初投稿です。
・ソフトなエロあり
・グロい描写はなし
・続き物です
・今回は19レス、テキストで約37KBほどです。



姫巫女奇譚

1.水沢町

『我が元へ、巫女よ』


「んぁ……」
 目が覚めると、電車はちょうど駅のホームへ着いたところ
だった。ホームの柱には錆びかけた白い金属プレートが打ち
付けてあって、そこには水沢町と書かれていた。
「良かったわ、起きてくれて。もう駅につきましたよ、瑞樹
さん」
「あ、はい。すみません」
 伯母様に起こされた僕は、寝ぼけ眼をこすりながらスポー
ツバッグを持って電車を降りる。
 一つしかないホーム、二両だけの電車。電車にもホームに
も数人しかいない。ホームから見える風景も東京と違って高
いビルはほとんど無く、代わりに見えるのは山ばかりで、本
当に田舎って感じだった。
 それが、僕が感じた水沢町の第一印象だった。

 僕の名前は水沢瑞樹、ごく普通の小学六年生だと思う。一
週間前に親が交通事故で二人とも死んじゃったとか、それま
でまったく知らない親戚に引き取られることになったとか、
波瀾万丈なことがあったけど、そんなことは今まで何もなかっ
たし。学校の成績だってそこそこ、スポーツは好きだけどチ
ームでレギュラーになれるほどうまくはなくて、女顔だから
たまに女の子だったら美人になりそうとか言われることがあっ
たけど、日焼けで真っ黒の坊主頭だからもてることもなく、
取り立てて目立つような子供じゃないというのが自己評価。
 だから、僕に運命とか宿命とか、マンガやゲームにしか出
てこないような言葉が降りかかってくるなんて、この時には
まったく想像もしていなかったんだ。

「ふふ、本当に田舎で驚いたかしら? これでも瑞樹さんの
お父様がまだここへいらした頃は結構栄えていたのよ。その
頃はまだ温泉が沸いていて、湯治客がたくさんいらしていて」
 ぼけっと突っ立ていた僕は思っていたことがそのまんま顔
に出ていたらしくて、さりげなく言った伯母様の言葉に顔を
赤くしてごめんなさいと言うしかなかった。
「いいのよ。錆びれているのは事実なんだもの、仕方がない
わ。さあ、行きましょう。駅前に迎えの車が来ているはずよ」
 伯母様は父さんの一番上のお兄さんの奥さんで、とても優
しい感じの上品なお婆さんだ。父さんと母さんが死んで途方
に暮れていた僕の前に突如として現れて、よく分からない色
々な手続きとかお葬式とかを取り仕切って片付け、あっとい
う間に僕を引き取ってここへ連れて来たすごい人で。今まで
冗談以外で誰かを様づけで呼んだことなんて一度もなかった
けど、伯母様は初対面の小学生に自然と伯母様と呼ばさせて
しまうような貫禄とか気品とか、とにかく本物だって感じさ
せる人だった。



 改札を出るとちょっとした広さのロータリーがあって、水
沢駅前商店街の旗を立てたお店が並んでいる。開いている店
は少なくて、シャッターが閉まっている店はお土産屋ばかり
だった。高い建物はどれもホテルみたいだけど、どれもやっ
ているようには見えなかった。人通りはそこそこ、高そうな
車が一台だけ止まっていて、そこでお巡りさんと立ち話をし
ていた作務衣を着た小父さんが伯母様を見つけてこっちへ駆
けつけてきた。
「お帰りなさいませ、奥様、瑞樹お坊ちゃま」
「後藤さん、お向かえ御苦労様です。母屋の方は変わりはな
くて?」
「ええ、特に問題はありません。明日の準備も順調に進んで
います」
 後藤さんと呼ばれた小父さんと伯母様が色々と話をしてい
る横で、僕は挨拶もできず固まったままだった。
(お、お坊ちゃま!?)
 水沢という姓に水沢町という町名。水沢町の由来はそこに
古くからある水沢神社からで、水沢家は水沢神社を祭る神主
の家系である。いわゆる地元の名士、お金持ち、偉い家、ら
しい。話は伯母様から簡単に聞いてはいたけど、お坊ちゃま
とか言われるとほんとカルチャーショック。
 父さんや母さんからそんなこと一言も聞いたことなかった
し、父さんはそんなことまったく想像できない修理工場の親
父だったし。ごく普通の一般家庭の普通の子供として育った
僕としては、どう反応したらいいのか分からず、縮こまった
まま車に乗せられて。
「そんなに緊張しないで、肩の力を抜いてくださいね。水沢
の家はあなたの家なのですから、心配することは何もありま
せんよ」
 川沿いの道を走る車の中、伯母様が優しい笑顔で僕の緊張
を解こうと手を握ってくれる。でも、そう簡単には緊張は解
れない。だって僕は家出した父さんの息子なんだし。バイク
独り旅をしていた母さんに一目ぼれした父さんは、十六で家
出して東京に住んでいた母さんの家に転がり込んでそのまま
結婚、以後一度も故郷へ帰らなかった不良息子で、母さんも
実際はともかく父さんをたぶらかした女とも言える訳だし。
「はい、でも……」
 町中を過ぎると窓の外に山の中腹にある大きな赤い鳥居が
見えた。車はそこへ向かう坂道を上っていっているから、そ
こがこれから僕が住む水沢神社なんだろう。
「大丈夫です。瑞樹さんは瑞樹さんの家に戻ってきただけな
のですから、誰にも文句は言わせません。瑞樹さんには幸せ
になる権利があるのですよ」
 伯母様の言葉には勇気づけられるけど、文句を言ってくる
人もいるってことだから、やっぱり不安になる。もう父さん
も母さんもいない。泣きたくなるけど、泣いたって父さんも
母さんも帰ってこない。話したり遊んだり一緒に寝たりご飯
食べたり甘えたり怒られることだって、二度とないんだ。
僕は、ぎゅっと伯母様の手を握り返した。


『我が元へ、巫女よ』





 車は鳥居のある長い石段の前を通り過ぎて、坂を上って神
社の裏側の駐車場に止まった。駐車場の横に和風のとても大
きな、いかにもお屋敷って感じの家があった。古めかしくて
空気がぴんと張った感じがして、これからここに住むのかと
思うと、気が滅入ってくる。
「…………え?」
 玄関が開いて中から人が出てきた。僕と同じ齢ぐらいの子
供が二人。手を振りながら車にかけよってくる。二人とも同
じ顔、同じ髪形で、片方がスカートだから女の子と分かるけ
ど、二人ともほんとにそっくりで、それだけじゃなく。
「蒼さんと碧さん。二人とも瑞樹さんの従兄弟よ。でも、見
比べると本当にそっくりね、瑞樹さんに」
 そう、二人とも僕にそっくりだった。髪や肌の色は違うけ
ど、顔の形や目鼻口の作りはそっくりで。
 びっくりしてるうちに二人は勝手に車の扉を開けてぺらぺ
ら話し出す。
「いらっしゃい、瑞樹君」
「よっ、遠くからお疲れさま」
「うちは学校もクラスも一つだから同じ組だよ」
「瑞樹も髪伸ばせよ。そうすれば三つ子で通るから」
 よくしゃべる。と言うか、うるさい。三分しゃべるのを止
めたら死んでしまいそう。あっけに取られていると伯母様が
助け舟を出してくれた。
「蒼さん、碧さん。お話したいのは分かるけれど、瑞樹さん
が驚いているでしょ。ちゃんとしたご挨拶もまだなのだし、
後にしなさい」
「はーい。じゃ、あとでね」
 慌ただしく家の中に戻っていく二人。どこにでも騒がしい
のはいるもんなんだな。特に二人だから相乗効果で三倍くら
いに感じる。
「あの二人、えーと、双子なんですか?」
「ええ、そうなの。騒がしい子たちでごめんなさいね。でも、
面倒見のいい優しい子なのよ」
「はい。でもほっとしました」
 こっちの学校に転校してなじめるか不安だったけど、あの
二人と一緒なら大丈夫そうだ。

「お邪魔します」
 玄関の中はまるでテレビの旅番組にでてくる旅館のようで、
大きな水墨画や壷が飾ってある。壁の明かりも行灯みたいの
で、板の間の廊下が三方向に伸びていた。
「いらっしゃい、瑞樹さん。でも次からは、ただいま、よ」
「えーと、はい」
 今日からここで暮らす、ここが僕の家になるから、ただい
ま。今まで住んでいたアパートとは違い過ぎて、自然にただ
いまと言えるようになるには時間がかかりそう。
「こちらよ」
 薄暗い廊下を伯母様に案内されて、庭に面した部屋に通さ
れる。十畳ほどの和室には、和服というか神主さんの格好を
した痩せた老人が座っていた。その人は父さんとは雰囲気が
違うけれど、何となく似ているように思えた。



 「瑞樹君だね。東京からの長旅で疲れただろう、そこへ座
りなさい」
 伯母様がその人の横に座る。伯父様、父さんのお兄さん。
僕も伯父様の前の座布団に座る。
「あの、初めまして、水沢瑞樹です」
 なるべく行儀良くして深く頭を下げる。僕を歓迎していな
いのが誰か分からないけど、もしも伯父様がそうならなるべ
く機嫌を取らないと。伯母様のにこやかな様子からして、た
ぶん違うとは思うけど。
「ふむ、確かによく似ている。いや、本当にそっくりだ」
 「ええ、そうでしょ。私も最初に瑞樹さんと会った時は驚
きましたよ」
 伯父様は僕の顔を見て驚いている。僕もあの双子を見て驚
いたし、これからは誰に会っても驚かれるんだろう。
「世の中には自分に似た人間が三人いるという話があるが、
本当なのだな。瑞樹、蒼、碧、そして伯母様と」
「伯母様?」
 伯母様って、伯父様の伯母様? 蒼と碧の他にも僕に似た
人がいる?
「瑞樹さんから見ると、お祖父様のお姉様、大伯母様に当た
る方よ」
「後ろの壁の上に写真が飾ってあるから見てみなさい」
 言われるまま後ろを見ると、白と赤の巫女服を着た髪の長
い女性が踊っている写真があった。化粧をしていて、きらき
らした髪飾りを付けていて、とても綺麗だった。確かに顔は
僕に似ているけど、蒼や碧とも違う不思議な雰囲気がしてい
て、似ているというには失礼な気がするくらい綺麗で。
 あ、そう言えばどっちが蒼で、どっちが碧なんだろう? 
人のことは言えないけど、どっちも男女か分からない名前だ
し、双子で蒼と碧、あおみどりってギャグみたいだ。
「ま、それはともかく、本題に入ろうか」
「はい」
 伯父様の方を向いて背筋を延ばす。雰囲気で正座したけど、
痺れそう。
 「樹、君のお父さんだが、私とはかなり齢が離れていてね、
私が妻と結婚した後に生まれた弟だから、弟というより息子
のように思って可愛がっていたのだよ。私達は子供を授かる
ことができなかったから、樹を私達の養子にすることも考え
ていた」
「…………」
 言葉がでない。そんなに思われていたのに駆け落ちしてずっ
と音信不通だったなんて、肩身が狭い。穴があったら入りた
い気分だ。
 「それが樹にとって重荷だったのかもしれない。だから、
私達は君の後見人、保護者にはなるが、瑞樹君が望むまでは
養子縁組はしないつもりだ」
 「樹さんが家を出られた後、興信所を使ってどこへ行かれ
たのかすぐに分かったのだけれど、いろいろと難しいことが
あって」
 「水沢家はさかのぼると戦国時代から続く古い家でね、な
かなか思いどおりにすることはできなくてね」



 伯父様と伯母様の言いたいことはなんとなく分かる。こん
な大きな家に住んでいるんだから財産もたくさんあるだろう
し、そうなると遺産相続とかがあるんだろう。それなら僕を
歓迎しない親戚の人もいるだろうし。
 父さんと母さんの遺産は、僕の進学のための学資預金が数
百万あるくらいだったみたい。高校ぐらいは行きたいから、
そのくらいあれば十分なんだけどな。蒼や緑と、テレビドラ
マにあるような相続争いなんかしたくないし。
「なんであれ心配することはない。今日からここが君の家だ。
明日、親族を集めて君のお披露目をする」
「誰が何をおっしゃっても、瑞樹さんは生まれてからずっと、
水沢家の一員ですからね」
「ありがとうございます、伯父様、伯母様」
 父さんが働いていた修理工場の社長さんは、知らない親戚
よりうちにきた方がいいと言ってくれたけど、社長さんの心
配は大丈夫だと思う。あとで無事についたって電話しなくちゃ。
「では来た早々に悪いが、これからの事を伝える前に水沢様
へご挨拶に伺おう」
「水沢様?」
「この水沢の地の守り神、水沢神社で祭っている神様だよ。
ようは参拝するということだ」
 そうか、これから神社の家に住むんだし、参拝しないとま
ずいよね。でも五円玉あったかな?

 家というかお屋敷から渡り廊下を通って神社の建物に入る。
中に入るのは初めてだからちょっとドキドキする。床とか柱
とか古いけどしっかりしていて、傷つけたりしたら大変そう
だから気をつけて歩いたり。
「…………?」
 何となく、何となくだけど、誰かに見られている感じがす
る。中には僕と伯父様、伯母様しかいなくて、庭には掃除し
ている巫女さんや男の人がいて挨拶してくるけど、その人た
ちは僕らをじっと見てない。何なんだろう?
「こちらにきなさい。参拝の仕方は知っているかね?」
「ごめんなさい」
「謝ることはない。これから覚えればいいだけのことだ」
 神社の中、大きな神棚の前で参拝の仕方を教わる。父さん、
こうゆうのは教えてくれなかったんだよ、恥ずかしい。
 教わったように神棚の前で礼をした、その時。


『我が元へ、巫女よ』


「…………?」
 何か声が聞こえたような気がした。



2.双子

 参拝が終わって僕の部屋に案内された。十畳ぐらいの和室
で、一人で住むにはちょっと広すぎる感じだ。少ししかない
けど、東京から宅配で送った荷物は届いていて、部屋の真ん
中に箱が積み上げられている。
「ごめんなさいね、手伝って上げたいのだけど、他にしなけ
ればならないことがあって」
「大丈夫です、一人でできま」
「はーい、伯母様! 私達が代わりにお手伝いします!」
 申し訳なさそうな伯母様の後ろから蒼と碧の二人が入って
きて僕の言葉をさえぎった。
「そう、二人ともありがとう。それでは、お願いしますね」
安心して出て行く伯母様。まあ、いいんだけど。

「えっと、僕は瑞樹。伯母様から名前は聞いてるけど、どっ
ちが蒼でどっちが碧?」
 とりあえず、どっちがどっちか分からないとね。
「俺が蒼。よろしくな」
「私が碧よ。見分け方は、馬鹿っぽいのが蒼で、頭良さそう
なのが私だからね」
「何いいやがる。碧がペチャパイだから区別がつかないんだ
ろ」
「うっさい! 男の癖に蒼がちゃんちゃら髪伸ばしてるから
でしょ」
 やっぱり騒がしいや、この二人は。
「まあまあケンカしないで。手伝ってくれるのか漫才するの
かどっちかにいてよ」
「誰が漫才だ!」
「誰が漫才よ!」
 さすが双子、見事なつっこみタイミング。
 何だかんだでおしゃべりしながら三人で荷物を片付けてい
く。部屋にはタンスと平机、本棚、押入と床の間があって、
箱を開けては中身を適当な場所にしまう。
「あ、パンツ発見。瑞樹君はブリーフ派なんだ」
「わーっ!」
 真上に広げて眺める碧からパンツを奪い、下着の入った箱
もこっちに確保する。
「瑞樹、ブリーフは締め付けが悪いらしいからトランクスの
方がいいよ」
 まじめにアドバイスする蒼。まったく、この双子は。
「あれ、ブラ?」
 今度は蒼が赤いブラをつまみ上げる。
「触るな、それは母さんのだ!」
 元々うちは物が少ないし、何を残せばいいか分からないか
ら家具以外は全部もってきたんだ。
「ごめん、瑞樹」
 蒼はすぐにブラジャーを箱に戻して、箱ごと押入にしまう。
碧は蒼を馬鹿って言ってるけど、そんなことないんじゃない
かな。



「……碧?」
 そんな間に碧は両手で自分の胸を押さえて考え込んでいる。
「あ、うん。瑞樹君のお母さんはスタイルがよくてうらやま
しいなぁって」
 答えに困ることをさらっと言うな。そんなに気になるもの
なのか。さっきも蒼にからかわれていたし。小学生で母さん
みたいに大きかったら変だと思うけど、それを言うのもね。
あー、なんか顔が赤くなりそう。

「よーし、片付け完了」
 時計を見ると五時ちょっと前。夕飯は七時くらいらしいか
ら、ちょっと時間がある。二人はこの家のことに詳しいだろ
うし、案内でもしてもらおうかな。
「ご飯まで時間あるな」
「じゃ、先にお風呂入ろっか」
 は?
「瑞樹は入らないの? 伯父様は一番風呂とか気にしないか
ら大丈夫だよ」
「あ、うん。入るけど」
 唐突だなあ。ま、いいけど。この家のお風呂だから、きっ
とすごいんだろうな。
「じゃ、着替え持ってくるね」
「俺の分もお願いね」
「了解」
 とことこと出て行く碧。僕もパジャマと下着を用意する。
 あれ、なんかひっかかるような、えーと?
「瑞樹、先に行こう」
「あ、うん」
 ま、いっか。何だか分からないってことは、たいしたこと
じゃないんだろう。

「でかっ」
 銭湯ほどじゃないけど、脱衣場も浴室もとても広かった。
「今は涸れちゃってるけど、昔は温泉が出ていて、外に露天
風呂もあったそうだよ」
 僕が浴室をのぞいている間にさっさと脱ぎ始める蒼。僕と
違って日焼けしてない白い肌だから、なんとなく女の子のよ
うに見えてしまう。
「…………」
 って、男同士なのに恥ずかしがってどうする! 僕もぱぱっ
と服を脱ぐ。蒼は漢魂と書かれたトランクスを履いていた。
今まで気にしていなかったけど、白いブリーフになんとなく
劣等感。脱いだパンツをそっと服の中に隠す。
「蒼、持ってきたよ」
 何の前触れもなくガラッと引き戸を空けて中に入ってきた
碧。
「わっ!」
 素っ裸の僕はあわてて股間を隠す。蒼はありがとうって言っ
て浴室に入ろうとして。碧は持ってきた着替えをカゴに入れ
て服を脱ぎ出す。



「えっ、ええっ!? 蒼、碧、何してんの!」
「何って、お風呂に入るんじゃん」
「脱がなくちゃお風呂は入れないでしょ」
碧はさっさと服を脱いで下着姿に。あわてて後ろをむく。
「み、碧は女の子じゃないか! 蒼、止めてよ!」
「お風呂は広いから三人でも平気だよ」
「瑞樹君は私とは一緒に入れないって言うの?」
耳元で碧の声がする。蒼はとっとと浴室に入ってしまって。
「だって」
「私は平気よ。他の男の子なら嫌だけど、瑞樹君は蒼と一緒
だもん。家族だよ」
 碧が僕の腕を取って引っ張る。僕は逆らえなかった。

 蒼、碧、僕の順番で座り、体を洗っている。
「碧、算数の宿題写させてよ」
「だーめ、ちゃんと自分でやりなさいよ」
「ケチ」
「ケチじゃないわよ、ねえ、瑞樹君?」
「……え? あ、うん」
 二人の会話はまったく耳に入ってなかったので、あわてて
生返事をする。
 正直二人の会話に入れなかった、碧の裸が気になって。女
の人の裸なんて、母さんを抜かせば初めて見たから。
 碧の胸は蒼が言うほど真っ平らじゃなくて、ほんのりふく
らんでいて、先っぽも少し大きくて、桜の花びらのような綺
麗な色をしていて。白い肌も、縦にくぼんだおへそも、なだ
らかで丸いお尻もみんな綺麗で。細い太ももの間、あそこに
は本当に何もなくて、ただ縦に線を引いただけのような割れ
目があって。泡に隠れてちらちらとしか見えなかったけど、
どこもかしこも目をつぶれはすぐにはっきりと思い起こせる
くらい目に焼き付いていて。
「……き、…ずき、瑞樹、瑞樹ってば」
「へ?」
 気が付いたら後ろに蒼がいて、前には碧が僕の足元をじっ
と見ていて。
「瑞樹、立ってるよ」
 碧が見ていたのは足元じゃなくて僕の股間、勃起したオチ
ンチンだった。
「わああっ!」
 慌てて隠そうとしたけど、蒼に後ろから両腕を押さえられ
て隠せない。仕方なく足を組んで隠そうとしたけど、まだ皮
のかぶった先っぽは隠せなくて。
「瑞樹君、私の裸で興奮したんだ」
「碧のペチャパイで勃起するなんて瑞樹は物好きだな」
「違うわよ。瑞樹君は私のセクシーさが理解できる見る目が
あるの」
「つまり瑞樹はロリコンだったんだってことだろ」
 僕の頭越しに好き勝手に言い合う二人。いい加減にしろと
言いたいけど、目の前で碧が膝立ちになっているから目が離
せなくて。なんか鼻が熱い。鼻血が出そう。



「瑞樹はオナニーしたことある? 夢精は? 精通はまだ?」
 突然とんでもないことを聞いてくる蒼。今の状況事態がと
んでもないことだけど。
 いつの頃か、気が付いたらたまにオチンチンが固くなって
ることがあって。それは勃起ということで、オチンチンをい
じると気持ちよくなって精液というのがでるってことは友達
から聞いて知っていたけど、家族三人同じ部屋で寝ていたか
ら、興味はあったけどオナニーすることはできなかった。
「……な、ないけど」
 いったい僕をどうするつもりなんだ、この双子は。やって
良いことと悪いことがあるだろうに。
「なら私がしてあげるね。私の裸を見てこうなったんだから、
ちょうどいいでしょ」
 碧の手がオチンチンの先端をつまむ。ぞくぞくっと何とも
いえない感じがして、オチンチンがもっと熱くなって。
「ひゃっ! 二人ともやめろって。駄目だよ、こんなこと」
「伯父様伯母様に知られたら、ここに居られなくなるかもね」
「なっ!」
 こいつ、僕を脅してる。鏡に映る僕にそっくりな顔はとて
も楽しそうで。もう一人の僕にそっくりな顔も、やる気満々
で目を輝かせていて。
「みんな黙っていれば、瑞樹もここに居られて、気持ち良く
なれて、僕らも楽しめるから一石三鳥だと思うけど、どうか
な?」
 やられた。きっと、最初からそのつもりだったんだ。仕方
がない、もう腹をくくるしかないか。
 それに、僕の体の方はとっくに答えを出していた。足を開
いて、オチンチンを前に突き出した情けない格好の答えを。

「うっ、んんっ」
 碧の手が僕のオチンチンを握って上下に動かす。それはと
ても気持ち良くて、動くたびに声が出そうになって。碧はと
ても手慣れていて、もしかしたら蒼にも同じことをしている
のかも。
「瑞樹は碧の胸が好みなんだろ。触ってあげなよ、碧も喜ぶ
から」
 もう僕の腕を解放している蒼は、僕の両手を持って碧のオッ
パイを触らせる。手のひらにすっぽりおさまる碧のオッパイ
は、とても柔らかくて、でも中に固い部分があって、力を込
めたら壊れてしまいそうで。
「あまり、強くしないでね。痛いから」
 頬を染めた碧が、潤んだ瞳で僕を見つめる。下手に自分そっ
くりな顔だから、何か変な気分になる。
「あ、あぁ」
 そっと手を動かして撫でるように揉むと、碧が気持ち良さ
そうに声を出す。感じているんだ。まだ小さいオッパイなの
に、僕の手で感じているんだ。何か、嬉しいかも。
「碧、俺にもしてよ」
 いつの間にか碧の後ろに回っていた蒼が、自分のオチンチ
ンを碧に握らせる。蒼のオチンチンは、僕のと違ってむけて
いて、赤い頭が見えていた。
「瑞樹、見てみな。碧は瑞樹のチンチンしごいて、胸を揉ま
れてぐちょぐちょだから」
「ば、ばかっ」



 蒼の手が碧のお尻から前に回って、指でおまんこの割れ目
を開いてみせる。僕の位置からはよく見えないけど、中は綺
麗なピンク色で、てらてらと輝いていて、割れ目の中を何度
か行き来した蒼の指が、ピンク色の中に消える。
「あんっ!」
「つっ!」
 碧が色っぽい声を出した時、逆に僕は痛みで声を出してし
まう。僕のオチンチンを握る碧の手が思いっきり下に引っ張っ
て、ずるっと皮がむけてしまったからだ。
「くっ、うっ、んっ」
「あっ、んっ、あっ」
 皮のむけたオチンチンはとても気持ち良くて、自然と声が
出てしまって。碧も同じように気持ち良さそうな声を出して
いて。
 蒼はというと、もう少し余裕があるのか碧の耳をなめたり
してるけど、二人とも同じ顔でエッチな表情をしてるから、
それがとてもいけないことをしているように見えて、実際に
いけないことなんだけど、僕もすごいエッチな気分になって。
「んんっ、な、何かでそう」
 おしっこじゃないけど、何かがオチンチンから出そうで、
もう我慢できなくて。それは蒼も碧も同じようで。
「イッて、わ、私も、イッちゃう」
「俺も、もう」
 碧が僕のオチンチンを強く握り締めて、僕の指が碧の乳首
を強くつまんで、蒼の指が碧の奥まで差し込まれて。
「わあっ!」
「ああっ!」
「くうっ!」
 頭の中が一瞬真っ白になって、オチンチンから飛び出した
白い液体が碧の顔や胸に降り注ぐ。蒼のオチンチンからも同
じように飛び出したものは、逆に僕の顔にかかる。
 白い液体で汚れた碧の顔はとても気持ち良さそうで、僕に
は、それが鏡に映った自分のように思えた。



3.水沢様


『我が元へ、巫女よ』


「……いでっ」
 いきなり頭を殴られて目を覚ます。体を起こすと、碧の足
が僕の枕を蹴っ飛ばしていた。三人川の字に寝ていたのに、
碧は真横、蒼なんか頭と足が逆になっている。二人は二段ベッ
ドで寝ているそうだけど、こんなに寝相が悪くてベッドから
落ちないんだろうか。
「こいつら、なんて寝相だ」
 二人が一緒に泊まっているのは伯母様の計らいだった。父
さんと母さんが死んで、一人で初めての場所で寝るのは辛い
だろうからって、同じ歳の二人を呼んだみたいだった。
 二人は二人で、お風呂でのこともすごい経験をすれば気も
紛れるだろうと思ってのことらしい。ま、半分は二人の趣味
みたいだけど。夕食の時は大人たちの前だから猫を被ってい
たけど、部屋に戻ってからは二人の漫才トークが爆裂だった。
エッチなことはもうしなかったけど、話題は自然とそっちの
方になって。蒼が初めて夢精して、おねしょと勘違いして碧
に泣きついたとか。蒼がオナニーしてるとこを碧に見つかっ
て、からかっているうちに二人でするようになったとか。い
ちおう最後の一線は越えるつもりはないけど、顔が同じ分入
れ替わってオナニーしているみたいで良いらしい。二人の話
は刺激的過ぎて、僕にはちょっとついていけない。

「あれ?」
 そう言えば何か夢を見ていた気がする。とても重要な夢だっ
た気がするんだけど、なんだったっけ?
「ま、いいや。おしっこしてこよ」
 部屋の隅に投げ出された布団を二人にかけてあげて、そっ
と障子を開けて廊下に出る。暗い廊下はしんと静まり返って
いて、いかにも何か出てもおかしくない雰囲気で。
「……いや、ここ神社だし」
 神社って神聖な場所だから、お化けなんか出るわけ、ない
よね。神社にはお墓なんかないし、幽霊なんか……あ、でも
父さんと母さんの遺骨はこっちに持ってきてるんだし、ちゃ
んとしたお葬式はこっちでするから、まだこっちにいるかも
しれないし、だったら幽霊になって出てきたりしないかな。
「出るわけ、ないか」
 幽霊もお化けも神様も、そんなのいるはずないんだから。
もしもいたって、あの父さんと母さんじゃきっと出てこない。
いつも後悔しないように生きるが信条だった父さんと母さん
は、いきなり交通事故で死んだからって僕のところに出てく
るなんてない。冷たいからとか、僕のことを愛してないから
じゃなくて、きっと僕のことを信じているから。
 だから、僕は泣かない。


『我が元へ、巫女よ』





「って、ここ、神社の中?」
 大きな神棚みたいのがあるここは、昼間に拝礼したところ。
たしか、本殿とかって伯父様が言っていたっけ。トイレに行
こうとしてたのに、なんでこんなとこに来てるんだろ。寝ぼ
けてるのかな。早くトイレに行って寝なくちゃ。
僕はあくびをして、神棚に背をむけた、その時。


『我が元へ、巫女よ』


「え?」
 透き通ったような、川のせせらぎのような、不思議な、綺
麗な声。
 ここには僕以外誰もいるようには見えなかったけど、僕の
後ろ、神棚に誰か隠れてたのかな。でも、巫女って?
「あの……」
 振り返ったら、そこは真っ白だった。

「うわっ、えっ、ええっ、うわああっ、うわあああっ!」
 神棚も、床も、壁も、天井も、何もかもなくなっていて、
真っ白な霧みたいのが回りに充満していて。足の下も床の間
隔がなくて、かかとを伸ばしてもつま先は空を切るだけ。落
とし穴に引っ掛かったけど、いつまでも落ち続けて底にたど
りつかないような。
「うわああっ、うわっ、うわあああっ!」
 腕も足も頭も動かせない。指や目や口は動くけど、身体の
あちこちをとても強い力で押さえ付けられているみたいで、
腕や足を振り回そうと暴れてもまったく動かせない。僕は、
ただ叫ぶことしかできなくて。
 怖い、怖い、怖い! いったい何が起きているの!
「うわあああっ、わあああっ、うわあっ!?」
 ずっと叫び続けていたら、白い霧みたいのが晴れてきたの
に気が付いて。目の前の、手を伸ばせば届きそうなくらいの
とこに僕がいた。いや、そこに鏡みたいのがあって、涙を流
しながら恐怖で顔を歪めた僕が映っていた。なぜか僕はパジャ
マも下着も着ていない素っ裸で、怯えて震えているのがよく
見えて。
「ひっ、ひいいいいっ!」
 鏡に映っているのは僕だけじゃなかった。頭の上と、両肘
と、腰の左右に両膝の七ヶ所、そこに何か人形のようなもの
がしがみついている。人の頭くらいの大きさで、二等身で手
足は短くて、黄色と黒のしましまパンツをはいてて、髪の毛
はもじゃもじゃで真ん中に短い角が生えていて。そう、まる
で鬼みたい。どれも同じような顔かたちをしてるけど、髪の
色だけが赤青黄色とみんな違う色をしている。
「放せ、放せ、放せ! 僕を元の場所に帰してよ!」
 そいつらに言ってみる。でも聞こえていないのか、人の言
葉が分からないのか、無視を決め込んでいるのか、まったく
反応がない。



 ここはいったいどこなのか、こいつらは何なのか、僕はこ
れからどうなるのか、何もかもがまったく分からない。

『ようこそ、我が神域へ。童よ、汝はこれから我の妻となるのじゃ』

 突然、僕の後ろに鬼が現れた。それは、鬼としか言いよう
がなかった。背丈は僕の倍ぐらいありそうだし、歌舞伎の獅
子舞のような髪の毛は銀色というか金属の糸のようで、顔は
イケメンっぽいけどとがった目は血の色みたいに真っ赤だし、
裸の上半身はスポーツ選手のような筋肉で引き締まっている。
そして何よりも肌が死んだ人のように真っ白だった。
『失敬な童だな、我をこやつらと同じ鬼扱いするとは。汝で
なければ食い殺しておるところじゃ』
 わわっ、やっぱりこの小さいのは鬼で、銀色のは鬼のボス
なんだ。それで僕は鬼に食べられちゃうんだ!
 『こら、だから鬼ではないと言っておろうが。それに汝を
食べるとは言っておらぬじゃろ』
 ひぃぃっ、ごめんなさいごめんなさいごめん、な……あれ?
「僕の思ってること、分かるの?」
 鬼、じゃなくて、怖いのがでてきてから一言もしゃべって
いないのに、僕が思ったことが聞こえてるみたいに話してく
るし。
『我は神じゃからな。特に汝のような者の心は口にせずとも
聞こえてくる』
「か、かみ……神様?」
 鏡に映った自称神様がにやって笑う。やっぱり鬼みたいに
怖い。
『自称とはなんじゃ、自称とは』
「ご、ごめんなさい!」
『まったく、二十数年ぶりに巫女となれる力を持つ者が現れ
たとおもおたら、それがこんな肝の座っておらぬ童とは、ほ
んに嘆かわしい』
 その、えーと、神様は頭を押さえて愚痴ってる。よく分か
らないけど、僕は神様をがっかりさせてしまったらしい。と
りあえず謝っておこう。
「あの、ごめんなさい……」
『謝らなんでも良い。どうせ我にも汝にも選択肢はないのじゃ』
 まったくもって話しが分からない。とにかく嫌な予感ばか
りするんだけど。
「その、ごめんなさい。ええと、神様は何の神様なんですか?」
『……汝は本当に分からぬのか? はぁ、本当に分からぬのか』
「すみません、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
 だって、本当に分からないんだから仕方がないよ。
『汝は先程までどこにいたのじゃ。そんなことも分からぬか?』
「あ! 神社の中です! 水沢神社の神様は、えーと、水沢
様?」
『うむ、そうじゃ、やっと分かったか。まあ、この地の育ち
ではないゆえ、仕方がないか。汝は我のことをどの程度知っ
ておるのか、聞くだけ無駄じゃの』
 ため息をつく水沢様。そんなこと言ったって、つい最近ま
で親戚がいたことすら知らなかったんだから。



 『なら簡単にじゃが我のことを汝に教えよう。汝の先祖の
ことでもある』
「はい、よろしくお願いします」

 水沢様は腕組みをして話しはじめた。
『我は元々、外国の神であった。しかし我を祀る民を失い、
この地へ流れ着いた』
『同じ頃、戦に敗れた汝の先祖が一族郎党を引き連れてこの
地へ落ち延びた』
『我は、我の力を現世へ行使する為に、我が力の器となる人
の子を必要とする』
『我は我を存在させる為に我を祀る民を必要とし、汝ら一族
は一族を守る後ろ盾と庇護を得られる存在を必要としていた』
『そして我と汝の一族は巡り会った』
『偶然か運命か、汝の一族には我が器となる素質を持つ姫が
いた』
『我らは契約を結んだ』
『汝らは我を祀り、器となる姫を我の妻として嫁がせる』
『我は器たる妻を通じて力を行使し、汝らを栄えさせる』
『汝らは我を水沢様と、そして妻を姫巫女と呼び、この地は
数百年の間栄えることとなった』

「へー、すごいですね。神話みたい」
 本とかにしたら売れるんじゃないかな。映画だと人気はで
なさそうだけど。
『何を他人事のように言うておる。汝のことじゃぞ』
「え、何が?」
 僕が何だてんだろう? 神様の言うことはよく分からない
や。それはそうと、裸で宙づりはいい加減やめてほしいんだ
けど。
『ふぅぅ、選びようがないというのは悲しいことじゃの』
 水沢様は後ろから僕のあごをつかんで、いかにも情けない
とばかりに言った。
『汝しかおらぬのじゃよ、我の力の器となれる者は』
 「あ、そうなんですか。まったく知らなかったです、って、
ええっ! さっき巫女って言ってたじゃないですか。巫女っ
て女の人でしょ? 僕は男ですよ。ほら、オチンチンだって
あるし」
 鏡に映った僕のオチンチンをみる。寒くはないけど、ちっ
ちゃく縮こまっている。
『うむ、汝は男で必要なのは姫じゃ。だから汝を女子にする』
「……は?」
『物分かりが悪いの。汝を女子にすれば我の妻にできると言っ
ておるのじゃ』
「なんで! やだよ、そんなの。女の子だったら碧や他にも
いるじゃないか」
『無理じゃ、あれには素質がない。あきらめろ、汝であれば
我の妻になった方がより良い人生が送れるはずじゃ』
 むっ、それって僕には良い人生がないってこと? そんな
の、やってみなくちゃ分からないじゃないか! それに、ま
だ女の子を好きになったことがないし、お風呂でのことだっ
てまだあれだけだし、女になるなんて嫌だ。僕は父さんみた
いになって、母さんみたいな人と結婚するんだ。



『変なところでませておるの。人の快楽など小さい小さい。
我の妻になれば神の快楽を堪能できるというのに』
「嫌なものは嫌だ!」
 いくら相手が神様だって、嫌なものは嫌なんだから。

『なら、汝はこの地を滅ぼすというのか?』

 唐突に冷たい声が頭の中に染み渡る。
『前の姫巫女が亡くなって二十数年。この間にこの地は転が
り落ちる石のように寂れた。我が力を奮うことができねば、
五年とかからず滅びるであろう』
 そんな、そんなこと、ただの脅しだ。
『汝が必要なのじゃ。我は二度も我を慕う民を失うたくはな
い』
「僕は……」
『許せ。契約は続いている。我は我の力有る限り、汝とこの
地を愛そうぞ』



4.転生

『まずは肌の色じゃな。色白は七難隠すという、よい諺があ
るからの』
 水沢様が僕の両頬をなでると、日焼けで黒くなった肌が真っ
白になる。
「ひっ!」
 腕や足、胸、お腹と触られたところは一度も日に当たった
ことがないようなほど白くなって、白いところはどんどん広
がって全身を覆ってしまう。
「ひっ、ひぃっ」
『次は髪の毛を生やそう。尼僧でもあるまいし、我は黒く長
い髪が好みじゃ』
 今度は水沢様の手が僕の坊主頭をなでる。何だかくすぐっ
たいと思ったとたんに、まるでダムの放水のように黒い髪が
どばっと生えて、僕の全身を隠す。
「なっ!」
 白くなって髪の生えた僕の顔は、女の子そのものだった。
だから坊主頭にしてたんだけど。でも、長い髪が生えた僕の
顔は、碧よりも伯父様の部屋で見た写真の巫女にそっくりで。
『あれは先代の姫巫女、櫻じゃ。汝は本当に櫻そっくりじゃ。
男子に生まれたのが何かの間違いなのじゃろ』
「そんなことない!」
 僕は男だ、男なんだ。父さんと母さんが男に産んでくれた
んだ。それを勝手に女に変えるなんて、そんなの嫌だ!
『さて、次はやっぱり胸じゃの。汝の歳であまり大きいのは
不自然じゃが、どうせなら綺麗な乳房の方が嬉しかろう?』
「嬉しいはずないだろ! やめろ、やめろっていっ、うわわ
わっ!」
 僕の腕の中に、水沢様の手がもぐりこむ。痛くはないけれ
ど、腕の中をかき回されている感じがとても気持ち悪い。
「うわあああっ! わあああっ! やだ、やめろおおっ!」
 それはどんどん肩の方へ迫り上がってきて、それが通り過
ぎた後は前よりも腕が細くなってしまって。反対側の腕も同
じ、とても気持ち悪くて、暴れても子鬼たちに押さえられて
動けなくて。
「わあああっ、ひいいっ、ひっ、ぎゃあああっ!」
 それは肩も通り過ぎて、胴体の中をかき回す。胸や腹の筋
肉がなくなってお腹の辺りが細くなり、そして僕の胸から水
沢様のこぶしが突き出る。
「ぎゃあああっ、ぎゃあああっ、ぎゃああああっ!」
 水沢様の指が粘土細工をしているように動く。胸が盛り上
がる感じがして気持ち悪い。僕の叫び声を無視して作業に没
頭する水沢様は、会心の出来とばかりににやっと笑い、僕の
身体からずぼっと腕を引き抜いた。
「あっ、ああっ、ああ……」
 気持ち悪さと、恐怖と、例えようもない悲しさで、涙がぽ
ろぽろと流れ落ちる。
 目の前の鏡に映る僕の胸には、母さんのような大人のオッ
パイが付いていた。碧のと違って僕の手にはおさまらないく
らい大きくて、でもたれてる感じはまったくなくて上をつん
と向いていて、柔らかそうだけど指で押したら押し返されそ
うなほど張っているようにも見えて、先端は綺麗な白っぽい
ピンク色で、それが自分に付いているんじゃなければ触りた
いくらいだけど、そう思ってしまうのが何だかとても悲しい。



「あああっ!」
 泣いている間に、今度は足をいじられる。リトルリーグで
鍛えた足は肉を取られて細くなり、その代わりにお尻と腰回
りが大きくなる。
 もう、僕の体はオチンチンが付いていることをのぞけば、
女の人の体そのものだった。
『ここまでは順調じゃの。さすがに我もこんなことは初めて
じゃが、なかなかどうして、うまくいったの。だがこれから
が本番じゃ』
「初めてって、失敗して死んだらどうするんだ! いてっ!」
 僕がにらみつけると、むっとしたのか僕の額にデコピンを
した。
『我の妻たる汝を死なせなどするか、馬鹿者め。我の力を侮
るではない!』
「ごめんなさい……じゃなくて、僕を元に戻せ!」
『駄目じゃ。これは我の為だけでやっているのではない。こ
の地に住む汝らの為でもある』
「じゃあ、僕一人犠牲になれって!?」
 この話が本当だとしても、みんなの為だとしても、何で僕
が、僕一人が、こんな目にあわなくちゃいけないんだ。父さ
んと母さんが死んで、独りぼっちになって、でも違うからっ
て来たのに、なのに、なのに!

『瑞樹よ、我は汝を独りにはしない。汝の命有る限り、我は
汝と共にある。我は我の愛で汝を満たそうぞ』

 水沢様が、僕の前に回る。赤い目をほそめ、大きな手で僕
の両頬を挟んだ。
「んっ!」
 水沢様の顔が迫って、僕の口をふさぐ。小さい時に父さん
と母さんにされていらい、誰かにされるのは初めてで、しか
も男にされるなんて。
「んん……」
 それは、とても冷たくて、とても熱くて、ただただ身体の
力が抜けてしまって。
「んんっ」
 唇の隙間から冷たくて熱いものがぬるっと入ってくる。歯
を食いしばっても、なめられただけで力が抜けて、口の中を
ねっとりとなめ回されてしまって。舌で押し返そうとしても
同じ、それにふれると力が抜けて、逆にからみ取られてしまっ
て。
「ん、んぁ」
 だんだんと口の中が熱くなって、ツバがあふれてくちゅっ
と音が鳴る。なんだが、そう、口の中が気持ち良い。碧にオ
チンチンを握られたのと同じくらいに。
「んぁ、ぁ……」
 水沢様の顔が離れる。赤い舌が口からたれたツバをなめ取
る。
『大きゅうなっておるの。その方が作り替え易い』
 そう、今ので僕のオチンチンは大きくなっていた。男にキ
スをされたのに、大きくなっちゃうなんて。



「んっ!」
 冷たくて熱いものにオチンチンがつつまれる。頭を動かせ
ないから見えないけど、水沢様にキンタマごと握られてる。
「……えっ?」
 突然、その感触が消える。握られている感触だけじゃなく
て、オチンチンとキンタマが足の間についている感覚も全く
なくなってしまって。
「あ……ああ……うわああああっ!」
 ふわふわと何かが目の前に浮かんでくる。それは、大きく
なった僕のオチンチンとキンタマだった。
『いちおう、汝の男根は見納めということになるの。これを
女陰に作り替えるが、汝には刺激が強かろう、目を閉じるが
よい』
 水沢様の手が僕の目を閉じさせる。真っ暗になって、何も
見えなくなるけど、でも、水沢様が何かをしているのは分か
る。音も聞こえないけど、生肉の固まりを使って、粘土細工
でもしているような感じが。
「うわあああっ、やだっ、やめて、お願いだから、やめてよ!」
 暴れる。でも少しぐらつくぐらいで体は動かない。代わり
に胸についた重たいものが揺れるのを感じて、もっと絶望す
る。
「やだよ、他のことなら何でもするから、だからやめて、助
けて、助けてよ……」
 閉じた目から涙があふれる。いくら叫んでも水沢様は返事
をしてくれない。ひたすら何かをしている。
「助けて……やだ、ひっく……ぐす、やめて……助けてよ……」
 手が止まった。
「ねえ、お願いだから……うっ……ああっ……うわああああっ!」
 お腹に何かが入れられる。僕のお腹の中で手が動いて、何
かを動かして位置を変えている。
「うわっ、わっ、わああああっ、うわあああああっ!」
 気持ち悪い。吐き気がする。内蔵がみんなひっくりかえり
そうな感じ。
「うわああああっ、あああああっ、わああああああっ!」
 お腹から手が引き抜かれる。代わりに、何もなくなった足
の間の感覚が戻ってくる。でも、それは今までの感覚とまっ
たく違って、すーすーして、何かが足りなくて、とても頼り
ない感じがして。

『終わりじゃ。目を開けるがよい。瑞樹よ、汝は無事女子に
生まれ変わったのじゃ』

 死亡宣告。水沢様の言葉は、僕にはそう聞こえた。
 見たくない。目を開けたくない。自分がどうなったかなん
て、知りたくない。だけど。
『恐れるな。汝は強い童じゃ。汝には我がついておる』
 僕の体を押さえていた力が消える。下に落ちるようなこと
はなかったけど、ぎゅっと力を込めてつぶっていたまぶたが
勝手に開いて。




 天使の輪がキラキラと光っている、黒くてとても長い髪。
 一度も日に当たったことが無いような、雪のように真っ白
な肌。
 少し釣り目で丸い大きな目と、同じように大きな黒いつぶ
らな瞳。
 すっと筋の通った細い鼻に、赤く濡れてぷりっとした小さ
な唇。
 細くとがったあご、丸く小さな顔、細い首にきゃしゃな肩。
 メロンのように大きくて、たれることなくパンパンに張っ
たおっぱい。
 細くくびれた胴、縦長のへこんだおへそ、胴に比べて張り
出した腰。
 筋肉のかけらも無いかぼそい腕、傷一つ無さそうな指と爪。
 細く引き締まった太もも、身長の半分は占める長い足。
 そして。
 そして、足の間には何も無く、ただ縦にすっと一筋の割れ
目があるだけで。
 そこには、僕によく似た、でも僕とは似ても似つかない女
の子がいた。

「うわああああああっ、わあああああああっ、ああああああ
ああっ!」

 その女の子は、とても大きく口を開けて、何を言っている
のか分からない叫び声を上げている。
 大きく見開いた目からは、滝のようにぽろぽろと涙があふ
れていて、頬からあごまで濡れてしまっている。
 その子はとても悲しそうで、とても辛そうで、とても苦し
そうで、ただ見ていることなんかできなくて、どうにかして
あげたいけど、僕は指一本すら動かすことができなくて、やっ
ぱり見ていることしかできなくて。
 ずっとその子を見ていたら、女の子の後ろにいた真っ白い
とても大きな鬼のような男の人がその子を抱き締めて、髪に
隠れた女の子の耳に何かをささやいた。

『瑞樹よ、悲しむでない。そんなに泣かれると我も悲しい』

 その子は、その女の子は、目の前で泣いている女の子は―
―僕だった。
 その女の子は、女の子にされてしまった僕だった。
 僕は、僕は、僕は、もう、男じゃなくなっちゃったんだ。

「うわああああああああああああああああああっ!」

 僕はもう、ただ泣き叫ぶことしかできなかった。
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