アルラン二次創作投稿所

小話「幸せ日和」　ＢＹアヤ





突然の痛みは、喜びの痛み。
慈しんできた赤ちゃんが、この世界に産まれてくる為にお腹をノックしたんだ。
それは本当に突然。
予定日にはまだ早かったけれど、お腹から腰回りが張っていた。
予感はしていたものの、まだまだと安心してた。
何の前触れもなく、激しい痛みに襲われて。
座り込んだ私を見付けたのは、お義父さん。
「矢三郎！車を呼べ。」
奥から出てきたお義兄さんは、目を見開いて。
でも、瞬時に踵を返して車を呼んでくれた。
痛みの波の合間に、用意していた荷物と共にお義父さんに付き添われて病院入り。
分娩室に入るまで、腰を擦り水分を摂らせてくれた。
ただ静かに傍にいて、力強く手を握っていてくれた。
さあ、生まれておいで。
この世界は、温かで素晴らしい世界だよ。




アルトくんが長い訓練から帰ってきた。
帰艦の日は、ＳＭＳの格納庫まで無理行って入れて貰った。
機体から降りてくるなり帰艦の報告もそこそこに、強く抱き締められて。
感じていた寂しさが、すっと霧散していくのを感じた。
この頃には、ほとんど悪阻も無くなりお腹が膨らみ始めて。
「アルトくん。くすぐったいよ〜。」
「良いからじっとしていろ、って。」
その目立ってきたお腹に触るのが、アルトくんの最近のお気に入り。
ゆっくり寛ぐ時には、アルトくんの足の間に座って背中を預ける。
日に日にお腹が大きくなって、時々蹴ってくる感触が楽しいらしい。
付き合い始めた時も思ったけど。
普段「日本男児」の理想型っていうのが彼の中にあって。
学生の頃は硬派だなと思っていたし、べたべたした関係は好まないと思っていた。
けれど二人でいる時はずっと傍にいて、こうして触れ合う時間が増えていって。
「赤ちゃん出来ると、夫が変わるって聞くけど。うん、実感中。」
「・・・ナンダヨ。」
まあ、本人も内心は驚いているみたいだけど。
私は、アルトくんとじゃれ合うのが好き。
でも赤ちゃんが生まれてきたら、こんな時間も減っちゃうかな〜なんて。
リビングの隅に積みあがった品々を見て、ちょっとだけ思う。
お義父さんとお義兄さんからプレゼントされた、ベビーベッド。
キャシーさんとクランちゃんから貰った、お古の産着や洋服達。
大体の物が用意出来てしまって、何だか申し訳無いくらい。
それでも自分で選んだ物も揃えたくて、アルトくんの休日に二人で出掛けた。




「アルトくんって、マメだよね。」
「あ？」
手にしていたベビー服から顔を上げて、アルトくんは怪訝な顔をした。
此処は、歩いて来られるショッピングモールの子供服のお店。
家からの短い散歩コースも、手は必ず繋ぐ。
「ほら、段差。」
小さな段差であっても、注意を払って。
買い物中も傍から離れない。
よく見かけるのは、奥さんが買い物中、旦那さんはベンチで休憩っていう姿。
だけどアルトくんは、熱心にベビー服を眺めてる。
きっと、ちょっぴり恥ずかしく思ってるんだろうな。
よく見たら、そわそわと落ち着いて無い感じ。
それにしても、過保護過ぎない？
「お前はほっとくと何も無い所で転ぶだろ。」
「え〜。そんなこと無いよ・・・あれっ？」
「って、言ってるそばから！」
お店の棚の足に躓いて、身体が傾いた。
すかさず私の両脇に手を入れて、すっと支えてくれた。
「ったく。」
「ごめ〜ん。」
さすがに恥ずかしくって、眉は八の字、頬には熱が集まる。
仕事中は大丈夫なのに、アルトくんと二人の時はよくドジしちゃう。
気が緩んじゃうんだよね。
お母さんになるんだから、しっかりしなくちゃ。
「お客様。大丈夫ですか？」
「はい、大丈夫です。すみません、お騒がせしました。」
心配してくれた店員さんが、駆け寄ってくれた。
それに笑顔で答える。
何も無かったかの様に。
まさに営業スマイル。
「何かあったら声かけて下さいね。」
そう言って、店員さんは笑顔で離れていった。
「さすが芸能人。そうやってると、普段のお前と違うよなぁ。」
「ある意味、職業病？」
「あはは。そうかも、な。・・・まあ、転びそうになっても俺が助けてやるから安心しとけ。」
「うん。」
ぽんぽんと頭を撫でられて、嬉しくなる。
アルトくんといると、本当に安心してしまうから不思議だね。
それから色がどうこう、サイズがどうだとか話し合って。
男の子でも女の子でも良いように、黄色い服とお揃いの帽子を選んだ。
「それにしても、小さいよな。」
選んだ服を見ながら、ぽつりとアルトくんが言った。
赤ちゃんは、お母さんとお父さんだけが頼りなんだもんね。
「頑張ろうね、お父さん？」
「ああ、お母さん？」
二人で笑いながら、選んだ服を持ってレジに向かった。




出産時にトラブルはあったものの、その後は母子共に健やか。
あの日買った黄色いベビー服を着て、今日も色んな物に反応してる。
目が開いて、私やアルトくんに。
生活の中で、色んな色や人に反応して笑顔が増えていく。
「ほら。鯉だぞ〜。」
早乙女家の実家の庭で、アルトくんがユウを抱いて散歩中。
池を覗き込みながら、ユウにしゃべりかける。
今日も息子にデレデレだ。
今日も我が家は、穏やかです。


ＥＮＤ