最終更新:ID:OEkLdL7q+w 2012年06月28日(木) 21:24:09履歴
小話「初夏」 BYアヤ
遺伝子という形で持ち込まれた桜が、大きな枝に花を開き散って2か月。
緑が生い茂り、日差しが日に日に強くなってきている今日この頃。
バジュラ本星は、地球に近い気候で、春夏秋冬がはっきりと感じられる。
春が終わりを告げれば、夏がやってくるわけで。
この季節の変わり目による体調不良を起こす人がいる中で、早乙女家は皆元気である。
が、初夏と言えどもこの暑さにはまいっている。
「ただいま。」
仕事での疲れプラス暑さで重くなった身体を玄関に滑り込ませれば、エアーコンディショナーの吐き出す冷気が、ほっと息をつかせる。
「アルトくん。おかえりなさい。」
黄色い半袖のフード付きTシャツにショートパンツというラフなスタイルで、いつもの様にランカが出迎えてくれた。
「うわっ。汗びっしょりだね。」
「流石に今日は暑かったからな。」
仕事でかいた汗をSMSのシャワールームでさっぱりと流してきても良かったが、この暑さでは家に帰り着くまでにまた汗まみれになる事が分かりきっていた為、そのまま直帰。
汗でへばりつくTシャツやアーミーパンツが不快だった。
「お風呂に入っておいでよ。お湯溜まってるから。」
「ん。そうする。・・・そういやチビ達は?」
「リビングでお昼寝中。」
バスルームに向かう途中で、ひょいとリビングを覗いた。
タオルケットの下ですよすよと眠る、ユウとミユキ・・・なんだが。
「ランカ?何で2人共、上半身裸なんだ?」
ランカは苦笑いしていた。
「コラッ。二人とも掻いちゃダメ!」
空調の効いた部屋で、二人のおチビさん達は上半身裸。
その背中やお腹には赤い湿疹が出来ていた。
いわゆる「あせも」である。
酷く痒いのかお腹をボリボリと掻いてしまっている。
「ママ〜。かゆい。」
「かゆいの〜。」
「薬塗ってあげるから、ちょっとガマンだよ。」
なんとか宥め賺して、ぺたぺたと薬を塗りつつ、フーフーと息を吹きかけるのだった。
子供達の体に赤い湿疹が出来たのは、数日前。
まだ初夏でというのに、急に暑くなった。
それでも子供達は、お構い無しに遊び回って。
ユウは実家で、歌舞伎のお稽古もして。
汗まみれで帰って来るようになって、すぐにお風呂に入れたりしたんだけど、追い付かなかったみたい。
常備薬のクリームで凌げるかと思ったけど、赤い湿疹が広がり始めてしまった。
酷く痒がるから、急いで病院で薬を貰ってきた。
即効性のある薬らしく、塗った後すぐに痒がらなくなって、そのまま二人はお昼寝タイムに突入してしまったのだった。
「「あせも」なんて、俺達なったか?」
風呂上りに冷えたミネラルウォーターを喉に流し込みながら、眠るチビ達の隣に胡坐を掻いた。
「マクロスフロンティアは、一定の気候に保たれていたからね〜。この惑星に降り立ってから皮膚炎になる人急増したって。」
環境が変われば、当たり前か。
「ほら、アルトくんも背中見せて?」
「ん〜?俺は大丈夫だぞ。」
「じゃあ、何で背中掻いてるの?」
無意識だった。
言われて、背中を掻いてる事に気付いた。
この惑星の環境に馴染み始めて数年の俺と、子供達は一緒らしい。
「昨日ちょっと背中赤くなってたからね〜。ほら。」
そう言われて、ランカに背中を向けた。
「あ〜。やっぱりちょっとあせも出来てるよ。」
着ていたタンクトップを捲られて、ヒヤッと冷たい感触に背中が震えた。
掻き毟る様な痒さではなかったものの、薬の成分が気持ち良く、ランカの背中に触れる指先がくすぐったかった。
「スースーするから痒みも感じなくなってくるでしょ。ユウもミユキも痒がって大変だったんだから。」
この薬で治まってくれると良いんだけどね。
そう言ってランカは、ユウとミユキの少し額に張り付いた前髪を梳かしながら、頭を撫でていた。
痒がる二人に薬を塗りながら、掻き毟らない様に玩具や本に意識を向けさせたり、大変だった様だ。
さっぱりした気分で二人の寝息を聞いていると、ゆるゆると眠気がやってきて。
二人の隣にごろりと寝ころんだ。
「アルトくんもお昼寝?」
「・・・少しだけ。」
「うん。ご飯出来たら起すからね。」
くすくすと笑いながら離れていくランカを感じながら、夢の世界に意識を飛ばした。
数日後、早乙女家のリビングには一枚の写真が増えていた。
上半身裸で眠るユウとミユキ。
その隣で眠る俺の写真。
初夏の一コマは、遊びに来たシェリルの笑いのタネとなったのだった。
END
コメントをかく