ウルトラ戦姫・ヒロインピンチの書斎 - Episodeシャイン 第7話『怪獣無法地帯』
怪獣無法地帯
レッドキング・チャンドラー・マグラー登場


 それは彼ら特捜隊が砂漠の失われし都バラ―ジを訪れてから、一か月も経たない内、未だに隊員たちから砂漠の砂が装備や隊員服に残ってざらざらするといった話が出ている時であった。

「今度は南……ですか?」
「あぁ、今回の出動先だが……」
 緊急呼集を受けて指令室へと集まった隊員たちにそう言うと影丸は液晶画面に表示されている日本列島の地図を指さした。
 モニター画面が首都圏から伊豆七島、小笠原、硫黄島……、そして最南端の少し上くらいの位置まで動かしたところで今度はズームしていった。

「多々良島……ですか」

 多々良島。
 そこはほぼ最南端ともいえる島で、島には気象観測所やかつての遠い戦争の頃の軍事施設の名残がある以外は山岳地帯と密林が島を覆う未開の島で、その気象観測所も火山活動のせいで長らく閉鎖され、人が数十年以上も訪れることのなかった謎の島と化していた。
 そんな島の観測所の再開と学術調査のために、島へと調査団が派遣されたがベースとなる観測所に到着して間もない頃に再び火山が噴火したという連絡を最後に消息が途絶えたとの事であった。

「この連絡を気象庁から受け、我々に調査と創作の要請が下ったという訳だ」
「なるほど、そういう事か」
「状況としてはどういった状況ですか?」
「あぁ、SOS発信は途中で途切れていた。事は一刻を争う、すぐに出動準備を。それと今回だが……」

「今回は私がリーダーとして行くわ」
 そう言ったのは亜希であった。
「副隊長がですか?」
「えぇ、隼人君はこの前行ってきたばかりじゃない。次はアタシが出ていく番だと思うの」

 亜希がこんなことを言い出したのには、もちろん同期である影丸を思っての提案であることには間違いなかったが、もう一つの意図があった。
 それは、当初は国際救援隊として創設され各機関から人材や物資などを提供された経緯もあって、様々な状況に置いて出動を要請されることが多かった防衛機構。だが、最近の怪獣災害の増加ペースに対応することが急務とされ、最前線部隊となる特捜隊の増員とそれに伴う組織改編が来春には行われるのではないかとの憶測が部隊内に飛び交っていた。
 そこで、今の影丸隊長、星野副隊長の体勢から影丸・星野の2班への再編が行われる。そして、その組織は女性隊員メインで行われるという。
 そんな水面下での計画の前段階として亜希に積極的に前線で実績を積ませておくべき、そうした判断の元で亜希と影丸との間で話合われていたのであった。

「なるほど了解しました、副隊長」
「えぇ、前回は出れなかったアタシと涼花は今回は出動。あとのメンバーは出動準備にさっそく取り掛かって」
「はい!」

「隼人、じゃあ行ってくるわね」
「あぁ、亜希。気を付けてこいよ」
そう二人が軽く敬礼を交した。

こうして、特捜隊は多々良島へと出動することになったのだった。


極東基地を飛びたったNEOビートルが多々良島の上空に到着したのはそれから半日後の事であった。

 そんな、機体は島の様子を上空から確認するため何回か旋回させた。
 島の中心部は火山活動による噴煙と、それとは別に麓あたりに白く靄がかかっているようで詳しいことはうかがい知れなかったが、辛うじて海岸線のあたりだけは確認することが出来ていた。
「あの海岸の辺りが測候所にも距離的にはアプローチしやすそうね」
「えぇ、私も同感です」
「じゃあ、あそこに着陸するわよ」
「了解」

こうして、海岸の荒れ地に着陸すると一行は多々良島へと足を踏み入れたのであった。

「ここが多々良島か……」

 一同は荒れ地からあたりを見回した。
 ここから見た限りでは、火山噴火の影響はそこまで見られていないようであったが、詳しいところは浜辺の向こうに広がる樹海によって覆われてしまっていて確認することこそできなかったが、あちこちところどころ山肌がむぎだしになった斜面や倒れた土砂などがあったのが気になった。
「梶隊員。あれも火山噴火の影響でしょうか……?」
 そう言って涼花は大きく斜面が抉れた岩山を指さした。
「うーん、もう少し調べないことにはわかりませんが……」
「とりあえず、まずはあの丘のところにある観測所に行くわよ」

「星野副隊長」
 一同が歩き出そうとしたところで、梶が何かに気づいた。
「どうやら、アンバランスゾーンの様です」

「アンバランスゾーン」とは磁場などの異常な反応が確認される地帯の事を指す言葉であり、決まって近くに怪獣や宇宙人の存在が確認されることが多く、彼ら防衛隊員にとって警戒すべき現象のひとつであった。

「なるほど、やはり何かあるわね。みんな、すぐに警戒態勢で進むわよ」
そう亜希が言うと、一同はいつでも撃てるようにブラスターガンをセットし、丘の上の観測所を目指し進んでいった。

「うわぁ……、これまた随分とこっぴどくやられたものだなぁ」

うっそうした獣道を抜けた先にあった観測所は見るも無残な姿を晒していた。
屋根には大穴が空き、雨風や噴石によって内部も徹底的に破壊されつくされ、内外にその瓦礫が散乱していた。

「観測隊の皆さんはどこへ行ったんでしょうか……?」
そう言って一同は建物の中に入ると、中にはまだ真新しい機器や道具が瓦礫の中に混じって散乱していたことから、ここに調査隊がいたことには間違いが無いようであった。

「うむ……、どこかに逃げたのか……」
「逃げた……ですか」
 そう言うと梶は携帯端末の地図を開いた。
「梶君、何か心あたりでもあるのかしら?」
「はい、副隊長。この島にはかつての戦争で基地がおかれていたりもしましたので、その時の防空壕などに火山を避けるために身を隠しているかもしれません」
「あの荒れ地もおそらくは飛行場などの敷地の一部であったはずです」

「先ほど上空で見た限りではすっかり自然に還ってしまっているようですが、地下壕があったのはこのあたりです」
 梶が指さした先、そこは今いるところとは正反対の方角にある地点であった。
 火山の場所からは距離もあるため、退避先としては確かに悪くはなさそうであった。
「なるほどね。よし、そこを調べに行くわよ」
 こうして、更に島の奥深くへと一行は足を踏み入れていくことになった。

 道、と行っても草木の間を縫って険しい斜面をたどるように進んでいく。
 亜熱帯気候の密林の中、地形図を頼りにかきわけるように進み、そして移動の目の前が開け、ようやく岩がむき出しになった見晴らしのいい崖の上へと出た。
 崖の上から眺めるとどうやらそこは、岩山と岩山に挟まれたやや開けた地形の渓谷の谷であった。
「急に開けた場所に出たわね……」
「えぇ、それにみてください」
梶が指さした先には山の稜線があったが、それはまるで何かに削り取られたように地肌がむき出しになっているのがよく見えた。
「ビートルからも見えていたけど、すごいことになっているわね」
「噴火による地殻変動でもあったのかしら?」
足元に警戒しながら崖の底を見下ろしながら、特捜隊が進んでいく。そのたびに脚元の土がポロポロと零れるように崩れていく。
そして、ようやく中ほどまで進んでいったその時であった。

「地震よ!」
「きゃあっ……!」
 地鳴りと共に突然足元がぐらぐらと揺れ動き、斜面が崩れ、大小の岩が谷底の方へと転がっていく。
 そして、一行の進んでいた道の先が大きく崩れると、そこから冷えたマグマのように黒い四足歩行の怪獣が唸るような咆哮を上げながら姿を現した。

「怪獣だ!」
 思わず後退しようとする亜希達たち。だが。

「紗希っ!」
 紗希めがけて落ちてくる岩を見て、とっさに真がかばうように飛び出した。

「ぐあっ……!」
「きゃあっ……!」

直撃こそ避けられたもののかすめた岩に弾かれて二人は崖を転がるようにして、下の密林へと転がり落ちてしまった。

「鈴村!柚本!」
 思わずそう叫んだ山木。
 だが、その声に気づいたのか黒い怪獣がこちらをぎろりと見つめる。
 とっさにビームガンを構える隊員たち。
 だが、そこにもう一つの鋭い鳴き声が響き渡った。

 それはもう一体の羽根と一体化したような腕を持つ怪獣であった。
 怪獣は向かい側の山の奥から木々をなぎ倒しながらずんずんとこちらへと向かってきたのであった。

「もう一体いたのか!」
「くそっ、ここは怪獣島って事か!」
 そんな中で梶は冷静そうに新たに出現した怪獣の姿を眺めていた。
「梶隊員。どうしたのですか?」
「えぇ、あの怪獣ですが南極で出現報告があった個体に似ていると思いまして」
「南極……なるほど“ペギラ”ね」
「えぇ、副隊長。さすがです」

 ペギラとは数年前に南極で発見され、現地で調査を行っていた観測隊員に襲い掛かった寒さを好む怪鳥怪獣である。

「でも、ここは南極じゃなくて南の島だぜ」

 ペギラは過去のデータで、寒さを好み極地や極めて高い標高の高山地帯にしか生息することは出来ないはずであった。

「えぇ、なので熱帯、亜熱帯の気候で生活できるように進化した個体とでもいうべきでしょうか」
 そう冷静に分析している間にも、2体の怪獣はお互いの姿を見つけると睨み合う。
 そして、2体の咆哮が響き、互いの怪獣がぶつかり合い戦いの幕が上がった。

「んんっ……、こ、ここは……?」
 ようやく紗希が目を覚ました時、二人は崖の下に転がっていた。
 紗希を庇おうとしてともに転落し、気を失ったままの真を起こそうとする紗希。

「真!真!」
 時折響く地響きと怪獣の咆哮。すぐにここを離れないと危ない、そう思い真を背負いあげようとした。

「いたっ……!」
 思わず腕を戻してしまう紗希。
 服の袖をまくると腕に痣が出来、大きく腫れてしまっているのが見え、そこに手を当てた瞬間激痛に思わず顔を歪めた。
 どうやら、先ほどの転落の時に紗希も腕を痛めてしまったのであった。
 痛みに耐え、顔を歪めながら紗希は何とか真の身体を背負うと二体の怪獣たちからなるべく遠い安全なところを目指した。

 そのころ、怪獣同士の戦いも決着がつきつつあった。
 先に音を上げたのは黒い怪獣、マグラーの方であった。
 マグラーは形勢が不利と見るや、チャンドラーに背をくるっと向ける。そして、特捜隊の陣取る崖を乗り越え、山影へと逃れようとしたのであった。
 そして、チャンドラーもそれを追いかけようとした。

「こっちへ来るぞ!」
 そう叫んだ山木。思わずスーパーガンを構えるとマグラーの顔めがけて放つ。
 ギャアと悲鳴を上げ、思わず顔を押さえるようにしてひるむ怪獣へ、更に山木はナパーム手りゅう弾を構えるとマグラーへと投げつけた。

「伏せろ!」
 その瞬間、マグラーの上半身はナパームによって大爆発を起こし、その巨体がその場に崩れ落ちていった。

「やった……!」
 思わず安堵の表情を浮かべる亜希達。
 だが、今度はチャンドラーがマグラ―の屍を踏み越え、襲い掛かろうとしてくる。その時であった。

 一瞬空に閃光が走り、上空に一点の影が出来た。
  

「たあっ!」
 その声とともに、チャンドラーの身体が何者かの尻に弾き飛ばされ、大きく後ろへと仰け反った。

「シャイン!」
 特捜隊員をちょうど見下ろすような構図で現れたシャインは出現と同時にヒップアタックでチャンドラーを弾き飛ばしたのであった。
 「ふぅ……!」
 大胆な先制攻撃が決まり、尻をぱんぱんと払って見せるシャイン。
 そして、向かいなおすとようやく態勢を立て直したチャンドラーへと向かっていった。

ギャアアアオオオォォン……

 突然現れたシャインに闘争心をむき出しにしてチャンドラーは両腕の翼をバサッと振り上げ、シャインへ向けて叩きつけた。
 「きゃあっ!」
 思わず後ろへと下がるシャイン。
 更にチャンドラーは翼を大きく振り動かし、突風をシャインに向かって浴びせかけていった。
「くっ……」
 巻きあがる砂埃がシャインを襲おう。
 その砂埃から目を守るように腕を顔の前に据え、足元をがっちりと地面に踏みしめるこれをしのごうとするシャイン。そのまま、追撃しようと頭の角を突き出し頭突きをくらわそうとするチャンドラー。
 だが、すぐさまシャインもこれをキックで蹴り飛ばし反撃に転じるとパンチやキックで応戦していく。そんな一進一退の攻防が続いていていた。

 そして、やがて戦いは一瞬のスキをついたシャインがチャンドラーを放り投げ飛ばすと徐々にシャイン有利へと傾いていった。
 その場に倒れ込み、ダウンを奪ったチャンドラーに対しトドメとばかりにスペリオル光線を構えようとしたその時。突如シャインの背後から大きな咆哮が響いた。

 島中に響き渡るほどの大きな咆哮。その主は……

「見てください!レッドキングです!」
「なんですって……、なぜこの島に……?」

 両者が争う、その反対側から土煙が上がり黄土色の外皮を持つ怪獣が咆哮を上げながらこちらへとずんずんと進んできた。

 レッドキング、そう特捜隊員が呼んだ怪獣。
 それは数年前に南米ギアナ高地で発見され、現地を調査中であった調査隊や南米支部の隊員たちに襲い掛かった狂暴で危険な暴君怪獣であった。

「分かりません、この島であの怪獣と共に眠っていたのか。ほかの土地から渡ってきたのか……」

 両者の戦いを見て、俺も加わらせろとばかりにずんずんと向かっていくレッドキング。
(そんな、もう一匹いるなんて……)
レットキングの方を振り向き、そして胸元のカラータイマーを見遣るシャイン。
 新たなる乱入者に気を取られたその時であった。
 チャンドラーは再びシャインの鳩尾に向かって、頭突きを食らわせた。

「きゃあっ……!」
 まったくの無防備だったスキを突かれ、鳩尾に角が突き刺さり、苦し気な声を上げその場に悶え転がるシャイン。
 しかも、転がった方向はちょうどレッドキングの真正面。そう、チャンドラーは戦いで消耗した自身に代わってレッドキングにシャインとの戦いをけしかけようとしたのであった。

「い、痛い……はぁ……はぁ……」
 鳩尾を押さえるシャイン。ここまでのチャンドラーの戦いでエネルギーを消耗したためかカラータイマーが赤く点滅を始めた。

ピコンピコンピコン……
(まずい……、エネルギーがもうすぐ……)

「うぅ……!」
 何とか、立ち上がろうと体を起こそうとしたその時であった。

「ぐあっ……!」
 シャインの背中をレッドキングの脚が踏みつけた。
「うぅ……っ……」
 そして、そのまま足でシャインをぐりぐりと踏みしめていく。

 その様子を見ながらチャンドラーは安心したように、シャインとレッドキングから距離を取り始めた。

 こうして始まったシャイン対怪獣の第二ラウンド。

 なんとか体を横に転がし、重心をずらすことで脱出に成功すると体を起こしたシャイン。
 それに対して、レッドキングはまるでゴリラのドラミングのようにその筋肉の塊のような胸を太い腕でたたき、雄たけびを上げ、シャインへと突進していった。
 思わず、構えながらそれをいなそうとするシャイン。
だが、突如無防備であった背後から突き刺さるような突風を受けてしまった。

「ぐぁ……っ!」
 突風を食らわせたのはチャンドラーである。両者の戦いの外へと逃れることに成功したチャンドラーはこのままレッドキングにシャインをぶつけさせ双方を共倒れにさせようと、背後からシャインを攻撃してきたのであった。
 後ろから突き飛ばされるような衝撃の突風によって、思わず前のめりによろけてしまうシャイン。
そこにレッドキングの両腕がシャインの身体をがっしりと抱き絞めるようにとらえた。

「ぐあああああああああっ!」
肢体から軋む音が聞こえそうなほどの強烈な巨獣からのベアハッグを受け、意識を覚醒させられ、悲鳴を上げた。

 必死の形相で振りほどこうと抵抗するシャイン。
 だが、レッドキングはそのままその太い両腕でシャインの肢体を抱きしめたまま、上へと抱え上げていく。じたばたともがく シャインの脚のつま先が地上から離れると、レッドキングはその抱きしめているシャインの華奢なウエストを絞り上げるようにギュッと締め上げた。

「くぅ……っ……!」
 潰されるそうな悲鳴。
 そして、レッドキングは再び咆哮を上げると、シャインの肢体をきつく抱きしめたまま左右に大きく揺さぶり始めた。

「ぅ……あ……!」
 シャインのサイドに結った髪が大きくゆすられ、そのたびに悲鳴が漏れる。
そして、徐々に勢いをつけていくとレッドキングはそのまま力任せにシャインの肢体を放り投げ飛ばした。

「ぐあっ……!」
 思いっきりジャングルの上へと投げ飛ばされ転がるシャイン。

 それを見て得意げな顔のレッドキングはあたりを見渡し始めた。
 そして、何か思いついたのか岩山の方へ向かうと、拳を振り上げ岩山を突き崩し、そして岩の塊を持ち上げるとのしのしとシャインの方へと向かっていった。
 そして、シャインに岩塊を振り下ろそうとする。

「危ないっ!」

 思わずシャインは両腕をL字に組むと、スペリオル光線をレッドキングの頭上めがけて放った。
 瞬間、岩塊が砕ける。そして、ぱらぱらと細かい石と砂埃となってあたりに広がった。

「ごほっ……ごほっ……」
 思わず、砂埃でむせ返るシャイン。
 だが、安堵する間もなく起こしていた上半身ががっくりと倒れた。

「はぁ……はぁ……」
(もうダメ……エネルギーが……)
悲鳴を上げるようにピコピコピコピコと一層激しく明滅を繰り返すカラータイマー。
そして、そこにレッドキングが再び近寄ってきた。

 思わずレッドキングへ手を伸ばすシャインに対し、レッドキングはその脚でシャインの腹部を踏みつける。
「んぐっ……」
 思わず空気が絞り出されるような悲鳴を上げると、更にレッドキングはその豊かなバストの谷へと脚を置いた。
「あ……ぁ……!」
 バストを潰され、苦悶の表情を浮かべる。
 そして、ついに限界を迎えようとしていた……

(こ、このままじゃ……)
 シャインは上空に突き上げていた腕を真横へと下ろし、そしてリング状の光線を放った。
 そして、リングが放たれると同時にシャインの姿はレッドキングの足元から姿を消したのであった。


「はぁ……はぁ……」
 シャインの放ったワープリング光線の先に紗希の姿があった。
 紗希は先ほどレッドキングに踏みつけられたところを押さえながら、先ほど置いてきてしまった真、そして特捜隊のもとへと合流すべく足を進めていた。

「無事でいて……真」
 そう呟いた時、あのレッドキングの咆哮が再び鳴り響いた。

 レッドキングはしばらくシャインの行方を追うようにあたりを見渡していたが、しばらくするとターゲットを逃げ去ったチャンドラーに変えたのか、どっかへと立ち去って行ったのであった。
 薄暗いほどにうっそうと木々の生い茂るなかを、満身創痍の身体で単身進む紗希。だが、危機はまだ終わったわけではなかったのである。
「きゃっ!」
 何かに躓き転倒してしまう紗希。
 そして、立ち上がろうとした瞬間何かが体に巻き付いてきたのであった。
 「あぁ……、しまっ……」
 そのまま紗希の身体が宙へと引っ張り上げられていった。

「レッドキング、どこかへと向かっていきます」
 同じ頃、安全なところまで後退することに成功していた亜希達調査隊はレッドキングが渓谷から去っていくのを見て、先ほどはぐれた真、そして紗希の創作へと向かうべく渓谷へとゆっくりと降りていった。

「二人とも無事でいると良いのですが……」
「おそらく無事よ」
 亜希の中では根拠はないがそんな気がしていた、自分でも不思議な事ではあったが。
 それは、おそらくこれまで何度も危機から二人が生還してきたからであろうということは納得がいく事であった。

「それにしても、こんなジャングル。まだ、何かいそうだな……」
 そんなことを口走った瞬間、ガサガサと草木が揺れる音ともに何かかが面々の前へと近づいてきた。
「うわっ!」
 思わず、スーパーガンを取り出した瞬間。

「待ってください!」
 そう言って真、そしてもう一匹赤い小型怪獣が姿を現したのであった。
「鈴村隊員!? 無事だったのね」
「はい、気を失っていたところ紗希が助けてくれて…… その後俺をここまでこの赤い怪獣が……」
「じゃあ、柚本隊員は……!?」
「助けを求めるために……向かっていったきり……」

 その時であった。
 赤い怪獣が何かを感じ取ったのか突然真の服をくいくいと引っ張りだした。
 どうやら、怪獣には何かアテがあるようであった。それを信じ、案内する方向へと亜希達は向かうことにしたのであった。

 赤い怪獣の案内でなだらかな斜面を下り、怪獣谷の谷底へと降りると、そこに広がるジャングルをかき分け、紗希を捜して更に奥深くへと進んでいった。
 その途中で一同はボロ切れとなった衣服やタオル、ハンカチといった物や水筒や鍋、やかんといったような小物類を見つけ、回収していた。ところどころに血らしき跡や染みがついたそれらはどうやら調査団のメンバーの所持品の様であった。
「やはり調査隊のメンバーもここにきていたようですね……」

 そして、赤い怪獣が立ち止まりぴょんぴょんと飛び跳ね、茂みの向こうを指さした。
「ここか……」
 そして茂みをかき分けた、その先にあったのは……。

「紗希!」
「柚本!」
 そこにいたのは、植物のつたに絡みつかれたまま気を失っている紗希であった。
「うぅ……っ……、だ、誰か……」
 絡みついた蔦がボロボロになった紗希のスーツ、そして柔肌の上を這うように蠢いている。
「あの植物……、吸血植物スフランですね。早く救出しないと」
「よしっ、待ってろ紗希!」
 真が急いで駆け寄ろうとするのを制止したのは梶であった。
「山木隊員、先にスーパーガンであの根本あたりを焼き切ってください」
「おう!」
 すぐさま、山木はスーパーガンを抜くと根元を焼き切ると、ずるすると蔦が地面へと降りていく、それを見て真は触手状の蔦を払いのけ紗希を助け出した。

「紗希!紗希!」
「うん……、し……真……!?」
「良かった……」
「鈴村、柚本。そこを離れてくれ」
 そう言って、山木はナパームでスフランを焼き払ったのであった。
「良かった……」
「どうして、ここが……」
「あの赤い怪獣が助けてくれたんだよ」
「そうだったのね。ありがとう」
 そう言って紗希は赤い怪獣にぺこりと頭を下げ、礼を言った。
「見てください、ここにも」
 そう言って亜希に梶があたりで拾ってきた調査隊の物と思しきものを見せた。
「どうやら、調査隊も怪獣だけではなくスフランに襲われた可能性がありますね」
「でも、まだ生き残っている隊員がいるかもしれないわ」
 すると、赤い怪獣が手招きするような身振りを見せると、またどこかへと跳ねるように駆け出していった。
「ん、お前今度はどこへ行くんだ」
「また、案内してくれる気なのかも」

 何かを察したのか、どこかへと歩いて行った赤い怪獣の後を特捜隊員は追いかけた。
 そして、たどり着いた先は古い防空壕のような洞窟であった。

「これは……」
「戦争中に作られた軍事施設の名残の様ですね……」

「お、おーい!」
 人の気配に気づいたのか、洞窟の奥から人影が飛び出してきた。
「もしや、調査隊の人ですか?」
「あぁ、その通りだ……」
 松井と名乗った調査隊員の一人と合流し、いったん一同は地下壕の中へと入ることにした。

「どこか痛めているのですか?」
 涼花は松井の腕や脚に包帯代わりの白い布が巻き付けられているのに気が付いた。
「あぁ」
「大変、すぐに手当てしますね。柚本隊員、手伝ってください」
 紗希や涼花が松井の手当てをしているその間も、赤い怪獣は外へ出ての見張りや果実などを洞窟へと運び入れたりとせわしなく動き回っていた。
「あの怪獣、……俺はピグって呼んでるが皆とはぐれた俺を助けてくれたんだ……」
「ほかの方は……?」
「わからない……、ただおそらくあの怪獣や植物などに襲われたのかもしれん……」
「怪獣が出たのはいつからですか?」
「俺たち調査団が島に入って数日後、島が大噴火してからだ」
「通信も不能になり、急いで避難の準備をしていたところにあの黒い怪獣と翼のある怪獣が襲ってきたんだ」

 そうして松井は島が噴火してから、ここまで起きたことの子細を星野たちへと語り始めた。
 通信の回復を待っている最中、突然現れた怪獣に襲われたこと。その怪獣から逃げ惑う中で他の隊員たちとはぐれ、散りぢりになったこと、最初この壕にたどり着いたのは3人であったが行方不明となったこと。
 そして、負傷し一人きりになったところにあの怪獣がやってきたという事であった。

「武器もない、戦う力もない傷ついた俺を助けてくれたのがあいつなんだ……あいつがいなければ今頃俺も……」
「なるほど……」
「ほかの隊員たちの消息は何かつかめていますか?」
「えぇ、ただやはり他の隊員たちはおそらく……」
「そうか……」

「とにかく、ここは安全だ。とりあえず今はしっかり体を休めつつ、明日のことについて作戦を練るべきだと思います」
「あぁ、そうだな。鈴村、それに柚本の方の傷はどうだ?」
「えぇ……」
「紗希、ずいぶんひどく腫れてるじゃないか。先に手当てしてもらえよ」
「ありがとう、真」
 そういって紗希は痛めた腕を露にすると、梶そして涼花に手当てをしてもらうことにした。
(紗希の奴、ずいぶんひどく痛めてたんだな……。そういえば、シャインも……)
「では、次は鈴村隊員」
「あっ……、はい」

 そうして、明日に備えて体を休め。そしてこの島を脱出するための作戦が亜希や梶、山木たちによって練られていた時であった。

 ズズン……
 そんな地鳴りとともにあの昼間の二体の怪獣の咆哮が聞こえてきた。
「また、あの声か……距離は離れているから大丈夫だとは思うが……、まったく早くこの島から脱出したいものだ」

 地上ではレッドキングとチャンドラーの戦いが繰り広げられていた。
 両者がもつれあうたびに真夜中の密林に地響きと咆哮が静寂の中に響いている。
 昼間こそ、シャイン相手に共闘するような素振りを見せていた両者だってが、共通の敵がいなくなった今は再び両者がぶつかり合っていた。

 戦いは先にシャインと戦いダメージを受けていたチャンドラーの方が徐々に追い詰められていき、そしてついに逃げ出そうとしたところでレッドキングが自慢の怪力でチャンドラーをがっちりととらえてしまった。
 そして自慢の怪力で羽根を捥ぎ取り、そしてそのままチャンドラーの首を締め上げ、そして折ると倒してしまった。
 息絶えたチャンドラーの傍らで勝利の雄たけびを上げるレッドキング。

 その返り血を浴びた体はまさにレッドキングと呼ぶにぴったりの外面となっていた……。


そうして夜が明けた。

 面積こそ、そう大きくはない島だがアンバランスゾーン現象と火山活動で大きく変貌した島を進むのに、ピグモンのガイドは重宝するのであった。
 ピグモンの案内の元、レッドキングに悟られないような場所を巧みにたどりながら、一同は入り江へと向かっていった。

「もう少しね……」
 視界が開けると、そこは最初に一同が脚を踏み入れた海辺の荒れ地であった。
 この荒れ地を抜ければ、入り江へとたどり着く。その時であった。

グァアアアアアアアアアアアアアオ!

 まるで火山が爆発したような咆哮が響いた。
 そして返り血を浴びた暴君レッドキングがこちらへとずんずんと行く手を阻むように進んできた。
「我々の動きに気づいたのでしょうか」
「まったく、勘の鋭い奴だ」

そして、レッドキングがこちらを威嚇すると、何かに気づいたのか入り江へと向かおうとした。
「まずいっ!ビートルがやられるわ!」
「真、紗希ちゃんと松井さんを先にビートルへ!」
「はい!でも、隊長は?」
「、発信準備が整ったらすぐに撤退するから、それまでレッドキングを入り江に行かせないように足止めするわ」

「分かりました……!行くぞ、紗希!」
そう言って真と紗希は松井を連れ、レッドキングよりも一足先にたどり着くべく、足取りを急がせた。

 一方の特捜隊員はジャングルの中に隠れながら、レッドキングを足止めするために様子を伺っていた。
「シャインすら退けるパワーの相手に今の私たちの戦力では、撃退は出来ないわ。当たり前だけど深追いは無用、あくまで入り江に近づかせないようにね」
「はい」
 そうして、相手での出方を伺う特捜隊員など無視するように一歩一歩入り江に向かって進撃を続けるレッドキング。
「よし、やるぞ!」
 その山木の声を合図に一同はナパーム手りゅう弾、ブラスターランチャー片手にレッドキングへと戦いを挑んだ。
 爆発音とともに炎がジャングルのあちこちから上がり、レッドキングを足止めしようとするが全くひるまず進もうとする。
「くそっ……、あいつ全然怯もうとしない!」
「鈴村たちはまだか……」

 すると上空に信号弾が上がった。
 それは真たちが打ち上げた、発信準備完了の合図であった。
「よし、すぐに退くわ」
「でも、あいつも信号弾に気づいたんじゃ……」
「亜希副隊長! 大変です!」
「涼花、どうしたの?」
「ピグが……レッドキングの方に……!」
「えっ……!」
 レッドキングの方を見ると、確かにピグモンがレッドキングの方に向かっていくのが見えた。
 そして、ピグモンはレッドキングの足元まで来ると足止めするように立ちはだかった。
 それに気づいたレッドキングが足元を見下ろす。
 ピグモンは更に挑発するように高い鳴き声とぴょんぴょんと飛び跳ねて見せた。
 そして、一通り挑発しきって後ろへと駆け出したピグモンを見て、レッドキングはその方向を向いたかと思うと尻尾をピグモ ンへと振り下ろした。

「あっ……!」
 地面に倒れ伏すピグモン。そして、さらにもう一発尻尾が振り下ろされるとピグモンはピクリとも動かなくなってしまった。
 だが、それだけでは収まらないのかレッドキングは樹木や岩を掴み上げると、あたりに投げ飛ばすなど大暴れし始めた。
「あいつ、まさか入り江から気を反らすために……」
「とにかく今のうちに撤退よ!早くしないと、あのまま入り江に向かっていくわ」

 その頃、負傷した真と紗希は調査隊員の松井を連れて、一足先にビートルへとたどり着くと急ぎ発信準備を進めていた。
 先に乗り込んだ真がビートルを起動させると紗希は松井を機内へと乗せた。

「よし、あとはみんなが……」

 その時であった。
(ピグモン……!?)
「おい……!紗希?」
紗希は機外へと飛び出した。
「真、亜希副隊長たちが危ないわ……!」
  そう言うと駆け出して行った。

「よし……ここなら……待ってて……!」
そして、Sカプセルを掲げスイッチを入れた。

「ピグモン……」
「感傷に浸る暇はどうやら内容だな……」
 ピグモンを倒したレッドキングがずんずんと特捜隊の方へと向かっていく、そこへ。

「たぁっ!」
 上空からシャインの急降下ドロップキックがレッドキングの上体めがけて繰り出される。
 思わずレッドキングの巨体は大きく吹っ飛び、転がった。

「皆さん、早く……!」
「ありがとう、さぁ急ぐわよ!」
 そう言うと亜希たちは急ぎ入り江へと駆け出して行った。
 その間にシャインはようやく起き上がってきたレッドキングの注意を引きつけようとした。
 そうして構えたシャインへとレッドキングが突進してきた。
「ここから先へは行かせないわ!」
 これをあっさりといなすシャイン。レッドキングはそのまま岩山へと突っ込んでしまった。
そのままシャインは吹っ飛ばされたレッドキングの背中へと馬乗りになると動きを封じるとチョップを叩き込んでいく。
  だが、やはりレッドキングの力は強くあっさりとシャインを振り落とすと、払いのけてしまった。

「うあっ……!」
 横に転がるシャインであったが、すぐさま立ち上がる。
 だが、そこにレッドキングが体当たりを食らわせた。

ドスッ!

「うぁ……!」
 強いタックルを受けよろめくシャイン。
 そこに更にレッドキングが第二撃を繰り出す。

ドスッ!
 ドスッ!

 顔に、そして腹の鳩尾へと叩き込まれるレッドキングの拳。
 更に腹を押さえたままのシャインを掴むと、膝蹴りを腹部へと叩き込んだ。

「うぅ……!」
 棒立ちになり、その場にふらつくシャイン。
 思わず、レッドキングに無防備になった背中を向けてしまったところにガシッと太い腕に首元を捕らえられてしまった。
(しまっ……!)

 思わず振りほどこうとするシャイン。だが、もう一方の腕でも捕らえられてしまった。

「うぅ……!」
 そのまま、もう一方の腕と合わせて羽交い絞めにされるシャイン。
 シャインは必死に頭を左右に振り、身体を振りよじってレッドキングの腕を外そうと試みるのだがレッドキングのは腕がどんどんと食い込んでいった。

ギギギ……ギュー…

 体の軋む音が響く。
「ぐぐっ……あっ……ああ……っ……」

「う…あぁ…」
――くるし…ぃ…
 羽交い絞めに苦しみ、動きが鈍くなっていくシャイン。
 だが、苦悶の表情を浮かべながらも何とかレッドキングの太い腕に食らいつくと、そのまま羽交い絞めの姿勢から身を低く落とす。そして、レッドキングの首をつかみ取り前方へと投げ飛ばした。

「はぁ……はぁ……」
 なんとかレッドキングの羽交い絞めから逃れたシャイン。
 首元を押さえながら、膝をつき肩を上下させている。
 だが、再びレッドキングはシャインに襲い掛かりダウンを奪うと、うつぶせに組み敷いてしまった。

 シャインの背中にレッドキングの巨体が跨り、そして上から強い力で押さえ付けられるシャイン。さらに、後頭部そして背中に拳を振り下ろし、殴りつけていった。

「があ……っ……」
トレードマークのサイドテールを引っ張られ、頭をぐりぐりと地面に押し付けられるシャイン。

「ぐっ……!ぐぁぁ……」
 苦しげな表情のシャインにレッドキングはさらに背後から首を絞めていく。
 だが、シャインも重心をずらし、振り落とそうと体を振りよじりながら、膝を立たたせようともがく。
 そして、重心がずれバランスを崩したとみるや一気に下半身を突き上げるようにして動かすと、そのままレッドキングを振り落とした。
 そして立ち上がると起き上がろうとするレッドキングに対し、間合いを取る。
 一方のレッドキングは起き上がるやいなや、シャインに向って再び突進してきた。

「また同じ手を……!」
 それに対し、シャインは頭を突き出すようにして突進してくるレッドキングの腕をしっかりと掴む。
「えいっ……!」
 そして、腕の痛みに顔を歪ませながらも巴投げで思いっきり投げ飛ばした。

「おぉっ!」
「まさしく“柔よく剛を制す”ね……」
 シャインがレッドキング相手に投げ技をメインに戦っているのを見て、亜希は思わず感心したような顔でそう呟いた。
 レッドキングはフラフラになりながらも、何とか起き上がろうとする。
 一方のシャインも左腕を押さえていた。
「ぃ……たた……」
 その様子を見ていた、真はふと疑問を感じた。
(シャイン……左腕を痛めているのか、そういえば紗希も左腕を怪我してるし……まさか……?)
 だが、痛みをこらえながらシャインはレッドキングの背後へと回り込み、尻尾を捕まえ引っ張り上げると振り回し、山の断崖めがけて思いっきり投げ飛ばした。

「トドメよ!」
 そしてシャインは棒立ちになりダウン寸前のレッドキングに近づくと、首を捕まえるとぐるぐるともう一度振り回しそして首投げで地面へと叩きつけ、そして再び起こすと、今度は一本背負いで豪快に叩きつけた。
 そしてついにレッドキングはじたばたとしばらく痙攣した後、完全に沈黙し、二度と動くことはなかった。

 シャインはそれを確認するように見届け、そして地面に横たわっているピグモンの方を一度見ると上空へと飛び立っていった。

「こっちです!」
 亜希達のところに紗希が駆けつけたのは、それから間もなくであった。
 こうして、ひとまず一同はビートルのもとへと急いだのであった。


 島の端の岬の上に4つの墓標が並んでいる。
 それらはこの島で命を落とした観測隊、そしてもう一匹の仲間ピグモンのために建てられたものであった。

「佐々木、川田、藤田。みんな、静かに眠ってくれ。恐ろしい怪獣たちも、怪奇植物も、みんなこの人たちが退治してくれた。 そして私を助けてくれた怪獣。安らかに眠ってくれ」
 あの後、怪獣が退治されたことを受けてビートルを怪獣のおかげで荒野になったところへと寄せると、ピグモンの亡骸とそして観測隊員の物と思われる遺留品を特捜隊員たちは回収したのであった。

 測候所員3人と、ピグモンの墓の前で、松井所員は彼らの霊を弔った。
 そして特捜隊員も、松井所員に習い、その後ろで霊を弔っていた。

「これでこの事件も解決ね……」
「あぁ……」
 そういって真は紗希の腕を見た。
「どうしたの?真」
「あぁ、左腕の具合はどうかと思って」
「えぇ、まだ痛むけど大丈夫よ」
「そうか……」
(まあ、たぶん違うと思うけど……もしかしたらな……)
 真はそう思い、紗希に対する疑問を膨らませていった。
「ねぇ?ほんとにそれだけ?」
 そう言って、真の顔の方を紗希がまじまじと見てきた。
「あ、あぁ。そ、それだけだよ……!」
「ふぅん……」
(まあ……今は考えるのをやめよう……)
 真はそう思い、一先ず疑問を打ち切る事にした。

「これで、この島にも平穏が戻るわね」
「えぇ、そうですね」
「にしても、人間に友好的な怪獣なんてのもいるんだな」
「えぇ、話には聞いていたけど実際に会ったのは、私にとっても初めてだったわ」
「副隊長でも、ですか?」
「えぇ、アーカイブスや他の隊や支部の話で聞いただけだったわ」

「そう言った怪獣がいてくれたら……、いや怪獣ともっと友好的に付き合うことが出来れば……」
 その松井の言葉に特捜隊員たちも思わず頷いていた。

「さて、そろそろ戻りましょう」
「あぁ」

 そうして、一同はビートルへと乗り込み、基地へと帰投したのであった。