あれはとても暑い夏の夜だった。
俺はボロっちいCRTつきPCの前に座って2chを見ていた。
テレビの天気予報は雷注意報が発令されていると繰り返し注意を呼びかけていた。
俺は無視して巡回先スレを読み漁っていた。
するといきなり俺の目の前でものすごい光とそれに続いての音が鳴り響いた。
「うぉ、やられた・・・漏れのPCが!!」
雷で吹き飛んだPCに押されて、俺はイスごと倒れたのだった。

俺は気を失っていた。なんだか気だるい感覚があった。
そして俺が目を覚ましたとき、そこはいたるところがボロボロの家の残骸の中だった。
・・・雷のせいにしてはすごい壊れ方だな・・・
俺は周りを良く見た。どこの家も明かりがついていない。
・・・停電か?・・・
よく見たが、懐中電灯やローソクさえもついている様子が無い。
それどころか、他の家々もボロボロに焼けただれ、廃墟のようになっていた。
俺は時計を見た。気を失った時間から5分も過ぎていなかった。
・・・こんな短時間で町の様子がこんなに変わるものか?・・・
この時の俺は、いったい何がおきたのか、知るよしもなかった。





このままここにいても埒があかない。とりあえず家を出ることにした。
家を出るとき、表札や塀までボロボロになっている事に気がついた。
・・・なんだこれは?・・・
よく見ると古い弾痕が無数についていた。
・・・なぜ?ココは日本だろう?・・・
俺は混乱した。酒の飲みすぎで頭がイカレたのかとも考えた。
そんなはずは無い。俺は今日、酒を飲んでいない。
汗を拭こうと俺はハンカチを探しポケットを探った。
ズボンに何か付いている。
「け、拳銃?!」
俺は自分の服装を確認した。気を失う前と違い、テレビで見た北○○の軍服のような服を着ていた。
・・・なんてことだ!・・・
俺は拉致されて洗脳でもされたのだろうか・・・

とりあえず落ち着くためにも部屋に戻った。
そこには予想していたようなものがあった。
・・・ライフルだ。やっぱり俺は軍隊の一員になっていたらしい。いつの間に・・・
そのとき、後ろから声がした。
「軍曹!何か見つかったか?」
・・・軍曹?誰のことだ?・・・
俺はきょとんとして振り返った。
「む?軍曹どうしたんだ?」
「・・・」
「さっきの雷の影響か?とりあえず、隊に戻るぞ。付いて来い。」
俺は仕方なしにその兵士についていった。




俺は軍医のところに連れて行かれた。軍医は俺に、こう言った。
「どこから来たのだね?君は軍曹ではないな?」
俺は経緯を話した。
「やっぱりな。ここ数ヶ月君のような事件が何件も発生している。」
「ここはどこなんだ?俺はどうなったんだ?」
「君と同じような事件と合わせて考えてみると、君の世界とはパラレルワールドにあたる場所になるんだろうな。」
「パラレルワールド?」
「左様。君の住む世界では2004年7月時点で朝鮮戦争はどうなっておる?」
「朝鮮戦争?休戦中だし北朝鮮は疲弊して拉致被害者を返してきているぞ。」
「この世界では、朝鮮戦争は韓国が疲弊し、韓国は釜山を中心にして数十キロの小さな国に成り下がっている。」
「日本は?」
「東京以南は九州から上陸した北朝鮮の軍に支配されている。」
「それじゃあ、あんたは?」
「もちろん北朝鮮側の軍の軍人だ。君もそういう事になる。」
とてもヤバイ事になったようだ・・・。

軍医の話によると、空間のゆがみを越える際には自分自身・あるいは別の人間と入れ替わる事になるそうだ。
現に向こうで女性だった人間が空間を飛び越えて男性になった例さえもあるという。
また、「将軍様」はニューハーフ好きで、軍で失態をしたものや、気が振れた者を強制的にニューハーフにしているそうだ。
「お前もそうなりたくなければ、過去のことを忘れて軍務に励むことだ。」
俺は軍医のアドバイスに従い、自ら志願して最前線に出る事にした。

ところで、俺の時計が3分後にずれていたのはお約束の話だ。(分からなかったら村上龍にでも聞いてくれ。)





この世界では日本は再軍備して「我が将軍様の軍」にたてついているそうだ。
しかし、その日本軍の能力はさほど高くないので最前線でも楽に戦えるようだった。
俺は幾度かの戦闘の後、おかしなことに気が付いた。
相手側の日本軍はほとんどが女性だったのだ。
・・・なぜだ?・・・
その疑問が解き明かされるのはずっと先のことだった。

戦闘が繰り返されていたある日、奇妙な噂が流れてきた。
アメリカ軍と日本軍が共同で新型爆弾を開発したと言うのだ。
その爆弾は殺傷能力はほとんど無いが兵士を無力化するらしい。
どんな爆弾なのか、それ以上詳しいことは誰も知らなかった。
とにかく、航空機からの爆撃には気をつけるように言われた。
そんな噂を聞いた翌日俺がこっちに来てちょうど1年目のその日に、大規模な爆撃があった。
俺はみんなから少し離れた塹壕に身を潜めていた。
空からすごい音で爆弾が落ちてきた。そして俺の目の前で炸裂した。
「うぉ、なんで俺だけまた・・・」
俺は身をそらしながら倒れた。




意識が戻った時、俺は妙な感覚に気が付いた。
・・・胸についているのは?・・・ぶ、ブラジャー?!・・・
なんだか様子が変だ。立ち上がってみると、目の前に鏡があった。
・・・試着室?それに女の体?・・・
だが良く見るとおかしな所がいっぱいあった。
・・・お、オカマの体か?でも若い美少年だな。・・・
どうやらホルモンなどには手を出していない女装少年の体の中に俺はいるようだ。
きれいな試着室だし、向こうの世界でなおした時計も3分ずれているし、どうやら戻れたようだ。
しかし、目の前には女性の服しかない。
・・・ええい、このままでは何にも出来ない。・・・
小一時間悩んだ挙句、俺は女の服を着て試着室を出る事にした。

俺はその足で紳士服売り場に向かった。
そこでこの体に合うメンズの服を一式買った。
オカマのままでいる事がイヤだったのだ。
買った後、身障者用のトイレの中で着替えた。
・・・ふぅ。やっと落ち着ける姿になったぞ。・・・
気分が少し良くなったので、落ち着いて考えてみた。
・・・戻ったと言っても俺の体はどうなったんだろう?・・・
確かめたい一心で俺は家に向かった。




俺の家の前では坊さんが両親と話をしていた。
・・・1周忌とか言ってたな、誰のだ?・・・・
俺は俺の知人を装って両親に話を聞いた。
「息子のお友達ですか?それじゃあお線香でもあげて行ってください。」
「え、息子さんなくなられたんですか?」
「ちょうど一年前、雷の直撃で、感電死でした。」
・・・我ながら情けない死に方だ・・・な、なに、それじゃあ戻れないじゃないか!!・・・
とにもかくにも落ち着いて、俺は俺自身の遺影の前に線香をあげ、俺の体そして軍曹の魂に丁寧に祈った。
「軍曹、安らかに眠ってくれ。」
帰りがけに噂話で聞いたところによると、「俺」は落雷直後にはまだ生きていたらしい。
しかし、何かにおびえたような「俺」はその場で自ら首をナイフで切って自殺したのだそうだ。
だが、世間の手前、感電死した事になっているとの事だった。
・・・軍曹、なんて事をしてくれたんだ!!・・・




・・・どうしよう・・・
俺は考えた。平和な日本に戻れたとはいえ、俺の体は1年前に既に死んでいた。
このオカマの体で生きるしかないか。
俺はオカマの持ち物から免許証を見つけ、その住所地に行ってみることにした。
オカマの家に近づくに従い、このオカマの知人らしき人から挨拶されるようになった。
八百屋の前を通ったとき、「ボーイッシュな服も似合うね」と言われたのには唖然としたが、にっこり笑って通り過ぎた。
どうやら、このオカマ、もう既に女として生活しており近所からもそう思われているようだった。
・・・そういえば、免許証も女の名前だったな・・・
俺はめまいがした。

オカマの家・・・というか俺の新しい家についてから少し考えてみた。
・・・このオカマ、体を全然いじっていないのはなぜだ?・・・
・・・大体どうして女の免許証をもっているんだ?・・・
とりあえず、家の中を少し調べてみた。
男子高校の生徒手帳と貯金通帳が出てきた。
生徒手帳の生年月日からすると、どうやらこの体はまだ17歳らしい。
・・・ガキは保護者の同意無しには手術してもらえないか。・・・
また、貯金通帳を調べると、約3ヶ月前に大金を使った形跡がある。
免許証の取得年月日はちょうどその大金を使った3ヵ月後、昨日だった。
・・・戸籍を買って免許を取った。そう考えればつじつまは合う。しかし、こんな大金どうやって・・・
謎は深まるばかりだ。




とにかく俺は男として生活するための方法を考えた。
・・・引越しをして、元の戸籍を使えばいいんだろうが、親にガタガタ言われるのはいやだな。・・・
本当の親でも干渉されるのは嫌なものなのに、会った事も無い親にガタガタ言われるのはすごく嫌なことだ。
・・・こいつが稼いでいた方法がまともなら、それを元に金を稼いで親に干渉されずに引越しをしよう・・・
俺はこいつの生活を探るための材料を探した。
机の引き出しには日記が入っていた。
2ヶ月前の日記には、OLとして中途採用(?)された事が書いてあった。
どうやら会社では事務職をしているようだ。
・・・我慢してやるしかないのか・・・

・・・まてよ?こいつどうやって大金を稼いだんだ?・・・
俺はこいつが大金を稼いだ方法を調べたかったが、もしもの事を考えると調べる気になれなかった。
・・・とりあえずOLか。・・・
仕方無しにPCを起動してメールを確認したとき、偶然にもこいつがどうやって大金を稼いでいたか知る事になった。
こいつは、SMの女王様をやっていたのだ。それも女性として。
ボンデージを着込み、決して脱がない女王様としてその筋ではそこそこ名の知れた存在になっていたのだ。
・・・なんて事だ!俺はそんなのいやだ・・・
少し落ち着いてから、よく考えてみた。
・・・女として女王様やってたって事は、アナル使ったりはしていないって事だよな?・・・
少しはマシな気がしたが、やってる事は大して変わらない。俺には女王様の仕事は無理そうだった。




とりあえず、OLとして1ヶ月がんばってみた。セクハラを受けたり、痴漢にあったり大変だったが、
タマの隠し方は初めてこいつになった時に穿いていたキツイパンツ(ガードルと言うらしい)をつければ良い事が分かったので、ばれずに生活できている。
しかし、このままでは引越しなんてまるで無理な相談だ。
その上、男に戻って生活するには大学ぐらい出ておかなければ・・・
・・・どうやったら大金が稼げる?・・・やはりあの方法しか・・・
SMの女王様の仕事を再開する以外、俺はこの体で大金を稼ぐ方法を思いつかなかった。

俺がOLと女王様の二足の鞋を初めて1週間後、体の異変を感じた。
少しづつ胸が大きくなっている気がした。
・・・どういう事だ?別に女性化する様なことは何もしていないはずだ。・・・
俺はパニックになりかけた。
その時脳裏を一つの風景がかすめた。
「女ばかりの最前線・巨大な爆弾・戦闘員の無力化・・・戦闘員の女性化?!」
どうやらあの爆弾は女性化爆弾だったようだ。
そういえば軍医は空間のゆがみを越える際に越える前に受けた傷などを負っているものもいると言っていた。
それがあの爆弾の能力をこちら側にも連れてきたらしい。
俺は絶望しそうになった。




俺は良く考えてみた。あの爆弾はアメリカ軍と日本軍の作ったもののはずだ。
だとしたら、こちらの世界の日本やアメリカにも同じ技術があってもおかしくないはずだ。
俺はネットを調べてみた。
手がかりとなりそうなページをいくつか見つけたが、どれも核心には触れていなかった。
・・・俺はあきらめない。あんな危ない戦場を生き残ったのだ。・・・
・・・ここでは俺は男として生きる為にどんな事でもがんばりぬいてみせる。・・・
誓っては見たものの、そう簡単に女性化を止める事も出来ず、日付ばかりが進んでいった。

俺は日記をつける事にした。

11月1日 くもり
今日から表裏なしの日記をつける。
OL仕事:月末締めの仕入れ伝票の確認
SM仕事:爺さんを麻縄で縛る。スパンキング。爺さんはスパンキングされながら射精。
体の状態:胸がBカップになる。下はそのまま。
なおすための調査:遺伝子兵器に関する情報は少ない。女性化に関する調査に少し進捗アリ。




11月4日 くもりのちはれ
OL仕事:月末締めの仕入れ伝票の確認が終了。請求書を発送。
SM仕事:若い男を高手小手で縛って吊る。ロウソクを垂らすと泣き喚いた。
体の状態:胸はBカップ。下はそのまま。
なおすための調査:女性化に関する調査の結果、もしかすると女性化乳房かもしれないとわかる。

11月6日 はれ
OL仕事:土曜日のため休み。
SM仕事:M嬢とオヤジとの3P。オヤジの袋にピアスをあけた。
体の状態:Bカップブラが少しキツくなってきた。下はそのまま。
なおすための調査:肝臓を悪くするような事はやっていないし、原因も思いつかない。女性化乳房の可能性はかなり低い。

11月10日 はれ
OL仕事:いつもどおり仕入れ伝票の入力をする。
SM仕事:M男を装った勘違いオヤジに襲われそうになる。タマを蹴って逃げた。
体の状態:Cカップブラが少しキツくなってきた。下には穴があき、イチモツは小さくなる。
なおすための調査:最悪の予想が当たっていたようだ。日本軍の兵器なのならその技術がこちらにあってもおかしくはない。

11月14日 はれ時々くもり
体の状態:とうとうイチモツがなくなった。記録をつける気力もない。

12月1日 雨
もう最悪だ。とうとうこの日が来た。腰が重いしベタベタして気持ち悪い。
はじめてナプキンとやらを使う。この体の持ち主には最高の事かもしれないが、俺にとっては最悪の事態だ。
会社には体調不良で休暇届を出した。




どうやら俺はとことんついていないらしい。なんで俺がこんな目にあわなきゃならないんだ!
俺は元に戻るのをあきらめかけた。しかし、ある事に思い当たった。
「この姿のまま俺がここで生きるか、それとも向こうの世界で男として生きるか・・・」
解決策が一つ思いついた。どうせ元の自分に戻れないんだから、せめて男に戻ればいいんだと。

爆発や落雷が向こうの世界とこっちの世界を繋いでいるとしたら、その近くに居れば良いんだろうと思った。
どうやったら、実現できるか?色々考えたが思いつかないでいた。
そんなある日、俺は地下鉄に乗っていた。地上線と相互乗り入れしている路線だったが、
俺が乗った車両がガタガタと大きく揺れた。どうやら脱線したようだ。
そこに対抗側から来た列車が突っ込んで俺は吹き飛ばされた。
座席に当たったのでどうやら生きているようだ。

意識が戻ったとき、俺は俺(軍曹)の体の中に居た。
「やった!成功だ!」と思ったが少し様子が変だった。手錠をかけられ護送車に載せられているのだ。
「俺は捕虜になったのか?」そう思っていると、向かいに座る囚人が泣き喚いていた。
「いやだぁ、俺は女になんかなりたくない!!」
別の囚人は焦点の合わない目でニヤニヤしていた。
ま、まさか・・・アイツは何かヘマをやらかしたのか?
俺は背筋に寒いモノを感じた。
「今度こそ女性化からは逃げられないのか・・・。」
護送車は病院へと入っていった。
  -終-
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