1-433 夜襲-ナイトレイド-

奇襲攻撃の最大の要点は、先手必勝である事。
期待して待っていても、自分から攻め込まない限り、勝利はまず有り得ないと言っても、過言では無い。
その勝利も、綿密な情報戦略によって裏打ちされるものだが、時には爆発的な勢いが勝利をもたらす事もある。
これは、その一例…。

彼女が居ない…。
こんなに自分は弱かったのだと、愁は自覚した。そして彼女の存在が、如何に自分にとって大きかったのかを、重ねて自覚した。
「由慧…」
赤く腫れ上がった虚ろな眼で、どこか違う処を見ながら溜め息混じりに呟く。
その姿は、まるで試合が終わって真っ白に燃え尽きた、某ボクサーの様な風になっている。
最愛の人が傍に居ない寂しさ、たった一人の孤独を感じ、愁はもう限界だった…だが、その孤独感はもうすぐ終わりそうだったりする。
「鬼澤、大丈夫か?」
見かねた一人が愁に話しかけた。
が、愁は答えない。
「たった十日彼女と会えないからって、そこまでヘコむかぁ?」
「まぁ、この旅館携帯圏外だし…」
「フロントの電話使えば良いんじゃね?」
「もう十何回も電話してるって。その度にヒドくなってる」
「ドンだけ彼女loveだよ!(笑)ってか、助っ人なんだからわざわざ合宿来なくても…」

「監督に無理やり連れてこられたんだと…ご愁傷様だな」
陸上部員達のからかい半分、心配半分の声を、愁は余り耳に入れていなかった。
早く由慧の存在、由慧の声、由慧の姿、由慧の笑顔を実感したかった。
そんな事を考えながら、愁はかなりのハイスピードで荷造りをしている、灰になりながらも。
「まぁ、後半日の辛抱だろ。夕方にはみんな揃ってお家に帰ってんだから」
そんなクラスメートの一人の言葉に、愁は半日が無限に長い感じがした。

「愁ちゃん…」
「由慧ちゃん…どうかした?」
「へ?あ…す、すみません!」
自宅の書斎で、担当編集の小林さん(♀・27歳・独身)との、アフタヌーンティーを兼ねた気軽な打ち合わせ中、由慧は寂しそうな呟きを洩らした。表情もすっかり曇っている。
「まぁねぇ…愛しの愁ちゃんが十日もお留守だったら、寂しくもなるわね…まぁ、私は3年近くお留守だけど」
その呟きを聞いて、彼氏いない歴2年10ヶ月の小林さんは、優しいんだか自嘲してるんだか良く分からない言葉を由慧に投げかけた。美人が台無しの、かなりふてくされた表情で。
「そ、そんな事無いですっ!小林さん、あんまり虐めないで下さいよぉ…」
由慧が非常に困った顔で、慌てて切り返す。

「何?愁ちゃんにだったら、虐められたいっての?かぁ〜、やだやだ。おばちゃんには辛いのろけでございますわよ」
思い切りふてくされた渋い顔で、小林さんが呟いた。相当羨ましいらしい。
「小林さ〜ん、そんな気無いですって…今は」
自己のフォローの為の発言も、頬が緩んでいては説得力は欠片も無い。そんな幸せそうな由慧の笑顔に当てられたのか、小林さんはげんなりした顔になる。
「バカップルに付ける薬は無いわね…帰って来るのいつだったっけ?」
「今日帰ってくるんですよぉ〜♪あんまり遅くないって、電話では言ってましたけど…大丈夫かな」
この上なく嬉しそうな顔になるものの、由慧は表情を若干曇らせた。
「まぁ長野の山の中だからねぇ…まぁ、何かあっても大丈夫でしょ、愁君の事だし」
「だと良いんですけどね…」
小林さんの励ましにも、由慧は心配そうな顔を見せる。大好きで大好きでしょうがない愁の帰りが心配で、待ち遠しかった。
「ほ〜ら!暗い顔しない!!可愛い顔が台無しでしょ。由慧ちゃんを十日も待たせてるんだもん、加速装置かクロックアップ使ってでも帰ってくるわよ、愁君は」

「小林さ〜ん、愁ちゃんはサイボーグ戦士でもマスクドライダーでも無いですよぉ」
小林さんのマニアックだけども温かい励ましに、由慧はちょっと笑顔を見せてマニアックに答えた。
「それ位大急ぎって事よ。信じなさいって!」
「……はい!」
小林さんのパワフルな一言に、由慧は釣られたのか元気に答えた。愁が待ち遠しい気持ちに変わりは無いが、その表情は先程の不安さを感じさせない程、生き生きとしている。よほど、小林さんの励ましが頼もしかったのだろう。
「さぁ、テンションも上がった事だし、考え詰めちゃおっか!」
「はい!」
二人は中断していた仕事を再開。由慧は、もう直ぐ愁は帰ってくると信じて、張り切っていた。
が…その希望は少々砕かれる事になる。

若手女流作家と担当編集との、パワフルなやり取りから約8時間後…。

『何故だ…。』
自分のベッドの中で小さな喘ぎを漏らす由慧の胸や秘所を弄りながら、愁は頭の片隅でそう思った。
「あっ…んっ、しゅうちゃん…あ」
甘い喘ぎ声が聞こえる。久しぶりの愁の愛撫で由慧の理性は忘却の彼方へ消え、ただ快感を貪っている。愁も理性を頭の片隅に追いやり、自分の指や口で彼女を優しくなぶり続けていた。かれこれ小一時間も。
「あ…あぁぁんっ!!」
ピクピクと身体を痙攣させ、由慧は今日幾度目かの絶頂を迎えた。
絶頂を迎えて収縮した秘所から分泌液が吹き出る。それは薄暗い部屋を照らす月明かりを受けて、空中でキラキラと光ってシーツに落ちた。
どうやら由慧は、絶頂と同時に潮を噴いてしまったらしい。
「はぁ…はぁ…ぁ…ふぁぁ…」
息を荒げ、虚ろな目で自分を見ている由慧を後目に、愁は潮と愛液のこびり付いた指を舐めた。口の中に由慧の味が広がる。
「………」
愁は一瞬由慧を見つめる。ほぼ全裸でベッドに伏せ、息を荒げて秘所から愛液を垂れ流す最愛の人を見て、愁は段々冷静さを取り戻す。
『何やってんだ俺は!!!』

先程由慧の痴態を見たせいもあるが、由慧を犯したいという衝動に駆られていた自分に、とてつもなく腹が立った。
だが、当の由慧は未だ虚ろな目で最愛の人を見ながら、とても甘えた声で一言。
「はぁ…しゅ…うちゃん…もっと、イジメて…あたし…を…壊して…」
これで、愁の理性は砕け散った。
愁は、何故こうなったのかと考えるのを止め、本能に従って由慧に没頭する事にした。

話は一時間程遡る。
帰りのバスが、高速の事故で発生した大渋滞に巻き込まれ、連絡をしようとした矢先に携帯が電池切れ、高校に着いたと思ったら電車が遅延…と枚挙に暇がない程、ツキに見放されていた愁が帰宅したのが、夜の10時。
不運というものは、時にはかなり連鎖するらしい。
「ただいま…」
と言っても、答えは返ってこない。
由慧はすっかり怒って泣いて、大変だろうなと愁は申し訳なく思いながら、暗い家の中を歩く。
どう釈明しようか…そう考えながら、自室近くまで来た愁は身を強ばらせた。
気配がした、部屋の中に。
愁は荷物を廊下に静かに置くと、ストーキングで足音を消してドアの前まで近付く。誰が居るのかはだいたい予想はつくが、用心に越した事はない。
愁は音もなく、ドアを開けた…。

甘い匂いが部屋に満ちていた。
愁が愛飲している葉巻の匂い、服に付着していたであろう硝煙の据えた微かな香り、そして…濃密な牝の臭い…。
「んん…っ…しゅ…う…ちゃ…んぁっ!」
堪えた嬌声はベッドから聞こえる。
由慧だ。着衣は殆ど脱ぎ、裸に近い格好でベッドに寝転んで自分の身体を弄り回している。
由慧が、愁のベッドで自慰をしていた。
愁はベッドにストーキングで近づき、由慧を撫でる。
「!!?…愁ちゃん…!?」
驚きの声を上げ、振り返る由慧。その顔は真っ赤に染まっている。
「…………ただいま」
愁は多少混乱した頭で、何と言おうか十数通りの考えをほぼ一瞬で思考した結果、恥ずかしそうに普通の帰宅の挨拶を由慧に言った。
「………ごめん…ね…」
三拍程置いて、由慧が愁に呟いた。本当に申し訳なさそうな表情をしている。
幾ら寂しかったとはいえ、自己満足の為に大好きな愁の部屋に無断で踏み行って、彼のベッドで自慰行為に耽っていたなんて、簡単には許してくれない。
そう、由慧は思っていた。軽蔑されるとも思った。
だが、運命の女神の悪戯か…事態はそう簡単に、予想通り行く訳がない。
「触るよ?」
「ふぇ…!?んぁっ…!!」
愁はベッドに滑り込み、自慰の途中で火照った由慧の躰を弄り始めた…。

それから小一時間、現在…。
「はぁ…は…ぁっ…うんっ…はうっ…んはぁっ」
「ハァ…ハァ…ハァ…ッ」
断続的な喘ぎと、荒い息づかいとが部屋の中に響く。
愁は由慧の身体に跨り、由慧の豊満な胸に自らの逸物を挟み込んで腰を突き動かし‐簡単に言えば、強制パイズリ‐ていた。
由慧の色白の肌と、赤黒いグロテスクな逸物が、奇妙なコントラストを見せている。
その逸物の先端は、由慧の胸を通して口まで達し、愁が腰を動かす度に由慧の咥内を出入りして犯した。
「はぁ…あふっ…んんっ!」
由慧もまた自分の胸を寄せ、愁の逸物をしごき上げている。
お互いがお互いを感じ合い、快楽を貪っていた。
不意に、愁の逸物が膨らむ。
「ンンッ!!」
「きゃっ…あっ、んぐっ!」
愁の逸物から、熱い精液が弾けて由絵の口や胸を白く汚した。
射精が終わり、お互いに息を荒げて見つめ合うと、そっと唇を重ねて相手の唾液を貪る。
「………ん…っ」
「……ハァ…ッ…ン」
部屋には息遣いと、ピチャピチャという舌使いの音が聞こえるだけ。二人はもう、快楽のみを享受する獣と化していた。

愁は唇を離し、由慧の身体を掴んで背中を向けさせた。
色白で、肉付きの良い由慧の尻を撫で回しながら、はしたなく濡れそぼった陰部を指先で軽く引っ掻く。
「はぁっ…!んぁぁっ!!…ゃっ…あぁんっ……!」
特に敏感な一点を集中して攻められ、由慧ははしたない声響かせる。
濡れ具合を確認すると、愁は指を離して由慧の後ろに回り、秘裂に逸物をあてがう。
愁の逸物は、由慧に精液を吐き出してもまだ足りないかの様に硬さを増し、脈打ちながら反り勃っていた。
「ふぁ…ぁ…しゅうちゃ…ん……きて」
由慧は火照った顔を愁に向け、甘ったるい声で愁におねだり。
その声に応え、愁は由慧の中にに半ば強引に突き入れた。

「ひあぁぁんっ!!」
強引な侵入に、由慧は叫び声を上げてベッドに突っ伏した。息がかなり荒い。
どうやら、挿入だけで果ててしまったらしいが、そんな事などお構い無しに、愁は由慧の中を力任せに突き上げ、犯し続ける。
「ひぅっ…はんっ!…だめ…ぇ!!ひぃぃっ!!」
アクメを迎えたばかりの敏感な内部を蹂躙され、由慧は意図せずに締め付けながら、艶めかしい嬌声を上げ続ける…。そんな最愛の人を、盛りのついた獣と化して愁は更に突き入れて攻めた。
身体を密着させて由慧の胸を鷲掴みにし、軽く力を込めて揉み回す。
絶妙な柔らかさを持つ双丘の感触を楽しみながら、由慧の耳元で囁いた。
「…お前は…ッ……俺だけのものだよ……由慧……ハァッ」
「あぁんっ…!!…んぁ…あっ!…くぅっ…」
何度となく絶頂を迎えた由慧の中は、愁の逸物から精を搾り取ろうときつく締め上げる。不意に締め付けが強まり、逸物が大きく脈打つ。
互いに限界が近いようだ。
「ぁぁっ!!…はっ…しゅうちゃんっ…いっちゃ…はうんっ!」
限界寸前の由慧の嬌声に応える様に、愁は力任せに思い切り叩き込む。
「あぁぁぁぁんっ!!!」
甘い嬌声が響き、由慧は果てた。
愁の獣液が、由慧の尻や秘裂を汚した。


エピローグ

『これじゃまるで…強姦だ…』
事が終わり、由慧の身体を清めながら愁は、漸く冷静になった頭で思った。
久々という事でお互い冷静さを欠いた状態だったが、確かにレイプ紛いのセックスではあったと言えるだろう。
十日間逢えなかった孤独、由慧が何処か遠くに行ってしまいそうな不安が、そうさせたのかと愁は思い、自分の愚かさを怒った。
自己嫌悪で押し潰されそうな愁は、ふと疲れ果てて眠る由慧の顔を見る。
とても幸せそうで、あれ程乱れたのが嘘みたいな、安らかな寝顔だった。
「ごめんね…本当にごめん…」
そんな寝顔に癒され、愁は由慧の頭を撫でる。
不意に由慧が愁の手を掴む。
何事かと愁は一瞬驚くが、そんな事を意にも介さずに、由慧は愁の手に頬摺りする。
「しゅう…ちゃぁん…だぁ〜い…すき……ZZzz....」
かなり甘えた様な口調で、由慧は呟いた。
『寝言…か?』
頬をつついてみるが、起きた様子では無い。
由慧は一度寝るとなかなか起きないので、どうやら本当に寝言らしい。
寝言でも、愁にとってはとても救われる一言だった。
「……ありがとう…由慧」
愁は由慧の唇にそっと唇を重ね、傍らに横たわって目を閉じた。

が、幸せな時間は唐突に終わる。
♪〜♪〜♪
出し抜けに、充電中の愁の携帯が鳴った。
確認すると、メールを一通受信。内容は……『仕事』だ。
愁は一瞬剣呑な表情を見せると、名残惜しそうに由慧から手を引き、素早く準備を始めた。
服を着替え、ラックの中から得物を取り出してホルスターに収める。
これだけでは心許ないが、大物は由慧が眠るベッドの下だ。
今夜はこれで行くしかない。
愁は準備を終え、由慧にキスを送り、部屋を出、家からバイクで向かった。

約8時間後…。
「ん…」
由慧は不意に目が覚めた。
眠い目を擦って周囲を見渡すと、自分の部屋だった。
「あれ?」
何故自分がここで寝ていたのか、よく理解出来なかった。
パジャマもちゃんと着ていた。
『昨日、私は愁ちゃんの部屋に行ったんだよね…そしてそこで…。』
由慧は昨日の事を思い返して顔を赤らめる。
「ダメ女だな…私」
由慧は顔を赤くしながら、昨日の情事を反省。
が、何時までも恥ずかしがって布団に籠もる訳にも行かない…由慧はベッドを出た。

出汁の香りが漂ってくる。台所へ向かうとエプロンを巻いた愁が、かなりおぼつかない手つきで包丁を扱っていた。
「ん?おはよ、由慧」
にこやかに笑いかける愁の指先には、大量の絆創膏が貼られていた。かなり失敗したらしい。
「よく眠れたかぁ?」
「…………」
優しい笑顔を愁が向けると、由慧はいきなり愁の背中に抱きつき、頬を埋める。
「え?どうしたの…」
「…暫くこうさせて…お願い…」
問いかけると、か細い声で由慧は呟いた。まだ顔が赤い。
「良いよ…好きなだけこうしてて、大丈夫だから」
そう言うと、またおぼつかない手つきで包丁を扱い始める。
そんな彼の側に居れて、由慧は幸せだった。
「私は……貴方のもの…ずっと…」
一瞬で永遠の幸福が、二人包んでいた…。

この後、愁が一晩中由慧に求められてしまうのは、また別の話。
2008年07月20日(日) 12:50:48 Modified by amae_girl




スマートフォン版で見る