しかし、男である心には対応が異なってくる。男子も女子もクラスメートとしては、
一応相手をしてくれる。だが、男子はプライベートでは話ですら付き合ってくれない。
なかには、心の容姿を理由に『女々しい』ヤツだと、侮る者もいた。
女子はプライベートでも、ごく軽くは付き合ってくれるものが少数いたが、
心にはそんな気もないのに、『妙なこと』になったら困る、という警戒心があるらしく、
だんだん離れていって、まわりで騒ぐだけに変わっていく。
心は小学校の高学年くらいから、見ためはともかくも身体は健康になっていったから、
自分の容姿をからかわれたり、相手が乱暴な手段にでたときには、遠慮なく叩きのめした。
中学にあがってからは特に荒れ始め、ろくに学校にも通わなくなり、町で出会った女たちと、
『遊んで』ばかりになってしまった。
だからといって、決して心は自ら暴力をふるうような真似をしたことはない。
あくまで、降りかかる火の粉をはらってきただけだ。学校で暴れるようなこともなかった。
分かり易い不良とは違うが、まともな生徒とも言い難い状態だった心にも、
そのうち、ようやく友人らしきものができた。
中一の冬に転校してきた、秋月 百合だ。
彼女は海外から引っ越してきたため、黒姫家のことなど気にもしなかった。いや、
むしろ純粋に好奇心をもったらしい。ほとんど初対面の心に、無遠慮に色々と尋ねてきた。
父が陶芸家、母が画家ということもあって、彼女自身、なんというか変わり者だった。
「可愛いわね。きれいな子は好きよ」
いきなりそういって、キスをしてきた。初対面でだ。
五日ぶりに登校してみたら、いつの間にかやってきていた転校生に唇を奪われたのだ。
さすがに心も面食らった。なんでも心の噂を聞いて、現れるのを待っていたらしい。
「きれいな子が好きなの。だから、確かめたかったの、それだけ」


「どうしてキスしたのさ!! どういうつもりなの!」
「思ってたよりずっときれいだったから――話し方もかわいいのね」
「……」
気にしていたことを指摘され、言葉につまった。心の言葉遣いは、丁寧語中心だったものを、
無理矢理に変えようとしたせいで、なんとも子供っぽい、中性的なものになっていたからだ。
母の躾は厳しく、しっかりしていたから、言葉遣いもきちんとさせられていた。
もともとは家族のことも、父様・母様・お祖父様・お祖母様・姉さん・愛さんと呼んでいたが、
小学校の高学年になったくらいで気恥ずかしくなり、特に外では言葉遣いを変えるようにしていた。
だが、それがうまくいかず、余計にからかわれる原因になっていた。
そのせいで、元々あまり喋らないタイプだった心は、どんどん無口になっていった。
のちに清十郎と付き合うようになって、彼の影響を受けながら『男らしい』言葉遣いを覚え、
喋ることも苦でなくなっていくのだが、このころは丁寧語にならないようにするのでやっとだった。
「気にすることないわ。似合ってるもの」
同じ歳なのに、まるで年上のような態度だ。態度だけでなく、彼女は容姿も大人っぽく、
どことなく、男好きのする感じだ。
「帰るよ……」
「あら? もう? まだ二限目よ?」
「もういいよ。つまらないし」
「じゃあ、私も」
「は?」
「ねえ、町を案内してくれる?」
「なんで僕が!」
「あなたが気に入ったの。友達にならない?」
「……え?」
友達――という言葉にこころ惹かれた。はっきり言えば寂しかったのだろう。
結局この日、二人で学校を自主早退したあと、心と百合は町を適当にぶらついた。

そのあと、百合の家に招待され、両親に紹介されて夕飯までご馳走になったあげく、
百合まで『ご馳走』になった。
別に二人とも初めてでもなかったし、ごく気軽な感じで関係を結んだ。
それで恋人だとか、特別な付き合いになったわけではない。
肉体関係を含めて、あくまで気楽な友人としての関係がずっと続いた。
心と同じ高校に進学した、同じ中学出身の女子とは、百合のことなのだ。
清十郎とつるむようになってすぐ、心は百合をひきあわせた。とはいっても、
三人とも同じクラスだったから、二人は顔見知りではあったのだが。
そのときの百合の言葉は、彼女らしいものだった。
「心を選ぶなんて、いい趣味してるわ。でも、いくら可愛いからって、いじめたり、
へんなことしちゃ、駄目。心は、私の大切な子だから。悪戯するなら、私に断ってね?」
清十郎も似たようなものだった。
「なんだ、この女――心、お前ね、彼女ってのは人柄をよくみて選べよ。いくら美人でも、
こういう頭がユルいヤツは駄目だ。伝染(うつ)るぞ?」
「彼女じゃないよ……百合も莫迦な冗談はやめて……」
どっちもどっちだと、そう心は思った。

中学三年になって、心の身に大きな転機が訪れる。
母が死んだ。
それから、心はろくに家に帰らず、町で知り合った女たちのもとを転々としながら、
『武者修行』と称して喧嘩に明け暮れた。
父に『復讐』する、その力を身につけるためだ。
そのとき、もっとも長いあいだ世話になったのは、他ならぬ百合とその家族だった。
百合の父も母も、『おもしろいから』という理由だけで、心をあたたかく迎えてくれた。
とても感謝しているが、同時にすごく変な家族だと思ったものだ。

百合は言った。
「工甚くんも、枝里さんも、私と同じよ。きれいな子が大好きなの。それに、
二人の仕事はインスピレーションが大切だから、刺激をくれるあなたは貴重なのよ」
そういえばあの親子は、それぞれを名前で呼び合うのだ。
それも心には信じがたいことだった。
半年ほど『武者修行』を続けて、父に挑んだものの、あっさりと返り討ちにあい、心は考えた。
いくら喧嘩慣れしようが、本当に身体と技術を磨いた人間には、まず勝てない。
ならば、その相手である父から、その力を盗み取ってやろう、と。
それから心は父に弟子入りし、短い高校生活の中で、技を磨いた。
父を倒すために、父のもとで、父が死ぬ、そのときまで。

すでに述べてあるように、心の『復讐』は遂げられることなく、高二の春に父は死んだ。
正確にはまだ、進級の前だった。
酒に酔った状態で、暴漢に刺されたのだ。
駅に車で突っ込んだ暴漢が、匕首を振り回して暴れていた。それを取り押さえようとして、
刺されたという。しかも、車が突っ込んだとき、すでに父は足に怪我を負っていた。
暴漢を殴り倒しての、相打ちだった。
(親父らしいや)
連絡を受けたとき、心はそう思った。
葬儀と事後処理がすべて終ったあと、心は一人、自室で泣いた。
あんなに憎んだはずなのに、涙が止まらなかった――

そして学校が始まり、心と清十郎は違うクラスになった。
心は文系、清十郎は理系のクラスを選択したためだ。百合とは同じクラスになれたが、
彼がいないだけで、なんとなく、授業もおもしろく感じられなくなっていた。
「――よう。元気……ねえよな」
すでに、清十郎は父の死を知っていた。葬儀にもきてくれていたのだ。

放課後に待ち合わせたとき、心はなぜだか、彼の前で泣きたくなった。
だが、我慢した。
「泣いていいと思うぜ。お前にとって親父さんは、ただの親父以上だったからな」
「泣けないよ。男だから」
「俺なら、泣くぜ? 照れくさいなら、俺は消えるぞ?」
「いいよ。気なんか、使わないで……ううん、一人に、しないで」
「心?」
「一人になったら、我慢、できない」
「そうか」
清十郎の手が、心の頭にのせられた。ぐりぐりと、力いっぱい撫でてくる。
「ずるいわね。男の子同士だと、そんなに仲良くできるの」
いつの間にか百合がきていた。
「あと、頼む。やっぱ、泣くときは、泣いた方がいい」
「ええ、頼まれなくても、ずっと、ずっと抱いててあげる」

さらに心を追い詰めるように、あの事件が起こった。
元A組の不良くんたちが、心に対して仕返しを謀ったのだ。
不良くんたちは辛抱強く、ずっと機会を待ち続けてきた。
心と清十郎のクラスが分かれた上、心は父の死で、あきらかに覇気を失っていた。
いまがチャンス、そう判断したのだろう。
結果は、見事に失敗。
総勢十一人で、得物まで準備した挙句のことだ。まさに完全敗北。
心は校舎中を走りまわりつつ、相手戦力を分断して各個撃破していった。
七人まで片付けたところで、残りは逃げていった。
中心の五島たちを潰されたためだ。
どこかで歯止めを失っていた心の拳足が、冷酷に、徹底的に彼らを破壊した。

連絡を受けた清十郎が駆けつけたとき、心は泣いていた。
夕日の射す教室、百合に抱き締められて、血塗れの両手をだらりとさげたまま。
「もういいの、無理しないで……心、いいのよ」
清十郎は初めてみた、心が泣く姿を。
赤子のように、百合の胸に顔をうずめて、静かに涙を流していた。
{ああ、やっぱりきれいだ}
そう思った。
「清十郎……僕は、どうしたらいい?」
「心…」
「やっぱり、ずるい。私には聞いてくれないもの――」
百合がそっと、唇を重ねた。血の味がした。

そのあとは以前すでに述べたとおり、心は自主退学のかたちで高校をやめた。
高校をやめてしばらくのち、心は清十郎に呼び出された。
その日も、クールベで話した。
「なにか、用かい?」
「心、お前、俺に聞いたよな? どうしたらいい? って」
「うん」
「だから、答えてやる。ついてきな」
心はある場所に連れていかれた。総合格闘技の道場。いや、ジムといった方がふさわしい外観だ。
「清十郎? ここ……」
「こい!」
扉を開き、ずんずん進んでいく清十郎。仕方なく、ついて行く。

「おやっさん! いるか!!」
小柄な老人が振り向く。
「おう! 嶋岡の小倅か」
驚くほど、声が大きい。
「どうした? 今日は貴様の練習日でないぞ?」
「言ってあっただろ? 例のヤツを連れてくるって」
「おお! そうだったか――で? どこにいる?」
「目の前にいるだろ?」
「なに……小さいな――おい!」
「はっはい!」
いきなり声をかけられて、正直びびった。射抜くような視線が、痛い。
「ふーん? やはり小さいのお……おい、清十郎よ。本当にコイツか?」
「ウソいってどうすんだよ? コイツだってーの」
「清十郎? なに、これ……この人は、だれ?」
「おい!! 小さいの。こっちへこい!」
(小さいのって……自分だって)
「はやくこい!!」
「はい」
慌てて駆け寄る。
「叩け!」
「はあ?」
いきなりサンドバッグを示された。
「いいから、早く叩けい!」
しぶしぶ、準備もなしに左拳を叩きこんだ。サンドバッグが、まるでひねり上げられるように、
たてに跳ね上がった。場内の空気が変わる。
静まり返って、皆が注目しているのが、わかる。
(あれ?)

「おい、見たか? あれ100kgのバッグだよな……」
ヒソヒソと、誰かが話す声が、聞こえた。
「むう……」
清十郎におやっさんと呼ばれた老人は、目を見開いて唸っている。
「?……あの?」
(あれ? なんだろう?)
「心! もう一発だ。見せ付けてやれ! お前の、自慢の拳を!!」
清十郎の声がかかる。なんだか楽しそうだ。心も久しぶりにウキウキしてきた。
「うん!!」
こんどは右で、腰をきちんと入れて、しっかりと『突いた』
先ほどより、尚一層はげしく跳ね上がる。バッグの表面の革に、拳の当ったねじり込むような跡が、
くっきりと残る。
(気ン持ちいい〜〜〜〜〜〜)
「どうだ? おやっさん、わかったろ? コイツが俺の親友だぜ?」
「むうー……おい、小さいの、名前は?」
「黒姫 心です」
「……ずいぶん、可愛らしい名前だの――心よ、お前は強くなりたいか?」
「はい」
「そうか……なら、ここに通え。清十郎から話は聞いとる。あっぱれな親父さんだったのう」
「――はい、あの、あなたのお名前は?」
「わしか? どうでもいいじゃろ……む……楠木 三郎じゃ」
なぜか照れくさそうに、小声で名乗る。
「楠木さん、いいえ、おやっさん。聞いてもらいたいんです」
「なんじゃ?」
「僕は最初、親父を打ん殴りたくて、それで強くなりたかった。けど、親父は死にました。
でも、僕には守りたいものがあるんです。だから、いまも、強くなりたい」
「ああ、それでいい」
「――だけど、それだけじゃない。僕はただ、強くなりたい。こいつで、一番になりたい」
拳を握り締めて、突きつける。

「いったな? 清十郎、聞いたか?」
「ああ、聞いた」
清十郎が嬉しそうに答える。
「心よ。もしそれが本心なら、もう逃げられんと思え!! 貴様はたったいま、
世界中の同じ思いを持つ奴らに、喧嘩を売った!!」
今度は逆に、心が指を突きつけられた。
「俺にも、だぜ?」
清十郎は満面の笑みだ
「もちろん、そのつもりです」
涼しげな微笑を浮かべて、心は答えた。
***********************************************
「しかし、ずるいよね。ずっと秘密にしてたんだから」
あとで分かったことだが、清十郎は入学後半年くらいから、楠木ジムに通っていた。
つまりは心に出会った、その直後からということだ。
「いや、だから、何度も誘ってたろうが――悪かったよ、謝るって」
いまの心の、可愛らしい顔で上目遣いに睨まれては、清十郎も太刀打ちできない。
昔のことなのに、心は昨日のことのように思い出して――なんだかダダをこねているみたいだ。
「で、どうすんだ? これからも続けるのか?」
「この手で? この、身体で?」
小さな可愛らしい手を、目の前にかざしてみせる。
{無理だよな……}
「最初の頼みごとは、そのことなんだ。おやっさんに伝えて欲しい」
「なんて言えばいいんだ?」
「家庭の事情、かな。それで続けられないって、そう伝えて……」
「分かった。伝えてやる。でもな、いつか戻るかもって、そうも言っておくぞ?」
「お見通しなんだね……戻れるかなぁ?」
「いきなりそうなったんだ。いきなり戻るかもしれねえだろ」

ケーキを半分ほど食べ終わり、カフェオレを一口、心は小さな溜息をついた。
「しっかし……ほんとにまあ、可愛くなっちまったな。ケーキが似合うこと――なあ?
いまのお前と俺、まわりの奴らがみたら、どう思うんだろうな。兄弟か? まさか恋人はねえよな」
「さあ、ね」
「下手すりゃ俺、誘拐犯かもな。そうでなくても、援交みてえだ。どっちにしろ逮捕か?」
ひたり、と清十郎の鼻先にフォークが突き付けられた。心が睨んでいる。
「不愉快……だよ? もう、やめて」
「すまん。わかった、悪かった」
{こんなに本気で……やべぇ、可愛い}
「とりあえず、危ないから下ろせ」
フォークを心の手ごと掴んで、下げさせる。柔らかで、華奢なその手にドキリとする。
それにしても、心がこんなに簡単に腹を立てるのを、初めてみた。
心のこころは確実に、以前とは違う。清十郎には理屈でなく、直感でそのことが分かる気がしていた。
{身体に、引っ張られて……まさか、な}
あのいつでも冷静だった心が、まるで子供のように、簡単にヘソを曲げる。そして、頼りない。
放っておけない。確かに心は男のときから、『放っておけない』タイプだった。
百合とも、よくそのことで話したものだ。しかし、違う。根本的に、まったく違う。
{こいつは、いまの心は、誰かが――俺が守らねえと、危ねえ。俺が……}
「清十郎、ねえ! 清十郎!」
「……ああ、何だ?」
「もう一つの頼み事なんだけど、これから、一緒にきて欲しいんだ。いいかな?」
「ああ、いいぜ。今日一日はまるっきり空けてある」
「それとね……これ、食べる?」
食べかけのケーキを示す。
「なんだよ、いらねえのか?」
「あの、思ったより、食べられなかった……」
頬を染めて俯きながら、消え入りそうな声でいう。
{あ〜〜〜〜!!! 可愛いなあ、おい、ちくしょ〜〜〜!!!}
つとめて冷静を装いながら、清十郎は言った。
「んじゃ、もらうぞ」
一口で平らげる。そんな様子を、心はじっと見つめている。

「ずるいな……いいな」
「――ん? なんだよ、やっぱり惜しかったか?」
「違うよ。たくさん食べられて、羨ましいなって、ずるいなって」
{ずるい、か……}
――百合がときどき、口癖のように使っていた言葉。彼女も相当に変わった女の子だった。
もっとも心に聞いたら、百合の口癖は『きれい』と『かわいい』だ、というのだろう。
紹介されて間もなく、百合はこんなことをいった。
「あなたも、男としてはきれいな方ね。男性的な美しさ、嫌いじゃないわ……でもね、
心には遠く及ばない。知ってる? この世で完璧なものは、少年の身体とバイオリンと船体なの」
「はあ? なに言ってんだ? 頭ワイてんのか、お前」
心底へんな女だと思ったものだ。
百合は誰の前でもはばかることなく、心が一番大切な友達だと言い切った。
休み時間など毎度のように、心に抱きついたり、キスをしたり、膝枕などもさせていた。
誰の目にも、二人は恋人同士にしか見えなかった。清十郎もはじめはそう思っていたのだ。
だが、心によって引き合わされたとき、百合のことを友達だと、心はそう紹介した。
百合も、心は一番大切な友達だという。二人はたしかに、表面では同じことを言った。
しかし、清十郎はまるで釈然としなかった。
だからそれぞれに、二人きりのとき聞いてみた。少しづつ、そして何度も。
心はいつも『友達』だと言い切った。
「百合は誰にでもやさしいよ? 誰とでもあんな感じだよ?」
たしかに、上辺だけならそうだろう。
百合は、少しづつ、複雑に、言い訳でもするように言った。
「心は『一番大切な』お友達よ。あの子が求めてるのは、友達。私にとって一番は心。
だから、私はあの子の『友達』でいたい。心の傍にいつづけたいの」
彼女の言葉をまとめるなら、こんなものだろう。
間違いなく、百合は心に惚れていたのだ。

同じ高校に進学したのも、心が先に決めて、百合がそれを追いかけたのだという。
「心は『放っておけない』子だから……」
二人を見ていると、甘えているのは心だと感じた。だから、心が百合を追いかけたと思っていた。
{もどかしい……面倒くせえなあ!!}
清十郎はそう感じたが、余計なことをするのも野暮だと思った。だから、放っておいた。
親しくなるにしたがって、百合は清十郎に訴えることがあった。
「お願い、心をとらないで――男の子同士はずるいわ。なにもしなくても、自然に、
あんなに仲良くできる。でも、私は……」
彼女にしか、できないことはたくさんあった。
心は彼女のまえ、百合の胸に抱かれてしか、決して泣かない男だった。心が甘えられるのは、
死んだ母以外、彼女しかいなかったのだ。だけど、
「莫迦いうな。俺には、そんな趣味ねえよ」
こういってやるのが、精一杯だった――
「んで? どこへ行こうってんだ?」
「大学。確かめたいことが、あるんだ」
***********************************************
心の大学は都内にある、ここから電車で40分ほど、心の町からだと小一時間ほどかかる。
むかしの話になったおかげで、車内でも自然と百合のことが話題になった。
心が高校をやめてしばらく、百合も高校にこなくなった。
清十郎が気になって連絡をとってみると、心と二人でなにやら調べているらしい。
黒姫家と例の《カミサン》のことだという。半年ほどはろくに登校せず、
週に一・二回くればまともなくらいだった。
登校してきたところで、清十郎に心の状況を報告しにきているようなものだった。
やがて調べ物が終って、普通に登校するようになっても、相変わらず心中心の生活をしていた。
心がジムに通うようになると、そこにも年中、顔を出すようになった。

そんな調子でも、もとより成績は超がつくほど優秀だった百合は、危なげなく進級、進学した。
大学二年から、スイスのなんとかいう大学に留学したが、心とは頻繁に連絡をとっていた。
「それで、百合には連絡したのか?」
「何ていえばいいの? 女の子になっちゃった――って? 無理だよ」
それにここ最近、心が女の子になったのと重なるように、向こうからの連絡も止まっていた。
さすがに今は、百合がずっとどういうつもりだったのかは、心にも分かっている。いや、本当は、
ずっと前から分かっていた。でも、巻き込みたくなかった、母のようになって欲しくはなかった。
「もしかしたら、姉さんや愛や先生と同じで、僕が最初から女だったことになってるのかも、ね」
(もしそうなら、その方がいい。百合とは知らないもの同士で、いい)
「先生って、あの例の女医さんか? お前が惚れてたっていう」
「うん、そう。先生は、今の僕の主治医なんだ」
「どっか悪いのか?」
「ううん……よく、分かんない」
(あ……そういえば)
いま分かった。玲那と百合は、どことなく似ている。
(なあんだぁ……最初から、ずっと近くにいたんだ)
「なに笑ってんだ?」
「ううん、何でもないよ!」
{……くそ!! 可愛いじゃねえか}
心の笑顔が眩しくて、清十郎には直視できなかった。

「――よっと!」
「わあ! なにすんの?! はなせっ!!」
心が手足をばたつかせて、暴れる。
大学の最寄り駅について、歩きはじめるとすぐ、大きな水溜りがあったのだ。
清十郎は何気なく、心を抱え上げてしまった。
{軽いな……}
それにものすごく、柔らかい。まるで、仔猫でも抱き上げたようだ。

「ほい、着地っと――機嫌直せって」
心は真っ赤な顔で、そっぽを向いたままだ。
「バカにして、バカにして……なんだよ、なんだよぅ」
「悪かったよ。でもな、汚れるよりいいだろ? お前、あの水溜り越せたか?」
「それは、そうだけど」
たしかに、いまの心では難しい。『心』の身体では……いくらバネがあっても、サイズの問題がある。
「大学で、何を調べるんだ? もとに戻る方法か?」
無理矢理に話題を変える。
「まさか、違うよ」
構内に入ってすぐ、心は図書館へと向かっていく。
「調べたいのは、卒業アルバム。前年度の、ね――ちょっと待ってて、トイレ」
「小便か?」
「大声で聞かないでよ……恥ずかしいなあ」
「何を女みたいな――あ、いや、その」
「いいよ、『か・ら・だ』だけは女の子だから――ほんとは、ムカつくけど」
トイレで心は絶句した。噂には聞いていたが、女子トイレがここまで汚いとは……これなら、
男子トイレの方が数段まともだ。
さっさと用をたして、清十郎のところに戻る。
こちらに歩いてくる心に、清十郎は見惚れてしまう。やはり、可愛い。たしかに心は男のときから、
『きれい』なヤツではあった。顔立ちもスタイルも、とても整っていた。
当然のことだが、清十郎には男色の気などない。だから、妙な目で心を見たことはない。
例えるなら彫刻とか、絵画とか、美術品でも鑑賞するようなつもりで『きれい』だと思ってきた。
百合がことある毎に、心のことを『きれい』・『かわいい』・『美しい』というのを笑いながら、
こころの中ではそれに賛同してきた。それを表に出さなかっただけだ。
――そうであったのだが、いまは違う。どうしても違ってしまうのだ。
清十郎は男で、心は身体だけとはいえ、女だ。
意識するなという方が無理というもの、ましてや、心は異常なまでに整い過ぎている。
気を抜くと、衝動的に抱き締めてしまいそうだ。
{本当に、本当に女なのか?}
あの身体を、隅から隅まで調べてみたい。そんな考えが頭から離れない。

「待たせたね。……どうした?」
「ん、何でもねえ。それより、アルバムなんか調べてどうすんだ?」
「ゼミの集合写真があるんだ。そこに、僕が写ってるはずなんだけど――」
黒姫 心という『男』が、この世に存在した証拠を確かめにきた。そういうことだ。
アルバムはすぐ見つかった。集合写真もそこにあった。
だが、いない。心は写っていない。
「いない、ね。僕、写ってないね――清十郎、僕はどうしたらいい?」
心の肩が、小刻みに震えている。自分の身体を抱き締めて、心は震えている。
涙こそ流していないが、心は泣いている。間違いない。
清十郎の大きな手が、心の肩に乗せられた。続いて頭にも。ぐりぐりと、力いっぱい撫でてくる。
いつかの、あの日のように。
「大丈夫だ。お前のことは、俺が覚えてる。お前は確かにいた。今もいる、俺の目の前に。
まだ、高校の写真も名簿もある。ジムにもある。俺が調べてやる。俺が一緒だ」
「せい、じゅうろ……お」
ぽろぽろと、心の瞳から涙がこぼれる。
むかし心という男は、百合という女の胸に抱かれて泣いた。
そしていま、女の子になった心は、清十郎という男の胸で泣いている。
あの頃、百合にしかできなかったこと、いまは清十郎にもできること――
{守ってやる。いくらでも、気の済むまで泣かせてやる}
あの頃の百合の気持ちが、いまようやく、清十郎にもわかる。
『男と女』が……どうしても邪魔をする。




「――絶対の、絶対だよ? 絶対に見るだけ、見せるだけだよ? 触ったら、ダメだよ? 
いたずら…したら、イヤだよ? 本当の、本当に確かめるだけだよ?」
「ああ。絶対の絶対に、本当の本当に、約束する。確かめるだけだ」
 不安そうに見上げてくる心の瞳を、真っ直ぐに見つめて、清十郎は静かに答える。
 彼の表情は、真剣そのものだ。
 ようやく涙の止まった心と、清十郎は、まだ図書館にいる。
 普段から、ほとんど人のくることはない奥まった一角、ながらく誰にも読まれることの無くなった、
埃の積もった本に囲まれた場所。
 ささやくような小声で、二人は話している。
 こくりと心は頷き、シャツのボタンに手をかける。一つ一つ、ゆっくりと外していく。
 すっかり前がはだけて、白いお腹と下着があらわになった。
 今日の下着は恋が選んだもの。ブラジャーは白いレースがたっぷりの可愛らしいデザイン。
 まるで、こうなることを予測していたかのように、都合の良いフロントホックだ。
{細いな。俺の腕とあんまり変わらない}
 薄く、細く、小さな身体。ウエストが、清十郎の上腕ほどしかない。
 本当にこれで、生きていられるのだろうか? 清十郎は信じられないような気がしていた。
 ぱちりと音がして、ホックが外された。心は両手で庇うように、胸をおさえる。
 二人はふたたび見つめ合う。清十郎がやさしげに笑いかけ、すぐに真剣な顔に戻った。
 両手が離され、ささやかな膨らみが二つ現れる。ふるんっと微かに揺れた。
 小さいのに、とてもとても柔らかそうだ。きっと、触り心地も素晴らしいだろう。
 頂きについた二つの蕾は、唇と同じ美しいピンク色をしている。
{……珊瑚の色だ}
 生家の居間に飾られていた、大きな珊瑚の置物を思い出す。母のお気に入り、自分も大好きだった。
 いつの間にか忘れてしまっていた、大切な思い出。
 心は真っ赤だ。うつむき加減で、上目遣いに清十郎を見つめている。
(恥ずかしい……見られてる。清十郎に、見られてる)
 女の子の身体――胸を、おっぱいを見られている。

 清十郎の表情は真剣で、何を考えているのか読みとれない。少しだけ目を細めて、瞬きもしない。
 この顔は知っている。試合の前、精神を集中する時の、そして相手を確かめる時の顔。
 少なくともそこには、やましいものがないと感じて、心はちょっぴり安心する。
 けれどなんだか、真剣過ぎて、怖い。
「……清十郎。もう、いいよね? もう、もういいよね?」
「ああ、いいよ。もう、いい」
 ほっとした顔でうしろを向くと、心はブラを着け直し、シャツのボタンを素早くかけていく。
***********************************************
 一頻り泣いたのち、猛烈に恥ずかしくなった心は、そっぽを向いて清十郎と目を合わせなかった。
 清十郎の胸に抱かれて髪を撫でられ、安心しきっていたことが、なんだか悔しいのだ。
「どうした? なにか気に入らないのか?」
 清十郎はやさしい。口調も態度も、いつものぶっきらぼうな彼とは違う。
 それが気に入らない。子供扱いされていると感じてしまう。
 それこそまさに、『戻って』しまっている証拠なのだが、心自身にはそれが分からない。
「なんでもないよ……」
 清十郎は、心のようすが明らかに、泣く前と変わっていることに気が付いている。
 ずっとずっとやわらかく、子供っぽい雰囲気をまとっているのだ。
 しかも、それに比例するように、何ともいえぬ色気までが感じられる。
{やばい……いかん、いかんぞ! 何考えてやがる! しっかりしろ、俺}
 どうにも『何か』してしまいたくなる。言葉でも、触れることでも、何でもいい……
「なんでもないって顔じゃないぞ? 子供みたいなふくれっ面だ」
 つい、からかってしまう。半ば自分を誤魔化すために。
「どうせ、いまのボクはガキだよ! 愛にだってからかわれる……」
 真っ赤な顔でいうも、目が合うとすぐ視線を逸らし、うつむく心が可愛くて仕方ない。
「15だもんな、まあ、ガキだな。そういや見ためもガキっぽいな。胸もぺたんこだし、チビだし、
歳相応の色気もないな。だいたい、ほんとに女なのか? お前の自己申告だけだからな」
{くそ! 違う、違うんだ……こんなこと、したくない。心を……傷付けるような真似なんぞ……}


 心を守ってやりたいのに、ちょっかいも出したい。自分のコントロールが効かない。
 目の前の女の子を自分だけのものにして、すべてから守りたい。
 しかし同時に、自分だけがこの少女を嬲りつくし、滅茶苦茶にしてしまいたい。
 気も狂わんばかりの欲望が、清十郎の内側で、密かに動き始めていた。
 ぎりぎりのところで、それを押さえつけている。
「本当だよ……イヤだけど、もとに戻りたいけど、でも、女になってる。この身体は女なんだ……」
「ただ子供になってるだけ、とは違うんだな?」
「姉さんも愛も、先生も、あっちゃんも――みんなみんな、ボクの身体を見て、女の子だって、
そういってるし、ボクだってそれくらい分かるよ……」
「あっちゃん? 誰だそれ?」
 しまったという表情で、心は答える。
「看護婦さん……」
「看護婦? それがなんであっちゃんなんて……お前、ひょっとしてなんかあったのか? そいつと」
 心は田崎医院であったこと、悪戯されたり、または『した』ことまでは清十郎に話していない。
 それに心自身、はっきりと説明できるほど『分かって』いない。
「なんにもしてないよ! ただ、身体を見てもらって――」
「――まて、なんだと? 身体を、見られた?」
 清十郎の表情が明らかに変わる。なんだか物凄く、怖い。
「違うよ……見られたんじゃないよ。見て、確かめてもらって……」
「なんで確かめてもらうんだ!? そんなの家族と、あとは医者だけで十分だろ? どうして――」
「だって、だってあっちゃんはいい人だったから、信用できる人だったから……」
 ふたたび心の瞳には、涙が滲みだしている。
「それに、それに不安だった。姉さんたちは同じことしか言わないし、なのに診察するし――」
 突然、清十郎が心を抱き締めた。
「すまん。お前が苦しんでるのに、何もしてやれんくせに、ごちゃごちゃいって、すまん」
「清十郎……恥ずかしいよ。やめてよ。男同士で、こんなこと」

 清十郎は離れると、ばつが悪そうにいう。
「すまん。なんだか、お前が消えちまいそうな気がして――その、急に変わっちまったし……」
「変わったって、身体のこと? だって今、信じられないって」
「いや、それは女かどうかってことで……外見は確かに変わっちまっただろう?」
「そうだね。でも、ボクは心だよ? 君が知ってる心だよ、中身はいっしょだよ」
「…ああ…そうだな」
{そうじゃない……お前は変わっちまった。身体といっしょに、多分、こころも}
 急に歯切れが悪くなってしまった清十郎に、今度は心の方が悪戯ごころを起こす。
 子供のようになった心は、清十郎を困らせたくなってしまったのだ。
「ねえ、清十郎。なんだったら、君も確かめる? あっちゃんみたいに――」
(さっきの仕返しだよ……)
 だが清十郎の答えは、心の予想とは異なっていた。彼は心の瞳を真っ直ぐに見つめ、
「ああ、頼む。俺も確かめたい。でなけりゃ、納得できねえ。お前が変わっちまったことを」
 大真面目な顔で、こう言ったのだ。
***********************************************
 自分で言い出したてまえ、冗談だとは言えなくなってしまった。
 もとより強情な面がある心なのだ。子供に近くなったことで、それが余計に強くなっている。
「……次は下だよ。ねえ、ほんとに確かめる? 後悔、しない?」
「ああ、頼む。でもな、恥ずかしいなら、止めていいんだ。お前が嫌なら、俺はもう――」
「いいよ! 恥ずかしくなんかないもん! ボクは男だから、男同士だから恥ずかしくないもん!」
「けどな、心。お前はいま、身体は女の子なんだろう? 家族も、医者もそういってるんだろ?
だったら、その、大切にしないと、駄目だ。こういうのは、な?」
「さっき信じられないって言ったのは君だろ! それになんだよ?! なにを大切にするの?
見て確かめるだけなんだから、いいんだもん!」
 冗談めかして言われるならともかく、本気で、真面目に気遣ってくる清十郎に対して、
理不尽な苛立ちを覚える。まるっきり、駄々っ子のようなものだ。
{心……こんな、子供みたいにムキになって……お前、やっぱり}

「やめよう、な? もう、いいから。お前は、いまは女の子なんだよ。だから、な?」
「うるさい! ボクは男だ! いいから確かめろ!」
 心はベルトに手をかけると、少々もたつきながらそれを外す。
 レザーパンツの前を開けると、これまでそのうちに籠もっていた甘い体臭が、ふんわりと漂ってくる。
{これ、心の体臭なのか? いい、匂いだ……}
 心の身体が細いせいで、穿いているときには余裕があるものの、脱ぎ穿きするのには、
やはり多少の抵抗があるらしく、苦戦している。
 なんだかとても微笑ましい。手伝ってやりたくなってしまう。
 レザーパンツを膝の辺りまで引き下ろしていくと、純白の下着があらわれた。
 形こそ男物のボクサーブリーフに近いが、ブラジャーと同じでレースたっぷりだ。
「ほら! 見てよ! 見て、確かめてよ!」
 その股間には、あの膨らみはない。男性のシンボルが、確かに、そこには『無い』ことが分かる。
「もう分かったから、な? そんなに大きな声、だしちゃ駄目だぞ? 人がきたらどうする」
「うるさい! 子供あつかいしないでよ。そんなの分かってるもん。それに、そんな風に遠くから見て、
ほんとに分かってる?!」
 清十郎は上から心を見下ろすかたちだ。心はその状態で、優しげに気遣われるのが余計にいらつく。
「……分かった」
 立て膝をついてしゃがみ込むと、ほぼ正面から心の、下着に包まれた下腹部を見つめる清十郎。
(甘い……匂いだ。可愛いなあ……心)
 目を閉じて深呼吸をしたあと、ふたたび真剣な表情になる。
 白く細い太腿が見える。太さが、清十郎の二の腕ほどしかない。
 お腹から下腹部、股間にかけてなだらかな曲線を描く、やわらかな膨らみが美しい。
 自分で見ろといったくせに、心は真っ赤になって恥ずかしそうだ。
「よし、分かったよ。心、いまは確かに、お前の身体は女の子だ。だから、もういいだろう?
そんなに恥ずかしがって、無理しなくていい。さあ――」
{これ以上は駄目だ。可哀想だし、それに……我慢できねえ}
「違う!! ボクは男だ! 違う、違うもん……」
 身体は女の子だと、自分で言い出したのに、それを認められると今度は、自分は男だと主張する。
 いまの心は支離滅裂だ。駄々をこねて甘えている子供だ。

「コレがあるから、わかんないだけだよ!」
 いうが早いか、心は下着を一気に引き下ろす。
 清十郎は目を閉じて、顔を逸らす。
 彼の脳裏には、栗色のささやかな茂みが焼きついている。
「駄目だ! 駄目だ……駄目だ、心、もう止せ。早く戻すんだ」
「やだ。ちゃんと見ろ。清十郎の臆病者」
 無言の一瞬。
「心、分かったよ。いまから確かめてやる」
 清十郎がゆっくりと目を開いた。口元は真一文字に引き結ばれ、両目は針のように細められている。
 まさにいま、闘いに没入せんとするときの表情だ。
「…あ…」
(怖い…清十郎が、怖い)
 これまで清十郎と真正面から、いざ闘わんとするときですら、このように感じたことなどない。
 いや、怖くなかったわけではないが、『怖さ』の重みが、感じがまるで違う。
 清十郎の視線はただ一点、心の『お花』に注がれている。
 陰毛が薄すぎて、ピタリと閉じた割れ目の一部が透け、丸見えになっている。
 不意に清十郎の手が伸ばされ、心の両太腿の付け根をがっちりと固定する。
「――!! ダメぇ……触ったらダメだよ」
「大声を立てるな。人が来るぞ? 大丈夫、確かめるだけだ。女の子は男と違って、上辺だけ見ても、
細かく分からんからな……ちょっとだけ見やすくする――俺はこれでも彼女持ちだぞ?
女の身体くらい、見れば分かる。安心するんだ。いいね?」
 彼の声はあくまでやさしく、表情は真剣だ。
 しかしその心中では、心の肌身の吸い付くようなやわらかさと、太腿の細さに驚いている。
 付け根のいちばん太い部分を掴んだはずなのに、片手でぐるりと一周してしまいそうなのだ。
 そのうえ、きめの細かい白い肌が、まるで搗きたての餅のように手に吸い付いてくる。
 ぷにぷに、ふにゅふにゅした感触がたまらない。いますぐかぶりつきたい。
 思うさま揉みしだいて、こころゆくまで弄びたいという衝動を、必死で我慢する。
{なんだ!? なんだよコレ! こんなに細いくせに、ものすげえやわらかい。
こんな……こんな女、見たことねえ……}

 両手の親指で、心の割れ目をゆっくりと押し拡げ、のぞき込もうとする。
「ひぁ! ダメぇ! そこ触っちゃダメ!」
 清十郎の顔や頭、肩などを掌底でぺちぺちと叩き、心は抵抗する。
 だが、まるで効かない。
{心……あの心が、こんな、こんなになっちまって……}
 かつて初めて遣り合った日、心は組み伏せられた状態で同じ技を使い、清十郎を苦しめた。
 あの時、圧倒的に不利な状況にありながら、彼を手こずらせたその技に、今は何の威力もない。
 清十郎が顔を上げ、やさしげな目を心に向ける。
「心……何もしないから、な? だから、静かにしてくれ。誰かに見られたら、困るだろう?」
 こくこくと頷く心の瞳は、もう涙でいっぱいになっている。
 清十郎は視線を戻すと、ふたたびゆっくりと心の割れ目を拡げていく。
 くちゅりと音がして、くすみ一つない薄桃色の柔肉があらわれる。
 間違いない。甘い香りは、やはりここから漂ってくる。濃く、甘ったるいミルクの匂いだ。
{どんな味がするんだ?} 
 味わってみたい。今すぐ舌で舐め回し、小さなクリトリスを口に含んで愛撫したい。
 だが、震えながら涙を堪えている心を、これ以上『いじめ』たくない。
「清…十郎ぉ…もう、いい? ねえ? まだ?」
 恥ずかしさと恐怖で、心はもうすっかり『戻って』いる。
 ろくに抵抗すらできないところまできているが、それでもまだ、恥ずかしいという意識はある。
 それにさっきから、清十郎の吐息がかかって、あそこがくすぐったいのだ。
(ムズムズするよぉ……へん、だよぉ)
 一人きりだったなら、自分のあそこに触れてどうにかできるのに……ムズムズを、とりたい。
「見ためは……女の子だ。とってもきれいな女の子だ」
 やさしく声をかけてくる清十郎。
「……うん。もう、いい?」
 そのとき、心の瞳から、ぽろりと涙がこぼれた。
 何故かは分からない。だが、確かにその瞬間、清十郎の中で何かが壊れた。

「――心。心、心……」
 呼びかけながら、彼の手は心の太腿をすべり、腰の辺りをがっちりと掴む。
 そのまま抱え上げると後ろを向かせて、廻した片腕で吊るすように固定する。
 まるで人形のように軽々と扱われた上に、あまりの早業で、心にはわけが分からない。
「……? 清十郎? ……!」
 気が付いたら、清十郎に向かってお尻を突き出す格好で、腰の辺りに廻された腕に吊るされている。
 身体はくの字を描いて折れ、両足のつま先は床から浮いてぶらぶらしている。
「いやぁ! やだぁ……やぁ、放せぇ!」
「静かに……大丈夫だよ、確かめるだけだ。女の子は複雑だから、ちょっと胎内(なか)もみるだけだ。
痛くしないから、な? いたずらじゃ、ないんだ。分かるね?」
 やさしく言葉をかけながら、空いた片手で心の割れ目を拡げていく。
「ん……あ、やっ……やあ」
 言葉とは裏腹に、有無を言わさず目一杯に拡げてくる。
 くちくちと音がする。いや、心がそう感じただけかもしれない。
「きれいだよ。とってもきれいだ――」
 清十郎はお尻の方から顔をうずめ、割れ目にそって心の花びらを舐め上げる。
{甘い……味まで甘い。少し、しょっぱいな……汗の味か?}
「んん、ん……んぁ……あん」
「そう、そうだ。いい子だ、声を出しちゃ駄目だよ。我慢するんだ。誰かがきたら、
恥ずかしい思いをするのは、心だからね?」
 小さな女の子に言い聞かすように、やさしい声でささやく。
 ぺちゃぺちゃと湿った音を立て、清十郎は心の膣口を唾液まみれにしていく。
「ん、んん。……ん、ん、んん」
 心は両手で口を塞ぎ、声がもれるのを必死で我慢する。
 舌先でクリトリスを探ると、それを口に含み、強く吸い付ける。
「ぴぅ! いやぁ……あ、あ、あん。ん、んん、ん」
「ほーら、ほぉら。声だしちゃ駄目だろう? 人がきちゃうぞぉ?」
{……もし、きたら殺す!! 邪魔するヤツは殺す。俺の心に恥ずかしい思いをさせたら殺す。
男は殺す。女も殺す。誰だろうが殺す。殺す。絶対に殺す……殺す!!}
 彼には、それができる。彼が本気でやろうと思えば、ほとんどの人間は簡単に殺すことができる。

 クリトリスを口中で愛撫しつつ、空いた指先で花びらを摘んだり、閉じたりして弄る。
 ほんの少しづつだが、心の『お花』は充血していき、ますます色鮮やかになっていく。
 それとともに、甘い香りもどんどん強くなる。
 清十郎を狂わせる、魔性の香り。
{舌なら大丈夫か? 胎内をみていいかな?}
「心? もういいか? 胎内をちょっとだけ、確かめるよ?」
「ダメ……いたずら、ダメぇ――はぅ!」
 ゆっくりと、心の胎内へ舌先を侵入させていく。
 内部をさぐるように舌をうごめかし、心の味を確かめる。
 すぐに、心が処女である証にたどり着く。
{浅いなぁ……よかった。心が綺麗なままで、良かった}
 『あっちゃん』――心の口からその言葉を、名を聞いたとき、親しげな感じに苛立ちを覚えた。
 心は言った。身体を確かめてもらったと。もしかしたら、その時に『何か』をされたかもしれない。
 男はもとより、女だろうが関係ない。
 もしも心が『汚されて』いたら、そいつを殺すつもりだった。
 だが、良かった。心は処女のままだ。
{守ってやる……ずっと、ずっと大事にする}
 ちゅぽっと音がして、舌が引き抜かれる。
「……うん。胎内も、ちゃんと女の子だ。間違いない、心の身体は女の子だよ」
「清十郎……もう、やめて。もう、いいよね? ボクは……ボクは――」
 しゃくり上げながら、心は何か言おうとする。
「お前は、身体は女の子で、こころは……男、だよ。俺の大事な親友だ。これからずっと、
ずっと守ってやる。助けてやる」
「……いつまで?」
「必要なくなるまで」
 きっぱりと清十郎はいった。

「どうして? なんで、こんなことしたの? ひどいよ、ひどいよぉ!」
 涙ながらに責める心に、清十郎はすぐには答えられない。だが、
「――百合のこと、覚えてるか?」
「当たり前だよ。覚えてるもん」
「思い出せ。百合とお前は、友達で、男と女だった――そうだよな?」
「それは……そうだけど、でも――」
「それにお前は、いけない子だ。無用心だ。自分がいま、女の子だって自覚がない! どうして、
どうしてそんなに、俺を困らせる? 簡単に、確かめさせたりしちゃ、駄目だろ」
「いけない……子? だって、だって」
 いけない子という言葉が、何故かとてもこころに響く。
「そうだ。ちょっぴり、本当にちょっぴりだけど、お前はいけない子だった。だから、お仕置きだ。
俺以外の誰にも、こんなことを二度とさせないように、しっかり覚えるんだ」
「いけない子……お仕置き?」
「さあ、始めるよ。お仕置きは、痛くない。ただ、忘れないようにするだけで、いい」
 ふたたび膣口に舌をすべり込ませ、胎内をかき回す。
 空いた手でクリトリスを摘み、くにくにと弄りはじめる。
「ひふぅ……はぁ、はぁあ。んん、ん、んぁ! はぅ、はぅ。ダメぇ、ダメぇえ!」
「声を出すな! 出しちゃ、駄目だよ? 人がきたら、そいつを殺すことになる……」
「え!? 清十……郎?」
 心には分かる。清十郎なら造作も無くそれができる。
 でも、彼はそんな男ではなかったはず。冗談でもそんなことを口にする男ではなかった。
(どうして? どうしたの? 清十郎?)
「心、よくごらん」
 清十郎は顔をはなすと、自らのイチモツを取り出した。すでに半ば立ち上がっている。
「男にはこれがついてる。いまの心には、これは無いね?」
 解放されたイチモツはみるみる膨れ上がり、凄まじく長大な悪魔の角と化す。
 ずっと衣服の中で抑圧されていたのだろう、その先端には透明な先走りが糸を引いている。
「無い……よ」
 心の股を通してまたがせると、割れ目にそっと竿の部分を押し当てる。
 唾液まみれの『お花』が、くちゅりと湿った音を立てた。

 ちょうど、心のあそこからペニスが生え出したように見える。
「もっとだ、もっとよーく見るんだ。さあ、これはなんていうのかな?」
「ちんちん……」
 可愛らしい物言いに、清十郎はつい笑顔になってしまう。
「そうだね。ちんちんだ。前は、心が男のときは、これよりもっと大きなちんちんがついてたね?」
「……うん。でもね、ないの。いまはボクのちんちん、ないの」
「それじゃあ、いまは何がついてるかな?」
「わかんないよ……わかんない」
 かぶりを振って、いやいやしながら心は答える。真っ赤になって、とても恥ずかしそうだ。
 清十郎は狂喜の笑顔を張り付かせ、ペニスをゆっくりと『お花』にすりつけはじめる。
「困ったな……それじゃ駄目だよ。自分の身体のことは、ちゃんと分かってなきゃいけない」
「う……んん! んふ、んんふ。あぁ、ん、はぁ……ん、んふぅ! やぁ、いやぁ」
 こすり付けられるペニスによって与えられる弱い刺激が、心の『お花』を責める。
 唾液に濡れそぼったそこが、ぷちゅぷちゅと音を立て始める。
 花びらに少しづつ食い込み、巻き込まれたそれがまとわりついて、刺激がより強くなる。
 まるでレールに滑らすように、清十郎はペニスをすりつけ続ける。
「心のここ、この部分は何ていうのかな? 知ってるはずだよ、ね?」
 清十郎は、心の耳元でやさしく囁きかける。
「……うんと、お、『お花』。お花、お花だよぉ……姉さんが、先生も言ってたもん」
{心のお姉さん、恋さん、やっぱり心を凄く大切にしてるんだなぁ……こんな伏字で誤魔化して}
 可愛らしい、まさに今の心の外見に、ぴったりの教育が施されていることを読み取って、
清十郎は喜びを隠せない。
 それは言うならば、心のこころを『穢す』喜び、とても下品な種類のものだ。
 たとえ心がもともとは、清十郎の知る親友だったとしても、いまのこの少女からは、
単純に『彼』なのだという感じを受けない。
 清十郎は直感で、心が『再教育』を施されている途中であることに、うすうす気が付いていた。
 だから、ここでほんの少しだけ、この少女の魂を『穢す』ことを試みた。

「そうか、『お花』か。んー、でもね、そこには本当の名前がある。心は知ってるだろう?
男のときに知ってたはずだよ?」
 心は泣きながらイヤイヤをする。
「知らないよぉ……思い出せないよぉ。頭がぼーっとするの。どうして? 清十郎、助けてぇ……」
 ぽろぽろと涙をこぼし、くしゃっと顔を歪める。
 ズキリと、清十郎のこころが痛む。
{俺は何をしてる!? 心を傷付けてまで、何をやってる……}
「いいんだよ、いいんだ。分からなくっていい。知らなくてもいいんだ……『お花』だよ。
そう、心のここは『お花』だ。とってもきれいだね」
「きれい……? 『お花』きれい?」
 じっさい、心の性器はそう呼ばれるに相応しく整って、美しい。
 清十郎はペニスをすりつけるのを止めて、心の花びらを摘んだ。
「これは、心のこれは花びらだね? ここは気持ち良いかな?」
「ひああ! ダメ! ダぁメぇ! 触ったらダメぇ!」
 クニクニと摘んで弄られると、心は身をくねらせながらも抗議する。
 だが弄ばれているうちに少しづつ息が荒くなり、指先の動きに合わせる様に、腰をくねら始める。
「気持ちいいんだね……良い子だ。それでいい――じゃ、ここは?」
 クリトリスを摘み、内皮から露出させて口に含む。
 ちゅぴちゅぴと音を立てて、清十郎は心の蕾を吸い付ける。
「はぁあ! いたずらダメぇ……そこダメなのぉ」
 口を離すと指先でつつきながら、清十郎はふたたび尋ねる。
「気持ち良いかい? 心は良い子だから、答えてくれるね?」
「いやぁあ……ダメぇ、いけないの……それダメなの……いじっちゃイヤぁ」
 少しだけ指先に力を込め、やさしく摘みあげてねじる。
「あはぁ♪ あん……ダメぇ、やだぁ」
「いいんだよ……いいんだ。だから、いってごらん? 気持ち良いかい?」
 とろんとした目付きで、心は清十郎を見つめる。清十郎が笑顔でうなずく。
「きもち……いい。清十…郎ぉ、いいよぅ……きもちいいよぉ」

「よくできたね。良くいえた、えらいぞ――」
 清十郎は膣口にペニスをあてがい、小刻みに動かしてくちゅくちゅとこすりつける。
「ふぁあ……うぁ、うぅ……はぁ、は、んん。ん……」
「ここだ。ここが『お花』の真ん中だよ。ここには何があるのかな?」
「わかんなぁい……わかんないよぉ……なあに、教えて?」
 清十郎の目には、心が十分に感じていることが分かる。
 だが、一向に濡れてくるようすがない。
{心……まだ、女の子になったばかりだからか? それとも、子供だからなのか?} 
 このままでは、『お仕置き』がきちんとできない。下手をすると心を壊してしまう。
 先端を擦り付けて愛撫しながら、清十郎は思案する。
{心を傷付けるのは、絶対に駄目だ……でも、ここで分からせないと、これからが不安だ}
 誰かに心が『汚される』ことを考えて、彼は身震いする。
{このまま、これを続けてみるか……心も気に入ったみたいだし、な} 
 尚いっそう激しく、亀頭を『お花』に擦りつける
 清十郎は経験上、指先などよりもずっと、ペニスの方が柔軟に『探る』ことが可能だと知っている。
 時にはレールを滑らすように大きく、また時には先端で小刻みに、心の『お花』を愛撫し続ける。
 張り出したカリが、クリトリスにときおり触れる度、心はピクリ、ピクリと反応する。
{ここが無難か……}
 清十郎は器用に手を廻すと、クリトリスを摘んで愛撫する。
「あはぁ♪ ふぅ……ふぅ。ひぅ、ひぅ、ひはぁ♪」
 同時に何箇所も責められることで、ようやく心の『お花』は自ら潤いはじめる。
{こんなもんかな? 分かってもらうだけでいい、犯るわけじゃないんだ……}
 清十郎はこんなところで、つまらぬ勢いで、心の大切な処女を奪うつもりなど毛頭ない。
 いまはただ、心に自分が女の子であることを、自覚してもらうだけで良いのだ。
 心を下ろすと、お尻をこちらに突き出させた姿勢をとらせる。
 もう心は抵抗することもなく、されるがままに任せている。

「心、もう一度きくよ? ここは、この『お花』の真ん中は何かな?」
 膣口にしっかりとペニスの先端をあてがい、むにむにと押し付ける。
「?…わかんなぁい……なあに? なあに?」
 本当に何だか分かっていない。心は嘘をついているのでも、恥ずかしがっているのでもない。
 清十郎はそう確信した。
{心……可哀想に、身体だけじゃなく、こころまで……一体なにが……}
「教えてあげるよ。ここは膣の入り口だ。女の子の大切な、とても大切なところだよ。だからね、
誰にも触らせちゃ駄目だ。俺以外のどんな男にも、触らせちゃいけない。いいね?」
「女の子の、入り口? 大切……女の子にも、触らせちゃダメ?」
 家族のことを言っているのだろうか? 姉妹同士ならば、まさか『危険』はあるまいが……
「そうだね、女の子の入り口だ。……なるべく女の子にも、触らせちゃいけないよ」
 心は可愛らしく眉を寄せて、とても困った顔をする。
「ダメ? 誰にもダメ? ボクもダメ?」
 自分は男だから、ダメなのかと思っているようだ。
「心はいいんだよ。コレは心の身体だからね」
 そういって示すように、強くペニスを押し付ける。
「あん♪ んん……あ、ああ、あん……ひああ!」
 花びらごと、むんにゅりとペニスが押し込まれてゆく。
 とてもとてもきついが、小さな穴は驚くほど柔軟に、清十郎を飲み込んでゆく。
 やがて亀頭の部分がすっかり飲み込まれたところで、ちょうど処女膜に行き当たる。
 そのまま器用に、先端のみで心の胎内をにゅちゅにゅちゅとかき回しはじめる。
「あ、あ、ああん……はぅ、はぁ、はぅん。ひぁ、ひはぁ、んふ、ん……んふぅ! んはぁ♪」
「気に入ったかい? 気持ち良いかな? 痛くないかな? 痛かったらいうんだぞ?」
 小刻みに腰を動かし、内部の肉壁に擦り付けるようにして、胎内を犯す。
 何度も何度も亀頭を出し入れし、引っ掛りの強いカリの部分で膣口を刺激する。
 むにゅり、くにゃりと花びらごと押し込まれ、引き出さされる度に愛液が滲みでてくる。

{出る…出ちまう。搾り取られるみてえだ……耐え…ろ、耐えるんだ!}
「気持ち良いか? 気持ち良いかな? ここ? ここがいいのかな? ほぉらほぉら、声でてるぞ?」
 誤魔化すように腰の動きを抑え、クリトリスを摘まんでねじる。
「…んむぅ……んん、ん、んふ。ふんん! ひぃん、ん……ん、んん!」
 先ほどの清十郎の言葉を覚えているらしく、心は手で口を押さえ、声を必死で我慢する。
 それでも吐息はどんどん荒くなり、それにつれて腰をくねらせる。
 悲鳴のように短く、強い吐息が洩れるたびに、膣がきゅうきゅうと清十郎を締め付けてくる。
{最高だ。最高だよ、心。可愛くって、イイ子だ}
「気持ちいいだろう? さあ、答えるんだ」
「んんぁ…気持ち……い、いひ……いいよぉ…んふ、んふぅ……んはぁ」
 まるで泣いているような、しゃっくりあげるような――甘く切ない声を上げる。
 そのまま背後から小さな身体を抱き締め、清十郎は耳元でささやいた。
「そうか……ここはね、おまんこ、とも言うんだよ。さあ、言ってごらん、おまんこ」
 その言葉だけはまだ、恥ずかしいものと覚えているのか、心はいやいやをする。
 清十郎は、心のその恥じらいぶりが可愛くてたまらずに、腰の動きを激しくする。
「いぁああ……ひぁ、ひぁあ、あふぅ……ダメぇ、お、おまん、こ……イイの」
 清十郎の身体を狂喜が駆け巡る。
 女の子としての、ある一つの段階を、自らの手で為さしめたという感慨。
「イイ子だ……でもね。いくら気持ち良いからって、俺以外の誰にも触らせちゃいけないぞ?
ここはね、俺が優しくしてあげるから気持ちイイんだ。他のヤツが乱暴にしたら……」
「――?!! いひゃあ!! イタ、痛いのぉ! 清十、痛いぃい!!」
 突然、腰に力を籠め、グイグイと処女膜に先端を押し付ける。
 ギヂギヂと軋んだ音が、心の胎内に響く。
 すぐに力が緩められ、もとのようにやさしく胎内を、入り口を愛撫する。
「分かったね? ここは、心の大切な女の子は、俺だけが触っていいんだ。いいね?」
 涙をこぼしながら、こくこくと肯く心の唇をそっと奪った。
 背後からの無理な姿勢でも、小さな身体は扱いやすく、ほとんど苦にはならない。

「さあて、大切なここはあんまりいじっちゃ駄目だ。今日はここまで、ね? その代わり……
太ももでちんちんをきゅうって挟んでごらん。そう、そうだ」
 スマタだ。
 すでに、お互いが高まりきったことを分かっている清十郎は、最初から何の遠慮もなく、
激しく腰を打ち付けてくる。
 誰かが気付いてしまわないか、心はちょっぴり心配だった。
 ぐいぐい、にゅちゃにゅちゃと擦り付けられる刺激が、さらにクリトリスにカリが与える快感が、
凄まじい勢いで心を侵していく。
 心の柔肌でふにゅふにゅと締め付けられ、擦られる刺激が清十郎に、素晴らしい快楽を味あわせる。
 清十郎はさらに、心の太腿を交差させるように押さえつけ、お互いの刺激を強くする。
「んん……ふぅ、んふ、んふ…あ、あふ、ひふ、ひふ、ひぅう! ひっ……ひい!」
 懸命に声を我慢する心の口に、清十郎は丸めたハンカチを差し出す。
 はむぅとそれを咥えて、心はその上から口元を押さえつける。
「んん、ん、ん……んふ……ん、んん、んひぃ……んふ、んふ……ふ、んはぁあああ!!!」
 ぽろりと、口元からハンカチを落とし、心は簡単に果ててしまう。
「ぬお! ……ん、ぬ、ぬああ!!」
 清十郎が獣のような唸りを発する。
 くたりと力を失い、身体がくの字に折れたままの心の顔に、清十郎の迸りがぶちまけられた。
「にが…にが、苦ぁい……」
 可愛らしくつぶやいて、心は口元を舐める。
 心を抱きかかえ直し、清十郎はやさしく唇を重ねた。




「のど渇いたな――何がいい? コーヒーか?」
「あ、コーヒーは…おしっこ、行きたくなっちゃうから……」
「そうか。じゃあ、カフェインの入ってないヤツ、適当に選んでいいか?」
「うん」
 あのあとしばらく経つのに、いまだにまともに顔を見れない。
 清十郎は素早く立ち上がると、心の方をろくに見もせずに走っていった。
 彼もまだ、照れくさいのだろうか?

 昼時ということもあって、清十郎の向かった先、自販機はどこも混雑している。
{はやく! はやくしやがれ! 心を、あいつを一人にできるか!!}
 露骨に苛立ち、それを隠そうともしない清十郎。
 逞しい大男が傍目にもはっきりと分かる怒気を全身にまとい、無言で立つ威圧感は凄まじい。
 自然と、彼の周りから人が退いてゆく。

 いま心は大学構内の、日当たりの良い裏庭にいる。
 ちょうど良い木陰がいくつもあって、普段からよく利用するところだ。
(そうか、ほとんど半月ぶりなんだ……)
 周囲の風景がなんとなく夏っぽくなって、空もずいぶん高くなっている。
 青空を眺めながら、心は先ほどのことを思い返している。
***********************************************
 心の顔にぶちまけた自らの精液を、清十郎は小さめのハンカチで優しく拭き取る。
「よーし、よし。そうだ、目を閉じてな」
 デリケートな心の肌を決して傷めることのないように、丁寧に、丁寧に。

 顔が綺麗になると、次は大きめのハンカチをもう一枚取り出し、『お花』にそっとあてがう。
「…ぁあ……やぁ…いやぁ」
 顔を真っ赤にして、心はイヤイヤをする。
「大丈夫だよ。きれいにするだけだから、な?」
「……いや」
 心は恥ずかしくて堪らない。
 視線を逸らして、決して合わせようとしない。
{可愛いな……ほんとに可愛い。守ってやる。ずっと、ずっとだ}
 やさしく押し当てて、布地の上からすりすり、うにゅうにゅと触って愛液をしみ込ませる。
「んぅ? あ、あ、んん……もうダメぇ、触っちゃイヤぁ」
 まるで心の『お花』を型取りするかのように、版画でも刷るように、執拗に弄りながら拭き取っていく。
 膣口から布地をほんの少し押し込み、胎内にまで潜り込ませるようにして愛液を拭う。
 すっかりきれいになると、下着を引き上げてやる。
 そこでふと手を止め、鼻先を押し付けて心の匂いを嗅ぐ。
「甘い匂いがするな、ミルクの匂いだ――おいしそうだ」
「やめて、やめろよ……もう、やめてよぉ」
「分かってる。もう、なんにもしない。今日は、な……」
 最後はほとんど聞こえないような、小さな声で呟いた。
 レザーパンツを穿かせてやると、やさしげに微笑んでいう。
「ここでちょっと待ってろ。荷物、持って来るからな?」
「うん」
 まだ、目を合わせられない。
 心は気付いていないが、清十郎は愛液がたっぷり滲み込んだハンカチを、懐に仕舞い込んでいる。
 一体『何に』使うつもりなのか……

 ちなみに清十郎がハンカチを数枚もっていたのは、何も偶然ではない。
 彼の生家の流派には、布切れ、正式にはいわゆる『手拭い』を用いた一連の技法があるのだ。
 大きめのハンカチは手拭いの代わりであり、彼はいつも二・三枚は持ち歩いている。
 本来は暗器であるそれは、思いもかけないかたちで収納されている。
 それにもし見つかったところで、所詮は布に過ぎない。
 ではあるが、彼にとっては、合法的に武器を持ち歩くに等しい。
 布地一枚あれば、清十郎は刃物を持った相手でも、軽くあしらう事が出来る。
 その手の護身術の類でよくある、刃物を持った手に巻きつけて……などという、そんなものではない。
 ふわり、と被せるだけで簡単に刃先を逸らし、無力化してしまう。
 まるで魔法のように。
 男だったとき、心は実際に見せてもらい、いくつかは教えてもらったりもした。
 さすがに清十郎のようにはいかぬが、多少は遣えるようにもなった。
 同時に、彼の凄さをまざまざと見せ付けられ、恐ろしさを実感させられた。
 割り箸、紐、紙切れ、その辺りに落ちている小枝……それだけで十分、清十郎は人殺しも可能だ。
 素手での闘争など、その実力の一部に過ぎない。
 本当の本気で、何でもありで遣り合ったなら、決して勝てない。
 嶋岡 清十郎は、そういう男だ。
 だからだろう、清十郎は自身の力を理解しており、それ故にいつでも根本の部分で冷静だった。
 なのに、その彼が言ったのだ――
「声を出すな! 出しちゃ、駄目だよ? 人がきたら、そいつを殺すことになる……」
 ――心はいま、清十郎が恐ろしい。
 昔から、清十郎は心に対してやさしい。それは今も相変わらず、いや、より一層やさしい。
 だからこそ、恐ろしくてたまらない。

「――ほら、お前のだ」
 心のウエストバッグを差し出す。
「ありがと……トイレ、いってくる」
「またか?」
「うん」
「そうか……女の子だもんな。顔とか、きれいにしたいよな」
「……」

 今度は小用ではなく、他の用があった。すっかり落ちてしまった日焼け止めを塗るのだ。
 この二週間で、心はUVケアを忘れずに、きちんとするよう愛に習慣付けさせられた。
 顔を洗って、きれいに拭い終える。鏡には、潤んだ瞳の少女が映っている。
 確かに、いまの自分は十分に可愛いのだろう。でも、周りが騒ぐほどに『魅力』があるとは思えない。
 心の好みは、いまの自分自身とはまるで違うタイプなのだ。それに所詮は『自分』だ。
 大きな溜息を一つ。
 日焼け止めをきちんと塗って、さっさと清十郎のところに戻った。
***********************************************
 ぼんやりと空を見上げる、子猫のような心。
 ぺたりと、膝を閉じてその間にお尻を落とし込んで座る、いわゆる女の子座りだ。
「――あの? ちょっといいかなぁ?」
 声の方を振り向くと、少年、いや青年が二人。
 どちらもいまどきの若者といった風体で、悪く言えば軽薄そうな雰囲気だ。
「君、キャンパス見学かな? もしよかったら、俺達で案内するよ? ね、どう?」
 そんなもの、必要なわけがない。ここは心の通っていた大学なのだ。
 それに、いくら『戻って』いようと、心とて莫迦ではない。
 この二人に下心があるだろうことぐらいは、なんとなく分かる。
(面倒くさいなぁ)
 どのように断ったものか……心はしばし、考え込む。
 ――と、不意に心は笑顔をみせる。
 まるで蕾がほころんで、花を咲かせようとするような、可愛らしい微笑みだ。
{おいおい! ひょっとして――}
 これは、承諾の笑顔ではないのか? 若者たちは色めき立つ。
 だが、少女の視線は彼らの背後、身長より若干高い位置に注がれている。
「?――」
 怪訝に思った二人が振り向いたところ、すなわちその背後には……
 分厚く広い胸板が見える。視線をあげると無表情な顔。なかなかに整った男前だ。
 その中心に端座する二つの眼が、あくまで冷たく、傲然と二人を見下ろしている。
 何より雄弁に、その視線は語りかけてくる。
{失せろ……殺すぞ?}

「連れに、何か用かな?」
 低く落ち着いた、静かな声音だ。だがそこに、底知れぬ『力』を感じさせる。
「「い、いえ! 何でも、ありません!」」
 そそくさと、二人は去っていく。少し離れた辺りから、猛然と走りだした。
 よほどに恐ろしかったものとみえる。
「なんだあれは――何かされなかったか? 大丈夫か?」
 こちらの豹変ぶりも、かなり可笑しい。心はつい、笑ってしまう。
「大丈夫、だよ。 ……ありがと」
 ようやく二人は目を合わせることができた。
「ほら、スポーツドリンクだけど、いいか?」
「うん、ありがと」
 笑顔で受け取る。
 清十郎は心の隣に腰を下ろした。
 しばらく無言で、二人は空を見上げる。
「いい、天気だな……」
「そうだね」
 不意に、清十郎の手が伸びてきて、心の手に重ねられた。
 ビクンッと、心の身体が強張る。
「……」
「女の子、なんだな。本当に、女の子だった……」
 とても寂しそうな声。もしかして泣いているのではないかと、そう感じられるくらいに。
 彼が泣いているのを、心は見たことがない。友人たちの誰に聞いても、見たことがないと言う。
 清十郎自身、泣いたことは数えるほどだと、いつ泣いたのかもよく思い出せないと、
「お袋が死んだ時ぐらいだな、覚えてるのは」
 こんなことすら言っていた。
 その清十郎が、泣いている。涙はこぼしていないけれど、泣いている。
 なぜだろうか、いまの心には、そのことが確信できる。

「ごめんな。ごめん。俺、酷いことしちまった。苦しんでるお前を、追い込んで……すまん」
 いまの心と一緒では、清十郎はどうしても冷静ではいられなくなってしまう。
 だが、ほんのしばらく一人になったことで、清十郎は落ち着きを取り戻していた。
 飲み物を買うその間で、彼は改めて、現在の心が置かれた状況を考えることができたのだ。
 もしも自分が、ある日突然、非力な女の子になってしまったら?
 元々、心も清十郎も体格の差こそあれ、男として十分に恃みとするに足る、『力』の持ち主だ。
 その男の肉体という武器を、鎧を剥ぎ取られる。
 しかも意識は、記憶は本来の自分のまま。
 それは如何程に恐ろしく、こころ細いものであろうか。想像を絶する。
 もっとも精神の点については、心の場合、どこまで本来の彼のままなのかは分からないのだが……
 ――物の本でよくいう、『技』があれば身を守る術になる云々、と。
 心も清十郎も、その『技』に関しては多少の心得がある。
 『技』は精神と身体の双方に刻まれるもの。
 脳の思い描くとおり動くように、身体と神経に動きを刷り込んでゆく。
 それはやがて意識せずとも、反射的に繰り出せるところまで高められていく。
 しかし、最終的に人間の身体を操るのは脳であり、意識だ。
 だからたとえ女の子になったとしても、心が心である限り、『技』は繰り出せるのかもしれない。
 現に、ずいぶん女の子らしくなっているとはいえ、心の身のこなしの根本部分は、以前の彼のものだ。
 そうではあってもやはり、いまの心の身体では『技』は『遣え』ないといえるだろう。
 想像すればいい、健康な一人前の男と、非力な女の子が、全く同じ動作で拳を繰り出す場面を。
 どちらがより、『遣え』るのかは明らかだ。
 ましてや今の心は、女の子としても非力な部類なのだ。
 要するに多少の心得など、非力な身体では何の役にも立たない。
 武門の家に生まれ、育ってきた清十郎であるが故に、そのことが骨の髄まで分かっている――
 そんな状態にある心を、清十郎は無理矢理に犯した。
 たとえ厳密には処女を奪わなかったとはいえ、信頼を裏切り、欲望のままに蹂躙したのだ。


「ごめん。ごめん。本当にすまなかった。許してくれ、心」
 広く大きな背中を丸めるようにして、謝り続ける清十郎。
 心には彼の大きな身体が、とても小さな子供のように感じられた。
(…清十郎…)
 音も無く立ち上がると、心は清十郎に歩み寄り、彼の頭を抱き締めた。
「――心?」
「いいよ、許す。ボクが無用心だったのは、事実だし――それに、君は…本当には、犯さなかった」
 清十郎の頭を抱き締めて、胸に押し付けながら、心は百合のことを思い出していた。
 あのころ自分もこうやって、彼女の胸で泣いたのだ。それに、
(さっきは、君が泣かせてくれた。だから、お返しだよ……)
 男は女の、女は男の胸で、はじめて素直に泣けるのかもしれない、心はそんなことを考えている。
 今日は不思議なほどに、頭がすっきりしていることも感じている。
 そうなのだ、どういうわけか、今日の心は『戻る』のも『帰る』のも、とてもはやいのだ。
 いまはほとんど本来の心に『帰って』いる。
「すまない、心。ありがとう」
 清十郎の右目から、涙が一筋こぼれていった。
「だけど、もう二度と……あんなこと、しないでよ?」
「――それは、約束できねえなぁ」
 急にいつもの調子に戻って、清十郎は心を抱き締める。
 そのまま心の小さな胸に顔を埋めて、ぐりぐりと押し付けてくる。
「ひぁ?! あ…ん! 莫迦ぁ! この、調子にのるなぁ!!」
 清十郎の頭を抱え直し、両肘を彼の鎖骨にがっちり食い込ますと、素早く膝蹴りを見舞う。
 角度、スピードとも申し分の無い、鋭い一撃だ。
 すんでのところで両手を使い、清十郎はこれをガードした。
{危ねェ……いや、やっぱり、駄目だな}
 本来ならば、ガードが間に合うこともないはずなのだ。
 それに防いだところで、ガードの上からでも、ダメージは必至の威力を持っていたはず。
 なのにガードは間に合い、清十郎にダメージもない。
 技のタイミングも、申し分なかったのに、だ。

「清十郎の莫迦ぁ!」
 心は隙をついて離れた。真っ赤になって胸を隠している。
 実は清十郎、ブラジャーのホックを外していた。
「ん〜〜、この…なんつーか、小っちゃいくせに、すんげぇやわらかいなぁ…ごちそうさん」
 不意に真顔に戻る。
「相変わらずだな。安心したよ、技のキレは前以上かもな……だが――」
「――威力がまるでない、でしょ?」
 心も真顔になる。
「多少は手加減してくれたんだろう? じゃなきゃガードは間に合わねぇ」
「いいや。ガードさせるのに、タイミングは待ったけど、あれで目一杯だよ……」
「そうか……って待てよ! 目一杯、本気でやったのか!? 酷ぇ……」
「効かないの、分かってたから……それに、ガードさせるのが目的だもん」
 両手を使わせて、離れるのが目的だった。そういうことだ。
{なるほどねぇ……けど、なあ}
 清十郎が思っていたより、心はずっとしっかりしていた。
 それは分かったが、この非力さがあまりにも不安だ。
「なあ、心。くれぐれも、気を付けろよ?」
「分かってる……大事な『女の子』には誰にも、指一本触れさせない」
 真っ赤になって恥ずかしそうにいうのだ。
「そうだ、俺以外には絶対に触らせるなよ」
 何故か胸を張って、自信に満ちたようすで言う清十郎。
「違う、違う。それ違う。君にも、だーれにも触らせないよーだ」
 少しづつ、いつもの二人に戻っていく。
「それにね……ほら! これ」
「確か、そいつは」
 心がウエストバッグから取り出したのは、件のスロウイングナイフだ。
 それが三本、ベルト状の革のホルダーに並んでいる。

「備えあれば憂いなし、だよ」
「なるほど……」
 これの扱いを心に教えたのは、他ならぬ清十郎だ。故に心の腕前は、よく承知している。
 心のウエストバッグは、分厚い革製のバイカースものだ。
 その大きめのポケットにナイフは収められており、いつでもすぐ、取り出せるようになっている。
「さっきは、バッグごと置いてきちゃったから、使えなかったけど……」
「俺にも使う気なのか? それを?」
「当たり前! いま一番危ないのは、君だよ?」
 確かに、その通りではある。
「へいへい……分かったよ。もういたずらしない、約束する」
「本当?」
「ああ、本当だ」
 ようやくいつものように、二人は笑い合う。
「腹、空かないか?」
「そういえば、お昼過ぎてるね……」
「何にする?」
「今日はもちろん、おごりだよね?」
 可愛らしく微笑んで、清十郎の顔をのぞき込んでくる。
「ああ、おごるよ。さっきご馳走になったお返しだ」
「……莫迦」
 ふたたび真っ赤になって、心はうつむいてしまう。
「で? 何がいいのかなぁ?」
 にやにや笑いながら、清十郎は心の頭を撫でてくる。


「んーと、ね――あ、危ない」
 清十郎の頭があった空間を、何かが物凄い勢いで薙いでゆく。
 女の物のバッグだ。それをすんでのところでかわした清十郎が振り向く。
「このぉ! 痴れ者がぁー!!」
 間髪入れずに、スニーカーの靴底が顔面に向かってくる。
 ガードした清十郎に、再びバッグが叩きこまれる。
 見事な連撃だ。
「この! 清十郎の浮気者ぉ!! ロリコン!!」
「待てぇ!! 落ち着け! 落ち着いてくれぇ! 頼む! 透子、透子さぁん!」
************************************************
「――いやねぇ、もう、私ったら。取り乱しちゃって……」
 彼女は杉原 透子、清十郎の恋人だ。
「それにしても、あの心くんが……こんなに可愛くなっちゃって」
 いいつつ、心の髪を撫でてくる。
「おい、いい加減にしろ……」
 清十郎は仏頂面だ。彼の左頬は真っ赤になっている。透子にさきほど一発くらったのだ。
 それに透子は、心のことを説明されて分かってからずっと、心にベタベタし通しである。
「なによ? 焼きもち? それともさっきのこと? ごめんねって言ってるじゃない」
「大体なんで、俺の話をキチンと聞かんのだ…いきなり引っ叩きやがって……」
 ぶつぶつと文句をいう。清十郎はさきほどからこの調子だ。
「それは、いつも清ちゃんが浮気ばっかりするから……それに、この子が心くんだなんて、
普通考えないし――ねぇ、心くん?」
「ボクに聞かれても……」
 透子が言う事はもっともだし、清十郎の気持ちも分からないではないが……
 実際のところ、清十郎が先ほど浮気らしきものをしたことは、秘密にしておくべきだろう。

「そういえば、どうして今日、透子ちゃんがここにいるの?」
 彼女は金曜日には講義をいれていない、大学にくる必要はないはずだ。
「あ、たまたまゼミの教授に相談ごとがあってね」
「進路のこと?」
「ええ、そう」
 彼女と心は同じゼミに所属している。偶然そうなっただけだが、それ以前から二人は知り合いだった。
 元々は入学から間もないころ、透子の方から心に声をかけたのが始まりだ。
 心は大検を取得後も、すぐには進学せず、ジム通いとバイトに専念していた。
 清十郎や百合が大学に進学して、その一年遅れでようやく進学した。
 恋の強い勧めを、断りきれなかったためだ。
 進学するまでの間で、心はその筋で多少は知られるようになっていた。
 透子はその手の格闘技の興行を観戦するのが趣味の一つだった。
 そのため心を知っており、声をかけてきたのだ。
 清十郎と透子を引き合わせたのは心だった。いや、引き合わせ『させられた』というべきだろう。
 心は清十郎と違って、人付き合いは苦手だ。それに大学へは、とりあえず通っていただけに過ぎない。
 だから透子が心とまともに友人になれたのは、ひとえに彼女自身の押しの強さのおかげだといえた。
 その点で、清十郎と透子は似たもの同士なカップルだ。
「可愛いわねぇ……私さ、こういう、いまの心くんみたいな妹が欲しかったのよね……」
 抱きついて、頬をふにふにとつついてくる。
「あの、あの透子ちゃん? やめて……清十郎、怒ってるし……」
 清十郎は仏頂面のままだ。
 いまの彼がいったいどちらに、どの様な焼きもちを焼いているのか、分かったものではない。
 おそらくは彼女が、親友とベタベタするのが気に入らないのだろうが……
「いいのよ。普段は浮気ばっかりしてるんだから、たまには焼きもちくらい」


 英雄、色を好むとはよく言ったものだ。
 女性については来るもの拒まずなところがある清十郎は、ちょくちょく浮気をする。
 その度に心は、二人の仲裁をする羽目になっていた。
 とはいえ、清十郎は決して『本気』にはならない。結局いつも帰るのは透子のところだ。
 そういった意味で、安心して見ていられる。夫婦のような二人なのだ。
 ――だったのだが、心はいま、なんとなく不安を感じている。今日の清十郎は、おかしい――
「ねえ、心くん。頼みがあるんだけど」
「なに?」
「私のこと……お姉ちゃんって、呼んでくれない、かな?」
「え……」
「お願い! ね、いいでしょう? へるもんじゃないし、ね?」
「恥ずかしいよ……」
 透子は心を拝んだ格好のままで、動かない。
「じゃあ、一回だけだよ? ……お姉…ちゃん」
「ああん! もう一回! 今度は名前もいって、ね?」
「……透子お姉ちゃん」
「きゃー!! もう、もうこの子は、この子は、可愛いんだからぁ!」
 抱きついて胸に顔を押し付けられた。窒息しそうだ。
「……苦しい、苦しいよぉ」
「透子! いい加減にしろよ! 死んじまうだろうが!!」
「あ、ごめんね、心くん――ううん、心ちゃんがいいわ! そうよ、これからは心ちゃんって呼ばせてね?」
「え…?…いやだよ。恥ずかしいから、止めてよ」
「駄目です。もう決めました。今日からあなたは心ちゃんよ」
 この辺りの無理矢理な強引さが、まさに清十郎といっしょなのだ。
「おい、心をからかうの止めろって。こいつにとっちゃ大問題なんだぞ? 洒落にならん」
「そんなこと言っても、仏頂面して唸ってたって、心ちゃんは元に戻らないでしょ?」
「まあ、確かにそうだが……」
「ね? だったら少しは今を楽しまないと、ね?」

「おもしろいのは……君たちだけじゃないか! ボクは全然おもしろくないよ!」
 さすがに心も不機嫌にもなろうというものだ。
「ふふふ……じゃあ、こういうのは?」
 透子は心に耳打ちする。清十郎には聞こえないように、だ。
「……ねえ、ほんとにやるの?」
「そうよ。ほら、心ちゃんはやく」
 心は恥ずかしそうに、上目遣いで清十郎を見つめる。
「ん、なんだ。なんだよ、俺になにかする気か?」
「清十郎…お兄ちゃん」
「な!? な、な、なにを……心、お前……」
 清十郎は真っ赤になってぶつぶつと何事かを呟いている。
 照れている。清十郎は照れている、間違いない。
 彼が照れるのを、初めてみた。長い付き合いで、初めてだ。
(これは、面白いかも……)
「ほらほら、もっと呼んであげたら?」
 心は悪戯っぽく笑うと、さらに続ける。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「ば、莫迦野郎! 止めろ、止めろ! 気色悪いっての!!」
「嫌いじゃないくせに、こういうの」
 透子は人の悪い笑みを浮かべていう。
「くそ! 透子、お前、下らないこと吹き込みやがって!!」
「よかったわね? 私たち、こんなに可愛い妹分ができて……ね?」
「お兄ちゃん……ロリコンなの?」
 さらに心は畳み掛ける。
「くそ! くそう!! ちくしょー!!」
{うわぁあああ〜!! 可愛いなあ……心、可愛いなあ}

 心に『お兄ちゃん』と呼ばれるたび、興奮でクラクラする。
 清十郎には、年下好みなところがある。
 透子にしても実際の年齢からして、1歳年下であるし、彼女の外見も、どことなく幼い。
 童顔で、身長こそ低くはないものの、胸も小さめで細い身体つき、ボーイッシュな雰囲気も漂う。
 そういう趣味の清十郎にとって、いまの心はどういう存在か……
 簡単に想像がつくだろう。
 それを分かっているから、透子は心にこれをやらせたのだ。
 彼女からの明確な、清十郎に対する牽制とみて良い。
「お兄ちゃん♪ おにーちゃん♪」
「くそっ! くそぉ!!」
************************************************
 しばらく二人で清十郎をからかって、心の気も随分と晴れた。
 清十郎もまんざらでないどころか、じつは逆に喜んでいたのだから、八方丸く収まったといえよう。
「――それで? 今日はこれからどうするの?」
「あのね、これからちょうどお昼にするとこだよ」
「そっか、じゃあ私も」
「うん、そうしよう。今日は、清十郎のおごりなんだ」
「やっぱり当然よね。だって社会人は清ちゃんだけだし、甲斐性ってのを見せないと、ね?」
「ね?」
 すっかり女の子同士の会話だ。
{なんでこいつらは、俺を無視して話を進めるんだ?}
 清十郎、置いてきぼりである。
 もともと男のときから心は、男とより女の子との方が話しやすく、打ち解けやすかった。
 同性の友人は清十郎が現れるまでいなかったうえ、姉と妹に挟まれていたのだ。
 ある意味で当然、無理もないと言えよう。だがそれが、心のコンプレックスの一つでもあった。
{でも、可愛いから、いいか}
 清十郎が感じているとおり、今はそれがまるで違和感なく、ごく自然にみえる。
 最初からこうなるよう、予め決められていたかのように。

「で? 飯は何にするんだ?」
「んー? Pでカレーとか、どう?」
「あ……ごめん。カレーはダメなんだ」
「どうして? 心ちゃん、好きだったじゃない?」
 確かに心はカレーが、いや辛い物、特に激辛物はだいたいが好物だった。
 だが、いまは食べられない。辛い物といわず、刺激の強い物はほぼすべて、身体が受け付けない。
 味が濃くても大丈夫なのは、甘い物くらいだ。
 この身体は、あらゆる刺激に対して、とにかく敏感なのだ。
 裏を返せば、それだけ感覚が鋭敏で鋭いともいえるのだが、あまり慰めにはならない。
「辛いもの、食べられなくなっちゃった。だから、ごめん」
「私こそ、ごめんね。つらいのは、心ちゃんだもんね」
 透子はもう心のことを、ちゃん付けで呼ぶことを止めるつもりはないのだろう。
「どんなモンならいいんだ?」
 心はこの二週間で、何が食べられるのか大体は試している。
 とはいえ、この間で口にしたものは、ほとんどが愛の手作りの家庭料理だ。
 しかも手の込んだ、小洒落たものばかりだった。
 何を食べたか、食べられるのかを試したことを聞いていた、清十郎と透子の表情は複雑だ。
 一人暮らしの二人にしてみれば、羨ましい事この上ない。
「――それでね、久しぶりに食べたいものが、あるんだけど……」
 二人をうかがうような上目遣いで、見つめてくる心。
「何だ?」
「言ってみて、なあに?」
「あのね、ラーメン……」
「ハァ?!」
「清ちゃん! 何よその態度は!」
「だってお前……自慢だか何だか分からん話を延々聞かされた挙句に、ラーメンだぞ?」
 さすがに清十郎は呆れ顔だ。それを見て、心の表情が曇る。
「…だって…だって、家にずっといて、一人じゃ出かけさせてもらえなかったし、姉さんと出かけても、
そういうものは食べさせてもらえなかったから……」

 心はこの二週間で二回ほど、恋の『お付き合い』に同行していた。
 その時に外食をしたのだが、いずれも料亭での懐石だった。
「いいのよ、心ちゃん。今日はラーメンにしましょうね」
 保護欲を掻き立てられたのだろうか、透子は心を抱き締めると、頭を撫でてくる。
「まあ……いいか。んで、どこで食うんだ?」
「まかせて! 今から行けば、ちょうど源の開店時間よ」
「源って、屋台じゃねえか。場所分かるのか?」
「チェックしてないと思う? この私が――」
 透子はそういうところで非常にまめというか、ぬかりない。
「んじゃ、行くか」
 立ち上がった清十郎に、心の声がかかる。
「あ、あの、ありがとう。それと……トイレ行ってくるから、ちょっとだけ、待って」
「またか?! ほんとに近いな――痛ッ!」
 透子が清十郎の頭を小突いた。
「清ちゃん!! 女の子にそういうこと言わない!」
「いいよ……ほんとのことだから。この身体になってから、その、多いんだ……」
 もじもじと恥ずかしそうに、心は言った。
「別に、恥ずかしがることないわ――私もいく」
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「そういえば、女子トイレってほんとに汚いんだね……驚いたよ」
「どこ使ったの?」
「図書館に行く途中だったから、C館の一階。それと、図書館の一階」
「図書館は、わりとまともだったでしょ?」
「うん、そうだね」
「一番きれいなのは、A館ね。あそこは研究室だから」
「あ、そうか。男といっしょだね。でも、遠いよ……清十郎待ってるし」
「平気よ。ちょっとくらい待たせたって――行こ?」
 透子は心の手をとり、ずんずん進んでいく。
 目的地のトイレには、誰もいなかった。
「わあ。ほんとに綺麗だ……」
「でしょ?」
 少し切羽詰っていたこともあり、心は後ろも見ずに個室へ急ぐ。
「――わ?!」
 トン、と。ごく軽く、背後から押された。かちゃりという施錠の音。
 振り向くと、透子が後ろ手にドアを閉めた格好で、微笑んでいる。
「透子ちゃん? なに? 冗談やめてよ……」
 口に人差指を当てて、透子は心の肩を掴んだ。
「静かにしないと、誰かに聞かれちゃうよ? それに急がなくて、いいの?」
「はやく、出て行ってよ…」
「イヤ」
 悪戯っぽい笑顔を張り付かせ、即答する。
「怒るよ?」
「ふふ、どうぞ。あなたにそれができるなら、ね」
「……」


 いまの心には透子を傷付けずに、ここから出て行ってもらうことはまずできまい。
 単純に体力を比べたら、透子の方が明らかに上なのだ。
 そうなると、かなり『本気』で抵抗するしか方法がない。
 だが、心は女の子を殴れない。いや、殴らない。男として当然の、大事なこだわりの一つだ。
 それだけではない。今はそれがこれまで以上に大きな、新たな意味を持っている。
 女の子に手をあげたら、自分が女だと認めたことになる、心はそんな気がしている。
 だから余計に、どうすることもできない。
「なにが、したいの?」
「別に何もしないわ……ただね、ほんとに女の子になってるのか、興味があるの」
 嘘だ。
 透子は一目みた瞬間から、心が女の子だと分かっている。そのことは確信できた。 
 だから、確かめる必要など、ない。
 本当はもう一つ、別に確かめたいことがあるのだ。
 いまの心を見たとき、女の子であることの他にもう一つ、透子には確信できたことがある。
 それは自分と比べたとき、心の方が明らかに、女としての『魅力』は数段まさっているということだ。
 小柄で子供っぽいところがあるとはいえ、誰が見ても明らかに綺麗で整った外見。
 さらに心は、女の子になったばかりなためか、とても隙が多い。
 これは先ほどから、ずっと試して分かっている。ことある毎にベタベタしたのはそのためだ。
 もっとも、そうでなくとも妹は本当に欲しかったから、途中からは普通に楽しんでいたのだが……
 可愛くて、無用心で――とにかく今の心は『美味しい』。いや、美味し過ぎる。
 この子を目の前に、男共が、特に『あの』清十郎が何もしないでいられるわけがない。
 聞けば、午前中からずっと一緒にいたというではないか。
 だから、確かめさせてもらう。
 女になったばかりなら、それは『生まれたて』ということだろう。
 本来なら、間違いなく処女のはず。そう、なにもなければ……
{あなたは、悪くない。あなたが『そんな子』じゃないのは『分かる』、男なんだもの。でも……}
 心の身体は女の子で、相手は清十郎だ。
 清十郎も、よほど『信用』されているものとみえる。

「興味があるって、どうするの……」
「ちょっとだけ、ちょっとだけよ。見せて欲しいの、あなたの身体」
 心ははやくも真っ赤になっている。
「い、いやだよ! そんなのダメだよ。おかしいよ!」
「ほらほら、声が大きいよ? それに女の子同士だよ? そんなに恥ずかしがらなくても、いいじゃない」
{――可愛い。ほんとすっごく可愛い。これじゃ、我慢できるわけないじゃない……}
 言葉をかけつつも、透子は心に抱きついて、身体をさすってやる。
 さっきから何度も試したとおり、とてもやわらかい。それにサイズが手頃で、扱い易い。
「ねえ……やめてよ。お願いだよ」
(どうして? 清十郎だけじゃなく、透子ちゃんまで……)
 いくら『似たもの』カップルとはいえ、こんなところまで同じとは思わなかった。
「大丈夫。いたずらなんか、しないから。心ちゃん、いえ、今は心くんって呼んであげる。
あなたが本当に女の子の身体なのか、それを確かめるだけ――それにはやくしないと、
お漏らししちゃうよ? いつまでも我慢できないでしょ? 分かってるんだから……」
 女性の身体は、男性より失禁の可能性が高い。その構造上、無理もないことだ。
「う……本当に、なんにもしない?」
「約束します。お姉ちゃんは、うそつかないわ。心ちゃん――」
 言いつつ、心のバッグを外してドアのフックにかけ、次いでベルトを外している。
 さらに、レザーパンツに手をかけた。
「自分でやるよ。触らないで」
 透子の手を払いのける。せめてもの抵抗だった。
 レザーパンツを脱いで、下着姿になる。
「もう、いいよね? コレ見れば、分かるよね?」
{何? この甘い香り…心ちゃんの……?}
「なんのこと?」
 シレっと、透子はとぼける。下着姿で、心が女なのは分かりきっているのに。

「さあ、脱ぎ脱ぎしましょうね……」
「いやだ! 触るな!!」
 抵抗する間もなく、下着を引き下ろされた。
「あら、可愛い」
{キレイ……良い香り}
「みるなよ! みないで! みないでよ……」
 無力な自分が情けないのか、心の目にはもう涙がいっぱいに溜まって、今にもこぼれそうだ。
「泣かないで、はやく、済ませちゃいましょうね?」
 心を抱いて座らせると、膝に手をかけて肢を開かせようとする。
「やっ! や、やだ……やめてよぉ」
 力ずくで簡単に開かされてしまう。
 大股開きにされたせいで、割れ目からほんの少しだけ、ピンク色が顔をのぞかせている。
 白い太ももと、その桃色のコントラストが非常に美しい。
「綺麗……ちょっとだけ、生えてるのね。かわいい」
{もうじゅうぶんに、女の身体……}
「触るな! もういいだろ、止めろ!」
 心は涙をこらえつつ、可愛らしい声をむりやり荒げて乱暴な口調でいう。
 必死で男らしく振舞おうとしているのだ。
 しかし元より中性的な口調で、そのうえ身体に侵食されているせいもあって、だいぶ無理がある。
 迫力の欠片もない。これでは小学生とて、怖がらせることはできまい。
「女の子が乱暴な言葉を使っちゃダメよ? それに、おしっこしないの?」
「ボクは男だ! …見られてたら……できないよ…」
 効果なしと見てはやくも諦めたか、それとも続けられないのか、心はいつもの口調に戻る。
「そんなこといって、無理な我慢は良くないわ――」
「ひゃ!? や、いや、いやぁ! ダメだよ、ダメ、ダメ、ダメぇ!」
 透子の指先がぴたりと、正確に心のクリトリスに当てられる。
{やわらかい――気持ちいい、触ってるだけなのに、気持ちいい}
 そのまま、うにゅうにゅと弄くりまわしてくる。

「うあ、あ、ふあ……やだ、やだぁ……だ、ダメぇ、ダメぇえ!!」
 敏感すぎる部分だけを、にゅくにゅくと弄られる。
 しつこい愛撫が一点に集中しているせいで、すぐに心の身体は快感を引き出されてしまう。
 何よりつい先ほどまで、清十郎の激しい愛撫にさらされていた身体なのだ。
「ふーん、なぁるほど……敏感なのね、心ちゃんは」
{こんなに感じやすいなんて……ひょっとして、もう……}
 ますます、はやく確かめねばと思った透子は、少々乱暴な手段にでる。
 指先を割れ目に潜り込ますようにして、心のクリトリスを摘む。
 そのまま少しだけ力を入れて、軽くひねる。
「ふぁあ! あ、あ、やめ…ひゃ、はぅ! ふぁ……ひ、ひぅ?!」
 不慣れながらもそこは女同士だ。絶妙な力加減で、捏ねくりまわすように愛撫を続ける。
 強い刺激が心の身体を貫く。手足の自由がきかない。
(ダメ、ダメ……我慢、我慢す…る…ん、んんあ、うああ!!)
 全身がびくびくと痙攣する。力が抜ける。もう、我慢できない。
 ――ぷしゃ、ちょろろろ、ちょろちょろ――と、可愛らしい水音が響く。
「いやぁ! ダメぇ、みるな、みるなぁ! いやだぁああ!!」
 心は目を見開いたまま硬直し、小刻みに震えている。
 そのようすを、透子はうっとりと見つめている。
{可愛い。こんなに、こんなに可愛いなんて……女の子が、こんなに愛しいなんて、初めて……}
 透子は少女趣味どころか、同性に対して特別な感情、恋愛感情など抱いたことはない。
 心を可愛いと感じたことにしても、年下の少女に対する純粋な庇護欲求だった。
 妹が欲しかったという彼女の言葉に、嘘はなかったのだ。
 それなのにいま、透子はこれまで感じたことのない、特別な愛しさを心に感じている。
 無力で無抵抗な心を『いじめ』て、言い様の無い喜びに包まれている。
「心ちゃん……キレイキレイしましょうねぇ」
 幼児に対するような口調で、透子はやさしく呼びかける。
 トイレットペーパーを手に取り、放心したままの心の股間に押し当てようとする。

「ひ?! さわるなぁ! いや、やめ…ダメぇ……さわらないでぇ……」
 ろくに力も入らず、ふにゃふにゃになっている心に、抵抗などできようはずもない。
 やさしくふれるように紙を押し当て、透子はとりあえず表面の雫を拭う。
「んぁ、んん……」
 表面が綺麗になると、割れ目に指を食い込ますように拭いていく。
「はい、キレイになりました」
 心を抱き締めると、透子は耳元で囁く。
「ごめんなさい。泣かないで、お願い。どうしても、調べておきたいことがあるの」
「いや、いやぁ……いやだよ、さわっちゃいやぁ……やだ、やだ、やだぁ」
 心の涙をぺろりと舐め取り、そのまま唇を重ねる。
「むぅ…ん、ん、んん……」
 声を出させないための強引なキスに、心はなされるがままだ。
 透子の指先が、『お花』へと伸ばされる。
 軽く割れ目に潜り込ませるようにして、薄桃色の蕾を摘む。
 ほんの少し力を籠めて、くりくりとやさしく弄り出す。
「ん! ん、ん……んっん、んん! んふ…んー! んん、んぅう……」
 口を塞がれて抗議することも、悲鳴を上げることすら許されず、ただただ蹂躙されるままの心。
 透子には重ねた唇を伝って、その荒い吐息が、悲鳴がはっきりと感じられる。
 舌の自由すら奪い取るように、自らの舌をそれに絡みつかせる。
「んぐっ?! ……んむ、んん、ん、ん……んぅう、んー! ん、んっ、んんうー!!」
 土手の方に向かって押し込むように、柔肉をひっぱり上げるようにしてゆく。
 皮膚が引っ張られて、クリトリスが完全に根本まで内皮から剥き出される。
 空気すら痛みと感じるほど敏感なそれを、細心の注意を払って指先で転がし、擦り、弄りまわす。
「んむぅ、ん、んん……ぷぁっ! やめてぇ…やだよぉ、もう、やめ……んんぅ! んー、んんー!」
 わざと一瞬だけ口を離してやり、可愛らしい声を聞いてみる。
 背筋がぞくぞくするような興奮を、透子は覚えた。ふたたび強引に心の頭を抱え込んで、唇を奪う。
 小動物のように口中を逃げ惑う、小さな柔らかい舌を追い詰め、自らの舌で絡めとる。
 口中を滅茶苦茶にかき回されて心が分泌した唾液を、貪るように飲み下す。
{おいしい……甘い、甘いわ。こんなに気持ちイイの、おいしいキス、初めて……}

 お返しとばかりに、自らの唾液を大量に心の口へと注ぎ込む。
 心は飲み込みきれず、激しくむせてしまう。そんな様子が可愛くて仕方ない。
{ごめんね。心ちゃん、ごめんね。ちょっとひどかったね}
 女同士でこんなことをするのは初めてだ。だが、透子は嫌悪感などまるで感じていない。
 むしろ侵し難いものを穢すような、背徳感と罪悪感がなお一層に彼女の興奮を誘う。
 このままでは当初の目的を忘れてしまいそうだ。
 一瞬、それでも良いかと、そんな風にすら考えてしまう。
 だがそれでは単なる悪戯になってしまうし、心があまりに気の毒だと、考えを改める。
「むうう……むぐぅ! んん、んむ…ん、んぅ……んんっ、んー! んんぅー!!」
 クリトリスを弄りながら、指先を伸ばして割れ目にそっと触れた。
 くちゅり、という音。間違いない、この感触は――湿っている。心は濡れているのだ。
 指先を確認すると、透明な液体が糸を引いている。
{これで、間違いないわね。完璧に、女の子なんだ――あ、ああ、あれ?! なに? これ……?}
 透子のこころを甘い喜びが満たす。
 心が女の子になって良かったと、それを嬉しいと感じてしまう自分が、そこにいた。
 これまで知らなかった、もう一人の自分に出会えた――そんな気すらしてくる。
 透子は唇を離してやると、心の顔を自らの胸に埋めるように抱きかかえる。
「心ちゃ〜ん? お姉ちゃんが、女の子の身体のこと、色々おしえてあげる」
「やめて……やめてよ、透子ちゃん。やめて……」
 紅潮した頬を涙で濡らし、息も絶え絶えになりながら、心は必死で現状を打破する方法を考えている。
 心がイヤイヤをするせいで、胸にぐりぐりと顔が押し付けられる感触に陶然としつつ、
「駄目ですよ〜? 透子お姉ちゃんでしょう?」
 透子はさらにグイグイと胸を押し付ける。
「ん〜、もし、透子お姉ちゃんって呼んでくれたら、止めてあげようかな?」
「本当? 本当に?」
「ええ」

「……透子お姉ちゃん。もう、やめて…ください。いたずら、しないで……」
「はい、よく言えたわね。えらいわ――ご褒美ですよ」
「――っあん! いやっ、いやぁ! うそつきぃ……」
 ぬちゅり、ぬちゅりと音を立てて、ゆっくりと何度も心の割れ目を撫で上げる。
 レールを滑らすように表面だけを擦って、透子はそのぬるぬるした感触を愉しんでいる。
「心ちゃん、こんなにぬるぬる。気持ちイイ?」
「うそつきぃ。いたずら…やめるって……いった、くせにぃ」
「だからこれは、ご・ほ・う・び♪」
 花びらや、それに囲まれた入り口を、しつこく撫で回し続ける。
{もう、いいかな? これくらいなら、処女でも調べて痛くないはず、よね?}
「やめてぇ……ずるいよ。ずるい、お姉ちゃん、ずるいよぉ……」
「ずるい? どうして?」
「だってぇ、女の子同士なの…に、ボクばっかり、いたずら……されて、ほんとにおしえて……
くれるなら、ボクにも…お姉ちゃんのを触らせて、見せてよ」
「――いいわ」
 即答される。
「え……」
 予想外の答えに、心の方が動揺してしまう。
 心にとっては最後の、苦肉の策だったというのに、透子はあっさりと承諾してしまった。
 いかに現在の身体が女の子であろうと、本来の彼は男だ。さらに透子にとっては恋人の親友だ。
 その心に自分の肌を晒せと要求されたら、普通ならば『目を覚ます』だろう。
 相手が男であることを思い出して、興を削がれ、嫌悪するに違いないと心は踏んだのだ。
 幼く『戻って』しまった心が、それでも懸命に考えた策だった。
 それなのに、透子は動じる素振りさえ見せない。
「心ちゃんは下だから、私も下ね」
 透子は自らジーンズを脱いでいく。生々しい、大人の女の匂いが漂ってくる。
 シンプルな水色の下着。その股間には、すでに染みができていた。
 心どころではない、彼女のほうこそ、もうすっかり『準備』が整っていたわけだ。

「いやだぁ、私ったら……ジーンズまで汚れなくて、よかった」
 少しだけ恥ずかしそうにしているが、それは肌を晒すこと自体に感じているわけではないようだ。
「だ、だめだよ! 透子ちゃん、いけないよ。清十郎に、清十郎に……」
「平気よ、ばれなきゃいいんだから。第一、女同士だもの――それから、お姉ちゃん、でしょ?」
 妖艶な笑みを浮かべて、下着を引き下ろしていく。
 座っている心の目線より少し低いところに、透子のすべてが晒された。
 心よりは濃いが、平均と比べればかなり薄めの陰毛があらわになっている。
 熟れきった割れ目と下着との間に、愛液が糸を引いている。
 外見的には多少、幼い雰囲気があるとはいえ、透子は成人した大人の女性なのだ。
 年齢相応の色気と健康的な『いやらしさ』がそこから溢れている。
 心とて男だ。たとえ彼女が好みとは違うとはいっても、そそられずにはいられない。
 透子はジーンズと下着を完全に脱いで、心のバッグにかけてしまう。
「どう? 私のはどうかなぁ? …心ちゃんのほど、キレイじゃないけど……」
「……キレイだよ。とっても、きれい」
 直視するのをはばかって、ちろちろと横目で眺めつつ、心は答える。
「うれしい。でも……もっと、もっとちゃんと見て」
 透子は両足を開き、腰を反らせる。片手の指先で、割れ目を拡げて『お花』を見せ付けてくる。
 ぱっくりと開いた花びらが愛液でぬめり、てらてらと輝いて見える。
 赤みの強い、鮮やかなピンク色。清十郎が惚れ込んでいるのが肯ける美しさだ。
「……ねえ、触って」
 さらに透子は心の片手をとり、自らの指をそえて胎内へと導く。
 ぬちゅぬちゅ、ぬめぬめした感触が心地良い。
「…あ、ん、んん……ねえ? どう? どう? 動かして、いじって、心ちゃん……」
 彼女は自分の指ごと心のそれを動かして、胎内をかき回そうとする。
「知らないから……いけないのは、お姉ちゃんだよ。知らないからね!」
 心はついに堪えきれなくなってしまう。
 細く長いその指で、透子の胎内をゆっくりとかき回しはじめる。

「あ、あん……あはぁ♪ ふふ、ふふふ……上手よ、心ちゃんとっても上手。気持ちイイ……」
 うれしそうな笑顔をみせて、透子は心の唇を奪う。
 今度は心も責められてばかりではない。お互いに舌を絡めあい、口中を愛撫しあう。
 透子の手が伸びて、ふたたび心の『お花』に触れてくる。
 やさしく花びらを摘んで、開いたり閉じたりしてくる。
 心も負けじと、空いた片手で透子のクリトリスを摘み、くにくにと弄りまわす。
 お互いの唾液を混ぜ合わせて啜り、飲み下しあいながら、競争でもするように愛撫を続ける。
 二人の吐息はどんどん荒くなってゆくが、声を出したら負けだとでもいうのか、黙々と舌を絡め合う。
「「――んむっ…っぷあぁ!!」」
 ようやく二人は唇を離すと、ちろちろと舌先だけ絡めて、しばらく愛撫の手を休める。
「それじゃ、いっぱい教えてあげる。時間がないから、手短にね……」
 透子は心を立たせると、トイレのカヴァーを下ろして自らが座り、膝上に心を抱える。
 まず自分が両足を大きく開いてみせ、心にも目顔でそれを示す。
 恥じらいながら肢を開く姿にそそられたのか、心の口元や頬にキスをする。
 うっとりと見つめあい、抱き締めあう二人。
「いいかしら? まずここ、このぴらぴらしたのは、なあに?」
 本当にすべて説明しようというのか、透子は見て分かり易い部位から、自分の身体で示す。
 既にかなり『戻って』いる心は、自らの記憶を引き出すことも困難になってきていた。
「……んーと、花びら…?」
 もじもじしながら心は答える。その可愛らしい答えに、透子は満足げな笑みを浮かべる。
 彼女はなんとなくだが、心が女の子になってから『幼い』ことに気が付いていた。
 おそらく今の、15歳の――外見はもっと幼い――身体に、引っ張られているのだろうと解釈する。
「ここはね、小陰唇っていうの。ほら、全体がお口みたいだから、唇に例えてるの」
「……お口? 下のお口? 『お花』じゃ、ないの?」

「あら! 素敵ね、『お花』……誰が、そうやって教えてくれたの?」
 よもや清十郎ではあるまいかと、透子は訊ねる。
 ちょうどその、小陰唇をくちゅくちゅと弄くり回して、はやく答えるように態度でうながす。
「ん、んぅう…あ…お姉ちゃんと、…お姉ちゃんと……」
「お姉ちゃんって……恋さん?」
 透子は直接に面識こそないが、恋のことは知っている。ちなみに愛とは顔見知りだった。
 ――果たして現在の愛が、透子のことを覚えているのかどうかは疑問だが――
 こくこくと肯く心に、とりあえずは納得する。
「ほぉら……お姉ちゃんの花びら、触って、いじってみて」
「あは♪ 花びら、花びら、キレイキレイ」
 歌うように呟きながら、心は透子の小陰唇を弄りだす。
 うにうに、くにゅくにゅと楽しそうに弄る姿には、後ろめたさがまるで感じられない。
 そんな玩具で遊ぶ子供のような純粋さが、なおさらに透子の興奮を誘う。
 心の『お花』を撫でる速度を上げて、くちゅくちゅと、指先を小刻みに震わせるようにする。
 愛液が泡立ち、かすかに濁ってねばついた糸を引きだす。
「んぅ、うう、あん……ダメぇ、お姉…ちゃん」
 透子の愛撫が激しくなって、心は花びらを弄るどころではなくなってしまう。
 ぬるりと、心の指先が透子の胎内に侵入する。
「ああん! あんっ、あぁん、ん、いいわ……上手よ、心ちゃん…」
 反撃に出たわけではない、単に手元が狂っただけだが、それが透子を喜ばせる。
「次はここ、これはなあに?」
「ふぁあ! あ、ぁあ、いやぁ……ダメェ」
 心のクリトリスを軽く摘んで示す。
「ねえ、ねえ、心ちゃん? ここは? ここは何?」
 くにゅくにゅと弄りまわしながら、ねちねちと質問を続ける。

「わかんない、わかんないよぉ……」
 いやいやをしながら答える心。その膣口から、こぽりと愛液が溢れる。
 何かすがるものが欲しいのだろう。無我夢中で指先を動かし、透子の胎内を乱暴にかき回す。
「はぁっ! …ん、ふぁあ…ん…心ちゃんは、悪戯っ子ねえ……ここは、クリトリスっていうの」
 女としての経験の差だろう。透子は愉しみながらも、冷静に心を追い詰めていく。
「さあ、クリトリスって、いってみて?」
「いやぁ…やだ、やだよぉ。違うもん、違うもん……ちんちん、だよ」
 透子はさらに力を籠め、少しだけ乱暴にクリトリスをねじり上げる。
「ぴぅう!! い…いやぁあ!」
「それは、男の子のでしょう? 心ちゃんのは、女の子よ?」
「いや、いや、いやぁ……ボク、ボクは…」
 あくまで自分は男だと、そう言いたいのだ。
{心ちゃん、可哀想……でも、でも、可愛い、可愛いわ}
「お姉さんは、恋さんは、何ておしえてくれたの?」
 少し気の毒だと感じて、透子は助け船をだす。だがそれでも決して、心を責める手は休めない。
 くにくに、うにゅうにゅと、クリトリスを弄り続ける。
「ん、んん……つ、蕾…蕾ぃ」
「そう、蕾ね……心ちゃんのは、きれいな蕾よ。とってもきれい」
 そんな伏字を使ってまで、今の心に相応しく、可愛らしい『教育』が為されていることを直感する。
 同時に、このように素敵な『心』の、姉という立場にある恋が羨ましい、妬ましいと感じる。
{こんなに可愛い妹……いいな、私も欲しいな――でも}
 もし本当の姉妹ならば、『こんな事』はできまい。そう思うと少しだけ気が晴れた。
 先ほどから透子は、心の『お花』の表面をしつこく弄るばかりで、まだ胎内には一切ふれていない。
 女同士ですること自体が初めてだったから、少しだけ躊躇していたのだ。
 しかしここまで試して、女同士のコツはかなり掴めてきた。

 要するに普段、清十郎にされていることをしてやればいいのだ。
{あいつ……普段はこんな風に、うまいこと浮気してたのね……}
 改めて自分の恋人の『上手さ』が分かり、透子は彼を見直すと共にちょっぴり複雑な気分だ。
 だが、おかげで心と楽しめたのだ。それでちょっと、清十郎めザマーミロとも思う。
 当初の目的は、心が処女か否かを確かめること。さらにもう、時間もない。
 今なら心に抵抗されることもなさそうだし、丁度いい頃合いだろう。
 いよいよ実際に確かめることにする。
 とはいえ、まだ指で探るのは不安だ。心が処女だった時、傷でもつけたら取り返しがつかない。
 そうなるとやはり、この方法が良いだろう……
「心ちゃんは、少しお疲れみたいね。 だからはやく、さっと教えてあげる、ね? ん――」
 もはや力なく、時おりぴくぴくと動くだけの心の指を、自らの胎内から引き抜く。
 透明な液体が糸を引く。その手を、心の口元に近づけてやる。
「どう? お姉ちゃんのは、おいしい?」
「うん」
 手についた愛液を、ぺろぺろと舐めはじめた心をみて、透子は目を細める。
「それじゃ、心ちゃんので色々おしえてあげるね? いっしょに、キレイにしてあげる」
 心だけを座らせると、その太ももを抱えて『お花』に顔を埋めようとする。
{うわぁ、嘘みたいに軽い。それに、やっぱり良い香り、甘い、甘い香り……}
 こんなことをするのは初めてだが、透子は嫌悪感どころか、少しも汚いと思わない。
 むしろどんな味がするのか、楽しみでさえある。
「あ……いやだよ…だめぇ、汚いよぉ…」
 くたりと背中をカヴァーに乗せて、下半身を持ち上げられたポーズで、心は腰をくねらせる。
「あら? どうして? 心ちゃんの『お花』とってもキレイよ?」
「だって、だってぇ……さっき、おしっこ…したのに」
「そんなの平気よ。心ちゃんだって、私のをペロペロしたじゃない」
「でも、それは…違うよ、違うもん」


「同じよ――」
 透子の舌先が、クリトリスに触れる。舌で包み込むようにして内皮を剥ぎ、口中に含む。
 強く吸いつけて舌で転がし、軽く歯を立てる。
「ひぁ?! ん、んんぅ、あ……あ、あは、あん、あ、いや……いやぁ、だめ、だめぇ」
 くらくらするほど強い、甘い香り。透子は陶然となってしまう。
{……素敵、どんな味なのかな}
 クリトリスだけでは、愛液が少ない。心の味がよく分からない。
 いったん口をはなして、花びらで囲まれた入り口付近に舌を伸ばす。
 ぴちゅりと、透子の舌が触れる。
{うそぉ! おいしい…こんなに甘いの? 女の子のって、こんなにおいしかったの?}
 透子は瞠目する。
 初めて味わう自分以外の愛液が、あまりにも美味に感じられるのだ。
 ほんの微かな塩味を感じる。とても甘い、チーズのように濃厚なミルクの香り。
 微塩のバターのような、甘ったるい味わい。とても、とても後を引く味だ。
 夢中になって、ぺろぺろと舐めまわしてしまう。
「あ、あぁん……う、うあ、いや……ダメ、そこ、きたな…いよぉ」
「大丈夫、大丈夫よ。それにね、とってもおいしい。心ちゃんの、おいしい」
 わざわざ尿道口に口をつけ、啜り上げるようにする。
「いやぁ! 汚いよ、ダメ、ダメぇ! 汚い、汚いよ……あぁ…ふぅ、あはぁ♪」
 花びらを軽く噛んで、歯でこそぐように愛液を啜る。
「キレイな『お花』……この花びらで囲まれてるところを、膣前庭っていうの――ここよ、ここ」
 舌先で楕円を描くように舐め回して、示してやる。
「花びらのお外のふくらんでるところ、このぷにぷには大陰唇っていうの――心ちゃんはつるつるねぇ」
 顔じゅうが愛液にまみれるのも構わずに、頬擦りをする。
「おしっこの穴の下、ここを膣っていうの。とてもとても大切なところ……」
 尿道口から舌で舐めつつ、ゆっくりと移動して示していく。
 近づくとぐるりと円を描くように舐め、少しづつ円を狭めて、ぴたりと閉じた膣口に到達する。

「それじゃ、いただきます」
 透子はまるで、何日も空腹のままだった獣が、獲物にかぶりつく時のような光を瞳に宿している。
 キスするように唇を当てて、強く吸いつける。ゆっくりと舌を侵入させていく。
「ぴひゃ?! はふ、ひあ……ひ、ひぅ…あ、ぁあ、はぁ……ふぁああ! ひゃ、ひぁ、いやぁあ……」
 ゆっくり、ぬちぬちと舌を進ませながら、透子はそのきつさに驚いていた。
 舌に吸い付いて絡みつく肉襞はとても柔らかい。だが同時にきゅうきゅうと締め付けてくる。
 おいしい愛液に、この感触。舌を入れているだけで、どうにかなってしまいそうだ。
 透子はうっとりしながら、ぐにゅぐにゅと舌を潜り込ませる。
 すぐに、壁に行き当たった。とても浅い。
{あ……良かった。心ちゃん、処女だわ。ほんとに、ほんとに良かった……}
 もう、清十郎が浮気をしたかどうかなど、どうでもよくなっていた。
 ただただ純粋に、心が処女であることが、キレイな身体であることが嬉しかった。
 嬉しさでついつい夢中になって、口元をぐいぐい押し付けて、心の胎内を舌でかき回してしまう。
{全部、ぜーんぶ飲んじゃうから……心ちゃんは、心ちゃんは私のもの}
 透子は顔じゅうをすっかり愛液まみれしながら、その甘い蜜を啜り、飲み下していく。
「ひぁあ…ふあ、あふぅ……ひう、ひふ、うはぁ♪ ふぅう、あは、ひゃあ……あ、あ、うあ♪」
 可愛らしい悲鳴をあげながら、心はビクビクと痙攣するように震え続ける。
 はげしい愛撫を受けて抵抗すらできず、快感に溺れることしかできない。
 透子は舌を引き抜くと、心を抱えたままで器用に跨いで、身体を反転させる。
 自分の『お花』を擦り付けるように、心の顔前にお尻を突き出してくる。
「心ちゃんも、私の『お花』をぺろぺろして、ね? 好きにいじっていいのよ」
 透子は心の下半身を抱えているために、手を使えない。
 そのために、ふたたび舌だけで『お花』を愛撫してくる。
 心の胎内に侵入させて、肉襞と絡み合わせ、処女膜のすみからすみまで確かめていく。
 小さな穴を探り当てると細心の注意を払いつつ、舌先を細くして、めり込ませるように愛撫する。
「ひゃう?!」
 びくりと、心の身体が反り返る。

{心ちゃん、どうして? どうしてなの?}
 先ほどから心は、透子の『お花』をまったく弄ってこない。触れようとすらしていない。
 そのことが気にかかるのだ。そういえば悲鳴も止んでいる。
 耳をすますと荒い吐息に混じり、囁くような小声で、何事かを呟くのが微かに聞こえる。
「……はぁ、ん、んぅ…いやだよ……もう、もう、やだよぉ……たすけ、て…こわい、こわいよぉ……」
「――心ちゃん?」
 責めるのを止めて振り返ると、心は顔を両手で覆ってすすり泣いている。
 まるで本当の子供のように、幼い女の子のように、イヤイヤをしながら泣いている。
「…あ…心ちゃん……」
 自分は何をしていたのだろう? 透子は我に帰る。
 あまりにも可愛くて、おいしくて、弄るのが気持ちよくて――心も喜んでくれていると思って……
 それがどうだ? 心は泣いているではないか。こんなにもつらそうに、悲しんでいるではないか。
 心が処女なのかを確かめるだけで良かったはずなのに、これではまるで自分は獣だ。
「心ちゃん……ごめんなさい。ごめんね、許して……ごめんなさい、ごめんなさい……」
 透子は心を抱きかかえると、何度も、何度も謝り続ける。
***********************************************
「……調べたって、何? ボクの、何を調べたの?」
 まだ潤んだままの瞳で、真っ直ぐに見つめてくる心に、透子の胸がちくちくと痛んだ。
{本当のこと、言おう。言わないと、駄目}
 どのみち、もうすでに傷付けてしまったのなら、少しでもこころの負担を軽くしたかった。
「ごまかしても意味ないから、はっきりいうね。あなたが、処女なのか調べたの」
「え……?! そんなの、当たり前だよ。ボク、男だもん。誰にもさせない、触らせないよ」
「分かってる。あなたは本当は男の子。でもね、今はこんなに可愛い女の子なの。それにこうして、
私にすら、どうにかできてしまう……繊細で、かよわい女の子」

「それは…そうだけど、でも違う。こんなの、おかしいよ」
「あなたは悪くない。あなたが『そんな子』じゃないのは分かってるの……けど、周りはそうじゃない。
あなたがどんなに抵抗しても……いたずら、されてしまう」
「そんなこと、させないよ!」
「相手が、清十郎でも? いまのあなたに、心ちゃんにそれができる? 勝てるの? 守れるの?」
「それは……勝てないけど、でも、でも、させないよ」
「無理よ」
「…………」
 心は言葉もない。それが事実だから。
「彼と会うなとは言わないし、言えない。あなた達の付き合いは、私とよりずっと、ずっと長い」
「清十郎は、そんなヤツじゃないよ……」
「確かに、彼は誠実な人。男同士なら、間違いなく信用できる人。でもね、分かってるでしょう?
あの人の欠点なのよ……下半身は、まるで別の生き物」
 そこまでは言い過ぎかもしれないが、確かに清十郎は女好きだろう。
 長い付き合いだ、そのことは十分承知している。
 現に心は、さきほど犯されている。
 だが、彼が信用できる人物であることもまた事実なのだ。
 加えて元より友人の少ない心には、いま相談できる、頼れる友人は彼しかいない。
 或いは今すぐ会えるところに百合がいてくれたのなら、心は迷いながらも彼女のもとにいっただろう。
 しかし現実には、百合は遠い異国にいて、連絡すら途絶えてしまっている。
(百合……会いたいよ)
 皮肉なものだ。いまだからこそ、心は本当の気持ちで、百合と接することができそうな気がしている。
「私が、守ってあげる。何もできないかもしれないけど、でも、守ってあげる」
「透子ちゃん……?」

「きっと清十郎が、色々なことから守ってくれるはず……だから私は、清十郎からあなたを守る」
 透子は心を抱き締めて、決然と言った。
 そのまま唇を重ねる。長い、とても長い誓いのキス。
 舌を絡め合う二人の口元から、唾液が筋となってたれ落ちてゆくほどに激しい。
 唾液の糸を引いて、唇が離れた。
 二人はとろんとした、熱っぽく潤んだ瞳で見つめ合う。
「これからは、お姉ちゃんって呼んでね。絶対に清十郎と二人きりになっちゃだめ。必ず私と一緒よ?」
「うん……透子お姉ちゃん」
 心は可愛らしく、こくりと肯く。
「もし私がいない時は、必ず誰か一緒にいてもらってね? それから……二人の秘密よ? これからも、
いっぱい、いーっぱい、気持ちイイことしようね――」
 いまだ露出したままの、心の『お花』に触れてくる。
「ひぁあん! お姉ちゃん……今日はもう止めてよぉ……あ」
 さらに透子は自らの『お花』へと、心の手を導く。 
「うふふ」
「ん……もう!」
 やっぱり、透子と清十郎は似たもの同士だと、心はそう思った。
 ふたたび二人は唇を重ねると、お互いの『お花』をかき回し、弄くりまわし始める。
 それから――くちゅくちゅという湿った音が止むまで、その唇が離されることはなかった。
***********************************************
「おい! 遅いぞ、何やってたんだよ?」
 手をつないでピタリと寄り添い、ゆっくりと歩いてくる心と透子に、清十郎が声をかける。
「たかが小便で、なんで小一時間もかかるんだ?」
「ごめんね。ちょっと混んでて、しかも知り合いと話し込んじゃったから……」

「……ふーん。んで? 余計なことはしゃべってねえだろうな?」
「余計なこと?」
「心のことに決まってるだろうが」
「言うわけないわよ、当たり前でしょう? 私は莫迦ですか!!」
 清十郎は不機嫌だ。これだけ待たされれば無理もあるまい。
 それに心と透子が、やたらとぴったりくっついているのも気に入らないのだろう。
「ん? お前ら、香水でもつけたか?」
 二人の火照った身体からは、衣服にまで染み込んだ甘ったるい雌の匂いが、強く漂っている。
 清十郎が気付かぬわけが無い。
「ううん。何も――って、いやねぇ……清ちゃんたら、心ちゃんのことをそんな風に…嗅いだりして、
いやらしい!! どういうつもり? 友達にまでそんな……女の子だったら誰でもいいの?」
 反対に難癖をつけて、透子は清十郎に詰め寄る。
 完全に言いがかりなのだが、後ろめたいことがあるせいで、清十郎は言い返せない。
 むっつりと押し黙ってしまう。
 先ずは作戦第一段階、成功といったところか。
 あのあと、心と透子はお互いの『後始末』と身支度を綺麗にして、軽く打ち合わせをした。
 特に『お花』は念入りに、舌と口で隅々まで徹底的に、愛液の最後の一滴まで啜り、舐めつくした。
「んじゃ、まあ、行くか。もう用はないんだろ?」
 清十郎はあくまで、不機嫌な表情を崩さずに二人をうながす。
「何よ、その仏頂面は。可愛くないわね」
「うっせぇ! 野郎が可愛くてたまるか!」
 ぶつぶつと文句を言いながら、歩きはじめようとする。

「――心ちゃん」
 透子の声に、心はこくりと肯く。すっと清十郎の前に回りこんで、彼の手をとる。
「――? 何だ、心?」
 続いて透子も、清十郎の首に腕をまわして抱きつく。
「これで、機嫌なおしてね♪」
「おにーちゃん♪」
 ぐいっと引き込んで屈ませながら、透子は清十郎の唇にキスをする。
 同時に心も飛びつくと、彼の頬に軽い口付けをする。
「ばっ莫迦!! お前ら、何すんだ!」
 さすがに清十郎も、人前でコレは恥ずかしいとみえる。真っ赤になってうろたえている。
「ほーら、可愛くなった。ねぇ、心ちゃん」
「どうしたの、清十郎? 真っ赤だよ?」
「うるせぇ! うるせぇ、くそっ!!」
 二人に背を向け、足早に歩いていく清十郎。しかしその顔は、すっかりだらしなくゆるんでいる。
{……可愛いなぁ。二人とも、連れて帰って……くそう、たまんねぇ〜}
 作戦はまんまと成功したようだ。
 これで今日は二人が多少のワガママをしようと、清十郎は上辺だけは不承不承、だが内心は嬉々として、
どのようなことでも付き合ってくれるに違いない。




「本当に? 本当にもう、帰っちゃうの?」
 透子は心の手を握りながら確認してくる。これでもう何度目だろうか。
 あからさまに『帰したくない』という態度だ。
 三人で食事を終えて、その辺りを適当に小一時間ほどぶらついた。
 心はけっきょく、ラーメン一人前を食べきることも出来なかった。
 清十郎が、その残りを食べてくれた。彼の様子はなんだか嬉しげに見えたが、気のせいだろう。
 ぶらつく間にも、久しぶりにたこ焼きなども食べたが、それもほとんど彼の胃に納まった。
 まだまだ明るいが、時間的にはもうすっかり夕方だ。
「ごめんね。男の時みたいに、外泊するわけにはいかないから。姉さん達、心配するし……」
「でも、もう少しだけ…ダメ?」
「このあと、約束があるんだ」
「約束?」
 これまで黙っていた清十郎が、会話に加わってくる。
「うん、友達と会うことになってる」
「友達って? 百合ちゃん?」
 透子は、百合と面識がある。心の友人といえば、彼女くらいしか思いつかなかった。
「ううん。今の、この身体の友達。高校の、クラスメイト達…元だけど」
「ひょっとして、男の子……とか?」
 悪戯っぽい笑顔で透子はいう。
「何ぃ!!」
 清十郎が声を荒げる。
「違うよ……みんな女の子――どうして? 清十郎」
「そうよ! なんで清ちゃんが、そんな風にいうのよ!!」
「お前が妙なこというからだろうが……」
「何が妙なことよ? 心ちゃんに自分以外の友達ができたら、気に入らないの?」
「…莫迦いうな」
 清十郎はそっぽを向いて黙ってしまう。
{分かり易いわねぇ……そこが良いところなんだけど♪}

「じゃあ、送るわ。きちんと、目的地まで――ね? 清ちゃん」
「――ん。ああ」
 あっさりと、清十郎は承知する。
「え、でも、悪いよ」
 清十郎が住んでいるところは、心の住むA町よりもずっと都内よりだ。
 朝に待ち合わせた、例のクールベのあるB市をはさみ、さらに都内よりのD市に住んでいる。
 これから心が向かうのはI学園の最寄駅。そこはB市の駅から一つ下ったところだ。
 心の家の最寄駅から、ちょうど一駅の地点にある。
 そして清十郎の最寄駅からだと、三駅も下ったところになる。各駅停車を用いると更に面倒だ。
 要するに、心を目的地まで送ると、わざわざ往ったり来たりの遠回りをすることになる。
「いいから、ね? 私たちがそうしたいだけ。気にしないで」
 笑顔でそう言われてしまっては、心には断る理由もない。素直に厚意に甘えることにした。
***********************************************
 電車はちょうど、早い時間の帰宅ラッシュが始まったところで、とても混雑している。
 車内のドア付近のスペースに三人はいる。
「ね? やっぱり、清ちゃんがいて正解だったでしょう」
「……うん」
 心と透子が抱き合い、清十郎がさらに二人を抱き締めるかたちだ。
 彼が人ごみからの壁になってくれるおかげで、心はずいぶん楽ができる。
 もし心が一人だけだったのなら、今の華奢な身体でどうなってしまったか……想像したくもない。
 押し潰されて、窒息すらしかねないだろう。
「そういえば……気になってたんだけど。心ちゃん、どうして今日、こんな暑苦しい格好なの?」
 透子が、急に思いついたように訊ねてくる。
 今日の心はレザーパンツに長袖の白いシャツ、ワークブーツまで履いている。
 7月も半ばだというのに、この格好は確かに暑苦しい。
「あ、それは……清十郎が、分かり易いかなって、そう思って……」
 もじもじと恥ずかしそうに、心は答えた。
 男のときにもっともよく身に着けた、お馴染みの格好だったから……そういうことだ。

「――かわいい!! ちょっと清ちゃん、聞いた? なんて健気なの、心ちゃんたら、もう♪」
 透子は心を抱き締めると、額にキスを見舞ってくる。
 清十郎はぼーっと、心を見つめている。よく見ると何だか顔が赤い。
「二人とも、なんか変――ひあ!」
 不意に清十郎の手が、心のお尻に触れた。
「すまん。わざとじゃない、許してくれ」
 誰かの手が、引っ込むのが見えた。
(いまのって、もしかして?)
 誰かが心のお尻を触ろうとしていた。それに気付いた清十郎が――阻止した。
(痴漢? 守ってくれた?)
「清十郎、あの……ありがとう」
 頬を微かに染めて、上目遣いに、心は清十郎を見つめる。
「……ん。いや、約束したろ。守ってやるって、な」
{心、可愛いなぁ。帰したくねえ。このまま、持ち帰りてぇ。透子と三人で、一緒に……}
 やさしげに見つめ返す清十郎。
「でも、これはもう余計なんじゃない?」
「痛っ!」
 いまだに、心のお尻に触ったままだった清十郎の手を、透子がつねった。
「透子ちゃん…お姉ちゃんも、ありがとう」
 くすりと可愛らしく笑って、心は透子に抱きつく腕に、きゅっと力を籠めた。
「当然よ。約束ですもの、ね?」
 透子も笑顔で応える。
「約束ってなんだよ?」
「女の子でいる間は、心ちゃんは私の妹なの……ね?」
「うん」
 にこやかに、心は答えた。
***********************************************

「またね? 今度はもっと、たくさん遊びましょうね?」
 名残惜しそうに、手を振り続ける透子。清十郎は黙って微笑んでいる。
 心も応じて手を振り返す。
「またね」
「――おう。またな」
 二人はわざわざ、改札口まで送ってくれた。
(なんか……本当に、子供あつかい)
 待ち合わせ場所に急ぎながら、心はちょっとだけ、そのことが不満だ。
(でも、いいや。やさしく…してもらっただけ、だよね?)
 ふと、清十郎に、そして透子にされたことを思い出す。
 身体が、熱い。顔が、みるまに真っ赤になってしまう。
(あんな…こと、あんなこと……)
 恥ずかしい。すごく、すごく恥ずかしい。人ごみの中で、立ち止まってしまう。
(あ、あ……こんなところで、はやく、行かなきゃ)
 こんな人通りの多いところで、自分はいったい、何をしているのだろう……?
 そう考えると、余計に気恥ずかしくなってくる。 
 周りの人々の視点で、いまの心を見てみると――
 小柄で華奢な女の子が、街中でふいに立ち止まった。
 少し気になって、よく見てみると、まるで人形のように整った顔立ちをしている。
 その可愛らしい顔を真っ赤にして、もじもじしている。
 何か困ったことでもあったのだろうか? 声をかけてあげるべきだろうか?
 しかし、妙な人だと思われるのは、困る。
 それにしても……見れば見るほど可愛い娘だ。
 何だか頼りないし、やはり、声をかけて……おや?――
「ひぁあっ?!!」
 いきなり背後から、抱きつかれた。心は悲鳴を上げてしまう。

「いよう! 姫っち、元気か?」
「妹尾さん…」
 待ち合わせた相手の一人、妹尾 佳奈美だった。
「どうした? 何だか変だよ? なんか緊張してない?」
 抱きついたままで、佳奈美は聞いてくる。
「そんなこと、ないよ。あの、放して……」
「む? これは!」
「あ、ん…んあ、何するの、やめてよ」
 佳奈美は、心の胸をむにむにと揉み始める。
「これは、これは大きくなってる! 姫っちの胸が大きく――はっ、そうか! だからだな?
さっきから道のど真ん中で、もじもじしてたのは……野郎どもの不潔でいやらしい視線に、
耐えられなかったんだな? くそぅ! 可愛い姫っちをよくも、よくもぉお!!!」
 普段から大きな声を、さらに張り上げて莫迦なことをいう。
 周りの注目を一気に集めてしまう。
「あの? あの? やめて…やめてよ」
「――ええい、お前ら、男はこっちみるなぁ!! この助平どもが!!」
 すぱんっと。小気味良い音を立てて、佳奈美の頭が叩かれた。
「――黙れ。お前が一番いやらしい、うるさい、恥ずかしい、迷惑だ」
 佳奈美を心から引き離す。心の頭を、優しく撫でてくる。
「もう大丈夫だよ。久しぶり、姫」
「久しぶり、青樹さん」
 青樹 早苗だ。
「…? あのバカの言う事も、たまには合ってるな――いつも通り、早苗でいいよ。学校やめたって、
私らは友達だろう?」
「そのと〜〜り!」
「……うん。ありがと、早苗ちゃん、佳奈美ちゃん」
 微笑みながら、心はこたえた。その笑顔に、二人は見とれてしまう。
***********************************************

「ほーら。やっぱり女の子だったじゃない。心ちゃんが嘘なんて言うはずないもの」
「……ああ」
{あのガキぃ!! 心の胸を触りやがって、あんな風に、もみもみしやがって……いつか犯してやる}
「何よ、怖い顔して……清ちゃん、あの子に焼きもち?」
「違う」
 心を見送ったあと、清十郎と透子はこっそり後をつけてきていた。
 二人とも、どうしても心のことが心配で、我慢ができなかったという訳だ。
「ふーん。で? どうするの? まだ続ける?」
「いや、もういい。帰るぞ――今日は家に来い」
「じゃあ、夕飯のお買い物していこうね」
「ああ」
***********************************************
「でも、どうしてあんなとこで、ぼーっとしてたんだ?」
 三人で待ち合わせ場所に向かいながら、早苗は訊ねてくる。
「何でもないんだ。ちょっと、久しぶりの外だから……」
「ふーん」
 うつむいて、静かに答える心に、それ以上は詮索する気が失せてしまう。
 ただ、この娘を眺めていたい。早苗は、そんな気になってしまう。
「ねえねえ? それで、胸はどうよ? 大きくなってるんだろ?」
 そういう心情というか、風情とか雰囲気をまるで気にしないヤツもいる。
 佳奈美だ。彼女は心の胸が大きくなったのかが、気になって仕方ないらしい。
 そういえば彼女も、心と同じように胸が小さい。痩せ型で、見るからに活発な印象だ。
 身長は心よりは高い。平均より少し低い、といったところだ。
「……ちょっと、だけ」
 このままでは収まりがつかないと判断して、心は一応、答えることにした。
「ちょっとって、どれくらい? 私にだけでいいから」

「あの、ね……」
 耳元で囁く。
「ふーん、なるほど。ありがとね――危ないところだった。もう少しで姫っちに抜かれ……まてよ!
もしかして、入院したことに成長の秘密が!!」
 また大声を張り上げる。
「五月蝿い! バカ!」
 まるで約束事にでもなっているかのように、早苗が佳奈美の頭を叩いて止める。
 そんな様子を見ていて、心は笑ってしまう。
「元気になったな」
「――え?」
「どうよ? このカナちゃんの見事なボケは? 姫っちもすっかり元気に!」
「お前は本当に少しで良い、黙れ……」
「二人とも、ありがとう」
 自分――『心』に、こんな風に気遣ってくれる友人達がいることが、ありがたかった。
 同時に少し羨ましい。友人の数で、自分は『心』に負けている。
 それに彼女等は、『心』の中学時代からの友人だ。そのころ自分には、百合しかいなかった。
 自分にだって、清十郎が、透子が、そして百合がいる。
 だが、少しだけ違う、言葉そのままではない意味で『羨ましい』と感じてしまうのだ。
 ――けれど、今は……
「あ! おーい、赤名ちゃーん、たまちゃーん!」
 佳奈美が声を張り上げ、手を振りはじめる。
 向こうで、赤名と環が手を振って応じる。
 そうだ、今は佳奈美が、早苗が、赤名がいる。
 そしてなにより、
(環がいる……ボクの、恋人)

 この二週間で何度も、心と環はメールをやり取りしている。さらに何度か、遊びにも来てくれた。
 おかげでかなりの量の、友人達についての情報を得ることができた。
 それだけではない。
 心はときおり、『知らない記憶』を『思い出す』ことがある。
 女の子になってから日の経つごとに、どんどん頻度が上がり、記憶が増えていく。
 それは『心』がごく幼い頃の記憶であったり、つい最近の記憶であったり、様々だった。
 だいたいは、その時いっしょにいる人物との思い出が、不意にこころに浮かんでくる。
 当然、恋や愛との思い出が多い。だがそれに次いで、環との思い出がほとんどだった。
 本当にいつも、ずっとずっと『心』の側には彼女がいてくれた。
 いまはもう、まるで他人という気がしない。
 つい最近まで、男だった時には、彼女の存在すら知らなかったはずなのに……
「――環!」
 心は環に駆け寄り、手を握り合う。
「心くん、会いたかった……」
 メールをやり取りして、二人は決めていた。
 これからはお互いを、いつどこであっても、二人きりの時と同じように呼び合うことを。
 もとより誰にも、そして何も恥じるところなどないのだから、そうするのが自然だと考えたのだ。
 つい三日前にも会ったばかりなのに、二人はまるで長年引き離されていたかのようだ。
 熱っぽい視線で、お互いを見つめ合う。すでにまわりなど、目に入っていない。
 男の時の、心の好みのタイプとは違うのだが、そんなことは問題ではない。
 心自身にも、どうしてなのか分からない。ただただ、彼女が愛しい。
「ボクも、会いたかった」
 心は潤んだ瞳で見上げながら、環を抱き締めた。
 清十郎が見たら、どのような反応をするのだろうか?
「……うーん。すっかり二人の世界だな」


 佳奈美もさすがに、からかう気にもならないらしい。
「まあ、そっとしておいてやろう。邪魔するのは……無粋だ」
 微笑ながら、二人を見つめて早苗はいう。そんな彼女は、随分と大人っぽく見える。
「んじゃあ、私らも――ん」
「なんのつもりだ?」
 瞳を閉じて、唇を突き出した佳奈美を、早苗は冷たく突き放す。
「いいじゃん、ケチ……それとも、照れてる?」
「バカ」
 自ら冗談を言っているくせに、佳奈美は真っ赤になってしまう。
 そんな彼女の額を小突きながら、早苗の頬も赤く染まっている。
「…………」
 赤名だけが一人で、少し淋しそうだ。
***********************************************
「んで、とりあえず、この試験休みをどうするか? これが問題なわけよ、ね?」
 駅前のファーストフード店。窓際の席に陣取っている。
 5人はそれぞれ、適当にオーダーした品物をパクつきながら、顔を見合わせている。
 心を除く彼女ら4人は、ちょうど今日で一学期の期末試験を終えたところなのだ。
 明日から土日を合わせて、火曜日までの四連休になる
 それで心を合わせて5人でどこかに遊びに行く、その相談をするために集まったというわけだ。
「まあ、後に控えてるのは夏休みだし。適当でいいんじゃないか?」
「っても、あの『鼠野郎』のいるところはもうイヤ」
 うんざりといった表情で、佳奈美はいう。
「お前、鼠野郎って…… まあ、確かにあそこはもう厭きたよなぁ」
「中等部のころからさんざん行ったし〜」
「そうなの?」
 赤名がようやく会話に入る。彼女はしゃべるのがあまり得意ではない。心に近いタイプなのだろう。

「近いからねぇ、ちょくちょく行ったのよ」
 手をひらひらさせて、いかにも『厭きました』といった感じで佳奈美は答える。
「そうね……中等部に上がったばかりのころ、初めて4人でいったのもあそこだったね」
 環が懐かしそうに言う。
「そうなんだ……」
 赤名はやはり寂しそうだ。
「……あそこでも、いいんじゃないかな? 忍ちゃんは初めて一緒に行くんだし、ね?」
 とりなすように、心は口をはさんだ。『初めて』という部分を、半ば自分自身に重ね合わせて……
 ちなみに忍とは赤名のことだ。
 多少の記憶を『思い出した』とはいえ、心は本当には、彼女等のことを知らない。
 今回のことで皆と打ち解けられるなら、それは願ってもないことなのだ。
「でも、それより、ほんとにボクも一緒でいいの? だって……」
「いいに決まってんじゃん! 何を言っておるのかね、君は?」
 わざとふざけた感じで佳奈美は即答する。
「そういうこと。私らみんな、元々は姫が引き合わせたようなもんだろ? 学校やめたからって、
それが何だっていうんだ?」
 少し照れくさそうに、早苗も答えた。
「あの、あの……私も姫のこと、もっともっと知りたいから」
 忍は頬を真っ赤に染めて、とても恥ずかしそうだ。
「うおおお! これはたまちゃんに対するライバル宣言かぁ?」
「「え?!」」
 佳奈美の冗談に、環も忍も同時に驚く。
「黙れ。何でお前はくだらないことばかり言う」
 佳奈美の頭を、早苗が叩く。もはや定式化している。
「それじゃ月曜日に、例のところで――ってことでいいよね?」
 とりあえずまとめるために、心は皆に声をかける。

「おう! そんでいいや――鼠はムカつくけど」
「異論なし。鼠は無視しろ」
「私は、心くんが良いなら……」
「みんな、ありがとう」
 忍は嬉しそうだ。
「まぁ、良いってことよ」
「なんでお前は偉そうなんだ? なんかムカつく……」
 誰とは無しに、皆が笑い出す。
「連休の予定は決まったところで、次は夏休みだな」
 佳奈美は、素早く次の話題を持ち出す。
「うむ。こういうのは早い方がいい。さっさと決めておかんと、色々と準備もあるし」
「やっぱりさあ、私らも高校生になったんだし、旅行とかしてみたいよね。私らだけで、ねぇ?」
「ああ。いいな、それ」
 早苗はすぐに同意する。
「……でも、私たちだけで泊まれるところなんて」
「うん。それに、費用のこともあるし……」
 環と忍はさすがに不安なようだ。
 ここで心は、ふと『あること』を思い出す。
「あのさ……ボクたちだけでも泊まれるところ、こころ当りがあるんだけど」
「え! マジ?」
 佳奈美はすぐに喰い付いてくる。皆も、心の言葉を待っている。
「ボクらだけで泊まるのに、親の許し以外はいらないし、いつでも、何日でも大丈夫だよ」
「――あ」
 環は思い出したようだ
「そうね。あそこなら費用も交通費だけで良いし」
「ね? いいと思うんだ」
「なんだよう。二人だけで納得してないで教えてくれよ」
 佳奈美が突っ込んでくる。

「あのね、K浜の海岸沿いに、うちの別荘があるんだ」
「マジか?!」
「そいつは……」
 佳奈美と早苗は素直に驚いている。忍は黙ったままだ。
「同じところに、うちの別荘もあるの。気分を変えたいときは、そっちに移ればいいわ」
 環はごく当たり前といった様子でいう。
 心はこれまでに『思い出した』記憶と、日記の類で環の家の別荘のことは知っている。
 心と環は微笑んで頷き合う。
「あそこなら、姉さんに許可をもらうだけでいいから。一夏中でもOKだよ」
「このっ、このブルジョア!! ブルジョアのお嬢様どもめ!!」
 急に佳奈美が叫び出す。
「うるさい! 黙れ! 二人のおかげで、いい夏になるかもしれんのだ。だから黙れ」
 ばしばしと、いつもに倍する速度で、早苗の突っ込みが容赦なく入る。
「でも、いくら姫のお姉さんが許可してくれても、うちの親達がなんていうか……」
 忍は冷静に話しを引き戻す。
「確かに、親がなあ……高校生だけなんて、許可してくれなさそうだ」
 落ち着きを取り戻して、早苗も考え込む。
「心くんのお姉さん達も、心くんのお泊りを許可してくれるかしら……」
 環に言われて思い出す。
 そうなのだ。今の自分は一人での外出すらなかなか許されない、文字通りの『箱入り娘』だ。
 『あの』恋が、高校生の友達連中だけでの外泊など、許すわけもない。
「――だよなぁ……姫っちのお姉さん達は、姫っちのこと凄く大事にしてるもんなぁ」
 佳奈美も、恋と愛による過保護ぶりは良く心得ているようだ。
 早苗もうんうんと頷いている。
「姉さんは、下手したら、ボクと一緒について来ちゃうかも知れない」
「…いや、まて‥‥それだ!」
 早苗が大声を張り上げる。

「何が?」
「だから、姫のお姉さん達について来てもらうんだよ! 保護者として」
「え……」
 さすがに心は言葉が出ない。
「いい! それいいよ。グッドアイデア」
「それなら、親も許してくれるかも」
「うちの父も、心くんのお姉さんが一緒なら、きっと許してくれると思う」
 みんなが乗り気になっている。
「ちょっと、待ってよぉ……ほんとに、いいの? 姉さん達が一緒なんて……ねえ?」
「いや、むしろ大歓迎だぞ? 二人あわせて6年間、ミスI学園の座に輝いたあの伝説の美人姉妹と、
一つ屋根の下ですごせるなんて凄いことだ」
「ああ……お姉様たちに、美しさの秘密を伝授してもらいたい。特に胸とか、胸とか…胸」
「ほおう? まるで胸さえ大きくなれば、あとは完璧だとでも言いたい感じだなぁ?」
 口元を引き攣らせて、早苗は佳奈美に詰め寄る。
「決まってるじゃん。カナちゃんは完璧なのだ。胸以外は……」
 小さな胸を張って、大威張りで言う佳奈美。
「はっ! バカがなにを言う。パーフェクトビューティなら、ここに二人いるだろうが」
 早苗は、心と環を示す。
「見ろ。この二人は才色兼備、さらに資産家の令嬢だぞ? 人生は勝ったも同然だ」
「うーん。確かに……」
「今年のミスはおそらく西ノ宮で決まりだ。次点は赤名だろうな」
「そんな……先輩方に、綺麗な方がたくさんいらっしゃるのに」
「環ちゃんは分かるけど、私なんか……」
 奥ゆかしく謙遜する二人。しかし、軽く無視されてしまう。

「先輩方もいるが……まあ、たまちゃんで間違いないな。赤名ちゃんもかなり人気あるよな……
でもさあ、姫っちがいないのは残念だよ。姉妹三人で九年間ミスを独占できたかもしれないのに」
「うむ。それが残念だ。姫がいたら、西ノ宮との間でかなり票が割れただろうに」
「やっぱりそこで、胸はでかいのがいいと思うんだよ! 見ろって、この美乳!!」
 胸を抱え、環は真っ赤になってうつむいてしまう。
「愚か者め! 姫の可愛らしい微乳を見ろ! それにこの可憐さ! 守ってあげたいだろう?」
「うぬぅ。難しいな」
「いい加減にしてよ。二人とも……」
 心は止めにはいる。だが、
「ええい! 元はといえば、姫っちとたまちゃんがいけないんだ! 可愛いから」
 訳の分からない言いがかりを付けられてしまう。
「気持ちは分かる。だが落ち着け」
 早苗が佳奈美を止める。
 こんな莫迦な話をしているが、佳奈美と早苗もそれぞれ、なかなかに可愛らしい少女たちだ。
 平均的な水準よりは、かなり上と言ってよい。
 それにI学園の生徒であることからも明らかだが、そこそこに裕福な家庭の子女である。
「私も、姫と環ちゃんなら、どっちに投票するか迷ったと思う」
 忍も話に加わってしまう。
 彼女も十分に美しい少女だ。特にそのスタイルの良さは、高校生、いや日本人離れしている。
 さらに高校からI学園に来たところから、学業の方もかなり優秀であることが推測できる。
「二人とも、本当にキレイで可愛いし、優しくって、親切で、勉強もスポーツもできて……素敵」
「かなりタイプが違うけどな。でも、それぞれパーフェクトなんだよな」
「姫っちはスポーツ得意なのに、身体はあんまり丈夫じゃないのが、またそそるんだよねぇ」
「姫は悪戯な子猫みたいで、ほんとに姫って感じで……環ちゃんは聖女か、女王って感じがする」
「なるほど、マドンナか……それは良い例えだな」
「悪戯子猫ってのもね――小悪魔タイプ?」

「いや、そいつは違うだろ。無邪気な天使、いや妖精だ。だから悪戯っぽい感じがはまる」
「天使と妖精?」
「あ、それいい。それ」
 二人のことはまるで無視して、話し続ける三人。
「……ねえ、心くん。私、もし心くんがいたとしたら、心くんに投票すると思うの」
「ボクは、環に投票する。できないのが残念だよ」
「心くん」
「環」
 見つめ合い、手を握り合う。
「まあ、この二人の残念なところを敢えてあげるとしたら、この通りだ」
「二人とも男に興味なしだもんね。男どもは悔しがるよなぁ」
「でも……素敵。とってもキレイ」
 いつの間にか話を終えていた三人が、その様子をじっと見ている。
「なんだよ……みんな」
「からかわないで……」
 二人は真っ赤になってしまう。それでも、握りあった手は離さない。
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 男は疲れていた。
 こころの底から疲れきり、倦み腐っていた。
 毎日まいにち、会社と家とを往復するだけの生活。
 会社では、つまらぬ仕事に追いやられ、早く辞めろと肩を叩かれ続ける。
 家に帰れば、お世辞にも美しいとは言えぬ妻。そして自分に似て、全く可愛くない娘。
 身体ばかり成長し、この自分よりも知能程度の低い愚かな息子。
 父親である自分に対して、尊敬の欠片も抱かぬ家族たちが、自分勝手に、我が物顔で振舞っている。
 妻と顔を合わす度に、なぜこんな女と結婚したのだろうと思う。
 それはきっと、彼女も同じなのだ。
 ただ一つ違う点があるとすれば、自分はそれを決して相手に洩らしたりしないということ。
 娘も昔は、本当にごく幼いうちは可愛かったものだ。
 だがいまは、早く嫁にでも行ってくれぬかと、ただそれを願うのみ。
 しかし、あの容姿と性格では、それもおそらく難しいだろう。
 息子にしても、自分の子だ。優秀であるわけがないと、端から分かりきっていた。
 だが分不相応な夢をみた挙句、それに失敗して挫折したなどと言い張り、努力すら放棄してしまった。
 せめて自分程度の努力はしてくれると思っていたのに、最初から努力しようともしていなかった。
 いまでは世間が、時代が悪いなどと開き直って、よく分からぬ文士気取りだ。
 男には落ち着ける場所など、安らげるところなど、もうどこにもありはしない。
 通勤の電車が、少しだけほっとできる場所というのも、憐れなものだ。
 その平穏とて騒がしい若者や、その他の要因で簡単に破られてしまう。
 今日もわざわざ時間をずらし、帰りのラッシュを避けてうとうとしていた。
 ――と、
「だからさ、是非とも姫っちのお姉さん達を説得してもらいたい」
「うん、分かったよ。やってみる」
 静かなひと時は、少女達の元気な声に、いとも容易く破られた。

 舌打ちの一つもしてやりたい衝動を抑えつつ、薄目を開けて声の方を見やる。
{ほう……これは}
 何とも可愛らしい。まさに粒ぞろいの美少女たち。
 あの制服は……裕福な家庭の子女が通う、私立の有名な進学校のものだったはず。
 こんな時間に、寄り道でもしていたのだろうか?
 比較的に空いているとはいえ、座ることはできない車内。彼女たちがこちらに向かってくる。
 眠ったふりをして、空気を胸いっぱいに吸い込んだ。甘酸っぱい体臭が、男の鼻孔をくすぐる。
 可愛らしい少女たちの中に、ひときわ美しい娘が二人。
 そのうち一人は見事に均整の取れた、女らしい身体つきをしている。
 少女と大人の女のちょうど中間、乙女という言葉がまさにピッタリな印象だ。
 身長は150cm後半くらい、程よく発達した乳房とお尻が、女らしい丸みを帯びている。
 顔立ちは優しげで、大人しい感じだ。
 もう一人は――何といえば良いのか、分からない。表現しきれない。
 人形のような、つくりもののように整い過ぎた美貌。
 小柄で華奢な、繊細そうな身体。触っただけで、壊れてしまいそうだ。
 何故か彼女だけ制服ではなく、私服だ。おかげで、その細く長い手足がはっきりと分かる。
 身長は低いのに、まるでモデルのようにバランスが整っている。
 美しい。
 大きな瞳はきらきらと輝いて、くるくると表情を変える。
 引き締まった印象のある顔立ちなのに、とても甘ったるい感じもする。
 大切に育てられているのが、なんとなく分かってしまう。育ちの良さ、品の良さが滲みでている。
 ちょうど目の前に、彼女は立っている。その姿に、見惚れてしまう。
{可愛いな。綺麗な子だ――あれ?}
 ふわりと、彼女の方から甘い香りが漂ってくる。
 香水でもつけているのだろうか? ミルクのような甘い匂い。
 少女たちの中にあっても、明らかに違う感じがする、異質な香り。
 それを嗅いだ瞬間、男の中で長らく忘れられていた、熱い血の滾りが感じられた。

 『男の力』が湧き出してくる。
{なんだ!? これは一体? この香り……この子はいったい?}
 すでに枯れ果てたと思っていたモノが、いきり立つ。かつて無かったほどに、膨れ上がる。
{……天使? この子は天使なのか? そうだ、そうに違いない}
 唐突に、男は確信する。
 この少女は天使なのだ。自分を救いに来てくれた天の使いだ。
 彼女に気付いたのは、どうやら自分だけらしい。
 ならばきっと自分には、この子に救われる資格があるのだ。自分は最初の試練を突破したのだ。
 電車が停まる。
 少女たちが降りていく。
 男は何食わぬ顔で、少女たちについて降りてしまう。
 彼が降りるべき駅はまだまだ先なのだが、ここで彼女を見失うことは耐えられなかった。
{せめて、あの子がどこに住んでいるのか、それだけでも……}
 男は歩きだす。少女の導く天国に向かって――
**********************************************
「じゃあな」
「じゃーねー」
「うん、ばいばい」
「月曜日にね」
 心と環、それに早苗と佳奈美は、それぞれの家の方向に歩き出す。
 忍は電車の方向が逆なので、すでに分かれている。
 心と環は途中まで帰り道が一緒だ。住宅地が同じで、心の家の方が少し遠く、奥まったところにある。
 早苗と佳奈美も近所に住むもの同士で、同じように一緒に帰る。
「心くん、やっと二人きりになれたね」
「うん」
 手を繋ぐ。なんとも可愛らしい姿だ。
 心は、何者かが同じ方向に歩いて来ているのを、すでに感じている。
 だが偶然に、同じ方向に帰る人がいるだけの可能性が高いので、まだ特に気にはしていない。

「佳奈美ちゃんにも困ったもんだね」
「そうね。でも、気持ちはちょっと分かるの……」
「どうして?」
「だって、心くんのお姉さん達みたいに、綺麗になりたいもの――きっと、女の子はみんな」
「そう、なんだ」
「あっ……ごめんなさい、私」
「いいんだよ。気にしてないから、ボクは男。こころは男、ね?」
「うん、心くんは男の子」
「だから思うんだ……姉さん達より、ずっとずっと環の方が可愛いし、キレイだよ」
「心くんたら……」
 しばらく無言で、二人は歩き続ける。
「なんだか、しばらく会えなかった間に、心くんが大人っぽくなった気がするの」
「そうかな?」
「今日だって、みんなをきちんとまとめて……とっても格好よかった」
 環は頬を染めて、心を見つめてくる。
「頼りがい、出てきた?」
「ええ、とっても……素敵」
「環」
 環の頬に、キスをする。恥ずかしそうに俯いてしまう環。
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 我ながら多情なものだと、心は思う。
 これではとても、清十郎のことを『浮気症』だ、などとからかえない。
 環に玲那、亜津子に千鶴、そして百合。
 彼女らのうち誰一人として、いい加減な気持ちで『好き』なわけではない。
 自分ではどうすることもできない、こころの奥深いところが、彼女たちを求める。

 彼女らに対する気持ちに優劣をつけるなど、もっての他だと思う。
 しかし、だからといって『みんな好き』では、それこそ失礼というものだ。
 だからあえて、一人だけと言われたら、いまの心は環を選ぶ。
 環に対する気持ちは、とてもとても『特別』なのだ。
 どうしてなのかは、心本人にもよく分からない。
 ひょっとしたら『心』の身体が、環を求めているのかもしれない。
 そんな風に心自身は考えている。

 環は一見すると、もともとの心の好みとは違うようにみえる。
 一人だけ年下であることも目立っている。
 しかし環も含めて、心が好きになる女性たち全員には、確かな共通点がある。
 それは『庇護者』であること。
 簡単にいえば、母性が強いとか、『お姉さん』タイプだとかそういうことなのだが……
 それは表面にみえる部分でしかない。大切なのは、その根本だ。
 魂の形として、愛する対象者を『護ろう』とする女性か、否かということだ。
 だから本質的には、年齢は関係がない。
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「もうすぐ、お別れね」
「環…うちに来ない?」
「えっ?!」
「冗談……だよ。ちょっと早いけど、おやすみ」
「心くんも、おやすみなさい」
 十字路で別れる。
 環の姿が完全に見えなくなるまで、心は見送った。

「さて、と」
 心は家に向かって歩き出す。
(やっぱり、ついて来てる……でも、ボクの方で良かった)
 二重の意味で確認するため、十字路であれだけの時間を過ごした。
 十字路で追い抜いていかなかったのは、どちらかを狙ってついて来ている証拠。
 そして相手は、いまだに心のあとをつけて来ている。
 狙われているのが環ではなくて、心はほっとしている。
 環の方について来ていたなら、逆に心が、相手の尾行を始めるところだった。
 どうするか……このまま帰れれば、別にどうでも良いのだが。
 ばればれの尾行を、相手はしつこく続けている。
 心が一人になったせいだろうか、相手は徐々に距離を狭めてきている。
(まあ、いいや。とりあえず帰ろう)
 このまま無視することに決めて、心は歩くペースを速めた。相手も当然のようにそれに倣う。
 だんだんイラついてくる。少し、いや、かなり気にいらない。
 喧嘩を売ってきた相手をあしらったことならば、何度もある。闇討ちを掛けられたこともある。
 とはいえ当たり前だが、『こういう』ヤツは初めてだ。
 本来なら、この手の輩は無視するに限るのだろう。男だった頃の心ならば、当然そうしたはずだ。
 しかし、自分が『そういう』対象として見られていることが、どうしても気に入らない。
 心は立ち止まると、ゆっくり振り返った。相手に声をかける。
「なにか、ご用ですか?」
 物陰から、相手が現れる。
 40代後半から50代前半くらいだろうか? 中年のサラリーマンだ。
「こんばんは、お嬢さん」
「こんばんは……」
 つい、挨拶を返してしまった。
「こんな時間に、君のような娘さんが一人歩きをしては、いけないな」
 いかにも、うだつの上がらない印象。こんな真似をするような人間にも見えない。
(どうして?)

「お家まで、送ってあげよう」
 にこやかな表情を浮かべて、ゆっくりと近づいてくる。
 荒事が得意なタイプではない。何かをやっている人間ではないことが、足の運びからも見て取れる。
 喧嘩慣れしていることもなく、それを隠す演技が出来るような人物でもない。
「けっこうです」
 拒否されても、構わずに近づいてくる。
「お嬢さんは、おいくつかな?」
「教えてあげません」
 距離に気を配りながら、相手の動きをチェックしつつ答えた。
「高校生のお友達といっしょだったね?」
「答えてあげません」
 男は顔色ひとつ変えず、にこやかなままだ。
「私にも、娘がいるんだ。だけどね、これが私に似て、全く可愛くないんだよ」
「…………」
(この人……へんだ)
 男は、心の反応など気にしていない。
 眼の色が、おかしい。近づいたことで、それがはっきりと分かる。
 他人の後をつけ回すような人間が、もとよりまともな訳が無い。
 しかし、そういうことではなく、おかしい。
 虚ろでありながら、何かでいっぱいに満たされたような、そんな眼をしている。
「さあ。お家はまだ遠いのかな?」
 手を差し伸べてくる。
 反射的に回り込みつつ、距離をとった。手はすでに、件のスロウイングナイフにかかっている。
 いつでも、使える。
「…? どうしたのかな?」
「近寄るな」

 睨みつけながら、心は相手の出方をうかがう。
 いっしゅん呆気に取られた男は、しかしすぐに笑顔に戻る。
「大丈夫だよ。何かするつもりなんて、危害を加える気なんてないから、ね? 私はただ、
君のように可愛らしいお嬢さんが、一人でいることが心配で、それだけだよ」
「一人で平気です! だから、放っておいて下さい」
 強い口調で、はっきりと断る。
「いや、しかし…こんなに暗いし、人通りも少ない。何かあったら大変だ」
「あなたは、この辺りの方ではないから、ご存知ないのかもしれません。ここは古い家ばかりで、
近所同士の付き合いも深いんです。いざとなったら、すぐに助けを呼べます」
 これは事実だ。
 心と環の家がある辺りは、もともと大きな旧家と裕福な家ばかりの住宅地だ。
 家の数も少ないし、それぞれの庭も広いので、人間の絶対数は少ない。
 その代わり、そうであるからこそ、ほぼ全ての家の者が顔見知りだ。
 ここまでくれば、目の前の男が何も知らない闖入者であることは、すぐに分かるし、確実なこと。
「だから、早くお帰り下さい」
「しかしねえ……現に私のような、よそ者が来ることだってありうるんだよ? 本当に平気かなぁ?」
 男の態度に、少しだけ変化が現れる。粘りつくような、嫌な感じがする。
「……試される、おつもりですか?」
(くそ、やっぱりか)
 男は答えずに、ゆっくりと距離を詰めてくる。
 もう、間違いあるまい。
 相手が詰めた分、心は下がって距離を保つ。男がどう出ても、対処しきれるように。
(面倒だな……逃げ込めるところは遠いし、ボクの声……届くかな?)
 確かに逃げ込めれば、助けてくれる家はいくらでもある。
 しかし、一軒づつの距離が遠すぎる。さらに今の位置はちょうど、とくに庭が広い家ばかりだ。
 そのうえ今の心の体力では、走って逃げ切れるかも不安。
 あまりに、間が悪過ぎる。

(やるしか……ないか)
 とりあえず、どうにか怯ませて逃げる。そのあとどこかに隠れて、助けを呼ぶ。
 これくらいしか方法がない。
(狙う箇所は、片足と両手)
 逃げるためとはいえ、殺すわけにもいかない。
 いまの心は一度捕まったら、もうそれでお終いだ。なす術がない。だから、両手を潰す。
 足については言うに及ばずだろう。
 ナイフは三本のみ、一度の失敗も許されない。
(まず先に手、最後に足……)
 掴みにくるときを狙う。
 正直にいって、怖い。怖くて堪らない。
 闘いに臨むとき、心はいつ、どんな時であっても、怖くなかったことなどありはしない。
 怖いのが当たり前、だからこそ注意深く、冷静でいられる。
 おやっさんの言葉を思い出す。
 ――天敵に追い詰められた獲物は、自らの命が絶たれるその瞬間まで、決してパニックにならない。
 最後の最後まで、冷静であり続ける。
「ゆえに、窮鼠は猫を咬む。お前は清十郎とは違う。あやつは生まれついての『狩るもの』じゃ。
お前は違う。狩る側でも、狩られる側でもある、両方じゃ。それが本来の人間よ。だから心よ、
恐怖を忘れるな。恐怖に囚われるな。恐れで、己が慢心を戒めよ。かつ、こころを凍りつかせるな。
お前には、それが出来る。中庸――もっとも普通な、自然な覚悟の方法ぞ」
 覚悟を決めること。
 それはあらゆる意味で、『闘う』ときに必須のこころ構え。その方法には、人の数だけ種類がある。
 清十郎は炎だ。生まれついて、いや生まれる前から武人であることを決められていた彼にとっては、
恐怖すら己を奮い立たす、燃料の一つに過ぎない。
 恐怖でこころを凍りつかせ、氷のように冷たく、冷静なこころを得るものもいる。
 最初から、恐怖を感じぬものもいるだろう。
 心はそれらの、どれでもない。
 あえて喩えるなら、心は水。恐怖で己を冷し、落ち着ける。かつ、決して凍りつかない――

(来る!)
 相手の接近に合わせて、左側に回り込む。がら空きの左腕に、ナイフを投げつける。
 深々と、それは突き刺さった。
「うわああ!!」
 男が、初めて驚きの声を上げる。傷口を押さえながら、男はのたうちまわる。
 心は相手との距離を保ちつつ、冷静に観察を続ける。
(これで、逃げてくれれば……)
 だが、
「はは……これは、これはずいぶんと、用意のいいお嬢さん、だ。安心したよ……」
 男は痛みで息を弾ませながらも、笑みを浮かべる。
(この人……こいつ、やっぱり、おかしい)
 突き刺さったままのナイフを放置して、男はジリジリと距離を詰めてくる。
 下手にナイフを抜けば、出血がひどくなる可能性が高い、賢明な判断だろう。
 しかしそのうえで、まだ心を諦めないとは……まともな精神状態ではあるまい。
 痛みで精神が高揚している可能性は、無いとは言えないだろう。だが、刀傷の痛みは特別だ。
 はっきりいって、ハイになる以前に、耐えられるものではない。
 それをこの男は耐えている。
 余程の覚悟か、或いは既にやけくそなのか……
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{可愛いな……うちの娘とはまるで違う。やっぱり天使だ。あの子は天使だ……}
 男は少女たちの後をつけながら、そんなことばかり考えていた。
 例の、とくに美しい二人が同じ方向に帰っていくのも、偶然とは思えなかった。
 手を繋いで歩く二人の姿は、あまりに可愛らしく、微笑ましい。
 そのうち、やたらと大きな家ばかりが並ぶ住宅地についた。
{この辺りは、確か……}
 何となく覚えがある。
 以前まだ、外回りの営業をしていた若い頃に、何度か来たことがあった。
 旧家で地主だとか、役人や大企業の重役だとか、一角の金持ち連中ばかりが住んでいた町。
 彼女たちはどうやら、見た目どおりの『お嬢様』らしい……
 だが、己の妄想に囚われた男は、心を天使と信じて疑わない。

{あの子は天使だ。この世に決まった住処があるとは、思えない}
 だとすれば、心が天使だとすれば、これはどういうことなのか?
{誘われている? あの子はひょっとして、二人きりになるのを待っているのか?}
 ――と、天使がもう一人の少女の頬に、キスをした。
{う、うう……}
 妬ましい。女の子に嫉妬したなど、初めてのことだ。
 あの子は、自分がここにいるのを分かった上で、見せ付けているのではないか?
 今すぐに飛び出して、少女をひっ攫ってしまいたい衝動を、懸命に抑える。
 十字路で、二人は分かれた。
 天使は、もう一人の少女の姿が見えなくなるまで、その場で見送っている。
 ふたたび歩きだしたその後を、つけ始めて間も無く、彼女は立ち止まり振り向いた。
「なにか、ご用ですか?」
 まるで鈴の音のような、美しい声。
{やっぱり、誘っていたんだね? 私に気付いていたんだね?}
 男は喜びに打ち震えながら、少女と対峙した。
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「うわああ!!」
 左腕の激痛に耐えながら、しかし喜びが湧き上がるのを、男は抑えることができない。
{これが、これが最後の試練だ。これに耐えれば、彼女と天国へ行ける}
 そう思えば、痛みなど何でもない。
 男はすでに狂っている。
 心のあの『甘い香り』で、溜まりに溜まった鬱屈が変質し、全身に力が漲っている。
「はは……これは、これはずいぶんと、用意のいいお嬢さん、だ。安心したよ……」
 美しい瞳を怯えた色に染めて、少女が身構えている。
「さあ、行こう。二人で、天国へ……」
 手を差し伸べる。

(わけの分からないことを……)

「黙れ!!」
 掴みかかろうと伸ばされた右手を、迎え撃つように左拳を放つ。
 ぎりぎりで届かない間合い。
 失敗では、ない。
 狙いは、男の右手そのもの。
 指先に挟み込んで隠していたナイフを、真っ直ぐに放る。
 突き刺さったそれを、そのままカウンターの要領で深々と押し込む。
(まだまだ!)
 無力化したその右手を掴み、相手の肘に両膝をがっちりと当てる。
 全体重と遠心力を利用し、変則の飛びつき腕ひしぎ逆十字にもっていく。
 一瞬で極めて破壊し、すぐさま飛び退いた。
 攻めるときは一気に、これが鉄則だ。
(――え?!)
 破壊したはずの右腕が、振るわれた。
 完全に虚を突かれた心は、それをかわしきれずに防御する。
 ハイキックをガードする要領で、両腕を使いしっかりと――だが、
(あれ? ……あれぇ? どうし…)
 ぐにゃりと、景色が歪む。
 足に力が入らない。くたりと膝をついてしまう。
 ガードした衝撃だけで、脳が揺らされた。
 破壊された腕を使ったことで無駄な力が抜け、かえってその分、威力が増した可能性はある。
 しかしだからといって、こんなにまともにダメージを喰らったのは、いつ以来だろうか?
(…うそ……こんな、の…うそ…だ)
 いまの心は、体重も筋量も少なすぎて、衝撃を殺すことすらできないのだ。
 素人が無造作に振るった一撃に、なす術もない。
 意識が暗転する。

 ぺたりと、心は座り込んだ。虚ろな瞳で、ぼんやりと宙空を見ている。
 そんな姿ですら、例えようもなく美しい。

「どうしたの?」
 男は自分の一撃で、心が半ば失神しているとは思いもよらない。
 急に大人しくなってしまった心に驚き、戸惑う。
{ひょっとして……試練は終わりなのか? 私は合格したのか?}
 血塗れの手で、そっと心の頬に触れる。
 心は抵抗しない。もう何もできないのだ。
「……やった。やったぞ!!」
 小躍りしたいほどの喜びを抑えながら、男は右手に刺さったナイフを引き抜く。
 血が噴出す。ハンカチを取り出して縛り、適当に止血する。
「さあ、行こうね? 私と、おじさんと天国に行こう……」
 破壊された右腕を無理矢理に使い、心を抱きかかえる。
「――お?! っと」
 あまりの軽さに、尻餅を搗く。
{これは……やっぱり、天使だ。天使ちゃんだ!}
 心を抱えて立ち上がると、適当な場所を探して歩きだす。

 程無く、袋小路になった物陰を見つけた。
 ちょうど暗がりで、よほど注意深く探さなければ発見されないところだ。
 上着を脱いで、心をその上に寝かせる。
***********************************************
「……ん、あ、あん! あ…あ、んぁ……ん、あ…」
 胸がムズムズする感覚で、心は目覚めた。
 頭が重い、首が痛む。暗くて周りがよく見えない。
「……う? うああ!?」
 何かが覆いかぶさって、胸に取り付いている。
 ちゅぱちゅぱと音を立てて、小さな蕾に吸い付いている。
「やあ、天使ちゃん。お目覚めかなぁ?」
 さっきの男だ。

「なに、なに…するんだよぉ」
 抵抗しようとして、腕の自由が奪われていることに気付く。
 脱がしかけたシャツで、前腕が縛られている。胸が一面、血だらけだ。男の血だろう。
「うぅ? うぁあ、あ、あん。いやぁ……あ、ぁあん。あん!」
「可愛いおっぱいだねえ? とっても柔らかいよ……」
 むにむにと心の胸を揉み、蕾を指先で摘んでくる。
 ふたたび蕾を口に含み、舌先で転がし始める。
「やめ、て……やめろぉ、やめ、ん…んぅ、あ…ああ、あん」
「気持ちいいんだね? 可愛い声だ。それに、とっても可愛らしいお口だねぇ」
 指先で、唇に触れてくる。
 血の味がする。
「おじさんも、気持ち良くなりたいんだ……いっしょに天国に行こう、ね?」
 男は立ち上がり、不自由な手でスラックスを下ろし、同時に下着も下ろした。
 貧相なイチモツが現れる。
 小さい。
 男だった頃の、見慣れている自分のものや、昼間に見た清十郎のものに比べてあまりに小さい。
 心は思わず噴出しそうになってしまった。
 そんな様子を見て、男は誤解する。微笑んでくれたと、そう思ってしまう。
{可愛い……可愛いなぁ}
「おじさんのを、お口で気持ち良くして、くれるかなぁ?」
「いやだ!! 誰が、そんな汚い――う! むう……」
 ぐいぐいと顔に、口元に押し付けてくる。生臭くて青臭い臭気に、吐き気がする。
 口を閉じ、歯を食い縛って耐える心。
「…うーん、困ったねぇ」
 男は心の顎に手を添えると、力を込めて口を無理矢理に開かせようとする。
 簡単に、心の口は開いてしまう。
「――おぶっ! う、うえ…おぶ、おう、うお……ぼお?!」
 深々と、小さな口にイチモツが差し込まれる。
 根本まで一気にすっぽり挿入したそれを、ゆっくりと動かしだす。

 ギリギリいっぱいで、心の小さな口に収まりきるところから、男のイチモツの程が知れる。
 噛み付いてやろうとしても、喉元まで差し込まれたせいでえづいてしまう。
 こみ上げる吐き気に邪魔されて歯を立てることも出来ず、舌を突き出すようにしてしまう。
 それがさらに、男を愉しませる。
 心の荒い息づかいと、りゅぷりゅぷ、ちゅぷちゅぷという湿った音。
「キツイお口だね。小っちゃな舌で……そんな風に、ご奉仕まで、して…くれるんだね」
「おぶう、うう……おえ、えぶぉ…ぼぉお! え゛う、うう゛、うええ゛!!」
 心の頭を抱えて、男はイチモツの出し入れを激しくする。
 男は眼を血走らせて、小さな口の快感に耐える。いますぐに暴発しそうな迸りを、必死で抑える。
「もう、もうだめだ…そんな、そんな…上手に、ご奉仕し…でる! 出てし……出すよ? いいよね?」
「んむ゛ー!! んん゛ん、んぼ、ヴヴぇえ゛え゛……」
(やめろぉ……やめろ、この早漏野郎…)
 生臭い精液が、口中に注ぎ込まれた。そのまま男は、さらにイチモツの出し入れを続ける。
 心は窒息しそうになりながら、吐き出すことさえできずに、精液を飲み込むしかない。
 飲み込みきれない精液が、口中から溢れ出す。じゅぷじゅぷと、湿った音がひびく。
 男が噛み殺す唸り声と、口を塞がれた心の荒い吐息。
 小さな柔らかい舌が、イチモツにまとわり付く。
 口内の柔肉全体が、異物を外へ追い出そうとして、包み込むように締め付ける。
{素晴らしい!! その辺の女なんて、まんこなんて、問題にならん!!}
 男は幸運だった。
 彼のイチモツが粗末で貧相なおかげで、心の小さな口に咥えてもらうことができたのだから。
 それから男は立て続けに二回、心の口内へ精を放った。
 小さくきつい心の口を思うさま犯し、こころゆくまで堪能した。
***********************************************




「……ん、ひっう……う、ぅう、ひっ……」
 顔中を精液まみれにして、心はぽろぽろと涙をこぼす。
 口内を犯されるという未知の恐怖と苦しさで、心はもうすっかり『戻って』しまっている。
「どうしたの? どうしたのかな? 天使ちゃん、どうしたのかなぁ?」
 ネットリとまとわりつくような口調で、男は心に呼びかける。
 口元から拡がって、心の顔中にまとわり付いた自分の精液を、ちろちろと舐め取る。
「いやぁ…怖ぁい、にがいの、いやぁあ……にがいの、くるしいの……やあ、なのぉ……」
 いやいやをしながら、心は後退る。
 すでに両手の戒めは解かれているのに、もう逃げることもできない。
「そうか、そうかぁ……お口は苦いから、嫌なんだね?」
 こくこくと、心はうなずく。
「それじゃあ、おじさんのこれを、握ってごらん?」
 もうすでに三回も精を放っているというのに、男のイチモツはまるで衰えていない。
 男自身が、そのことに驚いているくらいだ。
{すごい、すごいぞお! 本当にこれが、これが私のモノなのか? こんなのは初めてだ}
 とうの昔に枯れ果てて、立ち上がることすらなかったはずの自分のイチモツ。
 それが凄まじいまでの逞しさで、何度も精を放ち、怒張を続けている。
 これは天使の、目の前の少女のおかげに違いないと、男は確信している。
「さあ、おじさんのを触ってごらん」
 心の目の前に、イチモツを突き出す。
 恐る恐る、眼を背けながら、心はそれに触れる。
 触れた瞬間に、ビクンッとイチモツが蠢いた。先端から濁った液体が溢れて、心の指先を汚す。
「ひあっ?! いやぁ、やだぁ……怖いよ、お姉…ちゃん、お姉ちゃん……」
 果たして心は、誰を呼んだのか。本人にも、分からないのかもしれない。

「しょうがないね……それじゃあ、怖くないように、気持ちよくしてあげようね」
「――あ、いやああ!! 触らないで、触るなぁ! さわるなぁあ!!」
 ぱたぱたと手足を振って抵抗する心を、男は簡単に取り押さえてしまう。
 ベルトに手を掛けて、外す。続いてレザーパンツに手をかける。
 先ほどまでは、傷の痛みで動かしづらかった手が、何故かすんなりと動く。
 これもきっと天使のおかげだと、男は考えた。
 少し手こずりながらも、レザーパンツを下ろし、下着を露出させた。
 ふわりと、甘い匂いが男の鼻をくすぐる。
「これは! これはぁあ!! これだ、この香りだっ! この、この香りぃいい!!!」
 喜びのあまり、男は絶叫してしまう。
 電車内で気が付いた、『天使の香り』だ。
 めきめきと凄まじい勢いで、イチモツが膨れ上がる。痛いほどに怒張し、先走りを垂らす。
 男の絶叫に驚いた心は、怯えて硬直し、震えている。
 心の股間に顔をグイグイと押し付け、男は匂いを楽しんでいる。
「天使ちゃーん。おじちゃんが、とってもとっても気持ちよーく、してあげるからねぇ?」
 顔を上げた男は、口元から汚らしく涎を垂らしている。
 目付きが、尋常のものではない。完全に狂人だ。
「いやぁあん……めぇっ! ダメなの! そこさわっちゃダメぇ……ひああ! んぁ、ああん」
 べろべろと下着の上から、男は心の『お花』を舐め回しはじめる。
 男の頭をぽかぽかと叩いて、心は抵抗するが、何の効果も無い。
「ん、ん、ん…んんぁ、んあ、あん、あぁん……う、う? …うはぁ、うん、あ、あはぁ……」
 快感がじわじわと、心の身体を蝕んでゆく。
 それにつれてどんどん、甘い匂いは強く濃く、芳しくなってゆく。
 唾液まみれの下着が張り付いて、『お花』の形がうすく浮き上がって見える。

「それじゃ、見せてもらうよ?」
「だめぇええ! ダメなの、怒られちゃうよぉ……だれもいじっちゃダメなのぉ」
 男を押し退けようと、心は抵抗する。しかし当然、通用するわけも無い。
 単純に脱がすだけでは飽き足らず、男は下着を引き裂いてゆく。
 下着が剥ぎ取られ、心の『お花』はむき出しにされてしまう。
「おやおや……これはこれは、なんて綺麗なおまんこだ。天使ちゃんのおまんこ綺麗だねぇ?」
「いやぁ! ちがうの…そこちがう、『お花』だよぉ、『お花』だもん!!」
 恥ずかしいのか、心は必死で主張する。
「ああ、ごめんね。天使ちゃんのはおまんこじゃなくって、『お花』なんだね?」
 こくりと、心はうなずく。
「綺麗だ……綺麗だねぇ。天使ちゃんのここ、可愛いピンクだねぇ? 『お花』をよーく見せてね?
ほーらほらほら、こうやって拡げちゃうよー」
 言葉通りに、男は指先で『お花』を押し拡げてくる。
「あ、あ、ああ…ああん! いや、いや、いやぁあ……」
 くちゅりと拡げられた『お花』に、涼しくなった夜の風が沁みてくる。
 男は目を皿のように見開いて、そこを凝視し続ける。
「綺麗だね、綺麗だぁ……本当に綺麗だねぇ。こんなに綺麗な『お花』さんを見たのは、おじちゃん、
初めてだよ。ほんとに初めてだ……」
 男は泣いている。いつの間にか涙を流している。
{良かった、良かったぁ……この子に会えて、良かった……}
 男は生まれて初めて、こころの底から、この世に生を受けたことに感謝していた。
 自分の一生はきっと、今日この少女と出会うためだけにあったのだと、そう確信している。
 この少女とまぐわうことが出来たうえは、もう死んでも構わないとすら思い始めている。
「天使ちゃんの『お花』を、ぺろぺろしちゃうぞぉ? きっと、とっても気持ちイイからね?
さあて、どんな味かなぁ」
「だ、ダメ…ダメ、ダメ、ダメぇえ……いたずらしちゃ、いやぁ……」
 男の舌先が、花びらに触れる。
 なぞり上げるように、舐め回してくる。

「はぁあ、あは、あはぁ…はぁう、はふ、はふぅ、あ! あ、ああ、あん! ひああ、ひあ、ひぅ……」
 甘い吐息が、心の口から漏れ出す。
 舌先での愛撫は、先ほどまでの無理矢理さとは打って変わって、愛しむように丁寧だ。
 『お花』の中央部分、膣口から尿道口までを、何度も何度も舐め回す。
 桃色の柔肉に鼻先をもぐり込ませ、ぺちゃぺちゃと湿った音を立てて味わい続ける。
「…おいしいねぇ。天使ちゃんの『お花』は色んな味がする。おしっこの味と、汗の味と、これは……
何の味かなぁ? とってもエッチな味がするよ?」
 舌をほんの少しだけ、膣口から侵入させようと押し付ける。
 しかし、ぴったり閉じた心のそこは、容易には侵入をゆるさない。
「ひぃん!! 違うもん、違う……違うのぉ…エッチじゃないもん」
 心の脳裏に、昼間の清十郎との、そして透子との情事が思い起こされる。
 あの時の残り火が、少しづつ身体の内側でくすぶり始める。
「ははは…エッチじゃない、か。そうだよね。天使ちゃんは、ほんとはエッチなんかしないんだよね?
いやらしいことなんて、しないんだよね? だって、赤ちゃんを産んだりしないもんね」
 『赤ちゃんを産まない』という一言のみに反応して、心はこくこくとうなずく。
 その様子をみて、やはり自分の考えは正しかったと男は満足げだ。
「だからここは『お花』なんだね? おやぁ? こんなところに、可愛い蕾が……」
「ぴゃう!?」
 いきなりクリトリスに吸い付いてくる。
 舌先で器用に内皮からむき出して、口中でねっとりと転がし出す。強めの、絶妙な力加減だ。
 心は目を見開いたまま、口をぱくぱくさせて声も出せない。
 震えながら全身を硬直させ、ブーツの中で足指を痙攣させている。
「――いっ!! いにゃあ……」
 男は、かるく歯を立て始める。
 幼い身体のただ一点、もっとも敏感なところだけを執拗に責め続ける。
「……ハァ、ハァ、ハフゥ……フゥ、ハゥ、ハァ、ハァ…あ、あ……」
 頬を桜色に染めて、あえぎながら涙をこぼし続ける心。

{おや? これは……}
 じわじわとほんの少量づつ、心の『お花』は潤いはじめる。
 にじみ出てきた愛液は、甘ったるいミルクのような強い香りを放ちだす。
「おいしそうな蜜が、溢れてきたね……」
 男はクリトリスから口を離すと、愛液をぺろりと舐めとった。
「うまい」
 ひとこと唸って、そのまま絶句する。
{最高だ!! 力が出てくるぞ!! やっぱりこの子は、特別だ}
 ぺろぺろと夢中で、愛液を舐めはじめる。一口ごとに、男の身体中に力が漲ってゆく。
 まるで若返ってゆくような――否、それ以上だ。
 怒張したイチモツにどんどん血が流れ込み、さらに膨れ上がってゆく。
 男自身、見たこともないくらいの大きさになっている。いますぐ破裂してしまいそうだ。
 すさまじい動悸を感じる。心臓が早鐘のようだ。
{このままいけば、死ぬかもな…いいや、これで天国に行ける。きっと、そうだ}
 少女とまぐわって、死を迎える。それこそ、男の望むものなのかもしれない。
 そのためには、さらなる『男の力』が必要だ。
{もっとだ。もっと、もっともっと、この蜜が欲しい}
 男は愛液を啜り続ける。だが心のそれは少なく、男が求めるほどの量は溢れてこない。
「いっ! いたぁい…いや、いやいやぁ……う、うぁ、ん…ん、んはぁ♪」
 愛液を溢れさせようとして、男はクリトリスを強くねじった。
 少しづつ調節して、ちょうど良い力加減を探す。愛液の溢れる量が、ごくわずかだが増え始める。
 舌先で舐めまわし、歯を使って花びらをこそぐように愛液を啜る。
 そのうち男は、おもしろいことに気が付いた。
 心のアヌスが充血し、薄桃色に色づいてヒクヒクしているのだ。
 何とも、こころ魅かれる感じだ。試しに舌でつついてみる。
「ひゃは、あはぁ……らめぇ、そこ、だめ……きたないよぉ」
 軽く触れただけで、心の身体はびくり、びくりと跳ね上がる。相当に感じているようだ。

「ここだね? ここ、ここが気持ちイイんだね? おしり……そうかぁ」
 過剰すぎるほどの反応が、可愛くてたまらない。
 指先でつんつんと弄りつづける。
{ひょっとして、天使は『ここ』でするのか? 人間とは、違うのか?}
 ふと、そんな馬鹿馬鹿しいことを考えはじめる。
「気持ち良くしてあげよう、ね?」
「うぁあ?! あ、あ、あ……ひぃ、ひふ、い、い、いやぁ……いや、やぁ」
 男の舌がゆっくりと、アヌスに侵入してゆく。
 心が悲鳴を上げるたびに、きゅうっ、きゅうっと締め付けてくる。
 あたたかく柔らかな肉襞が、男の舌に絡みつき、締め上げて、深く侵入されるのを拒むかのようだ。
{間違いない。ここだ、ここでするんだ}
 舌を無理矢理に押し込みながら、その感触の素晴らしさに、自分の考えが正しいことを確信する。
 イチモツで侵入したときの快感を想像して、男は陶然となる。
 ぬちゃぬちゃとかき回すうちに、愛液が溢れ出し、アヌスの周りにまで垂れてくる。
{これなら、すぐにできそうだなぁ}
 とてもキツイのに、同時に驚くほど柔軟で……あまりに矛盾している、この感触。
 そして何より、愛液の溢れ方の激しさ、この反応。
 ここを使って『そうする』ために、できているとしか思えない。
「さあーて、おじちゃんと一つになろうね。いっしょに天国にいこうね」
 男は舌を引き抜くと、心の身体を抱え上げた。
「……?」
 何をされようとしているのか、もう心には良く分からない。
 心のアヌスはもうすでに、愛液がからんでとろとろになり、照り輝いている。
 ぴたりと、アヌスにイチモツを当てる男。ぴちゅん、と湿った感触がした。

「あ、いやぁ…やぁ、やん……あん、いや、いやぁ…だめぇ……」
 腰に力を込めて、男は侵入を試みる。
 しかし、あまりにきつくぴったりと閉じたそこは、容易に分け入ることを許さない。
 さらに愛液でヌルヌルして滑り、狙いが簡単に外れてしまう。
 そのうえ心が嫌がって、腰をくねらせて逃げまわる。
 何だか良く分からないが、くすぐったい、恐ろしい。だから、心は必死で逃げたのだ。
 まるで、これが『初めて』の少年のように、何度も何度も失敗して男は焦れてくる。
 挿入しようと夢中になって、周りへの注意が薄くなっていく。
「うあ、いや、いたいよぅ……いたぁい、いたい、くるしいよぉ」
 心を下ろして、地面に押し付けて固定する。
「さあ、さあ、天国に行こう。連れていっておくれ……」
 血走った眼で覆いかぶさり、男はアヌスにイチモツをあてがう。
「いやぁああ!! やだぁあああ!!」
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