最終更新:ID:ZY4ODbBthA 2012年12月02日(日) 22:32:07履歴
始まりの向こうで2 BYアヤ
「おいっ、ランカ?・・ったく、マジかよ。」
遠くの方でアルトくんの声を聞きながら、一気に夢の世界に旅立ってしまった。
重かったものを吐き出したからかな?
お兄ちゃんにぎゅっとされたような、家族の暖かさとも違う何とも言えない安心感。
アルトくんは優しいね。
優しいから、いつも頼ってしまうの。
それじゃあいけないって、分かってはいるんだよ?
私だってアルトくんの助けになりたいのに、情けないね。
だから、もっと強くなりたい。
誰かに呼ばれた気がして、目が覚めた。
カーテンも閉めずに眠ってしまったからか、日の光が眩しくて。
まだ眠っていたくて、傍にある暖かなものに摺り寄った。
固くて、柔らかい。
ドクンドクンと鳴る心音は、私のモノとは違う。
何だろう?
そう思って目を開いて、私は固まってしまった。
摺り寄ったものは男の人の身体で、抱き枕よろしく私を抱き込む腕。
近すぎるアルトくんの顔と、うっすらと開かれた彼の唇。
瞬間的に熱の集まる顔、というか身体。
なんで?どうして?あれ?
何でこんな状態なのか分からないまま、頭が沸騰しそう。
「ん?ランカは起きたか。」
ギクリとして声の方に顔を向ければ、カナリア先生が覗き込んでいた。
「カ・・カナリア先生!?」
「良く眠っていたな。そろそろ昼だ、こいつも起こすか。」
「えっと、あの。先生?」
起す前に、ここから抜け出したいんですけど。
「早乙女アルト。そろそろ起きろ!」
アルトくんは身体を震わせると、ぱちりと目を覚ました。
交じり合う視線は、固まって。
「うわぁあああ!?」
勢いよく起き上がった反動で、ベッドの下に転がり落ちた。
「アルトくん、大丈夫?」
「〜〜〜っ!?」
急いでベッド端から下を覗きこんだら、丸まって痛みに耐える彼が可愛かった。
あっ、これ内緒ね。
「起こしに来たのが、私で良かったな。オズマやブレラだったら死んでたかも、な。」
さらっと恐ろしい事を言いながら、データ端末をアルトくんの前に差し出した。
「カナリア中尉?」
「早乙女は今日、ランカ・リー護衛と言う名の休暇になった。データに着任のチェック入れて送信しておけ。」
「ういっす。」
ベッドによじ登って、堕ちた時にぶつけた頭を擦りながら、チェックを入れていくアルトくん。
お兄ちゃん、職権乱用も言いトコだよね。
でもちょっと、感謝かな?
自分の髪を撫でつけながらアルトくんの背中を見て、解けかかった髪紐に気付いた。
「アルトくん。髪、結い直そうか?」
「ん〜?ああ、結ったまま眠っちまったからな。・・・・・頼む。」
「は〜い。」
ちょっとの間を置いて、それでも「頼む」って言ってくれたから、髪紐と解いて手櫛で纏め始めた。
こうしてアルトくんの髪を結うのも、二回目だね?
綺麗だった彼の髪が、少し傷んでた。
やっぱり疲れてるのかな?
それなのに来てくれて、嬉しいけど申し訳ない様な。
「お前達・・・。」
「「??」」
呆れた様な生暖かい目で見られて、なんか落ち着かないんだけど。
「否、いい。食事持ってこさせるから、食べたら外の空気でも吸ってこい。」
「ありがとうございます。カナリア先生。」
アルト君から端末を受けとると、病室から出て行った。
看護師さんが持ってきてくれたパンとスープ、それから農業プラントで採れたばかりのジューシーなフルーツ。
こんなところにも復興の兆しが見えてるんだね、なんて話しながらの簡単な昼食の後。
病院の裏庭の芝生にアルトくんと二人で腰を下ろした。
青い空に芝生の緑が眩しくて、輝いて見えて。
どんより曇ってた昨日が、少しクリアになった気がして不思議。
昨日の事、謝らなくちゃ。
「少しはすっきり落ち付いたみたいだな。」
「うん。昨日は、ごめんね。」
「あ?ああ、俺のシャツ掴んだまま寝ちまうんだから、参った。」
記憶に全く無くて、すっごく恥ずかしい。
「えっ?やっ、あの。・・ごめんね?頭痛くない?」
「あれは、忘れてくれ。まあ、久しぶりによく眠れたし、別に・・。」
でも、今謝りたいのはそこじゃなくて。
「昨日、色々・・・。」
「ああ・・・。」
生まれて来なければ良かったなんて、生き残った私が一番言っちゃいけない言葉。
「もう、言わないよ。でも、歌ってもいいのかな?」
「ランカ。」
「皆の心を逆撫でするだけだ、って分かってるよ。でも、私が償っていく方法が歌しか思いつかなくて。」
「お前の歌には、力がある。勿論戦う為のものじゃなくて、皆の心に響く力だ。」
「今迄と同じ様に真摯に向き合っていれば、きっといつか皆に届くさ。お前の気持ち。」
「うん。」
「俺達は、お前がフロンティアを見限ったわけじゃない事ちゃんと分かってる。だから一人で苦しむなよ。」
「やっぱり言葉にしないと伝わらないんだよな。それについては、色々後悔してる。」
「うん、私もそう。あの日、憶えてる?深夜のグリフィスパーク。」
「ああ、よく憶えてる。」
アルトくんとサヨナラしたあの日。
「あの日、もう限界だったの。私の歌をバジュラを殺す為の兵器として使われる事も、バジュラの最期の声を聞くのも。」
愛する人達を守れる力が私に有るのなら、歌おうって思った。
けれど、歌い終わった後に傷むお腹と心。
悩んでも結局、誰かに答えを求めてた。
憶えてるよね?私の部屋までアルトくんを呼び出して相談した事。
私、自分で決めたつもりでアルトくんの言葉に便乗したの。
だからか、な。
罰が当たったんだよね。
親しい友人の、ミシェル君の死を目の前にして、何も出来なかった自分が悔しくて悲しかった。
その直後の作戦でバジュラ達が私の歌で喜んでいるのを分かってて、それでも殺さなければいけない事も悲しかった。
私の歌はもう、想いを届けるものではなくなっちゃった。
皆を守る為だと自分に言い聞かせても、人間もバジュラも私にはどちらも愛しい命。
アイくんが脱皮してバジュラの姿になった時、ようやく自分で決める事ができたんだと思う。
私とアイ君の様に、バジュラ達と意志の疎通が出来るかもしれない。
このまま戦っても人間かバジュラ、どちらかが死に絶えるまでこの戦争はきっと終わらない。
愛しい命が失われていくのを、もう見たくなかった。
だから、世論に反してもいつか皆で笑うために、旅立つ事を決めたの。
「行くなって言ってくれて、すごく嬉しかった。でも、行かなきゃいけなかった。」
「あの時の俺は、バジュラがミシェルを殺した憎い敵だとしか思えなかった。」
悲しかったけど、分かってた。
それに、世論に反した事を説得するなんて、あの時の私には出来なかったし諦めてた。
「あの時、もっとアルトくんと話し合っていたら。何か違ってたのかな・・・・。」
「ランカ。」
「でもね、あの時アルトくんと行かなくて良かったって思ってる。」
「どうして。」
「グレイスさんに捕まって、ブレラお兄ちゃんだから助かったけど、もしアルトくんだったらって思うと、怖くて・・たまらなく・・・なる。」
泣いちゃいけないって思うのに、なんで涙は出てくるんだろ。
アルトくんを困らせるだけなのに。
「ランカ。そんな風に想ってくれて、ありがとな。」
ぎゅっと、その温もりで包んでくれるから、もっと泣きたくなっちゃうんだよ。
分かってるよ。
あの時こうしていたらなんて、結果論でしかない事。
「だけど、あの過去があるから今があるんだ。失ったものも後悔も一杯有るけど、昨日も言った通り出会いを悔やんだりした事は、一度もない。」
「うん。」
「もう後悔するのは嫌だから、ちゃんと話し合おうぜ?愚痴でも何でも聞いてやる。」
「迷惑かけるなんて思うなよ?シェリルも俺も、クランやルカやナナセだって、友達だろ?」
「友達」ってなんて良い言葉なんだろう。
恋してる男の子に言われて悲しいはずなのに、すごく嬉しく思った。
私は一人じゃないんだね。
「勝手に居なくなったりしないでくれよ、な。」
(しあわせ)
空を見上げれば、アイ君が私達の頭上を飛んでいた。
もう可愛いなんて言えない姿だけど、バジュラの仲間より私達人類といる事を望んでくれた可愛いアイ君。
「アイ君!」
「きゅぅ。」
降りてきて、どこかで積んできた花をそっと手に落としてくれた。
「きゅぃっっ!?」
アイ君が小さく叫んだ瞬間、プシッと音がして水滴に襲われた。
「うわっぷ。」
「なっ、何〜??」
プシプシと音立てて放射線状に広がるスプリンクラーの水。
『〜♪ 只今より中庭のスプリンクラーを起動させます。速やかに離れて下さい。 〜♪』
「「遅い(よ)!!」」
もう既に水浸しだよ。
ああ、思い出すなぁ。
「初めて会った時みたいだな。」
「今度はアルトくんも濡れてるけどね?」
「「・・・っぷ。あははははは!」」
思い出って辛い事だけじゃないね。
ガリア4でアルトくんのバルキリーで歌った事、笑い合った事。
戦ってるアルトくんも、普段のしかめっ面のアルトくんも恰好良いよ。
だけど、こうして年相応の男の子として笑ってるアルトくんが一番好き。
これからも、出来れば一緒に笑って居て欲しい。
アイ君が空で踊って、笑い声が弾けて、願った未来がここにある。
私、もっと強くなるよ。
前のようにはいかなくても、誰かの心に届くなら歌い続ける。
やっぱりそれが、私に出来る償いだから。
「こら〜!病院で水浸しになって何やってるの!!」
「やばっ!ランカ、俺の背中に負ぶされ。走るぞ。」
「うっ、うん!」
アルトくんの背中は広くて暖かいね。
恋なんて言っていられなかったけれど、やっぱり好きだよ。
私がもう少しだけ大人に近づいて、アルトくんにも頼って貰える女になれたら。
この想い届けたい。
だから・・・もう一度好きになっても良いですか?
続く
このページへのコメント
続き見ましたドキドキします(●^o^●)ホントにアヤさんの小説は癒されます!
さっそくのコメントありがとうございますm(_ _)m書いている内に支離滅裂になってる気もしますが、楽しんで頂けたのなら良かったです(^◇^)┛
さすがアヤさん
3日で続編とは…
ということは、自分のテストが終わった頃に3話目が…
これは期待しまくりですね
初めまして!
いつも楽しみにしてお待ちしています!!!!
私は文章力がないのでアヤさんの書かれるアルラン小説、本当に面白いです!
次回も楽しみにしてます!!!!
ありがとうございます(*≧∀≦*)