どこからか電波を受信した
本当は小ネタでささっと書くだけだったはずなのに、何故か書いているうちに脱線して長くなってしまったぜハッハー
ほとんど無自覚TSのようなものなので、ちょいと口に合わないと感じる人もいるかもしれない




 ふわふわとした浮遊感が全身の感覚を朧にしていた。
 意識がはっきりとしない。自分が何者なのかすら曖昧で、まるで夢の中にいるようだ。
『――――』
 遠くに誰かの声が聞こえている気がした。
 だがそれは音と言うよりは気配に近かった。今まで感じたことのない、得体の知れない何かだ。
『――――』
 だが未知への恐怖はほとんど感じていなかった。
 遠くの声はトロトロに溶けている意識に、少しずづ形を与えていく。そのことが不安ではなく安心を感じさせた。
 次第に声は両の手足、胴体、頭へと染み渡っていく。鉄を鋳型に流し込むように、溶けた精神はすんなりと形作られた。
 最後の仕上げは身体ではなく、精神の中心と呼べる部分だった。
 自身を自身たらしめる部分にも声が響いた。
 声が染み込んでいくにつれて、自分が何者であるかが形作られていく。
 仕上げが終わると、出来上がった人間がイメージ出来た。
 それは美しい女性だった。
 腰まで届きそうなまばゆい金髪、うっすらと開かれた瞳は鮮やかな蒼。臀部は肉付きがよくぷっくりとしており、その上の腹部はスラリと滑らか、乳房は形の良い大きなゴム鞠のようなものが二つ。
 そんなどこか完成された身体をイメージした意識は、どこかエキゾチックな印象を覚えた。
 自分の身体として造られたはずなのだが、微かな違和感が残っている。だがそれも痒みを覚える程度でしかない。
 彼はいつの間にか、自分の身体はそういうものなのだと認識していた。
『――――』
 再び遠くから声が飛んできた。ぼやけた意識は急速に自我を取り戻して行った。
 精神世界から外の世界世界へと浮かび上がっていく……

「あ……」
 いきなり空中に放り出されたようだった。
 突然戻ってきた感覚に驚き、思わず声が漏れてしまう。
「ここは、俺は一体……」
 自我を取り戻した彼は、まず自分がいる周りを見渡した。
 彼はどうやら部屋の中にいるようだった。
 壁は鮮やかな模様が入っており、天上には豪奢なシャンデリアが下げられている。天蓋付きのベッドの横には羽ペンの乗った机、なんと暖炉まである。
「俺の部屋……なんだよな……?」
 ここは自分の部屋だ。間違いない。
 だがこの感じはなんだ。自分は本当にこの部屋を知っているのだろうか?
 暖炉なんて見たことないような気もするし、こんな豪華な部屋に自分がいるのは場違いな気もする。



 部屋の中に鏡を見つけた彼は、その前に立って自分の姿を確認した。
 鏡に映っているのはドレスを着飾り、頭に白銀のティアラを乗せた美しい女性。
 一瞬その姿に見惚れてしまう。
「うーん、なんでだろ……」
 頭の奥から記憶が浮き上がって来た。
 自分はとある小国の国王の一人娘、つまりお姫様だ。それは分かる、それだけは彼の中ではっきりとしている。
 だがそれ以外のことが、虫に喰われたかのようにスカスカなのだ。
 姫は鏡の前でクルクルと回りドレスを翻した。
 ドレスの下に隠れた巨大な乳房が、遠心力を受けて更に重量を増す。
「―――うわっ!?」
 姫は重心を保てずにフラフラと絨毯の上に俯せで倒れ込んだ。ティアラが床に落ち、カランカランと乾いた音を立てる。
 自身と床に挟まれた乳房が、むにゅんと潰れて形を変えた。
 姫は間抜けな自分の姿に気恥ずかしくなり、慌てて起き上がってティアラを頭に戻した。
「俺、おっぱいなんてあったっけ?」
 お姫様なんだから女なのは当たり前、だからおっぱいがあるのも……当然?
 そう思いながら自分の胸を揉んでみる。
 ドレス越しの掌にムチムチとした弾力が伝わり、自分の胸にも揉まれる感覚もある。
 間違いなく本物。当たり前だ、自分はお姫様なんだから。
「……そうだよな、お姫様だもんな」
 お姫様といえば国の象徴だ。綺麗でかわいい方が国民だって喜ぶ。おっぱいも大きい方がいいはずだ。
 そう思いはじめると、どこか邪魔に感じていた大きな乳房が誇らしく感じた。
 そんな風にしていると、部屋のドアをコンコンとノックする音が聞こえた。
 誰だろうか?姫はそう思ってドアへと向かう。
 しかし姫がドアノブに手をかけるより早く、ドアの向こうから声が聞こえた。
「姫、私です。入ってもよろしいでしょうか?」
 声の雰囲気から、ドアの向こうにいるのは男性だとわかった。
(この声どこかで……誰の声だっけ……?)
 聞き覚えがあるような感じはするのだが、何故かその先は靄がかかっているようで、全く分からなかった。
 だが不思議と嫌な感じはしない。それどころか、ほんの少し声を聞いただけで胸が熱くなり、顔が自然と緩んでいた。
「……姫?」
「あっ、はい!すぐに開けます!」
 胸に入った熱に浮かされるように、姫は慌ててドアノブを捻った。
「あぁ姫様、お会いしとうございました」



 ドアの向こうには、男性用の華やかなドレスローブを纏った顔立ちの良い男が立っていた。
 それを見た姫の心臓が、ドクンと脈打った。
 それだけではない。顔が熟れたトマトのように紅潮し、穏やかだったはずの呼吸が震える。
「王子、様――!?」
 自然と彼の口からそんな言葉が漏れた。
 そうだ、この人は王子様だ。
 俺の――いや私の恋人で、私の一番大切な人だ。
「おや、ひょっとしてお邪魔だったかな? だったらまた日を改めて……」
「あっ、待ってください――!」
 背を向けて部屋を出ようとする王子に、姫は反射的に抱き着いてそれを引き止めた。
(―――へっ!?)
 王子に密着したことで、鼻腔の中へと王子の臭いが流れ込んできた。
 一瞬フワッとした浮遊感が脳内に駆け巡り、身体の熱が更に加速した。
「おっと危ない」
 次に気がついた時には、姫は王子の腕の中に包まれていた。
(あぁ……)
 それに気づいた途端、姫の中に猛烈な高揚感と安心感が芽生える。
 姫はその感情に流されるままに王子に腕を絡ませた。
「姫、愛しているよ」
「ひゃあぅっ!?」
「好きだよ、この世界で一番」
「ああぁっ!?王子様、王子様ぁ……!」
 王子の言葉で姫の理性は限界を迎えた。
 身体の熱も精神の熱も、もう抑えきれなかった。
 母へと向かう子供のように王子に抱き着き、自分の物だという印しをつけるように頬擦りを繰り返す。
「ふふっ、しかたのないお姫様だ」
 王子はそう言って立ち上がり、姫の目の前へと自分の股間を持って行った。
「いつものように奉仕してもらえるかな?」
 いつの間に露出させたのか、姫の鼻先に赤黒くそそり立つ肉棒があった。
(奉仕って!?こ、これを舐めるのか!?)
 ツンとした臭いが姫の鼻を刺す。だがそれも今の姫は甘美なものに感じていた。
 しかし姫の中で何かが引っ掛かっていた。
 忘れていた微かな違和感が、ここにきて少し大きくなっていた。
「どうしたんだい?さぁ、いつものように……」
「いつ、もの……」
 しかしそんな違和感も、王子の言葉の言葉に沈められてしまった。
 そのまま姫は突き動かされるように王子のモノへと舌を伸ばし――王子のペニスに触れた。
 途端に麻薬のような何かが姫の身体へと浸透してくる。
(ああそうだ、おちんちんを舐めないと……)
 躊躇いも違和感もすべて吹き飛んでしまった。



 姫はおもむろに自分で自分のドレスを引き裂き、大きな乳房を剥き出しにした。
 そして重たい乳房を両手で持ち上げ、唾液に濡れた王子のペニスを挟み込んだ。
(王子はパイズリ好き、俺はパイズリをするのが好き……)
 乳房からはみ出た亀頭に口を被せ、裏筋に舌を絡ませる。
 王子のモノからはすでに粘り気のある液体が滲み出ており、塩気と苦味が姫の舌によく馴染んだ。
「出るよ姫、全部飲むんだよ」
 出る?何が?
 決まってる。大好きな王子様の精液、私の大好物。
 精液を飲むのか?俺が?
 大好きな王子様が言ってるんだ。当たり前じゃないか。
「んんんっ――!?」
 白い濁流が口腔に流れ込んで来る。それが姫の意識すらも白く染めた。
(やば、俺、イって、る―――!?)
 全身が魚のようにビクビクと痙攣し、股間がキュンキュンとうごめくのが分かる。
 それでも王子のペニスからは口を離さない。
(やばい!吐け!吐かないと――!)
 頭が警告を発しているのが分かる。
 だがそれとは反対に、口の中ではより精液を味わおうと舌を動かしていた。
「くぅ……せいえき、すご、ひ」
 そうだ、吐く必要なんかない。自分はお姫様で女の子、大好きな男の子の精液を飲むのは普通のことだ。
 トリップ状態でフラフラの姫を、王子が抱き上げてベッドへと運んだ。
「さぁ、今度は本番をしようか」
(ひっ、ふぉ、ほんばん……?)
 王子が姫を仰向けにし、自分へ向けて足を開かせた。
 姫の股間はすでに内から染み出た愛液でドロドロで、零れた雫がシーツを濡らした。
 王子の前にパクパクと微かな開閉を繰り返す二枚貝が姿を現した。
 それは見まごうことなく熱を帯びた女性器だった。
(あれ、チンコがないんだ? 俺って、おと――)
 姫の頭に微かなノイズが走る。
 王子がそんなことにかまうはずもなく、

 ズブッ――!

 最後まで考え終わる前に、姫の思考を王子の肉棒が貫いた。
(あぁ――!おちんちん、入っ――!)

 グチュッ、グチュッ

「きゃっ、ああん!あっ、おおぁあ――っ!」
 快感の奔流が走り抜け、意図せぬ喘ぎが吠えるようにして出る。
 瞳は限界まで開かれているが、その瞳には王子以外入らない。
 同じ様に、姫の思考には王子以外存在しなかった。



「どうだい姫、気持ちいいかい?」
「はいっ!気持ちイイです!あっ、また、ああぁ――っ!?」
 王子が姫の金の陰毛の茂みから固くしこった豆を探り出し、ムニムニと揉んだ。
 また姫の視界が白く弾け、膣奥から愛液が噴水のように噴き上がった。
「さぁ、どこが気持ちいいのか言ってごらん」
「お、おまんこが!王子様のおちんちんで、気持ひ、いい――!」
「他は?」
「クリトリスがぁ――!ああっ、ひっ!い、ぅぅ――!」
 正直に答えたご褒美だ、と王子が速く大きく腰を打ち付ける。
 それによって姫の股間から脳天へと光が突き抜けた。
 眼は虚で歯をカチカチと鳴らしているが、快感に震える足は王子をガッチリと掴んで離さない。
(へっ、変だ!こんな、俺、こんなのおかしいっ!?)
 潤った喘ぎ声を上げながらも、姫の頭の中では何かが膨らんでいた。
 それは王子が腰を打ち付ける度、姫が女の悦びに飲まれる度に、少しづつ風船のように膨らんでいた。
(ああ、でも、気持ち良すぎて――!)
 おかしいと違和感を感じながらも、姫の腰は王子に合わせて動き、自ら唇を王子の唇へと重ねていた。
 膨らんでいるのは違和感だけでは無い。王子への燃えるような愛と、煮えたぎった牝の身体が姫を動かしていた。
(違う、違うのに……!腰が、止まらないッ――!!)
 どれほど抵抗しようと、体中を跳ね回る快感に押し流されてしまう。
 自ら腰を振り、頬は緩んで顔が蕩け、瞳からは涙を口からは涎を垂らして王子の肉棒を啣えている。
 王子に尽くすのは当然のはず。しかし姫にはそんな自分が滑稽に思えた。
 ふと、姫の異変を感じ取ったのか、王子が腰の動きをゆったりとしたものに変えた。
 一見すると王子が姫を気遣ったようにも見える。だがそれが間違っていることはすぐに分かる。
 王子の表情が部屋に入ってから情事に至るまでの慈愛に満ちたものではなく、腹の底に何かを抱えているような、どこか黒い笑顔を浮かべていた。
「あぁ、もうズレて来ちゃったの。さすがに設定を適当にしすぎたかなぁ?今回はちょっと色々と無理があったか……」
「お、王子様、何を言っ――きゃふっ!?」
 姫が声をかけようとするが、それは腰の一振りで遮られた。



 王子は快感に悶える姫を見ながらさらに続けた。
「はははっ、兄さんはただ感じていればいいんだよ。どうせ膣に出したらズレも直って完全にお姫様になっちゃうんだし」
「に、兄さん?わ、わたしは、そんな……」
 王子が発した“兄さん”という言葉で、違和感を押さえ付けていた蓋にピシリと亀裂が走った。
 頭の中で、大事な何かが自由になろうと抵抗している。
「別に思い出してもいいよ?ま、兄さんごとき力じゃ無理だろうけど」
「う……、ぁ……!?」
 自分は何かを忘れている。いや、忘れさせられている。この王子によって。
 それに気づいた途端、豪華な部屋も、美しいドレスも、豊満で艶やかな女の身体も、全て作り物の夢のように見えてくる。
 しかし身体を焦がす快感も、王子を慕う気持ちも、現実としか思えないリアルさがあった。
 忘れさせられている何かも、あと少しで思い出せそうなのに、あと一歩のところで止められている。
「お、俺は、あぁん!ひゃうっ、ふぁん、く、くそ――!」
「ダメだよ兄さん、“お姫様なんだからもっと綺麗な言葉で話さないと”」
 王子が放った言葉で、思い出しそうだった何かが遠ざかった。
 同時に、自分の中の何かが書き換えられる様な感覚が走る。
「いや、止めて!こんなの私じゃありません!」
「いや違うね。ここでの兄さんはこれが正しいんだよ」
 叩き付けるような王子の腰はさらに強まり、姫の膣が擦り上げられる。
 その一突き一突きで、姫の精神が削り取られていくようだった。
「さて兄さん、膣に出したら僕は先に帰ってるよ。この一発でしっかりと孕むようにしてあるから、幸せなお姫様生活を楽しむといい。ほら、もう射精すよ」
「ダメっ、出しちゃ、だ、めっ、ひあああぁ―――ッ!」
 燃えるような熱を持った何かが、姫の胎内へと津波のように押し寄せてきた。
 腰が浮き上がり、膣壁が馬鹿になったかのようにビクビクと痙攣を繰り返す。
 両の瞳は開かれているのに、どこにも焦点が合わない。
(気持ち、いい……!こんな、あぁ……、変えられて、しま――!)
 麻薬のような心地よさが全身に回り、必死で守っていた何かをあっさりと手放してしまった。
 そして姫の腕は、射精の脱力で自身にもたれている王子を抱きしめた。
 そのまま当たり前のような自然な動きで、王子と舌を絡ませる。



 そのまましばらく絶頂の余韻に酔いしれ、ようやく長い口づけを終えた。
「これで世継ぎには困らないね。僕って優しいだろ、兄さん?」
 ニヤニヤと笑う王子を見て、姫がクェスチョンマークを浮かべた。
「王子様、何をおっしゃっているのですか?」
 世継ぎに困らない、というのは嬉しい。でも王子様にご兄弟はいらっしゃらなかったはず。
 ただの聞き違いだろうか?
「いいんだ、忘れてください姫。それよりも、早く元気な子を産んでくださいね」
「もう、王子様ったら、少し気が早いのではありませんか?」
「ふふっ、そうだね兄さん」
 再び兄さん、という言葉を聞いた姫だったが、今度は何かのおまじないなのだろう程度にしか思わなかった。

 この日から十の月が経過したころ、姫は元気な娘を出産した。
 その後も王子と愛を育み、さらに三人の子を授かった。
 それから王位を継いだ姫は、優しい王子様と可愛らしい子供達と、平和で幸せな毎日を過ごしたという……


 ◇


 その日の、村山太一は跳び上がるようにして起き上がった。
 全身は汗にまみれて寝巻もぐっしょりと湿っており、寝ていたはずなのに何故か息が荒い。全力疾走でもした後のようだ。
 だが今の太一はそんなことに気が回らなかった。
「ゆ、夢だった……のか……?」
 乱れた息を整えるようにして、すぅはぁ、と大きく深呼吸をする。
 混乱しすぎて、脳みそがグルグルと回転しているように感じてしまう。
 それもこれも、ついさっきまで見ていた夢のせいだった。
 長い長い夢だった。それもとてつもなくリアルな。
(女になる夢なんて、どうかしてるのか俺……)
 太一が見た夢、それは太一自身がとある国のお姫様になる夢だった。
 国王と女王の間に生を受け、国中に愛されて育てられ、やがて王子様と結ばれる。そんな絵本の中のようなありふれたな話だった。
 他人に向ける言葉にするなら、こんな夢を見た、というだけだろう。しかし実際に夢を見た太一にとっては違った。
 お城で過ごした幼い日々も、王子との燃えるような恋愛も覚えている。夢で見た姫の人生が、太一の中にそのまま残っているのだ。
 眠気が無くなっていくにつれて、その記憶がどんどん蘇っていく。
(王子様と、せっ、セックスして、赤ちゃんまで――!?)
 愛する人が自分の肉体へと入ってくる悦び。我が子を産み落とす痛み。赤ん坊をその腕に抱き、自分の乳房から母乳を与える幸せ。



 それは男の太一が知るはずも経験するはずもない女の感覚だった。
 しかし夢中で完全にお姫様だった太一にとって、それは当然のことだった。
 セックスは求められるよりも自ら王子に求めることがほとんどだったし、王子が忙しい時は夜通し自慰に耽ることもあった。
 妊娠だって何度もしたし、その度に子宮に感じる我が子に向かって、元気に産まれてきてねと呼び掛けていた。
 出産の痛みなぞ言葉にできないほどだったが、産まれてきた我が子を見るとそんなもの吹っ飛んでしまった。
 そんなことを何年も何年も繰り返している内に、いつの間にか歳を取り、寿命でぽっくり死んでしまった。
 ベットに伏せながらも家族に囲まれた、おおよそ幸せな最後だった。
 そして夢の中の姫が最後を迎えた瞬間、太一は太一として現実に戻ってきたのである。
 太一がひどく混乱するのも当然だった。
 ほんの一瞬前までは女として生き、そして死んだというのに、一瞬後には男に戻っていたのだから。
 もしかしたら、今の自分は夢の中の姫が死に際に見ている夢なのではないか、そんな風にすら思えてくる。
 だとすれば、今の自分こそが夢なのだろうか。果たして胡蝶の夢はどちらなのか。
 太一は思考の渦を振り払い、ベタベタとした感触がある寝巻きのパンツの中を確認した。
「うっわ……」
 腰の当たりにあったゴムを引っ張って中身を確認すると、そこには真っ白な海が広がっていた。
 無論、これは太一自身の精液によるものだ。
 パンツから漏れ出してなお、外側に溢れそうな尋常でない量だった。
 おそらく、というより確実に、太一が射精しようと自慰を繰り返したとしてもこの量は無理だろう。
 この原因ももちろん夢だ。
 太一は夢の中で何度も王子様と交わったし、数え切れないくらい絶頂を経験した。
 夢でそれだけイッたのだから、この馬鹿げた量の夢精も仕方ないかと太一は思うことにした。
(それにしても凄かったな、女のセックスって……)
 太一は男としてのセックスを知らないのだが、それでも女の快感が男と比にならないほど強いのは夢で体感した。
 あくまで夢なので現実の女とは違うかもしれない。だが太一には夢の自分は本物と変わらないように思えていた。
 だがもうあんなリアルな夢は二度と見れないかも知れない。そう思うと太一は女としての自分を名残惜しく感じた。



 太一がそんな一抹の切なさを覚えていると、部屋の扉の向こうからバタバタとした足音が聞こえてきた。
 やがてその足音は部屋の前で止まり、扉を開けて部屋に入って来た。
「おはよう兄さん、今日もいい天気――ってイカ臭っ!?」
 来訪者の招待は弟の祐二だった。
 突然やって来た祐二は部屋に入るなり自分の鼻を摘んだ。
 そして太一の腰元の白濁色の洪水を見るなり眼を見開いた。
「うわっ、何それ全部兄さんの?一体何をどうしたらそんなに……ってどうかした兄さん?」
「――あっ、いえ」
 祐二を見た途端、太一の頭の中は真っ白になっていた。
 何故かは分からないが、心臓がドクンと一発強く脈打った。
「そう、じゃあそれは早めに始末した方がいいよ。父さん達はまだ寝てるから」
「……はい、わかりました。ありがとうございます」
「何で急に敬語なのさ。変なものでも食べたの?」
「え、ああ、そうだな。何言ってんだろ俺」
 普段はもっと砕けた調子なはずなのに、何故か祐二に向かって飛んだ言葉は畏まっていた。
 あまりに自然に口が動いたので、自分でも首を傾げてしまう。
 祐二はそんな兄を奇妙そうな眼で一瞥すると、さっさと部屋から出ていってしまった。
 弟を気まずそうに見送った後、太一はとりあえず汗と精液にまみれた寝巻きを脱ぎ捨てた。
 湿った布が床に落ちて、グチャリという水っぽい音を立てた。
 素っ裸になった太一の身体には、撓わに実った抱えるほどの乳房も、男を受け入れるための穴も無い。平らな胸板で、股間には竿と袋が力無く垂れ下がっている。
 夢の中で女性の一生を経験した太一は僅かな違和感を覚えてしまった。それが本来の自分であるはずだというのに。





(ふぅ、いくら兄さん相手でも一生分は無理があったか。やっぱり設定は細かく使い潰していくべきかなぁ、ちょっともったいないけど)
 太一の部屋の扉を僅かに開け、その隙間から祐二が太一の様子を観察していた。
 祐二が部屋を出ていった後、太一は自分の身体を確認するようにペタペタと触っている。夢と現実のズレを確認しているようだ。



(あの様子だと、そのうち気づかれちゃうなぁ。あれだけやって四回も出産して子育てすれば当然か。でもまぁ……大丈夫だろ)
 確認が終わったのか、馬鹿らしくなって飽きたのか、扉の向こうの太一は身体を触るのを止めて、グチャグチャの寝巻きをビニール袋に突っ込んだ。
(次はどうしょっかな〜。メイドは前にやったし、魔法少女とかアイドルなんていいかも。オーソドックスなところただと妹や幼なじみとか。触手に取り付けて産む機械……ってのは遅いか)
 祐二は一人妄想を膨らませた。
 インターネットや本にゲームなど、そういったネタは周りに溢れている。祐二もその恩恵を受けている一人だ。
 他の人間とただ一つ異なる部分があるとすれば、その妄想を実行することができることだ。
 そう、どんな現実離れした妄想でも。
「またいっぱい気持ち良くしてあげるから、楽しみにしててね兄さん……」
 祐二は小さく呟くように言うと、部屋の扉を完全にしめた。
 さて、次は何をしようか……

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