6-448 梨佳2

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「今のでもう三回目だよ」
「え?」
 彼女がピンク真珠のように艶めく唇を、つんと尖らせて俺を見つめた。
「ゆーくんがさ、さりげないふりして、そーやって、
 私と繋いだ手を解こうとするの」
 う、バレてたか。こいつは時々、妙に鋭い。

 日曜、PM14:00、地下、PLAZA。
彼女が指した小物をとるためと見せかけて、彼女の指が絡められた手を、俺はそっと離した。
「こっ恥ずかしーんだよ……人前で手を繋ぐの」
 観念したように俺が呟くと、彼女は大きな黒目がちの瞳を、うるると瞬かせて俺を見た。
もし彼女が犬だったなら、耳が後ろにペトリと垂れて、長い尾っぽは、しんなり下がっているに違いない。
「なんで? 私とじゃ恥ずかしいの? 私が嫌?」
「いや、そんなんじゃなくてさ」
 ぐずる彼女をなだめながらも、俺の目線はちらりとその胸元に行く。
今日の彼女の服装は、ターコイズブルーのこれでもかってくらいミニのデニムスカートに、
綺麗なラインの生脚をにょっきり見せ付けて、白いコンバースのスニーカー。
身体にフィットした黒いロゴTの、襟口はやたら大きく開いていて、
豊かな胸の谷間がくっきり見える。
しかもそのTシャツの丈は短くて、ひきしまって細いウエストラインどころか、
すっとへこんだ、その雫形のおへそまで見え隠れする。
会ってすぐ、『その服、へそが見えてるぞ』と注意したら、『ゆーくん、ジジくさい』と一蹴された。
 正直、目のやり場に困る。いや、正確には困らない。呆れるほど素直だ。
顔、胸、顔、胸、脚、脚、へそ、胸、顔、へそ、脚、脚、顔 以下永遠にリピート。
実際、やり場に困るのは、そのたび湧き上がる性欲だ。

「ま、その度に、私が手を繋ぎなおすだけなんだけどねっ」
 ぱっちりした瞳をいきいきと輝かせて、彼女は再び、俺の手をとり、嬉しそうに腕に密着してくる。
待て、待て。当たってる当たってる。おっぱい、当たってる、おっぱい。
すげえ、柔らかい。ぷにゅぷにゅと音が出てる気すらする。
顔にぐわわと流れる血流を感じる。色黒でよかった。大して顔色の変化は分かるまい。
というか、頼む。そんなにくっつかないでくれ。
おっぱい当たるのはいい。むしろいい。もっと当たれ。
しかし、ここは、公共の場なんだ。ショッピングモールの店内なんだ。
ただでさえこんな、いかにも女の子女の子しいカラフルな雑貨に囲まれた場所じゃ、
猿人が服を着て歩いてるような俺は、さっきから異様に浮きまくってるんだ。
しかも隣で俺にぺたぺたと寄り添うのは、
女神のようなプロポーションをした非の打ち所の無い美少女ときてる。
他人の視線が集まらないわけが無い。
 お前がそーやってな、俺の手を握って、その目立つ胸を腕にぺったりひっつける度に、
疑問とか嫉妬とか侮蔑とか驚愕とか哀れみとか、いろんな感情入り混じった視線が幾つも
俺の顔に突き刺さるんだよ。
ムサイ眉毛、しょぼい瞳、低い鼻、薄い唇、仕上げにごってりとした輪郭。
自分の顔は、目が開いてからというもの鏡で見慣れているから今更驚くものでもないが、
美とか端整とか、そういうものとはまったく無関係、むしろその逆の極地に生息してるんだ。
まあ、この際、俺の顔の造りなんざどーでもいいとしよう。
問題はこの場所だ。
はっきり言っちゃ、彼女がこうやって密着して甘えてくるのは大歓迎だ。むしろ来い。
だがな、いくら何でも、こうやって人目を憚らずいちゃつくのはまずだろ。
きっと見苦しい。適切でない。風紀を乱す。
最後のはよくわからんが、とにかく、俺はこう見えても、規律と秩序を重んじる男なんだ。


449 :ろくなな :2009/06/08(月) 04:07:40 ID:uiZ41J5y
「これが欲しいなら、買ってやるよ」
 彼女が物欲しそうに手にしたキラキラした小物入れを、ひょいと持ち上げると、
そっと腕を解いてレジに並んだ。
『プレゼント用ですか』という問いに『ご自宅用です』と微笑み返す。
無駄な包装紙は必要ないだろ。こう見えても俺は、エコを心がける男。
レジの店員が引きつった顔で俺と商品を見比べたのは言うまでもない。

* * *

「ゆーくん、私より前に乗ってよ」
地上へ出ようとエレベーターに向かったとき、彼女が頬を赤らめて一歩下がった。
「いいや、お前が前を乗れ」
「やだよ。ゆーくんにパンツ、見えちゃうじゃん」
「パンツ見えるのが嫌なら、そんなに短いの履くな」
「だってぇ……」
すねたように彼女は口ごもる。黒い瞳がうるると光って、その下に胸の谷間。既に悩殺され気味だ。
『短いのを履くな』という言葉は嘘だ。本当は嬉しい。
脚フェチとまでの自覚は無いが、綺麗な彼女の生足を、
常に目線に入れることができるのに無常の喜びを感じてる。
「いいか? 他の奴に見えないようにするために、俺が後に乗るっての、わかってる?」
 眉根の寄った彼女の顔が、ぱあっと綻んだ。
「そっか! ゆーくん、やきもちだぁ」
るんと音符を宙に飛ばしながら、俺の腕を引っつかんで、ぺとりとくっつく。
「だーかーら、くっつくなってば!」
「えへへ、ゆーくん。私がなんのためにミニスカート履くの、わかってる?」
魅惑的な唇の両端を、にっこりと吊り上げながら彼女は耳元で囁く。
「ゆーくんがいつでも、触りやすいよーにだよ」
……お前は真っ昼まから、俺を出血多量で殺す気か。
触りやすいって、えっ? どこ、えっ? 
聞くまでもないか……えっ? いや、どこよ。


450 :ろくなな :2009/06/08(月) 04:08:55 ID:uiZ41J5y
* * *

「よう、リカじゃん! 久しぶり」
 地上に出て表通りを歩いていると、
正面方向からすれちがった、やたらチャラチャラした男が彼女の腕を掴んで声を掛けた。
「きゃー、ともくん! 久しぶりー。元気ぃ?」
 彼女は驚くと同時に、満面の笑顔で返す。
 察するに、彼女の男友達……か? 彼女が俺以外の男を名前で呼ぶの、初めて聞いた。
別に嫉妬じゃねーけれど。しっかしなんか、ジャニーズにいそうだな、この男。
整った顔に流行の髪型。流行の服装。雑誌から抜け出てきましたという感じ。
奴の隣には、確実に俺より長身の、スレンダーな美女。長い黒髪に、ばっちりとしたアイメイク。
まるでモデルみたいだ。
俺の目線に気付いた女は、俺の顔を一瞥するなり、ふっと鼻で笑った。
笑った、間違いなく笑った。まあ、いいさ。そういうことは、慣れている。
「リカ、何? 隣の……」
「えへ。あのね、ゆーくんだよ。私の彼」
 彼女はぺとりと俺の腕に絡まった。
だからっ、おっぱい、当たってるって、おっぱい。
これ以上にない柔らかさを腕に感じて、身体がギシりと硬直する。
あれ? なんか、こいつの指先、冷たくなってる?
「うっそ! これが? おまえの? 冗談だろ」
 男は蔑みの感情を隠しもしないで俺を見る。
 予想通りの反応をありがとう。
「本当だよー、何? その言い方」
 彼女は、ぷうとほっぺを膨らませて、かわいくも怒ったジェスチャをする。
男の隣の美女は、彼女に対して勝ち誇った笑みを浮かべると、男と腕を絡ませた。
男はその腕をすっと離すと、彼女の肩に手を置き、耳元で囁いた。
「なあ、そんなのやめて、俺とよりを戻さねえ?」
「何いってんの? 彼女いるじゃん。私みたいな女タイプじゃないんじゃなかった?
 そーゆー背が高くて美人系の子が好きなんでしょ?」
「まだ怒ってんのか。俺にふられたから、ヤケになって男と付き合ってんだろ?
 遠くから一目見ておまえだって、わかったよ。ますます、かわいくなったな。
 なあ、そいつ捨てて、俺のとこ、こいよ」
……あのー。全部聞こえてますが。っていうか、俺の存在全無視してやがる。
彼女の冷たい指先が、俺の手をきゅっと強く握るのを感じた。
次の瞬間、ばっと離される。
「やめてよっ!」
 激情を声にあらわにして、その手で男をどんっと突き放した。
今度は彼女が、そのかわいい顔に勝ち誇った笑みを浮かべると、
なまめかしく腰をわずかにくねらせて、俺の腕に再びもたれかかった。
「それこそ、冗談。絶対嫌よ。だってゆーくんってねえ〜」
日ごろの天使のような容貌が、小悪魔的な微笑に変わり、黒い大きな瞳でくるりと見上げて、
唇から小さな赤い舌がチロリと蠱惑に、上唇を舐めた。
「――すっごいんだから。もう、私、メロメロなの。
 悪いけど、ともくんとじゃ、比べ物にならないの。ごめんねぇ」
桜色に潤う唇が、ふふふと笑う。ぞくっとするほど艶かしい。
 男は、切れ長の目をこれ以上なくまん丸に瞬かせて、ぱちぱち瞬いた。
隣の美女も驚いた表情で、でもすぐさま細められた眼で、さっきとは違った顔で彼女を見た。
それは羨望の眼差しと言ってもよかった。
「じゃあね、ともくん。バイバイ」
 彼女は俺の腕をぐっと掴むと、足早にその場を歩き去る。
「おい、ちょっと……」
「お願い。一緒に歩いて。今は、嫌でも腕、ほどかないでいて」
 言い淀む俺に、低く押し殺した声でそう告げると、彼女はどんどん駅裏方向に歩き出す。
こんな彼女、初めてみる。彼女があんなに見事に……嘘をつくところも。
恥ずかしいことに、そういうことに関しては、
俺と彼女はまだ、キス以上のことはほとんど、進んでなかった。
「おいっ! いったい、どーしたんだよ?」
 ぐんぐんと勢いをつけて歩く彼女の腕を振りほどいて向き合った。


451 :ろくなな :2009/06/08(月) 04:10:39 ID:uiZ41J5y
「喉……渇いたね。スタバ行こう?」
 彼女が震えがちの甘い声を出して俺をじーっと見つめた。俺が逆らえる訳がない。
 席を確保して座る。彼女はしばらくうつむいていたが、顔をあげるとふにゃりと笑った。
「ごめんねー、ゆーくん。嫌な思い、したよね。
 あのね、ともくんは……私の……元カレ」
 すでに予想はついていた。そこはべつに、問題じゃない。彼女の様子がちょっとおかしい。
「私ね、頭、悪いけど、昔はもっと悪かったの。
 あの人たちはね、本当に……うわべ。うわべうわべうわべうわべ。うわべだけ。
 人の、うわべだけしか見ないの。私のうわべだけしか見ない。
 ……今の私はね、それだけはよく分かるの」
 どこを見てるか分からない、遠い眼差しで彼女は言った。
 キャラメルフラペチーノをストローでかき混ぜて、
その先端についたクリームをぺろりと赤く小さな舌で舐める。
「そっか」
 俺は他には何も聞かなかった。
いつもの特に内容のない会話で時を流す。
やがて空になったカップを持って、彼女は席を立った。
「ゆーくん、いこっか」
 にっこりと微笑む、その顔は愛くるしいほど完璧な造形で、
心臓がどきりとして、いつになっても見慣れない。
 彼女はまた、通りに出るとほとんど強引に俺の手を掴むとどんどんと足並みを早めた。
「……梨佳? どこ行くんだよ、おいってば」
 彼女の足が、止まった場所は、駅裏、繁華街の雰囲気とは一変したところ。
ご休憩、ご宿泊、そういう看板がやたら目につく。
ここはラブホテルの立ち並ぶ通りだった。
「ね。さっきの嘘……ほんとに、しよ?」
 とある一つのホテルの入り口で立ち止まると、俺の腕をひっぱり、柔らかい胸を押し付けて、
光と涙で潤んだ大きな瞳で、桜色の唇で、とびっきりの甘い声で、俺に囁いた。
中に入ろうとする彼女の腕をひっぱり返し、押しとどめる。
「待て待て待て、待てっ。なんかさっきから、変だぞ、お前!」
本当のことを言おう。
今の彼女の言葉に、俺はノックアウトされてた。完璧にきた。
勃起した。パンツの中の俺のイチモツはビンビンに張り詰めてる。フル勃起してる。
もっと正直に言おう。
『ゆーくんってねぇ、すっごいんだから』なんて、艶かしく見上げられて、言われたとき一気に、前のめりになりそうなくらい、勃起した。
もっと本当に正直に言う。
今日のデートで、胸を押し付けられる度、俺の下半身は何度張り詰めたことか。
それでも何か、今の彼女の言葉のまま、流されるのに強い抵抗を感じた。なんか変だ。
 彼女は俺の腕を振り切ると、小さい唇をかみ締めて俯いた。
「やっぱり、ゆーくん、嫌なんだ……。
 なんで? おかしいよ。私達、付き合ってもう五ヶ月だよ?
 そんなに私じゃだめなの? それとも――――」
 彼女の顔が、哀しく引きゆがんだ。
そのゆがんだ表情さえ、とてもかわいいとか、思ってしまってる俺。
「それとも、処女じゃない女の子は嫌?」
 彼女はそう自分で言って、えぐっと喉を引きつらせる。
「んなっ! バカなこと言うな!」
「だって、私、頭わるいもん。バカだもん」
「っていうか、こーゆーことはな、普通、男からせまるもんだろ!」
「じゃあせまってよ! ゆーくん全然、私のこと、そーゆーふうに見ないじゃない!
 いつも頑張って、おしゃれしてミニスカート履いて、
 今日だって、こんな、思い切ったカッコしたつもりだったのに!
 それでもだめなの? 私の何がたりないの? 私じゃ嫌なの?」
 うぐうぐと、ついに彼女は泣きじゃくりだした。
なんてこった。
あの散々な、俺のしたいやりたい光線+エロ目をこいつは気付いてなかったのか。
つーか、こいつそういうつもりだったのか!?


452 :ろくなな :2009/06/08(月) 04:12:12 ID:uiZ41J5y
* * *

 はっ……。いかん、やばい。いつもより増して白い目線が飛んでくるぞ。
昼間のホテル通りとはいえ、街中だけに、人通りはそれなりにある。
やばい。これは、この状況は――――
ムサイ男が無理やり美少女をホテルに連れ込もうとして泣かれる図だ。
つか、俺も傍からみたらそうとしか見えん。
俺は必死で、彼女をなだめにかかる。
「あのな……、俺はもちろん、その、したいって思ってるよ。
 でもな、そーゆーのはもっと、大事にしたい。お前のこと、大事にしたいんだ。
 今、お前なんか、ヤケになってるだろ。自虐的になってる。
 そういうお前とは、……したくない」
 背後のほうから、「ね、なにあれ」と、からかう声が聞こえてきた。
思わずそちらに視線が走る。
「うん、……わかった」
彼女はふいに泣き止むと、俺と並んで駅の方向に歩き出した。手は繋がない。
「今日は帰るね、私」
 彼女の表情には、黒い暗雲が立ち込めている。深い落ち込み様。
……俺。何か間違ったか? 何を間違った?
いや、間違って……いないはず……なのになんでだ? この重苦しい雰囲気。
そうだ、彼女は、必死の思いで、男に(しかも俺みたいな)そういう行為をねだったわけだ。
なのに、あっさり肩透かしを食らわせられてしまった。理由はどうであれ。
落ち込まないわけがないじゃないか。
「あのな、梨佳……」
「もういいよ。ゆーくん、もういい」
 立ち止まった細い彼女の肩が震えた。

「私たち、別れよっか」

「……え?」

 その意味を、すぐに理解できなかった。
彼女のつぶらな眼差しが、鋭さを含んで俺を見た。
「ゆーくんってさ、結局は、私がゆーくんをどう見てるかより、
 他人がゆーくんをどう見てるかのほうが大事なんだよね」


453 :ろくなな :2009/06/08(月) 04:13:49 ID:uiZ41J5y
 スパンと脳を打ち抜かれたようだった。
左フックで眩暈を喰らった後、続けざま、強烈な右ストレートが炸裂した。
痛烈な打撃に声も出ず、身体も動かない。
そんな様子の俺を見て、彼女は走り出す。
「待っ――」
「来ないでっ! 私のこと好きじゃないなら、追ってこないで!」
 ほとんど泣き顔に近い表情で、俺に叫ぶと、
その長く細い足をしならせて、街中の通行人の横をすり抜け、彼女は走り出す。
走る彼女の小さくなりかけた後姿を見て、
頭が真っ白に抜ける断線状態から、非常用回路で回復した。
『私のこと好きじゃないなら、追ってこないで』=『私のこと好きなら、追ってきて』
OK。

 小さくなりかけた彼女の背中を追って、俺は猛烈に走り出す。
ムサ苦しい体格だけあって、そのへんの男より足は速いぞ、ゴルァァァ!
ネアンデルタール人とクロマニョン人の悪いとこどりしたような男が、
必死の形相で走ってくるんだ。
対向する通行人はぎょっと驚いて、道を譲ってくれる。
 彼女の姿が大通りからふっと消える。
慌ててその周囲を見渡すと、人通りの少ない路地を走る彼女の背中が見えた。
華奢なくせに、やたら早い。脱兎のような逃げっぷり。
でも、ここで見失っては一貫の終わり。
俺も必死で追いすがる。

大通りからかなりはずれ、オフィスビルの狭間、街路樹の横でうずくまる彼女を見つけた。
息を切らして、俺は彼女に駆け寄る。
「梨佳……っ」
「来ないでったら!」
彼女は俺に背を向け背を丸めてしゃがみこんで、肩を震わせた。
「私、こんな顔に生まれたくなかった!
 みんな、かわいいと言ってくれる。でもそれがなんだっていうの!?
 かわいいって言われたって、私、ちっとも嬉しくないっ!
 かわいいが何!? だから何!?
 私、もっと普通に生まれたかった!
 そしたら、……そしたら、ゆーくんだってきっと、私と歩いても人の目、気にせずにいれるっ…
 私と手を繋いで歩いても、気にしないでいてくれるっ……
 私ともっとっ……気にせずいっぱいキスしてくれてっ……
 きっと、えっちだって、してくれるのにぃぃっ〜〜」
 地面にぺたんと腰を落とすと、空を仰いで、ふぇぇぇんと泣き出した。
彼女の背後に、立ちすくむ俺。
彼女の叫びを聞いて、強烈な脳震盪を起こしそうなくらい、頭を揺さぶられた気がした。
 そうか。
俺の葛藤はそのまま、彼女の不安だったんだ。
彼女が俺と腕を組んだり手を繋いだりして、甘えたがるのは、
決まって俺が引け目を感じているときで、
その気配を敏感に嗅ぎ取って、彼女はより強く、目に見える形で、俺と繋がれたがってたんだ。
人の目なんか気にしないで。隣にいる私の目を見て。
何でそんな、単純なこと、今まで気付いてあげれなかったんだろう。


454 :ろくなな :2009/06/08(月) 04:15:07 ID:uiZ41J5y
「ごめん……俺、梨佳を一番大事にしているつもりが、
 俺が梨佳を一番傷つけてたんだな。
 本当にごめん! どうか許してくれっ。俺は、お前と別れたくないっ!
 お前が許してくれるなら、俺はなんでもする! だから――」
「なんでも……する?」
 ひぐっ、と、その細い喉を鳴らしながら、彼女は両手を地につける俺を見つめた。
ぽろりと、透明な雫がまだ、したたってる。
「ああ! そうとも、俺に、出来ることならなんっでもする!」
 やっと彼女が反応してくれて、俺は救いを求めて顔をあげた。
ふぐ…と小さくしゃくりあげ、彼女は目線を横に滑らせた。
……何を見てるんだろ?
俺が彼女の目線を追う前に、彼女は俺に向かって両手を大きく広げた。
「じゃあ、今すぐ私を抱きしめて。嘘じゃない証拠に抱っこして。
 泣いている女の子は、抱きしめられたがってるんだよ? そのくらい分かって」
「お……おう」
 俺は彼女を抱き起こすと、腕の中に抱きしめた。
彼女の細い顎が、俺の肩の上にのる。
俺は彼女の亜麻色の髪に頬をつけ、その柔らかい感触と、シャンプーのいい匂いにうっとりとした。
「もっと、ちゃんと、ぎゅっとしてよ」
言われるがまま、俺は腕に力を込める。
俺のムサイ身体にすっぽり収まる、細い腰、小さな背中。でも柔らかく確かな抱き心地。
「もっとだよ、もっと! 骨が折れそうなくらいぎゅっとして!」
 泣きそうな声で、彼女は訴える。
ガサツな俺と比べこいつは、もろく綺麗な硝子細工みたいで、
触ると壊れそうで、ただ眺めるだけが精一杯な気がしてならない。
でも今は、彼女の言うこと、全部そのとおりにしてあげたい。
俺の腕の中で、小鳥みたいに震える彼女が、たまらなく愛しい。
その気持が込み上げて、俺は力いっぱい、彼女をぎゅっと抱きしめた。
「ふぐっ……」
力任せに抱きしめると、腹部から搾り出るような悲鳴が洩れ出た。
っ……いかん。力いれずぎ。バカか、俺は。
「ごめん! 痛かった?」
心配になって彼女の顔をのぞきこむと、涙に濡れた瞳が嬉しそうに笑ってた。
「ううん。ちっとも。すごく……嬉しい」
彼女も俺を、その細い腕の出る力の限り抱き締めてくる。
すうり と、猫みたいに俺に頬擦りしてくる。
「ね……、キス……して」
「えっ」
 衝動がある程度落ち着き、急に状況を把握しだした俺は、彼女の要望に固まった。
ここは、大通りから少し外れたとは言え、人通りが今はほぼないとは言え、
天下の公道、誰が通ってもおかしくない公共の場だ。
「私の言うこと、なんでも聞いてくれるんでしょ?」
 ぐすんと鼻を鳴らして、魅惑的な甘い声で、子犬みたいなつぶらな瞳で、
俺をわずかに下から見上げ、彼女は不安げに囁く。
規律よ秩序よモラルよ、すみません。今だけは、今だけは目をつぶっててくれ。


455 :ろくなな :2009/06/08(月) 04:16:06 ID:uiZ41J5y
「……っ、すみま……せん、でしたああっ!」
 次の瞬間、俺は彼女のすぐ横で、レンガ地の歩道に手をつき、人目も外聞も気にせず土下座した。
「ごめんっ……ほんっとにごめんっ……! 俺が悪かった!
 許してくれ。このとーりだっ!」
 額を硬い地面に押し付ける。誰かの前で、こんな土下座をしたのは生まれて初めてだ。
えぐっと喉をひきつらせながらも、驚きの表情で俺を見つめる黒い瞳が瞬いた。
わずかに開いて、桜色に艶めいて、俺を待っているその唇に、そっと自分のを重ねる。
柔らかい。かわいい。つやつやしてる。
やばい。俺の唇、乾いてがさがさだ。嫌がられて……ないか?
薄目を開けて、彼女を見る。彼女はうっとりと、頬をほのかに上気させ、目を閉じている。
その顔を見ただけで、俺の下半身はなぜかピクンと反応した。
唇を離すと、不満げに彼女が口を尖らす。
「もっと、ちゃんとキスしてくれなきゃやだよ?
 子供じゃ、ないんだよ? もっと、深く……キス、して」
 ディープキスってやつか。
いや、まあ、でも……でも、まあ、いや……するしかない。
 再び彼女の唇と重なる。彼女の唇を割って、自分の舌を侵入させる。
正直言うと、ディープキスは、どうすればいいとか、どうがいいとか、よくわからん。
でも、侵入してきた俺の舌に、彼女の舌が熱く絡まり、答えてくれる。
「うふ……ふぅ……ん」
 彼女が途切れ途切れに甘い息を漏らす。その声で、俺の頭の中に火がつく。
あとはもう、本能のまま舌を動かした。彼女の咥内を思うがままに蹂躙した。
綺麗にならぶ歯列も舐め、彼女の小さな舌を吸出し、唾液もかまわず飲み下した。
ようやく唇を放すと、彼女はしっとりとした目で俺を見た。
あー、まったく、こいつは……なんてかわいい顔するんだ。
再び唇を重ねて放したとき、彼女が俺の手をそっと握って囁いた。
「ね……私の胸、触って?」
 心臓、口から飛び出るかと思った。
あまりにも魅力的な提案すぎる。でもここは――――
あらためて周囲の状況を確認した。
人の行きかう大通りから少し離れた、オフィスビルに挟まれたこの通り。あまり広くはない。
アスファルトじゃなく赤っぽいレンガの敷き詰めた地面で、手入れされた街路樹が等間隔に並ぶ。
左はビルのコンクリート面に埋まり、右もビルの黒いのっぺりとした面。
ひょっとしたらここはビルの敷地内で私道かも知れない。
見回しても不思議と人の通る気配はない。
うまくすれば街路樹が、陰になってくれるかもしれない。
でもとても、身が隠れるほどの大きさではないが。
 彼女が、黒く潤いながらも、試すような瞳で俺を見つめてる。
もしここで、断ったら、大変な事態になるのは明らかだ。
もうここまできたら、引き返せるか。
せめて、大通りに近いほうに俺の背を向け、彼女の姿が隠れるようにして、
背中のほうから腕を回して抱き締めた。
たどたどしく彼女の胸に手を這わす。彼女の手も俺の手に重なり、その動きを手伝う。
「んぅ」
 甘い溜息が彼女の口から洩れる。
手のひらに押し包んだそれは、ぷにゅりと音が立ちそうで、
柔らかいながらも、しっかりとした弾力がある。
その感触に興奮して、思わず指に力が入る。俺の指の形どおりに、胸の膨らみは形を変えていく。
思わず力が入ると、柔らかい胸の肉は、むにゅりと俺の指と指の間から盛り上がる。
「あ……ん、ゆーくん」
 彼女が気持よさそうにのけぞる。
背中から抱き締めているもんだから、彼女のセミロングのふわふわした髪が、
俺の頬をくすぐり、いい匂いが俺の嗅覚をくすぐる。
胸を揉まれて、気持よいものなのか、俺はよくわからんが、
彼女の悩ましげな声で一層興奮して、しっかり両手をつかって、豊かな彼女の両胸を
下から救い上げ、こね回すように揉み解した。手のひらに伝わる温かさと感触が何よりも心地よい。
 しばらくその感覚に酔っていると、彼女の手が、俺の手をそっと掴んだ。


456 :ろくなな :2009/06/08(月) 04:23:47 ID:uiZ41J5y
 すねながらも、かわいさが溢れる口調で俺の耳元に甘く囁く。
「おね……がい。ゆーくんに私のそこ、いますごく……触って欲しいの」
 ぱちんと頭の中で、何かがはじけた。
ええい、もうどーにでもなれ!
俺は彼女の胸を揉み解していた右手を、彼女の綺麗な身体のラインにそって撫で下げ、
短いデニムスカートからあらわに出る太ももをなで上げた。
「ひっ……ん」
それだけなのに、彼女は酷く敏感で、ぴくんと背中を反らせる。
太ももの滑らかな肌の感触を脳に焼き付ける。徐々に、その付け根へ、手のひらを滑らせる。
めくりあげるまでもない彼女のスカートの中に侵入し、薄いショーツの布の間に手を滑り込ませた。
わずかな毛の茂み、その先、ぬるりとした鮮明な刺激が指先に触れた。
「きゃんっ」
 悲鳴に近い声を彼女があげた。
むちゃくちゃあったかい。というより熱い。しかもぬるぬるに、湿っている。
柔らかい。熱い。ぬるぬる。ああ、ここ、割れ目。ほんとうに割れてる。
もっと奥。指を滑らすと、もっとぐちゅりと液体に溢れた箇所に触れる。
頭、爆発しそうだ。
いくら人通りがないとは言え、こんな天下の真昼間の街中で、俺は何、やってんだ。
彼女の叫び声に怖気づく俺に、彼女の手が、そっと撫でた。
「お願い、もっと、ちゃんと触って。
 私をちゃんと……い……かせてくれないと、許してあげないんだから」
 彼女も恥ずかしいのだろう。顔を真っ赤に染まらせながらも、必死で耐えている。
俺も恥ずかしさで全身の血液が沸騰しそうだ。
しかも正直に言うと、
彼女のその場所に触れたものの、これからいったいどーしていいのか分からん。
当然、今まで俺は女性経験もなく、女性のそこに触れるのも初めてだ。
恐る恐る、指先にふれるぬめる肌を撫でてみる。
「あふっ、う、ぅぅん」
 びくんびくんと彼女が背中をのけぞらせる。まだろくに動かしてもいないのにこの反応。
「すごい……よ。ゆーくんにそこ、触れられてるって思うだけで、私、いきそうだよ……」
 消え入りそうな小さな声で、彼女は囁く。
「俺も……お前のここ、触ってると思うだけで、どーかなりそ……」
周囲のものが見えなくなる。目の前の彼女しか見えなくなる。
とろける熱が渦巻いている。柔らかい襞がある。
好奇心が何よりも勝って、その襞をかきわけ、指を滑らす。
愛液に滑る割れ目にそって、下から上へ撫でてみる。
「ひゃっああ! ああ、あぁぁ……ゆー、くぅん……そこぉ」
 彼女が甘えた声で俺の名を呼びながら、身をくねらす。
「えっ……? どこ?」
もう一度、濡れそぼる割れ目の筋にそって、指先を押割らせ、なぞる。
「はうっ! あっ、ああっ! そ、こぉっ」
彼女の華奢な身体が、いっそう跳ねる部分で指を止めた。
そこには、滑らかな襞にうもれ、小さくもしっかりした硬いしこりがあった。
そのしこりを、指先で押し込んでみる。


457 :ろくなな :2009/06/08(月) 04:26:05 ID:uiZ41J5y
 彼女がゴロゴロと喉を鳴らすようにのけぞった。
うおおお…… 本当だ。指が、入った。柔らかい。なのにきゅうきゅう締まる。熱で蕩けそうだ。
ひだひだ。すべすべ。きもちいい。あ、ここざらざら。
指を僅かに曲げ、押し込んだ。
「きゃっ……ふうぅぅ!」
 一際、彼女が高く鳴く。
「あ……え? 気持ちいいの、ここ? なあ、ここなのか?」
「ひゃっ…あっ……そんなこと、聞かないでよおぉ」
 彼女が泣きそうに顔をしかめて、声を絞り出す。
「ごめん」
「謝ら……ないでよ。そこ……気持ち……いいよぅ。
 ごめん……なさい。私、やらしい……よね。いきなり、こんな……でも、私――――」
 赤い顔して、ふぐふぐと声を引きつらせる彼女を、後ろからぎゅっと抱きしめた。
「おまえこそ、謝るなよ。その、すっごく……かわいいよ」
 振り返る彼女の眼が、涙を滲ませ細まった。
あ、しまった。
『かわいいと言われたって、ちっとも嬉しくない』
彼女はさっき、そう言ったんだった。
俺が何か言う前に、彼女が俺の唇に人差し指でそっと触れた。
「ゆーくんが……言ってくれる『かわいい』は、特別だよ」
 にっこりと微笑んで、その完璧な美貌は天使のようで。
あー、ちくしょー。っすっげぇ、かわいいわかいいかわいいかわいい。
その感情が高ぶって、どうしようもなくて、俺のこの手で、彼女をめちゃくちゃにしてみたい。
 彼女の中に侵入させた手をくちゅくちゅとかき回した。
本能のまま、抜き差しして、裂け目を撫で、また突き立てる。
ぴちゅぴちゅと淫らな水音が聞こえてくる。あふれ出た愛液が垂れて、太ももを伝って滴っている。
「ひゃぅ、ふあ、あぁぁ……くぅぅん。はあ、あふ。ああん」
彼女は背中からすっかり俺に寄り掛かり、快感にむせび喘いでいる。
彼女のなかは、きゅっきゅっと締まって、俺の指を締め付ける。
指に触れる感触でさえ、すげえ気持いい。ここに俺のを入れたら、気持ちよさは想像を絶しそうだ。
とっくの前からだが、俺のイチモツはビンビンに張り詰め、痛いくらいに勃起している。
それでも指の動きは緩めない。
思いつきのまま、左手を持っていき、今度はその左の指で彼女の中をかき回す。
そして右手で、硬くぴんと立っているクリトリスを、くりくりと撫でて刺激した。
「ひぃっ! あう……ゆーくんぅ…あっ、ひゃあああ、そな、したら、いっちゃう、
 いっちゃうよぅぅ……」
 びくびく、身をくねらす。ぎゅうぎゅう、指締め付ける。それにかまわずかき回す。


458 :ろくなな :2009/06/08(月) 04:27:01 ID:uiZ41J5y
「あぐっ……ふああぁぁん」
 まるで泣き叫ぶように彼女が反応する。これが……クリトリスってやつだろうか。
その突起を撫でるように、下から上へ、指を滑らした。
「あぅっ……ああん……、ゆー・くん、それ、きもち、いいよぅ……」
 涙目で顔を赤くして、くすんと鼻をならしながら俺を艶かしく見つめる。
彼女のリクエストに答えて、触れてる中指を、もっとこすりつけてやる。
人差し指と薬指で、ぐっと周囲の卑肉を押し広げて、感覚の鋭い芯を剥き出させる。
ぬめる液体をぬりたくって、指でなんどもくりくりと刺激させる。
「はぁ…うぅぅ。あううっ……もっとぉ……あっ、きもち。いいぃ」
 すっかり蕩けきった目で、彼女の唇が甘く喘ぐ。
あれ? この動き。何かに似てる。
 そうだ、マウスのスクロールボタンを、スクロールさせてるような……。
OK。それなら得意だ。
 彼女のその、膨らんだ肉芽を、くりくりくりくり刺激する。撫でて、撫でて、スライドさせる。
時折クリックを交えつつ、スクロールさせまくる。
「ひゃんっ、あふぅんっ……ああっくぅ……、ゆ、くん、やあっ、なか、なかもぉ」
 え? なか?
なかって……なか? えーっと……なか?
恐る恐る指先を、もっと奥にスライドさせた。
さきほど軽く触れた、熱い熱が渦巻く場所を、さらなる愛液が滴る場所を、
それが本能が知るように、そっと指を滑らせ、中へうずめていく。
「はぁ・ふぅぅん」
ぐちゃぐちゃ、こりこり、細心の注意を払って、ほんの少しだけ、乱暴に。
「あんっ! いく……いくぅっ!」
 彼女は唇をかみ締めながら、全身を強張らせ、ビクンと反らせた。
俺はかまわず、指の淫らな愛撫を続けてた。
「ひあああっ……あああああっ……っ!
 ゆーく、も、だめなのぉっ! もういったの、っだめぇっ」
 彼女はいやいやとするように首を振り乱すと、俺の手を止めようと腕にしがみついてきた。
俺がぴたりと指を止めると、肩ではぅはぅと息をしている。
彼女のその部分は、まだひくひくと蠢いて、俺の指を締め付けてる。
指をそっと抜くと、滴った液体が、地面のレンガに丸いしみをつくった。
艶かしい笑顔で、彼女が俺を見上げる。
ギンギンと俺の下半身が疼く。
 ああっ、もう最後まで、やりてぇぇぇっ。
俺の視覚の端に、向こう側から歩いてくる人影を捕らえた。
そうだ、ここは街中の道の上。
そんないやらしい行為は許されない。下手したら捕まる。
っていうか、もうかなり十分、とんでもないことをここでやらかしたわけだが……。
それを考えると、興奮がだいぶん冷めていく。
「……行こう」
 快感にすっかり神経を溶かされ、ぽーっとしてる彼女の手をとって、大通りの方へと歩き出した。
俺に手をひかれ、よろよろとふらつきながら、彼女は歩く。
「おい、大丈夫かよ」
しょうがないなと、しっかり彼女の腕をもってやる。
「えへへぇ」
 彼女はにんまり笑うと、俺の腕にさらにしがみついてきた。
「っ……こら、歩きにくいだろ。もうちょっとしっかり歩け」
「だって……。気付いてる? 今のが初めてだよ。
 ゆーくんのほうから、手を繋いでくれて、腕を組んでくれたの」
 にこにこと柔らかい唇をほころばせながら彼女が言った。
俺は自分の頬に、血流が多く巡るのを感じたが、色黒のお蔭で、そんな顔色は分からないだろう。
「それにねぇ……、ほんとだった。ゆーくん、すごかった」
 うわああ、耳元でそんな言葉、甘い声で囁くな。
いかん。痛いほど俺のイチモツがギンギンしっぱなしだ。すでに前傾姿勢。
必死で平静を装っているが、幸いしてこいつのゆっくりとした歩調で、歩くのがやっとだ。
 駅の方角に戻るために、先ほど右手にあった黒くのっぺりしたビルの角にそって曲がる。
ちょうど反対側がそのビルの出入り口だったようで、
そこからスーツを着たおじさんの集団が出てきていた。


459 :ろくなな :2009/06/08(月) 04:29:33 ID:uiZ41J5y
ビルの入り口には『環境と緑のシンポジウム2009』という横断幕が掲げられている。
そこから出てきた人物の一人が、俺たち二人の姿をみると、ぎょっとして顔を赤らめた。
よくみると似たような反応が数人いる。
いや、まあ、俺と彼女がこうやって歩いているところを、奇異の目で見られるのは茶飯事だが、
今日はなんだか――――視線の感じが違う……。
その、なんだ、さっきまでしてたことがことだけに、すごく後ろめたさを感じる。
でもなぜだ。あの場所での、たったさっきまでのことには、おそらく誰にも……。
違う。変だ。何か俺は見落としている。
さっきの場所の光景を思い起こした。左のコンクリのビル。細い街路樹。植木の茂み。
その先、右にそびえる黒いのっぺりとしたビル壁。

 ひとつ、気が付いて、俺は愕然と肩を落とした。
いまいるビルの壁面を見つめる。
黒くのぺっとした面は、黒々と光って、俺たちの姿を黒く映し返している。
しまった、完璧、見落としてた。
なんでこんなこと、気付かなかったんだ、俺は。
冷たい汗が、背中を落ちる。
張り詰めたイチモツが、しゅるると縮んでいく。
頭に浮かんだ推測を、確かめるまでもない。
このビルの壁は、壁じゃない。壁は壁ではあるが、これは、マジックミラーだ。

「どーしたの? ゆーくん」
立ち止まって固まる俺に、彼女が心配げに声を掛ける。
俺は彼女の腕を掴むと、そのビルの入り口とは反対方向に歩き出す。
「やんっ、もっとゆっくり歩こうよ、ゆーくん」
 彼女がにゃうんと甘い声を出した。
「びっくりしたね、あのビル、使われてたんだねー。日曜だから大丈夫だと思ったのに。
 日曜お休みで誰もいないはずだけど、
 誰かに見られてるかもって思うと、すっごくドキドキしちゃった。
 ほんとに見られてたなんてねっ」
 きゃっと小さく叫んで、頬をぽぅっと薔薇色に染める。

っ――――こいつ、気付いてっ……

誰か、頼む……
頼む、誰か……

今すぐ、ここに、穴を掘ってくれ。

そして、俺を埋めてくれ。






ながい……すまん、
すまん……ながい。しかもまだ、続く……
もう一話、今度こそ、本番に……たどりつく……から


460 :ろくなな :2009/06/08(月) 04:42:55 ID:uiZ41J5y
しかもコピペミスで途中順番おかしいとこがあるっ orz
スルーしてください
2009年10月28日(水) 20:27:46 Modified by amae_girl




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