4-172 お泊りデート1日目(出発〜朝食)

携帯の右上に表示されている時間は7:38。既に美香を待ち始めて40分。ついでに今日は平日。
『平日に休みとはいい度胸だなおい』みたいな視線が痛い。好きでココにいるわけじゃないんです、許してください。

「・・・電話かけても繋がらないし。」
昨日別れ際に、『明日、7時に駅前で集合ですよ?遅れたら許しませんからねっ!』って言ってた本人がここにいない。
「おにーさーん、ごめんなさーい!」
そろそろ帰ってやろうか、そう思った時に、耳に飛び込んでくる声。
おいおい美香さんや、人混みの間からそんな大声を出すんじゃありません、はしたない。

この大遅刻魔になんて説教してやろうかと思い、声のした方向を向く。
「はぁ・・・はぁ・・・おにーさん、ごめんなさい!」
どちらさんですか?と思うような美人がペコリとお辞儀をしてくる。ふわっとした髪が急降下した頭につられて落ちていく。
「ん?おにーさん、どうしました?」
顔を上げて、俺の顔をじーっと見つめてくる美人さん。
「・・・ってもしかして、お前、美香なの?」
「正真正銘、私は柊美香ちゃんですよっ♪おにーさんっ♪」
『おにーさん』と言いながら抱きついてくるこの癖、この力の加減具合、美人さんの首筋から漂ってくる香水の匂い、
どれをとっても柊美香本人だった。化粧とか髪型一つで別人のように見えやがるから、女って言うのは怖いね。
「って言うかこんなに可愛い美香ちゃんのことわからなかったんですか?」
「ごめん、マジでわからなかった。」
「二年以上も顔合わせてるのにわからなかったんですか?これは許せません!」
「ってお前だって遅刻したじゃないか。」
「それはそうですげど・・・でも私のことわからなかったお兄さんも許せませんので、この際チャラってことで!」
俺から少し離れ、いつもより5割増の笑顔を浮かべる美香。その笑顔に思わず心が跳ねる。
「・・・まぁ仕方ない。チャラにしてやる。」何となく悔しくってそっぽを向く俺。
「ありがと!おにーさんっ♪」再び俺の胸に飛び込んでくる美香。恥ずかしくなって、美香の顔を見ることが出来ない。



「で?遅くなったのは、そんだけ準備してきたからか?」
思わず見間違えるほどだ、随分と時間をかけたんだろう。
「はい!おにーさんとデートだって考えたら、気合が入りすぎちゃいまして♪」
そう言いながら、てへっ、と舌を見せる。ピンク色の舌に、少し見入ってしまっていると、
「ん?おにーさん、私の唇に興味があるのかなぁ♪キスしちゃいます?」
「あぁ、キスしたくなる唇してるな。お前みたいな美人とキスできたらいいと思うよ。」
「えへっ、おにーさんなら、この唇、奪っていいんですよ?」
「魅力的な提案だが、彼氏でもないのにそういうこと言っちゃいかんぞ。せめてコレで勘弁してくれ。」
これでもお前さんを照れさせてやろうと精一杯なんだから、ちょっとは照れてくれ。
優しく抱きしめてやると、「ひゃっ・・・!」と、意外な声を出す。
意外と効果はあったようだ。美香は顔を真っ赤にしているけど、どこか嬉しそうな表情をして、俺を見上げる。
      • どうやらこの勝負、美香に軍配が上がりそうだ、と言うのも、俺を見つめてくる美香の表情がすごく可愛いんだ。
「おにーさんから、抱きしめられちゃった♪嬉しいよぉ♪」


恥ずかしくなって美香を離し、話題を変える。
「ちなみに聞いておくが、朝飯は食べてきたのか?」
「いえ、慌てて出てきたので、まだ食べてないです。」やっぱりね。
「美香さえ我慢できるなら、高速の途中の店で食べようと思うんだが。」
「え?高速道路の途中ですか?お蕎麦屋さんとかしかないんじゃないですか?」
コイツは最近の高速を舐めてやがるな?意外と綺麗なSA・PAって増えてるんだぞ?
「よしわかった、これからちょっといいパーキングエリアに連れてってやる。ちょっと遠回りにはなるがな。」
「おにーさんが言うことなら大丈夫だって信じてますからね?」
「大丈夫だ、店自体はただのスタバだ。場所が多少変わってるが。」
スタバ自体は有名なカフェだしな。美香はそれならいいですよ、といった表情で俺についてくる。
「ほら、美香のために新調したメットだ。そいつは被ってくれないと俺が捕まっちまうからな。」
「わかってますよ。だから今日は髪型自体にはそんなに気合入れてませんもん。」
ほう、そのゆるふわウェーブなんて初めて見たがな?
「む?信じてませんね?いいからバイクに乗りましょうよ♪」
「わかったよ。ところで美香、荷物は昨日言った通りリュックに入れてきたな?」
「はい!ちょっとかさばっちゃいましたけど・・・」
「まぁそのくらいなら大丈夫だ。ハンドバッグは俺に渡せ。シート下に入れるから。」
「わかりました。お願いします♪」シート下のトランクに美香のハンドバッグを入れ、バイクに乗る。
後ろに乗った美香が俺にくっついてくる。若干胸が当たってる気がするんだが、とりあえず気にしない事にしよう。集中しないと危険だからな。
「それじゃ発進するぞ。ちなみに、走行中はほとんど声が聞こえないから、何かあるなら腹を叩いてくれ。」
「わかりました!それじゃ、よろしくお願いします♪運転手様♪」
その声を聞いて、高速道路に向けてバイクを発進させる。ひとまずの目的地は、海のど真ん中。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


私はおにーさんにしっかりとしがみついて、全身をくっつける。
普段おにーさんにはお子ちゃま扱いされてるから、こういうときは女だってアピールしないとね。
まぁ朝の時点で十分にアピール出来てたみたいだけど♪おにーさん、顔真っ赤にしながら私のことあしらおうとするんだから、わかりやすいよね〜。
でも素直に褒められて嫌な気はしない。あのまま私の誘いに乗ってキスしてくれたらもっと良かったのに。

大きなおにーさんの背中にほっぺたをぴったりくっつけて、おにーさんをしっかりと感じる。
私とは違う、がっちりとした背中にちょっとお腹の下あたりがずくんと疼く。あう、こんなところで感じちゃダメだよ私!
でも、今回の旅行の最終目的は『そこ』。おにーさんと付き合って、おにーさんに抱いてもらうこと!
あ、そういえばゴム持ってくるの忘れちゃったなぁ。もしおにーさんがそのまましたい、なんて言ってきたら断れないよぉ!
おにーさんの暖かいのを奥で受けちゃって、子供が出来ちゃって、そのまま結婚・・・ちょっといいかも。

そんな想像をしていたら、突然辺りが暗くなった。何事かと思いきや、どうもトンネルの中に入ったみたい。出口方面からは人工的な光しか感じない。
ちょっと怖くなって、おにーさんを強く抱きしめてしまう。『大丈夫』ふとそんな声が聞こえた気がした。おにーさんが私の手を撫でてくれてる。
その感覚だけで、心は温かくなり、またお腹の奥のほうがきゅんとなる。あぅー・・・おにーさん、そんなことすると濡れちゃうじゃんかー・・・
ちょっと睨んでみるものの、おにーさんは気付かない。まぁ気付かれたら困るんだけどね。

トンネルに入って10分とちょっとした辺りで、ちょっとずつ明るくなってきている。よく見るとトンネルの出口みたい。
トンネルの外に出ると同時に飛び込んでくる青いグラデーション。空と海。え?空と海?思わず顔を逆方向に向ける。道路を挟んでまた空と海。
えぇ!?海の真ん中走る道路!?突然のことに混乱しちゃう。おにーさんは平然と運転をしている。よく見るとパーキングエリアに入ったみたい。
『海ほたるパーキングエリア』ですか。・・・ほぇ?海ほたるですか?ここが海ほたるなんですかー!?


午前8時3分。海ほたるに到着。美香はやたらと辺りをキョロキョロと見回している。
ま、突然こんなところに連れてこられれば流石にびっくりするよな。
「おにーさんの言ってた、ちょっと変わった場所ってここのことだったんですねー♪」
「そうだ。海ほたるは初めてか?」
「うん!海がきれーですね〜♪」
「ま、実は俺も初めてなんだけどな。」
「え?来たこと無かったんですか?」
「ここに来るだけで三千円近くも取られたら、流石に一人で来ようとは思わないよ。
 それにこれだけ喜ぶ美香を見られたんだ。それだけで来た甲斐があったってもんだ。」
ちょっとクサい台詞だが、事実美香の笑顔でチャラだ。
「おにーさん・・・♪」
「ありがとうな。」そう言って、美香の頭を撫でる。いつもと同じ、サラサラの髪の感触が気持ちよくて、
美香の気持ちよさそうな表情が嬉しくて、自然と柔らかい表情になる。
気持ちよさそうにしている美香と目が合う。その瞳に引き寄せられるように、気付いたら抱きしめていた。美香も俺に抱きついてくる。

      • っておいおい、これじゃまるでカップルじゃないか。その事実に気付き、恥ずかしくなった俺は美香に回した腕を放す。
まだ足りないよと言わんばかりに、美香は視線で訴えてくる。それを無視し、この甘い空気から脱出したかった俺は、
「さてと、とっとと飯食べて、夢の国に向かうとするか!」なんて言葉を発していた。
「はぁい。」そう返事した美香は、きっと納得いかなさそうな表情なんだろうな、と思って美香の顔を見る。
そこには、いつもとは違う少し大人びた笑顔を浮かべている美香の笑顔だった。予想を外した悔しさだけじゃない、
その美しさに心を乱される。守りたい、壊したい、俺だけのものにしたい。得体の知れない感情が心の中を、頭の中を暴れまわる。



美香に連れられるように、移動する俺。美香が何か話してくるが、さっぱり頭に入ってこない。俺の頭を支配するのは
さっきから続いている複雑な感情。『美香の笑顔をもっと見ていたい』『美香の笑顔を滅茶苦茶にしてやりたい』
相反する歪んだ感情。これっていわゆる『恋人を独占したい気持ち』なのか?
おいおい、大概にしろよ俺?今まで二人の女性と付き合ったけどそんな感情芽生えなかったぞ。むしろ俺が浮気相手だって
わかったら即捨てるような俺が、美香に恋したって?確かにこの感情を表す言葉なんて無いが、美香に恋し「おにーさんっ!!」
「うわぁ!」
「うわぁ!じゃありません!何を食べるんですかっ!?」
え?食べる?何の話だ?
「おにーさんがスタバで朝ご飯食べようって言ったんじゃないですかっ・・・もう、店員さんが待ってますから、早く選んでくださいっ」
あぁ、そういやそうだっけ。美香とそんな約束したよな。何ですかもう、みたいな顔した店員さんに見られ、ちょっと恥ずかしくなった俺は
手早くサンドイッチとフラペチーノを注文した。



おにーさんがさっきから私の話をちゃんと聞いていない気がする。確かバイクを降りてからおにーさんが抱きしめてくれた後辺りから。
コロコロと表情が変わるのは面白いんだけど、私の今の話はそんな難しくないもん!私の大好きな笑顔が見たかっただけなのに!
ぷりぷりしている私におにーさんは気付かないまま、スタバについて朝ご飯を選ぶ。どれも魅力的すぎて、思わず
「おにーさん、何が良いと思います?」って聞いたのに全く聞こえてないみたい。さすがに私でも無視は怒りますよ?
ムカッとして適当なサンドイッチとフラペチーノを選び、気合いを入れて「おにーさんっ!!」と叫ぶ。
ようやっと正気に戻ったようで一安心する。おにーさんが急いで選んだメニューが私と一緒で、それだけで気分が上昇し、
許してしまいそうになる。いやいやいや、今回の私を無視した罪は大きいですよ?おにーさん?


「と言うことで、おにーさんには罰ゲームを受けてもらいます!」
「どういう訳か話さないとわからないし、何故罰ゲームを受けなきゃならんのだ。」
はいー?何を仰いますか、この人は?人の言葉さんざん無視して言いますか?じとーっとした視線を浴びせると、
「いや、確かに無視したのは悪かったけどさ・・・」どうやら私にした仕打ちに気付いたらしい。だったらあーんくらいしてくれますよね?
「だから、おにーさんの持ってるサンドイッチを、私に食べさせてくださいっ!」
「ってこれ、俺の食いかけだぞ?いいのか?」
むしろおにーさんの食べかけだからこそいいんじゃないですか、何を言ってるんですか。とは口に出さず、
「おにーさんの食べかけだからいいんですよ♪」
「・・・間接キスになるんだが。」
往生際の悪いヘタレですねー。ここは必殺、上目遣いで仕留めてやる!
「むしろそれが狙いですから♪ダメですか?」
「うぅ・・・」ふふふ、おにーさんが上目遣いに弱いのはリサーチ済みですっ!
「早く食べないと遅くなっちゃいますよ?あーん♪」
無言でサンドイッチを差し出すおにーさん。それじゃダメですよ?
「おにーさん、『あーん』って言わなきゃダメじゃないですか?」
「・・・やっぱダメなの?」
「ダメですっ♪」ホントに往生際悪いですねぇ。
「うぅ・・・あーん。」
「あーん♪」ようやっと素直に従ってくれたおにーさんから差し出されたサンドイッチを頬ばる。んー!おいしー♪

「おにーさん、あーん♪」おにーさんに私の食べかけサンドイッチを近付けると、え?俺もやるの?みたいな目をした。
「・・・美香よ、なんだその食いかけのサンドイッチは。」ほほ〜、この人はわかってる癖に話を逸らすんですね?
「おにーさんも食べてください♪はい、あーん♪」そういって口に近づける私。容赦はしませんよ?
「やらなきゃ、だめ?」はぅ、キュンとしちゃいました。ダメ?なんて、そんな可愛く言ったって許しません♪
「ダメです♪」
「うぅぅ・・・」顔を真っ赤にしながら身悶えるおにーさんは、食べたくなっちゃうほど可愛いです。
「あーん・・・」
弱々しく声を出し、目をつぶりながら口を開けるおにーさん。キスのチャーンス!でもからかいたくなっちゃったから、キスはおあずけ♪
おにーさんに顔を寄せて指を唇にくっつける。「っ!?」あからさまに動揺して目を開くおにーさん。く〜、かわいいなぁ♪
「ごめんなさい、おにーさん♪今度はホントのサンドイッチですから♪」そう言って、おにーさんの口にサンドイッチを入れる。
そんなやりとりを繰り返す。おにーさんはあからさまに真っ赤なんだけど、私もきっと赤い顔してるはず。
でもこの空気が甘酸っぱくて、私は好き。周りの人たちはどう思うのかな。やっぱり恋人?そうなら嬉しいんだけどなっ♪
2009年01月16日(金) 22:26:03 Modified by amae_girl




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