時は今より近未来。
人々は非科学的でありながら科学的な使い方をできる魔法を開発
これにより古代の人々の想いが実現する形となる。
また、地球の環境も魔法によりなんとか改善
昔危惧されていた温暖化は抑えられた。
まだ誰でも使用できる、という域にはなっていないが
魔法専門の学校を設立し50年、今では生まれてきてから魔法使いの道を歩む者もいる。

11月18日、日曜日。
日本の北海道にある私立創魔法学園。(はじめのまほうがくえん)
この学校は初等部、高等部の二つに別れ、いわば高校と大学という形をとっている。
今では小学校、中学校レベルでも魔法を扱う学課が増え、その頃から学習するものもいる。
「あ〜〜〜〜ん……Aパターンチェック…パス」
男子制服を着た創魔法学園高等部1年、葉山秋斗。
身体はそれなりに大きいが顔が女性のように成長していく元気な男の子。
中学生の時、初めて魔法用機材を扱った時、共鳴を起こして暴走。
学校に穴を開けたことがある。
しかし不幸中の幸いか、それを見た先生の報告により特待生の推薦を受けて難なくここへ入ってこられた。
そして入学してから4年目、その才能をメキメキと発展させていく。
現在はまだ一度も暴走は起こしていない。
「Bパターンチェック」
寮内の自分の部屋にある大きな機械の前、そこから出る管に繋がれた胸に包帯が巻かれ、小さなパンツを履いた少女。
これはホムンクルス。
大昔では人が人を造ることなど自然に反する、と全世界で叫んでいたが
一度一つの国が成功してしまうと、そんな大声なぞおかまいなしにホムンクルス技術は発展していった。
ただし、普通に造れば人となんら変わりはないこの「人もどき」には色々と法で縛られていた。
管理タグの必須、法に反することの不可を本能から教育すること。
大まかに言ってしまえばある意味物として扱えという感じでもある。
「よし……固定」
小さな試験管から透けるディスプレイが展開されている。
エンチャントアイテムといって、魔法を織り込んだ新しい科学のスタイル。
これによって既存の物に『可能性』が飛躍的に上昇、更に用途が増えた。
「っくぅ〜〜〜〜、きゅうけ〜〜〜」
一度大きく伸びをして骨をパキパキ鳴らす。
ピンポーン、と部屋のインターホンが鳴った。
「ハイハ〜イ」
ガチャ
「っす、秋斗」
「おう、秀秋」
俺の親友、須藤秀秋。
いわゆる調子いい奴であまり魔力についての才能はない。
今でも初等部2年程度が扱える魔法ぐらいしかうまく使えてなかったりする。
秀秋は制服も袖をまくり、中指から肘まで魔法の繊維がランダムに網状を展開しながら巻きついている。
これはルーンファクトと言って魔法を扱う者の補助となる魔法使い本人のオンリーワンの持ち物。
この学校では入学の時に自分だけのルーンファクトを精製し、卒業するまでまたは死ぬまで愛用することになる。
俺のは本のルーンファクト。今はテーブルの上においてある
「今日も可愛いな」
「キメェ〜」
もはやお決まりとなった挨拶を交わして笑いあう。
「なぁ、林の方が騒がしいんだが行ってみねぇ?」
「なんかあったのか?」
「あったらしいぜ」
ちょっと興味があったので野次馬として見に行ってみることにした。


学校の男子寮を過ぎた奥にある林。
何があるかはわからないがフェンスもなくて危ないので立ち入りは許されていない場所。
それでも俺らは林の方へと入っていく。
騒がしいと言っていたけど俺たちが来たときは誰もいなかった。
「さっき見た時は男子が集まってたんだけどなぁ」
そんなのおかまいなしに秀秋が林の中に足を進めていく。
「おい、いいのか?」
「いーいんだって」
少し奥深くへ入っていくと、何かが目に留まった。
それに向かって歩みを進めていく。
「なぁ、あれって」
「定規……ルーンファクトか?」
小走りで近寄りそれを拾い上げる。
それは定規で、100cmサイズの多少大きい定規。
でも魔法の力を帯びてるので、エンチャントかルーンファクトだろう。
「なぁ、もしかして…これって行方不明になった生徒のじゃねぇの?」
うかつに放った俺の一言で、二人に恐怖が芽生えてきた。
2週間ほど前に生徒が一人行方不明になり、今も帰って来ていない。
林へ行ったという情報はないが、こういうのは一度でも可能性を想像してしまうと怖いものである。
「ま、まさかなぁ…ははは」
『ハァァァァァ……』
「っ!?」
人ではない吐息に二人に戦慄が走り、音の方向を見る。
ガサ、ガサ、ガサ。
こちらに近づいてくる。
突然白い手が樹をつかみ、なぎ倒しながら後ろからそいつの顔が遅れて現れた。
『キケキャキャキャキャキャキャキャ』
その顔に目はない。
白い皮膚の下に血が流れるのがはっきりと見える血管にびっしりと覆われ
七光する涎をダラダラたらしている。
「も、モンスター……!」
モンスター。
魔法という技術にもやはり汚れた部分は存在するもので
機械に宿った魔法が暴走した成れの果て、または魔法を帯びた生物が本能のままに巨大化したり。
あるいはその両方だったりと、人間が発展してきたからこその汚い失態でもある。
今ではこういったモンスターを駆除する機関まであるほどだ。
しかし今はそんなものは近くにいない。
目の前の存在に恐怖し動けない。
モンスターは確実に俺らを定めている。
殺られる。
「う…くっ!」
生き延びるためにもたじろいでいるわけにはいかない。
魔法を使用するための準備段階、チャージを始める。
魔法はこのままでも使えることはできるが、チャージをすることによって自分の魔力を高めたり
魔法の強さを上げたりと若干の時間はかかるが基礎としてこのチャージをすることが薦められている。
俺の周りに魔法のオーブが大量に包み始め、体に満ちていくのがわかる。
「お、おい、秋斗。逃げようぜ!」
「そうはいってもこいつを連れてきたら学校があぶねーだろ!」
『ギェアアァァァァ!』
目の前にモンスターの手が降ってきて、間一髪のところでダイブして回避する。
そしてモンスターに向きなおし、何の魔法を使用するか動きながら考える
「こっちこいよバーカ!」
秀秋の声だ。
それと魔法が当たる音が聞こえ、モンスターは俺ではない方向へ視線を移す。
(チャンスだ!)
素早くモンスターの側面へ回り込み、手にありったけの魔力を乗せてモンスターへと突撃する。
「ここだ!」
衝撃が走る。


「っ……!?がっ!」
モンスターではなく俺に。
傲慢だった。
モンスターをまったく見ずにただ一面を見ていただけだから。
だからこそモンスターの不意打ちもまともにくらう。
こいつは最初から俺を狙っていた。
俺の体はそのまま宙を舞い、近くの樹に体からぶつかる。
『ギャァァァァァァオ!!』
耳が痛くなりそうなほどの咆哮が聞こえる。
モンスターの攻撃が飛んできて、俺は一瞬モンスターに体を持っていかれ、そのまま地面に叩き落される。
地面に当たり派手にバウンドし、そのまま樹にぶつかるまで転がっていった。
「おい!秋斗ー!大丈夫かー!?」
秀秋はモンスターに遮られ、こちらからは確認できない。
体の痛みをこらえて立ち上がろうとする。が、手をつけなくてそのまま倒れこむ。
俺の左腕はなかった。
「っ!!がああああああああ!!」
現実を認識してしまい、激痛に身をよじらせる。
「秋斗!?ぐっ!てめええええ!」
秀秋をかるくあしらいながらも視線は俺を見定めている。
恐怖が勝る。目の前の化け物に怯える。
一層高い咆哮の後、地面に落ちてる餌を口で拾い上げ、歯を立てる。
「うああああぁぁぁああぁぁあぁあああ!!」
「あきとおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
激痛なんて生易しいものではない。
これならいっそのことすぐ殺してくれとも思う。
でも奴は俺の体を味わうように少しずつ噛み砕く。。
体に攻撃を受けているがひるむほどでもなく、悠々と食事を楽しんでいる。
俺の目に牙が映った時、そこで俺の人生は幕を閉じた。
グシャッ


一方、秋斗達が部屋を後にした後すぐに部屋に訪問者が来ていた。
女子生徒用の制服を身にまとった大きな胸の女生徒。
「あーきとぉー?…あれ?」
部屋に誰かいないかきょろきょろと見回す。
秋斗はいない。
でも見た感じ財布や学生証は置きっぱなしだからそう遠くには行っていないと予想した。
(あがって待ってよ)
秋斗の友達、加護理々子。
元気な体操系のノリのショートヘアーの女性で秋斗と自然と仲良くなった友達以上恋人未満な関係。
本人は秋斗のことはまんざらでもない模様。
腰に回した2本のベルトのうち、1本がルーンファクトである。
今日はちょっとした用事で男だけの負の領域に入り込んでいたのである。
「誰もいないけどおっじゃまっしまーす」
と玄関で靴を適当に脱いで手提げカバンをテーブルの近くに置く。
しっかし、汚いなぁ。
ま、男の部屋だから仕方ないのかもしれないけどさ。
目で部屋を物色してるとホムンクルスが目に入った。
女性型で小さな子供のような全体的な肉付きの少なさ。
目を瞑り、死んでいるように動かない。
これがスリープ状態。
(ちょうどいいから盗み見しちゃおう)
調整機械を弄ってデータを確認する。


「ふぅ」
まだ秋斗帰ってこないなぁ。
携帯を開いて時計を見る。大体15分経ってたみたい
ふと窓側から中に強い光が入ってきた。
「えっ?」
振り返ってみるけど眩しくてまともに見れない。
ちょうどテーブルに秋斗の物らしいサングラスがあったからそれを着用する。
「な…何なの!?」
改めて光を見てみたが、その光はあたしに向かってきてた。
「うわ、うわ、わわわわわわ!」
慌てて左方向へ急速回避。ぎりぎり避ける事が出来た
見てはいないけどバシュンという音はあたしの後ろから聞こえてきた。
音のしたほうへと振り返る。
「あ、あれ?」
ホムンクルスが倒れていた。
けど、何かおかしい。
どう贔屓目に見てもさっきの子供のようなホムンクルスではない。
モデルのような抜群のスタイルに。
ショーツは食い込んで。
胸に巻いた包帯は今にも弾けそうに、でもあたしの胸には遠く及ばない。
そして何より。
「えっ…?秋、と……?」
その顔はどう見ても会う予定だった秋斗。
今日の朝に行く約束してるときにちゃんと見てたから間違いない。
念のため、秋斗の学生証を手にとって念じる。
「ソウルディテクト」
学生証が光だし、それをホムンクルスにかざす。
学生証にはエンチャントが施されていて、本人識別用の魔法が織り込まれている。
これも時代が進歩したからこそできる最新の識別装置。
反応がなかったら本人じゃなくて、青く光れば本人であるという指紋や声じゃなく魂で判別する魔法。
これ、ホムンクルスが出てきた当初にドッペルゲンガー現象が多々起こったために急遽できたもの。
果たして結果は。
「……え!?光った!?」
青く光ったからこその驚愕。
つまりこれはホムンクルスじゃなくて秋斗。
でも何故秋斗なのかあたしには説明できない。
あたし自身が何のことかわかっていないし。
「と、とりあえず服!」
何かしなきゃと思って出た発想第一。


「うっ、ぐっ……うう、ぅぅぅ」
突然意識が覚醒する。
唸りながらもモンスターのことを思い出して重い体を起こす。
体が軽いし一部はきつい。モンスターに体のあちこちを食われたからか。
せめて、秀秋でも逃がさないと……!
「くっ……うぅ」
「あっ!?起きた!」
「えっ…?」
林にいなかった人の声が聞こえる。
「あ、れ…?理々子?」
目の前に今日会うはずだった理々子が目の前にいた。
ここでようやく現実を認識する。
ここは…多分俺の部屋。
よくよく考えれば声も変。
そしてなんか胸の辺りが重い。
体を確認……制服ではないけど服を着ている。
なんだか俺の手が妙に小さい。
というか…手はある。喰われたはずだが……
視線を立ったまま足元に下ろす……けど俺の服が視界に入って見えない。
けどズボンは履いていないみたいで、ブリーフのような履き心地の何かを履いているようだ。
それはともかく何だこれ?
「秋斗、秋斗」
「?」
気づけば理々子が手招きしていたので、とりあえず近づく。
途中、秀秋もいることに気がつく。
「はいはい、須藤はあっち向いて」
「あ、ああ、うん」
見えないところで秀秋は俺らから視線を逸らしたようだ。
ばんざーいと言われたのでとりあえず万歳をする。
服をめくられたので抵抗したが怒られたのでとりあえず我慢しておく。
服が首元まで上がると同時に俺の視線の下で肌色の何かがぷるんと弾む。
俺の体が揺れたから俺の体の一部だろうか。
「……ん?」
胸?
「何これ?」
「あたしが聞きたいところだけど…」
「須藤さん!緊急事態って何です!?」
と突然慌てた声と共に先生が入ってきた。
そして服を脱がせた状態の俺と理々子を見て
「ごごごごごごめんなさい、お取り込み中でしたか」
と顔を逸らして出て行った。
「ご、誤解ですー!」
弁明はしたけど秀秋だけは状況を把握していなかった。


俺らの担任教師、中野凛先生(俺、理々子、秀秋は同クラス)。
スタイル抜群胸は普通で俺たちが入学してきた時に同時に先生として赴任した
最も先生として信頼できる理想像なタイプの先生。
でもさっきみたいに色情に関して超どもるので処女じゃないかとまことしやかに噂が。
ちなみに先生のルーンファクトは指揮棒っぽい特殊警棒。
以前指摘した時頭に?を出していたのでわかってないっぽい。
「では、整理しますね」
「はい」×3
話の整理。
まず、俺がモンスターにやられ、殺された後すぐにモンスターが光の球を吐いた。
その時モンスターは林へ逃げ込んでいったらしい。
それはまっすぐ寮内に突っ込んで言ったこと。
ここからは理々子が見たホムンクルスにその光が入っていったこと。
そして俺ができたこと。
俺自身が信用していなかったけど理々子に学生証をかざされ、反応を示したことで信じざるを得なくなった。
「ともかく、危ないことはしてはいけません」
「すみません」×2
と先生にぎゅっと抱きしめられた。
「先生、須藤さんから電話もらったとき…大事な教え子を失ったと思ったら……」
先生がぽろぽろと涙を流した。
「…すみません」
この時、改めて大変なことをしたんだと実感した。

「では、私は報告して会議にしますので」
「はい」
先生と呼び出した元凶として秀秋が出て行った。
それなら俺も、と言ったのだけど俺のほうは大事を取れといわれ部屋に残留。
「んじゃあたし一旦部屋に取りに行ってくるから」
「あー、うん」
半ば強引に下着と服を貸してくれるということで理々子は部屋から出て行った。
俺が何度かズボンの裾を踏んで転んだのを見かねたからである。
気づけば6時を過ぎて夕焼けが窓から差し込んできていた。
ベッドに倒れこんで頭の整理をする。
「いきなりこんなことになったって言われてもなぁ」
正直実感が湧かない。
「あ、そういえば魔法ってどうなんだろう」
とテーブルにおいてあった自分のルーンファクトに手を伸ばす。
本のルーンファクトに触れた途端、音もなく小さな光を上げて本が散って消え去った。
俺自身はきょとんとしてる。
何がなんなのかよくわからないけど、とりあえずルーンファクトなしで魔法を使ってみることに。
まず、魔法のチャージを開始する。
「あれ?」
何故か全然集まってこない。
体に満ちていく感覚もほとんどなく。
この体の所為だろうか?
(じゃ、じゃぁ魔法自体は?)
低級魔法を使うための詠唱を開始する。
詠唱、といっても使うのは心なので声に出して詠唱はしない。
「ん〜〜〜…ショット!」
(初等部1学年魔法、ショット:魔力によって大きさが変わる魔法の矢を放つ初級魔法。
扱い方によっては釘を打てたり生活にも便利です。尚、人を殺せるほどの威力は出ません)
玄関の方向へ勢いよく半透明の魔力が射出される。
「ちっちぇぇ」
魔法は人差し指サイズのすっごく小さいのだった。
ガチャ
「ただいま、秋──」
ぽよんと理々子の胸が弾んだ。
「……あたし、確かに秋斗のこと好意的だけどさ、順序っていうのが、ね?」
「ち、ちがうって!」


「つまり、魔法が全然よわっちいってことね?」
頷く。理々子がチャージを始める
以前の俺よりは多くないけどそれでもちゃんと魔力が集まっている
つられて俺もチャージしてみるけど、やっぱり雀の涙程度の集まり方。
「それは明日考えるとして、まずはこれ」
と理々子がビニール袋から下着を取り出した。
「ん……やっぱつけなきゃいかんの?」
正直言うとめっちゃ恥ずかしいしすごく抵抗がある。
「でもそのままだと何かと不便でしょー?特に胸とか」
「まぁ、確かに。服に擦れて乳首が痛い」
ブラジャーなんて何の意味があって着用するのか理解できなかったけど
これも立派な理由の一つなんだろうな。
「まぁ硬いこと言わずにまず上脱いで」
「ていうかさ、理々子はいいの?男に貸すなんて」
でも服はちゃくちゃくと脱がされていく。
「秋斗が困ってるんだからいーじゃん?」
「ん…まぁ」
「じゃあ余計なこと言わない、はいこれ袖通してー」
………………………
「おっけー」
「う〜ん…ぶかぶかで逆に落ち着かない」
きっとぴったりでも落ち着かないんだろうな。
「あたしの胸基準だしねぇ」
理々子に勝ち誇られた。
ぷるるるるるるる
「お、電話」
カチャ
「はい」
『あ、あのぅー…葉山さん、でしたよね?』
「えぇ、まぁ」
自分の声でさえ別人のようだから俺まで一瞬迷ってしまう。
『会議で決定したことを報告したいと思います』
「はい」
『まず、葉山さんと須藤さんは謹慎3日です…これが私の限界でした』
「いえ、むしろそこまでしてもらって…」
先生の謝罪にこっちまで謝罪してしまう。
『ですが、葉山さんは身体検査のために検査通学してもらいます』
「はい」
『専門家の方にお話をつけていただきましたので、明日は学校で検査をしますので』
「わかりました」
『では、念のため明日はお迎えに参りますので…ごごごごゆっくりと』
ブツッ
「…最後何を想像したんだ?」
カチャン
「先生?」
「うん」
とりあえず明日のことを説明しておいた。


今日一日理々子が俺の会話の相手になってくれて、いくらか不安も和らいでた。
そんなこんなで時間も12時になって二人に欠伸が増えてきた。
「んー、そろそろ寝ようかな」
「あ、そだねー」
と理々子が制服を早業であっという間に脱いでしまった。
俺が認識し終わる頃には既に下着のみの姿になってた
「ちょっ!りりっ!?」
「いや、だって、寝るんだし」
「へ、部屋帰れよ!」
「あ〜、女子寮って10時過ぎたら閉まるのよね〜。だから泊めて」
「泊めてって…はぁ、あぁもうわかったよ」
門限の話はうそ臭いが理々子の押しに負けた。
すぐさま俺のベッドに理々子がもぐりこんでこっちに向きなおした。
幸いシングルベッドとはいっても寝返り対応の若干広いタイプだったので、ぎりぎり二人入れそうなスペースだ。
理々子が手招きしてくるので渋々俺もベッドに入り込んだ。
「いや〜〜〜、可愛い妹できたみた〜〜〜い」
何故か俺の頬に頬を擦り付けてくる。
妹って…今の俺が若干理々子より小さいからか?
これは今の状況とあいまってちょっと照れくさい。

「なんか、今日は気使わせちまったみたいで悪いな」
「悪いと思うならこっち向いてよ」
「むぅ…恥ずかしいんだよ」
すりすりされた後恥ずかしくて反対側を向いてた。
けど理々子の顔を見ていなかったら少し不安が募ってきた。
「それに、また危ないことしないためにお守りも」
「ん…悪い」
状況は変だが生きて生還しなかった俺も俺だから言い訳できない。
「さ、明日も大変みたいだから寝よ寝よ」
「ん…おやすみ」
「でもやっぱこっち向いてよ」
「だから恥ずかしいんだって」
この視線だと胸をモロに見てしまうから。
「いじっぱりだねぇ」
背中に胸が当たる。
「これで我慢しよ」
「う…ぅ…」
そんなやり取りしてるうちにすぐに眠りに落ちた。
慣れない身体で疲れていたのだと思う。
理々子が寝ている秋斗の頭に手を添える。
「あたしだって、秋斗が死ぬのなんて嫌なんだからね…」




11月19日、月曜日。
「ん……うぅ…ん」
ゆっくりと目を開ける。
目に入ってきたのは大きな肌色の丸い何か。
寝ぼけているから何なのかわからない。
とりあえずそれにタッチしてみる。
柔らかくてなんかちょっと安心できる。
ふとちょっと下方に丸い小さな突起を発見。
(ん……これ、乳首だな)
…………ん?乳首?
カチッカチッカチッカチッカチッ(頭が理解をするために要する時間の音)
「おおおおおおっぱい!?」
慌てて飛びのいたのでその表紙にベッドから頭から落ちる。
「くぅぅぅぅ」
目に入ってきたのは俺の体についたおっぱい。
「あぁ…そういえばこんな姿になっちまったんだっけ……」
まだこれが夢なんじゃないかとも思う。
というか、何故裸なんだ?
寝る前にはパジャマを着ていたはずだけど。
ベッドに目を向ける。
「うにゃうにゃ……とったど〜…」
寝てる理々子の被った布団の上にパジャマの上が、手にはパジャマのズボン
そして頭に昨日俺がつけたブラジャー。
パンツは本棚の方まで吹っ飛んでいた。
「何をどうすれば俺が起きずに剥げるんだ」
今度検証するべきか否か。

パンツを履いた時、目の前に鏡があったのでちょっと自分の姿を確認してみる。
「ふぅん……」
(自分で言うのもなんだが俺の顔って本当、女の体に合ってるな…)
ナルシストなわけじゃないけどなんていうか理想の女像って感じか?
よくグラビア雑誌でみる胸を強調するポーズを取ってみる。
………………
元男ということがわかってる顔でやるのは激しくキモいと実感しながら跪く。
「……着替えて飯作ろう」
今のこと忘れるために。
とここで次の問題が。
「……?ブラジャーってどうつけるんだ?」
さっき回収したブラジャーとにらめっこ。
昨日は理々子にやってもらったからほとんど見てない。
だからつけ方がわからないわけで。
とはいえそのままだと胸が痛いからつけないのは嫌だし
とりあえず覚えてるところまではやってみる。
まずは袖を通す。
(ぶかぶかだけど)ブラジャーを自分の胸に押し当てて紐を背中に回してみる。
手を伸ばす……
「むむ、むむむむ」
右手と左手の位置が合わない。
「女っていうのは中国雑技団並みに体が柔らかくないとやっていけないのか?」
参ったな…今から運動したって間に合わない。


ならば根性で!
「くぬっ!」
プチッ
「入ったっ」
鏡越しに確認。
つける位置が思い切りずれてた。
「ぅぅん」
なくなく外す。
「んん、んんんんん〜」
「傍から聞いてたらSEXしてるみたい」
「わっ!?」
突然後ろから手が出てきてブラジャーの隙間から胸をもまれた。
見えないけど間違いなく理々子だろう。
「お、起きてたのか」
「いやーあれだけ一人実況中継やられたら起きるって」
とかいいつつ揉んでる手は止まらない。
「や、やめろって」
「口で言っても体は正直よのーぅ」
「どこで覚えたそんな言葉!」
ガチャ
「葉山さー…ん……ちょ、お、し、は…ど、ど、ど、ど、ど」
先生と目が合った。
全裸の理々子と下着をつけた胸を揉まれてる俺。
しばしの沈黙。
「………お、お、お、お、お邪魔しましましましましましまた」
バタン
「ちょっ、誤解ですー!」
昨日もこんなことあったような。


必死の弁明をしてたら予定時間をオーバーしたので先生含め3人大慌てで学校に登校。
制服は喰われてしまったのでとりあえず私服で出てきた。
「はぁ、はぁ、こ、こちらが今日の検査を担当する大山ゆかりさんです」
どこかドラマにいそうな女医……なんて予想からまったくかけ離れていた。
どちらかといえばマッドサイエンティストな感じでぼさぼさ髪(天パー?)にゲームでしか見ないようなファンタジックな格好。
そして見た目はませたチビガキみたいな人。
「かしこまった挨拶はいらないわよ」
「はぁ」
まだ何にも言ってないけど。
「はい、じゃこれ身体の検査結果」
ピッと紙を差し出される
「え?」×2
「あ、あの、まだ何もしてないと思うんですけど…」
「昨日あんたがし終わって寝た後検査してたのよ」
左手でわっか、右手は人差し指をたて、わっかに指を往復させる。
「や、ややややややっぱり」
「してないですって!大体どうやって入ったんですか!?」
というか今これでその例えは変だ。
「あ〜、こんな感じでひょいっと」
突然大山?って人が目の前から落ちるように消えた。
「きゃっ!?」
先生が股を押さえる。
「こんな感じによ」
そしてまるで産み落とした胎児みたいに先生のスカートから大山さんがずるっと滑り落ちてきた。
「うわぁぁ!」
「私のようなだいっ!てんっさい!かがくしゃ!に不可能はないのよ」
とか言ってる変人が可愛くもないポーズを取る。
この人実はモンスターなんじゃ。
「あんた今失礼なこと考えたわね」
「メッソウモゴザイマセン」
ここでようやく先生が我に返った。
なんか色々と想像してたようだ
「んで、じゃあ何で俺呼ばれたんですか。検査し終わったのに」
自称天才科学者が人差し指をぴんと立てて
「あんたアホね」
ちょっとムカっときた。
「体は調べても魔法の力の検査もしなきゃいけないじゃないの」
「あ、そうか」
「じゃ、予定通り行くわよ」
自称天才科学者が何もない空間をなぞるとそこが突然割れ、科学者はその中に入っていく。
とりあえず入ろうと先生に言い、入ろうとするがその前に空間は消えてしまった。
「………んで、どこ行けばいいんですか」
「と、とりあえず魔法練習室へ行きましょう。魔法の検査から連想するとあそこですし」


地下に設けている魔法練習室。
その名の通り魔法の授業をするための特別教室。
大きな魔法をうっかり逸らしてしまっても教室に張り巡らされた結界がちゃんと吸収してくれます。
「あ、うちのクラスだ」
教室内に見知った顔が沢山いた。
理々子がこっちに気づいて手を振っている。
ガラッ
「今日は自習ですけど大切なお話があります」
段取りしていたようでスムーズに進んだ。
まず、昨日起こったことを先生が説明しだした。
………………
「そういったわけですので、危ないところへは近寄らず。秋斗さんには何かと協力してあげてください」
みんなから突き刺さるような視線を浴びて若干居心地が悪い。
エロい目で見る男子、興味深げに見る男女数人、気持ち悪いものを見る目の数人。
できればこの場からすぐに退散したい気分。
「では、自習ですが皆さんには最低課題としてこれをしてもらいます」
え〜っと声は上がるが俺を見ている人が多いためいつもより少ない。
「では、葉山さん、こちらへ」
先生に促されいついたのかわからない自称天才科学者に歩み寄る。
自称天才科学者が変な機械を取り出し、ゴーグルをつけ、合図をもらって魔法を使う準備をする。
………………
「はい、いいわよ」
魔法を合計10回使った後、止められた。
「ふぅ」
「はいせんせー、できたよ」
「あ、じゃあ今採点しますね」
「まぁ、魔力が全然集まらないことだけど」
自称天才科学者が何かを書いていた紙を俺に見せてきた。
「まあ元のあんたの周波数を仮に150とするわよ」
「はい」
「んで、体が変わって周波数も変わったと」
「ていうことは、俺は前の周波数からノイズだけを受信していると?」
「まあそんな感じね」
わかったようなわからないような。
「つまりはその周波数がわかってそれにチューニングすればいいってこと?」
「あ、りり」
採点中の理々子が覗き込んできた。
「その周波数はあんた自身にしかわからないわ」
さっきもらい損ねた紙と一緒に検査結果を受け取る。
「それがわかれば本当はチャージする必要ないほど元から魔力で溢れてんのよね」
だから暴走すんのよと付け加えられた。


職員室で色々とすることしながら。
「せんせー、秋斗の服とか色々入用なんだけど出ちゃダメなの?」
「う〜ん、そうですねぇ…一応謹慎なわけですから…」
「さすがに理々子の借りたまんまはちょっと」
「う〜ん、では理事長に掛け合ってみます」
「呼んだー?」
「うわ!?」
「わぁ!」
急に後ろから声がしたからびっくりした。
なんだ、自称天才科学者か……
「い、いや、呼んでないけど」
「理事長に掛け合ってみるって言ったじゃない」
「あ、いいところに」
え?理事長って
「この人が?」
先生が頷いた。
「…そういえば俺、この学校入ってから理事長とか校長って見たことない」
「言われてみればあたしも」
入学式でも毎年校長も理事長も看板以外で見たことない。
「先生も実は大山さんが理事長だと知ったのはつい昨日で…」
この学校は一体どうなってるんだ。
「ま、中野ちゃんがついていくならいいわよ」
「話わっかるぅ」
「あの、俺の意見…」
「では、授業が終わってから私の車で行きましょう」
「はぁ」
ここで授業開始のチャイムが鳴ったので俺一人だけ寮に帰ることになった。

なんとか時間を潰しながら午後の6時ごろ。
コンコン
「はーい」
ガチャ
「葉山さーん」
「あ、はーい、今行きます」
することもないから準備だけはしておいたからすぐに出る準備は出来ていた。
とは言ってもぶかぶかの服は変わりない。
「車を回してきますので加護さんと一緒に待っていてください」
「ういーす」
「はーい」
先生の足音が遠ざかっていく。
「え〜?そんな変な格好していくのー?」
「いいじゃん、買うんだし」
「ちぇー」
………………

「といったわけで到着ー」
「え、さっきの回想?」
俺の記憶では今頃車を待っていたはずだが。
ふと気づけば商店街にいた。
こういう時冷静に考えるのはダメなんだろうか。
「ほらほら行くよー」
「行きますよー」
「へぇ〜い…」


エレベーターで婦人服売り場(理々子が言うには今時の服もあるらしい)に上がってる最中、声が聞こえてきた。
「これゆきに似合うんじゃね?」
「それ完璧お前の趣味だろ」
女の方はちょっと気が強いタイプっぽいな。
「へ〜…よくカップルで下着買ってるとか聞くけどほんとなんだなぁ」
「今日はあたしと秋斗?」
「せせせ、先生なるべくお二人の視界に入らないよう努力します」
「いや、気使わなくて結構ですから」
そんなこんなでまず下着のコーナーへ。
「うわ、恥ずかしい」
「あら、秋斗って意外とウブなんだね」
「私でも平気ですよ」
先生に何かが負けるのが地味に悔しい。
いや、先生は女性なんだから当たり前だけど
「あ」
「?」
「採寸してもらわなきゃ」
「あー」
理々子が近くにいる女性店員を呼び出して採寸してもらう。
見知らぬ他人の前で下着姿になるのはすっごい恥ずかしい。
「こ、こうですか?」
「はい、そのままじっとしていてくださいね」
ポケットから出てきたメジャーで体のあちこちを調べられる。
なんか…妙に緊張する。
「あ、採寸結果をメモしたいんですけど」
店員さんは先生の問いかけに応えながらもテキパキとこなしてた。
といったわけで店員さんにサイズを聞いて選ぶことに。
まだ恥ずかしくて抵抗はあるけど。
「葉山さんは活発な見た目ですから明るめの色は?」
「ガーターベルトなんかは?」
「それは大人びすぎていないかと…これなんかは?」
「せんせー、そんな色今時処女くらいしかつけないよ」
「わわわ!わたしはしょしょしょ」
「先生、声がでかい」
先生の口を慌てて塞ぐ。
…………
「ん〜、これだとちょっと子供っぽく見えるねー」
理々子に手伝ってもらっての初めての試着。
胸の下にガードがついたようなブラジャーだ。正式名称は知らない
「では、こっちは?」
…………
「お、せんせーセンスあんじゃーん」
「あぁ、か・わ・い・い♪」
この後服でも同じ目に合うんだろうなぁ。


「合計で58600円です」
下着と服合わせて約25ほどお買い上げ。
「う……………」
さようなら、俺の生活費。
「ほらほら教え子が窮地に立たされてるよー?」
「う…あう」
なんか後ろからイジメの声が聞こえてくる。
「秋斗が食べれなくて野たれ死んじゃうー」
「う、うう、ううう」
「生徒の将来を踏みにじる教師……」
「せ、先生が出しますー!」
半ばヤケになりながら先生がびしっとカードを出してきた。
「い、いや、それは」
「これも生徒を守るためなんですー!」
「は、はぁ…」
店員さんも笑っちゃってる。
「ボ…ボーナス一括払いで」
店員さんがカードを通して先生に返した。
いいのかなぁ……
でも心の中では理々子に対してGJ!と思ってたりもする。

先生のゆ〜〜〜っくりな運転の中、爆睡しつつ寮へ帰ってきた。
「明日、明後日と一度確認しに来ますね」
「今日はありがとうございました。」
二人で発進する車を見送る。
…………
ガチャ
「ただいまぁ」
「たっだいまー」
車の中で一応後ろの存在に説得したが帰る気が一切ないようなので説得はもうあきらめた。
「ふぅ、疲れた」
袋を適当にクローゼット付近に投げる。
「時間って早いねぇ」
「俺、一度死んだっていうこと実感できないもん」
「それは思ってても言うのやめてよ」


「え?」
「あたしだってあの時怖かったんだからさ」
「あ…ごめん」
やばい、理々子が沈んでしまった。
話題を変えるために袋を手に取る。
「な、なぁ。ブラジャーのつけたかたおし…」
ぱっと取り出した下着の形がおかしい。
ブラジャーの方はまるで開きかけの目みたいな形しててパンツの方は妙な逆V字ができている。
確かに二人に選ばせはしたけどこんなの買った覚えなんて…
理々子がすごく不敵な笑みを浮かべている。
「いきなりそれを選ぶなんて大胆だねぇ〜」
「あー!勝手に入れたな!」
「よしよし、あたしが着せてあげよ〜か〜」
咄嗟に防御したけど相手の攻撃の方が上手で、あっという間に剥かれていく。
人間、下になったほうが不利という。
…………………
「や、やめ、やめてって」
大事なところ丸出しの下着を無理やりつけさせられて挙句に無理やり開脚させられそうになっている。
あそこは手で隠してるけど乳首の方は丸見え。
ある意味尻かくして胸隠さずである。
「へっへっへっ、よいではないかよいではないか」
「これじゃ理々子が男みたいだろ〜」
変に動くとその力を利用して開脚させられそうだからうまく動けないでいる。
「や〜、ちょ〜可愛い〜」
「理々子のこと嫌いになるぞー」
「じゃあ調教して純情にしてやる〜」
「や〜め〜ろって〜」
この日、両隣の部屋の住人は聞こえてくるアダルトな会話を聞きながらオナニーに勤しんだ。


11月22日、木曜。
謹慎も終わって登校日。
だけどまだ制服はない。
謹慎中に先生に問い合わせてみたところ、できるまで時間がかかるといわれた。
だからそれまでは私服で来いということだ。
「ふぁ〜〜〜〜ぁ……」
朝一番の欠伸と共に目を開ける。
今日も目の前におっぱいがある。
結局今日まで理々子は一度も帰らなかったし
朝起きる度に俺と理々子は全裸になってるし。
なんかもう見慣れたというよりは呆れた。
もうそろそろ雪の降る季節だからやめてほしい…
「うぅぅ…ベッドから出たくね〜」
……
「理々子のおっぱい暖かそうだな」
The・下心
まぁ、ここのところ毎日勝手に入ってくるし寝たフリしてればバレないだろう。
というわけで理々子のおっぱいに顔をつける。
あぁ、やっぱり暖かい。
「お姉ちゃん、だいすきぃ」
これはその場の雰囲気ってやつだ。
「じゃあお姉ちゃんにぎゅ〜っと抱きついてきなさーい」
「うん〜」
ぎゅっと抱きしめられたから抱きしめ返す。
…………………うん…………?
10秒以上にわたる沈黙
ものすごい勢いで全身に冷や汗が。
1時間くらいかかりそうな速度でゆ〜〜〜っくりゆ〜〜〜〜〜〜〜〜っくりと理々子の顔に視線を移す。
にや〜っとした顔の妖艶な笑みを浮かべた理々子が見えた。
BGMにド ド ド ド ド ド ド ド ドと聞こえてきそうなこの雰囲気。
そして数秒後、俺の人生は幕を閉じた。

「閉じてない閉じてない」
「ハッ」
理々子に肩を揺さぶられて我に返る。
「まぁ、でも返答次第によっては閉じるけど?」
「こ、これはデスね、その。抑えられない気持ちからの早まった行動でゴザイマス」
超しどろもどろ。
「それはつまり、あたしのこと好きってこと?」
「うんぇ?」
「じゃあ好きなだけくっついてきて〜」
また抱きしめられた。
(あれ……?いつの間にかカップル成立してる?)
あの空気の思考停止状態から脱出するためのその場しのぎの発言がいつの間にか告白になってる。
今にして思えば俺もかなり思わせぶりな言い方したかも。
段々と俺の頬が赤くなってきた。
「じゃあ今日はサボって愛し合おうか〜」
「んー、んーっんぅ〜」
顔がおっぱいに押し付けられて息ができない。
バンッ
「サボりはいけま───!!」
この展開何度目だろう。


制服に(私服に)着替えて先生が来た理由を尋ねる。
「え?女子寮?」
「実はこのお隣の寮生が眠れないと言ってまして」
「う〜ん…いつも騒がないよう気をつけてるんですけどねぇ」
普通の会話でもそこそこ響く寮だからなるべく普段から気をつけているけど。
「女性を連れ込んでいるというのが気になる様です」
「連れ込んでるじゃなくて勝手に住み込んでるですけど」
「っていうか今は女二人だよねー」
座ってる俺に理々子が胸を頭の上においてくるので重たい。
「でも女子寮の生徒が受け入れるとは限らないでしょう」
「理解を求めていただくしかありませんねぇ」
3人してう〜んと呻く。
「あ、それとですね、ルーンファクトの魔法素材が届きましたので魔法の授業の前に作成しますね」
「はい」
今日の魔法の学科は5、6時間目か。

というわけで今日の1〜4時間目の授業内容は面白くないのでカット。
まぁ、休み時間ごとにあれやこれやと聞かれていたが。
そんなわけで昼飯時には若干疲れていた。
ピンポーンと校内放送の合図が鳴った。
『葉山秋斗さん、職員室までお願いします』
「まだ飯全然食ってないのに」
「んじゃ俺らの腹に収めようか」「なぁ、あ〜んしてくれよハァハァ」
キモい発言してるのを無視して食べかけのパンを袋にくるんでしまい、席を立つ。
コンコンガラッ
「葉山さん、こっちです」
先生に促されて先生のもとへ歩み寄る。
「ごめんなさい、食事の途中だったと思いますけど」
「まぁ、仕方ないですよ」
では行きましょうかといわれた後先生が丸いものを俺に渡し、二人で職員室を出て行く。
そのまま階段を降りて地下へ。
魔法練習室の隣にあるのが特別室。
4年前もここでルーンファクトをこの丸いのを使って作成した覚えがある。
この部屋には中央に台座があって魔法練習室より強い結界が張ってある。
だから集中して自分の思い通りに作成ができる。
「では、台座にセットしてください」
大きな台座の上に素材をかざす。
手を離してもそれは落ちずに浮き、ゆっくりと回転を始める。
その間に先生が機械のスイッチを入れていき、台座に何か不思議な力が帯びていく。


「それでは、始めてください」
「はい」
台座と魔法素材の前で両手をかざし、意識を集中させる。
イメージと共に、時間と共に魔法素材の回転の速度は増していく。
時々ちょっと出っ張ったりへこんだり、素材が徐々に変形していきつつ、回転はどんどん速くなる。
目を瞑り、以前と同じ本をイメージする。
パンっと何かがはじける音の後、すぐに静寂が訪れた。
3秒くらいしてから目を開ける。
目の前の台座には本の形をルーンファクトが。
「あ、あれ?ない」
あるはずのルーンファクトがない。
「は、葉山さん」
先生が大きなついたて鏡を持ってきて俺を移した。
…何か背中で浮いてる。ついでに胸の上に妙な宝石がくっついている。
横向きになって横目で背中についてる変なのを確認する。
なんだろう。アニメオタクが好みそうな半透明の小さな羽根が服を超えてふわふわと浮いている。
しかもこの羽根、頭で思うと微妙に動きがコントロールできる。
「は……葉山さん……」
「な、なんですか」
先生が目を丸にしたまま固まってる。
「…………可愛い♪♪」
「は?」
先生の顔が溶けそうなぐらいうっとりとした表情になった。
「う、う、動かせるんですか?ちょっ、ちょっと動かしてみてください♪♪♪」
い、いつもの先生じゃない。
「せ、先生?」
「動かしてください♪♪♪♪♪」
「う……は、はい」
鏡で確認しながら渋々羽根をぴこぴこ動かしてみる。
「はぁあぁぁ……♪♪♪♪♪♪♪」
完璧自分の世界に入ってしまってる。
確認のために鏡を見つつちょっと歩いてみる。
羽根は1テンポだけ遅れてついてくる。
…ついでに先生もついてくる。
「ファンネル!」
意気込んでみるがやっぱり飛んでいかない。
「あ、ぁぁん…♪♪」
「あ、あの……もういいですか?」
「授業が始まるまで待ってください♪」
「あ、いや…飯食いたいんですけど」
「勝手に食べていてください♪」
じろじろ見られながらなんて喰えるか。
仕方ないので教室に戻ることに。
…………。
(うぅ、なんか背筋が気持ち悪い…)
結局教室に戻るまで、というか授業開始までずっと見られていた。


というか。
「かわい〜〜!」「ね〜動かしてみて〜!」「萌え〜!」
「おいどん、ピュアがほとばしるでごわす!」「あっ、イク」「ウッ」
5時間目の授業が始まったのに男子も女子も入り混じってほぼ全員で俺を見てくる。
「も、もっと過激な動きを♪」
「あの、先生、授業を……」
「自習♪♪」
即答された。
「はは、秋斗、ごくろうさま…」
「ありがとう秀秋……」
とか言う秀秋自身は距離を置いてる。
ちなみに理々子は俺イジメに参加中。
「助けて……」
この後どうやって授業を乗り切ったかはっきり言って覚えてない。

HRが終わってまたもや羽根弄りされてる最中、校内放送が流れてきた。
『葉山秋斗さん、中野先生、職員室まで来てください』
と男の先生らしき声で。
この声を合図にやっと女子も男子も散ってくれた。
疲れた足取りで先生と理々子と3人で職員室へ向かう。
ガラッ
「はぁーい…」
「あ、中野先生。理事長の藤本理香子さんから伝言を預かってますよ」
「えっ…?ふじ、もと…?」
そんな名前だったっけか?
「はい、こちらです」
と男の先生が一枚の紙を凛先生に渡した。
それを3人で覗き込む。
[中野先生へ。葉山秋斗を5分だけひきつけておくこと]
「ひきつけておく…?」
「よくわかりませんけど…ここで待っていろということでしょうか」
正直あの自称天才科学者のやること全てから逃げ出したいが。
とりあえず先生をからかいながら少し待つ。
大体5分して空間からにゅっと自称天才科学者が現れた。
「終わったわよ」
「?」×3
主語がないから何を言ってるのかわからない。
「はいこれ」
と俺の手に何かを置いた。
325と書いたシールが貼ってある鍵だ。
「?何ですこれ?」
「女子寮の部屋鍵」
「え!?」
「もう引越しは済んだわよ」
一度この人に常識とは何か聞いてみる必要がありそうだ。
「いや、というか女子寮の生徒に説明は?」
「ちょっと弄ったから全員なんとなく納得するわ」
「弄ったって何を…」
「だいっ!てんっさい!かがくしゃ!に不可能はないのよ」
…こういうことってまともに突っ込んじゃいけないのかな。


「はぁ、なんか精神的に疲れた…」
「あの人面白いねー…悪い意味で」
理々子に女子寮へ案内してもらう。
男子寮の反対側、少し離れた場所にあった。
「なんか女子寮って豪華だなぁ〜」
それにちょっと安心する香りがする。
「男子寮ってさー、なんていうか変なにおい漂っててきっついよねー」
「慣れるまでは地獄だぞあれ」
湿気の多い日は特に生乾きの匂いがぷんぷん漂ってくるし。
そんなわけで、女子寮にお邪魔した。
ギイィ……
「うっわぁぁ、ひろっ!」
目に入ってきた女子寮のリビング。
男子寮とは段違いの大きさで化粧台まで用意されている。
急に豪邸に引っ越してきた気分になってくる。
「男子寮って女子寮より人多いはずなのに窮屈だよねぇ」
「だねー」
男尊女卑がどうこう騒がれていた時代はどこへ行ったやら。
「325ならあたしの部屋に通りにあるから。こっちこっち」
促され、後ろをついていく。
渡り廊下に入ったところでうちのクラスの生徒とばったり出会ってしまう。
これが普通の生徒ならよかったのだが今の俺を否定的な派閥?の女子だからちょっとばつが悪い。
「あ〜!何で葉山がこんなところいんのよ〜!」
ついでにツインテールで高飛車と絵に描いたような奴だ。
今日の授業前に囲まれてた時も輪に入らずずっとこっちを睨んでいたし。
「いや、何でっていうか…無理やりこっちに住まわされるというか」
「えぇ〜!?こっちに住むわけ〜!?」
こいつの小言聞きたくないなぁ…
「ま、まぁ、仕方ないわね……?」
予想外の発言に驚いてるが何故かあっちまで驚いてる。
「あ、あれ…?今の今まで嫌だったのに」
「どしたの?まっき」
不思議そうに眺めてた理々子も入ってきた
「よくわからないんだけど、葉山に言われた途端妙に納得しちゃって」
「気使わせて悪いな」
「え、えぇ、いいわ。それじゃ」
首をかしげながらツインテールがふらふらと行ってしまった。
「何だったんだ…?」
「さぁ?」
それは置いといてまた歩き出す。
途中にある321が理々子の部屋だと説明受けつつ325の目の前へ。
鍵を差し込んで回すと回った。
ガチャ


「チチチチチチ」
「ギャー、ギャー」
目の前にはジャングル。
「!?smaidoa,glerodks!」
視界の遠くから民芸品のような装飾をつけた半裸の黒人が現れて何か言っている。
その様相はほんとにいそうな原住民といったところ。
少なくとも日本の人ではない。
黒人がこっちへ走ってきたので慌てて扉を閉めた。
理々子と顔を見合わせる。
「……?」
「???」
誰も今のそれを説明できるはずもなく。
「……と、とりあえずもう一度開けてみよう」
「う、うん」
ガチャ
「あ、俺の部屋だ」
若干見た目は変わっていたが見慣れた光景が目の前に広がった。
じゃあ今のは何だったんだ?
超警戒しながらゆっくりと部屋に入る。
少し確認して何もなさそうだったので、理々子に合図して部屋に招き入れる。
安心して座ってからも何か聞いちゃいけないような気まずい雰囲気が流れていた。


「ねぇ、お風呂行かない?」
「風呂?ってことは大浴場あんの?」
女子寮も見た感じそうだったが男子寮には部屋のバスルームの他に大浴場が2室ほどあった。
でもやっぱり先輩後輩の流れがあって窮屈だったから俺はほとんど利用していない。
「でも、いきなり行ってまずいことにならないか?一応元男ってあるし」
「ん〜、じゃああまり使われない6室行けばいいんじゃない?」
「ろくぅ!?」
「え?6まであるっしょ」
何か悔しい。
「う〜ん、じゃあ誰もいなかったら行こうか」
「おーけー、んじゃ見てくる」
理々子が部屋を出て行った。
……よくよく考えたら普通に混浴だよな?
ちょっ、すっごく恥ずかしくなってきたぞ。
人生の転機のごとく悩んでいると理々子が戻ってきた。
「6に誰もいなかったからいけるよー」
「な、なぁ、やっぱりやめない?」
「な〜んでさ〜」
「いや、そのさ。二人で入るなんて…」
「いいのいいのいいのいいの。ほら早く準備」
ぐいぐい引っ張られ、勝手にお風呂セットを用意されて半ば無理やり出発させられる。
理々子の部屋の前で一旦理々子が中へ行き、自分のお風呂セットを持ち出してそのまま浴室へと持っていかれる(俺が)。
「むぅぅぅ」
順調に裸になっていく理々子を直視できず、俺は服も脱がないまま唸ってる。
「ほーら、ちゃっちゃと脱ぐ」
「こういうのって理々子が恥らって俺が堂々としてるべきなんじゃ…」
「こういう場所じゃ男より女の方が堂々としてるもんだって」
「そんなもんなのかなぁ」
「それよりあたしの裸なんていっつも見てんじゃん」
「まじまじと見れるかっての」
俺より大きい胸が羨ましいし。
…?羨ましい?
「体冷えるからはーやーく」
「は〜い」
ガチャン
「男子寮の浴室と大きさは同じくらいだなぁ」
「こら、秋斗。男みたいに隠さないの」
これは自信のない男の性分だから仕方がない。
まず洗い場について頭から洗う。
ぐしぐしぐしぐし
「あ、こらー!髪痛むでしょー!」
「えぇ〜?」
別に髪は長くもないし別にいいような。
「禿げたい?」
その言葉でぴたっと手の動きが止んだ。
結局指導を受けながら理々子に頭をわしわしされる。
決して爪の立てないやり方でちょっともどかしく感じながらも優しく洗われてるとちょっとだけ子供に戻った気分だった。
「女って大変だなぁ」
そう考えると男って気楽だなぁ。
お湯で石鹸を流し、顔を振ってタオルで拭って一息。


「じゃ、次あたしの番ね〜」
「何が?」
「秋斗があたしを洗う番」
理々子が俺の横に座った。
釈然としなかったがさっきされた通りにやってみた。
「こう?」
「ん〜もうちょっと弱め」
「こう?」
「秋斗のおっぱいが背中に当たってるー」
「あっ!ご、ごめん」
慌てて体を離す。
「女同士だから遠慮しないでいーのいーの」
改めて頭を洗い始めるけど理々子がわざとらしく背中を丸めるのでおっぱいをくっつけるほど密着しないと届かない。
妙に意識しちゃったから恥ずかしい。
ばしゃーっ
「はい、タオル」
受け取ろうとしないので渋々拭いてやる。
「ぷぅ〜」
理々子が一息。屁ではないぞ。
それを見てさっき自分が座ってたところに座り、タオルにボディソープを染み込ませる。
「あ、背中流す〜」
「いーよ」
「流すったら流すの〜」
「はぁ…わかったよ」
なんか段々理々子が子供じみていく…
俺のタオルを渡してちょっと緊張しながら待つ。
後ろから音は聞こえどもなかなか背中を洗ってくれない。
「んー、まだ?」
「おっけー、いくよ」
背中にタオルが当てられ、上下に動き始める。
でもなんか妙な感じがする。
手を使って拭かれていないような…妙な何かを使っているような。
でも恥ずかしいので確認はできない。
むにゅ
「ふわっ!?」
背中のタオルは動いているのに突然おっぱいを揉まれた。
手にボディソープをつけているようでにゅるにゅると艶めかしい動きをさせながらおっぱいをぐにぐに揉まれる。
「ちょっ、ちょっと何してんの!?」
ちょっと声が裏返った。
「これぞ必殺ソープ洗い〜」
「どこで覚えたそんなこと!」
「秋斗のエロ本コーナーから」
脳裏に該当する本が浮かび上がった。
(俺のじゃないけどそういったら余計に誤解を招きそうだからやめとこう)
というかいつ読んでたのか。
……あの変人に見つかってないだろうか。
「誰か入ってきたらどーすんだよ!」
「女湯なんてこんなこと日常茶飯事だよー」
「嘘だろ絶対っ」
もう背中の動きはほぼ止んで手で全身をくまなく触られている。
「やっ、んぅーっ」
「お、羽根がぴんってなってる」
俺には見えていないがどうやら羽根で反応を示していたようだ。
身体が熱くなってのぼせそうになったところでようやく開放してくれた。


「はぁ〜〜〜」
湯船に入って第一声。
「おやじくさ〜い」
「誰の所為だと思ってんだ」
タオルを絞ってため息を一つ。
「なんか、色々すぐに運びすぎて男だったことを忘れそうだ」
「まー、男の時のクセらしきものは出てるけどね」
それは仕方ない、と思う。
もう一息ついて無言で浸かってると理々子に話しかけられた。
「ねぇ?」
「ん?」
「元に戻りたいって思う?」
「ん〜…まぁ、戻れるならかなぁ」
とは言えども元の体はモンスターの胃に納まったから無理だとは思うけど。
「嫌なの?俺が戻るの」
「あたしはー…秋斗が無事でいてくれるならいいかなぁ」
それを聞いてちょっと申し訳なくなる。
「好きな人に体がどうとか性別がどうとか関係ないよ」
「りり…」
この前曖昧にしたことが申し訳なくなってきた。
失言とか思ってたけど、違うかも。
「あ、そーだ!」
「?」
「この前キスしてない!」
「ぇ!?」
隣に理々子がいたために容易に肩をつかまれた。
「いーまーこーこーでー」
ゆっくりと確実に、理々子に迫られる。
「り、りりさん。ムードがありませんよ」
「何、あたしとするのが嫌?」
「い、嫌じゃないけどその前に」
深呼吸をしてまっすぐ理々子を見つめる。
「……理々子が好きだから、ね?」
「うんっ」
二人で顔を近づけてのキス。
ムードには乏しいけど…まぁいいか。
顔を離し、お互いに微笑み合う。
「じゃ、あがろうか」
「うん」
ちょっとのぼせ気味でふらつきながら出て行った。


リビングに出て少し頭を冷やす。
「は〜〜」
「さードライヤーでかわかしましょーね〜」
ドライヤーを頭に当てられつつ、櫛で整えられる。
「あ、葉山ー」「なんか姉妹みたいだねー」「こんばんはー」
うちのクラスのよく女子3人でいるグループがやってきた。
今のところABCとしておこう。
ちなみにこの3人は女の俺歓迎派だ。
A「いやいや葉山、やっぱりあんたって元から女でしょ」
「かっわいいもんねー」
「そーかなぁ」
3人そろって俺の顔をじろじろと眺めてくる。
C「そおだ!ねえアキちゃん」
自分の手を叩きながらCが覗き込んできた。
「へんな呼び方」
「アキ、ねぇ…いーねぇ」
「いいのかよ」
C「土曜日さ、予定空いてたらお昼頃にまたここ来てよ」
「え?うん、いいけど」
B「えみ、またクセでたね」
C「いいじゃんいいじゃん、3人共見てみたいでしょ」
「うんまぁねぇ」
A「見てみたいねー」
B「うんうん」
なんか4人で盛り上がってるが俺だけ理解できない。
「ねぇ…何するの?」
4人そろって「ヒミツー」
そして、すぐに3人は帰っていった。

「んじゃ、お休みー」
今日も今日で二人でベッドにもぐりこむ。
「部屋近くなったんだから戻らないの?」
「やだ。ここで寝る」
「はぁ…」
「じゃ、おやすみ〜」
抱き寄せられた。
「ちょっと苦しい」
手が緩んだので呼吸のしやすい位置に動く
「ん。お休みー」
「お休みー」
女子寮のいい香りに包まれつつ、眠りについた。


ぴりりりりりりりりりっ!ぴっ、ブウン。
「葉山少尉、葉山少尉」
「聞こえています」
正直ねていたいのだが、須藤大佐の声が慌てていることもあるので、無下にはできない。
「集合(コール)だ」
その言葉で完全に頭が目覚める。
了解とだけ言い残し、通信を切断し特殊素材のバトルスーツ(というよりタイツ)に着替える。
ゆっくりだが、強い歩みで司令室へと向かう。
プシュー
「葉山アキ少尉です」
「うむ」
大佐の横で機器を操作している加護オペレーターに近寄り、小さな機械を受け取る。
「大変なことが起きた。まずはこれを見てくれたまへ」
ピンっという音と共に目の前にある巨大スクリーンにこの基地と、その周辺の地図が映し出される。
「民間基地のポイントB-58がクリーチャーによって突如占拠された。今回はその基地にいるコアの掃討を頼む」
B-58民間基地を襲撃したクリーチャーはいつも戦闘しているタイプだ。
コアが入り一瞬に繁殖し、周りの全ての生物を無差別に食い尽くすまさに地球の癌だ。
「敵はいつもどおり小柄のが無数にいるタイプのようだから、拡散ビームキャノンを使ったほうがいいだろう」
「了解しました」
透明のスクリーンを通過し、その先にある開けた場所に立つ。
上から砲筒のような物が降ってきて、それを地面に当たる前にキャッチする。
その後、指令室内の警報機が鳴り、天井が開く。
空が見えるようになった後、足元が競りあがり始めた。
基地の天井に上がり、完全に外に出た。
「Aタイプ、ON」
背中の半透明の羽根が変形し、ブースターのような形に変わる。
砲筒のレバーを引き、使用可能になったのを確認。
表情を険しくすると、ブースターで思い切り前方斜め上へと飛んでいった。

「基地を確認。敵もたむろしています」
『頼んだぞ』
「はい」
クリーチャー達がこちらに気づき、前方が見えなくなるほど密集してくる。
「どけぇぇ!」
持っていたビームキャノンのトリガーを引き、多量のビームがランダムに飛んでいく。
その先で何百匹ものクリーチャーがぐちゃぐちゃになっていった。
ある程度駆逐したところでブースターを点火、その中へと突っ込む。
途中で砲筒のスイッチを切り替え、もう一度レバーを引く。
それを微かに見える民間基地に構え、放つ。
ビームは拡散せずにその一点を貫いた。
巻き添えになったクリーチャーの亡骸の中を半ば無理やり突っ込む。
穴の開いた所へめがけてブーストする。
早く入らなければ穴が塞いでしまう。
そんな危惧も一気に入ってしまえば何の問題もない。


中に入ってすぐに砲筒からパーツの一部分だけを外し、その場に捨てる。
中は臓器や肉片を撒き散らしたような醜悪さで、今は慣れてしまったが最初の内は吐いたほど不快なものだ。
やがて前後の通路から人間より少し大きいくらいのクリーチャーが沢山やってきた。
前後を交互に確認、敵の少ない前方に狙いを定める。
左手に力を溜めると高速の光の矢が放たれ、最初の一匹を一撃で絶命させる。
それを見計らってその方へ走り、崩れ落ちるクリーチャーのその後ろにいるクリーチャーを一薙ぎに首を飛ばす。
さっきのパーツからは魔法の剣が具現化していた。
壁走りをし、少し遠くにいたクリーチャーに向かってブレードを撫でるように通過させる。
クリーチャーの頭に一筋の斬れた痕がつき、崩れ落ちるのを見ることなくそのまま走り続ける。
目の前の行き止まり…いや、肉扉を開く。
ミチッ、ビチビチビチビチビチ……
「っ!?」
開けた場所の中央には全裸になって触手によって拘束されている女性がいた。
それが見覚えのある顔だったことがより驚きを増やすことになる。
「りっ、凛さん!」
数日前にクリーチャー討伐の際に行方不明になった中野曹長だった。
目を瞑り、意識を失っているようだ。
凛さんに走りよる。
「い、今助け──!」
正常な判断を失っていたのが愚かだった。
気づけば足には肉のツタが絡まってまともに動けない。
「ふふ、うふふふふふふ……」
「!?」
中野さんが……笑った。
そしてすぐに中野さんに絡まっていた触手がはずれ、彼女が自由になる。
「うふふ、ふ、ふ、ふふふふ…」
「あ…あんた…誰だ!?」
彼女に絡まっていた触手は今度はこちらの手足に絡みつき、完全に動きを封じられた。
「私は中野凛曹長ですよぉ…ふふっ」
中野さんは妖艶な笑みを浮かべてこちらを見ている。
「葉山少尉……」
「う……」
若干怖い。
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