始まりは些細なことだった。
普段ろくに帰ってこない、親父が怪しげな『それ』を家に持ってきたことから始まったんだ。
申し遅れた。僕は零、門倉 零(カドクラ レイ)だ。
16歳 男 大して特徴もない男子高校生だ。 名前以外は…
全く、こんな名前をつけたヤツの神経を疑う。 
名前なんて単なる記号だ。そう思うことにしているが、他人から名前で呼ばれることは未だに慣れないでいて、友人その他には『門倉』で通させている。

そもそも親父の名前が一(ハジメ)なんて名前だったから、息子の僕に零なんて名前を付けたんだ。
この分だと孫が生まれたらマイナスとかかしらん?いやいや、もう一度『一』で二進法にするに違いない… 世界の根元は数で表せると言うからな

僕はそんな下らない事を考えて、時間をつぶしていた。
「なんだこれ?」
で、今『それ』をいじり回しているのが 湧(ユウ)
僕の同居人、正確には親父の再婚相手の連れ子で僕と同い年。 
男の僕が言うのもなんだけど仲々の美形だ。性格も良い。良いはずだ、多分…

「親父の土産だよ。よく懲りもせず買ってくるよな…こんなガラクタばっかり」
「そう言うなって、一郎さんもよかれと思って買ってきてるんだから」
「悪気がないのが余計に悪い。こんなガラクタで部屋を埋め尽くされる僕の身にもなって見ろ」
「………ま、そうだな」
「このガラクタ、叩き壊して燃えないゴミに出してしまおう!そうしよう!」
「賛成」
こうして僕たちは『それ』をぶっ壊した。

それでなんの問題もなかった…無いはずだった。


気持ちの良い目覚めだった。
僕の眠りは優に言わせると浅いらしく、いくら寝ても寝過ぎると言うことがないのに、昨日(今日?)と来たら夢も見ないくらいに深く眠った。
これもあの鬱陶しい土産から解放されたおかげだろう。
さわやかな気分を持ったまま朝飯の支度が出来るのは仕合わせだ。
僕の親父と真希さん(悠のお母さんだ)は出張で家に居ない事がほとんどだから、僕たちが必然的に家事をしなけりゃならない。 
家政婦を雇うなんて事が出来るほど、金に余裕があるわけでもなく、弁当を分けてくれる幼なじみ(縁のない言葉だ)が居るわけでもない僕らは、分担して弁当と朝飯を作ることにしていた。
今日の当番は僕だったから、朝飯にはジャガイモとタマネギの味噌汁とご飯を。
弁当はネギ味噌の焼きおにぎり・タクアン・ほうれん草のお浸しに卯の花。気分が良いからウサギさんのリンゴもおまけに付けた。
自慢じゃないが、料理の技量はそこらの主婦には負けない自信がある。
問題は食わせる相手が、むさい男しか居ないことだ。 

「さて…飯も出来たことだし湧を起こしに行こうか」
僕は二階に上がると悠の部屋にノックしてから入った。
何でノックなんかするかって?
以前、湧の部屋に入ったとき彼は自家発電つまりオ○ニー中でお互いかなり気まずい雰囲気になったからで…
ま、思春期全開の男が二人もいればこの位の気遣いは当然だろう。

部屋に入って湧の寝顔を見る。
太平楽を絵に描いたような寝顔だ。ここまで呑気に寝ていられるというのも一つの才能だろう。
つらつらとそんなことを考えながら湧を起こす。
ゆさゆさ…ゆさゆさ…
なかなか起きない。いつもならこうやって揺すっただけで起きるのに…
仕方がない、最後の手段に訴えるとしよう。
「起きろ!湧!!」
叫びながら湧のベッドめがけてフライングボディプレスを敢行する。
湧の蛙の潰れたような声を予想していた僕は全くの予想外の展開に唖然とした。





結論から言おう。僕は湧に抱き留められていた。
「ん〜零、もう少し寝かせて…」
正直男に抱かれて喜ぶ趣味はない。
さっさと離れようとして抗ったが湧の腕はびくともしない。湧ってこんなに力強かったか?大きかったか?
混乱している僕を尻目に湧のヤツは慣れた手つきで僕の胸を揉んできた。
ピリピリと電気が走る見たいな感じがして、知らず知らずのうちに声が出てしまう。
「んッ!んl〜ッ!」
甲高い女みたいな声だ。

女? 
今ここにいるのは湧と僕の二人だけ…そして湧は男で、こんな声じゃないもっと低くて落ち着いた声だ。
ッて事はこの声を出しているのは僕ってこと?

僕は自分の胸を触ってみた。脹らんでる…
股間を触ってみた。何もなかった。正確には割れ目があって…

やめとこう。今はこの状況から逃れるのが先決だ。
「さっさと離せ、この変態が!」
湧の手を思いっきり摘んで何とか腕の外に逃れる。
湧は涼しい顔で
「朝のスキンシップだろ。いつもやってる事じゃん」
と、とんでもないことをほざいた。
冗談じゃない!男に触られて感じる趣味は持ってないし理解したくもない。
僕は健全な男でオナニーは三日に一回、秘蔵のオカズはベッドの下にあって…最近のお気に入りは…っ
と そうじゃない。
いつも思考のドツボにはまるのが僕だが、気を取り直して湧のヤツに言った。

「湧…よく聞いてくれよ。とんでも無いことになったんだ。僕の体が女になった」
「何言ってるんだ?元々お前女だろうに…悪いもんでも食ったのか?」

僕は目の前が真っ暗になった。
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