最終更新:ID:ua4BptOMXw 2012年02月04日(土) 17:46:08履歴
小話「新しい生命」 BYアヤ
困っています。
ちょっとだけ。
ううん、大分困っています。
結婚式の後、記者会見で結婚の報告をしたの。
一緒に出ても良い、ってアルトくんは言ってくれたけれど。
アルトくんの今後の仕事に、影響が出てしまうのは嫌だったから。
私一人で、名前も伏せて「一般の方」とだけ。
少しの間、仕事の先々で記者さんに追いかけられた。
雑誌やテレビで大きく取り上げられていたけれど、祝福の声は正直嬉しい。
ファンの皆にも概ね受け入れて貰えて、それは困っていない。
新婚生活自体は、一緒に住んでたからあまり変化はないけれど。
例えば病院だったり役所だったり。
「早乙女さん。」って呼ばれるのは、何となく恥ずかしいような。
でも、アルトくんの奥さんになれたんだって実感できるから。
凄くうれしいんだ。
だから、それも困っていない。
最近の二人の休みの過ごし方は、ゆっくりまったり。
家でダウンロードした映画を見たり、公園で散歩したり。
公園を散歩してるとね、小さな子供や赤ちゃんをよく見るの。
可愛いよね。
お兄ちゃんのとこのチビ達や、ミシェルくんとこのジェシカちゃん。
物足りないわけじゃないし、アルトくんがいれば満たされてる。
だけど、私だって女だから赤ちゃん欲しいなって思う。
だから、ついポロッと言っちゃったんだよね。
「私も赤ちゃん、欲しいな。」
「ふ〜ん。・・じゃあ、頑張ってみますか。」
「へっ?ちょっ・・アルトくん?!」
問答無用で寝室に連れ込まれて、次の日から朝食を上機嫌なアルトくんが作ってる。
何であんなに元気なんだろ。
私は腰が痛くて、まだベッドの中。
身が持ちません。
困ったよ〜。
「お前、なんか熱くないか?」
寝る前のゆっくりした時間。
アルトくんの足の間に座って、彼の胸に背中を預ける。
少しだけホットミルクを飲みながら、腰に回っているアルトくんの腕をふにふにと弄る。
「熱い?」
「ちょっとだけ、な。風邪でもひいたか?」
言われて気付いたけど、ちょっとだけ熱っぽいのかな。
「う〜ん?食欲はあるし、特に何ともないよ。」
「あぁ〜。・・・疲れぎみ、か?」
見上げたアルトくんは、バツが悪そうな顔。
「ふふっ。大丈夫だよ。」
「お前の大丈夫は、当てにならないって。今日は、早く寝るか。」
「うん。」
アルトくんと一緒にシーツの海に溺れるのも嫌いじゃない。
ううん。凄く幸せ。
だけどぎゅって抱きしめられて、眠るだけなのも幸せなんだよ。
色鮮やかなライトの中、歌い手の歌が響く。
新人らしく、可愛らしい衣装のフリルが閃いていた。
「あら、この子可愛いわね。」
「先月デビューしたばかりみたいですよ。シェリルさん。」
某テレビ局のスタジオで、歌番組の収録が行われていた。
私とシェリルさんは、まだ出番待ち。
待機スペースに置かれたモニターを見ながら、ひそひそと談笑していた。
「ふ〜ん。それより、どう?アルトと仲良くやってるの?」
「はい。問題なく。・・・たぶん。」
「ふふっ。その様子じゃ離してくれないんでしょ?アルトが。」
「何で分るんですか?」
「経験者は語るのよ!」
シェリルさんは、にっと笑ってウィンク一つ。
「新婚って、自分も浮かれてる自覚あるわよ。でも、彼の方も十分浮かれてるのよね。」
「そうなんですよね〜。」
なんて話してたら、出番が来たみたい。
「ランカさん。出番ですよ。」
「はい。ありがとう、ナナちゃん。」
「頑張って!」
「はい!」
シェリルさんに手を振って、私はステージに上がった。
「よろしくお願いします。」
イントロが流れてきて、身体が揺れる。
自然と歌が喉を振るわせる。
この瞬間が好き。
歌う度に、歌が大好きだって実感する。
だけど、何か変。
途中からふわふわして、胸がむかむかする。
気持ち悪い。
すぐに吐いてしまいたいけど、今は仕事中。
私だってプロだから、何があっても笑顔は崩さない。
歌も最後まで歌ってみせる。
ステージの上で無様な姿は見せられないもの。
「ありがとうございました。」
何とか歌いきって、ステージを降りた。
何でも無いように振舞いながら、トイレに直行。
一緒に来たナナちゃんには、お見通しだったみたい。
ナナちゃんに背中を擦ってもらいながら、何度か吐いたら治まった。
「顔色悪いですよ。貧血ですか?」
月一の日じゃないですもんね、なんて言ってるのを聞いてはっとした。
カレンダーを思い浮かべても、いつものが無い。
・・・生理が来てない。
熱っぽくて生理が無くて、気持ち悪いとなったら。
悪阻の二文字しか思い出せなかった。
「ナナちゃん。お願いがあるんだけど。」
「お待たせしました。」
「ごめんね。ナナちゃん。」
ドラッグストアの前。
車で待っていた私に、ナナちゃんが紙袋を渡してくれた。
中身は、白い箱に入った白いスティック。
所謂、妊娠検査薬。
申し訳ないけれど、ナナちゃんに買ってきてもらった。
「陽性だと良いですね。」
「うん。」
あの後、妊娠が発覚。
同時にアルトくんの長期出張(地球での戦闘訓練なんだけど)の話も。
やっぱり、少し不安だったんだ。
だけど、アルトくんは行きたいんだろうなって分ってたから。
私は、アルトくんの背中を押した。
出発の日は、ぎゅって強く抱き締められて。
私も強く抱き締めて、思いっきりアルトくんの匂いを吸い込んだ。
帰って来るまで、頑張れる様に。
ちょっと寂しい。
でも、苦しくない。
悲しくない。
アルトくんの元気な姿を見れば、寂しさなんて吹っ飛んじゃう。
「おっ!映ってるか?」
「アルトくん!お疲れ様。」
家庭用コンパクトモニターに映る、最愛の旦那様。
便利になったもんだよな、なんて呟いてる。
LAIが開発した通信機器は、銀河の端と端でもタイムラグ無しで話せる優れもの。
本当に科学の進歩は凄いよ。
「変わり無いか?」
「大丈夫、順調だよ。そっちはどう?」
何かあったら、身重だって飛んで言っちゃうから。
だから、無事に帰ってきてね。
お腹の子と二人で待ってるから。
END
このページへのコメント
お互いを必要としているアルトとランカの姿が良く分かります。
ランカちゃんも成長した姿が最高で、可愛いです。
女性は子供が出来ると強くなるって聞きましたけど、お母さんなランカは強くなっていく感じがしました。
昔のランカならミシェル機辺りに便乗して『乗せてって』言いそうですが、背中を押すという所は、自分はアルトの妻で母親なんだと思いました。
そんなランカや、『アルト離さないでしょ?』って意地悪な質問してるシェリルも良かったです。
こんばんは。
アルラン小説、いいですね(^-^)ほのぼのしていて、いいです!
ランカちゃんは「早乙女さん」と呼ばれて嬉しそうで、いいですね♪
しかし、アルトはランカちゃんを思う存分に抱けるので、元気いっぱいですね(笑)ルンルン♪で、朝食を作っていますし(笑)ランカちゃんは大変そうですが(笑)
頑張ったので、妊娠できたのに、アルトは長期訓練とは。ランカちゃんは優しいから、送り出してもらえて、アルトはホント、いいお嫁さんをもらったものですね。
しかし、ランカちゃん、君は飛んでいくのは無理だと思います。したら、アルトに、妊婦なのに無理して!と怒られそうです。アルト、青ざめてしまいます!逆にアルトが心配しすぎて帰りそうです(笑)
小話、ありがとうございますm(_ _)m