「死ぬかと思った………」
 鬼のような息苦しさに苛まれてから、どれ位経っただろう。
 咳き込みも大分治まり、荒い息を吐きながら一人ごちる。
 こんな事を今まで何の気なく麻里紗にさせていたんだと思うと、心がチクリと痛むものだ。
 そんな思いに耽りつつ麻里紗の方を見遣ると、まるで糸の切れた人形のようにぐったりと、
そして力なくベッドに横たわっている彼女の姿があった。
 顔は完全に緩みきり、呆けたような表情を浮かべたまま天を仰いでいる。
「おい……麻里紗?」
「ほぇ………?」
 気の抜けたような声が、俺の呼びかけに応じて返ってくる。
「なんか……出ちゃうとき頭真っ白にはじけてね…ほぇ〜って感じになっちゃって………
それで終わっちゃったら……体中から力が抜けちゃった感じ…………」
 その言葉の通り、麻里紗の言葉にもあまり力が感じられない。
 微笑とも恍惚ともつかぬ表情のまま、僅かに俺の方へと顔を傾けた麻里紗の口から、
次の言葉が紡がれる。
「でもね………まだ出したりないかも……」
 その言葉を裏付けるかのように、まだピンと立ったままのモノが見て取れる。
「……分かった。またしてやれば…」
「ちょっと待って、その前に…」
 まるで手招くような麻里紗の素振りに、俺は吸い寄せられるように彼女の元へと近寄っていく。
促されるまま、彼女の顔を覗き込もうとしたその時だった。
「ちょ……なぁん!?」
 俺の身体を抱きとめるや否や、麻里紗の舌が執拗に俺の顔を這いまわり始める。
「んんっ……っはぁ………ぬふっ……」
 まるで犬のように執拗に、そして丹念に、俺の顔にこびり付いている精液や涙を舐め取っていく。
「はい、お掃除終わり」
「……そりゃどうも」
 ふやけた顔のまま、俺はただボソリと、呟くように答えるのみだった。




―[4]―

「……んしょっと。これで…いいんだよな?」
「うん、バッチリ」
 よろけそうになる身体を片手で支えつつ、後ろへと振り返る。
 麻里紗の顔を跨ぐようなこの体勢に、恥ずかしさと申し訳なさをない交ぜにしたような、
そんな感情がが込み上げてくる。
……もっとも、麻里紗は麻里紗でてんで気にしてはいないようでもあるが。何しろ、
「ほえぇ〜………」
 何が何だか知らないけど、突然感極まった声を出すくらいなのだから。
「なっ……何だよいきなり…」
「だって満幸のおしり、すっごくキレイなんだもん」
「ちょ……また何なんだよ」
「まぁるくって、つるつるで……瀬戸物みたいな感じで…」
「はぁ……」
「もうかぶりつきたくなっちゃうくらい!」
「……あのさぁ、もう始めちゃっていい?」
「あ……うん、早く始めちゃって」
 何かの弾みでスイッチが入ると、どっぷり自分の世界に入り込んでしまう。
 つい最近もどっかでそんな光景を目にしたような気がしたが――多分気のせいだろう。
「……んじゃ、始めるからな」
「うん」
 再び、麻里紗のモノへと舌を伸ばす。
 唾液をまぶしつつ、ぬるぬるとしたモノを片手でしごき上げていく。
一度出したとは言え、まだまだその固さは落ちてはいないようだ。
「んぅっ……むぅん………ぁっ………」
「ほへぇ……ふゃぁぁ………そこぉ…っ!」
 麻里紗の熱い吐息が秘所へとぶつかってくるのが感じられる。
 俺の身体にも変化が現れ始めたのは、丁度その頃だった。
――なんか………身体が……熱いかも……。
 身体の奥が妙に疼いてたまらない。
  こんな微かな刺激だが、俺を感じさせるにはそれだけで十分のようだ。
既に体の方は薄っすらと汗をかき、頭の中にはもやもやした感覚が満たしつつあった。


 当然、そんな状態を麻里紗が見逃す筈がなかった。
 敏感になっている秘所を舐め上げる小さな舌。
「ふゃあっ…!?」
 先程までの痺れを束にしたような快感が、堰を切ったかのようにまとめて押し寄せる。
 体中から一気に力が抜け、支えを失ったかのように崩れ落ちる俺の身体。
その為に、秘所をペタリと麻里紗の顔に押し付けるような形になってしまった。
 それを見計らっていたかのように、スルリと麻里紗の両腕が俺の腰へと巻きつけられる。
まるで昨日、俺を拘束した時のように。
「んゃぁっ!」
 頭の中が真っ白になりそうな、そんな強烈な快感が瞬く間に体中を駆け巡る。
「いひゃぁっ!……まりさ…ぁっ…んあぁっ!?」
「すっごい感じてるよね……こんなにトロトロになっちゃってる」
「ぁあ……っぐ………やぁぁ……」
 時に秘裂を割り広げられ、またある時は愛液を啜られ、さらにある時は舌を中へと差し入れられたり……。
 絶え間なく押し寄せる激しい快感に、俺の口は既に目の前のモノから離れ、
ただただ喘ぎ続ける事しか出来なかった。
 ――ある一言を聞くまでは。
「……お口の方がお留守だよ?」
 てんで動けない俺をからかうようなこの言葉に、心に俄かに火が点いた気がする。
――ったく………好き勝手やりやがって……!
 そんな思いに駆られ、俺は麻里紗の股間へと再び手を伸ばした。



「ふゃぁっ…!?ちょっとまってぇっ!」
「お返し……ってやつ!」
「……そこだめぇっ!」
 先程までの小悪魔ぶりから一転して、急に慌てた様子で叫ぶ麻里紗。
 既に濡れそぼっていた秘裂を指で掻き回しつつ、痛々しく張り詰めている亀頭を咥え込む。
「やっ……ずる…いってばぁ……っ!」
「今まで散々…やりたい放題だったくせに」
 涙声混じりの抗議も、今や俺の耳には全く入ってきていない。
 自分の事を棚に上げて……という憤りの念もあった。けれどそれ以上に、
俺の思考が徐々に快感に妨げられていたのも確かだった。
 また昨日のように、終いには何も考えられなくなってしまうだろう。
 ただ一つだけ違うのは、その事に対しての嫌悪感が大きく薄れているという事なのかも知れない。
少なくとも、昨日よりかはこの快感を素直に受け止められている気がする。
「いひゃっ…もぅ……ぅやぁぁ………やめてってばぁ……」
 涙声で懇願する麻里紗をよそに、俺は責めの手をさらに強めていく。
 二本の指でぐちゃぐちゃになった秘裂を掻き回すと共に、
親指では剥き出しになっているクリトリスをグリグリと捏ね回していく。
 それに合わせ、麻里紗の足がガクガクと震えているのが見て取れる。
「ゃぁだぁっ!……ひゃぁっ!くぁあんっ!」
 ぬちゃぬちゃとした水音と共に部屋中に響き渡る嬌声は、既に言葉の体を成してはいなかった。
――受けに回ると…弱かったんだっけな……。
 ふとそんなことを思い出しながらも、その責めの手を緩める事は無かった。
昨日散々やられたし、今日くらいは受けに回ってもらってもバチは当たらないだろう。
「だめぇ……いっちゃう!いっちゃうってばぁ!」
 その言葉が言い終わるか終わらぬうちに、麻里紗の身体がビクンと、大きく跳ね上がる。
その拍子に軽く弾かれた俺に、再び熱い迸りが盛大にぶちまけられる。
 先程ほど粘っこくは無いにしろ、その量はやはり半端じゃない。おかげで舐めてきれいにしてもらった顔も、
ほんの僅かのうちに再び白く染め上げられてしまった。
「……ひでぇ」
「どっちが……ひどい…の?」
 息も絶え絶えになりながら、怒りを含んだ声で呟く麻里紗。
「やられっぱなしなんて……やなんだから」
「って……ちょっ!何すんだよ!」
 さっきまでのクンニですっかりとろけきった秘所に、再び麻里紗が口付けてくる。
 正直、あれだけ派手にいった後でこんな元気が残ってるとは思ってもみなかった。
まるでしがみつくかのように、腰に回されている腕にも力が込められていく。
「んぁあっ…このっ!」
 負けじと、若干萎えかけていたモノを再び口に頬張る。

――一体、いつまで続くんだ……?
 そんな不安を抱きつつ、次第に快感の波に飲まれていく俺の心があった。



 日も西の空へと落ち、外が夜の帳に包まれつつある頃。
 ベッドの上ではなおも、俺と麻里紗の交わりは続いていた。
 室内に響き渡る湿った音が、部屋の仄暗さと相俟って淫靡さを演出しているようでもある。
 何度となく達し、そして休む間もなくどちらかの手によってまた快感を呼び起こされ……。
気が付けばもう、俺も麻里紗もクタクタになっていた。
「んはぁ………これでもう…何回目?」
「多分…六回かも。満幸は…?」
「間違って無きゃ七回位だと思う……」
「あたりぃ……あたしの勝ち…って満幸?またやるの…?」
「……何か癪な気がするから」
 それだけ言い残し、萎えかけている麻里紗のモノを再び咥え込む。
 あんな事を言ったものの、既に何度やったか、何度いったかなんて全く覚えていない。
恐らく麻里紗も同じだろう。
「うは………またカチカチ…」
「言わないでよ……そんなの」
 流石に疲れ切ったのか、麻里紗の言葉にも覇気が感じられなくなっている。
 それでもちゃっかりとクンニを続けている辺りは麻里紗らしいのだが。
「なんか………やる度にうまくなってる気がする……」
「そう……?」
 あんまりピンと来ないけれど、麻里紗が言うのならそうなのかも知れない。
というより、そこまで考える余地は既に俺には無かった。
 この目くるめくばかりの快楽に、完全に酔いしれていたのだから。
 昨日までの俺がこの光景を目の当たりにしたら、そのまま昏倒してしまうだろう。
急激な変化をこの身で感じつつ、不意にそんな事を考えてしまう。
 その間にも、押し寄せてくる快感は留まるところを知らない。
「ひゃぁぁ………麻里紗ぁ……そろそろ………」
「いっちゃう……?」
「……うん………ふゃぁ……」
「じゃぁ……いっしょにいっちゃお?」
 麻里紗の舌の動きが俄かに激しさを増す。
 それに負けじと、俺もモノを口にしたまま、首を激しく振りたくる。
お互いに相手を追い込み、高みへと昇らせていく動き。
 蕩けそうになる快感の中、やがてその時は訪れた。
「ゃぁあっ!いっちゃう―――っ!」
「ぅやぁ………ふああぁぁん―――!」
 喉へとなだれ込む熱い感触を、そして全身を支配する脱力感を感じながら、
俺は再びその場へと崩れ落ちた。



 目が覚めたのは、それからさらに何時間も経ってからの事だった。
 晩飯の時間もとっくに過ぎ、ともすれば日付が変わりそうな頃だからか、既に部屋は暗闇に包まれ、
一切の静寂と共にその場を支配していた。
 麻里紗は俺の隣で泥のように眠りこけている。あれほどその存在を主張していたモノも、
今や影も形も見当たらなくなっている。
 多分、それが無くなってしまった事とイコールにはならないだろうけど。
――顔だけでも…洗ってこよ。
 まだ眠り続ける麻里紗を部屋に残し、フラフラとした足どりで洗面所へと向かう。
 パリパリに乾いてこびり付いた精液を洗い落とし、ふと顔を上げた時だった。
――これって……俺…?
 他ならぬ、俺自身の姿がそこにはあった。
 昨日鏡を見て以来その姿も、顔立ちもさほど変わった様子は無い。
 けれど俺の目にはそれが、昨日の俺とは似て非なるものに映って見える。ましてやそれ以前の俺を、
そこに見出す事など出来やしない。
「…………怖い」
 ポツリと、その一言だけが口からこぼれ落ちる。
 だけどそれは、これまでのように俺が急激に変わっていく事に対してじゃない。
 変わっていく事への恐れを忘れる事。それが怖くて怖くてたまらなかった。
 実際、さっきまで俺は快楽に酔いしれて、その事を気にさえ留めていなかったのだから。
それが今こうして落ち着いた途端に、一気に恐怖に襲われてしまっている。
 ……けれど、それすらまだいい方だろう。
 最も恐れているのは――それが延々と繰り返される事。
 恐れる事を忘れ、その事に対してまた恐れ、そして忘れ………。
そんな負の連鎖に囚われたままでいる事に、今の俺が耐えられる自信はなかった。


 結局まだ、俺はまだこの現実を受け入れ切れてないのだろう。
 そうでなければ――こんな堂々巡りをする事など、ない筈なのだから。



                                     A.D.20XX 7.24




これでPart-2は終わりです。
全体の完結にはまだ程遠いのですが、今後も皆様の許す限り
書き続けていければと思っております。
それではまた。
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