最終更新: eroparolibrary 2012年11月08日(木) 21:56:25履歴
※当作品は去年"わかば板"ですぐ落ちちゃった作品の大幅修正&リチャレンジ品です(´・ω・`)
■■■■■■■■ プロローグ ■■■■■■■■
ここは・・・何処だろう?
薄ら寒い夜の街、ぼやけた視界・・・
何で自分がこんな所に居るのか?そもそも自分は何者なのか?全く思い出せない。
闇の中、僅かな灯火を頼りに重い身体を引き摺り歩く。
足の裏からは冷たいアスファルトの感触がして、
その鈍い痛みが、"自分が裸足である"と言う情報を脳に伝えていた・・・
■■■■■■■■ 第一章 Boy Meets Girl ■■■■■■■■
変な夢を見た朝は気分も冴えないものだ・・・っと言えば大抵の奴は同意してくれるだろう。
例えばテスト問題を必死に解く夢とか、例えばバケモノに追いかけられる夢とか、
例えば・・・人を殺してしまって、それを家族に話せないでいる夢とか。
今朝方見た夢はそう言った悪夢の類では無かったが、それでも妙な不快感を以って俺の記憶に刻まれており、
ただでさえ憂鬱な登校の途を、更に重苦しい気分にするのに貢献していた。
「朝から冴えない顔してるね〜」
そう言いながら話し掛けて来たのは俺の昔馴染み、瑞葉。
家が斜向かいにある都合もあるが、何でか最近は通学路を共にする事が増えた。
〈心配してくれてるのか?〉
一瞬感動してしまったが、そこにある妙にニヤニヤした顔を見て思い直す。
こいつに同情とか共感を期待する事の愚かさを、俺は骨の髄まで叩き込まれて居た筈だ。
「何の用だよ?」
「ん〜・・・」
「・・・」
暫し思案顔の瑞葉だったが、やがて少し溜息をついてから視線を逸らし、
「特に無いかな?」
・・・っと言った。
〈何だよそれ・・・〉
肩透かしを喰らって思わず口から出掛かった言葉、意味が無いと思い返して結局止める。
学校へ向かう上り坂、そこは満開の桜並木、風に巻かれて吹雪く花びら、
その壮麗な様子が俺達にはとても不似合いに思えて、だからこそ可笑しくて、そして悲しかった。
「あ・・・」
押し黙っていた瑞葉が急に口を開く、
視線の先、真向かいの歩道に俺たちと同じ学校の制服を着たショートカットの女の子、青葉が居た。
青葉がこちらをチラリと見やる。
この幻想的な光景の中にあって、彼女の容姿は決してそれに負けていない。
いや寧ろその立ち姿は、桜を完全に脇役にするだけの意味と力を持っている。
スポーツ少女らしい凛とした顔、輝く黒い瞳、すらっと引き締まった肢体、
そして歳相応に膨らんだ・・・胸。一言で言うと完璧な美少女、俺や瑞葉とは違う世界の住人。
並の男なら見た瞬間に彼女に惹かれ、同時に諦める事だろう。
だが、かつて彼女は・・・
「・・・・」
「やっほーい、青葉ちゃん〜」
「?おい、やめ・・・!」
一瞬の悪寒、止めようとした俺の腕をすり抜けて前に出て、大きく手を振って呼び掛ける瑞葉。
満面の笑みではしゃぐ小娘、穢れを知らない無邪気な少女、まるでそうする事が当然であるかのように・・・
当たり前だ。少なくとも瑞葉の知っている範囲では"そのような行為"を成すのは決しておかしな事ではない。
呼び掛けられた青葉は一瞬ビクッと肩を震わせたが、そのまま俺達を無視するように歩を進める。
「む〜、反応が悪いなぁ。これでどーだ?」
「へっ?・・・おいコラ!」
相変わらず空気が読めてない瑞葉は、素早く俺の腕に絡み付いてくる。
「へっへっ、青葉ちゃん!芳彦は預かった、返して欲しくば・・・」
はっとした顔で振り向く青葉相手に、高らかな勝利宣言を挙げる瑞葉。
「ど〜言う繋がりだ?どう言う?」
焦った俺は瑞葉を振り解こうと腕をぶんぶん振り回す。
・・・肘に当たる柔らかな感触が嬉しくないかと言われれば嘘ではあるが、
「嬉しいだろ?嬉しい言うてみ?」
「んな訳あるか!離せボケ!!」
「・・・・」
そんな瑞葉と俺の様子を見た青葉は、少しの間睨むようにこちらを見ていたが、
やがて口元を歪めて軽く笑うと、そのまま背中を向けて去っていく。
「ん〜、何かおかしいんだよねぇ。青葉ちゃん」
「おかしいって何が?」
「ほら、青葉ちゃん、昔は芳彦の事が・・・」
―――好きだったでしょ?―――
「・・・昔の事だよ」
「そかな?」
「幼稚園の頃の事だぜ、昔のことさ」
「・・・・」
「ずっと昔の事、なんだよ・・・」
茜色に染まった空、他に誰も居ない放課後の教室で佇む少年と少女。
あれはきっと夢、それはきっと幻。
「・・・まぁそりゃそっか」
そう言って瑞葉は表情を緩めた
「今の青葉ちゃんみたいな美人さんが、芳彦に惚れるわけ無いもんね」
「・・・」
「あれ?ひょっとして残念だとか、惜しかったとか思ってる?」
少女の笑みの奥底に、意地悪な色が交叉する。
「男ってバッカだね〜♪」
「・・・」
もし、俺が青葉と肌を重ねた事があると知ったら、コイツは一体どう言う顔をするのだろうか?
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
夢を見る、この間の続きの夢。
夜の街、あてども無く歩き続ける。
自分は一体何処から来て、何処へ向かおうとしているのか・・・
曲がり角に入ろうとしたその時、眩しい光に思わず目を閉じた、
「危ないッ!!」
ドシンッ
「あっ」
衝撃で身体が吹き飛ばされた、よろめき地面に叩き付けられる
「キミ?大丈夫・・・」
〈オトコの子?〉
薄明かりで良く顔は見えなかったけど、その声は自分と同い年くらいの男の子のモノだ。
何処かで聞いた事があるようで、無いようで・・・
その正体を必死に思い出そうとするけど、漠然としたイメージすら掴むことは出来ない。
「ほら、掴んで」
「あ・・・ありがとう・・・」
差し出された腕にしがみつく。
大きな手の平、筋張った指先、でも・・・その手はとても、とても暖かだった。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
「・・・・っ」
目が覚めた。
窓の外は朝の光で白み、スズメがチュンチュンと鳴いている。
〈またあの夢か、変な夢だな・・・〉
然し似たような内容だったにも関わらず、昨日の夢ほどの不快感は無いのは救いだ。
きっと"何処かで聞いた覚えのある声"が、夢の中での孤独感を一部溶かしてくれたからだろう、
〈・・・どんな声だったっけ?〉
思い出せない。その時の男の声がどんなだったか、どうしても思い出す事が出来なかった。
〈・・・〉
〈まぁ、いずれにせよ所詮夢だ。深く考える事もあるまい。>
思い直して布団から立ち上がる。脱ぎ捨てる寝巻きは水の色、俺が一番好きな色だ。
カーテンを開けると眩いばかりの青い空。遠く山向こうに輝く太陽が本日の朝の到来を告げていた。
∀∀∀∀∀∀∀∀∀∀貴明視点∀∀∀∀∀∀∀∀∀∀
「ったく、何時まで補習受けさせる積もりだよ!?」
塾帰り、全力で自転車を漕ぐ貴明は些か集中力を欠いていた。
普段なら多少は減速する曲がり角だったが
(これほど遅い時間に通る人も車も無いだろ〉
そう思ってハンドルだけで強引に曲がり切ろうとする。
刹那、彼の視界に白い影が映った
「危ないッ!!」
とっさにハンドルを切り返して叫ぶが間に合わない
ドシンッ
「あっ」
鈍くて嫌な衝撃の後、小さな悲鳴。
〈しまった!!畜生、今日はなんてついてないんだ!!〉
早く家に戻りたかったのに、面倒な事になってしまった、
軽く舌打ちをしながら自転車を降りると、倒れ込んでいる"誰か"を見やる
・・・と同時に息を呑んだ。
目の前には水色の・・・男物の寝巻きだろうか?皺くちゃの服を纏った少女が倒れている。
いや、それはただの少女ではなかった
「キミ?大丈夫・・・」
我ながら間抜けと思いつつも、今の彼が発せられる目一杯の言葉、
その言葉に反応する様にゆっくりと顔を向ける少女
その瞳に、貴明は一瞬で魅了されてしまう。
街頭に照らされ青磁色に輝く白い肌、さらさらと長く艶やかな髪、薄いが瑞々しい唇、そして柔らかそうな頬。
その目は深く澄んでいて、一切の濁りを映して居らず、
本当に・・・女の子とは思えないくらいに、美しかった。
АААААААААААААААААААААААА
■■■■■■■■ 第二章 傷の跡 ■■■■■■■■
「・・・であるから、三式戦闘機は重量過大で機動性も加速力も大した事は無く、
第二次大戦中その存在は、敢えて言うならカスでしか無かった訳です。」
日々の授業は実に退屈だ。最も潤いある若き時代を、
70年の人生でこの期間にしか用いる事がない知識を得る為に使うという事は、
限りある人の命に対する冒涜ではないかと俺は常々考えるのである。
折りしも季節は春、春眠暁を覚えず、両の瞼が重くなって来て、
やがて俺はめくるめくシエスタの世界へと誘われて行くのだった。
・・・
∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨
それはまだ、俺が幼かった頃の話。
青葉や貴明とは知り合っていて、まだ瑞葉とは出会って居なかった頃。
『うわぁ!!』
『広いひろ〜い』
『すげー!すげー!』
青葉の両親に連れられてやって来た初めての海、蒼い水平線が眩しかった。
砂で城を作って、波で崩れて、また作って、そして崩れて・・・
そんな事を延々と繰り返していた。まどろむ様な懐かしい日々の思い出。
でも楽しかった時間もじきに終わり、夕暮れの海を背にして街へと戻る。
確かあの日は、帰り際に青葉の家に寄って三人一緒にお風呂に入ったんだっけか。
『うぉお、口がしょっぱい!』
舌なめずりをすると、唇や頬に残った塩の結晶が口に入った。
『ホントしょっぺーなぁ』
湯煙の中でタカアキが答える。
打てば響くように反応を返してくれる、そんなタカアキが好きだった。
本当に、あの頃はトモダチだと思ってたのに。
・・・
『どしたのアオバ?』
不意に心配そうな声色になるタカアキ、目を向けるとアオバがこちらを見ている、
湯船の中からずっと、身体を洗うオレや貴明を見ていたんだ。
《・・・?》
不思議そうな顔をするタカアキと、訳が分からないオレ。
驚きに染まったアオバの顔が徐々に愕然と言った風に変わって行き、そして・・・
――― あの時、何で青葉は急に泣き出したりなんかしたんだろうか? ―――
∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧
「おい、聴いてるのか!?」
ヤバっ・・・と思って首をすくめるた。
だが幸いな事に教師の顔は俺を向いておらず
「・・・・」
その言葉は、どうやら窓際の一番前の席の生徒に対するもののようだった。
「・・・貴明?」
先ほど注意されたにも関わらず、いや恐らくは注意されたのが自身である事に気付かなかったのだろう、
貴明の奴は相変わらず頬杖を付いたままで、その視線を虚空に漂わせていた。
「・・・どうした?具合でも悪いのか?」
余りの反応の悪さに異常を感じたのか、教師が怪訝そうに問いかける。
だがその教師の心配を裏切るかのように・・・
「あへ?」
素っ頓狂な声を上げる貴明、その余りの間抜けな声にクラス中がどっと沸く。
* * * * * * * * * * * *
「何か今日、貴明調子悪そうだね・・・」
休憩時間、瑞葉がやや顔を曇らせてそう言った。
昨日の俺の時とエラく反応が違う気がするが、この際気にしないでおく事にする。
「ちょっと様子見に行かない?」
「やめとく」
瞬殺。
一瞬呆気に取られたようにしていた瑞葉は、然し何時に無く真剣な顔で抗議して来た。
「何で、どうして?」
「・・・」
「貴明と芳彦、あんなに仲が良かったじゃない?」
「別に・・・」
「何で?何でそんな他所他所しくしてるのさ?」
〈何で・・・だと?〉
頭にカッと血が昇る。
〈どうしてだと・・・思う?〉
握り拳に力が入った。
〈親友だった、裏切られた、許せない・・・〉
嘲るように笑う貴明、悪魔の様だと思った。。
まだ子供だった、意味も分かっていなかった、ただ衝動に駆られてやっただけだ。
だが・・・
〈絶対に、アイツだけは許せない!!〉
炸裂しそうな感情を辛うじて抑え込めたのは、
"瑞葉は何も知らない"と言う前提を思い出したからだ。
「・・・黙れ」
「え?」
聞き返してきたのは、聞こえなかったからか、
それとも、それが聞き違えであって欲しいと望んだからか・・・
「いいから・・・黙れよ・・・」
「っ・・・」
瑞葉の顔が青ざめる。
当然だ、十余年来の付き合いの間、俺が瑞葉に攻撃の意思を向けた事は数えるほどしかない。
彼女は俺の大事な大事な友達の一人だ、故に関係を断ちたくないし、出来得る事なら傷付けたくもない。
だが俺たちは・・・幼き頃からの付き合いであったとしても・・・完全に理解し合うには年を重ね過ぎている。
「頼むから・・・黙れ・・・」
吐き棄てるように言って睨み付ける。
「っ・・・」
瑞葉は己に対する理不尽な仕打ちに対し怒ろうと努力していたが、
先んじて投じられた圧倒的な嫌悪と悪意を前にただただ涙ぐむだけで、
その小さな身体を身じろぎ一つさせる事も出来ずに居た。
∀∀∀∀∀∀∀∀∀ 貴明視点 ∀∀∀∀∀∀∀∀∀
貴明は、朝からずっと心ここに在らずの状態を続けていた。
昨日塾帰りに出会った少女の事が頭を離れない。
ただ美しかったからではない、美しいというだけなら、あの少女よりも綺麗な女を彼は知っている。
この街一番の美少女、青葉。
容姿端麗文武両道、彼女が歩いているのを見て振り返り、
そのまま電柱に激突するリーマンの姿を貴明は何度か見た事がある。
だが余りに完璧に過ぎる造作の青葉は、貴明にとっても別次元の存在であり、
また彼女に内在する苛烈とも言える気の強さは、貴明の好みとは180°異なるものでもあった。
その点、あの少女の面差しは貴明の心を捉えて離さない。
容貌こそ青葉には及ばないが、女性特有の媚びた目も、男に対する警戒の色も存在しない純真な少女。
その纏う空気は何処と無く、彼の初恋の人に似ていた。
〈会いたい・・・また、あの娘に会いたい・・・〉
胸を焦がすような痛み。だがそれは叶わぬ願いに思えた。
住んでる場所も名前すらも知らない少女、
夜の街に暗闇に消える彼女を何故追いかけなかったのか?っと今更ながらに後悔する。
「今晩も、あの辺りに行ってみるか・・・」
この学校の生徒では無かった、この街の住人ですら無い可能性が高い。
だが何か行動も起こさずには居られないほど、貴明は"あの少女の影"の虜になっていたのだった。
АААААААААААААААААААААААА
第二章END
■■■■■■■■ プロローグ ■■■■■■■■
ここは・・・何処だろう?
薄ら寒い夜の街、ぼやけた視界・・・
何で自分がこんな所に居るのか?そもそも自分は何者なのか?全く思い出せない。
闇の中、僅かな灯火を頼りに重い身体を引き摺り歩く。
足の裏からは冷たいアスファルトの感触がして、
その鈍い痛みが、"自分が裸足である"と言う情報を脳に伝えていた・・・
■■■■■■■■ 第一章 Boy Meets Girl ■■■■■■■■
変な夢を見た朝は気分も冴えないものだ・・・っと言えば大抵の奴は同意してくれるだろう。
例えばテスト問題を必死に解く夢とか、例えばバケモノに追いかけられる夢とか、
例えば・・・人を殺してしまって、それを家族に話せないでいる夢とか。
今朝方見た夢はそう言った悪夢の類では無かったが、それでも妙な不快感を以って俺の記憶に刻まれており、
ただでさえ憂鬱な登校の途を、更に重苦しい気分にするのに貢献していた。
「朝から冴えない顔してるね〜」
そう言いながら話し掛けて来たのは俺の昔馴染み、瑞葉。
家が斜向かいにある都合もあるが、何でか最近は通学路を共にする事が増えた。
〈心配してくれてるのか?〉
一瞬感動してしまったが、そこにある妙にニヤニヤした顔を見て思い直す。
こいつに同情とか共感を期待する事の愚かさを、俺は骨の髄まで叩き込まれて居た筈だ。
「何の用だよ?」
「ん〜・・・」
「・・・」
暫し思案顔の瑞葉だったが、やがて少し溜息をついてから視線を逸らし、
「特に無いかな?」
・・・っと言った。
〈何だよそれ・・・〉
肩透かしを喰らって思わず口から出掛かった言葉、意味が無いと思い返して結局止める。
学校へ向かう上り坂、そこは満開の桜並木、風に巻かれて吹雪く花びら、
その壮麗な様子が俺達にはとても不似合いに思えて、だからこそ可笑しくて、そして悲しかった。
「あ・・・」
押し黙っていた瑞葉が急に口を開く、
視線の先、真向かいの歩道に俺たちと同じ学校の制服を着たショートカットの女の子、青葉が居た。
青葉がこちらをチラリと見やる。
この幻想的な光景の中にあって、彼女の容姿は決してそれに負けていない。
いや寧ろその立ち姿は、桜を完全に脇役にするだけの意味と力を持っている。
スポーツ少女らしい凛とした顔、輝く黒い瞳、すらっと引き締まった肢体、
そして歳相応に膨らんだ・・・胸。一言で言うと完璧な美少女、俺や瑞葉とは違う世界の住人。
並の男なら見た瞬間に彼女に惹かれ、同時に諦める事だろう。
だが、かつて彼女は・・・
「・・・・」
「やっほーい、青葉ちゃん〜」
「?おい、やめ・・・!」
一瞬の悪寒、止めようとした俺の腕をすり抜けて前に出て、大きく手を振って呼び掛ける瑞葉。
満面の笑みではしゃぐ小娘、穢れを知らない無邪気な少女、まるでそうする事が当然であるかのように・・・
当たり前だ。少なくとも瑞葉の知っている範囲では"そのような行為"を成すのは決しておかしな事ではない。
呼び掛けられた青葉は一瞬ビクッと肩を震わせたが、そのまま俺達を無視するように歩を進める。
「む〜、反応が悪いなぁ。これでどーだ?」
「へっ?・・・おいコラ!」
相変わらず空気が読めてない瑞葉は、素早く俺の腕に絡み付いてくる。
「へっへっ、青葉ちゃん!芳彦は預かった、返して欲しくば・・・」
はっとした顔で振り向く青葉相手に、高らかな勝利宣言を挙げる瑞葉。
「ど〜言う繋がりだ?どう言う?」
焦った俺は瑞葉を振り解こうと腕をぶんぶん振り回す。
・・・肘に当たる柔らかな感触が嬉しくないかと言われれば嘘ではあるが、
「嬉しいだろ?嬉しい言うてみ?」
「んな訳あるか!離せボケ!!」
「・・・・」
そんな瑞葉と俺の様子を見た青葉は、少しの間睨むようにこちらを見ていたが、
やがて口元を歪めて軽く笑うと、そのまま背中を向けて去っていく。
「ん〜、何かおかしいんだよねぇ。青葉ちゃん」
「おかしいって何が?」
「ほら、青葉ちゃん、昔は芳彦の事が・・・」
―――好きだったでしょ?―――
「・・・昔の事だよ」
「そかな?」
「幼稚園の頃の事だぜ、昔のことさ」
「・・・・」
「ずっと昔の事、なんだよ・・・」
茜色に染まった空、他に誰も居ない放課後の教室で佇む少年と少女。
あれはきっと夢、それはきっと幻。
「・・・まぁそりゃそっか」
そう言って瑞葉は表情を緩めた
「今の青葉ちゃんみたいな美人さんが、芳彦に惚れるわけ無いもんね」
「・・・」
「あれ?ひょっとして残念だとか、惜しかったとか思ってる?」
少女の笑みの奥底に、意地悪な色が交叉する。
「男ってバッカだね〜♪」
「・・・」
もし、俺が青葉と肌を重ねた事があると知ったら、コイツは一体どう言う顔をするのだろうか?
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
夢を見る、この間の続きの夢。
夜の街、あてども無く歩き続ける。
自分は一体何処から来て、何処へ向かおうとしているのか・・・
曲がり角に入ろうとしたその時、眩しい光に思わず目を閉じた、
「危ないッ!!」
ドシンッ
「あっ」
衝撃で身体が吹き飛ばされた、よろめき地面に叩き付けられる
「キミ?大丈夫・・・」
〈オトコの子?〉
薄明かりで良く顔は見えなかったけど、その声は自分と同い年くらいの男の子のモノだ。
何処かで聞いた事があるようで、無いようで・・・
その正体を必死に思い出そうとするけど、漠然としたイメージすら掴むことは出来ない。
「ほら、掴んで」
「あ・・・ありがとう・・・」
差し出された腕にしがみつく。
大きな手の平、筋張った指先、でも・・・その手はとても、とても暖かだった。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
「・・・・っ」
目が覚めた。
窓の外は朝の光で白み、スズメがチュンチュンと鳴いている。
〈またあの夢か、変な夢だな・・・〉
然し似たような内容だったにも関わらず、昨日の夢ほどの不快感は無いのは救いだ。
きっと"何処かで聞いた覚えのある声"が、夢の中での孤独感を一部溶かしてくれたからだろう、
〈・・・どんな声だったっけ?〉
思い出せない。その時の男の声がどんなだったか、どうしても思い出す事が出来なかった。
〈・・・〉
〈まぁ、いずれにせよ所詮夢だ。深く考える事もあるまい。>
思い直して布団から立ち上がる。脱ぎ捨てる寝巻きは水の色、俺が一番好きな色だ。
カーテンを開けると眩いばかりの青い空。遠く山向こうに輝く太陽が本日の朝の到来を告げていた。
∀∀∀∀∀∀∀∀∀∀貴明視点∀∀∀∀∀∀∀∀∀∀
「ったく、何時まで補習受けさせる積もりだよ!?」
塾帰り、全力で自転車を漕ぐ貴明は些か集中力を欠いていた。
普段なら多少は減速する曲がり角だったが
(これほど遅い時間に通る人も車も無いだろ〉
そう思ってハンドルだけで強引に曲がり切ろうとする。
刹那、彼の視界に白い影が映った
「危ないッ!!」
とっさにハンドルを切り返して叫ぶが間に合わない
ドシンッ
「あっ」
鈍くて嫌な衝撃の後、小さな悲鳴。
〈しまった!!畜生、今日はなんてついてないんだ!!〉
早く家に戻りたかったのに、面倒な事になってしまった、
軽く舌打ちをしながら自転車を降りると、倒れ込んでいる"誰か"を見やる
・・・と同時に息を呑んだ。
目の前には水色の・・・男物の寝巻きだろうか?皺くちゃの服を纏った少女が倒れている。
いや、それはただの少女ではなかった
「キミ?大丈夫・・・」
我ながら間抜けと思いつつも、今の彼が発せられる目一杯の言葉、
その言葉に反応する様にゆっくりと顔を向ける少女
その瞳に、貴明は一瞬で魅了されてしまう。
街頭に照らされ青磁色に輝く白い肌、さらさらと長く艶やかな髪、薄いが瑞々しい唇、そして柔らかそうな頬。
その目は深く澄んでいて、一切の濁りを映して居らず、
本当に・・・女の子とは思えないくらいに、美しかった。
АААААААААААААААААААААААА
■■■■■■■■ 第二章 傷の跡 ■■■■■■■■
「・・・であるから、三式戦闘機は重量過大で機動性も加速力も大した事は無く、
第二次大戦中その存在は、敢えて言うならカスでしか無かった訳です。」
日々の授業は実に退屈だ。最も潤いある若き時代を、
70年の人生でこの期間にしか用いる事がない知識を得る為に使うという事は、
限りある人の命に対する冒涜ではないかと俺は常々考えるのである。
折りしも季節は春、春眠暁を覚えず、両の瞼が重くなって来て、
やがて俺はめくるめくシエスタの世界へと誘われて行くのだった。
・・・
∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨
それはまだ、俺が幼かった頃の話。
青葉や貴明とは知り合っていて、まだ瑞葉とは出会って居なかった頃。
『うわぁ!!』
『広いひろ〜い』
『すげー!すげー!』
青葉の両親に連れられてやって来た初めての海、蒼い水平線が眩しかった。
砂で城を作って、波で崩れて、また作って、そして崩れて・・・
そんな事を延々と繰り返していた。まどろむ様な懐かしい日々の思い出。
でも楽しかった時間もじきに終わり、夕暮れの海を背にして街へと戻る。
確かあの日は、帰り際に青葉の家に寄って三人一緒にお風呂に入ったんだっけか。
『うぉお、口がしょっぱい!』
舌なめずりをすると、唇や頬に残った塩の結晶が口に入った。
『ホントしょっぺーなぁ』
湯煙の中でタカアキが答える。
打てば響くように反応を返してくれる、そんなタカアキが好きだった。
本当に、あの頃はトモダチだと思ってたのに。
・・・
『どしたのアオバ?』
不意に心配そうな声色になるタカアキ、目を向けるとアオバがこちらを見ている、
湯船の中からずっと、身体を洗うオレや貴明を見ていたんだ。
《・・・?》
不思議そうな顔をするタカアキと、訳が分からないオレ。
驚きに染まったアオバの顔が徐々に愕然と言った風に変わって行き、そして・・・
――― あの時、何で青葉は急に泣き出したりなんかしたんだろうか? ―――
∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧
「おい、聴いてるのか!?」
ヤバっ・・・と思って首をすくめるた。
だが幸いな事に教師の顔は俺を向いておらず
「・・・・」
その言葉は、どうやら窓際の一番前の席の生徒に対するもののようだった。
「・・・貴明?」
先ほど注意されたにも関わらず、いや恐らくは注意されたのが自身である事に気付かなかったのだろう、
貴明の奴は相変わらず頬杖を付いたままで、その視線を虚空に漂わせていた。
「・・・どうした?具合でも悪いのか?」
余りの反応の悪さに異常を感じたのか、教師が怪訝そうに問いかける。
だがその教師の心配を裏切るかのように・・・
「あへ?」
素っ頓狂な声を上げる貴明、その余りの間抜けな声にクラス中がどっと沸く。
* * * * * * * * * * * *
「何か今日、貴明調子悪そうだね・・・」
休憩時間、瑞葉がやや顔を曇らせてそう言った。
昨日の俺の時とエラく反応が違う気がするが、この際気にしないでおく事にする。
「ちょっと様子見に行かない?」
「やめとく」
瞬殺。
一瞬呆気に取られたようにしていた瑞葉は、然し何時に無く真剣な顔で抗議して来た。
「何で、どうして?」
「・・・」
「貴明と芳彦、あんなに仲が良かったじゃない?」
「別に・・・」
「何で?何でそんな他所他所しくしてるのさ?」
〈何で・・・だと?〉
頭にカッと血が昇る。
〈どうしてだと・・・思う?〉
握り拳に力が入った。
〈親友だった、裏切られた、許せない・・・〉
嘲るように笑う貴明、悪魔の様だと思った。。
まだ子供だった、意味も分かっていなかった、ただ衝動に駆られてやっただけだ。
だが・・・
〈絶対に、アイツだけは許せない!!〉
炸裂しそうな感情を辛うじて抑え込めたのは、
"瑞葉は何も知らない"と言う前提を思い出したからだ。
「・・・黙れ」
「え?」
聞き返してきたのは、聞こえなかったからか、
それとも、それが聞き違えであって欲しいと望んだからか・・・
「いいから・・・黙れよ・・・」
「っ・・・」
瑞葉の顔が青ざめる。
当然だ、十余年来の付き合いの間、俺が瑞葉に攻撃の意思を向けた事は数えるほどしかない。
彼女は俺の大事な大事な友達の一人だ、故に関係を断ちたくないし、出来得る事なら傷付けたくもない。
だが俺たちは・・・幼き頃からの付き合いであったとしても・・・完全に理解し合うには年を重ね過ぎている。
「頼むから・・・黙れ・・・」
吐き棄てるように言って睨み付ける。
「っ・・・」
瑞葉は己に対する理不尽な仕打ちに対し怒ろうと努力していたが、
先んじて投じられた圧倒的な嫌悪と悪意を前にただただ涙ぐむだけで、
その小さな身体を身じろぎ一つさせる事も出来ずに居た。
∀∀∀∀∀∀∀∀∀ 貴明視点 ∀∀∀∀∀∀∀∀∀
貴明は、朝からずっと心ここに在らずの状態を続けていた。
昨日塾帰りに出会った少女の事が頭を離れない。
ただ美しかったからではない、美しいというだけなら、あの少女よりも綺麗な女を彼は知っている。
この街一番の美少女、青葉。
容姿端麗文武両道、彼女が歩いているのを見て振り返り、
そのまま電柱に激突するリーマンの姿を貴明は何度か見た事がある。
だが余りに完璧に過ぎる造作の青葉は、貴明にとっても別次元の存在であり、
また彼女に内在する苛烈とも言える気の強さは、貴明の好みとは180°異なるものでもあった。
その点、あの少女の面差しは貴明の心を捉えて離さない。
容貌こそ青葉には及ばないが、女性特有の媚びた目も、男に対する警戒の色も存在しない純真な少女。
その纏う空気は何処と無く、彼の初恋の人に似ていた。
〈会いたい・・・また、あの娘に会いたい・・・〉
胸を焦がすような痛み。だがそれは叶わぬ願いに思えた。
住んでる場所も名前すらも知らない少女、
夜の街に暗闇に消える彼女を何故追いかけなかったのか?っと今更ながらに後悔する。
「今晩も、あの辺りに行ってみるか・・・」
この学校の生徒では無かった、この街の住人ですら無い可能性が高い。
だが何か行動も起こさずには居られないほど、貴明は"あの少女の影"の虜になっていたのだった。
АААААААААААААААААААААААА
第二章END
タグ