マクロスFのキャラクター、早乙女アルトとランカ・リーのカップルに萌えた人たちのための二次創作投稿所です。

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パラレルワールド  BYアヤ






朝日に照らされるリー家のキッチンで、お鍋が良い匂いと共に湯気を上げている。
カチャカチャと音を立てる白い食器。
そして私の隣には、グラマラスなお姉さん。
2人では少し狭いキッチンは、私のお城だったけれど。
オズマお兄ちゃんが結婚して、キャシーお姉さんに。
ああ、嫌なんじゃないんだよ?
どちらかと言えば、嬉しく思う。
お兄ちゃんがキッチンに立つのは、パインケーキを焼くときくらいだし。
ママと一緒にキッチンに立てなかったから、お姉さんの隣でお料理するのは楽しい。
朝食はキャシーお姉さんに任せて、私はアツアツのご飯を握る。
ランチボックスには甘い卵焼きと竜鳥の空揚げがスタンバイ済み。
「あら、美味しそうね。アルトさんとデートかしら?」
「ハイ!」
今日はアルトくんとピクニック。
久しぶりにアイ君に会いに行く。
「じゃあ、これも持って行って。」
「??」
差し出された白い包みからは甘い香り。
これは!!
「パインケーキよ。私が焼いたものだけど、良かったら。」
「わあ、ありがとう。キャシーお姉さん!」
甘い香りに頬が緩む。
味の保証はしないけど、なんて言ってたけどマズイわけがない。
ランチボックスと一緒に、いそいそとバスケットに。
「さて、そろそろご飯にしましょうか。」
「あっ、ブレラお兄ちゃん。おはよう。」
のそりと起きてきたお兄ちゃんは低血圧ぎみ。
サイボーグでも低血圧になるのかな?
「・・・おはよう。」
「私はオズマ起こしてくるわ。」
そう言って二人の寝室にお姉さんが消えた後、ブレラお兄ちゃんがぼそりと呟いた。
「・・・2人が部屋から出てくるのに一時間。」
「ああ〜、・・・そうだね。」
新婚の休日の朝なんて、そんなもんかも。
苦笑いしながら2人分の朝食だけ並べて、頂きますと呟いた。
出来るだけ急いで朝食をお腹に収めて、静かに家を出る。
「またアルトか。」
ブツブツと口煩くなりそうなお兄ちゃんを振り切って、私は走り出した。





「アイ君〜!!」
「きゅいっ!!」
車を走らせて鬱蒼と茂る小さな林を抜けると、まだ人間の手が入っていない土地が輝く。
蒼い海と緑の丘。
摺り寄ってくるアイ君は、また少し大きくなった。
成体へと近づいているアイ君は、さすがに街には入れられなくて。
まだ人の手が入っていない保護区で生活している。
なかなか会いに来て上げられないから、時々アイ君が呼ぶんだ。
お腹がキンと光って、ね。
「ランカ!転ぶなよ。」
「は〜い。」
ピクニックシートを敷いて、バスケットを下ろすアルトくんの髪がふわふわと風に揺れる。
もう、あの長い髪はないけど、触り心地が良いんだ。
アルトくんはアイ君に触れる事はしないけど、私とじゃれ合うアイ君を笑って見ている。
本当はアルトくんにも触れて欲しいけど、分かり得たとは言え複雑な気持ちも分かるから、きっとこれが良い距離なんだと思う。
「ん?どうしたの?アイ君。」
「きゅう。きゅい!」
「ええっ!?」
「どうした?ランカ。」
アイ君の言葉に驚いた私に、アルトくんが駆け寄ってくれる。
「あのね・・・。」
その時、直ぐ近くの茂みが不自然に揺れた。
アルトくんと2人で、その茂みをじっと凝視していると。
「きゃあ!」
「ランカ!」
黒い影が幾つも飛び出したと思ったら、その勢いに驚いて仰向けに転がってしまった。
ぎゅっと瞑った目を恐る恐る開くと、見覚えのある緑色が鼻先に。
お腹にも幾つかの重みがあって、今度は勢いよく起き上がったら緑色が転がった。
「「「きゅいいいっ!」」」
小さなアイ君達が文句の声を上げるのを、2人で見下ろした。
「産まれてたんだな。」
「うん。アイ君に言われて吃驚したよ。」
円らな大きな瞳が私達を見上げて、頭を優しく撫でてあげれば、とろんと目を細めた。
「報告・・・しなきゃダメだよね?」
「まあ、なぁ。・・・大丈夫だって。個体調査くらいだろ。」
「うん。」
アルトくんの肩に頭を寄せれば、彼が私の頭を撫でてくれた。
その時、突然お腹が光り出した。
「えっ?フォールド?」
小さなアイ君達を中心に、目も開けられない位の光が包み込んで。
真っ白な視界の中で、アルトくんを手探った。
「アルトくん!」
「ランカ!」
光が納まった後には、ピクニックシートとバスケットだけ。




白昼夢でも見ていたのかと思った。
アルトくんとピクニックなんて、夢だったのかと。
気付いた時には、フロンティアの渋谷地区のメインストリートに一人立っていた。
あわてて胸元にあったサングラスをかける。
街を行き交う人は私がランカ・リーだとは気付かない。
「そうだ、アルトくん。・・どこ?」
街を行き交う人の流れに乗って、一歩を踏み出した。
良く買い物に行く街なのに、どこか違和感。
知らない店があったり、有ったはずの店が無くなっていたり。
街中を彩るホログラムには、シェリルさんはいなくて、私だけが踊っていた。
聞こえてくる歌声も私のもの。
だけど、歌った事のない歌だったり、シェリルさんのナンバーだったり。
一体どうしてしまったのか。
私じゃない私が存在してるみたいな。
何だか怖くなって、アルトくんを探して走り出した。
「ありがとうございました。」
「じゃあ、よろしく頼む。」
聞き馴染んだ声が聞こえた気がして、立ち止まる。
路地を一歩入った所のお店から、店の主人と和装のお客さん。
良く見れば和装のお店らしく、ウインドウに綺麗な着物が輝いてた。
さらりとポニーテールを揺らして、振り返ったお客さんと目が合った。
「・・ランカ?」
「アルトくん!!」
強張った身体が解れて、アルトくんに思いっきり抱きついた。
「ランカ?どうした?」
気遣ってくれる優しい声は、確かにアルトくんのもの。
だけど、私の身体は再び強張ってしまった。
どうして着物姿なの?
どうして短くなったはずの髪が、また長くなってるの?
馴染みのない香りと、抱きついた時の違和感。
「って、ランカ!お前何で此処にいるんだ?」
「何で、って・・・。」
待ち合わせして、ピクニックに出掛けて、アイ君に会って。
「お前、今日はコンサートだって言ってただろ。」
「え?」
休日を一緒に過ごしていたのに、何を言っているんだろう。
『抱きしめて、銀河の果てまで!』
メインストリートにある一番大きな広告塔がLIVE映像を大音響で流している。
「「お前(あなた)誰?」」
映像はアイドル、ランカ・リーのコンサートを華やかに伝えた。





アイ君と会っていた丘には、デュランダルと言うバルキリーが一機。
アルトくん、じゃなくてアルトさんに連れてきてもらった丘は、私が知っているものでは無かった。
「平行世界・・なのか?」
「え?」
「所謂、パラレルワールド。有っても不思議じゃないだろ?」
そう言って薄く笑うアルトさんは、私が知ってるアルトくんじゃない。
容姿はそっくり同じでも、何かが違う。
だから、頷くしか無かった。
「ランカ。お前はあっちの世界で何をしてたんだ?」
「えっ?・・・えっと、アルトくんとピクニック。アイ君に会いに。」
「アイ君?バジュラのか?一緒にいるんじゃ・・。」
「だって、成体になったから家には無理だし。」
「何っ!?」
こっちでは違うんだろうか?
緑の丘はこっちも変わらず綺麗なのに、違う世界なんだ。
帰れるのかな・・・。
少し強いい風に煽られながら不安になっていると、風に乗って聞き馴染んだ声が。
振り向いた先には、会いたかった髪の短い私のアルトくん。
「ちょっと待ちなさいよ!」
その後ろにはシェリルさんがいたけど、私は弾かれた様に走り出した。
「ランカ!」
「アルトくん!」
思いっきり抱きついたら、いつもの香りと温もり。
安心したら、ほろりと涙が零れた。
ぎゅっと抱き締めてくれるアルトくんの背中にしがみ付くと、背後から声が上がった。
「「ちょっと待て(待ちなさい)!」」






「へえ。そんな事もあるのね。」
シェリルさんがぽつりと呟いた。
緑の丘に直に座り込んで、シェリルさんにアルトさん、私とアルトくん。
それぞれの世界について話し合って、ようやく頭の中が纏まった。
色々違う事とか、同じ事とか。
やっぱり違う世界なんだね。
「あるのね。じゃ、ねえよ。ランカとデートって言った瞬間にビンタかましやがって!」
「だって、・・・悪かったわよ。」
アルトくんの横顔を見ればうっすらと赤くなった頬。
こっちの世界のシェリルさんはアルトさんと付き合っているらしい。
ちょっと複雑な気持ち。
「そう言えば、ランカは何で俺がそっちのアルトじゃ無いって分かったんだ?」
「「抱きついた?」」
「だって、心細かったし。でも、抱きついたら何時もの感覚じゃなくて。」
「??」
「私のアルトくんは髪も短くしてるし、腰回りの感触がちょっと足らないって言うか。」
腰に抱きついた腕に、隙間が出来たから。
「ああ、俺はSMSを辞めて歌舞伎に戻ったからな。」
「飛ぶのを止めたのか!?」
「私は植物状態から目覚めたけど、歌はランカちゃんにデュエットしてもらっても一曲が限度だったの。だからプロデュースする側に回ったわ。」
「ええっ!?」
空を望んだアルトさんが、飛ばない。
歌う事が全て、死ぬなら舞台の上で、なんて言ってのけるシェリルさんが歌わない。
「俺はランカを選んだ。だけど、お前はランカを選ばなかった。」
「同じ姿形をしていても、別の人間って事だろ。」
本当に不思議な邂逅。
「それで、帰る方法はあるのか?」
「たぶんフォールドしたんだと思う。」
「だったら、アイ君に会えれば。」
そう言った時だった。
キンッとお腹が暖かくなって、光り出す。
「きゅいいっ。」
アイ君の声が聞こえたと思った時には、丘には長い髪のアルトさんとシェリルさんの前から消えていたんだ。





「ラ・・カ。お・・・きろ。」
「ふえ?」
「ランカ!起きろって。」
「アルトくん!」
がばっと勢いよく起き合上がったら、頭がくらくらした。
「ばか。大丈夫か?」
「ここは?夢?」
目の前にはアイ君と、小さなアイ君達がこちらを見上げていた。
戻ってきたの?それとも夢?
「夢じゃないみたいだぞ。ほら。」
アルトくんの頬は、まだ赤く染まっていた。
夢じゃないんだ。
不思議な体験。
向こうのアルトさんはシェリルさんを選んだ。
向こうの私じゃなくて。
そう思ったら、少し怖くなった。
片思いしていた時ならまだ諦める事も出来たかもしれない。
だけど、恋人として繋いだアルトくんの手を、私は話せるのだろうか。
ううん、絶対に無理。
無理だよ。
「こらっ、ランカ。変な事考えてるだろ。」
「だってぇ。」
落ち込んでた私の額に、デコピンが一発。
地味に痛いよ。
「あっちの事は夢だと思っとけよ。結局、俺達自信じゃないんだから、如何しようも無いだろ?」
「うん。」
「その小さな胸痛めても、誰の為にもならないんだぜ?」
「小さいは余計だよ!アルトくん。」
2人して大きな声で笑った。
「腹減った〜。弁当食おうぜ。」
「うんっ!」
言ったそばからバスケットを漁り始めたのを見て、少し笑った。
あっちの世界の私は、私じゃないんだ。
きっとあっちの世界のランカ・リーの幸せがあるんだよね。
だから、こっちの私はアルトくんと繋いだこの手を離さないように頑張るだけ。
「来年も再来年も、ずっとこうして離さないでね。」


END

このページへのコメント

アルラン大好きな私にはアヤさんの小説が楽しみです。
何時か同じ顔をした人物がそれぞれ存在して互いの情報を共有して戦うマクロスとか出来たら楽しいと思いました。
シェリルも一途ですね。ランカとデートで自分の恋人で無いけどビンタしちゃうなんて…皆が複雑な気持ちかと。
またお邪魔します!

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Posted by 七海 2013年04月18日(木) 20:09:49 返信

アルトが二人居て、シェリルが二人居てある意味物凄い現象ですね。
アイ君が成長して子供居る可愛いですね。
二つのマクロス世界があって片方の世界ではアルトがSMSを脱退し、シェリルがステージから降り(本編でも有り得ないと思いますが。アルト「俺は飛ぶ事を諦めない!」シェリル「私は歌う事が命なの!」って感じで…)
こんなパラレルワールドならフォールドしたいです。ランカちゃん一途ですね。可愛い…抱き着いた感触で恋人が解ってしまうなんて。
アイ君は、赤ちゃんが出来た嬉しさでランカとアルトに少し楽しい世界を提供したかったんですね。

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Posted by 七海 2013年04月18日(木) 19:24:27 返信

あやさんの小説すべて読ませていただきました!世間のマクロス熱がさめていくなか、未だに執筆してくださるあやさんには感謝の言葉もございません!ゆったりペースで構いませんので、これからも投稿よろしくお願いします!!

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Posted by Takami98 2013年04月07日(日) 02:11:03 返信

アヤさんの投稿を見るたびに、まだアルランを想っている同志がいるのだと実感できて嬉しいです。
頑張って下さい

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Posted by アルラン萌 2013年03月28日(木) 09:56:54 返信

お久しぶりです。
コメントありがとうございますm(_ _)m
忙しくてなかなか投稿出来ないんですが、コメントいただけると嬉しいです(^w^)

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Posted by アヤ 2013年03月26日(火) 08:15:11 返信

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