1-599 彼女という人

「なぁ?聞いたかぁ?木本?」
「うん?何の話だぁ?」
昼休み、いつものように昼食後に、職場の前の公園で春の日差しをあびながら、木本卓也は、同僚の大下健と時間をつぶしていたとき、
いかにも、良い話があるんだとの顔をしながら、大下は、木本に話かけていた。
「なんだ。しらないのか。今日もあったみたいだぞ。5シスの姫の爆発がぁね」
「あ〜、なるほど。寺島先輩の話かぁ」
「そそ。って、お前は学校の先輩の話なのに、相変わらずあまり無反応だなぁ」
「まぁ、学生時代とあわせると、もう3年になるからなぁ」
「もう、聞きなれた話ってことかぁ」
「まぁなぁ。でも、一体今回はどういうことなんだ?」
「それがなぁ・・・」


寺島綾香。
俺の学校の先輩であり、就職先での会社での先輩でもある。
彼女は、学生・会社ともに、注目を集めずにはいられない女性だった。
もう、それは完璧すぎる女性として。
学生時代から、全くといっていいほど、隙がなく、その立ち振る舞いは華麗であり、学校内で一身の視線を集めずにはいられない女性として。
会社内では、その余りにも完璧にこなす仕事への姿勢と、客先における完璧なコミニケーション。
彼女が進める仕事は、全くといって良いほど、無駄がなく、スケジュールに穴をあけることなく、余裕を持った形で業務を進めるのである。
会社内でも上司多数に覚えもめでたく、まだ26だというのに、そろそろ4月で昇進があるんじゃないかと噂があがっているほどである。
また、彼女が注目を集める理由としては、その美貌と、完璧なプロポーションにも素晴らしい付加価値を与えていた。
というか、男性諸君にとっては、そこが一番の理由か。
部署がちがう、卓也のところまで普通に毎日、


今日の寺島女史は、こんなに華麗だった!5シスの姫君と、エレベーターが一緒だったんだぜ・・・もう俺幸せで死にそう・・・

だの・・・。
同僚や、先輩が話す毎日の内容が、そんな彼女の話題ばかりだった。
しかし、そんな彼女に欠点が一つ。
自分の近しい人には、自分と同じだけのものを要求するのである。
よって、彼女と一緒に仕事をしている人は、冷酷なまでに、とりあえず結果を求められてしまう。
今日の大下の話もその彼女の一面の話であった。

まぁ、話は簡単。
彼女と一緒に仕事にあったていた部下の一人が、リリースシステムのテスト時に見落としをしてしまった。
それだけじゃ、彼女は別にその『爆発』なんて表現を使われるようなことにはならないんだけど、その部下は、その事を隠していたのだ。
さて、そこからどうなるかぁ・・・。
ユーザに渡されたそのシステムから、不具合が発見。しかも、素人目にも、あきらかに開発側がおさえていかないといけない部分での不具合である。
彼女は、後で簡単に分かってしまうことこを、そのままに報告もなく、放置していたのか。
ここに怒り心頭になってしまったようだ。
彼女の美貌から、普段以上に一切の表情がなくなり、理路整然と、口調はやさしめの口調で、部下にとつとつと説明を求めたというのである。
周りにいた奴からの話は、まさにその場は、氷点下にまで空気が冷え切ったような雰囲気が作られつつ、話をされていた部下はその場で卒倒してしまったいうのである。
何も彼女の事を知らないものが聞いたら、何だ?その男は?
って周りがあきれるかもしれないけど、寺島綾香という女性は、まさに仕事においては冷酷非情なのである。
完璧なる美貌がまたまた、その彼女のまとう雰囲気を、クールにまとめ、なんとも人を中々よせつけないような人なのである。




「相変わらずだなぁ」
「まぁな。でも、仕方ないっちゃ仕方ないからなぁ。それとどうやら今日は寺島女史自体、あんまり機嫌がよくなかったみたいって話もあったからな」
大下もあきれまじりに、そんな事をいう。
「でもさぁ。木本?」
「なんだよ?」
「寺島女子は、学生時代からあんなだったのか?」
「はぁ・・・だから、何度も言ってるだろう?『鉄壁の寺島』って男から言われるほど、全然隙のみせない人だったって」
「普通の女だったら、信じられないけど、あの人じゃなぁ」
「でもさぁ。興味あると思わないかぁ?」
「何が?」
「寺島女史が、自分の好きな人の前にいる姿!」
ブホォ!!!!
「なんだよ!きったねぇ〜なぁ!」
盛大に口に含んでいた、お茶を芝生の上に吐き出してしまった。
「お、お前が、おかしな事いうからだろう!」
「なんで?別におかしな事いってないぜ?」
「いや、今迄の話から、どうして寺島先輩が、好きな人がいるや、そんな話になるんだ!」
と卓也は、いうと、大下ととてもしまらない、にへら〜とした顔で、卓也を見た。
「へへへへ、実はさぁ。俺この前ちょっ〜と、いいものみちゃったんだよねぇ〜」
「聞きたい?聞きたい?聞きたい?」
もう言いたくて仕方ないとでもいうような顔をしながら、大下は卓也におかしな目線を向ける。
「なんだよ!言いたくて仕方ないんなら、さっさと言え!このやろう!」
「うん?聞きたいかぁ。実はな、この前の日曜にな。○○駅でさ、寺島女史を見かけたわけよ。それがなんとだなぁ・・・」
そこで大下はまた、もったいぶったかのように、一呼吸をおく。
そして、思い出し笑いを浮かべながら、
「なんと、寺島女子が、すっげぇ〜、笑顔を見せてたわけよ!あの氷の姫君がよ!君!!すっげぇ、甘い笑顔をさぁ、男を見上げつつだよ!こんにゃろ!」
卓也の背中をばかすか、がしがし叩きながら、大下は言う。
「おいおい、って、大下、お前、相手の男みたのかぁ!」
なんか、卓也は変な汗を流しながら、大下に一瞬でつめよった。
「こら、痛い、痛いぞ!木本。こ、これじゃ・・・しゃ、しゃべれない・・・・」
卓也はいつのまにやら、大下の首をしめるほど、ネクタイをしめあげつつ、大下につめよっていた。
「す、すまん・・・」
「ハァハァ・・・なんだよ・・・変な奴だなぁ。あっ、そうか。なんだかんだ、興味がない振りしつつ、やっぱり木本、お前も寺島女史の事を・・・」
「そ、そんなことはいいんだよ。で、相手の男は見たのか?」
卓也は平静を装いながらも、相変わらず変な汗をかきつつ、同じ事を大下に言う。
大下は、そんな卓也に可哀想な目線をむけつつも、答えを返した。
「お前も残念なやっちゃの一人だったんだなぁ。残念だなぁ」
「だ・か・ら!」
「はいはい。わかってるって。相手の男ね。見たよ」
「な、なに!ど、どんな奴だぁ!」
さらに、興奮したように、卓也は大下につめよる。
大下は、さらに哀れみの目線を卓也に見せつつ、
「どんな奴と言われても、一瞬しかみてないからなぁ」
「へ?」
「反対ホームにいたんだよ。寺島女史は。んで、丁度俺が、気付いたときは、電車がきやがったから、その一瞬の寺島女史の笑顔のほうに気を取られていたから、
相手の男の顔見たっていっても、一瞬で、あんまり覚えてないわけよ」
「な、なんだぁ・・・そうなのかぁ・・・・・・ちっ、つかえないやつ」
「お前、それが答えてくれた、友人にいうセリフかよ!」
大下がちょっと、ふくれっつらになりながら、卓也の頭をはたいていたとき、卓也は、体中の緊張をときながらほっとしていた。
「でも、寺島女史にあんな風に見つめられる男っていったいどんな奴なんだろうなぁ?」
大下のつぶやきを遠くに聞きつつ、なんとか平静を取り戻そうと卓也は必死になっていた。


「ただいまぁ〜」
誰もいないのは、わかっていても、卓也はいつもの癖で、自宅の玄関をあけながら、苦笑を浮かべる。


しかし、ほんとに今日はまいった・・・。

スーツを脱ぎ、部屋着に着替えながら、卓也は今日の昼休みの事を思い出す。


う〜ん、俺もまだまだかなぁ。大下の奴に変なふうにとられてないといいんだけどなぁ。

着替えを終えた、卓也は、いつも通りキッチンへ向かい、冷蔵庫の中身を確認。
さて、今日の晩御飯は何が出来るかと、吟味を始めていたとき、その音が聞こえた。
ドンドンドンドン!
うわぁ。
ドンドンドンドン!
ずっと鳴り続ける、自宅のドアを叩く音。
すみやかに、冷蔵庫の扉をしめ、卓也は、玄関先に急ぐ。
いっこうになりやみそうになり、ドアを叩く音を尻目に、冷静に覗き口から、外の様子を眺め、あきれた表情を卓也を浮べつつ、ドアをあける。
「うるさいですよ。どうしました?」
ドアをあけると、そこには一人の女性がたっていた。
彼女は、不機嫌そうな顔をしている。
ちょっとめずらしい。いつもならば、こんな表情は俺には見せない。


へぇ〜

内心、驚きを覚えつつ、一向にそこにつったったまま、何も反応を見せない、彼女に対して卓也は再度声をかける。
「一体全体、ほんとどうしたんですか?綾香さん?」
そう、そこにたっていたのは、お昼に、散々大下と話題にあがっていた、寺島綾香が立っている。
無表情ではあるが、不機嫌な雰囲気をぷんぷんに醸し出しつつ・・・。
そして、綾香は、すっと卓也に目線を向けたかと思うと、ずかずかと玄関から、卓也の家に上がりこむ。
「ちょ、ちょっと、待ってくださいよ。綾香さん。一体全体どうしたんです?」
卓也は戸惑いながらも、我が者顔に自分の自宅にずかずかと上がりこんだ、綾香の後を追う。
二人して、リビングまでやってくると、綾香は、もう一度卓也に目線を向け、リビングのフローリングへと目線を向ける。
「ここに座れと?」
一応確認するが、綾香は何も答えない。
さらに困惑の表情を浮べつつも、一応そうだろうと理解して、卓也はリビングで正座の姿勢をとった。
すると、向かいに同じように、綾香が座る。
二人の目線が再度絡み合う。それは、もうじっくり数分間・・・。
何もしゃべろうとせず、じっと見つめてくる綾香に若干の恐怖を卓也は覚えつつも、どうする事もできなかった。


こんな綾香さんは、初めてだなぁ

そんな事しか、浮かばない。
そんなとき、やっと綾香のその小さな口が開いた。
「私、聞いてない・・・」


はい?

「私、聞いてない・・・」
再度、なんとも悔しそうな口調で綾香さんは、まだじっと卓也を見つめつつ、言葉を発する。
もう、ほんと、何がなんだから、わからない卓也は、ただ、ぽかーんと、綾香を見つめるのみ。


いやいや、いかん!このままじゃ、拉致があかない!

ずっと、私、聞いてないを連呼する綾香の顔が妙にさらに不機嫌になっていくのを、恐怖に感じつつも、この状態を脱するために、卓也は、一歩踏み出す。
「その、綾香さん、不機嫌でしょうかぁ?」
「私は不機嫌です」
「その会社で聞きましたが、午前中の部下の失敗の件が尾をひいてます?」
「そんな事、もう忘れてます。過去の事などは、どうでもいいんです」
「えっと、だったら、何故綾香さんは、不機嫌なんでしょうかぁ・・・?」
「私、聞いてないもの・・・」


どうどう巡りだぁ・・・勘弁してくれ・・・orz

解決の糸口すら見えない状態で、ただただ、綾香はその点を無視しつつ、卓也に対して、私、聞いてないの連呼。
なんだか、雰囲気が不機嫌を通りこして、小さい子供が駄々っ子をするような態度に変化してきた綾香を眺めながら、うんうん、卓也はうなりながら、なんとかその内容を聞き出そうと、必死に問いかけを続けると、

「私、卓也が、明日から東京に出張なんて、聞いてません」

あれま?
やっと答えてくれた内容に、卓也は、やっと理解した。

「だって、言ってませんもん。っていうか、話がでたのが、昨日で、確定したのが、今日ですよ?じゃ、言えないじゃ・・・」
「言い訳なんて、聞きたくありません」

涙目になりつつ、綾香が卓也を見つめる。
そして、

「私は、怒ってるんです・・・」

綾香はそういうと、アップに束ねていた、髪の毛をとき、立ち上がると卓也に一歩近づいた。
とても綺麗な髪の毛をおろしつつ、卓也を見つめる綾香は、会社では、冷酷非情や、氷の女などと揶揄されている、冷たい印象が一切なくなってしまう。
なんというか、卓也より年上のはずなのに、印象がぐんと幼くなるのだ。
完璧なかっこいい女性の一面から、がらりと変貌を遂げて、かわいらしい少女のような一面がぐっと表にでてくる。
毎回、この変化のギャップに新鮮な驚きを覚えつつも、卓也は綾香から目線がはずせなくなってしまう。
そんな卓也を尻目に、綾香は卓也の目の前までくると、

「今から、卓也には罰をうけてもらいます。一切の卓也からの要求は却下です。受け入れません。私の要求だけを受け入れなさい」

としずかにいうと、卓也の膝の上に、綾香は腰をおろし、卓也の背中に腕をまわしつつ、ぴとっと密着する。
そして、そのまま目を瞑り、顔を胸へと押し付ける。
卓也は一切、動けなくなってしまった。

としずかにいうと、卓也の膝の上に、綾香は腰をおろし、卓也の背中に腕をまわしつつ、ぴとっと密着する。
そして、そのまま目を瞑り、顔を胸へと押し付ける。
卓也は一切、動けなくなってしまった。

「えっと・・・綾香さん・・・」
「却下です。何も聞きません。これは罰です」
「そのしかしですね・・・」
「卓也が、東京への出張をだまっていた罰です」
「ですから・・・」
「明日から、一週間も会えなくなるんです。その分、今日ずっと沢山、いつも以上に卓也に甘えます」
「いや・・・」
「却下です」
「でも・・・、あまり、いつもと変わらないようなぁ・・・」
「いつもは、少しは卓也の事を考慮にいれて、ほどほどにしてますが、今日は一切考慮にいれてません」
「おいおい・・・」
「うるさいですよ。だまって、甘えさせなさい」
「すねないで・・・」
「すねてないもの」
「いや、十分・・・」
「もう、だまってそのまま動いちゃ駄目!」

はっきり綾香に断言されてしまい、卓也はほんとに動けなくなってしまった。


はぁ〜ぁ

心の中で大きなため息をつきつつ、目線を綾香へ卓也は向ける。


これが、会社であの冷酷非情・氷の女なんて言われてる人か?ほんとに?

今のこの状態を会社の連中が見たらなんていうか。
考えるまでものない。みんなあごを落としつつ、目をまん丸に見開いて、こう叫ぶに違いない・・・
『嘘だぁ!!!!!!!!』
ってね。
俺だって、自分が当事者じゃなきゃ、そういうにきまっているもの。

なんて、そんな事を考えつつ、さらにぎゅっと密着してくる綾香の顔を眺めつつ、まぁ、こんなでもいいかと次第にこの状況を卓也はちょっと楽しく感じながら、
ぽんと綾香の頭をなでてやる。
すると、さらに綾香は幸せそうに、卓也の顔へさらに顔を埋める。
そして、不意に・・・

「卓也の匂い。いい匂い。この匂い大好き・・・」

とこっぱずかしい事を言い出す。

「あの・・・、あんまりくんくんするのはよそうね・・・。その俺、まだ風呂はいってないし・・・」
「やだぁ」
即答。
「でも、ほんと明日の準備も、俺しないといけなからね・・・」
「やだぁ」
「やだぁ、じゃないでしょ・・・あのね・・・」
「このまま、卓也を放さないでいたら、卓也東京いかなくてもいいよねぇ〜。うん、そうしようかしら?」
目をあけて、こっちを見た綾香は満面に笑みを浮べつつ、そんな怖い事を言う。
「いや、それだと、綾香さん仕事いけないでしょ?駄目だよ」
「卓也とずっとくっついていられるなら、仕事なんてしなくてもいいよ、私は?」
なんでそんな当たり前の事聞くの?みたいな顔を卓也にみせつつ、幸せ一杯の笑顔で綾香は、言う。
卓也は、その笑顔にあてられててしまったかのように、一瞬で顔が真っ赤に。
「やだぁ、照れるなんて、卓也可愛いね。でもあたり前の事なんだから、今更照れなくても」
テヘェってな感じでまたまたとても、普段の綾香を知る面々が決して見ることが出来ない笑顔を彼女はまた浮べる。

もう、卓也はそれだけで、部屋を駆け巡りつつ、俺の彼女はこんなに可愛いんだぞ、ほんとは!って、全世界に叫びたくなる気分になってしまう。
全世界は、でかすぎたとしても、会社中の人間全員には、是非とも言いたい。うん、言いたいぞ!

とそんな馬鹿な事を考えていると、綾香が卓也の手を取ってもぞもぞしだす。
うん?と綾香に目線を向けると、
「早く、ぎゅっとして・・・その頭なでるのも嬉しいけど、卓也で包んで欲しい」
とまた、可愛らしい笑顔を見せつつ、卓也に要求する。


これ罰ゲームなんだろうかぁ。

疑問の心の声に、異を唱えつつ、卓也は言われたとおりの事を実行する。
両腕を自分よりかは、小さな彼女の体を横抱きに全身を包み込むように、抱きかかえる。
すると、綾香は、顔を胸元から、卓也の首元の方へと移動し、綺麗な小さな口をまるで、卓也にキスマークをつけるかの如く吸い付かせて来る。


うわぁぁ、これは反則だろう・・・

卓也は、一瞬で何かに火がつきそうになりながらも、じっと耐える。
綾香の好きなようにやらせてやる。
すると、綾香は、今度は口元から、綺麗な舌先を出しつつ、卓也の首元をなぶりだす。
しかし、その行動には、いやらしさが一切ないのだから、たまらない。
純粋に、綾香は卓也に甘えているのである。
この状態になると、卓也は、綾香に何もできなくなる。
それは、彼女の過去と関係あるのだが、それは、また別のお話。
ついてしまった、火に悶々しながらも、卓也は、やっぱり綾香の好きにさせる。
それが、どれくらい続いただろうか、時間だと10分にもみたないかもしれないが、卓也にはほんとに数時間たっているような気がしてならなかった。
やっと首元から、綾香の口が離れたかと思ったら、綾香が、卓也に話しかけてきた。

「卓也、つらい・・・?」
「いや」
「我慢できない・・・?」
「いや」
「私もね、ほんとは、ちょっぴりつらいんだけど、でもね。この感じなんだか、好きなんだぁ」
「う〜ん。なんでかな?俺もだよ」
「今日は、ほんと甘えさせてね♪」
「好きなようにして下さい・・・」

すると、今度は、するすると、卓也の背中に回していた綾香自身の腕を卓也の目の前にもってきたかと思うと、卓也の頭をロックする。
さらに、トロンとした蒸気した美貌の人は、さらにとろけるような笑顔を浮かべ卓也の頬に、静かにキスをする。
最初は、ついばむように・・・。
柔らかく、優しく、溶け合うように・・・。
そして、綾香の口が離れていくと、さらに蒸気した顔で、綾香は、

「口には、卓也からしてね・・・」

熟れきった顔で、さらに恥じらいの表情を浮べながらも、綾香はリクエストをする。
最初は、命令口調で、これが罰ゲームだといいながらも、今の綾香はもう懇願する形になっていた。
卓也は、そんな彼女を愛しみ、彼女の期待に応えてやる。
最初は、唇が触れ合う形。
そして、徐々に、徐々に深く深く、お互いの唇を求めていく・・・。

「は……ふぁ…む……ぁく……ぉ……じゅ……じゅる……」

卓也は、何度しても全然あきない、綾香とのキスを深く、深く堪能する。
なんでだろう、どうして、こんなにあきないんだろうなぁ。ほんとに。
はっきりいって綾香が、卓也の家へくるたびにここ約3年、ほぼ毎回彼女から懇願される形でも、自分から強引に奪う形でも口付けの回数は重ねているはずなのに、
どうしても彼女との口付けには、毎回新鮮な感動を覚えるのである。


不思議なもんだな。ほんとに

必死に一心不乱に、卓也の舌に自分の舌を絡ませながら、幸福な表情を浮べている綾香を半目で眺めつつ、卓也はさらに深く、綾香の舌をすする。

「うっ、うぅぅぅぅぅ・・・・・・はぁ・・・・じゅ、じゅる・・・くちゅ・・・ちゅぱ・・・はっ、はっ、はっ・・・もう、これ以上は駄目です・・・」

目はトロンとしながらも、綾香は、尚をおってくる卓也の顔を離し、そうつげる。
「なんで?」
「これ以上したら、本気に取り返しがつかなくなります・・・」
「別にいいんじゃ・・・」
「駄目です。今日のメインは、卓也に罰ゲームで、私が一杯甘える事なんですから・・・」
「いや、甘える過程で・・・」
「そっち方面は、東京から帰ってくるまで、お預けです」
めっ、というような目線を綾香はそういいながら、卓也に向ける。
「そんな、殺生な・・・」
「卓也がだまっているのが悪いのです。ですから、今日は、存分に卓也に私が、甘える日なんです。明日卓也が仕事にいくまでずっと離れません。」
「って、ちょっとまて、綾香さんも明日仕事でしょ?俺は、明日昼からの、新幹線でだから、ちょっとはゆっくり出来るけど」
「明日は有給とっちゃいました。仕事も一段落したことですし・・・。田辺課長から、明日の事を今日お聞きしてから、ずっとどうしてやろうかって、考えていたので、
このような結論になっちゃいました♪」
「えっ、ちょっとまって、明日までずっと、この状態・・・?」
「いえ、お風呂も入らないとですし、あっ、もちろん一緒に入りますよ。私の体綺麗に洗って下さいね。でもおいたはだめですよ♪」
「なっ!?」
「でもって、風呂上りはソファーでゆっくりしつつ、くっつきます。時々、キスは認めてあげます♪」
「うっ!」
「ベットでも無論一緒に寝ますね。でも、私が卓也を抱き枕状態でねていいだけで、卓也は一切手をだしちゃいけません♪」
「そんな、馬鹿なぁ・・・綾香さん・・・」
「私も辛いですけど、たまにはいいじゃないですかぁ。一杯甘えさせてくださいね♪一週間分」
そんな馬鹿なーーーーーー!
そんな状態で東京にいってみろ、俺は日々欲求不満で・・・
「東京いっても、おいたしちゃだめですからね。戻ってきたら、チェックしますので。私は卓也の事ならなんでもわかるんですから」

にっこりと、そんな事を言われながら、今日これからまっている肉体的というか、あっち方面での大いなる苦痛に必死耐えながら、明日より出張へ向かう我が身をのろ
いつつ、幸せの苦痛の波へ再度、綾香の求めに応じながら、卓也は向かっていくのだった。

以上
2008年07月20日(日) 12:55:01 Modified by amae_girl




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