6-738 アキ君

「アキ君」
 弁当箱の中からタコの形をしたウィンナーを取り出し、こちらへ突き出す。
「はい、『あーん』」
 俺は溜息を一つ吐くとフォークの先のウィンナーを指でつまんで口の中へ放り込んだ。彼女は一瞬ムッとした
表情を見せたが、すぐに弁当箱の中へ視線を落とす。今度は卵焼きだった。
「アキ君、『あーん』。……『あーん』して下さい」
 して下さいと言われても、周りの状況を見てほしい。俺には4人掛けの席を2人で占領してイチャイチャするよ
うな度胸はないのだ。
「そんなに混んでいませんし、2人で使っても問題ないと思います」
 俺が問題にしているのはそこじゃない。流石に立っている人はいないが、どの座席も誰かしら座っている程度
には混んでいるのだ。つまりそれだけ他人の目があるわけで。
「旅の恥はかき捨てと言うじゃないですか」
 ……恥だと思うなら少しは自重しろ。

 そもそも何故2人で旅行に来ているのか。原因は単純で、今春大学進学を果たした彼女に一切プレゼントを用
意していなかったからなのだが……仕事の書き入れ時でそんな余裕が無かったことはこの際脇へ置いておく。
 それなら、と彼女が旅行へ連れて行ってほしい、と言ってきた。俺もお祝いを準備していなかったのは悪いと
思っていたし反対する理由も無かったから賛成したのだが、いざスケジュールを合わせる段になると、こっちの
仕事が暇なとき、あっちの勉強が忙しいといった感じになかなか都合がつかなかった。
 ようやく2人とも暇になったのは7月の終わり。"祝・高校卒業&大学入学、ついでに定期試験お疲れ様旅行"と
いう馬鹿みたいに長いタイトルの旅行になってしまった。
 ちなみに行き先やら旅館の手配やらは全て彼女に任せてしまった。それじゃあ連れて行ったことにはならない
とも思ったのだが、本人がやりたいと言い出したのだからそれに付き合ってやるのもプレゼントの一環なのだろ
う。第一、金持ちの娘で幼い頃からあちこち連れ回されている彼女が満足するような旅館を俺が知るはずもない
ということで、予算だけ伝えて後はお任せだった。

 辿り着いた旅館は立派な建物だった。その温泉街の中心に代表としてそびえ立っていた。……あの予算で、こ
んないい旅館に泊まれるものなのか?
「アキ君、行きましょう」
 組んだ腕をぐいぐい引っ張られて旅館の建物へ足を踏み入れると、広いロビーにズラリと並んだ仲居さん達に
圧倒される。
「いらっしゃいませ」
「予約していた飯嶋です」
「はい、少々お待ちください」
 どうやら間違ってはいないようだった。珍しくてあちこち眺めていると、彼女が宿帳を突き出してくる。……
ちょっと待て、俺はお前を嫁に貰った覚えはないんだが。
「時間の問題でしょう?」
 ボールペンで記入されたそれを修正できるはずもなく、俺は溜息を吐いてサインをした。

 仲居さんに通された部屋は素晴らしかった。2人旅にはもったいないくらい広くて、窓の外には小さな露天風
呂――家族風呂って言うんだっけ?――までついている。俺の預けた予算では絶対泊まれないと思うんだが……
「夏場はお客さんが少ないので部屋代が安くなるんです。ついでに父に口を利いてもらったので、予算の範囲内
 にギリギリ納まってくれました」
 つまりこの旅行はご両親公認ですか、まあ今更なことではあるけれど。眩暈がする思いで畳に腰を下ろすと彼
女が飛びついてきた。
「……アキ君の匂いだ」
 俺の肩口に鼻を埋めてくる。汗をたくさんかいているのにそれは不快に思わないようだ。くんくん鼻を鳴らし
ているのがくすぐったい。
「ゴメンなさい。アキ君の汗の匂いが久しぶりで、興奮、してきちゃいました」
 身体に回された腕に力が入った。相手の鼓動が聞こえてきそうな至近距離で視線が絡む。
「アキ君、しましょうか?」
 しましょうか、ではない。この後夕食が運ばれてくるらしいし、それまでに一度温泉へ入ってきたほうがいい
だろう。それ以前に駅から旅館まで歩いてきたせいで全身汗でベトベトになってどうしようもなくなっているの
だ。そういうことをするのは温泉に浸かってから、夕食を食べてからでも構わないと思うのだが。
「……仕方がないですね。その代わり、ご飯が終わったらいっぱいしましょうね」
 そうと決まれば、と彼女に引きずられる格好で大浴場へ向かうことになった。

「アキ君、寝てますか?」
 コイン式のマッサージチェアに身を任せて目を瞑っていると、彼女もあがってきたようだった。問いかけには
答えず、こっそり薄目を開けるとすぐ目の前に顔があった。ギョッとして飛び起きる。
「やっぱり寝たフリしてたんですね。お部屋に戻りましょう。……私が代わりに揉んであげますから、残り時間
 は気にしなくていいです」
 うつらうつらして気持ちよかったのにいきなり引き戻されて身体が重い。渋々立ち上がって大きく伸びをする
と、無防備になっていた脇腹に抱きつかれた。めり込む鈍い痛みを覚えて呻き声が漏れる。
「ゴメンなさい、痛かったですか?」
 痛かったけど文句を言うつもりはない。逆に身体を抱きしめて少し持ち上げ、軽くおでこにキスを落とす。
「……おでこが性感帯になっちゃいそうです」
 頬を僅かに上気させ、潤んだ瞳でこちらを見上げた彼女が更に強く抱きついてきた。浴衣の胸に顔を埋めて、
またくんくんやっている。
「お部屋に戻りましょう。このままだと愛液が垂れてきちゃいそうです。……下着、つけてくればよかったです
 ね」
 帰りは、行きとは逆に俺が彼女を部屋まで引っ張っていくことになった。

 部屋に用意されていた料理を目一杯楽しむと、食器をさっさと下げてもらう。普段通り大喰らいを発揮した彼
女も満足そうにお腹をさすっている。
 それを眺めながら襖に寄りかかり目を閉じる。お腹一杯で眠気が襲ってきたのだ。胡坐のままこっくりこっく
りやっていると、膝の上に彼女が座ってきた。寝てはいけない、などと言いながら背中を預けてくる。
「アキ君に包まれて、あったかくて、気持ちいいです……」
 それなら、と肩を抱いて耳朶を甘噛む。今回の旅行は彼女のためのものだし、喜ぶことをしてやるのは義務み
たいなものだろう。
「アキ君、大きくて……元気、ですね。お尻、痛いくらい」
 こちらを振り向いて、まるで俺がオイタをしたかのようにウィンクを一つしてくる。好きな女の子の身体が密
着しているのだから勃起してしまうのは当然だというのに。というか彼女自身、それを狙って身体をくっつけて
きたくせに何を言っているのか。
「私の考えてること、アキ君にはバレバレですね。そういうところ大好きです」
 彼女はそう言うとゴソゴソと腕の中で身体の位置を変えて俺の腕に背中を預ける横抱きの体勢になると、指で
俺の分身の先端へくにくにと下着越しに刺激を与えてきた。
「マッサージしてあげますね。……ダメです。ココ、すごく凝っていますから」
 さっきのロビーでのやり取りを思い出し、そういうマッサージのつもりではない、と反論したがすぐさま却下
された。そんな会話の間も彼女の手指の動きは激しさを増していき、俺は快感に息があがっていく。
「苦しそうですね。……イっていいですよ? 気持ちよくて、もう精液吐き出したいんですよね?」
 本当に愉しそうに耳元へ囁いてくる。そんな吐息がくすぐったくて耳を逸らし、そのまま彼女の唇を奪う。つ
いでに彼女の身体を支えていた腕から力を抜いて畳へ押し倒した。
 半ば圧し掛かる格好で彼女の顔を犯していく。真っ黒な紙、真っ白なおでこ、上気して桜色の頬。くすぐった
いと身を捩って逃げようとする彼女を押さえつけ、ぷくりと膨らんだ唇へ軽く口付けする。ほんの一瞬の接触を
終えて離れようとしたとき、下から彼女の腕が伸びてきた。
「……ダメです。今日はこれから、ずっとアキ君とくっついてます」
 両腕を突っ張って状態を支えている俺を、かかった腕が引き寄せてきた。重さに耐え切れずに潰れてしまうと
彼女はほっとした表情を浮かべる。
「最近はお互い調整がつかなくて、なかなかエッチなことが出来なくて。アキ君のことをこんなに愛しているの
 に触れ合えなくて、ずっと我慢していたんです。……今日は、キスも抱っこもエッチも、私が満足するまで付
 き合ってください」
 まるで我慢していたのが自分一人のような言い草だった。

「……さっき、アキ君と一緒にお風呂から戻ってくるときから、こんな、だったんです」
 隣の部屋に用意されていた布団に2人一緒にダイブすると、今度は俺が先手を取った。彼女のを組み敷いて浴
衣の衿を大きく開くと、充血した色をした乳首が勃っていた。
「早く触ってほしくて下着を着けずにいたら、浴衣に擦れて、痛いくらいで……触ってく、ひゃう!」
 言われるまでもない。乳首へ吸いついて舌の先でちろちろと舐める。
「んあっ! それ、すごいっ……もっと、もっとぉ……」
 転がしたり押し込んだりして唾液を塗りたくり、指を滑らせる。あっという間に胸が唾液でベトベトになって
しまった。
「胸ばっかり、も、いい、けどぉ……」
 彼女は堪らないといった様子で内腿を擦り合わせて吐息を漏らす。そうやってくっついた彼女の膝の間へ自分
の膝を割り込ませた。露わになった薄い茂みや内腿が愛液で濡れててらてら光っている。まだ全然触ってないの
に濡らしすぎだ。
「ずっとアキくん、欲しくて、がまんしてたから……しかた、ないもん」
 股間を割った膝へ熱く湿った肉襞が押し付けられ、いやらしい音が立つ。もう欲しいのか。
「うん、欲しい。アキ君で私のおく、突いて? こすって? も、がまんできないのぉ……」
 叫んで、懇願して、背筋を反らせて、腰を更に強く押し付けてきた。ぐじゅぐじゅという水音が一層激しくな
る。
「おねがいですアキ君、エッチして下さい。ね? えっち、ね?」
 もう我慢できない、と言うのは本当らしい。エッチエッチとうわ言のように繰り返している。
「エッチ、ね? おねが!? ひぁっ!」
 舌で胸を愛撫するのを止めないまま、指だけを膝の前に滑り込ませる。指先は肉芽の上を抜けてぬかるんだ空
洞を強く擦りあげた。
「ゆびっ! あっそこぉ!」
 指を強く折り曲げて天井の壁を抉り取るように擦る。ただの通過地点だったクリトリスへも圧力を掛ける。よ
く知った彼女の弱いポイントを2つ、同時に強く刺激すると一瞬声を失った。
「――っ! っあ……はぁっ……」
 さっきまで反っていた背中は、今はもう真っ直ぐに戻っていた。彼女は全身が脱力しきって息も荒く仰向けに
ひっくり返っている。大丈夫だろうか。
「……白々しいですよ。指の先で私の内側イジめて、根元ではクリトリスこすって」
 浴衣の衿をぐいと引き寄せられる。
「ワザとじゃないなんて言わせません。……弁明は?」
 弁明も何も、狙ってやったのだから何も言うことは無い。眉毛を持ち上げて先を促すと、衿を更に強く引かれ
た。鼻と鼻の触れ合いそうな距離だ。
「もう焦らさないで下さい。……お願い、ですから」
 荒くなったお互いの吐息がぶつかる。

「――アキく、んぅ!」
 組み敷いた彼女が小さくくぐもった声を漏らすと同時に腕を伸ばしてくる。首筋を捕まえられ口を吸われた。
挿れられた瞬間は目を剥いて歯を食いしばり、口の端から涎をだらだら流していたくせに、少し時間を置くとす
ぐに回復してしまう。彼女のスタミナは男の俺には説明がつかない。
「んぅ、ん……ずずっ、は、んふ……」
 俺の舌を噛み切ってしまうのではないかというくらい一生懸命に口を吸ってくる。
「はぅ、れふ、くちゃちゃ……ぷあっ!」
 暫く好きにさせていたが、いい加減息が苦しくなってきたので一旦休憩だ。上半身を持ち上げて息継ぎを――
「はなれちゃダメです」
 ――させてくれない。再び引き倒されて睨まれる。
「私がいいっていう言うまで、はなれちゃイヤです」
 と言われてもだ。今のままキスを続けたらこっちも色々辛い。とろとろの襞が時折思い出したようにひくつい
て締めてきてさっきから腰がうずうずしているのだが……この様子じゃ少しでも腰を動かしたら舌に噛み付かれ
そうだ。
「噛むと思ってるんですか? ……噛まないように頑張ります」
 噛むかもしれないということは否定しないのか。それなら、と指を2本、口元へ差し出して咥えさせる。
「……あひひゅんの、ゆひ?」
 彼女は両手で俺の手首を掴んで指をしゃぶり始めた。舌を動かすことに没頭し始めたのを確認して、繋がって
いた腰を更に押し込む。
「んぅ、ぎ!?」
 ……やっぱり噛み付かれた。指にきれいに歯形が残っている。
「だって、アキくんがいきなり動くから……」
 だから動けないと言っていたのに、なんて言いながら彼女の腰へ腕を回してしっかり抱く。それから腰を目一
杯引いて打ちつけ始めた。引き抜く手前まで引いて、一気に押し込む。一番奥の弾力のある壁に当たったのが分
かる。彼女の柔らかい身体がしなった。
「あっ……きくん、ひゃっ、あっ!」
 リズムに乗るようにして結合部分を擦り合わせる。打ちつける度、溢れた愛液がこっちの太腿まで飛び散って
いた。今度は密着させ、グチャグチャとワザと水音を立てるように深いところで捻りを入れる。
「おくっ!? おくでこするのっ……かんじ、すぎるからぁっ! ふ、んんっ――」
 彼女は鼻をきゅうきゅう鳴らして快感に耐えている。やっぱりキスはしないほうがよかったみたいだ。今、口
の中に舌なんて突っ込んでいたら本当に噛み切られているだろう。
「んっ、んっ、んっ、んぁっ!? あきく、ダメぇっ!」
 ピストン運動を続けながら手指を動かす。乳首をつまんで転がし、繋がった部分へも愛撫を加える。
「だめ、クリだめっ!」
 クリトリスへ愛液をすり込む。皮の合わせ目が緩んで中身に指が届く。
「やぁ、クリ、イっちゃうよぉ! イっちゃう、イっちゃうからぁ!」
 膣の絞り上げる動きが急に強くなってきた。全身をピンと張って、彼女はもう限界であることを伝えている。
それなら一気に終わらせよう。体重全てをぶつけるような動きで彼女を追い詰める。
「イく! あきくん、イく! あっああっ! イく、イくのっ! イくイくっ! イ、くぅぅ――」
 俺の首の後ろに回されたままだった腕にきゅっと力が入り、絶頂にカタカタ震えて、それからゆっくり脱力し
て大の字に広がった。白い肌に浮いた汗の玉が目に入ってくる。


 彼女が余韻を愉しむように目を閉じて深呼吸しているのを見ながら、俺は避妊具が外れないよう慎重に分身を
引き抜く。
「あ……アキ君、離れたら、ダメって言ったでしょ……?」
 こんな様子じゃすぐには動き出せなさそうだから離れたのだが、彼女はどうもそれが気に触ったようだ。息も
絶え絶えのくせに飛び起きるようにして俺の身体を捕らえると、くるりと上下逆のポジションを取ってくる。
「これで、逃げられませんよ?」
 俺の身体の上でぺたんと腰を下ろし、疲れた様子で目を閉じる。本当に一晩中身体を触れ合わせているつもり
なのか。無茶な注文だ。
「無茶じゃないです。そもそも、一番してほしいことはお願いしていません」
 一番してほしいこと、というのはこれ以上に無茶な頼みだというのか。そう呟くといきなり分身を掴まれた。
少し萎えてはきていたがまだ興奮していたソレから快感の電流が駆け上ってくる。
「……出発前に今度の旅行中は大丈夫だからって言ったのに、ゴム、持って来ちゃうんだから」
 焦らすような動きをしていた指が、先端の精液溜めにかかる。避妊のためにつけていたコンドームが憎いらし
い。
「赤ちゃん欲しいってお願い、聞いてくれますか?」
 それは確かに一番の無茶だ。かたや社会人2年目、かたや大学1年生。好き同士でも子供を作っていい関係には
なっていない。俺1人では養えないし、学生の彼女は勉強が第一ではないのか。
「私の第一はアキ君です」
 ぐに、と彼女は腰を置きなおして俺自身を押し潰した。いきなりの、破裂してしまいそうな感覚に顔が歪む。
痛いくらいの圧迫感だった。
「……そういえばアキ君、まだ1回もイってないですよね?」
 その体勢のまま擦り付けてくる。目の奥を捻りあげられるような強い快感に叫び声を上げそうになる。
「アキ君、かわいいです。……またしたくなってきちゃいました」
 彼女は腰を浮かせて再度俺を受け入れると、勝手に2回戦をスタートさせた。

 * * * * * *

「……アキ君」
 2人には広過ぎるくらいの家族風呂の湯船の中、眠そうな声が呼びかけてきた。結局5回以上、求められるまま
にしてしまった。腰が重い。
「温泉に入ってよかったです。ベトベトのまま眠るのもいいと思ったんですけど、アキ君と一緒のお風呂、気持
 ちいい……」
 お互いに体力を全て吐き出した後、汗とか唾液とかもう大量の分泌液で汚れてしまったまま眠るのは流石に不
潔だろう、と身体を流すためにお湯に浸かっているのだが、彼女は汚れたままでもよかったようだ。気持ち悪く
ないのだろうか。
「少しは深いかもしれないですけど、アキ君と繋がってたしるしだから」
 ちゃぷ、と音を立てて隣へ座っていた彼女がこちらへ向き直る。
「アキ君が私のこと、愛してくれたしるしだから、気持ち悪くないです」
 真面目な顔してこんなことを言う。……のぼせてきたみたいだ。
「ね、アキ君」
 甘ったるい声で呼びかけてきた。今度は一体なんだというのか。
「新婚旅行もここがいいと考えているんですが、どう思いますか?」
 俺はそれに応えず風呂から出た。これ以上相手をしていたら何かすごく不味いことになる気がしたからだ。
2009年10月28日(水) 21:05:32 Modified by amae_girl




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