ウルトラ戦姫・ヒロインピンチの書斎 - Episodeシャイン第9話&Episodeセレス第1話
「なぜ、あいつ(シャイン)の太陽系着任が急に決まったのよ!」
 
 そう観測局の局長を務めるヴァイオレット髪の戦姫に声を荒げて詰め寄ったのは、真紅の太陽系に着任が決まった「輝きの戦姫」よりも面積の大きめで、この上司と同じ観測局の制服ともいえるレオタードの様なスーツに身を包んだ金髪ツインテールに結った戦姫であった。
 
「彼女からの報告で太陽系、とりわけ“地球”と彼ら現地民族が呼称するエリアがいわゆるアンバランスゾーンとなっているとレポートが上がった。それを受けての着任よ」
「でも、正式な着任もないのはおかしいわよ!」
「辞令は近々警備隊の方から通達予定。わざわざアンバランスゾーンから戦姫を呼び戻すなんて愚かなのはわかるでしょ」
 
 そうクールに、そしてまるでワガママな妹を諭す姉の様な目をこちらに向けてくる上司にそこまで言われツインテールの戦姫はぐっと押し黙る。
「それで」
 そう言って上司はツインテール戦姫にディスプレー画面を見せた。
「警備隊が着任するとなれば、観測隊からも戦姫も着任させなければならないというのはわかってるわよね」
「……!?」

 ちょうどあなたの手が空いているところだから適任だと思って、推薦しておいたわ」
「局長……!」
「勘違いはしないでほしいわね。 アンバランスゾーンの未調査な部分も多く、我々銀河連邦加盟ではないため全面的に警備として戦姫を送ることも難しい星域で、近隣の星系に赴任している戦姫との連携も難しい中で観測隊内でも実力のあって、手の空いている戦姫はあなたぐらいだからよ」
 そういって、上司はツインテール戦姫に辞令を渡した。
「出発は早急に。 太陽系までは途中までハイゲート(転送ゲート)があるけど、そこから時間がかかるわよ」
 そう言うと先ほどまでの不機嫌そうな顔からうってかわった顔で、つんつんツインテール戦姫は執務室から喜び勇んで出ていった。
 
「やれやれ……まったく手のかかる我が妹(セレス)ね……」
 そう呟きながら、素直になれないのは姉妹一緒なのかと上司(ウェスタ)はそう呟いた。

 とはいえ、当の妹がそのことを知るのはもう少し先の話となるのであるが……。
 
「ねぇ、真。今度の一緒の休みにデートしよっ!」
 
 当番を終え、引っ越したばかりの2人の部屋に戻ってきた真に対し、そう唐突に言い出したのは先に部屋に戻っていた紗希であった。
「えぇっ……!デートって……」
 唐突に紗希にそう言われ、驚いた表情を浮かべた真に対し、紗希はもう!って感じの表情を見せる。
「でも、わたしたちカップルなんだよ〜。それに週末はちょうど二人共お休みなんだし……ねぇ」
 
 それは昼間の事であった。
 
「よぉ、新入り!」
「あ、日向さん」
 晴れて正式入隊も決まり、一人前の特捜隊員として訓練とパトロールを兼ねた飛行を終えた紗希に声を掛けてきたのは、整備部のツナギに身を通した先日知り合った見習い整備士であった。
 
「その言い方、なんか調子狂うんだよなぁ…… 背もそっちの方が高いんだし……陽子で良いぜ。紗希さん」
「じゃあ、私の事も紗希ちゃんか呼び捨てで……」
「おう、それにしても鈴村と同棲するんだってな。このぉ!」
 そう言って陽子は紗希の肩をよくやったと褒めるようにポンポンと叩いていた。
「いえ、でも……」
 
「なんだ……、あいつからまだ告白されただけなのかよ……」
「うん、真はいつも優しいし勇気もあって素敵な人だと思うんだけど……」
「(まったく……鈴村の奴ときたら……) じゃあ、紗希ちゃんの方から誘ってみろよ」
 やれやれといった感じで紗希にそう陽子はアドバイスした。
 
「ってことは、デートもまだなんだよなぁ……」
「えぇ……」
「(お互い不器用そうだしなぁ……) じゃあ、おすすめのデートコース教えっから楽しんできなよ」
 そう言って陽子は所属隊員、職員に支給されている携帯端末の画面にささっと箇条書きで打ち込んだメモの様なメールを紗希の端末へと送信した。
「じゃあ、楽しんで来いよ。お二人さん」
 
(買物、食事に映画かぁ……よぉし!)
 陽子からのメールにはガンバレよという言葉とともに、デートコースや最近話題のおすすめスポットの情報についてのメモが書かれていた。

「ねぇ、良いでしょ〜。恋人同士なんだし……」
 そういうと紗希は甘えたようなそぶりで真へと体を寄せてくると、ふんわりと甘い香りが漂ってきた。
(紗希って意外と大胆なんだよなぁ……まぁ、俺も副隊長からは恋人同士らしい事しなさいってさっき言われてたしなぁ……)
「そ、そうだな……」
 そう紗希に返事をしながら、思わず目を泳がせると物がまだまだ少なく広く感じるのが目についた。それにまだまだ紗希の持ち物も着の身着のままでここに転がり込んできたこともあって、急ぎで買いそろえた安い小物類だけだったのも思い出した。

「それに、この部屋もまだまだ物が足りていないし、買い物がてら今度の非番の時に遊びにも行くか!」
「うん!」
 
 そういう事で、二人は休暇を思いっきり楽しむこととなったのであった。

「うわぁ……きれい」

そんなやり取りがあって次の2人共通での休養日となった日、紗希は真琴と買い物を兼ねたデートでベイエリアを訪れていた。
一通り家具や小物類を買い終わった2人はエリアを見下ろす展望台から夜景を眺めていた。

 (この星に来てから、こうやって意識して風景を見る事ってそういえば無かったなぁ……まるで宝石箱や星座みたい……)

「それで、真?」
「ん……?」
「真はわたしのどこが好きなの?」
「えっ…!?」
「えっ……って、だってまだ理由なんて聞いてないよぉ」
 きょとんとした顔を浮かべる真に、紗希はひっど〜いといったような表情を浮かべる。

「そうだな……」
 ぐっと至近距離で紗希の顔を見つめた時、あの夏の日の事がふと思い浮かんだ。
それはあの光輝くような美女神に出会ったあの日……。

「こうしてみると紗希。お前って……」
「ん……?」
「いや、なんでもない」
「もぉー、気になるなぁ〜。教えてよぉ〜」

 2人がデートを満喫している頃、特捜隊本部では亜希と影丸が近々正式発表予定である新組織のメンバー選考の打ち合わせを始めていた。

「……にしても、まさか亜希の提案がすんなりと通るとは思わなかったな」
 先日の参謀会議にて亜希が提出した特捜隊の新チーム設立のアイディアはまるっとすんなり承認され、推進する事となったのであった。
「それほど、あたしの提案が良かったって事よ」
 そう言ってえへんと胸を張るような亜希のそぶりに隼人はやれやれといった表情を浮かべた。

 ベムラー事件以降極東地区で急増した怪獣や宇宙人関連の事件に対応する人員の増強案。そして、防衛機構のイメージアップも兼ねた女性中心のチームという亜希の提案は参謀会議でもすんなりと受け入れられたのは亜希にとってもたしかに意外と言えば意外であった。

「それにしても何で亜希は女性中心の防衛中心のチームなんて思いついたんだ?」
「えぇ、それはね……」

 亜希が語った女性特捜チームの構想のきっかけは、あの数か月前のシャインとバルタン星人、レディ・バルタンとの時の事であった。
 あの時は女性宇宙人レディ・バルタンに彼女のビキニ状のバトルスーツを切り落とされ一時ピンチになったことがあり、思わず男性隊員に動揺が走ったのであった。
「なるほど……どんな状況下でも動けるためにか……」
「そんなところね。どんな中でも最善策を考えて動ける組織……でも、さすがに“それ”をメインには持ってこれないでしょ」

 そう、亜希の提案の中には戦姫への援護組織という意味合いも含まれていた。
 ただ、未だ「女性型巨大異星人による人類への善意の可能性のある行動」に対し、協力する事に懐疑的な声も無いわけではなかったが、推進していくことと会議では決まった。

「それで、メンバーの選考の方だが……」
「あぁ、それね。それならもう考えてあるの」
そう言って亜希が机の上に広げた新チームの隊員候補たちの経歴書。そこには紗希と涼花、そして迎撃部隊の的場真弓と整備班の日向陽子の名前が記されていた。
「なるほど、迎撃隊と整備班なら俺たち特捜隊とも関係が深いし向こうもこっちを理解しているからちょうどいいってわけか。この5人でスタートってところか?」
 真弓は迎撃部隊の陸上部隊の特殊チームという最前線でシャインが現れる前からの実力と実績を買われて、陽子はメカニックに対しての知識を現場での経験と、そして梶という特捜班の頭脳というべき人材の元で経験を積ませることで場に応じた的確なメカの運用を図るため……というのが上層部に亜希が説明した理由であった。

「それにあと、2人いるわ」
「2人?」
「えぇ、実は北米支部から人材交流として向こうの新人隊員をこっちに出向させようって話があるのは知ってるでしょ」
「あぁ、巨大怪獣災害に対応するために今後欧州や北米などとも連携を取っていくって話の一環でな」
「それで、1人は今後計画されている新型機導入の為のテストパイロットとして、そしてもう1人は……」
 そういうと続けて、亜希は彼女たちに関しての資料も広げた。一人は金髪の、そしてもう一人は髪を両脇に結った東洋人風の顔立ちで英語で書かれた資料の名前のところにはそれぞれキャサリン・マレー。そしてもう一人の名前は
「篠・セレスティン・めぐみ……か」
「えぇ、北米支部の見習い隊員よ」

「……にしても、アイディアはともかくあのネーミングまでそのまま採用になるとはな」
「あら、隼人もなかなか良いセンスとは思わない? こういうのはシンプルなほうが受けるのよ」

 亜希の提出した新チーム案。そこには「L.A.D.Y(仮)」と書かれていた

(やれやれ、とんだ邪魔が入り込んだな)
(あぁ、どうやら嗅ぎ付けられたらしいな)

アメリカ東海岸。とある廃墟となった研究施設周辺での異常事態発生との連絡を地元警察からの連絡で出動した防衛機構北米支部のキャサリン・マレーは施設で不法に改造された設備を破壊することには成功したものの、その犯人たちからの予想外の反撃を受け、致命傷こそ免れたがその場に気を失い倒れていた。
その犯人たちの顔立ちは地球人とは異なり、まるで……爬虫類の様であった。

「我々の拠点をこうもあっさりと潰されるとは……、こうなったらこいつを生体標本にして星に持ち帰らせてもらおう」

「やれやれ……アンタたちの仕業だったってワケね……」
 その背後からの声が聞こえた瞬間、2人組の宇宙人のうちの1人の身体が大きく吹っ飛ばされた。
「何者だ?」
 宇宙人が振り返った先にいたのは、某と鎮圧用の非殺傷武器を片手に持つ、ツインテールの女性隊員であった。

「仲間がいたって事か!」
「その姿、どうやらムーブ星系からの招かれざる客ってところかしら?」
「知っているなら、なおさらこのままでは返さんぞ!」
 そう言って異星人、ムーブ星系人はメグミへと躍りかかった。
「ふん……っ!」
 それを易々といなすメグミ、だが徐々に不利になっていく。
そしてメグミには先ほどの不意打ちで負傷した、相棒であるキャシーの事が気がかりであった。
その時、ふとキャシーが転がるほうを見やったすきを突かれ、メグミの身体はがっちりと異星人に抑え込まれた。
「あうっ……!」
ようやく起き上がったもう1人の宇宙人にネックハンギングで上空に抱え上げられると、そのまま先ほどキャシーによってガラクタに変えさせられたサーバーコンピューターへとメグミの身体は投げ飛ばされた。
「きゃあっ!」

「どうした?威勢が良かったのは最初だけか?」
「はぁ……はぁ……」
 異星人に投げ飛ばされ、床に転がされたメグミ。
だが、目にはまだまだ闘志の炎が宿っていた。

「……最後の切り札は誰だって最後に取ってあるものよ!」

 そう言ってメグミは胸のポケットからゴーグルのような物を取り出し、それを自分の目元へとはめた。
「!?」
 突然、閃光に包まれたメグミの様子に異星人たちは思わず驚愕し、後ずさった。
 その間にもメグミの身体は見る見るうちに変身を遂げ、金髪ツインテールの美戦姫へと変身した。

「貴様……、ウルトラ戦姫!」
「そうよ……、アンタら覚悟しなさい!」
 そう自信満々そうに両手を腰に当ててポーズを取った戦姫は宇宙人共へとさっと躍りかかった。

「クッ……こんな辺境星系にいる戦姫なら……!」
 願望にも似たような言葉を漏らしながら、迎え撃とうとするムーブ星系人たちの顔に、腹部にツインテール戦姫のハイキック、そして膝が華麗に決まった。

「ぐあっ!」
「誰が三下ですって!?」

「あたしの名前はセレス、冥途の土産に覚えておきなさい!」
 1対2ながら敵を圧倒するツインテール戦姫であったが、先ほどキャシーを狙ったビームライフルをセレスに向けて放った。

「きゃあぁぁぁ!」
 並みの人間であれば炭しか残らないであろう高火力の光線を背中に食らいセレスの身体は部屋の壁をぶち抜き、さらにその隣の部屋との間の壁までぶち抜くほど吹っ飛ばされて、その場に横たわった。

「やったか?」
 2部屋向こうの部屋に瓦礫と共にうつ伏せに大の字で倒れ込んだセレスに1人が近づいていく。
「最大火力だ、さすがにタダでは……にしても良いケツをしてやがる」
 ぐったりとしたセレスのプリンとしたヒップを見て、思わず舌なめずりをした宇宙人の片割れ。だが、そのヒップがビクンと動いたのを見て思わず、後ずさったものの時すでに遅く……。

「食らいなさいっ!」
 振り向きざまに手にした髪飾りに仕込まれた暗器の様な刃物が宇宙人の腕を一閃に切り裂いた。
「ぐあああっ……!」
 腕を切り落とされた宇宙人は一心不乱に仲間の元へと逃げていく。それを見て、再び宇宙人はセレスへ向けてもう一発、光線銃を構えた。
「くそっ! もう一発!」
 エネルギーが回復していないのか、中途半端な火力ながら壁を打ち貫いた火力の光線をセレスはサッとかわすと、もう一つの髪飾りをブーメランのごとく投げ飛ばすと逃げようとする宇宙の背後から首を切り落とし、そしてそのまま光線銃を構えた宇宙人の首をもスパッと切り落とした。

「トドメよ!エメリオル光線!」
 そう言って両手を額のビームクリスタルにかざすと、そこから放たれた金色の光線が崩れ落ちていく宇宙人の肢体を焼き払い、完全に消滅させていった。

「ふんっ! 他愛も無いわね!」
 そう得意げな表情のツインテール戦姫はサッと髪留めを戻すと、髪が金髪から緑かかった髪へとすっと変わり、地球での仮の姿である篠・セレスティン・めぐみへと再び戻るとキャシーの元へと向かった。

「あれっ……わたくしは……」
 キャシーが目を覚ますと、相棒としてついてきていたメグミの姿があった。

「やれやれ……あんたときたら無茶し過ぎなのよ。まったく……」
 ようやく体を起こし、あたりを見回すと壁が突き破られ、あちこちボロボロになった室内と激しく熱で焼け焦げ変形した光線銃や消し炭があたりに転がっているのが目に入ってきた。
「これ、全部メグミが……?」
「えぇ……そうよ、アンタがやられそうだったからあたしが全部やっつけといたのよ」
「ノー! またメグミに…‥!」
「な、何よ……? あのまんまだったらアンタ危なかったじゃない……!」
「なら、何でもっと早く来なかったのですか! 横取りする気でしたのね……!」
「先に入っていったのはそっちの方じゃない……!」

 この後、本部から事後処理と調査の為に本体が到着するまでの間、こんな調子で2人は言い争い続けていたのであった……