強制女性化小説ない?スレ保管庫 - 嵐
>前スレ372
>喧嘩のかなり強い不良の高校生(身長高め、かっこいいけど周りから怖がられてる)が
>朝起きたらかなりの美少女(しかし……ょぅι゛ょ)になってしまう
>だが本人はツルペタには興味がないので元に戻ろうとするが
>何故か人間離れした身体能力を発揮できるようになったのと
>自分を怖がっていたクラスメートと変身をきっかけに仲良く
>(女子にとっては着せ替え人形のような存在)なり
>この体でもちょっといいかなと思い始めて………
>というコメディ方向の話を作りました


エロくないけど、ちょっと書いてみました。


 目覚まし時計がけたたましい音を上げていた。
 そう、いつもなら鳴り始めた途端に瞬殺な筈なのに、鳴り続けていた。
 安眠を妨げる目覚まし時計を葬り去っていた手刀が空を切り続けていたのである。
「……うっせーなぁ……」
 それは、時計はベッドの下にでも落ちてしまったのかと、手刀を繰り出すのを諦めて起き上がった少女の言葉。
「ふぁ〜〜〜〜〜っ……」
 続けて思い切り口を開け、上半身を弓なりに反らしてあくびをする。
 細くしなやかな肢体は未だ女らしさを宿してはいないが、かといって男子とは明らかに違う柔らかな色香を纏い始めていた。
「よっしゃっ!」
 伸び終わり際に気合いを入れ、ベッドから出ようとして初めて少女は、そこで初めて自らの体に生じた異変に気づき、硬直する。
「……はい?」
 両手を無造作にポンッとTシャツの胸に当てると、ぶかぶかなTシャツの下に、平らな胸板が認識出来た。
 勿論、その結果自体は正しい。
 たゆんっと波打つ豊満なオッパイが付いてたりしたらむしろ仰天だ。
 だが、それは少女の認識とはあまりにかけ離れた繊細で華奢な胸板だったのだ。
「……おい、ちょっと待てよ……」
 ここに至って少女は、その声が本来の自分のものでないことにも気づき、恐る恐る姿見の前に立つと、そこには、腰下まで伸びる軽くウェーブした髪を備えた、正に人形のような少女の姿が映っていた。
「……」
 少女が無言で自分の頬に触れると、想像以上に柔らかく、そのまま指がめり込んでいってしまいそうなマシュマロ触感が返ってきた。
「……」
 少女が無言でTシャツの裾をたくし上げると、まるで光沢すら備えているようなみずみずしい肌と、想像以上に淡い桜色の乳首が目に入ってきた。
「……」
 そう、鏡に映る少女の姿は差し込む朝日を浴びて、正に天使のごとき輝きを放っていたのだ。
 しかし少女は自らの姿に惚けることもなく、むしろその容姿に不似合いな言葉を発した。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁっっっっっ!?」
 ガラス細工製の鈴のように澄んだ声音の叫びが近所迷惑もかえりみず響き渡ったのである。


 嵐──それが少年の名前だったが、読みは『アラシ』ではなく『ラン』なのである。
 だが少年自身が嫌う正しい読みで呼びかけて五体満足でいられる人間は数少なかった。
 名は体を表すがごとく荒々しく喧嘩っ早い性格と豪腕で、少年に挑んでは倒れ伏す者の数は日々絶えない。
 高校生にして阻む者全てを吹き飛ばす生ける嵐、歩く台風、それが少年だった。
 少年だったのだが……。
「どうなってんだよ、これはっ!?」
 頬張っていた米粒を勢いよく飛び散らせながら少女が叫んだ。
「あらあら、嵐ったら『女の子』が食べながらはしたないわよ」
「俺は『男』だっ!!」
 少女の頬についた米粒を取ろうとして吠え返された母親は、全く動じず微笑みを浮かべていた。
「こら、嵐、その日本語は正しくないぞ。『男だ』ではなく『男だった』 過去形だな。今のおまえはどう見ても女の子だ」
「だから、なんでなんだよっ!?」
「一介の会社員の父さんにわかるわけがないだろう」
 少女は今度は、新聞を読みながら冷静につっこんだ父親にかみついたが、やはりあっさりと流されてしまう。
「ったく! 俺にどうしろっていうんだよっ!?」
「どうしろも何も、学校さぼっちゃダメよ? 小中高と、ずーっと皆勤賞なんだから」
 嵐は、素行や評判はともかく、真面目に通学だけはしていたのだった。
「行けるかよ! こんなちんちくりんな姿でっ!!」
 起きた時のままの、ぶかぶかのTシャツとトランクス姿で、少女が吠える。
「うむ、制服はさすがに間に合わないから、今日のところは父さんが学校に連絡して私服通学の許可は貰っておいたぞ」
「そういう問題じゃねーだろっ!! ……つーか、待て。なんて連絡したんだよ?」
「息子が朝起きたら娘になってしまって制服が間に合わないので、と」
「まんまじゃねーかっ!!」
 つまりはそういうことで、鬼神のごとく自校はおろか他校の不良たちにまで恐れられていた少年・嵐が、今朝起きたら可憐な美少女になっていた、ということなのである。
「その背丈だと特注になっちゃうから、もしかしたら二、三日はかかっちゃうかも知れないわねぇ……」
 母親が溜め息をついたように、それまでは190を越えていた嵐の身長は、今や140ちょいの可愛らしく愛くるしい姿になってしまっていたので『男が女になってしまった』と言うよりは『男が幼女になってしまった』と言った方が正しいのかもしれない。
「だからそういう問題じゃないし、どのみち今から服買いに行ったって遅刻確定だから、今日は休む!」
「それなら大丈夫よ。ちゃんと頼んでおいたから」
「……はい?」
「おーい、らーん、妹のお古、一応制服っぽいのを持って来たぞー」
「って、和馬っ!?」
 その時、見計らったかのようなタイミングで部屋に入って来たのは、嵐とは幼馴染の少年、和馬だった。
「のわっ!? ……おばさん、これホントに電話で言ってた嵐なの!? すっげー! ありえねー! ちょっと触っていい?」
 返事も待たずに和馬は嵐の頭を撫で回す。
「うわー、ふわふわ〜」
「こ、こらっ! 勝手に触んなっ!」
 物心ついてから他人に撫でられたことなどない嵐は、その甘美な感触に、言い返すのが精一杯だった。
「安心しろ。知ってると思うが俺はおっぱい星人なのでロリに性的興味は無い」
「興味持たれるのも嫌だが、ロリとか言うなっ!」
 なんとか勢いをつけて甘美さを振り切り、和馬の手を払いのけつつ怒って見せたが、効果は全く無かった。
「あー、でも一応、本当にぺったんこかどうか触って確かめてみていいか?」
「……今日をオマエの命日にしたいのなら、やってみろ」
「大丈夫だ。胸を触ったぐらいじゃ妊娠はしない」
「してたまるかっ!!」
「カズくん、遅刻しちゃうから、今はそれぐらいにしておいてね」
「はーい。てことで今から生着替えタイムだ。さぁ、早く脱げ。全部スポポーンと」
「まずオマエが出て行けっ!!」
 力一杯顔を真っ赤にして怒鳴ったその表情も、しかし、当人の心境とは裏腹に破壊的な可愛さを宿していたのだった。




「……アレは何かの冗談なのか?」
「どっかに隠しカメラでもあるんじゃね?」
 そんなひそひそ声が教室のあちこちで上がっていた。
 言うまでもなくその原因は、遅刻ギリギリで和馬と一緒に教室に滑り込んできた嵐の姿だ。
 和馬の妹が小学生の時に着ていたリボンタイ付きシャツとプリーツスカートでその身を包み、更にその上に「これだけは俺の魂なので絶対に譲れない!」と言い張って愛用の学ランを羽織って現れた嵐が、憮然とした表情で席に着いていたのである。
 当然ながら長身だった嵐の愛用していた学ランなので、今の嵐が着るとその裾は膝ぐらいまである。
 しかも前全開なので黒マントを羽織っているような構図で、まるで小さな死神が降臨したかのようだ。
 ちなみに当然ながら嵐はスカートを履くことに激しく抵抗したのだが他に服が無かったので時間切れで仕方なく妥協したのである。
 それだけ嵐にとって皆勤賞は大事なのだ。
 だから突然教室に現れた死神少女の様子は傍から見れば、嵐が病気か何かで来られなくなって、それでも意地でも皆勤賞を取ろうとして代わりに幼い妹を寄越した図、であり、実際、和馬以外のクラスメイトたちは皆そう思っていた。
 いや、思い込もうとしていた。
 そう、皆の注目を浴び続けるのが限界に達した少女が勢いよく立ち上がり、そして言い放つまでは。
「見せ物じゃねーんだからジロジロ見てんじゃねーよ!」
 その言葉にクラス全体が一瞬にして静寂に包まれた。
 品の無い言葉と愛くるしい声とのとてつもないハーモニーに爆笑しても不思議ではない状況にもかかわらず。
 その沈黙を破ったのは、続いて発せられた和馬の言葉だった。
「えーと、皆の気持ちはよーくわかるけど、コレ、正真正銘アラシだから、下手に触らない方がいいぞ」
 いつもは『ラン』と呼ぶ幼馴染も、こういう時だけはきちんと『アラシ』と言うのは、そう言わないと周りが嵐のことを言ってると分からないからだ。
 だが、そんな気配りも、あまりに現実を超越した内容の下では意味をなさず、クラスは沈黙に包まれたままだった。
「ちっ……」
 下品に舌打ちした嵐が再び席に着こうとしたその時までは。
「ぐびょっ!?」
 次の瞬間、可愛らしく意味不明な奇声を発した嵐は、机の上に額を直撃させていたのだ。
 何ごとが起こったのか理解出来ないクラスメイトたちは沈黙どころか凍りついた。
「いったぁ〜……」
 涙目で額をさすりながら身を起こす死神天使。
「……ねぇ、もしかして今のって……」
 そう洩らした女子に、となりの女子がうんうんと頷く。
 つまりは、椅子を引いて着席しようと手を伸ばしたはいいが、本来の自分より腕が短かったせいで背もたれをつかみそこね、その格好のまま前のめりに机に直撃したのである。
「やだ、ちょっとカワイクない?」
「てゆーかスッゴイ可愛い!」
「でもあれってアラシくんなんでしょ?」
「でも可愛いよ」
「うん、可愛い」
 暫しの間。
 直後、まるで示し合わせたかのように一斉に女子たちから「きゃーっ」と嬌声が上がり、そしてそれが瞬く間に嵐を取り囲んでいた。
「なっ、なんだオマエらっ!?」
 今までの体だったら屁でもなかったのに、机にぶつけた程度でじんじんと痺れる額をさすっていた嵐は、虚をつかれる格好で女子の渦に呑み込まれてしまった。
「やだー、カワイイカワイイーっ!」
「あーっ、ずるーい。わたしもスリスリしたーい!」
「ちょっ!? ま、待てコラっ! うっひゃっ!?」
 放り投げられた肉に一斉にたかるピラニアの群れのような物凄い光景に、取り残された男子たちは呆然としていた。
 むしろ、するしかなかった。
 和馬の言ってることが正しくあれが本当に嵐だとしても、男子たちは近寄る気になどなろう筈もない。
 野獣の子は、子供と言えど野獣なのだから。
 だが女子たちは違う。
 嵐は確かに粗暴で無愛想だったが、それでも普通の女子に手をかけたことは一度も無かったので、基本的に無害なことはわかっていた。
 ただ恐くて近寄りがたかったのは本当だし、正直なところ近寄りたいとも思わなかった。
 だが、今の嵐は違う。
 たとえ中味が一緒だとしても外見が決定的に違う。
 更に言うなら今や『同性』でもある。
 かくして可愛いものには目がない女子の本能を刺激しまくる愛くるしさを備えた今の嵐は、女子にとって正に恰好の、しかもとびきり上等に甘美なご馳走なのだった。
「や、やめっ! わわわわっ! くすぐったいって! ちょっ!? だぁーっ!」
 しかし抵抗むなしく嵐は嬌声渦巻く欲望の沼へと引きずり込まれて行き、担任が現れるまで解放されることはなかったのだ。


 チャイムが鳴り、授業を終えた教師が退室して行く。
 そこでハッと気づいた嵐が慌てて立ち上がろうとした時には既に遅く、桃色渦巻に呑み込まれる。
 そんなことの繰り返しが既に三回続き、そして今、四時間目の授業は終盤にさしかかり、四回目が迫ろうとしていた。
 しかも次は昼休み。
 正に無限に続くかのような長時間の桃色地獄が嵐を待ち構えていたのだ。
『絶対ヤバい! 次は死ぬ!』
 休み時間の度に女子に揉みくちゃにされ続けた嵐の精神はボロボロだった。
 べつに痛いことをされたわけではないのだが、たとえば小学校低学年の集団に兎を渡してみた様子を想像して貰えればわかるだろうか。
 飽くことなく撫でられ続ける可愛がられ地獄。
 不器用な小学生とクラスメイトの女子たちが違うのは、絶妙のさじ加減で触られて抗い難い気持ちよさに包まれ、力が入らなくなってしまうことで、つい先ほどの休み時間など、もしあと一分続いていたら失禁してしまうところだった。
 ちなみに勝手に髪をいじる女子たちもいて、休み時間が終わる度に変わっている嵐の髪型は只今、ツインテールならぬツインおさげ状態である。
 とにかく、そんなわけで次は本気で命の危険をひしひしと感じている嵐だった。
『なんとかしないと! だがどうする!?』
 基本的に考えるのが苦手な嵐なので、そう心の中で叫び続けていても名案が浮かぶ筈もなく、そして無情にもチャイムが鳴り響いた。
「起立! 礼! 着席」
「──してる場合じゃねえっ!!」
 教室から出て行きかけた教師がその叫びにビクッと驚いたのも無視して、嵐は一目散に教室を飛び出していた。
 とにかく逃げなければ。
 ていうかトイレ行きたいし!
 しかし──
「ふぎゃっ!?」
 教室の後ろ側の扉から勢いよく廊下に飛び出そうとした嵐の体は、突然現れた壁、つまりはそこに立っていた人物に正面衝突して猫のような悲鳴を上げ、そのまま弾き返されたのだった。
「アラシはいるかっ!? 桐原さんがお呼びだぞっ!!」
 巨漢のせいか嵐が衝突したことになど気づいていないとばかりに、その男子生徒──格好からして不良生徒なのだが──が言い放ったが、教室にいたクラスメイト一同は突然のなりゆきに言葉を失っていたのだ。
「おい、アラシはいるかって聞いてんだろ!!」
 返事が無いことに苛立った不良に凄まれた男子生徒は、無言で床を指差した。
「は?」
 不良の視線が、指差された先に移る。
「……パンダ?」
 そう、パンダ柄のパンツ。
 不良に弾き返されて思いっ切り転がりってうつ伏せに倒れていた嵐のスカートがめくれて、お尻のプリントが丸見えになっていたのである。
「……いや、パンダじゃなくてアラシを──」
「こっちは好きでパンダ履いてるんじゃねえんだよ、デブっ!!」
 嵐がゆらりと起き上がっていた。
 その美しく愛くるしい顔に憤怒の色を浮かべて。
「は? つーか、このチビガキ、何?」
 そう問われて、どう答えたものかとクラスメイトたちは一瞬だけ悩んだ。
 何故なら次の瞬間には巨漢の不良は宙を舞っていたからだ。
 それは、ちんちくりんで華奢でプニプニでほわわんな少女の嵐が繰り出した拳の一撃が、巨漢のみぞおちに打ち込まれた直後の出来事だったのだ。
 そのまま廊下まで吹っ飛ばされた不良は白目を剥いてピクピクと痙攣している。
 クラスメイトたちは眼前で起こった信じられない出来事に呆然と言葉を失っていた。
 そして、当の嵐は──
「ト……トイレぇぇぇぇぇっっっっっ!!」
 そう叫びながら廊下に飛び出し、猛ダッシュで走り去ったのだった。
 まるで、黒マントを翻しながら走る死神のように。




「……それで、『子供』に叩きのめされて、のこのこ帰って来たと?」
 暗がりからかけられた品のある落ち着いた声に、つい先ほど嵐にのされた不良は身を硬くした。
「で、でも、桐原さん、子供っつっても、中味はあのアラシで……」
 桐原と呼ばれた男子生徒は、そんな稚拙な言い訳をたしなめるでもなく、フッと微笑んで流しつつ言った。
「僕は、アラシを連れて来いと言ったんだよ? たとえ『小さい女の子』になっていようと中味がアラシだったら、連れて来るのが筋だよね?」
「は、はいっ……」
 桐原は微笑みが嫌味無く似合う男だった。
 その整った容貌、そして甘い声と合わせて間近で囁けば大抵の女子は蕩けてしまうだろう。
 だが彼は、この学校を仕切るヘッド、昔風にいうなら番長だったのだ。
「とはいえ状況が変わったのなら仕方ない。キミも痛い思いをしたんだ。今回の失態は大目に見よう」
「あ、ありがとうございます……」
 巨漢の不良が安堵したその時、急に桐原の目が鋭いものに変わった。
「──で、写真は?」
「……はい?」
「その『幼女』とやらの写真だよ」
「い、いえ、さすがにそんな余裕は……」
「『ロリっ子』の写真も無しに報告とは何ごとだっ!!」
 桐原が、その美貌の眉間に皺を寄せて声を荒げた。
 滅多に無いことに巨漢は思わずひぃっと声を上げて床にひざまずく。
 それを見た桐原自身、しまったと思ったのか、再び落ち着いた声で言った。
「……アラシは放課後に連れて来るんだ。勿論その前にアラシの全身入った写真を届けること。キミがダメなら他の誰かに頼んでも構わないから。いいね?」
「わ、わかりました……」
「では、解散」
 桐原がそう宣言してパンッと手を叩き、巨漢とその他部屋にいた者たちが速やかに退室して行った後、一人残された桐原は、そっと甘い口調で呟いたのだ。
「……アラシたん、キタコレ!」

「うぉっ!? 寒気っ!?」
 屋上でパンを食べていた嵐が突然ブルブルッと身を縮めたのを見て、隣りに座っていた和馬が心配そうに言う。
「どうした? 初潮でも来たか?」
「来てたまるかっ!」
「そうか。なら避妊の心配は要らないな」
「……その前に自分の命の心配をした方がいいぞ?」
「安心しろ。もしかしたら処女喪失をきっかけに急に胸が成長し始めるんじゃないかと想像して、ちょっとワクワクしただけだ」
「全く安心出来んわっ!!」
 トイレに駆け込んだ後、そのまま教室に戻ったら大変なことになるとさすがに気づいた嵐は、携帯メールで和馬にパン買って屋上に来いと連絡して今に至るのだった。
 余談になるが、勿論お約束で男子トイレに飛び込んだ嵐は、小便器の前でスカートをたくし上げてパンツを下ろしてから『無い』ことに気づき、「あ、そっか」と平然とそのままの格好で大便器に移って行った。
 その様子は、幸か不幸かその場に居合わせてしまった男子生徒たちによって『つるつるパンダ事件』と名付けられたのだった。
「大体、女になるならなるで、こんなガキでなくたっていいだろうに、どういうことだよコレは!?」
「全くその通りだ。予定ではJカップオーバーの爆乳美少女になる筈だったのに、どこをどう間違えたのやら」
「……ん? 『予定では』『なる筈だったのに』『間違えた』?」
 嵐の聞き返しに和馬は一瞬硬直し、そして慌てて顔を逸らした。
「和馬く〜ん、ちょっと今のところ、詳しく聞かせてもらおうか〜?」
 和馬の肩にポンと置かれた嵐の華奢な手に力がこもる。
「痛っ! 痛たたたぁっ!!」
 勿論嵐も手加減していたが、それでも耐え難い苦痛に、和馬は諦めたように話し始めたのだ。
「……実は『月刊呪いの友』今月号の特集が『嫌いな奴を蛙に変える方法』だったんで、ちょっとそれを自己流にアレンジしてみたんだ」
「……なんのために?」
「いやだって、爆乳揉みたいだろ? 嵐だったら頼めば揉ませてくれるだろうと思ってさ。で、結局材料の配分っつーか要はパラメータ設定を間違えたみたいで、こういう結果、と」
「頼まれても絶対揉ませてやらんが、とにかく今すぐ戻せぇぇぇぇぇっっっっ!!」
「あー、無理。戻し方は別の方法らしいんだけど、それ載るの来月号だから」
「だったらその方法を教えろ! オマエにも俺と同じ苦しみを味わわせてやるっ!!」
「お、落ち着こうぜ、マイフレンド。ひょっとして『あの日』かい? HAHAHAッ!」
「……やっぱ殺しとくか」
 後日、屋上で発見された血溜まりは、この学校の新たな怪談として語り継がれることになるのだった。



 バタンと重い扉が閉められ、嵐は暗闇に包まれた。
 室内が蒸し暑いのは、密室に複数の者がいるせいだ。
 闇に潜んだそれら全ての者が、油断無く自分の様子をうかがっていることを嵐は肌で感じ、緊張していた。
「ようこそ、アラシくん」
 突然発せられたその声とともに室内に明かりが灯る。
 体育館の半地下にある用具室。
 コンクリート張りのその部屋に、十人近くの柄の悪そうな男たちが並んでいた。
 そして、その中心に、一人だけ場違いなほどの美貌の主、桐原が座っていたのだ。
「いや、『アラシちゃん』と呼んだ方がいいかな?」
「キモいこと言ってんじゃねーよ! それよりさっさと和馬を放しやがれっ!」
 そう、放課後、嵐がのこのこと桐原の呼び出しに応じたのは、親友の和馬を人質に取られたからだった。
 そうでもしないと無視して帰ってしまうだろうことは容易に予想されていたのだ。
「その前に一つ、条件がある」
「ふざけんな! こっちは言われた通り来たんだから、放すのが筋ってもんだろ!」
 今や幼い少女の姿になっている嵐の、粗野な口調で吠える舌足らずな声に、桐原は恍惚とした笑みを浮かべながら言った。
「嫌ならべつに構わないんだよ?」
「わかったよ! さっさと言え!」
「うん、じゃあ、その学ランを脱いでもらおう」
「……何?」
 まさか学ランだけじゃなく──と口に出しそうになったが、さすがに嵐もそこまで墓穴を掘るほど迂闊でもないので、言われたとおり学ランを脱ぎ捨てた。
 もっとも、サイズのせいもあり簡単には脱げず、結局、背後にいた不良の一人に脱ぐのを手伝ってもらったのだが。
 そして、手伝った不良が、そのまま学ランを持って再び下がった途端、桐原はクククッと低い笑いをこぼしたのだ。
「な、なんだよ? 言われたとおり脱いだぞ! さっさと和馬を放せ!」
 しかし、桐原はそんな嵐の言葉を無視して、椅子から立ち上がり、叫んだのだ。
「アラシたん、ゲットだぜっ!!」
「……は?」
「ボクたちに従わないキミには今まで散散苦渋を嘗めさせられたが、そのカラクリさえわかってしまえばこっちのものさ!」
「……はい?」
「今まで! そして今日! その姿になっても変わらない馬鹿力! そこに隠された重大なヒントを自ら明かしてしまうとは愚かなりっ!」
「……おい、さっきから何を言ってるんだ?」
「とぼけても無駄さっ! キミの馬鹿力の正体、それは、その学ランがパワードスーツだったからだっ!!」
「……」
 呆然と言葉を失う嵐の周りからは「おぉ〜っ」という感嘆と共に拍手が生まれた。
「つまり、学ランを取り上げられた今のキミは、ただの可愛い子猫ちゃんなのさ! さ〜て、どんなオシオキをしてやろうかなぁ〜?」
 周りの不良たちがじりっと迫り寄る気配を感じて、嵐は身構える。
「フフフッ、それでも無駄な抵抗をしようというのだね? いいね、いいね、可愛いよ、アラシたん、はぁはぁ……」
 今や桐原の顔はだらしない笑顔で紅潮していた。
「ぬふふっ、靴下だけは脱がさないでおいてあげるから心配いらないよぉ〜。最初はちょっと痛いかも知れないけど、すーぐ気持ちよくなりまちゅからねぇ〜」
「……ていうか、オマエら馬鹿だろ?」


 夕陽の下、帰路を歩く二人は、はたから見れば兄と幼い妹という構図だったが、勿論それは嵐と和馬だった。
「ったく、次は捕まっても絶対無視して見捨てるからなっ!」
「またまた、ランちゃんったら、ツンデレなんだから〜」
「ちゃん付けすんなっ! あとオマエにデレった憶えも無いっ!」
 用具室で一斉に飛びかかられ一時は床に押さえつけられた嵐だったが、以前の嵐をも遙かに凌駕する力でそれらを一気にはね除けてしまった。
 そして呆然としている桐原の首根っこを押さえ、『次は殺すぞ』と脅しつけて帰って来たのである。
「ヤツラ、言ったって三日で忘れるんだから、用心しとけよな」
「その時はまた嵐が助けて──」
「助けねーよ! 大体、女に助けられて情けないと思わねーのか?」
「あ、女って自覚が生まれてきたな。性の目覚めは第二次性徴の証だ。今夜あたりから乳がふくらみ始めるに違いない。成長日記つけるか?」
「……あぁ、そういえば、誰のせいでこうなったんだっけかなぁ〜?」
 拳にはぁーっと息をかけながら嵐が凄む。
「はははっ、今日はもう勘弁してくれ。これ以上血を失ったらマジで死ぬから」
 嵐が本気で当てる気も無く放ったパンチを軽快に避けつつ、和馬は笑う。
 なんだかんだ言いつつも嵐と和馬とは気の置けない関係なのだ。


 さて、帰宅した嵐を玄関で出迎えたのは両親の満面の笑顔だった。
「無理を言って特急で仕上げてもらったのよ〜」
 そう言って母親が差し出したのは、嵐の学校の女子制服、つまりはセーラー服だった。
「こっちもぬかりは無いぞ〜」
 同じく父親が差し出したのは、体操着とスクール水着だ。
「……」
 そして、そんな両親を無視するように、脇を通り過ぎる嵐だった。
「あ、あなたっ! 嵐が反抗期にっ!」
「う〜む、やはり年頃の娘というのは難しいものだな」
「反抗期じゃねーし、娘とか言うなっ!」
「むぅ、確かに戸籍上は息子のままだったな。これはいかん。早速明日役所に行って来ないと」
「だから余計なことすんなっつーの! あと一ヶ月もしないで男に戻れるんだからっ!!」
「な、なんですって、嵐!?」
「父さんたちに相談も無しに、どういうことだ!?」
「……あー、面倒だから、詳しくは和馬に聞いてくれ。俺、風呂入るから」
 不良共に組み敷かれてすっかり汗臭くなってしまったので、嵐はそのまま風呂場へ直行した。
 背後では早速両親が和馬に電話しているようだ。
「面倒くせー」
 脱衣所でポイポイッと服を脱ぎ捨てて風呂場に入る。
「うおっ!?」
 そこで姿見に映った自分の姿に嵐は思わず驚いてしまった。
「……そういえば裸は見てなかったな」
 朝起きてから騒ぎの立て続けで、そんな余裕は無かったのだ。
「……」
 改めて自分の姿をじっと見る嵐。
 以前なら風呂場の姿見には胸より下ぐらいまでしか映らなかったのだが、今では全身がすっぽり収まっている。
 そこに映るのは透き通るような白く、そしてみずみずしい肌の華奢な少女。
 腹部の丸みは殆ど目立たず、体側面のラインが柔らかな凹凸を形作り始めていることが、女として目覚めつつあることを物語っている。
 当然ながらまだ陰毛も生えておらず、すまし顔にしてみると全身がつるんした人形のようだ。
「……こりゃ、ロリコンには気をつけないとな」
 正に今日、その該当人物である桐原に襲われかけたのだが、どうやら嵐はそこまでは気づいておらず、単純に自分をぶちのめそうとしていたと思っているようだ。
「って眺めてても仕方ないか」
 軽くシャワーを浴びた後、嵐はその身を浴槽に沈めた。
「おわっ!?」
 今まで以上に沈み込み、しかも直後に浮きそうになったのは、体の小ささと軽さをまだ認識しきれていないせいだ。
「はふ〜っ……」
 それでもなんとか体勢を整えて、ゆったりと目を閉じる嵐。
「っ!?」
 しかし、直後、嵐を異変が襲った。
 突然、体の芯、というか股間のあたりが急に熱く疼き始めたのだ。
「はぁっ!?」
 無意識に股間を押さえるが、それでどうにかなるものでもなく、やがてその疼きは一気に嵐の体を駆け上って来た。
「ふぁっ!? あぁっ!! ひやぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
 突然の快感に、上半身を弓なりにのけ反らせながら叫ぶ嵐。
 その意識が一瞬途切れ、そのまま糸が切れたように浴槽へと崩れ落ちた。
「嵐っ! お風呂で何してるのっ!?」
「その歳でオナニーはいかんぞっ!!」
 叫び声に慌てて駆けつけ、風呂場の扉を開けた両親は、そこで凍りついた。
「オ……ナニーなんて……してないっ……つーの……」
 未だ興奮で息継ぎする体でなんとか振り絞るようにそう言った嵐は、そこで気づいた。
 自分の声が変わっていることに。
「……あ、あれ?」
 だが、しかし、幼い少女の声が元の男声になったのではなく、それは、年頃の若い少女の声だったのだ。
「ら……嵐なのよね?」
「な……なんてことだ……」
 そこには、男だった頃の嵐に相応した、成人直前の色香を纏った少女がいたのだ。
 勿論、当人である嵐も何が何やらわからず、恐る恐る湯船に沈む自分の体を見て、そして呟いた。
「うわー……こりゃまた、和馬が喜びそうなデカい乳だな……」──と。



 とりあえず興奮する両親を風呂場から追い出した嵐は、湯船に首まで身を沈めたまま暫く天井を仰いでいた。
「……さてと」
 それが、なんとか気を静めた合図なのか、そう呟いて一呼吸後、一気に立ち上がると、正にゴム鞠でもついているような違和感の元凶である乳房が勢いよくぶるんと揺れた。
 しかし嵐はあえてそれを無視して浴槽から上がり、そして最初に風呂に入って来た時と同様に鏡の前に立った。
「……でかっ!」
 それが自然に出た第一声。
 勿論、背丈のことではなくムネのことだ。
 背丈的にはむしろ、ぎりぎり目の位置までは鏡に入っているので、そんなに高くはないのだろう。
 ムネの大きさが目立つものの、引き締まったウェストと丸みを帯びたヒップのバランスは絶妙で、むしろ華奢な印象すら受ける。
 顔はさっきまでの幼い少女がそのまま大人になった顔なので、勿論美人だ。
 自分の新たな体を観察しながら嵐の脳裏に、ある言葉が甦っていた。
『予定ではJカップオーバーの爆乳美少女になる筈だったのに』
「……おいおい、時間差攻撃かよ……」
 嵐は呆れたように呟き、無造作に乳房をつかむ。
「ふぁっ!?」
 その途端、自分でも予期せぬ艶やかな声が口から溢れ、思わず手を放していた。
「……な……なんだ今の?」
 今度は恐る恐る、乳房をそっと手の平で押すように触る。
「おぉっ?」
 重量感たっぷりの見た目とは裏腹な柔らかさで、大して力を入れていないのに半分近くにまで潰れる乳房。
 パッと手を戻すと、その弾力で戻った乳房が、ぷるるんっと揺れた。
「すげぇ……」
 嵐とて中味は健康な男子であり、和馬ほどではないにしても、女性のムネには興味津々なお年頃なので、幼い少女の姿だった時には抱かなかった興味がわき上がるのも無理はないだろう。
「……よし」
 今度は下から持ち上げるように乳房を触る。
 手の平に確かな重さを感じつつも、やはり意外な柔らかさで変形した乳房が、まるで今にも手からこぼれ落ちそうだ。
 嵐はそのまま手の平を押し込んで乳房を潰し、そして今度は逆に掴んで引っ張る。
「っ……」
 そこで手を戻し、持ち上げるように押し込み、そしてまた引っ張る。
 その繰り返しを、ゆっくりと続ける。
「……いっ……はぁっ……」
 自然と嵐の口から甘い吐息が漏れ始めた。
「やばっ……くっ……」
 やめないとと思っても手は止まらず、むしろその速度を速め、手の平の中で徐々に硬くなって来た乳首を転がすように揉んでいく。
「だめ……だって……」
 言葉とは裏腹に動き続ける手。
 その人差し指が乳首をピピッとつま弾く。
「くぅっ!?」
 それだけで瞬間的に股間が熱くなり、立っていられなくなってきた嵐は、風呂場でひざまずいた。
「な……なんだよ、これ……ひゃぁっ!?」
 別の生き物のように動き続ける手が、いつの間にか乳首をつまんでいた。
「やっ……だめ……」
 人差し指と親指とで、つまんだ乳首を捻るように弄ぶ。
「もう……やめて……」
 しかし、もう片方の腕はスッと下がって股間へと導かれて進み、その中指が敏感な溝を伝って奥へと滑り込んで行く。
「……っ!?」
 そのまま中指が潜り込んだ穴の窪みは汁で溢れていた。
「っっ!!」
 両親に聞かれまいと必死に喘ぎ声を押し殺す嵐。
 そんな嵐の努力など無視するかのように手と指は動き続け、更に加速していく。
 乳首を弄び、乳房を縦横無尽にこねくり回す手。
 窪みから掻き出した汁を花芯の先端に塗りたくるように撫で回す中指。
 もはや声すら出せず、まるで何かから必死に逃れるかのように首を上下左右に振る嵐。
 やがて渦巻く狂乱は頂点に達し、全身を激しく痙攣させた後、嵐は風呂場の床に身を沈めたのだった。


 体の新たな変化を心配する両親から逃げるように、風呂を上がった嵐は髪を乾かすのもそこそこに二階の自室へと駆け上がっていた。
 勿論それは、いきなり風呂場で自慰行為にふけってしまった自己嫌悪にさいなまれていたからだ。
 部屋に入り、体を包んでいたバスタオルを乱暴にはぎ取り、Tシャツとトランクスに着替える。
 部屋の隅には母親が用意してくれたのか幼女用の下着やらパジャマやらがたたまれて置いてあり、自分のせいでないとはいえ、こんなにすぐに無駄にしてしまった罪悪感もわずかに生まれた。
「……」
 溜め息をつきながら無意識にトレーニング用の20キロダンベルに手を伸ばす嵐。
「……?」
 手を伸ばし、そして掴み、そこで嵐は硬直した。
「何っ!?」
 ダンベルを掴んだ手に力をこめるが、びくとも持ち上がらない。
 体勢を立て直し、きちんと持ち上げようとするが、床から離すのが精一杯だ。
「……なんで?」
 嵐は動揺していた。
 もしかしたら初めて女になってしまった時より動揺していたかも知れない。
 今までは、そしておそらくは幼女の姿の時でも、なんとか片手で持てた筈のダンベルが持ち上げられないのだ。
 そう、それは正に──
「力まで女になっちまったのかっ!?」
 嵐は本能的に、自分がとんでもない窮地に立たされてしまったことを自覚した。
 誰も興味を抱かない(と嵐は思っている)幼女ならまだしも、今の非力な美少女のまま学校に行ったりしたら、自ら肉食獣の檻に入るようなものだ。
「やばっ……マジヤバイ……」
 ベッドに座り込み、思わず頭を抱えたその時──
「らんーっ!! 爆乳美少女になったってホントかぁぁぁぁぁっっっ!?」
 和馬が乱暴にドアを開けて飛び込んで来たのだった。
「嵐なのかっ!?」
 嵐の姿を目にした和馬は硬直し、そして次の瞬間、ベッドに座っていた嵐に正に獣のごとくダイブしたのだ。
「らーんちゃーんっ!!」
「うわぁっ!?」
 その勢いのまま、ベッドに押し倒されてしまった嵐。
 学校に行くまでもなく、いきなりのピンチ到来である。
「うっひょーっ! きたきたキターッ!! 俺のターン来たぁぁぁぁっっっ!!」
「お、落ち着け、和馬っ!」
 和馬の下であがく嵐。
 幼女の時はだぶだぶだったXLサイズのTシャツも、今や胸の部分だけはパンパンになっており、和馬からもその大きさは一目瞭然だ。
「見せろ揉ませろ吸わせろーっ!!」
「だ、だから、落ち着けって!」
 嵐は必死に抵抗を試みるが、本当に非力になっており、和馬をどかすことが出来ない。
 逆に和馬は『嵐は女の姿になっても怪力』だと認識していたので、その小さな抵抗をOKの意思表示ととってしまい、止まるどころか猛突進である。
「よーし、まずは『Tシャツめくり上げぷるるんっ』の刑だーっ!!」
 器用に片手で嵐の両手首を押さえつつ、もう片手でTシャツの裾を掴む和馬。
「ちょっ! だから待てって! 頼むからっ!」
 当然ながら、そんな言葉で止める筈もなく、和馬は宣言する。
「イッツァ、ショーターイムッ!!」
 そして一気にTシャツをめくり上げたのだった。
「やめろぉぉぉぉっっっっっ!!」
 その叫びの直後、バタンと扉が勢いよく開き、嵐の両親が飛び込んで来た。
「カズくん、初めてはもっとムーディーにいかなくちゃダメよっ!!」
「父さんたちのを貸してやるから、ちゃんと避妊しなさいっ!!」
 しかし直後、コンドームを差し出した父親と母親、そして和馬までもが硬直していた。
「……あれ?」
 それは嵐の言葉。
 思わずつぶってしまった目を開けると、何やら和馬が大きく見える。
 いや、そんな筈はない。
「あれれっ? もしかして、また?」
 そう、嵐は再び幼い少女の姿に戻ってしまっていたのだ。
「……だから、どけって」
 確認するかのようにドンッと和馬を押すと、あっさりその体が浮き上がり、そのままベッドから転がり落ちた。
「よっしゃっ!!」
 怪力も戻っている証拠に、幼女のままのことなど忘れて思わずガッツポーズする嵐。
 そしてベッドの下に転がる和馬は静かに悲しみの血涙を流していたのだった……。




 翌朝、やせ細った顔ながら律儀に迎えに来た和馬と学校までの道を歩く嵐の姿は、やはり幼い少女のままだった。
 昨日と違うのは、両親が用意した特注セーラー服その他一式で身を包んでいることで、やはりその上には大きな学ランを羽織っている。
 それは相変わらずまるで学ランが歩いてるかのような奇妙な光景で、中には、すれ違いざまにその姿を目にして、『亡き兄の形見を着る幼い妹』と勝手に想像して涙ぐむ者すらいた。
「……なぁ、嵐、思ったんだけど」
「な、なんだ?」
 まるでゾンビのような声を突然かけられて嵐もひるむ。
「……もしかして、お湯に入ると爆乳美少女になるとかじゃないのか?」
「それはない!」
 即、断言する嵐。
 何故ならそれぐらいは嵐にも容易に予想出来、実際深夜にこっそりと試してみたのだが、何も起こらず今に至るからだ。
「そっか……」
 再びゾンビのごとくフラフラと並んで歩く和馬。
 だが和馬はこの時、本当に大事なことを見逃していた。
 嵐が爆乳美少女になる法則が不明ということは、いつまた突然変身してしまうかも知れないということを。
 逆に嵐はその危険性に気づいており、内心気が気ではなかった。
 ただその姿になるだけならまだいい。
 問題は、今の自分からしたら恐ろしいまでに非力になってしまうことだ。
 もし昨日みたいに呼び出しされた時になろうものならと考えると身震いする。
 実は嵐には皆勤賞と同じくらい手放せない勲章があった。
 それは生まれてこのかた『喧嘩無敗』なことだ。
 それが奪われてしまうかと想像するだけで陰鬱になる。
 いや実際には、そんな事態になろうものならそろどころでないものまで奪われかねないのだが、嵐にとっては『喧嘩無敗』が頭を占めていて、そこまで想像はいってなかったのである。
「くぅっ……」
 それまでゾンビだった和馬が気づくと情けない顔で泣きながら歩いていた。
「お、おい?」
「まだ……まだ揉んでなかったのにぃっ!!」
 覗き込んだ嵐が思わずのけぞるように叫んだ和馬。
 ちなみに、そこそこ通行人の居る通りでのことである。
「オ、オマエ、ちょっと落ち着けって」
「落ち着けるかっ!! オッパイには色んなパワーが詰まってるんだよっ!! 爆乳は聖なるパワースポットなんだよっ!! それを……それを……くぅぅっ……」
「えーと……」
 遂に往来でひざまずきマジ泣きし始めた和馬を、嵐は見捨てて歩き始めた。
「って、親友を見捨てる気かっ!?」
「いや、昨夜おまえに襲われかけた時に、そんな関係はご破算だし」
「しまった! バッドエンドフラグ立てちゃったっ!?」
「大体、だったらどうしろって言うんだよ?」
 その言葉に、和馬はガバッと立ち上がり、一気に言った。
「うむ、次に爆乳美少女になった時は即俺に連絡した後、念のため着くまでの間そのオッパイをあますところなく録画しておけ! ハイビジョンビデオカメラ渡しておくから!!」
「……やっぱ一生そこで泣いてろ」
「あっれぇーっ!?」

 一方、朝の学校。
 登校して来る生徒たちのざわめきが遠くに聞こえる体育用具室で、一人カタカタとPCを操作する桐原の姿があった。
「……足りない……まだまだ足りないぞ! アラシたん画像がっ!!」
 ──と、その時、不意に扉が開き、桐原は慌ててデスクトップ一面の嵐画像を隠しつつ叫ぶ。
「だ、誰だっ!?」
「ダダン、ダンッ、ダダンッ!」
 逆光を浴びて扉に立つシルエットがそうリズミカルに呟いた。
「えっ!? ……ま、まさか、焔(ホムラ)かっ!?」
「おぅ、ワシじゃ! アラシとの決着つけるため、山ごもりから帰って来たぜぃっ!」
 それはリーサルウェポン・嵐に対して、ターミネーター・焔と呼ばれていた男の言葉。
 つい半月ほど前、嵐とのタイマンに破れ、姿を消していた無頼漢。
 そう、ついこの前まで男の中の男だった筈の者の言葉。
「キ……キターーーーッ!!」
 桐原は堪らず叫んでいた。
 そう、そこには、嵐同様、ちんちくりんな姿の美少女が、頼もしげに腕組みして仁王立ちしていたのだ。



 嵐は、昨日の今日でうっかり忘れていた。
 そしてその過ちに気づいた瞬間には既に手遅れだったのだ。
「キャーッ! アラシちゃん来たーっ!」
 教室に入った途端、ぐいっと引っ張られて女子生徒の群れの中に引き込まれる嵐。
「うぉっ!? ちょっと待てっ!! こらぁっ!! わわわわっ!?」
 嵐は女子相手に暴力を振るうことを良しとしないので、というかそもそも、基本的には売られた喧嘩は買うけど自分からは売らない主義なので、正にされるがままだ。
「あーっ! セーラー服着てるー」
「カワイイーッ!」
 いつの間にか野暮ったい学ランを脱がされ、女子たちと同じ制服姿にされた嵐は、諦め顔で始業チャイムが鳴ることをひたすら祈っていたのである。


 その頃、屋内プールの更衣室の入り口は、屈強な男子生徒たちによって教師ですら入れない様相で固められていた。
 そして中でシャワーを浴びていたのは、嵐の好敵手、焔だった。
「んー、たまらんー」
 勢いよく噴出される温水の粒を全身に受け、気持ちよさそうに言葉を洩らす焔。
 そのすぐ近くには桐原が固唾を呑んで控えていた。
 男子更衣室のシャワーは仕切りが無い。
 つまり今、桐原の眼前では、幼い美少女が恥じらいもなく全裸を晒していたのだ。
「しっかし、いきなり『臭いから着替えろ』とは強引なヤツだなぁ」
 焔が桐原の方を向き、背中にシャワーを浴びながら言った。
 いきなり真正面の裸を向けられた桐原は鼻を押さえつつ返す。
「ずっと着てた長ラン、ボンタン、サラシのまま山を下りてくるなんて正気の沙汰じゃないよ」
 初めて桐原の前に姿を現した新生焔は、ダボダボのままそれらを無理矢理着ていたのだ。
「それしか持って行って無かったんだから仕方あるまい。さすがにすっぽんぽんで帰って来るわけにも行かないからな、はははははっ」
 可愛らしい声で豪快風に笑う焔。
「……そ、それにしても、一体どうして、こんなことに……」
 鼻血が出る寸前なのか、鼻をギュッと押さえたくぐもった声で桐原が聞いた。
「うむ、実は熊と戦っていた最中、誤って足を滑らせて泉に──」
「ストーップ! それ以上の説明は色々とヤバいのでストップっ!!」
 ただし、今温水を平然と浴びていたので、それで男に戻るわけではないらしい。
「はははっ、とにかくそういうわけなんじゃ」
 キュッとシャワーを止め、進み出て来た焔に、桐原はタオルを渡す。
「じゃが、幸か不幸か、これで以前の数倍の力を手に入れた。これでアラシなんぞ一捻りじゃ!」
「い、いや、それなんだが、実はアラシも突然おまえと同じようになってて」
「なんじゃと!?」
 体を拭いていたタオルを放り投げ、焔が桐原に詰め寄った。
 腰まで真っ直ぐ伸びる切りそろえられた黒髪が日本人形を思わせ、いわゆる西洋ドール的な容貌の嵐とは対照的である。
「あ、ああ、昨日突然に……ハァハァ……」
 裸の美幼女に間近まで迫られ、それでも何とか桐原が理性を保ち続けていたのは、焔とは長年の親友同士だからだ。
 つまり、嵐と和馬との関係と同じようなものなのだが、桐原の方が和馬よりは理性が効くらしい。
「ぬぅ、さすがはアラシ! だが、面白いっ! そうこなくてはっ!!」
 ぐっと拳を握りしめて力む焔。
「ほ、ほら、き、着替えだっ……」
 そんな焔に桐原は、色々な葛藤と戦いつつ、服を差し出したのだ。
「おぅ、さすが手回しがいいのう」
 それを受け取った焔が、暫し間を置いて言った。
「……このパンツ、何で熊の絵が入ってるんじゃ?」
 短時間でどこからどうやって入手したのか、桐原が渡した下着は女児向けの物だった。
「い、いや、ほら、そ、その方が山籠もりから帰って来たぜ感が出るだろ?」
「なるほどっ! シャレが利いてるのぅっ!!」
 豪快に笑いつつ焔はくまさんパンツを身につけた。
 ちなみに履く際に思いっ切り目の前で足を持ち上げられて、桐原の鼻血は遂に決壊したのだった。


 クラス朝礼が終わり、担任が退室した後、着席していたクラスメイトたちが立ち上がったので嵐は思わず身構えた。
 ちなみに学ランは女子たちからブーイングを浴びて取り上げられてしまっている。
「……何してんだ? 一時限目、体育だぞ」
「あ、そっか」
 声をかけて歩き出した和馬に続いて教室を出る嵐。
 そのまま更衣室へと向かっていたその時、不意に腕を掴まれた。
「ストップ! アラシちゃんっ!」
「お?」
 それはクラスメイトの女子だった。
「お? じゃなくて、そのままついてってどうするの? アラシちゃんはこっち!」
 なんと、そのまま嵐の手を引いて女子更衣室へ連れて行こうとする。
「い、いや、ちょっと待て! それはマズイだろ? 俺、中味男だし」
「そう?」
「そっかな?」
 女子たちは平然と首を傾げる。
「ていうか、アラシちゃんの着替えをみすみす男子に晒せるなんて出来るわけないじゃないの!」
「うん、そうだよ! そっちのが問題!」
「そうそう!」
「だけどな……」
「くぅっ! 羨ましいぞ嵐っ! 隠れ巨乳がいたら報告してくれよっ!」
「いや、だから……」
 嵐とて女子の着替えを見たくないと言ってしまえば嘘になるが、しかし昨夜、今の幼女モードではなく、成長した女子モードの裸を見た挙げ句、自慰までしてしまっていたので、割とどっちでもよくなっていたというのも嘘ではない。
「ほら、行くよーっ!」
「わわわっ!?」
 かくして結局嵐はそのまま抵抗空しく連れさらわれたのだった。


 一方、クラス朝礼なんて当然のごとくサボっていた桐原と焔も、プールの男子更衣室を出て校舎へ向かおうとしていた。
 温水プールなので、夏でなくても週一で水泳の授業があるからだ。
「しっかし、この服はなんなんだ? おさまりが悪いのぅ」
 そう言った焔は、矢がすり模様の入った淡い桜色の小袖と、桜の花が刺繍されたえんじ色の袴を身に纏っていた。
 いわゆる女学生袴スタイル。勿論、子供用サイズだ。
「い、いや、ほら、今まで長ランだったんだから、それの女版って言ったらコレだろ?」
「なるほど。さすがは桐原。博識じゃのう!」
 頭の後ろに大きな赤いリボンをつけた焔がくったくなく笑い、桐原はその可愛さから目眩に襲われる。
 と、その時──
「っ!?」
 桐原は焔の手を引っ張り、物陰に隠れていた。
「どうしたんじゃ、桐原?」
「静かに!」
 焔を制して、そっと物陰から顔を出して覗く桐原。
 そこには、女子更衣室へと入って行く嵐の姿があった。
「……アラシがいた」
「なんじゃと? 早速巡り会うとは、なんと僥倖!」
「僥倖って……もう授業だぞ?」
「構わん! こっちは一刻も早くアラシと闘いたくてウズウズしとるのじゃ!」
「し、しかし……」
「何じゃ? まだ何か問題があるとでも?」
 むしろ問題大ありなのだが、焔が止めて聞く性格でもないことを知っている桐原は、別の問題を懸念していた。
「いや、アラシたちが入っていったのはプールの女子更衣室。つまり次は水泳の授業ということで……」
「そんなことは構わん! ワシは金槌じゃないからの!」
「いや、だからこそ、ちょっと待ってくれ!」
 桐原は携帯電話を素早く取り出し、そして言った。
「僕だ。今すぐ小学四年生相当のスクール水着を大至急届けてくれ。頼んだぞ!」
 そして電話を切り、焔に言う。
「そういうわけだから、ちょっとだけ待っててくれっ!!」
 それは、思わず焔が気圧されてしまうほどの剣幕だった。
「ま、まぁ、そういうのなら少しぐらいは待ってもいいが……おぬし、何やら不気味なほどイイ顔をしてるなぁ……」
 そう、早くも桐原は、まるで大の男が道端で見かけた子猫に赤ちゃん言葉で話しかけるような、この上なくだらしない笑みを顔に張り付かせていたのである。