登場人物

登場人物


村尾菊治

主人公。横浜生まれ。そのため、暑さに強いらしい。かつて小説「恋の墓標」で新人賞を受賞し、恋愛小説の旗手と言われながらも、現在は私立大学非常勤講師(日本の中世文学を講ずる)とフリーライター(アンカーマン)で食いつなぐ。その割には、あまり働いている描写がない55歳。貯金は700万。ペンネームは村尾章一郎。その実力の程は「あなたには才能があるわ。だって私が選んだ人なんですから」という愛人冬香の根拠のないセリフでお墨付きである。 15年も何も小説を書かなかったが、冬香との出会いにより「虚無と熱情」なる400枚の小説を書き上げる。しかし、出版は断られている。やたらとトイレが近いが、頻繁な性行動(物語終盤では、週三回の三回戦)をしていることから、前立腺の異常ではなく、ただの加齢による物と推測される。思い込みや妄想癖が強く、いつも「○○は、○○、なのか」とわかりきったことを疑問視し推察ばかりしているが、時に「生理の時は妊娠しないから安全だ」「このくらい首を絞めても死ぬわけがない」などと、間違ったことを確信する悪い癖がある。また物忘れなども顕著。神宮花火大会の晩、冬香を絞殺する。冬香を絞殺後、遺体となった冬香を「返事がない、恨んでないようだ」と決め付けて散歩に出たり、拘置所に拘置されてもまっさきに気にするのは自分の通帳と印鑑の保管についてであり、「エクスタシーの頂点で」思い通りに死ねたと「ひどいよ、ふゆか」と勝手に逆恨みして、殺人に対する罪悪感や遺族に対する謝罪の気持ちなどが窺われず、自己中心的思考をますます顕にしている。その人間性を見るに、どう見ても、またどこまで行っても作者の分身なのは間違いない。

入江冬香

36歳(後に37歳)。5月20日生まれなのに“冬香”。富山県出身。富山の短大を卒業後、京都の繊維会社で働いていた。夫とは見合い結婚、三児の母で専業主婦。細身の小柄で肌は色白。当初は高槻在住だったが、後に夫の転勤により新百合ヶ丘に転居。避妊については「大丈夫なようにしてある」そうだが詳細は不明。手のかかる幼児をはじめ子供を3人も抱えた身でありながら、週3日は通勤ラッシュにもまれつつ菊治のアパートにセックスしに通えるほど体力はある。また、数多くの秘策を持ち合わせる不思議ちゃんでもある。菊治が脱ぎ散らかした下着などをきちんとたたみ揃える「サービス」に、菊治は「しっかりしたお母さんに躾けられたのだろう」とますます気に入るのであるが、夫との三人の子供をもうけ、躾の行き届いた嗜みある婦人が、怪しげな初老の男と突如情交に明け暮れることがありうるのかという疑問が湧くところである。作中のセリフはほとんど夫および夫の親への愚痴とそれに伴って突発的にヒステリックに泣き出すこと以外には、菊治への肯定と賛辞(すごおい)、セックス時の絶叫(ああん、いくわよう、殺してぇ、ねぇっ、つらぬかれてるうなど)のみで、一般に言葉すくなである。たまに話せば「○○なのです…」「○○で、それで…」という語尾になる特徴がある。方言で話す事はなく、馬鹿丁寧な言葉遣いは、彼女にとって慣れない標準語を話さなくてはいけない為なのかどうか分からない。セックスの後は打って変わって蓮っ葉な言葉遣いになることもあり、読者を驚かせる。設定年齢とかけ離れた言葉遣いだけでなく、一般主婦像からかけ離れた生活の描写(夜9時就寝)、常に不倫男性にとって都合の良いセリフしか描かれていないため、生身の人間として受け止めがたい面もある不思議な人物。

冬香の夫

42〜43歳。名前不明。製薬会社勤務のハンサムなエリート社員。富山出身。アダルトビデオを見たり、フェラチオを要求する程度のことで、冬香には変態扱いされている。冬香によれば古いタイプだそうだが、冬香の正月、誕生日等イベントデーの外泊を許し、冬香の昼の情事の際には何度か子守(平日に仕事を休んで子供をデパートに連れて行く等)を務めており、かなり家庭的かつ包容力があるよき父、夫であることが推定される。また、結婚十余年、3人の子の母となった妻を今でも女として強く求める情熱をも持ち合わせている。花火大会の前夜、頑なにセックスを拒否し、家事もままならない様子の冬香に家を出て行くように言う。裁判に際し、本名「入江徹」と判明。仕事一筋で昼間の妻の行動は把握していなかった、家庭を顧みない男であることが浮かび上がったらしい。身長175cmほどのすらりとした長身、白縁のメガネをかけている。


入江家の子どもたち

小5女児の第一子、小学生(学年不明)の第二子、幼稚園に通う5歳の第三子。名前は全員不明。当初から性別が判明していたのは第一子のみ。「妊娠していると夫に体を求められないし、気が紛れる」という理由で、冬香が産んだ。冬香は後に、「愛がなくても子どもは生まれるけど、愛がなければ、あなたの小説は生まれなかった」とも発言している。休日や夏休みの冬香の情事の時には、「おりこうさんに留守番」している。冬香の死後、彼女の携帯電話の待ちうけ画面から、性別は上から女・男・男と判明。なおこの時、かつて花見の時期からGWにかけての間に、冬香の「子供たちは新しい学校や幼稚園に慣れてきた」という発言があったにもかかわらず、なぜか「全員小学生と冬香が言っていた」ことにされてしまった。

吉村由紀

菊治の愛人。IT関連の会社に勤めるだけではなぜか生活費が足りず、新宿駅東口のバーで1日おきにバイト、なおかつ菊治からおこづかいももらう 29歳。軽い斜視で焦点が定まっていないところが愛らしい、と外見のみで菊治に気に入られるが、菊治に別の女(=冬香)ができたことはしっかり見抜いていた。菊治とは2年ほど際き合ったものの、結局「親がいろいろいうものだから」、フタマタ年下同僚彼氏との結婚を選択する。平成16年12月、30行足らずのうちに「〜でしょう」5連発で菊治を圧倒(再会十)、菊治の部屋の鍵を返却し、去っていった。結婚は平成17年春の予定。……つまり、式場選びや結納を済ませそろそろ衣装や招待状の準備にとりかかるころに−「いやだ」と言われないことを全く疑わず−別れを切り出したことになるが、その点においては、結婚の一月半前に「離婚状」を送りつけた本妻にはかなわなかった。

魚住祥子

高槻在住。菊治と冬香の共通の知人。二人の出会いのきっかけを作る。結婚前はフリーのインタビュアーだったが出産後、夫とのセックスを断る口実を作るため(冬香談)に結婚前の職種とは畑違いのIT関連企業に就職する。一児の母ながらも出張もこなす、キャリアウーマン。夫は「エージェント」に勤めているようだ。菊治のことを話すときの冬香の様子から、ふたりの仲を疑っていたフシがあり、出張の際菊治に会った折には「あのひと(冬香のこと)、本気になったら大変よ」という謎の言葉を残し、冬香に知られざる過去があるのかと読者を期待させるが、そのまま作者に忘れ去られたようだ。

中瀬宏

新生社勤務。菊治のサラリーマン時代の同僚。現在では役員まで昇進。不遇をかこつ菊治に喉黒や酒をおごったり、下らない話につきあったりしてくれる。しかし「虚無と熱情」を仕上げた菊治は「(本意ではないが)中瀬の出版社で出してやってもいい」的な発言をしており、優しい友人に恩義を感じているということは全くなさそうである。留置場にたずねてきて「虚無と熱情」の出版を提案する。

菊治の前妻

名前不明。フラワーアレンジメントの仕事をしている。長年菊治と別居を続けるが、5月下旬に正式離婚、「仕事を手伝ってくれている人」とまもなく再婚予定。菊治の起こした事件に泣いていたが今は泣いていないと聞き菊治は「立ち直りの早い女」と評する。

村尾高士

菊治の一人息子。既に社会人の25歳。映画配給会社勤務。菊治が冬香を殺した直後、偶然ではあるが結婚したいとの電話を父である菊治にかける。反応が悪い父親に不快感を表す。成人しているにもかかわらず、両親の離婚後「母の籍に入っている」ため、姓は「村尾」ではない可能性もあり。「母の籍」だとしたら、母と自分のW結婚により最終的にどんな姓になるのだろうか。(菊治の犯罪によってどちらも破談…という可能性もある)留置所に面会に来たシーンで姓が「村尾」であることが判明。結婚は破談になったが「そんなに結婚したかったわけじゃない」

冬香の義父

心臓が悪いらしく、東京まで検査に来たが、その後は不明。冬香が新婚の頃に彼女のお尻を触ったことがある(冬香談)。

冬香の義母

夫の心臓の検査に付き添い上京。作中でその人物像が語られることはほとんどないが、嫁である冬香が家族そろっての食事をボイコットしても、正月の帰省中に子供を置いて外泊しても、夫婦で上京後ひとりで延泊しても、すべて許してくれていることから、優しい姑の姿がおのずと浮かび上がってくる。

菊治のマンションの管理人

たびたび菊治と冬香を目撃。温厚な人柄。昼間から「殺してぇ」と大騒ぎする二人のセックスに対する近隣住民からの苦情を受けているのかもしれないが作品中にその描写は無い。

加藤

出版社の明文社の文芸部長。菊治が自信満々に持ち込んだ「虚無と熱情」を「地味で暗い」と判断。ボツにする。後日、キレた菊治から抗議の電話を受ける。

脇田刑事

取調官。30代後半。白いシャツにグレイのスーツを着ている。短髪で痩型、目は鋭く、精悍な印象。ワープロの入力が速いことで当初は菊治に有能視されるが、後に女の愉悦の深さを知らない性の劣等生とみなされ失望される。菊治が愛人を邪魔になって殺したなどと決めつけ、調書を作るが容疑者が自分の意見を口に出して述べないんだからしょうがない。しかし移送される際の態度から悪いやつではないと菊治の評価を得る。

北岡弁護士

まだ起訴前の菊治になぜかついた「国選弁護人」。50代で、脇田よりは男女のことがわかっていそうだと菊治に期待される。着替えを二・三枚取ってきて欲しいなどと、弁護士の業務内容にないことも承諾し、ていのいい使い走りにされてしまっている。

石原

菊治がアンカーマンとして働いている週刊誌で書評欄を担当。そのため、できてもいない本の書評を目当てに、菊治から「虚無と熱情」の原稿を押し付けられるはめになった。キョムネツ五人衆の一人。

森下

菊治の大学での講師仲間。菊治より10歳下。親しいが、深い話や旅行はしない程度の仲らしい。現代文学に通じており、月刊誌に書評を載せることもある。そのため、できてもいない本の書評を目当てに、菊治から「虚無と熱情」の原稿を押し付けられるはめになった。キョムネツ五人衆の一人。

鈴木

明文社勤務。菊治の初期作品の担当だった。その伝を頼って菊治が「虚無と熱情」を持ち込む。

織部美雪検事

眉が張り、鼻筋も整った美人女性検事。物腰の柔らかさに菊治は期待する。女性なら罪が軽くなると甘える気はないが・・・といいつつその発言自体が期待しているとも思えてくる。名前は菊治が「織部なのか」と言っていたが不明。後にフルネームが弁護士から知らされる。裁判でも彼女が担当か、と期待していたが一般的に検事は交代するものであるらしく、このあたりのリアリティも今後注目である。

菊池麻子

四谷にある菊治行きつけのバーのママ。菊治からは「場末」呼ばわりされているが、現行をボツにされた菊治を慰めるなどなかなかお話し上手。拘置所の菊治に手紙を二度送り、ついにこの小説の主題を語る役目となる。もっとも、冬香には会ったことはなく自身の経験に基づいてのみ語っている。

美和

高士の婚約者。菊治の事件で一旦婚約を解消するが高士とともに裁判を膨張し、意見を同じくする。披露宴までするらしい。挿絵ではえらく暗い表情だったのは気のせいか。
2006年02月01日(水) 20:53:24 Modified by ainorukeichi




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