思ったより早く片付いたミッションを終えて研究所に電話をする。
1週間ぶり。
しかしジョーは受話器を耳に当てたまま大きくため息をついていた。

あれほど聞きたかったフランソワーズの声が受話器の向こうから聞こえた。
「よお。今から帰るぜ。」
肩越しに陽気な声がジョーよりも先に受話器越しに告げてしまう。
「ちょっと。ジェット黙ってて。」
肩でジェットを押しやっていたジョーの耳に聞こえたのは少しあわてた声。
「え?今?あ、え・・・と、お疲れ様。ピュンマに迎えにいってもらうわね。」
「いいってー。そっちからドルフィン飛ばすより俺が飛んだほうが早いしー。」
ジョーよりも先にジェットが答える。
「でも、ね?待ってて。」

なぜか怪しげな様子のフランソワーズにジョーが問う。
「なんか食べるものある?」
微妙な間。
「・・・。作っておくわ。何がいい?」
あからさまにがっかりした様子のジョー。
「いいよ。大変だろ?適当になんか食べて帰るから。」
「それなら大人のトコに電話しておきましょうか?」
「今日何曜日だ?」
ジョーの肩に顎を乗せたジェットが問う。
「月曜日」
「定休日じゃん。」
やっぱり作るわと言う声にジョーは優しく答えた。
「大丈夫だよフランソワーズ。先に休んでてもいいからね。」

家のそばまで来たところで抱えて飛んでいるジェットにジョーが脳波通信を繋ぐ。
『先に帰っててもいいよ。適当にどこかで下ろしてくれれば。』
『いいよ。帰っても何にもねぇんだろ?』
『いや、多分あるよ。・・・カレー。』
電話するときからどうも乗り気じゃない感じがしたのはコレだったのか。



市街地近くの人目につかないところで降りて歩き出す。
オレンジ色の看板が目に入った。
「どこでもいい?」
言いながら上着を脱いだジョーにジェットが目を剥く。
「お前。中に着てたのか?!」
黒地に大きくて派手な花柄のタンクトップ。
上着を腰に巻いてしまえばビジュアル・ガテン系と言えなくもない。
多少の汚れもこれなら目立たないだろう。

「よかったぁ今回は防護服破れなくて。
 この間みたいに背中をさっくりやられたらこんなことできないもんなぁ。」
しれっと言うジョー。
「いや、そういう問題じゃなくて、前からインナー着てたか?」
「いや、今回初めてだよ。こんなこともあるかと思ってさ。」
あきれ顔のジェットを下から上まで眺めたジョーが言う。
「ジェットも上脱いじゃっていいんじゃない?外人ならきっと驚かないと思うよ。」
んなことねぇよ!とジェットは心の中でつっこむ。
それに他の誤解もされそうだ。
(ま、お前がいいならそれでもいいけど。)
「やっぱコンビニでTシャツ買って来てくれ。」


「特盛り。だくだくで。あーっと卵と味噌汁。」
機能性重視のカウンターに座るないなやお茶を持ってきた店員に注文する。
「ジェットは?同じでイイ?じゃ、同じのもう一つずつ。」
後半は後ろ向きで卵と味噌汁を用意する店員に向かって。
「サラダも食べようかな、五日も携帯食だと流石に何だか偏ってるなぁって感じるよ。」
言いながらジョーがカウンターに埋め込まれた小さな冷蔵ショーケースからコーンサラダを取り出した。
「君も食べる?」
言いながら差し出され、うなづきながら受け取る。
味はどうあれ携帯食は偏って無いと思うぞ
とツナサラダを見ながらジェットは心の中で突っ込みを入れた。

「お待たせしました。」
会話する間もなく運ばれてきた丼にジョーが満面の笑みを見せる。
「牛丼だぁ!」
テンションの高いジョーを見て、なんとなくジェットは申し訳なくなった。
「そんなにこの間のカレーがイヤだったのか?」

ジョーが単独出撃して居た間に研究所ではカレーパーティをしていた。
1人で大丈夫だと踏んでいたのに、ことのほか手間取って銃撃戦にまでなってしまったミッションの時だ。
狙ったわけじゃない。
研究所に居た誰もがそんな事になっているなんて夢にも思わなかった。
皆がそれぞれにカレーを作りたくさんの鍋と大量のカレーがテーブルに並んだ。

それを三日も食べ続け、そろそろ飽きてきた時にジョーが帰って来てしまったのだった。
カレーだと告げたときのジョーの顔は忘れられない。

「嫌いじゃないよ。むしろ好きなほうだ。ただ・・・僕の慣れてない味だって言うか・・・
 そういうカレーもあるって事は分かってるんだけどね。」
それに、あえて自分の居ない時にカレーを作った事も
気を使ってくれたんだと嬉しくなっても、怒ったりすることは無い。

「じゃそのはしゃぎ様は何なんだよ。」
「へ?」
はしゃいでる・・・のか?自分。
「違うよ。君の国の牛肉を輸入できなくなって、日本の牛事情が変わったんだ。ここも牛丼を出せなかったんだよ。」
「そっか。なんか・・・悪かったな。」
「別に君が謝ることじゃないよ。久しぶりだったからさ。」
てっぺんの肉を少しずらして出来たスペースに溶いた卵を流し入れながらジョーが笑う。
ジェットも真似をして卵を溶いていると
丼をかき込みながら、「足りないかなぁ。」と嬉しそうにジョーが呟いた。


 fin


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「すみません〜あと、持ち帰りで並十個お願いします〜。」
って感じで。

帰るときは早めに連絡くれないと・・・何もないわよ。
コンビニで夜食を買って帰るぐらいなら食べて帰る。(by 倦怠期の夫婦)
いえ、ジョー君とお嬢さんがそうだっていうわけじゃないんですよ。

防護服の中に黒のタンクトップ着てるジョー君が書きたかっただけです。


ジョー君は「○ーモントカレー甘口」で育ってきたんじゃないかと思います。
施設ではきっと小さい子に味を合わせてると思うし、
あんまり辛いのは得意じゃ無さそう。
対して皆さんスパイシーな味をお好みになる気がして、
中を取って中辛なんて半端な事してどっちも不幸な結果になってたり。

だから、ジョー君がいない時には思い切ったお国の料理とか作っている気がする。



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