待っていてちょうだい」
心が横になる間に手を洗い、幾つかの器具を準備している。
「最初に、お腹を触らせてもらうわね」
「服の上からで、大丈夫ですか?」
いまの心は下着なしでワンピースのみを着ている状態だが、布地一枚隔てていることに変わりは無い。
それが少し気になった。
「でも心ちゃん、恥ずかしくないかしら? もしも平気なら――お願い、前を開けてもらえる?」
「平気……先生と、二人だけだし。怖くない」
「そう、私を信用してくれるのね。ありがとう」

心が胸元を開けようとすると、手伝って開けてくれた。一番下までとめ具がはずされ、
ヘソくらいまで丸見えになる。むき出しになったお腹に、玲那の手が触れてくる。
気のせいか、さっきまでよりも少しだけ温かく感じる。心は目を閉じた。
やっぱりとても『やさしい』、そして心地良い手。
彼女が『心』のことを、真剣に心配してくれているのが伝わってくるようだ。
さっき診察中に変な気分になってしまったことが、少し悔やまれた。
玲那には以前から、男の時から仄かに好意をもっていた。それもあって、
彼女を騙しているような後ろめたさも感じる。
そんなちょっぴり苦い気持ちすら、少しづつ溶かしてしまうような玲那の手。
服の下へ潜りこんで、だんだんと下腹部に移動していく。ふにふにと弾力を確かめるように、
何箇所も触れてくる。
「――!……先生?」
「ん。どうかしたの、心ちゃん?」
心は目を見開いて、玲那の顔を見つめる。彼女は相変わらず優しく微笑んだまま。
しかし、下腹部に当てられた手の、その指先が心のクリトリスに触れている。
くりくりと指先で小さな突起を弄りながら、何食わぬ顔で触診を続ける。
何度も手を移動させているのに、指先はクリトリスに触ったままだ。
いやらしいくらいにしつこく、クニクニともてあそんでくる。
(どうして……こんな、こんなの駄目だ。先生やめて、駄目だよ/
先生モット、モット……イッパイ、優シクシテ。気持チ良イノ、大好キ)
まったく違う二つの気持ちが、同時にこころの中に溢れてくる。
「……ん。ん、ぁん……ん」
もし声が聞こえたら、カーテンのむこうにいる恋や愛、看護婦さんにばれてしまう。

声を抑えるのに必死で、抗議することもできない。両手で口を押さえて、ただ耐えるしかない。
(駄目だよ。モット。こんなの駄目だ。気持チイイノ。やめろ。大好キ。やめて。イッパイ触ッテ。
ダッテ、先生ノコト好キ。でも、これは……気持チ良イから、イイよね……そうダヨ、
気持ち良いノハ、それはトテモ良イコト。だよ、ネ?)
苦い気持ちと甘い気持ちが、こころの奥のほうで少しづつほどけて、溶け合っていく。
いますぐ玲那の腕にしがみ付いて、その手を自分の『女の子』まで導いてしまいたい。
そんなことまで、頭のすみに浮かんでくる。
不意に指が離れた。ほっとして、でもちょっぴり残念で、心は――。
ふたたび、玲那の手がお腹に当てられる。こんどは打診をするらしい。
トントン、というリズムが心地良く響いてくる。すでに身体の奥が火照り始めた心にとって、
この微かな刺激はお預けをくらって、焦らされているようなもの。
「せんせい……」
「もう少しですからね。もうちょっとだけ、我慢して」
胸に触れてきた。繰り返される打診の僅かな刺激だけで、心の乳首は立ってしまう。
「……あ――どうしてぇ? いやぁ」
「気にしなくていいの。女の子は敏感なんですもの、自然なことよ」
とても、とても恥ずかしい。いやらしい気分になっているのを、知られてしまった気がする。
心の瞳は潤んで、今にも涙がこぼれ落ちそうだ。
玲那の手の動きが変化する。小さな乳房を片手で包み込み、優しく揉みながら、
空いたもう片方の指先で数箇所を押してくる。
「えっ――あの?」
「若い女の子に乳癌が増えてるのは知ってるかしら? まさかとは思うけど、念のためにね?」
ふにふにと本当に『やさしい』その手の動き、そこには本来なら性的なものはまるで無いはず。
なのに、どうしようもなく気持ち良い。エッチなことをされていると、そう感じてしまう。
そんな自分が、とても淫らな人間に思えてくる。

(僕は男なのに。男のくせに、綺麗な女の人に、先生に診察されて気持ち良いなんて。
いくら好みの人だからって、胸を触られていやらしい気持ちになるなんて……/
違ウヨ、心ハ女ノ子ダカラ、オッパイガ気持チ良イノ。優シイ先生ガ大好キダカラ、
イッパイ触ッテ欲シイノ。デモ、チョッピリイケナイ、エッチナ子ナノカナ……)
まるで違うはずの男と女の気持ちが、自分はいやらしい淫らな人間だと、同じことで戸惑う。
「は、はぁ……ん……ぁは……んん」
カーテンの向こうに聞こえないよう、吐息を、声をかみ殺す。
「つらいのね。もう少しだけ、がんばって」
より慎重に、やさしく丁寧に、刺激を与えないように力を調節してくる。
これでは生殺しだ。
「違う、違います……せんせい――」
(もっと、もっと強く触って。揉んで、つまんで、にぎりしめて――)
大声で訴えてしまいたい、叫びだしたい。でもここには恋も愛もいる、そんなことはできない。
ワンピースの裾をギュッと握り締めて、衝動を抑える。ぽろぽろと、涙がこぼれた。
玲那の手が離れていく。
「ごめんなさい、ごめんね。心ちゃん、つらかったね――」
涙を拭いて、頭を撫でてくれる。心はその手を掴んで、玲那の瞳をじっと見つめる。
(もう、終わり……もっと、もっと、もっと)
「せんせい……あの、あの――」
「少し、お休みしましょうね。そのあとで――あとちょっと、ちょっとだけ、
先生に診させてほしいの。ごめんなさい、我慢してくれるかな?」
心の手を握り返し、自分の胸に押し当てながら、真直ぐに見つめてくる。
この後どこを診察されるのか、此処に来たときからもう分っている。
ここは玲那の病院で、彼女は婦人科の医師なのだから。
女の子の大切な、大切な部分。彼女になら、まかせてしまっていいと思えた。
身体が、それを求めて、こころは、それを自然なこと――玲那は『心』の主治医だから――
だと判断する。

「平気、平気です。だから……だから、はやく、お願いします」
「本当に、大丈夫なの?」
「せんせいを、信じてます。だから、大丈夫」
(言い訳なのかもしれないけど、だけど、先生は主治医で……違う、好き。先生、大好き。
せんせいのこと、ずっと前から好きだった。だからもっと、もっと――)
「ありがとう。それじゃあ、いつもみたいに膝を立てて、少しだけ肢を開いてもらえる?
そう、そう、それくらい」
言われるままに膝を立てて、肢を開いていく。下着のないそこが風を感じて、
ちょっぴりスースーする。
「じゃ、診させてもらうわね。怖くないから……」
囁くように小さな声。皆に聞こえないように――なのかもしれない。
玲那が、アソコをのぞき込んでくる。心臓がどきどきと高鳴る。
この部屋にいる全員に、聞こえてしまうのではないかと思えるほどに。
(せんせい、せんせい、せんせい、せんせ、せんせえ……)
胸が苦しい。アソコに彼女の吐息がかかる。生温かくて、こそばゆい。
「――うん。うん、なるほどね。心ちゃん、触らせてもらうけど、いいかしら?」
そっと囁いてくる。
「……はい」
指が、そっと心の『お花』に触れる。割れ目にそって、感触を確かめるように撫でてくる。
少しくすぐったい。『やさしい』、本当に『やさしい』指。
「――ぁん」
{うそ――心ちゃんが、濡れてる? ほんの少しだけ、でも間違いないわ……}
「ちょっとだけ、中を診させてちょうだいね?」

両手の指がそうっと『お花』に、ピンクの花びらにそえられる。
「……ん、んん。あん」
ゆっくりと、花びらが左右に開かれていく。ちょっとだけ湿って貼り付いたものを、
剥がしていくときのような、にちにちという微かな音、いや感触が伝わってくる。
外気に晒されて、少し沁みる。空気がこんなに『痛い』ものだったなんて、知らなかった。
心の呼吸に合わせて、ピクリ、ピクンと『お花』がうごめいている。
玲那の表情が明らかに変わる。歓喜を抑えきれない、恍惚の笑顔へと。
その舌が伸ばされ、『お花』をぺろりと舐め上げる。当然、心からは見えない。
軟らかくて湿ったあたたかいものが、絡み付いてくる感触。
(指じゃない!? 指じゃない? 悪戯されてる? だけど――泣き出してしまいそうなくらい、
それが嬉しかったら? 僕はおかしいの? いやらしいの? ねえ、誰かおしえて――
ううん、嬉しいよぅ、気持ち良いよぉ。先生ぇ大好き。だぁい好き……もっと、もっとぉ)
「ぅん……んあ……はぁあん、ぁうん、あぁん……はぁ、はぁ、はぅ」
両手で口を覆って、声を殺す。二人だけの時間を、誰にも邪魔されたくないから。
ぺろぺろと立て続けに舐めてくる。『お花』がすっかり唾液にまみれるまで、舐め続ける。
表面だけでなく、できるだけ中まで侵入して、たっぷりと唾液が塗りつけられた。
「心ちゃん、中を触らせてね? 痛かったら、ちゃんといってね?」
「はい」
二人は示し合わせたように小声で会話している。
うに、ぷにゅ、にゅぶり、と、女性の細い指なのに、やっとのことで侵入してくる。
胎内を探るように、ゆっくりと指がうごめく。その度、ちゅぶ、じゅぴ、ぬちゅ、ぴちゅんと、
湿った音がする。こんなにいやらしい音をさせたら、カーテンの向こうに聞こえてしまうのでは?
いけない事をしているのがばれてしまうのではないかと、心配になる。

指の腹で胎内の肉壁をなぞる度に、心の腰がくねり、キュウキュウと指を締め付ける。
処女膜を確かめるように動かし、胎内の各部分を丁寧に点検していく。
(大丈夫、先生は診察してるだけ。だから、見られても平気。だけど僕が変な声を出したら、
先生が誤解されてしまう。我慢しなきゃ駄目、がんばらなきゃ……)
「んん、ぁあぅん……うん。ん、んぁ……ふぅ。は……ぁはあ……ん」
ゆっくりと指が引き抜かれた。透明な液体が糸をひく。玲那の唾液か、それとも心の愛液なのか。
玲那は指についたそれを舐めとり、心の耳元で囁く。
「心ちゃん、今度は器具を使って、もっと奥までキチンと診せてほしいの。とっても冷たいし、
もしかしたら痛いかもしれないの。それでも、先生に診させてくれる?」
「……はい、平気です。がんばります」
「えらいわ、心ちゃんはとっても良い子ね。がんばり屋さん」
微笑みながら心に語りかけつつ、器具を手に取る。テレビや本の中でしか見たことのない、
不思議な形をしたそれ。銀色の冷たい金属の輝きに、少し怯む。
「あっ……あの、せんせい、やさしく……して」
「ええ、もちろんよ。少しでもつらかったら、すぐに言ってね?」
手にした器具が、そっと『お花』に触れてくる。ひんやりとした冷たさに、ぞっとする。
「ぴ!――ひぃ……ぃいや……いやぁ。はっ、はぅ…ぴぃ!」
本当に少しづつ、にぢゅ、んぢゅ、と音を立てながら胎内にもぐり込んでくる。
異物が胎内に侵入してくるのが、こんなにも『怖い』。
鳥肌が立って、がくがくと膝が震えてしまう。
(ダメェ……がんばるのぉ。大好きな先生のためだから、僕は男だから――)
惚れた女のために意地を張る。最後の最後まで、男のこだわりは捨てない。
ついさっきまで、あんなに柔軟に玲那の指を受け入れていたのに、
強張ってしまった『お花』はとても、とてもきつい。

「心ちゃん、大丈夫? やめましょうか?」
「……ぃ――だ、大丈夫です、先生はやく……ぅう」
「いいのね?――開きますよ?」
器具によって心の『お花』が開かれていく。ぎぢゅ、ぐぢゅ、と嫌な感触が伝わってくる。
「――っひ……ひひ……ふっ。ふぃ……ひぃ……っは……ひっ……ひぴぃ!!!」
「うん、やっぱり。間違いないわ――心ちゃん、もうお終いですよ? 
よく我慢して――心ちゃん!!」
ほんの一瞬、心は気を失っていた。幸い、意識はすぐに取り戻した。だが――
初めて味わった恐怖に訳も分からず、ただ涙を流して放心している。
怖かった、とても怖かった。二メートルの大男と正面きって殴り合ったときよりも、
友人と二人で、得物をもった数人とやり合ったときよりも。
そんなものが問題にもならないほど、こころ細く、恐ろしかった。
ほんの数センチ、身体に侵入されただけなのに、何もできなくなってしまう。
まるで串刺しにされたような、そんな気さえした。
震えながら涙を流す心を、玲那はそっと抱きかかえる。
「心ちゃん……つらかったのね、怖かったのね。ごめんなさい。もう、お終いだから。
偉かったわ、とっても良い子にしてくれたから、ご褒美をあげる」
唇をそっと重ねる。心の口中に舌を差し入れて、やさしく絡める。舌を絡めるうちに、
少しづつ心の瞳に光が戻ってくる。やがて完全に我に返ると、むさぼるように玲那を求める。
それからしばらく、お互いの舌を絡め合い、口中のいたるところを刺激しあう。
唾液を混ぜ合わせて、むさぼるようにそれを飲み下す。強く吸い付き合いながら、
時おり口を少しだけ離して休憩をはさみ、刺激されないところが無いように位置を入れ替える。
数分間にわたって、とても長く深く、甘い接吻が続く。

「「ぅ――ぷはぁ……ぁ」」
口付けが済んでも、二人は離れない。抱き締め合ったまま、お互いの瞳を見つめ合う。
「せんせい、大好き」
「私も、心ちゃんのこと大好きよ」
「本当?」
「ええ、本当に。もっと、もっとご褒美をあげましょうね――せっかくのご褒美なのに、
私のほうがいっぱい、もらってしまったみたいですもの」
「いっぱい、いっぱいちょうだい。もっと、もっとご褒美ぃ」
心は玲那の胸に、顔をぐりぐりと埋め、甘えた声で囁く。
ふたたび二人の唇が重ねられ、先程と同じくらい、いや一層激しくお互いを貪り合う。
そのまま心はベッドに押し倒された。玲那の手がワンピースの胸元から侵入して、
心のクリトリスを弄ぶ。今度はどんなに激しく弄くり回しても、声がもれる心配はない。
二人の熱い接吻は、心が果ててしまうその時まで続いた。



「気が付いたのね……」
玲那の腕の中で、心は気が付いた。失神してしまったことが、妙に照れくさい。
「ごめんなさい。僕、僕いけないこと――」
また唇をふさがれる。
「どうしていけないの? 心ちゃんは私のこと好き?」
「うん」
「私も心ちゃんが好き。お互い好きだから――それだけじゃダメかしら?」
それ以上、何も言えなくなってしまう。
「僕、どれくらい……寝てました?」
「ほんの少しだけ、だから気にしなくても大丈夫ですよ――
さあ、肢の診察を済ませてしまいましょうね。でも、その前に」
心をベッドに座らせると、ウェットティッシュを手に取る。
そうっと心の股間にあてがい、やさしく拭き取って後始末をしてくれる。
「自分で、自分で出来ます――出来ますからぁ」
拭き取られるそばから、じんわりとほんの少しづつ愛液が滲み出してくる。
「心ちゃんはゆっくり、本当にゆっくり大人になっていくのね……こんな風に、
蜜まで溢れるようになって――」
心の股に顔を埋めて、その少ない愛液をむさぼる。舌で舐めとり、音を立てて啜り、
美味そうに喉を鳴らして飲み下す。
「やめて、やめてください。そんな、そんなの」
「だって、無くなるまで全部飲んでしまわないと、いつまでも綺麗にならないわ。
それに、とってもおいしいの。もうすぐ、もうすぐ終るから……」
やがて満足したのか、今度はキチンと拭き取って綺麗にしてくれた。
心の下着を手にして、嬉しそうに微笑む。どうやら穿かせてくれるつもりらしい。
断っても無駄だと判断して、大人しく従うことにする。

「はい、あんよを通しましょうね……そう、そう良くできました。ちょっとだけ、
おしりを持ち上げてね。よいしょっ――はい、できた」
言われるままに足を通し、腰を浮かせて穿かせてもらう。ものすごく恥ずかしいが、
何だか心地良い感じもする、妙な気分だ。
玲那はうっとりした表情で、心の下半身を見つめている。その手がついっと伸びて、
心のお尻を撫でてくる。
「かわいい、かわいいおしり――食べちゃいたい、このまま持って帰ってしまいたい」
心に抱きついて押し倒すと、くるんと身体を入れ替えて、お尻に頬擦りを始めた。
驚いた心が逃れようと、四つん這いの体勢になって身体をくねらせるが離してくれない。
(くすぐったい……へんな気分。でも、気持ち良い……)
このままでは、せっかく穿いた下着をまた剥ぎ取られてしまいかねない。
そう考えた心は、どうにか雰囲気を変えようとする。
「あっあの、あんまり長いと皆が、待ってるから……肢の、診察をお願いします」
「……あ、ええと――そう、ね。はやくしないと、ごめんなさい」
気の毒なほど意気消沈して、申し訳なさそうにしている。
なんだか、こちらが悪いことをしているような気になってしまう。
ちゅくんと、こころが痛む。
(悲しませたく、ないよ。せんせい、せんせい)
「せんせい」
心は瞳を閉じ、形の良い顎を軽く突き出すようクイッと持ち上げる。
自覚はまるで無いが、キスをせがむその姿も態度も、完全に少女のものだ。
求めに応じて、唇が重ねられる。舌が絡み合い、お互いの口中を蹂躙しながら、
唾液を奪い合う。落ち着きかけていた二人の呼吸はどんどん荒くなり、
身体に再び熱い炎が宿る。すでにお互い、相手以外は目に入っていない。
ただ目の前の人が欲しい、そして目の前の人のものになりたい、それだけだ。
玲那に、この人に愛して欲しい――

「せんせい……僕、ボク――」
「心ちゃん、ありがとう。私ったら、我慢できなくなって、あなたを困らせて……
気を使ってくれたのね? 優しい子」
あえてすべては言わせず、玲那は心の言葉を遮った。
「さあ、肢の診察を済ませましょうね? お姉さん達が待ってらっしゃるわ」
「――。……はい」
何ごとか言いかけ、心は目を伏せて口をつぐんだ。
玲那の手が、左脛の包帯からほどいていく。現れた脛を見て、目を見開くが何も言わず、
右足に取り掛かる。両足の包帯をほどき終わったところで、玲那の瞳は潤みきっていた。
「酷い。こんなに腫れて……」
涙をこぼしながら、心の脛をそっと撫でる。愛しそうに、やさしく触れてくる。
「くすぐったいです。それに、こんなの大したことない」
「痛くないの? 本当に?」
「平気です。ボクは……男だから」
「え?」
一瞬なにを言われたのか理解できない様子で、心を見つめる。しかし――
「うふふ。心ちゃんは相変わらずねぇ」
にっこり微笑んで頭を撫でてくる。
どうやら、彼女も環と同様に、『心』が『こころは男』なのを知っていたようだ……
主治医ならば無理もなかろう、この様子では周りのほとんどの人は分かっているのだろう。
(分かってなかったのは『心』本人だけ――ってコトかな?)
「それにしても酷いわ。綺麗で可愛い肢が……可哀想。お肌があんまり痛んでいないのは、
よかったけど――」
愛撫するように、脛に口付けをしてくる。何度も、何度も。
唇が触れる度、ほんの微かな心地良さが心の身体に走る。
どうしようもないくらいにムズムズして、堪らない。

「すべすべ――綺麗なお肌、可愛い、可愛いあんよ……」
玲那はとうとう舌を這わせてきた。心の呼吸は少しづつ荒くなってくる。
「ん……んん。せんせい、くすぐったいです。くすぐったいよ」
「あらやだ。私ったら、また――もうすぐ、終りますからね?」
なにやらジェルを手に取ると脛に塗りつけ、その上にガーゼ、
シップを重ねて包帯を巻いていく。あっという間に両足に包帯が巻かれた。
「このジェルはお肌を保護するためのものだから、あとで処方箋を出しますからね。
打撲はかなり重いから、お風呂などで温めたあとはなるべく冷やしてあげてね。
つらいでしょうけど、がんばって、早く良くなって。ね?」
「はい、ありがとうございました――せんせい、あの……」
「なあに、心ちゃん?」
心は疑問をぶつけることにした。彼女なら、答えてくれる気がしたから……
「ボクの、僕の身体はどこかおかしいんですか? どこが、変なんですか?
あそこ……とか、お腹の中とか、そういうところですか? それとも――」
(おかしいのは僕の、『こころ』なんですか?)
少しづつ大きくなっていく声、しかし、最後は言葉にできなかった。
「心ちゃん。大丈夫、あなたの身体はどこもおかしくなんてないわ」
「でも、でもそれじゃどうして、僕は……」
「聞いて。心ちゃんの身体はね、ほんの少しだけのんびり屋さんなだけ。もしかしたら、
寝坊助さんなのかもしれないけれど……健康そのものです。ちょっぴり小柄で繊細だけど、
それは個性のうちだと思うの」
「だけど、だけどそれなら何で此処に――」
玲那は心を抱き締めると、強引に唇を奪った。心が抵抗をやめて落ち着くまで、
そのまま接吻を続けて離さなかった。

「お願いです、聞いて下さい。あなたの身体には、異常なんてありません――
そして、あなたはとても美しい。私は医師を続けてきて、あなたより綺麗な方を、
見たことなどありません。どうか、自信をもって下さい。心お嬢様」
「せんせい?」
「心ちゃんの小っちゃなおっぱいも、おしりも、細くって長くて華奢な手足も、
すべすべのお肌も、お人形みたいなお顔も、それから『お花』も――みんなみんな、
ぜーんぶとっても綺麗で可愛いわ。今まで先生が見た中で一番、ううん、きっと世界で一番、
だから、だからお願い、自信をもって下さい……あなたが、大好きです」
「ボクはおかしくないの?」
「ええ、もちろん」
「あそこも、お腹の中もどこもおかしくないのに、どうして先生に診てもらってるの?」
「それは、心ちゃんが大人になるための準備が、身体の中で整ったかどうかを調べるため」
「大人になる? 準備?」
「そう、赤ちゃんを産むための準備」
「あか……ちゃん? 産む? ボクが? なんで?」
「心ちゃん?」
「うそ? だよね? だってボク、男だよ?」
「心ちゃん?!!」
ふらりと倒れ込んだ心を、玲那が抱き止めた。
さきほどから、否、女になって以来ずっと、繰り返し繰り返し、
興奮と弛緩を続けてきたこころ。その一部が崩れていく。
例えるなら、熱した鉄を急激に冷やす、それを何度も繰り返したようなもの。
確実に心のこころの、その一部は壊れた。おそらく、二度と戻らないところまで。
――それは普通なら何の問題にもならない、ほんの些細な部分に過ぎないかもしれない。
しかし、もう決して元の心では在り得ないのだ――

「せんせい。ボク、赤ちゃんできちゃうの? いやだ、いやだよ……」
玲那にしがみ付いて、頼りなく震える。
「違うわ、そうじゃないの。大丈夫、赤ちゃんは出来たりしてません。
だってあなたは、まだ……」
「……なあに? 聞こえないよ、せんせい」
「あなたは綺麗な、とっても綺麗な身体のまま。誰にも汚されていません。
そういうことですよ――」
ゆっくりと唇を重ねる。これまでと比べると随分と大人しい、静かなキス。
やさしくあたたかな、愛情の籠もったキスだ。
しかしそれは、別の面から視ればもっとも残酷な口付け。
心が二十数年の人生をかけて、特にこの数年で強固に創り上げてきたこころの壁。
その崩れた隙間から顔を出した、何かを引き摺りだしてしまう。
とろんとした、あどけない表情で玲那を見上げる心。
「ボクのこと好き? ボク、せんせいが好き」
「大好きよ」
「じゃあ、せんせいをください。せんせいが欲しいよ」
「心ちゃん……?」
「ボクが貰うだけじゃずるいから、せんせいにもあげる」
心はいま自分が何をしているのか、分らなくなっていた。
いや、そんなことはどうでもよくなっていた。
ゆっくり立ち上がるとワンピースを脱ぎすてる。下着に手をかけ、一気に引き下ろした。
玲那の耳元に囁きかける。
「せんせい、どうぞ召し上がれ……」


「心ちゃん、ダメよ。いけないわ」
「どうして? せんせいの好きなおしり。ほら、ほら」
四つん這いになってお尻を振りながら、可愛らしく微笑む。
チラチラと、ピンクの割れ目がほんの少しだけ見え隠れする。
そこから漂ってくる甘い香りに、玲那の理性は、簡単に抑え込まれてしまう。
「――いただきます」
瞳に狂喜の色を浮かべて、玲那は心のお尻にかぶりつく。
乱暴につかんで揉みしだき、撫で回し、やわらかい肉を甘噛みする。
割れ目にそって何度も舐めあげる。そのうちに、ヒクつきだしたアヌスが気になり、
悪戯したくて堪らなくなる。先程からずっと、心は声がもれぬよう必死で耐えている。
これ以上はいくらなんでも酷だと思えた。だが、だがもう我慢できない。
アヌスに舌を当てると、心の身体がビクリと震えた。
「ひんっ! ダメぇ、せんせいそこダメ。汚い、汚いよぉ」
心は小声で抗議するが、玲那は止まらない。
「汚くないわ。キレイよ……とってもキレイ。ほーら、ちゅっちゅっ」
アヌスにキスを繰り返し、何度も舌を這わせる。その度に心は腰をくねらせ、
逃れようともがく。それがまるで、おいで、おいでと誘っているように感じられて、
ますますそこに引き寄せられてしまう。
「いや、いやぁ。ひん、ひぃ、やぁ……いやぁ、いやぁ、はふっ、ひぅ、ひっ、
はぅ……やっ、いやぁぁああああ!!!!!!ッ」
玲那の舌が深々とねじ込まれ、ついに心は絶叫してしまう。
「心ちゃん?!! どうしたの? 心ちゃん?」
「心!! 先生! 入るわよ?!」

すぐさま恋と愛がカーテンの中へ入ってくる。二人の目の前でお尻を鷲掴みにされ、
アヌスに舌を差し込まれている心。玲那の舌がうごめく度に、悲鳴のような声を上げて、
ビクビクと身体を痙攣させる。その大きな瞳を見開いて、ぽろぽろと涙をこぼしながら、
腰をくねらせて喘ぐ様子を見ているのに、二人はさして驚いてはいない。
はじめは多少あっけにとられたようすではあったが、すぐに元に戻り、
顔を見合わせてクスクスと笑い出す。
「いやだ先生ったら、妙に遅いと思ったら……」
「うふふ、本当に……いけない先生。約束違反ですよ? 
診察の時は診るだけ――のはずですわ」
チュポンッと音を立てて玲那が舌を引き抜くと、心はくたりと崩折れる。
玲那は恥ずかしそうに口元に手を当てて笑うと、
「ええ、御覧の通りみているだけですわ。味を――」
「うふふ。先生ったら、お上手ですね」
「ごめんなさい、久しぶりで……我慢できなくって、それに心ちゃんがあんまりにも
がんばり屋さんで、ご褒美をあげたくなってしまって」
あくまで、心が誘ったとは言わない。理性がさせた最後の気遣いなのか、それとも――
「あらあら、心ちゃん良かったわね。ご褒美をいただけたの――そういうことでしたら、
よろしくお願いいたします。でも、やさしくしてあげて下さいね?」
「どーせ大したこと無いのに、ピーピー泣いてたんでしょう。泣き虫なんだから……」
「いいえ! そんなことありません。とっても良い子だったんですよ?――
あっ!! そうだわ、ちょっと心ちゃんを御覧になってあげて下さい」
玲那は心の両太腿を持って抱え上げると、大股開きで二人に見せつける。
「……いやだぁ、やめて!! やめろぉ、見るなぁ! せんせいやめてぇ」
二人は『お花』を覗き込んでくる。そこは普段の『心』を知る者には信じ難いほど、
すっかり愛液で潤んでいた。

「お分かりいただけますか? 心ちゃんたら、こんなに、こんなに……」
「まあ、すごいわ」
感心したように、頬を染めてうっとりする恋。
愛は無言のまま指先で愛液をこそげ取る。触れられた瞬間、心はピクリと反応する。
あまりの無頓着な様子に、恋が咎めるような視線を送るが気にもせず、
それを口へと運ぶ。
「――ん。なかなか……にしても、ずいぶんと大人になったねェ、心?」
心には何のことだか、さっぱり分からない。ただ、自分と玲那のこの様子を、
さらりと受け流してしまう二人に、不思議な底の知れなさを感じていた。
泣きながら怯えた様子で放心し続ける心を見て、愛おしさが掻き立てられたのか、
玲那は心を抱えなおすと、やさしく唇を重ねる。
いまこの場にいる味方は、『やさしい』玲那だけのような気がして、
心は必死に抱きつき、彼女を求める。
「心ちゃん、ご褒美の続きですよ――」
唇を離すと、やさしく囁きかけながら『お花』に顔を寄せていく。
「うん。せんせ、せんせえぇ。やさしくして、下さい。いっぱい、いっぱい」
(めちゃめちゃに、バラバラのぐちゃぐちゃに、やさしく、やさしくして……)
クリトリスを口に含むと舌で転がし、何度も吸い上げては弾力を楽しむように噛む。
強い刺激が与えられる度に、細く小さな身体を踊らせて可愛らしい悲鳴を上げる。
「ひぃ、ぅあ、はふ。ひぅ、ふう、ぁふ、はぁああ!! ひっ、ひぅ……ひぅ」
心の狂態を、恋と愛は嬉しそうに見つめる。
(ああ……見られてる。姉さんに、愛にこんな姿――)
玲那はクリトリスから口を離すと、『お花』の中心を舌で探りだす。
両手で割れ目を思い切り左右に拡げ、覗き込むようにして花びらを舐る。

「こっちがお留守よ、先生」
愛が手を伸ばして、乳房の頂きの蕾を摘み、乱暴に捻る。
「ひぅうう!! やめてぇ……ふぁ、ぁあ、ああぅ……はぅ」
一瞬痛がったものの、そのまま少し力を緩めて弄られるうちに快感へと変わっていく。
「愛ちゃんたら、乱暴はダメ。 せっかく先生が優しくして下さってるのに――」
恋は愛を咎めつつ、玲那の顔の下から手を通すと指先でアヌスを探り当て、
ゆっくりと指を滑り込ませていく。
「ふぁああああ!! いやっいやぁああん!!! あふぅ、はぅ、ひぅ……ひいいぃ」
とんでもなく熱くてキツイのに、同時にそれに倍するほど柔軟な心のアヌスは、
しっかりと恋の指を咥えて締め上げる。ぷちゅぷちゅと指が出し入れされる度に、
心は悲鳴を上げて玲那にしがみ付く。
「先生、心ちゃんはおしりが好きみたいなんですよ。ご存知でした?」
「まあ、それは――私も大好きなんです。でも、心ちゃんもそうだったなんて……」
「先生が好きなのは悪戯する方でしょう? 心はされるのが良いみたいね」
「愛ちゃん? どうして知ってるの?」
「あ――いや、その」
「また私が知らない間に虐めたのね!」
「何よ! 恋姉だって」
「お二人とも、喧嘩はダメですよ? 教育に良くありません」
のほほんと、玲那は二人を仲裁する。しかし三人とも、無駄話をしていても、
心を責める手は少しも休めない。
玲那にしても舌で責める代わりに、指先でクリトリスを摘んで弄りつつ、
ラビアを執拗に開いたり閉じたりしている。

「あらあら、すごいわ」
「先生、どうなさいました?」
「心ちゃんのジュースがこんなに……」
「うわぁ……ほんとだ」
恋がアヌスに指を出し入れする度に、じわじわと愛液が滲み出してくる。
「でもさあ、おしりを悪戯されてこんなにとろとろになっちゃうなんて、
心ってば処女なのに、エッチな子だよねぇ?」
大声ではっきりと言われて、心はほんの少しだけ正気に返る。
「ちがっ違うぅ……エッチじゃない!! 違うよぉ! ひぁ、あぅ」
「そうですよ。おしりが気持ち良いのはエッチなのとは違います。
これは快感の誤反応なんです。ですから場合によって、性器による普通の行為より、
快感を得やすいこともあるんですよ。でも気を付けないといけないのは、
直腸の皮膚は女性器のよりも、繊細で傷つきやすいという事なんです」
玲那は心を援護するためか、急に講釈を始める。
流石にこんな時に、真面目な顔で長々と話をされるとは思ってもみなかったらしく、
愛はあっけにとられている。
「先生、相変わらずですね」
恋は笑いを堪えつつ、心のアヌスを責め続ける。
たかだか指で触れているに過ぎないのに、にゅちにゅちとした柔らかな感触に、
陶然となってくる。自慰行為での、自分の膣の感触などは比べ物にならない。
もしも自分が男で、これが指でなくペニスだったとしたら?
きっと簡単に果ててしまうに違いない。そんな事を想像するだけで、
恋はどうしようもなく濡れてきて、自分を抑えられなくなってしまう。
{心ちゃんが男の人になりたい気持ち、分る気がするわ}
実際はそんな生易しいものではない、ずっと切実なものなのだが、
恋には分ろうはずもない。

「あん、ぁあ、はぅ……ひ、ひぅ、やぁあああん!! あはぁあん、ひぁああ」
心はいつの間にか、我知らず笑みを浮かべている。涙に濡れた頬を紅く染めて、
嬌声を上げ続ける。
不意に恋の指がアヌスから引き抜かれた。
「先生、それでは後はよろしくお願いします――愛ちゃん、行きますよ?」
「はいはい、じゃ、先生よろしくね」
二人が出て行こうとカーテンを開けたその時、心の目に看護婦さんの姿が入った。
(看護婦さん?……そういえば、いたんだ。姉さんと愛以外に――っ!!)
「あぁ! やぁああああ!!! 見ちゃやだぁああ、ダメェ、見たらダメぇ!!」
強烈な羞恥心が一気に押し寄せて、パニックに陥る。
自分がよがり狂い、嬌声を上げる様を、布一枚隔てた場所でずっと聞かれていた。
もしかしたら、自分が気付かないでいただけで、見られてすらいたのかもしれない。
初対面で見ず知らずの、あの若い看護婦さんに。
「どうしたの? どうしたの心ちゃん? 大丈夫ですよ――」
小さな子供をあやすように言い聞かせながら、玲那は心を取り押さえて、
その指を深々とアヌスに挿入してくる。それだけで心は身動きを封じられ、
為すがままにされてしまう。感触を愉しむように心の体内をかき回し、
滲み出す愛液を美味そうに啜り上げる。
「ああん、はぅ……ひっ、ひぁあああ……いやぁ、ずるいぃ! せんせいずるいよぉ!!」
「心ちゃん?! 私……なにか酷いことを?」
「違うよぅ、違うけどずるいのぉ」
「どうして? 先生を嫌いになってしまったの?」
「だってぇ、ボク何にもできないよぉ! せんせいちょうだい!! くれなきゃやだぁ」

「分ったわ。でも、もう少しだけお願い、心ちゃんのをちょうだいね?」
心の返事を待たず、玲那は『お花』にむしゃぶりついてくる。
ピンクの花びらを舐め上げ、甘噛みしながらこそげ落とすように愛液を啜る。
表面をあらかた舐めてしまうと、今度は膣の中に舌を滑り込ませてくる。
胎内から最後の一滴まで搾り取ろうとでもするように、窮屈なそこを舌でかき回す。
同時にアヌスでは、湿った音を立てつつ挿入した指を出し入れして、
愛液をさらに溢れさせようとしている。
どうやら先程の言葉通りには、心と攻守を入れ替えるつもりはないらしい。
最後の最後まで心を嬲りつくして、こころゆくまで愉しもうとしているようだ。
「嘘つきぃ……いやぁ、ダメぇ! ダメぇ、くる、来るぅ!! 来ちゃうよぉ
あぁん……ひゃはぁああ、ひぃ、ふぁああああああああああ!!!!」
くたりと動かなくなった心の股に顔を埋めて、玲那はまだ責め立てている。
もうすでに半ば意識を失っているのに、刺激を受ける度に心の身体は反応している。
やがて愛液をきれいに舐め取ってしまうと、ようやく玲那は顔を上げた。
「心ちゃん、お待たせ――心ちゃん?」
「嘘つき……嘘つきぃ。せんせいの嘘つきぃ……きらい、きらぁい……うそつきぃ」
虚ろな目で何度も、何度も『嘘つき』とうわ言を繰り返している。
「ごめんなさい。心ちゃん、ごめんなさい。私ったら、酷いことを、ごめんなさい」
何度も謝りながら、唇を重ねる。


「はい、あーん」
うながされるまま口を開けて、チョコレートを食べさせてもらう。
わざわざ唇に触れるようにして、指を軽く口に入れてくる。心が口を閉じるまで、
そのまま指をどかしてくれない。さすがに何度もこれを繰り返されていれば、
相手がなにを求めているのかは分かる。指ごと含むように口を閉じて、
軽くしゃぶると、やっと引き抜いてくれる。チョコを咀嚼して、こくんと飲み込む。
「おいしい?」
「はい」
心がしゃぶった指をぺろりと舐めて、にこにこ微笑んでいる。
彼女は玲那の秘書で、名前は藤枝 千鶴という。『心』とは顔見知りらしい。
当然だろう、主治医の秘書なのだから。
『診察』が済んだ後、心は玲那の手で綺麗に後始末をしてもらった。
それこそ、舐め回すように丁寧に、だ。
いま心は院長室で、玲那と恋の二人を待っている。愛も一緒だ。
隣の診察室で、二人だけでなにやら心のことについて話をしている。
本人を同席させないのがあからさまに怪しいが、どうしようもない。
「心ちゃんはいつも、いつでも可愛いわねぇ……」
千鶴は心を抱き締めると、何度目か分らない頬擦りをしてくる。
彼女の膝の上に座らされているから、避けようも無い。
愛は我関せずを決め込んで、用意された紅茶を飲み、読書をしている。
心にはオレンジジュースだ。また頻繁にトイレに行かれては面倒だと、紅茶やコーヒーの類は、
愛に禁じられてしまった。
テーブルの上には大量のお茶菓子が用意されている。高そうなチョコやクッキー、小さなケーキ、
煎餅などもある。それぞれの皿に、綺麗に並べて載せられている。

もともと心は男の時から、甘いものは嫌いではない。目の前に用意されているのは、いずれも好物ばかり。
心と『心』の食べ物の好みがほぼ一致するとして、これらは全て、それを把握して用意されたことになる。
たいへん丁重なもてなしと言えよう。
その好物を、膝の上に抱きかかえられて、さきほどのように食べさせてもらっているわけだ。
心は一度も自分の手を使っていない。
「次は何にしましょうか?」
「あの……」
「藤枝さん、お昼ご飯前だから、あんまりお菓子食べさせ過ぎないで」
ようやく愛が口を出すが、現状には何の変化も無い。
「じゃあ、ジュースにしましょうね――」
コップを持って、心の口にストローが届くようにしてくれる。
それを咥えて二口ほどジュースを啜った。
「可愛いわあ……ほんとに可愛い。ちゅっ」
口でわざわざ言いながら、額にキスをしてくる。これで何度目だろうか……
たとえ今の身体は女の子でも、心は男だ。妙齢の、しかもかなりの美人にキャーキャー騒がれて、
手厚いもてなしをされれば悪い気はしない。しかし、それも程度によりけりだろう。
だいいち、これではまるっきり、赤ん坊か幼児の扱いだ。
柔らかい太腿の上に座らせられては、お尻がムズムズして落ち着けない。
そのうえ頭は常に、胸の、おっぱいのクッションに当っている。
確かに座り心地はなかなかだ。じつに『気持ち良い』ものではある。
だが、いまは先程までの、玲那との『情事』の余韻にゆっくりと浸っていたい気分なのだ。
そういえば、あの部屋にいたもう一人、看護婦の国中さんもこの部屋にいる。
彼女は部屋の隅でずっと立ったままで、座ろうともしない。
一応みんなで席は勧めたのだが、断られてしまった。

(避けられてるんだよな、やっぱり……)
それは当たり前だろうと心は思う。なにせ初対面であんな事をしている場面を見られたのだ。
いや、彼女にすれば、無理矢理に見せ付けられた、と言ったほうが正しいのだろう。
一番年下の、見るからに未成熟な妹に、嬉々として性的な悪戯をする姉達と、それを受け入れる妹。
さらに、その一家に付き合う自らの上司。色に狂った集団と判断されても、何の文句も言えない。
一瞬、国中さんと目が合った。すぐに視線を逸らされる。彼女の顔は少し赤く染まっていた。
(嫌われてるなぁ……軽蔑されてる、の方が正しいかな?――アレ?)
こころの中にむらむらと、妙な感情が湧き出すのを感じる。うまく説明できないが、
言葉にしてみるとしたら――
(あの人は、ボクのえっちなところを見たから、ボクにえっちした人とおんなじだよ。
お返しだから、ボクもあの人のえっちなところを見ていいんだもん。
ううん、いたずらもさせてくれないとダメ。心はえっちじゃないもん。いやらしい子じゃないもん。
自分の方が本当は、ずっとずっとえっちなくせに、心をいけない子だって思わないで。
そんな風に心を見たらイヤだよ。いたずらしちゃうからね)
何を考えているのだろう。本当に今の自分はどうかしている。
心は自らの正気を疑いたくなってきた。
「ねえ、藤枝さん。あっちで仕事しなくて大丈夫なの?」
愛が思いついたように言う。
「うーん、多分大丈夫なんですけど――」
「多分て……急用とかで連絡きたら、どーすんの?」
「だって、だってここに心ちゃんがいるのに……」
「あの、もし宜しかったら、私があちらで連絡に備えましょうか?」
国中さんが控えめ申し出る。
「本当?! お願いしちゃおうかしらぁ」
「はい、喜んで。それでは、失礼いたします」
ペコリとお辞儀をして、そそくさと来客待合室へと向かって行った。

「これでいいのかなぁ? 仕事しなよ、藤枝さん」
愛は呆れ顔だが、千鶴はにこにこ笑っている。
「だって、心ちゃんと愛さんのおもてなし以上の仕事なんて、ありませんもの。ねー、心ちゃん?」
ぎゅっと抱き締められて、心はじたばたともがく。
「苦しいです……」
「どうせ目当ては心なんでしょうが」
「あら、愛さんも大好きですよ?」
「それはどーも――」
ふと心は千鶴に対して、おもてなしのお礼をしてあげようと思い立った。何故かは分からない。
国中さんと目が合ったとき感じた、むらむらした気持ちが『何か』をさせたがっているのだろうか?
チョコを一個、指先で摘み上げる。
「藤枝さん、あーんして」
「心ちゃん?」
「あら、お返しのつもりなの? 藤枝さん、付き合ってやって」
「えっと、それじゃあ――あーん」
千鶴がさきほどしてくれたように、わざと彼女の唇に触れるように指先を口に入れる。
口が閉じられて指先がしゃぶられた瞬間に、何ともいえないこそばゆい感触が奔った。
(これ、これ気持ち良い……だから、ずっと――)
指先に付いた唾液を、彼女に見せ付けるようにしゃぶって舐め取る。
「おいしいですか?」
「ええ、とーっても……」
千鶴は頬をほんのり朱く染め、さも嬉しそうに答える。
「じゃあ、もう一つ――」
心はクスリと笑って、チョコをもう一つ取ると今度は口に咥えてみせる。
とても小さな一口大のチョコだ、それを食べるには自然とキスをする形になる。

「えっ! ええっ!! し、心ちゃん? あの、あの――あ」
千鶴が戸惑っている間に、愛が二人に割って入り、心の口からチョコを食べてしまった。
そのまま千鶴の目前で、二人のキスが続く。チョコレートの味がする、甘い口付け。
しかし、唇が離れると、心は露骨に不機嫌な表情を見せる。
「なんで愛姉ちゃんが食べちゃうの?! 藤枝さんにお返ししてるのに!」
「――ほらね、遠慮することないよ? この通りだから」
心をまったく相手にせず、愛は千鶴に笑顔で示す。
「つぎはちゃんと藤枝さんに、はい――」
ふたたび心はチョコを咥えた。さっきより大きめのものを、わざわざ口からのぞく部分を少なくして。
「い、いただきます……」
千鶴はゴクリと生唾を飲み込んでから、ゆっくりと唇を寄せた。
すでに心の口中で半ば溶け出していたチョコが、とろりと口に広がってくる。同時に心の舌が、
チョコを押し込むように千鶴の舌に絡んでくる。甘い、例えようもないほどに甘く、あたたかい。
小さな心の舌が、押し込んできたチョコを奪い合おうとでもするように、執拗に絡み付いて離れない。
やわらかく、甘く、あたたかな舌が、千鶴の口中のいたるところを蹂躙していく。
溶けたチョコとお互いの唾液が入り混じったものを、むさぼるように飲み下し合う。
チョコレートがすっかり無くなるまで、お互いの口中を行き来させ、転がして唾液に溶かし、啜る。
{おいしい……すごくおいしい。もっと、もっと心ちゃんのチョコが欲しい}
いままで食べたどんなチョコより、このチョコがおいしい。そう千鶴は感じていた。
ずっと無くならなければいいと、彼女は本気で願ったが、やがてほんの一分ほどで無くなってしまった。
とても残念な気持ちで唇を離そうとした、その時――
心の腕が千鶴の首に廻され、頭を抱え込んで離そうとしない。微かな唇の動きで、言葉が伝わる。
「……ダメ」
そのまま数分間にわたって、二人はお互いを貪りあった。
チョコレートはもうすでに無いのに、それがあった時より甘く感じる、とろけるような口付けが続く。
愛はそんな二人を気にするようすもなく、読書に耽っていた。


「ごちそうさまでした。とってもおいしかった」
「どういたしまして……」
さきほどまでの大胆さが嘘のように、心は恥ずかしそうに俯く。
「――甘いわね」
ぱたりと本を閉じて、愛が顔を上げる。
「ええ、とっても甘かった……」
嬉しそうに千鶴が即答するが、愛はやれやれといった様子で溜息をつく。
「心! そんな程度でお礼をしたつもり? これだからお子様は――」
「なんだよぅ! ボク、お子様じゃないよ!」
「へぇー、そう。んじゃ、大人のお礼をさせてあげる」
言うがはやいか、心を抱え上げる。そのまま足をからめて、心を大股開きに固定する。
愛は今日、パンツスーツ姿だから何の問題もないが、心は丈短めのワンピースだ。
下着がほとんど丸見えになってしまう。その下着を一気に引き下ろされた。
「何すんだよぉ?!! 離せ! 離してぇ!!」
「ほーら、暴れない。だからお子様だって言うのよ」
手をバタつかせるも、あっという間に掴まれてしまう。これでほぼ完全に身動きを封じられた。
愛はワンピースの裾を捲くりあげ、咥えて固定する。すっかり『お花』が露わになる。
千鶴の目は、『お花』に釘付けになってしまう。
ごくり、と生唾を飲み込む音が、心の耳にはっきり聞こえた。
愛はチョコのうち、最も小さな一つを摘み上げると、『お花』の中心にそっとあてがう。
滑らかで丸っこい形のそれは、やがてどうにか潜り込んで、四分の一ほど顔をのぞかせている。
「ん……んっんぅ」
固く冷たいチョコが、体温で溶けて馴染んでゆくのが感じられる。
「準備完了っと。藤枝さん、どうぞ」

「イヤだ! イヤだよ……今日はもうやめて! 悪戯しないで……」
「これだからお子様は――早く食べてもらわないと、溶けちゃって大変だぞぉ?
というわけだから、藤枝さん、お願いね?」
「いやだぁ!! やめて……藤枝さん、虐めないよね? 悪戯しないよね?」
涙をいっぱいに溜めて、いや、もうこぼれている。その瞳で千鶴に訴えてくる。
「心ちゃん……こんなに嫌がってる。可哀想だわ。ねえ、やめてあげましょう?」
「藤枝さん、んー、千鶴さん? 話きいてた? 早く食べないとけっこう大変なの、コレ。
後始末がすっごく面倒なのね。だから、キレイに食べてあげて、ね?――心、あんたも聞いてた?
千鶴さんは噛みつきゃしないから。やさしく食べてもらいなさい」
「……ちづるさん。キレイに、あと、それと、やさしく、食べて……」
しゃくりあげながら、なんとかそこまで声にした。自分でも情けないが、身体がいうことをきかない。
心本人の意識もあるのだが、霞がかかったようにぼうっとしている。
夢の中にいるような感じ。
もっと具体的に何かに例えようとするならば、精神だけが子供の頃に戻ってしまったような……
子供の頃、実際は非常に分かり易い単純な問題なのに、把握も解決もできないことがあった、
そういう経験は誰しもあるだろう。後に長じてから、それを簡単に解けるようになった時、
なぜ以前はできなかったのか分からない。思考が中断していた、働いていなかったとしか説明できない。
あとになって判断すれば、子供に戻ってしまったような状態であったことが分かる。
だが、子供に戻った状態のときでは、自分がそういう状態だとは思わないし、思いもよらない。
自分の思考はいつもと変わらず明晰で、冷静にすべてをきちんと把握しているつもりなのだ。
当然ながら、その状態のとき感じたもの、快感や好意だとか、羞恥や怒り、恐怖などあらゆる感情、
見たもの、聞いたものなどの記憶はその後でも覚えていることになる。
そしていつ、そういう風に『戻って』しまうかは全く分からず、制御はできない。
女の子になって以来、心はずっとそういう状態にある。
そしていま、心はある程度『戻って』いる。

また、さっきの診察の時のように悪戯されると思うと、実のところ怖くてたまらない。
悪戯されると、とても気持ち良くなるのだが、それが本当はいけないことだと思っている。
いけないことをするのが、されるのがとても怖いのだ。なぜ怖いのかは……分からない。
怖いから、なるべく優しくしてもらいたい、そのように思ってもいる。
それに、いけないことを喜ぶ、いやらしい子だと思われるのが、すごく恥ずかしい。
「それじゃあ、心ちゃん。やさしく、キレイに食べてあげますね?」
「ひぁあ!! ん、ぁあん……いやぁ、やぁん。やだ! やだぁ……くすぐったぁい」
千鶴が、『お花』からほんの少しだけ顔をのぞかせているチョコを舐め始める。
舌が触れる度に、心はくすぐったくて身をよじらせる。素晴らしく柔軟な心の身体は、
固定されていても、くねくねとかなり大きな範囲で動く。
そのせいで、チョコだけなく『お花』の色々な部分を舐められてしまい、余計にくすぐったい。
器用に逃げまわりながら、可愛らしい声を上げる心に興がのってきて、同時に少し焦れてきた千鶴は、
心の腰をがっちり掴んで固定する。
「痛ぁい!! やさしく、してぇ。痛いよぉ……ふぁ、いやぁああ!!」
チョコをほじくりだそうと熱中しているためか、千鶴はいきなり『お花』に舌を潜り込まそうとした。
ゆっくり、じっくりとほぐしてやってからならまだしも、きつくてぴっちり閉じている心の『お花』だ。
その上すでにチョコが入っている。たかが舌とはいえ、とても入れられるものではない。
「きゃう、ぃひゃあ! 痛っ、痛いのぉ……やめてぇ、お願い、お願い。ヤダぁ、ヤダヤダぁ」
全身を強張らせ、ぶるぶる震えながら懇願する。愛はしまった、という表情で凍りつく。
「ちょっと!! ちょっとぉ?! 駄目よそんなにしたら。ストップ、ストーップ!!」
心の肢を閉じさせつつ、千鶴の肩に手を当てて押しとどめる。
「――あ、……?!」



早く食べてあげなくてはいけないという焦り、優しくしてあげたいという愛情、それなのに失敗して、
痛がらせてしまったことへの後悔、そのせいで大好きな心に拒否されたという失意の念。
さらにその上、心の痛がる可愛らしい声と態度によって刺激された、後ろ暗い加虐の欲求。
色んなものが綯い交ぜになって、千鶴はパニックを起こしていた。
一方の心も、痛みと恐怖ですっかり怯えきっている。
「いやぁ……やだぁ。嘘つきぃ、嘘つき……嫌い、きらぁい。もう、もうやだぁ」
泣きじゃくりながら震える心を優しく抱きしめて、愛は頬を寄せつつ、お腹やお尻を撫で擦ってやる。
そうされることで少しこころが安らいだのか、愛の豊満な胸に擦り寄って甘え始める。
愛は顎に手を添えて引き寄せ、いたわるようにキスをした。
「大丈夫。もう、怖くないよ。痛くしないからね? ほら、あーん」
チョコを一つ摘み上げ、口に入れてやる。そのまま指を舌に絡ませ、しゃぶらせる。
普通ならディープキスで、舌と舌ですることを、代わりに指を使って済ませてしまう。
生半にできることではない。恋と同様、愛の手際もすさまじい。
舌と口中を愛撫される心地良さと、チョコの甘さも相まって安心したのだろう、
心は愛に身体をすっかり預けてしまう。
「……ん、ん。……ん」
赤ん坊が、哺乳壜で乳を与えられているようなその姿を見て、こんなに幼い少女に自分は何を、
なんて酷いことをしてしまったのだろうと、千鶴の後悔はさらに深まった。
こころから謝って、もう一度この子に触れたい、慰めたい、けれど……
彼女の狼狽ぶりと、思い悩む様は傍目にもはっきりと分かるほどだ。
{やれやれ、『初心者』と『お子様』じゃ、こうなるのは十分に予想できたのに……ぬかったなぁ}
愛は二人の様子を見ながら、心中で自嘲の笑みを浮かべた。だが、それをおくびにもださない。

「千鶴さん、落ち着いて。ごめん、私の言い方が悪かったね。はやくしろって、言い過ぎた。
一番大事なのは優しくしてあげること……溶けちゃったら、それをキレイに食べてあげれば良いの。
そういう意味での、溶けたら面倒、なんだよね」
「あの、私……私、その、ごめんなさい。本当にごめんなさい。心ちゃん、ごめんなさい――」
ぺこぺこと頭を下げ、滑稽なほど必死に謝りだす。何度も、何度も謝り続ける彼女を、
愛は黙って見つめている。
不意に心の手が伸びて、千鶴の頭を撫でる。呆けたように心を見つめる千鶴、瞳が涙で潤んでいる。
(かわいそう……女の子を泣かす、困らせるのダメ。母さんがいってた)
たとえ『戻って』いたとしても、本人はあくまで男のつもりなのだ。自分が何をされているのか、
それすら把握できない状態なのに。
「心ちゃん……」
「泣かないで、って言ってる。けっこう男前なの、こう見えてね――もう、平気よね?
千鶴さんを、許してあげるよね?」
こくり、と心は頷く。涙に濡れたままの顔で、可愛らしく微笑む。
「ありがとう。ありがとう、心ちゃん……ごめんなさいね」
本格的に泣き出してしまった千鶴の頭を、心はさらに撫で続ける。
「ほらほら、二人して泣いてちゃ、しょうがないよ?」
ハンカチを取り出して、愛は二人の涙を交互に拭いてやる。やがて誰からともなく、三人は笑いだした。
*************************************************
「さーて、後始末をしないとね。千鶴さん、お願いするね」
「え……でも、でも私――」
「大丈夫。私の言うとおりにやってみて――心、もう怖くないね? 千鶴さんに頼んでいいね?」
頬を染めながら、無言で頷く。言葉が出ないのは、ちょっぴり、いや、とても恥ずかしいから。
「じゃあ、まずは仲直りのキスからね」
愛の膝の上から千鶴に抱きつくと、瞳を閉じて唇が重ねられるのを待つ。愛が目顔でキスを促がす。
ゆっくりと、二人の唇が重なる。

{ああ……やっぱり、とっても甘い。心ちゃんのキス}
実際、恋や愛ほどではないにしろ、心はキスがうまい。それは技術うんぬんより、
『心』の身体が持つ特性と言える。より深く、強い快楽を味わう、そして味あわせるために――
すべてがそのために創られている、そういう存在だから。
小さな舌が吸い付くように、千鶴のそれを翻弄する。お互いの口中をかき混ぜあいながら、
こころに残った不安や恐れを、唾液に溶かして飲み下していく。
千鶴の口中すべてを愛撫し、甘い快楽を与えながら、同時に本人はさらに強烈な快感を得ている。
唾液の糸を引いて唇が離れた頃には、千鶴はすっかり心の虜になっていた。
「千鶴さんにキレイにしてもらおうね……」
愛によってワンピースの裾が捲くりあげられ、片足を抱えられる。見事な開脚ポーズで迎えるかたちだ。
恥ずかしいそうに身をよじり、顔を伏せる。キスでの大胆さが嘘のようだ。
チョコがずいぶん溶けて、『お花』の中心の入り口付近に滲み、拡がりだしている。
このままだと流れだして、服を汚してしまうだろう。
「ありゃ! 急がないと。千鶴さん、溶けてるとこを舐めてやって」
千鶴の舌が、花びらについたチョコを舐め取っていく。ぴちゃぴちゃと音を立てて舌が触れる度に、
心の呼吸は荒くなっていく。
「……ん、んん。んぁ……は、ぁふ、ふぅ、ふぅ……あん」
「心ちゃん、大丈夫。隣には両方とも聞こえないはずよ。我慢しないで、可愛い声を聞かせて」
院長室、診療室、待合室のすべてに、ほぼ完璧な防音処理が施されている。それぞれの部屋で、
かなり大きな音がしようと、隣には聞こえないようになっているのだ。
心が懸命に声を我慢しているのを見て、安心させたいと思ったのだろう。そのことを告げると、
また熱心に花びらを舐めはじめる。
「あん、あん……いやぁ、あぅ、あ……ん、あん。ぅうん……だめ、だめぇ」
「どうしたの? 何が駄目なの? 千鶴さんが声を聞きたいって、これはお礼でしょう、ねえ?」
意地悪く笑いながら、愛は両足を抱え直して大股開きにしてしまう。


「千鶴さん巧いじゃない。拡がってるのをキレイに周りからね、そうそう」
チョコはどんどん舐め取られていくが、それ自体がそう簡単に落ちるものでもない、
唾液に混じって薄く拡がり、『お花』はチョコにまみれていく。
「不思議……なんて良い匂いなの? ビターなのに、ミルクチョコの香り」
「良く分かんないけど、この子ミルクの匂いなの――あ、ここもやさしくしてあげて」
「ぴゃう! ダメぇ、チョコないもん。そこチョコないのぉ。はぁ……ひぅ」
愛はクリトリスを摘んで示す。心の言う通りなのだが、二人に無視される。
ちゅうちゅうと音を立てて、千鶴はクリトリスに吸い付き、激しく舌で弄りだす。
「はぁん、ひぅ……あ、あぅ。やぁん……はぁ、はぅ、ふう……ひぃ、ひゃ!」
急に愛は背もたれに寄り掛かり、半分横になった体勢で心をお腹の上に抱える。
肢を絡めて固定すると、空いた手で心の胸をまさぐってくる。
「愛はダメェ……お礼は千鶴さん、だけ……ひゃの、ふぁ、ああぅ。ひぅ、ひふ……ひぁ」
「こーら。誰が愛だ、お姉ちゃんでしょ! この、このこの!」
いつの間にか衣服の下に侵入していた愛の手が、下着を器用にずらして乳房を強く握り込んできた。
呼び捨てにされたのに腹を立て、乳首を摘んでねじってくる。痛みを与えるギリギリ一歩手前の、
絶妙な力加減だ。気持ち良いのか、痛いのか、心にはただ強い『なにか』として知覚される。
それがクリトリスの快感によって、気持ち良いほうに引っ張られていく。
いったん快感になってしまうと、もう抗いようがない。心は弄られるままに翻弄されるだけだ。
「おいしい……おいしいわぁ。心ちゃんたら甘くって、すごい――あ!」
溶けて流れ出したチョコが、アヌスの方にたれていく。とっさにぺろりと舐め上げた。
「いやぁああん。ダメぇ……おしり、ダメぇ、ひう。はっ……ひ、ひぅ」
「その調子、その調子。もっともっと、色んなとこをやさしくしてあげて。心はおしりも大好きだから」
「違う! 違うよぉ、おしり違う。好きじゃないよ、違うの……あ、ぁああん」

「そんなこと言って、本当は好きでしょ? 嘘つきはお仕置きするぞぅ――千鶴さん」
言われるままに千鶴は、アヌスに舌を這わす。ピンクに色づいてヒクヒクするそこを舐めほぐすうちに、
とろとろになったチョコが一筋たれて、流れてくる。溶けるペースが随分はやいと思いながら、
彼女はそれを素早く舐め取った。
「あら? これ……これって?」
「ね? 分かる? それ、心のジュース。ううん、スープのがいいのかな。それとチョコ」
「これが、これが心ちゃんの……おいしい、心ちゃん、とってもおいしいわ」
「違う! 出ないもん、そんなの出ない。ボクじゃないよ、チョコだもん!!」
「あー、はいはい。分からず屋なんだから……これでどう?」
チョコと愛液が混ざったものを指先で掬い取り、心の口に入れてくる。
(甘い……でも、ちょっと違う味。これがボクの味?)
チョコの甘さに、ほんの僅かな塩味が感じられる。だが何より不思議なのは、ビターのはずなのに、
まるでミルクチョコのような味がすること。チーズに近いほど濃厚な甘ったるいミルク、
そんな味がたしかにする。
呆けていた心の身体に、ふたたび強い快感が奔る。すっかりほぐれたアヌスに千鶴が舌を侵入させてくる。
「ひゃ! ……ん、んあ。いやぁ、はぁ、はぁ、ふぁあああん!! やだぁ、やだぁ」
(なんでぇ? どうしてこんな? 気持ち良いよぅ……へんだよぉ)
舌でちゅぷちゅぷとかき回して弄る。溶けたチョコと愛液が、じくじくと『お花』から滲み出す。
流れ込んでくるチョコの味が、千鶴の口いっぱいに広がる。
愛が初めて目にするほど、『お花』は豊かに潤って、照り輝いて見える。
短い間に、何度も立て続けに愛撫され、繰り返し快楽を刷り込まれたためかも知れない。
愛液の溢れる量が目に見えて増えてきている。気が狂いそうなほどの喜びを、愛は感じた。
つい最近まで、『心』は濡れることさえ無かったのだ。このままいけば……
{もうすぐ……もうすぐだよ。もっともっと、気持ち良くしてあげる}

「千鶴さん、『お花』のチョコを食べてあげて」
千鶴は頷くと、溢れたチョコと愛液を舐め取っていく。
表面がすっかりキレイになるまで、ぴちゃぴちゃ、じゅるじゅると音を立てて舐め、啜る。
「はぁああ。ひゃふ、ふあぁ……ひふぅ、ふぅ……はぁん、やあぁあん」
「心ちゃん、ずいぶんキレイになったわよ。でも、まだ中にチョコが……こっちもキレイに、
キレイキレイにしましょうね――」
まるでキスでもするように膣口に唇を当てると、強く、強くチョコを吸い出そうとする。
「ひひゃあああぁん! やぁあ、だめえぇ!!」
ちゅぷるんっ、と妙に可愛らしい音を立てて、チョコの塊が千鶴の口に吸い込まれた。
「良かったね、心。千鶴さんがチョコ取ってくれたみたい」
耳を甘噛みしながら、心に囁く。千鶴の口中から、カリッと音がした。
「愛さん、これ中にナッツが……」
「え!?……取れて良かった、ほんとに」
「そうですねぇ……」
「まあ、取れたんだし。仕上げもキレイにお願いね」
「はい。やさしく、ですね……」
ちゅるちゅると音を立ててチョコの残りと愛液を啜りつつ、舌を膣口から胎内に侵入させる。
中にこびり付いたチョコを丁寧に舐め取りながら、舌でかき回し、心の味と感触を存分に味わう。
とてもとても可愛らしく、『おいしい』心。この素敵な少女から、
こんなにも素晴らしい『お礼』をもらえる自分は幸せ者だと、千鶴はこころから感謝した。
この幸せを用意してくれたナニモノカに対して――


時間を少し戻して、心が千鶴のもてなしを受けだした直後の診療室。
恋と玲那の会話に耳を傾けてみることにしよう。
************************************************
「――あちらの先生は、何て?」
「精密検査の結果、どこにも異常はみられないそうです。詳しくはこちらに……」
玲那に分厚い書の束が手渡される。素早く目を通しつつ、軽く思案する玲那。
「なるほど、ね――結局、私の診立てと大差なしですか……」
{先生たちなら、或いはと思ったけど……}
「あちらの先生は、心理的なものが原因としか言い様がない、他に見当がつかない、と――
うちの子は、心は一体……先生、あの?」
玲那はにこやかな笑顔を向ける。
「大丈夫です。身体的にまったく異常はありません。若干、小柄なための体力不足はありますが、
問題にはならない程度でしょう」
「じゃあ、以前から先生がおっしゃっていた通りなんですね?」
「現在の心ちゃんの状態を医学用語で表すなら、『稀発月経』の一種、になります。
月経周期が少々長過ぎること、周期の幅の変動が大きいこと、が気になる点だったのですが……
身体的にあらゆる点で、異常な点は発見できませんでした」
「とりあえず、心は健康なんですね?」
「はい。さきほど申し上げた通りです――ただ、小柄で少々特殊な体型・体質であるために、
その、繊細すぎるんです。それが不安な点でもあったのですが」
「そんなことでしたら、何の問題もありません。あの子は私たちが守りますもの……」
玲那は寂しそうな微笑を浮かべると、不意に立ち上がる。
「ここからは、医師としての意見じゃない――ずっと心ちゃんをみてきた。そして、
この町で代々生きてきた人間としての意見に、私個人の研究者としての発想の飛躍を加えたもの。
はっきり言って研究者としても、医師としても、人間としてすら失格かも知れない意見よ」
急に口調も態度も変えた彼女に、恋の態度も自ずから変化する。

「あなたに以前、打ち明けてもらったわね? 心ちゃんは『お役目』に選ばれた子なんだって。
この町に古くから暮らしてきた血筋の者なら、誰もが黒姫家が特別なことだけは分かってる。
黒姫家のお蔭でこの町は存在している。いえ、伝承の通りならこの国はおろか、世界そのものすら。
だけど、その黒姫家の人間であっても『お役目』の内容は知らない」
「そうなんです。だけど――」
「知らなくても『感じる』ことはできる。だったわね?」
「はい。不意に分かって、腑に落ちてしまうんです。それが予め決められていたんだって、
愛も同じです。先に分かってしまうことも多いんです、半分くらいですけど。だけど心は、
あの子はよく分からない。誰より深く強く『感じて』いるのに、それを自覚できないみたいな……」
「でも、『お役目』のことはご両親から伺ったのよね? 『感じた』訳ではないのよね?」
「正確に言えば両方です。父母から聞いた方が早かったのですけど、それを告げられることは、
先に分かっていました」
「告げられた内容は、心ちゃんが『お役目』の子だということ、それだけだったのよね?」
「あとは、これ以上は言えないって、でも心を頼むって……そう言ってました。
ただ、母が亡くなる前日、『お役目』は『生きる』ことだって、ぽそっと言ったんです」
「『生きる』ことね……ずいぶん普通っぽい、それでいて難しいことかもね。
人はみんな生きる、そしてそれは大変なこと。だけど――」
玲那は窓辺に立ってブラインドに手を掛け、外をのぞく。
恋は俯いたままで話を続ける。
「これは私が『感じた』ことを、なんとなくまとめた印象です。『お役目』は苦しみぬいて、
それでも『生きる』こと。苦しみは様々です、きっと本人にしか分からない」
玲那は窓辺を離れながら、恋の背後に回り込んで行く。
「さて、私の空想を聞いてもらうわ。心ちゃんの月経周期が特殊なのは『お役目』に絡んでいる。
はっきり言って、『お役目』の上でまだ必要ではないから。そう思うの」

コツコツという靴音が室内に響き、不意に止まる。
「心ちゃんの今の状態だと、卵子が卵巣・卵管から子宮へと移動している受精可能な期間は短い。
排卵自体は行われているけど、その周期が長い。排卵から、次の排卵への間にインターバルがある。
それが月経周期が長くてまちまちな原因なのね、受精・妊娠は難しい。
『お役目』上はそれが不必要だからと考えると、無月経の期間を何度も繰り返す状態が続いているのに、
身体にまったく異常がないってことが、あなたじゃないけど『腑に落ちる』のよ」
「……あの、でも先生、あの子、急に『濡れる』ように――」
「心配には及びません。『濡れる』のは確かに『迎える』準備ができたと言える。
だけど、『迎える』のが即『妊娠』ではない、それは分かるでしょう?」
「でも、不安なんです。あの子が、心がもし――先生、私……」
恋を後ろからそっと抱き締める玲那。
「大丈夫よ。心配性なママさん……だからって、あんまり悪戯ばかりしていたら嫌われちゃうわよ?
『娘』のおしりが弱いなんて、把握してるママは少ないと思うの」
「それは――先生だって、今日は少しおイタが過ぎましたよ?」
玲那は恋の耳を甘噛みし始める。
「もう、お姉さまとは呼んでくれないのね――仕方ないか、あなたは心ちゃんのママなんですもの。
あの子をずっと見守ってきた同士である、『パパ』にも申し訳ないものね。そして所詮、
私は『娘』の主治医に過ぎない……」
言葉とは裏腹に、その手は恋の衣服の下に潜り込んで、豊かな乳房を愛撫し始める。
「先生ダメ。止めて下さい。隣に、心ちゃんに聞こえたら……あ、はぁ」
「知ってるくせに、隣には聞こえないって……大丈夫、『パパ』には許可を得てます。
心ちゃんのことは、『パパ』の愛ちゃんと、藤枝に任せてあるから心配ないわ」
「はぁん、はぅ、はぁ……いつの間に?」
「ふふふ……ないしょ」
唇が重ねられ、二人の舌は激しく絡み合う。そのままで、玲那は衣服を脱ぎ捨てていく。

「いけない先生……悪戯ばかりなさって、そのうち捕まっちゃいますよ?」
「言わないで、今日は久しぶりで、心ちゃんにも酷いことしちゃって……だけど、足りないの。
それに心ちゃんたら初めて、私を欲しいって……なのに、なのに、して貰えなかった」
「あんなに可愛がったら、当然です。私を代わりになさるつもり? 失礼な先生」
「そんな……つもりは無いって、言い切れない。ごめんなさい。でも――私たち、
『同士』のはずよ?」
「正直ですね。そんなところは変わらない……大好きですよ、先生のそういうところ」
「やっぱり昔のように、お姉さまって呼んでくれないの? ――あなただって、不満なはずよ?
だって、ほら」
恋はすっかり濡れている。まさぐった玲那の手が、それを確かに感じている。
「心ちゃんの可愛い声で、本当はもう堪らないんでしょう? ずっと我慢は良くないわ」
「意地悪な人……」
言いながらも恋は、自らベッドへ向かっている。先程まで心が甘い悲鳴を上げ続けていた場所に。
「ああ……いい香り」
「心ちゃんの香りがするわね……ほんとに素敵な子――せめて、この香りで慰め合いましょう」
「先生はさっき、ご存分になさったじゃないですか」
「いやよ! 足りないの、だってすごく久しぶりよ。ねえ、お姉さまってよんで――」
恋の服を脱がしにかかりつつ、甘えた声をだす。
「久しぶりなのは心ちゃん? それとも私? 甘えん坊なお姉さま……それじゃお姉さま失格ですよ」
「やっと、呼んでくれた。両方に決まってるわ――『久しぶり』と言えば、心ちゃんの……」
「なんです?」
「初めて……初潮は去年のクリスマスだったかしら?」
「ええ、クリスマスに始まって、元日までだったと思います」
「なんだか、何かを暗示してるみたい。2001年のクリスマスから、2002年の元日なんて」
「そう、かもしれませんね……」
{《お方》様はご冗談がお好きだから……きっと意味なんて、ない}
熱い吐息と衣擦れの音だけが、診療室に響いている。
************************************************


千鶴の太腿を枕に、心は寝そべっている。下半身、ちょうどお尻の辺りが愛の太腿の上だ。
二人をクッションにする形で、先程からずっとごろごろしている。
ときどき思い出したように、千鶴にキスをしたり、口移しでジュースやお菓子をもらったり、
まるで仔猫のように甘えたい放題だ。千鶴はすっかり骨抜きにされている。
そんな様子を気にも掛けていないようでありながら、愛は余程に手癖が悪いのか、
心のお尻や太腿を時おり撫でたりして、悪戯をしている。
悪戯される度に、心はその手を叩いたり逆襲にでるが、反対に捕まってくすぐられたりしている。
いまの心はかなり『戻って』いる。はたして小学校低学年程度の判断力が、残っているかどうか……
子供に『戻って』いて、本人は男のつもり、とは言っても幼過ぎれば、男女の別などあまり頓着すまい。
いや、小さな男の子なら尚更に、優しいお姉さんに好意を抱き、素直にその気持ちに従うだろう。
その優しいお姉さんに悪戯されても、好きだから我慢してしまうし、さらに悪戯自体が気持ち良いのだ。
子供に『戻って』いる時に、男の子としての気持ちに従って振舞うことで、繰り返し繰り返し、
何度も何度も『女の身体の快楽』を刷り込まれる。
それは人生を遡って、女性として教育され直しているに等しい。
気がつけない間に身体に侵食されて、動作や振る舞いが女の子らしくなってきていること、
それ自体は精神が『戻って』いることと、本質的にはあまり関係がないのかもしれない。
しかし、身体による侵食と、精神が『戻って』行われる再教育、その相乗効果は計り知れない。
もっとも今のところ、それはあくまで女性同士での行為において、
女の身体で快感を『得る』ことに絞られているようだが――
もう何度目か分からない千鶴とのキスを終えて、心は急に何かを思いついた様子で立ち上がる。
「――心、どうしたの?」
「おしっこ」
「あ、そう。トイレは分かるね?」

「うん」
「私、一緒に行きましょうか?」
千鶴が申し出る。
「大丈夫よ。まさか迷ったりしないでしょ」
「平気だよ」
二人に笑顔で即答されては、どうしようもない。
「いってらっしゃい」
「はーい」
ぴょんぴょんと跳ねるような足取りで向かう心を、千鶴は笑顔で見送る。
ドアを開けて待合室に入ると、国中さんが驚いたように振り返る。
彼女はここでも座りもせずに、秘書用のデスクの傍に佇んでいたようだ。
一人きりなのに、ずいぶんと遠慮深い人だと心は思った。
「お嬢様、どうかなされましたか?」
慇懃な態度で尋ねてくる。彼女の顔はなんだか赤い。
「おしっこ、トイレに行くの」
すっかり子供に『戻って』いる心は、素直に答える。
そんな心の様子を見て、国中さんは強い不安を覚えた。なんと言うか頼りない。
雰囲気がふにゃふにゃしているとでも言おうか、生まれて間もない仔猫のようなのだ。
{この子を一人で行かせちゃダメ! 危ない、すごく危ない}
こころに何かが強く働きかけてくる。母性本能のようなものだろうか?
「お嬢様、私が案内させていただきます」
「ボク、分かるよ? 一人で平気だよ!」
心は『お嬢様』と言われたことが気に入らないのもあって、少し強い口調で断る。
「いいえ!! 当院のトイレには介護が必要な患者の方用のものがあります。
そちらは非常時と介助のために鍵自体ございません。万一、そちらをご使用になられて、
その、間違いがあっては……困ります」

「間違いってなに? 誰がこまるの?――鍵無いの?」
立て続けに質問しつつ、心は考える。鍵が無いとどうなるのか?
(誰かに見られちゃうかも……恥ずかしいな。それに見ちゃうかもしれない、こまる)
幼いながら、納得しかける心だったが、それなら鍵のあるトイレに入ればいい。
やっぱり案内はいらないと思う。
心はもうすでに自分がトイレで用を足すとき、座って、つまりは女式ですることが当然になっている。
そのこと自体を疑問にすら感じていない。
「困るのは、皆です。お嬢様もご家族も、院長も私も……」
「せんせい、こまるの? 国中さんも?」
「はい」
大好きな玲那が困るのは嫌だと思った。それに、目の前の若い看護婦さんが困るのは気の毒だとも。
「ん、分かった。じゃ、一緒にきて」
「はい、ご一緒させていただきます――どうぞ、こちらへ」
ぺこりと頭を下げた彼女は率先して歩きだす。心はとたとた彼女について行く。
追いついて、何も言わずに彼女の手を握る。ごく自然に。
手を握られて一瞬、軽く驚いた。だが心の態度があまりに『当たり前』といった感じで何も言えない。
「国中さんは、何ていう名前?」
「亜津子です。国中 亜津子と申します」
亜津子は握られた手が、とても心地良いのに驚いている。心の手の平、その柔らかな皮膚が、
まるで自分の手に吸い付いてくるように感じる。温かく柔らかで、小さく華奢なその手。
手から視線を少しづつ移し、心の横顔を見つめる。白磁のように美しく滑らかな皮膚。
明るい栗色の艶やかな髪が、陽光を受けて輝いてみえる。まるで人形のように整った顔立ち。
目は大きく黒目がちで、目尻が少しだけ上を向いており、品よく適度に引き締まった印象を与える。
小さく細いが適度に高い鼻、形の良い唇は桃色の蕾のようだ。

横顔に見とれていると、不意に心がこちらを振り向いた。
呆けたようにその瞳に魅入られてしまい、しばらく無言で見つめ合う。
「亜津子さんっていうんだ……あっちゃんって呼んでいい?」
「え?……あ、はい。何とでも、お好きにお呼びください」
「ほんと? じゃあ、あっちゃんだね」
ニッコリと嬉しそうに微笑む。瞬間、心臓を鷲掴みにされたような衝撃を覚えた。
同時に、この子を守りたい、守らなくてはという思いが一層強くなる。
先程から、二人とすれ違う人々は皆一様に女も男も、年齢すら関係なく心の姿に目を奪われ、
振り返ってまでジロジロと見る者までいる。どういうつもりで見ているのかは分からないが、
少なくとも、心が異様なほど人の関心を引くのは間違いない。
そんな人がいるとは思いたくもないが、もし、妙な男にでも目を付けられたら……
間もなく、来賓と医師用のトイレに着く。ここは当然、それぞれの個室に鍵が付いている。
病院のトイレ、特に入院施設のあるところでは、介助の必要な患者用のトイレには鍵はおろか、
男女の別さえない場合がある。入り口だけは別になっている場合もあり、田崎医院はまさにそうだ。
元々、女性の入院患者が大半だし、非常時の安全のための措置なのだから当然ではある。
院長室からは方向こそ真逆だが、ちょうど等距離に患者用と来賓用のそれぞれがある。
もしも心が患者用に入ってしまい、それを誰かに見られたりしたら……
心は、いや黒姫家の人間はこの病院にとって超がつくVIPなのだ。間違いがあってはならない。
けれどいまの亜津子はそんなことに関わり無く、心を守りたいと思い始めている。
個室の目前まで心に手を引かれていく。
「あっちゃん、呼ぶまで待ってて」
「こちらで、ですか? あの、入り口で待たさせていただきます」
幸い、今ここには二人だけだ。なにかある可能性は低い、入り口で待った方がよいと思う。
「ちょっと恥ずかしいけど、ここで待ってて……」
頬を赤らめてもじもじしながら言う。聞き届けてあげたい、そう思う。
「分かりました。こちらで待たさせていただきますね」
「お願い……します」

個室の扉が閉じられ、施錠の音がした。微かな衣擦れの音のあと、ちょろちょろと可愛らしい水音が、
静かなトイレ中に響く。デパートなどならいざ知らずここは病院だ、非常時のため音消しの類はない。
用を足す音が止み、ウォシュレットの音がする。それもやがて消え、大きな水音。次いで鍵が開く。
しかし、出てこない。
「あっちゃん、入って……」
「え!……あの、お嬢様?」
「いいから、はやく、きて」
ほんの少しだけ扉が開き、心の顔がのぞく。仔猫のような瞳で見上げてくる。とても恥ずかしそうだ。
「――失礼いたします」
目を伏せて、素早く個室に入る。
「鍵、しめて」
言葉に従って、後ろ手にロックする。顔を上げて心を見ると、まだ下着を下げたままだ。
顔を真っ赤にしながら、真っ直ぐにこちらの目を見つめてくる。
「あのね、あっちゃんに見て欲しいの」
「お嬢様? 一体何をおっしゃって?」
「聞いて下さい! あの、ボクの身体を見て欲しいの」
「いけません! 駄目です……そんな、そんなことをなさっては」
「だって!! だって皆、せんせいもお姉ちゃんたちも、ボクの身体のこと……ちゃんと、ちゃんと、
ボクに話してくれないよ――キレイだとか、可愛いとか、そんなのばっかり!!」
「お嬢様……」
「違う! ボクはお嬢様じゃない!!!」
「ですが、貴女は黒姫家のお嬢様です。私どもにとって、とても大切なお方です」
「じゃあ、代わりにボクを、身体を見て! お願い、お願いします」
目に涙をいっぱいに溜めて、真っ直ぐに見つめてくる。裏切れない、裏切りたくない。

「分かり……ました。受け給わります」
「ありがとう……ありがと、あっちゃん」
ハンカチで心の涙を拭いてやると、照れくさそうに笑う。その笑顔がまた可愛らしい。
「よーく、よぉく見てね?」
下着を脱いでポケットにしまう。蓋をしめた上に座ってゆっくりと肢を開いてゆく。
ワンピースの裾を捲り上げて、ヘソの辺りまで見せている。心の下半身はすっかり丸見えだ。
亜津子はゴクリと唾を飲み込んだ。美しいとか綺麗だとか以外に、どんな言葉が在ると言うのだろう。
いつもはピッチリと閉じているのであろう大陰唇が、大股開きになっているせいでほんの少し開き、
綺麗なピンク色の秘肉を覗かせている。白くすべすべした皮膚は顔と同じく磁器のようで、
染みはおろかホクロさえ見当たらず、土手部分に申し訳ていどに生えた陰毛は髪と同じ明るい栗色だ。
「キレイ……」
思わず呟いてしまう。亜津子の言葉に、心は微かに表情を曇らせる。
「――ダメ。キレイとか、可愛いとかはダメ。そうじゃなくて、おかしくない? あ! そうだ。
もっと、もっとよーく見えるようにするよ?」
片手を股間に伸ばすと、指先を大陰唇にあてがう。くちゅりと小さな音を立て、左右に開いてみせる。
目一杯に開いて、腰の位置をこちらにせり出すようにずらし、片膝を抱え上げて見せ付ける。
「どうかな? ボク、おかしくない? ねえ、ねえ?」
「……あ、ああ……」
亜津子は言葉が出ない。何と言って良いのかわからないのだ。
「どうしたの? おかしいの? やっぱりボクへんなの?」
「いいえ! いいえ、違います」
やっとそれだけ言えた。これ以上は何と言ってあげれば良いのだろう? 亜津子は懸命に言葉を探す。
心の未成熟な印象は、あくまで印象だけのもの、そういうことなのだろう。
性器は、『お花』はしっかりと成熟している。過不足ない、年齢相応なものに見える。
しかし、どういうわけなのか、匂い立つような強い色気を発していながら、
何か穢れというか、後ろめたさが微塵も感じられない気がする。整い過ぎているせいなのだろうか、
肉の持つ生々しさや、グロテスクさが抜け落ちているような……

それにこの甘い匂いはいったい? これが人の体臭なのか? 亜津子には信じられない。
院長が、玲那がさきほど診療中に何度も口にしていた『甘い匂い』という言葉。
同じ室内にいて微かに感じてはいたが、ここまで強いものだったとは。
「ねえ! ねえ、ねえ、どうしたの? ねえってば!!」
心は業を煮やしたのか、その場に立ち上がると衣服を首元まで捲り上げる。
腰をせり出して、性器を見せ付けながら、亜津子を真っ直ぐ睨み付ける。
ふわりと、甘い香りが鼻孔をくすぐる。
「美味しそう……」
つい、口に出してしまう。
「え……あっちゃんも、そうなの? ボクに悪戯するの?」
「申し訳ございません! そんなことは決して、決していたしません」
「ほんとう? ほんとうに?」
「もちろんです」
「良かった……ボクね、怖いんだ。悪戯されると、おかしくなっちゃう気がするんだ。
ボクが、どんどん違うボクになっちゃう気がするの――あっちゃんは、そんな時ある?」
「私にも、ございます。そんな時が……」
「あっちゃんは、ボクに嘘つかないよね?――教えて、ボクはおかしくなあい?」
「大丈夫です。どこもおかしくはございません。それに、とてもお美しい――」
「やめて! 嬉しくないから、キレイとか言われたって嬉しく無い!」
「ですが、ほかに申し上げようがないのです。言葉が、見つからない……」
実際のところ、心にはおかしい部分がある。いや、全部と言っても差し支えないだろう。
整い過ぎているのだ、異常ともいえるくらいに。『作り物めいてみえる』という『例え』より、
作り物だと言い切られたほうがしっくりするくらいだ。

いま目の前に晒されている裸身の、骨格そのものは同身長の他の少女と比べても随分と華奢だ。
胴体部分が一回り、下手をすると二回りくらい小さい。そのくせ手足はとても長い。
全身がとても細く華奢なのに、痩せ過ぎている感じはまるでしない。小さな骨格に丁度よく、
適度に肉が付いているように見える。触ったらぷにぷにして、とても気持ち良いだろう。
身長比で考えたら長すぎる手足は、実物を見る限りとてもバランス良く見える。
小さな顔だ。頭蓋も身体に見合ってかなり小さいということだろう。
理想的な体格の女性を、わざわざ小さく縮めたような……そうだ、『扱いやすい』ように、
男にとっても女にとっても、誰もが『扱いやすい』サイズにつくり直したみたいなのだ。
ただ胸だけが、少しばかり縮めすぎたような印象だ。
こんな少女を目の前にして、おかしくないかと尋ねられて、何と言ってやれば良いというのか?
〔あなたは整い過ぎていて、異常です〕
とでも言ってやれと? 言葉が無い、言葉というものの不完全さを痛感する。
「お聞きください。貴女様は花や猫を見たとき、何とおっしゃいます?」
「え?……えーとね、キレイだねとか可愛いねとか。でも、ほんとにそういう感じのした時だけ」
「そうでしょう? 同じことなのです。そういう風に『感じ』て、それを素直に表現しただけ……
他にどうしようも無いのです。ご理解ください」
「でもぉ……みんなが同じことしか言わないの……やっぱり、へんだよ」
「それでは、私の印象を言わさせていただきます。心お嬢様、貴女はまるで少年のように、
清々しく、健やかにお美しい。それに、看護婦の私が判断する限り、とても健康そうです」
「ほんと!! ほんとうに?」
心は『少年のように』という言葉が、とても気に入った。すごく嬉しい。
男の子っぽいと言われた。自分は男だから、男の子らしいと言われたことは良いことだと思う。
(やっぱり、あっちゃんは良い人だ)


そもそも心が、亜津子に身体を見てもらおうと考えた理由は単純だ。
さきほど診療室でいけない悪戯をされていた時、彼女はその場にいて、聞かれてしまった。
だからこの上さらに、見られてしまったところであんまり大差が無いと思ったのだ。
それに、この若い看護婦さんは、よく分からないが信用できる気がした。
うそをつける人ではないと、そう感じたのだ。理由は特にない。勘だ。
それは一応、正解だったと言えるが、あまりにも軽率であったと言わねばなるまい。
だが、いまの心にはそこまでは思い至らないのだ。
危なっかしいという、心に対する亜津子の印象はとても正しいものだった。
「あっちゃん――」
心は亜津子に飛びつくと、唇を重ねる。千鶴を骨抜きにしたあのキスだ。
なんのことはない、心にしてみれば単なるお礼のつもりだ。
優しくて綺麗なお姉さんはみんな大好きで、仲良しになりたい、いまの心はそう考えている。
小さな舌が吸い付くように絡みついてくる。口中のあらゆるところを刺激して、蹂躙していく。
こんなに可愛らしい少女なのに、男性的で暴力的な感じのするキスだと亜津子は感じた。
舌で舌を愛撫され、嬲られながら、理性が吹き飛びそうになるのを懸命に耐える。
押し付けられた小さな胸が、下着越しに感じられる。やわらかなその感触が、
ぽよぽよ、ふにゅふにゅと攻め立ててくる。
捲り上げられたワンピースが首元で固定されたままなので、下半身が丸出しだ。
視界の隅にちらちらと目に付く、明るい栗色の薄い茂みと、白い下腹部が眩しくて堪らない。
甘い匂いが漂ってきて、強く嗅覚を刺激してくる。すごく美味しそうだ。
手を伸ばせばすぐに届くところに、あの『お花』が待っている。
ピンク色の花びらが、自分を誘って、悪戯されるのを待っている気がしてくる。
{うそ、うそよ……私、私そんな趣味ないもの}
自分には少女趣味は無いはずだと言い聞かせながら、何か気を逸らすものを探す。
これしかない。唇と舌、心とのキスに集中する。

心の舌に応えるように、自ら舌を絡めて心の口中を刺激する。
お互いが分泌した唾液をかき混ぜ、飲み下し合う。
強く、強く心の存在を意識する。唇と舌のみにだけに集中していく。
唇が離れる頃には、亜津子はすっかり心の虜になっていた。
いまこの場で、心に悪戯することはどうにか我慢できた。だがしかし、
少女趣味がないと思い込んでいた自分は、もうすでにいないことを自覚している。
{お嬢様……お嬢様ぁ}
心が愛しくて堪らない。『あの人』よりもずっと、ずっと――
二人は頬を染めて、しばらく無言で見つめ合う。
「――お礼だよ。あっちゃんは、ボクのこと好き?」
「はい、もちろんです。お嬢様、お姉さま方が心配なされます。もう、お部屋に戻りましょうね」
「うん」
ぴょんと飛び降りると、服を直してそのまま出て行こうとする心。
「お嬢様! あの、下着を……」
「あ! 忘れてたぁ」
これまで脱いだ下着は、ほとんど誰かに着けてもらっていた。そのせいで、穿くのを忘れていた。
笑いあう二人、亜津子の手が伸びて心のポケットから、下着を取り出す。
「穿かせて差し上げますね?」
「ありがとう」
心は亜津子の肩に手を乗せると、片足づつ持ち上げ、下着に通してもらう。
下着を引き上げるとき、亜津子は服の中に潜り込み、わざと下腹部に顔を押し付ける。
胸いっぱいに、甘い香りを吸い込んだ。鼻先、顎の辺りがクリトリスに擦れる。
「くすぐったぁい……あっちゃんのえっち」
「失礼いたしました。お許しください」
言葉とは裏腹に、続けて何度か鼻先を擦り付けて、その香りを愉しんだ。


待合室に帰っても、心は院長室に戻らない。亜津子の傍を離れずにいる。
亜津子も、懐いてもらったことが嬉しくて、ずっと話相手になっている。
トイレからの帰り道、心は彼女の手を両手で握り、ぴたりと寄り添ってきた。
頼りなげで、こころから守ってあげたいと思わせる、その可愛らしさ。
本当にすっかり骨抜きにされてしまいそうだ。
「ふーん。あっちゃんはほんとの看護婦さんになって、
すぐに玲那せんせいの、専属の看護婦さんになったのか……すごいねぇ」
実際それは驚くべきことだろう。普通ならあり得ない事だといえる。
心には、彼女に対して幾つかの疑問がある。それを先程から尋ねているのだ。
「どうして、ずっと座らないの?」
一番大きな疑問を聞いてみた。彼女は心が見る限り、一度も腰を下ろしていない。
「あ……それは、立っている方が、楽だから、です」
「ふーん……」
なんだか歯切れが悪い。だが、いちおう納得してみせるふりをする。
同時に、もう一つの方を先に確かめてしまおうと考える。
「――あっちゃん、あっちゃん」
自分の立ち位置を確認しつつ、亜津子にキスを促す。瞳を閉じて、顎を上げる。
亜津子は周りを見回し、確認してから唇を重ねてきた。彼女の首から肩にかけて、
腕を廻して絡ませながら、身体を引き寄せて重心をこちらに持ってくる。
(まだ、まだだよ。まだまだ……もう少し、もう少し)
舌を絡め合いながら、気付かれないように彼女の身体を操作していく。
(――いまだ)
唇を離すと、亜津子の背後に素早く回りこむ。彼女の腰にとりついて引き込んだ。
傾いた上半身に重心が乗っていた彼女は、為すすべもなく、心の予定どおり倒れてしまう

倒れた先は秘書用デスクだ。上半身だけをうつ伏せに乗せて、心にお尻を突き出す格好だ。
なにが何だか分からないうちに、あられも無い姿を晒すことになった彼女は慌てている。
それに女としてすら非力な部類であるこの少女に、こんな真似ができるとは信じられない。
――彼女は知るはずもないが、心は只者ではない。本来の彼は、小柄でありながら、
体格差をものともせず闘い続けてきた、かなりの力量を持つ格闘士なのだ――
「お嬢様!? いったい何をなさるんです? 悪戯はお止めくださ――ひぃ!」
心は彼女のお尻に取り付くと、撫で回しながら頬擦りを始める。
「ああ……やっぱり、やっぱりそうだぁ」
何がやっぱりなのか、心は鼻をくんくん鳴らしつつ、しつこく頬擦りを続けている。
実はトイレからの道すがら、彼女に寄り添っていた時、何とも言えぬ良い匂いを感じたのだ。
それは彼女の身体から漂ってくる気がした。
周りの人間が、心から『甘い匂い』を感じるのと同じように、いや、より敏感に、
心は亜津子から、良い匂いを感じていたのだ。
同時に非常に微かな、機械的な振動音のようなものも、心は聞いた気がしたのだが、
それはこの後で調べることにした。いまはこの匂いの方が気になって仕方ない。
いまの心からすると、ずいぶん大きく感じる、まん丸いお尻。なぜだか見ているだけで、
こころがウキウキしてくる。悪戯したくてたまらないのだ。
スカートの上から、お尻の割れ目に鼻先をもぐり込ますようにピタリと当てて、
匂いを嗅いでみる。間違いない、股の間、『お花』の辺りから匂いは漂ってくる。
それに好都合なことに、例の音もその辺りからするようだ。
「はぅ……お止め下さい、お止め下さいぃ……お嬢様ぁ!」
「ダメだよ。やめてあげない。だって、すごく良い匂いがする――教えて、何の匂い?」
「存じません! 知りません。そんな、そんなこと……」
「嘘つきぃ――あっちゃん知ってるもん! 調べちゃうから……見せてね?」
撫で回しながら、スカートの裾に手をかける。ほんの少し、捲り上げる。

「お願いです! お止め下さい!! お願いです、お願いしますぅ」
「いやだよ。さっき、ボクの見たじゃないか! それに、嘘つかないって約束したのに……
自分のこと知らないなんて、嘘つき!」
たしかに亜津子はトイレで、心に嘘をつかないと約束した。だが、それとこれとは話が別だ。
非常に子供らしい、ワガママな解釈といえる。そんな言いがかりに過ぎないことでも、
心にこころを奪われ始めた彼女は、胸が痛んでしまい、何も言えないのだ。
「ボクのを見たこと、誰にも言わないから。あっちゃんのも見せてね?」
「お願いです……お願いですからぁ……」
スルスルとスカートが捲り上げられ、黒い下着と真っ白なお尻が丸見えになる。
コントラストが見事だ。下着はレースたっぷりで、とてもセクシーなものだ。
ガーターでストッキングを吊っている。そればかりではない、変なものが付いている。
下着の股間が膨らんでいて、そこから例の振動音がする。透明の管が二本のびていて、
内股に括り付けた小瓶に繋がっている。瓶の中には何か液体がいっぱいに溜まっている。
よく見ると、下着もじっとりと湿っているようだ。
「あっちゃん、これなあに?」
「それは……その、何でもありません」
小瓶を突付きながら尋ねるが、とうぜん教えてはくれない。
「どうして? なんで教えてくれないの? もしかして、困るの?」
「はい、そうです……お答えするわけには――あっ! ひい!」
お尻をじかに撫でてみると、汗でじっとりしている。きっと、苦しいのだろうと思う。
それに、この管のせいで彼女は座れないに違いない。
(いじめられてるんだ。きっと、だから)
「お願いです……もう、お止め下さい」
「いじめられてるんだね? だから、何もいえないんだね? ボクが助けてあげる」
「いえ、いいえ、違います。どうか、どうかもう……」
「いじめられてる子は、みんなそう言うんだよ。知ってるもん」
本当に嫌なら、すぐに立ち上がってしまうはずだ。こころの中では助けて欲しいから、
さっきから言葉だけで抵抗しないのだ。心はそう考えた。

「とってあげるね?」
「ひふぅ!! ふぁあ……ひゃ、いやぁ! やめて……止めて下さい」
管に手を掛けて引っ張ったが、下着の中にかなり大きい部分があるらしく、抜けない。
下着を脱がすために手を掛ける。
「いけません、お嬢様のお手が、汚れます」
それなら手を使わなければいいと考えて、口で端を咥えた。唇が触れた瞬間、
亜津子の身体はビクリと震えた。
(かわいい。あっちゃん、とってもかわいいな)
口で下着を引きずり下ろすと、なんとも異様なものが現れた。
股間にちょうど合わせた形の、半透明の漏斗のようなものが『お花』を覆い隠している。
触ってみると弾力に富んだ素材でできていて、その中から振動が感じられる。
漏斗状のそれは、完全にぴったり張り付いている訳ではないらしく、
揺り動かすと隙間ができる。その度に隙間から、液体が滲み出してくる。
{見られてる……お嬢様に、こんな、こんなぁ!}
二本の管は漏斗そのものから一本、それとは別にもう一本があって、その別の方の先が、
『お花』の中に潜り込んでおり、漏斗全体を固定しているらしい。
「いま、助けてあげる……」
漏斗に手を掛けて、ゆっくりと管を引き抜いていく。ぐぼぉ、と音がして、
亜津子の『お花』に潜り込んでいた部分が顔を出す。かなり大きな半透明の球体だ。
それに穴が開いて管が通っている。『お花』がすっかり丸見えになった。
こぽりと愛液が溢れ出す。漏斗の管と、胎内に入れられていた管の双方が、
内と外から彼女の愛液を小瓶の中に集めていたらしい。だがすでにいっぱいになっていて、
漏斗の内側まで愛液が溜まりきった状態だった。外された途端に愛液がこぼれ出し、
彼女の内股全体を濡らしていく。漏斗の中にはまだ、愛液がたっぷり溜まっている。

愛液の水溜りの中に、丸くて黒い小さなものが泳いでいる。小さなローターだ。
いま気付いたが、ローターからのラインが彼女の腰まで伸びている。
ローターはとても静かで、触れていないと振動しているのが分からないほどだ。
小瓶とローターの本体を外して、漏斗と一緒にデスクの上に置いた。
「……うぅ、う、う……うっうう……」
亜津子は先程からずっと何も言わない。どうしたのか気になって顔をのぞきこんだ。
泣いている。子供のように顔をぐちゃぐちゃに濡らして泣いている。
(どうして? 助けたはずなのに、どうして?)
心には分からない。だが、すごく可哀想だ。慰めてあげないといけない。
男は女を泣かせてはいけないのだ。彼女に触れようとして、両手が濡れているのに気付く。
ごく自然に、それを舐めてみる。
(チーズの味……おいしい。カッテージチーズ? でも、違うなあ)
なんだかとってもわくわくする味だ。身体の奥の方から元気が出てくる。
こんなに美味しいものが、亜津子の身体から出るのだ。彼女はとても素晴らしいと思う。
さっき自分からもミルクみたいなものが出たが、彼女の方がずっとずっと美味しい。
(あっちゃんは、可愛くって、美味しくって、キレイで、優しい……大好き)
ぺろぺろと夢中で愛液を舐める心に、亜津子は気が付いた。
「いやあああ!! ダメェ、ダメですぅ! そんな、そんな汚い」
「汚くないよ? あっちゃんとってもキレイ。すごくおいしいよ?」
心はにっこり笑って、見せ付けるように愛液を舐めつづける。いやいやをするように、
涙に濡れた顔を振って放心する亜津子。
「どうしたの? なんでそんなに泣いてるの? つらいの? ボクね、あっちゃんが好きだから、
そんな風に泣いてるのはイヤだな……それに、とってもおいしいよ? ほら」
「ひゃうう!――あ、ん」
愛液を『お花』からじかにすくい取り、亜津子の口に運んだ。彼女は心の手だと思うと、
ごく自然にそれを受け入れてしまう。そのまま心は、指で彼女の舌と口中を愛撫する。
さきほど愛に自分がやられた事を、こんどは亜津子にしている。恐るべき学習能力だ。

「ん、んん……あ、んぁ……あん」
「ね? おいしいでしょ」
「は……い、いえ。あの、私にはおいしいとは、思えません」
「そっか。これ、あっちゃんのだもんね。じゃ、しょうがないね――でも、
ボクはとってもおいしいよ? あっちゃんが大好きだし」
唇を重ねる。いたわるように優しく、亜津子の舌を、口中を歯茎の隅々まで愛撫していく。
「泣かないで、恥ずかしがらないで、ボクが守ってあげるから。ほんとのこと話して」
「心お嬢様……私も、お嬢様が大好きです。ですが――」
「もしかして、あっちゃんをいじめてるのは、これをやったのは……せんせい?」
亜津子は答えない。黙って俯いてしまう。
「どうして答えてくれないの? まだ、怖いの?」
(あっちゃんが怖くないように、慰めてあげないと。そうだ!)
慰めるには、優しくするのが一番だ。優しくしてあげるには……玲那や恋や愛、
それから千鶴に、自分がしてもらったことをすれば良い。
あの気持ち良くなる悪戯は『やさしく』することだと、恋も愛も言っていたではないか。
『可愛がる』とか他にも色々な言い方があるようだったが、することは同じだ。
「大丈夫だよ。いっぱい『やさしく』してあげるね」
微笑みかけながらお尻の方に回り込んで、ふたたび『お花』をじっくり眺める。
とってもキレイだ。同じ『お花』だが、自分のとはまるで違う。
亜津子の『お花』は全体が少し褐色に黒ずんで、ところどころ色素が沈着している。
花びらはピラピラ、しわしわのベーコンのようで、なんだか可愛らしい。
何かで開かれている訳でもないのに、自然と捲れて外に向かっている感じだ。
全体が愛液ですっかり濡れそぼって、てらてらと輝いている。
クリトリスも充血しきって膨れ、完全に露出している。周りを囲うように、
濃い目の陰毛が生えている。

心は自分についているものとはまるで違うそれが、とても自然で可愛いと感じている。
ちょっぴり怖いような感じもするが、すごく美味しそうなものに見える。
そっと触れてみる。ウニウニとコリコリの中間くらいの感触が気持ち良い。
愛液でぬるぬるした花びらを摘んで、いじくりだす。
「ああっ……あん、ぁああん、いやぁあ! ダメェ、ふわぁあん! 止めて、下さいぃ」
触っているうちに夢中になってしまう。見ているだけで元気というか、
ヤル気のようなものがむくむくと湧いてくるのだ。それに触ったらもう、
気持ち良い感じがして止まらない。
でも、亜津子が悲鳴を上げて可哀想なので、止めてあげることにした。
「あっちゃん、ごめんね」
「いえ。でも、もうお止めください。お願いです……」
(あれ? へんだ……あっちゃん、つらそうじゃ、ない)
亜津子の顔はなんだか、つらいのとは違う感じだ。それに、もじもじと太腿をすり合わせ、
腰をくねらせて、まるで痒いのを我慢しているみたいだ。
「また、嘘ついたね? ほんとは止めて欲しくないんだ!!」
「ひうぅ! はひぃ、はぁっひぃい! 止めてくださいぃ、お嬢様ぁ」
今度はクリトリスを摘んで、こりこりと指先でいじりまわす。
「お嬢様じゃない!! ボクはお嬢様じゃないよ!」
少しだけ優しく力を緩めながら、亜津子の顔を睨む。
口の端から涎が垂れて、彼女の表情は気持ち良いと言っているみたいだ。
「何て、何てお呼びすればぁ……いいの、です、か?」
「心……心って呼んでよ」
「心…さま? 心様ぁ! 心様、お願いですぅ。もう、かんべんしてぇ」
(コノイヤラシイ女ヲ、モット、イジメタイ……)
「ダメだよ……ボクのを見たくせに! 嘘ついたくせに! お仕置きだよ――」
クリトリスを口に含むと、舌を筒状に丸めて包み込み、唇で甘噛みするようにしながら、
もくもくと強く吸う。赤ん坊が乳を飲むときのやり方だ。

「はっはぁああああん!! ひぃっひあああ、いやあああぁあん! だめえぇ、だめぇえん」
ちゅぱちゅぱと吸い付ける度に、亜津子の身体は跳ね上がる。愛液がこぽこぽと、
膣口から溢れ出す。
「何がダメなの? あっちゃん気持ち良いよね? 言ってごらん――」
ぺろぺろと膣口からたれた愛液を舐め取りながら、クリトリスを摘んで捻る。
「ひぃやぁあああ! ひゃふ……気持ちいいぃですぅ!! 心様、心様ァ、心さまぁあ!!」
「いい子だね。可愛いよ、あっちゃん。もっとして欲しい?」
「だめぇええ!! 心様だめぇ。怒られちゃうのぉ……心様ぁ、心様ぁ」
乱暴に入り口から指をねじ込むと、じゅぴゅじゅぴゅと出し入れする。
「まだ……また嘘をつくんだね? いけない子、いやらしい子なんだから!!」
さきほど取り外したローターが心の目に留まる。拾い上げて、スイッチを入れる。
入り口に押し当てると、そのままグイグイとめり込ませていく。完全に埋没しても、
指を使ってどんどん奥に押し込んでいく。
「はぁっふ! ひゃあふ、ふはぁう、あっああん! 心様ダメぇ! 深いぃ、深いのぉお」
やがて、心の指では届かないところまで潜り込ますと、ラインを使って一気に引っ張り出す。
「ひゃひぃぃいいいいいいいい!!」
じゅぽん、と湿った音を立てて、ローターが引き抜かれた。
それをまた、胎内に押し込み始める。
「いい子にするまで、何度も、何度でもお仕置きするからね……」
お尻の汗を舐め取りながら、静かに囁きかける。
「心様、心様ぁああ……ひぁあん、ダメぇええ、ダメですぅうう!!」
腰をくねらせる亜津子の言葉をまったく無視して、胎内の深奥までローターを押し込む。
(本当ハ、モットシテ欲シインダネ? ソンナニガンバッテ咥エ込マナクッテモ、
イクラダッテ、何度ダッテ入レテアゲル)
両手を愛液でぐちょぐちょに濡らしながら、指で送り込める限界まで挿入していく。

「……あ、服が汚れちゃう」
ローターを奥の方に挿入したまま放置して、手についた愛液を舐め取る。
「はっふ、ふはぁあ、ひゃふぅ、やぁあ! 心様ぁ、取ってぇ、とぉおってぇえ!」
悲鳴のような喘ぎ声を上げつつ、腰をくねくねさせてお尻を振る亜津子の様子を、
冷静な目で観察する。心の表情はとても悪戯っぽい、可愛らしく無邪気な笑顔だ。
それでいて瞳の奥に、底の見えない冷たいものを窺わせる。
愛液を綺麗に舐め取ってから、袖を捲り上げる。ローターのラインを手にすると、
ゆっくりと引き抜いていく。焦らすように、本当に少しづつ。
「ふぅあ、はぁ、はぁ、はぅう、心様ぁ! ひっ、ひぁあ、ひはぁ、ひぃい! 心さまぁ!」
入り口から半分ほど顔を出したところで、再び押し込んでいく。奥へ、奥へと。
ビクビクと身体中で反応する亜津子が、とてもとても可愛らしい。
「なんでぇ!? ヤダぁ、心様とってぇ、とってよぉお!!」
「本当に? 本当に取って欲しいの? 違うよね、入れたり出したりして欲しいんでしょ?」
お尻を鷲掴みにして乱暴に揉みしだきながら、入り口を何度も舐めあげる。唇を当てると、
じゅりゅじゅりゅと愛液を啜る。ローターが収まったままの入り口から直接に、
まるでキスでもするように口をつけて、大きな音を立てながら愛液を啜り続ける。
「ひゃはぁあ、いやぁあ! 心様ダメぇ、汚いよう。心様ぁ、心様ぁ、心様ぁ」
「キレイだよ。あっちゃんとってもキレイ。おいしいな、あっちゃんのジュース……」
舌をねじ込んで、愛液をかき出すように蠢かす。しばらくその味を愉しんだあと、
亜津子の息が少しだけ落ち着いたのを見計らって、一気にローターを引き抜く。
「ふわぁあああ!! ひやぁあ……いやぁ、だめぇ、心様、心様ぁ」
引き抜いたローターをふたたび押し込んでいく。奥まで入れたら、引き抜く。
その繰り返しだ。気まぐれにスピードの緩急をつけながら、何度も何度も、
何度も何度も繰り返す。亜津子はずっと悲鳴を上げている。少し可哀想かとも思ったが、
表情はとても気持ち良さそうなので安心する。
それに……コレを弄っていると楽しいのだ。触っているだけで、なんだか気持ち良い。
だから亜津子が苦しいのだとしても、止めたくない。

ローターを出し入れするうちに、心はおもしろいことに気が付いた。
亜津子の『お花』は少しづつ柔らかくなって、指を飲み込む本数が増えていくのだ。
もう片手の指四本は入ってしまう。両手で二本づつ指を突っ込み、思いっきり拡げる。
「ひぃ! いやぁああ!! ダメぇ、心さま見ないでぇ!」
お口がポッカリ開いて、胎内が少し見える。暗くて細かくは分からないが、
びらびらがウネウネと波打って集まり、ざらざらが濡れてぐちょぐちょしている。
赤っぽい綺麗な桜色だ。肉の色だ。
(ブチ込ミテェエ……ブチ込ンデ……ブチ込ンデ……ブチ込ンデ……)
先程から心は、とっても気持ち良いはずなのに、こころのどこかが、
なんだかイライラするのをずっとずっと感じていた。それがいま、分かった。
『挿入(いれ)』るのだ。自分はいったい何をしているのだ? 弄るだけで満足するものか!
この可愛らしい肉穴にねじ込んで、ぶちまけてやる。たっぷりとかき回してやろう。
きっと喜ぶに違いない。大好きな亜津子を気持ち良くさせてあげるのだ。
だが、何を? 
(……ちんちん)
そうだ、ペニスだ。男根だ。男の証だ。逞しく禍々しくそそり立つ『無敗の王者』だ。
どうしてこんな当たり前のことを忘れていたのだろう。男は、自分はそれを持っている。
心は自らの股間に手を伸ばす。
(――あれ? 無いよぅ……ボクのちんちん……無いよ、無いよぉ?!!)
「うあぁ!! うわ、うわぁああ!!」
下着の中をまさぐり、懸命に探す。すぐに、小さな小さな豆粒を探り当てる。
クリトリスだ。女の子の身体に存在する、敏感で可愛らしい蕾。
(これ? これ、ちんちん? 小っちゃい?)
摘んだ瞬間、強い刺激が身体に奔る。快感と痛みを同時に感じて、脳が痺れる。
(大きくなるよ……弄ると、気持ち良いと、気持ち良くって、大っきくなるの)
どこかがペニスのイメージと重なるのか、心はクリトリスを弄りだす。


(大っきく、大っきく、大きくなあれ……大っきく、おおっきくぅう)
「んん……はぅ……ん、んん、んぅ……はぁあ! うあ、うあぁ、はぅあ」
(膨らんだぁ……ちょっと固くなったよぉ。もっともっと大っきくぅ)
ぺたりとその場に座り込んで、必死にクリトリスを弄りまわし続ける。
傍から見たらあまりにも可愛らしい、幼い少女が自慰行為に耽る姿。
まだまだ覚えたてで何の技巧も無く、ただ単純に敏感な部分を弄るだけ、
それだけでも快感に翻弄されて、夢中になってしまっている――そんな姿だ。
心にさんざん悪戯され、弄り倒されて朦朧とした意識の中で、
亜津子はそんな心の様子に気付いた。悪戯を続けるうちに身体が疼いてしまい、
幼いこころで訳も分からずに自慰を始めてしまった――いまの心は彼女の目に、
そんな風に映っている。
{心様……心様ぁ。素敵、素敵ですぅ……心様、キレイ}
可愛くて堪らない。今すぐに抱き締めて、お互いの身体を弄り合いたい。けれど、
もう腰が抜けてしまって力が入らないのだ。
「はぅ、はう、はぁう……はぅん、はぁあん、はふぅ、はぁふ、ひゃふぅ!」
(もっともっとぉ、もーっと大っきくなるのぉ!……ダメェ! ヤダぁあ)
少し膨らんで固くなったきり、それ以上は一向に大きくならないクリトリスに、
心は焦れてきている。
それは当然のことに過ぎないのだが、幼く『戻って』しまった彼には納得できない。
彼のペニスはもっともっと、ずっとずっと大きくなるはずなのだから。
ムキになってしまい、どんどん強く、乱暴にクリトリスを弄くる。
摘んだ指で擦り、ねじり、捏ねくるたびに、するどい刺激が身体を奔る。
ぽろぽろと涙までこぼしながら、幼い少女の身体を虐める心。
「ダメぇえ!! 心様、そんなに乱暴しちゃ、ダメ、ダメです。いけません!!」
「……あっちゃん? 違うの、違うよぉ……ひふ、ひやぁあ!」
そうだ、亜津子だ。彼女を可愛がってあげなくては――そのためにもペニスを……
あれ? でも? 訳が分からない、もう止まらない。

「ひゃふっ! ……ひゃ、いひゃ、ひふ、ひふぅ……はぅう、ひぃあああああ!!!」
心は軽くイってしまう。その瞬間、思い出したせいで、忘れていたことを思い出す。
亜津子といっしょ、同じ。いまの自分についているものは、彼女と同じだったはず。
でも、自分は男なのに……さっぱり分からない。
(ちんちん、ちんちん無いの? ちんちん、ボクのちんちんは? ちんちん……)
いまの彼には把握も判断もできない。ただ情報に踊らされるだけだ。
『お花』では『お花』には入らない。それでも何としても『挿入』たいのだ。
小さな少女の身体に押し込められ、幼い子供にまで『戻され』て、それでも尚、
『男の本能』は失われることは無い。
その本能の発露を、彼は二つとも根こそぎ奪われてしまったのだ。
『犯す』ことも、『闘う』ことも。
(どうしよう、どうしよう……どうすればいい?)
自らの小さな手を見つめる。思えば自分の手は、もっとずっと大きく逞しかったはずだ。
こんなに細く小さくなってしまった……
ふと、自分のペニスは丁度これくらいだったと思い出す。拳を軽く握る。そう、このくらいだ。
(あっちゃんは……入るかなあ?)
誰かにそのペニスを入れた覚えがある。きっと入るはずだ。
立ち上がり、亜津子のお尻の前にいく。ローターを入れられたまま放置された彼女は、
荒い息をつきながらぐったりしている。そっとやさしく、それを引き抜いてやる。
「はぁああ、はぁあ、ふうぅ……心様ぁ、心様ぁ」
さっき彼女の『お花』には、指が四本すんなりと入った。きっと平気だ。
普通なら躊躇するだろう。だが、溜まりに溜まった鬱屈は、幼いこころを突き動かす。
(貫イテヤル!! カキ回シテヤル!!)
右手の指の第二関節を立て、拳を握る。何も言わずに入り口にあてがうと、一気に押し込む。

ぐじゅうぅ、じゅぶじゅぶ、と湿った音がする。
「ひゃあああああ!! いやぁあ!! ひぃいっ、ひひゃぁあ!!」
絶叫が響きわたる。しかし、亜津子の膣は驚くほど柔軟に心の右手を飲み込んでいく。
「やめてぇええ!! いやぁ、ぬいてぇ!! 心様ぬいてぇ! いひゃあ、いやぁあ!」
「――ヤダ」
あっという間に、心の右腕は肘くらいまで潜り込んだ。こつん、と何かに行き当たる。
胎内はぐにゅぐにゅしてあたたかい。ぬるぬるしているのに、ざらざら、ぶつぶつだ。
右腕が気持ち良い、だが足りない。何かがまるで、決定的に足りない。
イライラする。すごく、ものすごく。腕を引き抜く、肉襞がまとわり付いてくる。
一緒に中から引き出せてしまいそうだ。こぷこぷと入り口から愛液が溢れ出す。
ぎゅじゅぎゅじゅと軋んだ音を立て、ふたたび押し込む。いっぱいに入れたら、
また引き戻す。押し込む、引き戻す。入れる、出す。何度も出し入れする。
愛液が泡立って、白く濁りだす。水飴に空気を混ぜると、白くなるみたいに。
濁ったそばから新しい愛液が溢れ、透明なそれが白いものに混じって濁っていく。
亜津子は良く分からないうわ言を喚き、絶叫を繰り返す。彼女がしんさま、
しんさまと呼ぶ声がときおり聞こえる気がする。だが、それを無視して腕で犯し続ける。

心は泣いている。訳も分からずただ涙を流している。
亜津子は乱暴に犯されながら、歓喜の涙を流し、嬌声を上げ続ける。
「ひゃあっ!! あはぁ……心様心様心様ぁ!! もっとぉ、心サマぁあ!!!」
{心様ぁ心様ぁ……心様心様心様心様心様心様心様心様心様心様ぁああ!!}
あまりにも対照的な涙。
犯され、喘ぎながら、亜津子は喜びを滲ませた瞳を心に向ける。
心が泣いていることに、ようやく気が付く。
{心様?! どうしたの? 私がいけないのぉ? 汚れてるから……私が汚いから?}
犯されているのは自分なのに、彼女は自分が心を汚しているような気がしてくる。
禁忌を犯している。自分は罪を犯している。そう思い込めば思い込むほど、
彼女の身体は奥底から火照り、快感が熱い炎のように、身もこころも焦がしていく。
彼女はもうすっかり、心の虜になっている。
「あははは! あはあははは!! きゃは、あははははっはっははっはははは……」
突然、心は笑い出す。涙に濡れた表情のない顔で。その笑い声自体は、とてもとても可愛らしい。
人形のように整った顔をまるで歪ませることなく、心は泣きながら笑い続ける。
いつまでも、いつまでも――


「藤枝さん、着替えの手配を急いで――」
「はい、3分で済ませます」
千鶴が素早く部屋を出て行く。心の前でとろけていた人と、同一人物とは思えない。
秘書としての彼女はとても優秀らしい。
「申し訳ありません。心がとんだ粗相を」
心を抱きかかえ、恋はのほほんとした口調で謝罪する。
「まったく、悪戯っ子なんだから……」
呆れている様子だが、愛の態度は普段と変わらない。
「いいえ……心ちゃんもお年頃ですもの。色々とあるはずです」
はっきりいってこの場にいる誰も、事態の異常さなどまるで気にしている様子がない。
ぽろぽろと涙をこぼしつつ、心は放心している。
愛液にまみれてぐちゃぐちゃになった衣服は、とうの昔に脱がされている。シャワーを済ませて、
その小さな身体はいま、大きなタオルに包まれている。タオルの下は患者用の院内服だ。
恋の胸に抱かれて、時おり涙を拭いてもらっている。
ぐったりしたまま動かない亜津子の『お花』に、腕を潜り込ませているところを発見されたあと、
心は一度も口を開いていない。亜津子は精も根も尽き果て、どこかへと運ばれていった。
彼女のアヌスには例のローターがねじ込まれ、尿道には愛液を集めていた管が挿入されていた。
犯され、嬲り尽くされた彼女の顔は恍惚の笑みを浮かべ、涙と涎を垂れ流していた。
そのうえ彼女は失禁までしていた。いや、させられていた。
壊れてしまったかもしれない。
しかし、亜津子の事を心配する人間は此処にはいない。それを為した心以外には……
その心とて、いまこの時は彼女のことに、思いが及ぶことはないのだ。
発見されたとき、表情の無い顔で涙を流し、笑いながら、心は亜津子を責め立てるのを止めなかった。
見開かれた瞳の奥には冷たい何かが宿り、その姿は禍々しくも透明で、ドキリとするほど美しかった。
じっさい千鶴などは、その姿に見とれてしまったくらいだ。

最初の発見者である彼女に、その透明な瞳で一瞥をくれたのみで、尚も心は責め続けた。
愛によって亜津子から、半ば無理矢理に引き離され、ようやく笑いが止まった。
そのあと、恋に抱きかかえられた途端、本格的に泣き出した。まるで赤子のように。
院内の施設を借りてシャワーを使うため、抱いて連れていかれる間も、シャワーの間も、
ずっとずっとその涙は止まらなかった。
何も事情を知らない者が見たら、心の方が『被害者』だと思ってしまっただろう。
小さく華奢な身体で仔猫のように震え、頬を染めてぽろぽろと涙をこぼす。
泣き声を誰にも聞かれたくないのだろう、声を洩らさぬよう懸命に我慢しているのが、
余計に周囲の憐れな気持ちを誘う。
ずいぶん落ち着いてきたとはいえ、心の瞳からはいまだ時おり、大粒の涙がこぼれる。
心とじかに接する四人、恋と愛に玲那と千鶴は、もとより心には大甘な人たちだ。
どうにか心の気分を変えさせ、泣き止まさせてやろうと、入れ替わり立ち代り世話を焼く。
キスの雨を降らせ、抱き締めて頭を撫で、背中や手の甲を擦ってやり――まるっきり、
親猫が生まれたての子猫をあつかうような感じだ。親猫の数が多すぎるが……
「ほーらほら、もういい加減泣くやめなって」
涙を拭いてやりつつ、愛はやさしい口調で語りかける。コクリと頷くが、心の涙は止まらない。
口を開かないのは、しゃべらないのでは無く、しゃべれないから……なのかもしれない。
亜津子との事が原因で、心はかなり『戻って』しまっている。容易に言葉を紡げないほどの、
幼いこころにまでなっていたとしても、不思議ではないくらいに。
「心ちゃんのお着替えと、昼食の準備が整いました」
千鶴が大きなカートを押してくる。
「心、今日のお昼は先生といっしょだよ――嬉しいでしょ?」
「そうなの、ご相伴に預からさせて頂くことになったの……だから、もう泣かないで、ね?」
ようやく、心は笑顔を見せる。
「せんせ……いっしょ」
たどたどしく言葉を紡ぐ。

「心ちゃん、こっちに――食べさせてあげても、よろしいかしら?」
「でも、それでは先生が召し上がれませんわ」
「そうねえ……でしたら――」
昼食は蕎麦だ。心の好物である。しかもわざわざ、心の馴染みの店から出前をとったものとみえる。
もっとも今の心に、それが認識できているのか、甚だ疑問ではあるのだが。
玲那は思いがけぬほど豪快に蕎麦を啜り、あっという間に五口ほどで平らげてしまった。
あっけに取られて皆が見守るなか、蕎麦湯を飲み下す。
「――さあ、これでいいわ。心ちゃん、お昼をいただきましょうね?」
心を抱きかかえると、蕎麦をほんの少し汁につけ、口へと運んでやる。ちゅるちゅると啜りこみ、
咀嚼して飲み込む。こんな調子では蕎麦がのびてしまう。本来の心ならば大いに嘆くところだ。
「おいしい?」
「……おいし」
頷いて、にっこりと笑う。すっかり涙も止まったようだ。蕎麦の量も心のために、
無理をいってわざわざ少なくしてもらってあるらしい。普通の、いわゆる天ざる蕎麦だ。
心の馴染みの店〈ろくごう〉の名物は田舎蕎麦。これは汁を大根下ろしの搾り汁でのばしてあり、
とても辛い。心も好んで食べたものだが、いまの『心』にはとうてい食べられまい。
何はともあれ、昼食は和やかに過ぎていく。
「お食事が済んだら、お着替えしましょうね?」
「うん」
だいぶ機嫌の直った心は、嬉しそうに頷く。
突如ドアがノックされる。
「あら? この時間には、誰もこないように――連絡したはずよね?」
「はい。もちろんです」
千鶴は即答する。玲那は休憩中であり、しかも黒姫家の人間と昼食を共にしている。
この病院で、その時間を邪魔するような者はいないはずなのだ。

「院長、入らさせてもらいます――」
男性の声。すぐにドアが開き、現れたのは心も良く知る人物だ。
田崎 康治。玲那の弟であり、現在、この病院の副院長を務めている。
心は男だったとき、玲那とより、むしろ康治との方が付き合いが深かった。
家庭教師をしてもらったこともあるのだ。面倒見の良い親戚のお兄さん、そんな感じだろう。
玲那によく似た優しげな目元、すらりとした長身で、全体に知的な雰囲気を漂わせている。
なによりその誠実な人柄は、医師として全幅の信頼を寄せるに足る人物であるといえよう。
医師としての気概もなかなかのもので、あくまで己の実力と技量を追求し、
単に親の跡を継ぐことを良しとはせず、外科医として一人立ちすることを目指していた。
その修行のつもりで留学したアメリカにおいて、緊急救命医療の先進国を目の当たりにし、
大きな感銘を受けて進路の転換を図った。
帰国後は、大学病院の緊急救命センターで勤務を続けてきたのだが、激務に継ぐ激務で、
とうとう自身の健康を害してしまい、復帰後に生家である田崎医院に戻ったというわけだ。
最初から副院長のポストがあったわけではない。周りからの後押しでその役職についた。
一度は医師として大きな挫折を味わった康治だが、このまま終るつもりはない。
平たく言えば、玲那と康治は兄弟であると同時にライバルでもある、ということだ。
ちなむと先代院長夫妻は存命で、院長の職は退いたものの、医師・研究者としてはいまだ現役である。
この先どちらが田崎医院を背負っていくかは、先代の意向によるところが大きいだろう。
今のところは玲那が、数歩先にリードしている。彼女自身が優秀な医師であり、
研究者としてもかなりの業績を残してきたからだ。しかし、もっとも大きな要因は、
彼女が心の主治医であるという、その一点に尽きる。
この町で黒姫家の後押しを得るということは、そういうことなのだ――

黒姫家が持つ影響力――それはある種の『力』によるもの――はこれまでずっと、
町のさまざまな部分を裏側から動かしてきた。それはこれからも変わらないだろう。
『それ』とは別のもう一つの力。経済力つまりは金の力、それ自体は大したものではなかった。
心たちの曽祖父の代までで、かなり没落し、資産は縮小していた。それを祖父の監物が一代で、
なかなかのレベルにまで回復・増大させ、そのままそれを父ではなく、母が継いで保持した。
恋の代になって、たったの数年で、黒姫家の資産はこれまでにないほど膨れ上がってきている。
彼女の投資資本家としての嗅覚は非常に優れている。祖父と恋の双方を知る者はほぼすべて、
恋の手腕が祖父以上であることを認めている。
彼女はいずれ、心に黒姫家を継がせるつもりで、自分はその時まで預かっているに過ぎない、
そのように考えていたらしく、こと在る毎にそれを匂わせた。しかし、
彼女によって保持され、増やされた資産はとうぜん彼女のもの。それに自分には姉のような才はない、
そのことも分かっていたから、心はこのまま恋が、黒姫家を正式に継ぐべきだと考えていた。
心もさすがに、今の資産が祖父の代のざっと数倍にまで及んでいるとは、知る由もない。
もっとも、知ったところで、心の考えが変わるわけもない。
彼はあくまで、己の力のみで生きていくつもりだったのだ。ゆくゆくは家を出て、
黒姫家とはまったく関わりを絶ち、一人の男として、格闘家として身を立ててゆくつもりだった。
それはすなわち、父を超えることに他ならないからだ――

「こんにちは、お久しぶりです」
院長室に入ってきた康治は、さわやかな笑顔で挨拶をする。余計なことを言わない辺り、流石だ。
「お久ぶりです」
「どーも、お久しぶりです。彼女はできました?」
愛はやはり、余計な一言をいう。
「いいえ。残念ながら」
さらりと笑顔で返す。

康治は玲那に抱かれた心に目を向けると、これまでより尚一層やさしげな笑みを浮かべる。
「こんにちは、心ちゃん。久しぶりだね」
「……こんにちは、康治せんせい……お久しぶり、です」
玲那に優しく介抱され、甘えたおかげで落ち着いたのか、多少は本来の心に帰ってきている。
少なくとも、康治を認識して挨拶を返せる程度にまではなっているようだ。
「どういうつもりです? 副院長、いまはお客様がみえていらっしゃるのですよ。
しかも、お食事の最中です」
玲那から静かな叱責の声が飛ぶ。それを受けて、真正面から視線を合わせると、
康治の表情はにわかに真剣なものになる。
「その点についての非礼は、お許しいただきたい。ですが院長、いや、今はあえて姉さんと、
そう呼ばさせてもらいます――あなたはまた、『あの事』に絡んで騒動を起こしましたね?
少しは自重してもらいたいと、何度も申し上げたはずです」
間違いなく、心が亜津子に対してしてのけたことを指して言っている。
それにどうやら、康治は玲那の『趣味』に関して、知っているらしい。
さすがに兄弟だということだろう。隠し通せるものでもない。
「そのことに関してなら、このあと説明します。康治、とりあえず今はお下がりなさい。
あなたはレディに恥をかかせる気ですか?」
いまの心の姿を指しているのだろう。心は下着も着けずに院内着をきて、タオルに包まれている。
千鶴以外の職員を誰も部屋へ通さないのは、心の姿を晒さないようにするために他ならない。
ましてや男などもっての他だろう、たとえ康治が、玲那の弟だろうが関係ない。
それらをすべて察したらしい。
「分かりました。私も女性に恥をかかせるような真似をしたくはありません。
隣で待たさせてもらいます――失礼しました。皆さんには今回の非礼をこころからお詫び致します
――心ちゃん、ごめんね。恥ずかしい思いをさせてしまった……」
心に対して、きっちりと頭を下げて詫びると、静かに部屋を出て行った。
***********************************************

「心ちゃん、あんよを通してちょうだいね」
玲那は白いショーツに心の肢を通していく。控えめだが上等のレースに縁取られているものだ。
赤いリボンのワンポイントが可愛らしい。ブラジャーも同じデザインのセットだ。
恋と愛の前だったら、素裸を晒すことは別に恥ずかしくもない心だったが、
さすがに玲那や千鶴に見られるのは、恥ずかしいと感じるようだ。真っ赤になって俯いている。
下着を着けてもらったところで、玲那の手で日焼け止めのクリームが塗られていく。
「これは、今日から処方しようと思っていた新しい日焼け止めなの。今までのものより、ずっとずっと、
お肌にやさしいからね。しかも効果も高いの。だからこれからはもう、ファンデーションなどは、
付けなくても大丈夫ですよ。なるべく、お肌に負担をかけないで欲しいから……」
「先生、優しいってどのくらいですか?」
愛は興味を惹かれたのか、すかさず質問する。
「舐めちゃっても平気なくらいです。それこそ、赤ちゃんが……完全に無味無臭ですし――」
あの『やさしい』手で、丁寧に丁寧に塗りつけてゆく。とても心地良くて、心は感じてきてしまう。
「――あ、ん……」
背中に触られて、ゾクゾクしてしまった。心のそんな様子をみて、恋と愛は笑っている。
用意された着替えは、セーラーカラーの黒いワンピースだ。胸元に白いスカーフが、
リボンのように結ばれる。こちらもやはり、ところどころにレースがあしらわれている。
周りの人間が『心』に似合う服を選ぼうとすると、どうしてもこういう衣服になってしまう。
実際とても似合うし、無理も無いことなのだが、本来の心にしたら複雑なところだろう。
いまの状態の心は、そのことをあまり気にしていないようだが……
すっかり着替えも済んで、待合室で待つ康治を、千鶴が招き入れる。
「――おや。心ちゃん、とても似合っていますね」
心は真っ赤になって俯き、もじもじとし始める。まるで本当に、本物の女の子のようだ。
どうしてこんな風になってしまうのか、心本人にも分からない。
そんな心のようすを見て、部屋にいる誰もが微笑を浮かべる。可愛らしくてしょうがないのだ。


「心、康治先生に、もっとちゃんと見てもらったら?」
愛は悪戯っぽい笑みを浮かべている。心は小さな胸をかき抱くように組んでいた腕を下ろし、
その場でゆっくりと回転する。ふたたび正面を向いて、きちんと一礼する。
ほぼ完璧といってよい、上品な所作だ。
「これはご丁寧に、ありがとうございます――とても可愛らしいお嬢様だ」
康治はやさしげな微笑を浮かべると、最上礼で返す。気障だが厭味ではないのが、彼の美徳だろう。
「ありがとうございます」
自然とお礼の言葉が口をついた。心にもよく分からないが、嬉しかった。
笑顔のまま恋と愛の待つソファーまで移動して、二人の間にちょこんと座る。
「さきほどの話の続きですが、お客様のいらっしゃる前で、よろしいのですか?」
「構いません。黒姫家の皆様には、聞いていただかなくてはいけませんから……」
玲那は即答する。若干その瞳が厳しいのは、真面目に話しをする気だからか、それとも、
心と康治が親しげにしたことが気に入らないのか。
「そうですか。では、他でもない国中看護婦ですが、先ほど確かめたかぎり、特に異常はないようです」
それを聞いて、心はほっとする。
「まあ、あなたも座ったらどうです?」
「いえ、このままで結構」
「そう――やっぱり、大丈夫だったみたいね。あの娘は特別『強い』子だと思ってたけど、予想通り」
玲那はにこやかだ。ちょっとした予想が当って嬉しい、といった感じだ。
「そういう問題ではありません! 確かに今回は大事に至らなかった。しかし、人道的に見て、
とうてい許せる行為ではない。以前から申し上げているはず、姉さんの『趣味』については、
口出しするつもりは無い。しかしもう少し考えていただきたい、と。万一このことが世間に知れたら、
病院の信頼どころか、患者さんにまで妙な目が向けられることになりかねない!」
「大きな声を出さないで。心ちゃんを怖がらせてしまうでしょう?」
「姉さん! 真面目に聞いて下さい! 彼女の前任者の時も、その前もずっと言ってきたはずです!」
「あの娘も、その前の娘も、みんな自分から望んで私と仲良くしたのよ? あの娘たちのうち誰一人、
私に恨み言をいうような娘はいないわ」

「そうかもしれないが、世間の目があることを忘れてもらっては困ります! たとえ、
彼女たちがどうであろうと、周りの評判が――」
「はっきりおっしゃいなさい。もう、姉さんのお下がりは嫌ですって……」
「な!! 私はそんなことを――」
玲那はあくまで静かに、落ち着いたトーンで話を続ける。
「知らないとでも思って? あなたがあの娘たちの何人かと『仲良く』してること。一人二人とは、
とくに『仲良く』してるみたいねえ? 楽しいでしょう? それで、こんどはお下がりじゃない、
新しい娘が欲しくなった。ね、そうでしょう? 特に国中さんのことは気になってたみたいね」
「違う!! 私は姉さんとは違う! 彼女たちとは――」
「何が違うの? 彼女はいない、なんて嘘までついて。ただのお友達だとでもいうつもりなの?
あなたはただの友達と、あんな事までしちゃうの?」
「それは……お互い、大人の男女として」
「いいのよ。あなたを責めたりしない。正直になって……あの娘たち、とっても可愛かったでしょ?
とっても綺麗だったでしょ? 女の子は優しく可愛がってあげれば、みんなみんな、あんなにも、
可愛くなれるの」
康治は答えない。俯いたままだ。尚も玲那は続ける。
「男の人ってみんなそう。女の子を欲しがるくせに、可愛がってあげるのがとても下手なのよ……
康治、あなたも、もう一人前の男でしょう? いつまでもそんな調子じゃ、心配だわ――それに、
国中さん、あの娘はとっても喜んでいたはずよ? どう?」
「え、ええ。本人は意識もしっかりして、その、溌剌としていました。すぐに仕事に戻りたいと……」
それを聞いて、心はほっとする。
(あっちゃん、平気……大丈夫――)
「――でしょうね。だってあの娘は、とっても喜んでいたもの。私にはわかるの。だって、
だってあの娘は、心ちゃんに可愛がってもらえたのよ? 嬉しくないわけないじゃない」
「待て! 待てよ、待ってくれ! 冗談でしょう? 姉さん、嘘だといってくれ!!
心ちゃんが、彼女を? そんな莫迦な!」

「嘘でも、冗談でもありません。あの娘は、身に余る光栄に感謝するべきだわ。心ちゃんよ?
心ちゃんに可愛がってもらえるなんて……」
玲那の表情に、初めて変化が起こる。ほんの微かに、だが確かに瞳の奥に現れた色は、嫉妬……
「嘘だ! 嘘だッ!!」
「……ごめんなさい。ごめんなさい!!」
二人のようすを見て、黙っていられなくなった心は、叫んで立ち上がった。すでに瞳は潤んでいる。
ゆっくりと康治の側まで歩み寄り、彼の手をとった。
「心ちゃん?……」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい――ボクがいけないの、いやらしい悪い子なの。
だから、だから、けんかしないで……悪いのは僕です。ごめんなさい、ごめんなさい……」
「本当に、君が?」
コクリと頷く。
「ボクが……やったの。あっちゃんに、えっちないたずらを、いっぱい、いっぱいしたの。
あっちゃんが喜んでくれると思って、気持ち良くって、いっぱい、しました……
ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
小さな両手で、康治の手を包み込むように握り、小さな胸に押し付けてぎゅうっと抱き締める。
せっかく泣き止んだばかりなのに、ぽろぽろと大粒の涙をこぼしながら。
康治の手に、柔らかくあたたかい感触が、温もりが伝わってくる。あたたかい涙が、こぼれてくる。
そっと、彼の手が心の髪を撫でる。ハンカチを取り出し、涙を拭いてやる。
「いいんだ、君は悪くない。君は国中さんを喜ばせてあげようとしたんだ、そうだね?」
「……うん」
真っ赤な顔で頷いて、康治を見上げる。
{きっと、何も分からずに――きっと、絶対にそうだ}
「君は悪くない。いけない子なんかじゃ、ない。責められなくてはいけない人がいるとしたら――
それは姉さん、あなただ。あなたが良からぬことを吹き込んだせいで、心ちゃんは苦しんでいる。
何よりあなたには、この院内で起こったことに対する責任がある。ましてや今回の件は、院長秘書室、
あなたの目の前で起こったことだ。管理責任はあなたにある」
「たしかに、そうね。その通り……でも、あの娘は、それを訴えたりしないわ」

「ダメぇ!! けんか、しないで。いけないのはボク、悪いのはボクだから!」
「その通り」
「ええ、その通りです」
これまでずっと黙っていた恋と愛が、初めて口を開いた。
「今回の件は、うちの子が、心が仕出かしたことです。万一の責任は心が、保護者の私がとります」
「……恋お姉ちゃん」
「恋姉の言うとおり、うちの悪戯っ子がやったことの責任は、うちでとるべきね――でも、
どうするの?」
「こういうのはどう? 国中さんが、看護婦のお仕事を続けられないようなことになってしまったら、
その時は……うちで雇って差し上げるの」
「いいわね、それ。私もこれから先は忙しくなるかも知れないし、人手があった方が助かるもの」
「ね? いいでしょう。住み込みのハウスキーパーさんよ。ご本人に確かめないといけないけど」
「あっちゃん、うちにくるの?」
心は嬉しそうだ。なにせ、お気に入りの亜津子が家にくるかもしれないのだ。
「まだよ、万一の時、それにご本人に確かめないと、ね?」
恋はあくまでのほほんと、心を落ち着かせる。
「しかしそれでは、院長の責任問題が……」
「この話はこれでお終い。よろしいですね?」
恋に真っ直ぐ見据えられて、はっきり言われてしまう。黒姫家の現党首の言葉だ。
何より、静かな微笑を湛えながら、その瞳には有無を言わせぬ迫力がある。康治も頷くしかない。
玲那は内心おだやかではないが、正面から恋に異を唱えることなどできない。
***********************************************
帰りがけ、心は玲那に自ら抱きつくと、口付けをしてきた。皆がいる前で恥ずかしがりながら、
それでも一心に玲那を求めてきた。
「せんせい、大好き。また来るね――それと、こんど、家に遊びにきて……」
耳元で囁く。それだけで、玲那の気はずいぶんと晴れた。

自分は心に好かれている、求められている。その自負は、何より彼女の喜びとなる。
しかし、それを脅かす、その可能性のあるものがいる――亜津子だ。
{心ちゃんの、心ちゃんのところに、行かせたりするものですか!!}
たかが『ペット』の分際で、自分の大切な心に可愛がられるなど生意気にもほどがある。
{いくらでも補充のきくペットのくせに、ペットのくせにペットのくせにペットのくせにペットが
ペットがペットがペットがペットがペットペットペットペットペットペットペットペットペット……}
玲那は亜津子の病室へと向かう。これまで何人もの『ペット』たちを『壊して』きた、
お気に入りのおもちゃを携えて……



窓の外を見慣れた風景が流れていく。やわらかな日差しが心地よい。
瞬く間に2週間が過ぎた。あの日から始まった、心の女の子としての日々は概ね平穏なものだ。
もっともそれは、何かことある毎に『戻って』しまう心には、事態の把握ができないことを、
ただ単に、『心地良かったこと』として認識してきた結果に過ぎない。
1人きりでの外出、入浴や自室での就寝を、怪我や体調など何かと理由をつけて禁じられてきた。
恋や愛と一緒に入浴したり、同じベッドで寝るのを強要されることは、
さすがに勘弁してもらいたかったが……結局いままでのところ、逆らうことはできていない。
最近では、逆らう気も起きなくなってきている。どうでもいい、と思ってしまう。
本人の預かり知らないところで、こっそり身体を調べられたり、悪戯されたりしているのは、
心が認識できない以上、無いも同じことなのだ――

いま心は、ある人物と会うため、待ち合わせ場所にむかう電車内で、
見るとは無しに外の風景を眺めている。
女の子になってから、初めての1人での外出。
恋を説得するのが大変だった。両足の打撲はすっかり良くなって、もう包帯も取れている。
それを理由になんとか押し切り、1人での外出を納得させた。

不安定な天秤のように、心のこころは行ったり来たりを繰り返しているが、
そのことを自覚できるわけではないのだから、尚更に、いまの心は危険な状態だと言える。
奇跡的に今朝は、ほとんど本来の彼に『帰って』いる。
これから心が会いに行く人物は、彼の人生において最も信用するに足る、第一の親友だ。
同時にその男は、最も激烈な闘いを繰り広げてきたライバルでもある。
男の名は、嶋岡 清十郎

待ち合わせに少し遅れてしまった心は、急いでその場に向かう。恋を説得するのに時間をとられ、
その後にも着替えやら、色々と時間をとられたせいだ。
それに何だか、さっきからジロジロ見られている気がする。居心地が悪い。
(……面倒だよなぁ――いた)
清十郎はどこにいても目立つ、鍛え上げた193cmの長身では、目立つなというのが無理なのだ。
とりあえず声をかけてみる。
「やあ、清十郎――ボクだ、心だよ」
清十郎は一瞬、何事かと考えるも、すぐに苦笑する。
「すまんが、悪いが冗談はやめてくれ。お嬢さん、誰に頼まれた? 君に頼んだヤツに、
こころ当りはあるんだが……あの野郎」
「…………」
(やっぱり、だめかぁ)
もしかしたら、彼なら分かってくれるかも知れない。そんな考えが心にはあったのだが、
やはり駄目なようだ。そのために、男の時と同じような服装で来たというのに――
今日の心はレザーパンツに白いシンプルなシャツ、ワークブーツといういでたちだ。
(これなら……どうだ?)
するすると、ごく自然な感じで間合いをつめる。笑顔を浮かべつつ、心の左足が跳ね上がる。
上段前蹴り。心の得意な技の一つだ。ブーツのつま先がピタリと、清十郎の水月に当てられる。
二人の身長差のせいで、顔にはとうてい届かない。だが、
「――マジかよ……お前、本当に? 心……なのか?」
「ああ、そうだよ。久しぶりだね」
「いったい、どういう訳だ? 説明してくれ」
「頼まれなくても、してあげるさ。とりあえず、クールベにでも行こう。ここじゃ、ね」
「そうだな」
清十郎は辺りを見回す。どう考えたってワケありだ。路上でできる話ではないだろう。

喫茶〈クールベ〉、心と清十郎の馴染みの店だ。二人がつるむようになった当初から、
この店にはよく来ている。常連というわけだ。
「おや? 珍しいですね、嶋岡さんが透子さん以外の女性と一緒なんて」
立派な髭が目立つマスターが、注文を取りにくる。
「ひょっとして……浮気ですか? 関心しませんねぇ――考えたみたら、
黒姫さんや透子さん以外の人と一緒のところ、初めてみましたよ」
「なんすかマスター……俺、それじゃあ、友達いないみたいじゃないすか」
「違うんですか?」
「もーいいっすよ。ブレンド」
「はい。あ、秋月さんもいましたね」
「ああ、百合っすか……って一人!? 合わせて三人?!」
「そちらのお嬢さんは、何にいたしますか?」
「無視か?!」
「カフェオレと、ガトーオペラ、チーズスフレをハーフで」
「かしこまりました――お嬢さん、うちの売りを良くご存知ですね、誰かに伺ったのですか?
それにこのオーダー、黒姫さんみたい……」
清十郎は慌てるが、心は平然としている。
「――マスター、この子は」
「初めまして、黒姫 心です」
「あら! 黒姫さんと同じお名前?」
「はい、従兄弟です」
「まあ、そうなんですか。それでねえ、なるほど――黒姫さん、お元気?」
「……ちょっと、遠いところに……武者修行にいってます」
「黒姫さんらしいわねぇ――それでは、少々お待ち下さい」
マスターが戻ってゆく。
「よくもまあ、あんなにスラスラと言葉がでたもんだな」
「前もって多少は準備しておいたよ。当然のことだろう?」
小声で話す。ややあって、注文の品が届く。
「では、どうぞごゆっくり」

おねえ言葉がときおり飛び出すマスターだが、きちんとした妻帯者だ。
店は夫婦で切り盛りしている。お菓子全般を奥さんが作り、マスターは軽食と飲み物、接客担当だ。
ここのケーキとコーヒーは美味い。心は先ほど頼んだ二つが特に好みだ。
ケーキはラージ・レギュラー・ハーフで大きさが選べる。レギュラーでも小さめなので、
ハーフだと二個でも、その量は知れたものだ。
「しかし、朝からケーキとは、朝飯抜きだったのか?」
「ううん。違うけど、すぐにお腹空くんだ。この身体」
女の子になって、一度に食べられる量は極端に少なくなった。
同時に、頻繁に空腹を感じるようにもなった。一度の食事量が減ったことを考えれば、
当然といえるのかもしれない。これまで家にいるときは、朝・昼・晩の三食に、
午前と午後のお茶があった。いまは午前のお茶の時間を、少し過ぎたところだ。
それにもう一つ、極端に寝起きが悪くなり、睡眠時間も延びた。一日八時間以上は寝ないと、つらい。
なんだか、食べて寝るだけの小動物にでもなったみたいで、面白くない。
「それで? いったいどうしたわけで、そんな身体に?」
「実は――」
心はとりあえず、自分について知っている情報を、ほとんどすべて話した。
二週間ほど前、とつぜん女の子になってしまったこと。原因は分からないこと。
家族や周りはみんな、最初から心が女の子で、末っ子だと認識していること。
それから、だんだん自分が『おかしく』なり始めていること。
「なんていうか、ときどき頭がポーッとするんだ。頭がきちんと働かない。それに、
わけもなく、急に怖くなったりする。すごく、すごく怖いんだ」
ケーキを突付きながら話す心の所作は、もうすでに、ほとんど完璧に女の子のものだ。
座っている心の膝は、内股気味にピタリと閉じられていて、男のように足が開くこともない。
小さな口で上品に、少しづつケーキを食べている。


上目遣いで見上げてくる心に、清十郎は見惚れている。
大きいくせに黒目がちな瞳、目尻は少し上がり気味だ。細く高い鼻、薄桃色の小さな唇、
すべてのパーツが絶妙なサイズとバランスでそれぞれの位置に収まっている。
透けるように白い、剥きたてのゆで卵のような肌。明るい栗色の、つやつやしたやわらかな髪。
すらりとしなやかにのびた四肢。抱き締めたら壊れてしまう、そう確信できるほど華奢な身体。
なんだか甘い香りが漂ってくるような気もする。
見れば見るほど可愛いらしい、間違いなく極上の美少女だ。
子供っぽいことを別にすれば、であるが――それとて好みの問題にすぎない。
頼りなくて儚げな、その全身で仔猫のように――私を守って――と、
庇護を求めているかのように見える。
「……清十郎?」
「――あ、すまん。ちょっとな」
「ひょっとして、疲れてる? ごめん……へんなことに巻き込んじゃって」
清十郎はすでに社会人として働いている身だ。今回は少ない休みを使って、
わざわざ心に付き合っている。ちなみに今日は金曜日、平日だ。
「いや、そうじゃない。気にしないでいい。それに、お前が自分から俺を頼るなんて、珍しいからな」
心と彼の関係はどちらかというと、清十郎が心にお節介を焼いてきたかたちなのだ。
「しかし、こうなっちまったら、電話も使えんわな。道理でメールで連絡してきたわけだ」
「うん、この声で電話しても分からないだろうって――それにしても、よく信じてくれたね?
ボクが心だって」
「アレを見せられちゃあな。信じないわけもいかねぇさ――それだけじゃないけどな」
「え? 蹴り以外に何かあるの?」
清十郎は自分の瞳を指さす。
「ココだよ。ココ」
「目?」
「そうだ、お前の目、いや、瞳だよ。お月さんだ」

当たり前すぎて忘れていたが、彼の指摘で思い出す。自分の瞳には、かなりの特徴があることを。
心の瞳の色は、琥珀色なのだ。しかも右目のほうが少し明るい、オッドアイだ。
清十郎はそれを称して、『月』だとか呼んでいた。
心は自分が女の子になった最初の朝、なぜ自分を自分と認識できたのか分かった気がした。
もしこれが普通の黒い瞳だったら、逆に違和感を感じていたはずなのだ。
清十郎はふたたび心に見惚れながら、目の前の少女に間違いなく、
親友の面影が残っていることを感じていた。
{そうだ、この目だ}
***********************************************
初めて心を見かけたのは、高校の入学式の日だった。はっきりいって、やたらと目立っていた。
小柄な、線の細い美少年。出会った頃の心はまだ鍛え込む前で、ひ弱でこそないものの、
逞しいという感じではなかった。顔も女顔で、下手な女子よりずっと整っている。
それでいて妙に自信ありげというか、堂々としているというか……背筋を真っ直ぐ伸ばして、
(自分には、何らやましいところはない)
とでもいいたげな感じ。それでいて、なんとなく影があるというか、印象が柔らかいというか、
寂しげな雰囲気も漂わせる。
二人は同じクラスになった。
心はクラスの女子たちの間でも、すぐに騒がれていた。男子より、女子と打ち解ける方が早かった。
二人の通った高校は新設校で、彼らが一期生だ。クラス分けは入試と入学直前の、
テストの成績で決められていた。彼らのクラスは、その最上位クラス、J組だった。
いざ高校生活が始まって、心はどんどん目立つようになっていった。勉強は出来る。スポーツも得意。
おまけに容姿も良いときている。あっという間に校内でも有名人になっていた。
一方の清十郎も、この高校へ最大数の生徒を送り込んだ、地元の中学の主席卒業生だった。
彼の家は地元でちょっとした名士であり、清十郎自身も小・中学時代から、
自然と人の輪の中心にいるような、男女を問わずもてるタイプだった。
心はわざわざ、他県の新設校へと進学していた。同じ中学出身の生徒は女子が一人だけだ。

まだこの頃、清十郎と心は特に親しくしていたわけではない。
ただ、ことある毎に、お互いが――
「「こいつ、できるな」」
という印象を持っていただけだ。
そんなある日、ちょっとした事件が起こった。どこにでも『そういう』輩はいるもので、
この高校をシメようという連中が現れたのだ。彼らはA組の生徒たちで、彼らの弁によると、
「お勉強ばっかりのヤツラに根性で負けっかよぉ」
だそうな。それでBから始まり、順番に一クラスづつシメていった。
やがてゴールデンウィークも明け、五月も半ばを過ぎた頃、心たちのクラス、J組の番がきた。
このとき、最初の標的にされたのが心だったのだ。とうとう最後のクラスになって、
A組の不良くんたちの意気も相当に上がっていた。同時に彼らは慎重にもなっていた。
J組には清十郎がいたからだ。実は不良くんたちの中心は、清十郎と同じ中学出身だった。
清十郎は強い、レベルが違う。彼の家は十代近く続いた古武術の宗家なのだ。
しかも彼は中学卒業前に、皆伝の免状をもらっていた。すでに家は兄が継ぐことが決まっていたが、
それは何も、兄の方が強いからではない。むしろ逆だ。清十郎の天才ゆえに、彼は家を出て、
独自の道をゆくことを期待されたためだ。そして彼自身、己の道を生きることを望んでいる。
そんな清十郎だから、もとより不良くんたちのような連中のすることに興味などない。
しかし、頼まれたら嫌とは言えないお人好しなところもあって、
不良くんたちがあまりに横暴な真似をしたときは『懲らしめて』きたことが、何度もあった。
中学時代から清十郎に、さんざん煮え湯を飲まされてきた不良くんたちは考えた。
いまさら数を恃んだところで、ヤツに勝てるかどうかは疑問だ。
それよりも、清十郎以外のJ組の連中を叩いてはどうだろうか? 
その上で、話し合いという形で手打ちに持っていく。これなら、こちらの面子も立つ。
上手くすればクラスメートを人質にすることで、ヤツに一泡吹かすことすらできるかもしれない。
なかなか考えたものだ。

清十郎は不良くんたちのいう『面子』になど興味はないから、クラスメートに手を出さない代わり、
この高校は俺達がシメたと認めろ、と言われれば簡単に承諾してしまうはずだった。
その最初の標的に心が選ばれたのは、単純な理由だ。
誰も良くは知らない、他県からきた優等生。女どもにキャーキャー騒がれているのも気に入らない。
何より、外見上は荒事が得意そうには見えない優男だ。
ガリ勉野郎の集まりの、J組の代表のようなアイツこそ、最初の獲物にふさわしい。
さっそく、心が放課後の屋上に呼び出された。なるべく強面でない連中をつかってだ。
「うん、いいよ」
なんの疑問もないようすで、心はついてきた。
{こいつ……アホか?}
呼び出しに出向いた連中は、心のあまりの無防備さにこころの中で呆れていた。
この様子を、不良くんたちの顔を知る、北原という清十郎の友人が見ていたのだ。
北原は清十郎を探し出し、そのことを伝えた。
「嶋岡!! 黒姫が、例の優等生がA組の連中に呼び出された!」
「マジかよ……高校生にもなって、進歩がねえ奴らだなあ。んで、どこだ?」
「屋上だよ。間違いない」
「いつも通りかよ。ほんとに進歩のねえ……で? 黒姫はついてったの? のこのこと?」
「ああ、なんか普通の顔して」
「アイツもそんな莫迦だとは……そんなヤツには見えんかったが、なあ?」
「いや、普通って、そういうんじゃない。なんつーか、女の子に呼ばれたときと同じようで――」
「ふーん?」
わざわざ清十郎を探した北原も、それを聞いて一応ようすを見に行く清十郎も、お人好しなことだ。
だが、この件があったおかげで、さらには、北原と清十郎がお人好しだったおかげで、
二人は『出会う』ことができた。だから心は、今もこころの底で感謝している。

「おーい、五島。うちのクラスのヤツをいじめんでくれい」
屋上についた清十郎はのんびり声をかけつつ、扉を開いて回り込んでいった。
そこに、いた。
沈む夕日を受けて照らし出され、静かに佇む少年。まるで一枚の絵画のようだ。
金色の光の中で、彼の瞳は美しく輝いていた。だが、どこか寂しげに遠くを見ていた。
{きれいだ……うん、きれいだな}
清十郎は素直にそう感じた。事実、心は美しい。昔も、今も――男女の違いなど問題ではない。
「やあ、わざわざ来てくれたの? やさしいんだね。えっと、嶋岡くん?」
「清十郎でいい。黒姫――だったよな」
「僕も、心でいいよ」
「そうか」
「うん」
周りを見れば、不良くんたちの中心メンバー、五島以下三名が転がっている。
「お前がやったのか?」
心の両手は血に染まっている。
「うん。でも本当は、君に用事があったみたい――不味かった?」
「うーん……まあ、俺は困らんのだが。ちと、やり過ぎだな」
「そう思う?」
「他の連中は、逃げちまったか……しゃあねえ、運ぶぞ。手伝ってくれ」
くすくすと心は笑う。
「何か、おかしいか?」
「やっぱり、君はやさしいんだね。清十郎」
「その通りだ。俺はやさしいぞ、すごーく、な」
胸をはって清十郎は答えた。しばらくの沈黙。
二人は顔を見合わせて笑った。

「――なにか、やってるのか?」
「ううん。あ……いいや、空手を始めたところ、かな」
「そうか」
「試す?」
「やめとけ。俺は強いぞ。やさしいが、その倍くらい、強い」
「知ってる、だから」
「そうか。じゃ、試すだけだぞ? 心」
「うん。勝てないの、分かってるから――やさしくしてね?」
「ああ、いつでもいいぞ」
心が両手をさげたままの姿で、事もなげに、するすると清十郎に近寄っていく。
その、水が流れるかのごとき自然さに、さすがの清十郎も、
{あ……}
おもわず腰を浮かした。このように大胆で、しかも自然な接近を経験したことがない。
あっという間に、二人の間合いがせばめられた。
こうなっては引くも退くもない。
心の足が跳ね上がり、前蹴りを放つ。
「鋭ッ!!」
「む!」
からくも両腕でガードした清十郎は、目を見張った。
{重てぇ!}
心の体格からは想像できないほどに、重く、鋭い蹴り。
つづけざまに数発、ガードの上に叩き込まれる。
ガードした腕がしびれてきた。回し蹴りではない、前蹴りなのだ。
それなのに、この威力。腰の入り方が違う。バネが、筋力が、柔軟性が桁違いだ。
{長げぇ! 速えぇ!}
身長は清十郎の胸ほどまでしかないのに、足が長い。おかげで間合いが微妙に広い。
そのうえスピードがすごい。蹴りそのものも、移動も、両方だ。

小刻みに位置を変えているが、決して単純な前後移動はしない。
斜め、左右に動き、射線を微妙にずらしてくる。前後移動をしても、きちんとフェイントを効かす。
さらに、突きを見舞ってくる。突きも、蹴り同様に鋭く、重く、はやい。
突き蹴りをおりまぜた、コンビネーション。
さばきながら、清十郎も突きで応じる。だが、当らない。
ガードとか、さばくのとは違う。きっちりとかわしている。
{こいつはスゲェ! たいしたもんだ。五島たちじゃ、相手にならん}
突き蹴りの型自体は空手のものだ。だが、身体の動きは違う。空手では、ない。
もっと自然な、動物のような動き。突き蹴りで、ボクシングをしているような、そんな感じだ。
{キックとも違う。んなことより、やべぇ。このままじゃ、負け……勝てない? そういや}
――先ほど、心は言った。
「ううん。あ……いいや、空手を始めたところ、かな」
「うん。勝てないの、分かってるから――やさしくしてね?」
{空手を始めたところ、勝てない……そうか}
このままでは、負けるだろう。ならば、思いつきを、即実行する。
怪我を覚悟で、前蹴りを受けながら、足を掴む。
「ヴっ!!」
ぎりぎりで、水月にも、肋骨にもダメージをもらわずにすんだ。
足を取られたまま、心はさらに蹴りを見舞ってくる。
中足での回し蹴り。引き倒して、ぎりぎり避ける。
{危ねぇって! もらったら、終ってたな}
「ぐぅ!!」
背中から叩きつけられた心が、はじめてダメージをうける。
このままマウントにもっていきたいが、身体のわりに長い手足が、邪魔だ。
{こうすりゃ、どうだ?}
足をからめて、関節技にもっていく。そのまま中腰で、心の重心を操作できる位置にのる。

心は下からの掌底を繰り出し、抵抗する。
「うっ!」
{肩から先のひねりだけで、これかよ!!}
とんでもない。まさに、天才。いや、それ以上だ。
顔や顎に数発くらいつつ、腕をからめとる。頭がくらくらする。
心の長い手足と、二人の身長差の両方を利用し、即興の、超変則マウントポジションが完成する。
「手間ぁとらせてくれたな?」
心はあいかわらず微笑をたたえたままだ。最初から、ずっと表情を崩していない。
清十郎が拳を振り下ろす。
ピタリと、心の鼻先で拳が止まった。
手をほどくと、軽い平手打ちを頬に喰らわす。
「やっぱり……やさしいんだね、清十郎。参ったよ、僕の負け――強いな」
清十郎はなぜか、心の顔を殴る気になれなかった。だから、平手でお茶を濁した。
別に理由があって、憎んで遣り合ったわけではないから、これでいいと思った。
負けを認めさせたとはいえ、清十郎の方がずっとダメージは大きい。
「――たくよぉ! ぼこぼこと、人様を殴る蹴るしやがって!!」
「ごめんね。手加減は、まだまだできないんだ」
「んなこったろうと思ったよ。おかげで男前が台無しじゃねえか……」
「そう? あんまり変わらないよ?」
「てめぇ!!」
ふたたび、大声で笑いあった。
この日から、二人はつるむようになった。
試合やスパー以外で二人が遣り合ったのは、いまのところ、この時が最初で最後だ。
***********************************************
コーヒーを一口、啜る。
「――で。いま、お前いくつなんだ?」
みたところ、ずいぶん幼い感じを受ける。気になって尋ねた。

「えっとね、15歳だよ」
「そうか……ちょうど同じだな」
「なにが?」
「俺達が出会った時と、だよ」
「でもボク、遅生まれだったから、あのときもう16だったよ」
「そうだったな。でも、高一なのに変わりはないんだろ?」
「それがねえ、ボク、高校いってないんだ。やめちゃったみたい」
「またかよ!」
「なんかねぇ、理由は分からないんだけど――」
***********************************************
つるむようになってすぐ、二人は『格闘クラブ』をつくった。
とはいえ、顧問がいるわけでもなく、練習場があるわけでもない。
メンバーも二人だけで、正確には『名乗った』というべきだろう。
適当な場所で、二人でじゃれ合っていただけだ。
清十郎は生家の流派、『嶋岡当流』の技法をいくつか心に手ほどきした。
心はそれを、瞬く間に吸収していく。清十郎も、さすがに舌を巻いた。
{やっぱり、こいつはすげえ……}
清十郎はまぎれも無い天才だ。それは周りの多くの人が認めるところだ。
その彼をして、心の才能が恐るべきものであることは、疑いようがなかった。
彼は心を家に招き、道場での鍛錬に付き合わせたりもした。
心はそのころ、父による空手の手ほどきを受け始めたばかりだった。
正式に、何かの道場に通うべきだという、清十郎の勧めを、いつも笑って受け流す。
「つまらない、こだわりがあるんだ……ほんとに、ちっぽけな」
もとより多くを語るような、多弁な男ではない心が、清十郎と付き合ううち、
ぽつりぽつりと、その過去と少々複雑な心情とを、もらすことがあった。

「――親父を打ん殴るのに、親父に空手をならう、ねぇ……お前、変わりモンだな」
「へん……かな? やっぱり?」
「うむ! そうとうな変人だな、もしくはファザコンの一種だ! 間違いない!」
「ひどいなぁ……でも、そうかもね」
「しかも、親父をとっちめたい理由は、お袋さんのことだろ? マザコンでもあるな!」
「うぅー……否定は、しないよ」
まったくの偶然だが、二人はかなり近い時期に、母を亡くしていた。
母を思う気持ちは、清十郎もわからぬわけでもない。
「それに、あれだろ? お姉さんと妹さんも、自分が守りたいっていうんだろ?
シスコンの気もあるときた。完璧だな、いわばファミリー・コンプレックスだな!!
略して、ファミコンだ!!」
ビシィッ!! と指を突きつけて、胸を張る清十郎。
「清十郎……つまんないよ、それ」
「駄目か?」
「寒い……」
「ぬう……ならばっ!! 俺様があたためてやろう!」
「うわぁああ!!! 気色悪いなぁ!! さわんなよ! 抱きつくな! 汗臭いってば!」
逃げる心を、清十郎が追いかけまわす。
「待てぇええーい! はーはっはっはっは!!」
「来るなぁ! 来るなぁあああ!!」
こうして莫迦をやって、じゃれあっているときが一番たのしかった。
心は正直にいって、こんな風に仲の良い友人ができたことが、信じられなかった。
同年代の男の友人が、まともにできたのは、初めてのことといってよかった。
わざわざ黒姫家のことを知る者のいない、他県の新設校にきて、本当によかったと思った。
清十郎のおかげで、他のクラスメイトたち、特に男子とも打ち解けることができたのだ。

心は本来なら、恋や愛と同じ高校に進学するはずだった。
それを、判子まで持ち出し、自分で勝手に手続きをして進学先を変えた。
恋と愛は高校まで、心にとっては中学までの母校――私立I学園
幼稚舎から高校までの、エスカレーター式の学校というやつだ。
地元では、多少とも教育に熱心な家庭、そして裕福な家庭の子女は、ほとんどがここに通う。
そのなかで、ずっと心は孤独だった。小学校の、特に低学年までは病弱だったせいで、
学校自体ほとんど通っていなかったし、たまに行ったところで、打ち解けることなどできなかった。
黒姫家は、地元ではあまりに『特別』なのだ。
そのことを知っている者であっても、ごく子供のうちならば、ほんの少しは付き合う者もいた。
だが、大半は『特別』な家の子である心を、避けたり、気味悪がったり、時には虐めたりもする。
小学校では、黒姫家を知っている者が大半であったし、それを知らない子供たちも、
まわりに従って心を避けた。高学年になって、ある程度の分別がついてくると、
なおさらに、心に対して腫れ物に触るような扱いをしてくる。
中学生になると、『外』からも新たに生徒たちが入ってくることになる。
黒姫家のことを知る者は、相対的に減ることになるが、根本的にまわりの態度は変わらない。
ただ、表面上で付き合ってみせるだけだ。本当に仲良くなど、してはくれない。
そういった意味で、男子より女子の方が、多少なりともまともに付き合ってくれた。
男より女の方が、そういう面では器用なものだ。
なにより、心の容姿に惹かれて、女の子たちはごく軽い友達にはなってくれた。
だが、黒姫家のことを知る者が、そういった女子たちに耳打ちする、
彼は『特別』な家の子だと――結果、遠巻きにして騒ぐだけになっていく。
恋や愛となら、女同士であるから、ある種の安心感もあるのだろう、
浅いながらも二人はそれぞれ、一応の友達付き合いをしているらしかった。
恋が憧れの先輩なのだと、声高に主張する女子を何人も目にした。愛も似たようなものだ。
男子連中にとっても、二人はいわゆる『高嶺の花』扱いをされていたようだった。
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