「俺を女にして調教して孕ましてください、神様……っと」
 夜醐慎(やご・しん)はキーボードを叩いてから、口の端を歪めて笑った。
「ありえないありえない。そんなこたー、おこりっこありませんよっ、と」
 椅子を軋ませて、コーヒーの入ったマグカップを取る。カップウォーマーで保
温されていたブラックコーヒーは舌を焼くほど熱くはないが、それでも一気に飲
めば喉を火傷しかねない温度を保っていた。
 金曜日の明け方、会社が休みだというのをいいことに、ついインターネット掲
示板に熱を入れ過ぎてしまった。ずっと同じ姿勢だったためか、首から肩の筋が
張って痛い。
 窓の外はまだ闇に包まれている。
「さて、そろそろ寝るか」
 たとえ土曜、日曜と会社が休みだろうと、徹夜は体に障る。
 慎はパソコンの電源を落すとカップを持ったまま椅子から立ち上がり、中身が
まだ入っているそれをサイドボードに置いてからベッドに身を投げた。さすがに
午前四時ともなると、体が重く感じられる。
 寝間着に着替える手間も惜しんで布団をかぶり目を瞑ろうとした、その瞬間。
「ありえない? じゃあ、その願い、あたしが適えてあげようか」
 慎は驚いて飛び起き、パソコンデスクの方を見た。金髪の女性が、さっきまで
自分が座っていた椅子に腰を掛けてこちらを見つめている。
「だっ、誰だお前は」
 驚きのあまり思うように声が出ない。まるで、かすれた声の演歌歌手のようだっ
た。
「ん? あたしはメイア。悪魔のメイアさ」
「悪魔、だぁ?」
 慎は呆れて言ったが、最後までいい終えないうちに口に手を当て、次に喉に手
を当てて目を見開いた。



「こっ、声が!」
 もはや慎が出す声はいつもの渋い低音ではなく、どこかのアニメかエロゲーに
でも出てくるような、いわゆる可愛らしいアニメ声になっていた。
「ふっふーん♪ どう? 徐々に女になってゆく気分は」
「!」
 慎は慌てて股間に手をやった。
「よかった……まだある」
「そう? ちゃんと確かめた方がいいと思うけど」
「確かめるって言われてもなあ」
 なにしろ見知らぬ女性を目の前にしてち○こをほりだすほど、常識知らずでは
ない。しかもメイアと名乗った女性……悪魔か? は、匂うような色気を発散し
ている美人だ。
 黒のレザーらしい、服というにはあまりにも露出度の高い体をおおう生地は、
自ら発光しているかのようなツヤを放っている。ボンデージスーツと呼ぶのが一
番相応しいだろう。胸はスーツに引き絞られて大きく盛り上がり、先端の部分だ
けが金色の金属で隠されている。時々組み替える脚の付け根からは、ちらりちら
りと白い肌に生える黒い陰りが見え隠れしている。
 そんなメイアの行動を生唾を飲み込んで見入ってしまった慎が、股間の危険物
を固くさせてしまっても誰も責めないだろう。
「どう。脱ぎたくなったでしょう?」
「わっ! いや、ちょっとその……って、なんだこりゃ!」
 驚くのも無理はない。トランクスを押し上げているそれは、いつも以上の勢い
で勃起し、なおおさまる気配が無い。メイアの顔と股間を交互に見ているうちに、
痛みが限界に近づいてきた。慎は意を決してズボンとトランクスを脱いだ。
 ぱっつん! と音がして、下腹部に勃起した逸物が当たる。
「わお! 立派立派〜♪」



「ちょっと待てよ、おい……」
 銭湯に行っても恥ずかしくない程度だったはずのそれは、黒人もびっくりの、
子供の腕が股間から生えているような恐ろしい大きさに変化していた。気のせい
か、頭がくらくらする。一か所に血が集まったためか、貧血をおこしたようだ。
 メイアの視線から股間を隠そうとした慎は、身体を屈めようとして奇妙な違和
感をおぼえた。
 おかしい。
 何か、変だ。
 そうだ。
 無い。
 無いのだ。
 ある筈のものが――無い!
「わぁぁぁぁぁぁぁっ! たっ、玉が! 玉が無いッ!!」
 なおもそそり立つ逸物の根元に手をやった慎は、そこにありえない感触を感じ
て、再び絶叫した。
「な、なんじゃこりゃあっ!」
「あんた、いつの生まれよ。それとも、松○健○ファン?」
 なぜ悪魔が70年代の刑事ドラマのネタを知っているのかはともかく、メイアは
にやにやと笑いながら、慌てふためく慎の様子を眺めている。
「女になりたかったんでしょ? だから女にしてあげたんじゃない」
「冗談じゃない! ふたなりだなんて、俺は嫌だ!」
「贅沢言うんじゃないわよ。それに、いつまでもふたなりじゃないわよ? その
立派なのは、時間が経つにつれてどんどん小さくなってゆくの。それに比例して、
快感も強くなってゆくわ。そして最後には……」
 メイアは人差し指を空中でくるっと回して言った。
「クリトリスになるの。そりゃあもう、歩くだけでも感じちゃうくらい敏感なお
豆さんになるのよぉ♪」


「嫌だ! 俺は、認めない! 第一、お前は何者だ!」
「だから悪魔だって、最初に言ったじゃない」
「どっきりか? どっきりなのか? 380さんが窓からプラカード持って、“は
い! どっきりビックリ大成功!”とかするのか? 2ちゃんねらーが“どっき
りキター!”とかモニターの前で喜んでるのか? えっ? どうなんだ、おい!」
 慎はメイアに近付いて肩に手を置き、揺さぶりながら言った。
「誰よ、その380さんって。人間?」
「……さあ?」
 首をかしげた慎の隙を見計らって、メイアが立ち上がった。
「うわっ!」
 バランスを崩した慎に、メイアの唇が重なった。
「ん、ふ……」
「ふうっ! んーぅっ!」
 じたばたと逃げようとしても、メイアはがっちりと慎の顔を両手で捕まえて離
そうとしない。
 ぬるぬるとした何かが慎の口の中に侵入してきた。
「んごーっ! おごっんごっ!」
「暴れない暴れない♪」
 口が塞がっているのになんではっきりとしゃべれるんだ? と慎は考えた。
「だって悪魔だもん」
 なるほど、そうか……でも、どこかで見たことがあるような展開だなと慎が思
う間もなく、さらに口の中へと蠢く物体が侵入してくる。
 最初は舌かと思ったが、それは慎の口の中を圧倒するような大きさで喉の奥へ
と突き進んでゆく。
「ん! んんっ! ふぅっ!」
 メイアから体を引き剥がそうと両手で突っ張るが、まるで巨大な岩を押してい
るように彼女が動く気配はない。むしろ、逆に引き寄せられているような状態だ。


 噛み切ろうとあごに力を入れたが、ゴムを噛んでいるようで、ちっとも食い込
む感触がしない。そうこうしているうちに、肉塊が口の中一杯に広がり、息をす
るのさえ苦しくなってきた。
 鼻で一生懸命に息を吸うが、喉の奥にまで入り込んできたナメクジのような物
体に、慎は吐きそうになった。
 すると、にゅるんと体の中にまで何かが落ちてゆくようなおぞましい感触がし
て、吐き気はおさまった。そして喉から口の中へと、蠢く物体が縮まってゆくの
がわかった。
「んーっ、んんーっ!」
 メイアはそのまま慎の歯茎を舌でちゅるんっと舐めてから、名残惜しげに唇を
離した。銀色の唾液の糸が二人の間を繋いでいる。
「お前、何をした!」
「そのうちわかるわよ」
「わかりたくない! それよりすぐに俺を元に戻せ」
「あら? 女になって調教されて豚のように孕みたいんじゃなかったかしら?」
「そんなのは言葉の遊びだ。誰が実際にそうされたいだなんて思うもんか。サバ
ゲーマニアはみんな殺人嗜好か? エロゲー好きはセックス狂いか? 違うだろ。
……まず、この声からなんとかしてくれ。こんな声じゃ、怒っても全然迫力が出
ない」
「い・や・よ」
 メイアはゆっくりと言葉を区切りながら言った。
「それに、易々と女にされることに順応するようじゃあ、調教のし甲斐が無いじゃ
ないの。どこまで抵抗してくれるのかしら……?」
 自分の目をみつめるメイアの瞳に、慎は吸い込まれそうな錯覚を感じた。


 原始的な本能が、慎に告げた。
 まずい。こいつは『本物の』悪魔だ。
 理屈ではない何かが、真実を慎に伝えた。
 人間が破滅するのを何よりの喜びとする、人類の敵……。
「あら。人類の敵ってのは酷いわね。別にあんた達を滅ぼそうだなんて思ってな
いわよ? だって勝手に自滅しちゃうんだから。むしろ、手助けしていると言っ
てもいいわ。天界は基本的に地上不介入を貫いているからね」
「日本の警察かよ! って、それを言うなら民事不介入だろ」
「あはは! ノリがいいわね、あんた」
 うっ、となって慎は言葉に詰まった。
「それより、さ……」
 メイアの雰囲気が一転した。
「セックスしたくない? ほら、あんたのそれ……先走りの汁でべとべとじゃな
い。あたしの体……味わってみたくない?」
 耳をくすぐる甘い声が、慎の精神を蝕んでゆく。
 メイアの体が慎に近づき、彼のいきり立ったものを柔らかく握り締めた。


 ……つづく?




 メイアにペニスを握られた時点で、腰は砕け、足に力が入らなくなった。その
ままベッドに押し倒される。
 快感が一気に高まった。
「ん、ふぁぁっ!」
 女性の感極まった声が狭い室内に響く。
 だがその声を発しているのは、股間から並外れた物を屹立させている、紛れも
ない男性だった。はたから見ると、かなり無気味な光景だ。
 メイアは快楽にうめいている慎を細めた目で眺め、嗤(わら)っている。
 先走りの汁に加えてメイアの唾液をも加えた手は、まるでローションをまぶし
たようにぬめぬめと常夜燈のオレンジ色の光を反射している。
 ゆっくりした手の動きなのに、快感が天井知らずで上昇してゆく。射精を堪え、
溜めに溜めた精液が一気に噴出するような気持ち良さだ。しかもそれが、長く長
く続く。声を出すまいとしても勝手に漏れてしまう。男のままの声であれば気持
ち悪いだけだが、慎の口から出るのは悦楽に蕩けるオンナのうめき声だった。
 だが、快楽は次第に痛みへと変わってゆく。
「あ……くぁっ!」
「まだ出しちゃだめよ」
 メイアが鈴口に人差し指を押し当てていた。彼女は空いた左手の、これまた人
差し指で、幹を先端から根元へ向かってつぅ、となぞった。
「あ、ああうあっ!」
 ほとばしりかけていた精が体の中へ無理矢理引き戻される異様な感覚が、先端
から肛門へと走る。慎は痛みのあまり、きつく目をつぶった。
「もっと体の中で熟成させてからじゃないと、ね?」
「だ、出させてくれ」
 慎は切なさと痛みのあまり、プライドをかなぐり捨てて言った。


「だーめっ」
 慎が目をつぶっている間に、メイアは人差し指をペニスの表面に走らせ、二、
三言、何かの言葉を呟く。
「もっと我慢してからの方が気持ちいいわよ」
「今っ、今すぐしたい!」
 慎は腰をメイアに押し付けようとして、何かにじゃまされたような不思議な感
触を感じて下半身を見た。
 何もない。
「触っちゃダメよ。もっとも、触れないようにしたんだけどね」
 メイアの言う通りだった。慎がペニスに触ろうとしても、二十センチより近く
には手が届かなかった。ベッドに横たわっても、まるで透明な筒で覆われている
ように空間ができて刺激を与えることができない。
 それどころか、息を吹き掛けても何も感じない。よだれを垂らしてみても、手
前で弾かれてしまう。なのに……。
「やめっ……もう、やめてくれ」
「あらぁ。こんなにぬるぬる、ひくひくなのに?」
 メイアが幹の根元を、つい……となぞる。
「あひぃっ!」
 声だけはかわいらしい女の子の悲鳴だが、慎は男だ。声を上げるたびに、慎の
心は傷ついてゆく。悪魔にいいようにいたぶられて、快楽の声を上げている自分
が情けなかった。
 だが、なんという快楽なのだろう。
 息を吹き掛けられたり、触れるかどうかという微妙なタッチで撫でられたりす
るだけで、純粋な快楽のみを神経に流し込まれたような衝撃が慎を揺さぶる。吐
息は女の体よりも柔らかくペニスにまとわりつき、手は絶妙のポイントを押えて
快感をヒートアップさせる。これに比べれば自慰やセックスで得られる快感など、
たかが知れている。


 別に体を拘束されているわけではない。勃起したままどうやって外へ出るかと
か、この声をどう説明すればいいかなど不安要素は多々あるのだが、逃げようと
思えば、たぶん逃げることは可能だろう。
 でも逃げられない。
 逃げようとすると、快楽がやってきて心を焼く。意思が砕けてしまう。
 体が、悪魔が与えてくれる快感をおぼえてしまったのだ。メイアだけが慎のペ
ニスに触れることができ、彼女の気まぐれな愛撫は、麻薬のように慎の心を捉ら
えて離さない。人間が悪魔を恐れるのも当然だ。こんなことをずっとされたら、
気がおかしくなってしまうに違いない。
「ああ、ああっ! ああああっ!」
「ふふっ……気持ちいい?」
「あ、あい、あ……」
 脳を焼く未体験の快感に、慎は返事すらできない。
 メイアは慎の高ぶりを見計らっては手を止め、息が落ち着くのを待ち、彼が冷
静さを取り戻す前に愛撫を再開する。いいように弄ばれている。
 十回まではなんとか数えられた。
 だが、その先は憶えていない。二十か、三十か、はたまた百以上か。上げては
下げ、下げては上がる快楽の波は、彼から時間と記憶を奪った。
 どれほどの時間が過ぎたのだろう。下腹部を襲う切羽詰まった感覚で、慎はメ
イアの手が止まっていることにようやく気がついた。
「ちょっと、と、トイレに行かせてくれ」
 メイアの愛撫で先走りの液をシーツが濡れるほどほとばしらせているペニスに
目をやらないようにして、なんとか言葉を口に出すことができた。
「いいわよ」
「だからさ……その……」
 慎は言いよどんだ。


「これ、なんとかしてくれないかな。触れないと、便器の中に出せないし」
 天井を向かんばかりの角度でそそり立っている勃起を指差す。だが、メイアは
笑みを顔に張りつかせたまま、何も言わない。
「なあ、その、メイア? 俺、ションベンがそろそろ限界なんだけど」
「トイレに入って何をするの? あたしの見えないところで、思う存分オナニー
でもする気?」
 慎は図星をさされて、ぎくりとした。
 完全に手玉に取られている。
「だいじょうぶよ。おしっこは女の子の方から出るから」
 メイアの何気ない言葉に、慎は自分の体に起こった変化を再び思い知らされた。
 既に陰嚢……つまり玉袋は無く、その代わりに女性器がついているのだ。まだ
直接見たわけではないが、最初に股間に手をやった時の感触を思い出して身震い
した。
 立とうとすると、生まれたての子馬のようにガクガクと震えてしまう。脚全体
が快感に敏感になっていて、脚を擦り合わせると、痺れるような快感が体全体に
響き渡る。
「だいじょうぶ? 手助けしてあげようか」
「断る」
 なんとか言い切って、酔っぱらいのようにふらふらと扉へと歩いてゆき、ノブ
にすがりつくようにして扉を開けた。
 トイレは浴室と兼用のユニットバスだ。シャワーで体を洗い流したい衝動をこ
らえて、扉を閉め、便座に腰を下ろす。
「やっぱり触れないか」
 何度か空しい努力をしてから、独り言を呟く。
 彼の目の前には、触ろうとしてもできない見事な陽物がいきり立っている。血
管が浮き出て、いかにも固そうだ。だが見慣れたものではなく、しかも触ること
ができないとなれば、実感がわかないのというのも無理もない。


 本当にこれでだいじょうぶなのだろうか。
 万が一外に出してしまっても、バケツもぞうきんもある。万が一の時のために
バケツを手繰りよせ、覚悟を決めて下半身に軽く力を入れる。便器の中に液体が
滴り落ちる音がする。むずがゆい刺激と共に未知の感覚が伝わってきた。
「くそ……頭がおかしくなりそうだ」
 小声で呟く。
 確かに今の自分は、一部が女性になってしまっているらしい。だが、なんとか
メイアの快楽地獄から抜け出すことはできた。今度は、なんとしても相手に主導
権を握られないように注意しなければならない。
「悩んでいても仕方がないな……。とにかくあいつと交渉して、元に戻してもら
わないと」
 やがて長い放水も終わり、慎は覚悟を決めて便座から立ち上がった。
「ん?」
 足が濡れたような感触がして、慎はがに股になって股間をのぞいた。ペニスが
邪魔になって良く見えないが、どうやら残尿が太腿に垂れてしまったらしい。
「……女って面倒なんだな」
 慎はトイレットペーパーをくるくるっと左手に巻取り、無造作に股間をぬぐっ
た。
「んはあぁっっ!!」
 電撃が走った。
 メイアに触られているよりも、ずっと気持ちがいい。慎はもう一度股間にやっ
た手を動かした。
「……んんんんんっ!」
 体の中から込み上げてきたものが、慎のペニスの先端から一気に吹き出た。
 足に力が入らなくて、どすんと便器にへたりこんでしまう。どうやらペニスに
は触れなくても、股間に触れることはできるようだ。しかもラヴィアをいじって
はいるが、そこから快感が伝わるのではなく、メイアの愛撫と同じか、それ以上
の快感をペニスに与えることができるようだった。


「だ、だめだ……こんなことして……あうっ!」
 トイレの中に響くのは耳慣れた自分の声ではなく、すっかり快楽に溺れきった
少女の声だ。トイレットペーパーはとっくにぬめった液体でぼろぼろになって、
指で直接、女の部分をいじっている。
「は、はぁぁぁぁぁっ!」
 背筋をのけぞらせて、再び射精する。壁にびしゃびしゃと股間から吹き出す液
体がぶち当たる。止まらない。怖いくらいに次から次へと精液が吹き出てくる。
 ようやく噴出がおさまると、慎の指が再び動き始める。
 先程よりも、もっと大胆に。
 より滑らかに。
 壁に吹き付けられた黄色がかった白濁液は、まるで固まりかけの木工用ボンド
のような塊がたっぷりと混じっており、とてつもない濃度であることを示してい
た。普通ならすぐに流れ落ちてしまうのに、ねっとりと壁にこびりついたそれは
重力に逆らってなかなか落ちようとはしない。
 青臭い臭気がユニットバス中に広がり、慎の思考を狂わせる。
 壁の粘液を眺めながら彼は口を開け、犬のように喘ぐ。
「うひ、うひひ……ま、また、で、出ちまう……」
 あまりの快感に、慎の頭の回路がどこか変になってしまったらしい。
 唐突に、頭の中にみさ○らな○こつのマンガが鮮明に浮かんだ。
「おち○ぽみるく……おち○ぽみるくっ!」
 どくん!
 再び、射精。
「止まらないっ、止まらないよぉっ! おち○ぽからミルクっ! じゃぶじゃぶ
溢れて、射精しちゃうっ!」
 あまりの勢いに天井まで白い線が伸び、べったりとはりつく。
「スゴイ勢いっ! 濃いっ、濃いの精子っ!」
 もはや自分でも何を言っているかわからない。


 直接しごけないもどかしさを補うかのように、慎の指は激しさを増し、
「あはは……まだ出てる、まだ出るっ! 止まらないっ!! ち○ぽ、おち○ぽ、
びっくんびっくんしてっ!」
 小便だってこれほど長くは放出することはないだろう。たっぷり一分経っても、
まだ精液の勢いは止まらない。
「あひっ……」
 腰を突き出すようにして、空いていたもう片方の手でラヴィアをいじる。
「ん、ふぅぅっ!」
 おさまりかけていた精液が再び勢いを増し、ぬらぬらと壁を汚してゆく。
 指が止まらない。
 射精が、止まらない。
 いつまでも続く射精の快感に、慎の心はすっかり虜になっていた。だから、自
分に起きている変化にまだ気がつかない。
 壁から足下にまで滴る、信じ難いほどの精液を放出している慎の体は、明らか
にトイレに入る前よりも縮んでいた。
「ぎい゙っ!」
 慎が痛みに体を捻ると、ユニットバスの壁に白い横断幕がかかる。
 骨が、筋肉がきしむ。
 だが手は止まらない。止められないのだ。
 全身を苛む苦痛と快楽で、慎の理性は完全に吹き飛んでいた。
「あいっ! あひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
 もはや青年とは言い難い姿形になりかけている慎の手が、ついに止まった。
 力を失って精液にまみれたユニットバスの床に崩れ落ちる。
 意識が暗闇の中へ落ちてゆく。

 だがその暗闇さえも、いずれ訪れるであろう闇とは比べ物にならないものであ
ることを、幸いながら慎はまだ、知らない。


 ……続いてしまいます




 メイアにペニスを握られた時点で、腰は砕け、足に力が入らなくなった。その
ままベッドに押し倒される。
 快感が一気に高まった。
「ん、ふぁぁっ!」
 女性の感極まった声が狭い室内に響く。
 だがその声を発しているのは、股間から並外れた物を屹立させている、紛れも
ない男性だった。はたから見ると、かなり無気味な光景だ。
 メイアは快楽にうめいている慎を細めた目で眺め、嗤(わら)っている。
 先走りの汁に加えてメイアの唾液をも加えた手は、まるでローションをまぶし
たようにぬめぬめと常夜燈のオレンジ色の光を反射している。
 ゆっくりした手の動きなのに、快感が天井知らずで上昇してゆく。射精を堪え、
溜めに溜めた精液が一気に噴出するような気持ち良さだ。しかもそれが、長く長
く続く。声を出すまいとしても勝手に漏れてしまう。男のままの声であれば気持
ち悪いだけだが、慎の口から出るのは悦楽に蕩けるオンナのうめき声だった。
 だが、快楽は次第に痛みへと変わってゆく。
「あ……くぁっ!」
「まだ出しちゃだめよ」
 メイアが鈴口に人差し指を押し当てていた。彼女は空いた左手の、これまた人
差し指で、幹を先端から根元へ向かってつぅ、となぞった。
「あ、ああうあっ!」
 ほとばしりかけていた精が体の中へ無理矢理引き戻される異様な感覚が、先端
から肛門へと走る。慎は痛みのあまり、きつく目をつぶった。
「もっと体の中で熟成させてからじゃないと、ね?」
「だ、出させてくれ」
 慎は切なさと痛みのあまり、プライドをかなぐり捨てて言った。


「だーめっ」
 慎が目をつぶっている間に、メイアは人差し指をペニスの表面に走らせ、二、
三言、何かの言葉を呟く。
「もっと我慢してからの方が気持ちいいわよ」
「今っ、今すぐしたい!」
 慎は腰をメイアに押し付けようとして、何かにじゃまされたような不思議な感
触を感じて下半身を見た。
 何もない。
「触っちゃダメよ。もっとも、触れないようにしたんだけどね」
 メイアの言う通りだった。慎がペニスに触ろうとしても、二十センチより近く
には手が届かなかった。ベッドに横たわっても、まるで透明な筒で覆われている
ように空間ができて刺激を与えることができない。
 それどころか、息を吹き掛けても何も感じない。よだれを垂らしてみても、手
前で弾かれてしまう。なのに……。
「やめっ……もう、やめてくれ」
「あらぁ。こんなにぬるぬる、ひくひくなのに?」
 メイアが幹の根元を、つい……となぞる。
「あひぃっ!」
 声だけはかわいらしい女の子の悲鳴だが、慎は男だ。声を上げるたびに、慎の
心は傷ついてゆく。悪魔にいいようにいたぶられて、快楽の声を上げている自分
が情けなかった。
 だが、なんという快楽なのだろう。
 息を吹き掛けられたり、触れるかどうかという微妙なタッチで撫でられたりす
るだけで、純粋な快楽のみを神経に流し込まれたような衝撃が慎を揺さぶる。吐
息は女の体よりも柔らかくペニスにまとわりつき、手は絶妙のポイントを押えて
快感をヒートアップさせる。これに比べれば自慰やセックスで得られる快感など、
たかが知れている。


 別に体を拘束されているわけではない。勃起したままどうやって外へ出るかと
か、この声をどう説明すればいいかなど不安要素は多々あるのだが、逃げようと
思えば、たぶん逃げることは可能だろう。
 でも逃げられない。
 逃げようとすると、快楽がやってきて心を焼く。意思が砕けてしまう。
 体が、悪魔が与えてくれる快感をおぼえてしまったのだ。メイアだけが慎のペ
ニスに触れることができ、彼女の気まぐれな愛撫は、麻薬のように慎の心を捉ら
えて離さない。人間が悪魔を恐れるのも当然だ。こんなことをずっとされたら、
気がおかしくなってしまうに違いない。
「ああ、ああっ! ああああっ!」
「ふふっ……気持ちいい?」
「あ、あい、あ……」
 脳を焼く未体験の快感に、慎は返事すらできない。
 メイアは慎の高ぶりを見計らっては手を止め、息が落ち着くのを待ち、彼が冷
静さを取り戻す前に愛撫を再開する。いいように弄ばれている。
 十回まではなんとか数えられた。
 だが、その先は憶えていない。二十か、三十か、はたまた百以上か。上げては
下げ、下げては上がる快楽の波は、彼から時間と記憶を奪った。
 どれほどの時間が過ぎたのだろう。下腹部を襲う切羽詰まった感覚で、慎はメ
イアの手が止まっていることにようやく気がついた。
「ちょっと、と、トイレに行かせてくれ」
 メイアの愛撫で先走りの液をシーツが濡れるほどほとばしらせているペニスに
目をやらないようにして、なんとか言葉を口に出すことができた。
「いいわよ」
「だからさ……その……」
 慎は言いよどんだ。


「これ、なんとかしてくれないかな。触れないと、便器の中に出せないし」
 天井を向かんばかりの角度でそそり立っている勃起を指差す。だが、メイアは
笑みを顔に張りつかせたまま、何も言わない。
「なあ、その、メイア? 俺、ションベンがそろそろ限界なんだけど」
「トイレに入って何をするの? あたしの見えないところで、思う存分オナニー
でもする気?」
 慎は図星をさされて、ぎくりとした。
 完全に手玉に取られている。
「だいじょうぶよ。おしっこは女の子の方から出るから」
 メイアの何気ない言葉に、慎は自分の体に起こった変化を再び思い知らされた。
 既に陰嚢……つまり玉袋は無く、その代わりに女性器がついているのだ。まだ
直接見たわけではないが、最初に股間に手をやった時の感触を思い出して身震い
した。
 立とうとすると、生まれたての子馬のようにガクガクと震えてしまう。脚全体
が快感に敏感になっていて、脚を擦り合わせると、痺れるような快感が体全体に
響き渡る。
「だいじょうぶ? 手助けしてあげようか」
「断る」
 なんとか言い切って、酔っぱらいのようにふらふらと扉へと歩いてゆき、ノブ
にすがりつくようにして扉を開けた。
 トイレは浴室と兼用のユニットバスだ。シャワーで体を洗い流したい衝動をこ
らえて、扉を閉め、便座に腰を下ろす。
「やっぱり触れないか」
 何度か空しい努力をしてから、独り言を呟く。
 彼の目の前には、触ろうとしてもできない見事な陽物がいきり立っている。血
管が浮き出て、いかにも固そうだ。だが見慣れたものではなく、しかも触ること
ができないとなれば、実感がわかないのというのも無理もない。


 本当にこれでだいじょうぶなのだろうか。
 万が一外に出してしまっても、バケツもぞうきんもある。万が一の時のために
バケツを手繰りよせ、覚悟を決めて下半身に軽く力を入れる。便器の中に液体が
滴り落ちる音がする。むずがゆい刺激と共に未知の感覚が伝わってきた。
「くそ……頭がおかしくなりそうだ」
 小声で呟く。
 確かに今の自分は、一部が女性になってしまっているらしい。だが、なんとか
メイアの快楽地獄から抜け出すことはできた。今度は、なんとしても相手に主導
権を握られないように注意しなければならない。
「悩んでいても仕方がないな……。とにかくあいつと交渉して、元に戻してもら
わないと」
 やがて長い放水も終わり、慎は覚悟を決めて便座から立ち上がった。
「ん?」
 足が濡れたような感触がして、慎はがに股になって股間をのぞいた。ペニスが
邪魔になって良く見えないが、どうやら残尿が太腿に垂れてしまったらしい。
「……女って面倒なんだな」
 慎はトイレットペーパーをくるくるっと左手に巻取り、無造作に股間をぬぐっ
た。
「んはあぁっっ!!」
 電撃が走った。
 メイアに触られているよりも、ずっと気持ちがいい。慎はもう一度股間にやっ
た手を動かした。
「……んんんんんっ!」
 体の中から込み上げてきたものが、慎のペニスの先端から一気に吹き出た。
 足に力が入らなくて、どすんと便器にへたりこんでしまう。どうやらペニスに
は触れなくても、股間に触れることはできるようだ。しかもラヴィアをいじって
はいるが、そこから快感が伝わるのではなく、メイアの愛撫と同じか、それ以上
の快感をペニスに与えることができるようだった。


「だ、だめだ……こんなことして……あうっ!」
 トイレの中に響くのは耳慣れた自分の声ではなく、すっかり快楽に溺れきった
少女の声だ。トイレットペーパーはとっくにぬめった液体でぼろぼろになって、
指で直接、女の部分をいじっている。
「は、はぁぁぁぁぁっ!」
 背筋をのけぞらせて、再び射精する。壁にびしゃびしゃと股間から吹き出す液
体がぶち当たる。止まらない。怖いくらいに次から次へと精液が吹き出てくる。
 ようやく噴出がおさまると、慎の指が再び動き始める。
 先程よりも、もっと大胆に。
 より滑らかに。
 壁に吹き付けられた黄色がかった白濁液は、まるで固まりかけの木工用ボンド
のような塊がたっぷりと混じっており、とてつもない濃度であることを示してい
た。普通ならすぐに流れ落ちてしまうのに、ねっとりと壁にこびりついたそれは
重力に逆らってなかなか落ちようとはしない。
 青臭い臭気がユニットバス中に広がり、慎の思考を狂わせる。
 壁の粘液を眺めながら彼は口を開け、犬のように喘ぐ。
「うひ、うひひ……ま、また、で、出ちまう……」
 あまりの快感に、慎の頭の回路がどこか変になってしまったらしい。
 唐突に、頭の中にみさ○らな○こつのマンガが鮮明に浮かんだ。
「おち○ぽみるく……おち○ぽみるくっ!」
 どくん!
 再び、射精。
「止まらないっ、止まらないよぉっ! おち○ぽからミルクっ! じゃぶじゃぶ
溢れて、射精しちゃうっ!」
 あまりの勢いに天井まで白い線が伸び、べったりとはりつく。
「スゴイ勢いっ! 濃いっ、濃いの精子っ!」
 もはや自分でも何を言っているかわからない。


 直接しごけないもどかしさを補うかのように、慎の指は激しさを増し、
「あはは……まだ出てる、まだ出るっ! 止まらないっ!! ち○ぽ、おち○ぽ、
びっくんびっくんしてっ!」
 小便だってこれほど長くは放出することはないだろう。たっぷり一分経っても、
まだ精液の勢いは止まらない。
「あひっ……」
 腰を突き出すようにして、空いていたもう片方の手でラヴィアをいじる。
「ん、ふぅぅっ!」
 おさまりかけていた精液が再び勢いを増し、ぬらぬらと壁を汚してゆく。
 指が止まらない。
 射精が、止まらない。
 いつまでも続く射精の快感に、慎の心はすっかり虜になっていた。だから、自
分に起きている変化にまだ気がつかない。
 壁から足下にまで滴る、信じ難いほどの精液を放出している慎の体は、明らか
にトイレに入る前よりも縮んでいた。
「ぎい゙っ!」
 慎が痛みに体を捻ると、ユニットバスの壁に白い横断幕がかかる。
 骨が、筋肉がきしむ。
 だが手は止まらない。止められないのだ。
 全身を苛む苦痛と快楽で、慎の理性は完全に吹き飛んでいた。
「あいっ! あひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
 もはや青年とは言い難い姿形になりかけている慎の手が、ついに止まった。
 力を失って精液にまみれたユニットバスの床に崩れ落ちる。
 意識が暗闇の中へ落ちてゆく。

 だがその暗闇さえも、いずれ訪れるであろう闇とは比べ物にならないものであ
ることを、幸いながら慎はまだ、知らない。


 ……続いてしまいます




 気がつくと、慎はベッドの上に寝かされていた。
「え?」
 慌てて起き上がって、慎は体の様子がおかしいことに気づいた。
 手を見た。
 ほっそりとした手足に愕然となった慎は、慌ててタオルケットをどかして股間を覗
く。
「よかった……まだついてる」
 声は少女のままだが、肋骨が薄く浮き出ているだけで胸は膨らんでいない。少々幼
くなり過ぎてしまったようだが、まだ男の体のままのようだ。体の細さからするとお
そらく、中学生に上がるか上がらないかという年齢だろうか。
 だが、股間にそびえ立つ赤銅色の凶悪な代物は、メイアに変えられてしまった時ほ
どではなくなってはいるが、それでも平均青年男子の倍近くはあるだろう異様なもの
だった。もちろんその下には……。
「あなた、オナニーし過ぎよぉ」
 慎が声のする方を見ると、やはりそこに、悪魔がいた。
「俺に何をした」
「なにって、トイレで倒れてるから体を拭いてあげて、きれいにしてあげたのに」
「余計なお世話だ。それより、この体……いったいなんだよ」
「あ。鏡、見る?」
 メイアがどこからともなく手鏡を取り出して慎の顔の前に差し出した。
「……!」
 絶句ものだった。
「どう? 可愛い? かわいいでしょ。ね?」
「……」
 慎はがっくりと頭を前に落とした。さらさらの黒髪が揺れる。



 鏡に映っていたのは、少年と少女が微妙に入り交じる愛らしい顔だった。これが昔
の少女マンガなら、背景に薔薇が舞っているところだ。黙っていれば美少年。声を出
せば、だれもがボーイッシュな美少女だとおもうことだろう。
「元に戻せよ」
「いやーよ。こっちの方がかわいいじゃない」
「男がかわいいと言われて嬉しいわけないだろ!」
「でも、女になりたいという願望はあったんでしょう?」
 慎は言葉に詰まったが、すぐに言い返した。
「妄想だけなら、な。誰だって少しくらいはアブノーマルな願望があるもんだろうが」
「少しくらい〜?」
 メイアがなぜか嬉しそうな顔をして言う。
「少しくらいじゃあ、あたしみたいな存在が呼ばれることはないわ。今にも爆発しそ
うなほどの鬱積した欲望だけが、あたしを召喚できる。それも、黒く澱んだ深いもの
であればあるほど……ね」
「悪いが、間に合っている。早く俺を元の体に戻して、どこかに消えろ」
 しっしっ! と野良犬を追い払うように手を動かして、慎は顔をしかめる。
「別に帰ってもいいけど、あんたのその体は元には戻らないわよ」
「え?」
「だって、自分でおま○こオナニーしちゃうんだもの。ここまで進んだら、並み大抵
のことじゃ元には戻れないわ。」
 慎の心臓がドキドキしてきた。
 悪魔でも元に戻せないだと? そんなバカな。あいつは嘘をついている。
「嘘だ」
「本当よ。さっきも言ったでしょ。欲望があたしを呼んだって」
「俺にそんな、自分を変えてしまうような望みは無い。無かった」
 たぶん、そうだ。


「あんたは、単にきっかけとなっただけ。ねえ、言霊って知ってる?」
 不意の問いかけに慎は一瞬、何を言われたかわからなかった。だが、すぐに彼女の
言葉を理解してうなずく。
「言葉には魂が宿っている……だったか?」
「まあ、そんなとこね。真の名前を知られると、知っている人に操られてしまうとか。
みだりに唱えてはならない秘められた言葉には、その言葉自体に力があるとされてい
たりするからとか、いろいろあるわ」
「それと俺とが、どう関係するんだ?」
「まあまあ、落ち着いて。あなたは掲示板に、自分を女性に変身させて調教して欲し
いと書き込んだ。そうよね?」
 また話が飛んだ。慎は苛立ちを押さえて答えた。
「そのとおりだが、何か?」
「掲示板、ううん、インターネットの電網世界にはたくさんの情報が流れている。無
数の人々の想いが込められている。怨念もまた、そうだわ。それぞれは小さな物でも、
集まれば山となる」
「で?」
「つまりはこういうこと。限界一杯まで膨らませた風船……と言った方がわかりやす
いかしら。あなたの言葉が針となって、風船を破裂させた。そしてあたしがそれを嗅
ぎつけたってわけ」
「俺が悪いって言いたいのか」
「違うわ。単に、あなたは不運だったってこと。うーん、幸運の方……かな?」
「不運だっ!」
 慎がベッドから立ち上がって手に力を込めた。
「だいたい、インターネットの掲示板に書き込んだくらいで女にされてたまるか!」
「あら。世間には知られていないだけで、いろんなことが起きているのよ。死ねとい
う怨念を重ねられて死ぬ人や、失敗しろという怨念をぶつけられて破滅する人とか、
受験に落ちろという怨念で飛び降り自殺しちゃったり」


「いや、最後のはなんか違う」
 と、つい突っ込んでしまう。
「違わないわよ。受験に失敗する、死のうと思う、飛び降りる。ほら、これでいいじゃ
ない」
「……受験に失敗したくらいで死のうとは考えないとおもうけどな」
「そこが言霊の怖いところよ。自分の意思でしていると思い込んでしまうんだから。
言葉に支配されてしまう……マインドコントロールに近いかな。より霊的なものだけ
に、タチが悪いんだけど。わかる?」
 メイアはここで言葉を区切って、慎の目を見た。今一つ言うことがわからなかった
ので、あいまいにうなずいて先を促した。
「なんにせよ、あなたの言葉がトリガーとなって膨大な霊的なエネルギーが働いたの。
宝くじに当選というか、交通事故みたいなもんかな。ま、諦めてあたしに調教されな
さい♪」
「誰がされるかっ!」
「悪いけど、悪魔って意外に不自由でね。あたしらの存在は霊的な要素が強いだけに、
人間の集合思念……この場合は言霊よね、それに左右されやすいの。逆らおうとして
も言霊に行動を縛られちゃうの。つまり、あたしも被害者みたいなもんよね」
 そう言ってメイアは明るく笑った。
「だからあなたも、女にされて、子供を孕むことは避けられないわ。逆らおうと思っ
てもムダよ。何万もの人の怨念があなたを縛るから。あたしはそのお手伝いをするだ
け」
「するな。しなくていい。帰れ」
「ムダなのに……」
 そう言うとメイアは立ち上がり、一旦ユニットバスのある扉の方へ行ってから、バ
ケツを持って慎の前にやってきた。
 見たことのないピンク色のポリバケツだった。いや、一月ほど前に百均ショップで
CDケースのまとめ買いのついでに買った物だ。


 その中に、なみなみとたたえられているのは白い液体だ。
 まさか。そんなばかなことが……。
「その、まさかよ。それにしてもよく出したものねぇ。二リットル近くあるんじゃな
いかしら。よっぽど溜めてたのねぇ」
「そんなわけあるか」
 小水だってこれほど一気に出ることはない。ましてや精液ともなれば、これだけ出
すのにどれほどかかるだろう。
「これでもだいぶ洗い流したのよ? ここにあるのは、ベッドに運んでからあなたが
出した分」
 メイアがバケツの中身を指ですくって、慎の目の前に近づけた。
「あ……」
 生臭い匂いを覚悟していた慎の意識をハンマーで殴りつけたように揺り動かすほど、
それは香しい匂いを放っていた。まるで花の蜜のような、鼻腔をくすぐる甘い香り……。
 慎の背筋に、ぞくりと寒気が走る。
 俺はなにを考えているんだ。馬鹿馬鹿しいことだ。
 だが、ご馳走を目の前にした時のように口の中に唾液がじわりと溢れ出て、生唾を
何度も飲み込んでしまう。バケツから目が放せない。
 もはや慎の視線はバケツの中身に釘付けになっていた。
 悪魔の囁きが、慎の耳から脳へ染み透ってゆく。
 目の前のバケツと、彼女の声以外に何も意識にのぼらない。
「欲しいんでしょう? 精液が」
「あ……ああ」
 慎は自然にうなずいていた。
 欲しい――いや、そんなことは無い! と顔を大きく左右に振って我を取り戻した
のも束の間、彼を誘う甘い香りが理性をぐずぐずに突き崩してゆく。
「それはね、ただの精液じゃないわ。あなたの男としての要素がそこに溶け出してい
るの。全部飲み干したら、ちょっとは男らしく戻れるかもねぇ〜?」


 わざとらしい笑みを浮かべながらメイアは言う。あまりにも白々しく嘘臭い言葉だ
が、慎のあやうい心のバランスを壊してしまうには、そのほんの少しの言葉だけで充
分だった。
「そう……だよ。おれ、おとこに、もどらなきゃ……」
 立ち上がった拍子に、太腿に熱いものが伝う。
 愛液だ。
 先程までは幼児のような一筋の亀裂に過ぎなかった部分が膨らみをおび、薔薇の花
が開花するようにほころびはじめていることに、慎はまだ、気がついていない。
 ペニスを勃起させながら、慎は魅入られたようにひざまずき、メイアの彼女の足下
にあるバケツを両手でつかんだ。
「あっ、あっ……」
 座った拍子に慎は射精してしまった。
 初めて皮が剥けた時のようなあまりにも敏感な先端は、まだ彼の手で触れることは
できない。だからなのか、わずかなショックだけで達してしまった。
 新鮮な精の一部はバケツにも滴り落ちた。
「なあに? いらないの。あっ、そう。ふーん」
 メイアは放心状態の慎に近づくと、目の前の小さなバケツをさっと取り上げてしまっ
た。手が伸びかけたが、自分が何をしようとしていたのかに気づくと、ようやく戻っ
てきた自制心でぐっと堪える。
 自分の精液を飲みたいだなんて、おかしい。間違っている。そういう趣味や好奇心
で口にする人がいることは知っているが、少なくとも自分はそうではない。しかも、
悪魔が精液だと言っているだけの怪しい液体だ。何が入っているかわかったもんじゃ
ない。
 ダメ、ダメだ。
 絶対に――ダメだ!
 目をつぶって自制している慎の頭に、何かが落ちてきた。


「うわっ!」
 慌てて目を開けようとしたが、ぬるりとする液体が視界をふさぐ。しかも目に入る
としみて痛い。ぎゅっとめをきつくむすんで、何が落ちてきたのか頭の上に手をやっ
てさぐろうとした慎に、メイアが声をかけてきた。
「いらないんだったら、やっぱブッかけでしょ! かわいいわよ、あなた♪」
「ぶっ、ブッかけだと!」
 声のする方に向かって顔を向けるが、まだ目が痛くて開けられない。それどころか、
口の中に精液が垂れてきてしまう。
「くぁっ……!」
 背筋が弓のように反った。
「あ、あああぁぁっ……」
 痺れる。
 開いた口の中に甘露が満たされてゆくのがわかる。
「どう、美味しい?」
 慎は反射的に首を縦に振ってしまった。髪の毛から精が飛び散るのがわかる。
 これを体が求めていたのか。
 体の隅々まで、満足感で満たされていくのがわかる。
 思考がぐずぐずと溶け崩れてゆく。意識の奥底で何かが叫んでいるが、もはや今の
慎には届かない。
「おぃひぃ……」
 両手を口に持ってゆき、指をしゃぶる。
 ちゅっ、ちゅぱ……ちゅぷっ……。
 顔のくぼみに残っている精液をかきあつめて、しゃぶる。髪の毛に残っている精液
も、指で絞り出すようにして集める。
 しゃぶる、呑み込む、かき集める。
 飽きることなく繰り返す。
 フローリングの床を、大量の粘液が白く染めてゆく。
 胸をいじる。平らな胸にある乳首を指でこねまわす。


「ん、はぁ。乳首、気持ちいい……」
 まるでひっかかりの無い胸を絞り上げるようにすると、少しずつ抵抗が生まれてき
た。練乳を貪るように、メイアが少しずつ垂らす精液を顔を上げて口で受け、痺れる
ような甘さをたっぷりと楽しんでから呑み込む。その間も、胸をいじり続けている。
「そんなにおっぱいが好き?」
「うん」
 慎は反射的にそう答えてしまった。
 理性など、ほとんど残っていない。頭の中にあるのはただ、快楽のみ。圧倒的な快
感の奔流が、慎の心をピンク色に塗り潰してしまっていたのだ。
「ちくび……きもちいいっ!」
 快楽に溺れている慎の乳首が、倍以上の大きさに膨らんでいた。ついさっきまでは
指でつまむことも難しかった敏感な突起をつまんで、引っ張る。
「おっぱい……おっぱいぃぃぃぃっ!」
 わずかではあるが、肉の三角形を形作るほどの膨らみになっていた。指を離す。そ
して精液まみれの指で胸を揉む。少しずつ膨らみが明らかになってきた。
 うっすらと脂肪がのった上半身は、わずかではあるが女性らしさを形作り始めてい
る。特に変化が顕著なのは胸ではなく、腰だ。横に張り出していた上半身が厚みを増
し、丸くなったのに対応してか、まだそれほどはっきりはしていないが、くびれが生
じている。
「ねえ、もうやめといた方がいいとおもうよ」
 メイアが背後から抱きついて、慎の手をつかんだ。いつの間に脱いだのか、彼女の
バストが柔らかく慎の背中に押し当てられている。
「男のままでいたいんでしょ。だったら、オナニーなんかしちゃダメ。どんなに気持
ち良くてもがまんしなさい。女の子の快感を知れば知るほど、あんたはどんどん女の
子の体になっちゃうのよ」
「やだ。もっとしたいよぉ……」


 胸をいじることに没頭していた慎は、手をつかまれて、いやいやと身悶えた。
 理性と記憶がこぼれ落ちた慎の言葉は、もはや幼児とそう大差ない。首を振ってだ
だをこねる慎は、腿をきつく閉じ、足の裏で股間を刺激しながら体をゆする。
「あらあら。おまんこでも足裏オナニーなんかしちゃって。すっかし女の子の快感に
目覚めちゃったのね」
 くちゅくちゅとねばつく音がする。リズミカルに体を上下に揺すりながら、最も感
じる場所を探り出してゆく。
「ゃうっ!」
 ペニスがびくっと跳ね、空中に白い軌跡を描く。びゅるるるるるるる、と呆れるほ
ど長く続く射精で、慎の表情はだらしなく溶けている。体の上下運動に合わせて、軌
跡もウェーブを描く。
 まだ止まらない。精液の噴出も、慎のオナニーも。
「いいかげんにそのへんにしておかないと、完全に女の子になっちゃうわよ」
「やう! もっとぉ、もっときもちよくなりたいっ! せーえき、もっとちょうだい!」
「やれやれ。後が怖いわねえ……」
 メイアが手を離すと、慎はたまりかねたように胸と股間をいじり始めた。
「あ……おちんぽ、触れるぅ!」
 慎は一回り小振りになったペニスを握り締め、嬉しそうに微笑んだ。
「ひゃうっ!」
 軽く上下に擦っただけで、精液が勢いよく吹き出す。慎はもう片方の手も股間に持っ
てゆき、そちらの手で女の子の部分をいじり始めた。
「きっ、きもっ、きもちっいいっ!」
 のけぞりながら、また激しく射精する。まるでぞうきんみたいに絞られているよう
だった。体の芯から、じゅるじゅると何かが抜けてゆく。その喪失感に、ぞくぞくす
る。
 取り返しのつかないことをしているんじゃないかという意識は、まるで浮かばなかっ
た。ただひたすら、股間をいじって快感を貪り続ける。


「あーあ、知らないわよ。あたしは止めたからね」
 メイアはそういいつつ、慎の体を触ることをやめない。
「あひ、あひっ、あぃひゅうぅぅぅぅっ!」
 奇妙な声をあげて、のけぞりながら射精する慎を、横から愛撫する。精液をすくっ
ては、慎の口に運んで注いでやる。それを慎は、目を細めながら嬉しそうにすする。
「おいひい……あひゅっ!」
 膝立ちになっている慎の体に、明らかな変化が現れていた。
 彼が目覚めた時は扁平だったヒップに、丸みができていた。もっちりとした質感を
持つ肉塊が精液と汗にまみれて明かりを反射する様は、なんとも淫らだった。決して
男は持ち得ないパーツだ。
 肩幅も狭くなったように見える。少年ではあっても、確かに男性を主張していた上
半身も、今や変化に抵抗しきれず、徐々に女性へと変わりつつあるようだった。
「いぃぃぃぃっ!」
 いよいよ激しさを増した手の動きから産まれる快楽に、慎がさらにのけぞった。

 ごちん!

 うしろににずっこけて、慎はベッドのフレームに頭を打ちつけた。
「あ」
 メイアが手を口に当ててから、慎の体を抱き起こした。。
「大丈夫?」
「だ……大丈夫なわけないだろっ!」
 ショックで正気を取り戻したのか、慎はメイアを睨みつけ、なるべく低い声で、怒
りを込めて言った。
「それよりお前、騙したな……」
「あんた、すっごいザーメン臭いわよ。口を開けるだけでぷんぷん臭ってくるわ」
「……っ!」


 メイアの指摘で口をふさぎ、立ち上がって口をすすごうと洗面所へ行きかけた慎は、
たちまち足がもつれてザーメンだらけの床に倒れこんでしまった。床からなお漂う蠱
惑の香りに心を奪われかけたが、頭を振って立ち上がろうとする。
「あ、なんでだ……立てない……くそっ!」
「女の子が『くそっ!』だなんて言うもんじゃないわよ」
「なんだ、こりゃ。足が……股ががくがくするぞ」
「ああ、そりゃあ骨格が変わっているからじゃない? まあ、ずいぶんと女の子らし
くなっちゃったわねえ」
「な――なんだとぉっ!」
 そこで初めて慎は、自分に起こった変化の度合いを知る事になった。まだ胸は膨ら
み始めた程度で、ブラジャーを必要とするほどではない。股間にある男性器も、やや
小さくなったものの、変わらずにそこにあった。
 しかし全体的に丸みを帯、もはや少年というよりも少女と言った方がふさわしい体
つきだ。慎は気がついていないが、女性器は一気に成熟度を増している。骨格も、子
供を宿すにふさわしいものに近づいている。
「お前が……くそ。元に戻れないのかよ」
「何度も言っているけど、ダメね。それに今のあんたは、精液や愛液、恥垢を美味と
感じるようになっているの。だから平気で飲めたでしょう?」
「あ……」
 体が燃えるように熱い。
「で、でも、それを……飲ん、だ、のは、男に戻るためで……」
 胸が苦しい。
「ばっかねぇ! 精液を飲んで男に戻れるなら苦労はしないわよ。あんたが物欲しそ
うにしてたからちょっと背中を押してあげただけ。それに、あたしは止めたわよ?
もっと気持ちよくなりたいって言ったのは、あんたの方なんだから」
 慎は返事ができなかった。


 確かにあの時、自分から快楽を求めた。我を忘れていた。体が蒸発してしまったか
のような、途方も無い快感だった。今もその快感を忘れられない心があることに気づ
いて、慎はぶるっと体を震わせた。
「ここから出て行け」
「別にいいけど、そのかわり何が起こっても知らないわよ」
「……どんなことになるんだよ」
「さあ?」
 メイアは肩をすくめて言った。
「言っとくけど、あたしは単に“呼ばれた”だけ。あたしがあんたを何かしようと思っ
てやったわけじゃないわ。もしそうだったら、あたしはあんたに何らかの見返りを求
めるなり、賭けを申し込むなりしているわよ。あたしという存在にかけて誓うけど、
ここまで来たらあんたはもう、男には戻れないわ」
「会社はどうするんだ。こんな体じゃ外にも出られない。身分証明だってできない。
どうしてくれる」
「ああ、それだったら大丈夫。あんたの体が変化したように、あんたを取り巻く環境
もそれに伴って変化しているから。そのへんは、あたしの裁量でどうにでもなる範囲
なんだけどね」
「どういうことだ、それは」
 メイアの唇に浮かぶ笑みを見て、慎はこの女が悪魔であることを思い出していた。
 何か、とてつもない嫌ぁ〜な予感がする。
「とりあえず、お腹空いたでしょ。部屋には何も無いし」
 確かに慎の部屋には、ろくな食料がなかった。メイアに言われて、慎は空腹である
ことに、やっと気がついた。いったいどれだけの時間、この悪魔にもてあそばれてい
たんだろう?
「お買い物に行ってもらおうかしら。まさかか弱いあたしを買いに行かせたりはしな
いわよね」
「誰がか弱いだ」


 メイアは慎の文句を軽く受け流して、時計を見た。
「時刻は夜の十一時。い〜い頃合だわぁ」
 外は暗闇、つまり夜中の十一時だ。“いつの”十一時かわからないのが怖い。もし
かすると、数日が過ぎているかもしれないのだ。
 不安気な慎をよそに、メイアは指をパチンと弾いた。すると一瞬の間に、慎は黒の
メイド服を着がえさせられていた。
「メイドっ娘(こ)、萌え〜よね。その格好でお買い物してきて」
「……せめて風呂くらい入らせてくれ」
 髪も肌も風呂上がりのようにきれいにはなっていたが、やはりきちんと風呂に入っ
てさっぱりしたい。さきほどまでのザーメンでどろどろになった自分を想像すると、
背中がぞくぞくする。
(あれ? ぞくぞく……?)
 体の芯が急速に熱くなってゆく。くるくると螺旋を描きながら、快感が下腹部から
上半身へと昇ってゆく。
「あ、くそ……」
 少しでも淫らなことを想像すると、たちまち体が火照ってしまうらしい。エプロン
の端を握り締めながら、慎はじっと我慢する。そうしているうちに、やっと体が静まっ
てきた。
「別に逃げてもいいけど、その格好で何ができるか、よく考えることね」
 メイアの言う通りだ。
 身分証明書も無く、年はどうサバをよんでも未成年。よくて高校生、下手をすれば
発育の良い(?)小学生に間違われかねない。しかもメイド服だ。夜中に身元不明のコ
スプレ少女が警察に保護を求めたところで、どうなるというのだろう。
 児童保護施設送りになるのがオチだ。
 ためいきをついて肩を落す慎に、メイアがなぐさめるように肩を叩きながら言った。
「まーまー。買い物のお金はあたしが出したげるから」


「いい。お前にこれ以上借りを作ったら、どんなことになるかわからないからな」
「別にいいけど? ああ、そうそう。コンドームはちゃんと買ってきてね。買って来
ないと、今日明日中に妊娠しちゃうかもよ?」
「な――に」
 表情が固まった慎に、メイアは藤製の大きなバスケットをどこからか取り出して手
に握らせ、ドアの前まで背中を押して送り出しながら言った。
「たぶんパンツやパンストも売っていると思うから、あたしに変なのを着せられたく
なければ自分で買ってきてね」
 ひとりでにドアが開き、メイアに軽く背中を押された慎は、よろめきながら外へ出
た。
「何をす……」
 振り向いた慎は、目の前に壁を発見して絶句した。
 どうやら、ちゃんと買い物をしてくるまでは家に入れる気はないらしい。仕方が無
い、どうせ腹も減っているし……と気を取り直した慎は、太腿に流れる生暖かい液体
を感じて、体を震わせた。
 さっきの火照りで分泌された愛液のようだ。
「……って、ちょっと待て」
 慌てて股間を、スカートの上からまさぐる。
「あふっ、じゃ、じゃなくて……何も履いて、ない!?」
 上等の裏地なのか、滑らかな生地の感触が剥き出しのペニスに擦れているのがよく
わかる。胸を触ってみると、やはり何も下着をつけていないようだ。しっかりした作
りだから透けることはないだろうが、メイド服の下はすぐ肌のようだった。
「あいつ、何を考えているんだか……」
 こうしていても仕方が無い。慎はひとつ鼻息を吐いて気合いを入れ、深夜の二十四
時間営業のスーパーへと向かった。

 ……たぶん、つづく

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