日が落ちてすっかり暗くなった夜道を、令は一人ぼんやりと考えごとをしながら歩いていた。
その内容はここ2日ばかりの唐突な状況の変化、ようするに体を含めた自身の事だ。
「女の体……か」
誰に言うでもなき呟きを漏らし、令は自身の掌を顔の前に持ってくる。
白くきめ細かい肌の、細い女の指……がさつな男の肌の名残りはどこにも見えない。
そしてそれは手だけではない。今の令の体には”令が男である事”を証明するものは
何一つ残されていなかった。あるのは他人からは見えない心という曖昧な存在だけだ。
だから女になった直後は、最後の砦である心で必死の抵抗をした。
この体は本来の自分のものではない、本当の自分の姿ではないと心で自己を支えていたのだ。。
その気持ちは今でも変わってはいないはずだが……しかし令は最近奇妙な不安を覚じている。
その不安とは、その抵抗が時が経つにつれて弱くなっているような気がする事だ。
とはいえその事自体は、状況に対して令が落ち着き冷静になったがゆえだと言えなくもない。
要は令がこの状況に”慣れた”にすぎないと。
何時かの間に令は、歩くとき胸が揺れる感覚やスカートの少し肌寒い感覚にも
違和感を感じなくなっていた。当然それらも慣れたという事。
−それは……何に?−
令は再び自問する。答えは簡単、この状況に慣れつつあるという事だ。
じゃあこの状況とは何か? それも簡単、女の体で女として生活する事。
つまりそれは、心が女の体に慣れて……―――令はそこまで考え、思考を中断した。
それは女になってから幾度となく考えた問いが、一番恐れている結論に達しそうだったからだ。
そういう意味では思考を中断したというのは嘘かもしれない。
その結論への道を意図的に封鎖するという事は、内心ではその可能性に気が付いているという事なのだ。
とはいえ女になりたての頃と異なり、それを思っただけでパニックになる事はなかった。

慌ててどうになるものではないと令自身いい加減気が付いた事もあるし、
それに自分を騙し続ける事を何度も行うのに疲れたというのもあるだろう。
令自身、そういう”可能性”もありえる事はとっくに理解しているはずなのだから。
つまり、心が体に慣れるという事は……そう、それは心も女になるという事。
要は一番恐れていた可能性”身も心も女になる”というそれは、時間が経てば経つほど現実になりかねないわけだ。
そのためにはできるだけ早く男に戻らなくてはならない事になる。
体が女なら心がいつまでも男のままではいられない、時間と共に女としての自分が形成されてしまうのだ。
心と肉体は切り離せない。つまり心を守るには、女の体を捨てるしかない。
「…………?」
令の足が止まった。何かが心にちくりと刺さった感覚があったからだ。
−この体を……捨てる?−
もう一度先程の問いを反芻してみる。何故だかわからない……しかし妙に心が痛んだ。
自然と手を胸に当てる。そこには女の体である事を誇示するように豊かな双球があった。
令の頭に、漠然と鏡に写した自分自身の体が思い出される。それは贔屓目を差し引いても他人が羨むレベルの、
女として魅力的な体。それが自分である事に誇りを持てるような、そんな体だ。
令は男の頃、自分の体に半ば劣等感すら持っていた。
とはいえ別に容姿が悪くて嫌われていたわけではない。逆に好感を持たれていた方ではあると思う。
事実、よくクラスの女子に「令君はカワイイから」などと言われていた。
しかしそれは”男としての評価”ではない。それどころか正反対の意味とも取れる。
悪意のない賞賛だからこそ、令は逆に心のどこかでそれに傷ついていたのかもしれない。
童顔の顔、平均よりも低い背……その事で他人に嫌われる事はなくとも、
令の心のどこかにその容姿に対するコンプレックスがあった事は確かなのだ。
ところが今は……令はこの数日に起きた自身の体の変化が、
そんな感情からある種の開放をもたらしていた事にようやく気がついた。
「…………。」
令の頭の中で何か複雑な感情が責めぎあい始め、少しづつ気持ちが落ち付かなくなってくる。

かつて令は自分がもっと男らしくなれる事を望んでいた。
その感情の裏には、自身の容姿のコンプレックスから開放されたいという意味があったのだろう。
ところが令は気が付かぬうちに、まったく思ってもみなかった方法でその望みを手に入れてしまった。
男らしくはなっていないが、結果論とはいえ望みは適ったのだ。
「でも……女の体なんて……」
何かに流されるようとする心を令は口に出して否定しようとする。
しかしそれは、令の心に明らかに今までとは違う思いが生まれようとしている事を、
令自身が認めてしまう行為でもあった。
令の心に、もう一つの”心”が問いかけてくる。

−何故迷う必要があるの? 望みは全て適っているのに−
僕は男だ。これは僕の望んだ体じゃない。
−望んでいたのは体ではないはず。それにこの体が嫌いなの?‐
嫌じゃあないけど……心がそれに合わない。僕の心は女じゃない。
−何故合わないの? 体を否定しないなら、心を合わせれば良いだけなじゃい?−
そんな事はできない! 僕は女じゃない!
−何を根拠に? すでに体は女なのに−
体の事は関係ない! あれは男の僕の望みであって、女の心では……
−すでに望みも適ってる。女である事を否定する要素はないんじゃない?−
それは……
−望みも満たされ、今の自分の体も好き……そこまで気がついていて、何故気付かないフリをするの?−
気付かないフリなんて……違う!
−違わない。本心では気付いている。そう、本当は……−
違う!! 違う!!!!

「違う!!!」
令は思わず自身の心に対して声を上げてしまった。言ってしまってから、思わず口を手で隠す。

ふと前を見ると、目の前には驚いたような目で令を見る男の人がいた。
当然だろう。何の脈絡もなく突然何か喚いたりしたら、誰だって何事かと思うはずだ。
人に聞かれた事が恥かしくなり、令は顔を赤くしてそのまま駆け出す。しかし……
「……!?」
突然令の先をその男が塞いだ。見るとその口がかすかにつり上がっている。
その瞬間、悪寒が背中を駆けた。心の中の何かが令にここにいてはダメだと警告している。
令は咄嗟に反対方向に駆けだそうとした。
しかしその瞬間、令は突然後ろから別の何者かに羽交い締めされ、口を塞がれる。
「んッ!!……んんッ!!!」
令は何の警告もなく突然体の自由を奪われてしまった。
助けを呼ぼうとしても押えられた口からは声が出せない。
それじゃあと、誰か辺りにいないかと必死に視線を巡らせる。
しかし、令はその時になってようやく自身が迂闊な行動を取っていた事に気が付いた。
この通りは廃工場跡地と林に挟まれた、昼はともかく夜は電灯もなく真っ暗闇となる道だった。
令が徒歩で通学する場合はここが近道だったのでいつも利用していたのだが、
色々物騒な話もあって夜は女性だけでは絶対通らないようにと言われている場所である。
とはいえ当然令は今までそんな事を意識した事はなかった。多少不気味な場所、程度の認識があったぐらいである。
しかし今の令は、まさにその狙われてしかるべき存在になっていたのだ。
令は半ばパニックになって必死に手を振り解こうとする。
しかし令を押えこんでいる相手の腕はびくともしない。
それどころか令の非力な抵抗を楽しんでいるかのようにも思える。
見るといつのまにか先程道を塞いだ男が目の前に来ていた。
闇のせいでその顔がはっきりとは見えないが、微かにその顔がにやりと笑っているのがわかった。
恐怖で足ががくがくと震える。口を押えられてなければ悲鳴を上げていたかもしれない。
当たり前だが、この後に待っているのが自分にとって良い事であるはずがない。

それは令とって、これまで感じた事のないタイプの恐怖だった。
不意に目の前の男の手が令に伸びる。その手には白いハンカチが握られていた。
令が何かを思う間もなくそれが口に当てられる。抵抗しようと頭を振ろうとするが、あっさり押えられた。
すうっと風が器官の中に入ってくる感覚、そしてその意識が静かに闇に沈んだ。

いったいどれぐらいの時間が経ったのかがわからない。
令が最初に意識したのは堅い床に寝かされているという感覚だった。
朦朧とする意識の中、令は目を開ける。そこは薄汚れた廃屋とおぼしき場所の、
蛍光燈が一つあるだけの薄暗い部屋だった。
体を起こそうとして手を動かそうとするが……何かが軋む音とともに、それは遮られた。
両手だけではなく両足まで動かせなかった。何故動かせないのか?
首をかすかに傾けその手を見る。そこには金属製の支柱から延びたロープで縛られた令の手首があった。
つまり令は今、ロープで両手足を縛られて大の字に寝かされているという事になる。
何故……?
混沌とした意識の中の記憶を必死にさぐる。何故自分がこんな状況にあるのかを考える。
意識を失う以前に自分は……? 記憶が少しづつクリアになっていく。
学校に行き、和真と会い、学校を出て、そして……帰宅途中に……
令がその男が目の前にいるのに気が付いたのは、それを思い出したと同時だった。
「……なっ! なんだよこれは!! あんた誰だよ!!」
「どうやら気がついたようだな」
あの、令の道を塞いだ男があの薄気味悪い笑みで令を見下ろしていた。
黒い上下の、さも三流映画のその筋の人間とおぼしき容姿をした男で、
その何を考えているのかわからない笑みが気味悪さをさらに引き立たせていた。
そしてその脇にもう一人、こちらは街の崩れ者といった感じのいかにも三下風の男。
多分こちらが令を後ろから押えた男なのだろう。
最初の男とは違い、露骨に下品な目つきで令を見下ろしていた。

「タケ、時間がない。意識が戻ったのだから即品定めをしろ」
「へい! へっへっへ……今日のはまた一段と……なぁ?」
黒服の言葉に、タケと呼ばれた男がいきなり令の腹をまたぐように立つと、
目の前でいきなりズボンを下ろし始めた。
「うああぁっ!! や……な、何を! 何するんだよ!!」
狼狽する令をタケと呼ばれた男はニヤニヤしながら見ていた。ベルトを外し、ジーンズも脱ぐ。
愚問である事はわかっていた。こんな状況でされる事など一つしかない。
それでも令は言わずにおれなかった。そうでなければ恐怖に押し潰されそうだったからだ。
そして男のブリーフが降ろされた時に現れたそれに令は戦慄する。
令が男のころに持っていたものよりも遥かに大きく、ドス黒いイチモツ。
しかもところどころに奇妙なイボがあるのが、よりその存在を不気味にさせていた。
ブリーフを脱いだ男が令の腹の上に屈みこむ。”それ”が静かに令に近づいてくる。
そしてそのイチモツが令の眼前に突き出された時、令の恐怖は頂点に達した。
「うあああぁぁ――!! いやだ、いやだああぁぁ―――!!!」
必死に首を振り、手足をなんとか動かそうと令は必死に抵抗する。
しかし当然手足を縛るロープはびくともせず、全ては無駄な抵抗に終わった。
「無駄なこたぁやめろって。ま、こっちも遊びじゃねぇんだ。ま、とりあえずは口だな」
「く、口って……」
聞くまでもない事だった。いきなり男のイチモツが令の目の前に突き出される。
令は顔を逸らし口を閉じて抵抗するが、その程度は男にとって予想の範囲の行動のようだった。
いきなり乱暴に鼻の頭を押えられると、鼻を塞がれたまま正面を向かされる。
しかしそれでも口さえ開かなければ……令はそう思って必死に耐えた。
だが呼吸が苦しくなり限界がくる。そしてついに耐え切れなくなって口を開いた瞬間を男は見逃さなかった。
「んんぅッ!! むううううッッ――――!!!」
いきなり男のモノが口の中に突きこまれた。酷い異臭と嫌悪感が令に突き刺さる。

思わず令は歯を立て、男のモノに噛み付いた。
「があっ!! こ、このアマ!!!」
パァン!!
「きゃああああぁッ!!!」
いきなり強烈なビンタを浴びせられ、令は悲鳴を上げてしまう。
あまりの痛みに自然と目に涙が浮かぶ。
そのまま声を上げて泣き出しそうになるが……令は自分を見下ろす男を見て、
恐怖のあまりすくんでしまった。
その目にあるのは明らかな狂気。常人にはない危険な光を宿していたからだ。
「てめぇ……あんまりオイタが過ぎると、いくら上物でもぶっこわしかねねぇぜ……」
その手が静かに令の首にかかった。少しずつ指に力が入っていく。
「あ……やだ……ああああぁ……!!」
その力がどんどん強くなってゆく。多分このままでは簡単に令の耐えうる限界を超えてしまうだろう。
そして男のその目は、令に何かを容赦するような者である事を否定していた。
殺される……令がそう思った瞬間、黒服の手がその男の肩に置かれる。
「タケ、一度だけなら許してやれ。そう何度もブッ壊しては商品選定もできん」
黒服の不気味な視線がタケを見据える。その途端、突如男の力が緩んだ。
「へ……へい。あ、アニキが言うんでしたら……」
黒服の一言にあっさりとタケは従った。どうやら両者の力関係は完全に黒服が上のようで、
タケは黒服の視線に半ば縮こまっているほどだ。
その黒服の視線が、今度は締め上げから開放されげほげほと咽ている令に向いた。
「女……、素直に従わないなら今すぐバラすぞ」
その視線に令の呼吸が止まった。その瞳が恐ろしいまでの虚無を湛えていたからだ。
まるで物を見るような目で令を見下ろす冷酷な瞳……多分、男の言った事は本当だろう。
このまま抵抗を続ければ、令は間違いなくこの男に殺される。
彼は令を殺すのに何の躊躇も迷いもない。そう確信できるほどの冷たい目だった。

「ま、お前に商品として資格がねぇ場合も同じだがね、へっへっへ……」
タケが再び下品な顔で令を見下ろして笑う。
もうタケには先程の狂気は欠片も見えなく、ただ欲望を剥き出しにしているだけだった。
その余裕は、令の選択肢がすでにない事を確信しているが故なのだろう。
そして事実令には、もう従う以外の方法が残されていなかった。
「じゃあ続きだ。しっかり奉仕しろよ!」
再びタケのイチモツが令の眼前に突き出された。再びあの嫌な匂いが鼻をつくが、
もう顔を背ける事はできない。
「早く口を開けな。グズグズしやがると……」
いやだ……いやだ……− 心が必死に否定するが、逃げ出す事はできない。
恐怖と嫌悪の中、令は瞳に涙を浮かべてゆっくりと口を開いた。
途端、タケのイチモツが容赦なく令の口内に突き入れられる。
「むううぅ!! んむうッ――!!」
再び訪れた肉棒が口のを満たす感覚に、令は叫びにならない声を上げた。
そしてすぐにタケは自分のモノの抽挿を開始する。
口内を突き嬲られ蹂躙される感覚が断続的に襲いかかり、
そのあまりの気持ち悪さに令は無意識に顔を背けようとした。
だがその頭はタケが抽挿のために手でがっしりと固定しており、
さらに口には杭のようにイチモツが突きたてられているため不可能だった。
それでも意識はなんとかこの苦しみから開放されたいと、今度は舌でそれを押し返そうとする。
しかしそれらの行為は結果的にタケのイチモツにさらなる刺激を与え、その気にさせるだけだった。
「へっへっへ……随分とノってきたじゃねぇか。ま、がんばんねぇとなぁ……!」
それを令の奉仕行為だと勘違いしたタケは、そのペースを一気に上げた。
加減のない抽挿が加えられ、口の中にむせかえるような雄の匂いが充満する。
令は呼吸すらままならない状態だが、タケは容赦なく責め続けた。




悪寒と苦しみだけが与えられる地獄のような時間、その逃れる事が適わぬ絶望に唐突な介入があった。
「うふうぅッ!」
突然何かが令の秘部を刺激する。涙の溜まった目でなんとか視線をそちらに向けると、
いつのまにか黒服がタケのすぐ後ろに来ていた。
令に馬乗りになっているタケが邪魔になってよく見えないが、
黒服はおそらく令のスカートの下、ショーツの中に手を差し込んでいる事は容易に想像がつく。
明らかに慣れた手つきで黒服は令に快楽を引出すための刺激を開始した。
「んんぅ! むぅ……んんッ!! んんんん――――ッ!!」
「恐怖で壊れられても困るんでな、無理矢理でもその気になってもらおうか。」
黒服の指が滑るように令の秘部を刺激し、令は声にならない喘ぎ声を上げる。
その慣れた動きは確実に令の体から快楽を引き出し、令の心が少しずつ意思を無視し始めて、
その感覚に靄をかけてゆく。いくら抗おうとしても体がそれを否定する。
強制的にフェラチオをさせられる嫌悪感が令の意識から少しずつ剥ぎ取られていき、
与えられる快楽に自己の自我が少しずつ誘導されていくのがわかった。
−な……なんで……こんな事されてるのに! そんな……−
明らかに陵辱されているにもかかわらず、自分の体が高まっていく感覚に令は言いようのない恐怖を覚えた。
しかし体は勝手に快楽を求め反応し、熱く火照った体が少しずつ令の意思通りに動かなくなるのを
いくら心を踏みとどめようとしても止めることができない。
いつのまにか意識が秘部の快楽に集中し、令は無意識に口内のイチモツを愛撫してしまっていた。
そしてそのすっかり従順になったかに見えた令に、タケは満足げに笑う。
「へっへっへ、兄貴のテクはすげぇだろう? どんな女もあっさり雌になっちまう。
それに女ってやつは無意識にこいつを求めてしまうもんなのさ。そうだろう?」
そんな事は……―否定しようとする理性、しかしそれにすらも快楽が少しずつ侵食し、
令は最後までそれを意識する事すら困難になっていた。
しかもタケの言う事が少なくとも完全には否定できないのだ。
臭気と嫌悪しか感じないはずの精の匂い……そのはずなのに、令の体の疼きが萎えない。


体がそれを嫌がっていないのだ。そして黒服の愛撫が重なるように加えられるようになると、
それは臭気から女の体を焦がす媚薬へと変貌を遂げた。
体が令の意識を無視して必死にそれを求め、子宮が狂おしいほど疼く。
少しずつ高められ発情した体は本能の命令を優先し、いつしか令は必死にタケのイチモツを
刺激するように舌を動かしていた。奉仕すればするほど黒服の秘部への刺激も激しいものとなり、
より深い快楽を求め意識まで暴走し始める。
「ヘッヘッ、なかなかじゃねぇか。さすがにこっちもキてるぜ……このメス豚が」
「んむぅ……ん……んふぅッ!!」
まるで奉仕が快楽を引出すかのような錯覚におちいってしまった令には、
もうタケの侮蔑にも嫌悪感を抱かなくなっていた。ただ無意識に奉仕を続けるだけだ。
しかし……
「……とりあえずそんな淫乱なメス豚にはご褒美をやろう! こぼすんじゃねぇぞ!!」
タケが自身の限界を匂わせた途端、令の意識は一気に現実に引き戻された。
今この状況でタケが達したら……当然令だってその結果がわかっている。
虚ろな快楽で満ちていた心が一気に恐怖に塗り換えられ、令は声にならない悲鳴を上げた。
しかしタケはそんな令をあざ笑うかのようにさらに抽挿のペースを上げ、
イチモツが令の口の中をビクビクと跳ねまわる。
「んふうぅ―――ッ!! んうううッ!!」
−いやだ! 口の中に男のなんてやだあぁぁ!!−
タケの言葉に令は必死に懇願する。しかし声にならない言葉が聞きいれられる訳もなく、
たとえ言葉になったとしてもタケが応じるはずはなかった。
もう最後が近いとわかっていても、令にはそれを受けとめるしか選択肢がないのだ。
そして一際大きく突き立てられたイチモツがぐっと跳ねた瞬間、それは訪れた。
「うおぉ……おら、イくぜぇぇ…………おらぁ飲めぇ!!」
「んんんんうぅ――――――ッ!!!」
タケの叫びとともに、熱いほとばしりが令の喉に注ぎ込まれる。

そのどろりとした物体が自身の口内に入ってくる感覚が嫌悪と拒絶を引き起こし、
令は涙を流して絶叫した。しかしタケはそんな令に容赦なく精を注ぎ続ける。
「タケ、そのままにしておけよ。最後まで味見させる」
さらに嫌悪ですぐに口の中の物を吐き出したくなる衝動に喘ぐ令に、
黒服はさらに激しい刺激を加えてきた。令の体がびくんと跳ねる。
「!!!」
その瞬間、雌の本能が無意識に口の中の精を飲み込んだ。気付いた時はもう遅く、
タケの精がどくどくと令の喉奥に流れてゆく。
しばらくしてタケがようやくイチモツを離した時、令は咽かえりながらも
自身の涙を止める事ができなかった。
それはこれまで感じた事のないほどの絶望と喪失感。
今まで何度かあった一方的に与えられた性的行為でも感じなかった”汚された”ような感覚。
さらにそれを追い詰めているのは、最中に秘部を弄られ感じてしまった事だ。
どうしようもないぐらいの自己嫌悪と陵辱感、しかし状況はそんな令を
待ってくれるような状態ではなかった。
「ま、口はそれなりだな。ここ2週間ばかりはハズレばかりだったが、お前はまあ悪くねぇな。」
タケが令の顎を掴み、にやついた顔で見下ろす。
ニタニタといやらしい目つきで品定めするような視線が、そのまま顔から下に移動していく。
無論次は……令の心に再び悪寒が走る。当然それ意外の事はありえないはずだ。
逆らえない事がわかっていながらも、なんとか抵抗できないかと令は視線を巡らせる。
自分が悪くなかろうが何だろうが、それでこの先どうなる訳ではないのだから。
ハズレがどうだと言っても……?
その時ふと、先程のタケの言葉が頭に引っ掛かった。
「ここ2週間……?」
どこかで聞いたキーワードだ。それは最近耳にし、自分にも関係があった……
そこまで考え令は、最近姉に注意された最近のニュースの事をようやく思い出した。

最近この近辺で起こっていた連続レイプ……対象は令ぐらいの年頃の女性。
「つまり……あんたたちか!!」
突然令が声を上げた事に一瞬驚いたタケ達だったが、すぐに令の言わんとする事を察したのか、
すぐに真顔に戻った。それどころか詫びれる様子もなくニタニタと笑い出す。
「まあ……世間に疎くなけりゃ、それぐらい知ってても当然だわな。とりあえずはご名答」
令をからかうようにタケがあざ笑う。それがどうしたと言わんばかりの態度だ。
「最近シノギも辛くてな、俺みたいな立場でも売れる女の物色せにゃならん。
しかもいざやってみりゃハズレばかり……ま、そんなヤツぁ壊れるまでヤってポイだがな」
どうでも良い事だとばかりに投げやりにタケは話す。そのまま再び令を見下ろすと、
唇を吊り上げるように笑い令の顎を掴んだ。
「だがお前はイけそうだ! とりあえず口で奉仕はできるタマみてぇだしな!!」
「ゆ、誘拐なんて簡単にいくもんか! 人一人がいなくなれば警察だって……」
弱々しく反論する令にタケはさも可笑しそうにケタケタと笑い出した。
そしてあきらかに馬鹿にした顔で令を睨む。
「取引相手はシシリアンやチャイニーズだから、お前が証拠でパクられる可能性なんざねぇのさ。
まして海外にはこの国の法機関なんぞとことん無力だって事、最近の社会事情知ってんならわかんだろ?」
つまり、彼らにとって”アタリ”だった場合……それを想像して令は戦慄する。
そしてさらに黒服が反対側から令を見下ろして令をあざ笑う。
「だがお前はこの話を知ってしまった以上、たとえハズレでも消えてもらう。
しかし取りあえず上は合格だ。後は……」
そこまで言って黒服は言葉を切ったかと思われたが……途端、いきなり令の胸に手をかけたかと思うと
制服のリボンを引き千切る。そしてそのまま乱暴に破るように制服を剥ぎ取り始めた。
「うあああぁぁ!! や、やめ……やめて! やだ、やだああぁぁぁ!!!」
それは脱がせるのではなく、まさに力で”剥ぎ取る”という所業だった。
ボタンが跳び、布地がビリビリと引き裂かれる。下着すらも容赦なく剥ぎ取られた。
ほどなくして令は無残に引き裂かれた制服を付けたまま、肢体を晒す事になってしまう。

「タケ、下を調べろ。前戯はいらん」
「へっへっへ、了解!」
ニヤついた笑みでタケが自身のイチモツを手にした。
それは先程出したばかりなのにまるで萎えたような気配がなく、
びくんびくんと震えるその不気味な動きのせいか、むしろ先程より大きさを増したように感じられる。
令はあらんばかりの力を手足に込めて泣き叫ぶが、縛られた手足はびくともしない。
そしてタケのイチモツがピタリと令の秘部の入り口に合わされた。
「さぁて、こっからが本番だ。しっかりと天国につれてってやらぁ」
「やだ……それだけは、それだけはやめてぇ! いや……あぁッ! やああああぁぁぁ―――ッ!!!」
容赦のない突き込みでタケが一気に令の中の深奥に侵入してくる。
これまで受け入れた事もない大きさのイボまでついた巨根の衝撃は、
まるで全身を貫かれたかのうような感覚となって子宮から脳まで一気に駆けめぐった。
「ああうぅぅッ……やだぁ! 抜いて……お願い抜いてえぇ!!」
「けっけっけ、嘘言っちゃいけねぇなぁ。本心はそう思ってねぇんだろ?」
涙を流して懇願する令に、タケは可笑しそうに下品な笑いを浮かべる。そのまま令の前髪を掴むと、
その視線を無理矢理結合されてる秘部へと向けさせた。
「見ろよ、お前のマ○コはすげぇ締め付けと吸い付きだ。体は欲しくて欲しくてたまらねぇって
言ってるぜ。まったくなんて淫乱な女だ!」
「ちが……そ、そんな事は……な……ああぁぅッ!!」
「安心しな。俺は優しいから、そのイヤラシイ体のお望み通りにしてやっからよ!!」
言うが早いか、タケはいきなり激しい抽挿を開始した。
巨大なイボ付きの肉棒が膣のあらゆる場所を蹂躙し、その容赦なく乱暴な突き上げる。
「はあああぁぁ―――ッ!! やぁ……ダメ、こんなああぁう!! ひゃああああぁ―――ッ!!」
タケのそれは技術も何もないただ力まかせの乱暴で単調な腰の突き上げだったが、
それでも令の体を熱く燃え上がらせるには十分だった。

イボのついたペニスに嬲られる感覚は今までに味わった事のない刺激を膣に与え、
未知の領域からくる快楽が令に甘い声で喘がせる事を強要する。
激しい突き上げでぱんぱんと肌と肌がぶつかる音が部屋に響くとともに、
しっとりと汗で濡れた令の腰や胸もそれに合わせるようにバンプした。
それは決してタケに突き上げられている事だけが原因ではない。
混濁した意識の中、令の体は無意識により強い快楽を得ようと勝手に律動を開始し始めたのである。
「こんな……なかで……擦れて……はあああぁん!! んあぁ、ダメえぇ!!」
「ははは、ダメってか! それならもっとダメにしてやるよ!!」
「ふあああぁぁ!! そんな、や……激しくしな……ああ! あああああぁぁッ!!!」
タケがさらに突き上げのペースを上げると、令はいよいよ正常な意識での思考が困難になった。
あらゆる否定の思考が真っ白な光に飲み込まれ、
そして理性事態がその白い光に飲み込まれる事を強く望むようになる。
雌の本能が体を支配してしまうと、後はもう堕ちるだけだ。
そんな意識の奔流の中、令は唐突に体が宙に浮いたような感覚を受ける。
それは実際に体が宙に浮いたわけではなかった。自身の拘束が突然外され、
押さえ込まれていた上半身や足が自然にタケと結合している腰の高さまでもってこられたのだ。
しかし手足が自由になったからといっても令はその腰をしっかりとタケに捕まれ、
さらに秘部がしっかりと結合している今の状態では当然逃げ出す事も適わない。
そしてタケは床から令を離せる状況になったのを見て、
そのまま令を抱え上げて腰の上で下から令を突き上げるような体位に体を入れ換える。
「じゃ、アニキ、後ろのチェックをどうぞ」
え……?‐令がタケの言葉の意味を考えようとした矢先、その両腕が乱暴に背中で押えられ縛られた。
見ると黒服がいつのまにか後ろにおり、令の破れたスカートをまくり上げる。
そして自身の菊門に何かが当たる感触がした時、令はようやくその言葉の意味を理解した。




「ダメ、ダメえぇ!! 二つ同時なんて壊れちゃ……や、やめてぇぇ!!」
そのおぞましい感覚、これから行われようとしている行為に令は恐怖し、涙を流して懇願する。
しかしそれはかえってタケと黒服の加虐心を煽っただけだった。
黒服はあの路地で会った時の能面のような笑みを浮かべると、そのまま無言で令の中に侵入を開始した。
「はぎぃっ! ふ、太……ダメ、こんなの無理!! やだ、やだ……あ、あああああぁぁ――ッ!!!」
その狭い門に、黒服のペニスは力任せに侵入してくる。
自身の排泄口がめりめりと広げられる痛みとも快楽ともつかない感覚に秘部からの快楽がミックスされ、
そのあまりに異質な感覚に令は涙を流して絶叫した。
もし静奈に後ろを経験させられていなかったら、令はその感覚に心を壊されていたかもしれない。
このあまりに強引な突き込みは、それぐらい容赦というものがまるで感じられないものだった。
皮肉な事に令はこの乱暴な陵辱を受けて初めて、あの時静奈が絶妙な加減の上で、
宝物を扱うような愛撫と技巧で快楽を引出していた事を理解した。
しかし彼らの陵辱は、まず何より自身が楽しむ事を第一としているのである。
相手が感じようが苦しもうが一行に構わない、それはまさに「犯す」という行為だ。
だが……心がそれをどう受け取ろうが、体には関係のない事だった。
二人が同時に動き出した途端、体がその感覚を快楽として認識し、それが一気に爆発する。
「きゃあああぁぅぅッ!! やめっやあぁ、ひいぃうぅっ! こ、こんな……膣(なか)と後ろで
擦れて……やああああぁぁうううぅ――ッ!! だめえぇぇ! そんなに突かないでえぇ!!」
「ひゃっはっはは! 前後は初めてかぁ? 安心しな、もっと激しくしてやるよ!!」
言うがはやいかタケは令の足に手を掛け、そのままM字に開かせた状態で体を持ち上げる。
途端に令は秘部と菊門以外の体の支えを失い、その重さ全てが結合部に集中した。
自らの体重で二人のイチモツがより深く突き刺さり、その耐えられない感覚がさらに体の深い部分に
達するようになると、もう令は声を上げ続けるしかなくなっていまう。
「はあぁん!! ふああぁ……ああぁ! ひゃあああぅぅん! もうや……やだああぁぁぁ!!」

口で何とか拒絶の言葉を発してみるものの、もうそれ自体が意味をなさなくなっていた。
すでに令の声はどうしようもなく甘いものになっており、汗で濡れた肌はその快楽に打ち震え
ピンク色に染まっている。
体はすでに雄を受け入れる事に悦びを感じ、もう令がそれを拒否しているようには見えないのだ。
令は今、陵辱で快楽を感じている自分が信じられなかった。しかし現実は抱かれているわけではなく、
犯されているのに声を上げて感じてしまっているのだ。
そして雌の体はさらに快楽を求めて、より激しく律動する。たとえ強要されたにせよ、
一度燃え上がらせられてしまった女の体はもう最後の瞬間を迎えるまで暴走して止まらない。
いつしか令は背後から突き入れられた男根の痛みも忘れ、前後から激しく加えられる刺激に
我を忘れて腰を振り、大声で喘いでいた。
全てが悦びと欲望に満たされた状態、意識も理性も快楽に飲まれた悦楽の宴。
しかし……全てが白濁の波に呑まれたはずの令の心の深奥で、最後に残った何かが泣いていた。
雄と雌の交わりは心も体も悦ばすもの、しかしこの快楽は何かが足りない。
違う、違う……−それが必死に違和感を訴えている。しかしその最後の何かも、
この流れ込んでくる大きな悦楽に歯向かう事はできなかった。
砂が崩れるように、その意識すら白い光に呑み込まれつつある。それは絶頂が近い事を意味していた。
「さあて、フィニッシュといくかぁ! 中出ししてぇところだが、孕んじまったら価値が下がるんでな。
代わりにたっぷりその顔面にぶっかけてやっからよぉ!!」
「ふああぁんああぁ!! そん……なのんあああぁ……ひゃうッ! ひいああぁぁッ!!」
「ははは! そんなに嬉しいか! 安心しろ、兄貴の方はしっかり中だからよ!
ケツの穴しっかり締め付けて、お望みのミルクをしっかりと飲みな!!」
「そ、そんなこと言ってひゃああん!! やだ、だめ、ダメ!! もうこんな……あふぅ! ああうぅ!!」
もう言葉すら満足に発する事もできず、令は甘い声に合わせるように体を振るわせる。
すでに絶頂まで引き返せないところまで高まってしまった令の体は、
顔射される事にすら微かな拒否を示すだけで、恐怖する感情すら生まれてこない。

息がどんどん荒くなり、火照った体から汗が流れる。
そして黒服が思いきり腰を突き上げた瞬間、それは頂点に達した。
「はあぁ、あああああああぁああぁぁぁぁ―――――ッ!!!!」
子宮がきゅうと収縮する感覚とともに令は胸を大きく突き出すように腰を反らせ、
全身を激しく振るわせながら絶頂の叫びを上げる。
その瞬間、両胸を左右から掴まれるような感触とともに、何かが胸の谷間に差し込まれた。
何かは言うまでもない。パイズリをするように指し込まれたタケのイチモツは、
令の絶頂に合わせるように自らの精を令の顔に降り注ぐ。
それと同時に自身の腹の中に熱いものが注がれる感覚があった。
体の内と外を同時に汚される感覚……快楽の高まりがようやく頂を超えた体が静かに脱力し、
まだ絶頂の余韻が残る体を震わせながら、そのままぐたりと地面に倒れ込む。
冷たい地面の感覚を肌に感じるようになって、令の意識はようやく雌の本能から開放された。
しかし体にはまるで力が入らない。全てを絶頂に持っていかれてしまったかのように
全身が疲れ切り、へたに気を抜けば意識を失ってしまいそうな状態である。
そんな朦朧とした意識のなか、タケと黒服の声が耳に入ってきた。
「これなら売れるだろう。タケ、すぐに処理しろ。逃がすわけにはいかん」
「へい、ではさっそく……」
−処理……?−
奇妙な単語が気になり、令は今にも消えそうな意識を奮い立たせて
ゆっくりと体を起こす。それと同時に右腕をがっしりと押えられる感覚、
そして視界に飛び込んできたのは、その腕に注射器をあてがおうとしているタケの姿だった。
「なっ!……ちょ、ちょっと何だよそれ!」
「こいつはな、ヤるのと同じぐらい気持ち良くなれる薬だよ。しかも一度味わってしまうと
切れた際の禁断症状がメチャクチャ苦しくて、この薬ナシではいられなくなっちまうのさ」
「そ、そんなものをどうして……って、や、やめて! そんなの打っちゃやだぁ!!」
タケがニタニタと笑いながら注射器の針を令の目の前でぶらぶらと振る。針の先から微かに
薬の液体が漏れる様に恐怖を掻き立てられた令は必死に力をこめて腕を振り解こうとするが、
令を押えている黒服の腕はびくともしない。

「商品であるお前に逃げられちゃ困るんでな。こいつを打ってしまえば、
お前は薬欲しさに俺達に従うしかなくなるのさ。さあ、最初の一回をじっくり味わえ……!」
「やだあああぁぁ!!! やめ、やめてぇ! いやだあああぁぁ――――!!!」
その針がゆっくりと令の腕にあてがわれる。針が微かに触れた感覚に令は恐怖で泣き叫ぶが、
それでタケが注射を止めるはずもなかった。
この針が奥に突き刺された時に全てが終わる……しかし令に抵抗する術はなかった。
ちくりとした痛みを肌に感じた瞬間、令は恐怖のあまり硬く目を閉じる。
緊張のあまり呼吸すら止め、その時が来るのを暗闇の中で脅えて待っていた。
だが……”それ”は訪れなかった。
唐突に押え圧し掛かられていた力から開放されたかと思うと、
何かがぶつかる音とともに、蹴られたダチョウのうめきような声が耳に入る。
刹那、全身にぞくりとする感覚が駆け巡り、鳥肌が立つ。
それはまさに冷水をかけられたかのような、今まで生きてて感じた事がない、あまりに異質な”感覚”。
何が起きたのか理解できず、令は恐怖と混乱の中で恐る恐る目を開けた。
令の手元には射される事のなかった注射器が薬のはいったままの状態で転がっている。
しかしそれを行おうとしていたタケの姿がない。そのまま視線を上げると、
正面の壁にもたれるよう座り、ぴくりとも動かないタケと黒服の姿が目に入った。
まだ事態が呑み込めないでいる令……だがその令の横には、先程まで”存在していなかった”者がいた。
「下卑どもが……」
突然自分の真横からの声に令はびくりと体を震わせる。
何故なら先程から感じる異質な”感覚”、それは明らかにその声のした方角から感ずるものだったからだ。
しかしそれは聞いた事がある声、今の令には決して忘れようもない人物のものであった。
静かに視線をそちらに向ける。
黒く長い髪を持つ、漆黒のドレスに身を包んだ女性……セネアの姿がそこにあった。

その赤い瞳が烈火のような怒りを宿して、令を陵辱していた両者を睨んでいる。
それを見て令はようやくこの奇妙な”感覚”の正体を悟った。
これは”殺気”なのだ。
それも人ならざる者の力をもって放出される、生命としての圧倒的な力を持った殺意の流れ。
その対象ではない令ですら、これほどの脅威を感じる殺気……人の身でこれを正面から受けたとしたら、
はたして幾人が正気を保てるのか? そう思わずにはいられないほどの迫力が今のセネアにはあった。
「よくも令を……魂をもって償え!!」
セネアが手をかざした途端、突然タケと黒服がバネ人形のように立ち上がり悲鳴を上げる。
否、立ち上がらせられたのだ。それはあきらかにその生き物の意思による動きではない。
奇妙な”闇”が両者にまとわりついていた。それが動き絡まるごとに、
ぎしぎしと体が骨ごと軋む音が令の耳にまで聞えてくる。
「ぐがっ!! ぎゃあああああぁぁぁ!!!」
突然の事態をただ呆然と見つめていた令だったが、タケの体の奥から搾り出されたような悲鳴を聞いて、
ようやく我に返った。
目の前で先程まで令を陵辱していた存在が悲鳴を上げ、苦痛にのたうち回っている。
それは令に行った行為の代償、自身の行動が招いた結果なのだ。
これは令にとって望むべき復讐劇の忠実な施行である。しかし……
「セネアさん! 駄目、駄目だよ! 殺しちゃ……殺しちゃダメだ!!」
「令!?」
突然自分の腕にしがみ付いて叫ぶ令に、セネアは驚きを隠せなかった。
「何を言ってるの令!? あいつらは貴方を汚したのではなくて!!?」
「そうだけど……そうだけどダメだよ!! 人を……人を殺すなんて……」
セネアの目が何故だと令に問い掛けていた。彼らを殺したいほど憎いのは、
他ならぬ令自身なのではないかと。それは多分、間違いではない。
だが令はそれでもなおセネアにそれを止めるように懇願した。

「お願いやめて……僕の為に人を殺すなんて……セネアさんが人を殺めるなんて……やめ……て……」
「……令? ちょっと令! どうしたの!!」
意識が少しずつ朦朧としてきた。少しでも声を上げてセネアに懇願しようとするも、
体が言う事を聞かない。体力がもうとっくに限界にきていたのだ。
闇に沈む意識に微かに入ってくるセネアの声を聞きながら、令はそのままセネアの胸に倒れ込んだ。




明かりを感じ静かに目を開ける。それは何もかもいつも通りの感覚、
自分の部屋の、自分のベットでのいつも通りの目覚め。
意識の霧が少しずつ晴れてくるにつれ、視界が少しずつクリアになってゆく。
見慣れた天井、何も変わらぬその光景、しかし何かが奇妙な違和感となって引っ掛かっている。
−あれ……僕は……?−
何一つ変わらぬ日常の目覚め、だが何故それを変だと思うのか? 
いくら考えても寝起きの意識ではどうしても答えが記憶のそこに辿り付かない。
−そういえば時間は……とりあえず起きなきゃ……−
導き出せないそれをもどかしく思いながら、首をタンスの上に置いてある目覚まし時計に向け……
令はようやく全てを思い出した。
「気が付いた?」
そこにはセネアがベットの脇で令を見下ろすように座っていた。
「セネア……さん?」
令の問いかけにセネアは安堵したように笑みを浮かべる。そしてその手を静かに令の髪に添え、
慈しむようにそっと頭を撫でた。
「どうやら大丈夫みたいね。良かった……」
その静かで、それでいて優しい手の感触に令はいささか戸惑う。
これまでのイメージからは想像もつかないぐらい暖かく優しいセネアの仕草に、
令はいささか気恥ずかしさを覚えながらゆっくりと体を起こした。
「……あ」
上半身にのっていた布団を腰の方に折り曲げた時、令はあの無理矢理破かれた制服の事を思い出す。
あわてて服を見ると、いつのまにやらしっかりとパジャマに着替えさせられていた。
多分にセネアが行ったのだろうが、それは知らないうちに一度裸にされたという事で、
いくら一度全てを見られた事があるとはいえ、やっぱり少々恥かしい。

なんとなく気まずい意識で、令は顔を赤くしたままセネアの方に視線を向ける。
しかし当のセネアは、そんな令をその赤い瞳で優しく見つめていた。
「大丈夫よ、やつらの精は全て術で洗浄しておいたわ。怪我をしたような感じもなかったし」
その言葉に令は、意識を失う直前まで令を陵辱していた二人の事、
彼らの顛末を令自身は確認していない事に気が付く。そして気を失った後に何があったのかも令自身は知らない。
とりあえずはその辺をはっきりさせたいと思い、令はセネアに話かけた。
「そういえば……あの二人はどうしたの? あの後僕は……」
しかし言いかけの途中で令はすぐに言葉を止める。二人の事を口にした途端、
セネアの顔があからさまに嫌悪の曇りを帯びたからだ。
−触れてはいけない事を言ってしまった?−
思わず躊躇した令だったが、セネアはそのまますぐに口を開いた。
「あの二人はね……最後まで激痛に苦しむように命令あるまで死ねない呪法をかけて、
腹に穴を空けて臓物を引きずり出し全身の骨を砕いた後に首から上をねじ潰して……」
「……!」
「そのまま全身をすり潰してぺしゃんこになった体を槍や刀で何度も貫き、
そのボロ布のようになった腐肉を業火で燃した後に冥界の餓鬼に意識あるまま食らわせ……」
憎悪の口調でまくし立てるように残虐な経過を口にしたセネアだったが……
突然何かに気が付いたように令を見て、ようやく言葉を止めた。
「……冗談よ。そんなに青い顔しないで。」
「へ?」
唐突に肩をすくめて否定するセネアに令は思わず間抜けな返事をしてしまった。
そんな令に、セネアはまだ不満ありげな顔を向け、言葉を続ける。
「本当はそれぐらいやりたかったわ。でも令が殺すなって言った以上、そうするしかないじゃない」
「あ……う、うん……」

どうやらセネアは令の懇願をしっかりと聞いてくれたようだ。
とはいえ令にはセネアがそこまで嫌悪した対象を素直に逃がすような性格だとは思えなかった。
「えっと、じゃあ……どうしたの?」
「だから素っ裸にひん剥いて馬鹿みたいな格好で緊縛した後、ご自慢の薬と一緒に警察署の前に
転がしておいたわ。ついでに呪法で一生インポのオマケつき」
最後にセネアは悪戯っぽく笑う。
「言われた通り、”殺して”はいないわ」
一瞬間を置いて、令も思わずつられてクスリと笑ってしまった。
とはいえ内実彼らにとっては死刑宣告も同然。一瞬不謹慎かとも考えもしたが、
立場的に令は彼らを同情する義理もなければその気も浮かばない。
当然それ以上を望んでいたセネアも同じ心境である。
そんな事を考えながら互いに見つめていた二人だったが、結局互いにつられて軽く笑い出してしまった。
しかし互いの気持ちが落ち着いてきた途端、セネアの顔が曇る。どうしたのかと令は声をかけようとしたが、
それよりも早くセネアはそのまま令を静かに抱き寄せた。
「ごめんね遅くなって……こんな事なら時を待たずに、ずっと傍にいればよかった」
「そんな、だってセネアさんが来なかったら僕は……」
謝るセネアを慰めようとした令だったが、途中で言葉を止めてしまった。
互いの言葉が再び疑問を思い出させたから、そして忘れていた何かを令の頭が思い出したからだ。
「……そういえばセネアさん、よく僕のいる場所がわかったね。もしかして僕がああいう状況だって
いうのもわかっていたの?」
少々意地の悪い言い方だとは思ったが、令は思った事をそのまま口にした。
だがセネアはそれに動じた様子もまるで感じられず、令を抱きしめたまま口を開く。
「一度契りを交わした者だもの、この世にいる限り居場所はわかるわ。
だけど貴方が陵辱されていた事は知らなかった。だけど……時が来るという事は、
当然そういう経緯も予想すべきだったのよ。それは完全に私の落ち度だわ」

「時が来るって……?」
「貴方が”男に抱かれる”事。同族の、人間の雄にね」
思わぬ言葉に令は目を丸くする。だがそれは言葉の意味する所に驚いただけで、
持った疑問が全て氷解したわけではない。
「男にって……でも、どうして? それにどうしてその……あの……抱かれたってわかったの?」
「契った相手の魂の流れは自分の事のようにわかるわ。それまで流動的だった貴方の魂は、
今日の夕刻それによって完全に定着した。つまりそういう事よ」
夕刻、つまりセネアは和真に抱かれた事を言っているのだ。ようするに男に抱かれた事によって
セネアが再び令の元に来るだけの動機ができたという事なのだろう。
そしてセネアが再び令の元を訪れる意味……少しづつ令の頭の中でピースが揃ってゆく。
「魂の定着って? それが起こるとどうなるの?」
「肉体の性を変えてもね、魂の性はそれまで肉体によって貯められた”気”によって完全に
変わる事はできないの。そしてこれまでとまったく異なる気を注がれるようになった魂は
極めて不安定な状態になるわ。そんな魂の性を完全に定着させるには、異性からの性交で
今の自身の立場を魂に刻み込むしかない。そうする事によって魂は今自分が別の性である事を
ようやく認識する……つまり貴方は男に抱かれる事によって本当の意味で女になったの」
「本当の意味で? で、でもどうして!? 何故そんな事をする必要が……」
セネアの意味ありげな説明に令はかすかな焦りを覚えた。特に”本当の意味での女”という
単語が奇妙な不安感をつのらせる。それはもう男に戻れないという事か? それとも別な意味があるのか?
その時突然、セネアが令をベットに倒した。そして令を見下ろすように言葉を続ける。
「それは貴方が……令が適合者だからよ」
それはセネアと初めて会った時、夢の中での契約の時にも出た言葉だ。
「我々淫魔の一族はね、性交の意味が”気”の交換である以上、同族でもそれで子を成す事はできない。
もっとも出来たにせよ、すでに神魔族は古の最終戦争ですでに大半が滅しているから、
生き残り同士が会う事すらほぼかなわないけど。でもね、奇跡と呼べるぐらい低い確率で
淫魔の子を孕める人間族が稀に現れるのよ。それが適合者……淫魔の妃と呼ばれる肉体を持つ者」

「子を……孕める? そ、それってまさか……!!」
「多分その”まさか”ね。ただ子を成すのだから当然女でなくてはならない。それは肉体だけではなく魂もね。
だから貴方には男と交わってもらう必要があったの」
セネアがゆっくりとその顔を令の眼前に近づける。その赤い瞳が目の前で令を見据えていた。
「令……契約履行よ。貴方には私の”妻”になってもらうわ」
一瞬の間を置き、令その言葉の意味する所を理解する。
それは女にしかできない事を令にさせるという事実上の宣言だ。
「あ、あ……うああああぁぁぁ―――ッ!!」
否定とも恐怖ともつかない感情が令の中で爆発し、令はその場でセネアを跳ね除けるように暴れだす。
しかしセネアは軽くそれを払いのけて令を再びベットに押し倒し、そのまま両腕を組み伏せた。
力の差は圧倒的だ。当然令だってそんな事はわかっている。
「やだぁ! そんなの……そんなのはやだあああぁぁぁ!!」
だがそれでも反抗せずにいられない。無駄だとわかっていても令は全力で暴れ、泣き叫んだ。
それでもいくら両腕に力を込めようとセネア腕を払いのける事はできなく、
何度足をばたつかせようとセネアを押しのける事はかなわない。
そんな反抗劇がしばらく続いたが……令は体力の限界とともに、その全て徒労に終わった事を悟る。
令にはもう泣く以外の選択肢は残されていなかった。
しかし……
「…………?」
全てが終わって、訪れたのは陵辱ではなく沈黙だった。
体を押えられたまま何も起こる事のない時間が静かに過ぎてゆく。
その奇妙な間にようやく落ち付きが戻ってきた令は、不思議そうな顔で静かにセネアを見上げた。
「……セネア……さん?」
物言わぬ、何もしないセネア。その顔は怒りとも悲しみともつかない微妙な表情をしていた。
そのまま静かに令を見つめていたセネアだったが、しばらくしてようやく口を開いた。

「令、それでは契約が不履行になってしまうわ。魔と結んだ契約を破棄した場合、
そのペナルティは……魂なのよ?」
表情を変えず、セネアは淡々と言い伏せる。それは令に言い聞かせるというよりは、
単純に言葉を口にしている、そんな感じだった。
「魔に奪われし魂は二度と生命の輪廻に戻れず、永遠に冥府の中で苦しみ続けるわ。
それは単に命を落とすという次元ではない真の地獄……それでも……」
「…………。」
「……それでも貴方は、契約が施行されぬ事を望む!?」
セネアの言葉はそれを紡ぐごとに少しづつ荒くなっていった。
そしてその赤い瞳は静かに何かを訴えるかのように揺れている。
理性ではない爆発しそうな感情を無理矢理押えているような、そんな雰囲気だ。
その感情が何であるのか、令もわからぬ訳ではない。
だが正直セネアがそんな感情を持つなどにわかに信じられなかった。
「……それでも、いいって言ったら?」
「令! 冗談でもやめて!! 言霊だって契約になりうるのよ!!」
半ば自嘲気味に吐いた言葉だったが、セネアは予想外にヒステリックに反論する。
正直令は、これだけの力を持つセネアが感情を暴発させそうになるなど、
想像だにしなかった。だがそれはセネアが”その種の感情”を持っているという事を意味する。
そう、彼女は令を殺したくはないのだ。それもただ損得的な感情ではなく。
だがそれでも令は、まだそれを完全に納得できなかった。
「それなら……どうして力ずくで僕を奪わないのさ? それに僕が男に抱かれる事だって、
セネアさんなら誰かを無理矢理あてがう事だってできたんじゃない?」
「ならば令はそれを望むというの!? 貴方はそれでも納得できて!?」
「そんな……僕はもちろん……」
当然望まない−無論それは当たり前の結論だ。

だがその問いは彼女の力には関係がない事。令は自身が望む望まないにかかわらず、
セネアならば強制的な執行が可能なのではと問うているのだ。しかし彼女は令を力で奪う事を否定した。
そのまま言葉を止め見詰め合う二人……先に口を開いたのはセネアだった。
「……そうね、最初はそのつもりだったわ。貴方を見付けた時の最初の感情は、有り体に言えば
”探していた道具が見つかった”という感覚。魔にとって人など、その程度の存在よ」
痛烈なセネアの言葉、しかし初めて会った頃のセネアを思い出すと、
それは令の中でのセネアのイメージにそこまで違和感のあるものでもない。
「貴方の目が醒めて肉体変化の不具合が無いのを確認したら、その後すぐ男に抱かれるように
事を運ぶつもりだった。だから姿を透化させて、貴方が目を覚ますまで寝顔を見ながら待っていたわ。
そう、ただ道具が目覚めるまで監視していただけ。ただそれだけのはずだった……」
冷徹な言葉を吐きながらも、セネアの口調は決して冷淡なものではなかった。
そんなセネアの両手がゆっくりと令の頬を挟むように触れる。
「どうしてかは私にもわからない。でも、いつのまにか鼓動が奇妙に高まっていたわ。
最初はただ適合者を見つけて興奮してるだけだと思った……そう思って納得しようとした。
”人間相手に何を馬鹿な!”って。けど……もう貴方の顔から目が離せなくなっていたわ」
セネアはそのまま鼻先が触れるぐらいの距離まで顔を近づけてきた。
吐息が唇に触れるような感覚に、令の動悸が高いリズムを刻み始める。
「そして目が醒めたらね……令ったら、目の前でいきなり見せつけるんだもの。
あそこまで誘われて、我慢なんで出来るわけないわ」
「な! あ、あれは誘ってとかいう……いや、だってそれは!!……その……」
それはあの時の自慰の事。突然指摘され狼狽した令は思わず叫んで言い訳しようとしたが、
すぐに言葉に詰ってしまった。なにしろセネアの姿が見えていなかろうが何だろうが、
どう考えても言い繕いようがないからだ。恥かしいやら何やらで令の顔が真っ赤に染まる。
だがそんな令の羞恥を裏腹に、セネアは静かに顔を上げると自嘲気味に笑った。

「その後ね、自分がもうどうしようもない状況に陥っていたと理解したのは。
貴方に見とれ、そして抱いてしまった時にもう私はすでに溺れていたのよ」
「……溺れていた?」
「そう、”三木原 令”にね。あの後貴方が男に襲われるような手筈を整えて、
事はすぐに運ぶようにするつもりだった。けど……出来なかったのよ。
いくら所詮人間ごときに何を躊躇する必要がって考えても、浮かぶのは貴方の顔ばかり。
貴方が別な誰かに抱かれると考えるだけで、怒りと悲しみ……嫉妬と罪悪感が同時に心に突き刺さった」
言うとセネアは静かに手を握って自身の胸に当てる。
「ここがね……苦しくて仕方がなかった。でも貴方の魂は絶対安定させねばならない。
そんな葛藤と苦悩の中で結局私は逃げたわ。何もできなくなった私は全ての選択を貴方に預ける事にしたのよ。
そしてその姿を見ないように、遠い次元の狭間で時を待ちつづけた」
静かに紡ぐセネアの言葉は、極めて穏やかでありながらどこか自分を責めているような、
そんな語り口だった。自身の存在、動機、感情、行動、そんなあらゆる行いが全て混ざり、
その愚考を令に懺悔しているような、そんな感じである。
セネアは令に何もかも全てをさらけ出していた。
「……そういえば、さっきも傍にいなかったからって言ってたよね。
どうして僕の傍から……僕の姿を見ないようにしたの?」
何気ない疑問、しかしその言葉を聞いてセネアは微かに顔を曇らせる。
「……また貴方を見てしまうと、二度と離れたくなくなってしまいそうだったから。
そのまま貴方が他人に抱かれるのを見るなんて我慢できないと思ったからよ。
けど、そのせいで貴方の元に来るまであれだけの時間がかかってしまった……辛い思いをさせてしまった」
陰っていたセネアの顔が少しずつ歪む。それは悲しみを押えている者故の悲痛な表情だ。
「ごめんね、令……」
セネアの手が静かに頬に触れる。それと同時に一筋の涙が頬を伝い静かに令の顔に落ちた。
それは決して欺瞞で作れるものではない心の雫、演技や嘘で流せるような涙では決してない。
そこまで心を明かされた以上、令の疑問はもう確信に変わってたに等しかった。

令の鼓動がゆっくりと高まる。さっき感じた恐怖など、もはや微塵もなく吹き飛んでしまった。
いや、”それ”を拒絶し恐怖する心はまだ確かに令の中に存在する。自身の男はいつまでもそれを否定し続ける。
だがそれ以上に、セネアから向けられた感情が令の心の中で急速に恐怖を覆い隠してゆく。
魔という存在、多分生物としては圧倒的に上位に立ち、人を御する事など造作もないはずの彼女が
”三木原 令”という、ただの人である存在に縋っているのだ。
その想いは何よりも深い。そしてその想いの強さが令の鼓動を急速に高めてゆく。
だから令はその思いの正体に確信を得るため、言葉を求めた。
「セネアさん、教えて……」
令はセネアがやったように、静かに手を上げ自身を見下ろしているセネアの頬に触れる。
最初は驚いたように、そしてその後静かに微笑みセネアは令を見下ろした。
「セネアさんは僕が適合者だから必要なの? それとも……」
令の言葉にセネアは静かに頬に当てられた手に触れ返し、口を開く。
「もちろん…………好きだからよ。誰よりも……この世界の誰よりも」
その言葉に、令の中の疑問が確信に、恐怖が想いに塗り潰さてゆく。
本当に女神のような笑顔で、セネアは”それ”を令に伝えた。
しかしセネアの顔は笑顔からすぐ脅えに変わる。静かに不安を訴えた目を向け、セネアは口を開く。
「令は……どうなの?」
今度は令の番だった。その言葉に、これまでのセネアのと今のセネアが頭の中で交錯する。
夢の中で初めて出会い、令を女性へと変えた張本人。そして令の女としての初めてを奪った人。
そこにあったのは恐怖と無力感と、そして圧倒的な快楽。
あの日のセネアには男としての女性に対する本能的な感情こそあれ、決して想いを感じはしなかった。
それはあの陵辱の末に再開したあの場でも同じだったはずだし、先程の宣告の時には恐怖……自身が呑まれるような
感覚に脅え苦しんだのは確かなのだ。そんな感情を持つなど考えもしなかった。
だけどそれを知ってしまった……彼女は本当の想いで令を求めていた。

これはついさっき生まれたばかりの感情なのだ。そしてその選択をするという事は、
令に今とは違う生き方を強要する事を意味する。令の心は今でもそれを決して望んではいないはずだった。
それとは別に、頭の中に瑞稀や和真の顔が浮かぶ。想いを受け取るのは、別の想いを裏切るのと同じだ。
だがそれでもその”想い”は強かった。想いが矛盾を、何もかもを押し流す。
生まれたばかりの感情なのに、もう令はこれを否定する事ができなかった。
もう言葉は一つしかない……令はそのまま、素直にその想いを口にした。
「好き……だよ。僕もセネアさんの事、好き」
セネアの顔が、静かに微笑んだ。その頬に再び涙が伝う。
だがそれは先程とは違う雫、想いに満たされた感情が溢れた歓喜の涙。
そのままセネアは静かに顔を近づけてくる。令は何も言わずに静かに目を閉じた。
そして二人は、静かに口付けを交わした。




撫でるような優しい口付けの後、セネアはゆっくりと唇を離した。
初めて令を抱いた時にしたような荒々しさはないが、かえって体を熱くさせるような、そんなキス。
自身の頬が赤く染まるのを感じながら、令は目の前で微笑むセネアを見つめ返す。
「セネアさんの事、ちょっと誤解してたかな」
「……?」
令の言葉にセネアは疑問符を浮かべるが、令は構わず話を続けた。
「セネアさんって、初めて会った時の印象の事もあるんだけど……えっと、その……もっと恐くて、
正直言って冷酷な人なのかなって……思ってた」
何か令の言葉が予想以上に意外だったのか、セネアは驚いたような目で令を見る。
そんなセネアの態度が可笑しくて、令は思わず軽く微笑む。
「でもさ、セネアさん優しいよ……今のセネアさん、なんかすごく暖かいもの」
思わぬ令の言葉に、セネアは狐につままれたかのようにぽかんとしてしまう。
ようやく意味を悟ったか、しばらくしてセネアの頬がかすかに赤く染まった……かと思うと、
彼女はそのまま悪戯っぽい笑みを令に向けた。
「あら、その最初の印象も間違ってなくてよ。それどころかそちらの方が正しいと言えるわ」
「そう……かな? 僕は……」
「貴方だからよ。今でも私は人間ごときに譲歩も妥協もしない。目的のために手段を選ぶ気はないし、
自身の行動に自分以外の意思を介入させる気なぞさらさらなくってよ」
まるでからかうような口調でセネアは令に語りかける。
とはいえその言葉は多分セネアの本心だろう。ある意味その余裕が言葉を肯定していた。
しかし、彼女はその顔を突然真剣なものに変えると、頬を染めたまま令を見つめる。
「だけど……貴方がその全ての序列を破壊したの。私のありとあらゆる価値観の最上段を、
貴方を愛し、貴方に愛されたいっていう気持ちが占拠してしまったわ。
だから如何に私の価値にそぐわなくとも、今の私に貴方に否定されるような選択肢は取れない」

そのままセネアは顔を下ろし、軽いキスをすると静かに微笑む。
「令……貴方のせいよ。貴方が私を壊したのよ」
その赤い瞳に真っ直ぐ見据えられ、令は少々居心地が悪そうに顔を赤くして目を逸らす。
セネアが令に投げかける言葉があまりに恥かしく、そして愛しいから。
正直そんなテレビドラマでしか聞けないようなセリフが自分に向けられているという事実が、
当事者を目の前にしても少し信じられなかった。
「……それじゃあ令、今からは私の時間にさせてもらうわ」
そんな令に、セネアが意味ありげな言葉をつぶやく。意味を求めて令は視線を戻すが、
セネアは先程と同じように令を見下ろしていただけ……ではなかった。
笑顔だが、先程とはあきらかに意味の違う笑顔。
まるで悪戯を考えついた子供のような笑い、そしてその瞳は令が初めてを奪われた時の
あの輝き、あれと同じ色を宿していた。
「……せ、セネアさん!?」
「さっき言ったでしょう? 私は冷酷な女だって……その意味を教えてあげる」
令は淫靡な笑みを浮かべるセネアの顔に思わず息を呑む。
この顔、この瞳をしているセネアが求めている事など一つしかない。
「私はね、これから私を愛してくれる人を……令を嫌という程泣かせてしまうの。
いくら令がやめてって言っても、二人が真に達するまで悦楽の宴から逃がしてあげない」
「セネアさ……あふッ!」
セネアがすっと令の胸に手を添えた。服越しの感覚なのに、令は思わず声を出してしまう。
それだけの事なのに令の息は早くも荒くなってくる。そんな令の顔をセネアが満足そうに覗き込む。
「今度ただ抱くだけじゃない……本当の絶頂、本当の女の喜びを教えてあげる。
だから今夜は……覚悟してね」
静かに、だけど拒否を許さない問答無用な強さを含んだ口調でセネアは令を抱く宣言をする。

当然今の令だって、それを拒否する気持ちはまったくない。
いや、まったくと言えばそうではないかもしれなかった。
もしかしたら男としての令は”抱かれる”事を今でも否定しているのかもしれない。
だが愛する人と一つになりたいという性を越えた気持ちが、すでに心を全て覆いつくしていた。
令はゆっくりとセネアに頷く。それは抱かれる事を自ら望んだという合図。
そしてセネアは令のパジャマの隙間にゆっくりと手を差し込んだ。
「ああぁ……セネア……さ……はああぁっ!」
胸のところのボタンが外れ、令の双球が露わになる。セネアはそれをゆっくりと優しく揉んでゆく。
掌で全体を撫でまわすようにしながら、人差し指でその頂を刺激する。
その度に令は体をぴくんと跳ねさせ、口から甘い声を引出させられた。
「はふうぅ……すごく熱くて、なんか……体が……ひゃあッ! だ、ダメ!セネアさん、ムネだめえぇぇ!!」
ただ胸を少し嬲られただけで自身の体が信じられないほど熱くなっていくのに、
令の中で微かな恐怖とも期待ともつかない感情が広がってゆく。
セネアに抱かれたあの夜以降も何度となく責められた自身の胸、しかし今回のこれは明らかに違う。
今はまだセネアはその技巧をほとんど出してはおらず、実際にはただ撫でられているのに近い状態だ。
それなのに体が燃えるように熱くなる……疼きがすごい勢いで体を駆け巡る。
そしてそれはセネアが舌を胸の責めに加えた途端、一気に加速した。
−な……ぼ、僕の体……変だ。熱い……熱いのが止まらないいぃぃぃ!!!−
指と舌による巧みな責めは、令の中に生まれた熱を一気に発火させる。
いくら声を上げ体をくねらせようとも、快楽は増すばかりでとどまるところを知らない。
「どうして……こんな……ふああぁッ!! 今までと……違う、なんでこんなに……ああぁん!!」
もうすでに言葉が言葉にならない。まだ胸しか責められていないのに、
本能の命ずる喘ぎが理性の言葉を封じ込めている。
前戯の始めの段階でありながら、令の体はまるで挿入されたような快楽を覚えていた。
そのうえ体は、さらに燃え上がるのを止めようとしない。

−いままでと全然違う……胸を触られてるだけなのに熱いのが止まらない!!
どうして胸だけでこんな……熱くて、気持ちよくて……だ、ダメ! このままじゃ……!−
「せ、セネアさんもうダメぇ! お願い、これ以上は……ひゃふっ! あ、あああぁ――ッ!!
ダメ……ダメえぇぇぇ!!」
「あら、どうしてダメなの? 令ったらすごく気持ちよさそうじゃないの」
くすくすと笑いながらも、セネアは決してその手を休めない。舌を離して口を開いても、
指が巧みに責めを継続し続ける。令の体は一瞬たりともその責めから開放されなかった。
「あふああぁ……このままじゃ僕……はああぁん! やめ、お願いやめ……ひあああぁぁん!」
「ふふっ……令ったら、胸だけでイっちゃうのがそんなに恥かしいの?
それとも自分が感じすぎるイヤらしい体だって認めるのが嫌なのかしら? でもね……」
セネアがまたあの悪戯じみた笑みを浮かべる。とはいえ今の令にはそれを認識できるだけの余裕はない。
なぜなら会話に意識を向けようとも、セネアの責めはほんの少しも勢いを失なわないからだ。
「さっき言ったでしょう? ダメって言っても許してあげないわ。
いいのよ感じるままに素直になって……令、遠慮しないでイってしまいなさい!」
セネアが再び舌を使って乳首の蹂躙を始めると、令はひときわ大きな声を上げて喘ぎ、
体に電気を流されたかのように腰をびくん、びくんと跳ねさせる。
そして頭の中にあの白い光が浮かんだ時、令はもう絶頂から逃れられない事を悟った。
−む、胸だけで僕は……そ、そんな! く、くる! きちゃううぅぅ!!−
心で少しでもそれを遅らせようとしても、全ては無駄な抵抗だった。
頭に浮かんだ光は一気にその中を満たして、令の肉体は意思に関係なく頂に導かれる。
「だめ、だめ……ひゃあっ、あああああぁぁ―――ッ!!!」
一際大きく体を震わせ、令は絶頂の叫びを上げた。その全身を駆け巡る快楽に全てが押し流されていく。
ひとときの後、絶頂の悦びが引いて体を脱力させた令の髪をセネアは優しく撫でた。
「かわいい……やっぱり令のイった顔ってこの上ないぐらい愛しいわ。
何度でも、何度でも悦ばせてあげたくなる……」

絶頂の余韻が覚めやらぬ荒い息をはいて、令はセネアを見上げる。
令は胸だけで、しかも一気に高まっていく自分の体の感覚を、それが終わった後でも信じられなかった。
「前と……全然違うよ。胸だけなのに、どうしてこんなに……僕の体はどうかしてしまったの?
セネアさんは僕に何かしたの?」
令の問いにセネアは一瞬何かを考えたような素振りを見せたが、すぐに納得したような顔を浮かべ口を開く。
「しなかったと言えば嘘になるわ。なにしろ貴方は一度私に抱かれたのだから」
セネアの言葉の意味がいまいち理解できず、令は怪訝な顔をする。だがセネアはかまわず話を続けた。
「あの時は意識こそしなかったでしょうけど、私は貴方を持てる技術を総動員して徹底的に悦ばせたわ。
つまり貴方の体はあの時、私に抱かれるという悦楽を無意識のうちに体に刻み込まれたの。
身体は一度覚えた蜜の味を決して忘れはしないわ。それ以上の悦びを得られない限り……ね」
その言葉の意味する事を考え、令は沈黙する。
要は令の体が”セネアに抱かれる快楽”を覚えてしまっているという事。
つまり今回はセネアが何かをしたのではなく、令の方が再びセネアに抱かれたという事実に歓喜し、
自ら快楽を増幅させて、高まっていたという事なのだろう。肉体の記憶に理性や意識は関係ない。
結果的に令はあのたった一回の交わりで、セネアに”調教されてしまった”と言ってもよい。
それに今回は……なにより令自身も抱かれたいと思っていたのは確かなのだ。
「つまり僕が望んだ……僕が求めた快楽なんだ……」
「そうね。だからこんなに……と、言いたいところだけど……!」
漠然と自身の体の変化を考えていた令に、セネアの言葉の語尾が少しつり上がる。
見るとセネアは、ジト目で令を見下ろしていた。
「随分と開発されたみたいだこと。貴方を抱いたのは私とあの男達だけじゃなかったのね」
「……な!!」
突然の指摘に令は慌てるが、その態度と真っ赤になった顔では肯定してしまったも同然だった。
セネアが突然そんな顔をしたのも、その事に気が付いたからなのだ。

「至上の悦楽は他が劣っていると認識できるからこそより価値の増すもの。それにそれを受けとめる
だけの包容力が必要だわ。たった2回の経験でそのどちらも手に入れるのは不可能よ。
いくら初めてで達してしまうぐらい非常識にいやらしい体を持った令でもね」
反論や言い訳など思いもつかなかった。それに何を言おうとも事実を変える事はできないのだ。
とはいえ本来ならセネアにそれを責められるような筋の話ではないのだが、
怒っているというより拗ねたような顔で令を見下ろすセネアの顔を見てしまうと、
言い訳しようという気すら萎えてしまう。
「……ごめん」
令は気持ちを素直に言葉にすると、セネアは一瞬何かを言いかけたまま言葉に詰り、
拗ねた顔のまま横を向いてしまう。令があまりにあっさりと折れてしまったので、
そのわだかまりをぶつけるわけにもいかなくなってしまったのだ。
「……まあいいわ。貴方が他人に抱かれたというのは私にも非があるんだし。だけど!」
突然セネアはがばっと令の上に覆い被さるようにのし掛かり、眼前で令を見据えた。
「覚悟なさい……今度は私を決して忘れられないように、徹底的に悦ばせてあげる。
他の交わりの事など忘れてしまうぐらい、貴方の身体の奥底まで私の悦楽を刻み込んであげる!」
その勢いある言葉に、令の体にぞくりとした感覚が駆け巡る。
これは恐怖と不安という感覚……そう思った心は、ただの逃避にすぎない。
令の体、そして心も認めていないだけで理解しているのだ。この感覚の正体を。
そう……令の心と体は今、ほんの少しの恐怖と不安を内包して、
どうしようもないぐらいの”期待”で溢れていた。
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