6-503 人力発電所所員日誌

人力発電っ娘は自分では動こうとはしない。

移動する時は抱っこにおんぶはもちろんの事
ご飯を食べる時も所謂「あーん」をしないと食べようともせず飲み物も口移しだ。
流石にトイレは自分でやるようだがドアの前まで連れて行くのもどうかと思う。
上に掛け合ってドアを防音仕様にして貰ってなければこちらが参ってしまう。

一番の問題は風呂だ。
風呂は当然服を脱がなきゃ入れないわけだが勿論の事この娘は自分でやろうとはしない。
上着も下着も、全てこちらが脱がさなければならないのだ。
脱がし終わってハイおしまいという訳にもいかず身体を洗わなければならない。
頭、髪の毛にうなじ、足の指先から手の指の隙間、脇の下から耳の裏まで。
衛生管理は特に厳しく言われているため妥協も遠慮も許されていない。

身体を一通り洗い終わったら湯船につかる。
湯船に入るのにもやはりこの娘は動こうとしないので私が抱きかかえる形で
私も湯船に漬かる形になってしまう。
ちょうど私の胸がこの娘の背もたれになる感じでお湯の中、身体を無防備に預けてくる。
弛緩し切ったその体勢で放って置くと湯船に沈んでしまう為私がこの娘の脇を通して
両腕で支える形になるのが、私達の入浴スタイルだ。
彼女も私が支えるとわかっている為にますますだらっとしてしまうわけだが。

のぼせない程度に入浴を終えた後は就寝の時間。しかしそれでも私の仕事は終わらない。
ぬれた身体、その柔らかな皮膚を傷つけない様タオルをポンと押すような感じで
吹き上げた後にパジャマを着せていく。
使うベッドは大人三人が川の字になってもまだ余裕の大きさだ。
その真ん中まで私は彼女を抱き上げてゆっくりと横たえる。
起きるときも人の手を借りるこの娘の為に私も横に寄り添う形になる。
人の心臓の鼓動はかつて胎内に居た時の事を連想させ安眠に誘う効果がある
ので、私もそれに習い心臓の位置にこの娘を抱き寄せている。
一定のゆっくりとしたリズムで背中をトンと叩いてやるとやがてそれに合わせるかの
様に安らかに寝息を立て始めるのだ。

これでようやく今日の仕事は終わった事になる。
明日からもまた、資源の無いこの国の重要なエネルギーの要であるこの人力発電っ娘に
私は従事する事になるだろう。
ひいては、祖国のために。
この娘に私を捧げる日々は続く。
2009年10月28日(水) 20:30:05 Modified by amae_girl




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