最終更新:ID:ZY4ODbBthA 2012年12月19日(水) 22:43:21履歴
始まりの向こうで4 BYアヤ
微かに響いた、リップ音。
見上げたアルトくんの横顔に重なる、シェリルさんの顔。
正直、胸が苦しいよ。
お似合いだなんて、思ってしまう自分が悔しい。
やっぱり、羨ましいな。
躊躇いなくアルトくんにキス出来てしまう、シェリルさんが。
シェリルさんが真剣な気持ちで、アルトくんを想っているのを知っているから。
何事も無かったかの様にアルトくんに握られた手に、心臓が跳ね上がる。
私だってシェリルさんに負けない位、アルトくんが好き。
だから、繋がった手が熱くて、顔も熱くて。
どきどきと高鳴る心臓が、飛び出しそうにだってなるの。
でも、アルトくんは優しいから、優し過ぎるから分からないよ。
アルトくんは私の事、どう思ってる?
すぐ傍で笑ってくれるけど、ただの友達?
いつも守ってくれるけど、恋してるのはシェリルさんなの?
分からないよ。
好きなんて言ったら、困らせちゃうのかな?
アルトくんに背中向けられるのは、とっても怖い。
だから、一歩が踏み出せない。
「うわぁ・・・!」
「・・・キレイ!」
ガラスに額を擦り付けるかの様に、外の世界を眺めて。
ピンクブロンドと、私の翡翠色の髪がふわりと浮かぶ。
久しぶりに宇宙から見た、私達の惑星。
宝石の様に輝く、水の惑星。
その周りを取り巻く、フォールドクォーツの紫のリング。
この惑星で、私達は確かな未来を手にしたんだ。
「もう少しで、到着します。シートベルトを締めて下さい。」
指示に従って、自分のシートベルトを確認すると、船内のスクリーンに目をやった。
月の様な衛星の軌道上に建設された、スペースコロニー。
マクロス級の宇宙戦艦を直接惑星に降ろせないから、中継地点として、そして航行中の船の物資補給所として作られた施設。
私とシェリルさんは、その完成式典にゲストで呼ばれたの。
ついこの間まで、この宇宙を旅してたはずなのに、久しぶりのこの世界に胸が高なる。
明日、この場所でシェリルさんと歌う。
文字通り、この銀河に私達の歌が響くんだ。
シェリルさんと一緒になって、私は宇宙船の窓にへばりついてた。
「・・・ランカ・リー・・・・よく・・・来れたわ・・・・。」
私達だけじゃない。
式典に呼ばれた関係者の人達が乗った宇宙船。
少なからず、私を良く思って無い人もいるのが当然で。
ひそひそと囁かれる事に慣れはしたけど、何とも思わないわけじゃない。
「・・・・・。」
「ランカちゃん、気にしないの。」
「はい。大丈夫です。」
気にはなるけど、ちゃんと受け止めていける様になったと思う。
それは、アルトくんやシェリルさんが傍にいて、勇気づけてくれるから。
一人ぼっちなんかじゃ無いから。
「あんた達は、砲弾飛び交う中歌うことが出来るっていうの!一人の女の子に押しつけといて、よく文句言えたもんね。」
戦争直後に二人で興した、チャリティコンサート。
そこでシェリルさんが言い放った言葉。
歌手として、芸能人として言ってはいけないのに、シェリルさんはキッパリ口にした。
迷惑かけてしまって申し訳ないと思いながら、すごく嬉しく思った。
「ようこそ、コロニー1へ。」
新大統領とLAI等の技術者に迎えられながら、報道陣のフラッシュに笑顔を向ける。
視線をこちらに、あちらにとの求めに応えつつ、報道陣の奥にいる人に目を向けた。
SMSのお馴染みのメンバー。
クランちゃんにボビーさん、ルカくんにブレラお兄ちゃん。
そして、アルトくん。
目が合えば、手を振ってくれて、嬉しくなる。
マクロスクォーターも着艦しているのが遠くに見えた。
月と一緒に、私達の惑星を周る。
不思議な感じ。
だけど、SMSオペレーターの制服に身を包んだ女の人が、アルトくんに走り寄って、彼の腕に抱きついたのを見てしまった。
一瞬、思考がストップしてっしまったけれど、今は仕事中。
アイドルとして、笑顔は必須。
考えないようにして、報道人の求めに応じていった。
「嫌な感じ。」
ぽそりと呟いたシェリルさんに、心の中で同意しながら。
記念式典のリハーサルと、私達の舞台のチェックでこの日は終了。
コロニーの中の宿泊エリアで一泊する事になった。
私の名前を、ひとつあげる。
大切にしていたの。
あなたの言葉を一つ下さい。
サヨナラじゃなくて。
こうして、星々の中に居ると、あの日を思い出す。
グリフィスパークでアルトくんに、さよならを告げた夜。
ブレラお兄ちゃんのバルキリーに乗って、もう一度さよならを口にした。
本当は、アルトくんと行きたかった。
アルトくんと、いたかった。
だけど、もうこれ以上大切な人を、失うわけにはいかなかった。
道は分かれてしまっても、アルトくんを守りたかった。
バジュラと人間、そのどちらをも守るのなら、行くしかない。
そう心に決めた。
光は粒、そして波。
貴方は鳥、そして宇宙。
ずっと傍に居た、微笑めば繋がった。
全てがひとつに調和してた、あの日。
ずっと傍に居たかった、どんなに声に託しても。
貴方まで届かない。
蒼い、蒼い、蒼い旅路。
傍に居て、一緒に笑ってくれた、私の特別になった彼。
今は、あの日願った未来で、また一緒に笑ってくれている。
それが、すごく嬉しくて、私の力になる。
あの過去も、もう忘れる事なく、私の胸に。
「ランカ?」
良く知った声に振り返ったら、アルトくんがいた。
どうして、会いたいなと思った時に、会えるんだろう。
「どうしたの?」
「どうした?じゃ、ねえだろ。こんな時間に歌ってるし。」
「こんな時間?」
時計を見れば、かなり遅い時間になってて吃驚した。
「やだ、もうこんな時間なんだ。」
「ったく。眠れないのか?」
そう呆れながらも、私の隣に立ったアルトくん。
コロニー1のメインエントランス。
その大きなガラスには、変わらず星々が煌めいて、二人で眺めた。
「ううん。ちょっと感傷的になってただけ。」
もう一度共に笑えるこの時に、感謝していただけ。
「だけど、あの歌。」
「聞いてたの?・・・あの時の気持ちを歌にしたの。」
サヨナラを告げただけじゃなくて、グレイスさんに捕まって、自由の効かなくなった自分自身の奥底で、アルトくんからもっと遠ざかってしまうことに、恐怖してた。
「私は、もう誰も死んでほしくないって思ってたのに。」
実際は・・・。
「だけど、お前の歌。お前の想いは間違って無かったよな。」
「?どういう事?」
「戦いをやめろ、武器を捨てろ、って。」
ただ一つ、思った事。
もう、これ以上、傷つけさせない。
「お前の考えてる事、ちゃんと歌に出るよな?馬鹿正直というか、何というか。」
「えぇ〜〜!?・・う〜ん、あの厳ついお兄ちゃんに育てられたのに、ね?」
「って、そんな事言って良いのか〜?」
意地悪そうな顔して、笑うから。
「あっ、お兄ちゃんには言わないで!」
思わず、アルトくんの腕に抱きついて、密着。
やっちゃった、振り払われちゃうかな?
ドキドキしながら視線を合わせれば、それぞれの瞳に赤く染まった顔が映っていて。
「「あははははっ!」」
照れ隠しに、二人して笑った。
「そういえば、SMSのオペレーターの制服着た、知らない女の人いたね?」
アルトくんの腕に抱きついた、女の人。
シェリルさんが言う、「嫌な感じ。」な人。
私だって面白くないから、同意するけど。
「ああ。表の仕事から移ってきたらしい。」
「運送業から?そんな事、出来るの?」
マクロス船のオペレーターなんて、一般の事務業の人が出来る仕事じゃないハズ。
「資格もあって、能力も高いらしい。美星の卒業生、なんだと。」
卒業生・・・、年上の人。
「良いね?あんな美人さんに腕くんで貰えて、モテモテで!」
「はあ?違うって。あれは、勝手に寄ってくるだけで。」
「本当に?」
「断じて違う!」
アルトくんが顔を背けてしまうから、怒らせちゃったかなって焦るけど。
耳が赤く染まってるから。
「何で赤くなってるの?やっぱり・・・。」
「お前が、抱きついてるからだろ。」
その言葉に、ドキドキと胸が高鳴る。
ねえ、ちょっと期待しちゃうよ?
あの女の人に、盗られたくないな。
シェリルさんだったら、まだ・・・。
ううん。シェリルさんでも、嫌だ。
私の事、好きだって言って欲しい。
だったら、言わなきゃ。
伝えなくっちゃ、始まらないよね。
「あ・・あのね、アルトくん。」
決心して口を開いた時。
急にコロニー1中を、警報がけたたましく響いた。
「何?」
「何だ?」
その時、アルトくんの携帯も鳴り響いて。
「出動要請?」
何が起こってるんだろう。
SMSに出動要請が出るって事は、たぶん緊急事態。
「アルトくん、早く行って!」
「だけど、ランカは。」
「私はシェリルさんといるから、早く!」
「ああ、ちゃんと非難しろよ。」
アルト君が、長い髪を振りながら遠ざかって行くのを見て、私も反対側へ向かって走り出した。
だけど、ちょっと待って。
立ち止まって、彼が走って行った方に振り返った。
もしかしたら、もう、会えないかもしれない。
死なないなんて保障、どこにも無い。
アルトくんも、私も。
せっかく皆が笑って居られるようになったのに。
それにまだ、何も言ってない。
アルトくんが大切だって、大好きだって。
今言わなくちゃ、きっと後悔する。
だから。
震える足に力を入れて、マクロスクォーターに向かって一歩、踏み出した。
続く
このページへのコメント
おはようございます。やっぱりアルト君はランカちゃんを一人にして置けないって気持ちが伝わりました。加えてランカちゃんも、
シェリルさんなら友達だし、三人で楽しくしていられるけど……知らない人にだけは絶対に負けて欲しく無いですね。
シェリルも良い気持ちしないだろうし。ランカとなら友人だしどんな結果でも三人仲良くしていられるけど見ず知らずの女とアルトは嫌でしょうね。
次回で最終話ですか😭
出来れば、新未来みたいにある程度繋げてほしいですね。
アト、zionさん支部のほうの画像貰いましたよ。
アルラン漫画のランカの描き方大好きなんですよ。
いつもコメントありがとうございます(^O^)
なかなか纏まらない感じですが、次回で最終話といいますか、区切りにしたいと思ってます。今年中に書き上げられたらとは思ってます。来年もちょこちょこ投稿したいので良かったらまたコメント頂けると嬉しいです(^◇^)┛
ZIONさんのイラストも支部の方で拝見しました。本当に素敵です(^w^)
いつもありがとうございますアヤさん!小説書けるのがうらやましいです(^v^)
画像ですか?どうぞどうぞ使ってください、ホントはここに(支部にある4コマ)とかもアップしたいのですが今度挑戦しようかな、再度(ToT)/~~~
流石アヤさん
劇場版も入れてますね。
このあとのランカの行動にアルトがどう対応するか楽しみです。
アト、zionさん画像拝借してもいいですか?
zionさんのランカの絵大好きなんです。