大樹「みゃこ、本当に大丈夫か?もう少し休んだほうが・・・」

美夜子「もう大丈夫!お父さん。ごめんね心配かけちゃって。」

紗英「でも、まだ熱があるんじゃないの?」

そう、紗英の言うとおり美夜子の熱は当初のような高熱ではないにせよ、
まだ平熱とは言い難かった。

美夜子「うーん、そうだけどいつまでも寝てられないしね。」
大樹「しかし・・・」
美夜子「だいじょーぶだって。それに今日から学校だからね〜。」
紗英「でも・・・無理しないでね。」
紗英は熱が出ている間の美夜子の苦しみ様を見ているため、非常に心配していた。
しかし、いつまでも家にこもりきりというわけにもいかないということも事実。
体調も戻ってきているようならばと大樹と紗英はお互い顔を合わせ頷いた。

大樹「そっか、そこまでみゃこが言うならな。
いつまでも部屋の中に籠っていたら滅入ってしまうしな。」

美夜子「そうそう、いつも元気なみゃこちゃんは、
家の中で収まるような器ではないのです!」

大樹「ははは。その調子なら大丈夫そうだ。」

紗英「そうね・・・でも、体調悪くなったらすぐに保健室に行くのよ?」

美夜子「わっかりましたー!」
美夜子は敬礼のポーズをした。

紗英「ふふふ、じゃ、行ってらっしゃい。」


美夜子「いってきまーす!!」
玄関を勢いよく出て行った。
と、思ったらすぐに戻ってきたのだった。

大樹「?どうしたんだ?」
紗英「やっぱりまだ・・・?」

美夜子「ううん・・・えっと・・・」
もじもじと顔を赤らめながら大樹と紗英の顔を交互に見ていた。

美夜子「えっとね・・・んと・・・
お父さん、お母さん、ありがと!大好きだよ!じゃねっ!」
言い捨てる様に早口でしゃべるとそのままくるりと振り返り、
勢いよく玄関を出て行ったのであった。

大樹と紗英はその姿をみて固まってしまっていたが、どちらからでもなく吹き出した。

大樹「ぷっ・・・ははは。何かと思えば・・・」
紗英「よっぽど嬉しかったのね。」
大樹「ああ、そうだな。」
紗英「あの子がこんなにも明るくていい子に育って・・・」
大樹「おいおい、泣いているのか?
でも、まだまだあの子が不安を抱えているのは事実だ。」
紗英「そうね・・・私たちがあの子をしっかりと助けていかないとね。」

大樹「俺は・・・彼女を何があっても守って見せる・・・
たとえこの身がどうなろうとも・・・」
紗英「どうなろうともなんて言わないで。
そんなことにならないように私もあの子を守るから・・・」
大樹「そうか・・・うん、よろしく頼むよ。」
紗英「ふふふ、あなたってすごく真面目よねー」
大樹「ちゃ、茶化すなよ。」


紗英「あら?あなた・・・少し顔色悪いけど・・・」

大樹「そ、そうか?少し疲れているのかもな。
少し腹の具合が悪いんだ。」

紗英「大丈夫?」

大樹「少しだから大丈夫だよ。
心配かけてすまないな、じゃ俺も行ってくるからな。」

紗英「ええ、行ってらっしゃい。あなた」

大樹は紗英に軽くキスをすると、玄関を出て行った。

その愛する夫の後姿を優しく見つめている紗英。
紗英は外の眩しい光に包まれて、その夫の背中がどこか儚げで・・・
消えてしまうような錯覚に陥った。

紗英「あなた・・・大樹君・・・無理、しないでね・・・」

第十三話「Matter!どうして見捨てるの?」

ここは明日美の通う桜山女子学園中等部
この学校も今日始業式を迎えるのであった。

おはよ
あけましておめでとー
あ、髪切ったー?
外に止まっている高級外車見た?
うん、誰か来ているのかなー?

女子生徒たちは各々久しぶりに会う級友に挨拶を交わすのであった。

その中、朝早くから登校して自席に座って一人で本を読む明日美がいた。
クラスの皆は明日美に対して挨拶はするものの、それ以上の会話をする者はいない。

1年生の事件以来、皆は今まで以上に腫れものを触るように明日美に接していたのであった。
もう、病気は完治しているというのに。

しかし、明日美は上辺だけの薄っぺらい関係にならずに済んでいる状況に安堵しているのである。
正直、相手のご機嫌を窺って必要以上に気を遣わなくて済んでいる分、心地よさを感じていた。


キーンコーンカーンコーン

明日美(さて、HRか・・・)
明日美は今まで読み耽っていた本をカバンに仕舞い込み、ペンケースとノートと手帳を出した。

しばらくすると、教室の骨董品のような古い木製扉をガチャリと開け、
担任の先生が入ってきた。

先生「みんな、おはよう。」

おはようございまーす!

先生「ん、みんな元気でいいわね。
そんな皆に今日は私からいいニュースがあるんだ。」

なんですかー?
あ、あたし知ってるー

先生「実はね、このクラスに転校生がきます!」

おおー!
ざわざわ

先生「はい、静かにー!そんなに騒いでいたら紹介できないじゃない。」

明日美(転校生か・・・まあ、あたしには関係ないわね・・・)

先生「さて、紹介します、どうぞ入ってきてちょうだい。」

先生は扉の方に向かって呼びかけた。
少しの時間を置いて、木扉のノブがゆっくりと回る。
カチャリという音を立て、その扉が開かれていった。
コツコツと靴音を鳴らし、その人物は教壇の前まで歩いて行く。

相変わらず教室内はざわざわと騒がしい。
明日美はその騒がしさを少し鬱陶しく感じながらその人物を一瞥もせず、
自分のノートと手帳を交互に見ていた。


先生「はい、みなさん静かにね。
じゃ、自己紹介お願い。」

わーすごい美人・・・
背が高ーい
奇麗な黒髪・・・
もしかして、朝見た高級外車って?

先生が生徒たちに静粛を促しても教室のざわつきは収まっていない。

そしてその人物はそんな様子でもお構いなしに黒板に自分の名前を書いていく。

???「東條萌波と申します。皆さま、よろしくお願いいたします。」

明日美はその名前を聞いて耳を疑う。

明日美(と、東條・・・萌波・・・?ってまさかっ!)
今まで懸命にノートと手帳を睨めっこしていた明日美は勢いよく顔を上げ、
教壇の方を向いた。
そこには、澄まし顔で立っている、

東條萌波

がいたのだ。

その萌波の横でつらつらと彼女の紹介をしている教師の声は
もはや明日美には届いていなかった。

萌波は明日美が自分を見ていることに気が付くと、にこりと微笑んだ。
その微笑みで再びざわつく教室内。

キャー微笑んでるわ
お嬢様ってやつね
さすが格が違うわ

皆好き勝手なことをコソコソと小さくない囁き声で呟いていた。


明日美「な・・・なんで萌波が転校してくるのよ・・・」
明日美は目を白黒させていた。
その様子がとても面白いらしく、萌波は明日美をじっと見つめているのである。

萌波(くすくす・・・明日美さん、面白い反応するわね。
そんなに私が転校してきたことに驚いているのかしら。)

明日美(あ、あたしのことからかいに来たの?いや、でもそんな・・・)

先生「はいはーい、彼女の詮索はしないの!
休み時間に質問してね。」
ざわつく生徒たちを静粛にさせるために担任教師は手をパンパンと叩きながら
注意した。

先生「では、北島さんの隣が開いているからそこに座ってね。」

萌波「はい、わかりました。」

コツコツと靴を鳴らしゆっくりと周囲を見回しつつ明日美の席へ近づいていった。

そして、明日美の前に立つと明日美に向かってペコリとお辞儀をした。

萌波「はじめまして、東條萌波と申します。
まだ不明点が多くご迷惑をおかけしますが、今後ともよろしくお願いいたします。」

明日美は何が何だか分からず、何かしゃべろうと思うのだが、
言葉を発することができず、ただパクパクと口を動かすことしかできなかった。

先生「北島さん、東條さんもそう言っていることだし隣の好ということで、
サポートしてやってね。」

明日美は先生の言葉と萌波の態度にどぎまぎしていたが、
萌波の言葉で我に返った。


萌波「北島さん、よろしくお願いしますね。」

萌波は、あくまでも初対面という体を貫こうとしているのだ。

明日美「え、ええこちらこそよろしく・・・お願いします。」
今までが今までであったため明日美の動揺は隠せない。

さらにコソコソと周囲からざわめきが聞こえてくるのがわかり、
明日美はますます萎縮してしまうのであった。

北島さんって・・・
ねぇ・・・
大丈夫かしら・・・

萌波「ごめんなさいみなさん、どうも聞き取り辛かったので、
時間があるときにじっくり聞きますので後でもう一度仰って下さるかしら?」

萌波が声のする方を見ずに言うと周囲のざわめきがピタリと止んだ。

萌波「ふふふ、ではお隣失礼いたしますね。」

そう言って萌波は明日美の隣の席にすっと座った。

そして、授業が終わり休み時間・・・

東條さ・・・

萌波「北島さん、学校内を案内していただけるかしら?」
生徒たちが周囲に集まるよりも速く萌波は明日美へ話しかける。
その姿を見てクラスメイト達は少々残念そうであった。

萌波「ごめんなさい、北島さんと約束をしておりましたの。
また話しかけてくださいね。」
にっこりとそのクラスメイト達に微笑みかけると彼女たちは
それ以上何も言えなくなるのであった。

萌波「北島さん、さ、行きましょ。」
明日美「ちょ、ちょっと待って・・・」
萌波に明日美は手を引っ張られ、半ば強引に連れ出すように教室を出て行った。


明日美と萌波はしばらくどこへ行くでもなく無言で廊下を歩いていた。
周囲の人に知る顔がほとんどいなくなると明日美は話しかけた。

明日美「あなた・・・どうしてあんな風にしたの?」
萌波「あんな風って?無理やりに連れ出したことかしら?」
明日美「いや、それもそうだけど・・・あの、あたしと初対面って感じにしたこと。」

萌波「あら、だって初対面ということにしおいた方がいろいろ都合がよくなくて?」
明日美「どういうこと?」

萌波「私とあなたが知り合いってこと、普通に考えたら違和感があるわよね。」
明日美「まあ、そうね。」
萌波「知り合いってことがばれたら・・・あなたに根掘り葉掘り聞いてくること間違いなしじゃないかしら?」

明日美「たぶん・・・そうなるわね。」

萌波「それに私も面倒事は回避したいし、騒がしいのは私の性分に合いませんの。」

明日美「でも、今日はいいかもしれないけど明日からはどうするのよ。
何度も学校を案内するなんて使えないわよ。」

萌波「あら、そんなの毎回適当に理由つけて断るから大丈夫よ。」

明日美「そ・・・そんなんじゃ・・・あなたに友達できないわよ。」

萌波「いいのよ、前にも言ったでしょう?私は他人と慣れ合いたくないの。
それに、あなたもこの学校には友達と言える人いないんでしょう?」

明日美「ど、どうしてそれを・・・」

萌波「そんなの周りのあなたへの態度と、朝のあなたの様子を見ていれば一目瞭然よ。」

萌波「まあ、そういうわけだし、あなたも私と一緒にいたら面倒だろうから、
今まで通り過ごしてよくってよ?」


明日美「なんでそういうこと言うのよ。
仮にもあたしたちは仲間でしょ!せっかく同じクラスになったんだから・・・
少しくらい仲良くなってもいいじゃない!」

萌波は呆れたように溜息をついた。

萌波「あなた、私に言うより他のクラスメイトに同じこと言えるのかしら?
せっかく同じクラスになったんだから少しくらい仲良くなってもいいじゃない。って。言えないでしょ?」

明日美「うっ・・・それは・・・そうなんだけど・・・」
萌波に図星を突かれて言葉に詰まる。
そうだ、確かに明日美は腫れ物に触るような態度のクラスメイトに嫌気がさし、
自ら彼女らを拒絶してしまったのだった。
しかし、明日美は実際には友達を欲しているのは確かだった。
そうは言っても自分の性格上、上辺だけの付き合いはできないことは十分に理解していた。
だから、絵梨と友達になれたときには嬉しかったし、自分の秘密も見せることができた。
ここ最近の萌波を見て彼女もそういう一歩踏み込んだ友達づきあいができるのではないかと考えたのだ。

でも萌波の意見に反論できず、押し黙ってしまった明日美を見かねて萌波が話す。

萌波「はぁ・・・まぁいいわ、少しだけなら付き合ってあげるわ。」

そう言うと萌波は明日美の前にすっと手を出す。
その萌波の行為に明日美はしばらく意味がわからなかった。

明日美「もしかして・・・握手?」
萌波「そうよ。早くしてくれないかしら?あなたにそのつもりがなければ止めるけど?」

萌波は出した手を引っ込めようとするが明日美は慌ててそれを制止する。

明日美「あー!ちょっとタンマタンマ!するする!」
そういって明日美も手を出し、二人は握手をした。


明日美「ふふふ、これであたしたちは友達ってことね。」
萌波「はぁ・・・便宜上・・・ね。」

明日美「全く、素直じゃないんだから。」

萌波「あーあ、もう慣れ合うのはよそうって決めたのに・・・
あの子の影響かしら・・・」

明日美「ふふふ、そうかもね。」

萌波「んー。この際だからちょっと聞いてほしいことがあるの。」
少しだけ考えていたが、萌波は何かを思いついたようだった。

明日美「何を?」

萌波「まあ、これから話すことは私の独り言だと思って頂戴ね。」

明日美「うん。」

萌波「私は小学校5年生までは普通の家庭に育って、家族3人で仲良くつつましく普通の暮らしをしていたの。」

萌波「ところが、5年生の夏休みに父が急に倒れてね・・・入院したの。」

萌波「父が入院して間もなく、うちに祖父の秘書って言う人がやってきて・・・」

萌波「それで、母を家に置いたまま、私を連れ出したの。」

萌波「その時は、話には聞いていたけど会ったことのないお爺様だったから、
気軽な気持ちで少しわくわくしながら行ったわ。」

萌波「でも、それは間違いだった。
愚かなことにそれに気が付いたのは時間が経ってから。私は幼かったのね。」

萌波「夏休みということもあって、しばらくお爺様の家にいたの。」


明日美「入院したお父さんはどうしたの?お見舞いに行かなかったの?」

萌波「最初は行こうとしたんだけど、秘書の人からすぐ退院できるから心配いらないと言われてたわ。」

萌波「夏休みも終わり、そろそろ学校も始まろうかという時・・・」

萌波「突然、10月からフランスで暮らせと言われた。」

明日美「そんなむちゃくちゃな・・・」

萌波「夏休みが終われば帰れると思った私はお爺様に抗議したわ。」

萌波「そうしたらおじい様は優しい顔が消えて冷たい眼で・・・
お前は正式に私の後継者として育てるから家には帰れない。
て言ったの。」

萌波「そしてフランスへ行く少し前に秘書を通じてお父様が亡くなったことを聞かされたわ。」

萌波「私は半狂乱になって暴れた。せめてお葬式だけでも、お墓だけでもお参りに行きたい!
と言ってもフランス行きが迫っているという理由で許してくれなかった。」

萌波「そして、お母様にも会わせてもらえなかった。
一度こっそりお母様がお屋敷に来たことがあったのだけど、
すぐにお爺様にばれて小切手一枚渡して追い返された。」

萌波「お爺様は・・・あの男は!自分の息子なのに見捨てたのよ!
そしてお母様のことを息子を誑かして堕落させた売女だと言い捨てた!」

萌波「どうして・・・どうして見捨てた・・・どうして!あの男の財力があれば!」

萌波は興奮してふるふると震え、声を荒げた。

明日美「萌波・・・」


萌波「失意と絶望のままフランスへ行ったんだけど・・・
言葉は通じないし一人ぼっちで・・・何もかもが異質だった。」

萌波「そしてフランスで様々な知識を叩きこまれた。
私は必死だったわ。でも、あいつを見返してやるんだって思えば苦にはならなかった。」

萌波「ごめんなさい・・・興奮してしまって・・・
それ以来私は決めたの・・・私以外の人は信用しない、あの男にいつか復讐してやるんだって・・・」

萌波「そして去年の9月に日本に帰ることになったのよ。」

萌波「そこであろうことか飛行機事故が起きてしまった・・・
ニュースにもなったでしょう?知ってるかしら?」

明日美「あ、あの事故のこと!?原因不明で墜落して乗客のほとんどが亡くなったって言う・・・」

萌波「ええ、そうよ。
もうすぐで日本に到着するというところで海に墜落したの。」

萌波「海に叩きつけられて飛行機はばらばら、体は動かないし、意識は朦朧としてた。
私はここで死んでしまうのも復讐としてはありかな。なんて思った・・・
でも、一人残されたお母様を見捨てられない・・・見捨てたらあの男と同じになってしまう。」

萌波「そう思ったときに現れた・・・」

明日美「まさか・・・」

萌波「そう、そのまさかよ。
私のパートナー・・・サダルスウド」

萌波「私の体はボロボロだったけど、彼の力で傷は癒されたわ。」

明日美「それじゃ、奇跡的に無傷で救助された日本人女性って・・・」

萌波「そうよ。私のこと・・・」


萌波「あとは知っての通りね。
この学校への編入が遅れたのは事故の影響で検査したり一度フランスに戻ったりしたからこんな時期になったの。」

明日美「そう・・・だったの・・・つらかったよね・・・悔しかったよね・・・」

萌波「悔しい・・・私は力を手に入れても無力・・・」

明日美は萌波をそっと抱きしめた。

萌波「な!何を!!」

明日美「黙って抱かれていなさい。
ほら、こうやって誰かに身を委ねていると安心するでしょ?」

萌波「・・・・・・」

明日美「あのね、あの子・・・絵梨ってあなたのこと泣いているって言ってたの覚えてる?」

萌波は無言で頷いた。

明日美「今思えばあの時からあの子はあなたの内面をわかっていたのね・・・」



萌波「・・・あなたもあの子と同じ・・・暖かいのね・・・うっ・・・だめ・・・あれ?・・・なんで・・・こんなっ」

明日美「ど、どうしたの!?」
明日美は萌波が急に涙をパタタとこぼしたことに驚いた。

萌波「もう・・・泣かないって決めたのに・・・強くなるんだって決めたのに・・・」

明日美「・・・泣いてもいいんじゃないかな?それは強さとは関係ないと思うよ。
泣いて、躓いてそれでも諦めない心が強さだと思う。」

明日美「それでもし倒れそうになったら仲間に支えてもらえばいいんだよ。」

萌波「あんなひどいことした私でも・・・いいの?信じても・・・いいの?」

明日美「もっちろん!だって・・・友達でしょ?つらい時も・・・嬉しい時もずっと一緒だよ?」

萌波「う・・・うわぁぁぁぁぁぁ!!!!・・・
寂しいよ・・・寂しいよ・・・お父さん・・・お母さん!!」
明日美を強く強く抱きしめながらその場に崩れるようにへたり込み、
今までにないくらい大きな声で泣き出した。


そして大樹の会社に場面が変わる。
大樹は全てを忘れる様に今まで滞り気味だった仕事を精力的にこなしていく。

大樹(落ち込んでばかりもいられない・・・しばらくは変身するつもりはないのだし・・・
仕事に打ち込んで嫌なことは忘れよう。)

大樹「山本君、この書類ちょっと直しといて。
あ、田中君は2時から来客だから俺と一緒に来てくれ。」

大樹(うーん・・・おかしい・・・腹が・・・苦しい・・・
薬を飲んでもトイレに行っても収まらんどういうことだ?)

朝は平気だった大樹であったが、時間が経つにつれ腹部の痛みは大きくなってきていた。

大樹(あと少しで昼だから・・・ちょっと病院行ってくるか・・・)

そして我慢しつつ仕事をこなして昼休みになった。

田中「課長、お昼どうします?」

大樹「あーすまん、ちょっと腹の調子悪いから病院行ってくるわ。」

山本「そうですか。わかりました。大丈夫ですか?」

大樹「大したことはないと思うんだが・・・念のためな。
ははは、変なもの食べたかな?」

大樹(さて・・・急いで行ってくるか・・・保険証と診察券と財布・・・)

大樹は必要なものを手にとって急いで仕事場を出て行った。

しかし、病院へ向かう途中、いよいよ痛みが強くなってきた。
大樹「ぐっ・・・この痛み・・・前にも・・・おかしい・・・」
大樹は腹部を抑え痛みに耐えていると体が淡く光り始めた。

大樹「ま・・・まさか・・・!」

大樹はキョロキョロと周囲を見回す。
そして近くの雑居ビルの車いす用トイレに駆け込んだ。


大樹「くっ・・・そんな・・・こんなときに!や、やめてくれ・・・今は俺は・・・」
ピンク色の光が強くなり、大樹は絵梨へと変身してしまった。

絵梨「絵梨になりたくないのに・・・なぜ・・・」

絵梨「はぁ・・・そうか・・・始まっちゃったのね・・・」
絵梨は月経が始まっていた。
そのため大樹の体にも影響が出て強制的に絵梨に変身してしまったのだった。

絵梨「どうしよう・・・あれ持ってきてないし・・・大樹に戻ってもすぐに絵梨になっちゃうんだろうな・・・」

絵梨「仕事は休めない・・・それにこのままじゃ家に帰れない・・・今度ばかりはごまかせないよ・・・」

絵梨「どうにかできないかな・・・スピカ・・・スピカに相談・・・したらどうにかならないかな・・・」

絵梨「スピカ・・・聞こえてる?」
絵梨はスピカに呼び掛ける。
すると少し時間をおいてスピカから返事が返ってきた。

スピカ「なに?どうしたの?あら?絵梨になってる・・・どうしてかしら?」

絵梨「なりたくてなったんじゃないの・・・アレになっちゃったの・・・」

スピカ「なるほど・・・生理になって強制的に絵梨にされたわけね。
んで?私を呼んだのはどうして?」

絵梨「始まったばかりだから大樹に戻ろうにも安定できなくて、
すぐに絵梨になっちゃうから・・・」

スピカ「うん。」

絵梨「だから、どうにかして大樹でいられる時間を延ばせないかな?」

絵梨の言葉にスピカは黙ってしまう。



絵梨(やっぱり・・・無理なのかな・・・)

スピカ「・・・一つだけ・・・ないことも・・・ない。」

絵梨「あるの!?」

スピカ「でも、あまり推奨しないわ。」

絵梨「どういうことなの?」

スピカ「あのね、簡単に言うとエアリィの時の魔力を大樹の状態維持に使うの。」

スピカ「そうすれば、最大で2時間は大樹の状態を維持できると思う。」

絵梨「そうなんだ。でもなんで推奨できないの?」

スピカ「考えても見て?エアリィの魔力を状態維持に使うのよ?」

絵梨「あ・・・そうか・・・エアリィの魔法が使えなくなる・・・ってこと?」

スピカ「魔法が使えなくなるだけじゃなくて、エアリィに変身できなくなるの。」

スピカ「前に絵梨の姿は魔力をセーブするスタンバイモードだって言ったわよね?」

絵梨「うん。」

スピカ「今は絵梨の姿が魔力を使わない姿・・・というよりも絵梨の方が通常体という感じね。」

スピカ「つまり、今は大樹の時の方が魔力を消費してしまう状態なの。
しかも、大量にね。」

絵梨「だからエアリィの魔力を使うってことね。」

スピカ「そうよ。だから大樹の状態を維持するってことは、
エアリィにもなれない、魔力も大量消費するから、このタイミングでやつらが来たら。」


絵梨「まずいってことね・・・
それで、二時間経って絵梨になったらすぐ大樹になれるの?」

スピカ「いいえ、20分・・・最低でも10分は絵梨の状態で魔力が溜まるのを待たなくてはならない。」

絵梨「そっか・・・確かに推奨できない方法ね・・・他には?」

スピカ「あとは、大樹から絵梨に戻るとき注意しなくちゃならないのことがあるの。」

絵梨「それは?」

スピカ「うんとね、それにはまず魔力というものを説明しなければならないんだけど、
普通、魔力って使えば外側に開放されて消費していくの。」

絵梨「うん。」

スピカ「そのときに魔力として使えない残りかすも一緒に出て行くんだけどね、
大樹でいる間、魔力の流れが逆流するから残りかすが開放されずに体に溜まっていくのよ・・・」

絵梨「つまり?」

スピカ「理論上の話だけど、その残りかすの影響で絵梨に戻るときに体に大きな負担がかかると思うわ。」

絵梨「え・・・ふ、負担ってどんな?」

スピカ「通常の魔力の位相を無理に逆転させるのだから・・・そうね・・・」

スピカは少しの間考えた後、言い辛そうに言葉を続ける。

スピカ「こんなことした人いないから分からないけど・・・たぶん・・・全身に激痛とか・・・」

絵梨「激痛って・・・」

スピカ「激痛って言うのはあくまで予測であって、他に何が起きるかは分からないわ。」


絵梨「あのさ、もし絵梨の間に魔力を溜めたら、エアリィには変身できるの?」

スピカ「魔力が溜まったらできるわよ。
でも、いつかみたいな強大な力は出せないと思う。よくてノーマル状態かそれを下回るか・・・」

絵梨「そ、そっか・・・」

スピカ「どうする?それでもやる?」

絵梨「・・・仕方ないよ・・・やるしか・・・で、どうすればいいの?」

スピカ「まず、あなたのハーティジュエルの魔流回路の逆転機構を付けなきゃならないわね。
ちょっとまってね。」

そう言うと絵梨の目の前にスピカが現れた。

スピカ「ちょっと貸してね。」

絵梨がスピカにハーティジュエルを渡すとふわりとハーティジュエルが浮かび上がた。

そして、スピカの口からどの人間の言語体系とも違う、
はたして言語と言えるものかもわからないような言葉?のようなものが流れてくる。

スピカ「ΨШ∞Ё∀⇒√・・・」

そしてその音声のスピードは徐々に速くなり、
最終的に絵梨の耳にはキーンという超高音域のノイズのようにしか聞こえなくなって
ハーティジュエルがくるくると回転しながら光っていった。

その光が一瞬強くなってスピカを包み込み、中からハーティジュエルを咥えたスピカが現れた。
そして絵梨はハーティジュエルを受け取る。

スピカ「これで魔流回路逆転機能が付いたわ。」

絵梨「どうやって使うの?」


スピカ「ハートを上下逆に反時計回りに回して、
キューティメタモルトランスレーションエアリィリバースと言って。」

絵梨「うん。わかった。」

スピカ「これはとてもイレギュラーな方法だからくれぐれも気をつけてね。
そして、絵梨に戻るときは・・・覚悟しておいた方がいいわよ。私にも何が起こるか分からないんだから。」

スピカは神妙な顔つきで警告をした。

絵梨「うん・・・気を・・・つける。」

スピカ「じゃ、私は戻るわね。」

絵梨「ありがとう。」

スピカは絵梨の目の前から姿を消した。

絵梨一人きりになったトイレの個室、ふと広い個室の鏡に映るダボダボのスーツを着た自分の顔を見る。

絵梨「あなたは・・・望美さん・・・なの?
私は・・・あなたなの?」
自分の顔を見ると涙があふれてくるのがわかる。

絵梨「ごめんね・・・でもあなたにしたこと・・・許してなんて言えないよね・・・」

絵梨「どうしたらいいの?
私はあなたになろうとしなくても・・・こうしてあなたになっちゃう・・・」

そして鏡の中の自分は黙したまま・・・絵梨はハーティジュエルを持った・・・

絵梨「キューティメタモルトランスレーションエアリィリバース」

こうして絵梨は大樹へと戻る・・・大きなリスクを抱えながら。


そして桜山学園中等部の放課後・・・

明日美と萌波は二人で帰ろうとしていた。

明日美「やっぱり、絵梨と・・・ううん、大樹さんともう一度話してみた方がいいと思うの。」
萌波「そうね、私もそう思いますわ。」

明日美「・・・ねぇ、その話し方もうやめない?昔は違ったんでしょ?」

萌波「ごめんなさい、ずっとこのように話していたらこれで固定されてしまいましたの。」
明日美「まあいいけどね。あんたらしくって。」

二人が正門を出ようとした時、大きな高級外車が停まっていた。
そして運転席から初老の男性が降りて萌波に近づいてきた。

明日美「ほぇ〜すっごい車・・・これって萌波の?」
萌波「ええ、そうよ・・・」
萌波は少しだけ険しい表情になった。
明日美(この子は家にいる間ずっとこういう顔をしているのか・・・)

高遠「お嬢様、お迎えにあがりました。」
萌波「必要ないわ。帰って頂戴。」
高遠「しかし、お嬢様・・・ご主人さまから必ず車で送迎するようにと申しつかっております故・・・」
萌波「しつこいわよ高遠・・・今後も送り迎えしなくて結構です。」
高遠「しかし、それではご主人さまに申し訳立ちません。」
萌波「お爺様にはいつも通りと言えばいいでしょ?」
高遠「私に嘘をつけと?」
萌波「そうは言ってないわ。嘘なんてつかなくてもどうにでもやりようはあるって言っているのよ。
じゃ、私は友達と一緒に帰るから。」
高遠「お、お嬢様!」

萌波はそう言うとすたすたと歩いて行ってしまった。



明日美「い、いいの?」
萌波「いいのよ。私はあなたと帰りたいの。」
明日美「ふふふ、そうなんだ。ありがとう。」

明日美は嬉しそうに微笑み、二人は仲良く並んで駅へとつながる桜並木を歩いて行くのであった。

二人は駅に着くまでの間、趣味の話や絵梨の話、明日美は魔法少女になった経緯を話した。

明日美「じゃ、また明日学校でね。」

萌波「ええ、また・・・御機嫌よう。」

二人は駅に着くと上りホームと下りホームで別れた。

萌波「こんなに楽しいって思ったの久しぶりだな・・・なんだかすごく解放された気分・・・
お母さん元気かな・・・会いたいな・・・」
萌波はホームで物思いに耽って反対側の道路をなんとなく眺めていると少女が歩いているのが見えた。
最初は単に女の子が歩いているなと思って見ているだけであったが、どうもおかしい・・・
その女の子に見覚えがあることに気が付いた。

萌波「あの・・・人は・・・あり得ない!そんな!あの時確かに!!」
萌波はその人物の正体に気が付き、同時に戦慄した。
その人物とは、かつてアクエリィとして初めて戦い、最後に殺したはずのダークウィッチであったからだ。
萌波は急いで駅を出てその人物を追いかけたが既にその場にはおらず、周囲にもいなかった。

萌波「気のせい・・・だったのかしら・・・」
萌波は諦めて再び駅へと戻って行った。

そして同時刻、そのダークウィッチであった少女の前には日常ではありえないものが立ちふさがっていた。
黒く鈍く光るものが少女の前に浮かんでいた。


少女「な・・・なに?これ・・・」
???「君にはもう用はないよ。君の中にいるものに用がある。」

それは少女に語りかけると触手のようなものを伸ばし少女の胸にトンと当てた。
すると何と言うことだろうか、その触手はそのままずぶずぶと少女の胸に埋まっていくのであった。
少女は苦悶の表情を浮かべ、苦しそうに唸り声を上げる。
少女「っぐっ・・・・ぐぁっぁぁぁぁぁぁぁ!」

それが少女の胸に埋まった触手を引き抜くとズルンと赤色に光る球が出てきた。
その光る球はふよふよと宙に浮いている。

???「目覚めたかい?久しぶりだね、もう8年ぶりくらいかな?」
???「あ、あなたは・・・!リゲル!」
???「ふふふ、覚えていてくれてありがとう。でも僕は光を失って今はイオと名乗っているんだ。」
???「忘れるわけないでしょう!あなたがこの子の中に私を封印したのだから!」
イオ「まあ、そのおかげで大事な彼女は守られているんだからいいじゃないか。」
???「裏切り者め!今は・・・今はどうなっているの?まさか!」
イオ「ああ、僕を捨てたあそこかい?平和なもんだ。
僕や君たちのことなぞ知らん顔しているみたいさ。」
???「私の拘束を今すぐ解け!」
イオ「このままではやだね、提案があるんだ。僕に協力してよ。」
???「誰がお前なんかに!」
イオ「まあ、そう言うと思った。でもね、君に選択権はないよ。」

イオと呼ばれた黒い球体はその姿をぐねぐねと変え、クマのぬいぐるみの姿になった。
そして左目となっているボタンをぶちぶちと引きちぎった。
その引きちぎったボタンを光る球に翳すと、ボタンから黒い触手が伸びて光る球体を包み込む。



???「ぐっぐあっやめ、やだぁぁぁぁ!やめて・・・やめてぇぇぇぇ!」
その球体は苦痛に叫び、触手が全てを包み込むと最後に大きな悲鳴をあげ、地面に落ちた。
そのままぐねぐねと形を変え、うさぎのぬいぐるみとなった。
そしてボタンはそのまま首に巻きつきチョーカーになった。
イオ「ふふふ、カワイイ姿じゃないか。あの子も気にいるだろうね。」
???「はい、イオ様・・・」
イオ「君はこれからエウロパと名乗れ。」
エウロパ「はい、名前を賜り恐悦至極に存じます。」
イオ「やだなぁ、そんなに畏まらないでよ。前みたいな感じでいいよ。」
エウロパ「は、わかりました。」
イオ「わかってるのかなぁ・・・ま、いいや。
ふふふ、これから面白くなるぞぉ。たのしみだなー。」


次回予告
ずっと閉じこもっていた萌波の心は明日美によって解れた。
しかし、いまだ絵梨は自分の殻を破れずに葛藤が続いている。
彼女は、彼は突き破ることができるのだろうか。
そして新たに現れたエウロパとは!?
次回「Nothing!心の穴はどうやって埋めるの?」
アクエリィ「あなたに心から信頼できる仲間が居るかしら?」
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