5-928 無題

なにやら、泊まるらしい。
何がというと、両親が、である。
遠縁の親戚の結婚式で少し離れた場所へ行ったわけだが、どうやらそういう事になったらしい。
おそらく、あの二人は新婚さんな雰囲気にあてられて二人でデートしてそのまま、という感じだろう。相変わらず夫婦仲がいいのはいいことなんだが…
ということで今日は、義妹の唯と二人きりということだ。
「にぃさん、ご飯一緒に作ろう」
「え?いつもみたいにお前が作るんじゃないのか?」
たまにこういうイベントがあって二人になってしまう時は基本的にこいつがいつも作るのだが。
「ちょっと、お腹が空いた。二人でやれば早く食べられるし、それに」
それに、と言って少しにやりとした唯は、どうやら俺の催促を待っている様だった。
ここは、乗ってやるか。
「…それに?」
「それに、新婚さんみたいでなんか嬉しい」
そう言って少し恥ずかしそうにする唯。
乗ってやったのに、言った本人が顔を赤くしてどうするんだ…
「わ、わかった」
そういう顔をされるとこっちも照れてしまう…結構一緒に居るはずなのに、初めて見る表情だし。いつの間にこいつはこんなことを言うようになったんだ?
「あ、ほら、で…なにを作るんだ?」
「ハンバーグ。手間がかかるからにぃさんを呼んだ」
別のでもよくないか、と提案しようとして冷蔵庫を覗いたら…まあたしかにこれはハンバーグの材料だった。
「…いい?」
「よし、わかった。ちょっと俺も腹が減ってきたしな」


しかし、こうして料理をしてると本当に新婚な感じがしないこともないな…などとは思うはずはないはずなのだが、唯の横顔は心なしかいつもより嬉しそうだ。
二重否定をしているあたり、少なからず俺も動揺しているわけだが…
(そういや、ポッ○ーがあったな…)
味噌汁とサラダの支度を終え、唯が挽き肉をこねおわるまでは暇だった上になにやら妙に意識してしまった俺はお菓子を食べて気分を落ち着けることにした。
つまみ食いをすればいいじゃないか、ということにならないのは、それが我が家のルールだからである。
ポリポリ食べていると、
「にぃさん、ずるい…私にもちょうだい」
仕方ないな、と箱を向けると唯は自分の手を一瞥してこちらをジト目で見ていた。
「ゆいはなかまになりたそうにこちらをみている!」
「や、妙なネタはいいから…」
「わかったわかった…ほれ、あーん」
「え、あ…、あ、あーん」
うわ、どもりすぎだろ。
なんだかとてもかわいいんですけど!
凄くにこにこしながら食べてるし!
「あの」
「ん?」
「もいっかい、あーんってやって欲しいな、にぃさんに」
普通、逆なんじゃなかろうか。
いや、そんなことは無いのか。
うん、無くはないわけじゃないな。
ああ、意味がわからなくなってきた…
「…ほら、あーん」
「ん、ありがとう」
そうこうしているうちに、挽き肉の方は終了したらしいので最後の一本を食べようとしたら、
「ちょっと待って、にぃさん」
「最後の一本は、終わってから」
またか。
「…終わってから?」
「ポッ○ーゲーム、やろ」

そう、二人の夜はまだ始まったばかり…
2009年06月19日(金) 22:12:13 Modified by amae_girl




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