〜魔薬2〜

 白い壁と白い天上。そして白い白衣を着た男達。その男達の前に大き
なガラスがありその向こうにも真っ白な部屋が広がっていた。その部屋
の中央の白いベットには少女が寝かされその少女からは様々なケーブ
ルが延び、ベットの周りに無数に置かれた様々な機材に繋がれその周
囲を数人の男達が囲んでいる。その光景を窓越しに見ていた男の一人
が口を開く。
「はやり効果が安定しないか」
「はい。この実験体以外ですと現段階での成功例は片手で数えられる程
しかありません」
「それに2度の投薬は無理か」
「身体が薬に耐えられませんね。1度の性転換が限界です」
「データが足りんな」
「ええ、それに彼女もそろそろ限界ですね。ここ一年余りの投薬と実験
でボロボロです」
 そう言うとディプレイの前に座る男はガラスの向こうの少女を見た。
「もう少しデータを取るために成功例が欲しいところですが・・・」
「ふむ・・・」
 男は顎に手をやると同じくベットに横に鳴り虚空を見つめる少女を見る。
「彼にばら撒かせているとは言え社長にばれないようにしないといかん
からな。あの件はキモを冷やした」
「ああ、学生の集団暴行事件ですね」
「被害者がこの薬の成功例だと揉み消すのに苦労した」
 何かのデータが書き込まれた紙の文字を眼で追いながら男―景山はに
やりと笑った。
「それと主任。我々の事を調べている人間がいるようなのですが」
「ほうっておけ。証拠など残さん。だが・・・」
 景山は数瞬だけ考えるそぶりを見せるとクッと喉をならした。
「そうだな、彼に監視をつけておけ。なんせ社長のご子息だからな。ま
だまだ使い道はある」







「ね、ねえ鈴本君もう帰ろうよ・・・」
「何だよ。お前が行きたいって言ったんだろ?」
 夜の街を対照的な二人が歩いている。身長が高く目鼻立ちの整った少
年の少し後ろをおっかなびっくりといった感じに背の低い、一見少女のよ
うな中世的な見た目の少年が付いて歩いている。
 背の高い少年、鈴本亜希と背の低い少年、谷口巧はふとした会話の流
れから夜の街に遊びに出てみようとうい事になった。普段学生らしい遊び
以外をしないごく普通の学生だった二人にはちょっとした冒険でもあった。
「だからって何でこんな裏路地に」
「こっちの方が面白そうじゃん」
 繁華街より少し入った薄暗い裏通り。街の喧騒が少しくぐもって聞こえて
くる。道端に座り込む男女やなにか大げさに笑いながら話しているグルー
プを横目に見ながら歩いていると帽子を深く被った男がビルの隙間から走
り出てきた。そしてちょうどその場に居た亜希にぶつかり二人がよろける。
「うわっと!」
「す、鈴本君大丈夫?」
 帽子の男は二人に一瞥すると足早に走り去っていった。
「なんだありゃ」
「うん・・・あ」
 巧は足元に何かが落ちているのに気が付いた。それは香水のビンのよ
うな栄養剤のビンのような形をした透明の液体の入った入れ物だった。
「ほら、いくぞ」
「あ、うん」
 拾い上げると同時に亜希から声を掛けられ巧はそのビンを上着のポケ
ットへとしまいそのまま歩き出した。



「たーだいまー」
「お邪魔します」
「あ、兄ちゃんお帰りー。巧さんもこんばんは」
 亜希の自宅。二人が靴を脱いでいると奥からボーイッシュな少女、亜
希の一つ下の妹望が顔を覗かせた。
「晩御飯は?」
 亜希の両親は今日は用事があるらしくそろって留守にしていた。
「後で食う。それより部屋に入ってくんなよ」
「はーい」
 望はぶーと頬を膨らませるとリビングへと引っ込んでいった。亜希は
そのまま2階の自分の部屋へと上がっていく。巧はお菓子やジュースの
ペットボトルが入ったコンビニの袋を手にさげながら亜希の後に続いた。
「あっちい〜」
 亜希は床にドカリと座り込むとエアコンのスイッチを入れ巧は上着を
脱ぐとコンビニの袋を置く。
「おトイレ借りるね」
「おお、ちゃんと返せよ」
 巧が部屋を出て行くと亜希はコンビニの袋を引き寄せた。
「あー喉渇いた。ん?こんなの買ったっけか・・・まあいいや」
 亜希は袋から取り出したビンの蓋を開けると一気に飲み干した。
「ふ〜、すっきり」
「おーう、おかえり」
 亜希がポテトチップスをぱりぱりと食べながら片手を上げる。巧は亜
希の前に座ると一緒にお菓子を食べ始めた。
「ふわ〜あ」
 程なくして亜希は大あくびをしてベットに転がる。
「あれ?どうしたの?」
「んあ・・・なんか急に眠みい」
 ベットの上でけだるそうにゴロゴロと転がる亜希。そのベットの脇に
置かれた空のビンを見つけ巧は血の気が引いていく音を聞いた気がした。
「す、鈴本君。ここ、これ飲んじゃったの?」
「ぐ〜」
 それは街で帽子の男とぶつかった時巧が拾ったビンだった。コンビニ
エンスストアで買い物をしたとき何気なく上着のポケットに入っていた
ビンを袋に入れていたのだった。気持ち良さそうに寝息を立てる亜希を
見て何ともいえない不安にさいなまれる巧。
「だ、大丈夫・・・なのかなこれ」



 そしてその変化は二人が気付かぬうちに起こっていた。

 亜希が眠ってしまってから30分も過ぎた頃、巧は帰ろうと立ち上が
りベットの上を見るなり思考が停止し固まった。
「・・・あ・・・へ?」
 そこに巧が見たことのないほどの美少女が眠りこけていた。状況が理
解できず眼を点にしパクパクと動く口からは意味不明の言葉が漏れる。
「ん〜〜〜?」
 その少女はむずがると上半身を起こし眼を擦る。その動きに巧は顔を
引きつらせ後ずさり強張った顔にはだらだらと汗が流れる。
「んむ・・・悪りい、寝ちまったみたいだ・・・・・・どした?」
「へ?あ、あああああの、鈴本君?」
「なんだあ?面白い顔して。ん?」
 ぼりぼりと頭を掻きながら亜希は視線を自分の身体へと向ける。そし
て沈黙。その沈黙の中巧は訳も分からず緊張しぐびりと唾を飲み込んだ。
時計の秒針が進む音が嫌に耳につく。そんないたたまれない沈黙に耐え
かね巧が口を開こうとしたとき亜希の顔に驚愕の表情が浮かんでいく。
「ああああのあのすす鈴本君おちおちつ落ち着いて」
「な、なんじゃこりゃあああぁぁ!!?」
 この状況でなければその低音だが美しい声に聞くだけで骨抜きになる
男も居たかもしれないがそんな心の余裕は今の二人にはとりあえず無縁
だった。顔や身体をぺたぺたとさわり混乱する少女―亜希とおろおろと
情けなくうろたえる巧。そして
「兄ちゃんどうしたのー!・・・はれ?」
 兄の叫び(普段と違う気もしたが)を聞いて乱入してきはいいが完全
に想定外の状況に頭に巨大なハテナマークを浮かべる望。
「ちょっと待て!なんで女になってんだ俺!?」
「と、ととととにかく落ち着こうよ」
「兄ちゃん?あれ?あれれ?」
 巧は全てを忘れて家に帰りたいと切に思った。

                                ―To be Continued―




「おいおい、これ本物じゃねーか」
 亜希はその服を押し上げている大きく膨らんだ胸を両手でぼんよぼん
よと揉み、それを見て巧は真っ赤になった顔を背ける。
「す、鈴本君あんまりそういうこと人前でしないほうが・・・」
「はえ〜、兄ちゃ―姉ちゃんおっぱいおっきい。羨ましい」
 普段から物事をあまり深く考えない望は兄の変化にすでに順応し自分
の少し小ぶりの胸と比較し頬を膨らませていた。
「しっかしなんで俺が女になっちまったんだ?」
「原因はわからな―」
 そこまで言ったとき巧みの視界に殻のビンが移る。一瞬ドクンッと心
臓が跳ねたが『まさかね・・・』と思い自分を誤魔化す。
「ん?どした」
「あ、いや。ええっと・・・あ、確か僕達の高校の卒業生に女の子になっ
ちゃった人いなかったっけ?」
「ああ、俺らの一つ先輩だろ。それがどうした」
「いや、その人と同じなんじゃないかなーって」
 巧はもとより顔立ちの整った、女性化してもまったく損なわれていな
いその亜希の顔に見つめられ不意に気恥ずかしくなり目線を下へ向ける。
「何の話〜?」
「お前には関係ない。とりあえず明日病院に行ってみるか。あ・・・親父
とお袋になんて言おう」
 兄のぞんざいな物言いに不服そうな望を無視し亜希はベッドに倒れる。
「あの、僕今日は帰るね」
「おう、すまん」
 巧は立ち上がる瞬間サッと空のビンを拾うとポケットの中にしまった。
そして亜希と望に見送られながらそそっくさと鈴本家を後にした。






「しっかしなんだなあ」
 鏡の向こうでけだるそうな顔をした女性が頭をぼりぼりと掻いている。
巧が帰った後望を部屋に閉じ込めた亜希は洗面所の鏡の前に立っていた。
元々身長が高く顔立ちのせいもあり普段大学生に間違えられることもあ
った亜希の姿は女性になっても変わらなかった。
 ベリーショートの髪と少しつり眼気味の瞳。一目見たときの素直な感
想は『かっこいい女の人』といった感じだった。
「う〜ん」
 襟首を引っ張り膨らんだ胸をみる。身長と釣り合いの取れた大きな胸
と細く引き締まったウエストと形のいいヒップ。姿鏡で全身をみると確
かな色気がただよっていて猫科の動物を思わせる。
「まいったなこりゃ」
目の前に良い女がいるが悲しいことにそれは自分自身。亜希は大きく
ため息をつくと自分の部屋に戻っていった。
 それから帰ってきた両親に事情を説明したりやたらとじゃれ付いてく
る望をあしらったりしているうちに亜希は心身ともに疲れ果て気絶する
ようにベッドに倒れ込み眠りに落ちていった。


「今のうちに風呂入っちまうか」
「夕飯までには上がるのよ」
「へいへい」
 タンスから着替えの服を出そうとして亜希は検査に時間をとられて女
性用の下着を購入していなかった事を思い出し動きを止めた。
「望のは・・・ダメだ、俺より小せえ」
 辺りを見回し自分一人なのを確認してから望の下着を取り出して試し
てみたがブラジャーもショーツもサイズが合わずこっそりと元に戻す。
「しょーがねえ」
 適当に服を選ぶと亜希は脱衣所に入っていった。
「う・・・」
 着衣を全て脱ぎ全裸になってから何気なく鏡をみて亜希はたじろぐ。
女性化してからバタバタしていたせいもあり自分の身体をキチンと見る
機会が今までなかった。見た目と性格から女友達は多かったが女性経
験がなかったため自分のとはいえグラマラスな女性の身体を目の前に
して亜希は大いに動揺した。自分の身体に触ることもなんとなく控えて
いたため自分が女になってしまったという実感が急激に沸いてきた。
「これは・・・なんと言うか・・・すごいけど勿体無いような」
 男として興奮していたがその対象が自分だと思うとなんとも空しい気
持ちになる。
「はぁ・・・ちゃっちゃと風呂に入ろう」
 トボトボと浴室に向かう亜希の背中には何ともいえない哀愁が漂って
いた。
「よっと」
 風呂イスに腰掛けるとシャワーの温度を調節する。丁度良い温度にな
ったところで頭からお湯をかぶると張りのある肌がシャワーのお湯を弾
き身体のラインに沿って流れていく。


「ふえ〜、気持ちいい」
 全身の汗を流してからシャワーを止めてボディーソープを手の平に出
し軽く泡立てると全身に塗っていく。肌理の細かく体毛が薄くなった柔
らかい肌が手の平に気持ちいい。両腕からお腹、胸へと手を動かして行
くとじんわりと奇妙な感覚が広がっていく。その感覚を楽しみながら普
段より力を抜いて洗っていく。いつもの力で擦ると少し痛かったのだ。
『デリケートだな』なんて思いながら前進を泡立てていく。そして足の
付け根に手を移動させたときその部分がどうなっているのか純粋な興味
が沸いてきた。
「ん」
 初めて触るそこにおっかなびっくりといった感じで指を這わしていく。
薄いヘアに覆われた割れ目を指でなぞりさすっていると自分がひどく興
奮していくのがわかった。
「うっ・・・や、やめやめ。なにやってんだ俺は」
 亜希は慌てて手を離すとシャワーの温度を低くして火照った身体に付
いた泡を洗い流していった。

「ふい〜」
 頭をガシガシと乱暴にタオルで擦りながらキッチンの冷蔵庫を開ける。
「こら亜希、なんて格好してんの」
 料理をしていた亜希の母、鈴本美野里が亜希の姿をみて呆れたように
声を掛ける。ノーブラノーパンの身体にホットパンツとタンクトップと
いう何とも無防備な姿で冷蔵庫からジュースの缶を取り出していた。ち
なみにホットパンツは望のものだったりする。
「ん〜」
 ジュースを飲みながら気のない返事をすると亜希はリビングへと引っ
込んでいった。
「あ、にいちゃ―姉ちゃん」
「その『姉ちゃん』いうのやめ」
「え〜だって」
「だってじゃない。そして抱きついてくるな」
 いつもよりやたらとべたべたしてくる望に辟易としながら亜希は明日
の学校のことを考えさらにげんなりとするのだった。

                               ―To be Continued―
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