最終更新:ID:ua4BptOMXw 2012年01月07日(土) 17:06:36履歴
小話「愛しい人2」 BYアヤ
「人殺し。」
そう言われた事に、今更ながらに動揺した。
俺は飛ぶ事を選び、バルキリーと言う名の兵器を手にした。
そして、汚れの無い手のまま生きる人生を自ら手放した。
両手を赤く染めて、命を奪う。
今までだって、バジュラであったり人であったり。
命のやり取りはしてきた。
今になって何故こんなに動揺するんだろう。
目の前には、星々の海が広がる。
背後には、人類が手に入れた蒼い惑星。
その中で、青白い光の尾を引きながら敵機を追った。
なるほど、久々の実践であろうとも身体が全て憶えている。
デブリや隕石の海を掻い潜って、上になり下になり。
その間にもファイター・ガウォーク・バトロイドと機体を変形させながら、ミサイルを敵機に向かって放つ。
爆音と振動、銃弾の嵐。
訓練では無く、実践なのだ。
フロンティア新統合軍からのオーダーが入り、コールがSMSに鳴り響いてからまだ一時間も経たない。
恋人であるランカに出動の旨を簡単にメールは送ってある。
スーパーパックを搭載した機体に乗り込み、宇宙へ愛機を飛ばした。
「お前だって、奪って生きてんだろうが!」
「違う!」
回線を開き、説得しながら敵機を追う。
軍からのオーダーは、宇宙海賊の捕縛・排除。
肝心の敵船は、航行能力に問題有りで投降しに来たようなもんだった。
一部を除いて。
残った全ての燃料と弾薬を奪って、俺達に牙を剥いた。
「否、違わねぇ。その新型機で命のやり取り、してるじゃねえか。」
「俺達は守る為に戦っている。」
「ハッ。お前だって戦争屋だろうが。あぁ??俺達と何が違う?同じ「人殺し」だ。」
「そんな事知っているさ。だが、お前達みたいに無闇に奪ったりはしない!」
「何故、平穏に生きる事を望まないんだ!」
戦争を生き残った人間なら、平穏である事の幸せを知っている。
平和を築くのに必死になっている今、何故乱す。
「奪うことでしか生きられん人種なんだよ、っと。」
密集する隕石の島に突入して、敵機が姿を隠す。
「何故だ!人類は異種間でさえ分かり合えてきただろ。」
「ナゼナゼ五月蝿い男だな。この世の中、お前のように恵まれた人間だけじゃないんだぜ。」
俺はバルキリーをバトロイドに変形させると、流れ動く隕石と共に敵機の背後に回る。
お互いの姿を確認できた瞬間、ほぼ同時にトリガーを引いた。
「ちっ!弾切れか。」
俺が放った銃弾は、的確に敵機のコクピットを抉った。
コクピットのショート音と共に聞こえた男の声。
「精々俺のような最後は迎えんな。」
その一言を残して、爆炎と共に消えた。
「ひどい顔だな、アルト。」
「ミシェル、か。」
鉛のように重い身体を引きずって、シャワーから上がれば壁に寄りかかっている親友の姿。
「どうした?・・・怖くなった、か?」
「俺はパイロットだ。守る為ならトリガーも引く。」
「なら迷うなよ。ああいう男も居るって事だけ記憶に留めて忘れちまえ。」
「お前は物分りが良いんだな。」
「アルト!お前、喧嘩売ってるのか?」
俺の胸倉を掴んで顔を付き合わせたままの眼光は鋭く光る。
「誰だって普通の人間なら怖くもなれば、逃げ出したくもなるさ。俺だって、な。」
「だが、俺達はバルキリーを選んだだろ。覚悟しただろうが。持てる力を使って守る事を!「命」を奪ってもな。」
「その命が重い。・・・今更だな。」
「お前は優しすぎる。戦争屋には向いてないな。・・・今更、か。」
深いため息が、室内に流れた。
「ほれ。」
「??」
ミシェルが、不意に手を出してきた。
「報告書出しといてやる。早く帰って、ランカちゃんに慰めてもらえ。」
「会えるわけないだろっ。」
「女は最高の慰めって言うだろ!戦う理由ってやつ再認識してこい。」
さっさと言ってこいと背中を思いっきり蹴られた。
「行ったか、ミシェル?」
「はい。オズマ隊長。」
アルトが去った後、オズマが姿を現した。
「戦争が終わって八年。危機は去ったとは言え、本当に恐ろしいのは人間だからな。」
たとえ異種間での和解が出来ようとも、運が良かったと言えなくもない。
本当に恐ろしいのは、権力や金に目の眩んだ愚か者。
人間同士で殺し合うなど、愚の骨頂。
しかし人間が人間である以上、争いは無くならないかもしれないのが悲しい現実。
「後味悪いのは、勘弁ですがね。」
「飛行機乗りなら誰でも通る道だ。」
「良かったんですか?ランカちゃん。」
「もう大人だ。二人で何とかしていくさ。何時までも過保護ではいられんからな。」
オズマも、ようやく妹離れが出来たらしい。
「シスコ・・・ゴフンッ。隊長の言葉とは思えませんね。」
「泣かせたら反応弾で消すだけだ。」
「はは・・・。(前言撤回)。」
俺は、ランカの膝枕の上でやっと力を抜いた。
情けなくも彼女の前で震えるという醜態。
あの、男の言葉がグルグルと廻る。
テレビ局でランカを待ちながら、そこで働く人達を見ていた。
忙しそうに足早に駆けていくスタッフ達。
何気ない普通の風景。
俺がなんておこがましいが、この日常を守れたのだと。
俺は正しいのだと思えるのに、腹の中は鉛が詰まったように重い。
「皆の事も、私の事も守ってくれてるよ?・・・ありがとう、アルトくん。」
最高の慰め、か。
確かにそうだな。
ランカの言葉一つで、体温でこんなにも抱えたモノが軽くなる。
このまま、もっと彼女を感じてみたい。
そんな衝動も起こるが、寝たふりでやり過ごす。
気を静めるためだけに抱くなんて事はしたくない。
俺から離れたランカの動く空気や音だけで、安心できるんだからそれで良い。
なのに、どういう事だ?
頬に落ちた水滴に目を開けて、そのままフリーズ。
ランカ、無防備すぎるにも程があるだろう。
風呂上りの濡れ髪はそのまま。
下着が見えそうな丈の短いワンピース。
我慢していた俺の努力は?
俺だって健康な男なんだぞ!
そう言ってやったら、顔を赤くして俯いた。
ワンピースの裾を引っ張りながら。
・・・限界だった。
俯くランカの顎に手をかけて、上向かせる。
唇を重ねて、離れては何度も触れた。
逃げる舌を絡めて、吸い上げて熱くなる。
キスを繰り返しながら体重をかけて、押し倒した。
「泊まっていっても良いか?」
頬を染めながら、目を見開いて。
可愛い下着云々と呟くから自然と口角が上がった。
二人でランカの寝室に入った後は・・・まあ、秘め事ってやつだ。
ミシェルにだけは絶対に言うまい。
只ランカがうわ言の様に耳元で、何度も俺の名を呼ぶから。
止まらなくなった。
優しくと思っていたのは最初だけで、理性なんて簡単にぶっ飛んでいった。
絡み合って、食い尽くして。
男になったとか、そんな事は分かりゃしない。
この腕の中のランカが、俺が飛ぶ理由の第一項目にいるって事。
それだけ実感出来れば、それで良い。
翌日ランカが動けるようになったのは、午後になってから。
「アルトくんの、バカバカバカバカ〜。」
散々バカ呼ばわりされても、彼女の世話を焼く俺は上機嫌だった。
END
このページへのコメント
こんばんは。
紫陽花です。
アルト視点で愛しい人が読めるなんて嬉しいです!!感謝感激です!
狸寝入りしていたとは、驚きです(゚o゚)てっきり寝ていたと思っていました(笑)アルト、ランカちゃんにノックアウトされましたね(笑)しかも食べ過ぎてしまうし!ランカちゃんも大変でしょうね(^_^;)愛され尽くされたわけですから(笑)
これで、同棲に発展していくのですね。
こんな小説が読めて、嬉しいです!
ありがとうございます!
最近マクロスフロンティアを見て、アルトとランカにハマリここにたどり着きました。
仕事の疲れを小説を読んで癒しておりましたが、愛し人を通しで読んで、思わず頬が緩みます。
疲れが癒されました。ありがとうございます!
これからも新作楽しみにしてます。